特許第5692472号(P5692472)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5692472銅およびチタンを含む多層膜のエッチングに使用される液体組成物、および該組成物を用いたエッチング方法、多層膜配線の製造方法、基板
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  • 特許5692472-銅およびチタンを含む多層膜のエッチングに使用される液体組成物、および該組成物を用いたエッチング方法、多層膜配線の製造方法、基板 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5692472
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】銅およびチタンを含む多層膜のエッチングに使用される液体組成物、および該組成物を用いたエッチング方法、多層膜配線の製造方法、基板
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/18 20060101AFI20150312BHJP
   C23F 1/26 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C23F1/18
   C23F1/26
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-532162(P2014-532162)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2014059416
【審査請求日】2014年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-83576(P2013-83576)
(32)【優先日】2013年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安谷屋 智幸
(72)【発明者】
【氏名】玉井 聡
(72)【発明者】
【氏名】夕部 邦夫
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−046331(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/093445(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/005631(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0107023(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0226727(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第2002−0097348(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/18
C23F 1/26
C11D 7/08
C11D 7/10
C11D 7/26
C11D 17/08
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅を主成分として含む化合物からなる層およびチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層を含む多層膜のエッチングに使用される液体組成物であって、(A)マレイン酸イオン供給源、
(B)銅イオン供給源、並びに
(C)フッ化物イオン供給源、
を含み、かつ、pH値が0〜7である液体組成物。
【請求項2】
前記(A)マレイン酸イオン供給源が、マレイン酸、および無水マレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、その濃度が0.01〜5モル/kgである、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記(B)銅イオン供給源が、銅、硫酸銅、硝酸銅、水酸化銅、および塩化第二銅からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、その濃度が0.01〜5モル/kgである、請求項1または2に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記(A)マレイン酸イオン供給源の、前記(B)銅イオン供給源に対する配合比が、モル基準で0.01〜40である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項5】
前記(C)フッ化物イオン供給源が、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、およびバッファードフッ酸からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、その濃度が0.001〜5モル/kgである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項6】
(D)マレイン酸イオンを除くカルボン酸イオン供給源をさらに含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項7】
前記(D)マレイン酸を除くカルボン酸イオン供給源が、酢酸、グリコール酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、クエン酸およびこれらのカルボン酸の塩、並びに無水酢酸からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、その濃度が0〜5モル/kgである、請求項6に記載の液体組成物。
【請求項8】
(E)フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源をさらに含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項9】
前記(E)フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源が、塩酸、臭化水素酸、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化第二銅、および臭化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、その濃度が0〜5モル/kgである、請求項8に記載の液体組成物。
【請求項10】
pH調整剤をさらに含んでなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項11】
銅または銅を主成分として含む化合物からなる層およびチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層を含む多層膜をエッチングする方法であって、該多層膜に、請求項1〜10のいずれか一項に記載の液体組成物と接触させることを含むエッチング方法。
【請求項12】
前記多層膜が、チタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層と、銅または銅を主成分として含む化合物からなる層とを積層した二層膜である、請求項11に記載のエッチング方法。
【請求項13】
前記多層膜が、チタンまたはチタンを主成分として含む化合物の層、銅または銅を主成分として含む化合物からなる層、およびチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層をこの順で積層した三層膜である、請求項11に記載のエッチング方法。
【請求項14】
基板上に、少なくともチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層および銅または銅を主成分として含む化合物からなる層を含む多層膜配線を製造する方法であって、
基板上に、チタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層および銅または銅を主成分として含む化合物からなる層を設けて多層膜を形成し、
該多層膜上にレジストを被覆して、レジスト膜を形成し、
該レジスト膜を露光・現像して所定のレジストパターンを形成することにより、エッチング対象物を形成し、
該エッチング対象物に、請求項1〜10のいずれか一項に記載の液体組成物を接触させることにより、該多層膜をエッチングして多層膜配線を形成する、多層膜配線の製造方法。
【請求項15】
少なくともチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層および銅または銅を主成分として含む化合物からなる層を含む多層膜配線が設けられた基板であって、請求項14に記載の多層膜配線の製造方法を用いて製造された基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体組成物に関し、より詳細には、銅およびチタンを含む多層膜のエッチングに使用される液体組成物、および該液体組成物を用いた銅およびチタンを含む多層膜のエッチング方法、並びに該エッチング方法による銅およびチタンを含む多層膜配線の製造方法、並びに該多層膜配線の製造方法により製造された基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からフラットパネルディスプレイなどの表示デバイスの配線材料として、アルミニウムまたはアルミニウム合金が一般に使用されてきた。しかし、ディスプレイの大型化および高解像度化に伴い、このようなアルミニウム系の配線材料では配線抵抗などの特性に起因した信号遅延の問題が発生し、均一な画面表示は困難となってきている。
【0003】
アルミニウム(Al)と比べて銅(Cu)は抵抗が低いという利点を有する一方、ゲート配線で銅を用いた場合は、ガラス等の基板と銅との密着性が十分ではないといった問題がある。また、ソース・ドレイン配線で銅を用いた場合は、その下地となるシリコン半導体膜への銅の拡散が生じたり、酸化物半導体膜からの酸素の拡散により銅の酸化が生じる場合があるといった問題がある。上記したような問題を解消するため、ガラス等の基板との密着性が高く、且つ半導体膜への拡散が生じにくいバリア性をも兼ね備えた金属からなるバリア膜を介して銅層を設ける多層膜配線の検討が行われている。密着性とバリア性とを兼ね備えた金属としては、モリブデン(Mo)やチタン(Ti)等の金属が知られている。多層膜配線としては、銅からなる層と、これらの金属あるいはこれら金属の合金からなる層とを積層した2層構造の多層膜や、銅からなる層の酸化を防ぐために、モリブデンやチタン等の金属または合金からなる層を、銅層上に更に積層した3層構造の多層膜が採用されている。
【0004】
銅およびチタンを含む多層膜配線は、スパッタ法などの成膜プロセスによりガラス等の基板上に上記多層膜を形成し、次いでレジストなどをマスクとして用いてエッチングして電極パターンを形成することにより得られる。
エッチングの方式には、エッチング液を用いる湿式法(ウェットエッチング)とプラズマ等のエッチングガスを用いる乾式法(ドライエッチング)とがある。湿式法(ウェットエッチング)において用いられるエッチング液には、下記のような特性、即ち、
・高い加工精度、
・成分の安定性および安全性が高く、取り扱いが容易なこと、
・エッチング性能が安定していること、および
・エッチング後に良好な配線形状が得られること
等が求められている。
【0005】
銅およびチタンを含む多層膜のエッチング工程で用いられるエッチング液として、例えば、過酸化水素、カルボン酸、カルボン酸塩、およびフッ素化合物を含む酸性エッチング液(特許文献1)や、ペルオキソ硫酸塩、有機酸、アンモニウム塩、フッ素化合物、グリコール系化合物、およびアゾール系化合物を含む酸性エッチング液(特許文献2)が知られている。
また、過酸化物を含まない銅のエッチング液として、銅(II)イオンおよびアンモニアを含有するアンモニアアルカリ性のエッチング液や、銅(II)イオンおよびハロゲン化物イオンを含有する酸性エッチング液が知られている。また、過酸化物を含まない銅のエッチング液として、マレイン酸イオン供給源、および銅(II)イオン供給源を含有するエッチング液も提案されている(特許文献3)。
また、銅およびチタンを含む多層膜のエッチング工程で用いられるエッチング液として、無機塩を含む酸化剤、無機酸、およびフッ化物イオン供給源を含有するエッチング液が知られている(特許文献4)。
【0006】
しかし、特許文献1および2のような過酸化水素またはペルオキソ硫酸を含むエッチング液を用いた場合、過酸化水素またはペルオキソ硫酸が分解するために、ガスおよび熱などが発生するといった問題や、成分が分解するためエッチング性能が変化してしまうといった問題がある。
また、特許文献3などのような過酸化物を含まない銅のエッチング液を用いた場合、銅のエッチングは可能であるが、チタンのエッチングは困難であるため、銅およびチタンの多層膜のエッチング工程で用いるエッチング液としては適していない。
また、銅およびチタンを含む多層膜のエッチング工程で、特許文献4のような無機塩を含む酸化剤、無機酸、およびフッ化物イオン供給源を含有するエッチング液を用いた場合、エッチング時間や配線形状が良好ではなかった(比較例7〜9を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/107023号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/226727号明細書
【特許文献3】国際公開第2013/5631号
【特許文献4】韓国公開特許第2002−97348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況において、銅およびチタンを含む多層膜のエッチングに使用される液体組成物、および該液体組成物を用いた銅およびチタンを含む多層膜配線の製造方法、並びに該エッチング方法による銅およびチタンを含む多層膜配線の製造方法、並びに該多層膜配線の製造方法により製造された基板の提供が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは今般、銅イオン供給源と、マレイン酸イオン供給源と、フッ化物イオン供給源とを含む液体組成物を用いることにより、上記した問題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明による液体組成物は、銅または銅を主成分として含む化合物からなる層とチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層とを含む多層膜のエッチングに使用される液体組成物であって、
(A)マレイン酸イオン供給源、
(B)銅イオン供給源、並びに
(C)フッ化物イオン供給源、
を含み、かつ、pH値が0〜7であることに特徴を有するものである。
【0010】
また、本発明による液体組成物の実施態様においては、前記マレイン酸イオン供給源(A)が、マレイン酸、および無水マレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよく、その濃度が0.01〜5モル/kgであってもよい。
【0011】
また、本発明による液体組成物の実施態様においては、前記マレイン酸イオン供給源(A)の、前記銅イオン供給源(B)に対する配合比が、モル基準で0.01〜40の範囲であってもよく、より好ましくは0.02〜20の範囲であってもよく、特に好ましくは0.1〜10の範囲であってもよい。
【0012】
また、本発明による液体組成物の実施態様においては、前記銅イオン供給源(B)が、銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、および水酸化銅からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよく、その濃度が0.01〜5モル/kgであってもよい。
【0013】
また、本発明の実施態様においては、前記フッ化物イオン供給源(C)が、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、およびバッファードフッ酸からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよく、その濃度が0.01〜5モル/kgであってもよい。
【0014】
また、本発明による液体組成物の実施態様においては、前記フッ化物イオン供給源(C)の、前記銅イオン供給源(B)に対する配合比が、モル基準で0.1〜10であってもよい。
【0015】
また、本発明による液体組成物の実施態様においては、(D)マレイン酸を除くカルボン酸イオン供給源をさらに含んでいてもよい。
【0016】
また、本発明による液体組成物の実施態様においては、前記マレイン酸を除くカルボン酸イオン供給源(D)が、酢酸、グリコール酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、クエン酸およびこれらのカルボン酸の塩、並びに無水酢酸からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよく、その濃度が0〜5モル/kgであってもよい。
【0017】
また、本発明による液体組成物の実施態様においては、(E)フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源をさらに含んでいてもよい。
【0018】
また、本発明による液体組成物の実施態様においては、前記フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源(E)が、塩酸、臭化水素酸、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化第二銅、および臭化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよく、その濃度が0〜5モル/kgであってもよい。
【0019】
また、本発明による液体組成物の実施態様においては、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。
【0020】
本発明によるエッチング方法は、銅または銅を主成分として含む化合物からなる層およびチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層を含む多層膜をエッチングする方法であって、該多層膜に、上記の液体組成物を接触させることを含むものである。
【0021】
また、本発明によるエッチング方法の実施態様においては、前記多層膜が、チタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層と、銅または銅を主成分として含む化合物からなる層とを積層した二層膜であってもよい。
【0022】
また、本発明によるエッチング方法の実施態様においては、前記多層膜が、チタンまたはチタンを主成分として含む化合物の層、銅または銅を主成分として含む化合物からなる層、およびチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層をこの順で積層した三層膜であってもよい。
【0023】
本発明による多層膜配線の製造方法は、基板上に、少なくともチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層と銅または銅を主成分として含む化合物からなる層とを含む多層膜配線を製造する方法であって、
基板上に、チタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層および銅または銅を主成分として含む化合物からなる層を設けて多層膜を形成し、
該多層膜上にレジストを被覆して、レジスト膜を形成し、
該レジスト膜を露光・現像して所定のレジストパターンを形成することにより、エッチング対象物を形成し、
該エッチング対象物に、上記の液体組成物を接触させることにより、該多層膜をエッチングして多層膜配線を形成することを含むものである。
【0024】
さらに本発明による基板は、少なくともチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層と銅または銅を主成分として含む化合物からなる層とを含む多層膜配線が設けられた基板であって、上記多層膜配線の製造方法により製造された基板である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の液体組成物によれば、銅とチタンを含む多層膜を、一括で、かつ、良好なエッチング速度(本発明の好ましい態様によれば、銅およびチタンを含む多層膜のエッチングが完了して下地が露出するまでのジャストエッチング時間として30〜400秒程度、あるいは、エッチング速度として0.1〜10μm/分程度である。)でエッチングすることができる。
また、本発明の液体組成物は、過酸化水素やペルオキソ硫酸イオンを含まないことにより、それらの分解反応によるガスおよび熱の発生も生じないため、安全かつ安定的にエッチングを実施することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、本発明の液体組成物は、pH値が酸性〜中性であるため、例えばアンモニアを含む場合にもアンモニアの揮発による臭気の発生がなく、環境に優しいため取扱いが容易である。
以上より、ディスプレイの大型化、高解像度化および低消費電力化に対応した、銅およびチタンを含む多層膜配線エッチング用液体組成物を実現できる。
また、本発明の好ましい態様によれば、本発明による液体組成物は、エッチングの際に銅またはチタンが溶解してもエッチング速度の変化が少ないため、長期間のエッチングに使用することができるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例1の液体組成物を用いて、参考例1で得られたレジストパターンを形成したチタン/銅/チタン/ガラス基板をエッチングした後の光学顕微鏡写真である。
図2】実施例1の液体組成物を用いて、参考例2で得られたレジストパターンを形成した銅/チタン/ガラス基板をエッチングした後の光学顕微鏡写真である。
図3】比較例7の液体組成物を用いて、参考例1で得られたレジストパターンを形成したチタン/銅/チタン/ガラス基板をエッチングした後の光学顕微鏡写真である。
図4】比較例8の液体組成物を用いて、参考例1で得られたレジストパターンを形成したチタン/銅/チタン/ガラス基板をエッチングした後の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<液体組成物>
本発明による液体組成物は、銅およびチタンを含む多層膜のエッチングに使用されるものであり、(A)マレイン酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、および(C)フッ化物イオン供給源を少なくとも含む。このような特定の成分を含有する液体組成物を用いることにより、銅およびチタンを含む多層膜構造からなる配線を、一括で、かつ、良好なエッチング速度(本発明の好ましい態様によれば、ジャストエッチング時間として30〜400秒程度、あるいは、エッチング速度として0.1〜10μm/分程度である。)でエッチングすることができる。
【0028】
本発明による液体組成物を用いることにより、銅およびチタンを含む多層膜を良好な配線形状で加工することができる。
なお、本明細書において「銅およびチタンを含む多層膜」とは、少なくとも、銅または銅を主成分として含む化合物からなる層およびチタンまたはチタンを主成分として含む化合物からなる層を含む多層膜を意味する。ここで「銅を主成分として含む化合物」とは、重量基準で、銅を50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上含む化合物を意味する。「チタンを主成分として含む化合物」とは、重量基準で、チタンを50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上含む化合物を意味する。
以下、本発明による液体組成物を構成する各成分について説明する。
【0029】
(A)マレイン酸イオン供給源
本発明による液体組成物に含まれるマレイン酸イオン供給源(以下、単に(A)成分ということがある。)は、銅イオンと錯体を形成し、銅のエッチング剤として機能するものである。マレイン酸イオン供給源としては、マレイン酸イオンを供給できるものであれば特に制限はなく、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸などが好ましく挙げられる。なお、無水マレイン酸は、水と反応して容易にマレイン酸が生成することから好適に用いることができる。これらのマレイン酸イオン供給源は、単独で使用してもよく、又、複数を混合して使用してもよい。これらのなかでも、水への溶解性や液体組成物中での安定性に優れ、かつエッチング性能を良好にする観点からは、マレイン酸、および無水マレイン酸が好ましい。
【0030】
マレイン酸イオン供給源((A)成分)は、液体組成物1kg中に、好ましくは0.01モル、より好ましくは0.02モル、更に好ましくは0.04モル、特に好ましくは0.1モルの下限値から、好ましくは5モル、より好ましくは4モル、更に好ましくは3モル、特に好ましくは1モルの上限値までの範囲で含まれており、0.01〜5モルの範囲で含まれていることが好ましく、0.02〜4モルの範囲がより好ましく、特に0.04〜3モルの範囲が好ましい。また、マレイン酸イオン供給源((A)成分)の、後述する銅イオン供給源((B)成分)に対する配合比は、モル基準で、好ましくは0.01、より好ましくは0.02、更に好ましくは0.1、特に好ましくは0.2の下限値から、好ましくは40、より好ましくは20、更に好ましくは10、特に好ましくは5の上限値までの範囲であり、0.01〜40の範囲であることが好ましく、0.02〜20の範囲がより好ましく、特に0.1〜10の範囲が好ましい。本発明による液体組成物中のマレイン酸イオン供給源((A)成分)の含有量が上記範囲内であれば、良好なエッチング速度で銅およびチタンを含む多層膜をエッチングすることができる。
【0031】
(B)銅イオン供給源
本発明による液体組成物に含まれる銅イオン供給源(以下、単に(B)成分ということがある。)は、銅の酸化剤として作用する成分である。銅イオン供給源としては、銅(II)イオンを供給できるものであれば特に制限はなく、例えば、銅のほか、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、水酸化銅、塩化第二銅、臭化第二銅、フッ化第二銅、ヨウ化第二銅、硫酸アンモニウム銅などの銅塩が好ましく挙げられる。これら銅イオン供給源は、単独で使用してもよく、又、複数を組み合わせて使用してもよい。これらのなかでも、銅、硫酸銅、硝酸銅、水酸化銅、および塩化第二銅がより好ましく、特に硫酸銅、硝酸銅、および水酸化銅が好ましい。
【0032】
銅イオン供給源((B)成分)は、液体組成物1kg中に、好ましくは0.01モル、より好ましくは0.02モル、更に好ましくは0.04モル、特に好ましくは0.1モルの下限値から、好ましくは5モル、より好ましくは4モル、更に好ましくは3モル、特に好ましくは1モルの上限値までの範囲で含まれており、0.01〜5モルの範囲で含まれていることが好ましく、さらに、0.02〜4モルの範囲が好ましく、特に0.04〜3モルの範囲が好ましい。本発明による液体組成物中の銅イオン供給源((B)成分)の含有量が上記範囲内であれば、良好なエッチング速度で銅およびチタンを含む多層膜をエッチングすることができる。
【0033】
(C)フッ化物イオン供給源
本発明による液体組成物に含まれるフッ化物イオン供給源(以下、単に(C)成分ということがある。)は、チタンのエッチング能力を向上させる機能を有する。フッ化物イオン供給源としては、特に制限はなく、例えば、フッ化水素酸のほか、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム(一水素二フッ化アンモニウム)、バッファードフッ酸(フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合物)、フッ化ナトリウム、酸性フッ化ナトリウム(一水素二フッ化ナトリウム)、フッ化カリウム、酸性フッ化カリウム(一水素二フッ化カリウム)、フッ化カルシウム、フッ化第二銅、フッ化テトラメチルアンモニウムなどのフッ化物塩、が好ましく挙げられる。これらフッ化物イオン供給源は、単独で使用してもよく、又、複数を組み合わせて使用してもよい。これらのなかでも、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、およびバッファードフッ酸、がより好ましい。特に、フッ化アンモニウム、および酸性フッ化アンモニウム、が好ましい。
【0034】
酸性フッ化アンモニウムおよび酸性フッ化カリウムなどの1分子中に2個のフッ素を含有するフッ化物イオン供給源は、これらフッ化物イオン供給源が(C)成分として含まれる場合、(C)成分の含有量は、フッ化物イオン供給源の含有量の2倍量を(C)成分の含有量として定義する。
【0035】
また液体組成物に含まれるフッ化物イオン供給源は、液体中でフッ化物イオン(F)として解離していない場合や二フッ化一水素イオン(HF)として存在する場合もあるが、これらが完全に解離すると想定した際のモル数を(C)成分の含有量とする。
【0036】
また、フッ化第二銅などの銅のフッ化物塩は、(C)成分としての機能を有すると共に、前述の銅イオン供給源としても機能する。例えば、本発明による液体組成物に銅のフッ化物塩が含まれる場合、(C)成分の含有量は、他のフッ化物イオン供給源と銅のフッ化物塩とを合計した含有量となる。
【0037】
フッ化物イオン供給源((C)成分)は、液体組成物1kg中に、好ましくは0.001モル、より好ましくは0.002モル、更に好ましくは0.01モル、特に好ましくは0.1モルの下限値から、好ましくは5モル、より好ましくは4モル、更に好ましくは3モル、特に好ましくは1モルの上限値までの範囲で含まれており、0.001〜5モルの範囲で含まれていることが好ましく、0.002〜4モルの範囲がより好ましく、特に0.01〜3モルの範囲が好ましい。また、フッ化物イオン供給源((C)成分)の、銅イオン供給源((B)成分)に対する配合比が、モル基準で、好ましくは0.01、より好ましくは0.02、更に好ましくは0.1、特に好ましくは0.2の下限値から、好ましくは40、より好ましくは20、更に好ましくは10、特に好ましくは5、更になお好ましくは3の上限値までの範囲であり、0.01〜40の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.02〜20の範囲であり、特に0.1〜10の範囲が好ましい。本発明による液体組成物中のフッ化物イオン供給源((C)成分)の含有量が上記範囲内であれば、良好なエッチング速度で銅およびチタンを含む多層膜をエッチングすることができる。
【0038】
(D)マレイン酸イオンを除くカルボン酸イオン供給源
本発明による液体組成物は、必要に応じて、マレイン酸イオンを除くカルボン酸イオン供給源(以下、単に(D)成分ということがある。)を含んでいてもよい。マレイン酸イオンを除くカルボン酸イオン供給源は、銅イオンに対する配位子としての役割を持ち、銅およびチタンを含む多層膜をエッチングする液体組成物の安定性を向上させ、かつ、エッチング速度の安定化を図る機能を有する。また、エッチング後の水リンス工程の際に、液体組成物が水で希釈された際に析出する残渣の発生を抑制する効果もある。
【0039】
マレイン酸イオンを除くカルボン酸イオン供給源((D)成分)としては、マレイン酸イオンを除くカルボン酸イオンを供給できるものであれば特に制限はなく、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸などのモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、などのジカルボン酸;グリシン、アラニンなどのアミノカルボン酸;グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、などのヒドロキシルカルボン酸およびこれらのカルボン酸の塩などが好ましく挙げられる。これらマレイン酸イオンを除くカルボン酸イオン供給源は、単独で使用してもよく、又、複数を混合して使用してもよい。また、無水酢酸および無水プロピオン酸などのカルボン酸無水物は、水と反応してカルボン酸を生成することから、カルボン酸無水物も(D)成分として好適に使用することができる。また、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸エチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、およびコハク酸ジエチルなどのカルボン酸エステルは、加水分解反応によってカルボン酸を生成することから、カルボン酸エステルも(D)成分として好適に使用することができる。上記のなかでも入手の容易さなどの点から、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、これらのカルボン酸の塩、および無水酢酸がより好ましく、特に、酢酸、無水酢酸、グリコール酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、およびクエン酸、が好ましい。
【0040】
また、酢酸銅などのカルボン酸の銅塩は、(D)成分としての機能を有すると共に、前述の銅イオン供給源としても機能する。例えば、本発明による液体組成物にカルボン酸の銅塩が含まれる場合、(D)成分の含有量は、他のカルボン酸イオン供給源とカルボン酸の銅塩とを合計した含有量となる。
【0041】
さらに、無水酢酸および無水プロピオン酸などのカルボン酸2分子が脱水縮合した形態のカルボン酸無水物は、水と反応してカルボン酸を2分子生成することから、これらカルボン酸無水物が(D)成分として含まれる場合、(D)成分の含有量は、カルボン酸無水物の含有量の2倍量を(D)成分の含有量として定義する。
【0042】
マレイン酸イオンを除くカルボン酸イオン供給源((D)成分)は、液体組成物1kg中に0〜5モルの範囲で含まれていることが好ましく、0〜4モルの範囲がより好ましく、特に0〜3モルの範囲が好ましい。また、マレイン酸イオンを除くカルボン酸イオン供給源((D)成分)の、銅イオン供給源((B)成分)に対する配合比が、モル基準で0〜40の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜20の範囲であり、更に好ましくは0〜10の範囲であり、特に0〜5の範囲が好ましい。本発明による液体組成物中のマレイン酸イオンを除くカルボン酸イオン供給源((D)成分)の含有量が上記範囲内であれば、より一層良好なエッチング速度で銅およびチタンを含む多層膜をエッチングすることができる。
【0043】
(E)フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源
本発明による液体組成物は、必要に応じて、フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源(以下、単に(E)成分ということがある。)を含んでいてもよい。フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源は、銅のエッチングを促進する機能を有し、エッチング速度を調整するために配合することができる。
【0044】
フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源((E)成分)としては、フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオンを供給できるものであれば特に制限はなく、例えば、塩酸、臭化水素酸などのハロゲン化水素酸;塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化第二銅などの塩化物塩;臭化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウムなどの臭化物塩、などが好ましく挙げられる。これらフッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源は、単独で使用してもよく、又、複数を混合して使用してもよい。上記のなかでも入手の容易さなどの点から、塩酸、臭化水素酸、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化第二銅、臭化アンモニウム、および臭化カリウム、がより好ましく、特に、塩酸、臭化水素酸、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化第二銅、および臭化カリウム、が好ましい。
【0045】
また、塩化第二銅などの銅のハロゲン化物塩は、(E)成分としての機能を有すると共に、前述の銅イオン供給源としても機能する。例えば、本発明による液体組成物に銅のハロゲン化物塩が含まれる場合、(E)成分の含有量は、他のハロゲン化物イオン供給源と銅のハロゲン化物塩とを合計した含有量となる。
【0046】
フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源((E)成分)は、液体組成物1kg中に0〜5モルの範囲で含まれていることが好ましく、0〜4モルの範囲がより好ましく、特に0〜3モルの範囲が好ましい。また、フッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源((E)成分)の、銅イオン供給源((B)成分)に対する配合比が、モル基準で0〜40の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜20の範囲であり、更に好ましくは0〜10の範囲であり、特に0〜5の範囲が好ましい。本発明による液体組成物中のフッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源((E)成分)の含有量が上記範囲内であれば、より一層良好なエッチング速度で銅およびチタンを含む多層膜をエッチングすることができる。
【0047】
上記した本発明による液体組成物のpH値は、0〜7の範囲である。液体組成物のpH値の範囲を上記の範囲とすることにより、より一層エッチング速度および配線形状が良好となる。また、pH値が0未満であると、エッチング速度が速すぎるため、エッチング時間の制御が困難であり、好ましくない。一方、pH値が7を超えると、エッチング速度が低下する傾向にあるため、生産性が低下し、好ましくない。
【0048】
pH調整剤
本発明による液体組成物は、pH値の調整のために、必要に応じてpH調整剤が含まれていてもよい。pH調整剤としては、上記した液体組成物の効果を阻害しないものであれば特に制限はなく、例えば、アンモニア;水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどの金属水酸化物;イソプロピルアミンおよびターシャリーブチルアミンなどのアミン類;ヒドロキシルアミンなどのヒドロキシルアミン類;水酸化テトラメチルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム水酸化物;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、および過塩素酸などの無機酸;メタンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸などのスルホン酸;などが好ましく挙げられる。これらpH調整剤は、単独で使用してもよく、又、複数を組み合わせて使用してもよい。これらのなかでも、アンモニア、水酸化カリウム、イソプロピルアミン、ターシャリーブチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、およびメタンスルホン酸がより好ましい。特に、アンモニア、水酸化カリウム、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、およびメタンスルホン酸が好ましい。
【0049】
塩酸などのハロゲン化物イオンを含む酸は、pH調整剤としての機能を有すると共に、前述のフッ化物イオンを除くハロゲン化物イオン供給源としても機能する。
【0050】
本発明による液体組成物中のpH調整剤の含有量は、液体組成物のpH値が目的の値となるように、他の成分の含有量によって適宜決定されるものである。
【0051】
本発明による液体組成物は、上記した(A)、(B)および(C)成分、と必要に応じて添加する(D)、(E)成分、およびpH調整剤のほか、水、その他、エッチング用の液体組成物に通常用いられる各種添加剤を、上記した液体組成物の効果を害しない範囲で含むことができる。例えば、水としては、蒸留、イオン交換処理、フイルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーテイクル粒子などが除去されたものが好ましく、純水がより好ましく、特に超純水が好ましい。
【0052】
本発明による液体組成物は、エッチング速度の調整剤として公知の添加剤を含むことができる。たとえば、銅のエッチング速度の抑制剤として、ベンゾトリアゾール、5−アミノ−1H−テトラゾール、イミダゾール、ピラゾールといったアゾール化合物、およびリン酸等を含むことができる。
【0053】
<銅およびチタンを含む多層膜のエッチング方法>
本発明によるエッチング方法は、銅およびチタンを含む多層膜をエッチングする方法であって、前記多層膜に上記の液体組成物を接触させる工程を含むものである。本発明の方法によれば、銅およびチタンを含む多層膜を一括で、かつ良好なエッチング速度でエッチングできる。また、本発明の方法によれば、良好な配線形状を得ることができる。
【0054】
本発明によるエッチング方法は、銅およびチタンを含む多層膜をエッチング対象物とする。本発明においてエッチング対象物となる多層膜は、銅または銅を主成分とする化合物の層およびチタンまたはチタンを主成分とする化合物の層を含む多層構造を有する。多層膜としては、銅または銅を主成分とする化合物の層とチタンまたはチタンを主成分とする化合物の層とを積層した二層膜、チタンまたはチタンを主成分とする化合物の層と銅または銅を主成分とする化合物の層とチタンまたはチタンを主成分とする化合物の層とを積層した三層膜などが挙げられる。特に、チタンまたはチタンを主成分とする化合物の層、銅または銅を主成分とする化合物の層、チタンまたはチタンを主成分とする化合物の層の順番で積層した三層膜が、本発明による液体組成物の性能が有効に発揮される観点から特に好ましい。
【0055】
銅または銅を主成分とする化合物としては、銅(金属)や銅合金、あるいは酸化銅、窒化銅などが挙げられる。チタンまたはチタンを主成分とする化合物としては、チタン(金属)やチタン合金、あるいはその酸化物や窒化物などが挙げられる。
【0056】
エッチング対象物は、例えばガラス等の基板上に、チタンからなる層と銅からなる層とチタンからなる層とを順次積層することにより三層膜からなる多層膜を形成し、その上にレジストを塗布し、所望のパターンマスクを露光転写し、現像して所望のレジストパターンを形成することにより得ることができる。多層膜を形成する基板としては、上記したガラス基板以外にも、例えば、ガラス板上にゲート配線を形成し、そのゲート配線上に窒化珪素等からなる絶縁膜を設けたような層構成を有する基板であってもよい。本発明においては、エッチング対象物に上記した液体組成物を接触させることにより多層膜エッチングし、所望の多層膜配線を形成することで、チタンまたはチタンを主成分とする化合物の層と銅または銅を主成分とする化合物の層とを含む多層膜が設けられた多層膜配線を得ることができる。このような銅およびチタンを含む多層膜配線は、フラットパネルディスプレイ等の表示デバイスの配線などに好ましく用いられるものである。
【0057】
エッチング対象物に液体組成物を接触させる方法には特に制限はなく、例えば液体組成物の滴下(枚葉スピン処理)またはスプレーなどの形式により対象物に接触させる方法や、エッチング対象物を液体組成物に浸漬させる方法などの湿式法(ウェット)エッチング方法を採用することができる。本発明においては、いずれの方法でもエッチングが可能である。とりわけ、液体組成物をエッチング対象物にスプレーして接触させる方法が好ましく採用される。また、液体組成物を対象物にスプレーして接触させる方法においては、エッチング対象物の上方から液体組成物を下向きにスプレーする方法、またはエッチング対象物の下方から液体組成物を上向きにスプレーする方法などが挙げられる。この際のスプレーノズルは、固定してもよいし、首振りや滑動などの動作を加えてもよい。また、スプレーノズルを鉛直下向きに設置してもよいし、傾けて設置してもよい。エッチング対象物は、固定してもよいし、揺動や回転などの動作を加えてもよく、また水平に配置してもよいし、傾けて配置してもよい。
【0058】
液体組成物の使用温度としては、10〜70℃の温度が好ましく、特に20〜50℃が好ましい。液体組成物の温度が10℃以上であれば、エッチング速度が良好となるため、優れた生産効率が得られる。一方、70℃以下であれば、液組成変化を抑制し、エッチング条件を一定に保つことができる。液体組成物の温度を高くすることで、エッチング速度は上昇するが、液体組成物の組成変化を小さく抑えることなども考慮した上で、適宜最適な処理温度を決定すればよい。
【実施例】
【0059】
次に、本発明を、実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明の範囲がこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0060】
<参考例1:チタン/銅/チタン/ガラス基板の作製>
ガラス基板(寸法:150mm×150mm)上にチタンをスパッタしてチタン(金属)からなる層(チタン膜厚:500Å)を成膜し、次いで銅をスパッタして銅(金属)からなる層(銅膜厚:4000Å)を成膜し、再びチタンをスパッタしてチタン(金属)からなる層(チタン膜厚:200Å)を成膜し、チタン/銅/チタンの三層膜構造とした。さらにレジストを塗布し、ライン状パターンマスク(ライン幅:20μm)を露光転写後、現像することで、レジストパターンを形成したチタン/銅/チタン/ガラス基板を作製した。
【0061】
<参考例2:銅/チタン/ガラス基板の作製>
ガラス基板(寸法:150mm×150mm)上にチタンをスパッタしてチタン(金属)からなる層(チタン膜厚:500Å)を成膜し、次いで銅をスパッタして銅(金属)からなる層(銅膜厚:4000Å)を成膜し、銅/チタンの二層構造とした。さらにレジストを塗布し、ライン状パターンマスク(ライン幅:20μm)を露光転写後、現像することで、レジストパターンを形成した銅/チタン/ガラス基板を作製した。
【0062】
実施例1
容量100mLのポリプロピレン容器に、純水86.68gと、(A)マレイン酸イオン供給源であるマレイン酸(和光純薬工業株式会社製、特級グレード、分子量116.1)を5.00gと、(B)銅イオン供給源として硫酸銅(II)五水和物(和光純薬工業株式会社製、特級グレード、分子量249.7)を7.82gと、(C)フッ化物イオン供給源の一つとして酸性フッ化アンモニウム(森田化学工業株式会社製、分子量57.04)を0.50gとを投入した後、攪拌して各成分の溶解を確認し、液体組成物を調製した。
【0063】
上記のようにして得られた液体組成物の各成分の含有量は、液体組成物1kgあたり、(A)成分が0.086モルであり、(B)成分が0.313モルであり、(A)成分の(B)成分に対する配合比(モル比)は0.27であった。また、液体組成物1kgあたりの(C)成分の含有量は、酸性フッ化アンモニウムの2倍当量と計算して、0.175モルであった。(C)成分の(B)成分に対する配合比(モル比)は0.56であった。得られた液体組成物のpH値は3.0であった。
【0064】
この液体組成物を用いて、参考例1で得られたレジストパターンを形成したチタン/銅/チタン/ガラス基板に対し、小型エッチング機を使用して、35℃でスプレー処理を行った。チタン/銅/チタン/ガラス基板は、成膜面が上方になるようにして水平に設置し、スプレーノズルは鉛直下向きにして固定した。
【0065】
レジストで覆われていない部分のチタン/銅/チタン積層膜が消失し、透明なガラス基板が露出するまでの時間(ジャストエッチング時間)は、目視で確認した結果、152秒であった。228秒エッチング(50%オーバーエッチング条件)後のチタン/銅/チタン/ガラス基板を、純水にてリンス処理した後、ブロワーで乾燥し、光学顕微鏡を用いて観察した結果、パターニングされたレジストで覆われた以外のむき出しのチタン/銅/チタン積層膜が完全に消失していることが確認された。光学顕微鏡写真を図1に示す。
【0066】
また、この液体組成物を用いて、参考例2で得られたレジストパターンを形成した銅/チタン/ガラス基板に対し、小型エッチング機を使用して、35℃でスプレー処理を行った。銅/チタン/ガラス基板は、成膜面が上方になるようにして水平に設置し、スプレーノズルは鉛直下向きにして固定した。
【0067】
レジストで覆われていない部分の銅/チタン積層膜が消失し、透明なガラス基板が露出するまで時間(ジャストエッチング時間)は、目視で確認した結果、110秒であった。165秒エッチング(50%オーバーエッチング条件)後の銅/チタン/ガラス基板を、純水にてリンス処理した後、ブロワーで乾燥し、光学顕微鏡を用いて観察した結果、パターニングされたレジストで覆われた以外のむき出しの銅/チタン積層膜が完全に消失していることが確認された。光学顕微鏡写真を図2に示す。
【0068】
実施例2〜6
実施例2〜6において、各成分の配合量を表1に示す通りとした以外は実施例1と同様にして液体組成物を調製し、該液体組成物を用いて、参考例1で得られたレジストパターンを形成したチタン/銅/チタン/ガラス基板に対し、スプレー処理(50%オーバーエッチング条件)を行った。レジストで覆われていない部分のチタン/銅/チタン積層膜が消失し、透明なガラス基板が露出するまでの時間(ジャストエッチング時間)を表1に示す。いずれの液体組成物を用いた場合にも、パターニングされたレジストで覆われた以外のむき出しのチタン/銅/チタン積層膜が完全に消失していることが確認された。
【0069】
実施例7〜12
実施例7〜12において、各成分の配合量を表2に示す通りとした以外は実施例1と同様にして液体組成物を調製し、該液体組成物を用いて、参考例1で得られたレジストパターンを形成したチタン/銅/チタン/ガラス基板に対し、スプレー処理(50%オーバーエッチング条件)を行った。レジストで覆われていない部分のチタン/銅/チタン積層膜が消失し、透明なガラス基板が露出するまでの時間(ジャストエッチング時間)を表2に示す。いずれの液体組成物を用いた場合にも、パターニングされたレジストで覆われた以外のむき出しのチタン/銅/チタン積層膜が完全に消失していることが確認された。
また、実施例7の液体組成物を用いて、参考例2で得られたレジストパターンを形成した銅/チタン/ガラス基板に対し、実施例1と同様にしてスプレー処理を行った。レジストで覆われていない部分の銅/チタン積層膜が消失し、透明なガラス基板が露出するまでの時間(ジャストエッチング時間)は、目視で確認した結果、243秒であった。365秒エッチング(50%オーバーエッチング条件)後の銅/チタン/ガラス基板を、光学顕微鏡を用いて観察した結果、パターニングされたレジストで覆われた以外のむき出しの銅/チタン積層膜が完全に消失していることが確認された。
【0070】
比較例1〜6
比較例1〜6において、各成分の配合量を表3に示す通りとした以外は実施例1と同様にして液体組成物を調製し、該液体組成物を用いて、参考例1で得られたレジストパターンを形成したチタン/銅/チタン/ガラス基板に対し、スプレー処理を行った。フッ化物イオン供給源を含まない比較例1の液体組成物を用いた場合には、500秒間スプレー処理を行ってもパターニングされたレジストで覆われた以外のむき出しのチタン/銅/チタン積層膜が完全に消失しないことが確認された。また、マレイン酸イオン供給源を含まない比較例2〜6の液体組成物を用いた場合にも、500秒間スプレー処理を行ってもパターニングされたレジストで覆われた以外のむき出しのチタン/銅/チタン積層膜が完全には消失していないことが確認された。
【0071】
比較例7〜9
比較例7〜9において、各成分の配合量を表4に示す通りとした以外は実施例1と同様にして液体組成物を調製し、該液体組成物を用いて、参考例1で得られたレジストパターンを形成したチタン/銅/チタン/ガラス基板に対し、スプレー処理を行った。マレイン酸供給源を含まず、塩化物イオン供給源を含む比較例7の液体組成物を用いた場合には、レジストで覆われていない部分の銅/チタン積層膜が消失し、透明なガラス基板が露出するまで時間(ジャストエッチング時間)は、目視で確認した結果、41秒であった。62秒エッチング(50%オーバーエッチング条件)後のチタン/銅/チタン/ガラス基板を、純水にてリンス処理した後、ブロワーで乾燥し、光学顕微鏡を用いて観察した。その結果、配線形状に断線が生じており、むき出しの部分のチタン/銅/チタン積層膜だけではなく、パターニングされたレジストで覆われた部分のチタン/銅/チタン積層膜まで消失してしまっていることが確認された。光学顕微鏡写真を図3に示す。
また、マレイン酸供給源を含まない比較例8および9の液体組成物を用いた場合には、500秒間スプレー処理を行ってもパターニングされたレジストで覆われた以外のむき出しのチタン/銅/チタン積層膜が完全には消失していないことが確認された。比較例8の液体組成物を用いた場合の光学顕微鏡写真を図4に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
以上の評価結果からも明らかなように、実施例の液体組成物はいずれも、銅とチタンを含む多層膜を良好なエッチング速度でエッチングできた。また、エッチング後の配線形状も良好であった。また、液体組成物からガスや熱などが発生することはなく、エッチング時の臭気もなく、安定してエッチングを実施することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明による液体組成物は、銅とチタンを含む多層膜のエッチングに好適に用いることができ、銅およびチタンを含む多層構造からなる配線を一括で、かつ良好なエッチング速度でエッチングすることができ、高い生産性を達成することができる。
【要約】
本発明は、銅およびチタンを含む多層膜のエッチングに使用される液体組成物、および該液体組成物を用いた銅およびチタンを含む多層膜のエッチング方法、該エッチング方法を用いた多層膜配線の製造方法、並びに該製造方法により製造された多層膜配線が設けられた基板を提供する。本発明においては、(A)マレイン酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、および(C)フッ化物イオン供給源を含み、かつ、液体組成物のpH値が0〜7である、液体組成物を用いる。
図1
図2
図3
図4