(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで上記特許文献1に記載の近接場光発生素子は、ディスク上を浮上走行するスライダの対向面に形成されているので、ディスク上で発生する空気流との摩擦やディスクとの衝突等の影響によって負荷を受け易い。特に、端面における上記最大距離輪郭部はその影響を顕著に受け易く、摩耗や破損等の不具合が生じ易いものと考えられる。そのため、ディスクの加熱を安定して行うことが難しいうえ、記録ヘッドの寿命の短命化に繋がる恐れもあった。
また上記特許文献1には、端面の一部が底面に対して平行(ディスクに対して平行)な平行面とされた構造も開示されているが、この場合には平行面が全面に亘って摩耗等する恐れがあり、やはり上記と同様の問題を招いてしまう。
【0009】
更に、上記特許文献1に記載の近接場光発生素子は、ディスク上を浮上走行するスライダの対向面に設けられているうえ、その形状が錐台状であり、この錐台状の頂面である端面を光の波長以下のサイズに形成する必要があるので製造が困難であると考えられる。
近接場光発生素子は、フォトリソグラフィ技術等の半導体製造技術を利用しながらスライダと共に一体的な製造が可能とされるものであるが、端面を高精度に作り込むには例えばフォトマスクの高精度な位置合わせやエッチングの正確な制御等を行う必要があるので、手間がかかり製造が難しい。特に、端面を傾斜させたりその一部を平行面にしたりする必要があるので、製造の困難性が顕著であった。
従って、できるだけ簡便な方法で近接場光発生素子を製造し、製造効率の向上化が望まれている。
【0010】
また、特許文献2に記載のプローブの場合においても、サンプルをスキャンした際に、先端部が摩耗し易く、やはり寿命の短命化に繋がる恐れがあった。
更に、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いて製造できることが知られているが、工程数が多く製造し難いことが問題であり、やはり製造効率の向上化が望まれている。
【0011】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、摩耗や破損等が生じ難く、伝播光と近接場光との相互変換を安定して行うことができる近接場光素子、これを具備する記録ヘッド及び情報記録再生装置、並びに近接場光素子の製造方法及び記録ヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
(1)本発明に係る近接場光素子は、近接場光と伝播光との相互変換を行う近接場光素子であって、前記伝播光を内部で伝播させる伝播部と、該伝播部に被膜された膜体と、を備え、前記伝播部のうち対象物に対向する先端部には、前記伝播光の光軸方向に垂直な先端面と、前記先端面に連設され、前記相互変換を行う開口面と、が形成され、前記膜体が、前記先端面上に全面に亘って被膜され、前記開口面が、前記先端面と共通の輪郭線を有すると共に前記伝播光の光軸に対して傾斜していることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る近接場光素子によれば、磁気記録媒体や試料等の対象物に対向する伝播部の先端部に、先端面及び開口面が形成されているので、対象物との間に生じる摩擦や衝撃等を開口面よりも優先して先端面で吸収し易い。よって、開口面自体に摩耗や破損等が生じ難い。一方、先端面は膜体によって保護されているので、やはり先端面についても摩耗や破損等が生じ難い。従って、耐久性を向上でき寿命の延命化に繋げることができる。
また、上記したように開口面に摩耗や破損等が生じ難いので、近接場光と伝播光との相互交換(例えば、伝播光を近接場光に変換して開口面から局在化させた状態で発生させたり、対象物側に発生した近接場光を開口面から検出して伝播光に変換したりする等)を安定して行うことができる。
【0014】
(2)上記本発明に係る近接場光素子において、前記膜体が前記伝播光を遮光する金属膜であっても良い。
【0015】
この場合には、膜体が伝播部の先端面を単に保護するだけでなく伝播光を遮光するので、伝播光が先端面から漏れ光として外部に漏れ出てしまうことを抑制することができる。従って、損失少なく近接場光と伝播光との相互交換を行える。
【0016】
(3)上記本発明に係る近接場光素子において、前記膜体が、前記伝播光の入射によって表面プラズモンを励起させると共に、そのエネルギーを前記近接場光に変換する金属膜であっても良い。
【0017】
この場合には、伝播光を近接場光に変換し、開口面から対象物側に発生させることができる。特に、伝播光の入射によって金属膜である膜体の表面に表面プラズモンが励起される。そして、この表面プラズモンのエネルギーが近接場光に変換され。開口面、特に輪郭線の近傍に強度が強くなった高エネルギーの近接場光として局在化させることができる。
【0018】
(4)上記本発明に係る近接場光素子において、前記膜体が、前記先端面に加え、前記伝播部のうち前記伝播光が入射される入射部分及び前記開口面を除く残りの部分にも被膜されていても良い。
【0019】
この場合には、伝播光の漏れを効果的に抑制して伝播効率を高めることができるうえ、伝播光のエネルギーを無駄なく近接場光の発生に費やすことが可能である。
【0020】
(5)上記本発明に係る近接場光素子において、前記伝播部の少なくとも一部が、前記先端面に平行な断面積が前記先端部に向かうにしたがって漸次小さくなっても良い。
【0021】
この場合には、例えば、伝播光を先端部に向けて伝播させる場合には、伝播光を集光させながら伝播せることができる。従って、伝播光を変換し、近接場光として開口面から発生させる場合には、近接場光の発生効率を高め易い。
【0022】
(6)本発明に係る記録ヘッドは、前記対象物が磁気記録媒体とされ、上記本発明に係る近接場光素子と、一定方向に回転する前記磁気記録媒体の表面に、該磁気記録媒体の回転方向下流側に流出端面が向いた状態で対向配置されるスライダと、該スライダの前記流出端面側に配設され、主磁極及び補助磁極を有し、両磁極の間に記録磁界を発生させる記録素子と、を備え、前記近接場光素子が、前記スライダの前記流出端面側に配設され、前記開口面から前記近接場光を発生させる素子であることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る記録ヘッドによれば、伝播光を伝播部の開口面から近接場光として外部に局在化させた状態で発生させることができるので、この局在化した近接場光と記録素子で発生された記録磁界とを協働させて、磁気記録媒体に各種の情報の書き込みを行うことができる。特に、磁気記録媒体に対して最も近接している輪郭線の近傍に近接場光を強く局在化させ易いので、磁気記録媒体の所望する箇所を局所的に且つ安定的に加熱することが可能である。従って、高密度で且つ高い信頼性で記録を行うことができる。
【0024】
また、伝播部に形成された先端面を利用して、磁気記録媒体の回転に伴って発生する空気流との摩擦や磁気記録媒体との接触による衝撃等を開口面よりも優先して吸収することができる。従って、開口面、特に輪郭線近傍に近接場光を安定に局在化させることができ、安定した加熱性能を確保することができると共に、記録ヘッドの延命化に繋げることができる。
【0025】
(7)上記本発明に係る記録ヘッドにおいて、前記先端面及び前記開口面が、前記磁気記録媒体の移動方向に沿って配設され、前記先端面が、前記開口面よりも上記移動方向のリーディング側に配設されていても良い。
【0026】
この場合には、先端面が開口面よりも回転移動する磁気記録媒体のリーディング側(上流側)に配設されているので、特に空気流との接触による摩擦を先端面で効果的に吸収し易く、開口面に影響を与え難い。
【0027】
(8)本発明に係る情報記録再生装置は、上記本発明に係る記録ヘッドと、前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に移動可能とされ、該磁気記録媒体の表面に平行で且つ互いに直交する2軸回りに回動自在な状態で前記記録ヘッドを支持するサスペンションと、前記伝播部に前記伝播光を入射させる光源と、前記磁気記録媒体の外側に配置されたピボット軸と、該ピボット軸の回りを回転可能に形成されると共に、前記サスペンションを支持するアーム部を有するキャリッジと、を備えていることを特徴とする。
【0028】
本発明に係る情報記録再生装置によれば、上記記録ヘッドを備えているので、書き込みの信頼性が高く、高密度記録化に対応した高品質な装置にすることができる。
【0029】
(9)本発明に係る近接場光素子の製造方法は、上記本発明の近接場光素子の製造方法であって、前記伝播部を形成する伝播部形成工程と、前記先端面に前記膜体を被膜させる被膜工程と、前記先端面を含む前記伝播部の一部を切削加工して前記開口面を形成する切削工程を行うことを特徴とする。
【0030】
本発明に係る製造方法によれば、まず、開口面を作り込むことなく伝播部を形成した後、先端面に膜体を被膜させる工程を行う。その後、先端面を含む伝播部の一部を切削加工(例えば、ダイシング等を利用した切断による切削加工や、研磨による切削加工)して開口面を形成する。これにより、膜体によって被膜された先端面と開口面とが形成された先端部を有する近接場光素子を製造することができる。
特に、伝播部を形成する段階では開口面を形成する必要がないので、特別な手法を用いることなく通常の半導体製造技術等を利用しながら伝播部を形成することが可能である。そして、その後に切断や研磨等の各種の切削加工により開口面を形成するので、例えばエッチングを正確に制御する等の複雑な作業工程を経る必要がない。従って、容易に製造することができ製造効率の向上化及び低コスト化を図り易い。
【0031】
(10)本発明に係る記録ヘッドの製造方法は、上記本発明の記録ヘッドの製造方法であって、積層面が前記流出端面とされたスライダ用ウエハに対して、複数の記録素子を具備する記録素子層、及び複数の伝播部を具備する近接場光素子層を積層し、これらが一体となったウエハ体を作製する積層工程と、前記ウエハ体を複数の前記記録ヘッドに個片化する個片化工程と、を備え、前記積層工程が、複数の前記記録素子を所定配列で配設した状態で前記記録素子層を積層する第1積層工程と、前記記録素子に対応するように前記所定配列で複数の前記伝播部を配設した状態で前記近接場光素子層を積層する第2積層工程と、を備え、前記第2積層工程が、前記先端面が積層方向に対して平行となるように、前記伝播部を複数形成する伝播部形成工程と、前記先端面に前記膜体を被膜させる被膜工程と、を備え、前記個片化工程の際、前記先端面を露出させた状態で前記ウエハ体を個片化すると共に、前記先端面を含む前記伝播部の一部を切削加工して前記開口面を形成する切削工程を行うことを特徴とする。
【0032】
本発明に係る製造方法によれば、まず後にスライダとなるスライダ用ウエハに対して記録素子層及び近接場光素子層を積層してウエハ体を作製した後、このウエハ体をダイシング等により複数に分断して個片化することで、一度に複数の記録ヘッドを製造することができる。
特に、積層工程における第2積層工程を行う際、第1積層工程で所定配列に配設した複数の記録素子に対応させて同じ所定配列で複数の伝播部を配設するが、この段階では伝播部に開口面を形成する必要がない。即ち、先端面が積層方向に対して平行になるように伝播部を横に寝かせた状態で形成した後、先端面に膜体を被膜させる工程を行う。
従って、積層工程時に開口面を考慮する必要がないので、特別な手法を用いることなく通常のフォトリソグラフィ技術等の半導体製造技術を利用しながら積層工程を簡便に行うことができる。
【0033】
そして、ウエハ体を個片化する段階で開口面を形成する作業を同時に行う。即ち、先端面を露出させるようにウエハ体を個片化すると共に、その先端面を含む伝播部の一部を切削加工(例えば、ダイシング等を利用した切断による切削加工や、研磨による切削加工)して開口面を形成する。その結果、膜体によって被膜された先端面と開口面とが形成された伝播部を具備する記録ヘッドを製造することができる。
【0034】
上記したように、ウエハ体を個片化する段階で開口面を形成する方法であるので、従来のようにエッチングを正確に制御する等の複雑なフォトリソグラフィ技術等を用いる必要性がない。従って、記録ヘッドを容易に製造することができ、製造効率の向上化及び低コスト化を図り易い。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、摩耗や破損等が生じ難く、伝播光と近接場光との相互変換を安定して行うことができると共に、容易に製造が可能であり製造効率の向上化及び低コスト化を図り易い。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る情報記録再生装置の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本実施形態の情報記録再生装置は、垂直記録層を有するディスク(対象物、磁気記録媒体)に対して、垂直記録方式で書き込みを行う装置として説明する。
【0038】
(情報記録再生装置)
図1に示すように、本実施形態の情報記録再生装置1は、キャリッジ11と、キャリッジ11の基端側から光電気複合配線33を介して光束(伝播光)L(
図7参照)を供給するレーザ光源20と、キャリッジ11の先端側に支持されたヘッドジンバルアセンブリ(HGA)12と、ヘッドジンバルアセンブリ12をディスク面D1(ディスクDの表面)に平行なXY方向に向けてスキャン移動させるアクチュエータ6と、ディスクDを所定の方向に向けて回転させるスピンドルモータ7と、情報に応じて変調した電流をヘッドジンバルアセンブリ12の記録ヘッド2に対して供給する制御部5と、これら各構成品を内部に収容するハウジング9と、を備えている。
【0039】
ハウジング9は、アルミニウム等の金属材料からなる上部開口部を有する箱型形状のものであり、上面視四角形状の底部9aと、底部9aの周縁において底部9aに対して鉛直方向に立設する周壁(不図示)とで構成されている。そして、周壁に囲まれた内側には、上述した各構成品を収容する凹部が形成される。
なお、
図1においては、説明を分かりやすくするため、ハウジング9の周囲を取り囲む周壁を省略している。
【0040】
ハウジング9には、該ハウジング9の上部開口部を塞ぐように図示しない蓋が着脱可能に固定されるようになっている。底部9aの略中心には、上記スピンドルモータ7が取り付けられており、該スピンドルモータ7に中心孔を嵌め込むことでディスクDが着脱自在に固定されている。
【0041】
ディスクDの外側で、底部9aの一つの隅角部には、上述したアクチュエータ6が取り付けられている。このアクチュエータ6には、ピボット軸10を中心に水平面(XY方向)内で回動可能なキャリッジ11が取り付けられている。
このキャリッジ11は、基端部から先端部に向けて(ディスクD方向に向けて)延設されたアーム部14と、基端部を介してアーム部14を片持ち状に支持する基部15とが、削り出し加工等により一体形成されたものである。
基部15は、略直方体形状に形成されたものであり、ピボット軸10回りに回動可能に支持されている。つまり、基部15はピボット軸10を介してアクチュエータ6に連結されており、このピボット軸10がキャリッジ11の回転中心となっている。
【0042】
アーム部14は、基部15におけるアクチュエータ6が取り付けられた側面15aと反対側の側面(隅角部の反対側の側面)15bにおいて、基部15の上面の面方向(XY方向)と平行に延出する平板状のものであり、基部15の高さ方向(Z方向)に沿って3枚延出している。
具体的には、アーム部14は、基端部から先端部に向かうにしたがって先細るテーパ形状に形成されており、各アーム部14間に、ディスクDが挟み込まれるように配置されている。つまり、アーム部14とディスクDとが、交互に配置可能に構成されており、アクチュエータ6の駆動によってアーム部14がディスク面D1に平行な方向(XY方向)に移動可能とされている。
なお、キャリッジ11及びヘッドジンバルアセンブリ12は、ディスクDの回転停止時にアクチュエータ6の駆動によって、ディスクD上から退避可能とされている。
【0043】
ヘッドジンバルアセンブリ12は、後述する記録ヘッド2にレーザ光源20からの光束Lを導いて近接場光S(
図7参照)を発生させ、該近接場光Sを利用してディスクDに各種情報を記録再生させるものである。
図2から
図5に示すように、本実施形態のヘッドジンバルアセンブリ12は、上記記録ヘッド2をディスクDから浮上させる機能を有しており、該記録ヘッド2と、金属性材料により薄い板状に形成され、ディスク面D1に平行なXY方向に移動可能なサスペンション3と、記録ヘッド2をディスク面D1に平行で且つ互いに直交する2軸(X軸、Y軸)回りに回動自在な状態、即ち2軸を中心として捻れることができるようにサスペンション3の下面に固定させるジンバル手段16と、を備えている。
【0044】
記録ヘッド2は、ディスクDとサスペンション3との間に配置された状態で、サスペンション3の下面に後述するジンバル17を挟んで支持されている。
図5から
図7に示すように、この記録ヘッド2は、ディスク面D1から所定距離だけ浮上した状態でディスクDに対向配置され、ディスク面D1に対向する浮上面2aを有するスライダ60と、スライダ60の流出端面(先端面)60a側に配設された、近接場光発生素子(近接場光素子)40、記録素子41、再生素子42と、を備えている。
【0045】
なお、上記スライダ60は、該スライダ60からディスクDを見たときに、ディスクDの回転方向下流側(トレイリング側)に流出端面60aが位置するように、ディスクDに対向配置されている。また、この流出端面60aに対して向かい合う面は、ディスクDの回転方向上流側(リーディング側)に位置する流入端面として機能する。よって、ディスクDの回転時、回転するディスクDによって発生した空気は、流入端面側から浮上面2aに沿って流れた後、流出端面60a側から抜けるように流動する。
【0046】
なお、記録ヘッド2は、スライダ60の流出端面60a側が最もディスク面D1に近接した状態でディスクD上を浮上する。従って、スライダ60の流出端面60a側に上記各構成品が配置されていることで、これらを可能な限りディスク面D1に近づけることができ、ディスクDの保磁力を効率良く低下させてディスクDへの書き込みが容易とされている。
【0047】
ところで、本実施形態においては、スライダ60の流出端面60aに近接場光発生素子40が固定されており、記録素子41及び再生素子42が近接場光発生素子40の後述するクラッド51内に組み込まれた状態で配設されている。具体的には、記録素子41及び再生素子42は、スライダ60の流出端面60aと近接場光発生素子40の後述する伝播部50との間に位置するようにクラッド51内に組み込まれている。この際、再生素子42がスライダ60の流出端面60aに固定され、この再生素子42に隣接して並ぶように記録素子41が固定されている。
【0048】
スライダ60は、石英ガラス等の光透過性材料や、AlTiC(アルチック)等のセラミック等によって直方体状に形成されている。また、スライダ60は、浮上面2aをディスクD側に向けた状態で、ジンバル17(
図3参照)を介してサスペンション3(
図3参照)の先端にぶら下がるように支持されている。
【0049】
再生素子42は、ディスクDから漏れ出ている磁界の大きさに応じて電気抵抗が変換する磁気抵抗効果膜である。この再生素子42には、後述する電気配線31を介して制御部5(
図1参照)からバイアス電流が供給されている。これにより制御部5は、ディスクDから漏れ出た磁界の変化を電圧の変化として検出することができ、この電圧の変化から信号の再生を行うことが可能とされている。
【0050】
記録素子41は、スライダ60の流出端面60a側に位置する補助磁極45と、磁気回路46を介して補助磁極45に接続され、ディスクDに対して垂直な記録磁界を補助磁極45との間で発生させる主磁極47と、磁気回路46を中心として該磁気回路46の周囲を渦巻状に巻回されたコイル48と、を備えている。
【0051】
両磁極45、47及び磁気回路46は、磁束密度が高い高飽和磁束密度(Bs)材料(例えば、CoNiFe合金、CoFe合金等)により形成されている。また、コイル48は、ショートしないように、隣り合うコイル線間、磁気回路46との間、両磁極45、47との間に隙間が空くように配置されており、この状態で絶縁層49によってモールドされている。つまり、両磁極45、47、磁気回路46及びコイル48は、絶縁層49によって支持された状態となっている。また、コイル48には情報に応じて変調された電流が制御部5から供給される。
なお、主磁極47及び補助磁極45は、ディスクDに対向する端面がスライダ60の浮上面と面一となるように設計されている。
【0052】
近接場光発生素子40は、
図6から
図8に示すように、後述する光導波路32から入射された光束LをディスクD側に向けて伝播させる伝播部50と、該伝播部50を内部に閉じ込めるクラッド51と、で構成される略板状の素子であって、上記したようにスライダ60の流出端面60aに固定されている。
伝播部50は、本実施形態ではスライダ60の流出端面60aに沿ってディスク面D1に直交するZ方向に延在した四角柱状に形成され、一端側がスライダ60の上方に向き、他端側(先端部側)がディスクDに向いた状態で主磁極47の近傍に隣接している。伝播部50の他端側における端面は、内部を伝播する光束Lの光軸O(
図7参照)に垂直で、且つディスク面D1に対して平行に対向する先端平坦面(先端面)50aとされており、スライダ60の浮上面2aに対して面一とされている。伝播部50は、一端側から内部に入射された光束Lをこの先端平坦面50aに向けて伝播させている。
【0053】
また、伝播部50には、上記先端平坦面50aに連設され、伝播されてきた光束Lを近接場光Sに変換し、該近接場光Sを外部に発生させる開口面50bが形成されている。
図8に示すように、この開口面50bは伝播部50の他端側における角部に形成され、先端平坦面50aと共通の輪郭線Mを有すると共に、先端平坦面50aとのなす角度θ1が鈍角となるように先端平坦面50aに対して傾斜している。即ち、開口面50bは光束Lの光軸Oに対して傾斜している。なおこの開口面50bは、先端平坦面50aの面積よりも面積が小さいうえ、光束Lの波長以下のサイズとされた微小開口であり、図示の例では平面視三角形状とされている。
【0054】
開口面50bのより具体的な位置としては、先端平坦面50aと開口面50bとがディスクDの移動方向Nに沿って並び、先端平坦面50aが開口面50bよりも上記移動方向Nのリーディング側に位置するように配設されている。
【0055】
ところで、伝播部50の上記先端平坦面50aには、
図6から
図8に示すように、全面に亘って例えばアルミニウム膜等の金属膜(膜体)52が被膜されている。この金属膜52は、先端平坦面50aを保護する保護膜として機能すると共に、伝播部50内を伝播されてきた光束Lを遮光する遮光膜として機能する。
なお、
図8は、伝播部50と主磁極47との位置関係を模式的に示した図であり、両者のサイズは正確に図示していない。後に示す
図13、
図14、
図20及び
図21についても同様である。
【0056】
なお、本実施形態の伝播部50は、クラッド51の屈折率よりも高い屈折率の材料からなり、クラッド51との屈折率の違いから光束Lを全反射条件で導くコアとされている。このクラッド51は、コアである伝播部50に密着して該伝播部50を内部に閉じ込めている。
【0057】
また、クラッド51及びコアとして使用される材料の組み合わせの一例を記載すると、例えば、石英(SiO
2)でコアを形成し、フッ素をドープした石英でクラッド51を形成する組み合わせが考えられる。この場合には、光束Lの波長が400nmのときに、コアの屈折率が1.47となり、クラッド51の屈折率が1.47未満となるので好ましい組み合わせである。また、ゲルマニウムをドープした石英でコアを形成し、石英(SiO
2)でクラッド51を形成する組み合わせも考えられる。この場合には、光束Lの波長が400nmのときに、コアの屈折率が1.47より大きくなり、クラッド51の屈折率が1.47となるのでやはり好ましい組み合わせである。
【0058】
特に、コアとクラッド51との屈折率差が大きいほど、コア内に光束Lを閉じ込める力が大きくなるので、コアに酸化タンタル(Ta
2O
5:波長が550nmのときに屈折率が2.16)を用い、クラッド51に石英等を用いて、両者の屈折率差を大きくすることがより好ましい。また、赤外領域の光束Lを利用する場合には、赤外光に対して透明な材料であるシリコン(Si:屈折率が約4)でコアを形成することも有効である。
【0059】
また、
図2から
図5に示すように、スライダ60の下面は上述したようにディスク面D1に対向する浮上面2aとされ、回転するディスクDによって生じた空気流の粘性から浮上するための圧力を発生させる面であり、ABS(Air Bearing Surface)と呼ばれている。具体的には、スライダ60をディスク面D1から離そうとする正圧とスライダ60をディスク面D1に引き付けようとする負圧とを調整して、スライダ60を最適な状態で浮上させるように設計されている。
スライダ60は、この浮上面2aによってディスク面D1から浮上する力を受けていると共に、サスペンション3によってディスクD側に押さえ付けられる力を受けている。そしてスライダ60は、この両者の力のバランスによって、ディスク面D1から浮上している。
【0060】
図2及び
図3に示すように、サスペンション3は、上面視略四角状に形成されたベースプレート22と、ベースプレート22の先端側にヒンジ板23を介して連結された平面視略三角状のロードビーム24と、で構成されている。
【0061】
ベースプレート22は、ステンレス等の厚みの薄い金属材料によって構成されており、基端側には厚さ方向に貫通する開口22aが形成されている。そして、この開口22aを介してベースプレート22がアーム部14の先端に固定されている。
ベースプレート22の下面には、ステンレス等の金属材料により構成されたシート状の上記ヒンジ板23が配置されている。このヒンジ板23は、ベースプレート22の下面の全面に亘って形成された平板状の板材であり、その先端部分はベースプレート22の先端からベースプレート22の長手方向に沿って延出する延出部23aとして形成されている。この延出部23aは、ヒンジ板23の幅方向両端部から2本延出しており、その先端部分にロードビーム24が連結されている。
【0062】
ロードビーム24は、ベースプレート22と同様にステンレス等の厚みの薄い金属材料によって形成されており、その基端がベースプレート22の先端との間に間隙を有した状態でヒンジ板23に連結されている。
これにより、サスペンション3は、ベースプレート22とロードビーム24との間を中心に屈曲して、ディスク面D1に垂直なZ方向に向けて撓み易くなっている。
【0063】
また、サスペンション3上には、フレクシャ25が設けられている。
このフレクシャ25は、ステンレス等の金属材料により形成されたシート状のものであり、シート状に形成されることで厚さ方向に撓み変形可能に構成されている。また、このフレクシャ25は、ロードビーム24の先端側に固定され、外形が上面視略五角形状に形成されたジンバル17と、ジンバル17より幅狭に形成され、ジンバル17の基端からサスペンション3上に沿って延在する支持体18とで構成されている。
【0064】
ジンバル17は、中間付近から先端にかけてディスク面D1に向けて厚さ方向に僅かながら反るように形成されている。そして、この反りが加わった先端側がロードビーム24に接触しないように、基端側から略中間付近にかけてロードビーム24に固定されている。また、この浮いた状態のジンバル17の先端側には、周囲がコ形状に刳り貫かれた切欠部26が形成されており、この切欠部26に囲まれた部分には連結部17aによって片持ち状に支持されたパッド部17bが形成されている。
つまり、このパッド部17bは、連結部17aによってジンバル17の先端側から基端側に向けて張出し形成されており、その周囲に切欠部26を備えている。
【0065】
これにより、パッド部17bはジンバル17の厚さ方向に撓み易くなっており、このパッド部17bのみがサスペンション3の下面と平行になるように角度調整されている。そして、このパッド部17b上に上述した記録ヘッド2が載置固定されている。つまり、記録ヘッド2は、パッド部17bを介してロードビーム24にぶら下がった状態となっている。
【0066】
また、
図3及び
図4に示すように、ロードビーム24の先端には、パッド部17b及び記録ヘッド2の略中心に向かって突出する突起部19が形成されている。この突起部19の先端は、丸みを帯びた状態となっている。そして突起部19は、記録ヘッド2がディスクDから受ける風圧によりロードビーム24側に浮上したときに、パッド部17bの表面(上面)に点接触するようになっている。
つまり、突起部19は、ジンバル17のパッド部17bを介して、記録ヘッド2を支持すると共に、ディスク面D1に向けて(Z方向に向けて)記録ヘッド2に荷重を付与する。そして、突起部19とパッド部17bとの接触点(支持点)が、突起部19による記録ヘッド2の荷重点とされている。
なお、これら突起部19とパッド部17bを有するジンバル17とが、ジンバル手段16を構成している。
【0067】
図2に示す支持体18は、ジンバル17に一体形成されたシート状のものであり、サスペンション3上をアーム部14に向かって延設されている。つまり、支持体18は、サスペンション3が変形した際にサスペンション3の変形に追従するように構成されている。また、この支持体18は、アーム部14上から側面に回りこんで、キャリッジ11の基部15に至るまで引き回されている。
【0068】
図1及び
図9に示すように、キャリッジ11の基部15における側面15cには、ターミナル基板30が配置されている。このターミナル基板30は、ハウジング9に設けられた制御部5と記録ヘッド2とを電気的に接続する際の中継点となるものであり、その表面には、各種制御回路(不図示)が形成されている。
制御部5とターミナル基板30とは、可撓性を有するフラットケーブル4により電気的に接続されている一方、ターミナル基板30と記録ヘッド2とは、電気配線31により接続されている。この電気配線31は、各キャリッジ11に設けられた記録ヘッド2に対応して3組設けられており、フラットケーブル4を介して制御部5から出力された信号が、電気配線31を介して記録ヘッド2に出力される。
【0069】
ターミナル基板30上には、記録ヘッド2の伝播部50に向けて光束Lを供給する上記レーザ光源20が配置されている。レーザ光源20は、フラットケーブル4を介して制御部5から出力された信号を受信し、この信号に基づいて光束Lを出射するものであり、各アーム部14に設けられた記録ヘッド2に対応して基部15の高さ方向(Z方向)に沿って3個配列されている。各レーザ光源20の出射側には、出射された光束Lを記録ヘッド2まで導く光導波路32が接続されている。
【0070】
図2及び
図3に示すように、光導波路32と電気配線31とは、レーザ光源20と記録ヘッド2との間において、その基端側から先端に至るまで一体的に形成された光電気複合配線33として構成されている。
この光電気複合配線33は、ターミナル基板30の表面からアーム部14の側面を通って、アーム部14上に引き回されている。具体的には、光電気複合配線33は、アーム部14及びサスペンション3上において、フレクシャ25の支持体18上に配置されており、該支持体18を間に挟んだ状態でサスペンション3の先端まで引き回されている。
【0071】
そして、光電気複合配線33は、サスペンション3の先端、即ちジンバル17の中間位置において電気配線31と光導波路32とに分岐している。
具体的には、光導波路32は、光電気複合配線33の先端側における分岐地点からジンバル17の長手方向に沿って延在しており、ジンバル17の切欠部26を跨いで記録ヘッド2の流入端側に直接接続されている。光導波路32は、光電気複合配線33の分岐地点においてジンバル17の下面から離間されており、分岐地点から記録ヘッド2の流入端側に向かうにつれ、パッド部17bとジンバル17との間を架け渡すように僅かながら浮いた状態で延在している。
つまり、ジンバル17の下面において、光導波路32は略直線的(曲率半径が略無限大)に延在した状態で、記録ヘッド2の幅方向(X方向)中央部から記録ヘッド2の流入端側に引き回されている。
【0072】
一方、上記分岐地点において、電気配線31はジンバル17の外周部分に向けて屈曲されており、ジンバル17の外周部分、つまり切欠部26の外側から引き回されている。そして、切欠部26の外側から引き回された電気配線31は、連結部17a上を通って記録ヘッド2の流出端面60a側に接続されている。即ち、電気配線31は、スライダ60の流出端面60a側に設けられた再生素子42と記録素子41とのそれぞれに対して、記録ヘッド2の外部から直接接続されている。
【0073】
なお、光導波路32の構成材料は、上記した近接場光発生素子40のコア(伝播部50)及びクラッド51と同様の材料を用いることも可能であるが、本実施形態では以下に示すような樹脂材料が好適に用いられている。
例えばPMMA(メタクリル酸メチル樹脂)により、厚さが3〜10μmでコア32aを形成し、フッ素含有重合体により、厚さが数十μmでクラッド32bを形成する組み合わせが考えられる。また、コア32a及びクラッド32bをともにエポキシ樹脂(例えば、コア屈折率1.522〜1.523、クラッド屈折率1.518〜1.519)で構成したり、フッ素化ポリイミドで構成したりすることも可能である。この場合、コア32aとクラッド32bとを構成する樹脂材料の配合等を調整して、両者の屈折率差を大きくすることが好ましい。例えば、フッ素化ポリイミドの場合、フッ素含有量を調整したり、放射光等のエネルギー照射によって、屈折率を制御したりすることができる。このように、光導波路32の構成材料に樹脂材料を用いることで、光電気複合配線33を半導体プロセスにより製造することが可能である。
【0074】
ところで、
図6及び
図7に示すように、光導波路32の先端面は斜めにカットされたミラー面35とされており、レーザ光源20によって導入された光束Lを、該光束Lの向きが略90度変わるように反射させている。これにより、ミラー面35で反射された光束Lが、記録ヘッド2の近接場光発生素子40を構成する伝播部50内に導入可能とされている。なお、ミラー面35は、少なくともコア32aを含む領域にアルミ等からなる反射板を蒸着法等により形成するような構成としても構わない。
【0075】
(情報記録再生方法)
次に、このように構成された情報記録再生装置1により、ディスクDに各種の情報を記録再生する手順について説明する。
【0076】
まず、スピンドルモータ7を駆動させてディスクDを所定方向に回転させる。次いで、アクチュエータ6を作動させて、ピボット軸10を回転中心としてキャリッジ11を回動させ、キャリッジ11を介してヘッドジンバルアセンブリ12をXY方向にスキャンさせる。これにより、
図1に示すように、ディスクD上の所望する位置に記録ヘッド2を位置させることができる。
【0077】
この際、記録ヘッド2は、サスペンション3によって支持されていると共に所定の力でディスクD側に押さえ付けられている。また、これと同時に記録ヘッド2は、浮上面2aを利用して、回転するディスクDによって生じる風圧の影響を受けて浮上する力を受けている。この両者の力のバランスによって、記録ヘッド2はディスクD上から離間した位置に浮上している。
しかも記録ヘッド2は、風圧を受けてサスペンション3側に押されるので、記録ヘッド2を固定するジンバル17のパッド部17bとサスペンション3に形成された突起部19とが、点接触した状態となる。そして、この浮上する力は、突起部19を介してサスペンション3に伝わり、該サスペンション3をディスク面D1に垂直なZ方向に向けて撓ませるように作用する。これにより、上記したように記録ヘッド2は浮上する。
【0078】
ここで、情報の記録を行う場合、制御部5はレーザ光源20を作動させると共に、情報に応じて変調した電流をコイル48に供給して記録素子41を作動させる。
レーザ光源20が作動すると、光導波路32に光束Lを入射させる。すると、この光束Lは、光導波路32のコア32a内を先端側に向かって進んだ後、
図7に示すように、ミラー面35で反射されて近接場光発生素子40の伝播部50内に導入される。伝播部50内に導入された光束Lは、ディスクD側に位置する先端平坦面50aに向かって例えばクラッド51との界面との間で反射を繰り返しながら伝播部50内を確実に伝播する。
【0079】
ここで、伝播部50には先端平坦面50aに連設して開口面50bが形成されているので、
図7及び
図8に示すように、先端平坦面50aまで伝播してきた光束Lを開口面50bから近接場光Sとして外部に局在化した状態で発生させることができる。これにより、ディスクDはこの近接場光Sによって局所的に加熱されて一時的に保磁力が低下する。
【0080】
一方、制御部5によってコイル48に電流が供給されると、電磁石の原理により電流磁界が磁気回路46内に磁界を発生させるので、主磁極47と補助磁極45との間にディスクDに対して垂直方向の記録磁界を発生させることができる。
【0081】
その結果、伝播部50の開口面50bに局在化した状態で発生された近接場光Sと、記録素子41で発生された記録磁界とを協働させたハイブリッド磁気記録方式により情報の記録を行うことができる。しかも垂直記録方式で記録を行うので、熱揺らぎ現象等の影響を受け難く、安定した記録を行うことができる。よって、書き込みの信頼性を高めることができる。
【0082】
次に、ディスクDに記録された情報を再生する場合には、再生素子42がディスクDから漏れ出ている磁界を受けて、その大きさに応じて電気抵抗が変化する。よって、再生素子42の電圧が変化する。これにより制御部5は、ディスクDから漏れ出た磁界の変化を電圧の変化として検出することができる。そして制御部5は、この電圧の変化から信号の再生を行うことで、情報の再生を行うことができる。
上述したように、記録ヘッド2を利用してディスクDに対して各種の情報を記録再生することができる。
【0083】
特に、本実施形態の記録ヘッド2によれば、
図8に示すように、開口面50bが先端平坦面50aと共通の輪郭線Mを有し、先端平坦面50aとのなす角度θ1が鈍角となるように先端平坦面50aに対して傾斜しているので、開口面50b自体を先端平坦面50aよりもディスクDに近づけてしまうことを防止しつつ、ディスクDに対して極力近接させることができる。従って、近接場光SをディスクDに効果的に作用させて加熱を効率良く行い易い。
しかも、ディスクDに対して最も近接している輪郭線Mの近傍に近接場光Sを強く局在化させ易いので、ディスクDの所望する箇所を局所的に且つ安定的に加熱することが可能である。これらのことにより、高密度で且つ高い信頼性で記録を行うことができる。
【0084】
また、伝播部50に形成された先端平坦面50aを利用して、記録ヘッド2の走行中にディスクDの回転に伴って発生する空気流との摩擦やディスクDとの接触による衝撃等を開口面50bよりも優先して吸収することができる。よって、開口面50b自体に摩耗や破損等が生じ難い。一方、先端平坦面50aは金属膜52によって保護されているので、やはり先端平坦面50aについても摩耗や破損等が生じ難い。
従って、開口面50b、特に輪郭線M近傍に近接場光Sを安定に局在化させることができ、安定した加熱性能を確保できる。また、耐久性が向上するので記録ヘッド2の延命化に繋げることができる。
特に、本実施形態では、先端平坦面50aが開口面50bよりもディスクDのリーディング側に配設されているので、空気流との接触による摩耗を先端平坦面50aで特に吸収し易く、開口面50bに影響を与え難い。
【0085】
また、先端平坦面50aに被膜されている金属膜52は、単に先端平坦面50aを保護しているだけでなく、伝播部50内を伝播してくる光束Lを遮光する機能も果している。そのため、光束Lが先端平坦面50aで漏れ光として外部に漏れでてしまうことを抑制でき、光束Lを効率良く近接場光Sの発生に寄与させることができる。従って、ディスクDを効率良く加熱することができる。また、先端平坦面50aからの漏れ光を抑制できるので、この漏れ光に起因する誤記録等を防止することができる。
これらのことからも、書き込みの信頼性を高めることができる。
【0086】
そして、本実施形態の情報記録再生装置1は、上述した記録ヘッド2を備えているので、書き込みの信頼性が高く、高密度記録化に対応した高品質な装置にすることができる。
【0087】
(記録ヘッドの製造方法)
次に、上述した記録ヘッド2の製造方法の一例について説明する。
本実施形態の製造方法は、積層面が流出端面60aとされ、後にスライダ60となるスライダ用ウエハ70に対して、複数の記録素子41を具備する記録素子層71、及び複数の伝播部50を具備する近接場光発生素子層(近接場光素子層)72を積層し、これらが一体となったウエハ体80(
図10(e)参照)を作製する積層工程と、このウエハ体80を複数の記録ヘッド2に個片化する個片化工程と、を行って製造を行う方法である。
【0088】
まず、
図10(a)に示すように、スライダ用ウエハ70の流出端面60a上に半導体技術を利用して、複数の再生素子42及び記録素子41がそれぞれ所定配列で配設された再生素子層73、記録素子層71を順に積層する第1積層工程を行う。なお、これら再生素子層73及び記録素子層71において、再生素子42及び記録素子41の図示を省略している。
【0089】
次いで、上記記録素子層71上に、複数の記録素子41に対応するように上記所定配列で複数の伝播部50を配設した状態で近接場光発生素子層72を積層する第2積層工程を行う。
具体的には、まず
図10(b)に示すように、記録素子層71上にクラッド層74を積層する。次に、
図10(c)に示すように、このクラッド層74上に先端平坦面50aが積層方向に対して平行となるように伝播部50を上記所定配列で複数形成する伝播部形成工程を行う。
なお、上記所定配列とは、
図11に示すように、スライダ用ウエハ70のオリフラ(オリエンテーションフラット)に平行なX方向、及び該X方向と積層方向であるZ方向とに対してそれぞれ直交するY方向に沿って行列に並び、且つ、伝播部50の長手方向がY方向に対して角度θ2で傾いた配列とされている。
【0090】
次に、
図10(d)に示すように、複数の伝播部50の先端平坦面50aに金属膜52を被膜させる被膜工程を行う。次に、
図10(e)に示すように、複数の伝播部50を覆うようにクラッド層74を再度積層する。これにより、先端平坦面50aに金属膜52が被膜された伝播部50をクラッド層74内に閉じ込めた近接場光発生素子層72を、記録素子層71上に作り込むことができる。
【0091】
そして、この時点でウエハ体80が作製され、ウエハ体80を作製する上記積層工程が終了する。特に、この積層工程を行う段階では、伝播部50に開口面50bを形成する必要がなく、開口面50bを考慮しながら各工程を行う必要がない。従って、特別な手法を用いることなく通常のフォトリソグラフィ技術等の半導体製造技術を利用しながら簡便に積層工程を行うことができる。
【0092】
次いで、ウエハ体80を個片化する上記個片化工程を行う。この際、先端平坦面50aを露出させた状態でウエハ体80を個片化すると共に、先端平坦面50aを含む伝播部50の一部を切削加工して開口面50bを形成する切削工程を行う。
具体的には、図示しないダイシングブレードを利用して、
図11に示す切断線Pでウエハ体80を大きく切り分けて複数のバーBに一旦分割する。この際、
図12に示すように、ダイシングブレードをX方向に沿って配設すると共に、このX方向に平行な軸回りに回転させて寝かせた状態にしながら伝播部50の上側の一部を切断面Cでカットする。
この切断による切削加工により、1つのバーBに設けられた複数の伝播部50に同時に開口面50bを形成することができる。その後、各バーBを再度伝播部50に応じて切断し、研磨加工等によりサイズ調整しながら先端平坦面50aを露出させることで、複数の記録ヘッド2を一度に複数製造することができる。
【0093】
上記した製造方法によれば、ウエハ体80を個片化する段階で開口面50bを形成する方法であるので、従来のようにエッチングを正確に制御する等の複雑なフォトリソグラフィ技術等を用いる必要性がない。従って、記録ヘッド2を容易に製造することができ、製造効率の向上化及び低コスト化を図り易い。
【0094】
なお、上記製造方法において、ダイシングブレードを利用して開口面50bを形成する際、クラッド層74も一部切断され、
図6に示すようにクラッド51にカット面51aが形成されてしまうが、記録再生に何ら影響を与えるものではない。
【0095】
なお、上記製造方法において、ウエハ体80を、ダイシングブレードを利用して開口面50bを形成することなく個片化し、その後、研磨による切削加工によって開口面50bを形成しても構わない。いずれにしても、ウエハ体80を個片化する際、ダイシングブレードによる切断や研磨等と同時に開口面50bを形成すれば良い。
【0096】
また、上記製造方法において、積層工程時、スライダ用ウエハ70に再生素子層73、記録素子層71及び近接場光発生素子層72を順に積層したが、この積層順番に限定されるものではない。いずれの積層順番であってもウエハ体80が作製されれば構わない。
例えば、クラッド層74上に伝播部50を形成した後、金属膜52を被膜させ、その後再度クラッド層74を積層することで最初に近接場光発生素子層72を作り、その上に記録素子層71、再生素子層73及びスライダ用ウエハ70を順に積層する順番でも構わない。
【0097】
また、上記実施形態において、先端平坦面50aに金属膜52を被膜させ、該金属膜52に先端平坦面50aの保護機能と光束Lの遮光機能とを兼用させたが、少なくとも先端平坦面50aの保護を行えれば良い。その場合には、金属膜52ではなく非導電性の膜体であっても良い。
また、上記保護機能と上記遮光機能とを具備する金属膜52の場合、
図13に示すように、開口面50b及び光束Lが入射される入射部分50cを除いて、伝播部50の残りの部分をこの金属膜52で被膜すると良い。こうすることで、伝播中における光束Lの漏れを効果的に抑制して伝播効率を高めることができるので、入射された光束Lのエネルギーを無駄なく近接場光Sの発生に費やすこと可能である。
特に、この場合には伝播部50を閉じ込めるクラッド51を具備しなくても構わない。なお、クラッド51は、本発明では必須な構成ではなく具備しなくても構わない。
【0098】
更には、上記保護機能と上記遮光機能とに加え、光束Lの入射によって表面プラズモンを励起させると共にそのエネルギーを近接場光Sに変換させる近接場光増強膜としての機能を金属膜52に発揮させても構わない。この場合の金属膜52としては、例えば金膜等が挙げられる。
この場合、先端平坦面50aに光束Lが入射すると、金属膜52の表面に表面プラズモンが励起され、そのエネルギーが近接場光Sに変換されて開口面50b、特に輪郭線Mの近傍に強度が強くなった高エネルギーの近接場光Sとして局在化される。従って、光束Lの入射エネルギーを有効に利用して高密度な記録を効果的に行うことが可能となる。
【0099】
なお、近接場光増強膜としての機能を具備する金属膜52を、先端平坦面50a以外の開口面50bに接する伝播部50の外面に形成しても構わない。こうすることで、金属膜52が形成された外面と開口面50bとの共通の輪郭線の近傍付近にも近接場光Sを局在化させることが可能となる。
【0100】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0101】
例えば、上記実施形態では、スライダ60を浮上させた空気浮上タイプの情報記録再生装置1を例に挙げて説明したが、この場合に限られず、ディスク面D1に対向配置されていればディスクDとスライダ60とが接触していても構わない。つまり、本発明の記録ヘッド2は、コンタクトスライダタイプのヘッドであっても構わない。この場合であっても、同様の作用効果を奏することができる。
【0102】
また、上記実施形態では、アーム部14の片面側のみにヘッドジンバルアセンブリ12が設けられている構成について説明したが、各ディスクD間に差し入れられるアーム部14の両面に、各ディスクDに対向するようにそれぞれヘッドジンバルアセンブリ12を設けるような構成も可能である。
この場合には、アーム部14の両面側に設けられたヘッドジンバルアセンブリ12の各記録ヘッド2により、各記録ヘッド2に対向するディスク面D1の情報の記録再生を行うことができる。つまり、1つのアーム部14により2枚のディスクDの情報を記録再生することができるため、情報記録再生装置1の記録容量の増加及び装置の小型化を図ることができる。
【0103】
また、上記実施形態では、光束Lを導入するレーザ光源20をキャリッジ11の基部15に取り付けられたターミナル基板30に配設させた構成としたが、この位置に限定されるものではない。例えば、スライダ60の上面に配設し、記録ヘッド2に一体的に搭載させても構わない。こうすることで、光導波路32をキャリッジ11から引き回す必要がないうえ、浮上時におけるスライダ60の動きが光導波路32によって阻害され難いので、より好ましい。
【0104】
また、上記実施形態では、スライダ60の流出端面60aから順に、再生素子42、記録素子41、近接場光発生素子40を配置した構成としたが、この順番に限定されるものではない。例えば、流出端面60a側から順に、近接場光発生素子40、記録素子41、再生素子42を配置した構成としても構わない。
【0105】
また、上記実施形態では、主磁極47及び補助磁極45を伝播部50の長手方向と平行に配設したが、この場合に限られず、伝播部50の開口面50bの形状やその形成位置等に応じて、伝播部50の長手方向に対して適宜傾斜させた状態にしても構わない。
例えば、
図14に示すように、主磁極47の先端面47aが伝播部50の開口面50bに対して平行となるように、伝播部50の長手方向に対して主磁極47を傾斜させても構わない。この場合であっても同様の作用効果を奏効することができる。特にこの場合には、主磁極47の先端面47aを画成する輪郭線のうち最もディスクD側に位置する部分47bから集中的に記録磁界を発生させることが可能であると考えられるので、記録磁界をより高強度にでき書き込み信頼性が向上するものと考えられる。
【0106】
また、上記実施形態において、
図15に示すように、先端平坦面50aの略半分の面積をカットした状態(先端平坦面50aの形状が平面視略三角形状となった状態)で開口面50bを大きく形成しても構わない。この場合であっても、同様の作用効果を奏効することができる。特にこの場合には、先端平坦面50aと開口面50bとの共通の輪郭線Mを主磁極47側に近づけることができるので、近接場光Sで加熱した領域に記録磁界を効率良く作用させ易くなるものと考えられる。従って、書き込みの信頼性が向上するものと考えられる。
【0107】
ここで、
図15に示す伝播部50具備する記録ヘッド2を製造する場合の変形例を簡単に説明する。
例えば、
図11に示す所定配列で伝播部50を形成した後、
図16に示すように、ダイシングブレードを先ほどとは逆向きに寝かせた状態にしながら伝播部50の下側の一部を切断面Cでカットすることで開口面50bを形成しても構わない。
このように製造した場合であっても、
図15に示す伝播部50を具備する記録ヘッド2を製造することができる。
【0108】
また、製造方法の別の変形例としては、
図17に示すように、伝播部形成工程の際、オリフラに平行なX方向及びY方向に沿って行列に並び、且つ伝播部50の長手方向がY方向に対して平行で、さらに稜線Rを上方に向けた状態で伝播部50を形成する。
そして、個片化工程の際に、
図18に示すように、ダイシングブレードをX方向に沿って配設させると共に、このX方向に平行な軸回りに回転させて寝かせた状態にしながら伝播部50の上記稜線Rを含む上側の一部を切断面Cでカットする。
このように製造した場合であっても、
図15に示す伝播部50を具備する記録ヘッド2を製造することができる。
【0109】
また、製造方法のさらに別の変形例としては、
図19に示すように伝播部形成工程の際、Y方向に所定距離だけずらしながらX方向に並ばせ、即ち図中のK方向に沿って並ばせ、且つ伝播部50の長手方向がY方向に対して平行となるように伝播部50を形成する。
そして、個片化工程の際に、
図20に示すようにダイシングブレードを上記K方向に沿って配置させると共に、このK方向に平行な軸回りに回転させて寝かせた状態にしながら伝播部50の上側の一部を切断面Cでカットする。
このように製造した場合であっても、
図15に示す伝播部50を具備する記録ヘッド2を製造することができる。
【0110】
また、
図14では、主磁極47を伝播部50の長手方向に対して傾斜させた変形例を示したが、
図21に示すように、伝播部50の長手方向に平行とされた主磁極47をスライダ60の流出端面60aに平行なX方向に沿って伝播部50に並ぶように並列配置させても構わないし、
図22に示すように、伝播部50の長手方向に平行とされた主磁極47を伝播部50に対して角度を付けた状態で並列配置させても構わない。
なお、これらの場合には、伝播部50の開口面50bの切削加工に伴って主磁極47の一部も切削加工され、その先端面47aの少なくとも一部が開口面50bに対して平行になるものと考えられるが、十分に書き込みを行うことが可能である。
【0111】
また、上記実施形態では伝播部50を四角柱として説明したが、この形状に限定されるものではなく柱状であれば良い。例えば、
図23に示すように断面視台形状の伝播部50であっても構わないし、
図24に示すように円柱状の伝播部50であっても構わないし、その他、例えば断面視多角形状、断面視楕円状や断面視半円状等の柱状に形成された伝播部50としても良い。
【0112】
また、上記実施形態において、ディスクDに平行な断面積が先端平坦面50aに向かうにしたがって漸次小さくなるように伝播部50を形成しても構わない。
例えば、
図25に示すように、伝播部50の全体が先端平坦面50aに向けて先細りとなるように形成しても構わないし、
図26に示すように伝播部50の他端側だけが先端平坦面50aに向けて先細りとなるように形成しても構わない。
このように構成することで、伝播部50内に入射した光束Lを先端平坦面50aに向けて伝播させる際に、光束Lを集光させながら伝播させることが可能である。従って、近接場光Sの発生効率をより高め易い。
【0113】
なお、上記実施形態では、近接場光素子として記録ヘッド2に具備され、伝播光である光束Lを近接場光Sに変換する近接場光発生素子40を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではない。伝播光と近接場光とを相互変換させる素子であれば良く、近接場光を検出し、その近接場光を光に変換する素子であっても構わない。
例えば、SNOM(走査型近接場光顕微鏡)に用いられるプローブに適用しても構わない。なお、この場合には例えば試料サンプル等が対象物となる。