【実施例1】
【0032】
複合超音波およびマイクロ波による追尾
本セクションでは、超音波によって起動するマイクロ波トランスポンダによる昆虫追尾技術について検討する。本出願の出願人は超音波MEMS装置を開発し、記載されたシステムの実施において役立ち得るいくつかの発明を有する。
【0033】
追尾原理
追尾の構想は
図1に示される。追尾される昆虫1はとても小さい超音波マイク2を取り付けられ、当該超音波マイク2は、超音波パルスの拡声器4から前記超音波マイク2までの伝播時間を測定するために用いられる。前記超音波パルスの伝播距離は前記伝播時間と、既知の空中における音速と、に関係している。前記ターゲット2は既知の各位置におかれた3つの異なる拡声器4からの距離を測定するために取り付けられる。前記ターゲット(タグ)はマイクロ波放射に同時にさらされ、当該マイクロ波信号は、また超音波でタグを照らすことによって、前記タグにおいて変調される。前記変調マイクロ波信号はマイクロ波アンテナ5へと返される。前記マイクロ波は光速で伝播し、光速は超音波の速度よりも何ケタも大きいので、前記変調マイクロ波信号の到達時間は拡声器の既知の位置からのターゲットの距離を計算するために使用され得る。各前記拡声器4は異なる変調を使用することによって識別できる。
【0034】
超音波マイク要素
前記無線超音波マイク要素2は、既存の容量性MEMSマイクと同類であることもあり得、当該容量性MEMSマイクは例えば携帯電話に幅広く使用される。容量性MEMSマイクの配置図は
図2に示される。
【0035】
前記MEMSマイクは、固体の壁に支えられ、後方に空洞を有する振動膜から成る。前記膜は電導性を有し、平行板コンデンサの一方の電極を形成する。前記コンデンサの他方の電極は固定され、前記空洞の底の上に位置する。音圧は前記膜を動かし、前記コンデンサのキャパシタンスを変化させる。
【0036】
容量性MEMSマイクに付随する欠点は、音波が振動膜と有効に対応しないことである。前記対応は、一つの空洞の代わりに二つ以上の空洞を用いることに基く機械的整合技術を利用することによって、改善されてもよい。整合超音波マイクの一例が
図3に描写されている。
【0037】
上の空洞は、音圧が比較的大きな振幅を振動膜に引き起こすように、中濃度のガスで満たされている。上の振動膜は前記上の空洞内で超音波振動を引き起こす。この振動はその結果下の膜を作動させる。下の空洞は濃密ガスで満たされ、前記下の膜の振幅は前記上の膜の振幅よりも小さい。この構造はマイクの超音波対応を、マイクの帯域幅を犠牲にして改善する。
【0038】
図2に提示されるものと類似の微小超音波マイクは1×1×1mm程度の小ささで、2mgよりも軽いと想定する。
【0039】
無線マイクの理論上の電気音響反応
膜の動力学的反応
前記超音波マイクの膜の動力学的反応は、mを片持ち梁の有効質量、xを片持ち梁の変位、ηを減衰係数、kを有効バネ定数、Fを片持ち梁に作用する外力とすると、次式で与えられる。
【0040】
【数1】
【0041】
前記膜がその機械的共振周波数で作動する時、振動の振幅は、調和力の振幅を
【0042】
【数2】
【0043】
とし、前記共振膜の機械的品質係数を
【0044】
【数3】
【0045】
とし、ω
mを前記膜の機械的共振周波数とすると、次式で与えられる。
【0046】
【数4】
【0047】
音圧によるその力は、pを前記音圧、Aを前記膜の有効領域とすると、F=pAで与えられる。これを式(3.2)に代入すると次式が得られる。
【0048】
【数5】
【0049】
音源から距離r
acでの最大音圧は、音の音響出力をP
acとし、空気中の音響インピーダンスをZ
ac=c
acρ
acとし、音速を
【0050】
【数6】
【0051】
とし、空気密度をρ
acとすると、次式で与えられる。
【0052】
【数7】
【0053】
電磁変調効率
前記無線超音波センサは、センサ要素に電気的に整合されるアンテナからなる。無線センサの配置図がその電気的等価回路と共に
図4に示されている。
【0054】
前記超音波マイクの等価キャパシタンスは、(平行板コンデンサで微小変位のものを想定して)ε
0を真空の誘電率、Aをコンデンサの表面領域、g
0を初期間隔(そしてC
0を初期キャパシタンス)、そしてxを前記膜の変位とすると、次式となる。
【0055】
【数8】
【0056】
前記無線センサはマイクロ波信号で照らされ、前記アンテナは、R
aを前記アンテナの抵抗とすると、
【0057】
【数9】
【0058】
の最大電圧を生み出す電力P
r,transpを受取る。
【0059】
前記超音波は前記膜を作動させ、当該膜は、を最大振幅、ω
acを前記超音波の角速度とすると、
【0060】
【数10】
【0061】
で振動するものと仮想する。前記アンテナと前記マイクの間の共役整合(R
a=R
m、ω
rfL=1/(ω
rfC
0))を仮想すると、前記アンテナの抵抗を越える変調電圧、すなわち放射電圧は次式となる。
【0062】
【数11】
【0063】
対応する電力は次式となる。
【0064】
【数12】
【0065】
変調後と受信された電力の間の比率、すなわち変換効率は次式となる。
【0066】
【数13】
【0067】
式(3.4)と式(3.7)を式(3.8)に代入すると次式が得られる。
【0068】
【数14】
【0069】
電磁的検出距離
前記トランスポンダは、読取装置によって連続して電磁的に照らされる。
【0070】
前記トランスポンダによるその受信電力は、P
t,readerを前記読取装置の送信電力、
Greaderを読取アンテナの増幅率、G
transpをトランスポンダアンテナの増幅率、λ
rfを電磁波長、そして、r
rfを読取装置とトランスポンダ間の距離とすると、次式で与えられる。
【0071】
【数15】
【0072】
前記トランスポンダは受信信号を変調し、それを読取装置へとまき散らし返す。
【0073】
前記トランスポンダによる前記受信電力は、Eを前記トランスポンダの変調あるいは変換効率とすると、次式となる。
【0074】
【数16】
【0075】
式(3.11)を検出距離について解くと、次式が得られる。
【0076】
【数17】
【0077】
式(3.9)を式(3.12)に代入すると次式が得られる。
【0078】
【数18】
【0079】
追尾分解能と速度
前記追尾システムの距離分解能は、大気中の音速を
【数19】
とし、パルスの継続時間をτとすると、次式で与えられる超音波パルスの物理長に比例する。
【0080】
【数20】
【0081】
経験則として、前記パルスの継続時間は信号帯域幅Bに反比例する。したがって、前記距離分解能は次式で与えられ得る。
【0082】
【数21】
【0083】
例えば、前記距離分解能は10kHzの帯域幅で、おおよそ3cmとなる。その距離測定精度は、信号雑音比に依存するものよりも良いかもしれない。
【0084】
パルスの反復周波数はスピーカと前記ターゲットの間の距離Lによって次式のように制限を受ける。
【0085】
【数22】
【0086】
追尾測定周波数はまたスピーカの数Nによって制限を受け、次式で与えられる。
【0087】
【数23】
【0088】
例えば、最大距離がL=33mでスピーカの数がN=10のとき、位置再読込レートは1kHz(1測定毎秒)となる。
【0089】
複数のターゲットの識別
複数のターゲットは、音響周波数の分割、電磁周波数の分割、あるいはその両方を用いて識別され得る。前記音響周波数の分割は、それぞれが異なる共振周波数を有するようにマイク要素を寸法決定することによって実現される。周波数の分割は、個別の読取システムを必要とするかもしれない、ひいては実行が困難であるかもしれない。
【0090】
3つの異なる電磁周波数帯域と3つの音響帯域の場合を想定すると、9つのトランスポンダを同時に追尾し識別することができる。
【0091】
実現可能な性能概算
実現可能な追尾範囲を概算してみよう。超音波周波数が40kHzで、超音波源の音響出力が1mWであると想定する。同等の性能の装置が非特許文献21に記載されている。大気中の音響インピーダンスは410Ns/m
2である。
【0092】
大気中における40kHzの音波長は8mmである。前記膜の表面領域は400×400μmで、間隔は200μmである。前記膜の厚さは1μmで、その有効質量は0.3μgである。マイク要素の初期キャパシタンスはC
0=ε
0A/g
0=14fFである。また、マイクの電気的品質係数は5GHzにおいて100であり、当該電気的品質係数は22Ωの直列抵抗をもたらす。超音波追尾システムの概算パラメータを表1に示す。前記トランスポンダの電気的変調効率はr
acの関数として
図5aに示される。
図5bは前記トランスポンダのマイクロ波探知範囲を超音波領域の関数として示す。例えば、音響的距離が6mで、マイクロ波周波数が2GHzな場合、前記トランスポンダは6mの距離から探知可能である。
【0093】
【表1】
【0094】
スキャンレーザとマイクロ波トランスポンダによる追尾
このセクションでは、昆虫追尾のためのフォトダイオードベースのトランスポンダシステムを検討する。
図6aと
図6bにしたがって、昆虫1は、走査レーザ14によって作動する光感知トランスポンダ3を取り付けられ、当該走査レーザ14は前記昆虫と前記トランスポンダ3を照らす。前記レーザ信号は変調され、前記トランスポンダ3を照らすときにマイクロ波周波数で変調後方散乱を引き起こす。
【0095】
前記変調レーザ信号はパルス(
図6a)か連続(
図6b)のどちらかであってもよい。連続信号が使用される場合は、ターゲットの位置は、変調マイクロ波信号が探知された瞬間における、少なくとも2つのレーザビームの交点である。パルスレーダ信号が使用される場合は、ターゲットへの距離を時間遅延から求めることができ、単発のレーザビームで十分である。連続とパルスレーダの双方の追尾原理は
図6b(連続)と
図6a(パルス)に示される。
【0096】
トランスポンダの光起電力応答
前記トランスポンダはアンテナに整合されるフォトダイオードからなる。トランスポンダの配置図は
図7の上部に、
図7の下部のその電気的等価回路と共に示される。
【0097】
フォトダイオードに取り込まれた光子はダイオード中に電子と正孔の対を生み出す。その手順は定電流源を使って説明でき、Rλを前記ダイオードの応答度(通常は〜0.5A/W)とすると、当該定電流源の電流は、取り込まれた光のパワーP
Lの関数として次式で与えられる。
【0098】
【数24】
【0099】
ダイオード電流は、ηを理想係数、k=1.38・10
-23J/Kをボルツマン定数、Tを温度、e=1.60・10
-19Cを電気素量、I
satを飽和電流、そして、V
Dをダイオードの両端電圧とすると、次式で与えられる。
【0100】
【数25】
【0101】
シャント抵抗と負荷抵抗、R
shとZ
L(
図7)は極めて大きいものと想定する。
前記ダイオードに流れる電流は取り込まれた光によって生み出される電流に等しい、そして、ダイオードの両端電圧は次式のように表せる。
【0102】
【数26】
【0103】
前記電圧は接合抵抗とキャパシタンスの両方に影響を及ぼす。前記ダイオードの小信号接合抵抗は次式となる。
【0104】
【数27】
【0105】
前記接合キャパシタンスは、Φ
iを接合部位電位、γを空乏容量で、均一にドープされた接合では0.5とすると、次式で与えられる。
【0106】
【数28】
【0107】
電磁的探知距離
負荷から見た前記ダイオード(
図7)のインピーダンスは次式となる。
【0108】
【数29】
【0109】
前記接合抵抗は比較的低い照射量においては極めて大きく、無限であると想定してもよい。例えば、BPV10フォトダイオードチップ(ビシェイ・セミコンダクターズ社製)の接合抵抗は暗状態で25MΩ、1mW/cm
2の照射下で5.8kΩである。加えて、前記シャント抵抗は一般的にMΩ規模であり、無視することができる。
【0110】
式(4.6)は次式になる。
【0111】
【数30】
【0112】
前記ダイオードは変調光源に照らされ、その負荷インピーダンスは直流に対して無限大である。前記変調光は前記ダイオードの順方向バイアスを変え、接合キャパシタンスを変化させる。交流接合キャパシタンスは変調後方散乱を引き起こす。
前記トランスポンダの変換効率は、ΔC
j=C
j,max−C
j0とすると、次式となる。
【0113】
【数31】
【0114】
前記トランスポンダのマイクロ波探知距離は式(3.12)で与えられる。
【0115】
追尾分解能および速度
追尾分解能は前記走査レーザのビーム幅によって制限を受ける。実際には、前記レーザビーム幅はmmであってもよい。追尾速度は受信器の分解能帯域幅B
resに依存し、当該分解能帯域幅はレーザの変調周波数f
mによって制限を受ける。B
res<f
m/10であることが要求される場合、測定(再読込)レートはf
m/10となる。例えば、追尾空間が10000のセルに分割され、変調周波数が1MHzの2つのレーザが追尾に使用されることを想定することが、5Hzの再読込レート(昆虫の位置が毎秒5回上書きされる)を生じさせる。
【0116】
複数のターゲットの識別
複数のターゲットは、光波長の分割、電磁周波数の分割、あるいはその両方を用いて識別され得る。光波長の分割は、異なる波長を感知する各フォトダイオードを使用して実現される。前記光波長の分割は、光フィルターを必要とするかもしれない、そして、3つの異なる波長帯域を可能にすることもあり得る。電磁周波数の分割は、異なる周波数に整合された各トランスポンダを使用して実現される。前記電磁周波数の分割もまた、識別可能なトランスポンダの数を9つにし得る、3つの異なる波長帯域を許容する。
【0117】
実現可能な性能概算
前記レーザの照射を1mW/cm
2と想定する。この照射量は、通常の使用においては安全であるべきである。その安全性は、人の目により安全な140nm波長を使用することによって増大させることができる。
【0118】
前記トランスポンダは、ビシェイ・セミコンダクターズ社製のBPV10フォトダイオードチップに基き得る。当該フォトダイオードチップのパラメータを表2に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
照射の関数としての接合キャパシタンスを
図8に示す。
【0121】
変調効率は背景照射量に依存する。異なる背景照射量における、前記トランスポンダのマイクロ波探知範囲を
図9に示す。マイクロ波関連量の各パラメータは表1に示されるそれに等しい。例えば、前記トランスポンダは0.8mW/cm
2の背景照射において1GHzで10mの距離から探知し得る。オフィスにおける標準的な輝度レベルは500ルクスであり、当該輝度レベルは、使用スペクトルに依存するおおよそ0.1mW/cm
2の照射に相当する。
【0122】
異なる各照射量における1.5GHzでのダイオードのインピーダンスの実部と嘘部の測定値を算出曲線と共に
図10に示す。算出においては、ダイオードの理想係数をη=1、接合外形パラメータをγ=0.5と想定する。
【0123】
インピーダンスの算出値と測定値は十分に一致し、
図7のフォトダイオードの単純モデルが無線光探知器を設計するために使用できることを示す。
図10はまた、比較的低い照射量において極めて強い変調が達成されることを示す。したがって、レーザ出力が1mWに制限される、低出力なクラス1レーザスキャナでさえ、ターゲットの位置決めに使用さ
れ得る。
【0124】
前記トランスポンダの写真を
図11に示す。むき出しのダイオードチップの入手困難のため、本実験においてはパッケージ化されたフォトダイオードが使用される。低重量に最適化されたアンテナを伴うむき出しのフォトダイオードチップは軽量で小型のトランスポンダを可能にするだろう。例えば、1mm×1mm×0.5mmサイズのシリコンダイオードチップはおおよそ0.5mgの重さである。同様に、ループアンテナは直径0.1mmの銅線で製造され、集中素子なしでダイオードに直接整合され得る。測定に使用されるループサイズと等しいループサイズのそのようなアンテナは、非特許文献9の標準的な高調波レーダトランスポンダ(3mg)の重量に匹敵するトランスポンダ重量を提供する3mgの重さである。また、トランスポンダのサイズと重量の減少は、測定のためにより高いマイクロ波の各周波数を使用することによって達成され得る。しかしながら、これはより小さい効果的なフォトダイオード領域ひいてはより強いレーザ照射を必要とする。
【0125】
図12は、0.1mW/cm
2程度の低さの照射量において十分な変調が起きることを示す。パッケージ化されたフォトダイオードの代わりにむき出しのダイオードチップを使用する場合、照射量は20倍高いべきであり、クラス1レーザ(出力1mW)がサイズで
7×7mmまでのスポットを生み出すために使用されることもあり得る。また、1kHzの走査レート(市販のスキャナとして標準的である)のレーザスキャナが7×7mmのスポットで使用されると想定すれば、0.5mm
2の領域が1秒でスキャンされることもあり得る。
【0126】
要約すると、本発明は対象物を位置特定するための方法およびシステムに関する。前記方法において、対象物1、主として昆虫は少なくとも一つの第1のタイプの信号で照らされ、前記信号の反応を探知する。前記対象物1は前記第1のタイプの信号を後方散乱するトランスポンダ2,3を取り付けられる。前記トランスポンダ2,3は、前記トランスポンダ2,3の後方散乱周波数に影響を与える第2のタイプの信号でも照らされる。そして、前記トランスポンダ2,3からの後方散乱信号は対象物を位置特定するために探知される。
【0127】
本発明の好適な解決策においては、前記トランスポンダ2,3は第2のタイプの信号としての超音波かまたは光で照らされる。
【0128】
本発明の別の好適な解決策においては、前記第1のタイプの信号はマイクロ波信号である。
【0129】
本発明の別の好適な解決策においては、少なくとも原則的に継続する信号が多数の送信器と共に第2のタイプの照射に使用される。
【0130】
本発明の別の好適な解決策においては、パルス信号源14’が第2のタイプの照射に使用される。
【0131】
本発明の別の好適な解決策においては、前記方法は昆虫の位置特定あるいは追尾に使用される。
【0132】
本発明の別の好適な解決策においては、前記方法は人の位置特定あるいは追尾に使用される。
【0133】
本発明の別の好適な解決策においては、前記方法は車両の位置特定あるいは追尾に使用される。