【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例及びその比較例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
〈各種の基板上に形成したAl薄膜の表面状態〉
Al薄膜を蒸着形成する基板の材質をいくつか変えて、本実施形態による蒸着条件でAl薄膜を形成し、作製された各Al薄膜について、これらの表面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察及び測定した。SEMによる観察条件は、15kVで3000倍あるいは6000倍とした。AFMによる測定条件は、10μm×10μm、500nmグレースケールとした。
【0031】
基板として、雲母基板、W基板、Mo基板、ステンレス(SUS)基板、金(Au)基板、Al基板をサンプル基板として用いた。
先ず、W基板、Mo基板、SUS基板、Au基板、Al基板の各サンプル基板をアセトン及びメタノールを用いて洗浄した。具体的には、各サンプル基板をアセトン中に浸漬させ、10分間の超音波洗浄を2回行った。続いて、各サンプル基板をメタノール中に浸漬させ、10分間の超音波洗浄を2回行った。
【0032】
真空蒸着装置を用いて、各サンプル基板を500℃まで加熱し、その状態で2時間保持した。加熱後の各サンプル基板の表面が清浄されることをXPSにより確認した。
各サンプル基板に対して、1.4×10
-6Torr以上3.1×10
-6Torr以下の高真空中で、蒸着温度500℃、蒸着速度0.5nm/s,2.0nm/s,10.0nm/sでAlを蒸着し、各Al薄膜を膜厚150nm程度に形成した。
各サンプル基板を自然冷却により90℃程度まで冷却した後、各サンプル基板を真空チャンバから取り出した。
【0033】
SEMによる画像写真及びAFMによる測定結果を
図5〜
図16に示す。
図5、
図7、
図9、
図11、
図13、
図15は、それぞれ、雲母基板、W基板、Mo基板、SUS基板、Au基板、Al基板のSEMによる画像写真を示している。倍率は3000倍である。各図において、(a)が蒸着速度0.5nm/s、(b)が2.0nm/s、(c)が10.0nm/sの場合にそれぞれ対応する。
図6、
図8、
図10、
図12、
図14、
図16は、それぞれ、雲母基板、W基板、Mo基板、SUS基板、Au基板、Al基板のAFMによる測定結果を示している。各図において、(a)が蒸着速度0.5nm/s、(b)が2.0nm/s、(c)が10.0nm/sの場合にそれぞれ対応する。
【0034】
雲母基板を用いた場合には、
図5及び
図6のように、孤立状態のAl領域を有する表面状態のAl薄膜が得られた。しかしながら、各Al領域は比較的大きく、Al薄膜の大きな比表面積を得るには至らないものと評価される。
【0035】
W基板、Mo基板、SUS基板を用いた場合には、
図7〜
図12のように、作製されたAl薄膜の表面には所々に亀裂が生じており、明確に孤立したAl粒子の構造は見られない。
【0036】
Au基板を用いた場合には、
図13及び
図14のように、作製されたAl薄膜の表面には、孤立したAl粒子の構造が見られる。但し、孤立したAl粒子の構造はまばらであり、Al粒子の存在しない領域も見られる。
【0037】
Al基板を用いた場合には、
図15及び
図16のように、作製されたAl薄膜の表面には、孤立した円柱状であってサイズが均一なAl粒子の構造が明確に見られる。Al粒子とAl粒子との間には空隙が存在する。各Al粒子は、Al基板上から直立していると考えられる。個々のAl粒子の露出した側面部分が、Al薄膜の比表面積の増加に特に大きく寄与するものと考えられる。
【0038】
〈Al基板上に形成するAl薄膜の粒子直径の測定〉
図15のSEMによる画像写真に基づいて、Al粒子の直径を測定した。
具体的には、
図15(a)〜(c)のSEMによる画像写真について、Al粒子の「直径」を各画像写真におけるAl粒子の水平方向(左右方向)と垂直方向(上下方向)の径と定義し、粒子の直径の平均値と標準偏差を求めた。その結果は以下の表1に示すように、1.1±0.4μmとなった。このことから、作製されたAl薄膜のAl粒子の直径は、0.7μm以上1.5μm以下のほぼ均一な範囲に分布していることが確認された。
【0039】
〈Al基板上に形成するAl薄膜の蒸着速度の依存性〉
上記のように蒸着速度0.5nm/s、2.0nm/s、10.0nm/sでAl基板上に作製したAl薄膜について、W(nm)及びRms(nm)を測定し、最表面積の増加率を算出した。W(nm)はベアリング解析により求めた表面高さ分布のピークの半値幅を、Rms(nm)は表面高さの標準偏差であり、いずれも表面の粗さ度合いを表す。
最表面積とは、AFMで測定したAl薄膜の見かけの表面積を言う。結果を以下の表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果から、蒸着速度に対するAl薄膜の最表面の形態及び表面粗さ、更に最表面積の増加率に大きな相違は認められなかった。
このように、蒸着速度を0.5nm/s〜10.0nm/sとして真空蒸着することにより、上記した所期の表面状態とされたAl薄膜を得ることができることが確認された。
なお、0.5nm/s〜10.0nm/sの範囲内の蒸着速度では、Al薄膜の表面状態に差異は認められなかった。
【0042】
〈Al基板上に形成したAl薄膜の全表面積の増加率〉
平坦な表面のAl基板のみの試料(試料A)と、上記のように当該表面にAl薄膜を蒸着速度0.5nm/s、2.0nm/s、10.0nm/sで形成したAl基板の試料(それぞれ試料B、試料C、試料D)とについて、交流インピーダンス法を用いて容量を測定した。具体的には、室温で0.5mol/lの硫酸ナトリウム水溶液中に試料A、B、C、Dをそれぞれ浸漬させ、カーボンファイバーの対電極を用いて試料A、B、C、Dの5mm×5mmの領域の電気二重層の容量を測定した。測定結果を以下の表2に示す。ここで、R
1は溶液の抵抗、R
2とCはそれぞれ電気二重層の抵抗と容量である。なお、電気二重層の容量Cはcm
2当たりの値である。
【0043】
【表2】
【0044】
表2の結果から、以下のようにAl薄膜の全表面積の増加率を算出した。全表面積の増加率とは、Al薄膜の真の表面積を言う。
試料の容量は表面積に比例する。従って表2より、試料B、C、Dの表面積は試料Aの表面積のそれぞれ2.62、2.59、2.60倍となる。
このことから、本発明により作製した試料B、C、DのAl薄膜では、全表面積の増加率はそれぞれ162、159、160%となることが確認された。
【0045】
〈Al基板上に形成するAl薄膜の蒸着温度の依存性〉
上記のように蒸着速度2.0nm/sにおいて、Al基板上に作製したAl薄膜のSEMによる画像写真による測定結果を
図17に示す。倍率は6000倍である。
図17では、蒸着温度が460℃の場合を(a)に、蒸着温度が480℃の場合を(b)に、蒸着温度が520℃での場合を(c)にそれぞれ示す。作製されたAl薄膜の表面には、蒸着温度500℃で作製したAl薄膜と同様に、孤立した円柱状であってサイズが均一なAl粒子の構造が明確に見られる。Al粒子とAl粒子との間には空隙が存在する。各Al粒子は、Al基板上から直立していると考えられる。個々のAl粒子の露出した側面部分が、Al薄膜の比表面積の増加に特に大きく寄与するものと考えられる。
【0046】
図17(a)〜(c)のSEMによる画像写真について、上記のように粒子の直径の平均値と標準偏差を求めた。その結果は以下の表3に示すように、1.1±0.4μmとなった。このことから、作製されたAl薄膜のAl粒子の直径は、0.7μm以上1.5μm以下のほぼ均一な範囲に分布していることが確認された。
【0047】
【表3】
【0048】
平坦な表面のAl基板のみの試料(試料A)と、上記のように当該表面にAl薄膜を蒸着速度2.0nm/sにおいて、蒸着温度460℃、480℃、520℃で形成したAl基板の試料(それぞれ試料E、試料F、試料G)とについて、上記のように容量を測定した。測定結果を以下の表3に示す。ここで、R
1は溶液の抵抗、R
2とCはそれぞれ電気二重層の抵抗と容量である。なお、電気二重層の容量Cはcm
2当たりの値である。
【0049】
表3より、試料E、F、Gの表面積は試料Aの表面積のそれぞれ2.69、2.68、2.61倍となる。このことから、本発明により作製した試料E、F、GのAl薄膜では、全表面積の増加率はそれぞれ169、168、161%となることが確認された。
【0050】
1.4×10
-6Torr以上3.1×10
-6Torr以下の高真空中で、蒸着温度500℃、蒸着速度0.5nm/s、2.0nm/s、10.0nm/sと、蒸着速度2.0nm/sで、460℃、480℃、520℃とで作製したAl薄膜の構成を模式的に
図18に示す。
Al基板51上に、孤立した各Al粒子53の集合体としてAl薄膜52が形成されている。Al粒子53は、各々孤立したサイズが均一な円柱状とされ、直径1μm程度で高さ0.15μm程度とされている。
【0051】
以上説明したように、本発明によれば、真空蒸着によるドライな条件で、化学薬品を使用することなく、廃棄物の排出を抑えながら極めて大きな比表面積を有するAl薄膜を得ることができる。