(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施例1〕
[自動変速機の概略]
図1は、本発明の2方電磁弁及びそれを備えた油圧装置を適用したFF車用の自動変速機の制御系を示す図である。自動変速機は、図外のエンジンからのトルクを増幅するトルクコンバータ1と、発進クラッチ(前進クラッチ及び後進ブレーキ)を有する前後進切替機構2と、入出力間で無段変速する無段変速機3(以下、CVT3)と、を有している。また、各装置への油圧や潤滑油を供給する機構として、エンジンにより駆動されるオイルポンプ7と、油圧コントロールバルブユニット8と、を有している。
【0010】
前後進切換機構2は、リングギア2a,ピニオンキャリア2b,及びサンギア2cからなる遊星歯車機構により構成されている。リングギア2aは、トルクコンバータ出力軸13と連結している。サンギア2cは、CVT入力軸14と連結している。ピニオンキャリア2bには、変速機ケースにピニオンキャリア2bを固定する後進ブレーキ2e、及びCVT入力軸14とピニオンキャリア2bとを一体に連結する前進クラッチ2dが設けられている。
CVT3は、CVT入力軸14の端部に設けられたプライマリプーリ30(プライマリ可動プーリ30aおよびプライマリ固定プーリ30b)と、従動軸16上に設けられたセカンダリプーリ31(セカンダリ可動プーリ31aおよびセカンダリ固定プーリ31b)と、各プーリ30,31の溝間に巻き付けられプライマリプーリ30の回転力をセカンダリプーリ31に伝達するベルト15と、を有している。
プライマリ可動プーリ30aの軸方向位置(プライマリプーリ30の溝幅)は、プライマリプーリシリンダ室30c及びプライマリクランプ室30dに作用する油圧によって規定される。セカンダリ可動プーリ31aの軸方向位置(セカンダリプーリ31の溝幅)は、セカンダリプーリシリンダ室31c及びセカンダリクランプ室31dに作用する油圧によって規定される。
【0011】
CVTコントロールユニット9には、スロットル開度センサ5aからのスロットル開度TVO、エンジン回転数センサ5bからのエンジン回転数Ne、油温センサ5cからの油温T、プライマリ回転数センサ6aからのプライマリ回転数Npri、セカンダリ回転数センサ6bからのセカンダリ回転数Nsec等の入力信号が入力される。CVTコントロールユニット9は、これら入力信号を元に演算し、エンジンにより駆動されるオイルポンプ7を油圧源とする油圧コントロールバルブユニット8へ制御信号を出力する。
【0012】
油圧コントロールバルブユニット8へは、CVTコントロールユニット9からの制御信号が入力され、この制御信号に基づいて油圧コントロールバルブユニット8内のソレノイドを駆動する。これにより、各シリンダ室及びクランプ室へ制御圧を供給することで変速制御を行うと共に、前進クラッチ2d及び後進ブレーキ2eへ供給する締結油圧を制御する。
【0013】
(前進クラッチ)
図2は、前進クラッチ2dのCVT入力軸14方向断面図である。前進クラッチ2dは、トルクコンバータ出力軸13と連結して一体回転するクラッチドラム50、サンギア2cと連結して一体回転するクラッチハブ51、クラッチドラム50にスプライン嵌合された複数の入力側摩擦板50a、クラッチハブ51にスプライン嵌合された複数の出力側摩擦板51a、クラッチピストン52、皿バネ53、クラッチリターンスプリング54、及びスプリングリテーナ55を有している。
【0014】
説明のため、CVT入力軸14の軸方向にx軸を設定し、クラッチピストン52に対してスプリングリテーナ55が設けられている方向を正方向と定義する。クラッチドラム50とクラッチピストン52との間には、前進クラッチピストン室62が設けられている。スプリングリテーナ55とクラッチピストン52との間には、遠心油圧の影響を排除する遠心キャンセル室63が設けられている。
遠心キャンセル室63内には、クラッチリターンスプリング54が、x軸方向に変位可能に設置されている。クラッチリターンスプリング54のx軸正方向端は、スプリングリテーナ55に固定されており、クラッチリターンスプリング54のx軸負方向端は、クラッチピストン52に固定されている。クラッチピストン52は、x軸方向に移動可能に設けられている。スプリングリテーナ55は、スナップリング56によりx軸正方向に移動不可能に固定されている。
【0015】
前進クラッチピストン室62には前進クラッチ入力ポート61を介して作動油が給排される。前進クラッチ入力ポート61から作動油が供給されると、前進クラッチピストン室62内の油圧(以下、クラッチ締結油圧Pc)とクラッチピストン52の受圧面積との積の大きさの力が、クラッチピストン52に対してx軸正方向に作用する。このため、クラッチピストン52がx軸正方向にストロークする。
一方、クラッチピストン52がx軸正方向にストロークすると、クラッチリターンスプリング54が圧縮されて、クラッチリターンスプリング54のストローク量xと弾性係数との積の大きさの弾性力が、クラッチピストン52に対してx軸負方向に作用する。
【0016】
図3は、クラッチリターンスプリング54のストローク量xと、クラッチリターンスプリング54の弾性力すなわちバネ荷重Fとの関係を示す。
クラッチピストン52は、Pcによる付勢力とクラッチリターンスプリング54のバネ荷重Fとが釣り合う位置までストロークする。前進クラッチピストン室62に作動油が供給されておらず、Pcがゼロである状態では、クラッチピストン52はクラッチリターンスプリング54によりx軸負方向に付勢され、クラッチドラム50に押し付けられおり、クラッチピストン52のストローク量xはゼロである。このときのクラッチリターンスプリング54のバネ荷重Fを、初期セット荷重F0とする。
【0017】
クラッチピストン52と複数の摩擦板50a,51aとの間には所定量のクリアランスが設けられており、入力側及び出力側の複数の摩擦板50a,51aが互いに全て接触するまで、クラッチピストン52はx軸正方向に所定量ストロークする必要がある。このストローク量をx1とする。xがゼロ(上記クリアランスが最大)からx1(上記クリアランスがゼロ)までの間は、複数の摩擦板50a,51a同士の間で摩擦力は発生せず、前進クラッチ2dは締結容量を持たない。
すなわち、前進クラッチ2dは非締結状態である。クラッチピストン52が、x1だけx軸正方向に移動した位置で、Pcによる付勢力とクラッチリターンスプリング54のバネ荷重Fとが釣り合って停止するとき、Pcの大きさをPc1とする。また、このときのクラッチリターンスプリング54のバネ荷重FをF1とする。xがx1である状態で、PcがPc1より大きくなると、皿バネ53が圧縮され始め、複数の摩擦板50a,51a同士の間で摩擦力が発生し、前進クラッチ2dが締結容量Tcを持つようになる。すなわち、前進クラッチ2dの締結状態が開始する。
【0018】
(油圧回路の概略)
図4は、油圧コントロールバルブユニット8内の油圧回路の一部を示す。オイルポンプ7の吐出ポートには、油路101を介して、ライン圧PLを調圧するプレッシャレギュレータバルブ(P.REG.V)110が接続されている。オイルポンプ7とP.REG.V110との間で調圧された第1油圧(PL)は、油路101に接続された油路102,103に供給される。油路102は、プライマリクランプ室30d及びセカンダリクランプ室31dを連通する油路70に接続されている。P.REG.V110で調圧されたPLは、油路70を介してプライマリクランプ室30d及びセカンダリクランプ室31dに常に供給される。
油路103には、油路104、及び油路106〜108が接続されている。油路104には、オリフィス105を介して油路111が接続されている。油路106には、セカンダリプーリシリンダ室31cの油圧を供給するセカンダリバルブ(SEC.V)140が接続されている。油路107には、プライマリプーリシリンダ室30cの油圧を供給する変速制御弁170が接続されている。
【0019】
変速制御弁170には、プライマリプーリシリンダ室30cにプライマリプーリ油圧を供給する油路171が接続されている。また、変速制御弁170には、プライマリプーリ30の溝幅を示す機構(変速比センサ30i)とステップモータ10とがリンク172を介して接続され、これらはステップモータ10の駆動量すなわち回転ステップ数によって変速比をフィードバック制御するメカニカルフィードバック機構を構成している。
【0020】
P.REG.V110の下流には、油路111を介して、PLよりも低い第2油圧(例えば前進クラッチ2d用の締結油圧)を調圧するクラッチレギュレータバルブ(CL.REG.V)120が接続されている。CL.REG.V120で調圧された第2油圧は、油路112を介してセレクトスイッチングバルブ(SELECT.SW.V)182及びセレクトコントロールバルブ(SELECT.CONT.V)183に供給されるとともに、油路113を介して比例制御弁であるセカンダリコントロールバルブ(SEC.CONT.V)150に供給される。
【0021】
油路104には、油路109を介して切換弁190が接続されている。切換弁190は、油路191を介して油路112に接続されており、プーリ油圧を供給する油路103及び前進クラッチ圧を供給する油路112の連通状態を切り換える。
油路108には、パイロットバルブ(PILOT.V)130が接続されている。PILOT.V130は、信号圧の元圧であるパイロット圧を供給する。パイロット圧は、油路131を介して、セカンダリ圧ソレノイドバルブ(SEC.SOL.V)160、ロックアップソレノイドバルブ(L/U.SOL.V)180、及びセレクトスイッチングソレノイドバルブ(SELECT.SW.SOL.V)181へ供給される。
【0022】
SEC.SOL.V160により調圧された信号圧は、油路161を介してSEC.CONT.V150の背圧として供給される。SEC.CONT.V150において調圧された第3油圧(第2油圧を調圧した油圧)は、油路151を介してSEC.V140の背圧として供給される。SEC.V140においてPLを元圧として調圧された油圧は、セカンダリプーリシリンダ室31cに供給される。
SELECT.SW.SOL.V 181の出力圧は油路185を介してセレクトスイッチングバルブ(SELECT.SW.V)182に供給され、信号圧として、SELECT.SW.V 182の作動を制御する。L/U.SOL.V 180の出力圧は油路184を介してSELECT.SW.V 182に供給される。
SELECT.SW.SOL.V 181がONのとき、SELECT.SW.SOL.V 181の信号圧(出力圧)がSELECT.SW.V 182に入力される。すると、SELECT.SW.V 182は、CL.REG.V120に接続された油路112とマニュアルバルブ22に接続された油路40とを遮断する一方、SELECT.CONT.V183に接続された油路115と油路40とを連通させる。同時に、L/U.SOL.V 180に接続された油路184とSELECT.CONT.V183に接続された油路186とを連通させる。
よって、このとき、油路112からの作動油(第2油圧)は、全てSELECT.CONT.V183に供給される一方、SELECT.CONT.V183においてL/U.SOL.V 180からの信号圧に従って調圧される。第2油圧より低い油圧(棚圧)に調圧されたクラッチ締結油圧Pcは、油路115、SELECT.SW.V 182、及び油路40を介してマニュアルバルブ22に供給される。
【0023】
SELECT.SW.SOL.V 181がOFFのとき、SELECT.SW.SOL.V 181の信号(出力圧)はゼロであり、SELECT.SW.V 182に信号圧が供給されない。すると、SELECT.SW.V 182は、油路112と油路40とを連通させる一方、油路115と油路40とを遮断する。同時に、L/U.SOL.V 180に接続された油路184と図外のロックアップコントロールバルブに接続された油路187とを連通させる一方、油路184と油路186とを遮断する。
よって、このとき、油路112からの作動油(第2油圧)は、全て油路40を介してマニュアルバルブ22に供給される。一方、L/U.SOL.V 180からの信号圧は、図外のロックアップコントロールバルブに供給され、このロックアップコントロールバルブの信号圧として作用する。
油路40には、油圧センサ40aが設けられている。
【0024】
(油圧制御装置の構成)
本発明の油圧制御装置は、SELECT.SW.V 182、SELECT.CONT.V183、マニュアルバルブ22、2方電磁弁80からなる機械的油圧制御手段と、CVTコントロールユニット9、L/U.SOL.V 180、及びSELECT.SW.SOL.V 181からなる電子的油圧制御手段と、を有している。
【0025】
(電子的油圧制御手段)
CVTコントロールユニット9は、燃費を向上させるため、所定条件を満たしたときにエンジンを停止させるアイドルストップ制御を行う。CVTコントロールユニット9は、極低車速であることとエンジンがアイドル回転していることを検知し、さらにブレーキスイッチや油温センサ5c等、各種センサの信号を併用して、アイドルストップ制御の開始及び終了を判断する。例えば、車速がゼロ、アイドルストップスイッチがON、ブレーキスイッチがON、油温Tが所定範囲内、舵角がゼロ、等の条件を満たせば、エンジンを停止する。このとき、後述する2方電磁弁80の電流をオン状態とする。また、ブレーキスイッチがOFFとなれば、スタータを駆動させてエンジンを再始動させる。エンジンが再始動されると、2方電磁弁80の電流をオフ状態とする。
また、CVTコントロールユニット9は、L/U.SOL.V 180及びSELECT.SW.SOL.V 181に指令を出力し、SELECT.SW.V 182及びSELECT.CONT.V183を用いて、エンジン再始動時に前進クラッチ2dに供給する締結油圧Pcを徐々に上昇させる棚圧制御を行う。
【0026】
エンジン再始動時に、オイルポンプ7が作動を開始し、前進クラッチ2dに油圧を供給する際、同時にプライマリ可動プーリ30aやセカンダリ可動プーリ31aをそれぞれプライマリ固定プーリ30bやセカンダリ固定プーリ31b側に押し付けて、ベルト15をクランプするクランプ圧を発生させるため、プライマリプーリシリンダ室30c、プライマリクランプ室30d、セカンダリプーリシリンダ室31c、セカンダリクランプ室31dに油圧を供給する必要がある。前進クラッチ2dへの油圧供給があまりにスムーズではエンジン再始動時のクランプ圧の確保が懸念される。そこで、CVTコントロールユニット9は、SELECT.SW.V 182をONとした上で、L/U.SOL.V 180の信号圧によりSELECT.CONT.V183を制御する。これにより、油路112、114からの作動油(以下、第2油圧)がSELECT.CONT.V183において調圧され、第2油圧よりも低く調圧された油圧(以下、棚圧)が、油路115、SELECT.SW.V 182、及び油路40を介して、前進クラッチ2dに供給される。このように前進クラッチ2dの最適棚圧制御を実行することで、エンジン再始動時のポンプ吐出圧の低下に伴うベルト滑りを回避でき、かつ、後述するように、エンジン再始動後の滑らかな発進が可能となる。
【0027】
(前進クラッチの油圧制御回路)
図5,6は、本発明の油圧制御装置の機械的油圧制御手段の一部、すなわちマニュアルバルブ22から前進クラッチ2dに供給する締結油圧Pcを制御する油圧制御回路20を示す。
図5は2方電磁弁80がオフ状態を、
図6は2方電磁弁80がオン状態を表す。オイルポンプ7の吐出圧は上記電子的油圧制御手段により調圧され、調圧された油圧は、油路40を介してマニュアルバルブ22に供給される。マニュアルバルブ22は2方電磁弁80に接続されている。2方電磁弁80は前進クラッチ2dに接続されている。2方電磁弁80と前進クラッチ2dとは、油路45により接続されている。
【0028】
(マニュアルバルブ)
SELECT.SW.V182からの油路40は、マニュアルバルブ22の吸入ポート221に接続されている。マニュアルバルブ22はDレンジポート222、Rレンジポート223、及びドレンポート224,225を有している。Dレンジポート222は、油路42を介して2方電磁弁80と接続している。Rレンジポート223は、油路43を介して後進ブレーキ2eと接続している。
マニュアルバルブ22は、図外のリンクを介してシフトレバーと接続されており、シフトレバーの操作に応じて、前進クラッチ2dに作動油を供給するか、後進ブレーキ2eに作動油を供給するかを切り替える。
【0029】
シフトレバーがDレンジ位置に操作されると、Dレンジポート222と吸入ポート221とを連通させ、Dレンジポート222とドレンポート224とを遮断する。同時に、Rレンジポート223とドレンポート225とを連通させ、Rレンジポート223と吸入ポート221とを遮断する。
シフトレバーがRレンジ位置に操作されると、Rレンジポート223と吸入ポート231とを連通させ、Rレンジポート223とドレンポート231とを遮断する。同時に、Dレンジポート222とドレンポート224とを連通させ、Dレンジポート222と吸入ポート221とを遮断する。
シフトレバーがNレンジ位置に操作されると、マニュアルバルブ22のスプールがDレンジとRレンジとの中間位置に移動し、Dレンジポート222とドレンポート224とを連通させ、Dレンジポート222と吸入ポート221とを遮断する。同時に、Rレンジポート223とドレンポート225とを連通させ、Rレンジポート223と吸入ポート221とを遮断する。
【0030】
(2方電磁弁について)
マニュアルバルブ22のDレンジポートは、2方電磁弁80の吸入ポート89aと接続している。2方電磁弁80は、プレート部材86を介して一方側に吸入ポート89aが形成され、他方側に吐出ポート89bが形成されている。以下、吸入ポート89a側を油圧源側とし、吐出ポート89b側を圧力供給先側と定義する。吐出ポート89bは油路45と接続し、油路45は前進クラッチ2dの前進クラッチ入力ポート61(
図5参照)と接続している。
【0031】
図5の2方電磁弁80の断面図に示すように、2方電磁弁80は、電磁力を発生するコイル81と、コイル81の内周に配置され電磁吸引力により作動する略円筒状のプランジャ83と、プランジャ83内に収装されたリターンスプリング82(第1弾性体)とを有する。プランジャ83は、該プランジャ83よりも小径であって、かつ、後述する弁体85の直径よりも小径のピン部材84と一体に組みつけられている。ピン部材84の先端側には、流通孔87及び弁座86aが形成されたプレート部材86が設けられている。尚、ピン部材84は、流通孔87よりも小径である。
プレート部材86の油圧源側には、球体である弁体85が設けられている。弁体85は、スプリング88(第2弾性体)によりプレート部材86側に付勢され、弁座86aに着座することで流通孔87を閉塞可能に構成されている。弁体85は、ピン部材84によって流通孔87の圧力供給先側から押圧可能に構成されており、スプリング88の付勢力に抗してピン部材84が弁体85を押し下げることで開弁可能する。
すなわち、プレート部材86の流通孔87の開口状態により、油圧源側と圧力供給先側との連通状態が決定される。
【0032】
〔2方電磁弁の作用〕
次に、2方電磁弁80の作用について説明する。尚、リターンスプリング82の付勢力をf1、スプリング88の付勢力をf2(<f1)、電磁吸引力をFと定義する。
図5に示すように、2方電磁弁80が電流オフ状態のときは、リターンスプリング82の付勢力f1がスプリング88の付勢力f2よりも強いため、弁体85はピン部材84により押し下げられて弁座86aから離間する。これにより、吸入ポート89aと吐出ポート89bは連通状態とされ、マニュアルバルブ22を通過したライン圧は前進クラッチ2dに供給可能な状態である。よって、通常走行状態にあっては、2方電磁弁80の電流をオフとしておくことで、前進クラッチ2dへの油圧が供給する。
【0033】
次に、車両停止後、所定の条件が成立してアイドルストップが行われる際には、2方電磁弁80の電流をオン状態とする。
図6は2方電磁弁の電流オン状態を表す図である。
図6に示すように、電流オン状態となると、電磁吸引力Fが発生し、ピン部材84を
図6中上方へ引き上げる。すなわち、F>f1−f2の関係が成立し、弁体85はスプリング88の付勢力f2により弁座86aに着座する。これにより、吸入ポート89aと吐出ポート89bは遮断状態とされ、前進クラッチ2d内には、スプリング88の付勢力f2の範囲において締結油圧Pcが保持される。尚、締結油圧Pcは、クラッチリターンスプリング54の弾性力F0より大きく、かつ、クラッチクリアランスがゼロに切り替わる(クラッチピストンストローク量xがx1となる)時点におけるクラッチリターンスプリング54の弾性力F1未満である。よって、前進クラッチ2dの非締結状態を維持したままで、アイドルストップ後のエンジン再始動時に行う前進クラッチ2dのストローク詰めを締結油圧Pc分少なくすることができ、速やかに前進クラッチ2dの締結が行える。
【0034】
上記のように、2方電磁弁80を、電流オフ状態で連通状態とし、電流オン状態で所定圧を保持する構成としたことで、1つの油路で前進クラッチ2d内の油圧を保持することができる。よって、複数の油路を設ける必要もなければ、複数の油路を切り換える必要もなく、油路の複雑化を回避できる。
また、電気的なフェール状態、もしくは他の要因によってフェールセーフモードに入って2方電磁弁80に電流が供給されない状態となっても、2方電磁弁80の電流がオフ状態で吸入ポート89aと吐出ポート89bとが連通状態を維持するため、通常の走行に何ら影響を与えない。よって、電流オフで連通状態を維持することは、フェール対策としても有利である。
【0035】
[実施例1の効果]
実施例1の自動変速機の油圧制御装置は、以下に列挙する効果を有する。
(1)電流のオン・オフに基づいて駆動するプランジャ83と、プランジャ83の駆動によって移動し、弁座86aと接離して油路を開閉する弁体85と、弁座86aから弁体85を離間する方向へプランジャ83を付勢するリターンスプリング82(第1弾性体)と、弁座86aに弁体85が接する方向へ弁体85を付勢するスプリング88(第2弾性体)と、を備え、電流がオンで弁座86aに弁体85が着座し、電流がオフで弁体85が弁座から離間するようにリターンスプリング82及びスプリング88の付勢力f1,f2を設定した。
よって、油圧の供給先である前進クラッチ2dの油圧を保持するにあたり、複数の油路や切換弁等を設ける必要が無く、油圧回路の複雑化を回避できる。
【0036】
(2)弁座86aは、オイルポンプ7からの油圧が供給される吸入ポート89a(油圧源)と前進クラッチ2dと接続された吐出ポート89b(圧力供給先)との間に設けられ、リターンスプリング82は、弁座86aより吐出ポート89b側に配置されると共に、プランジャ83の基端部を吐出ポート89b側から吸入ポート89a側へ付勢する部材であり、弁体85は、弁座86aより吸入ポート89a側に配置され、スプリング88は、弁体85を吸入ポート89a側から吐出ポート89b側に向けて付勢する部材であり、プランジャ83は、電流がオフのとき、リターンスプリング82の付勢力により、その先端部で弁体85を吐出ポート89b側から吸入ポート89a側に向かって押圧し、電流がオンのとき、先端部を弁体85よりも吐出ポート89b側に位置させ、弁体85が弁座86aに着座することを許容する部材である。
すなわち、電流がオン状態では、スプリング88が弁体85を吸入ポート89a側から吐出ポート89b側に向けて付勢するため、前進クラッチ2dの油圧がスプリング88の付勢力f2を超えている間は、2方電磁弁80の油路が連通状態とされ、前進クラッチ2dの油が2方電磁弁80を介して流出する。次に、前進クラッチ2dの油圧がスプリング88の付勢力f2に対応する圧より低くなると、2方電磁弁80が遮断され、それ以上、前進クラッチ2d内の油圧が低下することを防ぐことができる。つまり、上述の構成により、リターンスプリング82の付勢力f1<電磁吸引力Fとすれば、電流オンとすることでスプリング88の付勢力f2に応じた油圧を前進クラッチ2d内に保持することができる。言い換えると、付勢力f2を適宜設定することで、前進クラッチ2d内に保持する油圧の大きさを調整することができる。
【0037】
(3)圧力供給先は、車両が発進するときに油圧によって締結される前進クラッチ2dであり、油圧源は、エンジンを駆動源とするオイルポンプ7である。
すなわち、アイドルストップ制御時に有る程度の油圧を確保したい前進クラッチ2dに対し、アイドルストップ時に油圧源としての機能を喪失してしまうオイルポンプ7との関係において、2方電磁弁80を適用することで、エンジン再始動による車両発進時等において、スムーズな発進を達成できる。
【0038】
(4)弁体85は、球体である。すなわち、従来技術で開示されたように、スプールの移動によって切り換える構成を採用した場合、保圧弁を有する油路と、保圧弁の無い油路とを切り換えるにあたり、コンタミ等によりスプールがスタックしてしまうおそれがある。仮に、スプールがスタックすると、油路を切り換えることができず、前進クラッチ2dの保圧が不可能となったり、前進クラッチ2d内の油圧が解放できずドライバーの意図しない場面でエンジン駆動力が駆動輪に伝達されるといった違和感を生じるおそれがある。これに対し、実施例1にあっては、弁体85が球体であるため、コンタミ等でスタックするといった場面を回避することができる。
【0039】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、実施例1においては、本発明の油圧制御装置を、ベルト式無段変速機を有する自動変速機に適用したが、遊星歯車列を有する有段式自動変速機に本発明を適用してもよい。また、実施例1においては、発進用締結要素として前進用のクラッチにのみ本発明を適用する構成を示したが、後進用のクラッチ(ブレーキ)に本発明を適用してもよい。