特許第5693241号(P5693241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5693241
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】微細化構造を有する物体の加工方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/74 20120101AFI20150312BHJP
   G03F 1/86 20120101ALI20150312BHJP
【FI】
   G03F1/74
   G03F1/86
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2010-548010(P2010-548010)
(86)(22)【出願日】2009年2月24日
(65)【公表番号】特表2011-513775(P2011-513775A)
(43)【公表日】2011年4月28日
(86)【国際出願番号】EP2009001296
(87)【国際公開番号】WO2009106288
(87)【国際公開日】20090903
【審査請求日】2011年11月11日
(31)【優先権主張番号】102008011530.4
(32)【優先日】2008年2月28日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102008011531.2
(32)【優先日】2008年2月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510232809
【氏名又は名称】カールツァイス エスエムエス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss SMS GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100153017
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 昭人
(74)【代理人】
【識別番号】100166213
【弁理士】
【氏名又は名称】永久保 宅哉
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ブーダッハ
(72)【発明者】
【氏名】トリスタン ブレット
(72)【発明者】
【氏名】クラウス エディンガー
(72)【発明者】
【氏名】トルステン ホフマン
【審査官】 佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−518638(JP,A)
【文献】 国際公開第99/046798(WO,A1)
【文献】 特開平09−120156(JP,A)
【文献】 国際公開第00/063946(WO,A1)
【文献】 特開昭63−141060(JP,A)
【文献】 特開2003−121986(JP,A)
【文献】 実開昭61−066355(JP,U)
【文献】 特開2008−159568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細化構造を有する物体を加工する方法であって、当該方法は
記物体の表面に反応ガスを供給するステップ(a)と、
第一の電子ビームを、前記物体の表面の加工されるべき領域の加工部分へ向けることによって、前記物体上に材料を堆積させるため又は前記物体から材料を除去するために行われる、物体を加工するステップ(b)と、
第一の電子ビームとは異なる第二の電子ビームと前記物体との反応生成物である後方散乱電子を検出するステップ(c)と、
出された、前記後方散乱電子から得られる情報に基づいて、前記物体の加工が続行されなければならないのか、それとも前記物体の加工を終了することができるのかを判断するステップ(d)と、
記加工されるべき領域を複数の表面区分に分割して、前記物体の加工が続行されなければならないのか、それとも前記物体の加工を終了することができるのかを判断するために、前記第二の電子ビームが同一の表面区分の部分に当たった際に検出された前記後方散乱電子について完全な信号を形成するために積分するステップ(e)
を含むことを特徴とする微細化構造を有する物体を加工する方法。
【請求項2】
前記表面区分は、互いに最大でも300%しか面積が異ならない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記完全な信号の形成時において、物体に投射される前記第二の電子ビームと加工されるべき領域の縁との距離が既定の最小間隔より大きい場合に検出された信号のみが、完全な信号の形成時に考慮される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記最小間隔は、前記後方散乱電子によりもたらされる信号が実質上、材料コントラストを排他的に示すように選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記表面区分の最低の大きさが、表面区分に関しての空間的積分及び複数の照射サイクルにわたって並列的に行われる時間的積分によって、前記後方散乱電子から検出された信号の統計上のノイズが、加工中に生じる材料の変化に応じて検出されるはずである信号の変化よりも小さくなるような大きさである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面区分は、表面区分の少なくとも90%について、表面区分の周長の二乗を表面区分の面積で割った商が、30未満となるように決定される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(b)における物体の加工を第一のビームパラメータの組合せをとる前記第一の電子ビームによって行い、前記ステップ(c)における表面のスキャニングを第二のビームパラメータの組合せをとる前記第二の電子ビームによって行い、前記第二のビームパラメータの組合せは前記第一のそれと異なる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第二のビームパラメータの組合せによる加工速度が前記第一のビームパラメータの組合せによる加工速度よりも低いこととなるように、前記第一のビームパラメータの組合せと前記第二のビームパラメータの組合せが異なる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも、物体の表面の或る場所におけるピクセル上のドウェルタイムに関して、前記第二のビームパラメータの組合せにおけるドウェルタイムが前記第一のビームパラメータのそれよりも長くなるような、前記第一のビームパラメータの組合せと前記第二のビームパラメータの組合せが異なる、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも、物体の表面の異なる場所にビームが当たる順序に関して、前記第一のビームパラメータの組合せと前記第二ビームパラメータの組合せのそれとが異なる、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(c)における物体の表面のスキャニング中に、物体へのプロセスガスの供給を、物体の加工中でのプロセスガスの供給と比べて減じる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(d)における判断の後は、プロセスガスが供給されている間に物体の表面上の或る場所の加工されるべき領域にビームが向けられて加工が続けられるのは、充分な加工が前記ステップ(d)においてまだ確認できていない、物体の表面上の領域に限られる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細化構造を有する物体の加工方法に関するものであり、特に半導体製造又は半導体回路の加工に用いられるマスクの修復方法に関するものである。
【0002】
電子顕微鏡観察は、披検物体の表面を検査する方法として確立して久しい方法である。走査電子顕微鏡観察では、微細な電子ビームによって披検物体の表面がスキャンされる。電子ビームの衝突の結果、物体から放出された電子及び/又は物体にて後方散乱された電子は、スキャン領域の電子画像を構成するために検出される。
【0003】
電子顕微鏡は通常は次の構成要素を有する。すなわち、電子ビームを発生させるための電子ビーム源、披検物体に電子ビームを集束させるための電子光学系、電子ビームで物体の表面をスキャンするための偏向光学系、及び、物体の表面にて後方散乱された電子又は物体の表面から放出された電子を検出するための少なくとも一つの検出器である。
【0004】
純粋な検査用途に加えて、電子顕微鏡は、物体上の微細化構造の加工及び/又は微細化構造を有する物体の製造の用途にも使われることが多くなっている。この場合においては、物体上の加工されるべき領域に入射した電子ビームにより励起されて化学的に活性となる反応ガスを、物体の加工されるべき領域に供給することにより、選択的かつ高精度において材料が堆積され又は除去される。この方法によって、選択された場所において材料を堆積させ又は物体から材料を除去することが可能となる。この作業においては、反応ガスは、物体の表面上の微細化構造の除去されるべき材料又は堆積されるべき材料に応じて適切に選ばれる。
【0005】
この技法の特定の応用分野としては、リソグラフィ用のマスク修復の分野が見出される。マスクは、半導体業界における微細化構造の製造において、今なお重要な役割を担い続けている。リソグラフィの工程においては、(フォト)マスクが照射被爆を受け、ウェーハに塗布されたフォトレジストを露光させるマスクの縮小像がウェーハ上に投影され、よって、以降の処理ステップにおいて製造されるべき構造がウェーハ上において定められる。結果としてマスクの欠陥は、これらを用いて製造された微細化構造の品質に顕著な悪影響を来たすことがある。マスク製造は時間が掛り、費用も掛るのであるため、マスク修復方法の使用は増えている。この場面においては、マスク中の欠陥は、高度に局所的にかつ高度の精確性をもって、電子ビームによって特徴付けられかつ誘引される化学反応によって修復されることができる。
【0006】
マスク修復方法において及び微細化構造の他の製造方法においては、十分に材料が堆積された又は除去された、材料の堆積又は除去の終端点を検出することが必要である。この終端点を検出するのには多種のパラメータを用いることができるのであり、例えば、二次電子又は後方散乱電子による信号、X線、ガス成分、或いは物体内の誘起電流である。
【0007】
フォトマスクが修復される場合においては、修復されるべき欠陥が同定され、その欠陥の形態が決定される。この欠陥の形態は、電子ビームでスキャンされ、所望の化学反応は適切なガスの添加によって維持される。この化学反応の結果として、どのタイプの欠陥が存在するか及びその欠陥を修復するのにどの種類の反応が要求されるかによって、余分な材料が除去(エッチングにより除去)され、或いは欠損している材料が堆積される。このような作業においての一つの処理としては、化学反応の正しい終端点を検出することであり、この終端点は十分に材料が堆積され又は十分に材料が除去された事実に基づいて決定される。なぜなら、エッチングが不要に長く行われると基材が浸食され、及び/又は過多に材料が堆積されると材料の層が厚くなりすぎ、これらはマスクの欠陥として、以降のリソグラフィプロセスにおいて目立つことになるからである。
【0008】
化学反応の正しい終端点を決定するため、二次電子或いは後方散乱電子などのプロセス中に物体から放出された反応生成物を検出することが通例であり、検出された信号は評価される。後方散乱電子の検出は根本的かつ特異的にエッチングプロセス及び堆積プロセスにとって適している。なぜなら、後方散乱効率は散乱対象物の原子質量に強く依存し、検出される信号は材料の種類に強く依存するからである。余分な材料、多くの場合はクロム及びMoSi、が完全に除去された場合には、それ以降電子ビームはクロム及びMoSiの代わりに基材にて散乱されるようになり、これにより信号に変化が生じる。
【0009】
しかし、困ったことに、処理中においては、ほとんどの検出器の信号は極めて弱く、元来これらの信号は統計的理由により極めてノイズが多く、したがってノイズ抑制が必要となる。
【背景技術】
【0010】
ノイズ抑制のための空間周波数フィルタリングは、特許文献1から知られている。しかし、空間周波数フィルタリングは欠陥の修復においては使用することができない。なぜなら、欠陥は、多くの場合、決まった空間的な構造を有しないからである。
【0011】
特許文献2においては、処理の終端点を検出するために、一般的には修復されるべき領域の一部である関心領域を評価するということが一般的に提案されている。
【0012】
特許文献3においては、電子ビームにより誘起されるエッチングの為の多段階の方法が開示されている。さらに、特許文献4においては、CVD法による多段階の方法が開示されている。
【0013】
特許文献5は異なるスキャニング速度を用いる堆積方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開公報第1997/001153号
【特許文献2】国際公開公報第2006/050613号
【特許文献3】米国特許出願公報第2007/0278180第
【特許文献4】米国特許第7220685第
【特許文献5】米国特許第6608305第
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、処理ステップの終端点の検出が改良された、ビームによって誘起される化学反応によって行われる物体の処理方法を特定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第一の観点との関係では、上記目的は、加工されるべき領域を類似の面積を有する複数の表面区分領域に分割することによって達成される。或る表面区分領域における、入射ビームと物体との反応からの反応生成物による信号は、完全な信号を形成するために積分される。
【0017】
本発明の第一の観点は、反応生成物が加工ステップで検出されるとき及び加工ステップとは一時的に分離された計測ステップにおいて反応生成物の検出が行われるとき双方に適用することができる。
【0018】
本発明の第二の観点との関係では、終端点検出のための反応生成物の検出は、加工ステップでのビームパラメータと比較して、入射ビームの一以上のビームパラメータが変更された状態で、別個のステップにおいて行われる。
【0019】
また、当然のことながら、本発明の両観点を併行して適用することもできる。
【0020】
本発明の第一の観点による方法は以下のステップを伴うことができる。
−前記物体の表面に反応ガスを供給するステップと、
−エネルギービームを、前記物体の表面の加工されるべき領域の加工部分へ向けることによって、前記物体上に材料を堆積させるため又は前記物体から材料を除去するために行われる、物体を加工するステップと、
−前記エネルギービームと物体との反応生成物を検出するステップと、
−検出された、前記エネルギービームと前記物体との前記反応生成物から得られる情報に基づいて、前記物体の加工が続行されなければならないのか、それとも前記物体の加工を終了することができるのか、を判断するステップ。
【0021】
前記エネルギービームは、光ビーム、例えばパルス幅10ps以下の極短光パルスを伴うレーザービーム、又は、荷電粒子ビーム、特に電子ビームであることができる。
【0022】
物体の加工が続行されなければならないのか、それとも物体の加工を終了することができるのか、を判断するに際しては、加工されるべき領域は複数の表面区分に分割されることができ、ビームが同一の表面区分の部分に当たった際に検出された反応生成物について完全な信号を形成するために積分を行うことができる。
【0023】
すべての表面区分におけるノイズ成分がある程度等しくなるようにするために、前記表面区分の面積は似た値を持つことができる。具体的な実施態様においては、個々の表面区分の面積は互いに最大でも300%しか相違できないようにされる。
【0024】
具体的な実施態様においては、物体に投射されるビームと加工されるべき領域の縁との距離が既定の最小間隔より大きい場合に検出された信号のみが、完全な信号の形成時に考慮されるようにすることができる。より具体的な実施態様においては、反応生成物によりもたらされる信号が実質上、材料コントラストを排他的に示すように、前記最小間隔を選ぶことができる。
【0025】
別の具体的な実施態様においては、前記表面区分に関しての空間的積分及び複数の照射サイクルにわたって並列的に行われる時間的積分によって、反応生成物から検出された信号の統計上のノイズが、加工中に生じる材料の変化に応じて検出されるはずである信号の変化よりも小さくなるような、最低の大きさを各表面区分は持つことができる。
【0026】
別の具体的な実施態様においては、前記全表面区分の少なくとも90%について、表面区分の周長の二乗を表面区分の面積で割った商が、30未満となるように表面区分を決定することができる。
【0027】
別の具体的な実施態様においては、前記ステップbにおける物体の加工を第一のビームパラメータの組合せをとるビームによって行うことができ、前記ステップcにおける表面のスキャニングを第二のビームパラメータの組合せをとるビームによって行うことができるのであり、ここでは前記第二のビームパラメータの組合せは前記第一のそれと異なるのである。さらに具体的な実施態様においては、第二のビームパラメータの組合せによる加工速度が第一のビームパラメータの組合せによる加工速度よりも低いこととなるように、第一のビームパラメータの組合せと第二のビームパラメータの組合せが異なることができる。
【0028】
別のより具体的な実施態様においては、少なくとも、物体の表面の或る場所における(ピクセル上の)ドウェルタイムに関して、前記第二のビームパラメータの組合せにおけるドウェルタイムが前記第一のビームパラメータのそれよりも長くなるように、前記第一のビームパラメータの組合せと前記第二のビームパラメータの組合せが異なることができる。
【0029】
別のより具体的な実施態様においては、少なくとも、物体の表面の異なる場所にビームが当たる順序に関して、前記第一のビームパラメータの組合せと前記第二ビームパラメータの組合せのそれとが異なることができる。
【0030】
別の具体的な実施態様においては、前記ステップcにおける物体の表面のスキャニング中に、物体へのプロセスガスの供給を、物体の加工中でのプロセスガスの供給と比べて減じることができる。
【0031】
別の具体的な実施態様においては、前記ステップdにおける判断の後は、反応ガスが供給されている間に物体の表面上の或る場所の加工されるべき領域にビームが向けられて加工が続けられるのは、充分な加工が前記ステップdにおいてまだ確認できていない、物体の表面上の領域に限られる。
【0032】
異なる材料の厚みを持つ欠陥の領域が異なる表面区分に属するように、加工されるべきマスクの種類及び修復されるべき欠陥の種類に応じて、表面区分の大きさを経験主義的に設定することができる。これにより、空間的積分が行われるのにも関わらず、異なるエッチング持続時間を必要とすることになる、除去されるべき材料の厚みに典型的な変動範囲のある場合を考慮に入れることが可能となる。
【0033】
完全な信号を形成するに際して考慮されるべき信号は、加工されるべき領域の縁から少なくとも最小限の隔たりを持った、物体に投射されるビームによる信号であるべきである。換言するならば、物体に投射されるビームの、加工されるべき領域の縁からの距離が、既定の最小間隔より大なる場合に検出される信号のみが、完全な信号の形成に際して考慮されるべきである。これにより、検出される信号が、特に修復されるべき欠陥の縁において発生するシグナルアーチファクトによって支配されないことを保障することが可能となる。このようなシグナルアーチファクトは、例えば、検出された信号が物体のトポグラフィーによって強く影響される場合に生じ得る。特に、前記最小間隔は、反応生成物による信号が実質上、材料コントラストを排他的に示すこととなるように選択することができる。
【0034】
個々の表面区分は、全表面区分の少なくとも50%について周長の二乗を表面区分の面積で割った商が、20未満となり、全表面区分の少なくとも90%について周長の二乗を表面区分の面積で割った商(以下において、単に「商」と記す。)が、30未満となるように画定することができる。観測される信号の空間的解像度が、互いに直交する二つの方向において、ある程度近似するように、理想的には、表面区分は、おおよその円形又はおおよその正方形であることが望ましい。しかし、円形の表面区分(図形)を用いて重複なしに表面を埋め尽くすのは不可能であり、また、修復されるべき欠陥の縁又は加工されるべき領域の縁は一般的には理想的な円形状又は直線状の形を持たないのであるため、おおよその円形又はおおよその正方形を用いることは原則的には可能ではない。上述の商が、全表面区分の少なくとも50%について20未満であり、かつ、全表面区分の少なくとも90%について30未満であれば、円形又は正方形からの逸脱はまだ許容できる程に小さく、このため、注目されるような又は心配を来たすような解像度の差が、方向に依存して発生しない。
【0035】
全表面区分を合わせれば加工すべき領域の全体を正確に覆うことが望ましい。加工すべき領域中の点で、表面区分に属さないで残されている点は存在しないことが望ましい。他方、表面区分は互いに重複していること、すなわち、加工されるべき領域中の或る点が2以上の表面区分に属していることが望ましい。なぜならば、先述の条件が真でなければ、或る表面区分がマスクされると、別の表面区分にも変化が及ぶからである。
【0036】
本発明の第二の観点による方法は以下のステップを伴うことができる。
−前記物体の表面に反応ガスを供給するステップと、
−エネルギービームを、或る加工されるべき部分の、前記物体の表面にある加工されるべき領域に向けることによって、前記物体上に材料を堆積させるため又は前記物体から材料を除去するために行われる、前記物体を加工するステップと、
−前記エネルギービームを用いて前記物体の表面をスキャンして、前記エネルギービームと前記物体との反応生成物を検出するステップと、
−検出された、前記エネルギービームと前記物体との前記反応生成物から得られる情報に基づいて、前記物体の加工が続行されなければならないのか、それとも前記物体の加工を終了することができるのか、を判断するステップ。
【0037】
前記エネルギービームは、光ビーム、例えばパルス幅10ps以下の極短光パルスを伴うレーザービーム、又は、荷電粒子ビーム、特に電子ビームであることができる。
【0038】
前記第二のステップにおける加工は、第一のビームパラメータの組合せをとるビームによって行うことができ、前記第三のステップにおける表面のスキャニングのステップは、第二のビームパラメータの組合せをとるビームによって行うことができるのであり、ここでは第二のビームパラメータの組合せは第一のそれとは異なることができる。
【0039】
ここで、前記第一のビームパラメータの組合せは、加工ステップに関して最適化されていることができ、前記第二のビームパラメータの組合せは、反応生成物の検出に関して最適化されていることができる。特に、第二のビームパラメータの組合せによる加工速度が第一のビームパラメータの組合せによる加工速度よりも低いこととなるように、第一のビームパラメータの組合せと第二のビームパラメータの組合せが異なることができる。
【0040】
物体の表面の或る場所における(ピクセル上の)ドウェルタイムに関して、第二のビームパラメータの組合せにおけるドウェルタイムが第一のビームパラメータのそれよりも長くなるように、第一のビームパラメータの組合せと第二のビームパラメータの組合せが異なることができる。或る場所における、ビームの長くなったドウェルタイムのため、程なくして当該場所においてプロセスガスの消耗が起こり、結果として、投射される荷電粒子ビームにも関わらずに、化学反応が停止させられるか又は少なくとも減速させられる。
【0041】
サンプルの表面の異なる場所にビームが当たる順序に関して、第一のビームパラメータの組合せと第二ビームパラメータの組合せのそれとが異なることができる。特に、スキャニング戦略として蛇行走査が加工ステップ及び終端点信号の検出に用いられるときは、加工ステップよりも終端点信号の検出についてより細かい間隔が用いられることとなるように蛇行の間隔を設定できる。これによりまた、化学反応の低減或いは減速が達成される。
【0042】
第三のステップにおける物体の表面のスキャニング中に、物体へのプロセスガスの供給を、物体の加工中でのプロセスガスの供給と比べて減じ又はそれどころか停止することができる。これによりまた、化学反応の低減或いは減速が達成される。
【0043】
上記の化学反応を低減或いは減速させるための手段は、単体で、又は、互いに複合して適用することができる。
【0044】
第四の加工ステップにおける判断の後は、反応ガスが供給されている間に物体の表面上の或る場所の加工されるべき領域にビームが向けられて加工が続けられるのは、充分な加工が判断ステップにおいてまだ確認できていない、物体の表面上の領域に限られる。これにより、加工を要する厚さ又は加工速度の、空間的な差異を考慮することができ、各場所の局所的な性質に応じて、必要な時間だけ正確に、各場所において加工を続行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
本発明を、以下に説明する図面において、より詳細に説明する。同一の参照番号は、同一の構成要素を意味する。
図1】物体を加工するための加工装置の概略図である。
図2図2a〜2dは、いずれも欠陥を有する構造の平面図である。
図3】修復されるべき領域を表面区分に分割する方法を図示するフローチャートである。
図4】修復されるべき領域を区分することに関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
加工システム100は、電子顕微鏡1、物体ホルダー81に支持された物体Oの加工されるべき領域に反応ガスを供給するためのガス供給機構8及び電極配列9を備える。
【0047】
電子顕微鏡1は、電子ビームの進行方向に向かって、電子ビーム源3、第一の集束及び偏向エレメント48、後方散乱電子検出器6、エネルギーセレクタ(energy selector)7、二次電子検出器5及び集束レンズ4を順に備える。第二の集束及び偏向エレメント47が集束レンズの中に配置されている。集束レンズ4は、磁気偏向器及び静電エマージョンレンズを備える組合せである。集束レンズ4は、磁気レンズと静電エマージョンレンズを備える組合せである。磁気レンズは、内側極片42、外側極片41、これらの間に配置されたコイル43及び内側極片42の下部端と外側極片41の下部端によって形成される実質的に軸方向の隙間44を備える。コイル43を流れる電流によって極片41及び42において磁束が誘導される際に、概ね軸方向の隙間44の領域において出現する磁場が発生される。この磁場によって、電子ビーム源3から物体Oに向けて加速される電子ビームが集束される。静電エマージョンレンズは、内側極片42及び外側極片41によって形成された、磁気レンズ4の内部の空間に伸びるレディエーションチューブ(radiation tube)45を備える。さらに、静電エマージョンレンズは、レディエーションチューブ45の下端部と隙間を隔てた端子電極46を備える。適切な電界をレディエーションチューブ45と端子電極46との間に電圧源(記号なくして概略的に図示。)を用いて付与することによって、一次電子を、フォトマスク検査に適切なおよそ1keVのプライマリエネルギーにまで減速することが可能である。図示された実施形態においては、例えば、レディエーションチューブは+8keVの電位に置かれ、端子電極46は接地されることができる。
【0048】
前記電子顕微鏡1は、圧力段階25、26及び27により部分的に隔離された、四つの異なる真空空間21、22、23、及び24に分割される。第一の真空空間21は、電子ビーム源3を収容している。前記第一の真空空間21は第一の接続部29を介し、イオンゲッターポンプ37に接続されている。電子顕微鏡の稼働時においては、およそ10^−9から10^−10mbarの負圧が、第一の真空空間21に付与される。第一の圧力段階25が、電子ビームの経路を対称的に囲む開口部25によって形成される。第二の真空空間22は、第二の接続部30を介し、イオンゲッターポンプたる第二の真空ポンプ38に接続される。第二の圧力段階が、第二の真空空間22を部分的に第三の真空空間23から隔離する。電子顕微鏡の稼働時においては、第二の真空空間22における負圧は、例えば、およそ10^−7mbar付近であることができる。後方散乱電子検出器6及びエネルギーセレクタ7は、第三の真空空間23に配置されている。第三の真空空間23は、第二及び第四の真空空間22及び24から、圧力段階26及び27によってそれぞれ部分的に隔離されており、第三の真空空間23を第三の真空ポンプ29に接続する接続部31を有している。稼働時においては、第三の真空空間における負圧は、およそ10^−5mbarであることができる。第四の真空空間24は、第三の真空空間23から、前記第三の圧力段階27によって、部分的に隔離されている。図示された典型的な実施形態においては、第三の圧力段階27は前記二次電子検出器5を備える。この場合においては、前記第三の圧力段階27の開口部が、電子ビームの通過する二次電子検出器5の開口部により形成される。前記二次電子検出器5は、この場合、部分的に隔離された真空空間23及び24の相互間での圧力平衡化が二次電子検出器の開口部を通じてのみ可能となるような態様で、電子顕微鏡1の内部に保持される。第四の真空空間24は、真空チェンバ2の内部へと通ずる、ガス輸送接続28をさらに有する。ここで、ガス輸送接続28は、単なる金属管である。ガス供給手段により供給された反応ガスは、第四の真空空間24から真空チェンバ2へと、真空チェンバ2の内部へガスを輸送する際の抵抗を可及的に減少させるため比較的大きな直径を有す金属管を通じて、放出される。図示された典型的な実施形態においては、レディエーションチューブ45は、ビーム方向に伸びた円筒形下部及び二次電子検出器5の方向に円錐状に広がり、真空空間22にまで比較的大きな直径を持って上方に伸びる円筒形部分を有する。したがって、レディエーションチューブ45は、二次電子検出器5及びエネルギーセレクタ7、さらには後方散乱電子検出器6を囲む。レディエーションチューブ45は、二次電子検出器5の下に或る間隔を隔てて、例えばセラミックでできた真空を保持できる支持具によって支持され、第四の真空空間24の大部分が、レディエーションチューブ45の内部及び電子ビーム源3の方向に隣接する隔離部材と第三の真空空間23の間の空間によって占められるように、下部極片41に真空を保持して接続されている。第三の圧力段階27の領域、即ちその付近においては、例えばおよそ10^−4mbar付近の範囲の負圧が稼働中に第四の真空空間24の内部に与えられ、これに対し、真空チェンバ2の内部においては、例えばおよそ10^−5mbar付近の真空が得らる。真空チェンバ2は、真空チェンバ2の内部を、第四の真空ポンプ40に接続する接続部32を有する。したがって、第一の、第二の、第三の及び第四の真空空間並びに真空チェンバの組合せは、別個に排気されることができ、このため、真空チェンバにガスが供給される際においても電子顕微鏡の効率的な稼働が可能となる。
【0049】
二次電子検出器の検出面51は、したがって、第四の真空空間24に配置されており、後方散乱電子検出器6は、より高度の真空が得られている第三の真空空間23に配置されている。エネルギーセレクタ7は、後方散乱電子検出器6の前に、物体Oから放出又は後方散乱された電子のすべてが後方散乱電子検出器6の検出面に到達するためにはエネルギーセレクタ7を通過しなければならないように配置されている。図示された実施形態においては、エネルギーセレクタ7は、第一のグリッド71、第二のグリッド72及び 物体の表面から発生する二次電子を反射することを可能にするための適切な電界を第一及び第二のグリッドの間で発生させるための電圧源73を備える。グリッドは、互いに並行に配置され、電子ビーム源3によって発生された第一次電子ビームの電子ビーム経路を環状に包囲する。図示された典型的な実施形態においては、第一のグリッド71は、電圧源73に接続され、第二のグリッド72は、レディエーションチューブ45につながれており、したがって後者(レディエーションチューブ45)と同じ電位にある。グリッド71及び72によって形成され、電子ビームによって貫通された開口部には、二つのグリッド71及び72の間で印加された電界の影響から第一次電子ビームを保護するために、隔離管を導入することが可能である。電圧源73によって印加された電界は、後方散乱電子が電界を通過して後方散乱電子検出器において検出される一方、二次電子はその運動エネルギーの低さ故に反射されて検出されないように、一次電子エネルギー並びに検査及び加工されるサンプルの特徴に応じて調整される。電界の強さ、そして検出信号の強度は、グリッドに印加される電位によって向上させることができる。
【0050】
図示された実施形態は、電子ビーム経路の周りに環状に配置されて中央開口部92を有する、一時電子の阻害されない通過並びに顕著に制約されない二次電子及び後方散乱電子の通過を可能にする、遮蔽電極91を備える電極配列9をさらに備える。適切な電圧源(記号なくして概略的に図示。)は、一次電子ビームを、物体Oを帯電させることによって生じた電界から効果的に遮蔽するために、電極91に適切な電圧を印加するのに用いることができる。
【0051】
高速偏向エレメント49が、端子電極46と電極配列9の間に配置されている。静電多極エレメントとして構成された偏向エレメントは、電子ビームを所望の走査戦略に沿って、加工又は分析されるべきサンプル領域にわたって移動させるために、対物平面において電子ビームを偏向するのに用いることができる。
【0052】
自動終端点決定の方法において、物体は第一ステップにおいて検査され、マスク修復の場合には、該物体はフォトマスクであり、例えば石英基板上の微細化モリブデン構造である。検査段階においては、マスク中の欠陥が特定され、欠陥を除去又は修復するための加工手順が選択される。次に、加工ステップにおいて、物体O上の加工されるべき領域が一次電子ビームの領域に移動され、ガス供給機構8が電子ビームの電子によって励起されて結果的に科学的に活性化する反応ガスを供給するのに用いられる。これにより、例えば、材料を除去することができる。材料の除去から或る時間が経過すると、加工された場所は再び検査される。この場合においては、検査は、エネルギーセレクタ7によって二次電子から分離された後方散乱電子を検出することによって行われる。物体Oの表面から生じる二次電子は、電子顕微鏡1の内部に侵入し、第四の真空空間にある二次電子検出器5の検出面51に衝突する。二次電子検出器の開口部を通過して第三の真空空間に侵入する二次電子は、適切な電圧をエネルギーセレクタ7の第一のグリッド71及び第二のグリッド72に印加することによって反射される。より高いエネルギーを持った後方散乱電子のみがエネルギーセレクタ7を通過し、後方散乱電子検出器6に到達する。終端点の到達を決定する根拠となる電子顕微鏡画像は、後方散乱電子を基礎に生成される。物体の加工は、電子顕微鏡画像が目標の画像に合致すれば停止することができる。さもなければ、新たな加工ステップが反応ガスの供給を伴って実行される。この手順は、自動終端点決定を有利な方法で行うことを、特にフォトマスクの修復に関して可能とする。
【0053】
図2aは、二本の並行した伝導経路を形成するためのマスク構造の走査電子顕微鏡画像の概略図である。これとの関係では、マスク構造は、後に用いられるウエーハスキャナの光を吸収する二つのストリップ101及び102を有し、それらの間に透明なストリップ103が配置され、これらは透明な周辺環境にて横並びに埋め込まれている。後方散乱電子を検出することにより生成された走査電子顕微鏡画像においては、吸収性のストリップ101及び102は、これらストリップがクロム又はMoSiを含み、これらの材料は、周辺環境104、103及び105即ち電子が散乱される石英基板、よりも高い後方散乱係数を持つため、より明るく見える。
【0054】
図2bは、マスク構造が所謂不透明欠陥を有する場合の、マスクの同じ個所を図示する。領域106において、二つの不透明ストリップ101及び102は望ましくなく互いに接続されている。このマスク構造がウエーハスキャナにおいて使用されたのであれば、望ましくない回路短絡が、領域106において発生することになるであろう。結果的に、修復プロセスにおいては、この領域106における余計な材料は除去されることとなる。
【0055】
図2cは、マスクイメージから画像解析を経て抽出された、修復されるべき領域を図示する。後のステップにおいては、図2dにおいて拡大されて図示されている修復されるべき領域107は、すべておよそ等しい大きさであり、組合せれば修復されるべき領域を構成する、複数の表面区分108及び109に分割される。修復されるべき領域を表面区分108及び109に分割することにより、終端点検出が促進され、即ちこれは個々の表面区分についてマスクの加工が停止されるべき時点を決定するのに資する。この関係において、後方散乱電子の強度は、マスク修復時又は別個の計測段階において、後方散乱電子検出器を用いて検出される。検出される後方散乱電子のポワゾン統計故に不可避な信号ノイズを低減させるために、一つの表面区分108及び109に属する信号はそれぞれ積分される。単一の計測された値が各表面区分について結果として生じる。この計測値が予定された目標の値を下回る又は上回る場合には、加工は、この表面区分に関して停止される。結果として、電子ビームが物体上を導かれる走査戦略は、さらなる加工に関して、表面区分に関して積分された後方散乱電子の信号が未だ予定された制限値に達していない表面区分に関してのみ後の加工が続行されるように、変更される。
【0056】
以下の観点が、個々の表面区分を定義する際に考慮される。すべての表面区分は、各表面区分の平均化が必要とされる信号対ノイズ比を有するように、最低の大きさを有していなければならない。他方、各表面区分については、異なる欠陥の高さ並びにエッチングレート及び堆積レートの非均質性等の欠陥における典型的な変化を、終端点検出中に、十分な空間的解像度により決定するため、最大の大きさが設けられる。信号対ノイズ比を最適化するために、すべての表面区分の面積はおよそ等しい大きさであることが望ましい。このプロセスにおいては、修復されるべき領域107の縁から最小間隔を隔てたピクセル或いはオブジェクトポイントのみが表面区分の大きさの算定において考慮される。この理由は、後方散乱電子による信号は頻繁に、修復されるべき領域の縁にて、物体及び/又はマスクの表面トポグラフィーによって決定される効果によって損なわれるからである。さらに、すべての表面区分は、同じ表面区分のすべての点に関する平均化によって必然的に生じる空間的フィルタリングにも関わらず、互いに直交する二つの方向における空間的解像度をある程度均質的に保つために、およそ円形又は正方形の形を有するべきである。このため、表面区分の周長の二乗を表面区分の面積で割った商は、各表面区分について、30未満であるべきであり、望ましくは23未満であるべきである。
【0057】
具体的なパラメータは、各マスクタイプ及び各欠陥の種類に依存するため、個々の表面区分のパラメータは、各試行に基づいて帰納的に決定され、そして制御ソフトウェアに入力される。このため、欠陥を有するマスクは、試行走査においてエッチ又は修復されることができる。ピクセル毎に、処理サイクル(ループ)の関数として、終端点信号の信号特徴が決定される。そして、信号特徴から、欠陥の縁による信号への影響が依然認められる欠陥の縁からの距離及び良質な終端点信号を得るために保たれる必要のある欠陥の縁からの最小間隔が決定される。装置の後の利用においては、マスクタイプ及び欠陥の種類の選択の後にシステムによって適切な値が選択され、ソフトウェアプログラムによって領域の表面区分への分割が行われる。
【0058】
このプロセス自体は、図3に、概略的に示されている。第一のステップ121においては、欠陥、より正確には修復されるべき欠陥を有するマスク、の走査電子顕微鏡画像が表示される。事前にステップ120において決定された又はユーザによって入力された、欠陥の種類及びマスクタイプを考慮することにより、修復されるべき領域がステップ122の画像分析によってまず決定され、修復されるべき領域の、およそ等しい大きさの表面区分への適切な分割が続いてステップ123において行われる。そして、修復されるべき領域は、同時に、空間的観点から、電子ビームが後に物体の上を導かれる走査戦略を定義づける。以降、放射誘起化学プロセスによる欠陥の修復がステップ124において開始される。この関係において、物体には適切なガス又はガス配合がインレットシステムを介して供給され、電子ビームが修復されるべき領域の個々の点上を動かされる。各箇所において電子ビームが留まるドウェルタイム及び既に照射を受けた箇所が再び次の機会に電子ビームの照射を受けるまでの時間(所謂リフレッシタイム)は、必要とされるガス化学反応によって決定され、同様に走査戦略の一部である。
【0059】
終端点信号は、ステップ125においての、ドウェルタイム又はリフレッシタイムにおける変化及び/又はガス流量の減少によって化学加工プロセスが加工ステップ124の状況と比べて減速又は停止されることを伴う、修復プロセス又は別個の計測ステップにおいて、検出される。説明されている具体的な事例においては、物体で後方散乱された電子は終端点信号として検出される。そして、終端点信号は、各表面区分についてステップ126において積分されるのであり、即ちステップ126は、各表面区分毎に正確に一つの計測値を提供するのである。続くステップ127においては、ステップ126において各表面区分について取得された計測値は、先に設定された制限値と比較される。すべての表面区分に関して制限値に達していなければ、システムはステップ124に戻り、すべての表面区分について欠陥の修復を続行する。しかし、一以上の表面区分について制限値に達していれば、走査戦略が後続のステップ128において変更される。この走査戦略における変更は、制限値に達した表面区分のすべてのオブジェクトポイント(object point)の空間座標を走査戦略から除外することに等しく、即ちこれらの表面区分に属する点又はピクセルは以後電子ビームの接近を受けないことになるのである。
【0060】
後続のステップ129において、走査戦略の変更後に、まだ少なくとも一つのさらなる加工が必要な表面区分が存するかがさらに確認される。そうである場合には、システムは、変更された走査戦略を持って加工ステップ124に戻る。残余の場合は、すべての表面区分について制限値が達成されると、加工の終了点130に到達する。
【0061】
終端点信号が、図3との関係で前述された方法における別個の計測ステップにおいて取得されるのであれば、計測ステップにおいて放射誘起化学反応が進行しないか又は減じられることが保障されるべきである。これは、計測ステップ中にプロセスガスの消耗が生じるとの事実に基づいて、一般的に達成することができる。この関係において、一つの可能性としては、当然のことではあるが、計測ステップにおいてガスの供給を減少又は完全に停止させることがある。しかし、ガス流量を変化させることができる速さは比較的低いため、計測ステップでの走査戦略を、加工ステップでの走査戦略と比較して、変更することがより合理的なこととなる。この関係において、計測ステップに関して、電子ビームが同じ場所にドウェルする時間、即ち所謂ピクセルドウェルタイムを長くし、及び/又は物体の同じ場所への再アプローチの時間間隔、即ちリフレッシタイムを短縮することができる。これらの手段は両方とも、比較的短時間で各場所において局所的に存在しているプロセスガスが消耗し、結果としておよその停止状態にまでガス化学反応が減速されるという結果をもたらす。この方法により、計測ステップにおける過度のエッチングや過度の堆積を回避することが可能となる。
【0062】
図4は、加工されるべき領域を表面区分に分割するアルゴリズムを図示する。本アルゴリズムは、図3のステップ122において加工されるべき領域が位置及び形態において決定された後に開始される。さらに、本アルゴリズムは、各表面区分が有さなければならない最低限のピクセル数が事前に決定されているとの仮定を置く。後続のステップ133においては、すべてのエッジポイント、即ち修復されるべき領域の縁からの帰納的に決定された最低限の距離を持たない点及び/又はピクセルのすべて、がまずマスクされる。さらなるステップ134においては、マスクされていないピクセルが選択され、表面区分を形成するために周囲のピクセルと組み合わせられる。この処理においては、必要な最低限の大きさを有する、即ち要求される最低限の数のピクセルを有する、表面区分が形成されるまでピクセルが追加され続ける。この処理においては、ピクセルの周りの円形領域から始まって円を拡大していくこと又は実質的に正方形の領域から始まって拡大をしていくことを試みることができる。
【0063】
区分が必要な大きさに達した場合、この区分に属するピクセルは後続のステップ135でマスクされて、まだ表面区分に配属されていないさらなるマスクされていないピクセルがまだ存在しているかに関して、ステップ136において確認が行われる。そうであれば、システムはステップ134に戻り、新たな表面区分を形成するために新たなマスクされていないピクセルを選択する。
【0064】
一般的に、アルゴリズムの終わりにおいて、まだ表面区分に配属されていなく、かつ、マスクされていない個別のピクセルが取り残されているということになっていることもある。これらのピクセルは、既存の隣接している表面区分に加入される。
【0065】
実験によると、各表面区分について400ピクセルを目標とし、目指す基本的な図形を正方形とした場合、上述のアルゴリズムは、修復されるべき領域を、表面区分の50%については表面区分の周長の二乗を表面区分の面積で割った商が18未満であり、表面区分の90%については表面区分の周長の二乗を表面区分の面積で割った商が23未満となる態様での分割に至る。この場合においては、表面区分の大きさの分布は実質上一定、即ち少数の例外を除いて実質上すべての表面区分が既定の大きさを持ち、また、加工されるべき領域の縁にある表面区分のうち少数しか既定の大きさを上回っていないのである。
【0066】
同じアルゴリズムが、基礎となる図形を円形とし、ピクセルの加入により円形が拡大されていく態様で実行された場合には、表面区分の50%については表面区分の周長の二乗を表面区分の面積で割った商が15未満であり、表面区分の90%については表面区分の周長の二乗を表面区分の面積で割った商が18未満となることが認められる。しかし、必要とされるピクセル数を超える大きさの表面区分が比較的多数生じる。したがって、本アルゴリズムは、空間的解像度が、互いに直交する二つの方向について比較的均質的になるという利点を示すが、大きめの表面区分が多くなるという犠牲を伴い、したがって、全体において空間解像度の低下又は終端点検出における空間解像度のより大きな非均質性が犠牲として生じる。他方、もう一方のアルゴリズムは、比較的均質的に大きめの表面区分をもたらすが、理想的な円形又は正方形の形からの逸脱がより顕著になり、空間的解像度が互いに直交する二つの方向について幾分かは非均質的になるという欠点を伴う。さらなる実験においては、両アルゴリズムは加工されるべき領域の表面区分への完全かつ明確な分割をもたらすのであり、ここでの表面区分に関しては、各表面区分は少なくとも400ピクセルを有さなければならないという条件があれども、最大の表面区分であっても800ピクセル未満、即ち形成される最大の表面区分は最小の表面区分の最大で二倍の大きさに留まる。
【0067】
終端点検出において表面区分を評価することによって得られる効果は、以下の数値的な例で最も平易に説明される。電子ビーム誘起化学プロセスで典型的に用いられるドウェルタイムは、30から200msの範囲にあり、典型的な電流は10から100pAの範囲にある。典型的なリフレッシタイム、即ち同じピクセルが再び照射を受けるまでに少なくとも経過しなければならない時間は、50μsから10nsの範囲にある。電流を50pA、照射時間を100nsとすれば、各ピクセルについて各サイクル(ループ)毎におよそ30個の一次電子が投射されることを計算できる。信号が100サイクルにわたって積分されると、各ピクセルについて100サイクル毎に3000個の電子が投射されることになる。
【0068】
典型的な後方散乱係数、即ち投射される各一次電子毎の後方散乱される電子の数は、材料に依存し、クロムについてはおよそ0.29、MoSiについてはおよそ0.21、石英についてはおよそ0.15である。したがって、石英上に配されたクロムについては、或る場所から完全にクロムが除去されると、後方散乱電子による信号の強度がおよそ50%落ちることになる。石英上に配されたMoSiについては、変化は相当に小さく、この材料の組合せにおいてはおよそ20%の変化しか後方散乱電子による信号に生じない。
【0069】
しかし、電子は半空間のすべてに散乱されるのであり、後方散乱電子の一部しか検出器に入射しないのであるから、すべての後方散乱電子が検出されるわけではない。後方散乱電子に関しての検出器の典型的な効率はおよそ5*10^−4である。
【0070】
上述の係数を上述の100サイクル毎の電子の個数で乗じると、100サイクル毎に0.3個の電子の検出が予想されるとの結果が得られる。ポワゾン分布の結果、結果についておよそ+−0.55の統計的拡散が予想されるのであり、即ち信号ノイズがクロム及び/又はMoSi上で電子が散乱されるときに予想される信号の強度のおよそ二倍になる。この結果、予想される信号の変化はそれぞれ信号全体に対して20%及び50%であり、統計的ノイズの結果としてこれは検出されることができない。
【0071】
しかし、100から1000ピクセルを有する表面区分について積分を行う場合には、この状況には顕著な変化が認められる。400ピクセルについて積分を行う場合、予想されていた0.3個の電子に代わって、結果は各表面区分について100サイクル毎に120個の電子となる。この場合、ポワゾン統計を基礎として予想される統計的拡散は、11個の事象となるのであり、換言すればノイズが信号値のおよそ10%にしかならないということである。このような状況においては、石英上に配されたクロムについての50%又は石英上に配されたMoSiについての20%、という予想される信号の差は、検出することができる。なぜならば、この信号の差は、少なくともノイズと同じ大きさになり、又はノイズの方が投射される信号の差よりも小さくなるからである。ピクセルを組み合わせて表面区分を用いる空間的積分に対する代替としては、時間的積分を適切に延長することが考えられる。しかし、同様の信号対ノイズ比を達成するには、100サイクルに代えて100*400=40000サイクルにわたって積分する必要が生じ、終端点検出における信号取得中にガス化学反応が進行していない場合にしかこれは許容されない。なぜなら、このような大量なサイクル数にわたって活性化されたガス化学反応が並行して進行すると、間違いなく数百nm程に相当するエッチング深さ又は堆積厚みに至るからである。
【0072】
ここまでに見られるように、本件発明的方法は、反応生成物の検出に関しての信号対ノイズ比の設定について、二つのパラメータを通じての自由度を提供する。具体的には、信号が取得されるに際してのサイクル数及び信号が空間的に積分される表面区分の大きさである。検出された反応生成物の統計的なノイズが、加工の際予想される検出された反応生成物についての信号の差よりも小さくなるようにこれらのパラメータを、加工によって変化し、かつ、反応生成物の発生源となる材料に応じて設定するのが賢明である。信号が時間的に積分されるサイクル数は、これまた、全体の加工時間の過度な延長を伴わない範囲で被加工物についての進行具合が十分に頻繁に確認されるように選択される。適切なパラメータの選択は当然個々の事例に依存する。時間的積分を50から1000サイクルの範囲で行うことが迅速性に寄与することが実証されている。この結果は、100nmの加工厚みに対して1000から100000サイクルという典型的な加工速度を前提とすると、統計的には、最大でも加工厚み2nm毎に、望ましくは加工深度1nm毎に終端点検出が不当に全体の加工時間を延長せずに、行われていることになる。ここで、早い加工速度のプロセス、即ち100nmの除去に対しておよそ1000サイクルを要すものにはより短い積分時間としての50サイクルが適用され、100nmの除去に対しておよそ100000サイクルを要す低い加工速度のプロセスについてはより長い積分時間たるおよそ1000サイクルが適用されると理解されるべきである。
【0073】
上記において、ガス化学反応が電子ビームにより誘起される事例を用いて、本発明は説明された。しかし、本発明は、ガス化学反応がイオンビーム又は超短光パルスによって誘起される場合にも、同様に適用される。放射誘起ガス化学反応がイオンビームにより始動されるべきものであるのならば、図1図示の電子光学系をイオン光学系と交換するか、イオン光学系を電子光学系に追加して用意する、即ち所謂クロスビームシステム又はデュアルビームシステムとする、ことが必要である。イオン光学系は、イオン源を電子源の代わりに用い、使用されるレンズはすべて静電レンズである点で電子光学系と異なる。さらに、イオン光学系では粒子の帯電電荷が反転されていることの結果として、それぞれに印加される静電電位は、一般的に、電子光学系のそれと逆の符号を与えられる。
【0074】
放射誘起ガス化学反応が高エネルギーレーザービームにより誘起されるべきものであるのならば、図1図示の電子光学系をレーザー走査顕微鏡に対応する構成と交換するか、レーザー走査顕微鏡に対応する光学系を追加で用意することが必要となる。このようなレーザー走査顕微鏡は、光源として超短光パルス、即ち10ps未満のパルス持続時間の光パルス、を発射する高エネルギーレーザーを備えているはずである。
【0075】
また、加工手順は、主にエッチング、即ち所謂不透明欠陥の修復、を事例として上記にて示されてきた。もっとも、上述の原理は、材料が修復のために堆積される場合にも反転されて適用される。この場合、表面区分が完全に修復される度に、修復前の反応生成物による信号と比較して信号に上昇が認められる。この信号の上昇は、上述に説明されたのと同様に様々な材料の異なる後方散乱係数により生じ、同様な状態が信号対ノイズ比についても生じる。
【0076】
最後にではあるが、本発明はマスク修復の例を参照しながら説明されてきた。しかし、本発明は、放射誘起化学反応が他の用途、例えば所謂ヴィアエッチング(via etching)及び半導体素子の観察や検査のための改造に際しての導体トラック作成、に用いられるときであっても同様に使用することができる。
【0077】
本発明は、包括的なシステムの文脈にて説明された。しかし、本発明は、該包括的システムの全特徴の組合せのみからなるのではなく、開示されている各個別の特徴を含み、また、それらの任意のサブコンビネーションも含むのである。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3
図4