【実施例】
【0065】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0066】
環境DNA解析方法
50 ml容遠沈管に土壌1.0 gを量り取り、表1に示すDNA抽出緩衝液(pH 8.0)を8.0 ml、20 %(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム溶液を1.0 ml加え、1,500 rpm、室温で20分間撹拌した。撹拌後、50 ml容遠沈管から滅菌済み1.5 mlマイクロチューブに1.5 ml分取し、16℃、8,000 rpmで10分間遠心分離した。水層を新たなマイクロチューブに700μl分取し、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1、v/v)を700μl加えて混和した後、16℃、13,000 rpmで10分遠心分離した。遠心分離後、水層を新たなマイクロチューブに500μl分取し、2-プロパノールを300μl加えて緩やかに混和し、16℃、13,000 rpmで15分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、70 %(v/v)エタノールを500μl加え16℃、13,000 rpmで5分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去しアスピレーターで30分間減圧乾燥させた。これに表2に示すTE 10:1緩衝液(pH 8.0)を50μl加えよく溶解させ、これをeDNA溶液とした。アガロース2.0 g、表3に示す50×TAE緩衝液(pH 8.0)4.0 ml及び0.1 mMエチジウムブロマイド溶液20μlに蒸留水を加えて200 mlとし、1.0 %アガロースゲルを作製した。eDNA溶液5.0μlにローディングダイ(東洋紡、大阪)1.0μlを混合し、全量6.0 μl、既知量のDNAを含むスマートラダー(ニッポンジーン、富山)1.5μlをアガロースゲルにアプライした。これを100 Vで40分間電気泳動を行った後アガロースゲルにUV照射し、DNAバンドを確認した。KODAK 1D Image Analysis software(KODAK、NY、USA)を用いてスマートラダーのDNAバンドを解析し、蛍光強度に対するDNA量の検量線を作成した。この検量線を用いて、各サンプルDNA溶液のDNAバンドの蛍光強度からDNA量を求め、各土壌1.0 g当たりのeDNA量を算出した。
【0067】
eDNA量をDAPI染色による土壌バクテリア数に換算する検量線によって土壌バクテリア数を求めた。定量したeDNA量を関係式
【0068】
【数1】
【0069】
を用いて土壌バクテリア数を算出した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
窒素循環(硝化)活性の測定方法
a)硝化能の評価
土壌10 gをガラスシャーレに量り取り、110℃で2時間乾燥後、重量減少量から含水率を算出した。2 mmメッシュのふるいにかけた乾燥重量15 gの土壌を50 ml容UMサンプル瓶に入れ、カゼインを4 mg/g-soilとなるように添加した。土壌をよくかき混ぜた後、25℃、含水率一定(30%)で4日間静置した。1及び4日目の土壌中の無機態窒素を後述(b)の抽出方法により抽出し、後述(c〜e)の解析方法によりアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素をそれぞれ定量した。アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素の測定値から、1日当たりのカゼインから硝酸態窒素への変換量を算出し、窒素循環(硝化)活性として評価した。
【0074】
b)土壌からの無機態窒素の抽出
50 ml容遠心チューブに土壌サンプル2.0 gと1 M塩化カリウム水溶液20 mlを加え懸濁し、100 rpmで1時間振とうした。振とう後、10,000 rpmで5分間遠心分離し、その上清を無機態窒素抽出液とした。
【0075】
c)インドフェノール法によるアンモニア態窒素の定量
土壌から抽出した無機態窒素抽出液1.0 mlを2.0 ml容マイクロチューブに分注し、表4に示す次亜塩素酸ナトリウム溶液500μlを加えて撹拌し、室温で5分間静置した。静置後、表5に示すフェノール・ニトロプルシッドナトリウム溶液500μlを加えて撹拌し、30℃で60分間静置した。静置後、640 nmの吸光度を測定した。吸光度測定時にアンモニア態窒素標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式を用いてアンモニア態窒素量(NH
4+-N)を測定した。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
d)ナフチルエチレンジアミン法による亜硝酸態窒素の定量法
土壌から抽出した無機態窒素抽出液1.0 mlを1.5 ml容マイクロチューブに分注し、表6に示すジアゾ化剤100μlを加えて撹拌した。室温で5分間静置した後、表7に示すカップリング剤100μlを加えて再び室温で20分間静置し、540 nmの吸光度を測定した。亜硝酸態窒素標準液を用いて作成した検量線から亜硝酸態窒素量(NO
2--N)を測定した。
【0079】
【表6】
【0080】
【表7】
【0081】
e)ブルシン・スルファニル酸法による硝酸態窒素の定量
土壌から抽出した無機態窒素抽出液800μlと、表8に示すブルシン・スルファニル酸溶液400μlを試験管に分注し、硫酸溶液(硫酸:水 = 20:3)4.0 mlを加えて撹拌した。冷暗所で40分間静置後、410 nmの吸光度を測定した。吸光度測定時に硝酸態窒素標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式を用いて硝酸態窒素量(NO
3--N)を測定した。
【0082】
【表8】
【0083】
油分残存率の測定方法
土壌2.0 g、無水硫酸ナトリウム約0.4 g、シリカゲル約0.8 gを50 ml容共栓三角フラスコに採取しH997抽出液(堀場製作所、京都)を10 ml加えた。マグネチックスターラーで1時間撹拌した。撹拌後抽出液をろ過し、これを油分抽出サンプルとした。油分抽出サンプルを油分濃度計の測定範囲に入るように、適宜希釈した。ろ液約6.5 mlを吸収セルに入れ油分濃度計(OCMA-350、堀場製作所、東京)を用いて測定を行った。測定条件を表9に示す。(1)式により測定値を油分濃度に換算した。
【0084】
【表9】
【0085】
【数2】
【0086】
土壌成分の分析方法
・Total-C
Total-Cは全有機炭素計(TOC-V
CPH、島津製作所、京都)及び固体試料燃焼装置(SSM-5000A、島津製作所、京都)を用いて測定した。サンプルボートに土壌を適量量り取り、固体試料燃焼装置にサンプルボートを挿入し、表10の条件で土壌を燃焼した。得られたピーク面積から、グルコースを用いて作成した検量線に基づいて、総炭素量(Total-C)を算出した。
【0087】
【表10】
【0088】
・Total-N
土壌試料を100 mL容分解びんに少量(0.01〜0.1 g程度)取り、精秤した。これに蒸留水50 mLと水酸化ナトリウム-ペルオキソ二硫酸カリウム溶液(表11)を10 ml加え、密栓して混合した。この分解びんをオートクレーブに入れ、120℃で30分間加熱分解した。ここで得られた上清を全窒素抽出液とした。放冷後、全窒素抽出液5 mlを試験管に取り、塩酸水溶液(塩酸:蒸留水=1:16)を1 ml加えた。この溶液を、全有機炭素計(TOC-V
CPH、島津製作所、京都)を拡張した全窒素計(TNM-1、島津製作所、京都)に供し、得られたピーク面積から、硝酸を用いて作成した検量線に基づいて、総窒素量(Total-N)を算出した。
【0089】
【表11】
【0090】
・Total-P
乾燥土壌1.0 g相当の土壌サンプル、濃硝酸20.0 ml、濃硫酸1.0 mlを200 ml容コニカルビーカーに入れ、時計皿をかぶせてホットプレート上で140℃で加熱した。煙の色が茶色から白色になるまでおよそ3時間加熱した後、放冷した。放冷後、過塩素酸10.0 mlを加え、時計皿をかぶせてホットプレート上で180℃で加熱した。試料溶液がほぼ無色になるまでおよそ4時間加熱した後、放冷した。試料溶液をろ過し、100 mlメスフラスコへ入れ、蒸留水で定容し、これを全リン抽出液とした。
【0091】
全リン酸抽出液1.0 mlを2.0 ml容マイクロチューブに分注し、モリブデンブルー溶液(表12)100μlを加えて撹拌し、30℃で30分間静置した。静置後、710 nmにおける吸光度を測定した。吸光度測定時にリン酸標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式から土壌中の全リンを定量した。
【0092】
【表12】
【0093】
・Soluble-P
200 mL容ポリビンに乾燥土壌および試料サンプル1.0 gと蒸留水200 mlを加え懸濁し、165 rpmで30分間振とうした。振とう後、10,000 rpmで5分間遠心分離し、その上清を水溶性リン(Soluble-P)抽出液とした。
【0094】
水溶性リン酸抽出液1.0 mlを2.0 ml容マイクロチューブに分注し、前述のモリブデンブルー溶液(表12)100μlを加えて撹拌し、30℃で30分間静置した。静置後、710 nmにおける吸光度を測定した。吸光度測定時にリン酸標準液を用いて検量線を作成し、得られた関係式から土壌中の水溶性リンを定量した。
【0095】
・Total-K
乾燥土壌1.0 g相当の土壌サンプル、濃硝酸20.0 ml、濃硫酸1.0 mlを200 ml容コニカルビーカーに入れ、時計皿をかぶせてホットプレート上で140℃で加熱した。煙の色が茶色から白色になるまでおよそ3時間加熱した後、放冷した。放冷後、過塩素酸10.0 mlを加え、時計皿をかぶせてホットプレート上で180℃で加熱した。試料溶液がほぼ無色になるまでおよそ4時間加熱した後、放冷した。試料溶液をろ過し、100 mlメスフラスコへ入れ、蒸留水で定容し、これを全カリウム抽出液とした。
【0096】
全カリウム抽出液を、原子吸光光度計(Z-2300、日立ハイテクノロジーズ、東京)を用いて表13に示す条件で測定した。測定毎にカリウム標準液(ナカライテスク、京都)を用いて検量線を作成し、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)に換算した。さらに、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)を(2)式を用いて土壌中のカリウム量(mg/g-sample)に換算した。
【0097】
【数3】
【0098】
【表13】
【0099】
・Soluble-K
200 mL容ポリビンに乾燥土壌および試料サンプル1.0 gと蒸留水200 mlを加え懸濁し、165 rpmで30分間振とうした。振とう後、10,000 rpmで5分間遠心分離し、その上清を水溶性カリウム(Soluble-K)抽出液とした。
【0100】
水溶性カリウム抽出液を原子吸光光度計(Z-2300、日立ハイテクノロジーズ、東京)を用いて上述の表13に示す条件で測定した。測定毎にカリウム標準液(ナカライテスク、京都)を用いて検量線を作成し、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)に換算した。さらに、抽出液中のカリウム濃度(mg/ml)を(2)式を用いて土壌中のカリウム量(mg/g-sample)に換算した。
【0101】
窒素循環活性評価
土壌10 gをガラスシャーレに量り取り、110℃で2時間乾燥後、重量減少量から含水率を算出した。2 mmメッシュのふるいにかけた乾燥重量15 gの土壌を50 ml容UMサンプル瓶に入れ、硫酸アンモニウム水溶液(0.080 mM)もしくは亜硝酸カリウム水溶液(0.16 mM)をそれぞれ60μg-N/g-dry soilとなるように添加した。土壌をよくかき混ぜた後、25℃、含水率一定で3日間静置した。1及び3日目の土壌中の無機態窒素を前述(b)の抽出方法(=「窒素循環(硝化能)活性の測定方法」の項を参照)により抽出し、同(c〜e)の解析方法によりアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素をそれぞれ定量した。アンモニア態窒素の減少量と硝酸態窒素の増加量から、1日当たりのアンモニア態窒素から硝酸態窒素への変換量を算出した。
【0102】
前述及び上述の方法により得られた土壌バクテリア数、アンモニア減少率、亜硝酸減少率の3項目に基づき、土壌における窒素循環活性を評価するために、チャートを作成した。
【0103】
ここで、土壌バクテリア数は、農地土壌における土壌バクテリア数の平均値3.25×10
9 cells/g-soilを100とする場合の、各サンプルの土壌バクテリア数の割合、即ち、バクテリア量を示す。
【0104】
また、アンモニア減少率は、60μg-N/g-dry soilのアンモニア化合物を3日間で100 %減少する活性を100とする場合の、各サンプルのアンモニア減少率の割合を示す。
【0105】
また、亜硝酸減少率は、60μg-N/g-dry soilの亜硝酸化合物を3日間で100 %減少する活性を100とする場合の、各サンプルの亜硝酸減少率の割合を示す。
【0106】
更に、チャートにおけるすべての頂点が100の三角形の面積を100とした際の内部の三角形の面積の相対値を、各サンプルについての窒素循環指標として算出した。
【0107】
試験例1.石油汚染土壌のバクテリア数の解析
バクテリアは環境の影響を受けやすいことが知られており、環境の状態が変わるとその数や種類が大きく変動する。そのため、土壌中のバクテリア数は土壌環境の状態を示す指標の一つと捉えることができる。本願出願人は環境中のDNA(eDNA)を抽出・定量し、土壌バクテリア数を推定する「環境DNA解析法」を独自に構築し、これまでに様々な土壌を解析してきた。その結果、石油汚染土壌ではバクテリア数が抑えられ一般土壌と比べて少ないことが分かった(
図2)。
【0108】
また、土壌バクテリア数と窒素循環(硝化)活性の関係を解析すると、約2×10
8cells/g-soil以上の土壌バクテリア数がいないと硝化が進まないことが分かった(
図3)。約2×10
8cells/g-soil未満ではタンパク質(カゼイン)の硝化がほとんど進まず、硝化活性が非常に低かった。これらの結果から、一定数のバクテリアがいないと土壌中の窒素成分が植物が利用できる形に効率良く変換されないことを明らかにした。
【0109】
参考例1.油分濃度(Total-C)に対して無機成分を整えたバイオレメディエーション(1)
(Total-C:Total-N:Total-P = 100:10:1に調整した砂質の石油汚染土壌のバイオスティミュレーション)
【0110】
【表14】
【0111】
バイオレメディエーションでは土壌バクテリア数が減少すると油分分解が進みにくくなる。更なるバイオレメディエーションの効率化のためには、土壌バクテリア数を維持することが重要である。土壌バクテリア数を維持するには、微生物の増殖・維持に適した栄養塩の投入が必要であると考えられる。そこで土壌バクテリア数が増加し、更なる油分分解の効率化を図れるような栄養塩の最適C:N:P比を検討するために、種々のC:N:P比に調整した栄養塩を作製した。C源は汚染基質(n−ヘキサデカン、3,000 mg/kg-soil)とし、N源には尿素、P源にはリン酸水素二アンモニウムを用いた。14日後の油分残存率を
図4に示す。
【0112】
従来から使用していた栄養塩のTotal-C:Total-N:Total-P比は100:0.34:2や100:0.32:2など、種々の値であった。しかしながら、本
参考例の結果では、Total-C:Total-N:Total-P = 100:10:1に調整した栄養塩の方が約2倍分解が進んでいた。NやPの比をこれ以上高めても油分分解量がほとんど変わらなかったことから、油分分解に適したTotal-C:Total-N:Total-P比は
100:10:1であると新規に決定した。
【0113】
参考例2.油分濃度(Total-C)に対して無機成分を整えたバイオレメディエーション(2)
(Total-C:Total-N:Total-P = 100:10:1に調整した砂質、シルト質、粘土質の石油汚染土壌のバイオスティミュレーション)
【0114】
【表15】
【0115】
そこで、この比率の適用可能条件を解析するために、土性が異なる3つの模擬汚染土壌(土性:砂質、シルト質、粘土質。汚染源:n−ヘキサデカン、3,000 mg/kg-soil)を作製し、バイオレメディエーションを行った。浄化処理の条件を表16に示す。各条件とも、油分残存率を経時的に解析した。その後、土壌バクテリア数の増加・維持を解析した。
【0116】
【表16】
【0117】
その結果、いずれの土性でもTotal-C:Total-N:Total-P比が100:10:1になるように調整した条件3で最も14日後の油分残存率が低く、油分分解が進んでいた(
図5)。従って、Total-C(全油分)に対してTotal-C:Total-N:Total-P=100:10:1となるように無機成分のN、Pを投与することで、土壌バクテリア数が増加し、油分分解が効率良く進むと考えられた。ただし、粘土質の土壌ではその効果が比較的低い結果であった。
【0118】
次に、14日後の土壌バクテリア数の解析結果を
図6に示す。いずれの条件でも、栄養塩を加えることによって浄化処理前と比べて土壌バクテリア数が増加していた。特に、砂質やシルト質の土壌では、Total-C:Total-N:Total-P比が100:10:1になるように調整した条件3で最も増加率が高かった。従って、微生物の増殖に適した栄養源バランス(Total-C:Total-N:Total-P=100:10:1)となるように栄養塩を調製したことで、土壌中の微生物が生育しやすい環境となったことが考えられた。
【0119】
比較例1.油分濃度(Total-C)に対して無機成分を整えたバイオレメディエーション(3)
(栄養成分が極端に少ない粘土質土壌のバイオスティミュレーション)
【0120】
【表17】
【0121】
参考例2では、C:N:P=100:10:1となるように栄養塩を調製・投与することで、土壌バクテリア数が増加し、油分分解が効率良く進むことが分かったが、粘土質土壌ではその効果が比較的低かった。
【0122】
そこで、別の粘土質土壌を用いて模擬汚染土壌を作製し、2週間のバイオレメディエーションを行った。ここでは上記の表17に示すように難分解性の自動車用エンジンオイル(ベースオイル)を汚染物質として投与した。浄化試験の結果、油分分解は全く進まなかった(
図7)。また、土壌バクテリア数は2週間を通して検出限界(3×10
7cells/g-soil)以下であり、増加しなかった。
【0123】
油分分解が進まなかった原因として、土壌中に含まれる栄養成分が極端に少なかったことが考えられた。そこで、土壌の栄養成分を分析したところ、Total-Cは一般的な土壌の1/20程度、Total-NやTotal-Pはさらに低い値であり、元々の土壌中の栄養成分が非常に少ないことが分かった(表18)。この土壌について窒素循環活性を評価したところ、評価値は僅か1.6点しかなかった(
図8)。
【0124】
【表18】
【0125】
以上の結果から、この粘土質土壌でバイオレメディエーションは進まなかったのは、元々の土壌中の栄養成分が極端に少なく、土壌バクテリアが十分に増加・維持されなかったためであると考えられた。
従って、石油汚染土壌のバイオレメディエーションでは、土壌中に元々含まれる栄養成分を考慮した上で、栄養塩を調製・投与することが重要であると言える。
【0126】
比較例2.有機物を用いたバイオレメディエーション(1)
(栄養塩とグルコースを投与しても油分分解が進まなかったバイオスティミュレーションの例)
【0127】
【表19】
【0128】
前項では、土壌中の栄養成分が極端に少ない粘土質土壌で模擬汚染土壌を作製し、C:N:P=100:10:1となるように栄養塩を調製・投与してバイオレメディエーションを行ったが、土壌バクテリア数は増加せず、油分分解がまったく進まなかった。この原因として、元々の土壌に含まれる栄養成分(特にC源)が極端に少ないことが考えられた。
【0129】
そこで、本項では土壌中のC源を補充すべく、栄養塩と共にグルコースを投与し、バイオレメディエーションを実施した。グルコースと栄養塩を投与した後の土壌中の栄養成分はTotal-C:41,000 g/kg(= 元の土壌の約20倍)、C/N比:3.7であった。グルコースの形でC源を補うことで土壌バクテリア数は約1.6倍に増加した。一方、油分分解は進み難くなった。2週間浄化処理後の油分残存率を
図9に示す。この結果は、油分よりも優先的にグルコースが消費されたためであると考えられた。従って、C源を栄養成分として補充する場合は、石油成分よりも資化され難い形で投与することが重要であると言える。
【0130】
比較例3.有機物を用いたバイオレメディエーション(2)
(栄養塩と糖液・ペプチド液を投与しても油分分解が進まなかったバイオスティミュレーションの例)
【0131】
【表20】
【0132】
比較例2では、栄養塩と共にグルコースをC源として補充し、バイオレメディエーションを行った。その結果、土壌バクテリア数は増加したが、グルコースが石油成分よりも資化され難い形であったために油分分解は進み難くなった。
【0133】
そこで、本項ではグルコースよりも資化速度が遅いと考えられる有機物の糖液及びペプチド液を供試試料とし、同様の実験を行った。投与効果を明確に確認するために、砂質の模擬汚染土壌を用いてバイオレメディエーションを行った。2週間浄化処理したときの土壌バクテリアの増加率を
図10に示す。栄養塩と糖液を共に加えた場合に、土壌バクテリア数が若干高くなった。一方、ペプチド液を加えると土壌バクテリア数は増加し難くなった。
【0134】
このときの油分残存率を
図11に示す。糖液やペプチド液などの有機物を栄養塩と共に加えても、油分残存率は栄養塩のみを投与したときが最も良かった。また、糖液やペプチド液を加えることで油分分解も若干阻害された。従って、有機物を加える場合は、糖液やペプチド液よりもさらに資化速度の遅い堆肥などが有効ではないかと考えられた。
【0135】
試験例2.汚染浄化後に植生を回復させるための望ましい土壌環境の解析
(土壌および堆肥中の栄養成分の解析)
比較例1〜3の結果から、石油汚染土壌の元々の栄養成分が少ない場合は、石油成分よりも資化速度の遅い有機物を投与することで土壌バクテリア数が増加し、油分分解も進みやすくなると考えられる。しかし、土壌中の栄養成分濃度の目標値が不明であるため、有機物の最適な投与量が決定できていない。また、本発明では石油成分の分解・除去だけでなく、石油汚染が浄化できた後に植生も回復させることを目指している。そこで、微生物の増加・維持や植生の回復にとって望ましい土壌環境(土壌中の栄養成分濃度)を把握するために、土壌21サンプルおよび堆肥8サンプルの各種成分を分析した。結果を表21及び22に示す。この解析結果に基づいて土壌・堆肥中の主要栄養成分の好適範囲を決定した(表23及び24)。
【0136】
決定した好適範囲になるように有機物を栄養塩と共に投与することで、石油汚染土壌のバクテリアが増加・維持され、油分分解活性が向上し、浄化処理が進みやすくなると考えられる。
【0137】
【表21】
【0138】
【表22】
【0139】
【表23】
【0140】
【表24】
【0141】
参考例3.有機物を用いたバイオレメディエーション(3)
(堆肥を用いることで油分分解が進んだバイオスティミュレーションの例)
【0142】
【表25】
【0143】
前項までの結果から、有機物を栄養塩と共に投与することで、石油汚染土壌のバクテリアが増加・維持され、油分分解活性が向上し、浄化処理が進みやすくなると考えられた。そこで、汚染土壌に有機物として鶏糞堆肥を投与し、バイオレメディエーションを行った。堆肥を投与しない場合は全く油分分解が進まなかったが、Total-C:Total-N:Total-P比を考慮して堆肥を投与した場合には2週間後の油分残存率が約73 %まで低下しており、浄化が進むことが分かった(
図12)。
【0144】
また、石油汚染土壌にイチゴを定植したところ全く成長は認められなかったが、浄化後の土壌にイチゴを定植したところ、枯死することなく生長した(
図13)。