(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の魚介類のような生鮮物の冷却保存に際しては、前記特許文献に示される製氷装置で得られるような海水の氷を用いることができるものの、海水を用いて製氷する場合、海水を取水することが必要となる。しかしながら、海水の入手と製氷装置への供給は、直接海から取水できるような海に面した場所以外では非常に困難であり、現実的なコストで、海から離れた場所で海水を導入し、この海水から氷を製造して使用に供することは極めて難しいという課題を有していた。
【0007】
また、海水から氷を作った場合、海水は塩分濃度が高い水であるため、氷の生成温度が低くなり、同時に氷が溶ける際の温度も低くなり、氷で冷却される魚介類の温度が下がりすぎ、魚介類が一部凍結した状態となってその品質を低下させてしまうという課題を有していた。また、氷の生成温度が低い分、強力に冷却する必要があり、製氷の際の投入エネルギーが大きくなることに加え、海水の濾過、殺菌等の前処理も要求され、製氷コストが高くなるという課題も有していた。
【0008】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、海水を用いなくても、製造した氷による冷却保存中における生鮮物の鮮度を維持する能力を確保し、生鮮物の鮮度を長期にわたり保持できる鮮度保持システム、及びこれに適用される鮮度保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る鮮度保持システムは、真水である水に電解質成分を添加した上で電気分解を行い、アルカリ性電解水と酸性電解水とを生成する電解水生成装置と、冷却された製氷面に前記アルカリ性電解水を散水し、水を瞬間的に凍結させて製氷面に沿って連続する氷を生じさせ、さらに当該氷を割ってフレーク状のアルカリ性電解水氷を製造する製氷装置と、前記製氷装置で得られた氷を、前記電解水生成装置で生成されたアルカリ性電解水と共に所定の収納領域に収納して、当該収納領域の温度を前記氷の氷点温度と略一致させ、さらにアルカリ性電解水に浸透圧調整用の電解質成分を添加した状態で、保存対象の多数の生鮮物をアルカリ性電解水に浸漬させつつ前記収納領域に収納して、生鮮物を冷却保存する保存装置と
、前記製氷装置で得られた、前記保存装置に収納されるのとは別の新たなアルカリ性電解水氷と、前記保存装置から小分けで取り出された一又は複数の生鮮物とを収納し、内部を氷の氷点付近の温度に保持して、生鮮物を冷却保存する移送用容器と、前記電解水生成装置で生成された酸性電解水を一時的に貯溜するためのタンクと、当該タンクに一時的に貯溜された酸性電解水を、生鮮物を前記収納領域に収納するまでの取扱い経路、及び/又は生鮮物を前記収納領域から移送用容器に移すまでの取扱い経路上の各場所に供給する手段とを備え、前記取扱い経路の洗浄にあたり、前記酸性電解水が導入されて洗浄、殺菌に供されるものである。
【0010】
このように本発明によれば、水道水や工業用水等の真水である水を用いて電解水生成装置で電気分解を行い、アルカリ性電解水を生成すると共に、このアルカリ性電解水を製氷装置で製氷して電解水の氷を得、これらアルカリ性電解水と電解水氷とを生鮮物と共に収納して生鮮物の冷却保存に用いることにより、腐敗につながるバクテリアの活動を電解水氷に基づく冷却で抑制できることに加えて、電解水と氷の備える強力な還元力により生鮮物中の酸素による酸化作用を抑制することができ、生鮮物の細胞の酸化に伴う腐敗進行を抑えられ、生食可能な期間を延すなど長期にわたり生鮮物の鮮度を維持でき、同じ時間経過状態での生鮮物の品質を従来保存方式より高められる。また、生鮮物の鮮度を長く維持できることで、冷却保存状態からの取出し時期を適宜選定でき、生鮮物の捕獲又は収穫直後に限らない最適なタイミングで保存装置から取り出して、鮮度を保ったまま市場等に出荷でき、生鮮物の商品価値を高められる。
【0012】
さらに、アルカリ性電解水氷と生鮮物を収納する移送用容器を用いて、生鮮物を小分けにして移送するような状況でも、生鮮物の冷却状態を維持できることにより、冷却に伴うバクテリアの活動抑制と電解水の性質による生成物の酸化抑制を、保存装置から取り出した後も実現させられ、生鮮物の鮮度を長く維持してその商品性を高められる。また、電解水氷はフレーク状であり、移送用容器内で氷が溶けにくく氷の状態を長時間維持して生鮮物を冷却でき、生鮮物の鮮度を維持しつつその品質を水分で劣化させることがない上、水分が漏出しにくく、移送時の取扱い性にも優れる。
【0013】
また、本発明に係る鮮度保持システムは必要に応じて、前記製氷装置が、所定の冷却手段で前記製氷面としての内周面を冷却される略円筒状の製氷シリンダと、前記製氷シリンダの内側に配設され、製氷シリンダの円筒中心軸線を中心として回転駆動される可動支持部と、当該可動支持部に支持され、氷とするアルカリ性電解水を、製氷シリンダ内周面に対する散水範囲を移動させつつ製氷シリンダ内周面にもれなく散水供給する散水部と、前記可動支持部に回転自在に支持され、前記製氷シリンダ内周面に沿って可動支持部ごと移動しつつ前記散水部の散水範囲から外れた位置で製氷シリンダ内周面に生じた氷に接触可能となる配置とされ、前記氷を割るリーマと、前記可動支持部に支持され、製氷シリンダ内側の領域を前記散水部の散水範囲と前記リーマが氷を割落す製氷区域とに分ける仕切部とを備えるものである。
【0014】
このように本発明によれば、製氷装置のうち、冷却されると共に水の供給を受けて内周側の表面に氷を生じさせる製氷シリンダに対し、その内周面近傍を移動するリーマが配設され、リーマで製氷シリンダ内周面の氷を割り、シリンダ内周面から氷をそのまま落下させられることにより、氷をリーマで割った時点の大きさをほぼ維持しつつ製氷シリンダ内周面から離隔させられ、製氷から氷をフレーク状として外部に送出す過程を連続的に実行でき、確実に氷を供給できることとなり、使い勝手に優れたフレーク状の氷を容易に得られると共に、氷の製造コストも大幅に低減できる。また、氷が極めて短時間で製氷される
と共に、リーマで割られる氷には散水される水が接触しないことで、冷却乾燥状態の氷を確実に得ることができ、氷が他の氷や生鮮物と接触しても溶けにくく、冷却能力を長時間にわたり維持でき、特に移送用容器による生鮮物の移送等に都合がよい。
【0015】
また、本発明に係る鮮度保持システムは必要に応じて、前記保存装置が、前記収納領域に収納した氷及び電解水を、前記製氷装置で得られた新たなアルカリ性電解水氷、並びに、前記電解水生成装置で生成された新たなアルカリ性電解水と、所定時間間隔で入替えると共に、浸透圧調整用の電解質成分を追加して当該成分の濃度を調整するものである。
【0016】
このように本発明によれば、保存装置の収納領域に収納された冷却用の氷と電解水を、所定時間間隔で新たな氷と電解水に入替え、収納される氷と電解水に備わるアルカリ性電解水としての還元作用を元の状態に戻すことにより、時間経過と共に低下する氷及び電解水における生成物の酸化を抑制する能力を、一定のレベル以上に維持でき、生鮮物の酸化による腐敗等の進行を氷と電解水の作用で抑制して、収納領域内の生鮮物の鮮度を確実に保持できる。
【0017】
また、本発明に係る鮮度保持方法は、真水である水に電解質成分を添加した上で電気分解を行い、アルカリ性電解水と酸性電解水とを生成し、製氷装置の冷却された製氷面に前記アルカリ性電解水を散水し、水を瞬間的に凍結させて製氷面に沿って連続する氷を生じさせ、さらに当該氷を割ってフレーク状のアルカリ性電解水氷を製造し、当該フレーク状のアルカリ性電解水氷を、前記アルカリ性電解水と共に所定の保温された収納領域に収納して、当該収納領域の温度を前記氷の氷点温度と略一致させ、さらに収納領域内のアルカリ性電解水に浸透圧調整用の電解質成分を添加した状態で、保存対象の多数の生鮮物をアルカリ性電解水に浸漬させつつ前記収納領域に収納して、生鮮物を一時的に冷却保存し、
前記収納領域に収納されるものとは別に前記製氷装置で新たに製造された前記アルカリ性電解水氷と、前記収納領域から小分けで取り出された一又は複数の生鮮物とを移送用容器に収納して、生鮮物を用いる移送先までの移送の間、
移送用容器内部を氷の氷点付近の温度に保持して、生鮮物を冷却保存
し、さらに、前記電気分解で生成した酸性電解水を、タンクに一時的に貯溜してから、生鮮物を前記収納領域に収納するまでの取扱い経路、及び/又は生鮮物を前記収納領域から移送用容器に移すまでの取扱い経路に導入して、生鮮物の取扱い経路を洗浄するものである。
【0018】
このように本発明によれば、水道水や工業用水等の真水である水を用いて電気分解を行い、アルカリ性電解水を生成すると共に、このアルカリ性電解水を製氷装置で製氷して電解水の氷を得、これらアルカリ性電解水と電解水氷とを生鮮物と共に収納領域に収納して生鮮物を冷却保存することにより、腐敗につながるバクテリアの活動を電解水氷に基づく冷却で抑制できることに加えて、電解水とその氷の備える強力な還元力により生鮮物中の酸素による酸化作用を抑制することができ、生鮮物の細胞の酸化に伴う腐敗進行を抑えられ、生食可能な期間を延すなど長期にわたり生鮮物の鮮度を維持でき、同じ時間経過状態での生鮮物の品質を従来保存方式より高められる。また、生鮮物の鮮度を長く維持できることで、冷却保存状態からの取出し時期を適宜選定でき、生鮮物の捕獲又は収穫直後に限らない最適なタイミングで取り出して、鮮度を保ったまま出荷でき、生鮮物の商品価値を高められる。
【0020】
さらに、電気分解でアルカリ性電解水と共に生成する酸性電解水を、生鮮物の取扱い経路に導入して洗浄に用い、生鮮物の取扱いに伴って周囲に生じやすい雑菌や臭気の抑制が図れることにより、酸化作用のある酸性電解水を無駄なく有効に活用して生鮮物の取扱い経路を清浄化でき、生鮮物の腐敗や品質劣化につながる雑菌等の付着を未然に防止できると共に、不快な臭気を抑えられることで作業環境を改善でき、作業性を向上させられる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る鮮度保持システムを前記
図1ないし
図7に基づいて説明する。
前記各図に示すように、本実施形態に係る鮮度保持システム1は、取水された水道水又は工業用水等の水を電解助剤を加えた上で電気分解して、アルカリ性電解水と酸性電解水を生成する電解水生成装置10と、アルカリ性電解水を導入して製氷を行い、アルカリ性電解水の氷を製造する製氷装置20と、製氷装置20で製造された氷を一時的に貯留する貯氷槽30と、多数の生鮮物60を氷及び電解水と共に収納して、生鮮物60を冷却保存する前記保存装置としての保存容器40と、この保存容器40から取り出された生鮮物60を氷と共に収納する移送用容器50とを備える構成である。
【0023】
前記電解水生成装置10は、外部から取り込んだ水道水や工業用水等の水(真水)に電解水生成用の電解助剤を添加する電解補助装置11と、電解助剤が添加された水を電気分解してアルカリ性電解水と酸性電解水を生成する電解セル12とを備える構成である。
【0024】
前記電解補助装置11は、0.05%〜0.1%程度の電解質成分、例えば食塩等、を含んだ水を、電解助剤として、電解セル12に導入される水に対し添加する装置であり、電解セル12における水の電気分解による電解水の生成を促進させるものである。
【0025】
前記電解セル12は、内部に陰電極13、陽電極14、及びイオン交換膜15を備えており、電解補助装置11で電解助剤を添加された水を取水管10aを通じて内部に導入し、陰電極13と陽電極14間で通電することにより水を電気分解し、イオン交換膜15で隔てられた一方の陰電極側領域12aではアルカリ性電解水(pH:約8.5〜10.5
)を生じさせ、また他方の陽電極側領域12bでは酸性電解水(pH:約3.5)を生じさせ、各電解水を出水管10c、10dからそれぞれ出水するものである。また、水の電気分解に伴い、陰電極13表面では気体の水素が、陽電極14表面では気体の酸素が、それぞれ発生し、これらの一部は各電解水に溶け込んだ状態となる。
【0026】
電解セル12の陰電極側領域12aで生じるアルカリ性電解水のORP(酸化還元電位)は−300mV程度となり、高い還元作用を有している。一方、陽電極側領域12bで生じる酸性電解水は、強い酸化作用により殺菌等の効果を備えることとなる。
【0027】
この電解水生成装置10の後段側には、必要に応じて、アルカリ性電解水を一時的に貯溜するためのタンク10eや、酸性電解水を一時的に貯溜するためのタンク10fが設けられる。
【0028】
前記製氷装置20は、内周面21aを製氷面とされる略円筒状の製氷シリンダ21と、製氷シリンダ21内周面に向けて氷とする水を散水供給する散水部22と、製氷シリンダ21下側に配設されて製氷シリンダ21で凍結せず流下した水を受止めて貯溜する底容器部23と、製氷シリンダ21の内側に回転可能に配設される可動支持部24と、この可動支持部24に回転自在に支持されて製氷シリンダ21内周面に沿って移動しつつ氷を割るリーマ25とを備える構成である。
【0029】
前記製氷シリンダ21は、伝熱性に優れた内壁と外部に対し断熱状態とされた外壁とを有する二重構造の略円筒体とされ、内壁と外壁の間には製氷用の冷媒通路が内蔵され、冷媒の働きにより冷却される内壁の内周面21aを製氷面とする構成である。内壁と外壁の間の冷媒通路21bは、外部の装置と共に公知の冷凍サイクルを構築しており、この冷媒通路部分が冷凍サイクルの蒸発器として働き、前記冷却手段として内周面21aを冷却する仕組みである。なお、製氷シリンダ21の上側は蓋部21cで覆われている。
【0030】
製氷シリンダ21の冷媒通路21bに導入される冷媒は、一般的な冷凍サイクルに用いられる公知の媒体であり、その詳細な説明は省略するが、アルカリ性電解水が確実に凍結して氷となり、且つ氷周囲の雰囲気も散水の行われない領域では冷却による乾燥状態にする温度まで、内周面21aを十分冷却可能とする状態で導入されるものである。
【0031】
前記散水部22は、所定量の水を一時的に貯溜可能な容器状として形成され、その外周部分には内部の水を製氷シリンダ21の内周面21a各部に向かわせる散水用の孔22aが多数穿設されてなる構成である。この散水部22は、可動支持部24の上部に一体化させて配設され、製氷シリンダ21の内側の空間のうち、リーマ25による氷の割り落しが行われる領域を除いた所定範囲(散水区域27)において、前記各孔22aから水を散水しつつ、可動支持部24と共に回転することで、氷の割り落し動作と並行して、散水箇所を移動させて製氷シリンダ21の内周面21a各部にもれなく氷を生じさせられる仕組みである。散水された水が製氷シリンダ21の冷却された内周面21aに付着して凍結することで、厚さ2mm前後の薄い氷を生じさせることができる。
【0032】
前記底容器部23は、製氷シリンダ21を下から支えつつ、散水されたものの製氷シリンダ21の内周面21aで凍結せずに流下した余剰の水を回収して一時的に貯溜する容器形状とされる構成であり、中央部には製氷シリンダ21内周面から落下した氷を通過させる開放部23aが設けられる。この開放部23aの上側所定範囲には、凍結せず流下した水を周囲の底容器部23へ導く略板状の案内部26が、可動支持部24と一体に回転可能として配設される。
【0033】
前記可動支持部24は、製氷シリンダ21の内側の領域に製氷シリンダ21の円筒中心
軸線を中心として回転可能に配設される中心軸24aと、この中心軸24aに固定されてシリンダ内周面21a側に伸び、リーマ25を回動自在に支持する上下二つのリーマ支持部24b、24cと、このリーマ支持部24b、24cに取付けられて製氷シリンダ21内側の領域を散水区域27と氷を割落させる製氷区域28とに分ける仕切部24dと、製氷シリンダ21上方から前記中心軸24aを製氷シリンダ21に対し所定回転方向に回転駆動する駆動部24eとを備える構成である。
【0034】
前記仕切部24dは、前記散水部22から案内部26にわたる範囲に配置されてリーマ25側へ水が飛散するのを防止するものであり、リーマ25に対し可動支持部24回転方向前方側となる仕切部24dの一端側には、水分除去用のワイパー24fが配置され、また、リーマ25に対し可動支持部24回転方向後方側となる仕切部24dの他端側には残留氷片除去用の他のワイパー24gが配置される。
【0035】
前記ワイパー24fは、可撓性材で形成され、リーマ25に対し可動支持部24回転方向前方側でシリンダ内周面21aに生じた氷の表面と接触可能として配設される構成である。このワイパー24fが、氷の表面に接触しながら移動して氷の表面に付着した不要な水分を除去すると共に、仕切部24dと連続する配置によって、散水の行われる散水区域27とリーマ25のある製氷区域28とを確実に隔離して、散水区域27からリーマ25側への水分の進入を防ぐ。
【0036】
前記ワイパー24gは、可撓性材で形成され、リーマ25に対し可動支持部24回転方向後方側でシリンダ内周面21aとの間隔を極めて小さくして配設される構成である。このワイパー24gが、シリンダ内周面21aに沿って移動して、内周面に付着したままの残留氷片を除去すると共に、仕切部24dと連続する配置によって、散水区域27と製氷区域28とを確実に隔離して、散水区域27からリーマ25側への水分の進入を防ぐ。
【0037】
前記リーマ25は、略円柱状の回動軸25aの周囲に刃先を螺旋状配置とされる割氷用の複数の刃25bを一体に取付けられてなり、可動支持部24の中心軸24aから突出するリーマ支持部42に回動自在に支持される構成である。
【0038】
リーマ25は、回動軸25a周りには回転駆動されていないため、外部から力が加わらない状態では静止状態を維持するが、可動支持部24の製氷シリンダ21に対する回転で製氷シリンダ21に対しリーマ25も中心軸24a周りに回転する公転動作Rを行う際、シリンダ内周面21aの氷と接触して力を受けることにより、リーマ25に対するシリンダ内周面21aの氷の相対移動に追従する形で、リーマ25が回動軸25a周りに回転する自転動作rを行う仕組みである(
図6参照)。
【0039】
リーマ25自体の回転(自転)に伴い、リーマ25の刃25bとシリンダ内周面21aの間隔より大きい所定厚さでシリンダ内周面21aに薄く貼付いた状態で結氷した氷に対し、リーマ25の螺旋状の刃25bが食込んで氷を割り、且つ刃25bと氷との接触位置を順次移動させていく一連の氷を割る動作が連続的に進行する。
【0040】
リーマ25の刃25bが螺旋状となっていることで、氷との接触は刃全体でなく最も製氷シリンダ内周面21a寄り位置となった一部に限定される。このリーマ25における刃25bの数を変えて刃の間隔を調整することで、氷の大きさを粒状から塊状まで変化させることができる。
【0041】
このリーマ25がシリンダ内周面21aに沿って移動することで、シリンダ内周面21aに薄く貼付いた状態で生じた氷が、リーマ25により割られてそのままシリンダ内周面21aから落下していくこととなり、大きさ3〜5cmのフレーク(薄片)状の氷として
落下する状態が継続し、氷を連続的に製造する仕組みが得られる。
【0042】
電解水は時間と共にその性質が原水の性質に戻るため、素早く製氷する必要があるが、この製氷装置20では電解水をシリンダ内周面21aで急冷して速やかに製氷できるため、電解水の特別な性質を有したままの氷(電解水氷)を得ることができる。
【0043】
前記貯氷槽30は、内外断熱状態とされる保温構造の略箱状容器で形成され、上部に製氷装置20で生じた氷を通過させる入口部を有すると共に、底部には氷の取出部31を設けられ、製氷装置20下側に配設される構成である。この貯氷槽30は、製氷装置20で製造されたフレーク状の氷を外気との接触を防ぎつつ内部領域に蓄積し、必要に応じて取出部31から氷を外部へ連続的に取出せる仕組みである。貯氷槽30の保温構造については、公知の氷保管装置や冷凍庫等に用いられるものと同様の構成であり、詳細な説明を省略する。
【0044】
前記保存容器40は、上面開放状態の箱状体で形成される構成であり、開放した上側から生鮮物60や氷、電解水を出し入れする仕組みである。保存容器40は、電解水生成装置10と製氷装置20から電解水や氷を供給可能な箇所に配置されて、電解水生成装置10で得られたアルカリ性電解水と、製氷装置20で製氷され貯氷槽30を経たアルカリ性電解水の氷70と、多数の生鮮物60を内部に収納し、氷の冷却能力に基づいて各生鮮物60を冷却状態で保持し、この生鮮物60を出荷時など必要に応じて外部へ取出し可能とする仕組みである。なお、この保存容器40は、内部への生鮮物や氷の投入が容易な、上面が開放した形態に限られるものではなく、上部を必要に応じ開閉可能な蓋付きの構造として、保温性や雑菌の入りにくさを重視したものとすることもできる。
【0045】
前記移送用容器50は、全面にわたって内外断熱状態とされる保温構造の移動可能な箱状体で形成され、上部を取外し可能な蓋部とされる構成であり、製氷装置20で製氷され貯氷槽30を経たアルカリ性電解水の氷と、保存容器40から取り出された一又は複数の生鮮物60を内部に収納し、生鮮物60を冷却状態で保持し、生鮮物60を使用に供する際に蓋部を開放して外部へ取出し可能とする仕組みである。移送用容器50の保温構造については、公知の発泡スチロール箱等の簡略な保温性のある箱と同様の構成であり、詳細な説明を省略する。
【0046】
次に、本実施形態に係る鮮度保持システムの使用状態について説明する。まず、電解水の生成について、電解水生成装置10では、取水管10aから取り込んだ水道水又は工業用水等の水に電解補助装置11で電解助剤を添加した後、この電解助剤を添加した水を電解セル12の内部に導入し、イオン交換膜15を介して陰電極13と陽電極14間で通電して電気分解を行うことにより、イオン交換膜15で隔てられた陰電極側領域12aでは、アルカリ性電解水が生成される。また、陽電極側領域12bでは酸性電解水が生成される。電気分解により生成された各電解水はそれぞれ出水管10c、10dを通じて取り出される。アルカリ性電解水は、一部は製氷装置20に送られて製氷され、残りの一部はタンク10eに一時的に貯溜されてから、保存容器40に送られて使用される。また、酸性電解水は、タンク10fに一時的に貯溜されてから、洗浄、殺菌用途として生鮮物60の取扱われる経路上の各場所に供給されることとなる。
【0047】
続いて、製氷装置20による製氷動作について説明する。あらかじめ、冷媒の供給で製氷シリンダ21の内周面21aは電解水を凍結させられる程度に十分冷却されているものとする。製氷に際して、可動支持部24をはじめとする可動部分を回転させると共に、上部の散水部22に電解水生成装置10からアルカリ性電解水を導入する。水は散水部22の各孔22aを経て製氷シリンダ21の内周面21aに沿って流下する。製氷シリンダ21の内周面21aに接した水の大部分は凍結し、内周面21aに氷70として付着した状
態となる。一方、凍結しなかった残りの水は流下して、製氷シリンダ21下端から案内部26を経由して底容器部23に達する。この底容器部23に一時的に貯溜された水は、ポンプや配管等を介して散水部22に戻ることとなる。
【0048】
なお、この底容器部23に貯溜された水を散水部22に戻す代りに、いったん電解水生成装置に還流させてあらためて電気分解を行い、生成されたアルカリ性電解水を散水部22に導入するようにして、アルカリ性電解水を確実に製氷シリンダ21の内周面21aに供給できるようにする構成とすることもできる。
【0049】
製氷装置20では、散水区域27に位置する製氷シリンダ21の内周面21aに対し、散水部22から散水が継続することで、内周面21aにおける水の凍結が進行し、可動支持部24の回転に伴い移動する散水区域27の終端で、氷70はあらかじめ設定された所定厚さ(約2mm厚)まで成長する。散水が行われる散水区域27とリーマ25のある製氷区域28とを仕切部24dが隔てると共に、散水区域27と製氷区域28の境界にワイパー24f、24gがそれぞれ存在することで、散水された水がリーマ25近傍に向うことはない。
【0050】
製氷シリンダ21の内周面21aに生じた氷70が、可動支持部24の回転に伴う散水区域27の移動で同区域から外れる際は、その表面はワイパー24fで清浄化され、余分な水分を除去される。そして、氷70はリーマ25の刃25bと接触し、リーマ25は回転(自転動作r)して刃25bと氷70との接触位置を変えながら氷70の表面に刃25bを食込ませ、氷70を割っていく(
図6参照)。割られた氷70は、水との接触を絶つことで冷却乾燥した氷の性質により、製氷シリンダ21の内周面21aから容易に遊離してフレーク状の氷として落下する。この内周面21aから落下した氷は、底容器部23の開放部23aを通過して製氷装置20下側の貯氷槽30に達する。
【0051】
リーマ25が氷70を連続的に割って落す仕組みであり、オーガ式製氷機のように螺旋刃で削り取って内周面から剥離させつつ出口側へ氷を送出すものではないことから、氷を割るリーマ25と割られた後の氷70が接触することはなく、オーガ式製氷機のように刃と剥がされた後の氷とが連続して接触する状態を避けることができ、氷がさらに割れて細かい粒状になったりせず、フレーク状の形態を維持しやすい。
【0052】
一方、製氷シリンダ21の内周面21aにおける氷70が落下して無くなった部分は清浄化しており、可動支持部24の回転に伴って移動するワイパー24gの通り過ぎた後、再び散水区域27に移行し、散水部22からの散水を受けてあらためて表面に氷を生じさせることとなる。こうして、冷却状態の製氷シリンダ21の内周面21aに対する散水部22からの散水と、可動支持部24の回転駆動を継続している限りは、製氷装置20での連続的な氷製造状態が維持される。
【0053】
リーマ25による割り動作で得られるフレーク状の氷70は、製氷シリンダ21の内周面21aの冷却状態を維持したまま落下させていることで、表面積が大きく且つ表面の湿りの少ないものとなっており、製氷装置20を出た後に貯氷槽30等に大量に投入され蓄積されても、氷70は互いに結合せず、通常の製氷で得られた氷のように一体に固まる状態にはなりにくい性質を有する。
【0054】
こうして製氷装置20で製造されたアルカリ性電解水の氷70は、貯氷槽30に落下し、ここに一旦貯められてから、後段側の保存容器40で必要となった際に所定量を取り出され、保存容器40に投入される。
【0055】
保存容器40では、貯氷槽30から取り出されたアルカリ性電解水の氷70が、電解水
生成装置10から送られた電解水や、浸透圧調整用電解質としての塩分と合わせて内部の収納領域に収納され、さらに、生鮮物60が同じ収納領域に収納されることで、生鮮物60は電解水に浸漬され、氷70及び電解水で周囲を囲まれた状態で冷却保存される(
図7参照)。
【0056】
保存容器40内の収納領域では、生鮮物60の氷70による冷却でバクテリアの活動が抑制されることに加え、アルカリ性電解水の還元作用により酸化が抑えられることで、生鮮物60の鮮度は維持される。また、電解水は、塩分添加で浸透圧を適切に調整されることで、生鮮物60内部への水分浸透が起らず、生鮮物60の品質の劣化もない。なお、保存容器40内の収納領域では、時間経過と共に氷70や水における電解水としての効果が失われるため、電解水と氷は所定時間ごとに新たに生成されたものと入替えられ、塩分も同時に補給される。この保存容器40内の収納領域における電解水と氷の所定時間ごとの入替え、並びに塩分の補給は、電解水生成装置10やタンク10eからの電解水供給、製氷装置20や貯氷槽30からの氷供給等と連係した自動制御により実行するものとして、人手を介さないようにするのが好ましい。
【0057】
生鮮物60は、保存容器40内への収納後、出荷すべきと判断された所望の時点で取り出され、製氷装置20で新たに生成された、又は貯氷槽30から新たに取り出された、新しい電解水の氷70と共に、移送用容器50に収納され(
図7参照)、冷却状態が保たれたまま移送先に送られる。移送用容器50はその保温能力と氷70の冷却力で、内部を氷の氷点付近の温度に保持でき、移送先で移送用容器50を開封して生鮮物60を取り出すまでの間、電解水の氷70で冷却された生鮮物60は状態をほとんど変化させることなく、鮮度を維持できる。
【0058】
なお、この保存容器40の収納領域に至るまでの生鮮物60の取扱い経路や、生鮮物60を保存容器40の収納領域から移送用容器50へ移すまでの取扱い経路となる各作業場には、電解水生成装置10により生成された酸性電解水が導入され、洗浄されることとなる。酸性電解水には次亜塩素酸(HClO)が多く含まれることから、洗浄、殺菌及び消臭能力に優れ、生鮮物を取扱う箇所の浄化、殺菌状態や臭気抑制状態を確実に維持でき、また、アルカリ性電解水と同時に生成されるものの、生鮮物の鮮度保持に直接関与しない酸性電解水を有効に活用できる。
【0059】
このように、本実施形態に係る鮮度保持システムにおいては、水道水や工業用水等の真水である水を用いて電解水生成装置10で電気分解を行い、アルカリ性電解水を生成すると共に、このアルカリ性電解水を製氷装置20で製氷して電解水の氷70を得、これらアルカリ性電解水と電解水氷70とを生鮮物60と共に保存容器40に収納して生鮮物60の冷却保存に用いることから、腐敗につながるバクテリアの活動を電解水氷に基づく冷却で抑制できることに加えて、電解水と氷の備える強力な還元力により生鮮物中の酸素による酸化作用を抑制することができ、生鮮物の細胞の酸化に伴う腐敗進行を抑えられ、生食可能な期間を延すなど長期にわたり生鮮物の鮮度を維持でき、同じ時間経過状態での生鮮物の品質を従来保存方式より高められる。また、生鮮物の鮮度を長く維持できることで、保存容器40における冷却保存状態からの取出し時期を適宜選定でき、生鮮物の捕獲又は収穫直後に限らない最適なタイミングで保存容器40から取り出して、鮮度を保ったまま市場への出荷等ができ、生鮮物の商品価値を高められる。
【0060】
なお、前記実施形態に係る鮮度保持システムにおいては、電解水生成装置10の電解セル12で電解質を含む水の電気分解を行って、アルカリ性電解水と酸性電解水をそれぞれ生成する中、同じく電気分解で発生する気体の水素や酸素の一部が各電解水に溶け込み、こうした各電解水の還元作用(抗酸化作用)や酸化作用(殺菌作用)に水素の還元作用や酸素の酸化作用も加わった状態で、各電解水を利用する構成としているが、これに限らず
、アルカリ性電解水への水素の溶存量や、酸性電解水への酸素の溶存量を積極的に増やして、各電解水の還元力や酸化力をさらに高める構成とすることもできる。例えば、陰電極の形状をメッシュ状とするなど電極形状の工夫で、発生する水素気体の気泡の大きさを極めて小さくし、発生した水素をアルカリ性電解水に溶け込みやすくして溶存量を増加させるようにしたり、電解水を生成する電解セルとは別に一又は複数の補助電解セルを設け、この補助電解セルにおける電気分解で発生する気体の水素及び酸素を前記電解セルに流入する水に混入させて、各気体の溶存量を電解セルのみの場合より増大させたり、別の装置で生じさせた気体の水素や酸素を各電解水に吹込んで溶け込ませ、溶存量を増やしたりする構成をそれぞれ採用すれば、各電解水の還元力や酸化力の向上を図ることができる。
【実施例】
【0061】
本発明の鮮度保持システムを用いて生鮮物である鮮魚を冷却保存し、時間の経過に伴う鮮度変化について測定評価を実施し、比較例としての通常の氷等で冷却保存した場合の鮮魚における鮮度変化と比較した結果について説明する。
【0062】
生鮮物のうち、鮮魚については、一般に鮮度判定の指標としてK値(ATP関連化合物総量に対する分解生成物の割合(%))が知られており、このK値が小さいほど魚は新鮮であるといえる。このK値の上昇を低く抑えるように保存を行えば、魚の鮮度を維持できることとなる。
【0063】
ここで、K値について詳細に説明すると、魚肉に含まれるアデノシン三リン酸(ATP)は、酵素により分解して、アデノシン二リン酸(ADP)、アデニル酸(AMP)、イノシン酸(IMP)、イノシン(HxR)、及びヒポキサンチン(Hx)の順に変化する反応を示す。このような魚肉のATP分解反応は、死後直ちに開始する。このことから、魚類の生きの良さ(鮮度)については、上記のATP分解過程を目安として、下記のように求められる「K値」で表すことができる。
【0064】
K値(%)=(D1/D2)×100
ただし、
D1=HxR+Hx(イノシンとヒポキサンチンの合計量)
D2=ATP+ADP+AMP+IMP+HxR+Hx(ATP関連化合物総量)
なお、魚類は、イノシンやヒポキサンチンが多くなるにつれて鮮度を低下させることが知られており、K値(%)はこれらイノシンやヒポキサンチンの量を反映したものとなっている。
【0065】
具体的には、K値が20%以下の場合、魚は極めて鮮度良好であり、刺身に適した状態である。K値が20%を超えて30%以下となる場合は、新鮮といえる状態である。K値が30%を超えて40%以下となる場合は、煮焼き用に適した状態である。K値が40%を超えて50%以下となる場合は、加熱調理すれば食べられる状態である。K値が50%を超えて80%以下となる場合は、初期腐敗の状態で鮮度は不良である。
【0066】
実際に、ウマヅラハギについてK値を取得した。測定は、ウマヅラハギの肉からATP関連化合物としてイノシンとヒポキサンチンのみ含む試料と、これらイノシンとヒポキサンチンに限られない、他のATP関連化合物も含む試料をそれぞれ作成し、前者からD1、すなわちイノシンとヒポキサンチンの合計量を計測し、後者からD2、すなわちATP関連化合物総量を計測して、K値を算出する公知の手法を用いて行った。
【0067】
評価は、実施例として、本発明の鮮度保持システムにより得られたアルカリ性電解水とアルカリ性電解水氷での冷却環境で保存したウマヅラハギについて、保存開始時と、1日、2日、3日、4日、及び7日経過時点における試料をそれぞれ作成して各値(D1、D
2)を計測し、各々についてK値を算出して行った。 また、比較例として、従来から一般的なブロック氷と海水を用いた冷却環境で保存した場合について、同様の試料をそれぞれ取得して計測を実行し、各々同様にK値を求めた。
【0068】
本発明の鮮度保持システムにより得られたアルカリ性電解水とアルカリ性電解水氷で冷却保存した場合におけるウマヅラハギについての各測定で得られた、実施例としての各測定時期ごとのK値(%)を、比較例の場合における値と合わせて表1に示すと共に、各K値をプロットしたグラフを、
図8に示す。グラフにおいては、縦軸がK値の大きさである。
【0069】
【表1】
【0070】
表1及び
図8のグラフより、実施例の電解水と電解水氷で冷却保存したもののK値は、保存開始から4日目で22.1%、7日目で45.4%となっており、比較例の場合、4日目で40.3%、7日目で71.1%と大幅に悪化しているのに対して良好な値を示しており、電解水と電解水氷の作用により、保存開始時からのK値の増加、すなわち鮮度の低下が抑えられ、比較例に対し鮮度を良好に維持していることがわかる。
【0071】
以上から、本発明の鮮度保持システムを用いることで、生鮮物におけるK値の上昇を低く抑えるように生鮮物の冷却保存を行うことができ、生鮮物の鮮度を長く適切に保持できることは明らかである。