特許第5692569号(P5692569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692569
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】車両用操舵装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/00 20060101AFI20150312BHJP
   H02P 27/04 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   H02P5/408 C
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-186220(P2010-186220)
(22)【出願日】2010年8月23日
(65)【公開番号】特開2012-44837(P2012-44837A)
(43)【公開日】2012年3月1日
【審査請求日】2013年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100086391
【弁理士】
【氏名又は名称】香山 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】狩集 裕二
(72)【発明者】
【氏名】玉泉 晴天
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−178549(JP,A)
【文献】 特開平09−226606(JP,A)
【文献】 特開2008−024196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00
H02P 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、このロータに対向するステータとを備えたモータによって車両の舵取り機構に駆動力を付与する車両用操舵装置であって、
制御上の回転角である制御角に従う回転座標系の軸電流値で前記モータを駆動する電流駆動手段と、
所定の演算周期毎に、制御角の前回値に加算角を加算することによって制御角の今回値を求める制御角演算手段と、
前記車両の速度を検出する車速検出手段と、
前記車両の操向のために操作される操作部材に加えられる操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
操舵トルクの目標値としての指示操舵トルクを設定する指示操舵トルク設定手段と、
前記操舵トルク検出手段によって検出される検出操舵トルクと、前記指示操舵トルク設定手段によって設定される指示操舵トルクとの偏差であるトルク偏差に応じて前記加算角を演算する加算角演算手段と、
前記トルク偏差に基づいて演算される電流増減値を前記軸電流値の目標値である指示電流値の前回値に加算することにより今演算周期での指示電流値を求める指示電流値演算手段と、
前記指示電流値演算手段によって求められた今演算周期での指示電流値を上限値以下に制限する指示電流値制限手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速に基づいて前記上限値を設定する上限値設定手段と、を含む車両用操舵装置。
【請求項2】
記上限値設定手段は、前記車速検出手段によって検出された車速が大きくなるほど前記上限値が小さくなるように、前記上限値を設定するように構成されている、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
ロータと、このロータに対向するステータとを備えたモータによって車両の舵取り機構に駆動力を付与する車両用操舵装置であって、
制御上の回転角である制御角に従う回転座標系の軸電流値で前記モータを駆動する電流駆動手段と、
所定の演算周期毎に、制御角の前回値に加算角を加算することによって制御角の今回値を求める制御角演算手段と、
前記車両の速度を検出する車速検出手段と、
前記車両の操向のために操作される操作部材に加えられる操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
操舵トルクの目標値としての指示操舵トルクを設定する指示操舵トルク設定手段と、
前記操舵トルク検出手段によって検出される検出操舵トルクと、前記指示操舵トルク設定手段によって設定される指示操舵トルクとの偏差であるトルク偏差に応じて前記加算角を演算する加算角演算手段と、
前記トルク偏差に基づいて、前記軸電流値の目標値である指示電流値を求める指示電流値演算手段と、
前記指示電流値演算手段によって求められた指示電流値を上限値以下に制限する指示電流値制限手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速に基づいて前記上限値を設定する上限値設定手段とを含み、
前記車両用操舵装置は、前記モータの駆動力をアシストトルクとして前記舵取り機構に伝達して操舵補助する電動パワーステアリング装置であり、
操舵トルクに対する目標アシストトルクの関係を表すアシスト特性を車速毎に記憶したトルク対アシストマップと、
前記加算角の絶対値を所定の加算角制限値以下に制限する加算角制限手段をさらに含み、
前記上限値設定手段は、前記トルク対アシストマップと前記車速検出手段によって検出された車速とから求められる車速に対応する最大負荷トルクと、前記加算角制限値とに応じた上限値を設定するように構成されている、車両用操舵装置。
【請求項4】
前記車速に対応する最大負荷トルクは、前記車速検出手段によって検出された車速に対応するアシスト特性における、所定の操舵トルクとそれに対応するアシストトルクとの和である請求項3に記載の車両用操舵装置。
【請求項5】
前記上限値設定手段は、
車速に対する前記上限値の関係を記憶した車速対上限値マップと、
前記トルク対アシストマップが変更されたときに、変更後のトルク対アシストマップに応じて前記車速対上限値マップを更新する手段とを更に含む、請求項3または4に記載の車両用操舵装置。
【請求項6】
ロータと、このロータに対向するステータとを備えたモータによって車両の舵取り機構に駆動力を付与する車両用操舵装置であって、
制御上の回転角である制御角に従う回転座標系の軸電流値で前記モータを駆動する電流駆動手段と、
所定の演算周期毎に、制御角の前回値に加算角を加算することによって制御角の今回値を求める制御角演算手段と、
前記車両の速度を検出する車速検出手段と、
前記車両の操向のために操作される操作部材に加えられる操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
操舵トルクの目標値としての指示操舵トルクを設定する指示操舵トルク設定手段と、
前記操舵トルク検出手段によって検出される検出操舵トルクと、前記指示操舵トルク設定手段によって設定される指示操舵トルクとの偏差であるトルク偏差に応じて前記加算角を演算する加算角演算手段と、
前記トルク偏差に基づいて、前記軸電流値の目標値である指示電流値を求める指示電流値演算手段と、
前記指示電流値演算手段によって求められた指示電流値を上限値以下に制限する指示電流値制限手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速に基づいて前記上限値を設定する上限値設定手段と、
前記加算角の絶対値を所定の加算角制限値以下に制限する加算角制限手段とを含み、
前記上限値設定手段は、前記車速検出手段によって検出された車速に対応する最大負荷トルクと、前記加算角制限値とに応じた上限値を設定するように構成されている、車両用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブラシレスモータを駆動するためのモータ制御装置を備えた車両用操舵装置に関する。車両用操舵装置の一例は、電動パワーステアリング装置である。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータを駆動制御するためのモータ制御装置は、一般に、ロータの回転角を検出するための回転角センサの出力に応じてモータ電流の供給を制御するように構成されている。しかし、回転角センサが故障すると、モータ制御を継続できなくなる。
そこで、回転角センサを用いることなくブラシレスモータを駆動するセンサレス駆動方式が提案されている。センサレス駆動方式は、ロータの回転に伴う誘起電圧を推定することによって、磁極の位相(ロータの電気角)を推定する方式である。ロータ停止時および極低速回転時には、誘起電圧を推定できないので、別の方式で磁極の位相が推定される。具体的には、ステータに対してセンシング信号を注入し、このセンシング信号に対するモータの応答が検出される。このモータ応答に基づいて、ロータ回転位置が推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-243699号公報
【特許文献2】特開2009-124811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のセンサレス駆動方式は、誘起電圧やセンシング信号を用いてロータの回転位置を推定し、その推定によって得られた回転位置に基づいてモータを制御するものである。しかし、この駆動方式は、いずれの用途にも適しているわけではなく、たとえば、車両の舵取り機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置その他の車両用操舵装置の駆動源として用いられるブラシレスモータの制御に適用するための手法は未だ確立されていない。そのため、別の方式によるセンサレス制御の実現が望まれている。
【0005】
そこで、この発明の目的は、回転角センサを用いない新たな制御方式でモータを制御することができる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、ロータ(50)と、このロータに対向するステータ(55)とを備えたモータ(3)によって車両の舵取り機構(2)に駆動力を付与する車両用操舵装置であって、制御上の回転角である制御角(θ)に従う回転座標系の軸電流値で前記モータを駆動する電流駆動手段(31,30,33〜36B)と、所定の演算周期毎に、制御角の前回値に加算角を加算することによって制御角の今回値を求める制御角演算手段(26)と、前記車両の速度を検出する車速検出手段(6)と、前記車両の操向のために操作される操作部材(10)に加えられる操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段(1)と、操舵トルクの目標値としての指示操舵トルク(T)を設定する指示操舵トルク設定手段(21)と、前記操舵トルク検出手段によって検出される検出操舵トルク(T)と、前記指示操舵トルク設定手段によって設定される指示操舵トルクとの偏差であるトルク偏差に応じて前記加算角を演算する加算角演算手段(22,23)と、前記トルク偏差に基づいて演算される電流増減値を前記軸電流値の目標値である指示電流値(Iγの前回値に加算することにより今演算周期での指示電流値を求める指示電流値演算手段(61,62)と、前記指示電流値演算手段によって求められた今演算周期での指示電流値を上限値(ξmax)以下に制限する指示電流値制限手段(63)と、前記車速検出手段によって検出された車速に基づいて前記上限値を設定する上限値設定手段(64,64A)と、を含む車両用操舵装置である。なお、括弧内の英数字は後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0007】
この構成によれば、制御角に従う回転座標系(γδ座標系。以下「仮想回転座標系」といい、この仮想回転座標系の座標軸を「仮想軸」という。)の軸電流値(以下「仮想軸電流値」という。)によってモータが駆動される一方で、制御角は、演算周期毎に加算角を加算することによって更新される。これにより、制御角を更新しながら、すなわち、仮想回転座標系の座標軸(仮想軸)を更新しながら、仮想軸電流値でモータを駆動することによって、必要なトルクを発生させることができる。こうして、回転角センサを用いることなく、モータから適切なトルクを発生させることができる。
【0008】
この発明では、車両の操向のために操作される操作部材に加えられる操舵トルクが、操舵トルク検出手段によって検出される。また、操舵トルクの目標値としての指示操舵トルクが、指示操舵トルク設定手段によって設定される。そして、加算角演算手段によって、検出操舵トルクと指示操舵トルクとの偏差であるトルク偏差に応じて加算角が演算される。加算角演算手段は、たとえば、検出操舵トルクを指示操舵トルクに一致させるべく、加算角を演算するように動作する。これにより、検出操舵トルクが指示操舵トルクとなるように加算角が定められ、それに応じた制御角が定められることになる。したがって、指示操舵トルクを適切に定めておくことによって、モータから適切な駆動力を発生させて、これを舵取り機構に付与することができる。すなわち、ロータの磁極方向に従う回転座標系(dq座標系)の座標軸と前記仮想軸とのずれ量である負荷角が、指示操舵トルクに応じた値に導かれる。その結果、適切なトルクがモータから発生され、運転者の操舵意図に応じた駆動力を舵取り機構に付与できる。
【0009】
また、この発明では、指示電流値演算手段によって、指示電流値が設定される。具体的には、検出操舵トルクと指示操舵トルクとの偏差であるトルク偏差に基づいて演算される電流増減値を、軸電流値の目標値である指示電流値の前回値に加算することにより今演算周期での指示電流値が設定される。これにより、トルク偏差に応じてモータトルクの大きさを制御することができる。このため、検出操舵トルクを指示操舵トルクに速やかに一致させることが可能となる。
さらに、この発明では、指示電流値制限手段によって、指示電流値演算手段によって求められた今演算周期での指示電流値が上限値以下に制限される。この上限値は、上限値設定手段によって、車速検出手段によって検出された車速に基づいて設定される。指示電流値の上限値が大きすぎると、モータ抵抗による発熱が大きくなるおそれがあるため、電力効率が悪くなる。一方、指示電流値の上限値が小さすぎると、必要なモータトルクを発生できなくなるおそれがあるため、制御が不安定になる。この発明では、車速に応じて指示電流値の上限値が設定されるので、指示電流値の上限値を適切な値に設定することが可能となる。これにより、電力効率の向上化および制御の安定化を図ることができるようになる。
【0010】
請求項2記載の発明は、記上限値設定手段は、前記車速検出手段によって検出された車速が大きくなるほど前記上限値が小さくなるように、前記上限値を設定するように構成されている、請求項1に記載の車両用操舵装置である。
【0011】
請求項3記載の発明は、ロータ(50)と、このロータに対向するステータ(55)とを備えたモータ(3)によって車両の舵取り機構(2)に駆動力を付与する車両用操舵装置であって、制御上の回転角である制御角(θ)に従う回転座標系の軸電流値で前記モータを駆動する電流駆動手段(31,30,33〜36B)と、所定の演算周期毎に、制御角の前回値に加算角を加算することによって制御角の今回値を求める制御角演算手段(26)と、前記車両の速度を検出する車速検出手段(6)と、前記車両の操向のために操作される操作部材(10)に加えられる操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段(1)と、操舵トルクの目標値としての指示操舵トルク(T)を設定する指示操舵トルク設定手段(21)と、前記操舵トルク検出手段によって検出される検出操舵トルク(T)と、前記指示操舵トルク設定手段によって設定される指示操舵トルクとの偏差であるトルク偏差に応じて前記加算角を演算する加算角演算手段(22,23)と、前記トルク偏差に基づいて、前記軸電流値の目標値である指示電流値(Iγ)を求める指示電流値演算手段(61,62)と、前記指示電流値演算手段によって求められた指示電流値を上限値(ξmax)以下に制限する指示電流値制限手段(63)と、前記車速検出手段によって検出された車速に基づいて前記上限値を設定する上限値設定手段(64,64A)とを含み、前記車両用操舵装置は、前記モータの駆動力をアシストトルクとして前記舵取り機構に伝達して操舵補助する電動パワーステアリング装置であり、操舵トルクに対する目標アシストトルクの関係を表すアシスト特性を車速毎に記憶したトルク対アシストマップと、前記加算角の絶対値を所定の加算角制限値(ωmax)以下に制限する加算角制限手段(24)をさらに含み、前記上限値設定手段は、前記トルク対アシストマップと前記車速検出手段によって検出された車速とから求められる車速に対応する最大負荷トルクと、前記加算角制限値とに応じた上限値を設定するように構成されている、車両用操舵装置である。
【0012】
この構成によれば、車速検出手段によって検出された車速に対応する最大負荷トルクと、加算角制限値とに応じた上限値を、指示電流値の上限値として設定することができる。たとえば、加算角制限値をωmaxとすると、指示電流値が上限値に設定された状態において、負荷角が(90゜−ωmax)のときに、最大負荷トルクに相当する大きさのアシストトルクがモータから発生されるように、上限値を設定することが可能となる。これにより、負荷角を好ましい範囲内で制御することが可能となる。
【0013】
前記加算角制限値は、たとえば、次式によって定められた値であってもよい。ただし、次式における「最大ロータ角速度」とは、電気角でのロータ角速度の最大値である。
加算角制限値=最大ロータ角速度×演算周期
たとえば、モータの回転を所定の減速比の減速機構を介して車両用操舵装置の操舵軸に伝達している場合には、最大ロータ角速度は、最大操舵角速度(操舵軸の最大回転角速度)×減速比×極対数で与えられる。「極対数」とは、ロータが有する磁極対(N極とS極との対)の数である。
【0014】
請求項4記載の発明は、前記車速に対応する最大負荷トルクは、前記車速検出手段によって検出された車速に対応するアシスト特性における、所定の操舵トルクとそれに対応するアシストトルクとの和である請求項3に記載の車両用操舵装置である。この構成によれば、車速に対応する最大負荷トルクを、車速検出手段によって検出された車速に対応するアシスト特性における、所定の操舵トルクとそれに対応するアシストトルクとの和として求めることができる。
【0015】
請求項5記載の発明は、前記上限値設定手段は、車速に対する前記上限値の関係を記憶した車速対上限値マップと、前記トルク対アシストマップが変更されたときに、変更後のトルク対アシストマップに応じて前記車速対上限値マップを更新する手段とを更に含む、請求項3または4に記載の車両用操舵装置である。この構成によれば、トルク対アシストマップが変更されたときには、変更後のトルク対アシストマップに応じて車速対上限値マップを自動的に更新させることができる。
【0016】
請求項6記載の発明は、ロータ(50)と、このロータに対向するステータ(55)とを備えたモータ(3)によって車両の舵取り機構(2)に駆動力を付与する車両用操舵装置であって、制御上の回転角である制御角(θ)に従う回転座標系の軸電流値で前記モータを駆動する電流駆動手段(31,30,33〜36B)と、所定の演算周期毎に、制御角の前回値に加算角を加算することによって制御角の今回値を求める制御角演算手段(26)と、前記車両の速度を検出する車速検出手段(6)と、前記車両の操向のために操作される操作部材(10)に加えられる操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段(1)と、操舵トルクの目標値としての指示操舵トルク(T)を設定する指示操舵トルク設定手段(21)と、前記操舵トルク検出手段によって検出される検出操舵トルク(T)と、前記指示操舵トルク設定手段によって設定される指示操舵トルクとの偏差であるトルク偏差に応じて前記加算角を演算する加算角演算手段(22,23)と、前記トルク偏差に基づいて、前記軸電流値の目標値である指示電流値(Iγ)を求める指示電流値演算手段(61,62)と、前記指示電流値演算手段によって求められた指示電流値を上限値(ξmax)以下に制限する指示電流値制限手段(63)と、前記車速検出手段によって検出された車速に基づいて前記上限値を設定する上限値設定手段(64,64A)と、前記加算角の絶対値を所定の加算角制限値以下に制限する加算角制限手段とを含み、前記上限値設定手段は、前記車速検出手段によって検出された車速に対応する最大負荷トルクと、前記加算角制限値とに応じた上限値を設定するように構成されている、車両用操舵装置である。この構成によれば、請求項3記載の発明と同様な効果を得ることができる。
【0017】
前記車両用操舵装置は、前記操作部材の操舵角を検出する操舵角検出手段(4)をさらに含み、前記指示操舵トルク設定手段は、前記操舵角検出手段によって検出される操舵角に応じて指示操舵トルクを設定するものであることが好ましい。この構成によれば、操作部材の操舵角に応じて指示操舵トルクが設定されるので、操舵角に応じた適切なトルクをモータから発生させることができ、運転者が操作部材に加える操舵トルクを操舵角に応じた値へと導くことができる。これにより、良好な操舵感を得ることができる。
【0018】
前記指示操舵トルク設定手段は、前記車速検出手段によって検出される車速に応じて指示操舵トルクを設定するものであってもよい。この構成によれば、車速に応じて指示操舵トルクが設定されるので、いわゆる車速感応制御を行うことができる。その結果、良好な操舵感を実現できる。たとえば、車速が大きいほど、すなわち、高速走行時ほど指示操舵トルクを小さく設定することより、すぐれた操舵感が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の一実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
図2】モータの構成を説明するための図解図である。
図3】前記電動パワーステアリング装置の制御ブロック図である。
図4】操舵角に対する指示操舵トルクの特性例を示す図である。
図5】操舵トルクリミッタの働きを説明するための図である。
図6】検出操舵トルクに対する目標アシストトルクの特性の一例を示す図である。
図7】加算角リミッタの働きを説明するためのフローチャートである。
図8】マップ作成・更新部による車速対上限値マップの作成処理の手順を示すフローチャートである。
図9】車速対上限値マップの作成処理を説明するための図である。
図10】車速対上限値特性の一例を示す図である。
図11】第1指示電流値生成部の構成を示すブロック図である。
図12図12Aは、指示操舵トルクの符号が正である場合の、トルク偏差に対する電流増減量の設定例を示す図であり、図12Bは、指示操舵トルクの符号が負である場合の、トルク偏差に対する電流増減量の設定例を示す図である。
図13】第1指示電流値生成部の変形例を示すブロック図である。
図14】上限値設定部による上限値演算処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る車両用操舵装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この電動パワーステアリング装置は、車両を操向するための操作部材としてのステアリングホイール10に加えられる操舵トルクTを検出するトルクセンサ1と、車両の舵取り機構2に減速機構7を介して操舵補助力を与えるモータ3(ブラシレスモータ)と、ステアリングホイール10の回転角である操舵角を検出する舵角センサ4と、モータ3内のロータの回転角を検出するレゾルバ8(回転角センサ)と、モータ3を駆動制御するモータ制御装置5と、当該電動パワーステアリング装置が搭載された車両の速度を検出する車速センサ6とを備えている。レゾルバ8は、ロータ回転角(ロータ回転位置)に対応する正弦波信号および余弦波信号を生成するものである。
【0021】
モータ制御装置5は、レゾルバ8の出力信号、トルクセンサ1が検出する操舵トルク、舵角センサ4が検出する操舵角および車速センサ6が検出する車速に応じてモータ3を駆動することによって、操舵状況および車速に応じた適切な操舵補助を実現する。
モータ3は、この実施形態では、三相ブラシレスモータであり、図2に図解的に示すように、界磁としてのロータ50と、このロータ50に対向するステータ55に配置されたU相、V相およびW相のステータ巻線51,52,53とを備えている。モータ3は、ロータの外部にステータを対向配置したインナーロータ型のものであってもよいし、筒状のロータの内部にステータを対向配置したアウターロータ型のものであってもよい。
【0022】
各相のステータ巻線51,52,53の方向にU軸、V軸およびW軸をとった三相固定座標(UVW座標系)が定義される。また、ロータ50の磁極方向にd軸(磁極軸)をとり、ロータ50の回転平面内においてd軸と直角な方向にq軸(トルク軸)をとった二相回転座標系(dq座標系。実回転座標系)が定義される。dq座標系は、ロータ50とともに回転する回転座標系である。dq座標系では、q軸電流のみがロータ50のトルク発生に寄与するので、d軸電流を零とし、q軸電流を所望のトルクに応じて制御すればよい。ロータ50の回転角(ロータ角)θは、U軸に対するd軸の回転角である。dq座標系は、ロータ角θに従う実回転座標系である。このロータ角θを用いることによって、UVW座標系とdq座標系との間での座標変換を行うことができる。
【0023】
一方、この実施形態では、制御上の回転角を表す制御角θが導入される。制御角θは、U軸に対する仮想的な回転角である。この制御角θに対応する仮想的な軸をγ軸とし、このγ軸に対して90°進んだ軸をδ軸として、仮想二相回転座標系(γδ座標系。仮想回転座標系)を定義する。制御角θがロータ角θに等しいとき、仮想回転座標系であるγδ座標系と実回転座標系であるdq座標系とが一致する。すなわち、仮想軸としてのγ軸は実軸としてのd軸と一致し、仮想軸としてのδ軸は実軸としてのq軸と一致する。γδ座標系は、制御角θに従う仮想回転座標系である。UVW座標系とγδ座標系との座標変換は、制御角θを用いて行うことができる。
【0024】
制御角θとロータ角θとの差を負荷角θ(=θ−θ)と定義する。
制御角θに従ってγ軸電流Iγをモータ3に供給すると、このγ軸電流Iγのq軸成分(q軸への正射影)がロータ50のトルク発生に寄与するq軸電流Iとなる。すなわち、γ軸電流Iγとq軸電流Iとの間に、次式(1)の関係が成立する。
=Iγ・sinθ …(1)
再び図1を参照する。モータ制御装置5は、マイクロコンピュータ11と、このマイクロコンピュータ11によって制御され、モータ3に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)12と、モータ3の各相のステータ巻線に流れる電流を検出する電流検出部13とを備えている。
【0025】
電流検出部13は、モータ3の各相のステータ巻線51,52,53に流れる相電流I,I,I(以下、総称するときには「三相検出電流IUVW」という。)を検出する。これらは、UVW座標系における各座標軸方向の電流値である。
マイクロコンピュータ11は、CPUおよびメモリ(ROMおよびRAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、操舵トルクリミッタ20と、指示操舵トルク設定部21と、トルク偏差演算部22と、PI(比例積分)制御部23と、加算角リミッタ24と、制御角演算部26と、回転角演算部27と、第1指示電流値生成部31と、第2指示電流生成部32と、電流偏差演算部30と、PI制御部33と、γδ/αβ(dq/αβ)変換部34Aと、αβ/UVW変換部34Bと、PWM(Pulse Width Modulation)制御部35と、UVW/αβ変換部36Aと、αβ/γδ(αβ/dq)変換部36Bと、マップ作成・更新部39と、センサ故障判定部40と、指示電流値切換部41と、角度切換部42とが含まれている。
【0026】
指示操舵トルク設定部21は、舵角センサ4によって検出される操舵角と、車速センサ6によって検出される車速とに基づいて、指示操舵トルクTを設定する。たとえば、図4に示すように、操舵角が正の値(右方向へ操舵した状態)のとき指示操舵トルクTは正の値(右方向へのトルク)に設定され、操舵角が負の値(左方向へ操舵した状態)のとき指示操舵トルクTは負の値(左方向へのトルク)に設定される。そして、操舵角の絶対値が大きくなるに従って、その絶対値が大きくなるように(図4の例では非線形に大きくなるように)指示操舵トルクTが設定される。ただし、所定の上限値(正の値。たとえば、+6Nm)および下限値(負の値。たとえば−6Nm)の範囲内で指示操舵トルクTの設定が行われる。また、指示操舵トルクTは、車速が大きいほど、その絶対値が小さくなるように設定される。すなわち、車速感応制御が行われる。
【0027】
操舵トルクリミッタ20は、トルクセンサ1の出力を所定の上限飽和値+Tmax(+Tmax>0。たとえば+Tmax=7Nm)と下限飽和値−Tmax(−Tmax<0。たとえば−Tmax=−7Nm)との間に制限する。具体的には、操舵トルクリミッタ20は、図5に示すように、上限飽和値+Tmaxと下限飽和値−Tmaxの間では、トルクセンサ1の検出操舵トルクTをそのまま出力する。また、操舵トルクリミッタ20は、トルクセンサ1の検出操舵トルクTが上限飽和値+Tmax以上であれば、上限飽和値+Tmaxを出力する。そして、操舵トルクリミッタ20は、トルクセンサ1の検出操舵トルクTが下限飽和値−Tmax以下であれば、下限飽和値−Tmaxを出力する。飽和値+Tmaxおよび−Tmaxは、トルクセンサ1の出力信号が安定な領域(信頼性のある領域)の境界を画定するものである。つまり、トルクセンサ1の出力信号は、上限飽和値Tmaxを超える区間、および下限飽和値−Tmaxを下回る区間では不安定であり、実際の操舵トルクに対応しなくなる。換言すれば、飽和値+Tmax,−Tmaxは、トルクセンサ1の出力特性に応じて定められる。
【0028】
トルク偏差演算部22は、指示操舵トルク設定部21によって設定される指示操舵トルクTとトルクセンサ1によって検出され、操舵トルクリミッタ20による制限処理を受けた操舵トルクT(以下、区別するために「検出操舵トルクT」という。)との偏差(トルク偏差)ΔT(=T−T)を求める。PI制御部23は、このトルク偏差ΔTに対するPI演算を行う。すなわち、トルク偏差演算部22およびPI制御部23によって、検出操舵トルクTを指示操舵トルクTに導くためのトルクフィードバック制御手段が構成されている。PI制御部23は、トルク偏差ΔTに対するPI演算を行うことで、制御角θに対する加算角αを演算する。したがって、前記トルクフィードバック制御手段は、加算角αを演算する加算角演算手段を構成している。
【0029】
加算角リミッタ24は、PI制御部23によって求められた加算角αに対して制限を加える加算角制限手段である。より具体的には、加算角リミッタ24は、所定の上限値UL(正の値)と下限値LL(負の値)との間の値に加算角αを制限する。上限値ULおよび下限値LLは、所定の制限値ωmax(ωmax>0。たとえばωmaxの既定値=45度)に基づいて定められる。この所定の制限値ωmaxの既定値は、たとえば、最大操舵角速度に基づいて定められる。最大操舵角速度とは、ステアリングホイール10の操舵角速度として想定され得る最大値であり、たとえば、800deg/sec程度である。
【0030】
最大操舵角速度のときのロータ50の電気角の変化速度(電気角での角速度。最大ロータ角速度)は、次式(2)のとおり、最大操舵角速度と、減速機構7の減速比と、ロータ50の極対数との積で与えられる。極対数とは、ロータ50が有する磁極対(N極とS極との対)の個数である。
最大ロータ角速度=最大操舵角速度×減速比×極対数 …(2)
制御角θの演算間(演算周期)におけるロータ50の電気角変化量の最大値(ロータ角変化量最大値)は、次式(3)のとおり、最大ロータ角速度に演算周期を乗じた値となる。
【0031】
ロータ角変化量最大値=最大ロータ角速度×演算周期
=最大操舵角速度×減速比×極対数×演算周期 …(3)
このロータ角変化量最大値が一演算周期間で許容される制御角θの最大変化量である。そこで、前記ロータ角変化量最大値を制限値ωmaxの既定値とすればよい。この制限値ωmaxを用いて、加算角αの上限値ULおよび下限値LLは、それぞれ次式(4)(5)で表すことができる。
【0032】
UL=+ωmax …(4)
LL=−ωmax …(5)
加算角リミッタ24による制限処理後の加算角αが、制御角演算部26の加算器26Aにおいて、制御角θの前回値θ(n-1)(nは今演算周期の番号)に加算される(Z−1は信号の前回値を表す)。
【0033】
制御角演算部26は、制御角θの前回値θ(n-1)に加算角リミッタ24から与えられる加算角αを加算する加算器26Aを含む。すなわち、制御角演算部26は、所定の演算周期毎に制御角θを演算する。そして、前演算周期における制御角θを前回値θ(n-1)とし、これを用いて今演算周期における制御角θである今回値θ(n)を求める。
回転角演算部27は、レゾルバ8の出力信号に基づいてロータ50の回転角θを演算する。角度切換部42は、制御角演算部26によって求められた制御角θと、回転角演算部27によって求められたロータ回転角θとのうちのいずれか一方を選択し、座標変換用の変換角θとして出力するものである。
【0034】
第1指示電流値生成部31は、制御上の回転角である前記制御角θに対応する仮想回転座標系であるγδ座標系の座標軸(仮想軸)に流すべき電流値を指示電流値として生成するものである。具体的には、γ軸指示電流値Iγおよびδ軸指示電流値Iδ(以下、これらを総称するときには「二相指示電流値Iγδ」という。)を生成する。
第1指示電流値生成部31は、γ軸指示電流値Iγを有意値とする一方で、δ軸指示電流値Iδを零とする。より具体的には、第1指示電流値生成部31は、指示操舵トルク設定部21によって設定される指示操舵トルクTと、トルクセンサ1によって検出され、操舵トルクリミッタ20による制限処理を受けた検出操舵トルクTと、車速センサ6によって検出される車速と、マップ作成・更新部39によって作成される車速対上限値マップに基づいてγ軸指示電流値Iγを設定する。第1指示電流値生成部31およびマップ作成・更新部39の詳細については、後述する。
【0035】
第2指示電流値生成部32は、dq座標系の座標軸に流すべき電流値を指示電流値として生成するものである。具体的には、d軸指示電流値Iおよびq軸指示電流値I(以下、これらを総称するときには「二相指示電流値Idq」という。)を生成する。さらに具体的には、第2指示電流値生成部32は、q軸指示電流値Iを有意値とする一方で、d軸指示電流値Iを零とする。より具体的には、第2指示電流値生成部32は、トルクセンサ1によって検出され、操舵トルクリミッタ20による制限処理を受けた検出操舵トルクTと、車速センサ6によって検出される車速と、操舵トルクTに対する目標アシストトルクTの関係を表すアシスト特性を車速毎に記憶したトルク対アシストマップとに基づいてq軸指示電流値Iを設定する。
【0036】
トルク対アシストマップは車種毎に予め作成されている。そして、車種別のトルク対アシストマップが、第2指示電流値生成部32に保持されている。第2指示電流値生成部32は、車種別のトルク対アシストマップのうちからユーザ等によって選択された当該車種に対応するトルク対アシストマップと、車速センサ6によって検出される車速とに基づいて、車速に対応するアシスト特性を選択する。そして、第2指示電流値生成部32は、車速に対応するアシスト特性と、検出操舵トルクTとに基づいて、検出操舵トルクTに対応する目標アシストトルクTを求める。そして、得られた目標アシストトルクTを、モータの3のトルク定数Kで除算することにより、q軸指示電流値Iを演算する。つまり、q軸指示電流値Iは、目標アシストトルクTに比例した値となる。
【0037】
図6は、当該車種に対応したトルク対アシストマップによって表される検出操舵トルクTに対する目標アシストトルクTの特性(以下、「トルク対アシスト特性」という)の一例を示す図である。検出操舵トルクTは、たとえば右方向への操舵のための検出操舵トルクが正の値にとられ、左方向への操舵のための検出操舵トルクが負の値にとられている。また、目標アシストトルクTは、右方向操舵のための目標アシストトルクが正の値とされ、左方向操舵のための目標アシストトルクが負の値とされる。目標アシストトルクTは、検出操舵トルクTの正の値に対しては正をとり、検出操舵トルクTの負の値に対しては負の値をとる。
【0038】
図6に示されるトルク対アシスト特性では、目標アシストトルクT(q軸指示電流値I)は、検出操舵トルクTの絶対値が大きいほど、その絶対値が大きくなる(図6の例では非線形に大きくなる)。また、目標アシストトルクT(q軸指示電流値I)は、車速センサ6によって検出される車速が大きいほど、その絶対値が小さくなる。これにより、低速走行時には大きな操舵補助力を発生させることができ、高速走行時には操舵補助力を小さくすることができる。
【0039】
指示電流切換部41は、第1指示電流値生成部31によって生成される二相指示電流値Iγδと、第2指示電流値生成部32によって生成される二相指示電流値Idqとのうちのいずれか一方を選択し、電流偏差演算部30に供給するものである。
センサ故障判定部40は、レゾルバ8の故障の有無を判定し、その判定結果に応じてモータ3の制御モードの切換を行なうものである。たとえば、センサ故障判定部40は、レゾルバ8の信号線に導出される信号を監視することによって、レゾルバ8の故障、レゾルバ8の信号線の断線故障、レゾルバ8の信号線の接地故障を検出することができる。センサ故障判定部40は、レゾルバ8の故障の有無の判定結果に応じて、第1モードと第2モードとの間で制御モードを切換え、モード切換指令を生成する。このモード切換指令に応じて、指示電流値切換部41および角度切換部42における切換えが実行される。
【0040】
具体的には、センサ故障判定部40は、レゾルバ8の故障が生じていないと判定している場合(通常時)には、制御モードを第2モードに設定する。一方、レゾルバ8の故障が生じていると判定している場合(故障時)には、センサ故障判定部40は、制御モードを第2モードから第1モードに切り換える。第2モードにおいては、指示電流値切換部41は第2指示電流値生成部32が生成する二相指示電流値Idqを選択して出力し、角度切換部42は回転角演算部27が生成するロータ回転角θを選択して出力する。第1モードにおいては、指示電流値切換部41は第1指示電流値生成部31が生成する二相指示電流値γδを選択して出力し、角度切換部42は制御角演算部26が生成する制御角θを選択して出力する。
【0041】
電流偏差演算部30は、指示電流値切換部41で選択された指示電流値IγδまたはIdqに対する二相検出電流Iγδ(γ軸検出電流Iγおよびδ軸検出電流Iδ)またはIdq(d軸検出電流Iおよびq軸検出電流I)の偏差を演算する。具体的には、指示電流値切換部41が二相指示電流値Iγδを出力するときには、電流偏差演算部30は、γ軸指示電流値Iγに対するγ軸検出電流Iγの偏差Iγ−Iγと、δ軸指示電流値Iδ(=0)に対するδ軸検出電流Iδの偏差Iδ−Iδとを演算する。また、指示電流値切換部41が二相指示電流値Idqを出力するときには、電流偏差演算部30は、d軸指示電流値I(=0)に対するd軸検出電流Iの偏差I−Iと、q軸指示電流値Iに対するq軸検出電流Iの偏差I−Iを演算する。γ軸検出電流Iγおよびδ軸検出電流Iδまたはd軸検出電流Iおよびq軸検出電流Iは、αβ/γδ(αβ/dq)変換部36Bから偏差演算部30に与えられるようになっている。
【0042】
UVW/αβ変換部36Aは、電流検出部13によって検出されるUVW座標系の三相検出電流IUVW(U相検出電流I、V相検出電流IおよびW相検出電流I)を二相固定座標系であるαβ座標系の二相検出電流IαおよびIβ(以下総称するときには「二相検出電流Iαβ」という。)に変換する。αβ座標系は、図2に示すように、ロータ50の回転中心を原点として、ロータ50の回転平面内にα軸およびこれに直交するβ軸(図2の例ではU軸と同軸)を定めた固定座標系である。αβ/γδ(αβ/dq)変換部36Bは、制御モードが第1モードのときには、二相検出電流Iαβをγδ座標系の二相検出電流IγおよびIδ(以下総称するときには「二相検出電流Iγδ」という。)に変換する。一方、制御モードが第2モードのときには、αβ/γδ(αβ/dq)変換部36Bは、二相検出電流Iαβをdq座標系の二相検出電流IおよびI(以下総称するときには「二相検出電流Idq」という。)に変換する。これらが電流偏差演算部30に与えられるようになっている。αβ/γδ(αβ/dq)変換部36Bにおける座標変換には、角度切換部42で選択された変換角θが用いられる。
【0043】
PI制御部33は、電流偏差演算部30によって演算された電流偏差に対するPI演算を行うことにより、モータ3に印加すべき二相指示電圧Vγδ(γ軸指示電圧Vγおよびδ軸指示電圧Vδ)または二相指示電圧Vdq(d軸指示電圧Vおよびq軸指示電圧V)を生成する。具体的には、PI制御部33は、制御モードが第1モードであるときには二相指示電圧Vγδを生成し、制御モードが第2モードてあるときには二相指示電圧Vdqを生成する。PI制御部33によって生成された二相指示電圧VγδまたはVdqは、γδ/αβ(dq/αβ)変換部34Aに与えられる。
【0044】
γδ/αβ(dq/αβ)変換部34Aは、制御モードが第1モードであるときには二相指示電圧Vγδをαβ座標系の二相指示電圧Vαβに変換し、制御モードが第2モードであるときには二相指示電圧Vdqをαβ座標系の二相指示電圧Vαβに変換する。この座標変換には、角度切換部42で選択された変換角θが用いられる。二相指示電圧Vαβは、α軸指示電圧Vαおよびβ軸指示電圧Vβからなる。αβ/UVW変換部34Bは、二相指示電圧Vαβに対して座標変換演算を行うことによって、三相指示電圧VUVWを生成する。三相指示電圧VUVWは、U相指示電圧V、V相指示電圧VおよびW相指示電圧Vからなる。この三相指示電圧VUVWは、PWM制御部35に与えられる。
【0045】
PWM制御部35は、U相指示電圧V、V相指示電圧VおよびW相指示電圧Vにそれぞれ対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成し、駆動回路12に供給する。
駆動回路12は、U相、V相およびW相に対応した三相インバータ回路からなる。このインバータ回路を構成するパワー素子がPWM制御部35から与えられるPWM制御信号によって制御されることにより、三相指示電圧VUVWに相当する電圧がモータ3の各相のステータ巻線51,52、53に印加されることになる。
【0046】
電流偏差演算部30およびPI制御部33は、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって、モータ3に流れるモータ電流が、指示電流値切換部41によって選択された二相指示電流値Iγδまたは二相指示電流値Idqに近づくように制御される。
図3は、前記第1モードのときの前記電動パワーステアリング装置の制御ブロック図である。ただし、説明を簡単にするために、加算角リミッタ24の機能は省略してある。
【0047】
指示操舵トルクTと検出操舵トルクTとの偏差(トルク偏差)ΔTに対するPI制御(Kは比例係数、Kは積分係数、1/sは積分演算子である。)によって、加算角αが生成される。この加算角αが制御角θの前回値θ(n-1)に対して加算されることによって、制御角θの今回値θ(n)=θ(n-1)+αが求められる。このとき、制御角θとロータ50の実際のロータ角θとの偏差が負荷角θ=θ−θとなる。
【0048】
したがって、制御角θに従うγδ座標系(仮想回転座標系)のγ軸(仮想軸)にγ軸指示電流値Iγに従ってγ軸電流Iγが供給されると、q軸電流I=Iγsinθとなる。このq軸電流Iがロータ50の発生トルクに寄与する。すなわち、モータ3のトルク定数Kをq軸電流I(=Iγsinθ)に乗じた値が、アシストトルクT(=K・Iγsinθ)として、減速機構7を介して、舵取り機構2に伝達される。このアシストトルクTを舵取り機構2からの負荷トルクTから減じた値が、運転者がステアリングホイール10に与えるべき操舵トルクTである。この操舵トルクTがフィードバックされることによって、この操舵トルクTを指示操舵トルクTに導くように系が動作する。つまり、検出操舵トルクTを指示操舵トルクTに一致させるべく、加算角αが求められ、それに応じて制御角θが制御される。
【0049】
このように制御上の仮想軸であるγ軸に電流を流す一方で、指示操舵トルクTと検出操舵トルクTとの偏差ΔTに応じて求められる加算角αで制御角θを更新していくことにより、負荷角θが変化し、この負荷角θに応じたトルクがモータ3から発生するようになっている。これにより、操舵角および車速に基づいて設定される指示操舵トルクTに応じたトルクをモータ3から発生させることができるので、操舵角および車速に対応した適切な操舵補助力を舵取り機構2に与えることができる。すなわち、操舵角の絶対値が大きいほど操舵トルクが大きく、かつ、車速が大きいほど操舵トルクが小さくなるように、操舵補助制御が実行される。
【0050】
このように、前記第1モードにおいて、回転角センサを用いることなくモータ3を適切に制御して、適切な操舵補助を行うことができる。
一方、前記第2モードにおいては、検出操舵トルクTおよび車速に応じた二相指示電流値Idqが設定され、モータ3の電流が当該二相指示電流値Idqに収束するようにフィードバック制御が行なわれる。そして、レゾルバ8の出力信号に基づいてロータ50の回転角θが求められ、この回転角θを用いて、γδ/αβ(dq/αβ)変換部34Aおよびαβ/γδ(αβ/dq)変換部36Bにおける座標変換が行なわれることになる。つまり、第2モードでは、回転角センサであるレゾルバ8を用いてモータ3が制御されることにより、適切な操舵補助が行なわれる。
【0051】
前記第1モードにおいて有効化される構成部分によって第1制御手段(負荷角制御手段)が構成され、前記第2モードにおいて有効化される構成部分によって第2制御手段が構成されている。第1制御手段は、指示操舵トルク設定部21、操舵トルクリミッタ20、トルク偏差演算部22、PI制御部23、加算角リミッタ24、制御角演算部26、第1指示電流値生成部31、電流偏差演算部30、PI制御部33、γδ/αβ(dq/αβ)変換部34A、αβ/UVW変換部34B、PWM制御部35、UVW/αβ変換部36A、αβ/γδ(αβ/dq)変換部36Bおよびマップ作成・更新部39によって構成されている。また、第2制御手段は、回転角演算部27、操舵トルクリミッタ20、第2指示電流値生成部32、電流偏差演算部30、PI制御部33、γδ/αβ(dq/αβ)変換部34A、αβ/UVW変換部34B、PWM制御部35、UVW/αβ変換部36Aおよびαβ/γδ(αβ/dq)変換部36Bによって構成されている。すなわち、第1および第2制御手段は、操舵トルクリミッタ20、電流偏差演算部30、PI制御部33、γδ/αβ(dq/αβ)変換部34A、αβ/UVW変換部34B、PWM制御部35、UVW/αβ変換部36Aおよびαβ/γδ(αβ/dq)変換部36Bを共有している。
【0052】
図7は、加算角リミッタ24の働きを説明するためのフローチャートである。加算角リミッタ24は、PI制御部23によって求められた加算角αを上限値ULと比較し(ステップS1)、加算角αが上限値ULを超えている場合(ステップS1:YES)には、上限値ULを加算角αに代入する(ステップS2)。したがって、制御角θに対して上限値UL(=+ωmax)が加算されることになる。
【0053】
PI制御部23によって求められた加算角αが上限値UL以下であれば(ステップS1:NO)、加算角リミッタ24は、さらに、その加算角αを下限値LLと比較する(ステップS3)。そして、その加算角αが下限値未満であれば(ステップS3:YES)、下限値LLを加算角αに代入する(ステップS4)。したがって、制御角θに対して下限値LL(=−ωmax)が加算されることになる。
【0054】
PI制御部23によって求められた加算角αが下限値LL以上上限値UL以下(ステップS3:NO)であれば、その加算角αがそのまま制御角θへの加算のために用いられる。
このようにして、加算角αを上限値ULと下限値LLとの間に制限することができるので、制御の安定化を図ることができる。より具体的には、電流不足時や制御開始時に制御不安定状態(アシスト力が不安定な状態)が発生しても、この状態から安定な制御状態への遷移を促すことができる。
【0055】
以下、マップ作成・更新部39と第1指示電流値生成部31とについて、詳しく説明する。マップ作成・更新部39は、第2指示電流値生成部32に保持されている車種別のトルク対アシストマップのうちから、当該車種に応じたトルク対アシストマップがユーザ等によって選択されたときには、選択されたトルク対アシストマップに基づいて、車速に対するγ軸指示電流値Iγの上限値の関係を記憶した車速対上限値マップを作成する。作成された車速対上限値マップは、第1指示電流値生成部31に与えられ、第1指示電流値生成部31に保持される。
【0056】
また、マップ作成・更新部39は、現在選択されているトルク対アシストマップが変更された場合には、変更後のトルク対アシストマップに基づいて、車速に対するγ軸指示電流値Iγの上限値の関係を記憶した車速対上限値マップを作成する。そして、作成した車速対上限値マップに基づいて、第1指示電流値生成部31に保持されている車速対上限値マップを更新する。
【0057】
図8は、マップ作成・更新部39による車速対上限値マップの作成処理の手順を示すフローチャートである。
車速対上限値マップを作成する元となるトルク対アシストマップが、図6に示されるようなトルク対アシスト特性に対応するトルク対アシストマップであるものとする。
マップ作成・更新部39は、まず、車速を表す変数vを複数種類の車速のうちの1つの車速v0に設定する(ステップS11)。そして、車速対上限値マップを作成する元となる車速対上限値マップで表されるトルク対アシスト特性に基づいて、変数vによって表される車速(図8の説明においては、「車速v」ということにする。)に対応する最大負荷トルクc(v)を求める(ステップS12)。車速vに対応する最大負荷トルクc(v)は、図6に示すように、車速vに対応するトルク対アシスト特性における、所定の操舵トルクaとそれに対応する目標アシストトルクb(v)との和を演算することにより、求められる。つまりc(v)=a+b(v)となる。ここで、所定の操舵トルクaは、たとえば、5Nm以上の所定値(たとえば、6Nm)に設定される。なお、車速別の最大負荷トルクc(v)は、車速vが大きいほど小さくなる。
【0058】
次に、マップ作成・更新部39は、ステップS12で求められた車速vに対応する最大負荷トルクc(v)とモータ3のトルク定数Kとを用い、次式(6)に基づいて、車速vに対応する最大負荷トルクc(v)をモータ3に発生させるためのγ軸電流値(以下、最大負荷トルク対応電流値d(v)」という)を求める(ステップS13)。
d(v)=c(v)/K …(6)
この後、マップ作成・更新部39は、ステップS13で求められた車速vに対応する最大負荷トルク対応電流値d(v)と加算角リミッタ24の制限値ωmaxと用い、次式(7)に基づいて、車速vに対応する上限値ξmax(v)(γ軸指示電流値Iγの上限値)を求める(ステップS14)。
【0059】
ξmax(v)=d(v)÷sin(90°−ωmax) …(7)
式(7)に基づいて上限値ξmax(v)を求めている理由について説明する。図9の曲線S1は、γ軸電流Iγが最大負荷トルク対応電流値d(v)である場合の、負荷角θとq軸電流Iとの関係を示している。図2を用いて説明したように、q軸電流Iは、負荷角θとγ軸電流Iγを用いて、I=Iγsinθ(θ=θ−θ)で与えられる。したがって、γ軸電流Iγが最大負荷トルク対応電流値d(v)である場合の、負荷角θに対するq軸電流Iの変化は、図9にS1で示すような曲線(サインカーブ)となる。なお、アシストトルクTは、モータ3のトルク定数Kをq軸電流Iに乗じた値となる。したがって、負荷角θに対するアシストトルクTの変化も、曲線S1と同様なサインカーブとなる。
【0060】
q軸電流I(アシストトルクT)は、−90°≦θ≦90°の区間Q1では単調増加となり、90°<θ<270°の区間Q2では単調減少となる。この実施形態では、負荷角θとアシストトルク(モータトルク)とが正の相関を有する区間Q1の領域で負荷角θが調整されるように、加算角αが制御されるものとする。
γ軸電流Iγが最大負荷トルク対応電流値d(v)である場合(負荷角θに対するq軸電流Iの変化が曲線S1で表される場合)において、負荷角θが90°を超えると、アシストトルクが適値に収束するのに時間がかかる。そこで、この実施形態では、負荷角θが90°を超えない範囲で、負荷角θが制御されるようにする。つまり、負荷角θが(90°−ωmax)のときに、q軸電流Iが最大負荷トルク対応電流値d(v)となるように、γ軸電流Iγの上限値ξmax(v)を決定する。具体的には、負荷角θに対するq軸電流Iの変化が、図9にS2で示される曲線となるように、γ軸電流Iγの上限値ξmax(v)を決定する。
【0061】
このためには、次式(8)が成り立つように、γ軸電流Iγの上限値ξmaxを決定すればよい。
d(v)=ξmax(v)×sin(90°−ωmax) …(8)
この式(8)を変形することにより、前記式(7)が得られる。
このようにして上限値ξmax(v)を決定すると、γ軸電流Iγが上限値ξmax(v)である場合には、負荷角θが、−90°よりωmaxだけ大きい(−90°+ωmax)であるとき、または90°よりωmaxだけ小さい(90°−ωmax)であるときに、最大負荷トルクに応じた大きさのアシストトルクTをモータ3から発生させることができるようになる。したがって、原則的には、(−90°+ωmax)≦θ≦(90°−ωmax)の範囲で負荷角θが制御されるようになる。そして、負荷角θがこの範囲内にある場合において、アシストトルク不足により、負荷角θが加算角リミッタ24の制限値ωmax(加算角αの最大値)分だけ変動したとしても、負荷角θは−90°≦θ≦90°の範囲内に収まる。このため、負荷角θを好ましい範囲内で制御することができる。
【0062】
なお、負荷角θとアシストトルク(モータトルク)とが負の相関を有する区間Q2の領域で負荷角θが調整されるように、加算角αが制御される場合には、負荷角θが270°を超えると、アシストトルクが適値に収束するのに時間がかかる。そこで、次式(9)が成り立つように、γ軸電流Iγの上限値ξmaxを決定すればよい。
−d(v)=ξmax(v)×sin(270°−ωmax)…(9)
式(9)を変形すると、前記式(8)が得られる。したがって、この場合にも、前記式(7)に基づいて、車速vに対応する上限値ξmax(v)を求めることができる。
【0063】
図8に戻り、前記ステップS14において、車速vに応じた上限値ξmax(v)が求められると、マップ作成・更新部39は、全ての車速vに対する上限値ξmax(v)が求められたか否かを判別する(ステップS15)。全ての車速vに対する上限値ξmax(v)が求められてない場合には(ステップS15:NO)、車速vを未だ選択されていない車速に更新した後(ステップS16)、ステップS12に戻る。そして、ステップS12〜S14の処理が再度実行されることにより、更新後の車速vに応じた上限値ξmax(v)が求められる。
【0064】
このような処理が繰り返されることにより、全ての車速vに対する上限値ξmax(v)が求められる。つまり、車速対上限値マップが作成される。このようにして、車速対上限値マップが作成されると、ステップS15でYESとなるので、今回の車速対上限値マップの作成処理を終了する。
図10は、車速対上限値マップによって表される車速に対する上限値ξmaxの特性(以下、「車速対上限値特性」という)の一例を示している。図10に示される車速対上限値特性では、上限値ξmaxは車速が大きくなるほど小さくなる(図10の例では非線形に小さくなる)。
【0065】
図11は、第1指示電流値生成部31の構成を示すブロック図である。
第1指示電流値生成部30は、指示電流増減量演算部61と、加算器62と、上下限リミッタ63と、上限値設定部64とを含んでいる。指示電流増減量演算部61は、所定の演算周期毎に、指示操舵トルクTと検出操舵トルクTに基づいて、指示電流値Iγに対する電流増減量ΔIγを演算する。具体的には、指示電流増減量演算部61は、指示操舵トルクTの符号と、指示操舵トルクTと検出操舵トルクTとの偏差ΔT(=T−T)とに基づいて、電流増減量ΔIγを演算する。
【0066】
指示操舵トルクTの符号が正(T≧0)である場合の、トルク偏差ΔTに対する電流増減量ΔIγの設定例は、図12Aに示されている。トルク偏差ΔTが所定値−A(A>0)以上でかつ所定値+A以下の範囲では、電流増減量ΔIγは零に設定される。そして、トルク偏差ΔTが所定値−Aより小さくなるに従って、その値が零より小さくなるように(図12Aの例では線形に小さくなるように)電流増減量ΔIγが設定される。また、トルク偏差ΔTが所定値+Aより大きくなるに従って、その値が零より大きくなるように(図12Aの例では線形に大きくなるように)電流増減量ΔIγが設定される。
【0067】
指示操舵トルクTの符号が正(T≧0)である場合において、トルク偏差ΔT(=T−T)が零以上である場合とは、検出操舵トルクTの絶対値が指示操舵トルクTの絶対値よりも大きく、従ってモータトルク(アシストトルク)が不足している場合である。そこで、トルク偏差ΔTが所定値+Aより大きい場合には、アシストトルク不足を補うように、電流増減量ΔIγが正の値にされている。この場合、トルク偏差ΔTの絶対値が大きいほど、電流増減量ΔIγの絶対値も大きくなる(絶対値の大きな正の値となる)。
【0068】
一方、トルク偏差ΔT(=T−T)が零より小さい場合とは、検出操舵トルクTの絶対値が指示操舵トルクTの絶対値よりも小さく、従ってモータトルク(アシストトルク)が過剰となっている場合である。そこで、トルク偏差ΔTが所定値−A未満の場合には、アシストトルクを低減させるために、電流増減量ΔIγが負の値にされている。この場合、トルク偏差ΔTの絶対値が大きいほど、電流増減量ΔIγの絶対値も大きくなる(絶対値の大きな負の値となる)。
【0069】
指示操舵トルクTの符号が負(T<0)である場合の、トルク偏差ΔTに対する電流増減量ΔIγの設定例は、図12Bに示されている。トルク偏差ΔTが所定値−A以上でかつ所定値+A以下の範囲では、電流増減量ΔIγは零に設定される。そして、トルク偏差ΔTが所定値−Aより小さくなるに従って、その値が零より大きくなるように(図12Bの例では線形に大きくなるように)電流増減量ΔIγが設定される。また、トルク偏差ΔTが所定値+Aより大きくなるに従って、その値が零より小さくなるように(図12Bの例では線形に小さくなるように)電流増減量ΔIγが設定される。
【0070】
指示操舵トルクTの符号が負(T<0)である場合において、トルク偏差ΔT(=T−T)が零以上である場合とは、検出操舵トルクTの絶対値が指示操舵トルクTの絶対値よりも小さく、従ってモータトルク(アシストトルク)が過剰となっている場合である。そこで、トルク偏差ΔTが所定値+Aより大きい場合には、アシストトルクを低減させるために、電流増減量ΔIγが負の値にされている。この場合、トルク偏差ΔTの絶対値が大きいほど、電流増減量ΔIγの絶対値も大きくなる(絶対値の大きな負の値となる)。
【0071】
一方、トルク偏差ΔT(=T−T)が零より小さい場合とは、検出操舵トルクTの絶対値が指示操舵トルクTの絶対値よりも大きく、従ってモータトルク(アシストトルク)が不足している場合である。そこで、トルク偏差ΔTが所定値−A未満である場合には、アシストトルク不足を補うように、電流増減量ΔIγが正の値にされている。この場合、トルク偏差ΔTの絶対値が大きいほど、電流増減量ΔIγの絶対値も大きくなる(絶対値の大きな正の値となる)。
【0072】
指示電流増減量演算部61によって演算された電流増減量ΔIγは、加算器62において、指示電流値Iγの前回値Iγ(n-1)(nは今演算周期の番号)に加算される(Z−1は信号の前回値を表す)。これにより、今演算周期での指示電流値Iγが演算される。つまり、指示電流増減量演算部61および加算器62は、指示電流値Iγを演算するための指示電流値演算手段である。ただし、指示電流値Iγの初期値は予め定められた値(例えば零)である。加算器62によって得られた指示電流値Iγは、上下限リミッタ63に与えられる。上下限リミッタ63は、加算器62によって得られた指示電流値Iγを、下限値ξmin(ξmin≧0)と上限値ξmax(ξmax>ξmin)との間の値に制限する。下限値ξminは予め設定される。下限値ξminは、たとえば零に設定される。一方、上限値ξmaxは、上限値設定部64によって設定される。
【0073】
加算器62によって得られた指示電流値Iγが、下限値ξmin以上でかつ上限値ξmax以下であるときには、上下限リミッタ63は、当該指示電流値Iγをそのまま出力する。加算器62によって得られた指示電流値Iγが下限値ξminより小さいときには、上下限リミッタ63は、下限値ξminを今演算周期の指示電流値Iγとして出力する。加算器62によって得られた指示電流値Iγが上限値ξmaxより大きいときには、上下限リミッタ63は、上限値ξmaxを今演算周期の指示電流値Iγとして出力する。
【0074】
上限値設定値64は、マップ作成・更新部39によって設定された車速対上限値マップと、車速センサ6によって検出された車速とに基づいて、上限値ξmaxを設定する。具体的には、上限値設定値64は、前記所定の演算周期毎に、車速センサ6によって検出された車速を取得する。そして、上限値設定値64は、マップ作成・更新部39によって設定された車速対上限値マップから車速に対応する上限値ξmaxを求め、得られた上限値ξmaxを上限値リミッタ63に設定する。
【0075】
図13は、第1指示電流値生成部の変形例を示すブロック図である。図13において、図11に示された各部に対応する部分には、図11と同じ参照符号を付して示す。この第1指示電流値生成部31Aでは、上限値設定部64Aの動作が図11の上限値設定部64と異なっている。また、第1指示電流値生成部31Aが採用される場合には、図1のマップ作成更新部39は、不要である。
【0076】
上限値設定部64Aには、図1に破線または図13に示されているように、第2指示電流値生成部32に保持されている車種別のトルク対アシストマップのうち、ユーザ等によって選択されたトルク対アシストマップが、第2指示電流値生成部32によって設定されている。第2指示電流値生成部32は、現在選択されているトルク対アシストマップが変更されたときには、上限値設定部64Aに設定されているトルク対アシストマップを、変更後のトルク対アシストマップを用いて更新する。
【0077】
上限値設定部64Aは、第2指示電流値生成部32によって設定または更新されたトルク対アシストマップを保持している。上限値設定部64Aは、保持しているトルク対アシストマップと、車速センサ6によって検出された車速とに基づいて上限値ξmaxを求め、得られた上限値ξmaxを上下限リミッタ63に設定する。
図14は、上限値設定部64Aによる上限値演算処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、所定の演算周期毎に実行される。
【0078】
上限値設定部64Aは、車速センサ6によって検出されている車速を取得する(ステップS21)。図14の説明においては、取得した車速を「車速v」ということにする。次に、保持しているトルク対アシストマップのうち、ステップS21で取得した車速vに対応するトルク対アシストマップ(アシスト特性)に基づいて、車速vに対応する最大負荷トルクc(v)を求める(ステップS22)。車速vに対応する最大負荷トルクc(v)は、車速vに対応するトルク対アシストマップにおける、所定の操舵トルクaとそれに対応する目標アシストトルクb(v)との和を演算することにより、求められる。ここで、所定の操舵トルクaは、たとえば、5Nm以上の所定値(たとえば、6Nm)に設定される。
【0079】
次に、上限値設定部64Aは、ステップS22で求められた車速vに対応する最大負荷トルクc(v)とモータ3のトルク定数Kとを用い、次式(10)に基づいて、車速vに対応する最大負荷トルクc(v)をモータ3に発生させるためのγ軸電流値(最大負荷トルク対応電流値d(v))を求める(ステップS23)。
d(v)=c(v)/K …(10)
この後、上限値設定部64Aは、ステップS23で求められた車速vに対応する最大負荷トルク対応電流値d(v)と加算角リミッタ24の制限値ωmaxと用い、次式(11)に基づいて、車速vに対応する上限値ξmax(v)(γ軸指示電流値Iγの上限値)を求める(ステップS24)。
【0080】
ξmax(v)=d(v)÷sin(90°−ωmax) …(11)
上述した実施形態および変形例では、車速に応じて指示電流値Iγの上限値ξmaxが設定されるので、指示電流値Iγの上限値を適切な値に設定することが可能となる。これにより、電力効率の向上化および制御の安定化を図ることができるようになる。
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、車速vに対応する最大負荷トルクc(v)は、車速vに対応するトルク対アシストマップにおける、所定の操舵トルクaとそれに対応する目標アシストトルクb(v)との和を演算することによって求められている。しかし、車速vに対応する最大負荷トルクc(v)を、別の方法、たとえば、車両の緒元から求めるようにしてもよい。
【0081】
さらに、前述の実施形態では、電動パワーステアリング装置にこの発明が適用された例について説明したが、この発明は、電動ポンプ式油圧パワーステアリング装置のためのモータの制御や、パワーステアリング装置以外にも、ステア・バイ・ワイヤ(SBW)システム、可変ギヤレシオ(VGR)ステアリングシステムその他の車両用操舵装置に備えられたブラシレスモータの制御のために用いることができる。
【0082】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1…トルクセンサ、3…モータ、5…モータ制御装置、11…マイクロコンピュータ、23…PI制御部、26…制御角演算部、50…ロータ、51,52,53…ステータ巻線、55…ステータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14