特許第5693768号(P5693768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金エンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5693768-高炉の操業方法及び溶銑の製造方法 図000003
  • 特許5693768-高炉の操業方法及び溶銑の製造方法 図000004
  • 特許5693768-高炉の操業方法及び溶銑の製造方法 図000005
  • 特許5693768-高炉の操業方法及び溶銑の製造方法 図000006
  • 特許5693768-高炉の操業方法及び溶銑の製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5693768
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】高炉の操業方法及び溶銑の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20150312BHJP
【FI】
   C21B5/00 319
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-68059(P2014-68059)
(22)【出願日】2014年3月28日
(62)【分割の表示】特願2013-214049(P2013-214049)の分割
【原出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-132122(P2014-132122A)
(43)【公開日】2014年7月17日
【審査請求日】2014年8月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-268588(P2012-268588)
(32)【優先日】2012年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】市川 宏
(72)【発明者】
【氏名】大澤 靖之
(72)【発明者】
【氏名】林 卓史
(72)【発明者】
【氏名】冨崎 真
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−102746(JP,A)
【文献】 特開2001−073016(JP,A)
【文献】 特開平09−013109(JP,A)
【文献】 特開2004−027265(JP,A)
【文献】 特開2003−247008(JP,A)
【文献】 特開2001−131616(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/059739(WO,A1)
【文献】 特開2008−111172(JP,A)
【文献】 特開2001−234213(JP,A)
【文献】 特開平11−286705(JP,A)
【文献】 宇治澤優 他,HBI利用による高炉増産効果の検討,鉄と鋼,日本,社団法人日本鉄鋼協会,2006年10月 1日,第92巻,第10号,p.591-600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の炉頂から酸化鉄原料とコークスと部分還元鉄とを装入するとともに、前記高炉の羽口から微粉炭及び酸素富化空気を吹き込んで、前記酸化鉄原料を還元して溶銑を得る高炉の操業方法であって、
前記酸素富化空気の酸素富化率をx(%)、及び、溶銑1ton当たりの前記微粉炭の吹き込み量をy(kg/ton)としたときに、x及びyが、下記式(1)〜(3)を満たす高炉の操業方法。
25x−175<y<31x+31 (1)
y>130 (2)
x>8 (3)
【請求項2】
前記部分還元鉄の装入量が、溶銑1ton当たり100〜600kgである、請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項3】
前記酸素富化率を、8%を超え且つ16%以下の範囲内で調整する、請求項1又は2に記載の高炉の操業方法。
【請求項4】
前記部分還元鉄の炭素含有率が2.3〜5.9質量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の高炉の操業方法。
【請求項5】
前記高炉に装入される前記部分還元鉄の全体に対する粒径5mm未満の部分還元鉄の割合が10質量%以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の高炉の操業方法。
【請求項6】
前記高炉に装入される前記部分還元鉄の圧壊強度が30kg/cm以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の高炉の操業方法。
【請求項7】
yが下記式(4)を満たす、請求項1〜6のいずれか一項に記載の高炉の操業方法
y>175 (4)
【請求項8】
yが下記式(5)を満たす、請求項1〜7のいずれか一項に記載の高炉の操業方法
y≦250 (5)
【請求項9】
炉頂温度Ttopが所定の温度範囲にあることを監視しながら前記コークスの装入量を調整する第1工程と、
炉内空塔ガス流速u及び炉頂温度Ttopが所定の範囲にあることを監視しながら前記微粉炭の吹き込み量を調整する第2工程と、
前記羽口の燃焼温度T及び炉頂温度Ttopが所定の範囲にあることを監視しながら前記酸素富化空気の酸素富化率を調整する第3工程と、
前記炉内空塔ガス流速uの値に応じて前記酸素富化空気の吹き込み量の調整の要否を判断する第4工程と、を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の高炉の操業方法。
【請求項10】
一日当たりの、高炉の内容積1m当たりに得られる溶銑の重量である出銑比が2.51ton/d/m以上である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の高炉の操業方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の高炉の操業方法によって前記溶銑を製造する溶銑の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の操業方法及び溶銑の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉では、鉄鉱石等の酸化鉄原料を、コークス等を用いて還元して溶銑を製造する。一般に高炉の操業において、安定操業及び設備的な制約の観点から、高炉の炉頂温度及び羽口付近の温度を所定の温度範囲に制御することが必要である。従来、省資源等の観点から、コークスの使用量を抑制するために、微粉炭を高炉内に吹き込む技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、羽口先のレースウェイ内の燃焼温度に着目して、微粉炭吹き込み量一定の操業下で、スクラップ又は還元鉄等の金属鉄を高炉に装入することによって、コークス比を低減することが提案されている。また、高炉を用いて溶銑を製造する場合、高炉の能力を十分に活用して、高炉の単位容積当たりの溶銑の製造量を向上することが求められる。このような銑鉄の製造量を表す指標として、出銑比が用いられている。特許文献1では、出銑比を2.19〜2.40ton/d/mにできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−234213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高炉の操業は、一層の効率化が求められており、出銑比を従来よりも一層高くし、生産性を向上することが求められる。出銑比を増やすには二つの方法がある。一つは、高炉に吹き込む酸素富化空気を増やすことが有効である。しかしながら、空気及び酸素等の吹き込み量を増やすと、炉内を上昇するガス流速が大きくなり、高炉内で棚吊り、フラッディング、及び流動化が発生しやすくなり、高炉の安定操業に支障をきたすため、空気の吹込み量の増加には限界がある。もう一つの方法は、空気中に含まれる酸素濃度を高めることである。酸素富化空気中の酸素濃度と大気中の酸素濃度の差を酸素富化率という。酸素富化率を増加すれば、空気の吹込み量を増加させることなく炉内に吹込む酸素量を増加できるため、高炉操業の安定性を維持したまま出銑比を高くすることができる。
【0006】
酸素富化空気の酸素富化率が高くなり過ぎると、酸素富化空気に含まれる窒素などの不活性ガスの量が相対的に少なくなって、不活性ガスによる顕熱が減少し、その結果、高炉内の温度低下を招く。炉内温度が低下すると、鉄鉱石等の酸化鉄原料の還元が不十分となり、高炉の安定操業が損なわれてしまうことが懸念される。また、それと同時に、高炉の炉頂温度が低下する。炉頂温度が低下すると、高炉上部で亜鉛などの金属が析出し、このことも高炉の安定操業に支障をきたすことが懸念される。
【0007】
さらに、高炉の操業においては、コークスの使用量を削減することにより、操業コストの削減と、温室効果ガスの排出削減が求められる。コークスは高炉内で酸化鉄原料の還元剤として作用するとともに、空気中の酸素と反応して還元に必要な熱を発生する。羽口から吹き込む微粉炭は、このようなコークスの働きを代替するため、微粉炭の吹込み量を増加させることによって、コークスの使用量を削減することができる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高炉の安定的な操業を維持しつつ出銑比を十分に高くすることが可能な高炉の操業方法を提供することを目的とする。また、本発明は、高炉の安定的な操業を維持しつつ出銑比を十分に高くすることが可能な溶銑の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、出銑比を増加することが可能な運転状態を探索するため、高炉の操業状態を種々検討した。その結果、部分還元鉄を装入するとともに、酸素富化率、微粉炭の吹き込み量及びコークスの装入量を調整することによって、高炉の安定操業を維持しつつ出銑比を増加できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、高炉の炉頂から酸化鉄原料とコークスと部分還元鉄とを装入するとともに、高炉の羽口から微粉炭及び酸素富化空気を吹き込んで、酸化鉄原料を還元して溶銑を得る高炉の操業方法であって、炉頂温度Ttopが所定の温度範囲にあることを監視しながらコークスの装入量を調整する第1工程と、炉内空塔ガス流速u及び炉頂温度Ttopが所定の範囲にあることを監視しながら微粉炭の吹き込み量を調整する第2工程と、羽口の燃焼温度T及び炉頂温度Ttopが所定の範囲にあることを監視しながら酸素富化空気の酸素富化率を調整する第3工程と、炉内空塔ガス流速uの値に応じて酸素富化空気の吹き込み量の調整の要否を判断する第4工程と、を有する高炉の操業方法を提供する。
【0011】
上述の操業方法によれば、高炉の安定的な操業を維持しつつ出銑比を十分に高くすることができる。また、これとともに、コークスの使用量も削減することができる。すなわち、高炉の炉頂から原料の一部として部分還元鉄を装入すると、酸化鉄の還元反応に必要な熱量が減少するため、炉内の温度が上昇し、炉頂温度Ttopが上昇する。その結果、部分還元鉄を装入しない場合に比べて、炉頂温度Ttopを適性範囲に維持したまま、酸素富化率を一層高くすることが可能となり、出銑比を高くすることができる。また、酸化鉄の還元反応に必要な熱量が減少するため、熱源となるコークスの使用量を削減することができる。
【0012】
酸素富化率を増加させると、羽口の燃焼温度Tが上昇する。羽口の燃焼温度Tが上昇すると、酸化鉄原料やコークス中に含まれるSiO主体の灰分が羽口先で揮発した後、上部の充填層部分で析出して隙間を埋め、その結果、炉内の通気性が悪化する傾向がある。そこで、例えば、微粉炭の吹き込み量を増加させることは、羽口の燃焼温度Tの上昇の抑制に効果的である。このように、微粉炭の吹き込み量を増加させることによって、微粉炭の熱分解による熱量の消費量が増大して、羽口の燃焼温度Tの上昇を抑えることができる。
【0013】
一方で、微粉炭の吹き込み量を増加させると、炉内で発生するガス量が大きくなり、炉内空塔ガス流速uが大きくなって、棚吊り、フラッディング、又は流動化等の事象が発生しやすくなる。このため、微粉炭の吹き込み量を増加させるときには、これらの事象が発生しないように高炉の操業状態を調整することが好ましい。本発明では、原料の一部として部分還元鉄を装入した場合に、コークスの装入量、酸素富化空気の酸素富化率、及び微粉炭の吹き込み量を調整するとともに、酸素富化空気の吹き込み量の調整の要否を判断している。これによって、このような調整及び判断を行わない場合に比べて、酸素富化率を増加させて出銑比を高くするとともに、コークスの使用量を削減することができる。
【0014】
酸素富化空気の酸素富化率を調整した場合に、羽口の燃焼温度T及び炉頂温度Ttopが所定の範囲にあるか否かの判断結果に応じて、微粉炭の吹き込み量を調整してもよい。これによって、酸素富化率が変わっても、羽口の燃焼温度T及び炉頂温度Ttopを好適な範囲に維持することが可能となるため、酸素富化率を従来に比べて高くしても安定操業を維持することができる。
【0015】
また、微粉炭の吹き込み量が増えると、炉内空塔ガス流速が高くなって、棚吊り、フラッディング又は流動化が発生しやすくなる傾向にある。このような現象を回避するために、炉内空塔ガス流速が所定の範囲にあるか否かの判断結果に応じて、コークスの装入量及び/又は酸素富化空気の吹き込み量を調整してもよい。これによって、高炉の安定操業を維持しつつ出銑比を高くすることができる。また、コークス比を低くして、原料コストを低減することもできる。
【0016】
部分還元鉄の装入量を増やしたときに、第1工程では、炉頂温度Ttopが下記式(1)を満たす範囲でコークスの装入量を減少させてもよい。これによって、高炉の安定運転を維持しつつ、コークスの使用量を削減することができる。
top≧Ttopmin (1)
ここで、式(1)中、Ttopminは、120℃以下の範囲内に設定される任意の温度を示す。
【0017】
第2工程では、炉内空塔ガス流速u及び炉頂温度Ttopが、それぞれ下記式(2)及び式(3)を満たす範囲で微粉炭の吹き込み量を増加させてもよい。
u≦umax (2)
top≦Ttopmax (3)
ここで、式(2)中、umaxは100〜150m/秒の範囲内に設定される任意の流速を示す。式(3)中、Ttopmaxは180℃以上の範囲内に設定される任意の温度を示す。
【0018】
第3工程では、燃焼温度T及び炉頂温度Ttopが、下記式(4)及び上記式(1)を満たす範囲で酸素富化率を増加させてもよい。
≦Tfmax (4)
ここで、式(4)中、Tfmaxは2300℃以上の範囲内に設定される任意の温度を示す。
【0019】
第4工程では、炉内空塔ガス流速uが上記式(2)を満足するか否かを判断し、上記式(2)を満足しないときに、炉内空塔ガス流速uが上記式(2)を満足するように、酸素富化空気の吹き込み量を減少させてもよい。高炉の操業を十分に安定させつつ出銑比を一層高くすることができる。
【0020】
第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程を、例えばこの順番で行うことによって、羽口の燃焼温度Tが上昇し過ぎること、及び炉頂温度Ttopが下がり過ぎることを回避して、高炉の安定操業を十分に維持することができる。また、炉内空塔ガス流速uが高くなり過ぎることを回避しつつ、コークス比の低減と、酸素富化空気の流量の増加を図ることができるため、コークス比の低減と出銑比の向上を、高い水準で両立することができる。
【0021】
第4工程の後に、炉内空塔ガス流速uが下記式(7)を満たす場合、又は、炉頂温度Ttopが下記式(8)を満たす場合に、必要に応じて酸素富化空気の吹き込み量を増加させ、その後、第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程を繰り返し行ってもよい。これによって、高炉の装置能力を十分に活用して、出銑比を一層高くすることができる。
u<umax (7)
top>Ttopmin (8)
【0022】
第2工程において、微粉炭の吹き込み量を、溶銑1ton当たり130kgを超える範囲で調整することが好ましい。この範囲で微粉炭を吹き込むことによって、高炉の安定操業を維持しつつ出銑比を一層高くすることができる。
【0023】
部分還元鉄の装入量は、溶銑1ton当たり100〜600kgの範囲内で調整することが好ましく、溶銑1ton当たり100〜300kgの範囲内で調整することがより好ましい。この範囲で部分還元鉄を装入することによって、高炉の安定操業を維持しつつ出銑比を一層高くすることができる。
【0024】
第3工程では、酸素富化率を、8%を超え且つ16%以下の範囲内で調整することが好ましい。酸素富化率をこの範囲とすることによって、高炉の安定操業を維持しつつ出銑比を一層高くすることができる。
【0025】
本発明は、また、高炉の炉頂から酸化鉄原料とコークスと部分還元鉄とを装入するとともに、高炉の羽口から微粉炭及び酸素富化空気を吹き込んで、酸化鉄原料を還元して溶銑を得る製造する高炉の操業方法であって、酸素富化空気の酸素富化率をx(%)、及び、溶銑1ton当たりの微粉炭の吹き込み量をy(kg/ton)としたときに、x及びyが、下記式(9)及び(10)を満たす高炉の操業方法を提供する。
25x−175<y<31x+31 (9)
y>130 (10)
【0026】
本発明の高炉の操業方法では、部分還元鉄を装入しつつ微粉炭の吹き込み量を130kg/tonを超えるように高くしているため、コークス比を下げて酸素富化空気の吹き込み量を多くすることができる。この微粉炭の吹き込み量を、酸素富化率見合いで所定の範囲、すなわち式(9)を満足する範囲内としていることから、高炉の操業を安定して継続することができる。
【0027】
部分還元鉄の炭素含有率は2.3〜5.9質量%であることが好ましい。このことにより、高炉の燃料比を低減することができる。高炉に装入される部分還元鉄の全体に対する粒径5mm未満の部分還元鉄の割合は10質量%以下であることが好ましい。高炉に装入される部分還元鉄の圧壊強度は30kg/cm以上であることが好ましい。これらの条件によって、一層高い水準で安定操業を継続することができる。
【0028】
本発明ではまた、上述の高炉の操業方法によって溶銑を製造する溶銑の製造方法を提供する。このような溶銑の製造方法によれば、高炉の安定操業を維持しつつ溶銑を高い出銑比で製造することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高炉の安定的な操業を維持しつつ出銑比を十分に高くすることが可能な高炉の操業方法を提供することができる。また、本発明によれば、高炉の安定的な操業を維持しつつ出銑比を十分に高くすることが可能な溶銑の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の高炉の操業方法が適用される高炉の一例を示す模式図である。
図2】部分還元鉄の圧壊強度を測定する測定装置の正面図である。
図3】本発明の高炉の操業方法の実施形態を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施例1〜6及び比較例1〜3の酸素富化率と微粉炭比との関係を示すグラフである。
図5】比較例4を基準としたときの、実施例7〜9及び比較例5〜7の出銑比の増加率及びコークス比の削減率と、金属鉄の含有率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図面において、同一または同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0032】
図1は、本実施形態の高炉の操業方法が適用される高炉の一例を示す模式図である。原料は、高炉100の炉頂部10から高炉100の炉内に装入される。原料には、酸化鉄原料、コークス、及び部分還元鉄が含まれる。原料は、必要に応じて石灰石等を含んでもよい。酸化鉄原料としては、鉄鉱石に由来する塊鉱石、焼結鉱、及びペレットなど、部分還元鉄以外の種々のものを用いることができる。
【0033】
部分還元鉄は、酸化鉄を部分還元したものである。部分還元鉄の金属化率は、部分還元鉄に含まれる金属鉄分の重量比率である。金属化率は、下記の式にて計算することができる。部分還元鉄中の金属鉄分(M.Fe)及び全鉄分(T.Fe)は、通常の定量分析で求めることができる。
金属化率(%)=[(部分還元鉄中の金属鉄分)/(部分還元鉄中の全鉄分)]×100
【0034】
本実施形態の部分還元鉄の金属化率は、好ましくは50〜94%であり、より好ましくは65〜85%である。金属化率が低くなり過ぎると、高炉100で部分還元鉄の還元反応が増加して、炉内温度が低下する傾向、及びコークス比が上昇する傾向にある。一方、金属化率が高くなり過ぎると、部分還元鉄を製造する際の予備還元に時間を要することになるため、原料コストが上昇する傾向にある。
【0035】
部分還元鉄としては、例えば、酸化鉄を、水素及び/又は一酸化炭素を含む還元性のガスによって直接還元した部分還元鉄を用いることができる。部分還元鉄は、熱間で成形して塊成化したものであってもよい。これをHBI(Hot Briquette Iron)という。直接還元鉄プラントで製造された部分還元鉄は、保管及び輸送中に容易に再酸化する。これは、部分還元鉄に含まれる鉄が空気中の酸素を反応して結びつくためである。
【0036】
一方、部分還元鉄に含まれる鉄(Fe)が炭化鉄(FeC、x=2〜3)として存在すると、部分還元鉄の再酸化を抑制することができる。例えば、部分還元鉄中の鉄(Fe)の半分がFeCとして存在すると、部分還元鉄の再酸化を十分に抑制することができる。このときの部分還元鉄中の炭素含有率は、金属化率94%のとき約2.3質量%である。一方で、部分還元鉄中の鉄(Fe)の全量がFeCとして存在するときの部分還元鉄の炭素含有率は、金属化率94%のとき約4.6質量%である。
【0037】
例えば、部分還元鉄中の鉄(Fe)の全量がFeCとして存在すると、部分還元鉄の炭素含有率は、金属化率94%のとき約5.9質量%である。したがって部分還元鉄の炭素含有率は、2.3〜5.9質量%であることが好ましい。部分還元鉄の炭素含有率が2.3質量%より低いとFeCの含有量が少なくなって再酸化し易くなる傾向にあり、炭素含有率が5.6質量%を超えると遊離炭素量が増加して部分還元鉄の強度が低下する傾向にある。炭素含有率が2.3〜5.9質量%である部分還元鉄は、十分な強度を有するとともに炭化鉄(FeC)の含有量が高いために再酸化を十分に抑制することができる。このため、部分還元鉄を成形せずに、高炉100装入用の原料として用いることができる。これによって、HBIに成形するための設備が不要となり、設備費と設備のメンテナンス費用を削減することができる。
【0038】
部分還元鉄の炭素含有率は、例えば、JIS 1211−2(鉄及び鋼−炭素定量方法−第2部:燃焼−ガス容量法)に準拠して測定することができる。
【0039】
原料として、炭素を含む部分還元鉄を高炉100に装入すると、部分還元鉄中の炭素が高炉100内で還元剤として作用する。これによって、高炉100の燃料比を低減することができる。部分還元鉄中の鉄(Fe)を炭化鉄(FeC)にする方法としては、例えばメタン(CH)を含む還元性ガスで酸化鉄を還元する方法が挙げられる。この方法では、式(I)の反応でFeCを生成させることができる。FeCの含有率は、式(I),(II)の反応速度を制御することによって調整することができる。例えば、還元性ガス中の水分含有率を変えて式(II)のメタンの改質反応の速度を調整することによって、式(I)の反応速度を調整することができる。
【0040】
xFe+CH → FeC+2H (I)
CH+HO → CO+3H (II)
上式(I)中、xは2.5〜3の数値である。
【0041】
塊成化されていない部分還元鉄は、塊成化された部分還元鉄(HBI)に比べて、粒径が小さく強度も低い傾向にある。一方、高炉100に用いられる酸化鉄原料は、操業の安定性を一層向上させる観点から、所定の粒径と強度を有することが好ましい。高炉100の操業のシミュレーション結果から、高炉100に装入される酸化鉄原料の全体に対する粒径5mm未満の酸化鉄原料の割合は10質量%以下であることが好ましい。このような粒度分布を有する酸化鉄原料を用いることによって、高炉100内の通気性が良好になることから、操業の安定性を一層向上することができる。このような事実を考慮して、高炉100に装入される部分還元鉄も、酸化鉄原料と同様に、高炉100に装入される部分還元鉄の全体に対する粒径5mm未満の部分還元鉄の割合は10質量%以下であることが好ましい。
【0042】
本明細書における酸化鉄原料及び部分還元鉄の粒径は、JIS M 8700:2013の「粒度分析」に準じて測定することができる。すなわち、目開き5mmのふるいを用いてふるい分けを行い、試料全体に対する、ふるいを通過した試料の質量割合を、粒径5mm未満の試料の割合として求めることができる。
【0043】
一方で、高炉100の装入前には、高炉100に装入される部分還元鉄などの原料は、コンベアの乗り継ぎ部で落下による衝撃を受ける。この衝撃による破砕を十分に抑制する観点から、部分還元鉄は、30kg/cm以上の圧壊強度を有することが好ましい。この強度は、部分還元鉄が高炉100内で受ける応力の最大値よりも十分に大きい。したがって、高炉100に装入される部分還元鉄の圧壊強度は30kg/cm以上であることが好ましい。部分還元鉄の圧壊強度は、部分還元鉄の炭素含有率を調整することによって、30kg/cm以上にすることができる。部分還元鉄の炭素含有率は、還元ガス中の水分含有率を制御することによって調整することができる。
【0044】
本明細書における圧壊強度は、図2に示す測定装置60を用いて以下の手順で測定される。図2の測定装置60において、加圧圧力が計測可能な油圧ジャッキ62上に載置された可動板64の上に、測定対象である試料66を配置する。そして、油圧ジャッキ62のシリンダを上方に繰り出すことによって、可動板64を上方に移動させる。これによって、試料66は、可動板64と可動板64の上方に固定された固定板68との間に挟まれる。試料66には荷重が加えられて最終的に破壊される。破壊した時の荷重から、圧壊強度が求められる。
【0045】
高炉100の下部に設けられた羽口12から、炉内には酸素富化空気が熱風として吹き込まれる。酸素富化空気は、空気と酸素とを混合して得ることができる。酸素富化率は、空気と酸素との混合比率を変えることによって調整することができる。微粉炭は、酸素富化空気とともに、羽口12から高炉100内に吹き込まれる。
【0046】
高炉100では、酸化鉄原料及び部分還元鉄を還元することによって、溶銑が得られる。溶銑は、出銑口14から炉外に排出される。このようにして得られた溶銑を冷却することによって銑鉄が得られる。本実施形態の高炉の操業方法によれば、出銑比を例えば2.51〜3.65ton/d/m、好ましくは3〜3.65ton/d/mにすることができる。出銑比は、一日当たり、且つ高炉100の内容積1m当たりに得られる溶銑の重量(ton)である。高炉100の内容積は、例えば1500〜3000mである。
【0047】
図3は、本実施形態の高炉の操業方法の手順を示すフローチャートである。図3中、Ttop及びTは、それぞれ、高炉100の炉頂のガス温度(炉頂温度)及び羽口12における燃焼温度を示す。高炉100では、Ttop<Tの関係が成立し、Tは、通常、高炉100の炉内の最高温度である。Tは、通常2200〜2400℃である。Tの上限(Tfmax)は、高炉100の安定操業と高い出銑比とを一層高い水準で両立させる観点から、例えば2300℃以上に設定されてもよく、2300〜2400℃の間に設定されてもよい。
【0048】
topは、通常、高炉100の炉内の最低温度である。Ttopは、例えば、100〜200℃である。Ttopは、炉内上部において、酸化鉄原料を適度に還元して高炉100の操業を安定化させる観点から、所定の温度範囲とする必要がある。Ttopの上限(Ttopmax)は、180℃以上に設定されてもよく、180〜200℃の間に設定されてもよい。Ttopの下限(Ttopmin)は、120℃以下に設定されてもよく、100℃〜120℃の間に設定されてもよい。
【0049】
図3中、xは、酸素富化空気の酸素富化率(単位:%)である。PCは、羽口12から吹き込まれる溶銑1ton当たりの微粉炭の吹き込み量(単位:kg/ton)である。CRは、コークス比(溶銑1ton当たり装入されるコークスの重量、単位:kg/ton)である。原料コストを低減する観点から、コークス比を小さくすることが好ましい。
【0050】
図3中、BVは、羽口12から炉内に導入される酸素富化空気の流量(単位:Nm/分)である。uは、炉内空塔ガス流速(単位:m/秒)である。uは、以下の式によって、求めることができる。
u(m/秒)=炉内ガスの体積流量(m/秒)/高炉100の腹部の断面積(m
【0051】
炉内の高炉100内での還元反応を円滑に進行させる観点から、uは、例えば100〜150m/秒である。uの上限(umax)は、高炉内で棚吊り、フラッディング及び流動化が発生しない最大炉内空塔ガス流速であり、通常100〜150m/秒程度である。umaxは、例えば140〜150m/秒の間に設定されてもよい。
【0052】
図3のフローチャートに基づいて、高炉の操業方法を詳細に説明する。まず、高炉100の炉頂から、酸化鉄原料及びコークスとともに、部分還元鉄を装入する。溶銑1tonあたり、例えば、酸化鉄原料を1100〜1600kg、コークスを200〜400kg、部分還元鉄を100〜600kg装入する。このような質量比で酸化鉄原料、コークス及び部分還元鉄を装入することによって、原料コストを低減しつつ一層安定的な操業を行うことができる。
【0053】
部分還元鉄の装入量は、溶銑1ton当たり、好ましくは100〜600kg、より好ましくは100〜300kgである。このような範囲で部分還元鉄を装入することによって、原料コストを低減しつつ出銑比を十分に高くすることができる。高炉100に装入される部分還元鉄に含まれる金属鉄の含有率は、例えば75〜79質量%である。
【0054】
部分還元鉄の装入を開始又は部分還元鉄の装入量を増加すると、部分還元鉄の装入量の増加に応じて、酸化鉄の装入量を減少することができる。酸化鉄の装入量の減少に伴って、酸化鉄の還元反応量が減少し、還元反応に必要な熱量が余剰となる。これによって、高炉100の炉内の温度が上昇し、このときTtopも上昇する。その結果、CRを低減することが可能となる。そこで、Ttopが常に下記式(1)を満たすように監視しながら、CRを少量減少させる(S1,第1工程)。例えば、溶銑1tonあたり、CRを1kg減少させてもよい。ここでいう「監視」とは、例えば、Ttopの値を常時又は随時に測定し、式(1)で表される目標範囲から逸脱しそうになった場合に、何らかの対処が行える状態にあることをいう。例えば、Ttopが目標範囲から逸脱しそうになった場合には、CRを減少する操作を休止したり、停止したりしてもよい。後述する各温度及び速度の「監視」も同義である。
top≧Ttopmin (1)
【0055】
第1工程においてCRを減少させると、炉内空塔ガス流速uが減少するとともに、高炉100の炉内の温度が低下しTtopが低下する。そこで、u及びTtopが下記式(2)及び式(3)を満たすように監視しながら、PCを増加させる(S2,第2工程)。PCは少しずつ増加させることが好ましい。ここの操作では、PCは、溶銑1tonあたり1kg増加させてもよい。
u≦umax (2)
top≦Ttopmax (3)
【0056】
第2工程においてPCを増加させると、Tが低下し、Ttopが上昇する傾向になるので、酸素富化空気の酸素富化率xを増加させることが可能になる。そこで、酸素富化率xを増加させ(S3)、T=Tfmaxを満たすか否かを判断する(S4)。T=Tfmaxを満たさない場合には、Ttop=Ttopminを満たすか否かを判断する(S5)。このように、T及びTtopが下記式(4)、及び上記式(1)を満たすように監視しながら、T=Tfmax及び/又はTtop=Ttopminと判定されるまで、酸素富化空気の酸素富化率xを増加させる(第3工程)。
【0057】
第3工程では、酸素富化率xは少しずつ増加させることが好ましい。酸素富化率xは、例えば0.1%ずつ増加させてもよい。酸素富化率xは、好ましくは6%以上、より好ましくは8%を超え且つ16%以下とする。本明細書における酸素富化率xは、標準状態(25℃、10Pa)における、酸素富化空気と大気との酸素濃度(体積基準)の差である。なお、図3では、S4でT=Tfmaxを満たさないことが判定された後に、S5でTtop=Ttopminを満たすか否かを判断する順序となっているが、この順序は特に限定されない。例えば、先にTtop=Ttopminを満たさないことが判定された後に、T=Tfmaxを満たすか否かを判断してもよい。
≦Tfmax (4)
【0058】
第3工程において酸素富化率xを増加させると、Tの上昇及びTtopの低下とともに、uが増加する。そこで、uが上記式(2)を満たすかどうかを判断する(S6)。これによって、酸素富化空気の吹き込み量の調整の要否を判断する。uが上記式(2)を満たさないと判定された場合は、酸素富化空気の吹き込み量BVを減少させる(S7)。このようにして、uが上記式(2)を満たすように調整する(第4工程)。
【0059】
次に、Ttop=Ttopmaxを満たすか否かを判断する(S8)。Ttop=Ttopmaxを満たさない場合には、u=umaxを満たすか否かを判断する(S9)。S9でu=umaxを満たさないと判断された場合には、上述の第2工程、第3工程及び第4工程を再び行う。このようにして、u=umax及び/又はTtop=Ttopmaxとなるまで、上述の第2工程、第3工程及び第4工程の各工程を繰り返し行い、PCを増加させる。その結果、PCの増加とともに、酸素富化率xも増加させることができる。酸素富化率xは、6%以上であってもよく、8%を超え且つ16%以下であってもよい。酸素富化率xが増加すると、酸素富化空気中の酸素の割合が増加する。これによって、高炉100の炉内で単位時間当たりに進行する反応量が増加して出銑比が上昇する。
【0060】
第2工程、第3工程及び第4工程の各工程を繰り返し行ってPCを増加させると、uも増加する傾向にある。ただし、第4工程終了後、S8においてTtop=Ttopmaxと判定された場合、uが下記式(7)を満たすかどうかを判断する(S10)。S10で、uが下記式(7)を満たすと判定された場合、u=umaxとなるまで酸素富化空気の吹き込み量BVを増加させる(S11)。これによって、u=umaxとなるように調整することができる(第5工程)。
u<umax (7)
【0061】
その後、CRをさらに削減できるようであれば、第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程の一連の工程、又はこれらの工程に更に第5工程を加えた一連の工程を繰り返し行ってもよい。一方、S9においてu=umaxを満たすと判定された場合は、TtopがTtop=Ttopminを満たすか否かをさらに判断する(S12)。その結果、S9及びS12において、u=umax及びTtop=Ttopminの両方を満たすと判定された場合、図3に示すフローチャートの手順が終了する。これによって、出銑比を最大値にすることができる。
【0062】
なお、S10においてuが上記式(7)を満たすと判定された場合に、S11でu=umaxとなるまでBVを増加させた後、高炉100内の温度(炉況)の状況に応じて、CRを減少することが難しい場合がある。このような場合、又は、CRの値が既に目標値に到達している場合には、S11でBVを増加させた後、一連の工程を終了してもよい。
【0063】
微粉炭は、高炉100の炉内で還元剤として作用し、コークスを代替することができるので、PCを増加させると、CRをさらに減少させることが可能になる。CRは、酸化鉄の還元量と高炉100の炉内の温度を維持するために必要なコークス量を確保できるように調整することが好ましい。上述の第4工程後、uが上記式(7)を満たすと判定された場合、及び/又は、Ttopが下記式(8)を満たす場合は、CRをさらに削減することができる。
top>Ttopmin (8)
【0064】
上述の第1工程、第2工程、第3工程、第4工程及び第5工程の各工程は、TtopがTtop=Ttopminを満たし、且つ、uがu=umaxを満たすまで繰り返し行ってもよい。または、上述の第1工程、第2工程、第3工程、第4工程及び第5工程の各工程は、CRをさらに削減することが不可能であると判断されるまで繰り返し行ってもよい。
【0065】
上述の手順によって決定されるCR、PC,x、及びBVによって高炉100を操業すれば、安定した操業状態で、出銑比を十分に高くするとともに、コークス比を削減することができる。
【0066】
図3のフローチャートに示す工程を行うことによって、高炉100を、以下のような条件で操業することができる。すなわち、酸素富化空気の酸素富化率をx(%)、及び、溶銑1tonあたりの微粉炭の吹き込み量(便宜的に「微粉炭比」という。)をy(kg/ton)としたときに、x及びyが、下記式(9)及び(10)を満たす。
【0067】
25x−175<y<31x+31 (9)
y>130 (10)
【0068】
微粉炭比yが「25x−175」以下になると、Ttopが低くなる、又はTが高くなる現象が生じて、高炉の安定操業を継続することが困難になる。一方、微粉炭比yが「31x+31」以上になると、Ttopが高くなる、uが上昇する、及び/又は空気比が低下する等の現象が生じて、高炉の安定操業を継続することが困難になる。
【0069】
微粉炭比yは、コークス比を低減するとともに出銑比を向上する観点から、好ましくは130kg/tonを超える範囲であり、より好ましくは175kg/tonを超える範囲である。また、微粉炭比yは、一層安定した操業を継続する観点から、好ましくは250kg/ton以下である。酸素富化率xは、出銑比を一層高くする観点から、好ましくは6%以上、より好ましくは8%を超える範囲とする。また、酸素富化率xは、酸素コストを低減する観点から、好ましくは16%以下である。
【0070】
出銑比を一層高くする観点から、高炉100への部分還元鉄の装入量は、溶銑1ton当たり、好ましくは100kg以上である。一方、原料コストを低減する観点から、高炉100への部分還元鉄の装入量は、溶銑1ton当たり、好ましくは600kg以下である。
【0071】
上述のとおり、高炉100の操業方法を行うことによって、溶銑を高い出銑比で製造することができる。したがって、本実施形態の高炉の操業方法は、高い出銑比で安定して溶銑を製造することが可能な溶銑の製造方法であるともいえる。
【0072】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、S1〜S5の各工程は、必ずしも繰り返して行う必要はなく、一度のみ行ってもよい。また、S1〜S5の各工程は、連続して行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明の内容をより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
(実施例1、参考例1
図1に示すような高炉(内容積:1600m)に、酸化鉄原料及びコークスを装入するとともに、羽口から酸素富化空気及び微粉炭を吹き込んで、溶銑の製造を行った。そして、部分還元鉄(金属化率:82%、炭素含有率:3.5%)を100kg/ton装入し、図3に示す操作を行って、高炉の安定操業が可能な運転条件を求めた。その結果を図4にプロットした。実施例1及び参考例1では、図4にプロットされたいくつかの運転条件のうち、酸素富化率:13.2%、微粉炭比:238kg/tonの運転条件で、出銑比を2.87ton/d/mにすることができた。
【0075】
(実施例2、参考例2
部分還元鉄の装入量を200kg/tonとしたこと以外は、実施例1及び参考例1と同様にして、高炉の安定操業が可能な運転条件を求めた。その結果を図4にプロットした。実施例2及び参考例2では、図4にプロットされたいくつかの運転条件のうち、酸素富化率:16%、微粉炭比:237kg/tonの運転条件で、出銑比を2.94ton/d/mにすることができた。
【0076】
(実施例3、参考例3
部分還元鉄の装入量を300kg/tonとしたこと以外は、実施例1及び参考例1と同様にして、高炉の安定操業が可能な運転条件を求めた。その結果を図4にプロットした。実施例3及び参考例3では、図4にプロットされたいくつかの運転条件のうち、酸素富化率:16%、微粉炭比:225kg/tonの運転条件で、出銑比を3.09ton/d/mにすることができた。
【0077】
(実施例4、参考例4
部分還元鉄の装入量を400kg/tonとしたこと以外は、実施例1及び参考例1と同様にして、高炉の安定操業が可能な運転条件を求めた。その結果を図4にプロットした。実施例4及び参考例4では、図4にプロットされたいくつかの運転条件のうち、酸素富化率:14%、微粉炭比:210kg/tonの運転条件で、出銑比を3.25ton/d/mにすることができた。
【0078】
(実施例5、参考例5
部分還元鉄の装入量を500kg/tonとしたこと以外は、実施例1及び参考例1と同様にして、高炉の安定操業が可能な運転条件を求めた。その結果を図4にプロットした。実施例5及び参考例5では、図4にプロットされたいくつかの運転条件のうち、酸素富化率:14%、微粉炭比:198kg/tonの運転条件で、出銑比を3.44ton/d/mにすることができた。
【0079】
(実施例6、参考例6
部分還元鉄の装入量を600kg/tonとしたこと以外は、実施例1及び参考例1と同様にして、高炉の安定操業が可能な運転条件を求めた。その結果を図4にプロットした。実施例6及び参考例6では、図4にプロットされたいくつかの運転条件のうち、酸素富化率:14%、微粉炭比:190kg/tonの運転条件で、出銑比を3.63ton/d/mにすることができた。
【0080】
(比較例1)
部分還元鉄の装入量を400kg/tonとしたこと、図3に示すような操作を行わずに、微粉炭比及び酸素富化率を一定値に維持して、高炉の操業を行った。酸素富化率が3.2%〜7.8%の範囲で安定的に運転することが可能であったものの、出銑比は2.19〜2.38ton/d/mであった。
【0081】
(比較例2)
図1に示すような高炉(内容積:1600m)に、酸化鉄原料及びコークスを装入するとともに、羽口から酸素富化空気及び微粉炭を吹き込んで、溶銑の製造を行った。そして、実施例1で用いたものと同じ部分還元鉄を装入するとともに、酸素富化率及び微粉炭比を調整して運転を行った。比較例2では、酸素富化率及び微粉炭比を、図4に示すとおりに調整して図3に示すフローチャートに示す手順を試みた。しかしながら、炉頂温度(Ttop)、炉内空塔ガス流速(u)、羽口の燃焼温度(T)、又は空気比が、安定操業を継続するための範囲から外れ、安定操業ができなかった。なお、比較例2では、部分還元鉄の装入量を200〜600kg/tonとした。
【0082】
(比較例3)
部分還元鉄を装入しなかったこと以外は、実施例1と同様にして高炉の操業を行った。その結果を図4にプロットした。高炉の操業を安定的に行うことができたものの、酸素富化率を上げることはできなかった。
【0083】
図4に示すとおり、y>130であり且つ直線A(y=31x+31)及び直線B(y=25x−175)に挟まれる領域において、安定的に運転が継続できることが確認された。y=130、直線A及び直線Bは、いずれも、実施例と比較例とを分割する境界線に相当する。すなわち、酸素富化空気の酸素富化率をx(%)、及び、微粉炭比をy(kg/ton)としたときに、x及びyが、上記式(),(10)を満たすときに、高炉の運転を安定して継続することができる。
【0084】
(比較例4)
図1に示すような高炉(内容積:1600m)に、酸化鉄原料及びコークスを装入するとともに、羽口から酸素富化空気及び微粉炭を吹き込んで、高炉の操業を行い、溶銑の製造を行った。部分還元鉄は装入せず、酸素富化率及び微粉炭比は一定とした。操業条件、並びに出銑比及びコークス比の結果を表1に示す。
【0085】
(比較例5〜7)
実施例1で用いたものと同じ部分還元鉄を表1に示す量で装入したこと以外は、比較例4と同様にして、高炉の操業を行い、溶銑の製造を行った。酸素富化率及び微粉炭比は、比較例4と同様に一定とした。操業条件、並びに出銑比及びコークス比の結果を表1に示す。
【0086】
(実施例7〜9)
実施例1で用いたものと同じ部分還元鉄を表1に示す量で装入するとともに、図3のフローチャートに示す手順を行った。この手順を実施した後の酸素富化率及び微粉炭比は表1のとおりであった。操業条件、並びに出銑比及びコークス比の結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すとおり、部分還元鉄を装入するとともに、図3のフローチャートに示す手順を行った実施例7〜9では、出銑比が向上し、コークス比を低減できることが確認された。また、いずれの実施例も安定して運転を継続することができた。
【0089】
図5は、比較例4を基準としたときの、実施例7〜9及び比較例5〜7の出銑比の増加率及びコークス比の削減率をプロットしたものである。図5中、実線及び点線の「○」が比較例5〜7であり、「●」が実施例7〜9である。図5の横軸は、酸化鉄原料と部分還元鉄の合計量に対する金属鉄の含有率(質量基準)とした。図5の結果から、金属鉄の含有率が高くなると、すなわち部分還元鉄の量が多くなると、出銑比が増加するとともにコークス比を低減できることが確認された。また、単に部分還元鉄を装入するだけではなく、部分還元鉄の装入量に応じた運転調整を行うことによって、高炉の安定運転が可能になるとともに、出銑比を増大できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、高炉の安定的な操業を維持しつつ出銑比を十分に高くすることが可能な高炉の操業方法を提供することができる。また、本発明によれば、高炉の安定的な操業を維持しつつ出銑比を十分に高くすることが可能な銑鉄の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0091】
10…炉頂部、12…羽口、14…出銑口、60…測定装置、62…油圧ジャッキ、64…可動板、66…試料、68…固定板、100…高炉。
図1
図2
図3
図4
図5