(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の実施形態は、ナノスケールのベンズイミダゾロン顔料粒子組成物およびそのような組成物を製造するための方法を提供する。ナノスケール顔料粒子組成物は、立体的に嵩高い安定剤化合物からの官能基と非共有的に会合している少なくとも1つの官能性部分を有する有機ベンズイミダゾロン顔料を一般に含み、立体的に嵩高い安定剤化合物は、安息香酸、ナフトエ酸、フタル酸およびイソフタル酸等の芳香族酸のアルキル化誘導体を含む。その会合している立体的に嵩高い安定剤の存在が、粒子の成長および凝集を制限してナノスケール粒子を供給する。
【0009】
ベンズイミダゾロン顔料は、ジアゾニウム塩前駆物質(またはジアゾ成分)としての置換芳香族アミンとベンズイミダゾロン官能性部分を含有するカップリング成分とから一般に誘導されたアゾ−ベンズイミダゾロンの種類のものである。アゾ−ベンズイミダゾロン顔料は、主にカップリング成分の化学組成によって黄色から赤そして茶褐色まで変動する色相の色を提供する。
【0010】
アゾ−ベンズイミダゾロン顔料の構造は、共にアゾ官能性部分(N=N)と結合しているジアゾ成分の基G
DC、および求核カップリング成分の基G
CCを含む式1中の一般構造により表すことができる。ジアゾ基およびカップリング基の一方または両方は、式2に示されているベンズイミダゾロン官能性部分を含むことができ、式中、置換基R
x、R
y、およびR
zは、水素、ハロゲン、アルコキシ基、であるが、6個未満の炭素原子の小さい脂肪族基、10個未満の炭素原子の小さいアレーンまたは複素環式アレーン基、あるいはカルボニル化合物の誘導体、例えばアルデヒド、ケトン、エステル、酸、酸無水物、ウレタン、尿素、チオールエステル、チオエステル、キサンテート、イソシアネート、チオシアネート、またはこれら置換基の任意の組合せ等を含むこともできる。
【化1】
式1
【化2】
式2
【0011】
ジアゾ基G
DCは、下に示すDC
1〜DC
7の標識を付けた一般的なジアゾ基組成を含むことができる:
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
および
【化9】
そのアスタリスク(*)は、ジアゾ前駆物質構造におけるアミノ基(−NH
2)に対する結合の点、および最終の顔料構造におけるアゾ官能性部分(−N=N−)に対する結合の点を示している。R
1〜R
8は、独立して、H;ハロゲン;(CH
2)
nCH
3(但し、n=0〜6);OH;アルコキシ基−OR’(但し、R’は、H、(CH
2)
nCH
3、またはC
6H
5を表し、nは、1から約6までの数を表す);CO
2H;CO
2CH
3;CO
2(CH
2)
nCH
3(但し、n=0〜5);CONH
2;(CO)R’(但し、R’は、独立して、H、C
6H
5、(CH
2)
nCH
3(但し、n=0〜12)を表すことができ、またはそれらは(CH
2)
nN(CH
3)
2(但し、n=1〜6)を表すことができる);OCH
3;OCH
2CH
2OH;NO
2;SO
3H;または次の構造の基:
【化10】
【化11】
【化12】
および
【化13】
のいずれかを表している。
DC
2およびDC
3において、R’は、H、CH
3、(CH
2)
nCH
3、またはC
6H
5を表し、nは1から6までの数を表す。ジアゾ基の前駆物質は、DC
5の構造におけるような式2のベンズイミダゾロン官能性部分を保有する置換アニリン化合物であり得る。DC
6およびDC
7において、連結基Aは、−(CH
2)
n−(但し、n=0〜6);アルキレンジオキシ基−[O−(CH
2)
n−O]−(但し、n=0〜6)、および−[O−CH
2CHR)
n]−(但し、n=0〜6そしてR=HまたはCH
3);−(C=O)−;O、S等の原子;−(CH
2)
n−(C=O)−(但し、n=1〜6)等のアシル基;−(C=O)−(CH
2)
n−(C=O)−(但し、n=1〜6)等のジアシル基等を表すことができる。
【0012】
一般的にベンズイミダゾロン官能基(式2)を含有し、一般に5−アミノベンズイミダゾロンのアミドであるのはカップリング成分の基(G
CC)である。アゾ−ベンズイミダゾロン顔料を作製するときカップリング成分として使用するアミドの2つの普通の種類は、5−アミノベンズイミダゾロン(CC1として示されている)のアセトアセトアミドおよび5−アミノベンズイミダゾロン(CC2として示されている)の3−ヒドロキシ−2−ナフトアミドである。
【化14】
【化15】
上記の構造において、アスタリスク(*)は、顔料構造中に形成されたアゾ官能性部分(−N=N−)に対する結合の点を示し、R
9、R
10、R
11、R
12、およびR
13は、独立して、H、Br、Cl、I、F、CH
3、またはOCH
3である。
【0013】
アゾ−ベンズイミダゾロン顔料の構造は、アゾ基のN原子と近くのカップリング成分の基のヘテロ原子置換基のH原子との間の強力な分子内水素結合の存在によって複数の互変異性形をとることができる。
【0014】
アゾ−ベンズイミダゾロン顔料は、強い分子間水素結合のため、一次元の延長ネットワーク構造を形成することができる。証拠は、そのような顔料のX線回折パターンで見出されており、大きな分子間の間隔取りが、顔料分子のペアが分子間水素結合により強固に会合し、一次元の帯またはリボンの組立てを形成していることを示唆している。
【0015】
これらの補強性の分子内または分子間の水素結合の存在は、アゾ−ベンズイミダゾロン顔料の高められた性能特性、例えば、高い熱安定性、高い耐光性、高い色移り耐性および高い耐溶剤性等に対するさらなる証拠を提供する。これらの顔料中のベンズイミダゾロン官能性部分は、分子間水素結合の形成を可能とし、高められた構造安定性を提供する重要な構造要素である。この部分は、一点および二重点の水素結合に容易に参入し、同じ官能性部分または異なる官能性部分を有するもう1つの化合物は、アゾ−ベンズイミダゾロン顔料と、例えば分子間水素結合による等、非共有的に会合することが可能であり得、かかる顔料に対して高い結合親和性を有することができる。顔料粒子の表面張力を低下し、2つ以上の顔料粒子または構造体の間の引力を中和させ、それによって顔料の化学的および物理的構造を安定化する「安定剤」として知られている化合物の群が存在する。これらの化合物は、「顔料に親和性のある」官能性部分を有しており、それらは1つ以上の疎水性基、例えば、アルキル基が構造中で直鎖状、環状または分枝状であることができ、合計で少なくとも6個以上の炭素を有する長いアルキル炭化水素基、またはアルキル−アリール炭化水素基、またはアルキレンオキシ基を有するポリマおよび/またはオリゴマ鎖を保有する。かかる安定剤におけるさらなる疎水性基の存在は、いくつかの機能:(1)目標のビヒクルまたはマトリックス中のよりよい分散性のために顔料を親和性にすること、および(2)顔料粒子を取り巻く立体的に嵩高い層を提供し、それによって、制御されない結晶の凝集と最終的に粒子の成長をもたらす他の顔料粒子または分子の接近を防止または制限することができる。顔料と非共有的に会合する顔料に親和性のある官能性部分、ならびに他の顔料粒子に表面バリヤを提供する1つ以上の立体的に嵩高い炭化水素基の両方を有する化合物は、「立体安定剤(steric stabilizer)」と呼ばれ、通常の顔料および安定化が必要な他の粒子(例えば、塗料中のラテックス粒子、堅固なコーティング中の金属酸化物のナノ粒子)の表面特性を改めるさまざまな方法において使用されてきている。
【0016】
そのベンズイミダゾロン顔料/前駆物質は、選択された安定剤化合物と、ベンズイミダゾロン単位または分子ごとに、1つ以上の水素結合を形成することができる。そのベンズイミダゾロン顔料/前駆物質は、選択された安定剤化合物と、ベンズイミダゾロン単位ごとに、1つから4つ以上の水素結合を形成することができる。
【0017】
安定剤は、主にナノスケール顔料粒子を生成するために、顔料合成中の着色剤分子の自己集合を制限し、かつ/または顔料一次粒子の凝集の度合いを制限する機能を有する。安定剤は、その安定剤が顔料の粒径を制御する機能を可能にする十分な立体的な嵩高さを提供する炭化水素部分を有する。その炭化水素部分は、大部分が脂肪族であるが、他の実施形態においては芳香族基を組み込むこともでき、少なくとも6個または少なくとも12個の炭素あるいは少なくとも16個の炭素で、100個を超えない炭素を含む。その炭化水素部分は、直鎖状、環状または分枝状であるかのいずれかであり得、シクロアルキル環または芳香環等の環状部分を含んでいてもよいし、いなくてもよい。その脂肪族の分枝鎖は、各枝に少なくとも2個の炭素または少なくとも6個の炭素を有しており、100個の炭素を超えない長いものである。
【0018】
用語の「立体的に嵩高い(steric bulk)」は、顔料または顔料の前駆物質が非共有的に会合するようになるその大きさとの比較に基づく相対的用語であることが理解される。用語の「立体的に嵩高い」とは、顔料/前駆物質表面と水素結合している安定剤化合物の炭化水素部分が、他の化学物質(例えば、着色剤分子、顔料一次粒子または小さな顔料凝集体)の顔料/前駆物質表面に対する接近または会合を効果的に防止する三次元の空間体積を占めるときの状況を指す。安定剤は、いくつかの安定剤分子が、顔料/顔料前駆物質と非共有的に会合状態になるとき(例えば、水素結合、ファンデルワールス力、芳香族π−π相互作用またはその他)、その安定剤分子が効果的に顔料の一次粒子を遮断するための表面剤として作用し、それによって顔料粒子の成長を制限し、大部分がナノ粒子の顔料を提供するように十分に大きいその炭化水素部分を有さなければならない。
【0019】
適切な安定剤化合物は、両親媒性であり、顔料/顔料前駆物質との水素結合のために利用できるヘテロ原子を有する親水性または極性官能基、ならびに少なくとも6から100個の炭素を有し、大部分が脂肪族(または完全に飽和している)であるがいくらかのエチレン性不飽和基および/またはアリール基を含むことができる無極性または疎水性の立体的に嵩高い基を有する。
【0020】
安息香酸、ナフトエ酸、フタル酸およびイソフタル酸等の芳香族酸のアルキル化誘導体も使用することができる。芳香族酸のアルキル化誘導体としては、一般式5:
【化16】
式5
のものが挙げられ、式中R
1〜R
6は、同じかまたは異なるものであり得、H、−NH−(C=O)−R’、−(C=O)−NH−R’ )、−NH−R’、−NH−(C=O)−NH−R’、−NH−(C=O)−O−R’、O−(C=O)−NH−R’、−(C=O)−O−R’、−O−(C=O)−R’、分枝状または直鎖状アルキレンオキシ鎖、または−OR’であり、但し、R’は、主として、アルキル基中にヘテロ原子を含んでいてもよい直鎖状または分枝状アルキルまたは脂環式の基であり、置換基R
1〜R
6の少なくとも1つは−COOHまたは−CONH
2を表し、R
1〜R
6の少なくとも1つは、水素であり、R
1〜R
6の少なくとも1つが立体的に嵩高い官能性置換基を表すことを条件とする。その立体的に嵩高い官能基は、立体的に嵩高い基および適切な官能性の連結基Xを含み、ここで、Xは、−(CH
2)
n;−X−(CH
2)
nX;−[(XCH
2CH
2)
n]X−;−[(C=O)−(CH
2)
n−(C=O)]−;−X−[(C=O)−(CH
2)
n−(C=O)]−X−;−X−[(C=O)−X−(CH
2)
n−X−(C=O)]−X−;−[(C=O)−X−(CH
2)
n−X−(C=O)]−であることができ、但し、Xは、O、S、またはNHとして定義され、整数nは、1〜50である。その官能性の連結基は、立体的に嵩高い基を芳香族酸基に共有的につなぐ。したがって、例えば、その芳香族酸誘導体は、以下に限定はされないが、
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
または
【化21】
であり得、但し、YはOHまたはNH
2であり、R
1およびR
2は、同じであるか異なることができる。これらの芳香族酸誘導体化合物は、望ましくは、例えば、主に水素結合および/または芳香族πスタッキング相互作用により顔料の官能基と非共有的に会合するカルボン酸または第一級アミド部分等の顔料に親和性のある基を有する両親媒性の化合物である。
【0021】
立体的に嵩高い置換基R
1〜R
6は、いずれも、顔料粒子を取り巻く立体的に嵩高い層を提供し、それによって、抑制されない凝集および粒子の成長を引き起こすその他の顔料粒子または分子の接近を阻止または制限する適切な脂肪族基であり得る。適切な立体的に嵩高い基の例としては、前述のさまざまな無極性または疎水性の立体的に嵩高い基が挙げられる。立体的に嵩高いアルキル基の具体例としては、1〜100、または1〜50または6〜30の炭素原子の直鎖状または分枝状アルキル基であり、一般式:
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
および
【化26】
のもののような大きな直鎖状、分枝状および/または環状脂肪族基を含むものが挙げられ、また、式−CO−(CH
2)
n−CH
3であり、nが0から30までであるものを含めた1〜50、例えば、1〜40または6〜30個の炭素原子の置換直鎖状または分枝状アルキル基等も挙げられる。その他の有用な基としては、より高い度合いの分枝をしている脂肪族炭化水素、環状炭化水素、ならびに、オリゴ−もしくはポリ−[エチレングリコール]等の直鎖状もしくは分枝状アルキレンオキシ鎖を挙げることができる。後者は、ベンズイミダゾロン顔料のナノ粒子の合成中にジアゾニウムカップリングを行うための媒体のような水性媒体中での混合を促進することができる嵩高い親水性基である。
【0022】
アルキル化芳香族酸のその他の有用な誘導体としては、一般式、
【化27】
式6
で示され、適切な連結基R
yの例としては、−(CH
2)
n;−X−(CH
2)
nX;−[(XCH
2CH
2)
n]X−;−[(C=O)−(CH
2)
n−(C=O)]−;−X−[(C=O)−(CH
2)
n−(C=O)]−X−;−X−[(C=O)−X−(CH
2)
n−X−(C=O)]−X−;−[(C=O)−X−(CH
2)
n−X−(C=O)]−(但し、Xは、O、S、またはNHとして定義され、整数nは、1〜50である);および大きな分枝状アルキル化官能基、例えば:
【化28】
【化29】
および
【化30】
(但し、X、X
1およびX
2は、O、S、またはNHのいずれかであると定義され、X
1およびX
2は同じ物であってもなくてもよい)を組み込む連結基も挙げられるような、2つ以上の芳香族酸基を連結する2官能性構造物が挙げられる。
【0023】
その芳香族酸のアルキル化誘導体は、望ましくは両親媒性化合物である。すなわち、化合物は、顔料のベンズイミダゾロン基との水素結合が可能であり、かつ、顔料の分子間水素結合ネットワークを妨げ、それによって顔料の凝集および粒子の成長を阻止することができる可能性があり得る顔料に親和性のある基(芳香族酸部分)を有する。その化合物は、また、その他の着色剤分子が接近してより大きい結晶を形成することを制限または追い払うことに役立つ立体的バリヤ層を顔料表面に提供する嵩高い脂肪族基も含む。
【0024】
芳香族酸誘導体の具体例としては、したがって、以下に限定はされないが、次の表1、表2、および表3中のものが挙げられる。
【0064】
[(ベンゼン)−(C=O)−OR]部分におけるように、立体的に嵩高いエステル基により誘導される安息香酸およびイソフタル酸は、1,3,5−トリカルボニルベンゼントリクロリドを、約0.5〜約3.0当量の適切な立体的に嵩高い脂肪族アルコールと、適切な無水の溶媒、例えば、テトラヒドロフランまたはジクロロメタン中、トリエチルアミンもしくは第三級アルキルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、または2,6−ジメチルピリジン等のヒンダード塩基の存在下で反応させることによって調製される。同様のやり方で、[(ベンゼン)−(C=O)−NHR]部分におけるような類似の置換アミドは、1,3,5−トリカルボニルベンゼントリクロリドの約0.5〜約3.0当量の立体的に嵩高いアルキルアミンとの同じ反応から形成される。反応中の任意の時点での水による反応の失活は、未反応の酸塩化物基を対応するカルボン酸基に転化し、一方、濃アンモニア/水酸化アンモニウムによる反応の失活は、ベンズアミド基またはイソフタルアミド基の形成をもたらす。
【0065】
[(ベンゼン)−NH(C=O)−R]部分におけるようなアミノアシル基を有する安息香酸またはイソフタル酸は、3,5−ジアミノ安息香酸メチルエステルおよびジメチル5−アミノイソフタレート等の適切な芳香族アミンと適切な立体的に嵩高い酸塩化物との間の反応を含む同様の手順を用いて調製され、その反応は、無水のテトラヒドロフランまたはジクロロメタン等の溶媒中、トリエチルアミンもしくは第三級アルキルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、または2,6−ジメチルピリジン等のヒンダード塩基の存在下で行われる。3,5−アルコキシ安息香酸誘導体および5−アルコキシイソフタル酸誘導体は、3,5−ジヒドロキシ安息香酸メチルエステルおよびジメチル5−ヒドロキシイソフタレートの適切な立体的に嵩高いアルキル化剤とのアルキル置換(または、アルキル化)反応によって調製される。そのような立体的に嵩高いアルキル化試薬の例としては、例えば、ハロゲンが、F、Cl、Br、Iから選択される第二級ハロゲン化アルキル;あるいは、対応する離脱基が、メシレート、トシレートまたはトリフレートアニオンであるアルキルメタンスルホネート(通常アルキルメシレートとして知られる)、またはアルキルパラ−トルエンスルホネート(通常アルキルトシレートとして知られる)、またはアルキルトリフルオロメタンスルホネート(通常アルキルトリフレートとして知られる)等のアルカンスルホネートまたはアレーンスルホネート試薬;あるいは、置換される離脱基が、アセテート、ホルメート、プロピオネート等であるアルキルアセテート、アルキルホルメート、アルキルプロピオネート等のカルボン酸の適切なアルキルエステルが挙げられる。上記の置換反応のための適切な極性の非プロトン性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンおよびその他のそのような極性の非プロトン性溶媒が挙げられる。アルキル化反応は、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウム等のマイルドな塩基の存在下で、望ましいアルキル化の度合い、アルキル化剤の離脱基、および使用される反応溶媒によって、約0℃から約120℃まで、または、好ましくは約25℃から約100℃等の温度で適宜行われるが、その反応温度は、上記の範囲の外であることもできる。置換反応の加速のために場合によっては触媒を使用してもよく、適切な触媒としては、ハロゲン化塩、例えばヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウム等が挙げられる。そのアルキル化反応に続いて、そのメチルエステル基は、温かいメタノール中での水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムとの反応によって対応する遊離のカルボン酸基に転化させる。類似のベンズアミドおよびイソフタルアミドは、対応するカルボン酸から、前に記した標準手順を用いてそれらの酸塩化物基に先ず転化し、続いて濃アンモニア/水酸化アンモニウムにより失活させることによってその後、調製される。
【0066】
立体的に嵩高い脂肪族基を含有するフタル酸のエステルおよびアミド誘導体は、市販の無水トリメリット酸の酸塩化物を適切な立体的に嵩高いアルキルアミンまたはアルカノールと、テトラヒドロフランまたはジクロロメタン等の適切な無水の溶媒中、トリエチルアミン等のヒンダード塩基の存在下で反応させることによって調製する。その酸無水物は、その後、メタノール中でNaOHまたはKOHのいずれかにより加水分解することによって得られたフタル酸基に転化する。
【0067】
界面活性剤または表面添加剤は、ロジン天然産物、長鎖または分枝状炭化水素アルコール、アルコールエトキシレート、アクリル系ポリマ、スチレン系コポリマ、α−オレフィンのコポリマ、ビニルピリジンとビニルイミダゾールとビニルピロリジノンとのコポリマ、ポリエステルコポリマ、ポリアミドコポリマ、およびアセタールとアセテートとのコポリマからなる群から選択される。上記の安定剤、およびそれらの組合せは、いずれも、ナノスケール顔料粒子の調製において、0.5重量%から50重量%、1重量%から25重量%までのように変動する量で使用することができる。
【0068】
「ナノスケール」、「ナノスコープ」、または「ナノサイズ」に対してd
50によって表される「平均の」顔料粒径は、150nm未満、または1nm〜120nm、または10nm〜100nmである。
【0069】
アゾ−ベンズイミダゾロン顔料のナノ粒子は、一般に1つ以上のプロセスステップで合成される。その顔料ナノ粒子は、合成中の反応媒体中で直接生成されるが、そのような顔料ナノ粒子の意図した用途のための表面の化学的性質を調整するために、任意の合成後の改良が可能である。そのバルクのアゾ−ベンズイミダゾロン顔料は、最初のプロセスにおいてジアゾ化およびカップリング反応を用いることによって合成し、次いで、その顔料の固形分は、第2のプロセスステップを用いて、その粗製のバルク顔料を、良溶媒を用いて分子状に溶解し、続いて非溶剤の制御された添加により顔料の沈殿を引き起こす顔料再沈殿法により、ナノ粒子の形態に変換することができる。また、ジアゾ化およびカップリングプロセスによるアゾ−ベンズイミダゾロン顔料ナノ粒子の直接合成も使用することができ、望ましい。これらのプロセスを、下のスキーム1および2において概略的に示す。
スキーム1:
【化31】
スキーム2:
【化32】
【0070】
上記のスキーム1および2における概略的反応で示されているもののようなアゾ−ベンズイミダゾロン顔料(本明細書では単にベンズイミダゾロン顔料と称する)のナノスケールの粒子を作製する方法は、少なくとも1つ以上の反応を含む直接合成プロセスである。ジアゾ化は、適切に置換されている芳香族アミンまたはアニリン前駆物質が、直接または間接的に、その対応するジアゾニウム塩に転化される重要反応ステップである。その通常の反応手順は、その前駆物質の水溶液を、亜硝酸HNO
2(亜硝酸ナトリウムの塩酸等の希薄な酸溶液との反応により、現場(in situ)で発生する)等の効果的なジアゾ化剤によるか、または市販されているかまたは濃硫酸中で亜硝酸ナトリウムを混合することによって調製することができるニトロシル硫酸(NSA)を用いて処理することを含む。そのジアゾ化反応は、酸性の水溶液中で、ジアゾニウム塩を熱的に安定に保つために冷たい温度で行われるが、室温以上で行うこともできる。その反応は、媒体中に溶解しているか、またはその媒体中に固体粒子として微細に懸濁しているジアゾニウム塩の形成をもたらす。
【化33】
【化34】
【0071】
第2の溶液または固体懸濁液は、ベンズイミダゾロンカップリング成分(最も普通には、上に示した構造CC1またはCC2)を、一般的には溶解を助けるためのアルカリ性溶液の水性媒体中に溶解または懸濁させることによって調製し、次いでその後、酸および/または塩基により処理して、そのベンズイミダゾロンカップリング成分をジアゾニウム塩溶液との反応に必要な緩衝化した酸性水溶液または緩衝化した微細な懸濁液にする。適切な酸、塩基および緩衝剤としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、酢酸、および酢酸ナトリウムが挙げられる。カップリング剤の溶液または微細な懸濁液は、マイナーな共溶媒として、有機溶媒(例えば、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、メタノール、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等)等のその他の液体を含有することができる。その第2の溶液は、任意の界面活性剤、および前述の立体的に嵩高い安定剤化合物をさらに含有する。この第2の溶液は、ジアゾニウム塩溶液の周囲温度または約10℃から約75℃までのその他の適切な温度での制御された添加を含むカップリング反応である最後の反応ステップを行い、それによって水性スラリ状の懸濁した沈殿物としての顔料固形物を生成するためのより大きな容器に入れる。顔料粒子の品質および特性−例えば、平均の微結晶サイズ、粒子の形および粒子分布等−に影響を及ぼすいくつかの化学的および物理的プロセスパラメータが存在し、これらのプロセスパラメータとしては、反応物としての出発のジアゾ成分およびカップリング成分の相対的化学量論組成、反応物添加の順序と速度、合成において使用される任意の界面活性剤および/または立体安定剤化合物のタイプと相対量(負荷)、液体媒体中の化学種の相対濃度、液体媒体のpH、カップリング反応中の温度、撹拌速度、着色力を増すための加熱等任意の合成後のプロセスステップの能力、そしてまた、最後の粒子の回収および乾燥のための方法も挙げられる。
【0072】
単一のアゾ基を含むアゾ−ベンズイミダゾロン顔料の調製に対しては、出発のジアゾおよびカップリング成分は、ほぼ化学量論的な比(または1:1のモル比)で提供する。カップリング成分は、カップリング媒体中で限定された溶解性を有し得るのに対し、ジアゾ成分は一般に溶解し、カップリング成分のモル数に対して非常に小過剰のジアゾ成分、約0.01から約0.25モル当量まで、または約0.01から約0.10モル当量までの過剰のジアゾ成分を使用することが有利である。ほんのわずかなモル過剰のジアゾ成分を有することによって、不溶性のカップリング成分のすべてが顔料生成物に完全に転化される。その過剰のジアゾ成分は、次に最終生成物を洗浄することによって除去される。過剰の不溶性カップリング成分が使用される場合は、未反応のカップリング成分が最終の製品混合物中に残留し、洗浄によって除去することが困難で、ナノスケール顔料の特性に影響を及ぼす可能性がある。
【0073】
反応条件は、顔料粒子の品質および特性に影響を及ぼし得る。ジアゾ化反応に対して、液体媒体は、ジアゾ成分、すなわちジアゾニウム塩反応物の濃度が、約0.1M〜約1.0M、または約0.2Mから約0.80Mまで、または約0.30Mから約0.60Mまでを超えないように維持しなければならない。望ましくは水溶性で酸混和性試薬、例えば亜硝酸ナトリウムまたはニトロシル硫酸等であるジアゾ化剤の量は、使用されるジアゾ成分のモル量とほぼ化学量論的(または、1:1のモル比)であるべきであるが、非常に小過剰のジアゾ化剤を、ジアゾ成分前駆物質のモル数に対して、約0.005〜約0.20モル当量の過剰なジアゾ化剤の範囲内で使用してもよい。使用することができる酸のタイプとしては、塩酸および硫酸等の適切な鉱酸、ならびに酢酸およびプロピオン酸等の有機酸、またはさまざまな組合せを挙げることができる。着色剤の合成で使用されるジアゾ化反応に対して、その酸反応物は、反応性のニトロシル化種およびその反応において形成される結果としてのジアゾニウム塩を可溶化するための水溶液として供給される。酸反応物の濃度は、ジアゾ前駆物質(限定試薬)のモル数に対して過剰量で使用され、この量は、ジアゾ前駆物質のモル数に対して約1.5から約5.0まで、または約2.0〜約4.0過剰のモル当量の酸の範囲であり得る。
【0074】
ジアゾ化反応は、得られるジアゾニウム塩生成物が熱力学的に安定であることを確保するために低温で行う。そのジアゾ化反応は、約−10℃から約5℃まで、または約−5℃から約3℃まで、または約−1℃から約2℃までの温度で行われる。ニトロシル化剤が、上で開示した合計のジアゾニウム塩濃度を提供するように水溶液中に加えられ、このニトロシル化剤の水溶液がゆっくり加えられる速度は、その反応の規模によって変動し得る。その添加速度は、ジアゾ化反応の過程を通して約−10℃と約5℃の間または約−1℃〜約2℃に内部温度を維持することによって制御する。そのニトロシル化剤の完全な添加に続いて、ジアゾ化反応混合物は、約0.25時間から約2時間、撹拌することができる。
【0075】
スキーム1および2に示されているベンズイミダゾロン顔料の合成は、上で開示した仕様に従って調製したジアゾニウム塩溶液と微細に懸濁した混合物として反応させるカップリング成分(例えばCC1またはCC2)との間の不均一反応を含む。CC1等のカップリング成分は、ジアゾニウム塩とのカップリング反応(スキーム1および2に示されているステップ2)のために必要な弱酸の媒体中に不溶性である。そのカップリング成分は、アルカリ性pHの溶液では溶解できることが見出されるが、これらの条件は、ジアゾニウム塩とのカップリング反応に対しては、後者が、アルカリ性媒体中ではカップリング成分とは反応しないトランス−(または「アンチ」)ジアゾアセテートイオンを形成し得るために、有利ではない。
【0076】
カップリング反応ステップの不均一性のせいで、ベンズイミダゾロン顔料のそれが合成されている間の粒子の成長を制御することは難題である。微細に懸濁したカップリング成分CC1の走査電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)の両方を用いる画像化は、10〜150nmの間の幅および約100から約2000nmまでの範囲の相当に長い粒子の長さを有し、約5:1〜約50:1の大きなアスペクト比(長さ:幅)をもたらすことを明らかにしている。これは、適切なジアゾニウム塩との不均一なカップリング反応によるPigment Yellow 151のようなベンズイミダゾロン顔料のナノ粒子の形成が、2つの完全に溶解する顔料前駆物質の反応よりもより複雑なプロセスであることを示唆している。
【0077】
同様に、開示されている立体的に嵩高い安定剤化合物の多くも、カップリング成分および/または顔料の不十分な溶解特性を有する。立体的に嵩高い安定剤化合物は極性の水素結合基および水性媒体中の可溶化に抵抗する長鎖のアルキルを有する両親媒性の構造である。カップリング反応のステップが成功するためには、ジアゾニウム塩溶液の添加の前に、少なくとも2つの溶解性が乏しいか溶解しない成分−それらはカップリング成分および立体的に嵩高い安定剤である−の効果的な濡れおよび混合が起こらなくてはならない。ジアゾニウム塩と反応する前のカップリング成分混合物中で良好な混和性および濡れを有することによって、立体安定剤とカップリング剤との間の水素結合の相互作用の事前の形成が促進され、微細に懸濁されるカップリング成分の粒径および形態に有利に影響を及ぼすことができ、それは現れるベンズイミダゾロン顔料ナノ粒子の粒径および特性の制御に役立ち得る。
【0078】
実施形態のカップリング反応混合物は、ベンズイミダゾロン顔料を合成するための適切なカップリング成分、立体的に嵩高い安定剤化合物、アルカリ性塩基の成分、少なくとも1つの酸緩衝成分、および任意の水混和性有機溶媒を含んでいる。使用されるカップリング成分の量は、前に説明したように、ジアゾ成分と化学量論的(または1:1のモル比)である。しかしながら、カップリング成分自身は、カップリング反応媒体中で限定された溶解性を有し得るのに対し、ジアゾ成分は溶解し、カップリング成分のモル数に対して非常に小過剰の約0.01から約0.25モル当量まで、または約0.01から約0.10モル当量までの過剰のジアゾ成分を使用することができる。ほんのわずかなモル過剰を有することによって、不溶性のカップリング成分のすべてが顔料生成物に完全に転化される。アルカリ性塩基の成分は、カップリング成分の水溶液中への溶解を促進し、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等の無機塩基から、あるいは、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール、Dytekシリーズのアミン、DABCO(1,8−ジアゾビシクロ[2.2.2]オクタン)等を含む第三級アルキルアミン等の有機非求核性塩基から選択される。カップリング成分のモル数に対して、塩基の過剰が、約2.0から約10.0まで、または約3.0から約8.0までのモル当量で変動するアルカリ性塩基の成分の過剰量を使用することができる。酸成分は、塩基成分およびカップリング成分を中和し、緩衝処理した水性媒体中のカップリング成分の微細な再沈殿を引き起こす。普通の無機酸および有機酸、例えば、塩酸または酢酸等を使用することができ、カップリング反応混合物を準備するために使用したアルカリ性塩基の成分の合計量に対して1:1のモル比が使用され、それによって、弱酸性の緩衝媒体を提供する。
【0079】
立体安定剤化合物は、固体または液体の形で、あるいは有機溶媒中の溶液としてカップリング混合物中に直接導入することができる。加えられる立体安定剤化合物の量は、その立体安定剤が有機溶媒中に分散、乳化または溶解できる形にされる限りは変化させることができ、ベンズイミダゾロン顔料の最終収量(質量)を基準として、約0.01重量%から約50重量%まで、または約0.5重量%から約25重量%まで、約5重量%から約10重量%までであり得る。適切な水混和性有機溶媒を、それがジアゾニウム塩反応物または残留ニトロシル化種と反応しないことを条件として、使用することができ、例としては、脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ジメチルスルホキシド、エチルメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、アルキレングリコール、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、Dowanol(登録商標)等およびそれらのモノ−またはジ−アルキルエーテル、等が挙げられる。特に適切な溶媒としては、脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびn−ブタノール、ジメチルスルホキシド、およびテトラヒドロフラン、またはそれらの組合せが挙げられる。任意の有機溶媒の量は、カップリング成分混合物の合計液体体積を基準として約0から約50体積%まで、好ましくは約2から約20体積%までの範囲であり得る。
【0080】
立体的に嵩高い安定剤化合物は、ジアゾニウム塩前駆物質を添加する前に、カップリング媒体中に予め分散または乳化することができる。そのカップリング成分混合物は、いくつかの方法で調製することができるが、そのプロセスの一定の態様は基本的に同じである。例えば、カップリング成分は、アルカリ性塩基の水溶液中に先ず溶解することができ、立体安定剤は、カップリング成分の同じアルカリ性溶液中に直接溶解または分散させることができ、あるいは有機溶媒中、または別の溶液中に溶解または分散させて、それを次にカップリング成分混合物中に移すことができる。安定剤化合物の分散、乳化または可溶化を促進するために、任意の有機溶媒の存在下であっても、加熱または高せん断混合を使用することができる。良好な分散のためには、安定剤を水性カップリング媒体中に、10〜100℃の範囲の温度で組み込むことが有利である。その安定剤は、また、約3から12までの範囲のpHの水性カップリング媒体に導入することができる。立体安定剤を添加するカップリング媒体のpHは、その特定の安定剤の酸または塩基に対する安定性次第であり得、そのpHは、約1から14までの範囲であり得る。その安定剤は、pHが2〜9、または4〜7の間で変化するカップリング混合物に加えることができる。その安定剤は、適切な混合および分散が起こり得る限りは、カップリング混合物に任意の適切な速さで加えることができる。
【0081】
ジアゾニウム塩溶液との効果的なカップリング反応を確保するもの(換言すれば、ベンズイミダゾロン顔料のナノスケールの粒子を提供するもの)としては、1)カップリング成分混合物を調製するための反応物の添加順序、および2)カップリング反応における主要な反応物(すなわち、ジアゾニウム塩、カップリング成分、および立体安定剤)の添加順序が挙げられる。その他のプロセスパラメータ、例えば、撹拌速度、pHおよびカップリング反応ステップ中の温度等が、効果的な顔料のナノ粒子の形成を確かなものにする。
【0082】
反応物の添加の順序は、1)立体安定剤(そのまままたは有機溶媒中のいずれか)をカップリング成分のアルカリ溶液中に直接加え、その後酸成分を加えて緩衝処理した酸性媒体中でカップリング成分の微細な再沈殿を引き起こすか、または2)カップリング成分のアルカリ溶液および立体安定剤(そのまままたは有機溶媒中のいずれか)を、用意した酸の水溶液に別々に連続して加え、酸性条件下で立体安定剤化合物を存在させてカップリング成分の微細な再沈殿を引き起こすものであり得る。これらのプロセスにおいては、両方とも、カップリング成分は、非共有的に会合した立体安定剤化合物を含む微粒子懸濁液の状態となっている。
【0083】
最終のカップリング反応に対して、立体安定剤が存在する中でのこれらの主要な反応物の添加の順序および速さは、最終のベンズイミダゾロン顔料粒子の物理的および性能特性に対して影響を有し得る。複数の実施形態において、本明細書では、「連続的添加」(
図2における方法A)および「同時添加」(
図4における方法B)と称されるベンズイミダゾロン顔料ナノ粒子を形成するための2つの異なる一般的方法が開発された。方法Aは、工業的顔料製造においてより普通に実施されるステップを含み、そこでは、2つの顔料前駆物質(ジアゾおよびカップリング成分)が、分散または乳化した立体安定剤化合物を含有する反応混合物に時を異にして連続して加えられる。
【0084】
方法Aにおいて、微細に懸濁したカップリング成分とジアゾ成分の間のカップリング反応は、不均一であり、言い換えると、顔料前駆物質の1つ(多くの場合そのカップリング成分)は固相として存在し、一方別の顔料前駆物質(そのジアゾニウム塩)は、溶解性である。立体的に嵩高い安定剤化合物は、ジアゾニウム塩溶液の添加の前に、カップリング混合物中に導入する。その立体安定剤の物理的形態は、この不均一カップリング反応の動力学における役割を果たすことができ、立体安定剤はその反応中の水素結合性の界面活性剤として役割を果たし、顔料ナノ粒子の形成をもたらす。例えば、方法Aに従い、m=11およびn=9である表1の立体安定剤化合物#2を用いるPigment Yellow 151の合成において、形成された粒子は、矩形状のナノ粒子で、
図3に示されているような小さな凝集体であり、約2から約5までの範囲の長さ:幅のアスペクト比を有することがSTEM画像形成により観察され、動的光散乱により測定すると、約50nmから約200nmまで、より典型的には約75nmから約150nmまでの範囲である平均粒径を有した。
【0085】
方法Bは、予め分散または乳化した立体安定剤化合物を含有する最終反応混合物中にジアゾ成分(酸性)およびカップリング成分(アルカリ性である)の両方の均一な溶液の同時な添加を含む。方法Bの利点は、カップリング媒体中の大量の緩衝溶液を必要とすることなく、2つの顔料前駆物質の均一な溶液が、より制御できる希薄条件下で混合されることであるが、カップリング反応の速度が2つの成分の混合の速度より速いことが条件である。その顔料生成物は、反応媒体中で沈殿するナノ粒子として形成される。その顔料ナノ粒子は、真空濾過もしくは交差流濾過(crossflow filtration)または遠心分離等の標準的な操作によって回収することができ、凍結乾燥等の非加熱方法によって乾燥する。
【0086】
反応物流の添加の速度は、カップリング反応ステップを通して一定に保たれ、反応の規模、良好な反応を確保する内部温度、pHおよび低粘度を調整する能力に応じて、約1.0mL/分から約5mL/分までの範囲であり得る。
【0087】
カップリング反応混合物の内部温度は、ベンズイミダゾロン顔料ナノ粒子の水性スラリを生成させるためには、約10℃から約60℃まで、または約15℃から約30℃の範囲であり得る。30℃より高い内部温度は、最終顔料の粒径が望ましくないように増加する原因となり得る。化学反応を加熱する利点として、速い反応時間およびベンズイミダゾロン顔料の色の発現のような最終生成物の成長が挙げられるものの、加熱は、望ましくない粒子の凝集および結晶粒粗大化(coarsening)を促進することが知られている。pHは、約2〜約7、または約3.5〜約6.5の範囲に維持することができる。pHがこの範囲の外である場合、副反応が起こって、除去することが困難であり、最終生成物の特性を変化させる可能性のある望ましくない副生成物の形成がもたらされ得る。
【0088】
カップリング反応を速めるために、内部温度を高めることに代わるものは、撹拌速度を高めることである。顔料が形成される際、その混合物はかなり増粘し、十分な混合を達成するためには強力な機械的撹拌を必要とする。スラリの粘度を非常に少量の適切な界面活性剤、例えば、数滴の2−エチルヘキサノールを加えることによって低下させることが可能であり得、それはまた、特により大きな合成規模の有益な脱泡効果を提供することもできる。粘度および発泡を制御するための界面活性剤の利点と組み合わされた反応混合物を激しく撹拌している間に出されるせん断力は、また、顔料ナノ粒子の粒度および粒度分布を低下させる相乗的な利点も提供することができる。
【0089】
方法AおよびBは、両方とも、適切な立体的に嵩高い安定剤化合物および任意の共溶媒の使用と組み合わせて、粒径および粒度分布の制御を可能とし、そして望ましい顔料ナノ粒子を形成するさまざまな有利なプロセス上の特性を提供する。立体的に嵩高い安定剤および任意の共溶媒がない状態では、これら2つの方法のどちらもナノ粒子が優勢のベンズイミダゾロン顔料は生成せず、その代わり、平均粒度(動的光散乱によって測定されるZ平均)でサブミクロンサイズの約150nmから1000nm前後のマイクロスケールの粒径まで変動する広い分布の細長い棒状の顔料粒子および凝集体を生成する。
【0090】
顔料ナノ粒子のスラリは、これ以上処理も加工もせず、代わりに真空濾過または遠心分離法によって直ちに分離する。色発現を助けるために濃酢酸中で製品を煮沸することを必要とした既知のプロセスに反して、立体的に嵩高い安定剤化合物が使用される場合はそのような後からの処理は必要ない。その顔料固形分は、顔料の粒子表面としっかりと会合または結合していない過剰な塩または添加剤を除去するために、脱イオン水で存分に洗浄することができる。その顔料固形分は、熱によるバルク乾燥の間の一次ナノ粒子の融合を防ぐために、高真空下の凍結乾燥によるか、または約25〜50℃の温度での真空オーブン乾燥によって乾燥させる。得られる顔料は、TEM(透過電子顕微鏡)によって画像化すると、約50nmから約150nmまで、大部分は約75nm〜約125nmの長さを有する棒状のナノ粒子を示す主にナノスケールの一次粒子およびゆるく塊になった高品質のナノスケールの粒子凝集体からなる。これらの粒子を、n−ブタノール中のコロイド分散体として、動的光散乱技術によって、平均粒径について測定したとき、その値は、約80nmから約200nmまで、または約100nmから約150nmまでの範囲であった。ここで、動的光散乱によって測定される平均粒径d
50またはZ平均は、液体分散の中でブラウン運動により回転して形を変えている非球形顔料粒子の流体力学半径を、動いている粒子から散乱される入射光線の強度を測定することによって測定する光学技術であることを述べておかなければならない。
【0091】
上記の方法を用いるナノスケールのベンズイミダゾロン顔料粒子の形状は、棒状であるが、小板(platelet)、針状、角柱状、実質的な球状等、いくつかのその他の形態の1つ以上であることができ、ナノスケール顔料粒子のアスペクト比は、1:1から約10:1まで、または1:1から約7:1または約5:1までの範囲であり得る。
【0092】
より小さい粒径を有するPigment Yellow 151およびPigment Red 175等のベンズイミダゾロン顔料の顔料粒子を、立体的に嵩高い安定剤を使用しない界面活性剤単独の使用(例えば、ロジンタイプの表面剤のみを使用)により、採用される濃度およびプロセス条件によっては、上記の方法によって同様に調製することもできようが、その顔料生成物は、ナノスケールの粒子を主に示すことはなく、またその粒子は均一な形態を示さないであろう。立体的に嵩高い安定剤化合物を使用しない場合、上記の方法は、平均粒子直径が150nmから1000nmを超え、約5:1を超える大きな(長さ:幅の)アスペクト比を有する幅広い分布の細長い棒状の粒子の凝集体を一般に生成する。そのような粒子は、コーティング応用のためのマトリックス中に湿潤および/または分散させるのがどちらも非常に困難であり、一般に不十分な色特性を与える。適切な立体的に嵩高い安定剤化合物の、場合によって少量のロジンタイプの界面活性剤またはアルコールエトキシレート等の適切な界面活性剤と組み合わせた使用は、前述の合成方法を用いることにより、ナノスケールの寸法、より狭い粒径分布、および約5:1未満の低いアスペクト比を有する最小の顔料粒子を提供するであろう。
【0093】
形成されたナノスケール顔料粒子組成物は、さまざまなインクおよびコーティング組成物中、例えば、通常のペン、マーカ等で使用されるインクを含めた液状(水性または非水性)印刷用インクビヒクル中等、液体インクジェットインク組成物、固形または相変化インク組成物、塗料および自動車用コーティング等における着色剤として使用することができる。その有色のナノ粒子は、約60℃〜約130℃の融解温度を有する固形および相変化インク、溶剤系液体インクまたはUV硬化性等の放射線硬化性液体インク、および水性インクさえも含めたさまざまなインクビヒクル中に配合することができる。
【0094】
そのナノスケールのベンズイミダゾロン顔料粒子組成物は、その組成物に特定の色を提供することが求められるさまざまなその他の用途で使用することができる。例えば、組成物は、塗料、樹脂およびプラスチック、レンズ、光学フィルタ等のための着色剤として使用することができる。組成物はトナー組成物用に使用することができる。そのトナー粒子は、キャリヤ粒子と順次混合して現像剤組成物を形成することができる。そのトナーおよび現像剤組成物は、さまざまな電子写真印刷システムにおいて使用することができる。
【0095】
ベンズイミダゾロン顔料のナノスケール粒子組成物は、光または電子導電性材料およびデバイスを利用するさまざまなその他の用途で使用することができる。例えば、有機光導電性材料は、光受容体層状デバイスにおける画像形成部材として使用される。
【0096】
ベンズイミダゾロン顔料のナノスケール粒子組成物は、(染料で感光性にする)太陽電池における有機光導電性材料として使用することができよう。ナノ顔料は、光を受けると電子正孔対を発生する光受容層として機能する層中に単独でまたは他の材料との組合せで組み込むことができる。これらの用途に対して顔料は染料の代わりに使用することができ、その場合、ナノスケールの粒子径を有する顔料は、光導電層内のより容易な処理可能性および分散のおかげで好ましい。その上、そのようなナノスケールの材料は、粒径がナノスケールの寸法であるときは、場合によっては、サイズを調節できる光学および電子特性を示す。ベンズイミダゾロン以外のその他の種類のナノ顔料を、これらのデバイス中で同様に使用することができる。
【0097】
ベンズイミダゾロンナノ粒子のその他の応用としては、生物学的/化学的検出のためのセンサにおけるそれらの使用が挙げられる。有機ナノ粒子は、大きさを調節できる光学的および電子的特性を有することが実証されている。ベンズイミダゾロンナノ粒子の薄膜は、ナノ粒子の光学的および/または電子的特性における変化に基づく変換スキームを用いる単純で有用なセンサプラットフォームとして役立つことができる。例えば、ベンズイミダゾロン顔料は高度に着色されている。そのナノ粒子の色特性は、揮発性の有機化合物等の一定の化学検体の存在によって影響され得る。同様に、ベンズイミダゾロン分子の水素結合基も、補足的な水素結合基を有するナノスケールの生物学的存在に対する分子認識が可能な部位を提供することができる。ナノ粒子とナノスケールの生物学的存在、例えば、DNA、RNA、タンパク質、酵素等との間の結合事象は、UV−Vis、FT−IR、ラマン、および/または蛍光分光法等の光学分光技術を用いて検出することができる。
【実施例】
【0098】
(比較例1)
<(立体安定剤でも界面活性剤でもない)Pigment Yellow 151の合成>
250mLの丸底フラスコに、アントラニル酸(6.0g、Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手できる)、脱イオン水(80mL)および5MのHCl水溶液(20mL)を加える。その混合物を室温ですべての固体が溶解するまで撹拌し、次いで0℃に冷却する。亜硝酸(3.2g)の溶液を脱イオン水(8mL)に溶解し、次に、アントラニル酸の溶液に、0〜5℃の混合物内の内部温度範囲を維持する速さで滴下して加える。ジアゾ化が完了したら、その溶液をさらに0.5時間撹拌する。カップリング成分のための2番目の混合物を、500mLの容器に脱イオン水(100mL)および水酸化ナトリウム(5.5g)を加え、撹拌して溶解させ、次にこの溶液に勢いよく撹拌しながら5−(アセトアセトアミド)−2−ベンズイミダゾロン(10.5g、TCI America、Portland、ORから入手できる)をすべての固体が溶解するまで加える。氷酢酸(15mL)、5MのNaOH溶液(30mL)および脱イオン水(200mL)を含有する別の溶液を、次に、カップリング成分のアルカリ溶液中に、勢いよく撹拌しながら滴下して加えると、その後そのカップリング成分は粒子の白色懸濁液として沈殿し、その混合物は弱酸性となる。カップリング反応のために、冷却されジアゾ化した混合物を、勢いよく撹拌しながらカップリング成分の懸濁液中に滴下してゆっくり加え、顔料固形物の橙黄色のスラリを生成する。そのスラリを室温でさらに2時間撹拌すると、その時間の後は、その顔料は真空濾過によって単離され、数容積の脱イオン水(250mLの3部)によりすすぎ、次いで凍結乾燥させる。顔料の橙黄色の顆粒が得られ、TEM画像は、200nmから500nmまでの範囲の長さを有している、高いアスペクト比を有する棒の形をした大きい粒子の凝集体を示す。
【0099】
(比較例2)
<(2−エチルヘキサノール界面活性剤のみの存在下での)Pigment Yellow 151の合成>
250mLの丸底フラスコに、アントラニル酸(3.0g、Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手できる)、脱イオン水(40mL)および5MのHCl水溶液(10mL)を加える。その混合物を室温ですべての固体が溶解するまで撹拌し、次いで0℃に冷却する。亜硝酸ナトリウム(1.6g)を脱イオン水(5mL)に溶解し、次に、アントラニル酸の溶液に、0〜5℃の混合物内の内部温度範囲を維持する速さで滴下して加える。ジアゾ化が完了したら、その溶液をさらに0.5時間撹拌する。2番目の混合物を、250mLの容器に脱イオン水(40mL)および水酸化ナトリウム(2.8g)を加え、撹拌して溶解させ、次にこの溶液に勢いよく撹拌しながら5−(アセトアセトアミド)−2−ベンズイミダゾロン(5.25g、TCI America、Portland、ORから入手できる)を加え、続いて2−エチルヘキサノールを界面活性剤として加えた後(4mL、Sigma−Aldrich、Milwaukee、WIから入手できる)、すべての固体が溶解するまで撹拌することにより調製する。氷酢酸(7.5mL)、5MのNaOH溶液(15mL)および脱イオン水(80mL)を含有する別の溶液を、次に、カップリング成分のアルカリ溶液中に、勢いよく撹拌しながら滴下して加えると、その後そのカップリング成分は粒子の白色懸濁液として沈殿し、混合物は弱酸性となる。冷たいジアゾ化した混合物を、勢いよく撹拌しながらカップリング成分の懸濁液中に滴下して加え、顔料固形物の暗黄色のスラリを生成させ、それを室温でさらに2時間撹拌すると、その時間の後は、その顔料は明るい黄色である。その顔料固形分を真空濾過によって集め、3容積の脱イオン水(それぞれ200mL)により、次にメタノール(50mL)ですすぎ、最終のすすぎは脱イオン水(50mL)を用い、その後に凍結乾燥させる。顔料の鮮やかな黄色の顆粒が得られ、TEM画像は、約75nmから約250nmまでの範囲の長さを有する小さい棒の形をした粒子の凝集体を示す。
【0100】
(比較例3)
<Pigment Yellow 151の従来型の合成>
この比較例は、ドイツ国特許DE3140141に記載されている従来法に従う。
【0101】
2.0g(0.0146mol)のアントラニル酸、35mLの脱イオン水、および8.5mLの5Mの塩酸を、温度計を備えた3つ口丸底フラスコ中で磁気撹拌により撹拌しながら混合する。その透明な溶液を、0℃より下まで冷却した後、6mLの脱イオン水に溶解した1.058gのNaNO
2(0.0153mol)の溶液(約2.5MのNaNO
2)を、内温を0℃より下に維持する速さで滴下して加える。そのジアゾ溶液を少なくとも30分間低温で撹拌したまま保つ。2番目の溶液を、3.47g(0.0149mol)の5−アセトアセチルアミノ−ベンズイミダゾロン(TCI America)を1.715g(0.0429mol)のNaOHを含有する10mLの脱イオン水に溶解した塩基性溶液と混合することによって用意する。この2番目の溶液を、次に、195mLの脱イオン水、6mLの氷酢酸(0.105mol)および水酸化ナトリウム(2.29g、0.0573mol)を含有する3番目の混合物に加えて、白色のカップリング成分の微細に懸濁したコロイド状の溶液を生じさせる。
【0102】
冷たいジアゾ溶液を、次に、勢いよく撹拌されているそのカップリング成分の懸濁液に室温で滴下して加え、黄色の顔料スラリを生成させる。その黄色の混合物を少なくとも6時間にわたって撹拌して色の発現を完了させ、その時間の後、そのスラリを真空下でVersapor0.8μmフィルタ膜(PALL Corp.)により濾過する。その顔料のウェットケーキを200mLの脱イオン水に再びスラリ化して次に真空濾過することをあと2回繰り返し、その時間の後、その顔料のウェットケーキを48時間凍結乾燥させる。その最終生成物は、暗黄色の粉末(4.96g、収率89%)であり、TEM画像形成により分析すると、約200nmから約500nmまでの範囲の平均長さを有する細長い棒状の粒子の大きな凝集体および塊からなる。
【0103】
(実施例1)
<アルキル化安息香酸立体安定剤(表1の項目#10)の合成>
【化35】
100mLの容器中、1.15g(3.13mmol)の2−デシルテトラデカン酸(Sasol AmericaからISOCARB 24として市販されている)を、20mLのTHFに不活性雰囲気下で撹拌して溶解する。その溶液を0℃に冷却し、1.1mL(12.6mmol)の塩化オキサリルをゆっくり滴下して加える。4滴のDMFを次に加えると、HClが発生し始める。その反応物を次に室温までゆっくり温める。ガスの発生が止んだ後、その反応物をさらに30分間撹拌させ、その後溶媒を回転蒸発によって除去する。その粗製の酸塩化物を次に10mLの乾燥したTHFに溶解し、不活性雰囲気下で短時間保存する。
【0104】
2番目の100mLの容器に、5mLの乾燥したTHFに不活性雰囲気下で溶解した260.8mg(1.9mmol)のメチル3,5−ジアミノベンゾエートを加える。トリエチルアミン(0.7mL、4.99mmol)を次に加え、その溶液を0℃に冷却する。次に、粗製の酸塩化物溶液を、そのメチル3,5−ジアミノベンゾエート溶液にゆっくり滴下して加える。その反応物を次に室温までゆっくり温める。一晩撹拌した後、その反応を水で失活させ、THFを回転蒸発によって除去する。その粗製の生成物残留物を、次に50mLのジエチルエーテル中に溶解し、脱イオン水で洗浄する。そのエーテル層を分離し、濃縮して、メチル3,5−ビス(2−デシルテトラデカンアミド)ベンゾエートの構造と一致する
1Hおよび
13CのNMRスペクトルを与える1.17gの淡いピンクの固体を生じさせる。
【0105】
その粗製のメチル3,5−ビス(2−デシルテトラデカンアミド)ベンゾエートを、次に、0.38gのKOH(5.77mmol)および20mLのMeOHと混合し、加熱して還流させる。脱イオン水(10mL)を次に加え、その加熱を継続する。その反応物を次に油相の形成がもたらされる室温まで冷却する。ジエチルエーテル(20mL)を加えてその油相を溶解し、それを、1MのHCl(30mL)、続いて0.1MのHCl(30mL)、次に脱イオン水(それぞれ30mL)で2回、連続して洗浄する。そのエーテル層を濃縮し、真空中で乾燥後、淡褐色のワックス様の固体(1.33g、99%)を生じさせる。その
1Hおよび
13CのNMRスペクトルは、3,5−ビス(2−デシルテトラデカンアミド)安息香酸(表1の項目#10)の構造と一致する。
【0106】
(実施例2)
<5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタル酸立体安定剤(項目#53、表1)の合成>
【化36】
500mLの容器に、7.65g(20.8mmol)の2−デシルテトラデカン酸(ISOCARB 24、Sasol)を加え、100mLのTHF中に不活性雰囲気下で撹拌して懸濁させる。その溶液を次に0℃に冷却し、その後3.5mL(42mmol)の塩化オキサリルをゆっくり滴下して加える。0.28mLのDMF(3.62mmol)を次に加えると、HClが発生を開始する。10分後そのガスの発生が止み、その反応物をゆっくり室温まで温め、3時間撹拌して透明な無色の溶液を生じさせる。その溶媒を次に回転蒸発によって除去し、淡黄色のシロップを生じさせる。
【0107】
250mLの容器中で、4.40gのジメチル5−アミノイソフタレート(Aldrich、21.0mmol)を、100mLの乾燥したTHF中に磁気撹拌によりその間不活性雰囲気下で懸濁させる。そのジメチル5−アミノイソフタレートを0℃に冷却し、そこに氷のように冷たい80mLの乾燥したTHF中の粗製の酸塩化物の懸濁液をゆっくり滴下して加える。その反応物を次に室温までゆっくり温める。一晩の撹拌後、10mLの脱イオン水を加え、THFを回転蒸発によって除去する。その粗製の残留物を、次に250mLの酢酸エチル中に溶解し、それを3回連続して100mLずつの脱イオン水により洗浄する。その酢酸エチルを次に回転蒸発によって有機相から除去し、その生成物を真空中で乾燥して粗製のジメチル5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタレート(12.56g)を淡黄色固体として生じさせる。
【0108】
その粗製のジメチル5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタレート、4.67gのKOH(0.0832mol)、および100mLのMeOHを、500mLの容器に加え、その混合物を加熱して還流させる。一晩還流させた後、その反応物を次に室温まで冷却し、濁った赤味のあるオレンジ色の混合物を生じさせ、それに7mLの濃HClを加えると白色沈殿を生じる。その沈殿物を吸引濾過により集め、脱イオン水で洗浄し、次いで、真空中で乾燥してオフホワイトの粉末(11.7g、収率101%)を生じさせる。その固体の
1Hおよび
13CのNMRスペクトルは、5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタル酸(表1の項目#53)の構造と一致する。
【0109】
(実施例3)
<立体安定剤を用いるPigment Yellow 151ナノ粒子の合成>
温度計を備えた100mLの容器に、1.86gのアントラニル酸(13.6mmol)、25mLの脱イオン水、および6.5mLの5Mの塩酸を磁気撹拌により混合する。その透明な溶液を0℃に冷却した後、1mLの氷のように冷たい6.0MのNaNO
2(14.9mmol)の水溶液を0℃の内温を維持する速度で加える。この溶液を次に少なくとも30分間0℃で撹拌させる。
【0110】
500mLの容器に100mLの脱イオン水を加えた。勢いよく撹拌しながら、実施例1により用意した0.500gの3,5−ビス(2’−デシルテトラデカンアミド安息香酸)(理論顔料収量の10重量%、0.585mmol)の12.5mLのイソプロパノール中の溶液を、次にゆっくり滴下して加える。5−アセトアセチルアミノ−ベンズイミダゾロン(3.17g、13.6mmol、TCI America)を次に加え、続いて10.5mLの5MのNaOHおよび5.5mLの氷酢酸の溶液をゆっくり滴下して加えることによって微細に分散した白色固体の均一な懸濁液を生じさせる。
【0111】
ステップIからの冷たいジアゾ溶液を、ステップIIからのカップリング成分の勢いよく撹拌されている酸性の懸濁液に室温で滴下して加え、それによって黄色の顔料スラリを生成させる。一晩撹拌した後、その固体を吸引濾過によって集める。そのウェットケーキを2回新鮮な水中に再スラリ化し、各回毎に真空濾過し、その後凍結乾燥して橙黄色の粉末(4.93g、95%の収率)を生じさせる。電子顕微鏡画像(SEM/STEM)は、低いアスペクト比および40nmと400nmの間で変動し、大部分が120nm未満である長さを有する細長いナノ粒子を示す。その試料のコロイド状溶液(n−BuOH、0.01mg/mL)の動的光散乱(DLS)分析は、175nmの平均有効流体力学的径(average effective hydrodynamic diameter)(D
eff)(PDI=0.176)を与える。
【0112】
(実施例4)
<立体安定剤を用いるPigment Yellow 151ナノ粒子の合成>
1.80g(13.1mmol)のアントラニル酸、25mLの脱イオン水、および6.5mLの5Mの塩酸を、温度計を備えた3つ口丸底フラスコ中で磁気撹拌により撹拌しながら混合する。その透明な溶液を、0℃より下まで冷却し、その後、0.99gのNaNO
2(14.3mmol)の2.5mLの脱イオン水中の氷のように冷たい溶液を、0℃より低い内温を維持する速さで加える。そのジアゾ溶液を少なくとも30分間冷たいまま撹拌しながら保つ。
【0113】
実施例2に従って用意した5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタル酸(理論顔料収量の10重量%;0.504g、0.95mmol)を、10mLのDMSOに溶解し、撹拌している190mLの脱イオン水に滴下しながら加えて微細な懸濁液を生じさせる。18mLの5MのNaOHに溶解した5−アセトアセチルアミノ−ベンズイミダゾロン(3.05g、13.1mmol;TCI America)を次にその混合物に加える。濃酢酸(5.5mL)を次にゆっくり加えて、白色固体の均一な懸濁液を生じさせる。
【0114】
ステップIからの冷たいジアゾ溶液を、ステップIIの項で用意したカップリング成分の勢いよく撹拌されている酸性の懸濁液に室温で滴下しながら加える。一晩撹拌後、黄色の顔料スラリが生じるので、その固体を真空濾過によって集める。そのウェットケーキを2回新鮮な水中に再スラリ化して真空濾過によって集めた後、凍結乾燥して黄色の粉末(4.38g;88%の収率)を生じさせる。電子顕微鏡(SEM/STEM)画像は、低いアスペクト比および30nmと170nmの間で、大部分が100nm未満である長さを有する細長いナノ粒子を示す。その試料のコロイド状溶液(n−BuOH、0.01mg/mL)の動的光散乱(DLS)分析は、147nmの平均有効流体力学的径(D
eff)(PDI=0.078)を与える。