(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
エキシマーレーザは微細リソグラフ業界にとって現在最善の光源である。例えば、パルスエネルギー密度(フルーエンス)が20mJ/cm
2をこえ、パルス波長が250nmより短い(例えば193nm以下)の、大パワーレーザの使用はレーザリソグラフィシステムに用いられる光学素子を劣化させ得る。非特許文献1にはArイオンレーザにおける石英ガラスの表面劣化が報告されている。さらに最近、石英以外の物質でつくられた材料を用いる、ピークパワー及び平均パワーが大きい、193nmエキシマーレーザに、光劣化があることがわかった。
【0003】
MgF
2,BaF
2及びCaF
2の結晶のようなイオン性材料は、紫外線透過率が高く、バンドギャップエネルギーが大きいことから、エキシマー光コンポーネントに現在最善の材料である。これらの3つの材料の内ではCaF
2が、立方晶構造、性能、品質、コスト及び相対存在比の点から好ましい材料である。しかし、CaF
2光学素子の、研磨されているが無被覆の表面は、深紫外(DUV)範囲、例えば248nm及び193nm、及び真空紫外(VUV)範囲、例えば157nm、で動作する強力なエキシマーレーザに照射されると劣化を受け易い。193nmにおいて、20〜80mJ/cm
2のパルスエネルギー密度をもって2〜9kHzで動作しているレーザに対し、これらのイオン性材料でつくられた光学素子の表面はわずか数100万レーザパルス後に損傷することが知られている。別の応用、例えば医用レーザにおいては、そのような光学素子の損傷の加速も生じさせ得る、200mJ/cm
2〜1000mJ/cm
2(非常に高いフルーエンス)の193nmレーザフルーエンス及び非常に低い繰返し数(例えば10〜100Hz)のような、交互動作パラメータがあり得よう。レーザ損傷は結晶光学素子内部すなわちバルクから表面にフッ素が移動し、表面でフッ素が大気に抜ける結果であると考えられる。CaF
2結晶光学素子からのフッ素の減損はF中心の形成をおこさせ、F中心は次いで結合して、表面近傍及びバルク内にCaコロイドを形成させ得る。そのようなCaコロイドは続いて光学素子の散乱及び加熱を高め、最後には激烈な破損に至る。特許文献1は、例えばオキシフッ化ケイ素材料のような、真空蒸着コーティングの使用により、CaF
2光学素子のような、金属フッ化物の表面を表面劣化から保護する方法を説明している。コーティングは表面損傷に対処するに十分であり得るが、微細リソグラフィ業界は、エキシマー源からの、したがってエキシマーレーザベースシステムに関連して用いられる光学コンポーネントからの、より高い性能を要求し続けている。したがって、CaF
2のバルク材料のレーザ耐久性も、光学素子の最終的破損をもたらすCaコロイドの形成を制限することによって、改善されなければならない。そのような解決策は、問題を解消するかまたはバルク耐久性を高め、したがって、既存及び将来の光学素子を交換の必要なしに用い得る時間を非常に長くするであろう。
【0004】
MgF
2のような別の光学材料の使用を含む、光学素子寿命の問題に対する解決策が考えられたことがあった。しかし、そのような材料も時間の経過にしたがいCaF
2と同様の劣化を受け、同じ、すなわち高価な窓を交換しなければならない、必要が生じるであろうと考えられる。さらに、CaF
2,MgF
2及びその他のフッ化物光学材料の劣化問題は、193nmより短波長で動作するレーザシステムの出現によって悪化するであろう。したがって、CaF
2バルクのレーザ耐久性を高めるための方法の確立が、改善されたレーザ性能に対する業界要求を達成する最も直截な方法になると思われる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に用いられるように、術語「フッ化カルシウム結晶」及び「フッ化カルシウム光学素子」は、本明細書に指定されるような少なくとも1つのドーパントを、それぞれのドーパントについて本明細書に指定されるような与えられた範囲内の量で含有する、フッ化カルシウム結晶及びその結晶でつくられた光学素子を意味する。結晶は、ブリッジマン法、ブリッジマン−ストックバーガー法及び技術上既知のその他の方法で成長させたような単結晶とすることができ、あるいは結晶は、同じく技術上既知であるように、フッ化カルシウムの粉末または複数の小結晶が融合してフッ化カルシウム結晶を形成するような温度において圧力の下で粉末または複数の小結晶を加熱することによって形成された結晶とすることができる。これらのプロセスは一般に、真空下、不活性ガス雰囲気またはフッ素化ガス雰囲気内、あるいは酸素をわずかしか含まない条件の下で行われる。ブリッジマン法、ブリッジマン−ストックバーガー法及びチョクラルスキー法、あるいはこれらの変形を用いて成長させた、フッ化アルカリ土類金属の結晶の例は、限定ではない例として、米国特許第7033433号明細書、第6989060号明細書、第6929694号明細書、第6702891号明細書、第6704159号明細書、第6806039号明細書、第6309461号明細書及び第6123764号明細書に見ることができる。結晶は技術上周知の方法によって光学素子につくることができる。
【0015】
本明細書で用いられるように、術語「フッ化カルシウム単結晶」、「フッ化カルシウム単結晶光学素子」及び、「ドープト」を含む、同様の術語は、本明細書に指定されるような少なくとも1つのドーパントを、それぞれのドーパントについて本明細書で説明されるような与えられた範囲内の量で含有する、フッ化カルシウムの単結晶、またはその結晶でつくられた光学素子を意味する。ドーパント量は、結晶内のドーパント金属イオンの重量で、100万分の1(ppm)単位で与えられる。
【0016】
さらに、CaF
2結晶は、本明細書に説明される意図的な金属ドーパントに加えて、極めて低レベルのその他の「汚染物」、限定ではない例として、本明細書に特定されるような汚染物を含有し得る。そのような汚染物は全て、供給原料または処理環境からそのような材料を排除することは絶対に不可能であるためと考えられ、意図的に与えられたものではなく、または本発明のドープトCaF
2結晶及び光学素子の耐久性に影響を与えないと考えられる。CaF
2結晶作成のための上に挙げた技術においては、最終光学素子製品が、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)または技術上既知のその他の適切な方法で測定して、重量で、0.1ppm未満のLi,4ppm未満のNa,3ppm未満のK,0.2ppm未満のSc,0.2ppm未満のY,0.2ppm未満のLa,0.2ppm以下のGd,0.2ppm未満のYb,0.2ppm未満のTi,0.1ppm未満のCr,0.5ppm未満のMn,0.4ppm未満のFe,0.2ppm未満のCo,0.2ppm未満のNi,及び0.3ppm以下のCuの不純物レベルを有するような、ドープトフッ化カルシウム供給原料であることが好ましい。フッ化カルシウム原材料が含有するNa及びKはいずれも0.5ppm以下であることが好ましい。そのような汚染物の総量は一般に50ppm未満である。
【0017】
ドーパントはCaF
2結晶作成に用いられるCaF
2供給原料に、フッ化物、酸化物、炭酸塩、または微細粉末化金属として加えることができる。CaF
2粉末とドーパントの混合物は、酸素を除去するためのCF
4,SnF
2またはPF
2のような酸素脱除剤で処理される。ドーパントとして金属粉末が用いられる場合、脱除剤処理は酸素を除去するだけでなく、金属の金属イオンへの変換も行う。同様に、脱除剤は金属酸化物ドーパントから酸素を除去し、よって金属酸化物を金属フッ化物に転換するにも役立つ。
【0018】
以下で説明されるγ線試験に用いられるドープトCaF
2結晶は、米国特許第6309461号明細書に説明されるような結晶成長/アニール処理装置を用いて成長させた。要約すれば、米国特許第6309461号明細書に説明されるような装置は、結晶の上部及び側面近くに取り付けられた一次加熱システム及び結晶の底部近くに取り付けられた二次加熱システムを有する。この二次加熱システムはドープト結晶の作成中に用いられることもあり、用いられないこともある。本明細書に説明される結晶の作成に用いられる米国特許第6309461号明細書の方法は、一般に、(1)一次加熱システムからの熱を用いて結晶材料を加熱することによってるつぼ内に、ドーパントを含む、結晶材料の液を形成する工程、(2)液体結晶材料の順次領域が結晶形成に適する温度まで冷却するように、るつぼを一次加熱システムから降下させる工程、(3)一次加熱システムの温度を下げる工程、(4)るつぼを一次加熱システム内に上昇させ、二次加熱システムから熱を供給する工程、及び(5)結晶の平均温度が時間の経過とともに下がるように、一次及び二次加熱システムの熱出力を減じる工程を有する。高温結晶の降伏強さが比較的低い、冷却の初期段階中は小さい温度勾配を維持することが特に重要である。米国特許第6309461号明細書には20〜40日の範囲の冷却時間が説明されている。しかし、好ましい事例においては、冷却時間を10〜25日程度とすることができる。
【0019】
選ばれた方位の結晶、例えば、<111>,<110>または<100>の結晶の成長は、そこに例えば<111>種結晶が入れられる、
図1及び2に示されるような、保持槽を底に有するるつぼを用いることでなされ得る。ドープトCaF
2の作成後、ドープトCaF
2はアニールして、結晶内の応力及びそのような応力から生じ得る複屈折を低減することができる。そのようなアニール方法は技術上、例えば米国特許第6806039号明細書に、説明されている。
【0020】
本発明のドープト結晶は米国特許第6806039号明細書に説明される方法を用いて成長させることもできる。本明細書の
図1〜3は、米国特許第6806039号明細書に説明され、以下のように簡約される、結晶成長プロセスの特徴のいくつかを示す。酸素脱除剤としてフッ化鉛が用いられた。
【0021】
図1は、結晶成長室及び、種結晶60を受け入れて、その方位を上方で隣接する(参照数字90で指定される)結晶成長室に関して定めるための、種結晶方位受け器64を有する、ドープト結晶を成長させるための結晶成長るつぼ62を示す。矢印92は種結晶の優先結晶軸方位を示す。
図2は、種結晶60及び本明細書に説明されるような選ばれたドーパントを含有するCaF
2供給原料70が装填された成長るつぼを示す。好ましい事例において、結晶成長プロセス中に種結晶は用いられないことがある。光学結晶は後に、その表面が所望の結晶学的方位を有する光学素子を提供する態様で、大きなバルク結晶から取り出される。所望の結晶学的表面方位をもつ、この光学素子を作成するために用いられる機械加工法は技術上既知である。
図3は、ドープト供給原料が融液66として入っており、種結晶60の上部が溶融している、結晶成長るつぼ62を、その上の蓋63とともに示す。ドープト供給原料は雰囲気制御/真空炉110の上部高温溶融ゾーンにおいて溶融させた。雰囲気制御/真空炉110は黒鉛抵抗加熱素子8で加熱した。炉絶縁バッフル14が下部低温アニールゾーン(バッフルの下)を上部高温溶融ゾーン(バッフルの上)から絶縁するために上部加熱素子と下部加熱素子を隔て、上部加熱素子と下部加熱素子の間に結晶成長温度勾配を形成することが好ましい。部分的に溶融した種結晶60及び溶融したドープト供給原料66は結晶成長温度勾配を漸進的に通過して、種結晶により方位が定められたドープトCaF
2結晶が成長する。単結晶が完全に成長した後、本明細書または技術上どこかで説明されるように単結晶は成長炉の下部内で冷却させることができ、あるいは単結晶は冷却させて、上に挙げたスケジュールまたは技術上既知の他のアニール処理スケジュールにしたがう、別のアニール炉に移すことができる。
【0022】
特定のドーパントの局所濃度が結晶全体にわたり軸方向で変化し得ることは、当業者には当然である。ドーパント変動の度合いは、材料内のドーパントの偏析係数、結晶成長速度、溶融材料内のドーパントの拡散係数及び成長中の溶融材料の対流状態に依存する。ICP-MSを用いてなされた慎重な測定により、試験した光学素子内に存在するドーパントの量を確定した。本明細書で論じられるドーパント濃度値は実測値である。
【0023】
上述したように、研磨されているが無被覆のCaF
2表面は、DUV及びVUVの範囲で動作している強力なレーザで照射されると、劣化を受け易い。例えば、20〜80mJ/cm
2のパルス密度をもって2〜9kHzで動作している193nmレーザを用いた場合、そのようなイオン性材料の表面またはそれでつくられた光学素子は、わずか数100万レーザパルス後に損傷することが知られている。アール・ベネヴィッツ(R, Bennewitz)等,「CaF
2の低エネルギー電子誘起被着におけるバルク及び表面過程(Bulk and surface processes in low-energy-electron induced deposition of CaF
2)」,Amer. Physical Society,Physical Review B,1999年,第59巻,第12号,p.8237〜8246に、損傷の原因は結晶のバルクから表面へのフッ素拡散であると考えられと示唆されている。ベネヴィッツ等は、結晶表面上に金属(Ca)の形成が見られたこと及び「[結晶内の]コロイド形成はF中心の凝集で生じ、CaF
2においては金属カルシウムの格子構造及び原子間隔とCa
2+副格子がよく一致するためにCaF
2でおこり易い過程である」ことを示している。
図5は193nmレーザ光照射前後のCaF
2のラマンスペクトルを示す。193nmレーザ光照射後のラマンスペクトルの変化はCaF
2内のCaコロイドの存在を実証している。特許文献1は、オキシフッ化ケイ素コーティング/材料の真空蒸着を用いることで、CaF
2のような、金属フッ化物の表面を劣化から保護する方法を説明している。しばらくの間はこの方法が妥当な解決策であろうが、微細リソグラフィ業界はエキシマー源からの、したがってエキシマーレーザベースシステムに関連して用いられる光学コンポーネントからの、さらに高い性能を要求し続けている。特に、微細リソグラフィ業界は、低減されたコスト、より高い透過率、及び光学系が簡単になるほど何かがおかしくなる可能性は低くなるであろうという一般的見地により、無被覆CaF
2光学素子の使用を好むであろう。微細リソグラフィ業界は現在、使用期間中の劣化を許容できる低レベルにとどめて、20〜80mJ/cm
2の500億(5×10
10)ものパルスに耐え得る光学素子を探し求めている。光学素子のコーティングは、それだけでは、この目標に達するに十分ではなく、バルク材料のレーザ耐久性の改善が不可欠であると考えられる。
【0024】
大パワーレーザシステム、例えば、20〜80mJ/cm
2のパルスエネルギー密度をもち、2〜9kHz,193nmで動作するレーザに用いられたときのCaF
2光学素子の寿命をのばすため、Mg,Sr及びBaからなる群から選ばれた1つないしさらに多くの、特定の量の、ドーパント材料がドープされた単結晶CaF
2でつくられた光学素子が本明細書に開示される。CaF
2に添加するためのそれぞれのドーパントの量は、>0.3〜1200ppm Mg,>0.3〜200ppm Sr及び>0.3〜200ppm Baから選ばれる。これらのドーパントのそれぞれは与えられた濃度範囲内でCaF
2と固溶体を形成する。それぞれのドーパントは結晶格子内でCaイオンとは異なる原子半径も有する。イオン半径値(ポーリング;オングストローム単位)は、Mg=0.69,Ca=0.99,Sr=1.13及びBa=1.45である。この原子半径の差が、レーザ光照射によってCaF
2構造に形成されるエキシトンの再結合に必要な時間を短縮する態様で、結晶格子を歪ませる。1つないしさらに多くのドーパントの添加はエキシトン寿命を短くするが、光照射によっておこる格子欠陥の形成の全てを防止することはない。しかし、1つないしさらに多くのドーパントの添加は、CaF
2単結晶におけるレーザ損傷に一般的にともなうCaコロイドの形成を阻止すると思われる。
【0025】
一実施形態において、本発明は、主成分としてのCaF
2及び、>0.3〜1200ppm Mg,>0.3〜200ppm Sr及び>0.3〜200ppm Baからなる群から選ばれる、少なくとも1つのドーパントを含む、アルカリ土類フッ化物結晶に関する。別の実施形態において、ドーパントはCe及びMnからなる群から選ばれ、選ばれるドーパントの量は<0.5ppmである。別の実施形態において、アルカリ土類フッ化物単結晶は、主成分としてのCaF
2及び、>2〜500ppm Mg,>2〜100ppm Sr及び>2〜100ppm Baからなる群から選ばれる、少なくとも1つのドーパントを含む。さらに別の実施形態において、本発明は、主成分としてのCaF
2及び、>10〜100ppm Mg,>5〜50ppm Sr及び>2〜10ppm Baからなる群から選ばれる、少なくとも1つのドーパントを含む。別の実施形態において、アルカリ土類フッ化物単結晶は、主成分としてのCaF
2及び、>20〜100ppm Mg,>1.0〜200ppm Sr及び>1.0〜200ppm Baからなる群から選ばれる、少なくとも1つのドーパントを含む。さらに別の実施形態において、CaF
2が主成分であり、ドーパントは20〜60ppm Mgである。
【0026】
特許文献及び技術文献のいずれにも混晶フッ化アルカリ土類金属が説明されている。例えば、米国特許第6806039号明細書、第6630117号明細書、第6649326号明細書及び米国特許出願公開第2003/0104318号明細書に、一般式がM
1xM
2(1−x)F
2(ここでxは0.1〜0.9の範囲にある)の混晶フッ化アルカリ土類単結晶の作成が説明されており、そのような混晶は全て2つのアルカリ土類金属の内の少ない方で10000ppmより多くを含有している。ヴイ・デンクス(V. Denks)等,「純及びドープトCaF
2におけるエキシトン過程(Excitonic Processes in pure and doped CaF
2)」,J. Phys. Condens. Matter.,1999年,第11巻,p.3115〜3125で、Mg,Mn,Na及びLiイオンがドープされたCaF
2が調べられている。著者等は、(a)0.01〜0.1%の範囲の量のMgイオン(p.3117)、または(b)0.2%のMnイオン(p.3119)がドープされたCaF
2を調べている。p.3124の著者等の、不純物[ドーパント]に関する、結論において、著者等は「本論文に述べた不純物(MgまたはMn)はいずれもCaF
2の光安定性の改善をもたらさなかった」と述べている。この結論は彼らの蛍光測定に基づき、本明細書に提示される概念及び情報に反している。さらに、デンクス等は、CaF
2の光耐性を高め得る不純物を見いだせなかったと、詳細は示さず、述べている。後続論文の、ヴイ・デンクス等,「CaF
2-Srにおける不純物関連エキシトン過程(Impurity-Related Excitonic Processes in CaF
2-Sr)」,Phys. Stat. Sol. (a),2002年,第191巻,第2号,p.628〜632では、Srが0.05〜4モル%(0.05モル%=〜561ppmまたは0.6重量%Sr)の範囲にあるCaF
2:Sr単結晶が述べられている。この後続論文において、デンクス等は、この高レベルでのCaF
2へのSrドープは光照射に対して高められた耐久性を与え得ると結論づけている。いくつかの特許文献、例えば米国特許第6999408号明細書においては、Mg,Sr及びBaはCaF
2の不純物と見なされ、0.5ppm Mg,19ppm Sr及び5ppm Baより低いレベルに抑えられている。これらの特許文献では、特定のドーパントレベルにおける特定の金属イオンのCaF
2に高められたレーザ耐久性を与え得る能力が認められている。
【0027】
加速試験によって、ドープト単結晶CaF
2光学素子がレーザ耐久性試験を受け得ることも極めて望ましい。現在、加速試験法はパワーが非常に大きいエキシマーレーザを用い、数日から数週間にわたって続けることができる。この試験方法は費用がかかり、時間がかかる。他の方法(例えばデンクス等の論文で上に挙げられたようなレーザ蛍光法)が、CaF
2光学素子のレーザ耐久性を正確に示し得るか否かを判定するために精査されたが、それらの方法では限られた成果しか得られていない。現在、ドープトCaF
2光学素子の改善されたレーザ耐久性を「迅速に」評価するための唯一の実行可能な方法が、ティー・ディー・ヘンソン(T. D. Henson)等,「耐光ガラス及び結晶の空間光試験(Space radiation testing of radiations resistant glasses and crystals)」,Proc. SPIE,2001年,第4452巻,p.54〜65に示唆されている。ヘンソン等は、γ線照射後の透過率試験がCaF
2光学素子の耐久性の実行可能な試験法として役立つと示唆している。したがって、本開示に説明されるようにドープトCaF
2サンプルを評価するためにこの方法を用いた。7mm厚のドープトCaF
2光学素子及びアンドープCaF
2光学素子のサンプルをガンマ線[γ線]源を用いて28.3〜28.7キログレイ(kGy)(2.83〜2.87Mrad)の照射量まで照射した。サンプルの200〜1000nmの透過スペクトルを照射前及び、25,100,430及び600時間の、ガンマ線照射後に測定した。ドープトCaF
2結晶の515/380nm透過率減衰比はアンドープCaF
2材料の515/380nm透過率減衰比より小さく、ドープトCaF
2結晶のレーザ耐久性が改善されていることがわかった。515/380nm透過率減衰比は、[照射前と比較した照射後の515nmにおける透過率の減少]/[照射前と比較した照射後の380nmにおける透過率の減少]と定義される。Caコロイドが存在すると515nm近傍で吸収が生じ、F中心が存在すると380nm近傍で吸収が生じる(F中心は、空格子点に電子が1つ存在する、フッ素イオン空格子点である)ことから、これらの特定の波長が比較される。照射されたドープト(D)サンプル及びアンドープ(UD)サンプルの評価の途中で、Dサンプル及びUDサンプルはいずれもF中心を有する(380nm透過率が減少する)が、Dサンプルではコロイドが形成されないように見える一方でUDサンプルではコロイドが形成される(515nm透過率が減少する)ことがわかった。この結果は、コロイド形成の前提がF中心の存在であるから、特に印象的である。明らかに、本サンプル光学素子に用いられた、Mgのようなドーパントは、低濃度で、コロイド形成を阻止し、したがってレーザ寿命を向上させる。
【0028】
一般に、アンドープ(UD)CaF
2光学素子サンプルの照射後減衰比は0.4より大きく、この比は照射後の透過率回復が進むにつれて、徐々に進行は緩やかになるが、25%程度大きくなることがわかった。対照的に、ドープト(D)CaF
2光学素子サンプルの減衰比は全評価期間を通して0.3より小さく、与えられたF中心形成量に対してコロイド形成が少ないことを示す。いくつかの実施形態において、D光学素子サンプルの減衰比は0.2より小さかった。
図4に示される実験において、減衰比は0.1以下であった。
図4のD光学素子には10〜100ppmの範囲のMgがドープされており、Mgドープは20〜80ppmの範囲であることが好ましい。
【0029】
以上のように、一実施形態において、本発明は、その目的がCaコロイドの形成を阻止し、したがって光学素子に改善されたレーザ耐久性を与えることである選ばれたドーパントの選ばれた量がドープされたCaF
2結晶材料を含む、レーザ光学素子に関する。選ばれるドーパントの目的は、Caコロイドの形成を阻止し、よって光学素子に改善されたレーザ耐久性を与えることである。一実施形態において、Caコロイドの形成を阻止するために添加される、コロイド阻止ドーパント及び量は、>0.3〜1200ppm Mg,>0.3〜200ppm Sr,>0.3〜200ppm Baからなる群から選ばれる1つである。別の実施形態において、コロイド阻止ドーパントは2〜500ppmの範囲の量のMgである。また別の実施形態において、コロイド阻止ドーパントは10〜100ppmの範囲の量のMgである。上述したレーザ光学素子は、2.8Mradをこえるガンマ線照射後に0.3より小さい515/380nm透過率減衰比を有する。一実施形態において、2.8Mradをこえるガンマ線照射後の515/380nm透過率減衰比は0.2より小さい。別の実施形態において、2.8Mradをこえるガンマ線照射後の515/380nm透過率減衰比は0.1以下である。
【0030】
本発明にしたがうドープトCaF
2光学素子はコーティングを施すことができ、無被覆とすることもできる。コーティング材料は、技術上既知の改良型プラズマ法を用いて光学表面に施される、フッ化物膜、酸化物膜及びフッ素化酸化物膜からなる群から選ばれる材料とすることができる。そのようなコーティング材料及び光学素子にコーティングを施すための手法の例は、本発明と共通に所有される、米国特許第7242843号の明細書及びその明細書内の引用に見ることができる。この明細書の教示は本明細書に参照として含まれる。コーティング材料は光学素子に直接に施すことができる。コーティング材料には、SiO
2・F,Al
2O
3,MgF
2,BaF
2,CaF
2,SrF
2,NaF,LiF,AlF
3,LaF
3,GdF
3,NdF
3,DyF
3,YF
3及びScF
3がある。コーティングを施されることになる光学素子には、プリズム、窓及びレンズがあり、さらにCaF
2でつくられたミラーを含めることができる。
【0031】
本発明の精神または範囲を逸脱せずに本発明に様々な改変及び変形がなされ得ることが当業者には明らかであろう。したがって、添付される特許請求項及びそれらの等価物の範囲内に本発明の改変及び変形が入れば、本発明はそのような改変及び変形を包含するとされる。