特許第5692489号(P5692489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692489
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】微生物の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20150312BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   C12N15/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-6548(P2010-6548)
(22)【出願日】2010年1月15日
(65)【公開番号】特開2011-142865(P2011-142865A)
(43)【公開日】2011年7月28日
【審査請求日】2012年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084009
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 由寛
(72)【発明者】
【氏名】大津 貴義
(72)【発明者】
【氏名】吉田 充裕
(72)【発明者】
【氏名】中島 和輝
【審査官】 山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/094077(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/022558(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/010740(WO,A1)
【文献】 特表2006−508669(JP,A)
【文献】 特表2009−528058(JP,A)
【文献】 特開2010−046042(JP,A)
【文献】 Lee et al,Journal of Microbiological Methods,2009年,Vol. 79,p. 184-188
【文献】 Nocker et al,Journal of Microbiological Methods,2006年,Vol. 67,p. 310-320
【文献】 Pan et al,Applied and Environmental Microbiology,2007年12月,Vol. 73, No. 24,p. 8028-8031
【文献】 KAWANO et al,Japanese Society of Veterinary Science,1985年,Vol. 47, No. 4,p. 611-616
【文献】 Yoshida et al,Microbes Environ.,2006年,Vol. 21, No. 4,p. 272-277
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
G01N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中の、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の生菌を同一反応条件で同時に検出する方法であって、
a)被検試料を界面活性剤で処理し、
b)界面活性剤で処理した被検試料をエチジウムモノアジド又はプロピジウムモノアジドで処理し、
c)次いで、被検試料に可視光を照射し、
d)可視光を照射した被検試料からDNAを抽出し、
e)a)からd)の工程中のいずれかにおいてトポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤で処理し、
f)抽出されたDNAのターゲット領域を核酸増幅方法により増幅することを特徴とする前記検出方法。
【請求項2】
被検試料を界面活性剤で処理する工程において、界面活性剤が0.0001〜0.1重量%で含有されている、請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
被検試料を界面活性剤で処理する工程において、界面活性剤がアニオン界面活性剤であり、0.0001〜0.01重量%で含有されている、請求項1記載の検出方法。
【請求項4】
アニオン界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである、請求項3記載の検出方法。
【請求項5】
被検試料を界面活性剤で処理する工程において、界面活性剤がカチオン界面活性剤であり、0.001〜0.01重量%で含有されている、請求項1記載の検出方法。
【請求項6】
カチオン界面活性剤がヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドである、請求項5記載の検出方法。
【請求項7】
被検試料を界面活性剤で処理する工程において、界面活性剤が非イオン界面活性剤であり、0.0001〜0.1重量%で含有されている、請求項1記載の検出方法。
【請求項8】
非イオン界面活性剤がTritonX−100である、請求項7記載の検出方法。
【請求項9】
トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤がアムサクリンである請求項1記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品中あるいは環境中に存在する微生物を対象とし、生きている微生物のみを検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品中の微生物を検査する方法として、食品衛生検査指針準拠の培地培養法が従来より用いられてきた。しかし、培地培養法では微生物の検出に2日以上の時間がかかり、複数種の検査を行う場合には、各々異なった培地培養を行う必要があり、手間がかかり、高コストとなっている。
【0003】
一方、より短時間で微生物の有無を判断する技術として、PCR法により微生物のある特定の遺伝子を増幅して微生物の有無を判別する方法があり、食品衛生検査や環境検査、感染症検査の一部で用いられている(非特許文献1及び非特許文献2参照)。しかしながら、短時間での検出が可能であり、検出感度も良いが、微生物のDNAを利用していることから、試料に含まれている死菌も同時に検出されてしまうため、仮に陽性を示しても、必ずしも生きている微生物が試料に存在しているとはいえなかった。
【0004】
微生物の生菌と死菌とを識別する方法として、被検試料をエチジウムモノアジドで処理し、被検試料に可視光を照射した後に被検試料からDNAを抽出し、抽出されたDNAのターゲット領域をPCRにより増幅することによって生菌と死菌とを識別する方法が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4127847号公報
【特許文献2】特開2008−173132号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】結核菌検査指針 2007
【非特許文献2】食安監発第1102004号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、生菌と死菌とを識別する前記方法では、被検試料に可視光を照射する時間が、微生物の種類によって、すなわちグラム陽性菌とグラム陰性菌とで異なり、グラム陰性菌について生菌と死菌とを識別するためには、より長い照射時間が必要であった。そのため、この方法では、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の生菌を同時に検出することはできなかった。
本発明は、より短い照射時間でグラム陰性菌について生菌と死菌とを識別することができる微生物の生菌の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被検試料中の微生物の生菌を検出する方法であって、a)被検試料を界面活性剤で処理し、b)界面活性剤で処理した被検試料をエチジウムモノアジド又はプロピジウムモノアジドで処理し、c)次いで、被検試料に可視光を照射し、d)可視光を照射した被検試料からDNAを抽出し、e)a)からd)の工程中のいずれかにおいてトポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤で処理し、
f)抽出されたDNAのターゲット領域を核酸増幅方法により増幅することを特徴とする前記検出方法を提供する。
本発明の検出方法においては、被検試料が微生物としてグラム陽性菌及びグラム陰性菌を含み、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の生菌を同時に検出すること、
トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤がアムサクリンであること、
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、より短い照射時間でグラム陰性菌について生菌と死菌とを識別することにより、同時にグラム陰性菌とグラム陽性菌の生菌の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】EMA添加後の静置時間と光照射時間の検討における、電気泳動写真である。
図2】EMA添加後の静置時間と光照射時間の検討における、電気泳動写真である。
図3】界面活性剤の添加効果の検討における、電気泳動写真である。
図4】界面活性剤の添加効果の検討における、電気泳動写真である。
図5】界面活性剤の添加効果の検討における、電気泳動写真である。
図6】界面活性剤の添加効果の検討における、電気泳動写真である。
図7】界面活性剤の添加効果の検討における、電気泳動写真である。
図8】プロピジウムモノアジド溶液を用いた場合の界面活性剤の添加効果の検討における、電気泳動写真である。
図9】プロピジウムモノアジド溶液を用いた場合の界面活性剤の添加効果の検討における、電気泳動写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の被検試料中の微生物の生菌を検出する方法は、a)被検試料を界面活性剤で処理し、b)界面活性剤で処理した被検試料をエチジウムモノアジド又はプロピジウムモノアジドで処理し、c)次いで、被検試料に可視光を照射し、d)可視光を照射した被検試料からDNAを抽出し、e)a)からd)の工程中のいずれかにおいてトポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤で処理し、
f)抽出されたDNAのターゲット領域を核酸増幅方法により増幅することを特徴とする。
【0012】
被検試料としては、例えば牛乳、水、緑茶、酸性飲料等の飲料や食肉、チルド食品、生鮮食品(肉、野菜、魚)、弁当・総菜などの幅広い食品や、飼料などが利用可能である。更に、食品製造の設備や製造環境中の空気などの環境試料も本発明の被検試料として利用可能である。被検試料の性状は固体、液体及び気体のいずれであってもよい。被検試料は、前記のような製品又は生体試料そのものを希釈もしくは濃縮したもの、又は本発明の方法による処理以外の前処理をしたものであってもよい。前記前処理としては、加熱処理、濾過、又は遠心分離などが挙げられる。
【0013】
微生物としては、細菌、糸状菌、及び酵母などが挙げられる。細菌としては、グラム陽性菌及びグラム陰性菌のいずれもが含まれる。グラム陽性菌としては、ストレプトコッカス属細菌、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)などのリステリア属細菌、及びバチラス・サブチリス(Bacillus subtilis)などのバチラス属細菌、及びマイコバクテリウム属細菌などが挙げられる。グラム陰性菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)などのエシェリヒア属細菌、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)などのエンテロバクター属細菌、サルモネラ属細菌、ビブリオ属細菌、及びシュードモナス属細菌などが挙げられる。
【0014】
生菌とは、一般に好適な培養条件によって培養した際に増殖が可能であって、その微生物が有する代謝活性を示す状態(Viable-and-Culturable state)であり、細胞壁の損傷がほとんど無い微生物をいう。前記代謝活性としては、ATP活性、及びエステラーゼ活性などが挙げられる。
死菌とは、好適な培養条件によって培養した場合であっても増殖は不可能であって、代謝活性を示さない状態(Dead)の微生物である。また、細胞壁の構造は維持されているものの、細胞壁自体は高度に損傷を受けており、ヨウ化プロピジウムのような弱透過性の核染色剤等が細胞壁を透過する状態である。
【0015】
本発明の検出方法においては、被検試料を界面活性剤で処理する(工程a))。イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤のいずれも、前記界面活性剤として使用することができる。
イオン性界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤の脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、カチオン性界面活性剤のアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、両性界面活性剤のアルキルカルボキシベタイン、アルキルアミンオキシド、アルキルアミノ脂肪酸塩などが挙げられる。
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルポリグルコシド、アルキルモノグリセリルエーテルなどが挙げられる。
被検試料の界面活性剤による処理は、被検試料に界面活性剤を添加することにより行われる。界面活性剤の添加量は、界面活性剤を添加した後の被検試料の重量を基準として、好ましくは0.1〜0.00001重量%であり、より好ましくは0.01〜0.0001重量%である。
【0016】
本発明の検出方法においては、次いで界面活性剤で処理した被検試料をエチジウムモノアジド又はプロピジウムモノアジドで処理する(工程b))。被検試料のエチジウムモノアジド又はプロピジウムモノアジドによる処理は、被検試料にエチジウムモノアジド又はプロピジウムモノアジドを添加し、一定時間静置することにより行われる。エチジウムモノアジド又はプロピジウムモノアジドの添加量は、終濃度で0.5〜100μg/mlが好ましい。また、添加するエチジウムモノアジド又はプロピジウムモノアジドの温度は、4〜10℃が好ましい。さらに、被検試料の温度も4〜10℃が好ましい。また、エチジウムモノアジド又はプロピジウムモノアジドを被検試料に添加した後の静置時間は、好ましくは3〜60分間であり、より好ましくは5〜20分間である。なお、エチジウムモノアジド又はプロピジウムモノアジドによる処理は、遮光下で行うことが好ましい。
【0017】
本発明の検出方法においては、次いで被検試料に可視光を照射する(工程c))。可視光としては、550〜700nmの波長の光を含む可視光が好ましい。可視光の照射は、被検試料から、例えば5〜50cmの距離から100〜750Wの可視光を3分〜1時間照射する。なお、可視光照射は、低温下で、例えば試料を氷冷して行うことが好ましい。
【0018】
本発明の検出方法においては、次いで可視光を照射した被検試料からDNAを抽出する(工程d))。被検試料からDNAを抽出する方法としては、例えばフェノール抽出法、フェノール・クロロホルム抽出法、アルカリ溶解法、ボイリング法が挙げられる。また、市販のDNA抽出試薬や核酸自動抽出装置を用いてDNAを抽出する方法が挙げられる。
【0019】
本発明の検出方法においては、工程a)〜工程d)のいずれかにおいて被検試料をトポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤で処理する(工程e))。トポイソメラーゼ阻害剤及びDNAジャイレース阻害剤とは、トポイソメラーゼ(Topoisomerase)及びDNAジャイレース(DNA Gyrase)のDNA切断活性は阻害せずに、DNAの再結合を阻害するもの、又はDNAを切断する速度を促進させるものをいう。トポイソメラーゼ阻害剤及びDNAジャイレース阻害剤は、生菌と、死菌に対する作用が異なるものであることが好ましい。より具体的には生菌の細胞壁よりも死菌の細胞壁に対して透過性の高いものであることが好ましい。
【0020】
トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤による処理の条件は適宜設定することが可能であり、例えば、検出対象の微生物の生菌及び死菌の懸濁液に、種々の濃度のトポイソメラーゼ阻害剤を添加し、種々の時間を置いた後、微生物のDNAを抽出しPCRで分析することで、生菌と死菌を区別しやすい条件を決定することができる。このような条件としてアムサクリンでは終濃度1〜100μg/ml、25〜37℃、5分〜36時間が挙げられる。
【0021】
本発明の検出方法においては、次いで抽出されたDNAのターゲット領域を核酸増幅方法により増幅する(工程f))。ターゲット領域とは、染色体DNAのうち、核酸増幅方法により増幅できる領域であり、検出対象の微生物を検出することができるものであれば特に制限されず、目的に応じて適宜設定することができる。例えば、被検試料に検出対象の微生物と異なる種類の細胞が含まれる場合には、ターゲット領域は、検出対象の微生物に特異的な配列を有することが好ましい。また、目的によっては、複数種の微生物に共通する配列を有するものであってもよい。ターゲット領域の長さとしては、通常80〜1000塩基、好ましくは100〜500塩基が挙げられる。核酸増幅方法としては、PCR法(polymerase chain reaction)、SDA法(strand displacement amplification)、LCR法(ligase chain reaction)、LAMP法(loop-mediated isothermal amplification),ICAN法(isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids)などが存在し、その中でもPCR法を用いることが好ましい。
【0022】
本発明で用いたPCRプライマーは、上記ターゲット領域を特異的に増幅することができるものであれば特に制限されない。具体的には、16S rRNA遺伝子に対応するプライマーとして、配列番号1及び2に示すプライマーセット、又は配列番号3及び2に示すプライマーセットが挙げられる。
本発明の検出方法において、PCR増幅は公知の方法を用いて行われる。例えば、抽出されたDNAを鋳型とし、熱変性によりDNAを一本鎖にした後(例えば94℃)、これにプライマーをアニーリングさせ(例えば、60℃)、耐熱性DNAポリメラーゼを用いて相補鎖を合成する(例えば、72℃)、というサイクルを、例えば20〜40回繰返すことにより、目的とする遺伝子領域だけを増幅させる。
得られたPCR増幅産物は、公知の方法、例えば電気泳動やクロマトグラフィー、DNAチップ(マイクロアレイ)などによって解析することができる。
【実施例】
【0023】
1.使用した菌
グラム陰性細菌:大腸菌(Escherichia coli ATCC 8739)
グラム陽性細菌:枯草菌(Bacillus subtilis ATCC 6633)
【0024】
2.生菌溶液及び死菌溶液の調整
LB培地を用いて35℃で培養し、対数増殖期の培養液を取りだした。次いで、滅菌希釈液Pro−media MT−11(株式会社エルメックス)を用いて段階的に希釈して各濃度の生菌懸濁液とした。生菌懸濁液1mlを計りとり、ペトリフィルム培地生菌数測定用ACプレート(住友スリーエム社)で測定した。
また、生菌懸濁液1mlを1.5mlチューブに入れ、ヒートブロックにて100℃で3分間加熱し(大腸菌について)、又は100℃で10分間加熱し(枯草菌について)、次いで氷で急冷したものを死菌懸濁液とした。
【0025】
3.試薬
【0026】
4.実験方法
(1)EMA添加後の静置時間と光照射時間の検討
大腸菌の生菌懸濁液及び死菌懸濁液、並びに枯草菌の生菌懸濁液及び死菌懸濁液を、1×107cfu/mlで各々100μlずつ1.5mlチューブに取り、1mg/mlのアムサクリン溶液を1μl添加した。遮光下で1mg/mlのエチジウムモノアジド溶液を1μl添加した。これを遮光下4℃で、5、10又は30分間静置した後、氷上に静置した。各懸濁液から25〜30cmの距離に設置した100V−500Wライト(東芝ライテック AL−UF−6−2)を5又は10分間照射した。
その後、遮光下30℃で30分間静置した後、0.2N 水酸化ナトリウム溶液を100μl加えて100℃、10分加熱後、氷中で急冷し1M Tris−HCl (pH 8.0)と滅菌水を加え、4℃、16000×g、5分遠心することでDNAを抽出した。抽出したDNA溶液を用い、16S rRNA遺伝子をターゲットとしたPCRを行った。PCR組成及び反応条件を以下に示す。
【0027】
PCR組成(大腸菌)
反応条件
【0028】
PCR組成(枯草菌)
反応条件
【0029】
PCR後、1.5%(w/v)アガロースゲルを用いて電気泳動を行った。電気泳動完了後、TAEバッファーで10000倍に希釈したSYBR GreenI(TaKaRa)溶液に30分間漬けてアガロースゲルを染色し、UVトランスイルミネーターでPCR増幅産物を観察した。結果を図1及び2に示す。図1及び2から明らかであるように、グラム陰性菌である大腸菌の生菌のDNAのみを検出するためには4℃静置時間30分と光照射10分が必要であるが、グラム陽性菌である枯草菌で4℃静置時間30分と光照射10分を行った場合、生菌のDNAも分解されてしまい、この条件では、グラム陰性菌とグラム陽性菌の生菌を同時に検出することはできなかった。
一方、グラム陽性菌である枯草菌の生菌のDNAのみを検出するためには4℃静置時間5分と光照射5分にする必要があるが、グラム陰性菌である大腸菌で4℃静置時間5分と光照射5分を行った場合、生菌及び死菌の両方が検出されてしまい、この条件でも、グラム陰性菌とグラム陽性菌の生菌を同時に検出することはできなかった。
【0030】
(2)界面活性剤の添加効果の検討
大腸菌の生菌懸濁液及び死菌懸濁液、並びに枯草菌の生菌懸濁液及び死菌懸濁液を、1×107cfu/ml及び1×103cfu/mlで各々100μlずつ1.5mlチューブに取り、1mg/mlのアムサクリン溶液を1μl添加した。さらに各濃度(10重量%、1重量%、0.1重量%、及び0.01重量%)の界面活性剤(SDS、CTAB及びTritonX−100)を1μl又は10重量%の界面活性剤(SDS、CTAB及びTritonX−100)を11μl添加した。遮光下で1mg/mlのエチジウムモノアジド溶液を1μl添加した。これを遮光下4℃で5分静置した後、氷上に静置した。各懸濁液から25〜30cmの距離に設置した100V−500Wライト(東芝ライテック AL−UF−6−2)を5分間照射した。
その後、遮光下30℃で30分間静置した後、0.2N 水酸化ナトリウム溶液を100μl加えて100℃、10分加熱後、氷中で急冷し1M Tris−HCl (pH 8.0)と滅菌水を加え、4℃、16000×g、5分遠心することでDNAを抽出した。抽出したDNA溶液を用い、16S rRNA遺伝子をターゲットとしたPCRを行った。なお、CTAB添加したものサンプルは、PCR時の残存CTABの影響を避けるため、DNA溶液をさらに100倍希釈して用いた。PCR組成及び反応条件は上記(1)で使用した組成及び条件と同じである。
PCR後、1.5%(w/v)アガロースゲルを用いて電気泳動を行った。電気泳動完了後、TAEバッファーで10000倍に希釈したSYBR GreenI(TaKaRa)溶液に30分間漬けてアガロースゲルを染色し、UVトランスイルミネーターでPCR増幅産物を観察した。結果を図3〜7に示す。図3〜7から明らかであるように、5分間の光照射により、グラム陰性菌である大腸菌及びグラム陽性菌である枯草菌の生菌のDNAのみが検出された。これらの結果のまとめを表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
(3)プロピジウムモノアジド溶液を用いた場合の界面活性剤の添加効果の検討
大腸菌の生菌懸濁液及び死菌懸濁液、並びに枯草菌の生菌懸濁液及び死菌懸濁液を、1×107cfu/ml及び1×103cfu/mlで各々100μlずつ1.5mlチューブに取り、1mg/mlのアムサクリン溶液を1μl添加した。さらに1重量%の界面活性剤(SDS、TritonX−100)を1μl添加した。遮光下で1mg/mlのプロピジウムモノアジド溶液を1μl添加した。これを遮光下4℃で5分間静置した後、氷上に静置した。各懸濁液から25〜30cmの距離に設置した100V−500Wライト(東芝ライテック AL−UF−6−2)を5分間照射した。
その後、遮光下30℃で30分間静置した後、アルカリ溶解法にてDNAを抽出した。抽出したDNA溶液を用い、16S rRNA遺伝子をターゲットとしたPCRを行った。PCR組成及び反応条件は上記(1)で使用した組成及び条件と同じである。
PCR後、1.5%(w/v)アガロースゲルを用いて電気泳動を行った。電気泳動完了後、TAEバッファーで10000倍に希釈したSYBR GreenI(TaKaRa)溶液に30分間漬けてアガロースゲルを染色し、UVトランスイルミネーターでPCR増幅産物を観察した。結果を図8及び9に示す。なお、図8及び9中の1〜16のサンプル番号は以下をあらわしている。
1: PMA、AMSA非添加
2: PMA、AMSA添加
3: PMA、AMSA、0.01%SDS添加
4: PMA、AMSA、0.01%TritonX-100添加
5: PMA、AMSA非添加
6: PMA、AMSA添加
7: PMA、AMSA, 0.01%SDS添加
8: PMA、AMSA, 0.01%TritonX-100添加
9: PMA、AMSA非添加
10: PMA、AMSA添加
11: PMA、AMSA、0.01%SDS添加
12: PMA、AMSA、0.01%TritonX-100添加
13: PMA、AMSA非添加
14: PMA、AMSA添加
15: PMA、AMSA、0.01%SDS添加
16: PMA、AMSA、0.01%TritonX-100添加
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]