特許第5693209号(P5693209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5693209
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】初装荷炉心の運転方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 5/00 20060101AFI20150312BHJP
【FI】
   G21C5/00 BGDB
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-287937(P2010-287937)
(22)【出願日】2010年12月24日
(65)【公開番号】特開2012-137308(P2012-137308A)
(43)【公開日】2012年7月19日
【審査請求日】2013年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229461
【氏名又は名称】株式会社グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】高 野 渉
(72)【発明者】
【氏名】金 子 浩 久
(72)【発明者】
【氏名】土 田 嗣 美
【審査官】 青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−249270(JP,A)
【文献】 特開2002−090487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウラン濃縮度が相対的に高く、ガドリニアが添加された高濃縮度燃料集合体ウラン濃縮度が相対的に低い低濃縮度燃料集合体とを含む少なくとも2種類以上の燃料集合体を装荷し、第1サイクルの運転終了時に燃料交換をせずに第2サイクル以降も継続運転可能な初装荷燃料を装荷した初装荷炉心の運転方法において、
第1サイクル終了後に、前記初装荷燃料のうち、第2サイクル中の余剰反応度の最大値が第2サイクルの初期の余剰反応度以上となり、かつ、第2サイクル中の炉停止余裕が第1サイクル後に燃料交換を行わない場合の炉停止余裕の最小値以上となるような所定の体数の前記高濃縮燃料集合体を、第1サイクルの燃焼後の高濃縮燃料集合体のガドリニア濃度より大きいガドリニア濃度を有する取替用の燃料集合体に取り替える、
ことを特徴とする初装荷炉心の運転方法。
【請求項2】
前記取替用の燃料集合体に取り替えられる前記高濃縮度燃料集合体の体数は、炉心に初装荷される全燃料集合体の総数の0.5〜12%であることを特徴とする請求項1に記載の初装荷炉心の運転方法。
【請求項3】
第1サイクル終了後に取り出される前記高濃縮度燃料集合体の少なくとも一部を第3サイクル以降の運転サイクルに炉心に再装荷することを特徴とする請求項1または2に記載の初装荷炉心の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初装荷炉心の運転方法、さらに詳しくは、沸騰水型原子炉の初装荷炉心の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントの開発初期の頃、ウラン濃縮度(以下、単に濃縮度という場合はウラン濃縮度を指す。)がすべて同じ、つまり1種類の燃料が初装荷燃料として使用されていた。ここで、初装荷燃料とは、建設された沸騰水型原子炉の炉心に初めて装荷される核燃料の燃料集合体をいう。また、以下の記載において、燃料集合体を単に燃料ともいう。また、以下の記載において、建設直後に初装荷燃料のみを装荷した状態の沸騰水型原子炉の炉心を初装荷炉心という。
【0003】
近年、低濃縮燃料と高濃縮燃料のように濃縮度の異なる複数種類の初装荷燃料を使用することで、コントロールセルに用いる低濃縮燃料を一定数確保しつつ、炉心の平均濃縮度を増加させて取出燃焼度の向上を図っている。
【0004】
初装荷燃料の種類の数によらず、初装荷燃料の平均濃縮度は、第1サイクルの終了時における炉心の余剰反応度がほぼ零となるように2.1〜2.5wt%に設定される。この場合、第1サイクルの運転終了後、初装荷燃料のうち反応度の低下した燃料集合体を取り出す。具体的には、炉心に装荷された全燃料集合体のうち1/3−1/5程度を取り出す。その後、新たに取替用の燃料集合体(取替燃料)を装荷し、第2サイクルの運転を行う。以下同様に運転サイクル後に燃料の取出し・交換を行い、第3,第4サイクルの運転が順次行われる。
【0005】
なお、炉心は初装荷の状態ではすべての燃料が新しいため第1サイクルは特別な余剰反応度の推移を呈する。しかし、各運転サイクル終了時で所定数の燃料を取替燃料と交換し、運転サイクルを重ねることにより、次第に各運転サイクルにおいて同様な安定した余剰反応度の推移を呈するようになる。この状態の炉心をここでは「平衡炉心」という。各運転サイクル終了時に所定数の燃料と取り替えられる新しい燃料は、一定のウラン濃縮度とガドリニア濃度を有し、「取替燃料」と呼ばれる。 従来、燃料経済性の向上を目的として、全ての初装荷燃料の濃縮度を取替燃料の濃縮度と同一にすることにより、第1サイクルの運転終了後に燃料交換を行わずに第2サイクルの運転を行う方法が開示されている(特許文献1)。これにより、第1サイクル終了時における燃料の取替作業を省略すると共に、燃料経済性を向上させることができる。しかしながら、この発明では、第2サイクル終了時において炉心の余剰反応度は零にならず、運転できる余力を残したままで原子炉を停止しなければならないという課題があった。
【0006】
また、従来、取出燃焼度および燃料経済性の両方を向上させるために、次の方法が提案されている(特許文献2)。この方法では、濃縮度が異なる2種類以上の初装荷燃料を用意して、高濃縮燃料の濃縮度を取替燃料の濃縮度と同一にするとともに、低濃縮燃料の濃縮度と装荷体数を、第1サイクルの運転終了時に燃料交換をせずに第2サイクル末期まで運転できるような値とし、さらに第2サイクルの終了時に炉心の余剰反応度が零となるようにしている。これにより、初装荷燃料の高燃焼度化を実現するとともに、燃料経済性を向上させることができる。しかしながら、炉心の平均濃縮度が高いため、余剰反応度が高くなってしまい、炉心の停止余裕(炉停止余裕)が小さくなるという問題がある。さらに、この方法では、第2サイクル終了時に、初装荷燃料のうち低濃縮燃料に加えて一部の高濃縮燃料も、取替燃料と交換される。取り出された高濃縮燃料は、取替燃料と同一の濃縮度であるにもかかわらず、炉心に装荷される期間が2サイクルと通常(4サイクル以上)よりも短いために取出燃焼度が低い。その結果、燃料経済性が低下することとなる。
【0007】
また、従来、少なくとも一部の初装荷燃料の濃縮度を取替燃料の濃縮度よりも高くすることで、初装荷燃料の平均濃縮度を大幅に高めた原子炉の炉心が開示されている(特許文献3)。この発明によれば、初装荷燃料の取出燃焼度を取替燃料と同程度まで高めることが可能となる。しかしながら、特許文献2の方法に比べて余剰反応度がさらに高くなるため、炉心の停止余裕がさらに小さくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−119492号公報
【特許文献2】特開平2−222867号公報
【特許文献3】特開2002−90487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように従来、取替燃料の濃縮度以上の濃縮度の高濃縮燃料を初装荷燃料の一部として用いて初装荷炉心の平均濃縮度を高めることで、第1サイクル終了後の燃料交換を不要とし、取出燃焼度を向上させる技術が知られている。しかしながら、この場合、とりわけ第2サイクルの途中で余剰反応度が過大になるという問題がある。次にこの理由について詳しく説明する。
【0010】
一般的に、余剰反応度を適切な範囲に保つために、高濃縮燃料は、熱中性子吸収材として可燃性毒物(ガドリニア等)を含有している。炉心を運転する間に可燃性毒物の燃焼が進行し、それに伴って可燃性毒物の中性子吸収能力が低下するために炉心の反応度は大きくなる。初装荷炉心の場合、ガドリニアは第2サイクルの途中で燃焼し終えるが、初装荷燃料の平均濃縮度が高いために第2サイクルの途中から炉心の余剰反応度が過大になってしまう。
【0011】
このように第2サイクルにおいて余剰反応度が過大になることを回避するために、初装荷燃料におけるガドリニアの濃度を高めることが考えられる。しかしながら、ガドリニアの濃度については、現状の実績は最大で10wt%までとなっており、これ以上のガドリニア濃度を用いるには、照射試験などによる特性評価を行う必要があり、容易には実現できない。また、仮に初装荷燃料におけるガドリニアの濃度を高めることができたとしても、その場合、第2サイクルだけでなく第1サイクルの余剰反応度まで低下させるという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、第1サイクルにおける余剰反応度を低下させることなく、第2サイクルにおける余剰反応度が過大になることを防止し、十分な炉心の停止余裕を確保することの可能な初装荷炉心の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による初装荷炉心の運転方法は、
ウラン濃縮度が相対的に高い高濃縮度燃料とウラン濃縮度が相対的に低い低濃縮度燃料を含む少なくとも2種類以上の燃料集合体を装荷し、第1サイクルの運転終了時に燃料交換をせずに第2サイクル以降も継続運転可能な初装荷燃料を装荷した初装荷炉心の運転方法において、
第1サイクル終了後に、前記初装荷燃料のうち、第2サイクル中の余剰反応度の最大値が第2サイクルの初期の余剰反応度以上となり、かつ、第2サイクル中の炉停止余裕が第1サイクル後に燃料交換を行わない場合の炉停止余裕の最小値以上となるような所定の体数の前記高濃縮燃料を、第1サイクル燃焼後の高濃縮燃料のガドリニア濃度より大きいガドリニア濃度を有する取替燃料に取り替えることを特徴とする。
【0014】
前記取替燃料に取り替えられる前記高濃縮度燃料の体数は、炉心に初装荷される全燃料の総数の0.5〜12%であるようにすることができる。
【0015】
前記高濃縮度燃料は第3サイクル以降の運転サイクルに炉心に再装荷するようにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1サイクル終了後に、初装荷燃料のうち所定数の高濃縮燃料を炉心から取り出し、取り出した高濃縮燃料に含まれるガドリニアの濃度よりも濃度の高いガドリニアを含有する取替燃料を装荷する。
【0017】
この際に、初装荷燃料のうち、第2サイクル中の余剰反応度の最大値が第2サイクルの初期の余剰反応度以上となり、かつ、第2サイクル中の炉停止余裕が第1サイクル後に燃料交換を行わない場合の炉停止余裕の最小値以上となるような所定の体数の前記高濃縮燃料を、取替燃料に取り替える。
【0018】
適当な体数の高濃縮度燃料を取替燃料と交換することにより、第2サイクルにおける余剰反応度が過大になることがなくなる。また、第2サイクルにおける炉停止余裕が、取替燃料と交換しない場合に比して、第2サイクルの初期及び中期では高く、かつ、第1サイクルの末期でも取替燃料と交換しない場合の炉停止余裕の最小値を下回ることがない。これにより、初装荷炉心の運転において、炉心制御を容易にすることができる。
【0019】
また、第3サイクル以降の運転サイクルに、第1サイクル終了後に取出した高濃縮燃料を再装荷することで、燃料経済性の悪化はない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る原子炉の運転方法を示すフローチャートである。
図2】第1サイクル及び第2サイクルにおける、余剰反応度とサイクル燃焼度の関係を示す図である。
図3】第1サイクル及び第2サイクルにおける、炉停止余裕とサイクル燃焼度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に説明するように、本発明は、ウラン濃縮度が高い高濃縮度燃料とウラン濃縮度が低い低濃縮度燃料を含む少なくとも2種類以上の燃料集合体が装荷し、第1サイクルの運転終了時に燃料交換をせずに第2サイクル以降も継続運転可能な初装荷燃料を装荷した初装荷炉心の運転方法において、第1サイクル終了後に、第2サイクル中の余剰反応度の最大値が第2サイクルの初期の余剰反応度以上となり、かつ、第2サイクル中の炉停止余裕が第1サイクル後に燃料交換を行わない場合の炉停止余裕の最小値以上となるように、所定数の高濃縮燃料を取替燃料と交換するものである。
【0022】
本発明の一実施形態に係る初装荷炉心の運転方法を、図1に示すフローチャートに沿って説明する。
【0023】
(1)比較的高いウラン濃縮度の高濃縮燃料と、比較的低いウラン濃縮度の低濃縮燃料とを用いて初装荷炉心を構成する(ステップS101)。この初装荷炉心は、第1サイクルの運転終了時に燃料交換をせずに第2サイクル以降も継続運転可能なものとして構成される。
【0024】
(2)第1サイクルの運転を行う(ステップS102)。
【0025】
(3)第1サイクル終了後、初装荷燃料のうち所定数の高濃縮燃料を炉心から取り出すとともに、取り出した燃料集合体と同数の取替燃料を炉心に装荷する(ステップS103)。
【0026】
この際、取り替えるべき高濃縮燃料の数は、第2サイクル中の余剰反応度の最大値が第2サイクルの初期の余剰反応度以上となり、かつ、第2サイクル中の炉停止余裕が第1サイクル後に燃料交換を行わない場合の炉停止余裕の最小値以上となるような所定数である。
【0027】
なお、この実施形態の高濃縮燃料は取替燃料のウラン濃縮度よりも大きい。また、本実施形態の取替燃料のガドリニア濃度は、第1サイクルの燃焼後の高濃縮燃料のガドリニア濃度より大きい。
【0028】
ここで、本実施形態において、取り替えるべき高濃縮燃料の数を上述した「所定数」とする理由と、その「所定数の範囲」について説明する。
【0029】
本実施形態による初装荷炉心の運転方法を実施した場合の余剰反応度および炉停止余裕について、従来の第1サイクル終了後に燃料交換を行わない場合と比較して説明する。
【0030】
図2,3は、電気出力135万kWであって、炉心に装荷される燃料体数872体の原子炉において、(a)第1サイクル終了後に燃料交換を行わない場合と、(b)第1サイクル終了後に64体の高濃縮燃料を取替燃料と交換した場合と、(c)第1サイクル終了後に132体の高濃縮燃料を取替燃料と交換した場合とを示している。
【0031】
このうち、図2は第1サイクル及び第2サイクルにおける余剰反応度の推移を示し、図3は第1サイクル及び第2サイクルにおける炉停止余裕の推移を示している。
【0032】
炉心の構成は、従来と同様であり、水平断面が十字型の制御棒を囲う4体の燃料集合体から構成されるセルを基本単位とし、このセルを格子状に配列してなる。
【0033】
初装荷炉心は、ガドリニアが添加された高濃縮燃料と、ガドリニアが添加されていない低濃縮燃料との2種類の燃料を用いて構成される。高濃縮燃料の平均濃縮度は4.2wt%であり、取替燃料の平均濃縮度3.8wt%よりも高い。
【0034】
図2中の曲線aは、第1サイクル終了後に燃料の取替を行わない運転方法を採った場合の余剰反応度を示している。なお、この場合、第2サイクル終了後に初装荷燃料のうち132体の低濃縮燃料を取出し、それと同数の取替燃料を装荷する。
【0035】
図2中の曲線bは、第1サイクル終了後に初装荷燃料のうち、64体の高濃縮燃料を取出し、それと同数の取替燃料を装荷する運転方法を採った場合の余剰反応度を示している。なお、この場合、第2サイクル終了後に初装荷燃料のうち132体の低濃縮燃料を取出し、第1サイクル終了後に取り出した64体の高濃縮燃料を再装荷するとともに、68体の取替燃料を新たに装荷する。
【0036】
図2中の曲線cは、第1サイクル終了後に初装荷燃料のうち132体の高濃縮燃料を取出し、それと同数の取替燃料を装荷する運転方法を採った場合の余剰反応度を示している。
【0037】
図2の曲線aからわかるように、第1サイクル終了後に燃料交換を行わない場合、第2サイクルにおいてガドリニアの燃料が進行するのに伴い、余剰反応度は上昇し、最大となる点Paで約3%Δkに達する。一方、図2の曲線b、cから分かるように、高濃縮燃料を取出し、取替燃料を装荷すると、第2サイクル初期で余剰反応度が低下し、第2サイクル末期で逆転する。
【0038】
これは、次の2つの作用の大小関係によるものである。
【0039】
第1の作用は、取替燃料のガドリニア濃度が取り出した初装荷燃料のガドリニア濃度よりも高いために、余剰反応度を減少させる作用である。
【0040】
第2の作用は、取替燃料のウラン濃縮度が取り出した初装荷燃料のウラン濃縮度よりも高いために、余剰反応度を増大させる作用である。
【0041】
第2サイクルの初期においては、第1の作用が第2の作用よりも大きいため、余剰反応度は低下する。一方、第2サイクルが進むにつれて取替燃料に含まれるガドリニアが減少するために第2の作用が第1の作用を上回る。その結果、第2サイクルにおいて、第1サイクル終了後に燃料を交換しない場合よりも燃料を交換する場合の余剰反応度が大きくなることがある。
【0042】
第1サイクル終了後に燃料交換を行わない場合の炉停止余裕の推移について図3の曲線aを見ると、第2サイクル中の余剰反応度が高い部分(図2の点Pa部分)では、炉停止余裕が低下する。図3の点R近傍では最小値約2.1%Δkまで低下する。第2サイクル末期では、余剰反応度の低下とともに炉停止余裕が上昇する。
【0043】
すなわち、従来のように第1サイクル終了後に燃料交換を行わない場合、第2サイクルにおいてガドリニアの燃料が進行するのに伴い、余剰反応度が必要以上に上昇し、炉停止余裕が低下し、炉心制御の困難さが増す。
【0044】
次に、第1サイクル終了後に64体の高濃縮燃料を取替燃料と交換した場合について見る。
【0045】
図2の曲線bに示すように、64体の高濃縮燃料を取替燃料と交換するため、第2サイクルの初期では余剰反応度が低下し、その後は徐々に余剰反応度が増加するものの、点Pbにおいて最大値約2.8%Δkであり、曲線aに比して小さな値となっている。
【0046】
第1サイクル終了後に64体の高濃縮燃料を取替燃料と交換した場合の炉停止余裕の推移について図3の曲線bを見ると、第2サイクル中の炉停止余裕の低下が曲線aに比して小さく、炉停止余裕を確保することができる。
【0047】
このように、第1サイクル終了後に64体の高濃縮燃料を取替燃料と交換した場合、第2サイクル中の余剰反応度の上昇がなだらかであり、炉停止余裕の低下もなだらかであるため、第1サイクル終了後に燃料交換を行わない場合に比して、炉心制御が容易になる。また、取出した高濃縮燃料を第3サイクル以降に再装荷するため、燃料経済性の悪化もない。
【0048】
次に、更に第1サイクル終了後に高濃縮燃料を取替燃料と交換する体数を増やした場合、すなわち、第1サイクル終了後に132体の高濃縮燃料を取替燃料と交換した場合について見る。
【0049】
図2の曲線cに示すように、132体の高濃縮燃料を取替燃料と交換するため、第2サイクルの初期では余剰反応度が曲線a,bに比して大きく低下し、その後は徐々に余剰反応度が増加し、点Pcにおいて最大値約2.7%Δkに達し、その後は曲線a,bに比してなだらかに低下する。点Pcにおける余剰反応度の最大値約2.7%Δkは、第2サイクル初期の点Qよりも低くなる。
【0050】
第1サイクル終了後に132体の高濃縮燃料を取替燃料と交換した場合の炉停止余裕の推移について図3の曲線cを見ると、第2サイクル中の炉停止余裕の低下が曲線a,bに比して更に小さく、むしろ第2サイクル初期の点Qよりも増加し、多くの炉停止余裕を確保することができる。
【0051】
しかし、第2サイクルの末期では、炉停止余裕が減少し、点S以降では、第1サイクル終了後に燃料交換を行わない曲線aの場合よりも炉停止余裕が少なくなり、炉心制御の困難さが曲線aの場合よりも増す。
【0052】
このように、第1サイクル終了後に高濃縮燃料を取替燃料と交換する体数を増やした場合、第2サイクル初期から中期にかけて炉停止余裕が増加するが、第2サイクルの末期(点S以降)では、炉停止余裕が減少し、炉心制御の困難さが増す。
【0053】
以上のように、第1サイクル終了後に高濃縮燃料を取替燃料と交換する体数を増やして行くと、第2サイクル初期の炉停止余裕が改善されるが、第2サイクル末期の炉停止余裕は低下する。
【0054】
第1サイクル終了後に高濃縮燃料を取替燃料と交換する体数の基準として、以下のことが考えられる。
【0055】
(1)第2サイクル中の余剰反応度の最大値が第2サイクルの初期の余剰反応度以上である。
【0056】
(2)第2サイクル中の炉停止余裕が第1サイクル後に燃料交換を行わない場合の炉停止余裕の最小値以上となる。
【0057】
図2,3から分かるように、64体の高濃縮燃料を取替燃料と交換した場合は、余剰反応度の最大値は下げる余裕があり、炉停止余裕は上げる余裕がある。しかし、132体の高濃縮燃料を取替燃料と交換した場合は、余剰反応度の最大値は下げる余裕がなく、炉停止余裕は下限である第1サイクル後に燃料交換を行わない場合の炉停止余裕の最小値を下まわる。
【0058】
本願発明者の研究考察によれば、取替燃料体数が炉心全体で4体〜104体であれば、この基準を満たすことがわかった。
【0059】
なお、取替燃料体数の最小値が4体であるのは通常、炉心の水平断面において上下左右に関して対称性を満足するように燃料が配置されることから、炉心に装荷される燃料体数は4の倍数となるため、取替燃料体数が最小となるのは、炉心の水平断面における右上、右下、左上および左下の各領域における燃料集合体1体を取替燃料1体と交換した場合である。したがって、取替燃料体数の最小値は4となる。
【0060】
第1サイクル終了後に高濃縮燃料を取替燃料と交換する上記体数は、炉心全体の燃料の体数によって変化するものであるため、これを%による範囲に換算すると、初装荷燃料の総数の概ね0.5〜12%とすることで、上記基準(1),(2)を満たし、初装荷炉心の運転における余剰反応度および炉停止余裕を改善することができる。
【0061】
ここで、図1に戻って本実施形態の初装荷炉心の運転方法に説明する。
【0062】
本実施形態では、さらに燃料経済性を高めるため、第1サイクル終了後に取替燃料と交換した高濃縮燃料を、第3サイクル以降の運転サイクルに再装荷する。
【0063】
(4)第2サイクルの運転を行う(ステップS104)。
【0064】
(5)第2サイクル終了後、第1サイクル終了後に取り出した高濃縮燃料を再装荷する(ステップS105)。なお、第1サイクル終了後に取り出した高濃縮燃料は、第3サイクル以降のサイクルの終了後に再装荷してもよく、また、複数のサイクルに分けて一部ずつ再装荷してもよい。
【0065】
(6)第3サイクルの運転を行う(ステップS106)。
【0066】
これ以降、運転サイクルを繰り返し、最終的に炉心は平衡状態すなわち「平衡炉心」に達する。
【0067】
第3サイクル以降の運転サイクルに、第1サイクル終了後に取替燃料と交換するため取り出した高濃縮燃料を再装荷することにより、燃料経済性の悪化はない。
【0068】
なお、上記の説明では、初装荷炉心は濃縮度の異なる2種類の燃料(高濃縮燃料と低濃縮燃料)から構成されたが、本発明はこれに限らず、3種類以上の濃縮度の燃料を用いて初装荷炉心を構成してもよい。
【0069】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
図1
図2
図3