特許第5693798号(P5693798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5693798
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】酸化物超電導線材
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20150312BHJP
   C01G 1/00 20060101ALI20150312BHJP
   C01G 3/00 20060101ALI20150312BHJP
   H01L 39/16 20060101ALI20150312BHJP
   H02H 9/02 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   H01B12/06ZAA
   C01G1/00 S
   C01G3/00
   H01L39/16
   H02H9/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-538942(P2014-538942)
(86)(22)【出願日】2013年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2013084934
(87)【国際公開番号】WO2014104208
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2014年8月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-288302(P2012-288302)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹本 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】日高 輝
【審査官】 南 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−169237(JP,A)
【文献】 特開2009−022118(JP,A)
【文献】 特開平11−204845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
C01G 1/00
C01G 3/00
H01L 39/16
H02H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の基材と、前記基材上に積層された中間層と、前記中間層上に積層された酸化物超電導層と、前記酸化物超電導層上に積層されAg又はAg合金からなる保護層と、を有する酸化物超電導積層体と、
前記酸化物超電導積層体の保護層上に低融点金属層を介して形成され、金属テープからなる安定化層と、
を備える酸化物超電導線材であって、
前記保護層の膜厚が5μm以下であり、
前記安定化層の室温での体積抵抗率が3.8μΩ・cm以上5μΩ・cm以下であり、
前記安定化層の厚みが9.4μm以上15μm以下であり、
前記安定化層を構成する前記金属テープの幅が、前記酸化物超電導積層体の幅よりも広く、前記酸化物超電導積層体の保護層の上面と、前記保護層、前記酸化物超電導層、前記中間層及び前記基材の側面と、前記基材の裏面の少なくとも一部とが前記低融点金属層を介して前記安定化層により覆われている
酸化物超電導線材。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化物超電導線材を備える超電導コイル。
【請求項3】
請求項1に記載の酸化物超電導線材を備える超電導限流器。
【請求項4】
請求項1に記載の酸化物超電導線材を備える超電導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導限流器等の超電導機器に使用される酸化物超電導線材に関する。
本願は、2012年12月28日に、日本に出願された特願2012−288302号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年のエネルギー問題を解決できる電気機器として、低損失の導電材料である酸化物超電導体を用いたケーブル、コイル、モータ、マグネット、超電導限流器などの超電導機器が挙げられる。これら超電導機器に用いられる超電導体として、例えば、RE−123系(REBaCu7−x:REはYやGdなどを含む希土類元素)等の酸化物超電導体が知られている。この酸化物超電導体は、液体窒素温度付近で超電導特性を示し、強磁界内でも比較的高い臨界電流密度を維持できるため、実用上有望な導電材料として期待されている。
【0003】
上述の酸化物超電導体を電気機器に使用するために、一般的には線材に加工された酸化物超電導体を用いる。例えば特許文献1には、テープ状の金属製基材上に結晶配向性の良好な中間層を介して形成された酸化物超電導層及び、この酸化物超電導層を覆うように形成された保護層を有する積層体を用いた酸化物超電導線材が開示されている。前記積層体の外周には、その外周を半田層を介して幅広の金属テープで覆うことにより安定化層が形成されている。この種の酸化物超電導線材の保護層及び安定化層は、異常時に発生する過電流をバイパスする役割も果たしているため、これら層には電気抵抗が低い材料が用いられる。例えば、保護層をAg又はAg合金から形成し、安定化層をCuから形成する。
【0004】
酸化物超電導線材を超電導限流器に使用する場合においては、常電導状態での電気抵抗を増加させる必要があるため、電気抵抗が高い物質を高抵抗層として酸化物超電導層上に形成する必要がある。例えば特許文献2には、室温における電気抵抗率が1×10−7Ω・m以上1×10−5Ω・m以下の金属を、基材又は酸化物超電導層上に形成される高抵抗層として使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2012−169237号公報
【特許文献2】日本国特開2007−227167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の酸化物超電導層上に保護層と安定化層とが形成された構造を、超電導限流器用の酸化物超電導線材に適用する場合には、保護層と安定化層との合成抵抗が、特許文献2に記載の抵抗値の範囲となる必要がある。
Agは高価な材料であるため、Agを含む保護層を更に薄くすることが求められている。保護層はAg又はAg合金からなり、安定化層に対して体積抵抗率が著しく低い。保護層の厚みを薄くすると、これを補完するために安定化層の厚みを大幅に厚くする必要があるため、酸化物超電導線材の厚み寸法が肥大化してしまう。酸化物超電導線材の厚み寸法が肥大化すると、酸化物超電導線材を巻いて形成したコイルの磁界密度を大きくすることができなくなる。
【0007】
本発明は、以上のような実情に鑑みなされたものであり、超電導限流器に使用する酸化物超電導線材であって、保護層の膜厚を薄く形成した場合であっても、焼損を防ぎつつ安定した限流特性を発揮し、かつ酸化物超電導線材の厚み寸法が肥大化しない酸化物超電導線材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様に係る酸化物超電導線材は、テープ状の基材と、前記基材上に積層された中間層と、前記中間層上に積層された酸化物超電導層と、前記酸化物超電導層上に積層されAg又はAg合金からなる保護層と、を有する酸化物超電導積層体と、前記酸化物超電導積層体の保護層上に低融点金属層を介して形成され、金属テープからなる安定化層と、を備え、前記保護層の膜厚が5μm以下であり、前記安定化層の室温での体積抵抗率が3.8μΩ・cm以上15μΩ・cm以下である。
前記第一の態様によれば、Ag又はAg合金からなる保護層の膜厚が5μm以下であるため、酸化物超電導線材に使用するAgの使用量を減らすことができ、その結果、コストを抑えることができる。加えて、金属テープの室温での体積抵抗率が3.8μΩ・cm以上15μΩ・cm以下であるため、前記酸化物超電導線材が用いられた超電導限流器において、保護層の膜厚が5μm以下であっても、臨界電流の1.5〜3倍の過大な電流が印加された場合にその電流を抑制することができ、その結果、酸化物超電導線材の焼損を防止でき、安定した限流特性を発揮することができる。
【0009】
また、本発明の第二の態様に係る酸化物超電導線材は、テープ状の基材と、前記基材上に積層された中間層と、前記中間層上に積層された酸化物超電導層と、前記酸化物超電導層上に積層されAg又はAg合金からなる保護層と、を有する酸化物超電導積層体と、前記酸化物超電導積層体の保護層上に低融点金属層を介して形成され、金属テープからなる安定化層と、を備え、前記保護層の膜厚が5μm以下であり、前記酸化物超電導線材の1cm幅、1cm長さにおける室温での抵抗値が150μΩ以上100mΩ以下である。
前記第二の態様によれば、Ag又はAg合金からなる保護層の膜厚が5μm以下であるため、酸化物超電導線材に使用するAgの使用量を減らすことができ、その結果、コストを抑えることができる。加えて、酸化物超電導線材の1cm幅、1cm長さにおける室温での抵抗値が150μΩ以上100mΩ以下であるため、前記酸化物超電導線材が用いられた超電導限流器において、保護層の膜厚が5μm以下であっても、臨界電流の1.5〜3倍の過大な電流が印加された場合にその電流を抑制することができ、その結果、酸化物超電導線材の焼損を防止でき、安定した限流特性を発揮することができる。
【0010】
前記安定化層を構成する前記金属テープの幅が、前記酸化物超電導積層体の幅よりも広く、前記酸化物超電導積層体の保護層の上面と、前記保護層、前記酸化物超電導層、前記中間層及び前記基材の側面と、前記基材の裏面の少なくとも一部とが前記低融点金属層を介して前記安定化層により覆われていてもよい。
この場合、酸化物超電導積層体の外周が金属テープにより覆われているため、水分の浸入による酸化物超電導層の劣化を防ぐことができる。
【0011】
前記安定化層の厚みが9μm以上60μm以下であってもよい。
この場合、安定化層の厚みが9μm以上60μm以下である。即ち、酸化物超電導積層体を覆う金属テープの厚みが9μm以上60μm以下である。厚みが9μm以上の金属テープを用いることにより、酸化物超電導積層体を金属テープにより覆う際に金属テープが破れてしまうことを防ぐことができる。また、厚みが60μm以下の金属テープを用いることにより、金属テープの成形が容易となり、酸化物超電導積層体を確実に覆うことができる。
【0012】
本発明の第三の態様に係る超電導コイルは、上記酸化物超電導線材を備える。
本発明の第四の態様に係る超電導限流器は、上記酸化物超電導線材を備える。
本発明の第五の態様に係る超電導機器は、上記酸化物超電導線材を備える。
前記酸化物超電導線材を超電導コイル、超電導限流器、その他の超電導機器に用いることで、水分に対する超電導機器の保護性能を向上させることが可能となる。また、酸化物超電導線材に過大な電流が流れた際に酸化物超電導線材が焼損することを防ぐことができる。したがって、従来よりも高い信頼性を有する超電導機器を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の態様によれば、Ag又はAg合金からなる保護層の膜厚が5μm以下であるため、酸化物超電導線材に使用するAgの使用量を減らすことができ、その結果、コストを抑えることができる。加えて、金属テープの室温での体積抵抗率が3.8μΩ・cm以上15μΩ・cm以下であるため、前記酸化物超電導線材が用いられた超電導限流器において、保護層の膜厚が5μm以下であっても、臨界電流の1.5〜3倍の過大な電流が印加された場合にその電流を抑制することができ、その結果、酸化物超電導線材の焼損を防止でき、安定した限流特性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る酸化物超電導線材の横断面を示す斜視図である。
図2図1に示す酸化物超電導線材に設けられている酸化物超電導積層体の一例の部分断面を示す斜視図である。
図3A図1に示す酸化物超電導線材の製造方法の一例において、酸化物超電導積層体の下に金属テープを配置した状態を示す断面図である。
図3B図1に示す酸化物超電導線材の製造方法の一例において、酸化物超電導積層体の下に配置した金属テープを折り曲げた状態を示す断面図である。
図3C図1に示す酸化物超電導線材の製造方法の一例において、酸化物超電導積層体に金属テープを半田付けした状態を示す断面図である。
図4】前記実施形態に係る酸化物超電導線材の一変形例を示す横断面図である。
図5】前記実施形態に係る酸化物超電導線材の一変形例を示す横断面図である。
図6】超電導限流器の一例を示す断面図である。
図7A】超電導コイルの積層体の一形態を示す斜視図である。
図7B】超電導コイルの一形態を示す斜視図である。
図8】酸化物超電導線材の事故電流の抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る酸化物超電導線材について図面に基づいて説明する。なお、図面において、説明のために、いくつかの部分を拡大して示しているが、図面に表されている各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0016】
(酸化物超電導線材)
図1は、本発明の一実施形態に係る酸化物超電導線材の断面を示す斜視図である。この実施形態に係る酸化物超電導線材Aは、テープ状の酸化物超電導積層体1と、銅などの導電性材料からなり酸化物超電導積層体1を覆う金属テープ2とを備えている。
酸化物超電導積層体1は、図2に示すように、テープ状の基材3と、中間層4と、酸化物超電導層5と、保護層6とを有している。中間層4、酸化物超電導層5、及び保護層6は、基材3上にこの順で積層されている。
以下、図2を基に、酸化物超電導積層体1の各構成要素に関して詳細に説明する。
【0017】
基材3は、通常の酸化物超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、可撓性を有する長尺のテープ状であることが好ましい。また、基材3の材料としては、機械的強度が高く、耐熱性があり、線材に加工することが容易な金属を有しているものが好ましい。そのような材料として、例えば、ステンレス鋼、ハステロイ等のニッケル合金等の各種耐熱性金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配した材料などが挙げられる。中でも、市販品であれば、ハステロイ(商品名、米国ヘインズ社製)が好適である。モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等の種類のハステロイがある。基材3にはいずれの種類のハステロイも使用できる。また、基材3として、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金テープ基材等を採用することもできる。基材3の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は10〜500μm、好ましくは20〜200μmである。
【0018】
中間層4には、一例として拡散防止層、ベッド層、配向層、及びキャップ層がこの順に積層された構造を採用することができる。
拡散防止層は、この層の上に形成される他の層が加熱処理された結果、基材3や他の層が熱履歴を受ける場合に、基材3の構成元素の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層5側に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層の具体的な構造は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されない。不純物の混入を防止する効果が比較的高いAl、Si、又はGZO(GdZr)等から構成される単層構造あるいは複層構造の拡散防止層が望ましい。
【0019】
ベッド層は、基材3と酸化物超電導層5との界面における構成元素の反応を抑え、この層の上に設けられる層の配向性を向上させるために用いられる。ベッド層の具体的な構造は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されない。耐熱性が高いY、CeO、La、Dy、Er、Eu、Ho、などの希土類酸化物から構成される単層構造あるいは複層構造のベッド層が望ましい。
【0020】
配向層は、その上に形成されるキャップ層や酸化物超電導層5の結晶配向性を制御したり、基材3の構成元素が酸化物超電導層5へ拡散することを抑制したり、熱膨張率や格子定数といった物理的特性における基材3と酸化物超電導層5との差を緩和したりする機能等を有する。配向層の材料は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)等の金属酸化物が特に好適である。これらのような金属酸化物を配向層の材料として用いると、後述するイオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と呼ぶことがある。)において、結晶配向性の高い層が得られ、キャップ層や酸化物超電導層5の結晶配向性をより良好にできる。
【0021】
キャップ層は、酸化物超電導層5の結晶配向性を配向層と同等ないしそれ以上に強く制御したり、酸化物超電導層5を構成する元素の中間層4への拡散や、酸化物超電導層5の積層時に使用するガスと中間層4との反応を抑制したりする機能等を有する。
キャップ層の材料は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、CeO、LaMnO、Y、Al、Gd、ZrO、Ho、Nd、Zr等の金属酸化物が、酸化物超電導層5との格子整合性の観点から好適である。これらのなかでも、酸化物超電導層5とのマッチング性の観点から、CeO、LaMnOが特に好適である。
キャップ層にCeOを用いる場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0022】
酸化物超電導層5は、超電導状態の時に電流を流す機能を有する。酸化物超電導層5に用いられる材料には、通常知られている組成の酸化物超電導体材料を広く採用することができる。例えば、RE−123系超電導体、Bi系超電導体などの銅酸化物超電導体などが挙げられる。RE−123系超電導体の組成としては、例えば、REBaCu(7−x)(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素、xは酸素欠損を表す。)が挙げられ、具体的には、Y123(YBaCu(7−x))、Gd123(GdBaCu(7−x))が挙げられる。Bi系超電導体の組成としては、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δ(nはCuOの層数、δは過剰酸素を表す。)が挙げられる。この銅酸化物超電導体について、絶縁体である母物質に、酸素アニール処理により酸素を取り込むことで結晶構造の整った超電導特性を示す酸化物超電導体が得られる。
本実施形態おいて用いられる酸化物超電導層5の材料は、銅酸化物超電導体であり、以下、特に指定がなければ、酸化物超電導層5に用いる材料を銅酸化物超電導体とする。
【0023】
保護層6は、後述する安定化層10と共に異常時(例えば、落雷などよる短絡)に発生する過電流(事故電流)をバイパスしたり、酸化物超電導層5とこの層の上に設ける層との間で起こる化学反応を抑制したり、積層された層のうちの一つの層の元素の一部が他の層に侵入して組成がくずれることにより起こる超電導特性の低下を防いだりするなどの機能を有する。また、酸化物超電導層5に酸素を取り込ませやすくするために、加熱時には酸素を透過しやすくさせる機能も有する。
このため、保護層6は、AgあるいはAg合金のような少なくともAgを含む材料から形成されることが好ましい。
なお、図1及び図2において、保護層6は、酸化物超電導層5の上面のみに設けられているが、これに限られない。スパッタ法などの成膜法により保護層6を形成した場合、基材3、中間層4、酸化物超電導層5の側面並びに基材3の裏面にAg粒子の回り込みによるAgの薄い層が形成されることがあるが、係る構成を採用していても良い。
【0024】
酸化物超電導層5上に形成される保護層6の膜厚Dは、5μm以下とすることができる。保護層6の膜厚Dを5μm以下の薄い層である場合、コストの低減を図ることができる。また、保護層6の膜厚Dは1μm以上であることが好ましい。保護層6の膜厚Dが1μm未満である場合には、保護層6の酸素アニール処理時にAgが凝集し保護層6から酸化物超電導層5が露出する可能性がある。半田層7を介して金属テープ2により保護層6を覆うことによって形成された後述する安定化層10において、保護層6のAgの一部が半田によって吸収される。即ち、Agの保護層6に半田を構成する金属材料が侵入しAgの保護層6の抵抗値が増加する。
以上のように酸化物超電導積層体1が構成される。
【0025】
次に、上述の酸化物超電導積層体1の外周が金属テープ2によって覆われている酸化物超電導線材Aについて、図1を基に詳細に説明する。
保護層6の表面と両側面、及びその下の酸化物超電導層5の両側面、中間層4の両側面、基材3の両側面、並びに基材3の裏面側の一部を覆うように銅などの導電性材料からなる金属テープ2が設けられ、当該金属テープ2が安定化層10を構成している。
安定化層10は、酸化物超電導層5が超電導状態から常電導状態に転移した時に、保護層6とともに、電流を転流するバイパスとして機能する。
【0026】
金属テープ2の表面及び裏面の両方に半田層(低融点金属層)7が形成されている。半田層7は、金属テープ2の外面を覆っている外側被覆層7aと、金属テープ2の内面に密着して酸化物超電導積層体1の周囲を覆っている内側被覆層7bと、金属テープ2の幅方向両端を覆っている被覆部7cと、を有する。
金属テープ2は、横断面において略C字形に折り曲げられ、表面壁2aと側壁2bと裏面壁2c、2cとを有し、保護層6の表面から基材3の裏面に亘って、基材3の裏面の一部が露出するように酸化物超電導積層体1を覆っている。即ち、金属テープ2は、保護層6の上面と両側面、酸化物超電導層5の両側面、中間層4の両側面、基材3の両側面、基材3の裏面の一部を覆っている。
半田層7の内側被覆層7bは、酸化物超電導積層体1の全周面のうち、金属テープ2と酸化物超電導積層体1の間を完全に埋めるように形成されている。
半田層(低融点金属層)7は、本実施形態では半田から形成されているが、低融点金属層として、融点240〜400℃の金属、例えば、Sn、Sn合金、インジウム等からなるものでも良い。上記半田として、Sn−Pb系、Pb−Sn−Sb系、Sn−Pb−Bi系、Bi−Sn系、Sn−Cu系、Sn−Pb−Cu系、Sn−Ag系などの半田を用いても良い。なお、半田層7の融点が高いと、半田層7を溶融させる際に酸化物超電導層5の超電導特性に悪影響を及ぼすので、半田層7の融点は低い方が好ましい。具体的には、350℃以下、より好ましくは240〜300℃前後の融点を有する材料が望ましい。
【0027】
半田層7の厚さは1μm〜10μmの範囲、より好ましくは2μm〜6μmの範囲であることが好ましい。半田層7の厚さが1μm未満の場合、酸化物超電導積層体1と金属テープ2との間の隙間を完全に充填できずに隙間が残存する可能性があり、更に、半田を溶融させている間に半田層7の構成元素が拡散して金属テープ2あるいはAgの保護層6との間に合金層を生成する可能性がある。逆に、半田層7の厚さが10μmを超える場合、後述するようにロールにより加熱加圧して半田を溶融させて半田付けする際に、金属テープ2の裏面壁2cの先端側からはみ出す半田の量が多くなる。その結果、被覆部7cの厚さが大きくなり、それが酸化物超電導線材Aの巻回時に巻き乱れを生じさせる原因となる。
【0028】
図1に示す酸化物超電導線材Aでは、酸化物超電導積層体1とその周囲の金属テープ2との間に充填された半田層7が酸化物超電導積層体1の周囲を覆っているので、金属テープ2の内側に位置する酸化物超電導積層体1への外部からの水分の浸入を防止できる。
【0029】
図1に示す酸化物超電導線材Aを製造するには、図3Aに示すように、基材3と中間層4と酸化物超電導層5と保護層6とを積層したテープ状の酸化物超電導積層体1を用意し、この酸化物超電導積層体1の保護層6の下に金属テープ2を配置する。ここで用いる金属テープ2の表裏面にはめっきにより半田層8、9が形成されている。これら半田層8、9の厚さは1μm〜10μmの範囲、より好ましくは2μm〜6μmの範囲であることが好ましい。
酸化物超電導積層体1の中央と金属テープ2の中央とを位置合わせした後、フォーミングロールなどを用いて、図3Bに示すように、基材3の両側面に沿うように金属テープ2の両端部を上方に折り曲げる。その後、図3Cに示すように、基材3の上面に沿うように金属テープ2をさらに折り曲げる。以上のように、横断面において略C字形となるように金属テープ2を折り曲げ加工する。
【0030】
上述の折り曲げ加工の後、加熱炉を用いて全体を半田層8、9が溶融する温度まで加熱する。続いて、半田層8、9の融点近傍の温度まで加熱した加圧ロールを用いて、C字形に形成された金属テープ2と酸化物超電導積層体1とに加圧する。
この処理により、溶融した半田層8、9は酸化物超電導積層体1と金属テープ2との間の間隙を完全に埋めるように拡がり、その間隙を充填する。この後、全体を冷却し、半田を固化させると、図3Cに示すように、半田層7を備えた図1に示す構造と同等の構造を有する酸化物超電導線材Aを得ることができる。
【0031】
(変形例)
図4図5は、上述の実施形態に係る酸化物超電導線材Aの変形例である酸化物超電導線材B、Cの横断面図である。この変形例に係る酸化物超電導線材Bでは、上記実施形態に係る酸化物超電導線材Aと同様、テープ状の酸化物超電導積層体1が金属テープ2で覆われている。
本変形例に係る酸化物超電導線材B、Cが上記実施形態に係る酸化物超電導線材Aと異なっているのは、C字形の金属テープ2の裏面壁2c、2cの先端縁の間の間隙部分11が半田層(低融点金属層)17からなる埋込層17cにより埋め込まれている点である。また、酸化物超電導線材Bにおいては、金属テープ2の内周面のみに半田層(低融点金属層)17の内側被覆層17aが形成されている。
図4図5に示す酸化物超電導線材B、Cにおいて、上記以外の構造は酸化物超電導線材Aと同様であり、同一の構成要素については同一の符号を付し、それらの説明を省略する。
【0032】
図4図5に示す酸化物超電導線材B、Cにおいて、酸化物超電導積層体1と金属テープ2との間の間隙が内側被覆層17aにより充填されるとともに、金属テープ2の裏面壁2c、2c間の間隙が埋込層17cにより埋められている。埋込層17cが酸化物超電導積層体1への水分の浸入を抑制し、特に金属テープ2の内側の酸化物超電導層5への水分浸入を防止する。酸化物超電導線材Bのように、金属テープ2の外面に半田層を設けずに、金属テープ2の内面に半田層17を設け、埋込層17cを設けた構造においても、水分の内部への浸入を防止できる。
【0033】
加圧ロール及びこの加圧ロールに半田を供給する別途の装置などを用いて、金属テープ2の裏面壁2c、2c間の間隙を埋めるのに十分な量の半田を供給して埋込層17cを形成することにより、酸化物超電導線材B、Cを得ることができる。また、金属テープ2の表面に半田層を予め厚く形成しておき、この半田層を加熱により溶融させ、加圧ロールを用いて溶融した半田を金属テープ2の裏面壁2c、2cの間の間隙から染み出させて埋込層17cを形成しても良い。
【0034】
(常電導状態での電気的特性)
次に上述した本発明の実施形態に係る酸化物超電導線材A(B、C)の電気的な特性について説明する。
酸化物超電導線材Aを超電導限流器に使用する場合において、酸化物超電導線材Aの常電導状態での抵抗値Rは、以下に示す式(1)で表される範囲にあることが好ましい。
【0035】
【数1】
【0036】
式(1)において、Vは電圧を示し、Icは、酸化物超電導線材Aの臨界電流値を示す。また、αは臨界電流値Icに掛け合わせる係数である。酸化物超電導層5が常電導状態に十分に遷移するためには、臨界電流値Icに対して1.5〜3倍の電流が必要である。即ち、酸化物超電導層5が超電導状態から常電導状態に遷移する際に、安定化層10及び保護層6には臨界電流値Icの1.5〜3倍の電流が流れる。そこで、1.5〜3の係数αを臨界電流値Icに掛け合わせている。
【0037】
酸化物超電導層5の臨界電流値Icは、その断面積によって設定することができる。実用上、1cm幅の酸化物超電導線材Aにおいて、想定される臨界電流値Icは、50〜1000Aの範囲である。
また、限流特性を得るためには、常電導状態での1cm幅1cm長さの酸化物超電導線材Aの電圧降下は0.3〜5Vの範囲であることが必要である。
【0038】
臨界電流値Ic、電圧V、並びに上述の範囲で規定される係数αの各値を式(1)に代入することで、酸化物超電導線材Aの常電導状態における抵抗値Rの望ましい範囲を算出することができる。即ち、電圧Vについて0.3V、臨界電流値Icについて1000A、係数αについて3のそれぞれの値を式(1)に代入すると、抵抗値の下限値100μΩを算出することができる。また、電圧Vについて5V、臨界電流値Icについて50A、係数αについて1.5の各値を式(1)に代入すると、抵抗値の上限値66.667mΩを算出することができる。
【0039】
酸化物超電導線材Aは、使用時には液体窒素などで約90Kに冷却されている。上述の抵抗値Rはこの使用時の温度における抵抗値である。銅合金(一例として真鍮)の常電導物質の室温(20℃)での抵抗値は、90Kでの抵抗値の約1.5倍であることから、酸化物超電導線材Aの室温における抵抗値の望ましい範囲は、150μΩ以上100mΩ以下である。なお、酸化物超電導線材の抵抗値はその幅に反比例するため、上記抵抗値の望ましい範囲は酸化物超電導線材の幅に応じて決定される。たとえば、5mm幅、1cm長さの酸化物超電導線材の室温における抵抗値の望ましい範囲は、300μΩ以上200mΩ以下である。
【0040】
酸化物超電導線材Aの常電導状態での抵抗値は、酸化物超電導層5の抵抗値が絶縁状態での抵抗値に近い値であることから、保護層6と半田層(低融点金属層)7、17と安定化層10との合成抵抗になる。これらのうち半田層7、17の抵抗値は、その薄さ(即ち断面積)と体積抵抗率とを加味すると、保護層6及び安定化層10の抵抗値と比較して十分大きい。即ち半田層7、17には電流がほとんど流れないため、抵抗値の算出において半田層7、17を無視することができる。したがって、酸化物超電導線材Aの常電導状態における抵抗値は、保護層6と安定化層10との合成抵抗で近似できる。
【0041】
保護層6はAg又はAg合金から構成される。膜厚Dが5μm以下の保護層6を用いることによって、コスト削減を図ることができる。また、保護層6の膜厚Dは1μm以上であることが好ましい。
安定化層10の抵抗値は、安定化層10の厚さdと安定化層10を構成する材料の体積抵抗率とをパラメーターとして様々に調整することができる。したがって、膜厚が1μm以上5μm以下の保護層6を有する酸化物超電導線材Aの室温での抵抗値が上記の範囲となるように、安定化層10の厚さdと安定化層10を構成する材料とを選択すればよい。
【0042】
体積抵抗率が低い材料を安定化層10の材料として使用する場合は、薄い安定化層10を用いる必要がある。しかしながら、安定化層10として金属テープ2を酸化物超電導積層体1上に形成する場合において、金属テープ2の厚さdが薄すぎると破れが生じる可能性がある。さらに、上述したように、金属テープ2をC字形に曲げて、酸化物超電導積層体1を覆うように成形する場合には、破れがより生じやすくなる。
これに対して、体積抵抗率が高い材料を安定化層10の材料として使用する場合は、厚い安定化層10を用いる必要がある。しかしながら、安定化層10が厚いと酸化物超電導線材A自体の厚み寸法もそれに伴い肥大化してしまう。また、上述したように金属テープ2をC字形に曲げて、酸化物超電導積層体1を覆うように成形する場合において、厚さ60μmを超えた金属テープ2を成形することは非常に困難であるのみならず、成形時に高い応力を金属テープ2に加える必要があるため酸化物超電導層5が劣化する可能性がある。
【0043】
これらのことから、安定化層10の厚さdは、9μm以上60μm以下であることが好ましい。また、この厚さdの範囲において、酸化物超電導線材Aの抵抗値が150μΩ以上100mΩ以下となる安定化層10の体積抵抗率は、3.8μΩ・cm以上15μΩ・cm以下である。また、より好ましくは、3.8μΩ・cm以上9.6μΩ・cm以下である。
このような体積抵抗率を満たす安定化層10、即ち金属テープ2の材料としては、銅ニッケル合金(GCN15、GCN10、GCN5:対応規格JIS C 2532)、コルソン合金、黄銅(Cu−Zn合金)、ベリリウム銅、リン青銅等が挙げられる。
【0044】
表1に、安定化層10の材料として体積抵抗率3.8μΩ・cmのコルソン合金(C7025)を用いた場合の、保護層6の膜厚と安定化層10の膜厚との関係、及び酸化物超電導線材の室温(常電導状態)における抵抗値を示す。
また、表2に、安定化層10の材料として体積抵抗率15μΩ・cmの銅ニッケル合金(GCN15)を用いた場合の、保護層6の膜厚と安定化層10の膜厚との関係、及び酸化物超電導線材の室温(常電導状態)における抵抗値を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1からわかるように、安定化層10の体積抵抗率が3.8μΩ・cmである場合において、保護層6の膜厚1〜5μmに対して安定化層10の厚さを9.4〜12.0μmの範囲で調整することにより、好ましい合成抵抗値(即ち酸化物超電導線材の常温での抵抗値)を得ることができる。同様に、表2からわかるように、安定化層10の体積抵抗率が15μΩ・cmである場合においても、安定化層10の厚さを35.0〜55.0μmの範囲で調整することにより、好ましい合成抵抗値を得ることができる。
これらのことから、安定化層10の体積抵抗率が3.8〜15μΩ・cmである場合、保護層6の膜厚1〜5μmに対して安定化層10の厚さを9.4〜58μmの範囲で調整することにより、常温において好ましい抵抗値を有する酸化物超電導線材を得ることができる。
【0048】
(超電導限流器)
図6に、上述の酸化物超電導線材A(又はB、C)を用いた超電導限流器99を示す。
超電導限流器99において、酸化物超電導線材A(B、C)は巻胴に複数層に渡って巻回されて超電導限流器用モジュール90を構成している。超電導限流器用モジュール90は、液体窒素98が充填された液体窒素容器95に格納されている。液体窒素容器95は、外部からの熱を遮断する真空容器96の内部に格納されている。
液体窒素容器95の上部には、液体窒素充填部91と冷凍機93とが設けられている。冷凍機93の下方には、熱アンカー92と熱板97とが設けられている。
また、超電導限流器99は、超電導限流器用モジュール90と外部電源(図示略)とを接続するための電流リード部94を有する。
【0049】
(超電導コイル)
図7Bに、上述の酸化物超電導線材A(B、C)を用いたパンケーキコイル101を示す。酸化物超電導線材Aは、巻回しパンケーキコイル101を構成することができる。また複数のパンケーキコイル101を積層し互いに接続することにより、図7Aに示す強力な磁力を発する超電導コイル100を形成することができる。
【0050】
以上に説明したように、酸化物超電導線材A、B、Cは、様々な超電導機器に使用可能である。ここで、超電導機器は、前記酸化物超電導線材Aを有するものであれば特に限定されず、例えば、超電導ケーブル、超電導モータ、超電導変圧器、超電導限流器、超電導電力貯蔵装置などを含む。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示して本発明の実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(試料の作製)
幅5mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基材上に、スパッタ法によりAl層(拡散防止層;膜厚150nm)を成膜し、この拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法によりY層(ベッド層;膜厚20nm)を成膜した。次いで、このベッド層上に、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)によりMgO層(金属酸化物層;膜厚10nm)を形成し、この金属酸化物層上にパルスレーザー蒸着法(PLD法)により0.5μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでこのキャップ層上にPLD法により2.0μm厚のGdBaCu7−δ(酸化物超電導層)を形成し、この酸化物超電導層上にスパッタ法により5μm厚のAg層(保護層)を形成した。さらに、この保護層の両面に、Sn半田めっきを施した幅10mmの金属テープを横断面において略C字形をなすようにフォーミングし、酸化物超電導積層体の周面を金属テープで覆った。その後、Sn半田を加熱により溶融させて酸化物超電導積層体の周面に金属テープが被着するように半田層を形成した。表3に示す厚さ及び材質を有する金属テープを用いた。以上のプロセスによって、実施例1〜6及び比較例1、2の酸化物超電導線材を作製した。
【0052】
実施例1〜6及び比較例12の酸化物超電導線材について、高温(120℃)・高湿(100%)・高圧力(0.2MPa)下に100時間放置するプレッシャークッカー試験を行い、その試験前後での臨界電流値の比を測定した。各酸化物超電導線材について、放置前の臨界電流値(Ic)に対する放置後の臨界電流値(Ic)の比の百分率を水分劣化として、表3に示す。
また、限流特性として、異常時の過大な電流の抑制効果を以下のように確認した。実施例1〜6及び比較例1、2の酸化物超電導線材をそれぞれ10cmの長さに切断し、それぞれの線材の端部間に想定される異常時の電流と同等の過大な電流を印加した。電流を印加した直後から第6波までの電流波形を観察し、限流効果が得られるか否かをそれぞれの線材について確認した。その結果を表3に示す。なお、表中の「○」は金属テープが成形可能であることを、「×」は金属テープが成形不能であることを示す。また、一例として、実施例2の酸化物超電導線材に想定される事故電流と同等の過大な電流を印加した際に観察された電流波形を図8に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示すように、比較例1、2の酸化物超電導線材では、酸化物超電導積層体を被覆するように金属テープを成形することができなかった。具体的には、比較例1においては、金属テープとして使用した無酸素銅の箔の厚さが5μmと薄いため、金属テープをC字形に成形する際に金属テープが破れ、酸化物超電導積層体を被覆することができなかった。
また、比較例2においては、金属テープとして使用した洋白は剛性が高くまた、箔厚が96μmと厚いため、洋白からなる金属テープをC字形に成形することができなかった。
そこで、比較例1、2の水分劣化及び限流特性に関しては、酸化物超電導積層体の保護層上に、表3に記載の箔厚の2倍の厚みを有する金属テープを、半田層を介して形成した線材について測定を行った。
比較例1、2の酸化物超電導線材は、酸化物超電導積層体を気密に被覆することができなかったため、プレッシャークッカー試験によって劣化した。
【0055】
これに対して、実施例1〜6の酸化物超電導線材はプレッシャークッカー試験によって劣化しなかった。
また、実施例1〜6及び比較例1、2の酸化物超電導線材は、全て良好な限流特性を示した。一例として、実施例2の線材について観察された電流波形を示す図8を参照すると、第1波から徐々に電流値が抑制されていることがわかる。
以上のように、本発明の実施例に係る酸化物超電導線材は、良好な限流特性を示すことが確認された。さらに、本発明の実施例に係る酸化物超電導線材では、酸化物超電導積層体の周囲が所定の厚さの金属テープにより被覆されているため、過酷な状況においても水分による劣化が起こらないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の実施形態によれば、超電導限流器に使用する酸化物超電導線材であって、保護層の膜厚を薄く形成した場合であっても、焼損を防ぎつつ安定した限流特性を発揮し、かつ酸化物超電導線材の厚み寸法が肥大化しない酸化物超電導線材を提供できる。
【符号の説明】
【0057】
1 酸化物超電導積層体
2 金属テープ
3 基材
4 中間層
5 酸化物超電導層
6 保護層
7、17 半田層(低融点金属層)
10 安定化層
99 超電導限流器
A、B、C 酸化物超電導線材
D 膜厚(保護層)
d 厚さ(安定化層)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8