(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
糖鎖固定化金属ナノ粒子が第一の磁性体に結合した構造を有する糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子よりも平均粒子径が大きい第二の磁性体と、検体とを含有する混和物に磁力を加える工程を含み、
上記糖鎖固定化金属ナノ粒子は、リガンド複合体が、硫黄原子によって金属ナノ粒子と結合した構造を有し、上記リガンド複合体は、リンカー化合物のアミノ基に、還元末端を有する糖鎖が結合した構造を有し、上記リンカー化合物は、分子内にアミノ基と、硫黄原子と、主鎖に炭素−窒素結合を有する炭化水素鎖とを備える化合物であり、
上記還元末端を有する糖鎖は、濃縮対象のウイルスが認識する糖鎖であることを特徴とするウイルスの濃縮方法。
上記混和物は、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の糖鎖に検体を接触させて得られた検体接触磁性金属ナノ粒子に上記第二の磁性体を混和することによって得られることを特徴とする請求項1に記載のウイルスの濃縮方法。
上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の平均粒子径が1nm以上100nm未満であり、上記第二の磁性体の平均粒子径が100nm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルスの濃縮方法。
上記第一の磁性体および上記第二の磁性体は、それぞれ独立して、酸化鉄、マグネタイトまたはフェライトであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のウイルスの濃縮方法。
糖鎖固定化金属ナノ粒子が第一の磁性体に結合した構造を有する糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子よりも平均粒子径が大きい第二の磁性体と、を含有する磁性体組成物であって、
上記糖鎖固定化金属ナノ粒子は、リガンド複合体が、硫黄原子によって金属ナノ粒子と結合した構造を有し、上記リガンド複合体は、リンカー化合物のアミノ基に、還元末端を有する糖鎖が結合した構造を有し、上記リンカー化合物は、分子内にアミノ基と、硫黄原子と、主鎖に炭素−窒素結合を有する炭化水素鎖とを備える化合物であり、
上記還元末端を有する糖鎖は、濃縮対象のウイルスが認識する糖鎖であることを特徴とする磁性体組成物。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書において、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを表す。また、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0028】
(1.ウイルスの濃縮方法)
本発明にかかるウイルスの濃縮方法は、糖鎖固定化金属ナノ粒子が第一の磁性体に結合した構造を有する糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子よりも平均粒子径が大きい第二の磁性体と、検体とを含有する混和物に磁力を加える工程を含み、上記糖鎖固定化金属ナノ粒子は、リガンド複合体が、硫黄原子によって金属ナノ粒子と結合した構造を有し、上記リガンド複合体は、リンカー化合物のアミノ基に、還元末端を有する糖鎖が結合した構造を有し、上記リンカー化合物は、分子内にアミノ基と、硫黄原子と、主鎖に炭素−窒素結合を有する炭化水素鎖とを備える化合物である。
【0029】
本明細書において、「糖鎖固定化金属ナノ粒子」とは、リガンド複合体が、硫黄原子によって金属ナノ粒子と結合した構造を有する粒子をいう。また、糖鎖固定化金属ナノ粒子が第一の磁性体に結合した構造を有する粒子を、「糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子」という。
【0030】
本明細書において、「リガンド複合体」とは、任意の金属と結合することのできる上記リンカー化合物と、ウイルス中のタンパク質などと特異的に相互作用することのできる糖鎖とから構成される化合物であり、上記リンカー化合物のアミノ基に、還元末端を有する糖鎖が結合した構造を有する化合物をいう。そのため、上記リガンド複合体は、タンパク質等の物質と、非特異的な疎水性に基づく相互作用を起こさないものであることが必要とされる。
【0031】
リガンド複合体に含まれる上記リンカー化合物は分子内に硫黄原子を有するため、この硫黄原子によって、金属との間に金属−硫黄結合(例えば、Au−S結合)を形成し、金属に強固に結合することができる。これにより、リガンド複合体に含まれる糖鎖が、リンカー化合物を通して間接的に金属に固定される。
【0032】
上記リンカー化合物は、分子内にアミノ基を有し、主鎖に炭素−窒素結合を有する。上記リンカー化合物のアミノ基には還元末端を有する糖鎖が結合し、硫黄原子は金属ナノ粒子と結合するので、金属ナノ粒子上に糖鎖分子を集合化して配列することができる。また、上記アミノ基には、還元末端を有する糖鎖とアミノ基との間の還元アミノ化反応によって、上記糖鎖を簡便に導入することができる。
【0033】
上記金属ナノ粒子とは、平均粒子径が好ましくは1nm以上100nm未満であるコロイド状の金属粒子を意味する。平均粒子径が1nm未満ではナノ粒子が作製し難く、平均粒子径が100nm以上の場合は、コロイドそのものが沈降してしまい、ウイルスとの反応がおこらない恐れがある。また、ウイルスの大きさが100nm程度であることから、ウイルスより大きな粒子を用いるとウイルスへの結合効率が低下する恐れがある。平均粒子径の算出方法等については後述する。
【0034】
上記金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、白金、酸化アルミニウム、SrTiO
3、LaAlO
3、NdGaO
3、ZrO
2等を用いることができる。中でも金であることがより好ましい。金としては、入手の容易性に鑑みると、塩化金酸およびその塩類であることが好ましく、塩化金酸であることが特に好ましい。上記金属ナノ粒子を得る方法としては、特に限定されず、例えば、従来公知の方法を用いて、塩化金属酸およびその塩類をメタノール、水またはこれらの混合溶媒等に溶解させ、クエン酸等で還元させて金属イオン(例えば金イオン)を金属(例えば金)へ導くことで得ることができる。上記塩化金属酸およびその塩類の具体例としては、例えば塩化金(III)ナトリウムを挙げることができる。
【0035】
上記リガンド複合体には、上記リンカー化合物のアミノ基に、還元末端を有する糖鎖が導入されている。言い換えれば、上記リガンド複合体は、上記リンカー化合物と、還元末端を有する糖鎖とが、アミノ基を介して結合している構造を有している。この糖鎖の導入は、例えば、上記リンカー化合物のアミノ基(−NH
2基)と糖との還元アミノ化反応によって行うことができる。つまり、糖鎖中の平衡によって生じるアルデヒド基(−CHO基)またはケトン基(−CRO基、Rは炭化水素基)と、上記リンカー化合物が有するアミノ基とが反応する。そして、この反応によって形成されたシッフ塩基を引き続き還元することによって、アミノ基に容易に糖鎖を導入することができる。
【0036】
上記リガンド複合体を調製するためには、上記リンカー化合物と上記糖鎖とをモル比1:1〜50:1で混和することが好ましい。
【0037】
なお、上記「還元末端を有する糖鎖」とは、アノマー炭素原子が置換を受けていない単糖鎖、オリゴ糖鎖、または多糖鎖である。つまり、上記「還元末端を有する糖鎖」とは、還元糖鎖である。上記還元末端を有する糖鎖としては、市販のものであっても天然のものであってもよく、合成して調製したものや、市販および天然の多糖鎖を分解して調製したものを用いることもできる。
【0038】
上記還元末端を有する糖鎖としてより具体的には、グルコース、ガラクトース、マンノース、マルトース、イソマルトース、ラクトース、パノース、セロビオース、メリビオース、マンノオリゴ糖、キトオリゴ糖、ラミナリオリゴ糖、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルクロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸などが挙げられる。また、これらの糖鎖を含む糖鎖も挙げられるが、これに限定されることはなく、濃縮対象のウイルスが認識する糖鎖を適宜選択し、上記リンカー化合物に導入すればよい。
【0039】
上記リンカー化合物は、分子内にアミノ基と、硫黄原子と、主鎖に炭素−窒素結合を有する炭化水素鎖とを備える化合物であれば、特に限定されるものではなく、従来公知のリンカー化合物、例えば、本発明者らがこれまでに開発したリンカー化合物を好適に用いることができる。
【0040】
上記炭化水素鎖は、主鎖が炭素−窒素結合を少なくとも1つ有していればよく、さらに、一部の炭素および/または水素が他の原子や置換基に置換されていてもよい。例えば、炭素−炭素結合(C−C結合)の少なくとも1つが炭素−窒素結合(C−N結合)に置換されている炭化水素鎖の他、炭素−炭素結合の一部がさらに炭素−窒素結合、炭素−酸素結合(C−O結合)、アミド結合(CO−NH結合)等に置換されている炭化水素鎖であってもよい。上記アミノ基は糖鎖を結合するために用いられ、上記硫黄原子は金属と結合するために用いられる。
【0041】
上記アミノ基は、糖鎖を結合しやすくするため、上記炭化水素鎖の末端に位置することが好ましい。上記アミノ基は、修飾されたアミノ基であってもよい。例えば、アセチル基、メチル基、ホルミル基等で修飾されたアミノ基や、芳香族アミノ基を挙げることができる。もちろん、未修飾のアミノ基であってもよい。中でも、芳香族アミノ基であることが好ましい。還元アミノ化反応の最適条件であるpH3〜4の条件下においては、アミノ基がプロトン化されないことが必要である。そのため、芳香族との共役によって、pH3〜4の条件下でも非共有電子対が窒素原子上に存在しうるアミノ基である芳香族アミノ基であることが好ましい。
【0042】
上記硫黄原子は、上記炭化水素鎖の一部の炭素が硫黄に置換された状態で存在し、金属−硫黄結合を容易に形成することができるため、ジスルフィド結合(S−S結合)またはチオール基(SH基)として、上記炭化水素鎖中に含まれることが好ましい。上記炭化水素鎖において、硫黄原子を含む炭化水素構造は、例えば後述する一般式(1)〜(4)、(6)で表される化合物のように、ジスルフィド結合(S−S結合)を含む五員環の環状構造であってもよく、例えば一般式(5)で表される化合物のように鎖状構造であってもよい。また、鎖状構造の場合は、直鎖構造であっても枝分かれ構造であってもよい。
【0043】
リンカー化合物としては、例えばWO2005/077965号公報、米国特許公報7320867B2に記載の、下記のリンカー化合物を用いることができる。
【0046】
(式中、m
1、m
2、m
3はそれぞれ独立して0以上6以下の整数、n
1は1以上6以下の整数)
で表される構造を有する化合物。
【0049】
(式中、m
4、m
5はそれぞれ独立して0以上6以下の整数、n
1は1以上6以下の整数)
で表される構造を有する化合物。
【0052】
(式中、n
1、qはそれぞれ独立して0以上6以下の整数)
で表される構造を有する化合物。
【0055】
(式中、n
2は1以上6以下の整数)
で表される構造を有する化合物。
【0058】
(式中、n
1は1以上6以下の整数)
で表される構造を有する化合物。
【0061】
(式中、n
1は1以上6以下の整数)
で表される構造を有し、Xが以下の一般式(7)で表される構造を有する化合物。
【0063】
(式中、m
4、m
5、m
6、m
7、P
1、P
2はそれぞれ独立して1以上6以下の整数)
で表される構造を有する化合物。
【0064】
これらの化合物の中では、特に限定されるものではないが、例えば一般式(1)においてm
1、m
2、m
3がそれぞれ1であり、n
1が1である化合物、一般式(2)においてm
4、m
5がそれぞれ2であり、n
1が1である化合物、一般式(3)においてn
1およびqがゼロである化合物、一般式(4)においてn
2が4である化合物、一般式(5)においてn
1が3である化合物が好適に用いられる。
【0065】
リンカー化合物は例えばWO2005/077965号公報、米国特許公報7320867B2などに記載された従来公知の方法によって製造することができる。例えば、上記一般式(1)、(2)、(3)、(6)で表されるリンカー化合物は、チオクト酸と、芳香族アミノ基末端が保護基によって保護されたアミン化合物との縮合反応を行い、上記芳香族アミノ基末端の保護基を脱保護することによって製造することができる。また、上記一般式(5)で表されるリンカー化合物は、γ−メルカプト酪酸の2量体と、2分子の芳香族アミノ基末端が保護基によって保護されたアミン化合物との縮合反応を行い、上記芳香族アミノ基末端の保護基を脱保護することによって製造することができる。
【0066】
上記糖鎖固定化金属ナノ粒子は、上記リガンド複合体と上記金属を含む溶液とを混和するだけで製造することができるので、非常に容易に糖鎖を固定化することができる。
【0067】
本発明にかかるウイルスの濃縮方法においては、糖鎖固定化金属ナノ粒子が第一の磁性体に結合した構造を有する糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を用いる。本明細書において「第一の磁性体」とは、糖鎖固定化金属ナノ粒子が有する金属が結合する磁性体をいう。
【0068】
磁性体としては特に限定されるものではなく、従来公知の磁性体を用いることができる。例えば、酸化鉄、マグネタイト、酸化クロム、コバルト、フェライト、ニッケル、ガドリニウムなどを挙げることができる。中でも、表面に容易に金属を析出させることができるため、上記第一の磁性体および上記第二の磁性体は、それぞれ独立して、酸化鉄、マグネタイトまたはフェライトであることが好ましい。なお、本明細書においては、酸化鉄とは三価の鉄の酸化物を指すものとする。マグネタイトとは二価および三価の鉄の酸化物(Fe
2+Fe
3+2O
4)である。第一の磁性体と第二の磁性体とは、それぞれ異なる磁性体であってもよいが、同一の磁性体であることが好ましい。例えば、第一の磁性体および第二の磁性体が共にマグネタイトであることが好ましい。
【0069】
「糖鎖固定化金属ナノ粒子が第一の磁性体に結合した構造」とは、糖鎖固定化金属ナノ粒子が有する金属が、第一の磁性体に結合した構造をいう。上記結合の態様としては、特に限定されるものではなく、例えば上記金属が第一の磁性体の表面に金属結合あるいは非特異的吸着によって析出する態様を挙げることができる。
【0070】
前述のように、本明細書では、糖鎖固定化金属ナノ粒子が第一の磁性体に結合した構造を有する粒子を、「糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子」と称する。糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を調製する方法は特に限定されるものではない。例えば、リガンド複合体の硫黄原子に結合させたい金属のイオンと、上記第一の磁性体とを溶媒中で混和することによって、上記第一の磁性体の表面に上記金属を析出させ、次に上記リガンド複合体を混和し、還元処理することによって得ることができる。これにより、リガンド複合体にS−S結合などの形で含まれる硫黄原子が、例えばAu−S結合などの金属−硫黄結合により、上記金属に固定されるので、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を調製することができる。
【0071】
上記溶媒としては特に限定されるものではないが、例えば、水、メタノール、水およびメタノールの混合溶媒などを挙げることができる。また、上記還元処理に用いる還元剤も特に限定されるものではない。例えば、水素化ホウ素ナトリウム、クエン酸およびその塩類、アスコルビン酸およびその塩類、リン、タンニン酸およびその塩類、エタノール、ヒドラジン等を用いることができる。
【0072】
上記金属のイオンと、上記第一の磁性体と、上記リガンド複合体と、上記還元剤とが混和された溶液において、上記金属が塩化金酸およびその塩類である場合、上記溶液中において、塩化金酸およびその塩類の最終濃度は0.5mM〜30mMであることが好ましく、1mM〜10mMであることがさらに好ましい。上記還元剤は、上記溶液中の最終濃度が金イオンのモル濃度の3〜20倍モル濃度であることが好ましく、5〜10倍モル濃度であることがさらに好ましい。上記リガンド複合体は上記溶液中の最終濃度が0.1mM〜100mMであることが好ましく、1mM〜10mMであることがさらに好ましい。上記第一の磁性体は、上記溶液中の最終濃度がFe濃度として0.5mM〜10mMであることが好ましく、1mM〜5mMであることがさらに好ましい。
【0073】
上記リガンド複合体は、タンパク質と非特異的な相互作用を起こすことによる影響をほぼ無視することができる。それゆえ、上記リガンド複合体を用いることにより、上記糖鎖とウイルスのタンパク質との相互作用を再現性良く評価することが可能である。
【0074】
得られた上記糖鎖固定化金属ナノ粒子は、磁力を加えることにより、低分子の塩などの非磁性体成分を除くことによって、溶液状態でより安定な状態にすることができる。
【0075】
上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の平均粒子径の範囲は、ナノスケール(ゼロnmより大きく1μm未満)であって、後述する第二の磁性体の平均粒子径より小さければ特に限定されるものではないが、1nm以上100nm未満であることが好ましく、2nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0076】
上記第一の磁性体の平均粒子径は、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の平均粒子径を、ナノスケール(ゼロnmより大きく1μm未満)であって、第二の磁性体の平均粒子径よりも小さい平均粒子径にすることができる大きさであれば特に限定されるものではないが、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の平均粒子径を1nm以上100nm未満にすることができる大きさであることが好ましく、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の平均粒子径を2nm以上50nm以下とすることができる大きさであることがより好ましい。
【0077】
また、上記第二の磁性体の平均粒子径の範囲は、平均粒子径の上限が100μmであり、かつ、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の平均粒子径より大きければ特に限定されるものではないが、100nm以上100μm以下であることが好ましく、100nm以上50000nm以下であることがより好ましく、1000nm以上10000nm以下であることがさらに好ましい。
【0078】
本発明者らが確認したところ、上記第二の磁性体を使用せず、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子のみを使用した場合は、磁力のみを加えることによっては、遠心分離を用いた場合に匹敵する濃縮効率を得ることはできなかった(後述する実施例1で用いた対照を参照)。次に、本発明者らは、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の粒子径を大きくすることによりこの問題を解決できないか検討したが、やはり遠心分離を用いた場合に匹敵する濃縮効率を得ることはできなかった(後述する比較例1を参照)。
【0079】
そこで、本発明者らは鋭意検討の結果、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と共に、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子よりも平均粒子径が大きい第二の磁性体を用いることによって、遠心分離を用いた場合に匹敵する濃縮効率を得ることができることを見出した。
【0080】
そして、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の平均粒子径を上記範囲とし、第二の磁性体の平均粒子径を上記範囲のように調整することにより、両者の平均粒子径が最適化されると推測され、糖鎖固定化磁性ナノ粒子と、上記第二の磁性体と、検体とを含有する混和物に磁力を加えることによって、検体にウイルスが含有されている場合、検体中の微量のウイルスを、遠心分離を用いることなく、より効率よく、簡便かつ安全に濃縮することができる。
【0081】
上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子はウイルスと一体化しやすいが、磁力が小さいため、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を用いるのみでは、ブラウン運動が障害となって、外部からの磁界によって磁力を加えても有効にウイルスを濃縮することが困難であると推測される。一方、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と共に、上記第二の磁性体を用いると、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と、上記第二の磁性体と、検体とを含有する混和物がブラウン運動に打ち勝つだけの磁力を備えるようになり、その結果、外部からの磁界によって磁力を加えることによって、ウイルスを効果的に濃縮することができるものと推測される。
【0082】
本明細書において「粒子径」とは、粒子を透過型電子顕微鏡で観察した場合の、粒子の二次元形状に対する最大内接円の直径が意図される。例えば、粒子の二次元形状が実質的に円形状である場合はその円の直径が意図され、実質的に楕円形状である場合はその楕円の短径が意図され、実質的に正方形状である場合はその正方形の辺の長さが意図され、実質的に長方形状である場合はその長方形の短辺の長さが意図される。「平均粒子径」とは、複数個の粒子の上記粒子径の平均値をいう。本明細書において、平均粒子径が所定の範囲の値を有するか否かは、20個の粒子を透過型電子顕微鏡で観察して、各粒子の上記粒子径を測定し、20個の粒子の上記粒子径の平均値を求めることによって確認した。
【0083】
本発明にかかる方法では、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子よりも平均粒子径が大きい第二の磁性体と、検体とを含有する混和物に磁力を加える。上記検体中にウイルスが含有されている場合、ウイルスは糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の糖鎖に結合する。検体としては、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と接触させることができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、唾液、鼻粘膜、植物や動物の体液等を挙げることができる。これらはそれ自体を検体として用いてもよいし、例えばMEM培地や生理食塩水等に添加して調製した液体として用いることもできる。このような検体を、例えば糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を水、生理食塩水またはリン酸緩衝液等に添加して調製した溶液と混和することにより、検体と糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子との接触を行うことができる。
【0084】
ウイルスは糖鎖を認識する性質を有するため、濃縮対象のウイルスが認識する糖鎖を用いて糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を調製し、検体と接触させることにより、検体中にウイルスが含まれていればウイルスと上記糖鎖とが特異的に結合することになる。
【0085】
濃縮対象のウイルスとしては、特に限定されるものではない。例えば、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、性病ヘルペスウイルス、エイズウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、水疱瘡ウイルス(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)、成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)、レンチウイルス、コイヘルペスウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス等を挙げることができる。
【0086】
インフルエンザウイルスが特異的に認識する糖鎖としては、例えば、ヘパリン、NeuAcα2−6Galβ1−4GlcNAcβGlc、NeuAcα2−6Galβ1−3GlcNAcβGlc、NeuAcα2−3Galβ1−4GlcNAcβGlc、NeuAcα2−3Galβ1−3GlcNAcβGlcがある。これらの糖鎖の中から何れかの糖鎖を選択して糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を調製し、検体と接触させることにより、検体中にウイルスが含まれていればウイルスと上記糖鎖とが特異的に結合することになる。
【0087】
単純ヘルペスウイルス、性病ウイルス、水疱瘡ウイルス(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)、レンチウイルス、コイヘルペスウイルス、アデノウイルスが特異的に認識する糖鎖としては、例えばヘパリン、ヘパラン硫酸、ヘパラン硫酸を構成する二糖構造、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸を構成する二糖構造を挙げることができる。
【0088】
また、エイズウイルス、成人T細胞白血病ウイルスが特異的に認識する糖鎖としては、例えばヘパリン、ヘパラン硫酸、ヘパラン硫酸を構成する二糖構造を挙げることができ、ノロウイルスが特異的に認識する糖鎖としては、例えばフコース、N−アセチルガラクトサミンを挙げることができる。ロタウイルスが特異的に認識する糖鎖としては、例えばラクトースを挙げることができる。
【0089】
上記インフルエンザウイルスは、検体中に1×10
−6ヘマグルチニン単位(HAU)程度含まれていれば、本発明にかかる方法によって遠心分離を用いることなく、短時間で簡便かつ安全に濃縮することができるため、例えばリアルタイムPCRに供することにより十分に検体中におけるウイルスの存在を検出することができる。
【0090】
上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と上記第二の磁性体との重量比は、1:1×10
3〜1:1×10
11であることが好ましい。平均粒子径が上述のような関係にある糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と、第二の磁性体との使用量の比をかかる範囲に調整することによって、濃縮効率をより向上させることができる。
【0091】
上記「磁力を加える」について、磁力の加え方は特に限定されるものではない。例えば、従来公知の電磁石や棒磁石などの永久磁石を、上記混和物を入れた容器の外壁に当接させることなどによって、上記混和物に磁力を加えることができる。磁力の強さとしては、遠心分離を用いた場合と同等の濃縮効率を得るためには、100〜500ミリステラであることが好ましい。
【0092】
また、上記混和物に磁力を加える工程の終了時期は、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子が液中に分散していることによって呈する着色が、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子が第二の磁性体に吸着されることで薄くなる現象を基準にして判断すればよい。
【0093】
磁力を加えることによって、ウイルスが結合した糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と、第二磁性体とが磁力により集積される。この集積物からウイルス遺伝子を回収する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法によることができる。例えば、上記集積物を滅菌水または蒸留水で水洗後、適宜ピペッティングを行い、上記集積物を含む滅菌水または蒸留水を100℃で加熱することによって、上清にウイルス遺伝子を回収することができる。
【0094】
上記混和物は、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の糖鎖に検体を接触させて得られた検体接触磁性金属ナノ粒子に上記第二の磁性体を混和することによって得ることが好ましい。これにより、検体中にウイルスが存在している場合には、上記糖鎖をウイルスが認識し、結合し、その後で上記第二の磁性体を混和するので、ウイルスと糖鎖との結合がより迅速に行われるという利点がある。上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と検体との接触は、例えば、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を水、生理食塩水、またはリン酸緩衝液などに添加して調製した溶液と、検体とを混和することにより行うことができる。混和後には、例えばピペッティングなどの手法によって攪拌することにより、ウイルスと糖鎖との結合をより確実に行うことができ、ウイルスと糖鎖との結合に要する時間を短縮することができる。
【0095】
なお、上記「認識」とは、ウイルスの表面タンパク質が分子内に有する糖結合部位(糖鎖認識部位)によって糖鎖に結合することをいう。上記結合としては、水素結合、イオン結合、静電気的相互作用による結合、ファンデルワールス力による結合等を挙げることができる。
【0096】
本発明にかかる方法によるウイルスの濃縮結果を確認する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、回収したウイルスをPCR、リアルタイムPCR、ノーザンブロッティング、イムノクロマトグラフィー、ELISAなどに供することによって確認することができる。中でも迅速に遺伝子の定量を行うことができるため、リアルタイムPCRを用いることが好ましい。リアルタイムPCRを用いる場合、濃縮前のCt(Threshold Cycle)値から濃縮後のCt値を差し引いた差分を求め、本発明にかかる方法により濃縮した場合の該差分が、遠心分離によって濃縮した場合の該差分と同等であれば、本発明の課題を解決できたということができる。
【0097】
(2.磁性体組成物および濃縮装置)
本発明にかかる磁性体組成物は、糖鎖固定化金属ナノ粒子が第一の磁性体に結合した構造を有する糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子よりも平均粒子径が大きい第二の磁性体と、を含有する磁性体組成物であって、上記糖鎖固定化金属ナノ粒子は、リガンド複合体が、硫黄原子によって金属ナノ粒子と結合した構造を有し、上記リガンド複合体は、リンカー化合物のアミノ基に、還元末端を有する糖鎖が結合した構造を有し、上記リンカー化合物は、分子内にアミノ基と、硫黄原子と、主鎖に炭素−窒素結合を有する炭化水素鎖とを備える化合物である。
【0098】
上記「糖鎖固定化金属ナノ粒子」、「第一の磁性体」、「糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子」、「第二の磁性体」については既に説明したとおりである。上記磁性体組成物は、検体と混和することによって、検体中にウイルスが含まれている場合、該ウイルスが糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の糖鎖に結合する。そして上記第二の磁性体を含んでいるため、該ウイルスを糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の糖鎖に結合させた後に、上記磁性体組成物に磁力を加えることにより、ウイルスの濃縮を行うことができる。
【0099】
上記磁性体組成物は、例えば、上述のように調製した糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の溶液に上記第二の磁性体を混和することによって調製することができる。この際、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子と上記第二の磁性体との重量比が、1:1×10
3〜1:1×10
11となるように混和することが好ましい。
【0100】
本発明にかかる濃縮装置は、少なくとも、本発明にかかる上記磁性体組成物と、磁石とを含む。上記装置は、他に、検体、上記磁性体組成物、バッファーなどをそれぞれ貯留しておく貯留部や、これら貯留部から検体、上記磁性体組成物、バッファーなどを吸引するためのポンプ、上記吸引を行う際に吸引量を調整するための電磁弁、検体、上記磁性体組成物、バッファーなどを混合するためのチャンバー等を備えていてもよい。
【0101】
例えば、検体と上記磁性体組成物とが混合された後、混合物に対し、磁石によって磁力を加えることにより、ウイルスが結合した上記磁性体組成物を沈殿させることができる。上記沈殿からウイルスを回収する方法については上述のとおりである。なお、上記濃縮装置は、ウイルスの濃縮装置として用いることができることはもちろんであるが、例えば糖鎖を認識する性質を有するバクテリア等を濃縮対象とし、該バクテリア等の濃縮装置として用いることも可能である。
【0102】
(3.糖鎖‐タンパク質相互作用の測定方法)
糖鎖固定化金属ナノ粒子が第一の磁性体に結合した構造を有する糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の末端に位置する糖鎖を認識するタンパク質とを混和することによって、糖鎖とタンパク質とを相互作用させ、糖鎖−タンパク質相互作用体を生成させることにより、糖鎖−タンパク質相互作用を測定することができる。以下、糖鎖−タンパク質相互作用を測定する方法を「糖鎖‐タンパク質相互作用の測定方法」という。
【0103】
上記「糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を含む溶液」とは、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子が液体に分散したものとの意味である。上記溶液には、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子が含まれていれば、他に塩などが含まれていてもよい。上記液体としては、例えば水や緩衝液等を用いることができる。
【0104】
上記タンパク質としては特に限定されるものではなく、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の末端に位置する糖鎖を認識することができるものであればよい。例えば、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の末端に位置する糖鎖がグルコースの場合は、グルコースを認識することができるタンパク質であるコンカナバリンA(ConA)、レンチルレクチン(LCA)、ピーナッツレクチン(PSA)等を用いることができる。
【0105】
同様に、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の末端に位置する糖鎖がガラクトースである場合は、ガラクトースを認識するタンパク質であるヒマメレクチン(RCA120)等を用いることができる。また、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の末端に位置する糖鎖がN−アセチルグルコサミンである場合は、N−アセチルグルコサミンを認識するタンパク質である小麦胚芽レクチンなどを用いることができる。
【0106】
上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の末端に位置する糖鎖を認識するタンパク質とを混和する方法は特に限定されるものではなく、糖鎖とタンパク質とを相互作用させることができるものであればよい。例えば、マイクロプレートやエッペンドルフチューブなどにタンパク質の希釈系列を作成し、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を含む溶液を添加して放置することにより混和を行うことができる。
【0107】
糖鎖とタンパク質との相互作用(以下、「糖鎖−タンパク質相互作用」と称する)としては、水素結合、イオン結合、静電気的相互作用、ファンデルワールス力などを挙げることができる。すなわち、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の末端に位置する糖鎖をタンパク質が認識し、その結果、水素結合等の糖鎖−タンパク質相互作用が生じる。
【0108】
上記「糖鎖−タンパク質相互作用体」とは、糖鎖とタンパク質とが相互作用して特異的に結合し、その結果生成される凝集物を意味する。糖鎖−タンパク質相互作用は、糖鎖−タンパク質相互作用体の生成として目視で確認することができる。糖鎖とタンパク質とが相互作用しない場合は、糖鎖−タンパク質相互作用体は形成されない。
【0109】
ここで、凝集反応を確認することによって物質間の相互作用を測定する方法としては、例えば抗原抗体反応を用いたラテックス凝集法等を挙げることができる(「バイオ診断薬の開発・評価と企業」、CMCテクニカルライブラリー146、シーエムシー出版、P92−97,P109−113)。上記ラテックス凝集法は、ラテックス表面に抗体を固定化させておき、96穴のマイクロプレートを用いて試料抗原の希釈系列を作り、凝集を生じる最大希釈倍率を求め標準溶液と比較して測定するという方法である。結果は一定波長の光で吸光度として測定される。
【0110】
しかしながら、コロイドについて凝集反応を確認することによって物質間の相互作用を測定する方法としては、比較的小さな粒子の呈する赤色と比較的大きな粒子の呈する紫色をもって結果を判断するという手法が知られているのみである。したがって、コロイドにおいても糖鎖とタンパク質とを相互作用させて凝集物を生成させ、当該凝集物の生成を確認することによって結果を判定することができる上記「糖鎖‐タンパク質相互作用の測定方法」は、従来の方法よりも非常に簡便であり、有用な方法であるということができる。
【0111】
上記「糖鎖‐タンパク質相互作用の測定方法」は、糖鎖−タンパク質相互作用を非標識で測定することができるので、標識を要する方法のように前処理を必要としない点で簡便である。さらに、標識効果が測定のばらつきに大きく影響するという問題も存在せず、再現性のよい測定を行うことができる。また、糖鎖−タンパク質相互作用を目視で確認することができるので、特別な装置も必要なく、非常に安価かつ容易に糖−タンパク質相互作用を測定することができる。
【0112】
したがって、上記「糖鎖‐タンパク質相互作用の測定方法」は、糖鎖やタンパク質の機能解析や、検査・診断などに用いることが可能である。
【0113】
なお、上記「糖鎖‐タンパク質相互作用の測定方法」は、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の末端に位置する糖鎖を認識するタンパク質とを混和することによって、糖鎖とタンパク質とを相互作用させ、糖鎖−タンパク質相互作用体を生成させる工程を含んでいればよい。したがって、例えば上述のように糖鎖−タンパク質相互作用体の生成を目視で確認するだけでもよいし、より詳細な測定を行いたい場合は、一定波長の紫外可視吸光スペクトルを測定する工程を含んでいてもよい。
【0114】
(4.糖鎖−タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法
一実施形態において、上記糖鎖−タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法は、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の末端に位置する糖鎖を認識するタンパク質とを混和して糖鎖とタンパク質とを相互作用させ、糖鎖−タンパク質相互作用体を生成させる工程と、当該糖鎖−タンパク質相互作用体と水とを混和した混和液のpHを5以下とする工程と、を含んでいる。
【0115】
上記「糖鎖−タンパク質相互作用体と水とを混和した混和液のpHを5以下とする工程」は、糖鎖とタンパク質との相互作用の結果生成した上記糖鎖−タンパク質相互作用体の磁気等による分離を行う工程と、上記糖鎖−タンパク質相互作用体と水とを混和した混和液のpHを5以下とする工程を含んでいる。上記酸としては、上記混和液の液性を酸性にすることができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば塩酸、シナピン酸、硝酸、硫酸等を用いることができる。
【0116】
上記混和液のpHを5以下にすることにより、液性が酸性となるため、糖鎖−タンパク質相互作用体の糖鎖部分からタンパク質を解離させることができる。または、上記混和液のpHを5以下にすることにより、糖鎖−タンパク質相互作用体を構成するタンパク質の構造が変性し、糖鎖のタンパク質認識能が低下するため、糖鎖−タンパク質相互作用体からタンパク質を完全に解離させることができる。
【0117】
糖鎖−タンパク質相互作用体から解離したタンパク質は、後述する実施例に示すように糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子からも明確に解離し、簡単に回収することができる。また、解離したタンパク質は、アクリルアミド電気泳動、タンパク質定量、質量分析等の方法を用いて同定することが可能である。上記質量分析は、マトリックス支援型レーザ脱離/飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF/MS)などの従来公知の質量分析計を使用し、従来公知の方法に従って実施すればよい。
【0118】
一実施形態において、糖鎖−タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法は、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の末端に位置する糖鎖を認識するタンパク質とを混和して糖鎖とタンパク質とを相互作用させ、糖鎖−タンパク質相互作用体を生成させる工程と、当該糖鎖−タンパク質相互作用体の磁気等による分離を行う工程と、当該糖鎖−タンパク質相互作用体と上記タンパク質が認識可能な糖鎖とを混和する工程と、を含んでいる。
【0119】
当該糖鎖−タンパク質相互作用体と上記タンパク質が認識可能な糖鎖とを混和する工程では、糖鎖とタンパク質との相互作用の結果生成した上記糖鎖−タンパク質相互作用体を遠心分離などの方法によって回収し、回収した上記糖鎖−タンパク質相互作用体に、上記糖鎖−タンパク質相互作用体を構成するタンパク質が認識可能な糖鎖を添加して混和する。
【0120】
その結果、上記糖鎖−タンパク質相互作用体を構成するタンパク質と、上記タンパク質が認識可能な糖鎖との間に置換反応が生じるため、上記糖鎖−タンパク質相互作用体からタンパク質が解離するものと考えられる。
【0121】
なお「当該糖鎖−タンパク質相互作用体と上記タンパク質が認識可能な糖鎖とを混和する工程」における混和の方法は特に限定されるものではなく、攪拌は行ってもよいし、行わなくてもよい。また、上記工程は糖鎖−タンパク質相互作用体を構成する糖鎖と、上記タンパク質が認識可能な糖鎖との親和置換を伴う工程であるため、上記タンパク質が認識可能な糖鎖は過剰量添加することが好ましい。
【0122】
解離したタンパク質は、アクリルアミド電気泳動、タンパク質定量、質量分析等の方法を用いて同定することが可能である。
【0123】
また、タンパク質と糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子とを反応させる際に予めタンパク質が認識可能な様々な糖鎖を添加しておくことにより、糖鎖−タンパク質相互作用に起因する凝集を阻害することができれば、より詳しくタンパク質の機能を解析することができる。例えば、タンパク質に対してどの糖鎖がより強固に結合するかということ等の機能解析が可能になると考えられる。
【0124】
また、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子は、糖鎖とタンパク質との相互作用を検出する相互作用検出剤、ウイルス濃縮剤、細胞標識剤、磁気ハイパーサーミア発熱剤、MRI造影剤、磁化検出器により磁化を検出する診断剤などに利用することもできる。
【0125】
なお、本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0126】
本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0127】
〔実施例1:本発明にかかる方法によるインフルエンザウイルスの濃縮〕
50mMの塩化鉄(II)水溶液50μlと50mMの塩化鉄(III)水溶液25μlとを混合し、撹拌下、1Mのアンモニア水250μlを添加して、第一の磁性体である酸化鉄磁性ナノ粒子を含有する溶液を調製した。
【0128】
次に、50mMの塩化金酸(III)水溶液75μl、5mgの「ヘパリンを含むリガンド複合体」を滅菌水に添加して150μlとした水溶液、および125mMの水素化ホウ素ナトリウム水溶液300μlを、上記酸化鉄磁性ナノ粒子を含有する溶液に添加し、撹拌して、ヘパリンを固定化した糖鎖固定化磁性金ナノ粒子(以下、「ヘパリン固定化磁性金ナノ粒子」とも言う。平均粒子径33nm)の溶液1を調製した。
【0129】
なお、上記「ヘパリンを含むリガンド複合体」は、ヘパリンの水溶液と、上記一般式(3)で示されるリンカー化合物(n
1=0、q=0)のN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)溶液(以下、単に「DMAC溶液」と略記する)とに酢酸を添加した後、ヘパリンと、上記リンカー化合物と、NaBH
3CNとのモル比が1:1:10となるように、酢酸を添加した上記ヘパリン水溶液と、酢酸を添加したDMAC溶液と、NaBH
3CNとを混合し、37℃で3日間攪拌することによって調製した。
【0130】
A型インフルエンザウイルス(A/OKUDA/1957、H2N2)をPBSで希釈し、0.5HAU/mlとしたインフルエンザウイルス希釈液490μlに、上記溶液1を10μl添加した溶液2を得て、室温(25.5℃)で30分静置した。
【0131】
次に、上記第二の磁性体として、平均粒子径2.8μmの Dynabeads M-270 30mg/ml(以下、単にDynabeads M-270と記載、Invitrogen Dynal 製、品番;DB14305)10μlを、30分間静置した上記溶液2に添加した。対照として、上記第二の磁性体を添加せずに、上記溶液2を以下の処理に供した試験区も設けた。なお、本明細書において、滅菌水はイオン交換水をオートクレーブ滅菌して調製したものを用いた。
【0132】
上記 Dynabeads M-270はフェライトであり、上記 Dynabeads M-270 30mg/ml とは、Dynabeads M-270が添加されている液体中において、Dynabeads M-270の濃度が30mg/mlという意味である。
【0133】
図2は、第二の磁性体を加えた溶液2に磁力を加える様子を示すものである。磁石(株式会社サンギョウサプライ ネオジウム磁石 表面磁束密度;150ミリテスラ、80×15×3mm)を、上記溶液2が入っている容器を挟むように設置し、1往復/2sのスピードで上記容器を30回上下させることにより(つまり30往復、計1分間)、ヘパリンを固定化した糖鎖固定化磁性金ナノ粒子と、第二の磁性体と、インフルエンザウイルスとを含有する混和物に磁力を加えた。最後に2分間、容器の底部に上記磁石を設置して上記混和物を完全に沈降させ、上清と沈殿とを得た。当該沈殿に超純水10μlを加え、100℃で5分間加熱した後、上記磁石を容器の底部の側面に設置して2分間磁力を加え、上清を得た。
【0134】
上記第二の磁性体を添加しなかった試験区では、溶液2に第二の磁性体を加えないこと以外は、第二の磁性体を加える場合と同様の方法で磁力を加え、上清と沈殿とを得た。また、上記第二の磁性体を添加しなかった試験区では、磁力を加える代わりに、上記溶液2に対して10000gで10分間遠心分離を行う試験区も設け、上清と沈殿とを得た。これらの沈殿に超純水10μlを加え、100℃で5分間加熱した後、10000gで10分間遠心分離を行い、上清を得た。
【0135】
図1は、上記溶液2の調製からリアルタイムRT−PCRに供する上清の調製までの工程を示すフローチャートである。
【0136】
これらの上清2μlを、表1に示す各試薬を表1に示す量で混合したPCR用試薬20μlに添加し、リアルタイムRT−PCRに供した。リアルタイムRT−PCR装置としては、ライトサイクラー(登録商標、型番350S、Roche製)を用い、蛍光色素としてSYBR Greenを用いた。プライマーとしては、感染症研究所発行の病原体検査マニュアル「高病原性鳥インフルエンザ(2006年6月改定)」中のTypeA/M遺伝子検出用プライマーであるTypeA/M30F TTCTAACCGAGGTCGAAACG (20bp、配列番号1、日本遺伝子研究所製)およびTypeA/M264R2 ACAAAGCGTCTACGCTGCAG (20bp、配列番号2、日本遺伝子研究所製)を用い、上記A型インフルエンザウイルスのRNAのMプロテイン領域234bpを増幅させた。RT−PCRの条件は、逆転写反応を45℃2分、初期熱変性処理を95℃1分、PCRサイクルは95℃1秒、60℃1秒、72℃5秒を1サイクルとして設定し、40サイクル行った。
【0137】
なお、表1中、10×FBIはバッファーであり、最終濃度の欄における「1×」は、10×FBIを、最終濃度の欄における「1×」になるように、10倍希釈して使用することを意味している。また、SYBR Greenの濃度の欄における「1/2000」および最終濃度の欄における「1/20000」は、TaKaRa 50513の原液を滅菌水で2000倍希釈したものを、最終濃度が20000倍希釈となるように用いることを意味している。また、Prime Script、SpeedSTARはいずれもPCR用の酵素である。
【0138】
【表1】
【0139】
0.5HAU/mlのA型インフルエンザウイルス希釈液のCt値(表2において「濃縮前のCt値」と記載)と、上記上清のCt値(表2において「濃縮後のCt値」と記載)とを測定し、その差分を求めた。この差分が大きいほど濃縮効率がよいことになる。結果を表2に示す。
【0140】
【表2】
【0141】
表2において「第二の磁性体不使用/磁石」と記載した試験区は、上記第二の磁性体を添加せずに、上記溶液2を磁石を用いた濃縮に供した試験区であり、「第二の磁性体不使用/遠心」と記載した試験区は、上記第二の磁性体を添加せずに、上記溶液2を遠心分離による濃縮に供した試験区である。表2に示すように、上記第二の磁性体を用いない場合、遠心分離を用いた濃縮では、濃縮前のCt値と、濃縮後のCt値との差分が2.95であったのに対し、磁石のみを用いた濃縮では1.68であり、遠心分離を用いた場合と比べて濃縮効率は劣っていた。また、ヘパリンを固定化した糖鎖固定化磁性金ナノ粒子と、インフルエンザウイルスとを含有する混和物に磁力を加えてから沈殿を得るまでには、約30分という長い時間が必要であった。一方、上記第二の磁性体としてDynabeads M-270を用いた場合は、上記差分が3.07となり、遠心分離を用いた場合に匹敵する濃縮効率が得られた。
【0142】
〔実施例2:第二の磁性体の検討〕
次に、第二の磁性体として使用可能な磁性体の探索を行った。供試した磁性体を表3に示す。
【0143】
0981S2453 TS‐3(パウダーテック(株)製、表3および以下において「TS−3」と記載)は、マグネタイトに対してMnを添加して調製されたMn系フェライトと呼ばれるものである。
【0144】
Dynabeads M-270については実施例1で説明したとおりである。
【0145】
Dynabeads MyOne10mg/ml(表3および以下において、単にDynabeads MyOneと記載、Invitrogen Dynal 製、品番;DB65001)は、Dynabeads MyOneを0.01%Tween-20と0.09% NaN
3とを含むPBS(pH7.4)に添加したときのDynabeads MyOneの濃度が10mg/mlという意味である。Dynabeads MyOneは、酸化鉄とマグネタイトとの混合物である。
【0146】
ProMag 3series COOH Surfactant Free (PMC3N)(表3および以下において、単にProMag 3seriesと記載、Bangs Laboratories,Inc.製、品番;PMC3N)は、Dynabeads M-270に類似する磁性体(フェライト)であり、界面活性剤を含まない磁性体である。ProMag 3seriesは、ProMag 3seriesを、イオン交換水に1.9g/mlとなるように加えた懸濁液として用いた。
【0147】
【表3】
【0148】
A型インフルエンザウィルス(A/OKUDA/1957、H2N2)をPBSで希釈し、0.1HAU/mlとしたインフルエンザウイルス希釈液490μlに、実施例1で用いた溶液1を10μl添加した溶液2´を得た。室温(25.5℃)において、溶液2´(500μl)に対して1回/秒の割合で10回ピペッティングを行った後、さらに1回/秒の割合で5分間ピペッティングを行った。ピペッティングを行うことにより、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の糖鎖へのウイルスの結合が促進される。
【0149】
次に、TS−3 20mgを滅菌水2mlに懸濁させた液体10μl、Dynabeads M-270 10μl、Dynabeads MyOne 10μlまたはProMag 3series 10μlを、上記溶液2´(500μl)に添加し、1回/秒の割合で10回ピペッティングを行った。
【0150】
続いて、磁石(株式会社サンギョウサプライ ネオジウム磁石 表面磁束密度;150ミリテスラ、80×15×3mm)を、
図2に示すように、表3に示す磁性体を加えた溶液2´が入っている容器を挟むように設置した。上記容器を1往復/2sのスピードで30回上下させ(つまり30往復、計1分間)、ヘパリンを固定したヘパリン固定化磁性金ナノ粒子と、表3に示す磁性体と、インフルエンザウイルスとを含有する混和物に磁力を加え、最後に1分間、容器の底部に上記磁石を設置して上記混和物を完全に沈降させ、上清と沈殿とを得た。
【0151】
得られた沈殿に滅菌水10μlを添加してピペッティングを10回行い、100℃で2分間加熱した後、磁石で2分間磁力を加え、上清を得た。これらの上清2μlを、実施例1と同じ条件でリアルタイムRT−PCRに供し、0.1HAU/mlのA型インフルエンザウィルス希釈液のCt値(表3において「濃縮前のCt値」と記載)と、上記上清のCt値(表3において「濃縮後のCt値」と記載)とを測定し、その差分を求めた。
【0152】
表3に示すように、Dynabeads M-270を用いた場合、上記差分が5.22であった。つまり、0.1HAU/mlのA型インフルエンザウィルス(A/OKUDA/1957、H2N2)希釈液を濃縮せずにRT−PCRに供した場合と比較して5.22サイクル早くウイルスを検出でき、濃縮効率は2の5.22乗=37倍向上した。後述する比較例1では、ヘパリン固定化金ナノ粒子(平均粒子径;15nm)のコロイド溶液(10μl)を上記インフルエンザウイルス希釈液(490μl)に混合し、遠心分離(10000g、10分)を行って得られた沈殿に超純水10μlを加え、100℃で5分間加熱した後、10000gで10分間遠心分離を行い得られた上清のCt値と、0.1HAU/mlのA型インフルエンザウィルス希釈液のCt値との差分を求めている(5.37)。Dynabeads M-270を用いた場合の上記5.22はこれに匹敵するものであるため、遠心分離を用いて濃縮する場合と同等の濃縮効率が得られたことが分かる。
【0153】
また、TS−3、Dynabeads My OneまたはPro Mag 3seriesを用いた場合は、Dynabeads M-270を用いた場合より濃縮効率は劣っていたが、表3に示すように、上記A型インフルエンザウィルス希釈液を濃縮せずにRT−PCRに供した場合と比較して10倍以上の濃縮効率が得られていた。この結果は、後述する比較例1において、第二の磁性体を用いずに、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子のみを用いて0.1HAU/mlのA型インフルエンザウィルスを濃縮した場合の濃縮効率(後述する表4に示す2倍および8倍)よりも優れていた。よって、TS−3、Dynabeads My OneまたはPro Mag 3seriesを用いた場合も、遠心分離により濃縮する場合に生じうるサンプル飛散等の危険を回避しつつ、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子のみを用いる場合よりも濃縮効率を向上させることができるため、有用であるといえる。
【0154】
〔実施例3:α−グルコース固定化磁性金属ナノ粒子の調製〕
50mMの塩化鉄(II)水溶液50μlに50mMの塩化鉄(III)水溶液25μlを加えて混合し、攪拌下、1Mのアンモニア水250μlを添加して、第一の磁性体である酸化鉄磁性ナノ粒子を含有する溶液を調製した。次に、50mMの塩化金酸(III)水溶液75μl、リガンド複合体の水溶液(濃度10mM)150μlおよび125mMの水素化ホウ素ナトリウム300μlを添加し、攪拌して、粗α−グルコース固定化磁性金ナノ粒子のコロイド溶液を調製した。なお、上記リガンド複合体は、マルトース20mgと、上記一般式(3)で示されるリンカー化合物(n
1=0、q=0)19mgとを、水:N,N−ジメチルアセトアミド:酢酸(10:10:1)5.5mlに溶解した後、還元アミノ化を行うことによって調製した。
【0155】
次に、上記粗α−グルコース固定化磁性金ナノ粒子のコロイド溶液を超遠心分離(5万G、20分)とネオジウム磁石を用いた磁気分離とによって精製し、α−グルコース固定化磁性金ナノ粒子のコロイド溶液を得た。なお、「ネオジウム磁石を用いた磁気分離」とは、磁石(ケニス株式会社 高磁力マグネットバー 表面磁束密度:最大1.2テスラ、25φ×100mm)を粗α−グルコース固定化磁性金ナノ粒子のコロイド溶液の入った容器の底部に接触させ、上澄みを除くことによって粗α−グルコース固定化磁性金ナノ粒子を精製し、α−グルコース固定化磁性金ナノ粒子のコロイド溶液とすることを示す。
【0156】
図3に、調製した粗α−グルコース固定化磁性金ナノ粒子のコロイド溶液の透過型電子顕微鏡画像を示す。
【0157】
〔実施例4:糖鎖−タンパク質相互作用体からのConAの回収〕
エッペンドルフチューブに、PBS−Tに対して1.24mg/mlとなるように溶解させたConAを100μl、PBS−Tに対して1.0mg/mlとなるように溶解させたBSAを100μl分注し、実施例3で調製したα−グルコース固定化磁性金ナノ粒子のコロイド溶液を100μl添加してボルテックスミキサーを用いて10秒以上攪拌した。なお、上記PBS−Tとは、リン酸緩衝液に0.05%のデタージェントであるTween20を加えた溶液である。約2時間放置した後、実施例3と同様のネオジウム磁石を用いた磁気分離にて糖鎖−タンパク質相互作用体を沈殿させ、上清を回収した後、当該糖鎖−タンパク質相互作用体をPBS−Tおよび水で数回洗浄した。当該洗浄後、4mg/mlのグルコース溶液を100μl添加し、約1時間放置した。結果は、当該糖鎖−タンパク質相互作用体から解離したConAを、SDS−PAGE分析によって評価した。
【0158】
図4の写真は、SDS−PAGE分析によるタンパク質の精製過程を示すものであり、左側よりマーカータンパク質、α−グルコース固定化磁性金ナノ粒子添加前の溶液、α−グルコース固定化磁性金ナノ粒子添加後の上澄み液、糖鎖−タンパク質相互作用体解離後の溶液を示す。
【0159】
〔比較例1〕
実施例1に示したように、第二の磁性体を使用せず、糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子のみを使用した場合は、磁力のみを加えることによっては、遠心分離を用いた場合に匹敵する濃縮効率を得ることはできなかった。そこで、第二の磁性体を使用せず、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の粒子径を大きくすることによりこの問題を解決できないか検討した。
【0160】
糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子として、金酸化鉄磁性複合ナノ粒子(アクトノンパレル社製、LotNo:090711Rv)を用いた。上記金酸化鉄磁性複合ナノ粒子は、平均粒子径30nmの酸化鉄(Fe
3O
4)を核とするナノ粒子で、表面はPVP(ポリビニルピロリドン、水溶性ポリマー)でコーティングされており、Fe
3O
4を3.62mg/ml、Auを2.24mg/ml含有する。上記金酸化鉄磁性複合ナノ粒子は、金イオン、PVPを含む水溶液に酸化鉄を分散させた分散液に電子線を照射することによって合成されたものである。
【0161】
上記金酸化鉄磁性複合ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡により観察したところ、長軸が約200nm、短軸が約50nmの不定形粒子であった。よって、上記金酸化鉄磁性複合ナノ粒子の平均粒子径は、実施例1で用いたヘパリン固定化磁性金ナノ粒子(平均粒子径33nm)よりも大きいものであるといえる。
【0162】
この金酸化鉄磁性複合ナノ粒子を6mg/mlとなるように水に添加して得られた液体250μlに、ヘパリンを含むリガンド複合体(100mg/ml)の水溶液を245μl混合することによって、ヘパリン固定化金酸化鉄磁性複合ナノ粒子のコロイド溶液を作製した。上記「ヘパリンを含むリガンド複合体」は、実施例1と同様の方法によって調製した。
【0163】
A型インフルエンザウイルス(A/OKUDA/1957、H2N2)をPBSで希釈し、0.1HAU/mlとしたインフルエンザウイルス希釈液(490μl)に、ヘパリン固定化金酸化鉄磁性複合ナノ粒子のコロイド溶液(10μl)を混合し、4℃で30分間攪拌して溶液を得た。得られた溶液が入ったチューブの下に磁石(株式会社サンギョウサプライ ネオジウム磁石 表面磁束密度;150ミリテスラ、80×15×3mm)を設置して10秒間または30秒間磁力を加え、ヘパリン固定化金酸化鉄磁性複合ナノ粒子と上記ウイルスとの複合体を沈殿させた。上清を取り除き、上記複合体の沈殿に超純水10μlを加え、100℃で10分間加熱した後、上記磁石を容器の底部に設置して2分間磁力を加え、上清を得た。
【0164】
対照として、上記ヘパリン固定化金酸化鉄磁性複合ナノ粒子のコロイド溶液の代わりにヘパリン固定化金ナノ粒子(平均粒子径;15nm)のコロイド溶液(10μl)を上記インフルエンザウイルス希釈液(490μl)に混合し、遠心分離(10000g、10分)を行い、上清と沈殿とを得た。当該沈殿に超純水10μlを加え、100℃で5分間加熱した後、10000gで10分間遠心分離を行い、上清を得た。
【0165】
なお、上記ヘパリン固定化金ナノ粒子のコロイド溶液は、終濃度1mMの塩化金(III)ナトリウム水溶液、終濃度8.1mMのクエン酸三ナトリウム二水和物水溶液、終濃度200〜2000mg/mlの、上記「ヘパリンを含むリガンド複合体」を混合し、100℃、10分攪拌することによって調製した。
【0166】
これらの上清2μlを、PCR用試薬23μlに添加し、リアルタイムRT−PCRに供した。試薬としては、One Step SYBR PrimeScript RT-PCR Kit II(タカラバイオ、製品コードRR086A)を使用した。1反応あたりの試薬は、2×One Step SYBR RT-PCR Buffer 4 を12.5μl、PrimeScript 1 step Enzyme Mix 2 を1μl、PCR Forward Primer (10 μM)を1μl、PCR Reverse Primer (10 μM)を1μl、RNase Free 蒸留水を7.5μl混合したものを使用した。リアルタイムRT−PCR装置としては、Thermal Cycler Dice Real Time System(型番TP800、タカラバイオ製)を用い、蛍光色素としてSYBR Greenを用いた。プライマーとしては、インフルエンザのTypeA/M遺伝子(J. Clin Microbiol. 2005 43No.2:589-95.)検出用プライマーであるTypeA/MP gene (217-236) Forward GGACTGCAGCGTAGACGCTT (20bp、配列番号3、つくばオリゴサービス株式会社)およびTypeA/ MP gene (382-405) Reverse CATYCTGTTGTATATGAGGCCCAT (24bp、配列番号4、つくばオリゴサービス株式会社)を用い、A型インフルエンザウイルスのRNAのMプロテイン領域188bpを増幅させた。RT−PCRの条件は、逆転写反応を45℃5分、初期熱変性処理を95℃10秒、PCRサイクルは95℃5秒、60℃30秒、を1サイクルとして設定し、40サイクル行った。
【0167】
そして、上記0.1HAU/mlのA型インフルエンザウィルス希釈液のCt値(表4において「濃縮前のCt値」と記載)と、上記上清のCt値(表4において「濃縮後のCt値」と記載)とを測定し、その差分を求めた。結果を表4に示す。
【0168】
【表4】
【0169】
表4において、「磁石10秒接触」とあるのは、ヘパリン固定化金酸化鉄磁性複合ナノ粒子のコロイド溶液を用い、上記チューブの下に上記ネオジウム磁石を設置して10秒間磁力を加えた試験区から得られた上清を用いた場合の結果を示し、「磁石30秒接触」とあるのは、ヘパリン固定化金酸化鉄磁性複合ナノ粒子のコロイド溶液を用い、上記チューブの下に上記ネオジウム磁石を設置して30秒間磁力を加えた試験区から得られた上清を用いた場合の結果を示す。「遠心分離(10000g)とあるのは、ヘパリン固定化金ナノ粒子(平均粒子径;15nm)のコロイド溶液を用いた場合に得られた上清を用いた場合の結果を示す。
【0170】
その結果、ヘパリン固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を用いた場合、上記差分が5.37であった。つまり、0.1HAU/mlのA型インフルエンザウィルス希釈液を濃縮せずにRT−PCRに供した場合と比較して5.37サイクル早くウイルスを検出でき、濃縮効率は2の5.37乗=41倍向上した。
【0171】
一方、ヘパリン固定化金酸化鉄磁性複合ナノ粒子のコロイド溶液を用いた場合、磁力によるヘパリン固定化金酸化鉄磁性複合ナノ粒子と上記ウイルスとの複合体の沈殿は1分以内に行うことができたが、「磁石10秒接触」の場合の上記差分は1.22であり、「磁石30秒接触」の上記差分は2.92であった。つまり、0.1HAU/mlのA型インフルエンザウィルス希釈液を濃縮せずにRT−PCRに供した場合と比較して、それぞれ1.22サイクル、2.92サイクル早くウイルスを検出できたにとどまり、濃縮効率はそれぞれ2倍、8倍の向上にとどまった。このように、第二の磁性体を用いずに、上記糖鎖固定化磁性金属ナノ粒子の粒子径を大きくすることによっては、遠心分離を用いた場合に匹敵する濃縮効率を得ることはできなかった。