(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力される2つの入力電圧に応じて、第1及び第2のMOSトランジスタからなる入力差動対のいずれか1つのMOSトランジスタにおいて、当該1つのMOSトランジスタとスイッチトランジスタとを含むループにより適応バイアス電流を発生する入力差動対及び適応バイアス電流発生回路と、
初期状態及び上記2つの入力電圧に応じて2つの出力電圧のラッチ論理を決定して上記スイッチトランジスタを制御することで上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路を制御するラッチ回路を備え、
上記ラッチ回路は、上記2つの出力電圧のラッチ論理と上記2つの入力電圧とが互いに一致しない場合に上記適応バイアス電流を発生させるように上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路を制御し、
上記ラッチ回路は、上記適応バイアス電流に対応する電流を検出してラッチ論理を変化させた後、上記スイッチトランジスタをオンからオフに切り換えることにより上記適応バイアス電流を遮断するように上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路を制御することを特徴とするコンパレータ回路。
上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路は、上記2つの入力電圧が互いに実質的に一致したとき、もしくは、上記第1と第2のスイッチトランジスタがともにオンとなったときに、上記第1及び第2のループに流れる電流を減少させる回路をさらに備えたことを特徴とする請求項2又は3記載のコンパレータ回路。
上記ラッチ回路の後段に接続され、上記ラッチ回路の出力電圧を緩衝増幅して出力するバッファ回路をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至5のうちのいずれか1つに記載のコンパレータ回路。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−311063号公報
【特許文献2】米国特許第6922319号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Anantha P. Chandrakasan et al., "Next generation micro-power systems", Symposium VLSI Circuits Digest, pp. 2-5, June 2008.
【非特許文献2】Ken Ueno et al., “A 300-nW, 15-ppm/℃, 20-ppm/V CMOS voltage reference circuit consisting of subthreshold MOSFETs”, IEEE Journal of Solid-状態 Circuits, vol. 44, no.7, pp. 2047-2054, 2009.
【非特許文献3】Tetsuya Hirose et al., "A nano-ampere current reference circuit and its temperature dependence control by using temperature characteristics of carrier mobilities", Proceedings of the 36th European Solid-state Circuits Conference, pp. 114-117, September 2010.
【非特許文献4】Tetsuya Hirose et al., "A CMOS Bandgap and Sub-Bandgap Voltage Reference Circuits for Nanowatt Power LSIs", IEEE Asian Solid-state Circuits Conference, pp. 77-80, November 2010.
【非特許文献5】Marc Degrauwe et al., "Adaptive biasing CMOS amplifiers", IEEE Journal of Solid-state Circuits, vol. 17, pp. 522-528, June, 1982.
【非特許文献6】R. Jacob Baker et al., "CMOS Circuit Design, Layout, and Simulation", Second Edition, IEEE Press, 2004.
【非特許文献7】Hui Shao et al., "Low Energy Level Converter Design for Sub-VTH Logics", ASP-DAC 2009, pp. 107-108, 19-22, January 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンパレータ回路は、LSIにおいて様々なアナログ・ディジタル信号の処理を行うための重要な要素回路である。コンパレータの電力を削減するための効果的な方法の一つとしてバイアス電流をマイクロアンペア以下まで削減することが挙げられる。しかし、従来技術に係るステージ型コンパレータにおいてバイアス電流をナノアンペアオーダーとした場合、入力電圧の比較や比較結果であるディジタル信号の出力に長時間が必要となる。よって、実際にはナノアンペアオーダーのバイアス電流でコンパレータを使用することはできない。
【0006】
CMOS増幅器のための適応バイアス技術が非特許文献5において紹介されている。この技術はOTA(Operational Transconductance Amplifier)設計において有用であるが、コンパレータ設計に適応する場合には消費電力が増加するため実用的とは言えない(例えば、非特許文献6参照。)。
【0007】
最近の研究では、低消費電力コンパレータの低速動作を改善するための適応バイアス電流発生回路を用いたコンパレータ回路が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。しかし、この回路においても高速かつ低消費電力という要求を満たすには不十分である。これは、この適応バイアス技術はコンパレータの動作速度を上げることができるが、必要以上の電流を発生するため、結果として消費電力が増加するためである。その上、複数の差動対が必要となることで回路規模が大きくなることも問題点である。
【0008】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、サブスレッショルド領域動作で動作するコンパレータ回路において、従来技術に比較して高速でかつ消費電力を低下させることができるコンパレータ回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るコンパレータ回路(1)は、
入力される2つの入力電圧(V
INP,V
INM)に応じて、第1及び第2のMOSトランジスタ(M
P1,M
P2)からなる入力差動対のいずれか1つのMOSトランジスタにおいて、当該1つのMOSトランジスタとスイッチトランジスタ(M
SW1,又はM
SW2)とを含むループ(L1,又はL2)により適応バイアス電流(I
ADP)を発生する入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)と、
初期状態及び上記2つの入力電圧(VINP,VINM)に応じて2つの出力電圧(VP,VM)のラッチ論理を決定して上記スイッチトランジスタ(MSW1,又はMSW2)を制御することで上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)を制御するラッチ回路を備え、
上記ラッチ回路(13)は、上記2つの出力電圧(VP,VM)のラッチ論理と上記2つの入力電圧(VINP,VINM)とが互いに一致しない場合に上記適応バイアス電流(IADP)を発生させるように上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)を制御し、
上記ラッチ回路(13)は、上記適応バイアス電流(I
ADP)に対応する電流を検出してラッチ論理を変化させた後、上記スイッチトランジスタ(M
SW1,又はM
SW2)をオンからオフに切り換えることにより上記適応バイアス電流
(IADP)を遮断する
ように上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)を制御することを備えたことを特徴とする。
【0010】
上記コンパレータ回路(1)において、上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)は第1及び第2のループ(L1,L2)を含み、
上記第1のループ(L1)は、上記第1のMOSトランジスタ(M
P1)と、第1のスイッチトランジスタ(M
SW1)と、第3及び第4のMOSトランジスタ(M
N3,M
N4)を含み上記第4のMOSトランジスタ(M
N4)のアスペクト比が上記第3のMOSトランジスタ(M
N3)のアスペクト比よりも大きくなるように構成された第1のカレントミラー回路(M
N3,M
N4)とが直列に接続されて構成され、
上記第2のループ(L2)は、上記第2のMOSトランジスタ(M
P2)と、第2のスイッチトランジスタ(M
SW2)と、第5及び第6のMOSトランジスタ(M
N5,M
N6)を含み上記第6のMOSトランジスタ(M
N6)のアスペクト比が上記第5のMOSトランジスタ(M
N5)のアスペクト比よりも大きくなるように構成された第2のカレントミラー回路(M
N5,M
N6)とが直列に接続されて構成され、
上記第1又は第2のカレントミラー回路(M
N3,M
N4;M
N5,M
N6)により上記適応バイアス電流(I
ADP)を発生することを特徴とする。
【0011】
また、上記コンパレータ回路(1)において、
上記第3のMOSトランジスタ(M
N3)は上記第1のMOSトランジスタ(M
P1)に直列に接続され、
上記第5のMOSトランジスタ(M
N5)は上記第2のMOSトランジスタ(M
P2)に直列に接続され、
上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)は、
上記第3のMOSトランジスタ(M
N3)に流れる電流を検出して、第1及び第2のトランジスタ(M
P1,M
P2)からなる入力差動対(M
P1,M
P2の接続点)に電流を出力する第7のMOSトランジスタ(M
P4)と、
上記第5のMOSトランジスタ(M
N5)に流れる電流を検出して、第1及び第2のトランジスタ(M
P1,M
P2)からなる入力差動対(M
P1,M
P2の接続点)に電流を出力する第8のMOSトランジスタ(M
P6)と、
上記第3のMOSトランジスタ(M
N3)と並列に接続された第9のMOSトランジスタ(M
N1)と、
上記第5のMOSトランジスタ(M
N5)と並列に接続された第10のMOSトランジスタ(M
N2)とをさらに備え、
上記第9のMOSトランジスタ(M
N1)と上記第10のMOSトランジスタ(M
N2)とがクロスゲート接続されて、上記2つの入力電圧(V
INP,V
INM)のうちのいずれかの入力電圧に対して、上記第1の検出電圧又は上記第2の検出電圧がヒステリシス特性を有する正帰還のヒステリシス回路を含むことを特徴とする。
【0012】
さらに、上記コンパレータ回路(1)において、上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)は、上記2つの入力電圧(V
INP,V
INM)が互いに実質的に一致したとき、もしくは、上記第1と第2のスイッチトランジスタ(M
SW1,M
SW2)がともにオンとなったときに、上記第1及び第2のループ(L1,L2)に流れる電流を減少させる回路(M
P9,M
P10)をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
またさらに、上記コンパレータ回路(1)は、CMOS回路のみで構成されたことを特徴とする。
【0014】
またさらに、上記コンパレータ回路(1)は、上記ラッチ回路(13)の後段に接続され、上記ラッチ回路の出力電圧を緩衝増幅して出力するバッファ回路(2)をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
従って、本発明に係るコンパレータ回路によれば、サブスレッショルド領域動作で動作するコンパレータ回路において、従来技術に比較して高速でかつ消費電力を低下させることができるコンパレータ回路を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0018】
図1は本発明の一実施形態に係るコンパレータ回路1及びバッファ回路2を備えた回路の構成を示す回路図である。本実施形態では、上述の従来技術の問題点を解決するために、サブスレッショルド領域動作で動作するコンパレータ回路において、入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12を用いた高速かつ低消費電力を実現するコンパレータを提案する。提案するコンパレータ回路1は、電流発生のための2つの正帰還ループL1及びl2を使用し、ラッチ回路13を用いて出力電圧の論理の決定と、入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12の電流制御を行うことを特徴としている。
【0019】
図1において、本実施形態に係るコンパレータ回路1は、
(a)ナノアンペアオーダーの微小電流である基準バイアス電流(以下、バイアス電流という。)I
REFを発生する電流源20と、バイアス電流I
REFをモニタするMOSトランジスタM
PB1とを備えたバイアス電流発生回路11(例えば、非特許文献3参照。)と、
(b)バイアス電流I
REFから、カレントミラーによる電流発生回路14により発生される電流に基づいて動作する回路12であって、入力端子21,22を有する入力差動対回路(MOSトランジスタM
PB2,M
P1,M
P2,M
N3,M
N5)と、ヒステリシス制御を有する適応バイアス電流発生回路(MOSトランジスタM
P3,M
P4,M
P9,M
SW1,M
N1,M
N4;MOSトランジスタM
P5,M
P6,M
P10,M
SW2,M
N2,M
N6)とを備えた入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12と、(c)電流供給用MOSトランジスタM
P7,M
P8と、クロスカップル接続された4個のMOSトランジスタM
N7〜M
N10とを含み、入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12に流れる適応バイアス電流I
ADPに基づいて、詳細後述するように、上記クロスカップル接続された4個のMOSトランジスタM
N9,M
N7,M
N10,M
N8からなるラッチの内部論理を変化させるとともに、スイッチトランジスタM
SW1及びM
SW2をオン/オフ制御して適応バイアス電流I
ADPを制御するラッチ回路13とを備えて構成される。
【0020】
なお、コンパレータ回路1の後段には、出力電流容量を増大させるために、クロスゲート接続されたMOSトランジスタQ1〜Q4と、ソース接地型増幅MOSトランジスタQ5,Q6と、出力端子23,24とを備えたバッファ回路2が設けられる。また、コンパレータ回路1及びバッファ回路2は、すべてpMOSトランジスタ及びnMOSトランジスタからなるCMOS回路で構成される。なお、コンパレータ回路1の待機時はサブスレッショルド領域で動作し、適応バイアス電流が発生する動作時には、大電流動作となるのでサブスレッショルド動作から強反転領域動作になる。後述するように、適応バイアス電流が生成され、論理反転が完了した後には、再びサブスレッショルド領域で動作する。
【0021】
本実施形態では、超低消費電力を実現するためにナノアンペア電流の微小電流を発生するバイアス電流発生回路(例えば、非特許文献3参照。)を使用する。ラッチ回路13は、その初期状態及び入力端子21,22に入力される入力電圧V
INP,V
INMの関係に応じて出力電圧V
PとV
Mの論理を決定し、スイッチトランジスタスイッチM
SW1、M
SW2をオン/オフ制御することにより入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12を制御する。
【0022】
入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12は2つの正帰還ループL1とL2を含む。ループL1の経路はMOSトランジスタM
P1−M
N3−M
N4−M
SW1−M
P3−M
P4であり、ループL2の経路はMOSトランジスタM
P2−M
N5−M
N6−M
SW2−M
P5−M
P6である。両者のループL1,L2において、MOSトランジスタM
N4のMOSトランジスタM
N3に対するW/Lに関するアスペクト比をK(>1)倍とし、MOSトランジスタM
N6のMOSトランジスタM
N5に対するW/Lに関するアスペクト比をK(>1)倍とする。ここで、WはMOSトランジスタのゲート幅であり、LはMOSトランジスタのゲート長であり、Kはカレントミラー回路を構成する2つのMOSトランジスタのアクペクト比により決まる電流利得因子である。電流利得因子Kを1より大きくすることで、正帰還ループは適応バイアス電流I
ADPを発生する。入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12は、入力端子21への入力電圧V
INPと、入力端子22への入力電圧V
INMに応じてループL1とループL2のどちらかに適応バイアス電流I
ADPを発生する。
【0023】
ラッチ回路13は、MOSトランジスタM
P7、M
P8を通して電流を受け取ることにより適応バイアス電流I
ADPを検出して、内部論理を変化させる。論理が決定した後、適応バイアス電流I
ADPは不要なので、ラッチ回路13の論理とスイッチングトランジスタM
SW1、M
SW2に応じて適応バイアス電流I
ADPを遮断する。
【0024】
次いで、コンパレータ回路1の動作原理について、
図1、
図2、
図3及び
図9を参照して以下詳細説明する。
図2は
図1のコンパレータ回路1の動作例1(
図9の状態1及び2)を示す回路図であり、
図3は
図1のコンパレータ回路1の動作例2(
図9の状態3及び4)を示す回路図である。また、
図9は実施例に係るコンパレータ回路1の動作状態を示す表である。このコンパレータ回路1において、ラッチ回路13の論理が本実施形態に係るコンパレータ回路の動作の中で重要な役割を担うため、ラッチ回路13の論理による回路動作について以下説明する。
【0025】
(1)状態1(
図2):ラッチ論理が出力電圧V
P=Lレベル、出力電圧V
M=Hレベルであるときの回路動作は以下の通りである。
入力電圧V
INPが入力電圧V
INMより高いとき(V
INP>V
INM)、バイアス電流I
REFのほとんどがMOSトランジスタM
P1に流れる。それにより、適応バイアス電流I
ADPが正帰還ループL1で発生され、電流利得因子Kを有するカレントミラー回路(MOSトランジスタM
N3,M
N4)によって増幅される。すなわち、MOSトランジスタM
N4に流れる電流はMOSトランジスタM
N3に流れる電流のK倍になる。ここで発生された適応バイアス電流I
ADPはカレントミラー回路(MOSトランジスタM
P3,M
P7)によってコピーされ、すなわち、適応バイアス電流I
ADPはMOSトランジスタM
P3で検出されてそれに対応した電流がMOSトランジスタM
P7に流れることにより、出力電圧V
PをLレベルからHレベルに変化させる。これで、ラッチ回路13の内部論理は反転する。出力電圧V
Mの論理がHレベルからLレベルに反転すると、出力電圧V
MによりスイッチトランジスタM
SW1はオフとなり、適応バイアス電流I
ADPは遮断され、状態3に移行する。
【0026】
(2)状態2(
図2):ラッチ論理(V
P=Lレベル、V
M=Hレベル)であるときの回路動作は以下の通りである。
入力電圧V
INPが入力電圧V
INMより低いとき(V
INP<V
INM)、バイアス電流I
REFのほとんどがMOSトランジスタM
P2に流れる。しかし、出力電圧V
PはスイッチトランジスタM
SW2をオフにしているため、ループL2は機能せず、適応バイアス電流I
ADPは発生されない。この場合、ラッチ回路13は内部論理を保持する。
【0027】
(3)状態3(
図3)ラッチ論理:V
P=Hレベル、V
M=Lレベル)であるときの回路動作は以下の通りである。
入力電圧V
INPが入力電圧V
INMより高いとき(V
INP>V
INM)、バイアス電流I
REFのほとんどがMOSトランジスタM
P1に流れる。しかし、出力電圧V
MはスイッチトランジスタM
SW1をオフにしているため、ループL1は機能せず、適応バイアス電流I
ADPは発生されない。この場合、ラッチ回路13は内部論理を保持する。
【0028】
(4)状態4(
図3)ラッチ論理:V
P=Hレベル、V
M=Lレベル)であるときの回路動作は以下の通りである。
入力電圧V
INPが入力電圧V
INMより低いとき(V
INP<V
INM)、バイアス電流I
REFのほとんどがMOSトランジスタM
P2に流れる。それにより、適応バイアス電流I
ADPが正帰還ループL2で発生され、電流利得因子Kを有するカレントミラー回路(MOSトランジスタM
P5,M
P6)によって増幅される。すなわち、MOSトランジスタM
N6に流れる電流はMOSトランジスタM
N5に流れる電流のK倍になる。ここで発生された適応バイアス電流I
ADPはカレントミラー回路(MOSトランジスタM
P5,M
P8)によってコピーされ、すなわち、適応バイアス電流I
ADPはMOSトランジスタM
P5で検出されてそれに対応した電流がMOSトランジスタM
P8に流れることにより、出力電圧V
MをLレベルからHレベルに変化させる。これで、ラッチ回路13の内部論理は反転する。出力電圧V
Pの論理がHレベルからLレベルに反転すると、出力電圧V
PによりスイッチトランジスタM
SW2はオフとなり、適応バイアス電流I
ADPは遮断され、状態2に移行する。
【0029】
図9から明らかなように、適応バイアス電流I
ADPはラッチ回路13の論理と入力電圧レベルが互いに一致しない場合(状態1、4)においてのみ発生される。そして、状態1は状態3に移行して定常状態となる一方、状態4は状態2に移行して定常状態となる。
【0030】
発生される適応バイアス電流I
ADPは次式のように表される。まず、ゲート電位の低い方のMOSトランジスタに流れる電流をαI
REFとする。ここで、α(0.5<α<1)は入力電圧V
INP,V
INMに依存した比率となる。これにより、適応バイアス電流I
ADPは次式で表される。
【0032】
ここで、Kを1より大きい値に設定すると、適応バイアス電流I
ADPを得ることができる。発生された適応バイアス電流I
ADPはラッチ回路13の内部論理を変化させて適応バイアス電流を遮断する。この方法によってコンパレータの高速かつ低消費電力動作を実現することができる。
【0033】
次いで、入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12が有するヒステリシス特性について以下に説明する。
【0034】
入力信号に重畳されるノイズの影響を抑え、mVオーダーの信号レベルの識別を行うために用いるヒステリシス回路について説明する。このヒステリシス回路はMOSトランジスタM
N1とM
N2の、クロスゲート接続による正帰還を用いて実現する。入力差動対回路を流れる電流I
P1及びI
P2は次式で表せる。ここで、電流I
P1はMOSトランジスタM
N1に流れ込む電流であり、I
P2はMOSトランジスタM
N2に流れ込む電流である。
【0036】
ここで、g
mは入力差動対回路の相互コンダクタンス、I
SSは入力差動対回路のソース電流である。また、β
3=β
5=β
Aかつβ
1=β
2=β
Bとする。β
i=W/L(i=1,2,3,5)であり、ここで、WはMOSトランジスタのゲート幅、LはMOSトランジスタのゲート長である。また、β
1はMOSトランジスタM
N1のアスペクト比であり、β
2はMOSトランジスタM
N2のアスペクト比であり、β
3はMOSトランジスタM
N3のアスペクト比であり、β
5はMOSトランジスタM
N5のアスペクト比である。
【0037】
ここで、入力電圧V
INMが入力電圧V
INPよりも十分に低い電圧から上昇し、MOSトランジスタM
N3のゲート・ソース間電圧V
gs(M
N3)がゼロに反転する場合を考える。初期状態では、MOSトランジスタM
N3のゲート・ソース間電圧V
gs(M
N3)は当該MOSトランジスタのしきい値電圧V
TH近傍の電圧であり、他方のMOSトランジスタMN5のゲート・ソース間電圧V
gs(M
N5)は0Vとなっている。ここで、MOSトランジスタM
N3のゲート・ソース間電圧V
gs(M
N3)がゼロに反転する条件は、(i)電流I
P1によって誘起されるMOSトランジスタM
N1の電流と、(ii)電流I
P2によって誘起されるMOSトランジスタM
N1の電流とが等しくなることである。すなわち、次式で表される。
【0039】
一方、入力電圧V
INMが入力電圧V
INPよりも十分に高い電圧から低下し、MOSトランジスタM
N5のゲート・ソース間電圧V
gs(M
N5)がゼロに反転する場合を考える。初期状態では、MOSトランジスタM
N5のゲート・ソース間電圧V
gs(M
N5)は当該MOSトランジスタのしきい値電圧V
TH近傍の電圧であり、MOSトランジスタM
N5のゲート・ソース間電圧V
gs(M
N5)は0Vとなっている。上記の場合と同様に、MOSトランジスタM
N5のゲート・ソース間電圧V
gs(M
N5)が反転する条件は、(i)電流I
P2によって誘起されるMOSトランジスタM
N2の電流と、(ii)電流I
P1によって誘起されるMOSトランジスタM
N2の電流とが等しくなることである。すなわち、次式で表される。
【0041】
従って、式(2)〜(4)より、スイッチングポイントの電圧V
SPH、V
SPLは次式で表される。
【0044】
上記式(5)から明らかなように、β
A=β
Bの場合には、ヒステリシス特性は現れない。一方、β
B>β
Aの場合には、コンパレータ回路1の入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12においてヒステリシス特性が現れる。ヒステリシスは、MOSトランジスタM
N1,M
N2,M
N3,M
N5のトランジスタサイズを調整することで制御することができる。
【0045】
次いで、消費電流の抑制について以下に説明する。
【0046】
上述したように、本実施形態に係るコンパレータ回路1は、適応バイアス電流発生技術とラッチ回路13とを用いることで高速かつ低消費電力動作を実現する。適応バイアス電流I
ADPはラッチ回路13の論理レベルと入力電圧レベルが互いに実質的に一致していないときのみ発生される。これにより、消費電流を最小限にすることができる。
【0047】
しかし、両方の入力電圧が等しい場合(V
INP=V
INM)やスイッチトランジスタM
SW1,M
SW2をオン/オフするタイミングに違いが生じるような特別な状態(例えば、スイッチトランジスタM
SW1,M
SW2がともにオンとなる状態)においては両方の正帰還ループL1及びL2において消費電流が増加する。この状態では、バイアス電流I
REFの半分が入力MOSトランジスタM
P1とM
P2に流れ、両方の正帰還ループL1,L2がアクティブになることで、適応バイアス電流I
ADPは両方の正帰還ループL1,L2において発生される。このような現象が生じた場合、回路の消費電流が増加してしまう問題点がある。
【0048】
この問題点を解決するために、
図1に示すMOSトランジスタM
P9、M
P10を追加する。MOSトランジスタM
P9のアスペクト比はMOSトランジスタM
P5のアスペクト比のK’倍になるように設定し、MOSトランジスタM
P10のアスペクト比はMOSトランジスタM
P3のアスペクト比のK’倍になるように設定する。ここで、MOSトランジスタM
P9、M
P10はそれぞれMOSトランジスタM
P5、M
P3に流れる電流をモニタする。これらのトランジスタからなる2つのカレントミラー回路を用いることによって、両方の正帰還ループL1,L2の適応バイアス電流が同時に発生されるときにトランジスタM
P3、M
P5に流れる電流を減少させて削減することができる。これを以下に説明する。
【0049】
まず、入力トランジスタM
P1とM
P2と、MOSトランジスタM
P3、M
P5に流れる電流をそれぞれI
REF/2とI
1とする。これにより、キルヒホッフの法則から次式を導くことができる。
【0051】
式(7)より、電流I
1は次式で表される。
【0053】
ここから、適応バイアス電流I
ADPは次式で表される。
【0055】
このとき、K/(1+K’)を1以下になるように設計すると、式(4)は次式のように簡単化することができる。
【0057】
式(10)より、同じ入力電圧M
P1,M
P2が入力差動対(MOSトランジスタM
P1,M
P2)に適応されたときやスイッチトランジスタM
SW1,M
SW2をオン/オフするタイミングに違いが生じた場合においても、適応バイアス電流I
ADPを抑制することができる。
【0058】
以上のように構成されたコンパレータ回路(1)においては、以下の構成を有することを特徴としている。すなわち、コンパレータ回路(1)は、入力される2つの入力電圧(V
INP,V
INM)に応じて、第1及び第2のMOSトランジスタ(M
P1,M
P2)からなる入力差動対のいずれか1つのMOSトランジスタにおいて、当該1つのMOSトランジスタとスイッチトランジスタ(M
SW1,又はM
SW2)とを含むループ(L1,又はL2)により適応バイアス電流(I
ADP)を発生する入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)と、上記適応バイアス電流(I
ADP)に対応する電流を検出してラッチ論理を変化させた後、上記スイッチトランジスタ(M
SW1,又はM
SW2)をオンからオフに切り換えることにより上記適応バイアス電流を遮断するラッチ回路(13)とを備えたことを特徴としている。
【0059】
上記コンパレータ回路(1)において、上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)は第1及び第2のループ(L1,L2)を含み、
上記第1のループ(L1)は、上記第1のMOSトランジスタ(M
P1)と、第1のスイッチトランジスタ(M
SW1)と、第3及び第4のMOSトランジスタ(M
N3,M
N4)を含み上記第4のMOSトランジスタ(M
N4)のアスペクト比が上記第3のMOSトランジスタ(M
N3)のアスペクト比よりも大きくなるように構成された第1のカレントミラー回路(M
N3,M
N4)とが直列に接続されて構成され、
上記第2のループ(L2)は、上記第2のMOSトランジスタ(M
P2)と、第2のスイッチトランジスタ(M
SW2)と、第5及び第6のMOSトランジスタ(M
N5,M
N6)を含み上記第6のMOSトランジスタ(M
N6)のアスペクト比が上記第5のMOSトランジスタ(M
N5)のアスペクト比よりも大きくなるように構成された第2のカレントミラー回路(M
N5,M
N6)とが直列に接続されて構成され、
上記第1又は第2のカレントミラー回路(M
N3,M
N4;M
N5,M
N6)により上記適応バイアス電流(I
ADP)を発生する。
【0060】
また、上記コンパレータ回路(1)において、上記第3のMOSトランジスタ(M
N3)は上記第1のMOSトランジスタ(M
P1)に直列に接続され、上記第5のMOSトランジスタ(M
N5)は上記第2のMOSトランジスタ(M
P2)に直列に接続され、
上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)は、
上記第3のMOSトランジスタ(M
N3)に流れる電流を検出して、第1及び第2のトランジスタ(M
P1,M
P2)からなる入力差動対(M
P1,M
P2の接続点)に電流を出力する第7のMOSトランジスタ(M
P4)と、
上記第5のMOSトランジスタ(M
N5)に流れる電流を検出して、第1及び第2のトランジスタ(M
P1,M
P2)からなる入力差動対(M
P1,M
P2の接続点)に電流を出力する第8のMOSトランジスタ(M
P6)と、
上記第3のMOSトランジスタ(M
N3)と並列に接続された第9のMOSトランジスタ(M
N1)と、
上記第5のMOSトランジスタ(M
N5)と並列に接続された第10のMOSトランジスタ(M
N2)とをさらに備え、
上記第9のMOSトランジスタ(M
N1)と上記第10のMOSトランジスタ(M
N2)とがクロスゲート接続されて、上記2つの入力電圧(V
INP,V
INM)のうちのいずれかの入力電圧に対して、上記第1の検出電圧又は上記第2の検出電圧がヒステリシス特性を有する正帰還のヒステリシス回路を含む。
【0061】
さらに、上記コンパレータ回路(1)において、上記入力差動対及び適応バイアス電流発生回路(12)は、上記2つの入力電圧(V
INP,V
INM)が互いに実質的に一致したとき、もしくは、上記第1と第2のスイッチトランジスタ(M
SW1,M
SW2)がともにオンとなったときに、上記第1及び第2のループ(L1,L2)に流れる電流を減少させる回路(M
P9,M
P10)をさらに備える。
【実施例】
【0062】
図4は
図1のコンパレータ回路1の実施例(試作例)及び
図8の従来例に係るコンパレータ回路の実験結果であって、
図4(a)は入力周波数が10kHzであるときの入力参照電圧VIN+、実施例の出力電圧及び従来例の出力電圧を示す測定波形図であり、
図4(b)は入力周波数が20kHzであるときの入力参照電圧VIN+、実施例の出力電圧及び従来例の出力電圧を示す測定波形図である。
図8は従来例に係るコンパレータ回路の構成を示す回路図である。
【0063】
本発明者らは、本発明の実施形態に係る
図1のコンパレータ回路1を0.35μm、2−ポリ、4−メタル、スタンダードCMOSプロセスにより実施例(試作例)として試作した。比較のために従来例に係る2ステージ型コンパレータ回路も設計を行って試作した。実施例に係るコンパレータ回路1と、従来例に係る2ステージ型コンパレータの面積はそれぞれ3600μm
2と2700μm
2となった。1:K:K’の比率は1:2:3となるように設計した。測定条件として、電源電圧Vdd、入力参照電圧、入力正弦波信号はそれぞれ3.0V、1.5V、1.5+0.05×sin2πf
INtとした。
【0064】
図4は
図1のコンパレータ回路1の実施例(試作例)及び
図8の従来例に係るコンパレータ回路の実験結果であって、
図4(a)は入力周波数が10kHzであるときの入力参照電圧(V
IN+)、実施例の出力電圧(prop.)及び従来例の出力電圧(conv.(2stage))を示す測定波形図であり、
図4(b)は入力周波数が20kHzであるときの入力参照電圧(V
IN+)、実施例の出力電圧(prop.)及び従来例の出力電圧(conv.(2stage))を示す測定波形図である。ここで、バイアス電流I
REFは30nAとした。
図4(a)から明らかなように、入力周波数が10kHzの条件において、両方のコンパレータ回路はともに正確に出力パルスを発生することができることを確認した。従来例に係る2ステージ型コンパレータ回路の出力電圧の立ち上がりは著しく遅れている。これはバイアス電流が30nAと少ないために、従来例に係る2ステージ型コンパレータにおいて、バイアス電流が出力電圧を充電することができないためである。一方、実施例に係るコンパレータ回路1では遅延を生じることなく動作している。また、
図4(b)から明らかなように、入力周波数が20kHzの条件では、従来例に係る2ステージ型コンパレータ回路は正しく動作していない。これは、コンパレータ回路の遅延が入力正弦波の周期を超えたためである。しかし、この条件でも、実施例に係るコンパレータ回路1では正しく動作できることを確認した。
【0065】
図5は実施例及び従来例に係るコンパレータ回路の実験結果であって、バイアス電流I
REFに対する動作最大周波数f
maxを示すグラフである。ここで、f
maxはコンパレータが出力パルスを発生できる最大の周波数である。
図5から明らかなように、バイアス電流I
REFが増加するにつれて、各コンパレータ回路の最大周波数
fmaxも増加する結果となった。バイアス電流I
REF=10nAにおける実施例及び従来例に係るコンパレータ回路の動作最大周波数f
maxはそれぞれ40kHzと5kHzである。実施例に係るコンパレータ回路1は従来例に係る2ステージ型コンパレータ回路と比べて8倍高速に動作することができる。また、バイアス電流I
REF=10nAにおける実施例に係るコンパレータ回路1の待機電流は18.9nAであった。さらに、この
図5から入力周波数を固定した場合に提案コンパレータは、より低いバイアス電流I
REFで動作できることが示される。
【0066】
図6は実施例及び従来例に係るコンパレータ回路の実験結果であって、入力周波数に対する消費電流を示すグラフである。ここで、実施例に係るコンパレータ回路1と従来例に係るコンパレータ回路のバイアス電流I
REFはそれぞれ33nAと50nAとした。バイアス電流I
REFは入力周波数10kHzにおいて各コンパレータ回路の消費電流が同じになるように設定した。この状態で、両方のコンパレータ回路の消費電流は151nAとなった。入力周波数が低下すると、実施例に係るコンパレータ回路の消費電流は従来例に係る2ステージ型コンパレータ回路の消費電流よりも低くなった。
【0067】
図7は実施例及び従来例に係るコンパレータ回路の実験結果であって、入力周波数に対する出力パルスのデューティ比を示すグラフである。
図7は
図6と同じ入力周波数領域でのコンパレータ回路の出力パルスのデューティ比を示す。
図7から明らかなように、実施例に係るコンパレータ回路1のデューティ比はほぼ50%となった。しかし、従来例に係る2ステージ型コンパレータは入力周波数が高くなるにつれてデューティ比が減少する。バイアス電流が出力を充電できないため、入力周波数が高くなるにつれて出力の立ち上がりが遅れる。この結果は
図4の結果と一致する。
【0068】
図10は実施例及び従来例に係るコンパレータ回路の性能諸元を示す表である。これより、実施例に係るコンパレータ回路1は高速かつ低消費電力での動作を実現できることを確認した。このコンパレータ回路1は低消費電力LSI用途として、とても有用である。
【0069】
以上説明したように、本発明の実施形態において、入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12を用いた超低消費電力コンパレータ回路1を提案した。入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12は動作電流を発生し、ラッチ回路13が入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12の動作を制御することで消費電力を抑えることができる。入力信号レベルとラッチ回路13の論理が互いに一致しない場合のみ、入力差動対及び適応バイアス電流発生回路12とラッチ回路13が動作するため、実施例に係るコンパレータ回路は高速かつ低消費電力を実現することができる。測定結果より、このコンパレータ回路1が高速かつ低消費電力で動作することを確認した。待機電流はバイアス電流10nAのとき18.9nAとなり、消費電力は入力周波数1kHz、電源電圧3Vにおいて88.5nWとなった。