特許第5692727号(P5692727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5692727紫外線発光蛍光体及びそれを用いる発光素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692727
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】紫外線発光蛍光体及びそれを用いる発光素子
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/80 20060101AFI20150312BHJP
   H01J 61/44 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C09K11/80CPH
   H01J61/44 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-104497(P2012-104497)
(22)【出願日】2012年5月1日
(65)【公開番号】特開2013-231142(P2013-231142A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2013年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207089
【氏名又は名称】大電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】尾畠 道夫
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−534128(JP,A)
【文献】 特開2002−348571(JP,A)
【文献】 特表2008−536282(JP,A)
【文献】 特開昭62−215684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00−11/89
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Y1−x−yGdBiAl(BO)(0<x<0.6,0.0005<y<0.01)で表される組成を有することを特徴とする、真空紫外線により励起されて紫外線を発光する蛍光体。
【請求項2】
請求項1に記載された蛍光体を用いることを特徴とする発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を発光する紫外線発光蛍光体及びそれを用いる発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に蛍光体は、紫外線、電子線、X線などの電磁波エネルギーにより励起され、紫外域から赤外域までの光を発光する物質である。そして、蛍光体の種類によって、様々な分光分布を持たせることができるため、適当な励起源との組み合わせにより様々な発光素子が開発されている。
【0003】
使用頻度の高い蛍光体は光の三原色である赤色、緑色、青色を発光する蛍光体であり、多くの蛍光体が開発・実用化されている。
このような蛍光体は励起源に何を用いるかにより選択され、使用される。例えば、ブラウン管に用いられる電子線励起用蛍光体としてはYS:Eu、ZnS:Cu,Al、ZnS:Ag,Alなどがある。蛍光灯照明や冷陰極管に用いられる紫外線励起用蛍光体としてはY:Eu、LaPO:Tb、BaMgAl1017:Euなどがあり、プラズマディスプレイに用いられる真空紫外線励起用蛍光体としては(YGd)BO:Eu、ZnSiO:Mn、BaMgAl1017:Euなどがある。
【0004】
紫外線を発光する紫外線発光蛍光体も開発されている。紫外線はその波長から近紫外線(波長200−380nm),遠紫外線(波長10−200nm:一般に真空紫外線と呼ばれており、以下「真空紫外線」という。),極端紫外線(波長10nm以下)に分けられる。近紫外線はさらにUV−A(波長315−380nm)、UV−B(波長280−315nm)、UV−C(波長200−280nm)に分けられる。これらの紫外線は補虫器、殺菌、脱臭、汚れ防止、露光用や皮膚治療など、用途に応じて選択され利用されている。
【0005】
紫外線発光蛍光体としては、例えばSrBF:EuやBaSi:PbはUV−Aを発光することが知られている。また、YBO:Gd,Pr(特許文献1参照)、YF:Gd(特許文献2参照)、YB:Gd(特許文献2参照)、(Y1−mGd)Al(BO(特許文献2参照)、(Y1−mGd)Al3−nSc(BO(特許文献3参照)、Sr1−mGdAl12−nMg19(特許文献4参照)、(La1−m−n−zGdCe)PO(特許文献5参照)などはUV−Bを発光する蛍光体として報告されている。また、LaPO:Pr,YPO:Bi,LuPO:Pr(特許文献6参照)やSr(Al,Mg)1219:Pr(特許文献7参照)などはUV−Cを発光する蛍光体として報告されている。なお、以上の構造式において、m、n、zは、一般に、1以下の数字を表す。
【0006】
UV−Bを発光する蛍光体のうち、YAl(BOからなる母体で構成されY(イットリウム)の一部がGd(ガドリニウム)で置換されている(Y1−mGd)Al(BOと(Y1−mGd)Al3−nSc(BOは313nm付近にGd3+のf−f遷移に起因した半値幅の狭い発光を示す優れた紫外線発光蛍光体であり、非特許文献1には(Y1−mGd)Al(BOの励起源として真空紫外線を用いることが有効であるが記載されている。
【0007】
この真空紫外線を発生させる方法としてはプラズマディスプレイに用いられているXe放電が一般的であるが、その際に発生する147nmと172nmの波長の割合と真空紫外線の発生効率(真空紫外線の発生量を直接測定するよりも蛍光体を発光させた方が測定しやすいため、発光効率として議論されることが多い。)はXe濃度に依存している。Xe濃度が低い場合には147nmの発生割合が高いが、Xe濃度が高くなるにつれ、172nmの発生割合が高くなってくる。特許文献8にはXe濃度における147nmと172nmの発生割合が記載されており、Xe濃度が10mol%では172nmの強度の割合が147nmの3.1倍と高く、Xe濃度が12mol%では147nmの3.8倍になるとある。また、Xe濃度が高い方が真空紫外線の発生効率が高くなることが知られており、現在市販されているプラズマディスプレイパネルにおいては、発光効率の観点からXe濃度が高めに設定されている。そのため、Xe放電により発生する真空紫外線を用いる場合には147nmと172nmのどちらか一方の波長より効率よく励起されるのではなく、両方の波長により効率良く励起されることが望まれる。
【0008】
しかしながら、YAl(BOでは非特許文献1に記載されているように170nm以下の波長では強い発光を示すが、170nm以上の波長では極端に発光が弱いため、Xe放電を用いた光源を用いる場合には147nmの波長は有効に利用することができるものの、172nmの波長を有効に利用することができない。また、特許文献3に記載の(Y1−mGd)Al3−nSc(BOは前記蛍光体のAlサイトの一部をScで置換したものであるが、これにより172nm励起の発光特性は改善するものの、147nm励起の発光特性の変化については記載されておらず、また発光特性改善のために用いられているScはレアアースに分類され、その性質上抽出方法が難しいため、生産量も少なく、非常に高価な物質であるので、かなり高価になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3683143号公報
【特許文献2】特許第4266706号公報
【特許文献3】特許第4109995号公報
【特許文献4】特開2007−238938号公報
【特許文献5】特表2006−525404号公報
【特許文献6】特開2003−022783号公報
【特許文献7】特開2006−342336号公報
【特許文献8】特開2009−029407号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Jpn.J.Appl.Phys.Vol.42(2003)pp.5656-5659
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、YAl(BOから成る母体で構成され、Yの一部がGdで置換されている紫外線発光蛍光体において、Xe放電により発生する147nmと172nmのいずれの励起波長によっても効率良く発光できるように改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは誠意検討した結果、YAl(BOの紫外線発光蛍光体のYの一部をGdに加えて、さらにBi(ビスマス)で置換することにより、147nm励起特性の低下を最小限に留めて、172nm励起特性を大幅に向上できることを見出し本発明を導き出した。
【0013】
すなわち、本発明は、一般式Y1−x−yGdBiAl(BO(0<x<0.6,0<y<0.03)で表される組成を有することを特徴とする紫外線を発光する蛍光体である。
また、本発明は、この蛍光体を用いることを特徴とする発光素子である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の紫外線発光蛍光体は、Xe放電により発生する147nmと172nmを含む広範な波長の励起光源により効率よく励起されて、紫外線を発光する新しいタイプの蛍光体であり、この紫外線発光蛍光体を用いた発光素子ではGd3+のf−f遷移に起因する313nmの良好な発光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例の蛍光体と比較例の蛍光体の励起スペクトルデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、Y1−xGdAl(BOのYの一部を更にBiで置換した一般式Y1−x−yGdBiAl(BO(0<x<0.6,0<y<0.03)からなる紫外線を発光する蛍光体である。
【0017】
付活剤であるガドリニウムの量xは0<x<0.6であり、好ましいのは0.1≦x<0.6の間であり、より好ましいのは0.2≦x≦0.5の時である。ガドリニウムの量が0.6を超えると目的の化合物以外のものが生成しやすくなり、313nmの発光は見られるものの特性が低下してしまう。また、ガドリウムの量が0.1より少ない場合は147nm励起での特性は良いものの、172nm励起での特性が低くなってしまう。
【0018】
Yサイトの一部を置換するBiの量yは0<y<0.03であり、好ましいのは0<y<0.02であり、より好ましいのは0.0005≦y≦0.02である。Biの量が0.03を超えると目的の化合物以外のものが生成しやすくなり、147nm励起の特性が著しく低下してしまう。また172nm励起の特性の改善率が低下してくるため、Bi添加効果を活かすことができない。
【0019】
次に、本発明にかかる紫外線発光蛍光体の作製方法について説明する。出発原料としては各構成元素の酸化物、硝酸塩、硫酸塩、有機物などを用いることができる。これらの出発原料を所要量秤量し、混合する。混合方法は公知の方法を採用することができ、例えば湿式混合や乾式混合を挙げることができる。また、溶解性のある出発原料を用いる場合はゾル−ゲル法、共沈法などの化学反応を利用することもできる。
【0020】
なお、粒子径を制御したり、発光効率を向上させるために、ハロゲン化合物やホウ素化合物などのフラックス剤を一緒に添加しても良い。添加は混合する際に一緒に添加したり、混合後に添加することもできる。
【0021】
この原料混合物をアルミナるつぼ等の耐熱容器に入れて、大気中、例えば800℃〜1200℃で1〜50時間焼成することにより、本発明にかかる紫外線発光蛍光体を得ることができる。雰囲気は大気以外にも、窒素や還元雰囲気を用いても良い。次いで必要に応じ、粉砕、水洗、乾燥、篩い分けを行い、紫外線発光蛍光体を目的の粒度に調整する。なお、均質な紫外線発光蛍光体粉末を得るために、焼成を2回以上行っても良い。
【0022】
本発明の紫外線発光蛍光体を用いた発光素子としては、励起源として電子線や真空紫外線を用いたものに利用できるが、もっとも好ましいのはXe放電を利用した真空紫外線を光源とする発光素子である。
【0023】
〔実施例〕
次に本発明を下記の実施例を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1
原料としてY、Gd、Bi、Al、HBOを最終的なY:Gd:Bi:Al:Bのモル比が0.695:0.3:0.005:3:4になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、電気炉にて大気中1200℃で10時間保持し焼成した。この焼成物を温水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の紫外線発光蛍光体Y0.695Gd0.3Bi0.005Al(BOを得た。
【0024】
実施例2−実施例10
原料としてY、Gd、Bi、Al、HBOを最終的なY:Gd:Bi:Al:Bのモル比が0.795:0.2:0.005:3:4(実施例2)、0.595:0.4:0.005:3:4(実施例3)、0.495:0.5:0.005:3:4(実施例4)、0.6975:0.3:0.0025:3:4(実施例5)、0.6925:0.3:0.0075:3:4(実施例6)、0.69:0.3:0.01:3:4(実施例7)、0.68:0.3:0.02:3:4(実施例8)、0.699:0.3:0.001:3:4(実施例9)、0.6995:0.3:0.0005:3:4(実施例10)になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、電気炉にて大気中1200℃で10時間保持し焼成した。この焼成物を温水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の組成の紫外線発光蛍光体を得た。
【0025】
比較例
原料としてY、Gd、Al、HBOを最終的なY:Gd:Al:Bのモル比が0.7:0.3:3:4になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製るつぼに入れ、大気中1200℃で10時間保持し焼成した。この焼成物を湯水で洗浄後、乾燥して乳鉢で解砕し、目的の蛍光体Y0.7Gd0.3Al(BOを得た。
【0026】
実施例1〜10および比較例で得られた蛍光体の発光特性を、光源として重水素ランプ(浜松ホトニクス製)、検出器に光電子倍増管(R374:浜松ホトニクス製)を用いて測定した。すなわち、Gd3+のf−f遷移に起因する313nmの発光を検出しながら励起光の波長を変化させることにより励起スペクトル測定を行った。表1の値は、比較例の147nm励起と172nm励起の発光ピーク強度をそれぞれ100%として規格化して、各実施例の発光ピーク強度を示している。また、図1は、励起波長130nmから300nmの領域の励起スペクトルを例示している。
【0027】
【表1】
【0028】
表1から明らかなように、実施例に示したYの一部をBiに置換した紫外線発光蛍光体は172nm励起における発光特性が比較例に示した紫外線発光蛍光体に比べて大幅に改善している。172nm励起での発光特性が最も改善しているのは実施例6に示したBi=0.0075の場合で、比較例に比べて約1.9倍の改善が見られた。その際の147nm励起での発光特性は比較例に比べ約3%の低下しか見られなかった。
【0029】
さらに、図1から明らかなように、本発明に従う実施例の紫外線発光蛍光体は比較例のものに比べて、172nm励起の特性のみではなく、170nmから300nmのほとんどの領域で発光特性が大幅に向上していることがわかる。そのため、本発明は光源としてXe放電を用いた真空紫外線発光以外の光源(例えば、低圧水銀ランプの185nmと254nmやKrClエキシマレーザーの222nm)を利用することもできる産業上の有用性の高い蛍光体およびそれを用いる発光素子を提供する。
【0030】
なお、本明細書で使用している用語と表現はあくまで説明上のものであって、限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。
図1