【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1[アリル 6−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−2−カルボキシレートの製造]
(1)2−(2−クロロナフタレン−1−イル)−3−メチルピリジンの調製
乾燥させた容量250mLのシュレンクチューブに、2−(2−トリエチルシリル)ナフタレン−1−イル)−3−メチルピリジン8g(24mmol)及びジクロロメタン48mLを投入し、−78℃にまで降温させた。その後、塩化ホウ素の2.27M濃度のトルエン溶液12.7mL(28.2mmol)を加え、同温度で30分密閉系で攪拌し、次いで、減圧下、全ての揮発分を除去した。その後、茶黄色の残渣にメタノール48mL、水48mL及び塩化第二銅9.6g(71.6mmol)を加え、チューブをコールドフィンガーでシールし、混合物を昇温させて48時間還流させた。次いで、室温にまで冷却し、全混合物を50mLのエーテル層と50mLの5M濃度のアンモニア水層とに分離し、水層から50mLのエーテルにより3回抽出し、全エーテル層を混合し、50mLの塩水で洗浄した。次いで、50gの硫酸ナトリウムにより乾燥させ、脱水、濾過の工程により、6gの黄色の油状物を得た。その後、この油状物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(250g、溶媒は質量比で4:1のヘキサンと酢酸エチル)により精製し、5.66g(収率93%)の淡黄色の2−(2−クロロナフタレン−1−イル)−3−メチルピリジンを得た。
【0027】
(2)6−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−2−カーボニトリルの調製
ガラスストッパーと3方コックが取り付けられた容量50mLの丸底フラスコを乾燥させ、2−(2−クロロナフタレン−1−イル)−3−メチルピリジン890mg(3.51mmol)及びジクロロメタン20mLを投入し、この無色の溶液を0℃にまで冷却し、その後、各々1.59g(69−75%)のm−CPBA(メタクロロ過安息香酸)を10分間隔で3回加えた。次いで、室温にまでゆっくり昇温させ、無色の溶液を2時間攪拌し、その後、再び0℃にまで冷却し、1M濃度のNaOH水溶液10mLを徐々に加えた。次いで、有機層を1M濃度のNaOH水溶液10mL及び塩水10mLにより洗浄し、その後、50gの硫酸ナトリウムにより乾燥させ、脱水、濾過の工程により、947mgの黄色油状の2−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−1−オキサイドを得た。
【0028】
次いで、乾燥させた容量100mLのシュレンクチューブに、N−オキサイド化合物889mg(3.29mmol)、ジクロロメタン10mL、及びN,N−ジメチルカーバモイルクロライド362μL(3.94mmol)をこの順に投入し、室温で30分静置し、(CH
3)
3SiCN807μL(6.58mmol)を加えた。その後、シュレンクチューブに還流用冷却器を取り付け、混合物を60℃で12時間攪拌し、次いで、室温にまで冷却し、ジクロロメタン10mLと炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液10mLとが入れられた分離用漏斗に注ぎ入れた。その後、有機層を1M濃度のNaOH水溶液10mL及び塩水10mLにより洗浄し、次いで、5gの硫酸ナトリウムにより乾燥させ、脱水、濾過の工程により、黄色の油状物を得た。その後、この油状物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(100g、溶媒は質量比で5:1のヘキサンと酢酸エチル)により精製し、856mg(収率93%)の6−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−2−カーボニトリルを得た。
【0029】
(3)アリル 6−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−2−カルボキシレートの製造
乾燥させた容量50mLのシュレンクチューブに、6−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−2−カーボニトリル800mg(2.87mmol)及び12M濃度の塩酸水溶液5mLを投入し、チューブにスパイラル冷却器を取り付け、混合物を解放系で12時間還流させた。その後、室温にまで冷却させ、減圧下、全揮発分を除去し、得られた黄色の固形物に、Ar気流下、SOCl
24mLを加え、混合物を室温、且つ密閉系で1時間攪拌し、減圧下、濃縮した。次いで、アリルアルコール4mLを加え、室温で5時間攪拌して濃縮し、残渣をジクロロメタン20mLに溶解させ、飽和濃度のNaHCO
3水溶液10mLで2回洗浄し、更に塩水10mLにより洗浄し、その後、5gの硫酸ナトリウムにより乾燥させ、脱水、濾過の工程により、白色の固形物を得た。次いで、この固形物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(50g、溶媒は質量比で1:8のエチルアセテートとヘキサン)により精製し、800mgの白色固体のアリル 6−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−2−カルボキシレートを得た(収率83%)。この白色固体の生成物が式(1)、式(2)で表される不斉合成触媒用配位子である。
【0030】
(4)前記(3)で製造したラセミ体の分離
前記(3)で製造したラセミ体を高速液体クロマトグラフィ[カラム;CHIRALCEL OD−H(DAICEL社製、φ2cm×25cm)、溶媒;質量比で10:1のヘキサンと2−プロパノールとの混合溶媒、流速;8mL/分、光源の波長;254nm]により(R)−体と(S)−体とに分離した[(R)−体は50.1分の位置、(S)−体は76.0分の位置にそれぞれピークが表れた。]。また、分離された各々のエナンチオマーの光学的純度は高速液体クロマトグラフィ[カラム;CHIRALCEL OD−H(DAICEL社製、φ0.46cm×25cm)、溶媒;質量比で5:1のヘキサンと2−プロパノールとの混合溶媒、流速;1mL/分、光源の波長;254nm]により確認した[(R)−体は14.1分の位置、(S)−体は25.0分の位置にそれぞれピークが表れた。]。
【0031】
(5)構造確認
得られた白色固体の生成物がアリル 6−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−2−カルボキシレートであることを、前記(4)の高速液体クロマトグラフィにおいて76.0分の位置にピークが表れた(S)−体のメンチルエステルを用いたX−線結晶構造分析によって確認した。また、
1H−NMRスペクトルを、「JEOL JMN ECA 600(600MHz)スペクトロメーター」により測定し、
13C−NMRスペクトルを、「同上(152MHz)スペクトロメーター」により、完全プロトンデカップリングで測定した。スペクトルデータは下記のとおりである。このスペクトルデータによっても、目的とするアリル 6−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−2−カルボキシレートが得られていることを確認することができた。
【0032】
1H NMR (CDCl
3) δ 2.08 (s, 3H, CH
3), 4.89 (d, J = 5.51 Hz, 2H, OCH
2), 5.26 (dd, J = 1.38, 10.33 Hz,
1H, CH=CHH), 5.38 (dd, J = 1.38, 17.21 Hz, 1H, CH=CHH), 6.00-6.08 (m, 1H, CH=CH
2), 7.09 (d, J = 8.26 Hz, 1H, ar), 7.36 (dd, J = 6.89, 8.26 Hz, 1H, ar), 7.46 (dd, J = 7.57, 7.57 Hz, 1H, ar), 7.52 (d, J = 8.95 Hz, 1H ar), 7.80-7.87 (m, 3H, ar), 8.17 (d, J = 7.57 Hz, 1H, ar);
13C NMR (CDCl
3) δ 18.7, 66.3, 118.7, 124.7, 125.1, 126.1, 127.1, 127.2, 128.1, 129.8, 130.8, 132.07, 132.13, 132.8, 134.8, 137.6, 138.5, 146.0, 156.5, 164.9; HRMS m/z (M+) obsd 337.0882, calcdfor C
20H
16ClNO
2337.0870.
【0033】
(6)6−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−2−カルボン酸の調製
式(1)の酸型及び式(2)の酸型の各々の配位子は、前記(4)でアリルエステルのラセミ体を分離して得られた式(1)のアリルエステル型と式(2)のアリルエステル型を下記のようにして加水分解することにより調製した。
乾燥された容量10mLのシュレンクチューブに、エタノール、水及びエーテルの等量混合溶媒を投入し、これに固形の水酸化リチウム(LiOH・H
2O)7.80mg(185μmol)を加え、室温で30分攪拌した。その後、混合物を10mLの水と10mLのエーテルとに分離し、エーテル層から5mLの水により3回抽出した。次いで、全水層に酢酸0.5mLを加えて酸化させ、10mLのジクロロメタンにより3回抽出した。その後、全有機層を3gの硫酸ナトリウムにより乾燥させ、脱水、濾過の工程により、39.0mg(収率98%)の無色の油状物として6−(2−クロロナフタレン−1−イル)−5−メチルピリジン−2−カルボン酸を得た。
【0034】
また、比較のため、式(1)のアリエステル型の配位子において、−Clが−CH
3に置き換わった配位子、及び式(1)のアリルエステル型の配位子において、−Clがフェニル基に置き換わった配位子を製造した。式(1)のアリルエステル型の配位子において−Clが−CH
3に置き換わった配位子は、3−メチル−2−(2−メチルナフタレン−1−イル)ピリジン及び5−メチル−6−(2−メチルナフタレン−1−イル)ピリジン−2−カーボニトリルを経由する合成方法で製造した。更に、式(1)のアリルエステル型の配位子において−Clがフェニル基に置き換わった配位子は、3−メチル−2−(2−フェニルナフタレン−1−イル)ピリジン及び5−メチル−6−(2−フェニルナフタレン−1−イル)ピリジン−2−カーボニトリルを経由する合成方法で製造した。また、各々の配位子のラセミ体は、本発明の配位子の場合と同様に高速液体クロマトグラフィにより(R)−体と(S)−体とに分離した。
【0035】
実施例2[α−アルケニル環状エーテ
ルの製造](実験例1〜3)
乾燥され、且つArが充填され、磁気攪拌棒が入れられた容量50mLのヤングバルブ付きシュレンクチューブに、式(5)で表される触媒前駆体4.34mg(10.0μmol)を投入し、その後、実施例1で製造した配位子[表1に記載のように式(1)の酸型(実験例1)及び式(2)の酸型(実験例2)、並びに式(1)のアリルエステル型(実験例3)]1.00mL(10.0mM濃度のジクロロメタン溶液を用いた。従って、配位子量は10.0μmolになる。)を気密型シリンジにより加えた。次いで、溶液を減圧下に注意深く濃縮し、得られた黄色固体に出発物質である前記化合物(a)10.0mL(100mM濃度のDMA溶液を用いた。従って、出発物質量は10.0mmolになる。)を室温で加え、100℃にまで昇温させ、チューブをシールし、同温度で混合物を1時間攪拌し、下記式(14)で表されるα−アルケニル環状エーテルを製造した。
【化8】
【0036】
(1)転化率
反応混合物を室温にまで冷却し、1μL量を用いてガスクロマトグラフィ分析[カラム;J&W Scientific DB−5(0.25mm×0.25μm×30m)、温度;50℃で10分保持後、10℃/分で200℃まで昇温、140kPa、スプリットなし]により転化率を求めた。
(2)エナンチオ選択率
反応混合物を室温にまで冷却し、1μL量を用いてガスクロマトグラフィ分析[カラム;CHIRALDEX G−BP(0.25mm×0.125μm×30m)、温度;40℃で10分保持後、10℃/分で100℃まで昇温させて20分保持、140kPa、スプリット比率;100:1]し、(S)−体及び(R)−体の各々のピークの面積比に基づいてエナンチオ選択率(er)[(S)−体/(R)−体]を求めた。
【0037】
(3)構造確認
主生成物である(S)−体の構造を、この(S)−体をオゾン分解及びNaBH
4還元して得られたテトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルメタノールのカンファニックエステルを用いたX−線結晶構造分析によって確認した。また、
1H−NMRスペクトル及び
13C−NMRスペクトルを、前記と同様にして測定して得られたスペクトルデータによっても、目的とする式(14)で表されるα−アルケニル環状エーテルが得られていることを確認することができた。
【0038】
1H NMR (CDCl
3) δ 1.34-1.42 (m, 1H, CHH), 1.49-1.63 (m, 3H, CH
2 and CHH), 1.64-1.69 (m, 1H, CHH), 1.83-1.88 (m, 1H, CHH), 3.49 (dt, J = 2.07, 11.71 Hz, 1H, CHHO), 3.77-3.82 (m, 1H,CHHO), 4.00-4.04 (m, 1H, OCH), 5.09 (d, J = 11.02 Hz, 1H, CH=CHH), 5.22 (d, J = 17.21 Hz, 1H, CH=CHH), 5.85 (ddd, J = 5.51, 11.02, 17.56 Hz, 1H, CH=CH
2);
13C NMR (CDCl
3) δ 23.3, 25.8, 31.8, 68.3, 78.2, 114.5, 139.5; HRMS m/z(M
+) obsd 112.0849, calcdfor C
7H
12O112.0888 (out of the error range ±5 ppm because of low molecular weight).
【0039】
α−アルケニル環状エーテ
ルを製造するための出発物質として用いたω−ヒドロキシアリルアルコー
ルである化合物(a)は、下記のようにして製造した。
対応するα,β−不飽和エステ
ルを用いて、2位の炭素と3位の炭素との間のHorner−Wadsworth−Emmons変換をし、その後、DIBAL−H変換する従来知られた方法により合成した。また、立体異性体はα,β−不飽和エステ
ルの段階でシリカゲルカラムクロマトグラフィにより分離した。
後記の実施例4で出発物質として用いた化合物(b)〜(l)のω−ヒドロキシアリルアルコー
ル、及び化合物(a)と比べてR
6が有するメチレン基が1個多い比較例となる化合物も同様にして製造した。
【0040】
実施例3(実験例4〜22)
実施例2において種々の条件を表1のように変化させて式(14)で表されるα−アルケニル環状エーテルを製造した。
実験例4;出発物質濃度を1000mM、配位子濃度を10mMとした他は、実験例3と同様である。
実験例5;配位子濃度を0.1mMとした、即ち、触媒量を1/10にした他は、実験例3と同様である。
実験例6;出発物質濃度を1000mMとした、即ち、出発物質量を10倍にし、配位子を式(2)のアリルエステル型とした他は、実験例3と同様である。
実験例7;反応温度を50℃とした他は、実験例3と同様である。
実験例8;溶媒をDMFとした他は、実験例3と同様である。
実験例9;溶媒をCH
3CNとした他は、実験例3と同様である。
実験例10;溶媒をアセトンとした他は、実験例3と同様である。
実験例11;溶媒をTHFとした他は、実験例3と同様である。
実験例12;溶媒をCPMEとした他は、実験例3と同様である。
実験例13;溶媒をジオキサンとした他は、実験例3と同様である。
実験例14;溶媒をCH
2Cl
2とした他は、実験例3と同様である。
実験例15;溶媒をトルエンとした他は、実験例3と同様である。
実験例16;溶媒をt−C
4H
9OHとした他は、実験例3と同様である。
実験例17;出発物質濃度を1000mMとした、即ち、出発物質量を10倍にした他は、実験例16と同様である。
実験例18;溶媒をi−C
3H
7OHとした他は、実験例3と同様である。
実験例19;溶媒をC
2H
5OHとした他は、実験例3と同様である。
実験例20;溶媒をCH
3OHとした他は、実験例3と同様である。
実験例21;溶媒をH
2Oとした他は、実験例3と同様である。
実験例22;溶媒をCH
3COOHとした他は、実験例3と同様である。
以上、実験例4〜22における転化率及びエナンチオ選択率を前記と同様にして求めた。
実施例2及び実施例3の結果を表1に併記する。
尚、比較例として、式(1)のアリルエステル型において−Clが−CH
3に置き換わった配位子を用いた他は、実験例3と同様にして反応させた実験例23、この実験例23で配位子濃度を0.1mMとした実験例24、及び式(1)のアリルエステル型において−Clがフェニル基に置き換わった配位子を用いた他は、実験例3と同様にして反応させた実験例25のα−アルケニル環状エーテルを製造した。また、実験例23〜25における転化率及び実験例23におけるエナンチオ選択率を前記と同様にして求めた。実験例23〜25の製造条件及び結果を表1に記載する。
【0041】
【表1】
【0042】
表1の結果によれば、配位子として式(1)の酸型、溶媒としてDMAを用いた実験例1,及び配位子として式(2)の酸型、溶媒としてDMAを用いた実験例2では、転化率はいずれも99%以上であり、且つerも97:3又は3:97であって、転化率及び選択率ともに高いことが分かる。また、式(1)のアリルエステル型を用いた実験例3、実験例3において出発物質、配位子ともに10倍濃度のものを用いた実験例4、実験例3において触媒量を1/10とした実験例5、及び実験例3において配位子を式(2)のアリルエステル型とし、触媒量はそのままに出発物質を10倍量とした実験例6のいずれも同様に優れた結果が得られている。このように、出発物質に対して触媒が極めて少量であっても、転化率及び選択率ともに十分に高いことが分かる。更に、実験例3において反応温度を50℃とした実験例7では、選択率は高いものの、転化率が低下した。しかし、5時間反応させたところ、転化率は99%以上にまで向上した。
【0043】
また、高極性溶媒であるDMF、THF又はCPMEを用いた実験例8、11、12では同等の優れた転化率及び選択率が得られたが、アセトン、ジオキサン又はCH
2Cl
2を用いた実験例10、13、14では、転化率は高いものの、選択率が低下する傾向があり、トルエンを用いた実験例15では、転化率、選択率ともに低下する傾向があることが分かる。更に、溶媒としてCH
3CNを用いた実験例9では、反応が殆ど停止してしまうが、これは触媒前駆体がRuに3個のアセトニトリル(CH
3CN)が配位した構造であるためであると考えられる。更に、溶媒としてt−C
4H
9OH等を用いた実験例16〜18では、選択率はやや低下するものの、使用し得る溶媒であり、一方、C
2H
5OH等のその他の高極性溶媒を用いた実験例19〜22では、選択率がより低下する傾向がある。このように、反応溶媒により転化率及び選択率が影響を受けるため、他の反応条件も勘案し、溶媒を選択して用いることが好ましい。
【0044】
一方、式(1)のアリルエステル型において−Clが−CH
3に置き換わった配位子を用いた他は、実験例3と同様にして反応させた実験例23では、転化率、選択率ともに相当に低下しており、特に配位子濃度を0.1mMとした、即ち、触媒量が1/10になった実験例24では、同様に触媒量が1/10である実験例5と比べて転化率が極めて低く、この−Clが−CH
3に置き換わった配位子は実用に供し得ないことが分かる。また、式(1)のアリルエステル型において−Clがフェニル基に置き換わった配位子を用いた他は、実験例3と同様にして反応させた実験例25では、実験例3はもとより実験例23と比べても転化率が更に低く、この−Clがフェニル基に置き換わった配位子も実用に供し得ないことが分かる。
【0045】
実施例4(各種の出発物質を用いた種々のα−アルケニル環状エーテ
ルの製造)
表2のように、前記化合物(a)〜(l)を用いて、対応する前記式(14)で表されるα−アルケニル環状エーテル及び下記式(15)〜(25)で表される実験例26〜37のα−アルケニル環状エーテルを製造した。反応は、下記の点を除いて実施例2の標準的な条件、即ち、出発物質は100mM濃度、配位子は1mM濃度、溶媒はDMA、反応温度は100℃、反応時間は1時間の条件で実施した。
標準的な条件と異なる点は、
(1)化合物(a)を用いた実験例26で出発物質の濃度を1000mMとした。
(2)化合物(g)を用いた実験例32で反応時間を3時間とした。
(3)化合物(h)を用いた実験例33で反応温度を70℃とし、反応時間を10時間とした。
(4)化合物(j)〜(l)を用いた実験例35〜37で溶媒を質量比で10:1のt−C
4H
9OHとDMAとの混合溶媒とした。
(5)実験例36では上記(5)としたうえで、反応時間を24時間とした。
である。
以上、実験例26〜37におけるエナンチオ選択率(er)を前記と同様にして求めた。また、単離収率を、反応溶液をペンタンとエーテル(質量比で3:1)との混合溶媒3mLと水5mLとで分配し、有機層をシリカゲル濾過し、その後、0℃、50mmHgの条件で注意深く濃縮し、次いで、生成物を単離し、重量を計測することで求めた(実験例27、29を除く。)。
結果を表2に併記する。
【0046】
【化9】
尚、式(24)において、Bnはベンジル基(C
6H
5CH
2−)である。
【0047】
【表2】
【0048】
表2の結果によれば、化合物(a)と比べてR
6等の構造が異なる化合物(b)〜(l)を出発物質として用いた場合、それぞれ前記式(15)〜(25)で表される5員環エーテル構造又は6員環エーテル構造を有する各種のα−アルケニル環状エーテルが得られることが分かる。また、生成物の沸点が低い実験例27、29を除いて、その他はいずれも単離収率が十分に高い。更に、実験例26〜37の全てがerも高く、特に実験例37では(S)−体の選択率が>99%と極めて高い。また、表2には記載されていないが、転化率は実験例26〜37の全てにおいて99%を超えて極めて高かった。
【0049】
一方、化合物(a)と比べてR
6が有するメチレン基が1個多い化合物(m)を用いた場合、即ち、下記式(26)の7員環エーテル構造を有する環状エーテルが生成すると想定される化合物を用いた実験例38の場合は、環状エーテルが全く生成しなかった。
【化10】
【0050】
実施例5(実験例39〜41)
置換基が異なる各種のアリルアルコー
ルを用いて、対応するα−アルケニル環状化合
物を製造した。
実験例39(メルドラム酸型アリルアルコールの脱水的環化反応)
容量20mLのヤングバルブ付き反応管に、アルゴン気流下、出発物質である2−(E)−5−ヒドロキシペンタ−3−エン−1−イルメルドラム酸のジクロロメタン溶液300μL(333mM濃度の溶液を用いた。従って、出発物質量は100μmolになる。)を秤り入れた。この溶液を減圧下に濃縮し、ジクロロメタン1.00mLを加えた後、3回凍結脱気した。次いで、乾燥され、且つアルゴンが充填され、磁気撹拌棒が入れられた容量20mLのヤングバルブ付きシュレンクチューブに、式(5)で表される触媒前駆体0.43mg(0.001mmol)と、式(1)で表されるアリルエステル型の配位子100μL(10.0mM濃度のジクロロメタン溶液を用いた。従って、配位子量は1.00μmolになる。)を加えた。その後、溶液を減圧下に注意深く濃縮し、アルゴンにより常圧とした。次いで、前記のようにして調製した出発物質の溶液をカニュラーを用いて加え、100℃のオイルバス中で撹拌した。1時間後、アルゴン気流下、ヤングバルブをセプタム栓に付け替えて、反応溶液(200μL程度)をカニュラーを用いてサンプル瓶に移した。次いで、エバポレーターで濃縮した後、
1H−NMRスペクトルを測定し、99%以上の変換率で定量的に8,8−ジメチル−1−ビニル−7,9−ジオキサスピロ[4,5]デカン−6,10−ジオンが生成していることを確認した。また、エナンチオマー比を生成物のガスクロマトグラフィ分析によって決定した[カラム;CHIRALDEX B−PM(0.25mm×0.125μm×30m)、温度;100℃、スプリット比率;100:1]。その結果、それぞれのピークの積分値の比は83:17であった。
【0051】
実験例40(スルホニルアミノアリルアルコールの脱水的環化反応)
容量20mLのヤングバルブ付き反応管に、アルゴン気流下、出発物質である(E)−6−p−トルエンスルホニルアミノヘキサン−2−エン−1−オールのジクロロメタン溶液300μL(333mM濃度の溶液を用いた。従って、出発物質量は100μmolになる。)を秤り入れた。この溶液を減圧下に濃縮し、DMA1.00mLを加えた後、3回凍結脱気した。次いで、乾燥され、且つアルゴンが充填され、磁気撹拌棒が入れられた容量20mLのヤングバルブ付きシュレンクチューブに、式(5)で表される触媒前駆体0.43mg(0.001mmol)と、実施例1で製造した式(1)のアリルエステル型の配位子100μL(10.0mM濃度のジクロロメタン溶液を用いた。従って、配位子量は1.00μmolになる。)を加えた。その後、溶液を減圧下に注意深く濃縮し、アルゴンにより常圧とした。次いで、前記のようにして調製した出発物質の溶液をカニュラーを用いて加え、100℃のオイルバス中で撹拌した。1時間後、アルゴン気流下、ヤングバルブをセプタム栓に付け替えて、反応溶液(200μL程度)をカニュラーを用いてサンプル瓶に移した。次いで、エバポレーターで濃縮した後、
1H−NMRスペクトルを測定し、99%以上の変換率で定量的にN−p−トルエンスルホニル−2−エテニルピロリジンが生成していることを確認した。また、エナンチオマー比を生成物の高速液体クロマトグラフィ分析によって決定した[カラム;Chiralcel AD−H(0.25mm×0.125μm×30m)、溶媒;質量比で95:5のヘキサンと2−プロパノールとの混合溶媒、流速;0.5mL/分]。それぞれのピークの積分値の比は96:4であった。
【0052】
実験例41(カルボキシアリルアルコールの脱水的環化反応)
容量20mLのヤングバルブ付き反応管に、アルゴン気流下、出発物質である(E)−6−ヒドロキシ−4−ヘキセン酸144mg(1.00mmol)を秤り入れた。これにDMA10mLを加えた後、3回凍結脱気した。次いで、乾燥され、且つアルゴンが充填され、磁気撹拌棒が入れられた容量50mLのヤングバルブ付きシュレンクチューブに、式(5)で表される触媒前駆体4.34mg(10.0μmol)と、実施例1で製造した式(1)のアリルエステル型の配位子1.00mL(10.0mM濃度のジクロロメタン溶液を用いた。従って、配位子量は10.0μmolになる。)を加えた。その後、溶液を減圧下に注意深く濃縮し、アルゴンにより常圧とした。次いで、前記のようにして調製した出発物質の溶液をカニュラーを用いて加え、100℃のオイルバス中で撹拌した。20分後、反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(試料;30g、展開溶媒;エーテル)に供し、4−エテニルブチロラクトンを単離した。その後、クーゲルロール蒸留(35℃、0.01mmHg)し、無色油状物を得た(75.6mg、添加率;70%)。また、エナンチオマー比を生成物のガスクロマトグラフィ分析によって決定した[カラム;CHIRALDEX B−PM(0.25mm×0.125μm×30m)、温度;40℃で5分保持、昇温速度1℃/分、65℃で65分保持、スプリット比;100:1]。それぞれのピークの積分値の比は99:1であった。
【0053】
尚、本発明においては、前記の実施の形態の記載に限定されることなく、本発明の範囲内で、目的、用途等に応じて、種々変更した実施の形態とすることができる。例えば、前記の実施例では、配位子と触媒前駆体とを混合し、その後、出発物質を配合し、反応させているが、配位子、触媒前駆体及び出発物質を同時に適宜の反応溶媒に溶解させてα−アルケニル環状化合
物を製造することもできる。また、出発物質を溶解させた溶液に、配位子と触媒前駆体とを溶解させた溶液を配合して反応させることもできる。