(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5692788
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】ヒトdecorinプロモーターの一部の配列を用いてC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ若しくはp53依存的に任意の遺伝子を発現させる方法、及びそれらの転写誘導能を抑制又は測定する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20150312BHJP
C12Q 1/68 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
C12N15/00 AZNA
C12Q1/68 A
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-545776(P2010-545776)
(86)(22)【出願日】2010年1月7日
(86)【国際出願番号】JP2010050095
(87)【国際公開番号】WO2010079802
(87)【国際公開日】20100715
【審査請求日】2012年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2009-1886(P2009-1886)
(32)【優先日】2009年1月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-131124(P2009-131124)
(32)【優先日】2009年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】日和佐 隆樹
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 正樹
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 克郎
【審査官】
西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】
J. Biol. Chem.,2004年,Vol.279, No.14,pp.14409-14417
【文献】
生化学,2001年,Vol.73, No.8,p.716
【文献】
Biochem. Biophys. Res. Commun.,2008年,Vol.372, No.4 ,pp.746-751
【文献】
J. Biol. Chem.,1996年,Vol.271, No.40,pp.24824-24829
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1及び2に記載の塩基配列、前記配列番号1及び2に記載の塩基配列のうち1若しくは複数個の塩基が置換又は欠失してなる塩基配列、又は、これら塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、C/EBPδの転写誘導能を制御する機能を有するDNA。
【請求項2】
前記配列番号1及び2に記載の塩基配列が、decorin遺伝子のプロモーター領域の一部である請求項1記載のDNA。
【請求項3】
請求項1に記載のDNAを、他の遺伝子の上流につないで、C/EBPδ依存的に前記他の遺伝子を発現させる方法。
【請求項4】
請求項1に記載のDNAを用いてC/EBPδの転写誘導能を抑制又は測定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ若しくはp53依存的に任意の遺伝子を発現させる方法、及びC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ若しくはp53の転写誘導能を抑制又は測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
p53遺伝子は、人の多がん組織及びがん細胞において、最も高頻度で変異・欠失が観察されている遺伝子である(例えば下記非特許文献1参照)。変異p53遺伝子を有するリー・フラウメニ症候群患者やp53ノックアウトマウスにおいてがんが多発することから、p53遺伝子の異常はがんの発生・進展に密接に関連していると考えられている(例えば下記非特許文献2、3参照)。
【0003】
p53は、転写活性調節ドメインを含むN末端領域と、DNA結合に関与するDNA結合領域と、四量体形成ドメインを含むC末端領域からなり、がん細胞で観察される変異は、DNA結合領域に集中している。
【0004】
野生型p53は転写調節因子として機能し、細胞周期、DNA修復、アポトーシスに関わる多くの遺伝子の発現に関与していることが知られている。例えば野生型p53蛋白質は、サイクリン依存性キナーゼのインヒビターであるp21遺伝子(別名:WAF1、CIP1、SDI1)の転写を活性化して細胞周期停止を誘導する。また野生型p53は、Bax遺伝子、Noxa遺伝子、Puma遺伝子等の転写を活性化してアポトーシスを誘導することが知られている(例えば下記非特許文献4乃至6参照)。
【0005】
これらのことから、p53の転写調節因子としての活性を測定することによって、発がんやアポトーシスの進行程度を推測することが可能であり、また、p53の転写誘導活性を調節することによって発がんやアポトーシスを抑制することが可能である。
【0006】
C/EBPは塩基性アミノ酸の領域とロイシンジッパーをもったbZIPタンパク質であり、異なった遺伝子にコードされたC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、C/EBPγ、CRP1、CHOPからなるC/EBPファミリーを構成している(例えば下記非特許文献7参照)。C/EBPβ、C/EBPδは急性期反応に重要な転写因子である。C/EBPαはp21を介して細胞周期を止め、細胞増殖抑制作用を示し(例えば下記非特許文献8参照)、がん抑制遺伝子の一つである(例えば下記非特許文献9参照)。
【0007】
ところでdecorinは低分子ロイシンリッチ・プロテオグリカンと呼ばれる分子ファミリーに属し、EGFR、ErbB4、IGF−IR等の増殖因子受容体に結合して強い細胞増殖やアポトーシスに影響を及ぼす(例えば下記非特許文献10参照)。
【0008】
【非特許文献1】Cancer Research,1994,54,4855−4878
【非特許文献2】British Journal of Cancer,1997,76,1−14
【非特許文献3】Nature,1992,356,215−221
【非特許文献4】Cell,1995,80,293−299
【非特許文献5】Science,2000,288,1053−1058
【非特許文献6】Molecular Cell,2001,7,683−694
【非特許文献7】International Journal of Experimental Pathology 1998,79,369−391
【非特許文献8】Genes and Development 1996,10,804−815
【非特許文献9】Journal of Experimental Medicine 2005,202,85−96
【非特許文献10】Journal of Biological Chemistry 2008,283,21305−21309
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の技術には、C/EBPファミリー、及びp53の標的遺伝子のプロモーターを用いた遺伝子発現制御に関する記載もあるが、これらの生物学的重要性を考慮すれば1つでも多くの標的遺伝子の同定が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、ヒトdecorinプロモーターにC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ若しくはp53が作用する領域を同定し、それらの転写因子に依存して任意の遺伝子を発現させる方法、及び、それらの転写誘導能を抑制又は測定する方法、更には、これに用いられるDNAを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための一手段に係るDNAは、配列番号1及び2に記載の塩基配列、配列番号1及び2に記載の塩基配列のうち1若しくは複数個の塩基が置換又は欠失してなる塩基配列、又は、これら塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、C/EBPα、C/EBPβ、若しくはC/EBPδの転写誘導能を制御する機能を有するものである。
【0012】
また、上記課題を解決するための他の一手段に係る遺伝子を発現させる方法は、配列番号1及び2に記載の塩基配列、配列番号1及び2に記載の塩基配列のうち1若しくは複数個の塩基が置換又は欠失してなる塩基配列、又は、これら塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを他の任意の遺伝子の上流につないで、C/EBPα、C/EBPβ、若しくはC/EBPδ依存的に他の遺伝子を発現させる。
【0013】
また、上記課題を解決するための他の一手段に係る遺伝子を発現させる方法は、配列番号1及び2に記載の塩基配列、配列番号1及び2に記載の塩基配列のうち1若しくは複数個の塩基が置換又は欠失してなる塩基配列、又は、これら塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを用いて、C/EBPα、C/EBPβ、若しくはC/EBPδの転写誘導能を抑制又は測定する。
【0014】
また、上記課題を解決するための他の一手段に係るDNAは、配列番号3に記載の塩基配列、配列番号3に記載の塩基配列のうち1若しくは複数個の塩基が置換又は欠失してなる塩基配列、又は、これら塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、p53の転写誘導能を制御する機能を有するものである。
【0015】
また、上記課題を解決するための他の一手段に係る遺伝子を発現させる方法は、配列番号3に記載の塩基配列、配列番号3に記載の塩基配列のうち1若しくは複数個の塩基が置換又は欠失してなる塩基配列、又は、これら塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを用いて、p53の転写誘導能を抑制又は測定する方法。
【発明の効果】
【0016】
以上、本発明により、C/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ若しくはp53に依存して任意の遺伝子を発現させる方法、C/EBPα、C/EBPβ、若しくはC/EBPδの転写誘導能を抑制又は測定する方法、及び、p53の転写誘導能を抑制又は測定する方法、更には、これに用いられるDNAを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
マウス線維芽細胞NIH3T3を活性化型Ha−ras遺伝子により形質転換したras−NIH3T3細胞はがん細胞の様相を呈するが、そこにCOUP−TFI、HNF4及びC/EBPα遺伝子を導入し発現させたところ、細胞の形態が正常型に復帰することを発見した。そして、これらの遺伝子導入細胞と親株のras−NIH3T3細胞について遺伝子発現の差をマイクロアレイ法により網羅的に解析したところ、いずれもdecorin遺伝子の発現が上昇していた。すなわち、COUP−TFI、HNF4、及びC/EBPα遺伝子の作用により、decorin遺伝子の発現が誘導されるのではないかと考えられた。
【0018】
一方、p53は代表的ながん抑制遺伝子であり、その遺伝子をras−NIH3T3細胞に導入したところ、上記と同様の形態的正常復帰が観察された。またマウスdecorin遺伝子を導入しても同様の形態的正常復帰が観察された。これらのことから、COUP−TFI、HNF4、及びC/EBPαとp53、及びdecorinの間に何らかの関係があると推定された。
【0019】
そこで次に、decorin遺伝子の発現調節機構について解析した。解析は、後述の実施例から明らかとなるが、ヒト培養食道がん細胞株T.TnのゲノムDNAを鋳型として、decorin遺伝子のプロモーター領域(−1338〜−205)をPCR法により増幅して単離し、ルシフェラーゼ・レポータープラスミドpGL3(プロメガ社)に組み込み、レポータープラスミドdeco(−1338:−205)−Lucを作製した。そしてこのレポータープラスミドをCOUP−TFI、HNF4、C/EBPα、及びp53の発現ベクターとともにマウス線維芽細胞ras−NIH3T3に導入し、2日後にルシフェラーゼ活性を測定した。C/EBPαと同じ遺伝子ファミリーであるC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、COUP−TFI、及びp53遺伝子の導入細胞ではルシフェラーゼ活性が2〜46倍に上昇していた(後述の
図1参照)。なおHNF4はほとんど影響がなかった。
【0020】
次にこのルシフェラーゼ・レポータープラスミドに組み込まれたdecorin遺伝子のプロモーター領域(−1338〜−205)を段階的に5’側から削除して7種類のレポータープラスミド(Deco(−1237:−205)−Luc、Deco(−1037:−205)−Luc、Deco(−736:−205)−Luc、Deco(−599:−205)−Luc、Deco(−414:−205)−Luc、Deco(−287:−205)−Luc、Deco(−252:−205)−Luc)を作製した。またDeco(−204:+42)−Lucも別途作製した。p53によるこれらのプラスミド由来のルシフェラーゼ活性の変動を調べたところ、−252〜−205の領域で最も顕著なルシフェラーゼ活性の上昇が認められた(後述の
図2参照)。この活性上昇はp53の用量に依存しており(後述の
図3参照)、ヒトグリオーマ細胞U−87でも同様の結果が得られた(後述の
図4参照)。
【0021】
このdecorinプロモーター領域(−252〜−205)にはp53の結合コンセンサス配列(5’−PuPuPuC(A/T)(A/T)GPyPyPy−3’)に類似した配列(AGGCAAGTAG)が含まれていた。そこでこの配列のうち最も重要であると推定されているCAAGをAAATに変異させたレポータープラスミドDeco(−252:−205)m−Lucを作製して調べたところ、p53による活性化は5分の1程度に減少した(後述の
図2、及び3参照)。これらのことからp53はdecorinプロモーターの−252〜−205の領域に作用して下流の遺伝子の発現を誘導すると考えられた。
【0022】
次に、クロマチン免疫沈降法により、アドリアマイシン処理したヒトグリオーマ細胞U−87のクロマチン分画を抗p53抗体を用いて免疫沈降し、共沈したDNAをdecorinプロモーター領域に設計したプライマーを用いてPCR法により増幅したところ、予想されたDNAのバンドが検出された(後述の
図5参照)。このことはp53がdecorinプロモーター領域に直接結合することを示唆している。
【0023】
次にEMSA(electrophoresis mobility shift assay)法によりp53とdecorinプロモーターの結合を調べた。decorinプロモーターの−256〜−232の領域の配列を持つ合成DNAをプローブとしてdigoxigeinで標識し、U−87細胞の核抽出液と混合し、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、DNAをメンブレンに転写した後、アルカリフォスファターゼ標識抗digoxigenin抗体とCSPD[Disodium 3−(4−methosyspiro{1,2−dioxetane−3,2’−(5’−chloro)Ttricyclo[3.3.1.1
3,7]Ddecan}−4−yl)phenyl phosphate]を用いて検出した結果、DNA−タンパク質複合体が移動度の低下したバンドとして検出された(
図6)。このバンドは核抽出液の非存在下では観察されなかった。また、過剰量の非標識プローブを加えると消失した。また、抗p53抗体(N−19、またはM−19)を加えるとコントロールの抗NF−κB抗体を加えたサンプルに比べ、バンドが薄くなった。このことはdecorinプロモーターの−256〜−232の領域にp53が結合することを示す。
【0024】
一方、C/EBPα、C/EBPβ、及びC/EBPδによるルシフェラーゼ活性の上昇は−204〜+42の領域を含むレポータープラスミドで最も高かった(後述の
図7、8、9参照)。このことからこれらのC/EBPファミリーはdecorinプロモーターの−204〜+42の領域に主に作用すると考えられた。また、C/EBPα、及びC/EBPβでは−414〜−205の領域で高く、−287〜−205の領域では減少した(後述の
図7、8、9参照)。このことからC/EBPαとC/EBPβはdecorinプロモーターの−414〜−288の領域にも作用して下流の遺伝子の発現を誘導すると考えられた。
【0025】
HNF4はp53と同様にDeco(−252:−205)−Lucに対して最も高い発現誘導活性を示した(後述の
図10参照)。また、COUP−TFIはDeco(−204〜+42)−Luc、及びDeco(−287:−205)−Lucで高い活性を示し、Deco(−252:−205)−Lucでは活性が低下した(後述の
図11参照)。しかしながら、これらはDeco(−252:−205)−Lucに対しても発現誘導活性を示したことからそれらの作用領域は明確でなかった。
【0026】
すなわち、本発明の第一の形態に係るDNAは、配列番号1及び2に記載の塩基配列、配列番号1及び2に記載の塩基配列のうち1若しくは複数個の塩基が置換又は欠失してなる塩基配列、又は、これら塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、C/EBPα、C/EBPβ若しくはC/EBPδの転写誘導能を制御する機能を有する。なお配列番号1に記載の塩基配列は、decorinプロモーターの−414〜−288の領域を示すものであり、配列番号2に記載の塩基配列は、decorinプロモーターの−204〜+42の領域を、配列番号3は、decorinプロモーターの−252〜−205の領域をそれぞれ示している。
【0027】
なおこの形態において、配列番号1及び2に記載の塩基配列は、decorin遺伝子のプロモーター領域の一部であることが好ましい。
【0028】
また本発明の第二の形態に係る遺伝子を発現させる方法は、上記第一の形態に係るDNAを、他の遺伝子の上流につないで、C/EBPα、C/EBPβ若しくはC/EBPδ依存的に他の任意の遺伝子を発現させる。
【0029】
また本発明の第三の形態に係るC/EBPα、C/EBPβ若しくはC/EBPδの転写誘導能を抑制又は測定する方法は、上記第一の形態に係るDNAを用いて行なう。
【0030】
また、本発明の第四の形態に係るDNAは、配列番号3に記載の塩基配列、配列番号3に記載の塩基配列のうち1若しくは複数個の塩基が置換又は欠失してなる塩基配列、又は、これら塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、p53の転写誘導能を制御する機能を有する。
【0031】
なおこの形態において、配列番号3に記載の塩基配列は、decorin遺伝子のプロモーター領域の一部であることが好ましい。
【0032】
また本発明の第五の形態に係るp53の転写誘導能を抑制又は測定する方法は、上記第四の形態に係るDNAを用いて行なう。
【0033】
ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、サザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニー、プラーク由来のDNA又はこのDNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在か65℃で葉イブリダイゼーションを行なった後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSCの組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるものを挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Molocular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等に記載されている方法に準じて行なうことができる。
【0034】
また、本発明において用いられるレポータープラスミドはルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドに限られず、例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、オワンクラゲ蛍光発色体(GFP)を挙げることができる。
【0035】
また、また、本発明の一に係る遺伝子を発現させる方法において、接続させる遺伝子は、限定されるわけではないが、薬剤耐性遺伝子、アポトーシス阻害遺伝子、殺細胞遺伝子、及び、C/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ若しくはp53の標的で発現異常を引き起こした遺伝子などが考えられる。薬剤耐性遺伝子の例としては、dhfr、gpt、neo、hygro、trpB、hisD、ODCなどがある。dhfrはメトトレキセートへの耐性を与える遺伝子であり、gptはミコフェノール酸への耐性を与える遺伝子であり、neoはアミノグリコシドG−418への耐性を与える遺伝子であり、hygroはハイグロマイシンへの耐性を与える遺伝子である。またtrpBは細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用することを許容する遺伝子であり、hisDは細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用することを許容する遺伝子であり、ODC(オルニチンデカルボキシラーゼ遺伝子)は、オルニチンデカルボキシラーゼ阻害剤である2−(ジフルオロメチル)−DL−オルニチン(DFMO)に対する耐性を与える遺伝子である。アポトーシス阻害遺伝子の例としてはIAPを挙げることができる。IAP遺伝子の上流に配列番号2の遺伝子を組み込んで細胞に予め導入しておけば、薬物処理によりp53を活性化させた場合にアポトーシスは起こさず、細胞周期の停止を優先的に起こすことができる。逆に、がん細胞などを死滅させたい場合には殺細胞遺伝子を接続させることによって目的を達成できる。C/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、p53の標的で発現異常を引き起こした遺伝子の発現を正常に戻すためには、本実施形態に係るプロモーターDNAを有する標的遺伝子をアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルスなどのベクターに挿入し、又は、リポソームなどに封入して体細胞に導入することにより、C/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、p53の正常な転写制御下に標的遺伝子を発現させることができる。
【0036】
配列番号1、配列番号2又は配列番号3に記載のDNAを過剰に細胞内に導入し、そこにC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ又はp53を結合させてそれらの機能を制御する際、このプロモーターDNAの少なくとも一部を含むDNAは、C/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ又はp53との結合を拮抗阻害しうる。拮抗阻害に用いるDNAは、通常少なくとも6塩基の鎖長を有する。
【0037】
またdecorineプロモーターDNAは、配列番号1、配列番号2及び配列番号3のうち1若しくは複数個の塩基が置換又は欠失してなる塩基配列を採用することができる。当業者であれば、種々の文政生物学的手法、例えば制限酵素法、DNAエキソヌクレアーゼによる欠失導入、変異プライマーを用いたPCR法によるプロモーター配列の改変、部位特異誘発法による変異導入、合成変異DNAの導入などの方法で、天然型プロモーターDNAの塩基配列の一部を他の塩基に置換したり、あるいは、一部塩基を欠失、または、付加させることにより、天然型と同等のプロモーターDNAと同等のプロモーター活性を有し、液が置換、欠失、及び/又は付加した塩基配列を有するDNAも使うことができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施の例について詳細に説明する。
【0039】
(実施例1)
まず、ヒト培養食道癌細胞T.TnからゲノムDNAを抽出し、これを鋳型として、AC007115.1 Homo sapiens chromosome 12 cloneの12030base〜13163base[decorin遺伝子のプロモーター領域(−38〜−205);全長1134塩基対]、及び13164塩基対〜13409塩基対[decorin遺伝子のプロモーター領域(−204〜+42);全長246塩基対]の領域をPCR法により増幅した。その際、XhoI、及びHindIIIサイトをそれぞれ末端に導入し、TAクローニングにてサブクローニングを行い、ホタル・ルシフェラーゼ・レポータープラスミドpGL3−Basic vector(プロメガ社)のXhol−HindIII間に組み込み、レポータープラスミドDeco(−1338:−205)−Lucを作製した。
【0040】
そして、このレポータープラスミドをSV40、CMVプロモーターにより恒常的にウミシイタケ・ルシフェラーゼを発現するコントロールプラスミド−pGL4.73[hRluc/SV40]vector、又はpGL4.75[hRluc/CMV]vector、及びCOUP−TFI、HNF4、C/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、又はp53の発現ベクター、又はインサート遺伝子を含まない空の対照ベクターとともにマウス線維芽細胞ras−NIH3T3にLipofectamine−Plus試薬(インビトロジェン社)を用いて導入した。そして2日間培養した後、ルシフェラーゼ活性をデュアル・ルシフェラーゼ定量システム(プロメガ社)を用いて測定し、ウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性に対するホタル・ルシフェラーゼ活性の比を算出した。この結果、対照ベクターに比べC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、COUP−TFI、及びp53遺伝子の導入細胞ではルシフェラーゼ活性が2〜46倍に上昇していた(
図1)。なおHNF4に関しては殆ど影響がなかった。
【0041】
(実施例2)
ルシフェラーゼ・レポータープラスミドDeco(−1338:−205)−Lucに組み込まれたdecorin遺伝子のプロモーター領域(−1338〜−205)を段階的に5’側から削除して7種類のレポータープラスミド(Deco(−1237:−205)−Luc、Deco(−1037:−205)−Luc、Deco(−736:−205)−Luc、Deco(−599:−205)−Luc、Deco(−414:−205)−Luc、Deco(−287:−205)−Luc、Deco(−252:−205)−Luc)をreverse PCT法により、KOD Mutagenesis Kit(東洋紡社)を用いて作製した。そして、これらのプラスミドまたはDeco(−204:+42)−Lucとコントロールプラスミド−pGL4.73[hRluc/SV40]vector、及びp53発現ベクターをras−NIH3T3細胞に導入し、ルシフェラーゼ活性の変動を調べたところ、−252〜−205の領域で最も顕著なホタル・ルシフェラーゼ活性の上昇が認められた(
図2)。なおこの活性上昇は、p53の用量に依存しており、(
図3)、ヒトグリオーマ細胞U−87でも同様の結果が得られた(
図4)。
【0042】
(実施例3)
decorinプロモーターの−252〜−205の領域にはp53の結合コンセンサス配列(5’−PuPuPuC(A/T)(A/T)GPyPyPy−3’)に類似した配列(AGGCAAGTAG)が含まれていた。そこで、この配列のうち最も重要であると推定されるCAAGをAAATに変異させたレポータープラスミドDeco(−252:−205)m−LucをKOD Mutagenesis Kitを用いて作製して調べたところ、p53による活性化は170倍から30倍程度に減少した(
図3)。このことからp53はdecorinプロモーターのAGGCAAGTAGを含む−252〜−205の領域に作用して顆粒の遺伝子の発現を誘導すると考えられた。
【0043】
(実施例4)
ChIP Assay Kit(Active Motif社)を用いて、クロマチン免疫沈降解析を行なった。アドリアマイシン処理したヒトグリオーマ細胞U−87のクロマチン分画を抗p53抗体(DO−1、及びBp53−12;サンタクルーズ社)を用いて免疫沈降し、共沈したDNAをdecorinプロモーター領域(−413〜−232)に設計したプライマー(AACTGGTGGACAGGGAGAAAG、及び、TCGGATTCCTACTTGCCTTGG)を用いてPCT法により増幅したところ、予想された182塩基対のDNAのバンドが検出された(
図5)。このことは、p53がdecorinプロモーターに直接結合することを示唆している。
【0044】
(実施例5)
EMSA法によりp53とdecorinプロモーターの結合を調べた。decorinプロモーターの−256〜−232の領域の配列を持つ合成DNAをプローブとしてdigoxigeninで標識し、U−87細胞の核抽出液と混合し、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、DNAをメンブレンに転写した後、アルカリフォスファターゼ標識抗digoxigenin抗体とCSPD[Disodium 3−(4−methoxyspiro{1,2−dioxetane−3,2’−(5’−chloro)tricyclo[3.3.1.1
3,7]decan}−4−yl)phenyl phosphate]を用いて検出した。DNA−タンパク質複合体を示す移動度の低いバンドが検出された(
図6、レーン2)。このバンドは核抽出液の非存在下では観察されなかった(レーン1)。また、過剰量の非標識プローブを加えると消失した(レーン6)。また、抗p53抗体(N−19、またはM−19)を加える(レーン3、4)とコントロールの抗NF−κB抗体を加えたサンプル(レーン5)に比べ、バンドが薄くなった。このことはdecorinプロモーターの−256〜−232の領域にp53が結合することを示す。
【0045】
(実施例6)
一方、C/EBPα、C/EBPβ、及びC/EBPδによるdecorinプロモーターの活性化を同様に実施例2に示すレポータープラスミドを用いて調べたところ、ホタル・ルシフェラーゼ活性の上昇は−204〜+42、及び−414〜−205の領域を含むレポータープラスミドで高く、−287〜−205の領域では減少した(
図7、8、9)。このことからC/EBPα、C/EBPβ、及びC/EBPδはdecorinプロモーターの−204〜+42、及び−414〜−288の領域に作用して顆粒の遺伝子の発現を誘導すると考えた。
【0046】
HNF4について同様に、decorinプロモーターへの影響を調べた結果、Deco(−252:−205)−Lucに対して最も高い発現誘導活性を示した(
図10)。また、COUP−TFIはDeco(−287:−205)−Lucで最も高い活性を示し、Deco(−252:−205)−Lucでは活性化が減弱したが完全には消失しなかった(
図11)。したがって、それらの作用領域については確定しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、DNA、このDNAを利用したC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、及びp53の機能解析、C/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、及びp53に依存的な遺伝子発現、及びC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、及びp53の機能抑制が可能となり、細胞増殖、分化、細胞死の関与する種々の疾患の解明と予防に大きな進展が期待でき、産業上の利用可性がある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】種々の転写因子によるdecorinプロモーターの活性化である。 Deco(−1338:−205)−Luc(0.1μg)をSV40プロモーターにより恒常的にウミシイタケ・ルシフェラーゼを発現するコントロールプラスミドpGL4.73[hRluc/SV40]vector(0.01μg)、及びC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、COUP−TFI、HNF4、またはp53の発現ベクター、またはインサート遺伝子を含まない空の対照ベクター(pEF−BOS)(0.3μg)とともにマウス線維芽細胞ras−NIH3T3にLipofectamine−Plus試薬(インビトロジェン社)を用いて導入した。2日間培養した後、ルシフェラーゼ活性をデュアル・ルシフェラーゼ定量システム(プロメガ社)を用いて測定し、ウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性に対するホタル・ルシフェラーゼ活性の比を算出した。その結果、対照ベクターに比べC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、COUP−TFI、及びp53遺伝子の導入細胞ではルシフェラーゼ活性が2〜46倍に上昇していた。HNF4はほとんど影響がなかった。
【
図2】p53によるdecorinプロモーターの活性化を示す図である。 レポータープラスミド、Deco(−1338:−205)−Luc、Deco(−1237:−205)−Luc、Deco(−1037:−205)−Luc、Deco(−736:−205)−Luc、Deco(−599:−205)−Luc、Deco(−414:−205)−Luc、Deco(−287:−205)−Luc、Deco(−252:−205)−Luc、又はDeco(−204:+42)−Luc(0.1μg)をコントロールプラスミドpGL4.73[hRluc/SV40]vector(0.01μg)、及びp53発現ベクター(0.3μg)とともにras−NIH3T3細胞に共導入し、ルシフェラーゼ活性の変動を調べた。その結果、−252〜−205の領域を持つレポーターに対して最も顕著なホタル・ルシフェラーゼ活性の上昇が認められた。
【
図3】ras−NIH3T3細胞におけるp53によりdecorinプロモーターの活性化を示す図である。
図2と同様にレポータープラスミド、Deco(−252:−205)−Luc、またはDeco(−252:−205)m−Lucに対するp53の用量依存的活性化を調べた。Deco(−252:−205)m−Lucはdecorinプロモーターの−252〜−205の領域に見られるp53の結合コンセンサス配列(5’−PuPuPuC(A/T)(A/T)GPyPyPy−3’)に類似した配列(AGGCAAGTAG)のCAAGをAAATに変異させたレポータープラスミドである。この活性化はp53の用量に依存しており、p53結合コンセンサス配列に依存していた。
【
図4】U−87グリオーマ細胞におけるp53によるdecorinプロモーターの活性化を示す図である。
図3と同様にレポータープラスミド、Deco(−1338:−205)−Luc、Deco(−287:−205)−Luc、またはDeco(−252:−205)−Lucに対するp53用量依存的活性化をヒトグリオーマ細胞U−87を用いて調べた。Deco(−252:−205)−Lucに対して最も高い活性化を示した。
【
図5】クロマチン免疫沈降法によるp53とdecorinプロモーターの結合解析を示す図である。図中の矢印はPCR産物の位置を示す。 ChIP Assay Kit(Active Motif社)を用いてクロマチン免疫沈降解析を行なった。アドリアマイシン処理したヒトグリオーマ細胞U−87のクロマチン分画を抗p53抗体(DO−1、及びBp53−12;サンタクルーズ社)を用いて免疫沈降し、共沈したDNAをdecorinプロモーター領域(−413〜−232)に設計したプライマー(AACTGGTGGACAGGGAGAAAG)を用いてPCR法により増幅した。p53抗体を用いた時にのみ予想された182塩基対のDNAのバンドが検出された。このことはp53がdecorinプロモーターに直接結合することを示唆している。矢印は予想されるPCR産物の位置を示す。
【
図6】EMSAによるdecorinプロモーターとp53の結合を示す図である。 EMSA法によりp53とdecorinプロモーターの結合を調べた。decorinプロモーターの−256〜−232の領域の配列を持つ合成DNAをプローブとしてdigoxigeninで標識し、アドリアマイシン処理U−87細胞の核抽出液と混合し、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、DNAをメンブレンに転写した後、アルカリフォスファターゼ標識抗digoxigenin抗体を反応させ、CSPD[Disodium 3−(4−methoxyspiro{1,2−dioxetane−3,2’−(5’−chloro)tricyclo[3.3.1.1
3,7]decan}−4−yl)phenyl phosphate]を用いて検出した。移動度の低いバンドはDNA−タンパク質複合体を示す。レーン1:標識プローブのみ、核抽出液なしレーン2:標識プローブ+核抽出液レーン3:標識プローブ+核抽出液+抗p53抗体(N−19)レーン4:標識プローブ+核抽出液+抗p53抗体(M−19)レーン5:標識プローブ+核抽出液+抗NF-κB抗体レーン6:標識プローブ+核抽出液+非標識プローブ(×80)これらの結果はdecorinプロモーターの−256〜−232の領域にp53が結合することを示す。
【
図7】C/EBPαによるdecorinプロモーターの活性化を示す図である。 C/EBPαによるdecorinプロモーターの活性化を
図2と同様にレポータープラスミドを用いて調べた。ホタル・ルシフェラーゼ活性の上昇は−204〜+42の領域に対して最も著しく、次いで−414〜−205の領域を含むレポータープラスミドで高く、−287〜−205の領域では低下した。このことからC/EBPαはdecorinプロモーターの−204〜+42、及び−414〜−288の領域に作用して下流の遺伝子の発現を誘導すると考えられた。
【
図8】C/EBPβによるdecorinプロモーターの活性化を示す図である。 C/EBPβによるdecorinプロモーターの活性化を
図2と同様にレポータープラスミドを用いて調べた。ホタル・ルシフェラーゼ活性の上昇は−204〜+42、及び−414〜−205の領域を含むレポータープラスミドで高く、−287〜−205の領域では低かった。このことからC/EBPβはdecorinプロモーターの−204〜+42、及び−414〜−288の領域に作用して下流の遺伝子の発現を誘導すると考えられた。
【
図9】C/EBPδによるdecorinプロモーターの活性化を示す図である。 C/EBPδによるdecorinプロモーターの活性化を
図2と同様にレポータープラスミドを用いて調べた。ホタル・ルシフェラーゼ活性の上昇は−204〜+42の領域に対して最も高く、その他のレポーターでは3分の1以下であった。このことからC/EBPδはdecorinプロモーターの−204〜+42の領域に主に作用して下流の遺伝子の発現を誘導すると考えられた。
【
図10】HNF4によるdecorinプロモーターの活性化を示す図である。 HNF4について
図2と同様にdecorinプロモーターへの影響を調べた。Deco(−252:−205)−Lucに対して最も高い発現誘導活性を示した。
【
図11】COUP−TFIによるdecorinプロモーターの活性化を示す図である。 COUP−TFIによるdecorinプロモーターの活性化を
図2と同様にレポータープラスミドを用いて調べた。COUP−TFIはDeco(−287:−205)−LucとDeco(−204:+42)−Lucに対して最も高い活性を示し、Deco(−252:−205)−Lucでは活性化が減弱したが完全には消失しなかった。従って、それらの作用領域は確定しなかった。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]