特許第5692666号(P5692666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5692666
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】再生熱可塑性樹脂組成物の製造法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/04 20060101AFI20150312BHJP
   B29B 17/04 20060101ALI20150312BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20150312BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20150312BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C08J11/04CEZ
   B29B17/04ZAB
   C08J3/20 BCES
   C08L101/00
   C08K3/34
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-229704(P2013-229704)
(22)【出願日】2013年11月5日
【審査請求日】2014年2月17日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】喜多 康夫
(72)【発明者】
【氏名】北代 運
(72)【発明者】
【氏名】西川 宣夫
【審査官】 増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−006637(JP,A)
【文献】 特開2000−007792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/04
B29B 17/04
C08J 3/20
C08K 3/34
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜25質量%の範囲の量にて含有される無機材料フィラーの90質量%以上がタルクであることが既知であるポリプロピレン樹脂組成物の成形体廃棄品の粉砕物を原料として、予め決められた物性値そして該ポリプロピレン樹脂組成物の成形体廃棄品から製造した成形体に比べて高い曲げ弾性率と高い荷重たわみ温度を示すポリプロピレン樹脂組成物成形体を製造するための再生ポリプロピレン樹脂組成物を製造する方法であって、下記の工程を含む方法:
5〜25質量%の範囲の量にて含有される無機材料フィラーの90質量%以上がタルクであることが既知であるポリプロピレン樹脂組成物の成形体廃棄品の粉砕物を入手する工程;
上記粉砕物に含まれる無機材料フィラーの量を測定する工程;
上記粉砕物もしくはその溶融物にタルクを添加して、添加したタルクを含む無機材料フィラーの量を別に定めた量にて含有する混合物を調製する工程、ただし、添加するタルクの量は、それと前記の無機材料フィラーの測定量との合計量が、別に作製した、上記再生ポリプロピレン樹脂とタルクとの混合物から製造されるポリプロピレン樹脂組成物成形体の物性値と混合物中のタルク量との相関関係を示すデータに基づいて上記の予め決められた物性値を示すポリプロピレン樹脂組成物成形体が得られるように決定したタルク量とする;そして、
上記混合物を加熱溶融することにより、目的の再生ポリプロピレン樹脂組成物を溶融物として得る工程。
【請求項2】
最後の工程で得られた再生ポリプロピレン樹脂組成物の溶融物を粒状物とする工程をさらに含む請求項1に記載の再生ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
粉砕物の無機材料フィラー量を測定する工程を、粉砕物の燃焼により生成する灰分の秤量を介する方法、あるいは上記成形体廃棄品もしくは粉砕物の比重を測定する操作を介する方法により行う請求項1に記載の再生ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の内のいずれかの項に記載の製造方法で製造された再生ポリプロピレン樹脂組成物の加熱溶融を介してポリプロピレン樹脂組成物成形体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タルクを主成分とする無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物成形体の廃棄品の粉砕物を原料として熱可塑性樹脂組成物成形体製造用の再生熱可塑性樹脂組成物を製造する方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、タルクを主成分とする無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物成形体の廃棄品の粉砕物から所望の物性値を示す熱可塑性樹脂組成物成形体の製造に用いることのできる再生熱可塑性樹脂組成物を効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種樹脂成形体の製造のために用いる樹脂組成物の多くは、ポリプロピレンを代表例とするポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂(熱可塑性合成樹脂)に、必要に応じてエラストマー、無機材料フィラー(例、タルク、あるいはシリカ、マイカ、クレー、炭酸カルシウム)、有機材料フィラー(例、パルプ粉、合成樹脂粉)、顔料及び/又は各種の添加剤(例、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤)などの各種の配合材料を添加して調製した熱可塑性樹脂組成物である。そして、そのようにして調製された熱可塑性樹脂組成物は、加熱溶融されたのち所望の形状の成形体とされ、自動車内装部品、自動車外装部品、包装容器、家庭用電気製品の筐体、事務用品、家庭用日用品などの各種の用途に用いられる。
【0003】
近年、各種樹脂材料の再利用の要求が高まり、熱可塑性樹脂組成物成形体の廃棄品(廃材)についても、その再利用(すなわち、熱可塑性樹脂組成物成形体廃材の再資源化)の研究が進んでいる。しかしながら、前述のように、熱可塑性樹脂組成物は、その成形体への変換の際に加熱溶融工程を経るため、再資源化された熱可塑性樹脂組成物は、未使用の熱可塑性樹脂(いわゆるバージン材)に各種配合材料を配合して調製した熱可塑性樹脂組成物に比べて各種の物性の低下が起こりやすい。従って、熱可塑性樹脂組成物成形体の廃棄品の再資源化により得られた再生樹脂組成物をそのまま成形体としても、熱可塑性樹脂としてバージン材を用いて調製した熱可塑性樹脂組成物(バージン熱可塑性樹脂組成物)の使用を前提として定められた各種物性の規格を満たす成形体とすることが難しい。このため、再生樹脂組成物に、熱可塑性樹脂のバージン材、エラストマー、フィラー、及び/又は各種の添加剤を追加して、再生熱可塑性樹脂組成物の成分調整を行うことにより、再生樹脂組成物を主原料としながらも、熱可塑性樹脂としてバージン熱可塑性樹脂の使用を前提として定められた各種物性の規格を満たす成形体の製造を可能とする再生熱可塑性樹脂組成物を製造する試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、市場より回収された熱可塑性樹脂を含む回収材料を、粉砕し、次いで押し出し機を用いてペレット化を行う再生プラスチック材料の製造において、未使用の熱可塑性樹脂を80質量%以内の量にて添加することの記載がある。
【0005】
特許文献2には、熱可塑性樹脂を含む写真感光材料のリサイクルに際して、リサイクル工程で発生する熱可塑性樹脂の熱劣化あるいは変質を防ぐために、酸化防止剤とカーボンブラックを添加することの記載がある。
【0006】
特許文献3には、黒色顔料あるいは有彩色顔料を含有する熱可塑性樹脂組成物製品の再利用に際して、光遮蔽効果を持つ白色顔料と色調を整える有彩色顔料とを、再利用対象の熱可塑性樹脂組成物製品の粉砕物100質量部に対して、それぞれ0.01〜20質量部となる量にて添加して再生樹脂組成物とすることにより、実用的に問題のない色に着色された樹脂成形体の製造を可能とする再生熱可塑性樹脂組成物を得ることができる旨の記載がある。この文献にはさらに、再生熱可塑性樹脂組成物の製造に際して、さらに、黒色顔料、無機材料フィラー、熱可塑性樹脂、あるいはエラストマーを添加することができることの記載がある。ここで、熱可塑性樹脂の添加量の範囲としては、0〜99質量%、エラストマーの添加量の範囲としては、0〜40質量%、そしてフィラーの添加量の範囲としては、0〜50質量%の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−254024号公報
【特許文献2】特開2002−139819号公報
【特許文献3】WO2003/095531公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、熱可塑性樹脂組成物成形体(成形体製品)の廃棄品の再利用に際しては、再生対象となる成形体製品を粉砕し、これに熱可塑性樹脂、エラストマー、フィラー、顔料などを添加して再生熱可塑性樹脂組成物とすることにより、再生熱可塑性樹脂組成物から製造される成形体の物性を高め、バージン材を熱可塑性樹脂として用いて製造した成形体の物性に遜色のない物性の成形体が得られるようにする技術が、これまでに提案されている。すなわち、熱可塑性樹脂組成物成形体製品の廃材中の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の成形工程において加熱されるため熱劣化が発生しており、さらに実際に様々な環境下で少なくない期間使用された成形体製品に含まれる熱可塑性樹脂やエラストマーは一般に、種々の物性に関して劣化が発生している。さらに、再利用の対象となる熱可塑性樹脂組成物成形体製品を再生処理するに際して、その原料となる成形体製品は、種類、劣化の程度などが互いに異なる種々の成形体製品の混合物となることが一般的である。
【0009】
しかしながら、これまでに知られている熱可塑性樹脂組成物成形体製品の廃棄品の再生技術は、そのような種類、劣化の程度などが互いに異なる種々の熱可塑性樹脂組成物成形体製品の混合物を再生原料として用いることを想定していることは少なく、従って、再生技術としてこれまでに知られている方法は、単に、再利用対象の熱可塑性樹脂組成物成形体製品の粉砕物に熱可塑性樹脂などの追加成分を一定量加えることによって、当該粉砕物の成分組成を調整し、そしてこのように成分組成が調整された再生熱可塑性樹脂組成物を用いて加熱成形して得られた成形体の改良された物性を明らかにするものであった。
【0010】
以上に述べた理由から、熱可塑性樹脂組成物成形体製品の廃棄品の再利用に際しては、添加すべき成分の添加量については、従来技術により明らかにされている極めて広い添加量範囲を参考にして、試行錯誤的な実験を行うことによって、所望の物性値を示す成形体を製造することのできる再生熱可塑性樹脂組成物とするための添加量を決定するという、効率において劣る方法しか知られていなかった。特に、熱可塑性樹脂組成物の成分組成が不明の成形体製品、特にそのような成形体製品の混合物から、所望の物性を示す成形体製品の製造を可能とする再生熱可塑性樹脂組成物を得るための添加成分の選択と好適な添加量の決定には、効率の悪い試行錯誤的な繰り返しが必要であった。
【0011】
なお、所望の物性を示す成形体製品の製造を可能とする再生熱可塑性樹脂組成物を得るために、再生熱可塑性樹脂組成物に、熱可塑性樹脂としてバージン材を用いた熱可塑性樹脂組成物の組成を参考にして成分調整して得たバージン材含有熱可塑性樹脂組成物を配合することによる方法を利用することも可能であるが、この方法は、熱可塑性樹脂組成物成形体製品の廃棄品の再利用との目的を考慮すると、充分満足できる方法ということはできない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者は、上記課題の解決を目的として研究を行った結果、大部分の熱可塑性樹脂組成物成形体製品には、フィラーとして、タルクあるいはタルクを主成分とする無機材料フィラーが、5〜30質量%、特には5〜25質量%含まれていること、再生熱可塑性樹脂組成物の加熱成形によって得られる成形体の諸物性の多くは、再生熱可塑性樹脂組成物に含まれるタルクあるいはタルクを主成分とする無機材料フィラーの総量(無機材料フィラー全体の質量)の調整により調節することができること、そして再生熱可塑性樹脂組成物に含まれる無機材料フィラーの総量の調整には、再利用対象の熱可塑性樹脂組成物成形体製品に含まれる無機材料フィラーの量を予め測定(あるいは確認)した上で、別に入手あるいは作製した「再生熱可塑性樹脂組成物のタルク含量と、当該再生熱可塑性樹脂組成物の加熱成形により得られる成形体の物性値との相関関係を示すデータ」を参考にして、再利用対象の熱可塑性樹脂組成物成形体製品の粉砕物に追加すべきタルク量を決定する方法を利用することによって、所望の物性値を示す成形体の製造に用いることが可能となる再生熱可塑性樹脂組成物が効率よく製造できることを見いだし、本発明に到達した。
【0013】
従って、本発明は、タルク量が90質量%以上の無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物の成形体廃棄品の粉砕物から熱可塑性樹脂組成物成形体製造用の再生熱可塑性樹脂組成物を製造する方法であって、下記の工程を含む方法を含む方法にある:
タルク量が90質量%以上の無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物の成形体廃棄品の粉砕物を用意する工程;
上記粉砕物に含まれる無機材料フィラーの量を測定する工程;
上記粉砕物もしくはその溶融物にタルクを添加して、無機材料フィラーを別に定めた量にて含有する混合物を調製する工程;そして、
上記混合物を加熱溶融することにより、無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物の溶融物を得る工程。
【0014】
本発明の再生熱可塑性樹脂組成物を製造する方法の好ましい態様を以下に記載する。
(1)上記の製造方法の最後の工程で得られた無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物の溶融物を粒状物とする工程をさらに含む。
(2)熱可塑性樹脂組成物の成形体廃棄品が含有する無機材料フィラーの量が5〜25質量%の範囲にある。
(3)成形体廃棄品の粉砕物が、タルク量が95質量%以上の無機材料フィラーを含有する。
(4)粉砕物の無機材料フィラー量を測定する工程を、粉砕物の燃焼により生成する灰分(燃焼残渣)の秤量を介する方法により行う。
(5)粉砕物の無機材料フィラー量を測定する工程を、上記成形体廃棄品もしくは粉砕物の比重(真比重)を測定する操作を介する方法により行う。
(6)上記混合物に含有させる無機材料フィラーの量を、再生熱可塑性樹脂組成物から製造する熱可塑性樹脂組成物成形体が所望の物性値を示すように別に作製した相関データに基づき定めた量とする。
【0015】
本発明はさらに、本発明の製造方法で製造された再生熱可塑性樹脂組成物の加熱溶融を介して熱可塑性樹脂組成物成形体を製造する方法も提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法により、熱可塑性樹脂組成物成形体製品の廃棄品から、所望の物性値を示す熱可塑性樹脂組成物成形体の製造に有効な再生熱可塑性樹脂組成物を効率良く、すなわち、少ない回数の試行錯誤的な確認作業によって、製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂組成物成形体製品の廃棄品(廃材)を原料として用いる。原料として用いる熱可塑性樹脂組成物成形体製品の廃棄品に特に制限はないが、例えば、各種電気製品の合成樹脂部材、自動車の合成樹脂製の内装部材や外装部材、オフィスで使用する各種合成樹脂部材(但し、合成樹脂部材は、熱可塑性樹脂組成物の成形により製造したもの)の廃棄品をあげることができる。また、熱可塑性樹脂組成物成形体の製造に際して欠陥品(あるいは不良品)として発生した成形体(いわゆる工程端材)も再利用の対象とすることができる。ここで熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に、タルクを主成分とする無機材料フィラーが配合された組成物であって、任意に、エラストマー、有機材料フィラー、顔料などの成分が添加されていてもよい。なお、本発明の再生熱可塑性樹脂組成物の原料として用いる熱可塑性樹脂組成物成形体製品の廃材は、タルク含量が90質量%以上(好ましくは95質量%以上)の無機材料フィラーを含むものである。
【0018】
熱可塑性樹脂についても特に限定はないが、代表的な熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(少量の低分子オレフィンが含まれていることが多い)、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィンをあげることができるが、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド、アセタール樹脂、ポリカーボネートであってもよい。
【0019】
本発明の再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法の実施に際しては、まず、タルク量が90質量%以上の無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物の成形体廃棄品の粉砕物を用意する。この成形体廃棄品の粉砕物は、自ら成形体廃棄品を回収し、これを粉砕して製造しても良く、あるいは成形体廃棄品粉砕物として入手してもよい。なお、粉砕物とされる成形体廃棄品は、同一の熱可塑性樹脂組成物の成形体の集合体であることが好ましいが、大部分が同一の熱可塑性樹脂を用いた成形体(熱可塑性樹脂に配合されている無機材料フィラーの量や組成については、無機材料フィラーの90質量%以上がタルクであれば、特に制限はない)の集合体(回収物)であれば、特に問題はない。
【0020】
熱可塑性樹脂組成物成形体の廃棄品の粉砕物のサイズについても特に制限はなく、従来の熱可塑性樹脂組成物成形体の廃棄品の再利用の際に用いられるサイズに準じたサイズが利用される。
【0021】
次に、熱可塑性樹脂組成物粉砕物に含まれる無機材料フィラーの量を測定する。この無機材料フィラーの量の測定方法についても特に限定はないが、通常は、粉砕物の一部を採取して粉砕物試料を得た上で、この粉砕物試料の質量を測定した上で、粉砕物試料を加熱燃焼させることにより、熱可塑性樹脂成分やエラストマー成分などの可燃性成分を除去させて不燃成分(燃焼残渣、灰分)を得て、その質量を測定し、これらの作業により得られた粉砕物試料の質量と燃焼残渣の質量(無機材料フィラーの質量として近似することができる)とから、熱可塑性樹脂組成物粉砕物中の無機材料フィラーの量を確認することができる。
【0022】
熱可塑性樹脂組成物粉砕物に含まれる無機材料フィラーの量はまた、熱可塑性樹脂組成物粉砕物の比重(粉砕物を溶融して一定の体積の固形物とした後、この固形物の体積と質量から得られる比重、真比重)の測定値、熱可塑性樹脂の比重、そして無機材料フィラーの比重(主成分のタルクの比重として近似できる)から下記の計算式を利用して算出することもできる。
1/粉砕物の真比重=(熱可塑性樹脂量/熱可塑性樹脂比重)+(タルク量/タルク比重)。ただし、熱可塑性樹脂量+タルク量=1とする。
【0023】
次に、上記粉砕物もしくはその溶融物にタルクを添加して、無機材料フィラーを別に定めた量にて含有する混合物を調製する。添加するタルクは、そのサイズ(個数平均粒子径)が1〜10μm(特に2〜7μm)の範囲にあることが好ましい。タルクの添加量は、混合物中におけるタルクを含む無機材料フィラーの合計量が別に定めた量となるような量である。ここで、「別に定めた量」とは、例えば、同一もしくは類似の熱可塑性樹脂(バージン材、あるいは再生熱可塑性樹脂)とタルクを主成分とする無機材料フィラーとを主材料とする熱可塑性樹脂組成物に含まれるタルク量と当該熱可塑性樹脂組成物に加熱成形により得られた成形体の物性値との間の相関関係、そして再生熱可塑性樹脂組成物を用いて製造される成形体(製造目的の成形体)について望まれる各種物性値を参照して定められるタルク量であり、通常は、5〜50質量%の範囲にある。このような方法を利用することにより、望まれた各種物性値を示す成形体の製造を可能にする再生熱可塑性樹脂組成物を、容易にあるいは少ない試行錯誤を介することにより製造することが可能となる。
【0024】
なお、タルクは、上記粉砕物に添加してもよく、あるいは上記粉砕物の加熱溶融の過程で添加してもよいことは勿論である。また、タルクの添加は分割して実施してもよい。
【0025】
上記粉砕物には、タルク以外にも、追加の熱可塑性樹脂、エラストマー、顔料や他の添加剤を加えることもできる。
【0026】
本発明の製造方法により製造された再生熱可塑性樹脂組成物は、溶融状態のまま成形体の製造に利用することができるが、溶融物をペレット等の粒状物に変換した後に成形体の製造に利用することもできる。
【0027】
本発明の製造方法により製造された再生熱可塑性樹脂組成物は、その溶融状態から、あるいは一旦粒状物に変換した後、射出成形、押出成形、カレンダ成形、積層成形などの公知の成形加工方法を利用して成形物とすることができる。
【実施例】
【0028】
[比較例1]
再利用対象の熱可塑性樹脂組成物成形体製品廃棄品として、自動車内装部材回収品(熱可塑性樹脂としてポリプロピレンが使われ、含有されている無機材料フィラーが実質的にタルクのみである廃棄品試料)を選び、この廃棄品試料を粉砕した粉砕物について、その無機材料フィラー(タルク)含有量を測定した。また、この廃棄品試料粉砕物の射出成形により成形体試料を製造し、その成形体試料の各種物性値をJISに規定された方法により測定した。また、廃棄品試料粉砕物のメルトフローレート(MFR)も測定した。
【0029】
なお、廃棄品試料粉砕物中の無機材料フィラー量の測定は以下に記載の方法により行った。
るつぼを予め秤量し、ついで試料粉砕物約10gを収容し、試料粉砕物が収容されたるつぼを秤量して、その差から、るつぼに収容した試料粉砕物の質量を決定する。その後、このるつぼを電熱ヒータにて加熱して、試料粉砕物を予備燃焼させ、次いで、るつぼを電気炉に入れ、600℃にて90分間加熱して、内容物を灰化する。次に、るつぼを電気炉から取り出し、デシケータに入れて室温で1時間保存したのち、るつぼを秤量し、灰化物の質量を算出する。これらの作業により得られた灰化対象とした試料粉砕物の質量と灰化物の質量とから試料粉砕物中の無機材料フィラー(タルク)の含有量を決定する。
【0030】
廃棄品試料粉砕物中の無機材料フィラーの量、そして廃棄品試料粉砕物のメルトフローレート(MFR)、そして廃棄品試料粉砕物の射出成形により得られた成形体試料の各種物性値を第1表に示す。
【0031】
[実施例1]
予め同種の再生ポリプロピレン樹脂にタルクを添加量を変えて製造して成形体の各種物性とタルクの含有量との関係から作製した相関データ、そして本実施例で製造する成形体の各種物性の目標値を参照して、比較例1で調製した廃棄品試料粉砕物にタルク(平均粒子径:5.5μm)を16質量%添加して、タルク含有量が30質量%の混合物を得た。
この混合物について、比較例1と同様にして、メルトフローレート(MFR)を測定し、次いで、この混合物を射出成形して成形体試料を得た。このメルトフローレート、そして成形体試料の各種物性値を第1表に示す。また、この実施例1で製造された混合物の射出成形により得られる成形体試料の目標物性値も併せて記載した。
【0032】
第1表
────────────────────────────────────

目標値 比較例1 実施例1
────────────────────────────────────
無機材料フィラー量
(タルク量、質量%) − 17 30
────────────────────────────────────
MFR(g/10分、K7210) >15 20 18
引張降伏強さ(MPa、K7161) >20 24 24
引張破壊呼び歪み(%、K7161) − 15 4
曲げ強さ(MPa、K7171) >35 39 39
曲げ弾性率(MPa、K7171) >3500 2490 3580
シャルピー衝撃強さ(kJ/m2
(23℃、ノッチ付き、K7111) − 6 3
荷重たわみ温度(℃、K7191)
(0.45MPa) >120 118 124
───────────────────────────────────
【0033】
第1表に記載したデータから、実施例1で得た成形体の各種物性値が目標値に到達していることが確認された。
【0034】
[比較例2]
再利用対象の熱可塑性樹脂組成物成形体製品廃棄品として、自動車バンパー回収品(熱可塑性樹脂としてポリプロピレンが使われ、含有されている無機材料フィラーが実質的にタルクのみである廃棄品試料)を選び、この廃棄品試料を粉砕した粉砕物について、その無機材料フィラー含有量を測定した。また、この廃棄品試料粉砕物の射出成形により成形体試料を製造し、その成形体試料の各種物性値を測定した。また、廃棄品試料粉砕物のメルトフローレートも測定した。
【0035】
なお、廃棄品試料粉砕物中の無機材料フィラー量(タルク量)の測定は比較例1に記載の方法により行った。
【0036】
廃棄品試料粉砕物中の無機材料フィラーの量、そして廃棄品試料粉砕物のメルトフローレート(MFR)、そして廃棄品試料粉砕物の射出成形により得られた成形体試料の各種物性値を第2表に示す。
【0037】
[実施例2]
実施例1で利用した相関データ、そして本実施例で製造する成形体の各種物性の目標値を参照して、比較例2で調製した廃棄品試料粉砕物にタルク(平均粒子径:5.5μm)を4.5質量%添加して、タルク含有量が14質量%の混合物を得た。
この混合物について、比較例1と同様にして、メルトフローレートを測定し、次いで、この混合物を射出成形して成形体試料を得た。このメルトフローレート、そして成形体試料の各種物性値を第2表に示す。また、この実施例2で製造された混合物の射出成形により得られる成形体試料の目標物性値も併せて記載した。
【0038】
第2表
────────────────────────────────────

目標値 比較例2 実施例2
────────────────────────────────────
無機材料フィラー量
(タルク量、質量%) − 10 14
────────────────────────────────────
MFR(g/10分、K7210) >10 16 16
引張降伏強さ(MPa、K7161) >15 18 19
引張破壊呼び歪み(%、K7161) − 52 58
曲げ強さ(MPa、K7171) >25 26 27
曲げ弾性率(MPa、K7171) >1600 1420 1620
シャルピー衝撃強さ(kJ/m2
23℃、ノッチ付き、K7111) >25 29 29
荷重たわみ温度(℃、K7191)
(0.45MPa) >95 89 96
───────────────────────────────────
【0039】
第2表に記載したデータから、実施例2で得た成形体の各種物性値が目標値に到達していることが確認された。
【要約】
【課題】タルクを主成分とする無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物の成形体廃棄品の粉砕物から、所望の物性値を持つ熱可塑性樹脂組成物成形体を製造するために利用される再生熱可塑性樹脂組成物を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】
タルクを主成分とする無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物の成形体廃棄品の粉砕物から熱可塑性樹脂組成物成形体製造用の再生熱可塑性樹脂組成物を製造する方法であって、タルクを主成分とする無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物の成形体廃棄品の粉砕物を用意する工程;上記粉砕物中の無機材料フィラーの量を測定する工程;上記粉砕物もしくはその溶融物にタルクを添加して、無機材料フィラーを別に定めた量にて含有する混合物を調製する工程;そして、上記混合物を加熱溶融することにより、無機材料フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物の溶融物を得る工程を含む方法。
【選択図】なし