(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来のこの種摩擦締結装置として、ドラムを内外の摩擦締結部に共通の回転部材として変速機内に構成される
図7に示すようなものがある。
ドラム20’はディスク部21から軸方向同方向に延びる内筒23と外筒22’を有するプレス成型品で、外筒22’は内周および外周の双方に軸方向のスプラインを備えている。外周側の外面スプライン24’の山部は内周側の内面スプライン25’の谷部となっている。
内側の摩擦締結部として、ドラム20’内には内筒23とディスク部21の間にシリンダ27が形成されるとともに、内面スプライン25’には駆動側の摩擦板として複数の
ドリブンプレート46が噛み合い、
ドリブンプレート46と軸方向交互に配置された被駆動側の摩擦板としての
ドライブプレート47が遊星歯車機構10のピニオンキャリア13の外周に形成されたスプライン14と噛み合っている。
【0003】
外筒22’の開口側には、内径側にはす歯を有して遊星歯車機構10のピニオンギア12と噛み合うリングギア15が配置されている。リングギア15は外径側に外筒22’の内面スプライン25’と噛み合う歯17を備えている。
シリンダ27に油圧が供給されると、ピストン60がリターンスプリング65を押し縮めて移動し、ピストン60から延びる押圧部61が交互に重なった
ドリブンプレート46と
ドライブプレート47をリングギア15との間に圧縮して摩擦力を発生させ、ピニオンキャリア13をドラム20’と一体に回転させ、したがってリングギア15と接続させる。
【0004】
外筒22’の外面スプライン24’には複数のドライブプレート36’が噛み合い、ドライブプレート36’と軸方向交互に配置されたドリブンプレート37が変速機ケース2の内壁に形成されたスプライン3と噛み合っている。
変速機ケース2内にはスプライン3に隣接してシリンダ50が設けられ、シリンダ50に油圧が供給されると、ピストン51がリターンスプリング55を押し縮めて移動し、ピストン51から延びる押圧部52が交互に重なったドライブプレート36’とドリブンプレート37をケース側受け部4との間に圧縮して摩擦力を発生させ、ドラム20’の回転を停止させる。
外面スプライン24’と噛み合うドライブプレート36’としては、例えば特開2008−175214号公報に示されるような摩擦板が用いられる。
【0005】
先の内側の摩擦締結部において、ドラム20’の外筒22’の開口近傍には、リングギア15の位置決めのため、内面スプライン25’を横切る周方向の溝28、34を形成して、それぞれスナップリング66、67を嵌めこんである。開口端側の溝28に嵌めこまれたスナップリング66はリングギア15の抜け止めであり、ピストン60の押圧力を受け止める。奥側のスナップリング67は、ピニオンギア12からの回転トルクのはす歯による軸方向成分でリングギア15が奥方向に移動して
ドリブンプレート46および
ドライブプレート47を押圧するのを防止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上述したリングギア15を位置決めするのに、ドラム20’の外筒22’の内面に溝28、34を形成しスナップリング66、67を装着する構成は切削加工を要するとともに部品コストを増大させている。
このため、抜け止め用のスナップリング66はやむを得ないとして、少なくともリングギア15のはす歯による軸方向成分に起因する移動を抑えるためのスナップリング67を省くため、ドラム20’の代わりに、外筒22の外側からのプレスにより外筒22の内径側に突出壁31を形成したドラム20に代替することが考えられ、これにより溝34の切削加工も廃止できる。
突出壁31の形成は、
図2に示すように、外面スプライン24における周方向に間隔を置いた所定の歯26aにプレスで凹部30を形成して内面スプライン25における谷部に突出させるのが好ましく、内側の摩擦締結部の
ドリブンプレート46は突出壁31を突出させた谷に対応する部位だけ欠歯させればよい。
【0008】
ところが上記代替技術の具体的な実施化を進める途上、外筒22外側の摩擦締結部におけるドライブプレート36’が軸方向の滑らかな移動を妨げられる場合のあることが見出された。
その原因を検討したところ、プレスで凹部30を形成する際、凹部30の底壁32が沈んでいくにしたがって山の斜面側方にもドラム材料が押し出され、
図2に示すように、凹部30の底壁32の側縁が歯26aの歯面から突起部33となって突出していることが判明した。
【0009】
このため、ドライブプレート36’の歯と外面スプライン24の歯との間には周方向に若干の間隙が設定されても、ドライブプレート36’と外面スプライン24の歯面同士が接触した状態でドライブプレート36’が移動しようとすると、突起部33にドライブプレート36’の歯の側縁が引っかかってしまう状態が生じる。
このようにドライブプレート36’の歯が凹部30の突起部33に引っかかって移動できない状態になると、完全な締結状態あるいは解放状態が得られず、ドライブプレート36’とドリブンプレート37間が無用の摺動状態となって焼き付きなどを生じるおそれがある。
【0010】
したがって本発明は、外筒外周のスプラインの歯にプレスで凹部を形成したドラムの外側に、摩擦板を配して摩擦締結部を形成する摩擦締結装置において、上述の問題点にかんがみ、摩擦板の滑らかな移動が妨げられることのない構造、およびその摩擦板の組付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため本発明は、
内周と外周にスプラインを備えるドラムと、該ドラムの外周を囲む内周にスプラインを備える他部材との間で、ドラムの外周のスプラインと噛み合う第1の摩擦板と、他部材のスプラインと噛み合う第2の摩擦板とが、ドラムの回転軸方向で交互に配置されて、回転軸方向に移動可能に設けられており、ドラムの内周のスプラインに噛み合う回転部材の回転軸方向の移動を規制する突出壁が、ドラムの外周のスプラインにおける周方向間隔をおいた歯に、プレス成形により凹部を形成することで、内周のスプラインにおける周方向間隔をおいた歯と歯の間に突出形成された摩擦締結装置において、
第1の摩擦板は、凹部を有するそれぞれの歯に対応する歯を切除した欠歯部を複数有すると共に、欠歯部のうち少なくとも1つを他の欠歯部の底より所定量径方向外方に広げた底を有する切り込み部としており、回転軸方向から見て、ドラムのディスク部には、周方向における凹部を有する歯の位置に関連付けた参照部を形成した構成の摩擦締結装置とした。
また、上記摩擦締結装置における本発明の摩擦板の組付け方法は、第1の摩擦板の欠歯部のうち少なくとも1つを他の欠歯部の底より所定量径方向外方に広げた底を有する切り込み部とする一方、該切り込み部を相対的に通過可能なガイド片を有する治具の当該ガイ
ド片を、ドラムのスプラインにおける凹部を有する歯に沿わせてから、切り込み部をガイド片に合わせて第1の摩擦板を軸方向に押し込みドラムのスプラインに嵌め込むものとした。
【発明の効果】
【0012】
第1の摩擦板が凹部を有する歯に対応する歯を切除した欠歯部を有しているため、締結、解放に際して第1の摩擦板の歯が凹部に生じる突起部に引っ掛かって滑らかな移動を妨げられるおそれがない。
そして、とくに欠歯部の少なくとも1つを治具のガイド片が通過可能な切り込み部とすることにより、当該治具を用いて、凹部を有する歯に欠歯部を対応させて容易に第1の摩擦板をドラムのスプラインに嵌め込むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は実施の形態を示す摩擦締結装置の要部の断面図である。実施の形態にかかる摩擦締結装置1は従来例と同様にドラムの内外に摩擦締結部を備えている。
プレス成型品のドラム20は外筒22にそれぞれ軸方向の外面スプライン24と内面スプライン25を備え、外筒22の外面スプライン24の山部は内面スプライン25の谷部となっている(
図2参照)。
内面スプライン25には駆動側の摩擦板として複数の
ドリブンプレート46が噛み合い、
ドリブンプレート46と軸方向交互に配置された被駆動側の摩擦板としての
ドライブプレート47が遊星歯車機構10のピニオンキャリア13の外周に形成されたスプライン14と噛み合っている。なお、軸方向交互に重ねた
ドリブンプレート46と
ドライブプレート47を以下では摩擦板列45と呼ぶ。
【0015】
ドラム20の内筒23とディスク部21の間にシリンダ27が形成され、プレス成型品のピストン60が軸方向スライド可能にシリンダ27内に配置されている。さらにスナップリング64により内筒23に係止された遠心キャンセルピストン63がピストン60と相対的にスライド可能に設けられ、ピストン60との間に遠心キャンセル油室Rを形成している。また、遠心キャンセルピストン63とピストン60の間にはリターンスプリング65が設けられている。ピストン60からは摩擦板列45に向かって押圧部61が延びている。
【0016】
摩擦板列45を挟んでピストン60と軸方向反対側には、内径側に遊星歯車機構10のピニオンギア12と噛み合うはす歯16を備えたリングギア15が配置され、リングギア15はその外径側の歯17が外筒22の内面スプライン25と噛み合っている。外筒22の開口端側には内面スプライン25を横切る周方向の溝28が形成されて、溝28にリングギア15を抜け止めするスナップリング66を嵌めこんである。なお、溝28の形成により薄肉とならないように、外面スプライン25には溝28の形成部分に対応して谷を横切るビード29が設けられている(
図3の(b)参照)。
【0017】
これにより、ドラム20の内側の摩擦締結部CL2が形成され、シリンダ27に油圧が供給されると、ピストン60がリターンスプリング65を押し縮めて移動し、ピストン60から延びる押圧部61が摩擦板列45をリングギア15との間に圧縮して摩擦力を発生させて、ピニオンキャリア13をドラム20と一体に回転させ、したがってリングギア15と接続させる。
【0018】
なお、遊星歯車機構10のサンギア11は入力側の第1軸7に回転可能に支持された第2軸8に設けられてピニオンギア12と噛み合う一方、ピニオンキャリア13はその内径側で出力側の第3軸9とスプライン結合している。また、ドラム20は第3軸9に回転可能に支持されており、遊星歯車機構10を介した第2軸8から第3軸9への動力伝達経路に設けられている。
ドラム20は、後述の参照ボス44で径方向が位置決めされ変速機ケース2の内部隔壁5との間に設けられたスラストベアリング68で軸方向一方への移動が規制され、スナップリング64とピニオンキャリア13との間に設けられたスラストベアリング69で軸方向他方への移動が規制されている。
【0019】
図3はドラム20の外観を示し、(a)は軸方向ディスク部21側から見た図、(b)は開口側からの部分斜視図である。ただし、(a)における外面スプライン24は凹部30を形成した部位を通る切断面での形状を示し、簡単化のためビード29は省略している。後掲の
図6においても同様である。凹部30の詳細は
図2を参照。
本実施例では、溝28より摩擦板列45側において、外面スプライン24における歯26(山部)にプレスで前述した凹部30を形成して内面スプライン25における谷部に突出壁31を突出させ(
図2参照)、リングギア15の摩擦板列45方向への移動を規制している。
すなわち、
図1に示すように、リングギア15はスナップリング66と突出壁31に挟まれて位置拘束されている。
【0020】
なお、凹部30形成用のプレス型は効率よく突出壁31を裏面(内面スプライン25側)に突出させるため平坦面から突出した尖り部を有し、これにより
図2に示されるように、凹部の底壁32は平坦面を基本として幅中央に尖った谷を有している。
突出壁31形成のための凹部30は外筒22の周方向複数箇所に設けられ、本実施の形態では外面スプライン24の歯数が偶数であるとして、45°の等角度間隔で8箇所に形成されている。以下、凹部30が形成された歯の参照番号を26aとする。
外面スプライン24における歯26の頂壁には適宜潤滑用のオイル通過穴70が設けられるが、凹部30が形成される歯26aはオイル通過穴70が設けられる歯とは異なる歯でも同じ歯でもよい。
【0021】
内側の摩擦締結部CL2の組み立てにおいては、まずピストン60、リターンスプリング65および遠心キャンセルピストン63を順次にドラム20の開口側から挿入してシリンダ27内に組み込み、それから
ドリブンプレート46の歯を内面スプライン25の谷部に沿わせながら
ドリブンプレート46と
ドライブプレート47を交互に挿入する。この際
、とくに図示はしないが、
ドリブンプレート46は突出壁31を突出させた谷部に対応する歯を切除して欠歯状態としてあり、突出壁31と干渉することなく当該突出壁31より奥側に挿入することができる。
このあと、リングギア15を、その外径側の歯17と内面スプライン25を噛み合わせて当該歯17が突出壁31に当接するまで挿入してから、スナップリング66を溝28に嵌め込む。
【0022】
つぎに、外筒22の外側では、軸方向交互に配置されて摩擦板列35を形成する複数のドライブプレート36とドリブンプレート37とが外面スプライン24と変速機ケース2の内壁に形成されたスプライン3とに噛み合っている。
変速機ケース2の内部隔壁5にはピストン51をスライド可能に収容するシリンダ50がスプライン3に隣接して設けられている。変速機ケース2には軸方向におけるシリンダ50とスプライン3の間にスプリング受け53が取り付けられ、ピストン51とスプリング受け53の間にリターンスプリング55が設けられている。そして、ピストン51からはスプリング受け53に形成された穴54を貫通して押圧部52が摩擦板列35に向かって延びている。
なお、変速機ケース2は、スプリング受け53が取り付けられた部位と、シリンダ50が設けられた内部隔壁5側とが分離され、不図示のボルト等で一体に結合されている。
【0023】
図4はドライブプレート36を示す図で、図中の細線は凹部30形成部分における外面スプライン24のシルエットである。
ドライブプレート36は、内縁に歯38を有し、外周側両面に摩擦材のフェーシング39を備えている。
ドライブプレート36は、歯38のうち外面スプライン24の凹部30を形成した歯26aに対応する歯、すなわち凹部30を形成した歯26aを隣接して挟む2つの歯を切除した欠歯部40を有している。欠歯部40は、ドライブプレート36の歯38の谷径に沿った円弧状の底41を有する切り欠きとなる。
本実施の形態ではドラム20の周方向45°間隔で8本の歯26aに凹部30が形成されているので、ドライブプレート36は同じく45°間隔に欠歯部40を備えることになる。
【0024】
そして、欠歯部40のうち第1の直径線D1上で対向する2つの欠歯部および第1の直径線D1に対して垂直な第2の直径線D2上で対向する2つの欠歯部は、後述する治具80を使用可能とするため、底41をさらに径方向外方に広げて円弧状の底43とした切り込み部42となっている。切り込み部42の径方向拡大幅Uは治具80のガイド片87(
図5参照)の板厚を通過させるのに余裕をもった値に設定される。
【0025】
以上の構成によりドラム20の外側の摩擦締結部CL1が形成され、シリンダ50に油圧が供給されると、ピストン51がリターンスプリング55を押し縮めて移動し、ピストン51から延びる押圧部52が摩擦板列35を変速機ケース2に形成された受け部4との間に圧縮して摩擦力を発生させ、締結状態となってドラム20の回転を停止させる。また、シリンダ50から油圧が抜かれるとリターンスプリング55に付勢されてピストン51が戻り、摩擦板列35が圧縮状態から解放されてドラム20の回転を許す。この間、ドライブプレート36における外面スプライン24の凹部30を形成した歯26aに対応する部位は欠歯部40(切り込み部42を含む)となっているので、締結、解放に際してドライブプレート36の歯38が凹部30の突起部33に引っ掛かって滑らかな移動を妨げられるおそれはまったくない。
【0026】
つぎに、外側の摩擦締結部CL1を構成するドライブプレート36とドリブンプレート37のドラム20への組み付けに用いる治具について説明する。
治具に関連して、まず
図3に示されるように、ドラム20のディスク部21には、スラストベアリング68の位置決めを兼ねた参照ボス44が軸方向に突出して形成されている。
参照ボス44は外筒22の外面スプライン24の凹部30を形成した各歯26aに対応して、当該歯26aと軸心とを結ぶ線上に配置してある。
【0027】
図5は治具を示し、(a)は一部破断平面図、(b)は(a)におけるA−A部断面図である。
治具80は、リング盤81にブラケット83を介して取っ手85を取り付けて構成される。
リング盤81はドラム20の参照ボス44の中心を通る円に沿った内径を有し、外径は外面スプライン24の谷径よりも所定量小さく設定してある。リング盤81の内縁には内径線上に中心を有して参照ボス44を受入れ可能な半円形の切り欠き82が周方向等間隔(45°)に形成されている。すなわち、切り欠き82の半径は参照ボス44の直径の1/2より所定量大きくなっている。
リング盤81の切り欠き82のうち対向する2つを結ぶ直径線上にそれぞれ2個のリベット84でブラケット83が結合されている。リベット84のリング盤81下面に露出する側は平頭または沈頭が好ましい。
ブラケット83は断面L字形をなし、リング盤81と結合した一片83aは平面で、他片83bはリング盤81と同心の円弧面になっている。
【0028】
取っ手85はリング盤81の盤面と平行な把持部86とその両端から同方向に平行に延びるガイド片87とを有し、コ字形をなしている。ガイド片87はブラケット83の円弧面と整合する円弧断面を有し、ドライブプレート36の切り込み部42に受入可能な幅Sを有している。
取っ手85はその把持部86とリング盤81の間に指を差し込める程度に把持部86をリング盤81から離間させて、ガイド片87の中間部をブラケット83の円弧面をなす片83bに2個のリベット88で結合されている。リベット88のガイド片87の外面に露出する側は平頭または沈頭が好ましい。
【0029】
以上のようにリング盤81、ブラケット83および取っ手85が結合された状態で、ガイド片87の内側の円弧径は、軸方向からガイド片87をドラム20の外筒22に支障なく被せることができる程度に外筒22の外面スプライン24の山径よりわずかに大きく設定されており、ガイド片87の外側の円弧径は外面スプライン24と噛み合うドライブプレート36の歯38の谷径よりも大きくなる。リング盤81からのガイド片87の長さLは、リング盤81をドラム20のディスク部21に着座させたとき外面スプライン24の長さ範囲内に届けばよい。
【0030】
ドラム20の外筒22へのドライブプレート36およびドリブンプレート37の組み付けに当たっては、ドラム20のディスク部21が上になるように軸を上下方向姿勢にするのが好ましい。
まずドラム20にそのディスク部21側(上方)から治具80を被せる。この際、治具80はその把持部86を手に持ってガイド片87を外筒22(外面スプライン24)に沿わせる一方、リング盤81の軸まわりに回しながら、
図6の(a)に示すように、切り欠き82をディスク部21の参照ボス44に嵌め合わせてリング盤81をディスク部21に着座させる。リベット84をリング盤81の下面で平頭または沈頭とすることによりぐらつかず安定に着座する。
参照ボス44は外面スプライン24の凹部30を形成した歯26aに対応させてあり、ガイド片87は参照ボス44に合わせた切り欠き82を通る直径線上にあるから、ガイド片87は凹部30を形成した歯26aに面して延びていることになる。
【0031】
リング盤81の着座状態において、ドライブプレート36とドリブンプレート37を交互にガイド片87の外側を通して外筒22に押し込み嵌め込んでいく。この際、ガイド片87はドライブプレート36の歯38の谷径より外方に張り出しているから、ドライブプレート36はその切り込み部42をガイド片87に合わせなければ外筒22上に嵌め込むことができない。したがって、
図6の(b)に示すように、切り込み部42をガイド片87に合わせて嵌め込むことにより、当該切り込み部42および他の欠歯部40がそれぞれ外面スプライン24の凹部30を形成した歯26aと面する位置に案内される。
リベット88をガイド片87外面で平頭または沈頭とすることにより切り込み部42の底縁(底43)が引っ掛かることなく滑らかに押し込むことができる。
【0032】
なお、ドライブプレート36の切り込み部42および治具80のガイド片87は少なくともそれぞれ1つあればよいが、切り込み部42が多いほど治具80の位置合わせが容易となり、ガイド片87が多いほど治具80の安定性も向上する。
ここではドライブプレート36の切り込み部42が90°間隔で設けてあるから、多くても45°だけ時計方向または反時計方向に回転させれば治具80のガイド片87に合わせることができる。
【0033】
切り込み部42および欠歯部40ではドライブプレート36と外面スプライン24との噛み合いはないが、他の歯同士で噛み合うので、嵌め込み後はドライブプレート36と外面スプライン24の回転方向の相対位置がずれることはない。
ドライブプレート36とドリブンプレート37すべての嵌め込みが終わったら治具80を軸方向に抜いて取り外し、作業完了となる。
なお、ドラム20の外筒22へのドライブプレート36およびドリブンプレート37の組み付けは、外筒22内側の摩擦締結部CL2を遊星歯車機構10(ピニオンギア12、ピニオンキャリア13)と連結した状態の変速機ケース2内で行う場合は、ドリブンプレート37が同時に変速機ケース2のスプライン3に噛み合わせられる。
【0034】
本実施の形態では、摩擦締結装置については、内壁にスプライン3を備える変速機ケース2が発明における他部材に該当し、外面スプライン24がドラムのスプラインに、ドライブプレート36が第1の摩擦板に、ドリブンプレート37が第2の摩擦板に、そして参照ボス44が参照部に該当する。
治具については、リング盤81が発明における着座部材に該当し、切り欠き82が位置合わせ部に該当する。そして、参照ボス44に対応する切り欠き82をリング盤81に形成し、切り欠き82に対応する位置からガイド片87を軸方向に延ばした構造が位置決め手段を構成している。
【0035】
実施の形態は以上のように構成され、外面スプライン24を備えるドラム20と内壁にスプライン3を備える変速機ケース2との間に、外面スプライン24と噛み合うドライブプレート36とスプライン3と噛み合うドリブンプレート37とを交互に配置するとともに、外面スプライン24における周方向間隔をおいた歯26aにプレス成形した凹部30を有する摩擦締結装置1において、ドライブプレート36が凹部30を有するそれぞれの歯26aに対応する歯を切除した欠歯部40を有しているものとしたので、締結、解放に際してドライブプレート36の歯が凹部30に生じる突起部33に引っ掛かって滑らかな移動を妨げられるおそれがない
。
【0036】
ドライブプレート36は欠歯部40のうち少なくとも1つを他の欠歯部の底41より所定量径方向外方に広げた底43を有する切り込み部42としているので、切り込み部42を相対的に通過可能なガイド片87を有する治具80を用いて、ガイド片87を外面スプライン24における凹部30を有する歯26aに沿わせた状態で、切り込み部42をガイド片87に合わせて軸方向に押し込むことにより、容易にドライブプレート36を外面スプライン24に嵌め込むことができる
。
【0037】
さらに、ドラム20のディスク部21には凹部30を有する歯26aに対し周方向において対応する位置に参照ボス44を形成しているので、治具80にはドラム20のディスク部21に着座するとともに参照ボス44に対応させる切り欠き82を有するリング盤81を備え、リング盤81における切り欠き82に対応する位置から上記のガイド片87を軸方向に延ばすことにより、切り欠き82を参照ボス44に合わせるだけで容易にガイド片87が凹部30を有する歯26aに面するように位置合わせすることができる
。
【0038】
また、凹部30を有する歯26aをドラム20の周方向に等角度間隔に設定するとともに、参照ボス44をそれぞれの歯26aに対応させて等角度間隔に形成し、治具80のリング盤81には切り欠き82を参照ボス44に対応して等角度間隔に設けたので、切り欠き82を適宜に参照ボス44に嵌め合わせれば必ずガイド片87が凹部30を有するいずれかの歯26aに面することになり、ガイド片87の位置合わせがとくに容易となる
。
【0039】
治具のガイド片87は少なくとも1本あればよいが、ドライブプレート36の切り込み部42を直径線D1やD2上で対向する2箇所に設け、治具80がガイド片87を当該2箇所の切り込み部42に対応して2本有することにより、治具80がドラム20に確実に保持されて着座状態が安定し、ガイド片87にドライブプレート36の切り込み部42を合わせる作業がとくに容易となる
。
【0040】
治具80のガイド片87をリング盤81からドラム20の外面スプライン24へ指向する側とは軸方向反対側にも延ばし、その先端同士をつないで把持部86としているので、治具80の取り回しが容易になるとともに、ドライブプレート36を把持部86上に滑らせながら切り込み部42をガイド片87へ簡単に案内することができる
。
さらに、ディスク部21の参照ボス44は、従来と同じにドラム20の軸方向位置を規制するスラストベアリング68の径方向位置決めを兼ねているので、新たに形成する必要がない
。
【0041】
なお、実施の形態では治具80のガイド片87が円弧断面を有して、ドライブプレート36の切り込み部42の円弧状の底43と平行なものとしたが、これに限定されず、ガイド片87は平板状でもよい。この場合には切り込み部42もその底43を直線にするなどしてガイド片87を相対的に通過可能な形状にすればよい。
さらに、実施の形態ではドライブプレート36の複数の欠歯部40のうちの一部を切り込み部42としたが、ドライブプレート36の強度および剛性面で余裕があればすべての欠歯部を切り込み部42としてもよい。
【0042】
また、ドラム20の外面スプライン24に形成する凹部30は、その底壁32の平坦部が歯26aの山部にとどまった例を示したが、これに限定されず、必要に応じて底壁32(平坦部)が歯26aの谷部に及ぶまで深い凹部とすることもできる。
ドラム20の外側の摩擦締結部CL1は締結時にドラム20の回転を停止させるいわゆるブレーキを形成するものとしたが、摩擦締結部CL1は内側の摩擦締結部CL2と同様に締結時に他の回転部材と接続するものでもよい。
さらには、実施の形態は、ドラム20の内外に摩擦締結部CL1、CL2を構成し、外面スプライン24の凹部30はリングギア15が内側の摩擦板列45を押圧する方向に移動するのを規制する突出壁31を形成するためのものとしたが、本発明はドラム内側の摩擦締結部CL2の有無にかかわらず、他部材の位置拘束その他の目的で外面スプライン24の歯に凹部30を形成した他の摩擦締結装置にも適用されるものである。
したがってまた、ドラム20と噛み合う部材は遊星歯車機構10のリングギア15に限定されず、他の回転部材でもよい。