(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5693282
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】吹付け施工に用いられるセメント系固化材組成物及びその吹付け工法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20150312BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20150312BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20150312BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20150312BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/28
C04B20/00 B
B28C7/04
E02D17/20 104B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-30720(P2011-30720)
(22)【出願日】2011年2月16日
(65)【公開番号】特開2012-166993(P2012-166993A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】597163740
【氏名又は名称】九州日植株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(72)【発明者】
【氏名】吉井 照清
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−342053(JP,A)
【文献】
特開2009−234840(JP,A)
【文献】
特開2008−302507(JP,A)
【文献】
特開2000−128612(JP,A)
【文献】
星野清一,炭酸カルシウム添加によるセメントペーストのレオロジー特性変化の解析 ,セメント技術大会講演要旨,1995年 4月,Vol.49th,P.484-489
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
14〜22重量部のセメントと、70〜83重量部の細骨材としての石灰砕砂と、5〜20μmと80〜180μmとの少なくとも2箇所で頻度のピークがある粒度分布を有する3〜10重量部の石灰石微粉末とを、合計で100重量部となるように含み、
前記石灰石微粉末に、5〜20μmの粒度の微粉末が25%以上含まれ、80〜180μmの粒度の微粉末が15%以上含まれる、吹付け施工に用いられるセメント系固化材組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の吹付け施工に用いられるセメント系固化材組成物を水と混合した状態で施工対象面に吹き付ける吹付け工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、法枠形成のために施工対象面に吹き付けられる
吹付け施工に用いられるセメント系固化材組成物及びその吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント系固化材組成物としては、形成するモルタルやコンクリートに必要強度を発現させるため、セメントと骨材との容積比が1:3〜1:4となるように配合されたものが一般的に用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、セメントは限りある資源であり、昨今の環境問題的視点からもなるべくセメント系固化材組成物におけるセメントの配合比率を下げ、その使用量を低減させることが望まれている。
【0004】
また、骨材についても、特にモルタルに用いられる細骨材分野では、採取が困難になりつつある良質な砂に取って代わる安定供給可能で安価な細骨材が模索されている。中でも石灰砕砂(石灰石を砕いて砂状に調整したもの)を細骨材として使用することが検討されているが、施工性が悪化したりコストが高くついたりするために広く普及するには至っていない。
【0005】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、セメントの省資源化及びコストダウンを図ることができ、吹付け施工性の良い
吹付け施工に用いられるセメント系固化材組成物及びその吹付け工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る
吹付け施工に用いられるセメント系固化材組成物は、14〜22重量部のセメントと、70〜83重量部の細骨材としての石灰砕砂と、5〜20μmと
80〜180μmとの少なくとも2箇所で頻度のピークがある粒度分布を有する3〜10重量部の石灰石微粉末とを、合計で100重量部となるように含
み、前記石灰石微粉末に、5〜20μmの粒度の微粉末が25%以上含まれ、80〜180μmの粒度の微粉末が15%以上含まれる(請求項1)。
【0007】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るセメント系固化材組成物の吹付け工法は、請求項
1に記載の
吹付け施工に用いられるセメント系固化材組成物を水と混合した状態で施工対象面に吹き付ける(
請求項2)。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜
2に係る発明では、セメントの省資源化及びコストダウンを図ることができ、吹付け施工性の良い
吹付け施工に用いられるセメント系固化材組成物及びその吹付け工法が得られる。
【0010】
すなわち、本発明では、14〜22重量部のセメントと、70〜83重量部の細骨材としての石灰砕砂と、3〜10重量部の石灰石微粉末とを、合計で100重量部となるように含むようにしてあり、これにより、従来のセメント系固化材組成物と比較して、セメントの配合比率ひいてはその使用量を低減することが容易となり、省資源及びコストダウンに資するものとなる。
【0011】
しかも、従来のセメント系固化材組成物においてセメントの配合比率を下げるとモルタルの強度が低下してしまうが、本発明のセメント系固化材組成物を用いれば、上述のようにセメントの使用量を減らしながらも、形成するモルタルの高強度化を図ることができ、クラック防止効果も付与される。そのメカニズムは、粒度が小(5〜20μm)の石灰石微粉末が石灰砕砂粒子とセメント粒子の間に入り込むことによってモルタルとしての密実性を向上させ、さらに、粒度が大(50〜200μm)の石灰石微粉末が石灰砕砂粒子間に適切な距離を保ち、セメント粒子を均一に分散させて石灰砕砂に対するセメントのコーティングが完全に行われるのを補助するためであると考えられる。
【0012】
また、従来のセメント系固化材組成物においてセメントの配合比率を単に下げると、セメントが担うところの細骨材をスムースに搬送させるための(ボール)ベアリング機能が不足し、モルタルの流動性ひいては施工性が低下してしまうことになる。しかし、本発明のセメント系固化材組成物では、セメントの配合比率を単に下げているのではなく、セメント粒子の同等程度の粒度を有する石灰石微粉末と、セメント粒子よりも大きく石灰砕砂粒子よりも小さい粒度を有する石灰石微粉末との配合によって、セメントの減少によって損なわれるベアリング機能やモルタルの流動性の補完さらには増強を図るのであり、施工性の維持にとどまらずその向上までもが見込まれる。
【0013】
そして、本発明の吹付け工法を実施するに際しては、セメント系固化材組成物と水の他に、必要に応じて減水剤やファイバー等を添加し、混合(混練)すればよいが、上述のようにモルタルの流動性の向上が図れるため、従来のセメント系固化材組成物を用いる場合には欠かせなかった高価な高性能減水剤等の必要使用量は低減するので、これによってもコストダウンが達成される。
【0014】
また、一般に、セメント系固化材組成物に加える水の量の過多や過少は良質なモルタルの形成を妨げるが、本発明のセメント系固化材組成物は、水を吸収しない性質を有する石灰砕砂を細骨材として含むため、吸水性の砂を細骨材として用いる従来の配合と比較して、細骨材に吸収されずに(細骨材の外部に)存在する水の量を一定にすることが非常に容易となり、形成するモルタルの品質の安定化、ひいては良質なモルタルづくりの簡易化にも役立つ。
【0015】
しかも、上述したように、本発明のセメント系固化材組成物に含まれる細骨材は吸水性を有しない石灰砕砂であるので、モルタルを形成する際の水の添加量を従来の配合よりも低減することができ、本発明はこの点でも省資源(節水)に寄与する上、このように水の添加量を低減しても、水の分離を防止する石灰石微粉末により、モルタルとして適量の水分を保持させることができる。
【0016】
その上、本発明のセメント系固化材組成物に適量の水を加えれば、石灰石微粉末によって水の分離を防止でき、さらには、モルタルの固さや付着性が良好な状態となるため、施工対象面に吹き付けられたときのリバウンドロス(施工対象面での跳ね返りによる分散ロス)や、吹付け後の流亡(施工対象面からの流れ落ち)の低減、防止をも図ることができる。
【0017】
また、本発明のセメント系固化材組成物は、全国各地で安定供給可能な石灰砕砂を細骨材として用いるものであるので、本発明の吹付け施工は全国各地で好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るセメント系固化材組成物の吹付け工法を概略的に示す全体構成説明図である。
【
図2】前記セメント系固化材組成物に配合する石灰石微粉末について行った粒度分布測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
本実施形態に係るセメント系固化材組成物の吹付け工法(以下、吹付け工法と略称する)は、
図1に示すように、圧送機1から混合(混練)された状態で供給されるセメント系固化材組成物2及び水3の混合物であるモルタル(セメント系混合物の一例)4を、法面N(施工対象面の一例)に吹き付けて法枠5を形成するためのものである。
【0021】
具体的には、法面Nに金網などのネット6を張設すると共に、このネット6上に鉄筋7を格子状に配置して法枠吹付部を形成し、この法枠吹付部の空間部に養生シート8を配置する一方、格子状の鉄筋7を覆うようにモルタル4を吹き付けて格子状の法枠5を形成し、その後、養生シート8を剥がし、かつ、植物種子や肥料を含む植生基材9を法枠5の枠内に吹き付けて、法面Nの緑化保護を図る。
【0022】
尚、
図1において、10はエアコンプレッサーであり、圧縮エアを供給するために圧送機1に接続されている。また、11は吹付けノズルであり、圧送機1に接続された配管(ホース)12の下流側に設けられている。
【0023】
そして、この実施形態で用いるセメント系固化材組成物2は、14〜22重量部のセメントと、70〜83重量部の細骨材としての石灰砕砂と、3〜10重量部の石灰石微粉末とを、合計で100重量部となるように含む。
【0024】
ここで、前記セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメントの他、混合セメント等を用いることができる。
【0025】
前記石灰砕砂としては、例えば、0.6〜1.2mmの平均粒度(平均粒子径)を持つものを用いることができ、本実施形態で用いた石灰砕砂は、JIS A 1102に準拠した骨材のふるい分け試験により表1に示すような結果(粗粒率2.68)が得られたものである。
【0027】
前記石灰石微粉末としては、5〜20μm(セメント粒子と同等程度の粒度)と50〜200μm(セメント粒子よりも大きく石灰砕砂粒子よりも小さい粒度であり、好ましくは80〜180μm)との少なくとも2箇所で頻度のピークがある粒度分布を有し、5〜20μmの粒度の微粉末と、50〜200μmの粒度の微粉末とをそれぞれ25%(頻度の積算値ベース)以上含み、80〜180μmの粒度の微粉末を15%(頻度の積算値ベース)以上含むものを用いる。本実施形態で用いた石灰石微粉末は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA−950)で測定したところ、
図2に示す結果(10μm前後と100μm前後とにピークを示す粒度分布)が得られたものである。
【0028】
尚、斯かる石灰砕砂や石灰石微粉末は、例えば、公知の破砕装置や造粒装置等によって得ることができる。
【0029】
本実施形態のセメント系固化材組成物2では、14〜22重量部のセメントと、70〜83重量部の細骨材としての石灰砕砂と、3〜10重量部の石灰石微粉末とを、合計で100重量部となるように含むようにしてあり、これにより、セメント系固化材組成物2を構成するセメントと骨材(石灰砕砂+石灰石微粉末)との容積比が1:4〜1:7(本実施形態では1:5程度)となる。そのため、セメントと骨材との容積比が1:3〜1:4であった従来のセメント系固化材組成物と比較して、セメントの配合比率ひいてはその使用量を低減することが容易となり、省資源及びコストダウンに資するものとなる。
【0030】
しかも、従来のセメント系固化材組成物においてセメントの配合比率を下げるとモルタルの強度が低下してしまうが、本実施形態のセメント系固化材組成物2を用いれば、上述のようにセメントの使用量を減らしながらも、形成するモルタル4の高強度化を図ることができ、クラック防止効果も付与される。そのメカニズムは、粒度が小(5〜20μm)の石灰石微粉末が石灰砕砂粒子とセメント粒子の間に入り込むことによってモルタル4としての密実性を向上させ、さらに、粒度が大(50〜200μm好ましくは80〜180μm)の石灰石微粉末が石灰砕砂粒子間に適切な距離を保ち、セメント粒子を均一に分散させて石灰砕砂に対するセメントのコーティングが完全に行われるのを補助するためであると考えられる。
【0031】
また、従来のセメント系固化材組成物においてセメントの配合比率を単に下げると、セメントが担うところの細骨材をスムースに搬送させるための(ボール)ベアリング機能が不足し、モルタル4の流動性ひいては施工性が低下してしまうことになる。しかし、本実施形態で用いるセメント系固化材組成物2では、セメントの配合比率を単に下げているのではなく、セメント粒子の同等程度の粒度を有する石灰石微粉末と、セメント粒子よりも大きく石灰砕砂粒子よりも小さい粒度を有する石灰石微粉末との配合によって、セメントの減少によって損なわれるベアリング機能やモルタル4の流動性の補完さらには増強を図るのであり、施工性の維持にとどまらずその向上までもが見込まれる。
【0032】
ここで、本発明者は、石灰石微粉末を全く配合せずにセメントと石灰砕砂とのみを配合したセメント系固化材組成物を用いた吹付け施工ではうまく施工できないことを確認しており、この事実は石灰石微粉末の重要性を示唆している。
【0033】
そして、本実施形態の吹付け工法を実施するに際しては、圧送機1にセメント系固化材組成物2と水3の他に、必要に応じて減水剤やファイバー等を添加し、混合(混練)すればよいが、上述のようにモルタル4の流動性の向上が図れるため、従来のセメント系固化材組成物を用いる場合には欠かせなかった高価な高性能減水剤等の必要使用量は低減するので、これによってもコストダウンが達成される。
【0034】
また、一般に、セメント系固化材組成物に加える水の量の過多や過少は良質なモルタルの形成を妨げるが、本実施形態のセメント系固化材組成物2は、水を吸収しない性質を有する石灰砕砂を細骨材として含むため、吸水性の砂を細骨材として用いる従来の配合と比較して、細骨材に吸収されずに(細骨材の外部に)存在する水の量を一定にすることが非常に容易となり、形成するモルタル4の品質の安定化、ひいては良質なモルタル4づくりの簡易化にも役立つ。
【0035】
しかも、上述したように、セメント系固化材組成物2に含まれる細骨材は吸水性を有しない石灰砕砂であるので、モルタル4を形成する際の水の添加量を従来の配合よりも低減することができ、セメント系固化材組成物2はこの点でも省資源(節水)に寄与する上、このように水の添加量を低減しても、水の分離を防止する石灰石微粉末により、モルタル4として適量の水分を保持させることができる。
【0036】
さらに、セメント系固化材組成物2によるモルタル4は、石灰石微粉末によって水の分離を防止でき、モルタル4の固さや付着性が良好な状態となるため、法面N(施工対象面)に吹き付けられたときのリバウンドロス(法面Nでの跳ね返りによる分散ロス)や、吹付け後の流亡(法面Nからの流れ落ち)を低減、防止することができる。
【0037】
また、セメント系固化材組成物2は、全国各地で安定供給可能な石灰砕砂を細骨材として用いるものであるので、本実施形態の吹付け施工は全国各地で好適に実施することができる。
【0038】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0039】
本実施形態の吹付け工法は法枠5の形成のためのものであるが、これに限られず、他の構造物の形成への適用も可能である。また、本実施形態の吹付け工法ではコンプレッサー10使用の圧送機1を用いているが、これに代えて、例えばポンプ式圧送機を用いることもでき、このように公知の吹付け工法で用いられている種々の構成を本発明の吹付け工法に採用することができる。
【0040】
本実施形態のセメント系固化材組成物2はモルタル4の形成に適したものであるが、これに限られず、例えばコンクリートの形成に適するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0041】
2 セメント系固化材組成物
3 水
N 法面(施工対象面)