特許第5693152号(P5693152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5693152
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】車両の油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/06 20060101AFI20150312BHJP
   B60K 6/48 20071001ALN20150312BHJP
   B60K 6/54 20071001ALN20150312BHJP
   B60W 10/02 20060101ALN20150312BHJP
   B60W 20/00 20060101ALN20150312BHJP
【FI】
   F16H61/06ZHV
   !B60K6/48
   !B60K6/54
   !B60K6/20 360
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-245724(P2010-245724)
(22)【出願日】2010年11月1日
(65)【公開番号】特開2012-97812(P2012-97812A)
(43)【公開日】2012年5月24日
【審査請求日】2013年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】持山 真也
(72)【発明者】
【氏名】山本 英晴
【審査官】 河端 賢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−188807(JP,A)
【文献】 特開2010−111193(JP,A)
【文献】 特開2010−201962(JP,A)
【文献】 特開2010−174934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/06
B60K 6/48
B60K 6/54
B60W 10/02
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と駆動輪との間に介装され、前記駆動源と前記駆動輪との間で伝達されるトルクを断接する摩擦締結要素に供給する締結油圧を制御する車両の油圧制御装置において、
前記摩擦締結要素の目標締結油圧を演算する目標締結油圧演算手段と、
前記駆動源を回転数制御することにより、前記摩擦締結要素の駆動源側の回転数が、前記摩擦締結要素の駆動輪側の回転数よりも高い回転数となるようにスリップ制御するスリップ制御手段と、
前記摩擦締結要素へ供給する締結油圧を制御するソレノイドバルブと、
前記目標締結油圧が高くなるほど、前記目標締結油圧に対応する指令電流が高くなる関係を示すマップと、
前記マップに基づいて、前記ソレノイドバルブに対して前記指令電流を出力する指令電流出力手段と、
前記マップの前記目標締結油圧と前記指示電流の関係を補正する補正手段と、
前記スリップ制御中に車両停止と判定した場合に、前記スリップ制御と前記駆動源の前記回転数制御とを維持したまま、前記摩擦締結要素が完全解放状態とならない範囲で、車両停止の前記判定の後に、前記摩擦締結要素に供給する油圧を低下させる油圧低下手段と、
を有し、
前記補正手段は、前記油圧低下手段により前記摩擦締結要素に供給する油圧を低下させる場合に、補正前の前記マップの前記目標締結油圧の変化量に対する前記指令電流の変化量に対して、補正後の前記目標締結油圧の変化量に対する前記指令電流の変化量が小さくなるように補正することを特徴とする車両の油圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の油圧制御装置において、
前記車両の油圧制御装置を車両搭載前に前記ソレノイドバルブを作動させて、前記ソレノイドバルブを駆動する電流と、前記摩擦締結要素へ供給される油圧との関係を、前記油圧の所定範囲内で作動点として複数計測し、
前記マップは、予め用意された前記作動点の特性が異なる複数のマップのうち、計測した複数の前記作動点の特性と最も近い1つのマップを選択したものであって、
前記作動点を計測する前記油圧の前記所定範囲のうち、最も小さい油圧を第1の閾値とし、
前記補正手段は、前記第1の閾値より低い目標締結油圧において、前記目標締結油圧の変化量に対する前記指令電流の変化量を補正することを特徴とする車両の油圧制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の油圧制御装置において、
前記マップは、前記目標締結油圧に対する前記指令電流の関係を示す複数の点を変曲点とし、該複数の変曲点を直線で結んだものであって、
前記複数の変曲点のうち、油圧が最も小さい変曲点の油圧よりも大きく、かつ、前記第1の閾値よりも大きい油圧を第2の閾値とし、
前記補正手段は、前記第1の閾値より低い目標締結油圧において、前記目標締結油圧の変化量に対する前記指令電流の変化量が、前記第2の閾値における前記マップの前記目標締結油圧の変化量に対する前記指令電流の変化量となるように補正を行うことを特徴とする車両の油圧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、下記の特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報では、発進摩擦要素の締結開始判定後、第2ブレーキを滑り締結させることにより、駆動力となる出力トルクをコントロールしながら発進するWSC制御が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−77981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
WSC制御中に、運転者がブレーキなどを踏み込んで停車状態となると、クラッチ(第2ブレーキ)がスリップ状態のまま維持されるため、クラッチが発熱し、クラッチの劣化につながる。クラッチの発熱を抑制するためには、クラッチへの入力トルクを下げれば良い。そこで、入力トルクを下げるためにクラッチの伝達トルク容量を下げることが考えられる。クラッチの伝達トルク容量を下げるにはクラッチを締結する油圧を下げることとなるが、このとき指示油圧に対して実油圧が一致するようにフィードバック制御が行われる。
【0005】
通常走行時のクラッチの伝達トルク容量の制御領域に対して、WSC制御中であって停車状態のときのクラッチの伝達トルク容量の制御領域は非常に低い。そのため、WSC制御中にクラッチの締結油圧を下げるように制御すると、フィードバック制御を行なったとしても、クラッチが完全解放状態になりやすい。
【0006】
完全解放状態となっているときに、運転者がブレーキを離して発進しようとするとクラッチが完全解放状態から締結状態に移行することとなり、この移行時にショックが生じるおそれがある。
【0007】
また、クラッチが完全解放状態になることを避けるために、クラッチの締結油圧を高めに制御するとクラッチの入力トルクが大きくなり、クラッチの発熱を抑制することができない。
本発明は、上記問題に着目されたもので、その目的とするところは、クラッチ(摩擦締結要素)の伝達トルク容量が低い制御領域において、クラッチ制御の精度を向上して、クラッチの発熱を抑制しつつ、発進時のショックの発生を低減することができる車両の油圧制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明においては、駆動源を回転数制御することにより、摩擦締結要素の駆動源側の回転数が、摩擦締結要素の駆動輪側の回転数よりも高い回転数となるように制御するスリップ制御中に、車両停止と判定した場合に、スリップ制御と駆動源の前記回転数制御とを維持したまま、摩擦締結要素が完全解放状態とならない範囲で、車両停止の前記判定の後に、摩擦締結要素に供給する油圧を低下させる場合に、補正前のマップの目標締結油圧の変化量に対する指令電流の変化量に対して、補正後の前記目標締結油圧の変化量に対する前記指令電流の変化量が小さくなるように補正するようにした。

【発明の効果】
【0009】
よって、摩擦締結要素の伝達トルク容量が低い制御領域において、摩擦締結要素制御の精度を向上して、クラッチの発熱を抑制しつつ、発進時のショックの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
図2】実施例1の統合コントローラの制御ブロック図である。
図3】実施例1の目標駆動トルクマップである。
図4】実施例1のモードマップ選択部の選択ロジックを表す概略図である。
図5】実施例1の通常モードマップである。
図6】実施例1のMWSCモードマップである。
図7】実施例1の目標充放電量マップである。
図8】実施例1の第2クラッチの目標締結油圧-指令電流マップのである。
図9】実施例1のWSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図である。
図10】実施例1のWSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。
図11】実施例1のエンジン回転数マップである。
図12】実施例1のマップ補正処理のフローの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施例1]
〔駆動系構成〕
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1の後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【0012】
実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。尚、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0013】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0014】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0015】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0016】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、AT油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0017】
自動変速機ATは、前進7速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。
【0018】
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0019】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。なお、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0020】
また、路面勾配が所定値以上における上り坂等で、運転者がアクセルペダルを調整し車両停止状態を維持するアクセルヒルホールドが行われるような場合、WSC走行モードでは、第2クラッチCL2のスリップ量が過多の状態が継続されるおそれがある。エンジンEをアイドル回転数より小さくすることができないからである。そこで、実施例1では、エンジンEを作動させたまま、第1クラッチCL1を解放し、モータジェネレータMGを作動させつつ第2クラッチCL2をスリップ制御させ、モータジェネレータMGを動力源として走行するモータスリップ走行モード(以下、「MWSC走行モード」と略称する)を備える。尚、詳細については後述する。
【0021】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
【0022】
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0023】
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。
【0024】
また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0025】
〔制御系構成〕
次に、ハイブリッド車両の制御系構成を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、AT油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0026】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数Ne、アクセルペダル開度センサ15からアクセルペダル開度APO、スロットル開度センサ16からスロットル開度の情報を入力する。統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0027】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0028】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14から第1クラッチ油圧PCL1の情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0029】
ATコントローラ7は、サイドブレーキスイッチ17、ブレーキスイッチ18、運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチ19、自動変速機ATに入力される入力回転数Ninを検出する入力回転数センサ20、自動変速機ATから出力される出力回転数Noutを検出する出力回転数センサ21、第2クラッチCL2油圧PCL2を検出する第2クラッチ油圧センサ22を入力する。ATコントローラ7は、入力された怪情報に基づいて変速段を決定し、決定した変速段に基づいて各締結要素の締結・開放を制御する指令をAT油圧ユニット8に出力する。尚、インヒビタスイッチ、入力回転数Nin、出力回転数Nout等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0030】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ25とブレーキストロークセンサ26からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0031】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、AT油温センサ23から自動変速機AT内の油温と、前後加速度センサから前後加速度と、CAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0032】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御とを行う。
【0033】
〔統合コントローラの構成〕
図2は、統合コントローラ10の制御ブロック図である。以下に、図2を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10[msec]毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動トルク演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500、マップ補正部600とを有する。
【0034】
図3は目標駆動トルクマップである。目標駆動トルク演算部100では、図3に示す目標駆動トルクマップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動トルクTdを演算する。
【0035】
モード選択部200は、前後加速度センサ24の検出値に基づいて路面勾配を推定する路面勾配推定演算部201を有する。路面勾配推定演算部201は、車輪速センサ25の車輪速加速度平均値等から実加速度を演算し、この演算結果とGセンサ検出値との偏差から路面勾配を推定する。
【0036】
更に、モード選択部200は、推定された路面勾配に基づいて、後述する二つのモードマップのうち、いずれかを選択するモードマップ選択部202を有する。図4はモードマップ選択部202の選択ロジックを表す概略図である。モードマップ選択部202は、通常モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g2以上になると、MWSC対応モードマップに切り換える。一方、MWSC対応モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g1(<g2)未満になると、通常モードマップに切り換える。すなわち、推定勾配に対してヒステリシスを設け、マップ切り換え時の制御ハンチングを防止する。
【0037】
次に、モードマップについて説明する。モードマップとしては、推定勾配が所定値未満のときに選択される通常モードマップと、推定勾配が所定値以上のときに選択されるMWSC対応モードマップとを有する。図5は通常モードマップ、図6はMWSCモードマップを表す。
【0038】
通常モードマップ(図5)内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」を目標モードとする。
【0039】
図5の通常モードマップにおいて、HEV→WSC切換線は、所定アクセル開度APO1未満の領域では、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEのアイドル回転数よりも小さな回転数となる下限車速VSP1よりも低い領域に設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動トルクを要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1'領域までWSC走行モードが設定されている。尚、バッテリSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードを選択するように構成されている。
【0040】
アクセルペダル開度APOが大きいとき、その要求をアイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクとモータジェネレータMGのトルクで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクは、エンジン回転数が上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数を引き上げてより大きなトルクを出力させれば、例え下限車速VSP1よりも高い車速までWSC走行モードを実行しても、短時間でWSC走行モードからHEV走行モードに遷移させることができる。この場合が図5に示す下限車速VSP1'まで広げられたWSC領域である。
【0041】
MWSCモードマップ(図6)内には、EV走行モード領域が設定されていない点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域として、アクセルペダル開度APOに応じて領域を変更せず、下限車速VSP1のみで領域が規定されている点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域内にMWSC走行モード領域が設定されている点で通常モードマップとは異なる。MWSC走行モード領域は、下限車速VSP1よりも低い所定車速VSP2と所定アクセル開度APO1よりも高い所定アクセル開度APO2とで囲まれた領域に設定されている。尚、MWSC走行モードの詳細については後述する。
【0042】
図7は、目標充放電量マップである。目標充放電演算部300では、図7に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。
【0043】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動トルクTdと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルク/目標エンジン回転数と目標モータジェネレータトルク/目標モータジェネレータ回転数と目標第2クラッチ締結油圧と自動変速機ATの目標変速比と第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部が設けられている。
【0044】
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ締結油圧と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。尚、シフトマップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものである。また変速制御部500は、自動変速機AT内の各摩擦締結要素に供給する目標締結油圧に対するソレノイドバルブの指令電流のマップを有している。
【0045】
図8は、第2クラッチCL2の目標締結油圧-指令電流マップの一例である。マップは図8に示すように、複数の変曲点P(図8ではP1,P2)を直線で結んで示されている。マップは、摩擦締結要素へ供給する目標締結油圧とソレノイドバルブの指令電流の特性に応じて複数枚用意され、油圧制御装置を車両に搭載する前に1枚を採用する。
【0046】
油圧制御装置を車両に搭載する前に、ソレノイドバルブに電流を流して、摩擦締結要素に供給される油圧を計測し、計測したソレノイドバルブの電流と摩擦締結要素に供給される油圧の関係を作動点として記録する。この作動点は、油圧の所定範囲(以下、フィッティング範囲)内で複数記録を取る。フィッティング範囲とは、具体的には例えば50[kPa]からオイルポンプのライン圧程度までの範囲である。記録した作動点からソレノイドバルブの電流と摩擦締結要素に供給される油圧の関係の特性を求め、この特性に最も近いマップが選択される。
【0047】
マップ補正部600は、車速VSPと目標モードを入力して、第2クラッチCL2の目標締結油圧-指令電流マップを補正する。マップ補正については、後で詳述する。
【0048】
〔WSC走行モードについて〕
次に、WSC走行モードの詳細について説明する。WSC走行モードとは、エンジンEが作動した状態を維持している点に特徴があり、目標駆動トルク変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2を目標駆動トルクに応じた伝達トルク容量としてスリップ制御し、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGの駆動トルクを用いて走行する。
【0049】
実施例1のハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素が存在しないため、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を完全締結すると、エンジンEの回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジンEには自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、更に下限値が高くなる。また、目標駆動トルクが高い状態では素早くHEV走行モードに遷移できない場合がある。
【0050】
一方、EV走行モードでは、第1クラッチCL1を解放するため、上記エンジン回転数による下限値に伴う制限はない。しかしながら、バッテリSOCに基づく制限によってEV走行モードによる走行が困難な場合や、モータジェネレータMGのみで目標駆動トルクを達成できない領域では、エンジンEによって安定したトルクを発生する以外に手段がない。
【0051】
そこで、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、EV走行モードによる走行が困難な場合やモータジェネレータMGのみでは目標駆動トルクを達成できない領域では、エンジン回転数を所定の下限回転数に維持し、第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジントルクを用いて走行するWSC走行モードを選択する。
【0052】
図9はWSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図、図10はWSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。
【0053】
WSC走行モードにおいて、運転者がアクセルペダルを操作すると、図10に基づいてアクセルペダル開度に応じた目標エンジン回転数特性が選択され、この特性に沿って車速に応じた目標エンジン回転数が設定される。そして、図9に示すエンジン動作点設定処理によって目標エンジン回転数に対応した目標エンジントルクが演算される。
【0054】
ここで、エンジンEの動作点をエンジン回転数とエンジントルクにより規定される点と定義する。図9に示すように、エンジン動作点は、エンジンEの出力効率が高い動作点を結んだ線(以下、α線)上で運転することが望まれる。
【0055】
しかし、上述のようにエンジン回転数を設定した場合、運転者によるアクセルペダル開度APO(目標駆動トルク)によってはα線から離れた動作点を選択することとなる。そこで、エンジン動作点をα線に近づけるために、目標エンジントルクは、α線を考慮した値にフィードフォワード制御される。
【0056】
一方、モータジェネレータMGは、設定されたエンジン回転数を目標回転数とする回転数フィードバック制御が実行される。今、エンジンEとモータジェネレータMGは直結状態とされていることから、モータジェネレータMGが目標回転数を維持するように制御されることで、エンジンEの回転数も自動的にフィードバック制御されることとなる。
【0057】
このとき、モータジェネレータMGが出力するトルクは、α線を考慮して決定された目標エンジントルクと目標駆動トルクとの偏差を埋めるように自動的に制御される。モータジェネレータMGでは、上記偏差を埋めるように基礎的なトルク制御量(回生・力行)が与えられ、更に、目標エンジン回転数と一致するようにフィードバック制御される。
【0058】
あるエンジン回転数において、目標駆動トルクがα線上の駆動トルクよりも小さい場合、エンジン出力トルクを大きくした方がエンジン出力効率は上昇する。このとき、出力を上げた分のエネルギをモータジェネレータMGにより回収することで、第2クラッチCL2に入力されるトルク自体は運転者の要求トルクとしつつ、効率の良い発電が可能となる。
【0059】
ただし、バッテリSOCの状態によって発電可能なトルク上限値が決定されるため、バッテリSOCからの要求発電出力(SOC要求発電電力)と、現在の動作点におけるトルクとα線上のトルクとの偏差(α線発電電力)との大小関係を考慮する必要がある。
【0060】
図9(a)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも大きい場合の概略図である。SOC要求発電電力以上にはエンジン出力トルクを上昇させることができないため、α線上に動作点を移動させることはできない。ただし、より効率の高い点へ移動させることで燃費効率を改善する。
【0061】
図9(b)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも小さい場合の概略図である。SOC要求発電電力の範囲内であれば、エンジン動作点をα線上に移動させることができるため、この場合は、最も燃費効率の高い動作点を維持しつつ発電することができる。
【0062】
図9(c)は、エンジン動作点がα線よりも高い場合の概略図である。目標駆動トルクに応じた動作点がα線よりも高いときは、バッテリSOCに余裕があることを条件として、エンジントルクを低下させ、不足分をモータジェネレータMGの力行により補う。これにより、燃費効率を高くしつつ目標駆動トルクを達成することができる。
【0063】
次に、WSC走行モード領域を、推定勾配に応じて変更している点について説明する。図11は車速を所定状態で上昇させる際のエンジン回転数マップである。
【0064】
平坦路において、アクセルペダル開度がAPO1よりも大きな値の場合、WSC走行モード領域は下限車速VSP1よりも高い車速領域まで実行される。このとき、車速の上昇に伴って図10に示すマップのように徐々に目標エンジン回転数は上昇する。そして、VSP1'に相当する車速に到達すると、第2クラッチCL2のスリップ状態は解消され、HEV走行モードに遷移する。
【0065】
推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きい勾配路において、上記と同じ車速上昇状態を維持しようとすると、それだけ大きなアクセルペダル開度となる。このとき、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2は平坦路に比べて大きくなる。この状態で、仮に図5に示すマップのようにWSC走行モード領域を拡大してしまうと、第2クラッチCL2は強い締結力でのスリップ状態を継続することとなり、発熱量が過剰となるおそれがある。そこで、推定勾配が大きい勾配路のときに選択される図6のMWSC対応モードマップでは、WSC走行モード領域を不要に広げることなく、車速VSP1に相当する領域までとする。これにより、WSC走行モードにおける過剰な発熱を回避する。
【0066】
〔MWSC走行モードについて〕
次に、MWSC走行モード領域を設定した理由について説明する。推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きいときに、例えば、ブレーキペダル操作を行うことなく車両を停止状態もしくは微速発進状態に維持しようとすると、平坦路に比べて大きな駆動トルクが要求される。自車両の荷重負荷に対向する必要があるからである。
【0067】
第2クラッチCL2のスリップによる発熱を回避する観点から、バッテリSOCに余裕があるときはEV走行モードを選択することも考えられる。このとき、EV走行モード領域からWSC走行モード領域に遷移したときにはエンジン始動を行う必要があり、モータジェネレータMGはエンジン始動用トルクを確保した状態で駆動トルクを出力するため、駆動トルク上限値が不要に狭められる。
【0068】
また、EV走行モードにおいてモータジェネレータMGにトルクだけを出力し、モータジェネレータMGの回転を停止もしくは極低速回転すると、インバータのスイッチング素子にロック電流が流れ(電流が1つの素子に流れ続ける現象)、耐久性の低下を招くおそれがある。
【0069】
また、1速でエンジンEのアイドル回転数に相当する下限車速VSP1よりも低い領域(VSP2以下の領域)において、エンジンE自体は、アイドル回転数より低下させることができない。このとき、WSC走行モードを選択すると、第2クラッチCL2のスリップ量が大きくなり、第2クラッチCL2の耐久性に影響を与えるおそれがある。
【0070】
特に、勾配路では、平坦路に比べて大きな駆動トルクが要求されていることから、第2クラッチCL2に要求される伝達トルク容量は高くなり、高トルクで高スリップ量の状態が継続されることは、第2クラッチCL2の耐久性の低下を招きやすい。また、車速の上昇もゆっくりとなることから、HEV走行モードへの遷移までに時間がかかり、更に発熱するおそれがある。
【0071】
そこで、エンジンEを作動させたまま、第1クラッチCL1を解放し、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を運転者の目標駆動トルクに制御しつつ、モータジェネレータMGの回転数が第2クラッチCL2の出力回転数よりも所定回転数高い目標回転数にフィードバック制御するMWSC走行モードを設定した。
【0072】
言い換えると、モータジェネレータMGの回転状態をエンジンのアイドル回転数よりも低い回転数としつつ第2クラッチCL2をスリップ制御するものである。同時に、エンジンEはアイドル回転数を目標回転数とするフィードバック制御に切り換える。WSC走行モードでは、モータジェネレータMGの回転数フィードバック制御によりエンジン回転数が維持されていた。これに対し、第1クラッチCL1が解放されると、モータジェネレータMGによってエンジン回転数をアイドル回転数に制御できなくなる。よって、エンジンE自体によりエンジン回転数フィードバック制御を行う。
【0073】
MWSC走行モード領域の設定により、以下に列挙する効果を得ることができる。
1) エンジンEが作動状態であることからモータジェネレータMGにエンジン始動分の駆動トルクを残しておく必要が無く、モータジェネレータMGの駆動トルク上限値を大きくすることができる。具体的には、目標駆動トルク軸で見たときに、EV走行モードの領域よりも高い目標駆動トルクに対応できる。
【0074】
2) モータジェネレータMGの回転状態を確保することでスイッチング素子等の耐久性を向上できる。
3) アイドル回転数よりも低い回転数でモータジェネレータMGを回転することから、第2クラッチCL2のスリップ量を小さくすることが可能となり、第2クラッチCL2の耐久性の向上を図ることができる。
【0075】
〔目標締結油圧-指令電流マップについて〕
目標締結油圧-指令電流マップは、図8に示すように目標締結油圧が小さくなるほど、目標締結油圧の変化量に対して指令電流の変化量が大きくなる、つまりグラフの傾きが小さくなる。図8に示すマップは、ソレノイドバルブに流す電流が大きくなるほど摩擦締結要素に供給する締結油圧が大きくなるノーマリーローのタイプのマップであるが、ソレノイドバルブに流す電流が大きくなるほど摩擦締結要素に供給する締結油圧が小さくなるノーマリーハイのタイプのマップも目標締結油圧が小さくなるほど、目標締結油圧の変化量に対して指令電流の変化量が大きくなる。また、使用する目標締結油圧-指令電流マップは、フィッティング範囲の作動点に基づいて選択されているため、フィッティング範囲内の精度に比べフィッティング範囲外の精度は低い。
【0076】
〔マップ補正処理〕
図12は、マップ補正部600において行われるマップ補正処理の流れを示すフローチャートである。
【0077】
ステップS1では、現在の走行モードがWSC走行モード(第2クラッチCL2の駆動源側の回転数が、第2クラッチCL2の駆動輪側の回転数より高い回転数に制御するスリップ制御状態)であるか否かを判定し、WSC走行モードであるときにはステップS2へ移行し、WSC走行モードでないときには処理を終了する。
【0078】
ステップS2では、車速がVSP3以下であるか否かを判定し、車速がVSP3以下であるときにはステップS3へ移行し、車速がVSP3より大きいときには処理を終了する。VSP3は、停車していると判定できる車速に設定しており、具体的には例えば2[km/h]などに設定する。
【0079】
ステップS3では、第2クラッチCL2の目標締結油圧-指令電流マップのマップ補正を行い、処理を終了する。
マップ補正について説明する。図8において、前述のフィッティング範囲は、締結油圧Pa以上の範囲を示す。また、変曲点のうち最も油圧の小さい変曲点P1より大きく、かつ締結油圧Paよりも大きな締結油圧Pbを設定する。マップ補正は、締結油圧Paより小さい範囲を図8の実線から一点鎖線に変更する。つまり、締結油圧Paより小さい範囲の目標締結油圧の変化量と指令電流の変化量の関係を、締結油圧Pbの目標締結油圧の変化量と指令電流の変化量の関係と同じくする。言い換えると、マップ補正は、締結油圧Paより小さい範囲のグラフの傾きを大きくする。これにより、目標締結油圧の変化に対して、指令電流の変化を小さくすることができる。
【0080】
〔マップ補正処理動作〕
WSC走行モードであって、車速がVSP3以下であるときには、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進む。
【0081】
ステップS3において、第2クラッチCL2のマップを補正するため、油圧Pa未満の範囲では第2クラッチCL2の目標締結油圧の変化に対してソレノイドバルブの指令電流の変化を補正前に比べて小さくすることができる。
【0082】
〔作用〕
WSC走行モードで、運転者がブレーキなどを踏み込んで停車状態となると、第2クラッチCL2がスリップ状態のまま維持されるため、第2クラッチCL2が発熱し、第2クラッチCL2の劣化につながる。第2クラッチCL2の発熱を抑制するためには、第2クラッチCL2への入力トルクを下げれば良い。そこで、入力トルクを下げるために第2クラッチCL2の伝達トルク容量を下げることが考えられる。第2クラッチCL2の伝達トルク容量を下げるには第2クラッチCL2の締結油圧を下げることとなる。
【0083】
一方、第2クラッチCL2の締結油圧を下げすぎると、第2クラッチCL2が完全解放状態(第2クラッチCL2の伝達トルク容量が略ゼロの状態から、更に、解放側に移動した状態)となってしまう。第2クラッチCL2が完全解放してしまうと、発進時に第2クラッチCL2が締結するまで時間を要するため発進応答性が悪くなり、また締結時のショックが大きくなるおそれがある。
【0084】
そこで、WSC走行モード時の停車中には、第2クラッチCL2の伝達トルク容量をほぼゼロとしつつ、第2クラッチCL2は極々弱い締結力で締結している状態としたい。このときの第2クラッチCL2の締結油圧をスタンバイ油圧と称することとする。スタンバイ油圧は、作動油の温度や第2クラッチCL2の経時劣化等によって異なる。そのため、スタンバイ油圧を求める際には、第2クラッチCL2の締結油圧を低下させていき、そのときの回転数制御をしているモータジェネレータMGの出力トルクをフィードバックし、モータジェネレータMGの出力トルクの変化がなくなったときの締結油圧をスタンバイ油圧に設定する。
【0085】
第2クラッチCL2の締結油圧を低下させながらスタンバイ油圧を設定する際には、第2クラッチCL2は完全解放状態となり易い。これは次のような原因によるものである。
【0086】
a) スタンバイ油圧は、通常走行時の油圧に比べて非常に低い油圧に設定されるからである。スタンバイ油圧と第2クラッチCL2の完全解放時の締結油圧は近接しているため、スタンバイ油圧設定時に第2クラッチCL2の完全開放側に締結油圧がオーバシュートし易い。
【0087】
b) マップの目標締結油圧が小さい範囲では、目標締結油圧が大きい範囲に比べて、目標締結油圧の変化量に対して指令電流の変化量が大きくなるからである。
【0088】
スタンバイ油圧を設定するときには、図8のマップを用いて、第2クラッチCL2の目標締結油圧を低下させていき、それに応じたソレノイドバルブに指令電流が出力される。通常走行時の第2クラッチの伝達トルク容量の制御領域に対して、WSC制御中であって停車状態のときのクラッチの伝達トルク容量の制御領域は非常に低い。すなわち、スタンバイ油圧も非常に低い値に設定される。そのため、スタンバイ油圧の設定範囲では小さな締結油圧制御が困難であり、第2クラッチCL2の完全開放側に締結油圧がオーバシュートし易い。
【0089】
c) 締結油圧Paより低い範囲では、マップの精度が低いからである。スタンバイ油圧は、締結油圧Paより低く設定される。そのためスタンバイ油圧が設定される範囲ではマップの精度が低く、スタンバイ油圧を設定する際に、第2クラッチCL2の完全開放側にオーバシュートし易い。
【0090】
d) 第2クラッチCL2の経時劣化によりマップ全体の精度が低下するからである。第2クラッチCL2が劣化すると、ソレノイドバルブに出力される電流の上昇に対して、第2クラッチCL2の締結油圧の上昇は小さくなる。すなわち、第2クラッチCL2が劣化すると、マップ上のグラフよりも実際には傾きが浅い特性となる。そのため、スタンバイ油圧を設定する際に、第2クラッチCL2の完全開放側にオーバシュートし易い。
【0091】
そこで実施例1では、第2クラッチCL2をスリップ締結するWSC走行モード時であって、車速が車両停止と判定する設定速度VSP3以下となった場合に、第2クラッチCL2に供給する油圧を低下させるときに、マップの目標締結油圧の変化量に対する指令電流の変化量が小さくなるようにマップ補正するマップ補正部600を設けた。
【0092】
これにより、第2クラッチCL2の目標締結油圧の変化に対してソレノイドバルブの指令電流の変化を補正前に比べて小さくすることができる。そのため、第2クラッチCL2の伝達トルク容量制御を細かく行うことができ、第2クラッチCL2の完全開放側へのオーバシュートを抑制することができる。
【0093】
また実施例1では、フィッティング範囲の最小の締結油圧Paより小さい範囲でマップ補正することとした。
【0094】
これにより、締結油圧Pa以上であり目標締結油圧-指令電流マップの精度が高い範囲では、元のマップを用いることで第2クラッチCL2の伝達トルク容量制御を精度良く行うことができる。一方、締結油圧Pa未満でありマップの精度が比較的低い範囲では、マップ補正をすることにより、第2クラッチCL2の伝達トルク容量制御を精度良く行うことができる。
【0095】
また実施例1では、締結油圧Pbでのマップの目標締結油圧の変化量に対する前記指令電流の変化量を用いてマップ補正を行うこととした。
【0096】
目標締結油圧-指令電流マップは、目標締結油圧が小さくなるほど目標締結油圧の変化量に対して指令電流の変化量が大きくなる。締結油圧Pbを、変曲点P1より大きく、かつ締結油圧Paよりも大きな締結油圧に設定することで、締結油圧Pa以下の範囲の補正後のマップは、補正前のマップに比べて第2クラッチCL2の目標締結油圧の変化に対してソレノイドバルブの指令電流の変化を補正前に比べて小さくすることができる。そのため、第2クラッチCL2の伝達トルク容量制御を細かく行うことができ、第2クラッチCL2の完全開放側へのオーバシュートを抑制することができる。
【0097】
〔効果〕
実施例1の効果を以下に列記する。
【0098】
(1)エンジンEおよびモータジェネレータMGと駆動輪RL,RRとの間に介装され、エンジンEおよびモータジェネレータMGと駆動輪RL,RRとの間で伝達されるトルクを断接する第2クラッチCL2(摩擦締結要素)に供給する締結油圧を制御する車両の油圧制御装置において、第2クラッチCL2の目標締結油圧を演算する動作点指令部400(目標締結油圧演算手段)と、第2クラッチCL2の駆動源側の回転数が、第2クラッチCL2の駆動輪側の回転数よりも高い回転数となるように制御するする動作点指令部400(スリップ制御手段)と、第2クラッチCL2へ供給する締結油圧を制御するソレノイドバルブに対して、目標締結油圧に対応する指令電流の関係を有するマップに基づいて指令電流を出力する変速制御部500(指示電流出力手段)と、スリップ制御中に、車速が車両停止と判定する設定速度VSP3以下となった場合に、第2クラッチCL2に供給する油圧を低下させる動作点指令部400(油圧低下手段)と、動作点指令部400で、油圧を低下させる場合に、マップの目標締結油圧の変化量に対する指令電流の変化量が小さくなるように補正するマップ補正部600(補正手段)を設けた。
【0099】
よって、第2クラッチCL2の目標締結油圧の変化に対してソレノイドバルブの指令電流の変化を補正前に比べて小さくすることができる。そのため、第2クラッチCL2の伝達トルク容量制御を細かく行うことができ、第2クラッチCL2の完全開放側へのオーバシュートを抑制することができる。
【0100】
(2)車両搭載前にソレノイドバルブを作動させて、フィッティング範囲(所定範囲)内の油圧と電流との関係を作動点として複数計測し、マップは、複数のマップから計測した複数の作動点の特性と最も近い1つのマップを選択したものであって、計測時の油圧のフィッティング範囲のうち最小値の油圧を締結油圧Pa(第1の閾値)とし、マップ補正部600は、締結油圧Paより小さい範囲のマップ補正を行うこととした。
【0101】
よって、締結油圧Pa以上であり目標締結油圧-指令電流マップの精度が高い範囲では、元のマップを用いることで第2クラッチCL2の伝達トルク容量制御を精度良く行うことができる。一方、締結油圧Pa未満でありマップの精度が比較的低い範囲では、マップ補正をすることにより、第2クラッチCL2の伝達トルク容量制御を精度良く行うことができる。
【0102】
(3)マップは、複数の変曲点Pを直線で結んだものであって、複数の変曲点Pのうち最も油圧が小さい変曲点P1の油圧よりも大きく、かつ締結油圧Paよりも大きい油圧を締結油圧Pb(第2の閾値)とし、マップ補正部600は、締結油圧Pbでのマップの目標締結油圧の変化量に対する前記指令電流の変化量を用いてマップ補正を行うこととした。
【0103】
よって、締結油圧Pbを、変曲点P1より大きく、かつ締結油圧Paよりも大きな締結油圧に設定することで、締結油圧Pa以下の範囲の補正後のマップは、補正前のマップに比べて第2クラッチCL2の目標締結油圧の変化に対してソレノイドバルブの指令電流の変化を補正前に比べて小さくすることができる。そのため、第2クラッチCL2の伝達トルク容量制御を細かく行うことができ、第2クラッチCL2の完全開放側へのオーバシュートを抑制することができる。
【0104】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0105】
実施例1では、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
【符号の説明】
【0106】
CL2 第2クラッチ(摩擦締結要素)
E エンジン(駆動源)
MG モータジェネレータ(駆動源)
RL 左駆動輪(駆動輪)
RR 右駆動輪(駆動輪)
400 動作点指令部(目標締結油圧演算手段、スリップ制御手段、油圧低下手段)
500 変速制御部(指示電流出力手段)
600 マップ補正部(補正手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12