【実施例1】
【0027】
均等化回路1の構成
図3は、本発明の第1実施例としての均等化回路1を示した回路図である。B1〜B4はコンデンサ、二次電池、電気二重層キャパシタ等の蓄電セル、C1〜C4は均等化用のコンデンサ、D1〜D4はダイオード、L1〜L4はインダクタであり、Cinは入力用のコンデンサ、Qはスイッチ、Linはインダクタである。Qをスイッチングすることにより、B1〜B4からCinへと入力された電圧が変換され、後述のとおりB1〜B4のうち最も電圧の低い蓄電セルに対して出力される。以下、コンデンサCin、スイッチQ、及びインダクタLinから構成される回路を入力回路と呼び、コンデンサC1〜C4、ダイオードD1〜D4、及びインダクタL1〜L4から構成される回路を出力回路と呼ぶ。
【0028】
蓄電セルB1〜B4は直列接続されており、その各々に対し、D1とL1、D2とL2、D3とL3、及びD4とL4からなる第1〜第4のダイオード−インダクタ回路がそれぞれ並列に接続されている。各ダイオード−インダクタ回路においてはインダクタがダイオードのアノード側と接続されており、且つ、それぞれのインダクタからダイオードへと向かう極性の電流を遮断しないよう、各ダイオード−インダクタ回路は直列接続されている。またコンデンサC1〜C4は、第1〜第4のダイオード−インダクタ回路におけるダイオードとインダクタの中間点と入力回路との間に、それぞれ接続されている。なお、蓄電セルB1は接地されている。
【0029】
図3の均等化回路中に存在するスイッチはQ一つのみであり、回路に含まれるその他の素子は全て受動部品である。
図3の均等化回路において必要とされるスイッチは、蓄電セルの直列数に関係なく一つのみであり、また本回路においては多巻線トランスを用いる必要もないため、従来方式と比較して回路構成が飛躍的に簡素化される。
【0030】
また、Cin、Lin、Q、C1、D1、L1、B1で構成される回路は汎用的に用いられているSEPIC(Single Ended Primary Inductor Converter)コンバータと同様の構成となっている。Ci−Di−Li(iは1〜4の整数)により構成される回路はそれぞれ同様の回路構成となっており、すなわち
図3のとおり蓄電セル群に均等化回路1を接続してなる回路は、SEPICコンバータにおいてCi−Di−Liからなる回路が多段階に接続された回路であるとみなすことができる。ただし、C1〜C4、D1〜D4、L1〜L4がそれぞれ同一の素子である必要はなく、各コンデンサの容量、各ダイオードの特性、各インダクタのインダクタンスは互いに異なっていてもよい。同様に、蓄電セルB1〜B4の容量も互いに異なっていてよい。
【0031】
なお、蓄電セル、ダイオード−インダクタ回路、及び均等化用のコンデンサの数は、4に限らず2以上の任意の数であってよい。また必要とされるスイッチは一つのみであるが、動作をカスタマイズする等の目的で任意の制御用スイッチを追加してもよい。この点については、後続の全ての実施例においても同様である。
【0032】
均等化回路1の動作
次に、蓄電セルB1〜B4の電圧を均等化するときの、均等化回路1の動作を説明する。なお、動作開始時においてB1〜B4にはそれぞれ異なる電圧が与えられているものとし、特にB1の電圧が最低であるとする。
【0033】
なお、均等化回路1の動作は、スイッチQのオフ期間において最低電圧セルに対応するダイオードD1が非導通となる期間が存在するか否かによって、不連続モード(DCM)と連続モード(CCM)に分類することができる。均等化回路1は連続モードと不連続モードのいずれで動作することも可能である。以下、それぞれのモードでの動作を説明する。
【0034】
連続モード(CCM)での動作
均等化回路器1の動作中、スイッチQはオン・オフの間で切り替えられている。オン・オフそれぞれの状態における、均等化回路1内を流れる電流の経路及び極性を、
図4及び
図5に示す。
【0035】
まず、Qがオンである期間中の電流について、
図4を用いて説明する。
図4は、均等化回路1においてQがオンである期間の回路構成を等価的に表し、さらに各素子を経由して回路内を流れる電流の経路、及び極性(向き)を、矢印付きの実線及び点線で表したものである。Qのオン期間中にダイオードD1〜D4は非導通であるため回路図から省略されており、またオンである状態のスイッチQは導通した電流経路とみなせるため、導線として描かれている。なお、
図4中の点線はインダクタL2〜L4及びコンデンサC2〜C4を流れる電流を表しているが、後に
図6を用いて説明するとおり、これら電流の向きはスイッチQのオン期間内、及びオフ期間内のそれぞれにおいて切り替わるものであるため、これに対応して当該点線の両端に矢印が付されている。
【0036】
図4に示されるとおり、蓄電セルB1〜B4から流れ出した電流はコンデンサCinへと入力される。同時にコンデンサCinはインダクタLinに対して放電を行い、Linにエネルギーが蓄えられる。さらに、コンデンサC1はL1に対して放電を行い、L1にエネルギーが蓄えられる。また、蓄電セルB1〜B3と入力回路との間にも、点線で示すとおりインダクタL2〜L4及びコンデンサC2〜C4を経由する交流電流が流れている。
【0037】
次に、Qがオフである期間中の電流について、
図5を用いて説明する。なお、
図5において、Qのオフ期間中に非導通であるスイッチQ及びダイオードD2〜D4は回路図から省略されている。
【0038】
図5に示すとおり、特に連続モードでの動作においては、Qのオフ期間中、最低電圧の蓄電セルB1に対応するダイオードD1のみが常に導通されている。すなわち、Qのオン期間中にインダクタLinが蓄えたエネルギーはQのオフ期間中に放出されるが、このエネルギーを担う出力電流は、コンデンサC1及びダイオードD1を経由して最も電圧の低い蓄電セルB1へと優先的に流れ込む。また、インダクタL1からはダイオードD1を経由して蓄電セルB1へと電流が流れ込み、これにより、Qのオン期間中にインダクタL1が蓄えたエネルギーはB1へと放出される。なお、Qのオフ期間中においても、蓄電セルB1〜B4から流れ出した電流はコンデンサCinへと入力されており、同時に蓄電セルB1〜B3と入力回路との間にも、点線で示すとおりインダクタL2〜L4及びコンデンサC2〜C4を経由する交流電流が流れている。
【0039】
スイッチQにおけるオン、オフのスイッチングを繰り返すことにより、上述した電流によって蓄電セルB2〜B4から蓄電セルB1へとエネルギーが移され、蓄電セルB1〜B4の電圧が均等化される方向に向かう。
【0040】
ここで、時比率dを、スイッチQのスイッチング周期に対するスイッチのオン期間の割合として定義する(この定義より明らかなとおり、0≦d≦1である。)。均等化回路1の定常状態において蓄電セルB1に出力される電圧は、コンデンサCinに印加される電圧(蓄電セルB1〜B4それぞれに印加された電圧の合計電圧)のスイッチング周期に関する時間平均をV
inとすれば、V
inと上記時比率dとに応じて決定される。以下、具体的に蓄電セルB1への出力電圧を導出する。
【0041】
蓄電セルB1〜B4の各電圧をV
1〜V
4とする。ただし、蓄電セルB1〜B4の容量はコンデンサC1〜C4の容量に比べて十分大きく、スイッチングの一周期に亘ってV
1〜V
4は一定であるとみなす。
このとき、上記V
inは、
V
in=V
1+V
2+V
3+V
4 (1)
と表される。
【0042】
また、コンデンサC1〜C4の電圧の、スイッチング周期に関する時間平均をV
C1〜V
C4とする。定常状態においてインダクタLin,及びL1〜L4の電圧の時間平均は全てゼロとなるため、V
in,V
1〜V
4,及びV
C1〜V
C4の間には以下の関係式が成立する。
V
C1=V
in
V
C2=V
in−V
1
V
C3=V
in−(V
1+V
2)
V
C4=V
in−(V
1+V
2+V
3) (2)
【0043】
さらに、上記各インダクタにおいて印加される電圧と時間の積の、上記スイッチング周期に亘る合計は定常状態においてゼロとなるため、以下の関係式が成立する。
dV
C1=(1−d)V
1
d(V
C2+V
1)=(1−d)(V
C1−V
C2)
d(V
C3+V
1+V
2)
=(1−d)(V
C1−V
C3−V
2)
d(V
C4+V
1+V
2+V
3)
=(1−d)(V
C1−V
C4−V
2−V
3) (3)
【0044】
上記(2),(3)式を用いれば、最低電圧の蓄電セルB1への出力電圧V
1を以下のとおり表すことができる。
V
1={d/(1−d)}V
in (4)
なお、計算を単純化する目的で、ダイオードによる順方向降下電圧を無視した。
【0045】
均等化回路1の定常状態においては、上記(4)式に示されるとおり、蓄電セルB1〜B4の電圧の合計電圧V
inを時比率dに応じて変換してなる出力電圧が最低電圧セルB1へと出力されるとともに、当該蓄電セルB1に対して優先的に電流が出力される。
【0046】
このような定常状態での動作中に各素子を流れる電流、及びスイッチQに印加される電圧の定性的な時間変化を、
図6のグラフ(a)〜(e)に示す。
【0047】
図6中、グラフ(a)は、インダクタLinを流れる電流i
Linの定性的な時間変化を表す。
図4、
図5に示すとおり、電流i
Linの極性は常に正である(電流i
Linは常に紙面右方向に向かって流れる。)。スイッチQのオン期間中、インダクタLinに対してはコンデンサCinからエネルギーが供給されるため、i
Linが上昇する。一方、スイッチQのオフ期間中においては、インダクタLinが出力回路へとエネルギーを開放するため、i
Linが降下する。なお、グラフ(a)において水平な点線で示されるI
Linは、電流i
Linの時間平均を表す。
【0048】
図6中、グラフ(b)は、インダクタL1〜L4のうち、最低電圧の蓄電セルB1に対応するインダクタL
*とそれ以外の任意のインダクタLiとをそれぞれ流れる電流i
L*,i
Liの定性的な時間変化を表す。すなわち本実施例において、i
L*のグラフはインダクタL1を流れる電流の定性的な時間変化を表し、i
LiのグラフはインダクタL2〜L4のうち任意のものを流れる電流の定性的な時間変化を表す。まずi
L*について検討するに、スイッチQのオン期間中、L1に対してはコンデンサC1からエネルギーが供給されるため、i
L*が上昇する。一方、スイッチQのオフ期間中においては、インダクタL1が蓄電セルB1へとエネルギーを開放するため、i
L*が降下する。またi
Liについて検討するに、上記(1)〜(3)式を用いれば、インダクタL1〜L4に印加される電圧は、スイッチQのオン期間、オフ期間のそれぞれにおいて全て等しいことが示される。具体的には、上記(3)式中、左辺をdで除したものはオン期間においてインダクタL1〜L4それぞれに印加される電圧を表し、また右辺をd−1で除したものはオフ期間においてインダクタL1〜L4それぞれに印加される電圧を表すため、これらを上記(1)〜(3)式を用いて変形することにより、各インダクタに印加される電圧が全て等しいこと(オン期間中の電圧はVinであり、オフ期間中の電圧は−V
1である)が導かれる。ここで、インダクタを流れる電流の時間変化率が一般に「(インダクタに印加される電圧)/(インダクタのインダクタンス)」として表されることを考慮すれば、インダクタL1〜L4のインダクタンスが等しい場合、それらインダクタの流れる電流の時間変化率は常に等しいことがわかる。すなわち、L1〜L4のインダクタンスが全て等しいならば、それらインダクタを流れる電流の時間変化率も全て等しくなり、
図6中、(b)のグラフに示すとおり電流の時間変化として同様の波形が得られる。なお、グラフ(b)において水平な点線で示されるI
L*は、電流i
L*の時間平均を表す。また、電流i
Liの時間平均はゼロである。
【0049】
図6中、グラフ(c)は、コンデンサC1〜C4のうち、最低電圧の蓄電セルB1に対応するコンデンサC
*とそれ以外の任意のコンデンサCiとをそれぞれ流れる電流i
C*,i
Ciの定性的な時間変化を表す。すなわち本実施例において、i
C*のグラフはコンデンサC1を流れる電流の定性的な時間変化を表し、i
CiのグラフはコンデンサC2〜C4のうち任意のものを流れる電流の定性的な時間変化を表す。まずi
C*について検討するに、スイッチQのオン期間中、コンデンサC1を流れる電流はインダクタL1を流れる電流と等しく(
図3に示される極性の定義を考慮すれば、これら電流の極性は互いに逆となる。)、一方でスイッチQのオフ期間中においてコンデンサC1を流れる電流は、インダクタLinを流れる電流とコンデンサC2〜C4のそれぞれを流れる電流が合流したものである。さらにi
Ciについて検討するに、コンデンサC2〜C4を流れる電流は、インダクタL2〜L4を流れる電流に等しい(
図3に示される極性の定義を考慮すれば、これら電流の極性は互いに逆となる。)。これらを考慮すれば、各コンデンサを流れる電流の定性的な波形がグラフ(c)のとおり導かれる。なお、i
C*とi
Ciの時間平均は共にゼロである。
【0050】
図6中、グラフ(d)は、ダイオードD1〜D4のうち、最低電圧の蓄電セルB1に対応するダイオードD
*とそれ以外の任意のダイオードDiとをそれぞれ流れる電流i
D*,i
Diの定性的な時間変化を表す。すなわち本実施例において、i
D*のグラフはダイオードD1を流れる電流の定性的な時間変化を表し、i
DiのグラフはダイオードD2〜D4のうち任意のものを流れる電流の定性的な時間変化を表す。スイッチQのオン期間中、インダクタLinに対してはコンデンサCinからエネルギーが蓄積されるのであり、Linのエネルギーが出力回路へと解放されることはないため、全てのダイオードは非導通である。一方、スイッチQのオフ期間中、インダクタLinから解放されたエネルギーは最低電圧の蓄電セルB1へと流れ込むため、ダイオードD1のみが導通する。このときD1を流れる電流は、
図5から明らかなとおり、コンデンサC1を流れる電流とインダクタL1を流れる電流とが合流したものである。ダイオードD2〜D4はオフ期間においても非導通であり、当然ながらこれらを流れる電流の大きさはゼロである。以上を考慮すれば、各ダイオードを流れる電流の定性的な波形がグラフ(d)のとおり導かれる。
【0051】
図7中、グラフ(e)は、スイッチQに印加される電圧V
DSの定性的な時間変化を表す。スイッチQは、そのオン期間中において電圧降下がゼロの導線と同等であるため、オン期間中V
DSはゼロである。一方オフ期間中、スイッチQに対しては、
図5に示されるとおりコンデンサC1の電圧と蓄電セルB1の電圧V
1の合計電圧が印加される。すなわち、オフ期間中のV
DSは
V
DS= V
in+V
1 (4)
と表される。本実施例においては、スイッチングの一周期に亘ってV
1〜V
4が一定であり、それらの合計電圧であるVinも一定であるとみなしているため、オフ期間におけるV
DSも一定であるとみなすことができる。
【0052】
均等化回路1を用いた蓄電セル電圧の均等化動作は、
図4、
図5に示されるとおりの経路を通って、
図6を用いて説明したとおり各素子を電流が流れることにより進行する。均等化が進むにつれて蓄電セルB1の電圧は上昇し、B2〜B4の電圧は降下するため、最終的に均等化回路1の定常状態は破れることとなるが、蓄電セルB1〜B4の容量が十分大きく、セル電圧の変化する速度が十分に小さいとすれば、均等化動作を上記定常状態に関する議論によって定性的に説明することができる。
【0053】
以上のとおり、蓄電セル電圧の均等化動作においては、蓄電セルB1〜B4から均等化回路1内の入力回路へと電流が流れ込む。入力回路に流れ込んだ電流は、インダクタLinを経由して当該均等化回路内の出力回路へと流れ込み、変換された上で最低電圧の蓄電セルB1へと優先的に出力される。エネルギーの授受に着目すれば、入力回路から出力回路へと伝送される入力電力はV
in×I
Linであり、出力回路においてはこの入力電力が変換された上で、電圧の最も低い蓄電セルB1へと優先的に伝送される。この時、蓄電セルB1に流れ込む電流は、均等化回路における損失をゼロとみなせば、(V
in×I
Lin)/V
*で表される。ただし、V
*は当該最低電圧セルの電圧であり、現在の実施例においてはV
1と等しい。出力回路から最低電圧の蓄電セルに対して電力が供給されることでB1の電圧は上昇する一方、その他の蓄電セルにおいては均等化回路1へと電力を供給することによりセル電圧が低下する。したがって、時間の経過と共にB1とその他の蓄電セルの電圧差は徐々に小さくなり、最終的には全ての蓄電セルの電圧が等しくなる。
【0054】
以上、蓄電セルB1〜B4のうち、特にB1の電圧が最低である場合について、均等化回路1の動作を説明した。最低電圧のセルがB2〜B4のいずれかである場合にも、同様の原理によりセル電圧を均等化することがあるし、また最低電圧のセルが複数個ある場合にも、同様の原理によりセル電圧は均等化される。
【0055】
一例として、動作開始時においてB1とB2には同じ大きさの電圧が与えられており、且つB3とB4にはそれよりも高い電圧が与えられていたときの、均等化回路1の連続モードでの動作を説明する。Qのオン期間中の電流経路、及び極性は、B1のみが最低電圧であったときと同様に
図4によって表される。一方、Qのオフ期間中においては、
図7に示すとおりダイオードD1に加えてダイオードD2も導通し、インダクタLin、コンデンサC2、及びダイオードD2を経由して蓄電セルB2へも電流が流れ込む。
【0056】
この場合、定常状態における各素子電圧間の関係は、上記(1)〜(2)式、及び以下の(5)式で表される。
dV
C1=(1−d)V
1
d(V
C2+V
1)=(1−d)V
2
d(V
C3+V
1+V
2)
=(1−d)(V
C1−V
C3−V
2)
d(V
C4+V
1+V
2+V
3)
=(1−d)(V
C1−V
C4−V
2−V
3) (5)
これらを解くことにより、以下の(6)式が得られる。
V
1=V
2={d/(1−d)}V
in (6)
【0057】
すなわち、B1のみが最低電圧であったときと同様に、最低電圧の蓄電セルB1,B2には、B1〜B4の電圧の合計電圧が均等化回路1により変換されてなる出力電圧{d/(1−d)}V
inが出力されるのであり、このような状態においてB1,B2へと優先的に電力が伝送され、蓄電セル電圧のばらつきが解消される方向へと向かう。
【0058】
不連続モード(DCM)での動作
次に、均等化回路1の不連続モードでの動作を説明する。不連続モードにおいては、スイッチQのオフ期間中、最低電圧の蓄電セルに対応するダイオードD1が一時的に(少なくともオン期間へと移行する直前において)非導通となる。このときの、均等化回路1内を流れる電流の経路及び極性を、
図8に示す。
【0059】
すなわち、連続モードにおいては、スイッチQの切り替えにより
図4と
図5に示される2つの状態間で均等化回路1の状態が切り替えられていたのに対し、不連続モードにおいては、これら2つの状態に加えて
図8に示される状態の実現される期間が生じる。
【0060】
図8に示す状態が実現される期間において全てのダイオードは非導通であり、最低電圧の蓄電セルB1に対する優先的な電力供給は行われない。しかしながら、不連続モードでの動作においても
図4、
図5に示される状態が実現されるため、連続モードでの動作と同様に蓄電セル電圧を均等化することが可能となる。なお、
図8に示す状態が実現される期間において、インダクタLin,L1〜L4の電圧は全てゼロである。
【0061】
不連続モードでの動作においても、各蓄電セル電圧V
1〜V
4とコンデンサC
inの電圧V
inとの間には(1)式が成立し、また不連続モードであっても各インダクタの電圧の時間平均は定常状態においてゼロであるため、(2)式が成立する。また、スイッチングの一周期中、
図5に示す状態が実現されてダイオードD1が導通する期間の割合をd
aとすれば、不連続モードにおいては以下の(7)式が成立する。
dV
C1=d
aV
1
d(V
C2+V
1)=d
a(V
C1−V
C2)
d(V
C3+V
1+V
2)
=d
a(V
C1−V
C3−V
2)
d(V
C4+V
1+V
2+V
3)
=d
a(V
C1−V
C4−V
2−V
3) (7)
【0062】
上記(2),(7)式を用いれば、不連続モードでの動作における蓄電セルB1への出力電圧V
1を以下のとおり表すことができる。
V
1={d/d
a}V
in (8)
【0063】
均等化回路1の定常状態においては、上記(8)式に示されるとおり、蓄電セルB1〜B4の電圧の合計電圧V
inを時比率d(及び、
図5に示される状態が実現されてダイオードが導通する期間の割合d
a)に応じて変換してなる出力電圧が最低電圧セルB1へと出力されるとともに、当該蓄電セルB1に対して優先的に電流が出力される。
【0064】
このような定常状態での動作中に各素子を流れる電流、及びスイッチQに印加される電圧の定性的な時間変化を、
図9のグラフ(a)〜(e)に示す。なお、
図9においてT
aとは、スイッチングの一周期中、
図5に示す状態が実現される期間を表し、T
bとは、スイッチングの一周期中、
図8に示す状態が実現される期間を表す。
【0065】
図9中、グラフ(a)は、不連続モードにおいてインダクタLinを流れる電流i
Linの定性的な時間変化を表す。
図4、
図5に示す状態が実現される期間(T
ON,T
aでそれぞれ示される期間)の波形は
図6のグラフ(a)と同様であるが、
図8に示される状態が実現される期間(T
bで示される期間)においては、Linに印加される電圧がゼロであるため電流i
Linは一定(I
Lin-b)となる。
【0066】
図9中、グラフ(b)は、不連続モードにおいて最低電圧の蓄電セルB1に対応するインダクタL
*(本実施例においてはL1)とそれ以外の任意のインダクタLi(L2〜L4のうち任意のインダクタ)とをそれぞれ流れる電流i
L*,i
Liの定性的な時間変化を表す。
図4、
図5に示す状態が実現される期間の波形は
図6のグラフ(b)と同様であるが、
図8に示される状態が実現される期間においては、インダクタL1〜L4に印加される電圧が全てゼロであるため電流i
L*及びi
Liが一定(I
L*-b及びI
Li-b)となる。
【0067】
図9中、グラフ(c)は、不連続モードにおいて最低電圧の蓄電セルB1に対応するコンデンサC
*(本実施例においてはC1)とそれ以外の任意のコンデンサCi(C2〜C4のうち任意のコンデンサ)とをそれぞれ流れる電流i
C*,i
Ciの定性的な時間変化を表す。
図4、
図5に示す状態が実現される期間の波形は
図6のグラフ(c)と同様であるが、
図8に示される状態が実現される期間においては、全てのインダクタに流れる電流が一定であるため、電流i
C*及びi
Ciも一定となる。
【0068】
図9中、グラフ(d)は、不連続モードにおいて最低電圧の蓄電セルB1に対応するダイオードD
*(本実施例においてはD1)とそれ以外の任意のダイオードDi(D2〜D4のうち任意のダイオード)とをそれぞれ流れる電流i
D*,i
Diの定性的な時間変化を表す。すなわち本実施例において、i
D*のグラフはダイオードD1を流れる電流の定性的な時間変化を表し、i
DiのグラフはダイオードD2〜D4のうち任意のものを流れる電流の定性的な時間変化を表す。
図4、
図5に示す状態が実現される期間の波形は
図6のグラフ(d)と同様であるが、
図8に示される状態が実現される期間においては、全てのダイオードが非導通となるためi
D*,i
Diはゼロとなる。
【0069】
図9中、グラフ(e)は、不連続モードにおいてスイッチQに印加される電圧V
DSの定性的な時間変化を表す。
図4、
図5に示す状態が実現される期間の波形は
図7のグラフ(e)と同様である。また、
図8に示される状態が実現される期間中、スイッチQに対しては、
図5に示される状態と同様にコンデンサC1の電圧とインダクタL1の電圧の合計電圧が印加されるが、この期間においてはインダクタL1の電圧がゼロとなるため、スイッチQの電圧V
DSが低下する。
【0070】
ここで、
図9中、T
aで示される期間中のi
D*の低下勾配は、
図5から
i
D*=i
L1+i
L2+i
L3+i
L4+i
Lin (9)
が成立することを考慮すれば、全てのインダクタL1〜L4、及びLinを流れる電流の低下勾配の和となる。この期間において各インダクタに印加される電圧は−V
1であるため、i
D*の低下勾配はV
1×[1/K
1+1/K
2+1/K
3+1/K
4+1/K
in]と表わされる。ただし、インダクタL1〜L4、及びLinのインダクタンスをそれぞれK
1〜K
4、及びK
inとした。
【0071】
不連続モードにおいて、スイッチをターンオンする直前にはi
D*が0となっているため、スイッチのオフ期間として任意のT
offが与えられたとき、i
D*はT
off×V
1×[1/K
1+1/K
2+1/K
3+1/K
4+1/K
in]以上の大きさにはならない。すなわち、i
D*の大きさが、ある所定の値以下に制限されることとなる。i
D*は全てのインダクタに流れる電流値の合計であることを考慮すれば、同様に各インダクタを流れる電流の大きさも、ある所定の値以下に制限されることがわかる。すなわち、不連続モードにおいて各素子を流れる電流の大きさは所定の値以下に制限されることとなるため、電流検出回路を用いて各素子を流れる電流を監視し、フィードバック制御を行うことが不要となる。したがって、少なくとも不連続モードで動作させる態様においては、フィードバック制御回路を省略することにより、本発明の均等化回路に対する制御回路を簡素化することが可能である。
【0072】
これに対し、連続モードにおいては、スイッチをターンオンする直前であってもi
D*が0とはならない。ターンオン直前のi
D*を理論的に決定することは困難であるため、素子に大電流が流れることを防止するためには、電流検出回路を用いたフィードバック制御によって各電流を制御することが望ましい。
【0073】
なお、蓄電セル電圧の均等化動作が不連続モードとなるための境界条件は、
d<V
*/(V
in+V
*) (10)
で表される。すなわち、時比率dを十分低くすれば均等化動作を不連続モードへと導くことが可能である。
【0074】
蓄電セル均等化動作の実験結果
Cinとしては容量が60μFのコンデンサをC1〜C4としては容量が20μFのコンデンサを、Linとしてはインダクタンスが150μHであるインダクタを、L1〜L4としてはインダクタンスが22μHであるインダクタを用いて、
図3に示す構成の均等化回路を作成し、これを静電容量が220Fである電気二重層キャパシタとしての蓄電セルB1〜B4に接続して、均等化システムを構成した。さらに、この均等化システムを用いて、スイッチの動作周波数を200kHzとし、時比率d=0.145、蓄電セルB1〜B4の初期電圧をそれぞれ7V、9.5V、12V、14.5Vとした上で蓄電セルの均等化動作を行った。結果を
図10に示す。動作開始直後はB1の電圧が最も低いため、B1の電圧のみが上昇し、それ以外のB2〜B4の電圧は降下している。B1の電圧がB2の電圧と等しくなると、B1とB2の電圧は上昇し、その他のB3とB4の電圧は降下している。いずれの期間においても同様の動作で、電圧の最も低い蓄電セルの電圧が上昇し、その他の蓄電セルの電圧は低下し、最終的に全ての蓄電セルの電圧は均一となっていることがわかる。
【実施例4】
【0083】
均等化回路1の構成
図19は、本発明の第4実施例としての均等化回路1を示した回路図である。
図19の均等化回路は、
図11に示す均等化回路において、各ダイオード−インダクタ回路内のダイオードとインダクタとの位置を交換し、さらに入力回路内のスイッチQとインダクタLinとの位置を交換したものである。
【0084】
均等化回路1の動作
次に、蓄電セルB1〜B4の電圧を均等化するときの、均等化回路1の動作を説明する。動作開始時においてB1〜B4にはそれぞれ異なる電圧が与えられているものとし、特にB1の電圧が最低であるとする。
【0085】
実施例1の均等化回路と同様に、
図19の均等化回路も、連続モードと不連続モードの両方で動作可能である。連続モードでの動作において、スイッチQがオンである期間中には
図20に示すとおり回路内を電流が流れ、スイッチQがオフである期間中には
図21に示すとおりの電流が流れる。Qのオフ期間中にはダイオードD1のみが導通するため、蓄電セルB1に対して優先的に電流が出力され、蓄電セル電圧が均等化される。なお、実施例1における(1)〜(3)と同様に電圧変換回路の定常状態について計算を行えば、定常状態において蓄電セルB1に出力される電圧は(4)式で与えられることが示される。
【0086】
また、
図19の均等化回路を不連続モードで動作させた場合には、
図21に示す状態から
図20へ示す状態へと移るに際し、全てのダイオードが非導通である
図22の状態を経由する。このようなモードでの動作においても、
図21に示す状態においては蓄電セルB1に対し優先的に電流が出力されるため、蓄電セル電圧が均等化される。なお、不連続モードでの動作においても、電圧変換回路の定常状態について(1),(2),(7)式と同様の計算を行うことにより、蓄電セルB1に対しては(8)式で与えられる電圧が出力されることが示される。
【0087】
均等化システム2の構成
次に、
図23〜
図25を用いて蓄電セル電圧の均等化システム2の構成及び動作を説明する。
図23は、
図3で示された実施例1の構成に対して、B1〜B4の蓄電セルの電圧を検出する電圧検出回路と、検出結果と基準電圧を比較して差分に応じた信号を出力する比較演算回路と、比較結果に基づいてスイッチQの時比率dを制御するための時比率制御回路と、を接続してなる均等化システム2を示している。
【0088】
電圧検出回路は、電圧を検出して検出結果に応じた信号を発することのできる任意の電圧計であってよい。また比較演算回路は、電圧検出回路からアナログ信号が発せられる場合には、A/Dコンバータを介して検出回路に接続されたデジタル・シグナル・プロセッサ等であってよい。比較演算回路には、電圧の基準値を記録するためのメモリ等が必要に応じて備えられている。なお、検出回路からの信号がデジタル信号であるならば、A/Dコンバータは不要である。時比率制御回路は、比較演算回路から受信した信号に応じて一定の時間間隔ごとにスイッチQに対してオン・オフを切り替えるための信号を発するよう構成された、スイッチングドライバ回路等であってよい。時比率制御回路からスイッチQに対して送信される、スイッチを切り替える信号の送信間隔を制御することにより、時比率を制御することができる。または、スイッチング電源回路に対してスイッチ切り替え信号を送信する制御回路と時比率制御回路とは別の回路であって、時比率制御回路が比較演算回路からの信号に応じた時比率を指示する信号を当該切り替え信号を送信する回路へと送信し、これにより、指示された時比率に従うタイミングで切り替え信号を送信させるという構成をとることも可能である。
【0089】
ただし、本発明の均等化システムに用いられる検出回路、比較演算回路、及び時比率制御回路が上記の具体的な構成に限られるわけではない。当業者であれば、本発明の教示に従い、同様の機能を備えた別の回路を適宜構成することが可能である。本発明は、そのようなバリエーションの全てをその範囲に含む。
【0090】
均等化システム2の動作
次に、
図23に示される均等化システム2の動作を説明する。
【0091】
均等化回路の動作中、電圧検出回路は随時蓄電セルB1〜B4の電圧を検出し、検出結果を表わす信号を比較演算回路へと発している。ただし、電圧検出回路に対してクロック発振器を接続し、クロック信号に応じて所定のタイミングで検出結果の信号を発するよう構成してもよい。
【0092】
次に、比較演算回路は、必要に応じてA/Dコンバータを介して、上記検出結果を表わす信号を受信し、この検出結果を基準電圧と比較する。一例としては、電圧変換回路の定常状態における出力電圧の目標値を基準電圧とし、この基準電圧と最低電圧の蓄電セル電圧とを比較することができる。このような例において、蓄電セルの電圧が基準電圧よりも低い場合、比較演算回路は、時比率制御回路に対し、スイッチQの時比率を大きくすることを指示する信号を発する。これにより均等化速度が上昇する。
【0093】
同様に、蓄電セルの電圧が基準電圧よりも高い場合、比較演算回路は、時比率制御回路に対し、スイッチQの時比率を小さくする方向へと信号を発する。これにより均等化速度が低下する。
【0094】
均等化システム2の、その他の例
図24の均等化システム2は、
図3で示した実施例1の均等化回路に対して、B1〜B4の蓄電セルに流れる電流を検出する電流検出回路と、検出結果と基準電流値を比較して差分に応じた信号を出力する比較演算回路、比較結果に基づいてスイッチQの時比率を制御するための時比率制御回路を加えたものである。
図23の均等化システムにおける電圧検出回路に代わって、電流検出回路を用いた均等化システムである。このような構成の均等化システムを動作させれば、蓄電セルの電流を所望の値へと調整することが可能となる。本発明の均等化回路を連続モードで動作させるときには、特にこのような制御システムにより電流を調整することが望ましい。
【0095】
以上、フィードバック制御機能を備えた均等化システム2としては、特に電圧あるいは電流の一方のみを検出して制御を行う態様について説明したが、電圧と電流を共に検出し制御を行うことも可能である。例として、
図25に蓄電セルの電圧及び電流を検出し、スイッチQの時比率の制御を行う構成を示す。このような均等化システムを用いれば、蓄電セルに流れ込む電流が許容範囲を超えない範囲で時比率を上昇させることにより安全かつ迅速に均等化を行うなど、均等化動作を任意に制御することが可能となる。なお、
図23〜
図25において示される均等化回路の構成は
図3に示される回路構成と同一であるが、均等化システム2に用いる均等化回路は、
図3に限らず本発明の均等化回路であればどのようなものであってもよい。