特許第5692695号(P5692695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692695
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】ヨウ素高含有植物の作製方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20150312BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20150312BHJP
   A01H 5/00 20060101ALN20150312BHJP
【FI】
   A01H1/00 AZNA
   C12N15/00 A
   !A01H5/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-49629(P2010-49629)
(22)【出願日】2010年3月5日
(65)【公開番号】特開2011-182681(P2011-182681A)
(43)【公開日】2011年9月22日
【審査請求日】2013年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 達夫
(72)【発明者】
【氏名】永利 友佳理
(72)【発明者】
【氏名】土屋 直子
(72)【発明者】
【氏名】黒原 千里
(72)【発明者】
【氏名】武川 祐子
【審査官】 名和 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 Plant Cell Environ.,1995,18(9),p.1027-33
【文献】 Plant Biotechnol.,2007,24(5),p.503-6
【文献】 Arch.Biochem.Biophys.,2000,380(2),p.257-66
【文献】 Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1998,95(22),p.12866-71
【文献】 Curr.Biol.,2003,13(20),p.1809-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
A01H 1/00− 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体中の、HOL(HARMLESS TO OZONE LAYER)遺伝子、MCT(methyl chloride transferase)遺伝子、TMT(thiol methyltransferase)遺伝子、HTMT(halide/thiol methyltransferase) 遺伝子、及びそれらのホモログ遺伝子からなる群より選択される遺伝子の機能を破壊することを特徴とするヨウ素高含有植物の作製方法。
【請求項2】
前記遺伝子が、下記(a)又は(b)のいずれかから選択されるポリペプチドをコードする遺伝子であることを特徴とする請求項1記載のヨウ素高含有植物の作製方法。
(a)配列番号2、4、又は6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号2、4、又は6で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
前記植物体が、被子植物であることを特徴とする請求項1又は2記載のヨウ素高含有植物の作製方法。
【請求項4】
前記遺伝子の機能破壊を、トランスポゾン・タギング法又はTILLING(Targeting Induced Local Lesions In Genomes)法により行うことを特徴とする請求項1〜のいずれか記載のヨウ素高含有植物の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素含有量の高い植物、及びヨウ素含有量の高い植物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素は必須栄養素の1つであり、甲状腺ホルモンの重要な構成要素である。ヨウ素が欠乏すると、甲状腺の機能が低下し、貧血、低体温等の身体機能の低下が引き起こされる。また、浮腫、皮膚の乾燥、体重増加、精神異常等の症状も観察される。特に子供の場合には、ヨウ素欠乏により、発育阻害と精神遅滞が生じてしまう。
【0003】
また、地球表面上のヨウ素は、主に水溶性のヨウ素塩類として海水中に含まれており、地下資源としては非常に偏在している希少資源である。このため、土壌中にほとんどヨウ素が含まれていない内陸部においては、慢性的にヨウ素が欠乏し易く、ヨウ素欠乏症は、世界で問題となっている微量栄養素欠乏症の1つである。実際に、世界中で約20億人が十分量のヨウ素を摂取できていないという報告もある(例えば、非特許文献1等参照。)。このため、ヨウ素欠乏症を撲滅するための試みが世界中で行われており、世界保健機関(WHO)もヨウ素欠乏症の改善するための指針をまとめている(例えば、非特許文献2等参照。)。
【0004】
ヨウ素欠乏症を解決するためには、安定なヨウ素供給方法の確立が必要であり、このため非常に有効な手法として、ヨウ素強化食品を継続摂取する方法がある。このようなヨウ素強化食品としては、ヨウ素添加食塩が一般的に普及している(例えば、非特許文献3参照。)。また、食用作物自体のヨウ素含有量を高めるために、ヨウ素を含む肥料を施肥する方法もある(例えば、非特許文献4〜6等参照。)。その他、ヨウ素自体や海藻抽出物を含有する栄養補助食品を摂取することによっても、ヨウ素欠乏を回避することができる。
【0005】
一方で、近年、植物中のハロゲン化物の代謝酵素として、HOL(HARMLESS TO OZONE LAYER)遺伝子が報告されている。例えば、モデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のHOL(AtHOL)は、ヨウ化物イオンをメチル化してヨウ化メチルを生成する反応を触媒する酵素である(例えば、非特許文献7参照。)。また、アブラナ科の植物である赤キャベツ(Brassica oleracea)から、チオールメチルトランスフェラーゼ活性を有する酵素であるTMT(thiol methyltransferase)が同定されているが、このTMTは、ヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性も有している(例えば、非特許文献8及び9参照。)。さらに、塩生植物であるBatis maritimaは、S−adenosyl−L−methionine (SAM)依存的なメチルトランスフェラーゼであるMCT(methyl chloride transferase)を発現しており、当該MCTがヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有していることも報告されている(例えば、非特許文献10参照。)。その他、多くの植物において、ヨウ化メチル産生能を有することが報告されている(例えば、非特許文献11参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】デ・ベノイスト(de Benoist)、外3名、フード・アンド・ニュートリション・ブリティン(Food and Nutrition Bulletin)、2008年、第29巻第3号、第195〜202ページ。
【非特許文献2】世界保健機関編、「Assessment of iodine deficiency disorders and monitoring their elimination - A guide for programme managers- Third edition」、2007年。
【非特許文献3】ジマーマン(Zimmermann)、外2名、ランセット(The Lancet)、2008年、第372巻、第1251〜1262ページ。
【非特許文献4】ブラスコ(Blasco)、外5名、アナルズ・オブ・アプライド・バイオロジー(Annals of Applied Biology)、2008年、第152巻、第289〜299ページ。
【非特許文献5】ジュ(Zhu)、外3名、エンバイロメント・インターナショナル(Environment International)、2003年、第29巻、第33〜37ページ。
【非特許文献6】マッコウィァク(Mackowiak)、外1名、1999年、プラント・アンド・ソイル(Plant and Soil)、第212巻、第135〜143ページ。
【非特許文献7】ナガトシ(Nagatoshi)、外1名、プラント・バイオテクノロジー(Plant Biotechnology)、2007年、第24巻、第503〜506ページ。
【非特許文献8】アティー(Attieh)、外2名、アチーブス・オブ・バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス(Archives of Biochemistry and Biophysics)、2000年、第380巻第2号、第257〜266ページ。
【非特許文献9】アティー(Attieh)、外2名、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、1995年、第270巻第16号、第9250〜9257ページ。
【非特許文献10】ニ(Ni)、外1名、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)、1999年、第96巻、第3611〜3615ページ。
【非特許文献11】サイニ(Saini)、外2名、プラント・セル・アンド・エンバイロメント(Plant, Cell and Environment)、1995年、第18巻、第1027〜1033ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えばヨウ素添加食塩は、社会的、技術的インフラストラクチャーの未整備等の理由により、その恩恵を受けられない場合が多くある(例えば、非特許文献5参照。)。また、ヨウ素を含む肥料を施肥して作物を栽培することにより、ヨウ素含有量の高い植物を栽培することができるが、ヨウ素を含む肥料はコストがかかり、普及には困難が予想される。その他、栄養補助食品として摂取する場合には、過剰摂取による健康被害を引き起こし易いという問題もある。
このように、未だ完全なヨウ素欠乏症の解決には至っておらず、従来手法を補完することができるヨウ素の普及技術の開発が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、植物体において、HOL(HARMLESS TO OZONE LAYER)遺伝子等のヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子の機能を破壊することにより、当該植物のヨウ素含有量を高められることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)植物体中の、HOL(HARMLESS TO OZONE LAYER)遺伝子、MCT(methyl chloride transferase)遺伝子、TMT(thiol methyltransferase)遺伝子、HTMT(halide/thiol methyltransferase) 遺伝子、及びそれらのホモログ遺伝子からなる群より選択される遺伝子の機能を破壊することを特徴とするヨウ素高含有植物の作製方法、
)前記遺伝子が、下記(a)又は(b)のいずれかから選択されるポリペプチドをコードする遺伝子であることを特徴とする前記(1)記載のヨウ素高含有植物の作製方法;
(a)配列番号2、4、又は6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2、4、又は6で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチド
) 前記植物体が、被子植物であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載のヨウ素高含有植物の作製方法、
) 前記遺伝子の機能破壊を、トランスポゾン・タギング法又はTILLING(Targeting Induced Local Lesions In Genomes)法により行うことを特徴とする前記(1)〜()のいずれか記載のヨウ素高含有植物の作製方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のヨウ素高含有植物の作製方法により、植物のヨウ素含有量を高めた植物を作製することができる。このため、本発明のヨウ素高含有植物の作製方法を食用作物に対して実施することにより、肥料中にヨウ素を特別に施肥せずとも、ヨウ素含有量を高めた食用作物を栽培することができる。さらに、得られたヨウ素含有量の高い食用食物を食することにより、ヨウ素添加食塩や栄養補助食品よりも自然にヨウ素を摂取することができるため、過剰摂取等の問題が生じ難く、より安全にヨウ素欠乏症を予防することが期待できる。
また、当該作製方法により作製された本発明のヨウ素高含有植物は、元品種の植物と同様に栽培して収穫することができる。このため、特に、地域固有の栽培種に対して本発明のヨウ素高含有植物の作製方法を実施することにより、地域農業への浸透、普及が非常に容易なヨウ素高含有植物を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】HOL遺伝子がコードするHOLタンパク質のメチルトランスフェラーゼ酵素活性の概略図である。
図2】シロイヌナズナのHOL遺伝子のホモログ遺伝子のアミノ酸配列に基づく系統樹を示した図である。
図3】AtHOL1、AtHOL2、AtHOL3、OsHOL1、OsHOL2、TMT1、及びBmMCTの各遺伝子情報から推定されるアミノ酸配列をアラインメントした図である。
図4】実施例2において、作成された検量線を示した図である。
図5】実施例2において、各シロイヌナズナ細胞抽出液中のヨウ化物イオン量の定量結果を示した図である。
図6】実施例3において、作成された検量線を示した図である。
図7】実施例3において、精製したAtHOL1タンパク質及びOsHOL1タンパク質のヨウ化物イオンに対するSAM依存的なメチル基転移酵素活性の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、「ヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性」とは、ヨウ化物イオンをメチル化してヨウ化メチルを生成する反応を触媒する酵素活性を意味する。
また、本発明において、「ヨウ素高含有植物」とは、ヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を有する植物において、当該遺伝子を破壊する前の植物体よりも、植物体中のヨウ素含有量が高い植物を意味する。
【0013】
本発明のヨウ素高含有植物の作製方法は、植物体中の、ヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチド(以下、単に「メチルトランスフェラーゼ酵素」ということがある。)をコードする遺伝子の機能を破壊することを特徴とする。メチルトランスフェラーゼ酵素により生成されるヨウ化メチルは揮発性であり、このため、生成されたヨウ化メチルの大部分は気体交換により大気中に放出される。本発明においては、このメチルトランスフェラーゼ酵素をコードする遺伝子(以下、単に「メチルトランスフェラーゼ遺伝子」ということがある。)の機能を破壊し、ヨウ化物イオンのメチル化を阻害することにより、植物体から放出されるヨウ化メチル量を低減させる結果、土壌中からヨウ化物イオンとして吸収されたヨウ素を効率よく植物体中に蓄積し、植物体中のヨウ素含有量を高めることができる。
【0014】
本発明のヨウ素高含有植物の作製方法において、機能を破壊する遺伝子としては、メチルトランスフェラーゼ遺伝子であれば特に限定されるものではない。また、メチルトランスフェラーゼ酵素としては、ヨウ化物イオンを基質とする酵素であればよく、ヨウ化物イオン以外の他のハロゲン化物又はハロゲン化物類似化合物をメチル化可能な酵素であってもよい。このような遺伝子として、例えば、ヨウ化物イオンとチオールの両方を基質とするHTMT(halide/thiol methyltransferase)をコードする遺伝子等が挙げられる(非特許文献9及び10参照。)。
【0015】
本発明においては、メチルトランスフェラーゼ遺伝子として、HOL遺伝子、MCT遺伝子、TMT遺伝子、又はHTMT遺伝子の機能を破壊することが好ましい。なお、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有する限りにおいて、これらの遺伝子のホモログ遺伝子を、本発明のヨウ素高含有植物の作製方法において機能を破壊する遺伝子としてもよい。
【0016】
HOL遺伝子は、植物体中で塩化メチル等の生合成に関与しており、当該遺伝子を破壊した植物では、塩化メチル等の放出量が低下することが報告されている(リュー(Rhew)、外3名、カレント・バイオロジー(Current Biology)、2003年、第13巻、第1809〜1813ページ。)。図1は、HOL遺伝子がコードするHOLタンパク質のメチルトランスフェラーゼ酵素活性の概略図である。HOLタンパク質は、ヨウ化物イオンをはじめとする様々なハロゲン化物又はハロゲン化物類似化合物を、SAM等のメチル基供与体の活性メチル基を用いて、ヨウ化メチル等のメチル化体を生成する。なお、このメチル化反応の植物にとっての役割は明らかではないが、HOLタンパク質の生体中の主な基質はヨウ化物イオンではなく、HOLタンパク質によってヨウ化物イオンからヨウ化メチルが生成される反応は、植物にとって重要な他のメチル化反応の副反応である可能性がある。
【0017】
植物の種類によっては、一の植物中に、メチルトランスフェラーゼ酵素に複数種類のアイソザイムがある場合がある。本発明においては、メチルトランスフェラーゼ酵素の複数種類のアイソザイムのうち、いずれのアイソザイムをコードする遺伝子の機能を破壊してもよい。また、1種類のアイソザイムをコードする遺伝子の機能を破壊してもよく、2種類以上のアイソザイムをコードする遺伝子の機能を破壊してもよい。ここで、アイソザイムには、別個の遺伝子由来のメチルトランスフェラーゼ酵素のみならず、一の遺伝子から選択的スプライシングにより得られるアイソフォームも含まれる。
【0018】
メチルトランスフェラーゼ酵素に複数種類のアイソザイムがある場合には、いずれのアイソザイムをコードする遺伝子を破壊するかは、各アイソザイムの発現部位や発現時期、発現量等を考慮して適宜決定することができる。例えば、食用植物の場合には、可食部位における発現量の多いアイソザイムを選択し、当該アイソザイムをコードする遺伝子の機能を破壊することにより、食用部位のヨウ素含有量が高い食物を作製することができる。
【0019】
例えば、シロイヌナズナのHOL遺伝子には、AtHOL1(アクセッション番号:NM_129953)、AtHOL2(アクセッション番号:NM_129954)、AtHOL3(アクセッション番号:NM_180072)の3つのアイソフォームがある。このうちAtHOL1タンパク質はユビキタスに発現しているが、AtHOL2タンパク質及びAtHOL3タンパク質は、AtHOL1タンパク質に比べて非常に発現量が少ないことが分かっている(非特許文献7参照。)。このため、AtHOL2遺伝子又はAtHOL3遺伝子よりも、最も発現量が多いAtHOL1遺伝子の機能を破壊することにより、よりヨウ素含有量の高い植物を作製することができる。
【0020】
なお、本発明及び本願明細書において、「アクセッション番号」とは、NIH(the National Institutes of Health)のゲノム配列データベースであるGenBankのアクセッション番号を意味する。
【0021】
メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有する限りにおいて、シロイヌナズナのHOL(AtHOL1、AtHOL2、又はAtHOL3)と、アミノ酸配列の類似性が高いポリペプチドをコードする遺伝子を、本発明のヨウ素高含有植物の作製方法において機能を破壊する遺伝子としてもよい。このような遺伝子としては、配列番号2、4、又は6で表されるアミノ酸配列と38%以上、好ましくは45%以上の相同性を有し、かつ、ヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が挙げられる。ここで、配列番号2、4、及び6のアミノ酸配列は、それぞれ、AtHOL1タンパク質、AtHOL2タンパク質、及びAtHOL3タンパク質のアミノ酸配列を示す。なお、「ポリペプチドをコードする遺伝子」には、当該ポリペプチドのみをコードする遺伝子のみならず、当該ポリペプチドを全体の一部として含む遺伝子も含まれる。
【0022】
図2は、シロイヌナズナのHOL遺伝子のホモログ遺伝子のアミノ酸配列に基づく系統樹を示した図である。図中の各遺伝子が由来する生物種、データベース等への登録番号(registry numbers)、及び当該遺伝子がコードする推定タンパク質とAtHOL1タンパク質とのアミノ酸配列の相同性(表中「相同性」)を表1に示す。データベース等への登録番号には、アクセッション番号に加えて、DOE Joint Genome Institute(http://www.jgi.doe.gov/)、Genoscope(http://www.genoscope.cns.fr/spip/)、のID番号が記載されている。なお、Prunus persicaの遺伝子の配列は、2個のEST配列を繋ぎ合わせたものであり、この2個のEST配列の登録番号を記載した。各遺伝子の推定タンパク質とAtHOL1タンパク質との相同性は、Lasergeneソフトウェア(DNASTAR社)を用いて求めた。また、図2の系統樹は、Njplot program(unrooted)を用いて作成した。
【0023】
【表1】
【0024】
後記実施例3において示すように、イネ(Oryza sativa)におけるシロイヌナズナのAtHOL1遺伝子のホモログ遺伝子であり、アミノ酸配列上45.8%の相同性を有するOsHOL1が、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有していることが確認された。また、赤キャベツにおけるホモログ遺伝子であり、アミノ酸配列上83.6〜86.7%の相同性を有するTMT遺伝子も、メチルトランスフェラーゼ酵素活性を有していることが報告されている(非特許文献8及び9等参照。)。ここで、シロイヌナズナと赤キャベツは双子葉植物であるが、イネは単子葉植物である。つまり、これらの結果等から、少なくとも被子植物においては、シロイヌナズナのHOL遺伝子のホモログ遺伝子の機能や、HOL遺伝子とアミノ酸配列の類似性が高いポリペプチドをコードする遺伝子の機能を破壊することにより、ヨウ素高含有植物を作製し得ることが明らかである。また、遺伝子の相同性検索の結果から、裸子植物やコケ類においても、シロイヌナズナのHOL遺伝子のホモログ遺伝子が存在していることが確認されている。よって、被子植物のみならず、裸子植物やコケ類においても、シロイヌナズナのHOL遺伝子のホモログ遺伝子の機能を破壊することにより、ヨウ素高含有植物を作製し得るといえる。
【0025】
また、植物の種類によっては、メチルトランスフェラーゼ遺伝子が多型を有する場合がある。このような多型遺伝子であっても、ヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有する限り、当該遺伝子の機能を破壊することにより、ヨウ素高含有植物を作製することができる。したがって、例えば、本発明においては、表1記載の遺伝子(各登録番号の塩基配列)の推定されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヨウ化物イオンを基質とするメチルトランスフェラーゼ酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子の機能を破壊してもよい。
【0026】
本発明のヨウ素高含有植物の作製方法に供される植物としては、メチルトランスフェラーゼ遺伝子を有する植物であれば特に限定されるものではなく、食用植物であってもよく、非食用植物であってもよい。具体的には、非特許文献11中に記載の作物が例示できる。食用植物を用いた場合には、作製されたヨウ素含有量の高い食用植物を食することにより、ヨウ素を簡便かつ比較的安全に摂取することができる。ヒトの食糧となる植物のみならず、ヒト同様にヨウ素栄養を必要とする家畜、家禽の飼料用植物を用いることも好ましい。一方、非食用植物に対して用いた場合には、作製されたヨウ素高含有植物は、工業用等の食用以外の用途に用いられるヨウ素を回収するための良好な原料とすることができる。
【0027】
ヨウ素含有量を高めたい所望の植物種において、メチルトランスフェラーゼ酵素をコードする遺伝子が同定されていなかった場合であっても、当該植物種のHOL遺伝子は、AtHOL1遺伝子等の公知のHOL遺伝子の塩基配列情報や推定されるアミノ酸配列情報等を用いて、公知の遺伝子解析方法により同定することができる。具体的には、例えば、対象とする植物からtotal RNAを抽出し、公知のHOL遺伝子の塩基配列情報に基づいて作成したディジェネレートプライマー等を用いたRT−PCR法により、目的のホモログ遺伝子の断片を取得し、塩基配列を決定する。決定された配列を基にRACE−PCR法等を行うことにより、ホモログ遺伝子の全長を取得することができる。その他、対象とする植物の組織から、当該技術分野において行われている抽出・精製方法により、メチルトランスフェラーゼ酵素を回収し、アミノ酸配列を同定した後、得られたアミノ酸配列情報に基づいて作成したディジェネレートプライマー等を用いてRT−PCR法を行い、目的のホモログ遺伝子の断片を取得する。取得された遺伝子断片から、同様にしてホモログ遺伝子の全長を取得することができる。
【0028】
図3は、表1記載の遺伝子のうち、AtHOL1、AtHOL2、AtHOL3、OsHOL1、OsHOL2、TMT1、及びBmMCTの各遺伝子情報から推定されるアミノ酸配列をアラインメントした図である。AtHOL1遺伝子のホモログ遺伝子の同定を試みる場合には、これらの遺伝子間で保存性の高い領域に対するディジェネレートプライマーを設計し、これを用いることにより、より効率よくホモログ遺伝子断片を取得することができる。
【0029】
本発明において、遺伝子の機能を破壊するとは、当該遺伝子がコードするメチルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を消失又は低下させることを意味する。遺伝子の機能の破壊は、例えば、当該遺伝子の全長又は少なくとも一部分を欠失させたり、当該遺伝子に1又は2以上の塩基からなる断片を挿入したり、当該遺伝子の全長又は少なくとも一部分を他のDNA断片に置換する等により行うことができる。
【0030】
本発明のヨウ素高含有植物の作製方法において用いられる遺伝子の機能を破壊する方法は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知のいずれの方法を用いて行ってもよい。遺伝子の機能を破壊する方法としては、例えば、遺伝子組み換え技術を用いた方法であってもよく、ガンマ線や中性子線等の放射線を照射したり、エチルメタンサルフォネート(EMS)等の各種変異誘発剤で処理する等により、遺伝子変異を誘発する方法であってもよく、トランスポゾン・タギング法であってもよい。なお、遺伝子組み換え技術を用いた方法としては、例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法等を用いて、T−DNA等の生理的に不活性なDNA断片を、対象である植物体の標的の遺伝子のDNA中に組み込むことにより、当該遺伝子の機能を破壊する方法がある。
【0031】
特に、本発明のヨウ素高含有植物の作製方法を、食用植物に対して行う場合には、遺伝子の機能の破壊を、遺伝子組み換え技術を用いずに行うことが好ましく、トランスポゾン・タギング法又はTILLING(Targeting Induced Local Lesions In Genomes)法により行うことがより好ましい。このような方法により遺伝子の機能の破壊を行うことにより、作製されたヨウ素高含有植物を食用とする場合にも、遺伝子組み換え技術に付随する社会的受容の障壁を回避することができる。
【0032】
トランスポゾン・タギング法は、トランスポゾン(DNA上のある部位から他の部位へ転位する特定の長さをもつ遺伝因子)を、標的の遺伝子のDNA中に挿入させることにより、当該遺伝子の機能を破壊する方法である。つまり、トランスポゾン・タギング法は、遺伝子組み換え技術とは異なり、植物体が元々有している変異能を利用する方法であり、従来から育種に多用されている方法である。
【0033】
また、TILLING法は、EMS等の変異原を用いた処理によって、植物のゲノムに人為的に突然変異を誘発し、得られた変異体の中から、目的遺伝子が変異した個体や所望の形質を有する個体を選抜する方法である。つまり、トランスポゾン・タギング法と同様にTILLING法も、外来遺伝子を導入する必要がない。
【0034】
本発明のヨウ素高含有植物の作製方法により作製されたヨウ素高含有植物は、メチルトランスフェラーゼ酵素をコードする遺伝子の機能が破壊される前の植物体と同様にして栽培し、収穫することができる。このため、本発明のヨウ素高含有植物により、特別な肥料・栽培操作等を要することなく、ヨウ素含有量の高いより高品質な植物(食用植物の場合には食糧)の生産が可能になる。
【実施例】
【0035】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
[参考例1 シロイヌナズナの栽培条件]
以降で用いるシロイヌナズナ野生株及び遺伝子破壊株は、次の条件で栽培した。
(1)栽培用基本培地の調製
pH6.0付近に調整した1/2MS寒天培地(1/2MS塩、0.8%アガロース)を、121℃で20分間オートクレーブした後、無菌条件下において寒天培地を作製した。
(2)シロイヌナズナ種子の播種及び生育
野生株及び遺伝子破壊株の種子を、滅菌処理後、上記(1)により調製した1/2MS寒天培地に播種した。5日間4℃において低温処理した後、人工気象器(製品番号:MLR−350、SANYO社製)を用いて20℃、中日光条件下(12時間明期/12時間暗期)において生育させた。
【0037】
[実施例1 シロイヌナズナAtHOL1遺伝子破壊株の単離]
シロイヌナズナ野生株のAtHOL1上にT−DNA(Transfer−DNA)が挿入された形質転換シロイヌナズナの種子を含む種子プール(Stock name:SALK005204C)を、Nottingham Arabidopsis Stock Centre(NASC)より入手した。これらの種子プールから、T−DNAが染色体上の2個のAtHOL1遺伝子の両方に挿入されることにより、AtHOL1遺伝子のmRNAの蓄積が抑制される株を以下の手順により単離した。
【0038】
(1)PCR法によるT−DNA挿入の確認
まず、種子プールの各種子を栽培し、得られた各植物体から染色体DNAを抽出した。
この抽出した染色体DNAを鋳型として、T−DNA配列に特異的なオリゴDNAプライマー(LBb1)及びAtHOL1遺伝子配列に特異的なオリゴDNAプライマー(AtHOL1−2)を用いてPCRを行うことにより、T−DNAの挿入の有無を判別した。すなわち、PCR産物が得られた種子にはT−DNAがAtHOL1遺伝子上に挿入されており、PCR産物が得られなかった種子にはT−DNAはAtHOL1遺伝子上に挿入されていないと判別することができる。
また、同じく抽出した染色体DNAを鋳型として、T−DNAの挿入領域(AtHOL1遺伝子のほぼ全長)を挟むように設計された2種類のオリゴDNAプライマー(AtHOL1−2及びAtHOL1−3)を用いてPCRを行うことにより、T−DNAのホモ挿入の有無を判別した。すなわち、PCR産物が得られた種子には染色体上の2個のAtHOL1遺伝子の一方にのみT−DNAが挿入されており、PCR産物が得られなかった種子にはT−DNAが染色体上の2個のAtHOL1遺伝子の両方に挿入されていると判別することができる。
なお、各PCRは、PCR反応酵素としてEx Taq(Takara社製)を用い、94℃で20秒間、55℃で30秒間、72℃で3分間を1サイクルとし、これを30サイクル繰り返す反応条件で行った。また、PCR産物の有無の確認は、アガロースゲル電気泳動により解析した。
【0039】
(2) T−DNA挿入部位の確認
上記(1)により単離したAtHOL1遺伝子破壊株の染色体DNAを鋳型として、オリゴDNAプライマー(LBb1)及びオリゴDNAプライマー(AtHOL1−2)を用いて、上記と同様にしてPCRを行い、T−DNAの境界領域を含むDNA断片を増幅した。得られたDNA断片を、オートシークエンサー(製品名:ABI PRISM 3100−Avant Genetic Analyzer、Applied Biosystems社製)を用いて塩基配列を決定し、AtHOL1遺伝子上のT−DNA挿入部位を確認した。
【0040】
(3) RT−PCRによるAtHOL1遺伝子のmRNA量の解析
上記(1)により単離したAtHOL1遺伝子破壊株を、播種後約4週間、中日条件下で生育させた幼苗から、OughamらによるHot Phenol法(Physiologia Plantarum, 1990, vol.79, p331-338)を改変した方法により、total RNAを抽出した。オリゴDNAプライマー(attB2T19VN)とMMLV逆転写酵素(Promega社製)を用いて逆転写反応を行い、この抽出したRNAからcDNAを合成した。
得られたcDNAを鋳型として、2種類のオリゴDNAプライマー(AtHOL1−2及びAtHOL1/2−1)を用いてPCRを行うことにより、AtHOL1遺伝子のmRNAの蓄積の有無を判別した。内部標準としてAtPP2AA3遺伝子のmRNAを、2種類のオリゴDNAプライマー(AtPP2AA3−1及びAtPP2AA3−2)を用いて検出した。なお、PCRは、PCR反応酵素としてEx Taq(Takara社製)を用い、94℃で20秒間、55℃で30秒間、72℃で50秒間を1サイクルとし、これを35サイクル繰り返す反応条件で行った。また、PCR産物の有無の確認は、アガロースゲル電気泳動により解析した。
この結果、PCR産物は検出されず、上記(1)により単離したAtHOL1遺伝子破壊株には、AtHOL1遺伝子のmRNAが蓄積されていないことが確認された。
【0041】
また、表2に、上記(1)〜(3)で用いたオリゴDNAプライマーの塩基配列を示す。
【0042】
【表2】
【0043】
[実施例2 植物細胞内のヨウ化物イオンの定量]
実施例1において単離したAtHOL1遺伝子破壊株及びシロイヌナズナ野生株の植物細胞内のヨウ化物イオン濃度を調べた。
具体的には、以下のようにして行った。
【0044】
(1)検量線の作成
各種濃度(3、4、8、16、32、又は64μM)のヨウ化カリウム(KI)溶液10μlを、イオンクロマトグラフ用カラムを接続した液体クロマトグラフ/UV−VIS検出器(600 pump、600E system controller、486 tunable absorbance detector、Waters社)に導入し、230nmの吸光度をもとにヨウ化物イオン量を測定した。
測定結果から、検量線を作成した。得られた検量線を図4に示す。図中、横軸は液体クロマトグラフ/UV−VIS検出器に導入したヨウ化カリウム量(pmol)、縦軸は液体クロマトグラフ/UV−VIS検出器により検出したヨウ化物イオンのピーク面積を示す。
【0045】
(2)シロイヌナズナ細胞抽出液中のヨウ化物イオンの定量
参考例1で調製した1/2MS寒天培地に播種して1ヶ月生育させた後のAtHOL1遺伝子破壊株及びシロイヌナズナ野生株の幼苗約50mgに、80%アセトンを200μl添加し、細胞破砕装置(TissueLyser LT、Qiagen社)を用いて破砕後、遠心分離し、上清を回収した。この操作を数回行って回収した全上清を、減圧乾固した後、超純水に溶解した。この溶液をさらに遠心分離し、回収された上清をシロイヌナズナ細胞抽出液とした。
シロイヌナズナ新鮮重量4.5mg分の抽出液を、液体クロマトグラフ/UV−VIS検出器に導入し、ヨウ化物イオン量を測定した。
図4に示した検量線を用いて、測定結果から各シロイヌナズナ細胞抽出液中のヨウ化物イオン量を定量した。定量結果を図5に示す。縦軸は液体クロマトグラフ/UV−VIS検出器により検出したヨウ化物イオン量を示す。この結果、AtHOL1遺伝子破壊株(図中、「hol1」)は、シロイヌナズナ野生株(図中、「WT」)の約12倍もヨウ化物イオン量が高いことが確認された。これらの結果から、HOL遺伝子の機能を破壊することにより、植物体のヨウ素含有量を高められることが明らかである。
【0046】
[実施例3 OsHOL1のメチルトランスフェラーゼ酵素活性の測定]
(1)検量線の作成
各種濃度(20、40、60、80、100μM)のS−Adenosyl−L−homocysteine(SAH)各75μLと、等量の1M HClOとをそれぞれ混合し、遠心分離後、上清を回収した。回収された上清50μLを、ODSカラムを接続した液体クロマトグラフ/UV−VIS検出器(600 pump、600E system controller、486 tunable absorbance detector、Waters社)に導入し、イオン対クロマトグラフにより分離し、254nmの吸光度をもとにSAH量を測定した。
測定結果から、検量線を作成した。得られた検量線を図6に示す。図中、横軸は液体クロマトグラフ/UV−VIS検出器に導入したSAH量(nmol)、縦軸は液体クロマトグラフ/UV−VIS検出器により検出したSAHのピーク面積を示す。
【0047】
(2)シロイヌナズナAtHOL1及びイネOsHOL1融合タンパク質のメチル基転移酵素活性の測定
大腸菌用タンパク質発現ベクターpDEST15−Tベクターに、AtHOL1全長を含むcDNAを導入したものをpDEST15−T−AtHOL1とし、OsHOL1全長を含むcDNAを導入したものをpDEST15−T−OsHOL1とした。なお、pDEST15−Tベクターは、pDEST15ベクター(Invitrogen社製)を、Thrombin処理によりGSTタグが切断できるように改変したものである。
これらの各プラスミドを保持する大腸菌BL21(DE3)を、アンピシリン50μg/mlを含むLB培地で37℃の条件において培養した。OD600が0.3〜0.5に到達後、IPTG(終濃度0.8mM)及びエタノール(終濃度3%)を添加し、25℃で約6時間培養した。このタンパク質発現誘導大腸菌を50mLチューブに回収し、遠心分離によりペレットを得て、−20℃に保存した。このペレットを、1% Triton X−100を添加した1×PBS bufferに溶解し、氷で冷却しながら超音波発生機(UD−200、トミー精工)を用いて超音波破砕処理を行った。得られた大腸菌の破砕液を遠心分離後、上清を回収し、Glutathione−Sepharose 4B(GE Healthcare)を充填したカラムを用いて精製を行った。回収されたGST融合AtHOL1タンパク質及びGST融合OsHOL1タンパク質を含む溶液は、限外濾過カラムを用いてbuffer交換を行った。回収されたGST融合AtHOL1タンパク質及びGST融合OsHOL1タンパク質のタンパク質量は、Bradford法により定量した。
各タンパク質1mgにつき1unitのThrombin溶液をそれぞれ添加して、室温で約6時間インキュベートした。Thrombin処理されたサンプルを4mL程度に希釈した後に、Glutathione−Sepharose 4Bを充填したカラムを通過させることにより、GSTタンパク質をカラムに吸着させて除くことにより、GSTタグを切断除去したAtHOL1タンパク質及びOsHOL1タンパク質の溶液を得た。回収されたタンパク質溶液に、グリセロール(終濃度30%)及びDTT(終濃度1mM)を添加し、−20℃で保存した。また、カラム精製によって得られたタンパク質を10%のSDSポリアクリルアミドゲルで電気泳動(30mA/ゲル1枚)し、CBB染色を行うことにより、AtHOL1タンパク質及びOsHOL1タンパク質が精製されていることを確認した。
【0048】
得られたAtHOL1タンパク質及びOsHOL1タンパク質のヨウ化物イオンに対するメチル基転移酵素活性を測定するために、終濃度0.1M Tris acetate(pH 7.5)、各タンパク質、各基質溶液(終濃度0.1mM KI、及び終濃度0.5mM SAM)を含む全量75μLの反応液を、25℃で1時間反応させた。インキュベート後の反応液に、反応液と等量の1M HClOを添加してよく混合することにより、反応を停止させた。この反応液を遠心分離した後、回収された上清50μLを液体クロマトグラフ/UV−VIS検出器に導入し、酵素反応により生成するSAHを定量した。
図6に示した検量線を用いて、測定結果から、精製したAtHOL1タンパク質及びOsHOL1タンパク質のヨウ化物イオンに対するSAM依存的なメチル基転移酵素活性を測定した。測定結果を図7に示す。縦軸には、AtHOL1タンパク質の酵素活性を100%として、OsHOL1タンパク質の相対酵素活性を示した。この結果、シロイヌナズナのAtHOL1タンパク質だけでなく、イネのOsHOL1タンパク質も、ヨウ化物イオンに対するメチル基転移酵素活性を持つことが示された。この結果から、イネ植物体内においても、OsHOL1タンパク質によって、ヨウ化物イオンがメチル化されヨウ化メチルへと変換されること、及びイネ中のOsHOL1遺伝子の機能を破壊することにより、イネ植物体内のヨウ化物イオンの大気への拡散が防止される結果、当該植物体内のヨウ素含量を上昇させられることが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のヨウ素高含有植物の作製方法は、植物中のヨウ素含有量を高めることができるため、主にヨウ素栄養強化食物の作製等の分野において利用が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]