【実施例】
【0024】
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の単なる例示であって、本発明の限定を意図するものではない。
【0025】
<木質系または草本系バイオマスを炭素源とするリグニン分解微生物の探索>
木質系炭素源としてスギ微粉末を唯一の炭素源として生育する細菌を探索した。同様に、草本系炭素源としてケナフ微粉末を唯一の炭素源として生育する細菌およびトマト茎微粉末を唯一の炭素源として生育する細菌を探索した。
この結果、リグニン分解能力を有する細菌として、5種の細菌が分離された(KS−1株、KS−3株、KS−5株、KS−8株およびKS−9株)。
【0026】
これらの菌株について、16S rRNA系統解析を行った結果、KS−1株とKS−9株は、ラルストニア・ピッケティ(Ralstonia pickettii)に属する細菌であること、KS−8株は、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)に属する細菌であること、KS−3株は、ストレプトマイセス・シュードグリセオラス(Streptomyces pseudogriseolus)に属する細菌であること、KS−5株は、キラトコッカス・アサッカロボランス(Chelatococcus asaccharovorans)に属する細菌であることが明らかとなった。なお、16SrRNAの相同性はKS−1株が100%、KS−3株が100%、KS−5株が97%、KS−8株が100%であった。
【0027】
ストレプトマイセス・シュードグリセオラスKS−3株は、本発明者らにより、受領番号:NITE AP−918として、受領日:2010年3月23日に独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託された。
【0028】
<リグニン分解能力の測定>
[実施例1]
本発明のリグニン分解細菌であるラルストニア・ピッケティKS−1株によるリグニンの分解を、特開平9−67785号公報に記載された方法で測定した。具体的には、まず前培養として、表2に記載の組成の液体培地3mLにラルストニア・ピッケティKS−1株を1白金耳入れ、3日間、150rpmで回転振とう培養した。
【0029】
【0030】
次いで、表3に記載の組成の培地100mLを500mLの三角フラスコに注ぎ、これに前培養した菌体3mLを添加して、175rpmで回転振とう培養した。培養開始直後、培養開始から47時間後および72時間後に275nm、480nmおよび600nmの吸光度を測定した。275nmでは、リグニンの芳香環に由来する吸光度を測定し、480nmではリグニンの脱色、600nmでは菌体の増殖度を測定することにより、リグニンの分解率を算出した。なお、吸光度の測定には、培養液を10,000rpmで20分間遠心分離して得られた上清を用いた。
【0031】
【0032】
培養開始直後の吸光度に対する吸光度の減衰率を275nmについては
図1に、480nmについては
図2に、600nmについては
図3に、それぞれ×印で示す。測定の結果、72時間後の吸光度は、実験開始時と比べて275nmで約16%、480nmで約9.4%、600nmでは約11.1%減衰した。これらの結果から、本発明のリグニン分解細菌であるラルストニア・ピッケティKS−1株がリグニン分解能力を持つことが示された。
【0033】
[実施例2〜4]
ラルストニア・ピッケティKS−1株の代わりに、それぞれストレプトマイセス・シュードグリセオラスKS−3株、キラトコッカス・アサッカロボランスKS−5株、ステノトロホモナス・マルトフィリアKS−8株を使用して、実施例1と同様の測定を行った。結果を
図1〜3に、KS−3株については■で、KS−5株については▲で、KS−8株については●で示す。
これらの結果から、KS−3株、KS−5株、KS−8株のいずれもがリグニン分解能力を持つこと、ならびに、これらの中でもKS−3株とKS−5株は吸光度の減衰率が大きく、優れたリグニン分解能力を持つことが示された。
【0034】
<リグニン分解細菌ラルストニア・ピッケティKS−1株の菌学的性質>
[実施例5]
(1)リグニンパーオキシダーゼ活性測定法によるリグニン分解活性の分析
ラルストニア・ピッケティKS−1株のリグニン分解活性をリグニンパーオキシダーゼ(LiP)活性測定法により分析した。
【0035】
具体的には、以下の表4に示す1)から3)の3種の溶液を使用した。
【0036】
本実施例において、サンプル溶液は、KS−1株を表5に示す組成の液体培地で7日間、30℃で振とう培養した後の培養液を、10000rpmで20分間遠心分離して得られた上清を使用した。なお、炭素源としては、スギ微粉末、ケナフ微粉末またはトマト茎微粉末を使用した。
【0037】
基質溶液800μLとサンプル溶液100μLを1mL容のセル中で混合し、37℃で10分間静置した。その後、過酸化水素溶液100μLを加えて反応を開始した。反応直後の吸光度とブランクの吸光度(測定波長:310nm)とを比較し、反応直後の吸光度がブランクの吸光度の2倍以上である場合、酵素活性があると判断した(表7に+で示す)。実験の結果、反応直後の吸光度はブランクの吸光度の約2.66倍であり、KS−1株がリグニンパーオキシダーゼ活性を有することが明らかとなった。なお、ブランクとしては、過酸化水素溶液の代わりに水を使用したものを用いた。
【0038】
(2)マンガンペルオキシダーゼ活性測定法によるリグニン分解活性の分析
KS−1株のリグニン分解活性をマンガンペルオキシダーゼ(MnP)活性測定法により分析した。
【0039】
具体的には、以下の表6に示す1)から5)の5種の溶液を使用した。
【0040】
基質溶液50μL、20mM硫酸マンガン溶液50μL、マロン酸緩衝液700μLおよびサンプル溶液100μLを1mL容のセル中で混合し、37℃で10分間静置した。その後、過酸化水素溶液100μLを加えて反応を開始した。反応直後の吸光度とブランクの吸光度(測定波長:469nm)を比較し、反応直後の吸光度がブランクの吸光度にの2倍以上である場合、酵素活性があると判断した(表7に+で示す)。実験の結果、反応直後の吸光度はブランクの約1.65倍であり、KS−1株がマンガンペルオキシダーゼ活性を有することが明らかとなった。なお、ブランクとしては、過酸化水素溶液の代わりに水を使用したものを用いた。
【0041】
上記リグニン分解活性に加え、KS−1株のキシラン分解活性及びセルロース分解活性ならびに菌学的性質を検討した。結果を表7に示す。
なお、キシラン分解活性はキシラナーゼ活性を、セルロース分解活性はセルラーゼ活性を周知の方法により測定し、分析した。
【0042】
[実施例6]
ラルストニア・ピッケティに属するKS−9株の菌学的性質を実施例5と同様に分析した。
この結果、リグニンパーオキシダーゼ活性測定では、反応直後の吸光度はブランクの吸光度に対して約2.46倍であり、KS−9株がリグニンパーオキシダーゼ活性を有することが明らかとなった。一方、マンガンペルオキシダーゼ活性測定では、反応直後の吸光度はブランクの吸光度の約1.30倍であった。分析結果を表7に示す。
【0043】
【0044】
<リグニン分解細菌ステノトロホモナス・マルトフィリアKS−8株の菌学的性質>
[実施例7]
ステノトロホモナス・マルトフィリアKS−8株の菌学的性質を実施例5と同様にして分析した。
この結果、リグニンパーオキシダーゼ活性測定では、反応直後の吸光度はブランクの吸光度の約2.49倍であり、KS−8株がリグニンパーオキシダーゼ活性を有することが明らかとなった。マンガンペルオキシダーゼ活性測定では、反応直後の吸光度はブランクの吸光度の約1.50倍であり、KS−8株がマンガンペルオキシダーゼ活性を有することが明らかとなった。分析結果を表8に示す。なお、表中の記号の意味は、表7と同様である。
【0045】
【0046】
<リグニン分解細菌ストレプトマイセス・シュードグリセオラスKS−3株の菌学的性質>
[実施例8]
ストレプトマイセス・シュードグリセオラスKS−3株の菌学的性質を実施例5と同様にして分析した。
この結果、リグニンパーオキシダーゼ活性測定では、反応直後の吸光度はブランクの吸光度の約2.28倍であり、KS−3株がリグニンパーオキシダーゼ活性を有することが明らかとなった。マンガンペルオキシダーゼ活性測定では、反応直後の吸光度はブランクの吸光度の約2.0倍であり、KS−3株がマンガンペルオキシダーゼ活性を有することが明らかとなった。分析結果を表9に示す。なお、表中の記号の意味は、表7と同様である。
【0047】
【0048】
<リグニン分解細菌キラトコッカス・アサッカロボランスKS−5株の菌学的性質>
[実施例9]
キラトコッカス・アサッカロボランスKS−5株の菌学的性質を実施例5と同様にして分析した。
この結果、リグニンパーオキシダーゼ活性測定では、反応直後の吸光度はブランクの吸光度の約2.58倍であり、KS−5株がリグニンパーオキシダーゼ活性を有することが確認された。マンガンペルオキシダーゼ活性測定では、反応直後の吸光度はブランクの吸光度の約1.57倍であり、KS−5株のマンガンペルオキシダーゼ活性が確認された。分析結果を表10に示す。なお、表中の記号の意味は、表7と同様である。
【0049】
【0050】
<リグニン分解酵素活性を増強する培養液の探索>
[実施例10]
表11に記載の液体培地5mLを試験管に注ぎ、これに本発明のリグニン分解細菌であるラルストニア・ピッケティKS−1株を1白金耳植菌し、ローラー回転式培養装置にセットして、7日間、30rpmで培養した。
培養終了後、培養液を10,000rpmで20分間遠心分離して得られた上清をサンプル溶液とした。
【0051】
【0052】
1mL容の吸光度測定用セルに、サンプル溶液100μLと表12に記載の基質溶液800μLを加えて混合し、37℃で10分間インキュベートした。その後表12に記載の過酸化水素溶液100μLを加え、よく混合して酵素反応を開始させ、反応開始から1分後に吸光度を測定した。
この吸光度の値を、ブランクの吸光度で割りリグニンパーオキシダーゼ活性値として2.20が得られた。なお、ブランクの吸光度は、過酸化水素溶液の代わりに水を用いたこと以外は同様の測定を行って得た。
【0053】
【0054】
[実施例11]
液体培地の窒素源として酵母エキスの代わりに硫酸アンモニウムを用いたこと以外は実施例10と同様にして吸光度測定を行い、リグニンパーオキシダーゼ活性値1.683を得た。
【0055】
[実施例12]
液体培地の窒素源として酵母エキスの代わりに硝酸アンモニウムを用いたこと以外は実施例10と同様にして吸光度測定を行い、リグニンパーオキシダーゼ活性値3.413を得た。結果のまとめを表13に示す。
実施例10〜12の結果から、ラルストニア・ピッケティKS−1株は、窒素源として硝酸アンモニウムを使用した場合に、優れたリグニンパーオキシダーゼ活性を示すことが明らかとなった。
【0056】
[実施例13〜15]
リグニン分解細菌として、ラルストニア・ピッケティKS−1株に代えてストレプトマイセス・シュードグリセオラス(Streptomyces pseudogriseolus)KS−3株を用いたこと以外は、それぞれ実施例10〜12と同様にして吸光度測定を行った。窒素源として酵母エキスを用いた実施例13のリグニンパーオキシダーゼ活性は2.163、硫酸アンモニウムを用いた実施例14では4.314、硝酸アンモニウムを用いた実施例15では4.070であった。結果のまとめを表13に示す。
これらの結果から、ストレプトマイセス・シュードグリセオラスKS−3株は、窒素源として硫酸アンモニウムまたは硝酸アンモニウムを用いることにより、従来汎用されている酵母エキスを用いる場合と比べて2倍程度の酵素活性を得ることができる。
【0057】
[実施例16〜18]
リグニン分解細菌として、ラルストニア・ピッケティKS−1株に代えてキラトコッカス・アサッカロボランス(Chelatococcus asaccharovorans)KS−5株を用いたこと以外は、それぞれ実施例10〜12と同様にして吸光度測定を行った。窒素源として酵母エキスを用いた実施例16のリグニンパーオキシダーゼ活性は2.478、硫酸アンモニウムを用いた実施例17では1.882、硝酸アンモニウムを用いた実施例18では3.188であった。結果のまとめを表13に示す。
これらの結果から、キラトコッカス・アサッカロボランスKS−5株は、窒素源として硝酸アンモニウムを用いることにより、優れたリグニンパーオキシダーゼ活性を示すことが明らかとなった。
【0058】
[実施例19〜21]
リグニン分解細菌として、ラルストニア・ピッケティKS−1株に代えてステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)KS−8株を用いたこと以外は、それぞれ実施例10〜12と同様にして吸光度測定を行った。窒素源として酵母エキスを用いた実施例19のリグニンパーオキシダーゼ活性は2.457、硫酸アンモニウムを用いた実施例20では3.921、硝酸アンモニウムを用いた実施例21では2.889であった。結果のまとめを表13に示す。
これらの結果から、ステノトロホモナス・マルトフィリアKS−8株は、窒素源として硫酸アンモニウムを用いることにより、優れたリグニンパーオキシダーゼ活性を示すことが明らかとなった。
【0059】