特許第5692746号(P5692746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692746
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】全身性疼痛症候群の治療または予防薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20150312BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20150312BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150312BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   A61K48/00ZNA
   A61K39/395 D
   A61K39/395 N
   A61K37/02
   A61P29/00
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2010-523905(P2010-523905)
(86)(22)【出願日】2009年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2009064062
(87)【国際公開番号】WO2010016590
(87)【国際公開日】20100211
【審査請求日】2012年7月17日
(31)【優先権主張番号】特願2008-204762(P2008-204762)
(32)【優先日】2008年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-112990(P2009-112990)
(32)【優先日】2009年5月7日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】512237154
【氏名又は名称】株式会社エム・エス・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】植田 弘師
【審査官】 中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−506604(JP,A)
【文献】 植田弘師,特集;線維筋痛症の基礎と臨床“線維筋痛症と神経因性疼痛のメカニズム”,Pharma Medica,日本,メディカルレビュー社,2006年 6月,Vol.24,No.6,P.15-19
【文献】 Gardell,S.E.,et al.,“Emerging medicinal roles for lysophospholipid signaling”,Trends Mol. Med.,2006年 2月,Vol.12, No.2,P.65-75
【文献】 Inoue,M.,et al.,“Autotaxin, a synthetic enzyme of lysophosphatidic acid (LPA), mediates the induction of nerve-injured neuropathic pain”,Mol. Pain,2008年 2月 8日,Vol.4, No. 6,P.1-5
【文献】 Murata,J.,et al.,“cDNA Cloning of the Human Tumor Motility-stimulating Protein, Autotaxin, Reveales a Homology with Phosphodiesterases”,J. Biol. Chem.,1994年12月 2日,Vol.269, No.48,P.30479-30484
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 48/00
A61K 38/00
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LPA1に対するアンチセンス核酸、siRNAおよびアンタゴニスト抗体、ならびに可溶型LPA1からなる群より選ばれるLPA1アンタゴニストを有効成分として含有してなる全身性疼痛症候群の治療または予防薬。
【請求項2】
全身性疼痛症候群が線維筋痛症、慢性疲労症候群または過敏性大腸炎である、請求項1に記載の治療または予防薬。
【請求項3】
オートタキシンに対するアンチセンス核酸、siRNAおよび阻害抗体からなる群より選ばれるオートタキシン阻害物質を有効成分として含有してなる全身性疼痛症候群の治療または予防薬。
【請求項4】
全身性疼痛症候群が線維筋痛症、慢性疲労症候群または過敏性大腸炎である、請求項3に記載の治療または予防薬。
【請求項5】
請求項1または2に記載の全身性疼痛症候群の治療または予防薬を製造するための、LPA1に対するアンチセンス核酸、siRNAおよびアンタゴニスト抗体、ならびに可溶型LPA1からなる群より選ばれるLPA1アンタゴニストの使用。
【請求項6】
請求項3または4に記載の全身性疼痛症候群の治療または予防薬を製造するための、オートタキシンに対するアンチセンス核酸、siRNAおよび阻害抗体からなる群より選ばれるオートタキシン阻害物質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全身性疼痛症候群の治療または予防薬に関する。詳しくは、慢性疼痛の治療に役立つ医薬品の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
痛みには、急性におこる生体への自己警告としての痛みと、慢性的におこる病気としての痛みがある。慢性疼痛では薬物をはじめとした治療による回復が望まれる一方で、発症機構が原因不明であるために治療法が確立されていない難治性疾患に悩まされる患者も少なくない。その一つに、全身性疼痛症候群がある。全身性疼痛症候群は、身体の広範囲に強い痛みを引き起こす原因不明の疾患で、検査による生態的異常所見の発見が難しい。全身性疼痛症候群は、慢性化する傾向が多くみられることから、難治性慢性疼痛として位置づけられている。患者においては日常生活や仕事に支障を及ぼすだけではなく、何科にかかればよいのかわからない、専門の医師が少なく検査によっても確定診断されない、治療薬がない、怠け病とみられるなど精神的な不安を抱えるケースも少なくない。事実、痛み以外に疲労感、うつ、不安などを合併することが多く知られている。また、全身性疼痛症候群の一例である線維筋痛症は、中高年の女性に圧倒的に多く発症しており、手術や事故による身体的外傷であったりストレスによる精神的要因が発症する背景に大きく関与していることが分かっている。
【0003】
リゾホスファチジン酸(LPA)は、組織傷害時に産生される脂質メディエーターであり、各種のGタンパク質(Gq/11/14、G12/13、Gi/o)と共役する7回膜貫通型受容体(LPA1、LPA2、LPA3)に作用し、神経およびグリア細胞を始めとする各種の細胞に対して栄養因子として働くことが知られている。
【0004】
本発明者は、長年にわたる神経因性疼痛の分子機序の研究において、LPAが神経因性疼痛を誘発する物質であることを解明し、LPAの受容体の1種であるLPA1のノックアウトマウスを用いて、当該受容体を欠損した場合に傷害性の神経疼痛が発症しないことを報告した(非特許文献1、2)。
【0005】
本発明者は、LPAが、細胞膜の構成成分であるリゾホスファチジルコリン(LPC)からLPA合成酵素であるオートタキシン(ATX)によって合成され、過敏形成に関与していることを証明している(非特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Inoue M, et al Nat Med 10: p.712-718, 2004
【非特許文献2】Ueda H Pharmacol Ther 109: p.57-77, 2006
【非特許文献3】Inoue M, et al Neuroscience 152: p.296-298, 2008
【非特許文献4】Inoue M, et al Molecular Pain, 4: 6,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、原因および治療法が確立されていない全身性疼痛症候群の治療または予防薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、全身性疼痛症候群の誘発原因としてストレスに着目して、実際にストレスで曝露された動物モデルを用いて全身性疼痛疾患の原因解明を試みた。本発明者は、さらに鋭意検討した結果、全身性疼痛症候群を患う個体においては、末梢神経系のみならず、中枢神経系においてもLPAが密接に関与していることに想到し、本発明を完成するに至った。即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
【0009】
〔1〕LPA1アンタゴニストを有効成分として含有してなる全身性疼痛症候群の治療または予防薬。
〔2〕LPA1アンタゴニストがLPA1に対するアンチセンス核酸、siRNAおよびアンタゴニスト抗体、可溶型LPA1ならびにLPA1に結合してシグナル伝達を阻害する低分子化合物からなる群より選ばれるものである、前記〔1〕記載の治療または予防薬。
〔3〕中枢神経系に投与されるものである前記〔1〕または〔2〕に記載の治療または予防薬。
〔4〕全身性疼痛症候群が線維筋痛症、慢性疲労症候群または過敏性大腸炎である、前記〔1〕〜〔3〕いずれかに記載の治療または予防薬。
〔5〕オートタキシン阻害物質を有効成分として含有してなる全身性疼痛症候群の治療または予防薬。
〔6〕オートタキシン阻害物質がオートタキシンに対するアンチセンス核酸、siRNAおよび阻害抗体ならびにオートタキシンの酵素活性を阻害する低分子化合物からなる群より選ばれるものである、前記〔5〕記載の治療または予防薬。
〔7〕中枢神経系に投与されるものである前記〔5〕または〔6〕に記載の治療または予防薬。
〔8〕全身性疼痛症候群が線維筋痛症、慢性疲労症候群または過敏性大腸炎である、前記〔5〕〜〔7〕いずれかに記載の治療または予防薬。
〔9〕有効量のLPA1アンタゴニストをそれを必要とする対象に投与する工程を含む、全身性疼痛症候群の治療または予防方法。
〔10〕LPA1アンタゴニストがLPA1に対するアンチセンス核酸、siRNAおよびアンタゴニスト抗体、可溶型LPA1ならびにLPA1に結合してシグナル伝達を阻害する低分子化合物からなる群より選ばれるものである、前記〔9〕記載の治療または予防方法。
〔11〕中枢神経系に投与される、前記〔9〕または〔10〕に記載の治療または予防方法。
〔12〕全身性疼痛症候群が線維筋痛症、慢性疲労症候群または過敏性大腸炎である、前記〔9〕〜〔11〕いずれかに記載の治療または予防方法。
〔13〕有効量のオートタキシン阻害物質をそれを必要とする対象に投与する工程を含む、全身性疼痛症候群の治療または予防方法。
〔14〕オートタキシン阻害物質がオートタキシンに対するアンチセンス核酸、siRNAおよび阻害抗体ならびにオートタキシンの酵素活性を阻害する低分子化合物からなる群より選ばれるものである、前記〔13〕記載の治療または予防方法。
〔15〕中枢神経系に投与される、前記〔13〕または〔14〕に記載の治療または予防方法。
〔16〕全身性疼痛症候群が線維筋痛症、慢性疲労症候群または過敏性大腸炎である、前記〔13〕〜〔15〕いずれかに記載の治療または予防方法。
〔17〕前記〔1〕〜〔4〕いずれかに記載の全身性疼痛症候群の治療または予防薬を製造するための、LPA1アンタゴニストの使用。
〔18〕前記〔5〕〜〔8〕いずれかに記載の全身性疼痛症候群の治療または予防薬を製造するための、オートタキシン阻害物質の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明の全身性疼痛疾患の治療または予防薬によると、これまで原因が不明で治療法が確立されていなかった全身性疼痛疾患の有効かつ的確な治療方針および予防法の策定に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、Vehicle処置したマウスに対し実施例3の機械刺激誘発性疼痛試験を行った結果を示す図である。
図2図2は、実施例1のAS−ODN処置したマウスに対し実施例3の機械刺激誘発性疼痛試験を行った結果を示す図である。
図3図3は、実施例1のMS−ODN処置したマウスに対し実施例3の機械刺激誘発性疼痛試験を行った結果を示す図である。
図4図4は、実施例2のAS−ODN処置したマウスに対し実施例3の機械刺激誘発性疼痛試験を行った結果を示す図である。
図5図5は、実施例2のMS−ODN処置したマウスに対し実施例3の機械刺激誘発性疼痛試験を行った結果を示す図である。
図6図6は、ICSにおける機械的刺激に対する経日的な過敏応答を示す図である。コントロール群:n=4、ICSストレス群:n=6。**は、コントロールストレス群とICSストレス群を比較したときのP<0.01を表す。
図7図7は、ICS/CCSストレスモデルマウスのコルチコステロン濃度測定結果を示す図である。ICSストレス群:n=3、CCS群:n=6、**は、CCSストレス群とICSストレス群を比較したときのP<0.01を表す。
図8図8は、C57BL/6JへのATX−AS脳室内投与における機械的侵害応答に対する経日的変化を示す図である。A:ATX−AS/MSの投与計画を示す。ICSストレス負荷を開始する日を含めた5日前から連続脳室内投与を行った。B:機械的侵害応答に対する経日的変化を示す。ACSF群:n=3、ACSF+ICSストレス群:n=4、ATX−MS+ICSストレス群:n=3、ATX−AS+ICSストレス群:n=4。##は、ATX−AS群とATX−MS群を比較したときのP<0.01、*は、ATX−AS群とATX−MS群を比較したときのP<0.05を表す。
図9図9は、C57BL/6JへのBromoenol lactone(BEL)脳室内投与における機械的侵害応答に対する経日的変化を示す図である。A:BELの投与計画を示す。B:機械的侵害応答に対する経日的変化を示す。ACSF群:n=4、BEL群:n=5、ACSF+ICSストレス群:n=8、BEL+ICSストレス群:n=8。**は、ACSF群とACSF+ICSストレス群を比較したときのP<0.01、*は、ACSF群とACSF+ICSストレス群を比較したときのP<0.05を表す。
図10図10は、C57BL/6JへのBromoenol lactone(BEL)脳室内投与における熱的侵害応答に対する経日的変化を示す図である。ACSF群:n=2、BEL群:n=2、ACSF+ICSストレス群:n=4、BEL+ICSストレス群:n=4。**は、ACSF群とACSF+ICSストレス群を比較したときのP<0.01を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の治療または予防薬は、LPA1アンタゴニストを有効成分として含有することを特徴とする。
【0013】
本発明においてLPA1(リゾホスファチジン酸受容体1)とは、LPA(リゾホスファチジン酸)をリガンドとし、Gタンパク質と共役する7回膜貫通型受容体の1種をいい、EDG2(内皮分化リゾホスファチジン酸Gタンパク質共役型受容体2)とも称する。リゾホスファチジン酸受容体は、現在までLPA1、LPA2およびLPA3が知られているが、本発明が対象とする疾患との関係においてはLPA1を標的とする。LPA1をコードする遺伝子は、いかなる動物由来の塩基配列を有するものであってもよい。例えば、ヒトの治療薬の開発のためにはヒトLPA1遺伝子が好ましい。また、実験動物として利用しやすいマウスを用いる場合、マウスでの解析結果はヒトを始めとする他の哺乳動物での病態を反映することが十分期待できることから、マウスLPA1遺伝子を用いることも好ましい。本明細書においては、ヒトLPA1遺伝子は、Genbank Accession No. NM_001401で公表された塩基配列(配列番号1)を基準とする。また、マウスLPA1遺伝子は、Genbank Accession No. NM_010336で公表された塩基配列(配列番号3)を基準とする。その他の動物由来のLPA1ホモログは、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)として他生物種の遺伝子を選抜することができる。
【0014】
同様に、本発明においてヒトLPA1タンパク質は、Genbank Accession No. NM_001401で公表されたアミノ酸配列(配列番号2)を基準とする。また、マウスLPA1タンパク質は、Genbank Accession No. NM_010336で公表されたアミノ酸配列(配列番号4)を基準とする。
【0015】
本発明においてLPA1アンタゴニストとは、受容体LPA1に対して拮抗する作用を有する物質の総称であり、LPA1の天然のアゴニストであるLPAとは逆の作用を有するものである。LPA1アンタゴニストには、LPA1に結合して当該受容体からのシグナル伝達を阻害する物質の他、LPA1とLPAとの結合を阻害する物質、例えば、LPAを捕捉する物質(例えば、血中のLPAを捕捉する可溶型LPA1等)なども含まれる。さらに、LPA1アンタゴニストには、LPA1受容体からのシグナル伝達の下流の因子を阻害する物質も含まれる。このような物質として、RhoAの活性を阻害するボツリヌス毒素C3、Rhoキナーゼの活性を阻害するY-27632などがあげられる。
【0016】
LPA1アンタゴニストとしては、現在までに拮抗作用が知られているアンタゴニストまたは後述するストレス誘発性全身性疼痛モデルを用いて拮抗作用を確認することができるあらゆる物質が含まれる。具体的には、LPA1に対するアンチセンス核酸、siRNA、ウイルスベクターに組換えたshRNA、microRNA、アンタゴニスト抗体、可溶型LPA1およびLPA1に結合してシグナル伝達を阻害する低分子化合物からなる群より選ばれるものが例示される。これらは、天然の物質であっても人工的に合成された物質であってもよい。
【0017】
前記LPA1アンチセンス核酸は、例えば、配列番号1もしくは3の塩基配列または配列番号2もしくは4のアミノ酸配列をコードする塩基配列から選ばれる少なくとも一部の塩基配列と相補的な一本鎖核酸をいう。当該核酸は、天然由来または人工核酸でもよく、DNAまたはRNAに基づくものでもよい。アンチセンス核酸の長さは、通常約15塩基〜mRNAの全長と同じ長さであり、約15〜約30塩基長が好ましい。アンチセンス核酸の相補性は必ずしも100%である必要はなく、生体内でLPA1のDNAまたはRNAと相補的に結合しうる程度でよい。
【0018】
前記siRNAは、LPA1の遺伝子発現抑制に使用するため、LPA1遺伝子から転写されるmRNAの分解(RNA干渉)を引き起こすようにその塩基配列に基づいて人工的に合成された二本鎖RNA、または当該二本鎖RNAを生体内で供給することのできるベクターをいう。本発明のsiRNAまたはsiRNA発現ベクターを使用することにより、LPA1の発現を低下させ、LPA1からのシグナル伝達を阻害することにより、全身性疼痛を抑制する作用を奏することができる。siRNAまたはsiRNA発現ベクターの構築方法については、公知の方法を使用することができる(Ui-Tei K, et al., Nucleic Acids Res. 2004; 32: 936-948 ; Miyagishi M, and Taira K, Nature biotechnology 2002; 20: 497-500)。siRNAの長さは、19〜27bpが好ましく、21〜25bpがより好ましい。shRNAやmicroRNAにおいては、LPA1遺伝子の部分遺伝子を適切なウイルスベクターに組換え、ウイルスとして全身性、あるいは脳や脊髄に投与することでLPA1遺伝子のノックダウンをはかるものである。部分遺伝子の長さはそれぞれ60〜70bpが好ましい。
【0019】
前記LPA1アンタゴニスト抗体とは、LPA1に特異的に結合する抗体であって、結合することによりLPA1からのシグナル伝達を阻害する抗体をいう。かかるアンタゴニスト抗体としては、LPA1の細胞外ドメインを認識する抗体などが好ましい。
【0020】
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体、ファージディスプレイによって作製された抗体およびこれらの結合性断片が含まれる。
【0021】
結合性断片とは、前述した抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilized Fv)、dAb(single domain antibody)等があげられる(Exp. Opin. Ther. Patents,Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。
【0022】
抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgGまたはIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
【0023】
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、既知の一般的な製造方法によって製造することができる。即ち、例えば、免疫原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、哺乳動物、例えばポリクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマまたはウシ等、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギに、モノクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスターに免疫する。
【0024】
ポリクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、免疫原をマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギ、好ましくはヤギ、ウマまたはウサギ、より好ましくはウサギの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1〜数回注射することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜5回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から血清が取得される。
【0025】
血清をポリクローナル抗体として用いることも可能であるが、好ましくは、限外ろ過、硫安分画、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムもしくはプロテインA/Gカラム、免疫原を架橋させたカラム等を用いたアフィニティカラムクロマトグラフィーにより単離および/または精製される。
【0026】
モノクローナル抗体は、上記免疫感作動物から得た該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化し、哺乳動物の免疫に用いた免疫原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。
【0027】
モノクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、免疫原を、マウス、ラットまたはハムスター(ヒト抗体産生トランスジェニックマウスのような他の動物由来の抗体を産生するように作出されたトランスジェニック動物を含む)の皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内もしくは腹腔内に1〜数回注射するか、または移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜4回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から抗体産生細胞を取得する。
【0028】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ(融合細胞)の調製は、ケーラーおよびミルシュタインらの方法(Nature, Vol.256, p.495-497, 1975)およびそれに準じる修飾方法に従って行うことができる。即ち、前述の如く免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄または扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合により調製される。
【0029】
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63-AG8.653(653;ATCC No.CRL1580)、P3/NSI/1-Ag4-1(NS-1)、P3/X63-Ag8.U1(P3U1)、SP2/0-Ag14(Sp2/0、Sp2)、PAI、F0またはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3-Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU-266AR1、GM1500-6TG-A1-2、UC729-6、CEM-AGR、D1R11またはCEM-T15を使用することができる。
【0030】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の前述の免疫感作で用いた免疫原に対する反応性を、例えばELISA等の酵素免疫測定法によって測定することにより行なうことができる。
【0031】
前記ハイブリドーマは、培地(例えば、10%牛胎仔血清を含むDMEM)を用いて培養し、その培養液の遠心上清をモノクローナル抗体溶液とすることができる。また、本ハイブリドーマを由来する動物の腹腔に注入することにより、腹水を生成させ、得られた腹水をモノクローナル抗体溶液とすることができる。モノクローナル抗体は、上述のポリクローナル抗体と同様に、単離および/または精製されることが好ましい。
【0032】
また、キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3-73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4-504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6-500233号公報等を参考にそれぞれ製造することができる。
【0033】
ファージディスプレイによる抗体作製は、抗体スクリーニング用に作製されたファージライブラリーから、例えば、バイオパニングにより抗原に親和性を有するファージを回収、濃縮することにより、Fab等の抗体等を容易に得ることができる。ファージディスプレイによる抗体作製については、「Nature, Vol.348, p.552-554, 1990」、「“Phage display a laboratory manual” In cold spring harbor laboratory press, 2001」、「Antibody Engineering - a Practical Approach, IRL Press, Oxford, 1996」を参照のこと。
【0034】
F(ab')2およびFab'は、イムノグロブリンを、蛋白分解酵素であるペプシンまたはパパインで処理することによりそれぞれ製造することができる。Fabは、Fab発現ファージライブラリーを上記ファージディスプレイによる抗体作製法と同様にスクリーニングすることにより、製造することができる。
【0035】
前記可溶型LPA1とは、LPAと結合するが細胞内へのシグナル伝達を生じさせないデコイ受容体である。可溶型LPA1は、主として血中のLPAをトラップしてLPAのLPA1に対する結合量を減少させることにより、LPA1からのシグナル伝達を抑制する働きを持つ。かかる可溶型LPA1は、受容体の細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列に基づいて、公知の遺伝子工学的手法により作製することができる。
【0036】
前記低分子量化合物として、
WO2002/062389、WO2003/007991、WO2003/024402(特表2005−508319)またはWO2005/032494(特表2007−508324)に開示された化合物などがあげられる。市販のアンタゴニストとして、
(S)−リン酸モノ−{2−オクタデカ−9−エノイルアミノ−3−[4−(ピリジン−2−イルメトキシ)−フェニル]−プロピル}エステル アンモニウム塩、
(S)−リン酸モノ−[3(4−ベンジルオキシ−フェニル)−2−オクタデカ−9−エノイルアミノ−プロピル]エステル アンモニウム塩、
などがあげられる。
【0037】
また、本発明の治療または予防薬は、オートタキシン阻害物質を有効成分として含有することを特徴とする。
【0038】
本発明においてオートタキシン(ATX)とは、ENPP(エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ)2とも称し、細胞膜の構成成分であるリゾホスファチジルコリン(LPC)からLPAを合成する酵素であり、リゾホスホリパーゼD(LPLD)活性を有する。ATXをコードする遺伝子は、いかなる動物由来の塩基配列を有するものであってもよい。例えば、ヒトの治療薬の開発のためにはヒトATX遺伝子が好ましい。また、実験動物として利用しやすいマウスを用いる場合、マウスでの解析結果はヒトを始めとする他の哺乳動物での病態を反映することが十分期待できることから、マウスATX遺伝子を用いることも好ましい。本明細書においては、ヒトATX遺伝子は、Genbank Accession No. NM_006209で公表された塩基配列(配列番号9)を基準とする。また、マウスATX遺伝子は、Genbank Accession No. NM_015744で公表された塩基配列(配列番号11)を基準とする。その他の動物由来のATXホモログは、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)として他生物種の遺伝子を選抜することができる。
【0039】
同様に、本発明においてヒトATXタンパク質は、Genbank Accession No. NM_006209で公表されたアミノ酸配列(配列番号10)を基準とする。また、マウスATXタンパク質は、Genbank Accession No. NM_015744で公表されたアミノ酸配列(配列番号12)を基準とする。
【0040】
本発明においてATX阻害物質とは、ATXの発現を阻害する物質およびATXの酵素活性を阻害する物質の総称である。ATXの酵素活性を阻害する物質には、ATXと相互作用して当該酵素活性を阻害する物質の他、ATXとLPAとの結合を阻害する物質なども含まれる。ATXの発現を阻害する物質は、ATX発現細胞におけるATXのmRNAまたはタンパク質の発現レベルを測定し、無添加のコントロールと比較して有意に発現レベルを低下させることを確認して選別することができる。ATXの酵素活性を阻害する物質は、ATXとその基質(標識した基質、例えば、蛍光標識したFS−3(Echelon Biosciences社)を含む系に当該物質を加え、無添加のコントロールと比較して有意に当該基質から離脱する標識の量を低下させることを確認して選別することができる。
【0041】
ATX阻害物質としては、現在までに阻害活性が知られている阻害物質または後述するストレス誘発性全身性疼痛モデルを用いて阻害活性を確認することができるあらゆる物質が含まれる。具体的には、ATXに対するアンチセンス核酸、siRNA、ウイルスベクターに組換えたshRNA、microRNAおよび阻害抗体ならびにATXの酵素活性を阻害する低分子化合物からなる群より選ばれるものが例示される。これらは、天然の物質であっても人工的に合成された物質であってもよい。
【0042】
前記ATXアンチセンス核酸は、例えば、配列番号9もしくは11の塩基配列または配列番号10もしくは12のアミノ酸配列をコードする塩基配列から選ばれる少なくとも一部の塩基配列と相補的な一本鎖核酸をいう。当該核酸は、天然由来または人工核酸でもよく、DNAまたはRNAに基づくものでもよい。アンチセンス核酸の長さは、通常約15塩基〜mRNAの全長と同じ長さであり、約15〜約30塩基長が好ましい。アンチセンス核酸の相補性は必ずしも100%である必要はなく、生体内でATXのDNAまたはRNAと相補的に結合しうる程度でよい。
【0043】
前記siRNAは、ATXの遺伝子発現抑制に使用するため、ATX遺伝子から転写されるmRNAの分解(RNA干渉)を引き起こすようにその塩基配列に基づいて人工的に合成された二本鎖RNA、または当該二本鎖RNAを生体内で供給することのできるベクターをいう。本発明のsiRNAまたはsiRNA発現ベクターを使用することにより、ATXの発現を低下させ、ATXによるLPAの産生を阻害することにより、全身性疼痛を抑制する作用を奏することができる。siRNAまたはsiRNA発現ベクターの構築方法については、公知の方法を使用することができる(Ui-Tei K, et al., Nucleic Acids Res. 2004; 32: 936-948 ; Miyagishi M, and Taira K, Nature biotechnology 2002; 20: 497-500)。siRNAの長さは、19〜27bpが好ましく、21〜25bpがより好ましい。shRNAやmicroRNAにおいては、ATX遺伝子の部分遺伝子を適切なウイルスベクターに組換え、ウイルスとして全身性、あるいは脳や脊髄に投与することでATX遺伝子のノックダウンをはかるものである。部分遺伝子の長さはそれぞれ60〜70bpが好ましい。
【0044】
前記ATX阻害抗体とは、ATXに特異的に結合する抗体であって、結合することによりATXの酵素活性を阻害する抗体をいう。ATX阻害抗体としては、文献(Nakamura K,et al., Clin Chim Acta. 2008 Feb;388(1-2):51-8. Epub 2007 Oct 11.)に記載された抗体などがあげられる。ATX阻害抗体における「抗体」は、前記LPA1アンタゴニスト抗体における「抗体」で説明した通りである。
【0045】
前記ATXの酵素活性を阻害する低分子化合物として、スフィンゴシン1−ホスファターゼ(S1P)、リゾホスファチジン酸(LPA)、FTY720(S1Pアナログ)、サイクリックPA(LPAの天然型アナログ)、BrP−LPA(ブロモメチレンホスフォネートLPA)、[4-(テトラデカノイルアミノ)ベンジル]ホスホン酸(S32826)などがあげられる。
【0046】
本発明の治療または予防薬の対象とする疾患は、全身性疼痛症候群である。全身性疼痛症候群(Generalized Pain Syndrome)とは、原因が解明されていない、治療方法が確立されていない全身性の慢性の痛みを伴う疾患の総称である。
【0047】
前記全身性疼痛症候群には、線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性大腸炎(あるいは顎関節症)などが包含される。これらの疾患は、ストレスが発症に大きく関係しているとされている。中でも、中枢神経系でのLPAの作用の関与が予想される線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性大腸炎などが本発明の治療対象として好ましい。特に、線維筋痛症の患者の大半は、過去に傷害(例、むち打ち、手術)を受けている既往歴を有しており、視床下部におけるLPAの作用が関与している可能性が高い。LPAは、前記疾患の痛みの形成とその維持に寄与しているものと思われる。
【0048】
したがって、本発明の治療または予防薬は、その効果を十分に発揮するためには、中枢神経系に投与されることが好ましい。またコラーゲン製剤などにより全身的に投与し、脳移行を促す方法もある。
【0049】
本発明の治療または予防薬を中枢神経系に到達させるためにはどのような投与経路でも構わないが、非経口投与が好ましい。非経口投与としては、静脈内注射(点滴)、皮下投与、硬膜内投与、髄膜内投与、脊髄硬膜外投与、脊髄くも膜下腔内投与、側脳室内投与、大槽内投与などがあげられ、上位脳が関与する可能性があることから、側脳室内投与、大槽内投与がより好ましい。
【0050】
本発明の治療または予防薬は、有効成分であるLPA1アンタゴニストまたはオートタキシン阻害物質の種類とその投与経路に応じて、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。当業者であればかかる状況に適切な担体を適宜選択することができる。選択可能な担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤;セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤;安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等のpH調節剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤;界面活性剤等の分散剤;水、生理食塩水、エタノール、プロピレングリコール等の溶解剤;グルコース、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の等張化剤;カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどがあげられるが、それらに限定されるものではない。また、これらの担体は単独の作用に限定されず、複数の作用を発揮する目的で使用することができる。
【0051】
本発明の治療または予防薬に含まれる前記有効成分の割合は、所望の効果を奏することができる範囲で適宜設定することができるが、通常、0.01〜100重量%であり、好ましくは0.1〜99.9重量%、より好ましくは0.5〜99.5重量%である。
【0052】
本発明の治療または予防薬の投与量としては、有効成分の種類、投与対象の体重や年齢、症状などにより一概に規定されるものではないが、1回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。
【0053】
本発明の促進または予防薬の投与対象としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ヒト等の哺乳動物があげられる。
【0054】
本発明の治療または予防薬の投与回数は、特に限定されるものではないが、通常、1日当たり1〜5回程度である。治療対象とする前記疾患においてLPAが痛みの形成と維持に寄与している可能性が高いので、数日〜1ヶ月程度の長期服用が好ましい。かかる投与回数により、痛みの形成と維持の消滅が達成される。なお、相当程度の間隔を置いて前記疾患が再発した場合、本発明の治療または予防剤の再度の投与が可能である。
【0055】
本発明の治療または予防薬の有効成分であるLPA1アンタゴニストまたはオートタキシン阻害物質は、以下に述べる方法にて作出した全身性疼痛疾患動物モデルを用いて、その効果を確認することができる。本明細書に記載した動物モデルは、繰り返しストレス負荷終了後、少なくとも2〜3週間、疼痛の閾値の低下が観察される。疼痛の閾値は、機械刺激誘発性試験法(Paw pressure test)によりPWL値(Paw withdrawal latency、肢引っ込め潜時(秒))で表される。ストレスを負荷しない動物を対照として、PWL値が有意に低下した場合、慢性の疼痛が続いていると判断され、対照と同じレベルまで上昇した場合、慢性疼痛が治癒したと判断される。
【0056】
用いられる動物としては、ヒト以外の動物であれば特に限定されるものではない。好適な動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル等の実験動物ならびにウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ等の家畜があげられるが、様々な疾患モデルがこれまで確立されている点および遺伝子工学的に利用が容易であるところから、マウスがより好ましい。
【0057】
SART(ICS)ストレスによる全身性疼痛疾患モデル
常温と寒冷環境を反復負荷させる(SART)ストレスモデルは、副交感神経優位型の自律神経失調症のモデルとして一般に知られており、持続的低血圧、免疫バランスの異常、痛覚過敏など多種の異常が報告されている。一方で、SARTストレスモデルは線維筋痛症をはじめとした全身性疼痛症候群の動物モデルとしても有用であると言われている。SARTストレスによるモデルの作出方法は、マウス等の動物の飼育環境を室温(24℃前後)と冷温(4℃前後)下に反復して変化させる方法であるが、慢性疼痛を示さない対照ストレスとして室温に戻さない冷温ストレスのみの条件、constant cold stress(CCSストレス)と対比させるためintermittent cold stress(ICS)と呼ぶことが望ましい。実施例に記載されているように、ICSストレスは従来報告されてきたSARTストレスに比べて、より厳密に定義している。同様にCCSストレスによるモデルの作出方法も実施例に記載されている。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0059】
(製造例1)
SART(ICS)ストレス負荷群
SART(ICS)ストレスは、極度に異なる飼育環境温度を繰り返し変化させることで曝露した。設定温度は室温(24℃)、および冷温(4℃)とした。それぞれの温度に設定した環境に飼育ケージを設置し、日中(10時から16時30分まで)は30分毎にマウスのみを移動させ、夜間(16時30分から翌日の10時まで)は冷温下で飼育した。この繰り返しストレスをストレス前日の16時30分からストレス3日目の10時まで3日間行った。なお、前記ストレス負荷期間中は、固形の餌と水分補給用の寒天をケージ内に常に置き、自由に摂取できる環境にした。
正常対照群のマウスとして、上記ストレス負荷期間中、常に24℃で飼育したこと以外は、ストレス負荷群と同様にして飼育したマウスを用いた。
【0060】
(実施例1)
全身性疼痛疾患のモデル動物として、ICSストレスによる過敏応答誘発実験を、リゾホスファチジン酸(以下、LPAと記載)受容体遺伝子に相補的に結合し、その発現を阻害するantisense oligodeoxynucleotide(以下、AS−ODNと記載)を予め投与したマウスに対して適用し、製造例1のストレス曝露を行った。
【0061】
LPA1 AS−ODN処置マウス
C57BL/6Jマウス6週齢(20〜22g)を、正常対照群およびICSストレス負荷群それぞれ10〜12匹用いた。
AS−ODNとして、「5’−AGCTGCCATGACAGTGCTGT−3’(配列番号5)」を用い、BLAST検索して、その配列がLPA1受容体に特異的であることを確認した。比較対照として、非相補的配列を持つmissense oligodeoxynucleotide(以下、MS−ODNと記載)を投与したマウスおよびVehicleとして人工脳脊髄液(ACSF)を投与したマウスを用いた。MS−ODNとして、「5’−AGCAGCGTTGTCACTGCAGT−3’(配列番号6)」を用い、BLAST検索して、その配列が他の受容体とも類似しないことを確認した。
ODNおよびACSF投与後のマウスに対して、上記製造例1に基づくSART(ICS)ストレスを負荷し、負荷後の疼痛閾値を測定し、経日的変化を調べた。
【0062】
(実施例2)
LPA2 AS−ODN処置マウス
C57BL/6Jマウス6週齢(20〜22g)を、正常対照群およびICSストレス負荷群それぞれ10〜12匹用いた。
AS−ODNとして、「5’−TACTACAACGAGACCATCGG−3’(配列番号7)」を用い、BLAST検索して、その配列がLPA1受容体に特異的であることを確認した。比較対照として、非相補的配列を持つMS−ODNを投与したマウスおよびVehicleとして人工脳脊髄液(ACSF)を投与したマウスを用いた。MS−ODNは「5’−CGATACACTAGAACGCTCGA−3’(配列番号8)」を用い、BLAST検索して、その配列が他の受容体とも類似しないことを確認した。
ODNおよびACSF投与後のマウスに対して、上記製造例1に基づくSART(ICS)ストレスを負荷し、負荷後の疼痛閾値を測定し、経日的変化を調べた。
【0063】
(実施例3)
実施例3では、製造例および実施例に基づきストレス負荷したマウスについて、慢性疼痛を評価した。慢性疼痛の評価方法としては、機械刺激誘発性疼痛試験により経日的な疼痛閾値を評価した。なお、前記機械刺激誘発性疼痛試験は、デジタル式von Frey法に従って行った。
【0064】
<方法1>
AS−ODN処置法
AS−ODNはSART(ICS)ストレス負荷5日前から、1日に10μg1回脳室内投与した。連続的に5日間前処置した後、SART(ICS)ストレスを開始し、ストレス負荷期間中も1日1回脳室内投与した。ただし、ストレス3日目は投与せず、以降投与は中止し計7回の投与を行った。1回の投与量は5μlとした。
上記処置法と同様にMS−ODNおよびVehicleをストレス前とストレス負荷期間におよび計7回行った。
【0065】
<方法2>
機械刺激誘発性疼痛試験
5mm×5mmの格子の網上で環境に適応させた(アダプテーションをかけた)マウスに対して、特製のプラスチックチップをマウスの足底部に下から一定の圧力で加えた。この時、反応する重量閾値をデジタル測定した。
【0066】
<結果1>
図1〜3は、LPA1受容体のAS−ODNを投与した実施例1のマウスにおける疼痛閾値を経日的に測定した結果であり、図1はVehicle処置群を示し、図2はAS−ODN処置群を示し、図3はMS−ODN処置群を示した観察結果である。
【0067】
図1〜3において、縦軸(PWT)は、測定された重量閾値(g)を示す。横軸は、ICSストレス負荷開始前(Pre)、ストレス負荷期間(Stress)およびストレス後(Post stress)における経過日数を示す。そして、図1〜3において、「stress(●)」はストレス負荷群を示し、「control(○)」は、その正常対照群を示す。
【0068】
図1に示すように、予めVehicle投与処置をしたマウスにおいてSART(ICS)ストレスを与えると、ストレス前日には9.44±0.2gを示したマウスがストレス後1日目に6.14±0.2gで反応を示した。ストレスによる疼痛閾値の低下が確認され、この時、正常対照群の10.06±0.3gの疼痛閾値と比較すると有意な差が認められた。また、この過敏応答は少なくとも19日以上持続し、慢性的であった。
【0069】
図2に示すように、実施例1のLPA1 AS−ODN処置したSART(ICS)ストレス負荷群において、ストレス前日には9.77±0.4gを示し、Vehicle群のストレス前日の値と差は観察されなかった。ストレス後1日目において、AS−ODN処置群の閾値は8.76±0.5gとVehicleで見られた過敏応答は観察されなかった。また、統計処理を行ったところ、AS−ODN処置の正常対照群と有意差はなく、むしろVehicle処置のストレス群の閾値低下を抑制する結果であった。また、経日的に測定しても過敏応答は認められなかった。
【0070】
図3に示すように、予めMS−ODN投与処置をしたマウスにおいてSART(ICS)ストレスを与えると、ストレス前日には9.59±0.3gを示したマウスがストレス後1日目には5.68±0.7gで反応を示した。ストレスによる疼痛閾値の低下が確認され、この時、正常対照群の9.49±0.2gの疼痛閾値と比較すると有意な差が認められた。また、この過敏応答は少なくとも19日以上持続し、慢性的であった。
【0071】
実施例1および実施例3の結果によれば、予めLPA1 AS−ODNを投与し発現を抑制したマウスに対してSART(ICS)ストレスを与えた時、Vehicle処置群やLPA1 MS−ODN処置群いずれにも観察された慢性疼痛を抑制していることが分かった。ただし、AS−ODNを投与した正常対照群の閾値はVehicle処置群やLPA1 MS−ODN処置群と同程度を示した。
【0072】
<結果2>
図4および5は、LPA2受容体のAS−ODNを投与した実施例2のマウスにおける疼痛閾値を経日的に測定した結果であり、図4はAS−ODN処置群を示し、図5はMS−ODN処置群を示した観察結果である。
【0073】
図4および5において、縦軸(PWT)は、測定された重量閾値(g)を示す。横軸は、ICSストレス負荷開始前(Pre)、ストレス負荷期間(Stress)およびストレス後(Post stress)における経過日数を示す。図4および5において、「stress(●)」はストレス負荷群を示し、「control(○)」は、その正常対照群を示す。
【0074】
図4に示すように、実施例2のLPA2 AS−ODN処置したSART(ICS)ストレス負荷群において、ストレス前日には9.77±0.5gを示し、図1に示したVehicle群のストレス前日の値と差は観察されなかった。ストレス後1日目において、AS−ODN処置群の閾値は6.43±0.1gと閾値の低下、即ち過敏応答を示した。また、統計処理により、AS−ODN処置の正常対照群と比較すると有意差が認められた。また、この過敏応答は少なくとも19日持続していた。
【0075】
図5に示すように、予めMS−ODN投与処置をしたマウスにおいてSART(ICS)ストレスを与えると、ストレス前日には9.58±0.3gを示したマウスがストレス後1日目には5.79±0.1gで反応を示した。ストレスによる疼痛閾値の低下が確認され、この時、正常対照群の9.65±0.3gの疼痛閾値と比較すると有意な差が認められた。また、この過敏応答は少なくとも19日持続し、慢性的であった。
【0076】
実施例2および実施例3の結果によれば、予めLPA2 AS−ODNを投与してLPA2の発現を抑制したマウスに対してSART(ICS)ストレスを与えた時、LPA1 AS−ODN処置群におけるSART(ICS)ストレス誘発性疼痛の抑制は認められず、Vehicle群と同程度の過敏応答を示すことがわかった。
【0077】
実施例1および実施例2の結果から、繰り返し冷温ストレスにより誘発される疼痛には、LPA2受容体よりも、LPA1受容体の関与が大きいことが考えられる。そのため、LPA1受容体特異的な抗体、アンチセンス核酸、阻害剤などによりストレス性疼痛が抑えられる可能性が考えられる。また、ストレスモデルは線維筋痛症の動物実験モデルになりうると考えられ、本発明の結果を考察すれば、線維筋痛症への治療法への応用が期待される。
【0078】
(実験動物、実験環境および飼育環境)
以下の実施例においては、6週齢のC57BL/6J雄性マウス(20〜25g)を使用した。これらマウスは室温22±2℃、湿度55±5%の部屋で昼夜自然条件下にて飼育した。マウスには、自由に水(水道水)と固形飼料(MF、オリエンタル酵母、東京)を摂取させた。
実験環境としては研究室の一室を使用し、恒温(22±2℃)、恒湿(55±5%)の状態で行った。実験に使用するマウスは実験開始24時間前までに部屋に運び入れ、昼夜自然管理下にて飼育し、上記と同様に飼料および水道水を自由に摂取させた。実験は午前10時から午後17時の間に行った。
全ての実験は、長崎大学動物実験指針ならびに疼痛実験に対する国際委員会で定める方法に準じて行った(動物実験許可番号:0706130596)。
【0079】
(実施例4)
薬物投与
1)ATX−アンチセンス
ATX−アンチセンスは、LPAの合成酵素であるATXのmRNAの合成を抑える薬物である。ATX−アンチセンス(ATX‐AS)の塩基配列は
「5’−GTC TTG CCA TGC CGA GGG AT−3’(配列番号13)」、
ATX−ミスセンス(ATX‐MS)の塩基配列は
「5’−GTT CTC GCA GTC GCA GGA GT−3’(配列番号14)」と設計されたものを用いた。投与量はアンチセンス、ミスセンスともに10μg/5μlであった。
ATX−アンチセンス(operon,3170003)は、ストレスを負荷する日を含め、5日前から脳室内に連続投与を行った(図8A)。投与には人工脳脊髄液に溶解したものを使用した。対照群としてATX−ミスセンス(operon,3170004)と溶媒をそれぞれ同量投与した。50μlハミルトンマイクロシリンジおよび針つきカニューレを使用し、全量5μlを脳室内投与した。26ゲージ脳室内投与用針を使用した。
【0080】
2)PLA2阻害剤
PLA2阻害剤としてBromoenol lactone(Cayman chemical)を使用した。薬物投与は、ストレス負荷において繰り返し寒冷刺激を行なう前の午前10時に計2回投与を行った(図9A)。
薬物は、全量5mgを200μlのDMSOに溶解し、20nmol/10μlに分注した。これに人工脳脊髄液384μl加えた。対照群として、それぞれ同量のDMSOおよび人工脳脊髄液を加えたものを同量投与した。50μlハミルトンマイクロシリンジおよび針つきカニューレを使用し、全量5μlを脳室内投与した。26ゲージ脳室内投与用針を使用した。
【0081】
(実施例5)
SART(ICS)モデルおよびCCSモデルの作出
線維筋痛症モデルマウスの作出のため、ICS(Intermittent Cold Stress)を負荷した。マウスの飼育環境温度を昼間は30分毎に室温(24±2℃)と低温(4±2℃)を繰り返し、夜間は低温下で飼育した。飼育環境は、湿気をさけるためケージを上下反転させたものをケージの網の上に置き、ケージと網の間には一般実験用の固形飼料(MF, オリエンタル酵母, 東京)のかけらを使用して隙間をつくった。また、固形飼料および水分として水道水を寒天で固め約1cm角に切ったものを自由に摂取させ恒湿(55±5%)で昼夜自然条件下にて飼育した。ひとつのケージで2匹または1匹ずつマウスを飼育した。
初日に、16時30分に低温条件下(4℃)である冷蔵庫内へ使用するマウスを移動し、翌日の10時まで飼育した。10時に室温に移し、以後16時30分まで30分ごとに低温条件下と室温条件下で交互に飼育した。この日を繰り返しストレス開始日とし、ストレス1日目とした。16時30分からストレス2日目の10時までは、ストレス前日と同様に4℃で飼育した。2日目も1日目と同様に繰り返しストレスを与えた。3日目の10時に室温に移し終了とした。また、終了日をP1(Post Stress day 1)とした。
対照群(Control)は、同様の時間(ストレス負荷前日の16時30分から3日目の10時まで)を3日間終始室温で飼育した。
CCSモデルマウスは、同様の時間(ストレス負荷前日の16時30分から3日目の10時まで)を3日間終始低温で飼育した(Molecular Pain 6, 4:52 November 2008)。
【0082】
(実施例6)
コルチコステロン濃度測定における血液採取
血清コルチコステロン採取は、P1、P5、P12およびP19に行なった。マウスの首を切断し、全ての血液を集めた。採取後、血液を3000rpmで30分間遠心分離機にかけて血漿を分離した。上澄を採取し、ドライアイス中で凍結し、分析まで−80℃で保存した。血液サンプル採取は、血液中のコルチコステロンの日内変化のリズムに合わせ、最も濃度が高くなる21時から22時の間に行なった。
【0083】
(実施例7)
疼痛関連行動評価法
下記1)〜2)の試験法は、10分程度の間隔をあけて測定した。連続測定による組織障害を防ぐためである。
1) 自動デジタル式von Frey試験:機械的侵害試験法
実験前にマウスを網目上のラックの上に置き、上からケージをかぶせ1時間以上実験と同じ環境に慣れさせた。プラスチックのチップの先端をラックの下からマウスの後肢足蹠の中心に対して垂直に押し付け、該マウスが後肢の逃避行動を示したときに、自動的に測定された値を読み取った。刺激の強さは、正常マウスにおいて10g前後になるように設定した。測定は3回以上行ない、平均値を採用した。
【0084】
2) Hargreaves試験(Thermal paw-withdrawal 試験):熱的侵害試験法
実験前にマウスをガラス板の上に置き、上からケージをかぶせ1時間以上実験と同じ環境に慣れさせた。マウスの後肢足蹠に熱刺激を与え、該マウスが刺激からの逃避行動を示したときに、自動的に測定された値を読み取った。刺激となるビームは、正常マウスにおいて10秒前後の測定になるように設定した。組織損傷を避けるためにカットオフ時間は20秒とした。測定は3回以上行ない、平均値を採用した。
【0085】
3) 疼痛過敏の経日的評価
ICSの負荷終了日をP1とし、P3、P5、P12およびP19に疼痛閾値を測定した。
【0086】
(実施例8)
統計処理
全てのデータの統計学上の分析には、Sheffe’s F testを用いた。一元配置分散分析の検定の結果、水準間に差があると認められた場合に、多重比較検定を行い、どの群間に差があるかを判定した。*または♯印1つが危険率5%以下、2つが危険率1%以下と定めた。すべての結果は(平均値)±S.E.M.で表した。
【0087】
<結果3>
1) ICSにおける機械刺激に対する経日的な過敏応答
ストレス負荷終了後、ICS群および対照群ともにP1、P3、P5、P12、P19のスケジュールで経日的に観察を続けた。疼痛評価には機械的侵害試験法を用いてマウスの右肢に対して行なった(図6)。ストレス負荷を行なう前では、対照群とICS群の閾値に差はみられなかった。ストレス負荷終了後よりICS群と対照群には有意な差があった(P<0.01)。P1では対照群:9.5±0.2g、ICS群:4.8±0.5gであり、P19まで持続した閾値の低下を確認することができた(対照群:9.1±0.3g、ICS群:5.9±0.4g)。この過敏応答は、当研究室で行なっている坐骨神経の部分結紮を施した神経因性疼痛モデルが示す閾値と同程度である。
また、モデル作出中に以下の2点を観察した。1点目は、ICS群では、対照群と比べると、摂食量が多かったように感じ、特に温度環境が変わった直後にその様子は見られた。これは、摂食量を増やし発熱効果により、体温の低下を防ごうとする適応現象かもしれない。2点目は、ストレス中は体重に関してICS群は減少傾向にあることが確認できた。しかしながら、体重はストレス終了後、回復傾向を示し、対照群と同程度まで回復した。他の動物の行動に関しては、対照群と違いはなかった。
【0088】
2) ICS/CCSのコルチコステロン濃度
ストレス負荷の指標として、血中コルチコステロン濃度を測定した。濃度測定サンプルはストレス負荷終了後1、5、12、19日目に採取した。繰り返しストレス終了後1日目には、ICS群のコルチコステロン濃度は32.7±4.1μg/dlを示し、対照(CCS)群の濃度(10.0±2.4μg/dl)と比較して有意な濃度上昇を示した(図7)。しかし、経日的変化をみると、ICS群の濃度上昇はストレス負荷終了後5日目には認められなかった。それ以降は、ICS群、対照群ともに10μg/dl程度の値を示している。この結果より、繰り返し寒冷ストレスではストレスを受けているのに対し、連続寒冷ストレスでは、コルチコステロン濃度上昇を引き起こす程の慢性的なストレスを受けていないと考えられる。
ICSとCCSのモデルマウスを作出する際にみられた違いがある。摂食量および行動量ともにICSの方が多かった。特に、摂食量に関しては、ICSでは30分毎の温度変化を与えた直後に餌を食べる行動が多くみられた。行動量に関しては、CCSでは、一箇所にとどまる傾向がみられたが、異常な行動はみられなかった。
【0089】
3) C57BL/6J雄性マウスにおけるATX-AS脳室内投与による侵害刺激への応答
最近、Nishiyori and UedaはICSストレスモデルにおける疼痛過敏やアロディニアといった異常痛が少量のギャバペンチン脳室内投与により4日の長期にわたり抑制されたことを報告している(Molecular Pain 6, 4:52 November 2008)。ギャバペンチンは、Caα2δ-1を分子標的とした薬剤である。Caα2δ-1は、神経因性疼痛を誘発する神経傷害やその原因分子LPAの脊髄くも膜下腔内への適用時に有髄A線維に発現し、神経因性疼痛の責任分子の一つであることが示されている(やさしい痛み学 植田弘師、戸田一雄 ブレーン出版 pp.89-90;Nature Medicine Volume.10 Number.7 July 2004, pp.712−718; Mol Pain. 2008 Apr 1;4:11. Review)。そこで、ICSストレスモデルにおいても傷害性神経因性疼痛モデル同様、LPAが脳内で産生されている可能性を考えた。本実験では、LPA合成酵素阻害剤であるATX-ASをストレス負荷開始日を含めて5日前から脳室内に連続投与し、異常痛形成に対する効果をみた(図8A)。ストレス負荷終了後1、3、5、12日目に機械的侵害試験法、5、6日目に電気的侵害試験法を実施した。両試験法において、Artificial cerebro-spinal fluid (人工脳脊髄液、ACSF)+ストレス群とACSF群には有意な差(P<0.05)が認められた。
【0090】
3−1) 機械的侵害応答に対する経日的変化
ACSF対照群及びATX-MS投与群では、ICSストレス後に有意な機械的侵害応答閾値低下がP1からP12に至るまで観察された。これに対しATX-AS投与群ではICSストレスにより殆ど閾値変化が認められなかった。ATX-MS投与群とATX-AS投与群との比較においてはP1からP12に至るまで有意な差が観察された。
【0091】
4) C57BL/6J雄性マウスにおけるBromoenol lactone(BEL)脳室内投与による侵害刺激への応答
Bromoenol lactone(BEL)はPLA2阻害剤である。LPA産生の過程には、ホスホリパーゼA2(PLA2)によりホスファチジルコリンからリゾホスファチジルコリン(LPC)が産生され、続いてATXによりLPAが産生される経路が最も重要であるとされている。ICSモデルマウスにおいては、過敏が持続する一方で、CCSモデルマウスでは一過性の過敏が見られる。このことより、ICSモデルマウスでの過敏形成には常温と低温の繰り返し刺激が関係していると考えている。このため、寒冷繰り返し刺激を与える直前の午前10時に薬物投与を行った(図9A)。ストレス負荷終了後日1、3、5日目に機械的侵害試験法(図9B)および熱的侵害試験法(図10)において疼痛閾値を検討した。
【0092】
4−1) 機械的侵害応答に対する経日的変化
図9Bにおいて、ICSストレスによる機械的侵害応答閾値低下はBEL投与によりP1からP5の範囲でいずれも抑制される傾向を示し、P3では有意な変化を示した。
【0093】
4−2) 熱的侵害応答に対する経日的変化
図10において、ICSストレスによる熱的疼痛過敏はBEL投与によりP1からP5の範囲でいずれも抑制される傾向を示し、P3では有意な変化を示した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の全身性疼痛疾患の治療または予防薬によると、これまで原因が不明で治療法が確立されていなかった全身性疼痛疾患の有効かつ的確な治療方針および予防法の策定に大きく貢献することができる。
【0095】
本出願は、日本で出願された特願2008−204762(出願日:2008年8月7日)および特願2009−112990(出願日:2009年5月7日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]