(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
植物の生長に必要な土および肥料を収容するための内部スペースを備えているおもり部と該おもり部の上部に取り付けられる本体部と、該本体部の上部に回転可能に取り付けられる上蓋部とを備えた植物保持具であって、
前記本体部は、天板部と該天板部の周縁から垂下する筒状側壁部とからなり、その下端側は開口されており、
前記上蓋部は、天壁部と該天壁部の周縁から垂下する筒壁部とからなり、
前記本体部の前記天板部および前記上蓋部の前記天壁部には、植物を保持する第1挿入穴および第2挿入穴が前記本体部および前記上蓋部の各中心に対してそれぞれ偏心した状態で設けられていることを特徴とする植物保持具。
前記複数の本体部側ラチェット爪または前記複数の上蓋部側ラチェット爪のうちの一方は、周方向に均等間隔で配設され、他方は、不等間隔で配設されている請求項2に記載の植物保持具。
前記第1挿入穴を規定する前記本体部の天板部の内壁面または前記第2挿入穴を規定する前記上蓋部の天壁部の内壁面の内の少なくとも一方の内壁面には鋸歯が形成されている請求項1乃至3の何れかに記載の植物保持具。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献1の航空緑化用容器は、苗木の根部を押さえる押え手段を備えていない。そのため、航空機から投下された場合、苗木が落下する途中で空気抵抗(風圧)によって容器または土壌から抜け出る虞がある。従って、投下した苗木の本数に対して崩壊地等の再生緑化率があまり向上しないという問題がある。
また、上記文献2の航空緑化用容器も、苗木の根部を押さえる押え手段を備えていないため、苗木が落下途中で風圧によって土壌または容器から抜け出る虞がある。更に、容器本体がダンボールで作られているため、容器が土壌に衝突後、容器が変形し土中深くに入り込めず、その結果、苗木が土中に安定して根を下ろせない虞があり、上記文献1の航空緑化用容器と同様に、崩壊地等の再生緑化率があまり向上しないという問題がある。
このように、上記文献1および文献2の航空緑化用容器は、どれも落下中の風圧および着地時の衝撃の影響を受けやすく、投下した苗木の本数に対して崩壊地等の再生緑化率が必ずしも高くないという問題がある。
他方、上記文献3の樹木植栽筒の場合、苗木の根元を保持する割型フタを備えるため、苗木が落下途中で空気抵抗によって筒または土壌から抜け出ることは少なくなると考えられる。
しかし、上記樹木植栽筒の場合、割型フタの孔径は一定であるため、苗木の径がフタの孔径よりも大きい場合は、苗木が収まった筒に割型フタを取り付けることができなくなる。つまり、上記樹木植栽筒の場合、フタの孔径より大きい苗木は筒内に収容することができないため、航空機から投下することができないという問題がある。その結果、崩壊地等に様々な径の苗木を植え付けることができないという問題がある。
そこで、本発明は上記従来の問題点に鑑み考案されたものであって、その目的は人や機械が入り難い山間部の傾斜面や崩壊地に、様々な径の苗木を航空機から投下して安定に植え付けることを可能にし、崩壊地の再生緑化率を好適に向上させることが可能な植物保持具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため請求項1に記載の植物保持具は、植物の生長に必要な土および肥料を収容するための内部スペースを備えているおもり部と該おもり部の上部に取り付けられる本体部と、該本体部の上部に回転可能に取り付けられる上蓋部とを備えた植物保持具であって、
前記本体部は、天板部と該天板部の周縁から垂下する筒状側壁部とからなり、その下端側は開口されており、
前記上蓋部は、天壁部と該天壁部の周縁から垂下する筒壁部とからなり、
前記本体部の前記天板部および前記上蓋部の前記天壁部には、植物を保持する第1挿入穴および第2挿入穴が前記本体部および前記上蓋部の各中心に対してそれぞれ偏心した状態で設けられていることを特徴とする。
上記植物保持具では、植物の生長に必要な土および肥料を収容するための内部スペースを備えているため、植物が未だ栄養素を取り込む根を十分に有していない場合であっても、容器内部から生長するために必要な栄養素を得ることができるようになる。これにより、植物は容器内部である程度生長した後、投下エリアに根を下ろし繁殖するようになるため、投下エリアの再生緑化率の向上に寄与するようになるとともに、植物は、偏心した第1挿入穴と第2挿入穴の重複開口部分に締め付け・保持されることになる。他方、上蓋は本体部に対し回転可能に嵌合しているため、上蓋が回転することにより、その重複開口部分を拡げる或いは狭くすることが可能となり、様々な径の植物を収容することができるようになる。
【0006】
請求項2に記載の植物保持具では、前記本体部の前記天板部上面の外周部には複数の本体部側ラチェット爪が形成される一方、前記上蓋
部の前記天壁部下面の外周部には該本体部側ラチェット爪と係合する複数の上蓋部側ラチェット爪が形成され、該上蓋部側ラチェット爪と前記本体部側ラチェット爪はラチェット機構を構成することとした。
上記植物保持具では、本体部側ラチェット爪と上蓋部側ラチェット爪によってラチェット機構が構成されるため、植物を第1挿入穴と第2挿入穴の重複開口部分に一旦締め付けた後は、その締め付け状態が好適に保持されるようになる。従って、偏心した上記第1挿入穴および第2挿入穴と、本ラチェット機構によって様々な径の植物を上記重複開口部分に安定に締め付け・保持することができるようになる。
【0007】
請求項3に記載の植物保持具では、前記複数の本体部側ラチェット爪または前記複数の上蓋部側ラチェット爪のうちの一方は、周方向に均等間隔で配設され、他方は、不等間隔で配設されていることとした。
上記植物保持具では、本体部側ラチェット爪または上蓋部側ラチェット爪の一方を周方向に均等間隔に配設し、他方を不等間隔で配設することにより、後述するように、例えば各上蓋部側ラチェット爪の直近の本体部側ラチェット爪に到る各距離が、本体部側ラチェット爪の間隔内に好適に分散され、そして上蓋が戻る際、これらの各距離の中で一番小さい値(最小値)に対応するいずれかの上蓋部側ラチェット爪が必ず最初に当たる(ぶつかる)ようになり、上蓋(爪)の戻り量が好適に軽減されるようになる。その結果、第1挿入穴と第2挿入穴の重複開口部分に植物を安定に締め付け・保持することができるようになる。
【0008】
請求項4に記載の植物保持具では、前記第1挿入穴を規定する前記本体部の天板部の内壁面または前記第2挿入穴を規定する前記上蓋部の天壁部の内壁面の内の少なくとも一方の内壁面には鋸歯が形成されていることとした。
上記植物保持具では、少なくとも一方の挿入穴の内壁面には鋸歯が形成されることにより、上記重複開口部分に植物を安定に締め付け・保持することができるようになる。
【0009】
請求項5に記載の植物保持具では、前記おもり部は鉄またはその合金から作られており、該おもり部の底部が先細形状を成していることとした。
上記植物保持具では、おもり部が鉄またはその合金から作られているため、鉄網又はダンボール等から成る植物保持具に比べ、比重が大きく、剛性・強度が高くなる。従って、植物保持具を航空機から投下した場合、植物保持具は落下中の風圧および着地時の衝撃の影響を受けにくくなり、投下エリアに土中深く入り込むことができるようになり、植物が安定に土中に根を下ろすことができるようになる。その結果、山間部の崩壊地等の再生緑化率が好適に向上するようになる。また、上記植物保持具では、おもり部が細形状を成しているため、植物保持具が航空機から投下された場合、投下エリアの土中深くに入り込むことができるようになり、植物が安定に土中に根を下ろすことができるようになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の植物保持具によれば、本体部の天板部および上蓋部の天壁部に挿入穴が各中心から偏心した状態でそれぞれ設けられ、更に、対向する天壁部と天板部に複数の上蓋部側ラチェット爪と複数の本体部側ラチェット爪がそれぞれ設けられ、ラチェット機構を構成している。そのため、上蓋を回転させて、植物を両偏心穴の重複開口部分に一旦締め付けた後は、その締め付け状態が好適に保持されるようになる。つまり、本植物保持具によれば、様々な径の植物を安定に締め付け・保持することができ、航空機から落下させた場合においても、落下中および着地時の衝撃により植物が保持具から外れることがないのである。
他方、本発明の植物保持具によれば、おもり部は、鉄等の金属製で先端が先細形状を成し、内部に土壌・肥料を収容する内部スペースを有している。そのため、植物を締め付け・保持した状態で航空機から落下させた場合、植物保持具は落下中の風圧および着地時の衝撃の影響を受けにくく、崩壊地等の投下エリアに土中深く入り込むことができるようになり、植物が安定に土中に根を下ろすことができるようになる。
このように、本発明の植物保持具によれば、航空緑化用容器に適用した場合、崩壊地等に様々な径の植物を安定に植え付けることができるようになるため、崩壊地等の再生緑化率を好適に向上させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の植物保持具の本体部、上蓋部、固定リングを示す説明図である。なお、ここでは保持される植物としては、例えば、樹木、竹等とする。
この植物保持具100は、後述するおもり部40(
図7)に取り付けられる本体部10と、本体部10に回転可能に同軸で取り付けられ、本体部10と協働して植物を締め付け・保持する上蓋部20と、本体部10とおもり部40を固定する固定リング30とを具備して構成される。
【0014】
なお、詳細については、
図2および
図4を参照しながら後述するが、本体部10の天板に植物を通すために開けられた第1挿入穴と、上蓋部20の天板に植物を通すために開けられた第2挿入穴は、ともに本体部10および上蓋部20の各中心に対してそれぞれ偏心した状態で開けられている。そのため、保持される植物は、第1挿入穴と第2挿入穴の重複開口部分で保持されることになる。
【0015】
また、上蓋部20は、本体部10に回転可能に取り付けられているため、重複開口部分が狭く(小さく)なる方向に或いは広くなる(大きく)方向に上蓋部20を回転させることにより、様々な径の植物を重複開口部分に保持することが可能となる。
【0016】
更に、本体部10および上蓋部20の対向する各天板部には本体部側ラチェット爪と、これらと係合する複数の上蓋部側ラチェット爪がそれぞれ形成され、これらがラチェット機構を成している。従って、上蓋部20を締め付け方向に回転させて植物を第1挿入穴と第2挿入穴の重複開口部分に一旦締め付けた後は、その締め付け状態が緩まないように保持することが可能となる。以降、各構成について説明する。
【0017】
図2−3は、本発明に係る本体部10を示す説明図である。なお、
図2(a)はその上面図であり、同(b)はその正面図である。また、
図3は、
図2(a)のA−A断面図である。
本体部10は、天板部11と天板部11の周縁から下方に延びる筒状の本体側壁部12から成っており、本体側壁部12の下端側は開口された状態となっている。本体天板部11には、植物を保持する第1挿入穴11aと、後述する上蓋部20の天壁部21の下面から垂下する複数の上蓋部側ラチェット爪21bと協働してラチェット機構を構成する、天板部11の上面に形成された複数の本体部側ラチェット爪11bがそれぞれ設けられている。このラチェット機構の詳細については、
図9−10を参照しながら後述する。
【0018】
第1挿入穴11aは、植物が傾くのを防ぐため、本体天板部11の中心に対し偏心した状態で設けられている。また、植物を一旦締め付けた後、植物が第1挿入穴11aに安定に保持され、穴から抜け出しにくくなるように、第1挿入穴11aを規定する天板部11の内壁面には軸方向に延びる鋸歯11cが周方向に複数形成されている。
【0019】
本体部側ラチェット爪11bは、天板部11の外周縁側に、例えば10°の等間隔で設けられ、ラチェット爪の長さは中心角換算で例えば5°である。従って、本実施例での本体部側ラチェット爪11bの総数は、36個(=360°÷10°)である。また、本体部側ラチェット爪11bの形状は、一定方向に傾斜した傾斜面と垂直方向に延びる直立面、それらを連続に繋ぐ水平上面とからなる略台形形状となっていることが好ましい。
【0020】
図2(b)に示すように、本体側壁部12の上部外面には、上蓋部20の上蓋突起部22a(
図4(b))と嵌合する本体上溝部12aが周方向に設けられ、そして、本体側壁部12の下部外面には、後述する固定リング30の周状突起部31(
図5)と嵌合する本体下溝部12cが周方向に設けられている。そして、本体側壁部側面には、植物の根が張り出すための貫通口または二酸化炭素、酸素を取り込むために通気口あるいは排水口として機能する複数のスリット12bが本体側壁部12の下端から上方にむかって軸方向に延びている。
【0021】
図3に示すように、本体側壁部12の上部内周面には、補強リブ12dが周方向に沿って内周面に直交する形態で設けられている。この補強リブ12dによって本体側壁部12上部の強度・剛性が確保され、上蓋部20を締め付け方向に回転させる場合に、本体部側ラチェット爪11bが上蓋部側ラチェット爪21bを受け止め、植物を安定に締め付け・保持することができるようになる。
【0022】
図4は、本発明に係る上蓋部20を示す説明図である。なお、
図4(a)はその上面図であり、同(b)はその半断面図であり、同(c)はその下面図である。
【0023】
上蓋部20は、天壁部21と天壁部21の周縁から下方に延びる上蓋筒壁部22から成っており、側壁部の下端側は開口された状態となっている。
図4(a)に示すように、天壁部21には、第2挿入穴21aが、様々な径の植物を安定に締め付けることができるように、天壁部21の中心に対し偏心した状態で設けられている。また、植物を一旦締め付けた後、植物が第2挿入穴21aに安定に保持され、穴から抜け出しにくくなるように、第2挿入穴21aを規定する天壁部21の内壁面にも、軸方向に延びる鋸歯21cが周方向に複数形成されている。また、上蓋筒壁部22の下部内面には、前記本体上溝部12aに嵌合する上蓋突起部22aが周方向に形成されている。
【0024】
第2挿入穴21aは、対向する本体部10側の第1挿入穴11aと同じく偏心した状態で設けられている。そのため、上蓋部20が本体部10に嵌合した状態では、植物は、
図5(b)に示すように、第1挿入穴11aと第2挿入穴21aの重複開口部分に締め付け・保持されることになる。なお、両穴の偏心度は、本実施例では等しくなっているが、異なっていても良い。
【0025】
図4(b)に示すように、天壁部21の内側外周部には、本体天板部11に形成された複数の本体部側ラチェット爪11bと協働してラチェット機構を構成する複数の上蓋部側ラチェット爪21bが設けられている。このラチェット機構により、上蓋部20は一方向にしか回転することが出来なくなり、上蓋部20を回転させて植物を上記重複開口部分に一旦締め付けた後は、その締め付け状態が好適に保持されるように構成されている。なお、上蓋部側ラチェット爪21bについては、
図4(c)に示されるように、不等間隔(不均一間隔)で配設されている。本実施例では、例えば、反時計回りに42°、45°、48°、45°、48°、45°、42°、45°という不等間隔で、8個設けられている。また、上蓋部側ラチェット爪21bの周方向長さは中心角換算で例えば30°程度が好ましい。
【0026】
図5は、本発明の植物保持具100による植物50の締め付け・保持状態を示す説明図である。なお、
図5(a)は、植物50を締め付け・保持する前の状態(第1挿入穴11aと第2挿入穴21aが同心の場合)を示し、同(b)は、植物50を締め付け・保持している状態(第1挿入穴11aと第2挿入穴21aが互いに偏心している場合)を示している。
図5(a)に示すように、第1挿入穴11aと第2挿入穴21aの重複開口部分の直径はφDと最大であり、植物50の直径φdに対し、かなり大きくなっている。この状態では、植物50は各挿入穴にタイトにフィットしていないため、挿し木50に風圧等が作用する場合は、植物50が倒れ或いは挿入穴から抜け出る可能性がある。
しかし、
図5(b)に示すように、上蓋部20を締め付け方向に回転させて、重複開口部分を狭くすることにより、植物50を両穴の重複開口部分に締め付け・保持することができるようになる。このように、本発明の植物保持具100によって保持される植物50の直径φdは、0<φd<φDとなり、本植物保持具100によって様々な径の植物50を締め付け・保持することができるようになる。
【0027】
図6は、本発明に係る固定リング30を示す断面説明図である。
この固定リング30は、おもり部40に本体部10を固定するために使用される。従って、内側の内周面には本体側壁部12の本体下溝部12cと嵌合する周状突起部31を備えている。
【0028】
図7は、本発明の植物保持具を示す説明図である。
この植物保持具100は、航空緑化工法において使用されるおもり部40に上記本体部10、上蓋部20、固定リング30を組み合わせたものである。
おもり部40は、航空機から投下された時に、土中深く入り込むことができるように、鉄製で先端部が先細形状(円錐台形状)を成し、更に、その内部には挿し木の生長を促進する土壌を収納可能な内部スペース40aを有している。
【0029】
図8は、植物50を締め付け・保持した状態の植物保持具100を示す断面説明図である。
おもり部40の内部には、植物50の生長を促進する土壌60が充填され、その土壌60中に植物50が埋め込まれ、その植物50は第1挿入穴11aおよび第2挿入穴21aを通され、
図5(b)に示すように、第1挿入穴11aおよび第2挿入穴21aの重複開口部分に締め付け・保持されている。
【0030】
上記本体部10、上蓋部20および固定リング30は、生分解性樹脂から作られていることが好ましい。従って、上記植物保持具100が、航空機から投下され、土中深く入り込んだ後は、上記本体部10、上蓋部20および固定リング30は土壌の微生物によって分解されて水と二酸化炭素となって土壌に同化しその形状が消滅してしまう。このように、上記植物保持具100は、航空機から投下されて土中深く入り込んだ後、その大部分がじきに消滅してしまうため、植物50の生長を阻害しないという特性を持っている。
【0031】
図9は、本発明に係る上蓋部側ラチェット爪21bおよび本体部側ラチェット爪11bの各配列を示す展開図であり、
図5(a)に示す上蓋部20の第1挿入穴11a及び本体部10の第2挿入穴21aとが同心の場合における各ラチェット爪の配置を示すものである。なお、ここでは、各ラチェット爪間隔及びラチェット爪長さに対応する各中心角(°)を、各ラチェット爪長さ及びラチェット爪間隔として表示した。
先ず、本体部10側の本体部側ラチェット爪11bは、本実施例では等間隔に10°間隔(周期)及び周方向長さ5°で36個設けられている。説明の都合上、各ラチェット爪11bについては、改めて番号a1,a2,・・・,a36を付与することにする。
【0032】
他方、本体部側ラチェット爪11bのa1,a2,・・・,a36に対し相対移動する上蓋部側ラチェット爪21bは、42°,45°,48°,45°,48°,45°,42°,45°の不等間隔で8個設けられている。なお、後述するように、上蓋部側ラチェット爪21bはランダムに不等間隔とされているのではなく、各上蓋部側ラチェット爪21bの直近の各本体部側ラチェット爪11bに到る各距離が、本体部側ラチェット爪11bのラチェット爪間隔である0°〜10°の範囲に適度に分散するように不等間隔で設けられている。ここで、上蓋部側ラチェット爪21bについても本体部側ラチェット爪11bと同様に、説明の都合上、改めて番号b1,b2,・・・,b8を付与することにする。
【0033】
ところで、静止している本体部側ラチェット爪11bのa1,a2,・・・,a36はその間隔が10°と一定である。従って、上蓋部20が回転している時(上蓋部20が締め付け方向に移動している時)の上蓋部側ラチェット爪21bと本体部側ラチェット爪11bとの幾何学的関係(相対位置関係)は、10°毎に周期的に繰り返されることになる。従って、以降の説明においては、上蓋部20の移動範囲を、0°〜10°に限定して説明することにする。
【0034】
特に、上蓋部側ラチェット爪21bを等間隔で配設した時の間隔を「基準間隔」と、その基準間隔からのズレ角を「偏差」と定義する時、上蓋部側ラチェット爪21bのb1,b2,・・・,b8は、基準間隔を45°(=360°÷8)、その偏差を±3°として、8個の上蓋部側ラチェット爪21bのb1,b2,・・・,b8に対し、偏差が個別に割り当てられている。本実施例では、上蓋部側ラチェット爪21bのb1,b2,・・・,b8に対し、順に、−3°、0°、+3°、0°、+3°、0°、−3°、0°が個別に割り当てられている。その結果、上記ラチェット爪b1,b2,・・・,b8の実際の間隔(実間隔)は、上述した通り、42°、45°、48°、45°、48°、45°、42°、45°と不等間隔となっている。
【0035】
ここで、上蓋部側ラチェット爪21bの各ラチェット爪b1,b2,・・・,b8について、戻り方向に対する直近の本体部側ラチェット爪11bの各ラチェット爪a1,a5,a10,a15,a19,a24,a28,a33に到る各距離を見てみると、2°、7°、5°、0°、8°、3°、5°、0°となっている。これを、小さい順に並べ変えると、0°、2°、3°、5°、7°、8°となり、上蓋部20の移動範囲(または本体部側ラチェット爪11bのラチェット爪間隔)である0°〜10°の範囲に適度に分散されていることが分かる。なお、後述する通り、このように分散することにより、上蓋部側ラチェット爪21bの各ラチェット爪b1,b2,・・・,b8の戻り量は、最大でも2°を超えないようになる。つまり、上記偏差及びその割り当てについて、各上蓋部側ラチェット爪21bの直近の各本体部側ラチェット爪11bに到る各距離が、0°〜10°の範囲に適度に分散するように決定すれば、上蓋部側ラチェット爪21bの戻り量(緩み量)を小さくすることができるようになる。
【0036】
図11のグラフは、上蓋部20の締め付け方向(X)への移動量に対する、各上蓋部側ラチェット爪21bの直近となる本体部側ラチェット爪11bに到る距離(Y)との相関関係を示している。
グラフの各実線は、各上蓋部側ラチェット爪21bの直近の各本体部側ラチェット爪11bまでの戻り距離を示している。また、グラフの各縦点線は、各上蓋部側ラチェット爪21bの直近となる本体部側ラチェット爪11bが各縦点線を境に切り替わることを示している。例えば、上蓋部側ラチェット爪21bのb1について見ると、上蓋部20の締め付け方向への移動量が0°〜8°の間は、本体部側ラチェット爪11bのa1が直近のラチェット爪となり、上蓋部20の移動量に対し2°を始点とし1対1の比例関係(Y=X、すなわち傾き45°)で増大する。他方、上蓋部20の移動量が8°を超えると、本体部側ラチェット爪11bのa2が直近のラチェット爪となり、始点が0°にリセットされそこから1対1の比例関係で再び増大することを示している。
従って、上蓋部20の実際の戻り量は、各上蓋部側ラチェット爪21bの直近の各本体部側ラチェット爪11bに到る各距離のうちで一番小さい値に支配されることになる。なぜならば、一番小さい値(最小値)に対応する上蓋部側ラチェット爪21bが必ず最初に何れかの本体部側ラチェット爪11bに当たる(ぶつかる)ようになるからである。
【0037】
すなわち、上蓋部20の移動量が0°〜2°の場合は、上蓋部側ラチェット爪21bのb4,b8と本体部側ラチェット爪11bのa15,a33の距離に支配され、上蓋部20の移動量が2°〜3°の場合は、上蓋部側ラチェット爪21bのb5と本体部側ラチェット爪11bのa20の距離に支配され、上蓋部20の移動量が3°〜5°の場合は、上蓋部側ラチェット爪21bのb2と本体部側ラチェット爪11bのa6の距離に支配され、上蓋部20の移動量が5°〜7°の場合は、上蓋部側ラチェット爪21bのb3,b7と本体部側ラチェット爪11bのa11,a29の距離に支配され、上蓋部20の移動量が7°〜8°の場合は、上蓋部側ラチェット爪21bのb6と本体部側ラチェット爪11bのa25の距離に支配され、上蓋部20の移動量が8°〜10°の場合は、上蓋部側ラチェット爪21bのb1と本体部側ラチェット爪11bのa2の距離に支配されることになる。グラフの各太線は、上蓋部20の移動量に対する実際の戻り量をそれぞれ示している。このグラフから、上蓋部20の実際の戻り量は2°を超えないことが分かる。従って、このグラフは、「上蓋部20の実際の戻り量が2°を超えない」上蓋部側ラチェット爪21bの配列の一例を示している。また、このグラフから、上蓋部20の実際の戻り量を小さくするためには、直近の本体部側ラチェット爪11bに到る距離が、低く折れ線状に傾き45°で増大するようにすること、すなわち各上蓋部側ラチェット爪21bの直近の各本体部側ラチェット爪11bに到る各距離が、0°〜10°の範囲に適度に分散すればよいことが分かる。本実施例では、5°を中心に両側に適度に分散されている。
【0038】
なお、上蓋部側ラチェット爪21bの基準間隔に偏差を何も設けない場合、すなわち、各上蓋部側ラチェット爪21bの直近の本体部側ラチェット爪11bに到る各距離を分散させない場合、上蓋部20の戻り量は、上のグラフの上蓋部側ラチェット爪21bのb4,b8のケースに相当し、最大でほぼ10°になる。しかし、本発明のように、各上蓋部側ラチェット爪21bの直近の本体部側ラチェット爪11bに到る各距離を5°を中心に両側に適度に分散させることにより、上蓋部20の戻り量は、最大でもほぼ2°と、小さくすることができる。
【0039】
参考として、
図10は、上蓋部20が
図9の状態から9°だけ締め付け方向に移動した時の、上蓋部側ラチェット爪21bおよび本体部側ラチェット爪11bの各配列を示す展開図である。
この場合、上蓋部側ラチェット爪21bの各ラチェット爪b1,b2,・・・,b8について、戻り方向に対する直近の本体部側ラチェット爪11bの各ラチェット爪a2,a6,a11,a15,a20,a25,a29,a33に到る各距離は、1°、6°、4°、9°、7°、2°、4°、9°となり、従って、この場合の上蓋部20の戻り量は、上蓋部側ラチェット爪21bのb1と本体部側ラチェット爪11bのa2との距離の1°となることが分かる。なお、このことは、
図11のグラフでX=9°と太線の交点からも読み取ることができる。
【0040】
このように、本体部側ラチェット爪11bが等間隔θ°(例えば、10°)で設けられている場合、上蓋部側ラチェット爪21bの配列については、戻り方向に対する直近の各本体部側ラチェット爪11bに到る各距離が、0°〜θ°(例えば、0°〜10°)の範囲に適度に分散するように、偏差(例えば、±3°)を決定し、上蓋部側ラチェット爪21bの基準間隔(例えば、45°)に割り当てれば良いことになる。
【0041】
なお、上蓋部側ラチェット爪21bと本体部側ラチェット爪11bとの関係を反転させた場合であっても、上蓋部側ラチェット爪21bと本体部側ラチェット爪11bとの相対関係は不変である。従って、本体部側ラチェット爪11bの各ラチェット爪a1,a2,・・・,a36を上蓋部20の内側天板に設け、一方、上蓋部側ラチェット爪21bの各ラチェット爪b1,b1,b2,・・・,b8を本体部10の外側天板に設けた場合であっても、上述した事項は当てはまることになる。また、上蓋部側ラチェット爪21bと本体部側ラチェット爪11bの各個数が同じである場合も上述した事項は同様に当てはまることになる。
【0042】
このように、数の少ないラチェット爪(本実施例では、上蓋部側ラチェット爪21b)を等間隔(基準間隔)で配列し、直近である数の多いラチェット爪(本実施例では、本体部側ラチェット爪11b)までの距離が、数の多いラチェット爪の間隔内(本実施例では10°)に適度に分散する(本実施例では10°の中間値である5°を中心として両側に0°、2°、3°、5°、7°、8°となる)ように、偏差(本実施例では±3°)を決定し、各基準間隔に割り当てることにより、上蓋部20を回転させて保持対象植物を一旦締め付けた時、上蓋部20(上部ラチェット爪)の戻り量(緩み量)を小さくすることが可能となる。なお、各偏差の総和はゼロになるように設定しなければならない。
【0043】
また、別の見方をすれば、ラチェット爪数の多い側が少ない側の倍数にならないように均一な間隔で配置する、もしくはラチェット数爪が同じでも間隔を不均一にすることで上蓋の戻り量を小さくすることができる。