【実施例】
【0027】
本発明の好適な一実施例である配管の閉塞物診断方法を、
図1を用いて説明する。
【0028】
本実施例の配管の閉塞物診断方法に用いられる閉塞物診断装置1は、加速度センサ2、FFT(高速フーリエ変換)アナライザ(周波数分析装置)3、信号処理装置4、表示装置5及び荷重センサ(図示せず)を備えている。FFTアナライザ3が加速度センサ2及び信号処理装置4に接続される。表示装置5が信号処理装置4に接続される。荷重センサはドレン配管7を叩くインパクトハンマ6に設けられ、荷重センサからの荷重信号はFFTアナライザ3に入力される。
【0029】
原子力プラントのドレン配管7は、建屋内で側壁等にUボルト等の配管サポートを用いて設置されている。配管サポートは3〜5m間隔に配置される。
【0030】
閉塞物診断装置1を用いた配管の閉塞物診断方法を詳細に説明する。閉塞物診断対象の配管、例えば、ドレン配管7の外面に加速度センサ2を取り付ける。作業員がインパクトハンマ6でドレン配管7の外面を叩く。本実施例では、荷重センサを内蔵したインパクトハンマ6によるドレン配管7への打撃は、ドレン配管7の軸方向で所定の間隔に置かれた5箇所のそれぞれの位置において、ドレン配管7の外面の、周方向における複数点(例えば、周方向に22.5°置きに配置された16点)でそれぞれ与えられる。さらに、ドレン配管7の軸方向において所定の間隔で置かれたインパクトハンマ6による打撃によってドレン配管7が振動する。これによって生じる或る点における振動の加速度αが加速度センサ2によって測定される。振動の加速度αの測定によって加速度センサから出力された振動信号が、上記の複数の打撃点に対して、FFTアナライザ3にそれぞれ入力される。インパクトハンマ6のドレン配管7への打撃により発生する打撃力Fは、インパクトハンマ6に内蔵した荷重センサによって測定される。荷重センサによって測定された打撃力Fが、有線または無線によってFFTアナライザ3に入力される。
【0031】
FFTアナライザ3は、それぞれの振動信号の周波数分析を行い、さらに、打撃力F及び振動の加速度αに基づいてドレン配管6の軸方向の伝達関数T(=α/F)を求める。複数点の伝達関数Tが求められる。FFTアナライザ3で得られた振動信号の周波数と伝達関数Tの関係の一例を
図2に示す。
【0032】
FFTアナライザ3で得られた、
図2に示された振動信号の周波数と伝達関数Tの関係を表す情報(複数点分の情報)が、信号処理装置4に入力される。FFTアナライザ3が
図2に示された情報を信号処理装置4に入力するのではなく、FFTアナライザ3が
図2に示された情報を記憶装置に格納し、信号処理装置4が記憶装置から
図2に示された情報を取り込むようにしても良い。
【0033】
信号処理装置4は、ドレン配管7の軸方向の各伝達関数を用いて、この伝達関数の振幅がピークを示す周波数において、ドレン配管7の軸方向を棒とみなす曲げ及びねじり等の固有振動モード(
図4に示す配管軸方向の各変形モード)を求める。信号処理装置4は、ドレン配管7の周方向の各伝達関数を用いて、ドレン配管7の横断面の半径方向に変形する固有振動モード(
図4に示す配管横断面の各変形モード)を
求める。配管軸方向の変形モード及び配管横断面の変形モードに基づいて、信号処理装置4が、ドレン配管7の各モード次数の固有振動モード(例えば、(1,1)モード、(2,0)モード及び(2,1’)モード等)を求める。
【0034】
図2に示す伝達関数の振幅のピーク(極大値)における周波数(ピーク周波数)に対応する固有振動モードの減衰比であるモード減衰比は、前述の複数点の伝達関数を用いて実験モード解析法により求めることができる。モード減衰比は、信号処理装置4で求められる。
【0035】
説明を簡単化するために、ドレン配管7の外面で1箇所に加速度センサ2を設置し、伝達関数の1つのピークを基に減衰比を求める半値幅法について説明する(
図3参照)。
【0036】
伝達関数の振幅の極大値をH、伝達関数の振幅の極大値Hにおける周波数(ドレン配管7の固有振動数)をf
0とする。信号処理装置4は、ピークとなる周波数f
0付近で振幅がH/√2となる点の周波数(振動数)f
1及びf
2をそれぞれ読み取り,式(1)により減衰比ζを算出する。
【0037】
ζ=(f
2−f
1)/2f
0 ……(1)
以上に述べた減衰比ζの算出を、
図2に示す伝達関数の各ピーク周波数である固有振動数ごとに行うことによって、ドレン配管7の各固有振動モードにおけるモード減衰比
を求めることができる。
【0038】
信号処理装置4で求められたドレン配管7の固有振動数、固有振動モード及びモード減衰比の各情報(便宜的に、計測固有振動数情報、計測固有振動モード情報及び計測モード減衰比情報と称する)は、表示装置5に表示される。なお、原子力プラントが建設されて原子力プラントの運転が開始される前に、閉塞物診断装置1を用いて、配管が閉塞していない状態(新品状態、又は異物を除去して修復した状態)でのドレン配管7の固有振動数、固有振動モード及びモード減衰比を予め求め、信号処理装置4のメモリ(図示せず)に記憶しておく。予めメモリに記憶された新品のドレン配管7の固有振動数、固有振動モード及びモード減衰比の各情報を、基準固有振動数情報、基準固有振動モード情報及び基準モード減衰比情報と称する。基準固有振動数情報、基準固有振動モード情報及び基準モード減衰比情報も、計測固有振動数情報、計測固有振動モード情報及び計測モード減衰比情報と併せて表示装置に表示される。作業員は、表示装置5に表示されたドレン配管7の計測固有振動モードの情報及びこの計測固有振動モードに対応する計測モード減衰比の情報と、基準固有振動モード情報及びこの基準固有振動モード情報に対応する基準モード減衰比情報を比較することによって、ドレン配管7内に閉塞物が堆積しているかを精度良く診断することができる。
【0039】
ドレン配管7の軸方向においてドレン配管7内の閉塞物の堆積を診断する場合には、加速度センサ2をドレン配管7の或る位置に設置したまま、インパクトハンマ6による打撃点をドレン配管7の軸方向に移動させることによって、ドレン配管7の軸方向の或る距離の範囲、例えば、ドレン配管7の全長に亘って、閉塞物の堆積を診断することができる。
【0040】
本実施例は、ドレン配管7の固有振動モードのモード減衰比に基づいて、ドレン配管7内における閉塞物の堆積を診断するので、その閉塞物の堆積を精度良く診断することができる。ドレン配管7内に閉塞物が堆積すると、伝達関数の振幅が変わり、これに応じてモード減衰比も変化する。また、ドレン配管7内に閉塞物が堆積したときの固有振動モードの減衰比は、ドレン配管7自体の減衰比及びドレン配管7の支持部での減衰比よりも大きくなる。このため、ドレン配管7内に閉塞物が堆積しているか否かを精度良く診断することができる。
【0041】
ドレン配管7の固有振動数及び固有振動モードを数値シミュレーションで予め求めておくことによって、ドレン配管7の振動測定点が数点あればこれらの振動測定点での測定値(打撃力F及び振動の加速度α)の平均を用いて精度の良いモード減衰比を算出することができる。
【0042】
本実施例では、振動測定点(加速度センサ2の設置位置)を固定してドレン配管の打撃点を移動させたが、逆に、その打撃点を固定して振動測定点(加速度センサ2の設置位置)を移動させても、本実施例と同様な効果が得られる。
【0043】
本実施例では,インパクトハンマに荷重センサを内蔵させているが,荷重センサがなくても振動のピーク周波数近傍で半値幅法を適用してモード減衰比を近似的に求めることができ、本実施例と同様な結果が得られる。
【0044】
本実施例では,インパクトハンマに荷重センサを内蔵させているが、荷重センサがなくても、2つの加速度センサを設け、1つの加速度センサを基準として固定し、もう1つ加速度センサを移動させることによって固有振動モードを求めることができ、本実施例と同様な結果が得られる。
【0045】
本実施例は、原子力プラントのドレン配管だけでなく、火力プラント及び化学プラント等の他のプラントのドレン配管における閉塞物の堆積の診断に適用することができる。さらに、本実施例は、プラント以外ではビルディング内に施設されている配管における閉塞物の堆積の診断にも適用することができる。