(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酵母がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)である請求項1〜3の何れか1項に記載のアラニン高含有酵母の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、植物性又は動物性タンパク質を用いて各種エキスを製造する際に、十分量の遊離アミノ酸を含有させるためには、HVP(Hydorolyzed vegetable protein、植物性タンパク質加水分解)やHAP(Hydrolyzed animal protein、動物性タンパク質加水分解)などの分解処理を行なう必要がある等、操作が煩雑になる場合が多かった。また、現在市販されている酵母エキスよりもアミノ酸等を高濃度に含有する酵母エキスの製造方法が望まれている。中でも、酵母エキス中のアラニン含有量がより高い酵母エキスを簡便に製造し得る方法の開発が望まれている。アミノ酸の中には渋味を呈するものが多いが、酵母エキス中のアラニン含有量を調節することにより、この酵母エキスが有する渋味を抑制できることが期待できるためである。
特許文献1については、酵素を使用するなど操作が煩雑である。
また、特許文献2については、酵素を使用するなど操作が煩雑であるのに加え、遺伝子変異処理を行なった酵母を用いているため、食品としての安全性、嗜好性等に劣る。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アラニンを従来よりも高濃度に含有するアラニン高含有酵母の製造方法、アラニン高含有酵母、アラニン高含有酵母エキス、調味料組成物、およびアラニン含有飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、定常期にある酵母の培養中に培養液を特定のpHに上昇(アルカリ性域にシフト)させることにより酵母中のアラニン含有量が増加することを見出した。そして、この酵母を用いて酵母エキスを製造することにより、アラニン含有量の高い酵母エキスを製造することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の構成を採用する。
【0008】
[1]対数増殖期をpH4.0〜6.0で培養された増殖の定常期にある酵母を、液体培地のpHが7.5以上11未満である条件下で液体培養する工程を含
み、アラニン含有量が乾燥重量当たり2.0重量%以上である酵母エキスを調製することができる酵母を製造する、アラニン高含有酵母の製造方法。
[2] 前記の液体培養する工程が、増殖の定常期にある酵母の液体培地のpHを7.5以上11未満に調整する工程;及び当該酵母を前記pHの範囲内でさらに培養する工程;を含む、前記[1]に記載のアラニン高含有酵母の製造方法。
[3]増殖の定常期にある酵母を、液体培地のpHが9.0以上11未満である条件下で液体培養する工程を含
み、アラニン含有量が乾燥重量当たり2.0重量%以上である酵母エキスを調製することができる酵母を製造する、アラニン高含有酵母の製造方法。
[4] 前記酵母がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、又はキャンディダ・ユティリス(Candida utilis)である前記[1]〜[3]の何れかに記載のアラニン高含有酵母の製造方法。
[5] 前記[1]〜[3]の何れかに記載のアラニン高含有酵母の製造方法によって得られた、サッカロマイセス(Saccharomyces)属菌である、アラニン高含有酵母。
[6] 前記[1]〜[4]の何れかに記載のアラニン高含有酵母の製造方法によって得られたアラニン高含有酵母から抽出された、アラニン含有量が乾燥重量当たり2.0重量%以上である、アラニン高含有酵母エキス。
[7]前記[1]〜[4]の何れかに記載のアラニン高含有酵母の製造方法によって得られたアラニン高含有酵母、又は前記アラニン高含有酵母から抽出されたアラニン高含有酵母エキスを含有させることを特徴とする、調味料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアラニン高含有酵母の製造方法によれば、定常期の酵母の液体培地のpHをアルカリにシフトするだけで簡便にアラニン含有量が顕著に増加したアラニン高含有酵母を製造することができる。
【0010】
本発明のアラニン高含有酵母から抽出作業を行なうことにより、アラニンを高濃度で含むアラニン高含有酵母エキスが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアラニン高含有酵母の製造方法は、増殖の定常期にある酵母の液体培地のpHが7.5以上11未満である条件下で、液体培養することを特徴とする。
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
酵母としては、単細胞性の真菌類であればよく、具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属菌、シゾサッカロマイセス(Shizosaccharomyces)属菌、ピキア(Pichia)属菌、キャンディダ(Candida)属菌、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属菌、ウィリオプシス(Williopsis)属菌、デバリオマイセス(Debaryomyces)属菌、ガラクトマイセス(Galactomyces)属菌、トルラスポラ(Torulaspora)属菌、ロドトルラ(Rhodotorula)属菌、ヤロウィア(Yarrowia)属菌、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属菌などが挙げられる。
これらの中でも、可食性であることから、キャンディダ・トロピカリス(Candidatropicalis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lypolitica)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)、キャンディダ・サケ(Candida sake)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが好ましく、より好ましくは汎用されているサッカロマイセス・セレビシエ、キャンディダ・ユティリスである。
【0013】
本発明を実施するには、上記の酵母を炭素源、窒素源及び無機塩等を含む液体培地で定常期まで培養した後、増殖の定常期にある酵母の液体培地のpHが7.5以上11未満である条件下で、液体培養すればよい。
【0014】
これら菌株の培地組成としては、特に限定されるものではなく、常法において利用されるものを用いることができる。例えば、炭素源として通常の微生物の培養に利用されるグルコース、蔗糖、酢酸、エタノール、糖蜜および亜硫酸パルプ廃液等からなる群より選ばれる1種または2種以上が用いられ、窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムもしくはリン酸アンモニウム等の無機塩、およびコーンスティプリカー(CSL)、カゼイン、酵母エキスもしくはペプトン等の含窒素有機物等からなる群より選ばれる1種または2種以上が使用される。更に、リン酸成分、カリウム成分、マグネシウム成分を培地に添加してもよく、これらとしては、過リン酸石灰、リン安、塩化カリウム、水酸化カリウム、硫酸マグネシウム、塩酸マグネシウム等の通常の工業用原料でよい。その他、亜鉛、銅、マンガン、鉄イオン等の無機塩を使用してもよい。その他、ビタミン、核酸関連物質等を添加しても良い。
【0015】
培養形式としては、回分培養、流加培養または連続培養のいずれでもよいが、工業的には流加培養または連続培養が採用される。
【0016】
対数増殖期の培養条件又はpH調整前の培養条件は、一般的な酵母の培養条件に従えばよく、例えば温度は20〜40℃、好ましくは25〜35℃がよく、pHは3.5〜7.5、特に4.0〜6.0が望ましい。また、好気的条件であることが好ましい。
また、通気・攪拌を行ないながら培養することが好ましい。通気の量と攪拌の条件は、培養の容量と時間、菌の初発濃度を考慮して、適宜決定することができる。例えば、通気は0.2〜2V.V.M.(Volume per volume per minuts)程度、攪拌は50〜800rpm程度で行なうことができる。
【0017】
増殖の定常期にある酵母の液体培地のpHが7.5以上11未満である条件下で、液体培養する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、酵母培養が定常期に入ったときに、液体培地のpHを7.5以上11未満に調整してもよく、培地中に予め尿素などを加えておいて、培養時間を経るに連れて自然にpHが7.5以上11未満になるようにして、液体培地をアルカリシフトしてもよい。
培地に添加する尿素などの量は、特に限定されるものではなく、培養する酵母の菌体濃度にもよるが、培地に対して0.5〜5%程度が好ましい。
【0018】
培養した酵母が定常期に入ったときに、液体培地のpHを7.5以上11未満に調整する方法は、特に限定されるものではなく、例えばアルカリ性の成分を適宜添加し、液体培地のpHを7.5以上11未満、好ましくは7.5以上10以下に調整すればよい。
pH調整は、定常期であればいつ行なってもよいが、定常期に入った直後に行なうことが好ましい。酵母内のアラニン濃度を十分に高めることが可能である上に、全工程終了時までに要する時間を短縮することができるためである。なお、対数増殖期にある酵母の液体培地のpHを7.5以上11未満にすると、酵母の増殖が抑制され遊離アラニン含有量が増加しないため好ましくない。
【0019】
アルカリ性の成分としては、特に限定されるものではなく、例えば以下の成分が挙げられる;NH
4OH(アンモニア水)、アンモニアガス、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の無機アルカリ、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ性塩基、尿素等の有機アルカリ等。
上記のうち、アンモニア水、アンモニアガス、尿素が好ましい。
【0020】
定常期にある酵母を、pHが7.5以上11未満の液体培地において培養する場合における温度、その他の条件は、一般的な酵母の培養条件に従えばよく、例えば温度は20〜40℃、好ましくは25〜35℃である。
【0021】
pHが7.5以上11未満にシフトした後の酵母内のアラニン含有量は、ピークに達した後、培養時間の経過とともに減少する傾向がある。また、これは培養する酵母の菌体濃度やpH、温度等の条件に依存する。これは、アルカリ条件下で過度に長時間培養すると、酵母へのアルカリの影響が大きくなりすぎるためと推察される。よって、本発明においては、培養条件ごと、特にアルカリシフト後のpHごとに最適な培養時間を適宜選択することができる。ピーク時の酵母を用いて酵母エキスを調製することにより、アラニン含有量が、乾燥重量当たり2.0重量%以上、好ましくは2.0〜12.0重量%と非常に高いアラニン高含有酵母エキスが得られる。
なお、本発明において、「酵母エキスの乾燥重量当たりのアラニン含有量」酵母エキスを乾燥させて得られる固形分中に含まれるアラニンの割合(重量%)を意味する。
【0022】
アラニン含有量の測定方法としては、例えば、(米国)ウォーターズ社製Acquity UPLC分析装置を用いて、アキュタグウルトラ(AccQ−Tag Ultra)ラベル化法により測定することができる。検量線は、例えば、アミノ酸混合標準液H型(和光純薬社製)を用いて作成すればよい。
また、日本電子社製アミノ酸自動分析装置JLC―500/V型などを用いて測定することも可能であるが、特に限定されるものではない。
【0023】
本発明の方法により、アラニン、特に遊離アラニンを菌体内に豊富に含有する酵母を製造することができる。このため、該酵母から酵母エキスを抽出し製造することにより、良好な呈味成分である遊離アラニンを豊富に含む酵母エキスを簡便に得ることができる。このようにして得られた酵母エキスは、遊離アラニン含有量が高いため、アミノ酸特有の渋味が抑えられ、より良好な酵母エキスである。
【0024】
また、本発明は液体培地のアルカリシフトのみの簡単な工程でアラニン高含有酵母を製造することが可能である。また、前述したように、培地は特に特殊なものを使用する必要はなく、アンモニア等、安価な原材料で製造することが可能である。
【0025】
本発明の方法により、高濃度のアラニンを酵母菌体内に含有するアラニン高含有酵母が得られるが、アラニン高含有酵母からアラニンを含有する分画物を得てもよい。
アラニン高含有酵母からアラニンを含有する分画物を分画する方法としては、通常行われている方法であればいずれの方法でもよい。
【0026】
また、上記方法により培養したアラニン高含有酵母からアラニン高含有酵母エキスを製造することができる。アラニン高含有酵母エキスを製造する方法としては、通常行われている方法であればいずれの方法であってもよく、自己消化法、酵素分解法、酸分解法、アルカリ抽出法、熱水抽出法などが採用される。なお、一般的に、熱水抽出法のみによって得られる酵母エキス中のアラニンは、自己消化法等の酵素反応法によって得られる酵母エキスとは異なり、ほぼ全量が遊離アラニンであると考えられる。
【0027】
本発明のアラニン高含有酵母は遊離アミノ酸が多く、このため単に熱水処理によってのみから酵母エキスを抽出しても、呈味が良好な酵母エキスができる。
従来、遊離アラニン等の呈味性アミノ酸の含有量を高めるために、植物性、動物性タンパク質を用いて、酸やアルカリ等を用いた加水分解処理が行われることが一般的であった。しかしながら、タンパク質の加水分解処理物は、発ガン性の疑いのあるMCP(クロロプロパノール類)を含む、という問題がある。
これに対して、本発明の方法により製造された高アラニン含有酵母は、そもそも遊離アミノ酸含有量が高いため、該酵母を熱水方法等により抽出した後、酸やアルカリ等による分解処理や酵素処理を行わずとも、遊離アラニン含有量が十分に高い酵母エキスを調製することができる。すなわち、本発明の高アラニン含有酵母を用いることにより、呈味性と安全性の両方に優れた酵母エキスを、簡便に製造することができる。
【0028】
このため、本発明によって得られる酵母エキスは非常に呈味性が高く、飲食品等に用いることで、味に深みがあり、コクのある飲食品が製造できる。
【0029】
更に、本発明のアラニン高含有酵母エキスを粉末状にすることで、アラニン高含有酵母エキス粉末が得られ、酵母菌を適宜選択することにより、乾燥重量当たりアラニンを5.0重量%以上含む酵母エキス粉末が得られる。
【0030】
また、上記方法により培養したアラニン高含有酵母から乾燥酵母菌体を調製してもよい。乾燥酵母菌体を調製する方法としては、通常行われている方法であればいずれの方法であってもよいが、工業的には、凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライ法などが採用される。
【0031】
また、本発明のアラニン高含有酵母、該酵母の乾燥酵母菌体、該酵母から調製される酵母エキス、及び該酵母エキス粉末は、調味料組成物としてもよい。なお、該調味料組成物は、本発明の酵母エキス等のみからなるものであってもよく、本発明の酵母エキス等の他に、安定化剤、保存剤等の他の成分を含有していてもよい。該調味料組成物は、他の調味料組成物と同様に、様々な飲食品に適宜用いることができる。
【0032】
さらに本発明は、上記の方法により得られたアラニン高含有酵母、該アラニン高含有酵母から抽出されたアラニン高含有酵母エキスを含有する飲食品に関するものである。本発明のアラニン高含有酵母等を含有させることにより、アラニンを高濃度に含む飲食品を効率的に製造することができる。
【0033】
これらの飲食品としては、通常乾燥酵母、酵母エキス、及びこれらを含む調味料組成物を添加しうる飲食品であれば何れでもよいが、例えばアルコール飲料、清涼飲料、発酵食品、調味料、スープ類、パン類、菓子類等を挙げることができる。
【0034】
本発明の飲食品を製造するには、飲食品の製造工程において、上記アラニン高含有酵母から得られる調製物、アラニン高含有酵母の分画物を添加してもよい。その他、原料としてアラニン高含有酵母をそのまま用いてもよい。
【0035】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
以下の<1>〜<8>に示す方法により、酵母(Saccharomyces cerevisiae AB9813株)を培養し、酵母培養液からエキス抽出およびアラニン分析を行なった。
【0037】
<1>前培養
以下の組成からなる培地を、容量350mL(2Lバッフル付き三角フラスコ)で2本作製した。
(培地組成)
糖蜜 8%
尿素 0.6%
(NH
4)
2SO
4 0.16%(硫酸アンモニウム)(NH
4)
2HPO
4 0.08%(リン酸水素2アンモニウム)
【0038】
(作製方法)
(1)糖蜜(糖度36%)167mlをミリQ水にて750mlにメスアップ後、2Lバッフル付き三角フラスコに350mlずつ分注した。
(2)オートクレーブ処理(121℃、15min)を行なった。
(3)使用時に糖蜜のみの培地に無菌的に窒素成分混液(×100)を1/50量添加(各7mL)した。
【0039】
(培養条件)
培養温度 30℃
振とう 160rpm(ロータリー)
培養時間 24h
(植菌量 300mL)
【0040】
<2>本培養
以下の組成からなる培地を、容量2000mL(流加終了時3Lの設定)作製した。
(培地組成)
塩化アンモニウム 0.18%(流加終了時3L換算)5.3g
(NH
4)
2HPO
4 0.04%(リン酸水素2アンモニウム、流加終了換算)1.2g
【0041】
続いて、以下の条件で培養を行なった。
(培養条件)
培養温度 30℃
通気 3L/min
撹拌 600rpm
pH制御 下限制御pH5.0(10%アンモニア水にて)、上限制御なし
消泡剤 アデカネート原液
流加培地 糖蜜(糖度36%)、容量800mL(1Lメジウム瓶にて、最終8%)
【0042】
<3>pHシフト
次に、培養した酵母が定常期に入った直後に、NH
4OH水(10%)にて培養液のpHをアルカリ性域にシフト(以下、pHシフトという。)させて(設定pH9.0)、更に酵母を培養した。本培養開始後48時間で終了した。
【0043】
図1は、培養時間に対する菌数の増加曲線を示す。
図2は、培養時間に対する乾燥酵母菌体重量の増加曲線を示す。
図3は、培養時間に対する培養液のpHの変化を示す。
図1に示すように、菌数(×10
6cells/ml)の増加は、培養18時間後には定常状態に達し、増殖の定常期に入ったことが確認された。また、乾燥酵母菌体重量(g/L)も培養後24時間後にはほぼ定常状態になっており、増殖の定常期であることが確認された。培養液のpHを測定したところ、
図3に示すように、増殖の定常期に入った後に、pHがアルカリ(7.5以上11未満)にシフトした。
【0044】
<4>集菌方法
(1)酵母を本培養した培養液を50mlプラスチック遠心チューブ(ファルコン2070)へ移し、遠心分離(3,000g、20℃、5min、HP―26)を行なった。
(2)上清を捨て、ペレットをミリQ水20mlに懸濁し、遠心分離(3,000g、20℃、5min、HP―26)を行なった。これを2回繰り返した。
(3)上清を捨て、ペレットをミリQ水20mlに懸濁した。
【0045】
<5>乾燥酵母菌体重量の測定
あらかじめ秤量しておいたアルミ皿(直径5cm)に、酵母懸濁液2mlとり、105℃にて4時間乾燥させた。
乾燥後の重量(酵母乾燥後重量)を測定し、以下の式(1)により固形分の重量(乾燥酵母菌体重量、単位g/L)を算出した。
酵母乾燥後重量 − アルミ皿重量 = 乾燥酵母菌体重量 ・・・(1)
【0046】
<6>熱水抽出法によるエキス溶液の調製
(1)残りの酵母懸濁液(約18ml)を遠心分離(3,000g、20℃、5min、HP―26)した。
(2)残りの懸濁液1.5mlをエッペンドルフチューブに移して、チューブをブロックヒーターに移し、80℃にて30分加熱した(エキス化)。または、温浴中100℃にて10分間過熱してもよい(エキス化)。
(3)その後、遠心分離(6,000g、4℃、5min)にて上清液(エキス溶液)を分離した。
【0047】
<7>分解率の測定方法
エキス溶液500μlをアルミ皿にとり、105℃、4時間乾燥させた。その後、エキス化前の乾燥重量から、エキス重量比(w/w)を算出した。
【0048】
<8>アラニン含有量の測定方法
pHシフト前の酵母及びpHシフト後の酵母の、それぞれの乾燥酵母菌体重量あたりのアラニン含有量を測定した。具体的には、アラニン含有量は、(米国)ウォーターズ社製Acquity UPLC分析装置を用いて、アキュタグウルトラ(AccQ−Tag Ultra)ラベル化法により測定した。該測定法では、試料中の遊離アラニンを選択的に定量することができる。また、検量線は、アミノ酸混合標準液H型(和光純薬社製)を用いて作成した。測定結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
この結果、酵母中のアラニン含有量は、pHシフト直後に約1.5倍と最も増加し、その後もシフト前よりも高い含有量を維持できることが明らかとなった。
以上の結果から、定常期後に7.5以上11未満にpH調整してさらに培養を行なうことによって、酵母中のアラニンが増加することが示された。
なお、前述したように、本実施例では、試料中の遊離アラニンを測定しており、よって、表1に示す含有量は、遊離アラニンの含有量である。
【実施例2】
【0051】
次に、実施例1と同様にして調製した酵母(pH9.0)の乾燥菌体重量当たりのアラニン含有量、及びこの酵母から調製した酵母エキスの乾燥重量当たりのアラニン含有量を、それぞれ測定した。測定結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示したように、乾燥菌体重量中のアラニン含有量(重量%)は、pHシフトにより、1.4重量%から2.2重量%に増大していた。これらの酵母から調製された酵母エキスにおいても、同様に、乾燥重量当たりのアラニン含有量(重量%)が、5.7重量%から8.9重量%に増大していた。すなわち、本発明の製造方法を用いて製造されたアラニン高含有酵母から酵母エキスを調製することにより、アラニン含有量の高い酵母エキスが得られることが確認された。
【実施例3】
【0054】
続いて、実施例1と同様にして調製した酵母(pH9.0)から製造した酵母エキスと、市販の酵母エキス(比較例1〜8)について、エキス乾燥重量当たりのアラニン含有量を測定し、比較した。なお、アラニンの測定は、実施例1と同様にして行った。測定の結果得られた、各酵母エキスの乾燥重量当たりのアラニン含有量(重量%)を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
以上の結果から、本発明の酵母エキスは、呈味性を有するアミノ酸であるアラニンが顕著に多く、この酵母エキスが調味料として好適であることが示唆された。
【実施例4】
【0057】
更に、実施例1と同様にして調製した酵母(pH9.0)から製造した酵母エキスを粉末状にした酵母エキス粉末(Saccharomyces cerevisiae由来)を用い、みそ汁とコンソメスープを作製した。みそ汁、コンソメスープに対する酵母エキスの配合量は0.2%である。
比較例として、ミーストパウダーN(アサヒフードアンドヘルス株式会社製)を用い、同様にみそ汁とコンソメスープを作製し、以下の方法で官能評価を行なった。
【0058】
(評価方法)
専門パネラー10名によるブラインド2点比較により、比較官能検査を実施した。2対比較テストとして、t−検定を行なった。
(評価基準)
塩味(減塩効果)、旨味、コクの3項目について、基準のみそ汁または基準となるコンソメスープを0とし、以下のように5段階で評価した。
「強い」=+2、
「やや強い」=+1、
「どちらでもない」=0、
「やや弱い」=−1、
「弱い」=−2。
みそ汁の結果を表4に示し、コンソメスープの結果を表5に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
表4の結果から、みそ汁では、塩味と旨味の平均値で差があり、コクで有意差があった。表5の結果から、コンソメスープでは、塩味とコクの平均値で差があり、旨味で有意差があった。これは、本発明の酵母エキスが、従来よりもアラニン含有量が有意に高いためと考えられる。
【実施例5】
【0062】
培養する酵母がSaccharomyces cerevisiae ABS1株である以外は実施例1に記載の方法と同様にして酵母を培養し、酵母培養液からエキス抽出およびアラニン分析を行った。pHシフト前後のアラニン含有量の測定値を、表5に示す。
【実施例6】
【0063】
培養する酵母がSaccharomyces cerevisiae ABS2株である以外は実施例1に記載の方法と同様にして酵母を培養し、酵母培養液からエキス抽出およびアラニン分析を行った。pHシフト前後のアラニン含有量の測定値を、表6に示す。
【実施例7】
【0064】
培養する酵母がSaccharomyces cerevisiae ABS3株である以外は実施例1に記載の方法と同様にして酵母を培養し、酵母培養液からエキス抽出およびアラニン分析を行った。pHシフト前後のアラニン含有量の測定値を、表6に示す。
【実施例8】
【0065】
培養する酵母がカメリヤ(パン酵母)である以外は実施例1に記載の方法と同様にして酵母を培養し、酵母培養液からエキス抽出およびアラニン分析を行った。pHシフト前後のアラニン含有量の測定値を、表6に示す。
【実施例9】
【0066】
培養する酵母がCandida utilis ABC1株である以外は実施例1に記載の方法と同様にして酵母を培養し、酵母培養液からエキス抽出およびアラニン分析を行った。pHシフト前後のアラニン含有量の測定値を、表6に示す。
【実施例10】
【0067】
培養する酵母がCandida utilis ABC2株である以外は実施例1に記載の方法と同様にして酵母を培養し、酵母培養液からエキス抽出およびアラニン分析を行った。pHシフト前後のアラニン含有量の測定値を、表6に示す。
【実施例11】
【0068】
培養する酵母がCandida utilis ABC3株である以外は実施例1に記載の方法と同様にして酵母を培養し、酵母培養液からエキス抽出およびアラニン分析を行った。pHシフト前後のアラニン含有量の測定値を、表6に示す。
【0069】
【表6】
【0070】
表6の結果から、実施例で試験したSaccharomyces cerevisiaeの他の株や、他属の酵母においても、pHシフトによってアラニンの高含有化の現象が確認された。なお、実施例5〜11のpHシフト前後のエキス中のアラニンの量(重量%)は、次の通りであった。
(実施例番号:シフト前−>シフト後)
(実施例 5:4.05−>10.03)、
(実施例 6:1.17−> 5.99)、
(実施例 7:1.55−> 6.03)、
(実施例 8:0.96−> 4.20)、
(実施例 9:1.05−>10.10)、
(実施例10:0.54−> 3.98)、
(実施例11:0.61−> 8.46)。
【実施例12】
【0071】
培養する酵母をSaccharomyces cerevisiae ABS4株とし、pHシフトの設定pHを7.0〜9.5の間で0.5刻みとする以外は、実施例1と同様にして酵母を培養し、酵母培養液からエキス抽出およびアラニン分析を行った。pHシフト前後のアラニン含有量の測定値を、表6に示す。
【0072】
【表7】
【0073】
表7の結果から、Saccharomyces cerevisiae ABS4株においても、全ての設定pHの場合においてアラニンの含有量が4.0〜12.0重量%にまで増加が見られた。