特許第5693844号(P5693844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5693844
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】ヒトIL−17に結合する抗体分子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150312BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20150312BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20150312BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20150312BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150312BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20150312BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150312BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20150312BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20150312BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20150312BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20150312BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20150312BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   A61K39/395 U
   A61P11/00
   A61P29/00 101
   A61P35/00
   A61P37/06
   A61P43/00 111
   C07K16/24
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/00 101
   C12P21/08
【請求項の数】17
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2009-517386(P2009-517386)
(86)(22)【出願日】2007年6月25日
(65)【公表番号】特表2009-540855(P2009-540855A)
(43)【公表日】2009年11月26日
(86)【国際出願番号】GB2007002370
(87)【国際公開番号】WO2008001063
(87)【国際公開日】20080103
【審査請求日】2010年4月9日
【審判番号】不服2013-17306(P2013-17306/J1)
【審判請求日】2013年9月9日
(31)【優先権主張番号】0612928.2
(32)【優先日】2006年6月29日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507073918
【氏名又は名称】ユセベ ファルマ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラペッキ、スティーブン エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ポップルウェル、アンドリュー ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】アダムズ、ラルフ
【合議体】
【審判長】 今村 玲英子
【審判官】 ▲高▼ 美葉子
【審判官】 高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/106377(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/054059(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/070750(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/013107(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/070750(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00−15/90
C07K16/00−16/46
CAplus(STN)
BIOSIS(STN)
MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖の可変ドメイン及び軽鎖の可変ドメインを含む、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体分子であって、
該重鎖の可変ドメインがCDR−H1として配列番号1で表される配列、CDR−H2として配列番号2で表される配列、及びCDR−H3として配列番号3で表される配列を含み
該軽鎖の可変ドメインが、CDR−L1として配列番号4で表される配列、CDR−L2として配列番号5で表される配列、及びCDR−L3として配列番号6で表される配列を含む、
中和抗体分子
【請求項2】
配列番号9で表される配列を含む重鎖を有する、請求項1に記載の抗体分子
【請求項3】
配列番号7で表される配列を含む軽鎖を有する、請求項1に記載の抗体分子
【請求項4】
配列番号9で表される配列を含む重鎖、及び配列番号7で表される配列を含む軽鎖を有する、請求項1に記載の抗体分子
【請求項5】
配列番号15で表される配列を含む重鎖、及び配列番号11で表される配列を含む軽鎖を有する、請求項1に記載の抗体分子
【請求項6】
ヒト化されている、請求項1に記載の抗体分子。
【請求項7】
重鎖の可変ドメイン及び軽鎖の可変ドメインを含んだ完全な抗体又は抗体断片を含む、請求項1に記載の抗体分子。
【請求項8】
前記抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、又はscFvから選択される、請求項7に記載の抗体分子。
【請求項9】
コンジュゲートしたエフェクター分子を更に含む、請求項1に記載の抗体分子。
【請求項10】
前記エフェクター分子が、PEGである、請求項9に記載の抗体分子。
【請求項11】
1つ又は複数の薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、又は担体と組み合わせた、請求項に記載の抗体分子を含む薬剤組成物。
【請求項12】
他の有効成分をさらに含む、請求項11に記載の薬剤組成物。
【請求項13】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の抗体分子をコードする、単離されたDNA。
【請求項14】
請求項13に記載のDNAを1つ又は複数含むクローニングベクター又は発現ベクター。
【請求項15】
ベクターが配列番号14及び配列番号18で表される配列を含む、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
請求項14又は請求項15に記載のクローニングベクター又は発現ベクターを1つ又は複数含む宿主細胞。
【請求項17】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の抗体分子を生成するための方法であって、請求項16に記載の宿主細胞を培養するステップと、抗体分子を単離するステップとを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL−17の抗原決定基に特異性を有する抗体分子に関する。本発明は、抗体分子の治療的使用、及び前記抗体分子を生成するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン17(IL−17)は、様々な非免疫細胞から広範囲の他のサイトカインの分泌を刺激する炎症誘発性サイトカインである。IL−17は、繊維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞、及び内皮細胞などの接着細胞によるIL−6、IL−8、PGE2、MCP−1、及びG−CSFの分泌を誘発することができ、ICAM−1の表面発現、T細胞の増殖を誘発することもでき、照射された繊維芽細胞の存在下で共培養した場合にCD34+ヒト前駆細胞の好中球への成長及び分化を誘発することができる(Fossiezら、1998年、Int.Rev.Immunol.、16巻、541〜551頁)。IL−17は、活性化されたメモリーT細胞によって主に生成され、偏在的に分布する細胞表面受容体(IL−17R)に結合することによって作用する(Yaoら、1997年、Cytokine、9巻、794〜800頁)。これはまた、IL−17RAとIL−17RCとの複合体に結合することによって作用することもある(Toyら、2006年、J.Immunol.、177巻(11)、36〜39頁)。炎症反応を制御する上で、類似且つ独特な役割を有する、数々のIL−17の相同体が同定されている。IL−17サイトカイン/受容体ファミリーの総説については、Dumont、2003年、Expert Opin.Ther.Patents、13巻、287〜303頁を参照されたい。
【0003】
IL−17は、関節リウマチ及び気道の炎症などの異常な免疫反応が媒介する数々の疾患、並びに臓器移植拒絶及び抗腫瘍免疫の一因となることがある。IL−17活性の阻害薬は、当技術分野ではよく知られており、例えば、マウスIL−17R:ヒトFc融合タンパク質、マウス可溶性IL−17R、及び抗IL−17モノクローナル抗体は、関節リウマチの様々なモデルにおいてIL−17の役割を実証するのに用いられている(Lubbertsら、J.Immunol.、2001年、167巻、1004〜1013頁;Chabaudら、Arthritis Res.、2001年、3巻、168〜177頁)。さらに、中和ポリクローナル抗体は、腹膜の癒着の形成を低減するのに用いられている(Chungら、2002年、J.Exp.Med.、195巻、1471〜1478頁)。ラット由来抗ヒトIL−17抗体は、WO04/106377に記載された。約220pMの親和性を有するヒト化抗IL−17抗体は、WO2006/054059に記載された。約188nMの親和性を有するモノクローナル抗IL−17完全ヒト抗体は、WO2006/013107に記載された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当技術分野では、患者を治療するのに適する改善された抗IL−17抗体が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、目下、IL−17が媒介する、又はIL−17のレベルの増大に関連する病理学的障害の治療又は予防における使用に適する高親和性中和抗IL−17抗体を同定した。
【0006】
抗体可変ドメインにおける残基は、Kabatらが考案したシステムにしたがって、慣例的に番号付けられている。このシステムは、Kabatら、1987年、「免疫学的対象のタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)」、US Department of Health and Human Services、NIH、USA(以降「Kabatら(上述)」)に述べられている。別段の指摘がある場合以外は、本明細書において、この番号付けのシステムを用いる。
【0007】
Kabatの残基の呼称は、必ずしもアミノ酸残基の直線上の番号付けに直接対応するわけではない。実際の直線上のアミノ酸配列は、基本の可変ドメイン構造のフレームワークでも、相補性決定領域(CDR)でも、構造上の構成要素の短縮又はそれへの挿入に対応する厳密なKabatの番号付けよりも少ない又はさらなるアミノ酸を含んでいてよい。残基の正確なKabatの番号付けは、「標準の」Kabatの番号付けをした配列を有する抗体の配列において、相同性の残基のアラインメントによって、所与の抗体に対して決定することができる。
【0008】
重鎖可変ドメインのCDRは、Kabatの番号付けシステムにしたがって、残基31〜35(CDR−H1)、残基50〜65(CDR−H2)、及び残基95〜102(CDR−H3)に位置する。しかし、Chothiaによると(Chothia,C.及びLesk,A.M.、J.Mol.Biol.、196巻、901〜917頁(1987年))、CDR−H1に等しいループは残基26から残基32に伸びている。したがって、本明細書で用いられる「CDR−H1」は、Kabatの番号付けシステムとChothiaのトポロジー的ループの定義の組合せによって記載されるように、残基26から35を含む。
【0009】
軽鎖可変ドメインのCDRは、Kabatの番号付けシステムにより、残基24〜34(CDR−L1)、残基50〜56(CDR−L2)、及び残基89〜97(CDR−L3)に位置している。
【0010】
本明細書で用いられる「中和抗体」の語は、例えば、IL−17の、1つ又は複数のその受容体との結合を阻止することにより、IL−17の生物学的なシグナル伝達活性を中和することができる抗体を示すものである。
【0011】
本発明で用いるための抗体は、当技術分野で知られているあらゆる適切な方法を用いて得ることができる。IL−17ポリペプチド、又はポリペプチドを発現する細胞を用いて、IL−17を特異的に認識する抗体を生成することができる。IL−17ポリペプチドは、「成熟した」ポリペプチド、又は生物学的に活性なその断片若しくは誘導体であってよい。好ましくは、IL−17ポリペプチドは、成熟ヒトポリペプチドである。IL−17ポリペプチドは、発現系を含む遺伝子操作された宿主細胞から当技術分野ではよく知られている方法によって調製してもよく、又は天然の生物学的供給源から回収してもよい。当出願における「ポリペプチド」の語は、ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質を含む。これらは別段の指定がない限り、交換可能に用いられる。IL−17ポリペプチドは、いくつかの場合において、例えば、親和性タグに融合している融合タンパク質など、より大型のタンパク質の部分であってよい。IL−17ポリペプチドに対して産生される抗体を得ることができ、この場合、動物、好ましくは非ヒトの動物に、よく知られているルーチンのプロトコール(例えば、「実験免疫学のハンドブック(Handbook of Experimental Immunology)」、D.M.Weir(編)、4巻、Blackwell Scientific Publishers、Oxford、England、1986年を参照されたい)を用いてポリペプチドを投与することによって、動物を免疫感作することが必要である。ウサギ、マウス、ラット、ヒツジ、ウシ、又はブタなどの多くの温血動物を免疫感作することができる。しかし、マウス、ウサギ、ブタ、及びラットが一般的には好ましい。
【0012】
本発明で用いるための抗体には、抗体全体、及び機能的に活性なその断片又は誘導体が含まれ、それだけには限定されないが、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、又はキメラ抗体であってよい。
【0013】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術(Kohler&Milstein、1975年、Nature、256巻、495〜497頁)、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら、1983年、Immunology Today、4巻、72頁)、及びEBVハイブリドーマ技術(Coleら、「モノクローナル抗体と癌治療(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy)」、77〜96頁、Alan R Liss社、1985年)など、当技術分野で知られているあらゆる方法によって調製することができる。
【0014】
本発明で用いるための抗体は、例えば、Babcook,J.ら、1996年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93巻(15)、7843〜78481頁、WO92/02551、WO2004/051268、及び国際特許出願番号WO2004/106377に記載されている方法によって、特異的な抗体を生成するために選択された単一のリンパ球から産生された免疫グロブリン可変領域cDNAをクローニング及び発現することによって、単一リンパ球抗体法を用いて産生することもできる。
【0015】
ヒト化抗体(CDRグラフト化した抗体を含む)は、非ヒト種からの相補性決定領域(CDR)を1つ又は複数、及びヒト免疫グロブリン分子からのフレームワーク領域を有する抗体分子である(例えば、US5585089、WO91/09967を参照されたい)。CDR全体ではなく、CDRの特異性決定残基を移すことだけが必要であり得ることが理解されよう(例えば、Kashmiriら、2005年、Methods、36巻、25〜34頁を参照されたい)。ヒト化抗体は、CDRがそれに由来する非ヒト種に由来する1つ又は複数のフレームワーク残基を、任意選択でさらに含むことができる。
【0016】
キメラ抗体は、軽鎖及び重鎖の遺伝子が異なる種に属する免疫グロブリン遺伝子セグメントからなるように遺伝子操作された免疫グロブリン遺伝子によってコードされる抗体である。
【0017】
本発明で用いるための抗体は、当技術分野で知られている様々なファージディスプレイ方法を用いて産生することもでき、Brinkmanら(J.Immunol.Methods、1995年、182巻、41〜50頁、Amesら(J.Immunol.Methods、1995年、184巻、177〜186頁)、Kettleboroughら、(Eur.J.Immunol.、1994年、24巻、952〜958頁)、Persicら、(Gene、1997年、187巻、9〜18頁)、Burtonら、(Advances in Immunology、1994年、57巻、191〜280頁)、及びWO90/02809、WO91/10737、WO92/01047、WO92/18619、WO93/11236、WO95/15982、WO95/20401、及びUS5698426、5223409、5403484、5580717、5427908、5750753、5821047、5571698、5427908、5516637、5780225、5658727、5733743、及び5969108によって開示されているものを含む。
【0018】
完全ヒト抗体は、重鎖及び軽鎖両方の可変領域及び定常領域(存在する場合は)が、全てヒト起源であり、又はヒト起源の配列に実質的に同一であり、必ずしも同じ抗体起源ではない。完全ヒト抗体の例には、例えば、上記に記載したファージディスプレイ方法によって生成された抗体、並びに、マウス免疫グロブリン可変及び定常領域遺伝子がそれらのヒト対応物によって置き換えられたマウスによって生成される抗体、例えば、EP0546073B1、US5545806、US5569825、US5625126、US5633425、US5661016、US5770429、EP0438474B1、及びEP0463151B1における一般項に記載されているものなどが含まれる。
【0019】
一実施形態では、本発明は、和抗体重鎖を含む、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体であって、重鎖の可変ドメインが、CDR−H1に対して図1(c)配列番号1で示される配列を有するCDR、CDR−H2に対して図1(c)配列番号2で示される配列を有するCDR、及びCDR−H3に対して図1(c)配列番号3で示される配列を有するCDRの少なくとも1つを含む中和抗体を提供する。
【0020】
別の一実施形態では、本発明は、重鎖の可変ドメインのCDR−H1、CDR−H2、及びCDR−H3の少なくとも2つが以下:CDR−H1に対して配列番号1で示される配列、CDR−H2に対して配列番号2で示される配列、及びCDR−H3に対して配列番号3で示される配列から選択される、重鎖を含む、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体を提供する。例えば、抗体は、CDR−H1が配列番号1で示される配列を有し、CDR−H2が配列番号2で示される配列を有する重鎖を含むことができる。或いは、抗体は、CDR−H1が配列番号1で示される配列を有し、CDR−H3が配列番号3で示される配列を有する重鎖を含むことができ、又は、抗体は、CDR−H2が配列番号2で示される配列を有し、CDR−H3が配列番号3で示される配列を有する重鎖を含むことができる。不確かさを避けるために、並べ換え全てが含まれると理解される。
【0021】
別の一実施形態では、本発明は、重鎖を含む、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体であって、重鎖の可変ドメインが、CDR−H1に対して配列番号1で示される配列、CDR−H2に対して配列番号2で示される配列、及びCDR−H3に対して配列番号3で示される配列を含む中和抗体を提供する。
【0022】
一実施形態では、本発明は、軽鎖を含む、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体であって、軽鎖の可変ドメインが、CDR−L1に対して図1(c)配列番号4で示される配列を有するCDR、CDR−L2に対して図1(c)配列番号5で示される配列を有するCDR、及びCDR−L3に対して図1(c)配列番号6で示される配列を有するCDRの少なくとも1つを含む中和抗体を提供する。
【0023】
別の一実施形態では、本発明は、軽鎖を含む、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体であって、軽鎖の可変ドメインのCDR−L1、CDR−L2、及びCDR−L3の少なくとも2つが、CDR−L1に対して配列番号4で示される配列、CDR−L2に対して配列番号5で示される配列、及びCDR−L3に対して配列番号6で示される配列から選択される中和抗体を提供する。例えば、抗体は、CDR−L1が配列番号4で示される配列を有し、CDR−L2が配列番号5で示される配列を有する軽鎖を含むことができる。或いは、抗体は、CDR−L1が配列番号4で示される配列を有し、CDR−L3が配列番号6で示される配列を有する軽鎖を含むことができ、又は、抗体は、CDR−L2が配列番号5で示される配列を有し、CDR−L3が配列番号6で示される配列を有する軽鎖を含むことができる。不確かさを避けるために、並べ換え全てが含まれると理解される。
【0024】
別の一実施形態では、本発明は、軽鎖を含む、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体であって、可変ドメインが、CDR−L1に対して配列番号4で示される配列、CDR−L2に対して配列番号5で示される配列、及びCDR−L3に対して配列番号6で示される配列を含む中和抗体を提供する。
【0025】
本発明の抗体分子は、それぞれ相補的な軽鎖又は相補的な重鎖を含むことが好ましい。
【0026】
したがって、一実施形態では、本発明による抗体は重鎖を含み、重鎖の可変ドメインは、CDR−H1に対して配列番号1で示される配列、CDR−H2に対して配列番号2で示される配列、及びCDR−H3に対して配列番号3で示される配列を含み、また軽鎖を含み、軽鎖の可変ドメインは、CDR−L1に対して配列番号4で示される配列、CDR−L2に対して配列番号5で示される配列、及びCDR−L3に対して配列番号6で示される配列を含む。
【0027】
1つ又は複数のアミノ酸の置換、付加、及び/又は欠失は、抗体がIL−17に結合し、IL−17の活性を中和する能力を大幅に変更せずに、本発明が提供するCDRに対して行われることがあることが理解されよう。あらゆるアミノ酸の置換、付加、及び/又は欠失の効果は、当業者であれば、例えば、IL−17の結合及び中和を決定するための実施例に記載されている方法を用いることによって容易に試験することができる。したがって、本発明は、1つ又は複数のCDRにおける1つ又は複数のアミノ酸が別のアミノ酸で、好ましくは本明細書下記に定義する類似のアミノ酸で置換されている、CDR−H1(配列番号1)、CDR−H2(配列番号2)、CDR−H3(配列番号3)、CDR−L1(配列番号4)、CDR−L2(配列番号5)、及びCDR−L3(配列番号6)から選択される1つ又は複数のCDRを含むヒトIL−17に特異性を有する抗体を提供する。一実施形態では、本発明は、1つ又は複数のCDRにおける1つ又は複数のアミノ酸は別のアミノ酸で、好ましくは本明細書下記に定義する類似のアミノ酸で置換されている、図1(c)に示すCDR−H1(配列番号1)、CDR−H2(配列番号2)、CDR−H3(配列番号3)、CDR−L1(配列番号4)、CDR−L2(配列番号5)、及びCDR−L3(配列番号6)を含む、ヒトIL−17に特異性を有する抗体を提供する。
【0028】
一実施形態では、本発明の抗体は重鎖を含み、重鎖の可変ドメインは3つのCDRを含み、CDR−H1の配列は配列番号1で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有し、CDR−H2は配列番号2で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有し、且つ/又はCDR−H3は配列番号3で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有する。別の一実施形態では、本発明の抗体は重鎖を含み、重鎖の可変ドメインは3つのCDRを含み、CDR−H1の配列は配列番号1で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有し、CDR−H2は配列番号2で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有し、且つ/又はCDR−H3は配列番号3で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有する。
【0029】
本明細書で用いられる「同一性」は、アラインされた配列におけるあらゆる特定の位置において、アミノ酸残基が配列間で同一であることを示すものである。本明細書で用いられる「類似性」の語は、アラインされた配列におけるあらゆる特定の位置において、アミノ酸残基が配列間で類似のタイプであることを示すものである。例えば、ロイシンが、イソロイシン又はバリンの代わりに置換してあってよい。互いにしばしば置換され得る他のアミノ酸には、それだけには限定されないが、
フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン(芳香族の側鎖を有するアミノ酸);
リシン、アルギニン、及びヒスチジン(塩基性の側鎖を有するアミノ酸);
アスパラギン酸及びグルタミン酸(酸性の側鎖を有するアミノ酸);
アスパラギン及びグルタミン(アミドの側鎖を有するアミノ酸);並びに
システイン及びメチオニン(含硫の側鎖を有するアミノ酸)が含まれる。同一性及び類似性の度合いは、容易に計算することができる(「電算分子生物学(Computational Molecular Biology)」、Lesk,A.M.編、Oxford University Press、New York、1988年、「バイオコンピューティングインフォマティックス及びゲノムプロジェクト(Biocomputing.Informatics and Genome Projects)」、Smith,D.W.編、Academic Press、New York、1993年、「配列データのコンピュータ分析、パート1(Computer Analysis of Sequence Data,Part 1)」、Griffin,A.M.、及びGriffin,H.G.編、Humana Press、New Jersey、1994年、「分子生物学における配列分析(Sequence Analysis in Molecular Biology)」、von Heinje,G.、Academic Press、1987年、「配列分析プライマー(Sequence Analysis Primer)」、Gribskov,M.、及びDevereux,J.,編、M Stockton Press、New York、1991年、NCBIより入手可能なBLAST(商標)ソフトウエア(Altschul,S.F.ら、1990年、J.Mol.Biol.、215巻、403〜410頁;Gish,W.& States,D.J.、1993年、Nature Genet.、3巻、266〜272頁、Madden,T.L.ら、1996年、Meth.Enzymol.、266巻、131〜141頁;Altschul,S.F.ら、1997年、Nucleic Acids Res.、25巻、3389〜3402頁、Zhang,J.及びMadden,T.L.、1997年、Genome Res.、7巻、649〜656頁))。
【0030】
別の一実施形態では、本発明の抗体は軽鎖を含み、軽鎖の可変ドメインは3つのCDRを含み、CDR−L1の配列は配列番号4で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有し、CDR−L2は配列番号5で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有し、且つ/又はCDR−L3は配列番号6で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有する。別の一実施形態では、本発明の抗体は軽鎖を含み、軽鎖の可変ドメインは3つのCDRを含み、CDR−L1の配列は配列番号4で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有し、CDR−L2は配列番号5で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有し、且つ/又はCDR−L3は配列番号6で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有する。
【0031】
一実施形態では、本発明が提供する抗体はモノクローナル抗体である。
【0032】
一実施形態では、本発明が提供する抗体はキメラ抗体である。
【0033】
一実施形態では、本発明が提供する抗体は、配列番号1から6(図1(c))で提供される1つ又は複数のCDR又はその変異体を含む、CDRグラフト化抗体分子である。本明細書で用いられる「CDRグラフト化抗体分子」の語は、重鎖及び/又は軽鎖が、アクセプター抗体(例えば、ヒト抗体)の重鎖及び/又は軽鎖可変領域のフレームワーク中にグラフト化されているドナー抗体(例えば、マウスモノクローナル抗体)からの1つ又は複数のCDR(所望により1つ又は複数の修飾されているCDRを含む)を含む抗体分子を意味する。総説については、Vaughanら、Nature Biotechnology、16巻、535〜539頁、1998年を参照されたい。一実施形態ではCDR全体が移されるのではなく、本明細書上記に記載するあらゆる1つのCDRからの特異性決定残基の1つ又は複数だけが、ヒト抗体フレームワークに移される(例えば、Kashmiriら、2005年、Methods、36巻、25〜34頁を参照されたい)。一実施形態では、本明細書上記に記載される1つ又は複数のCDRからの特異性決定残基だけが、ヒト抗体フレームワークに移される。別の一実施形態では、本明細書上記に記載される各CDRからの特異性決定残基だけが、ヒト抗体フレームワークに移される。
【0034】
CDR又は特異性決定残基をグラフト化する場合、マウス、霊長類、及びヒトのフレームワーク領域を含めた、それにCDRが由来するドナー抗体のクラス/タイプを考慮して、あらゆる好適なアクセプターの可変領域のフレームワーク配列を用いることができる。好ましくは、本発明によるCDRグラフト化抗体は、ヒトアクセプターフレームワーク領域、及び上記に記載したCDR又は特異性決定残基の1つ又は複数を含む可変ドメインを有する。したがって、一実施形態では、可変ドメインがヒトアクセプターフレームワーク領域及び非ヒトドナーCDRを含む、CDRグラフト化中和抗体が提供される。
【0035】
本発明で用いることができるヒトフレームワークの例には、KOL、NEWM、REI、EU、TUR、TEI、LAY、及びPOM(Kabatら、上述)がある。例えば、KOL及びNEWMは重鎖に用いることができ、REIは軽鎖に用いることができ、EU、LAY、及びPOMは重鎖及び軽鎖の両方に用いることができる。或いは、ヒト生殖系列の配列を用いてもよく、これらはhttp://vbase.mrc−cpe.cam.ac.uk/で入手できる。
【0036】
本発明のCDRグラフト化抗体では、アクセプターの重鎖及び軽鎖は、必ずしも同じ抗体に由来する必要はなく、所望により、異なる鎖に由来するフレームワーク領域を有する複合性の鎖を含んでいてもよい。
【0037】
本発明のCDRグラフト化抗体の重鎖に好ましいフレームワーク領域は、ヒト亜群VH3配列1−U3−15とJH4に由来する。したがって、重鎖フレームワーク領域がヒト亜群配列1−U3−15とJH4に由来する少なくとも1つの非ヒトドナーCDRを含むCDRグラフト化中和抗体が提供される。ヒトJH4の配列は以下の通りである:(YFDY)WGQGTLVTVSS。YFDYモチーフは、CDR−H3の部分であり、フレームワーク4の部分ではない(Ravetch,JV.ら、1981年、Cell、27巻、583〜591頁)。
【0038】
本発明のCDRグラフト化抗体の軽鎖に好ましいフレームワーク領域は、ヒト生殖系列亜群VK1配列2−1−(1)L4とJK1に由来する。したがって、軽鎖フレームワーク領域がヒト亜群配列VK1 2−1−(1)L4とJK1に由来する少なくとも1つの非ヒトドナーCDRを含むCDRグラフト化中和抗体が提供される。JK1配列は以下の通りである:(WT)FGQGTKVEIK。WTモチーフは、CDR−L3の部分であり、フレームワーク4の部分ではない(Hieter,PA.、ら、1982年、J.Biol.Chem.、257巻、1516〜1522頁)。
【0039】
また、本発明のCDRグラフト化抗体において、フレームワーク領域は、アクセプター抗体のものと厳密に同じ配列を有する必要はない。例えば、普通ではない残基を、そのアクセプター鎖のクラス又はタイプに対してより頻繁に生じる残基に変更してもよい。或いは、アクセプターフレームワーク領域における選択された残基を、それらがドナー抗体における同じ位置に見出される残基に対応するように変更してもよい(Reichmannら、1998年、Nature、332巻、323〜324頁を参照されたい)。このような変更は、ドナー抗体の親和性を回復するのに最小の必要性に保つべきである。変更する必要があり得るアクセプターフレームワーク領域において残基を選択するためのプロトコールは、WO91/09967に述べられている。
【0040】
好ましくは、本発明のCDRグラフト化抗体分子において、アクセプターの重鎖がヒトVH3配列1−U3−15とJH4を有する場合は、重鎖のアクセプターフレームワーク領域は、1つ又は複数のドナーCDRの他に、少なくとも49位にドナー残基を含む(Kabatら(上述)による)。したがって、少なくとも重鎖の可変ドメインの49位の残基がドナー残基である、CDRグラフト化抗体が提供される。
【0041】
好ましくは、本発明によるCDRグラフト化抗体分子において、アクセプターの軽鎖がヒト亜群VK1配列2−1−(1)L4とJK1を有する場合は、ドナー残基は移されず、すなわち、CDRだけが移される。したがって、CDRだけがドナーのフレームワークに移されたCDRグラフト化抗体が提供される。
【0042】
ドナー残基は、ドナー抗体、すなわち、それにCDRがもともと由来する抗体からの残基である。
【0043】
一実施形態では、本発明の抗体は重鎖を含み、重鎖の可変ドメインは図1(b)配列番号9で示される配列を含む。
【0044】
1つ又は複数のアミノ酸の置換、付加、及び/又は欠失を、抗体がIL−17に結合し、IL−17の活性を中和する能力を大幅に変更せずに、本発明が提供する抗体の可変ドメインに対して行うことができることが理解されよう。あらゆるアミノ酸の置換、付加、及び/又は欠失は、例えば、IL−17の結合及び中和を決定するための実施例に記載されている方法を用いることによって、当業者であれば容易に試験することができる。
【0045】
別の一実施形態では、本発明の抗体は重鎖を含み、重鎖の可変ドメインは、配列番号9で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有する配列を含む。一実施形態では、本発明の抗体は重鎖を含み、重鎖の可変ドメインは、配列番号9で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有する配列を含む。
【0046】
一実施形態では、本発明の抗体は軽鎖を含み、軽鎖の可変ドメインは、図1(a)配列番号7で示される配列を含む。
【0047】
別の一実施形態では、本発明の抗体は軽鎖を含み、軽鎖の可変ドメインは、配列番号7で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有する配列を含む。一実施形態では、本発明の抗体は軽鎖を含み、軽鎖の可変ドメインは、配列番号7で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有する配列を含む。
【0048】
一実施形態では、本発明の抗体は重鎖を含み、重鎖の可変ドメインは配列番号9で示される配列を含み、また軽鎖を含み、重鎖の可変ドメインは配列番号7で示される配列を含む。
【0049】
本発明の別の一実施形態では、抗体は重鎖及び軽鎖を含み、重鎖の可変ドメインは配列番号9で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有する配列を含み、軽鎖の可変ドメインは配列番号7で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有する配列を含む。好ましくは、抗体は重鎖を含み、重鎖の可変ドメインは、配列番号9で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有する配列を含み、また軽鎖を含み、軽鎖の可変ドメインは、配列番号7で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有する配列を含む。
【0050】
本発明の抗体分子は、全長の重鎖及び軽鎖を有する完全な抗体分子又はその断片を含むことができ、それだけには限定されないが、Fab、修飾されているFab、Fab’、F(ab’)、Fv、単一ドメイン抗体、scFv、2価、3価、又は4価の抗体、Bis−scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、及び上記の任意のもののエピトープ結合性断片であってよい(例えば、Holliger and Hudson、2005年、Nature Biotech、23巻(9)、1126〜1136頁;Adair and Lawson、2005年、Drug Design Reviews−Online2(3)、209〜217頁を参照されたい)。これらの抗体断片を創作し、製造するための方法は、当技術分野ではよく知られている(例えば、Vermaら、1998年、Journal of Immunological Methods、216巻、165〜181頁を参照されたい)。本発明で用いるための他の抗体断片には、国際特許出願WO2005/003169、WO2005/003170、及びWO2005/003171に記載されているFab及びFab’断片が含まれる。多価抗体は、複数の特異性を含んでもよく、又は単一特異性でもよい(例えば、WO92/22853及びWO05/113605を参照されたい)。
【0051】
本発明の抗体分子の定常領域ドメインが存在する場合は、提唱される抗体分子の機能、特に必要とされ得るエフェクター機能を考慮して選択することができる。例えば、定常領域ドメインは、ヒトIgA、IgD、IgE、IgG、又はIgMドメインであってよい。特に、抗体分子が治療用の使用を企図しており、抗体のエフェクター機能が必要とされる場合は、特にIgG1及びIgG3のアイソタイプの、ヒトIgG定常領域ドメインを用いることができる。或いは、抗体分子が治療上の目的を企図し、抗体のエフェクター機能が必要とされない場合、例えば、IL−17活性を単に阻止するためには、IgG2及びIgG4のアイソタイプを用いることができる。これらの定常領域ドメインの配列変異体を用いることもできることが理解されよう。例えば、Angalら、Molecular Immunology、1993年、30巻(1)、105〜108頁に記載されているように、241位のセリンがプロリンに変更されているIgG4分子を用いることができる。この変更を含むIgG4定常ドメインが特に好ましい。当業者であれば、抗体が様々な翻訳後修飾を受け得ることも理解されよう。これらの修飾のタイプ及び程度は、抗体を発現するために用いられる宿主細胞系、及び培養条件に依存することが多い。このような修飾には、グリコシル化、メチオニンの酸化、ジケトピペラジンの形成、アスパラギン酸の異性化、及びアスパラギンの脱アミドにおける変異が含まれ得る。頻度の高い修飾は、カルボキシペプチダーゼの作用による、カルボキシ末端の塩基性残基(リシン又はアルギニンなど)の喪失である(Harris,RJ.、Journal of Chromatography、705巻、129〜134頁、1995年に記載されている通り)。したがって、図1(f)、配列番号15で与えられる抗体重鎖のC末端のリシンは、存在しなくてもよい。
【0052】
一実施形態では、抗体重鎖はCH1ドメインを含み、抗体軽鎖はκ又はλいずれかのCLドメインを含む。
【0053】
好ましい一実施形態では、本発明が提供する抗体は、Angalら、上述に記載されているように、重鎖定常領域が241位のセリンがプロリンによって置換されているヒトIgG4定常領域を含む、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体である。したがって、本発明は、重鎖が、図1(f)配列番号15で示される配列を含み、又はそれからなる抗体を提供する。
【0054】
1つ又は複数のアミノ酸の置換、付加、及び/又は欠失は、抗体がIL−17に結合し、IL−17活性を中和する能力を大幅に変更せずに、本発明が提供する抗体の可変及び/又は定常ドメインに対して行うことができることが理解されよう。あらゆるアミノ酸の置換、付加、及び/又は欠失は、当業者であれば、例えば、IL−17の結合及び中和を決定するための実施例に記載されている方法を用いることによって容易に試験することができる。
【0055】
本発明の一実施形態では、抗体は重鎖を含み、重鎖は、配列番号15で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有する配列を含む。好ましくは、抗体は重鎖を含み、重鎖は、配列番号15で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有する配列を含む。
【0056】
一実施形態では、本発明による抗体分子は、図1(d)、配列番号11で示される配列を含む軽鎖を含む。
【0057】
本発明の一実施形態では、抗体は軽鎖を含み、軽鎖は、配列番号11で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有する配列を含む。好ましくは、抗体は軽鎖を含み、軽鎖は、配列番号11で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有する配列を含む。
【0058】
一実施形態では、本発明は、重鎖が配列番号15で示される配列を含み、又はそれからなり、軽鎖が配列番号11で示される配列を含み、又はそれからなる抗体を提供する。
【0059】
本発明の一実施形態では、抗体は重鎖及び軽鎖を含み、重鎖は、配列番号15で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有する配列を含み、軽鎖は、配列番号11で示される配列に少なくとも60%の同一性又は類似性を有する配列を含む。好ましくは、抗体は重鎖を含み、重鎖は、配列番号15で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有する配列を含み、また、軽鎖を含み、軽鎖は、配列番号11で示される配列に少なくとも70%、80%、90%、95%、又は98%の同一性又は類似性を有する配列を含む。
【0060】
また、本発明が提供するのは、本発明が提供する抗体、特に重鎖配列gH4(配列番号9)及び/又は軽鎖配列gL2(配列番号7)を含む抗体が結合しているヒトIL−17の特異的な領域又はエピトープである。
【0061】
ヒトIL−17ポリペプチドの特異的な領域又はエピトープは、本発明が提供する抗体のいずれか1つと組み合わせて、当技術分野で知られているあらゆる適切なエピトープマッピング法によって同定することができる。このような方法の例には、抗体によって認識されるエピトープの配列を含む抗体に特異的に結合することができる最も小型の断片を有する本発明の抗体との結合に関して、IL−17に由来する様々な長さのペプチドをスクリーニングすることが含まれる。IL−17ペプチドは、合成的に生成してもよく、又はIL−17ポリペプチドのタンパク質分解性の消化によって生成してもよい。抗体に結合するペプチドは、例えば質量分析によって同定することができる。別の一例では、NMR分光法を用いて本発明の抗体が結合するエピトープを同定することができる。同定した後は、本発明の抗体に結合するエピトープの断片を、必要であれば、同じエピトープに結合するさらなる中和抗体を得るための免疫原として用いることができる。
【0062】
特に本発明による抗体の結合を交差阻害する抗体である、重鎖配列gH4(配列番号9)、及び軽鎖配列gL2(配列番号7)を含む抗体は、IL−17活性を中和するのに、同様に有用であり得る。したがって、本発明は、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体も提供し、この中和抗体はヒトIL−17に対して上記に記載した抗体のいずれか1つの結合を交差阻害し、且つ/又はこれらの抗体のいずれか1つによってIL−17との結合から交差阻害される。一実施形態では、このような抗体は、本明細書の上記に記載する抗体と同じエピトープに結合する。別の一実施形態では、交差阻害性中和抗体は、本明細書の上記に記載する抗体が結合するエピトープと隣接及び/又は重複するエピトープに結合する。別の一実施形態では、本発明のこの態様の交差阻害性中和抗体は、本発明の抗体と同じエピトープ、或いは前記エピトープと隣接及び/又は重複するエピトープに結合しない。
【0063】
交差阻害性抗体は、当技術分野におけるあらゆる適切な方法を用いて、例えば、交差阻害性抗体のヒトIL−17との結合が本発明の抗体の結合を妨げる場合、又はその逆の場合に、競合ELISA又はBIAcoreを用いることによって同定することができる。
【0064】
一実施形態では、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体が提供され、この中和抗体は、その重鎖が配列gH4(配列番号9)を含み、その軽鎖が配列gL2(配列番号7)を含む抗体の、ヒトIL−17との結合を交差阻害する。一実施形態では、本発明が提供する交差阻害性抗体は、重鎖配列gH4(配列番号9)及び軽鎖配列gL2(配列番号7)を含む抗体の結合を、80%を超えて、好ましくは85%を超えて、より好ましくは90%を超えて、さらにより好ましくは95%を超えて阻害する。
【0065】
或いは、又は更に、本発明のこの態様による中和抗体は、重鎖配列gH4(配列番号9)及び軽鎖配列gL2(配列番号7)を含む抗体によって、ヒトIL−17との結合から交差阻害され得る。したがって、重鎖配列gH4(配列番号9)及び軽鎖配列gL2(配列番号7)を含む抗体によって、ヒトIL−17との結合から交差阻害されるヒトIL−17に特異性を有する中和抗体分子も提供される。一実施形態では、本発明のこの態様によって提供される中和抗体は、重鎖配列gH4(配列番号9)及び軽鎖配列gL2(配列番号7)を含む抗体によってヒトIL−17との結合から、80%を超えて、好ましくは85%を超えて、より好ましくは90%を超えて、さらにより好ましくは95%を超えて阻害される。
【0066】
一実施形態では、本発明が提供する交差阻害性抗体は完全ヒト抗体である。一実施形態では、本発明が提供する交差阻害性抗体はヒト化抗体である。一実施形態では、本発明が提供する交差阻害性抗体は、ヒトIL−17に100pM又はそれを超える親和性を有する。
【0067】
本発明の抗体分子は、好ましくはピコモルの、高い結合親和性を有することが好ましい。親和性は、天然又は組換えのIL−17を用いた本明細書の実施例に記載するようなBIAcoreを含めた、当技術分野で知られているあらゆる適切な方法を用いて測定することができる。好ましくは、親和性を、本明細書実施例に記載するように、組換えヒトIL−17を用いて測定する。好ましくは、本発明の抗体分子は、約200pM又はそれより良好な結合親和性を有する。一実施形態では、本発明の抗体分子は、約100pM又はそれより良好な結合親和性を有する。一実施形態では、本発明の抗体分子は、約50pM又はそれより良好な結合親和性を有する。一実施形態では、本発明の抗体分子は、約20pM又はそれより良好な結合親和性を有する。一実施形態では、本発明の抗体分子は、約10pM又はそれより良好な結合親和性を有する。一実施形態では、本発明の抗体分子は完全ヒト抗体又はヒト化抗体であり、約100pM又はそれより良好な結合親和性を有する。本発明が提供する抗体の親和性を、当技術分野で知られているあらゆる適切な方法を用いて変更することができることを理解されよう。したがって、本発明は、IL−17に対する親和性の改善された本発明の抗体分子の変異体にも関する。このような変異体は、CDRの変異導入(Yangら、J.Mol.Biol.、254巻、392〜403頁、1995年)、チェーンシャッフリング(chain shuffling)(Marksら、Bio/Technology、10巻、779〜783頁、1992年)、大腸菌(E.coli)のミューテーター(mutator)株の使用(Lowら、J.Mol.Biol.、250巻、359〜368頁、1996年)、DNAシャッフリング(Pattenら、Curr.Opin.Biotechnol.、8巻、724〜733頁、1997年)、ファージディスプレイ(Thompsonら、J.Mol.Biol.、256巻、77〜88頁、1996年)、及びセクシャル(sexual)PCR(Crameriら、Nature、391巻、288〜291頁、1998年)を含めた数々の親和性成熟のプロトコールによって得ることができる。Vaughanら(上述)は、親和性成熟のこれらの方法を論じている。
【0068】
一実施形態では、本発明の抗体分子は、例えば、実施例に記載するin vitroのアッセイにおいてIL−17活性を中和する。一実施形態では、本発明は、2nM未満の濃度で0.8nMヒトIL−17の活性を50%阻害することができ、阻害活性が、IL−17が誘導するHela細胞からのIL−6の放出に対して測定される、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体を提供する。一実施形態では、IL−17を50%阻害する抗体の濃度は1nM未満である。一実施形態では、0.5nM未満である。一実施形態では、アッセイで用いるヒトIL−17は、天然ヒトIL−17である。一実施形態では、アッセイで用いるヒトIL−17は、組換えヒトIL−17である。一実施形態では、中和抗体は、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体である。
【0069】
所望により、本発明で用いるための抗体は、1つ又は複数のエフェクター分子にコンジュゲートしていてもよい。エフェクター分子が、単一のエフェクター分子、又は2つ若しくはそれを超える、本発明の抗体に付着することができる単一の部分を形成するように連結しているそのような分子を含み得ることが理解されよう。エフェクター分子に連結している抗体の断片を得るのが望まれる場合は、これを抗体断片が直接又はカップリング剤のいずれかによってエフェクター分子に連結している、標準の化学的な、又は組換えDNA手順により調製することができる。このようなエフェクター分子を抗体にコンジュゲートするための技術は、当技術分野ではよく知られている(Hellstromら、「薬物送達の制御(Controlled Drug Delivery)」、第2版、Robinsonら編、1987年、623〜53頁;Thorpeら、1982年、lmmunol.Rev.、62巻、119〜58頁;及びDubowchikら、1999年、Pharmacology and Therapeutics、83巻、67〜123頁を参照されたい)。特定の化学的手順には、例えば、WO93/06231、WO92/22583、WO89/00195、WO89/01476、及びWO03031581に記載されているものが含まれる。或いは、エフェクター分子がタンパク質又はポリペプチドの場合は、例えば、WO86/01533及びEP0392745に記載されているように組換えDNAの手順を用いて、連結を達成することができる。
【0070】
本明細書に用いられるエフェクター分子の語には、例えば、抗悪性腫瘍薬、薬物、毒素、生物学的に活性なタンパク質、例えば酵素、他の抗体又は抗体断片、合成又は天然に存在するポリマー、核酸並びにその断片、例えばDNA、RNA、及びそれらの断片、放射性核種、特に放射性ヨウ素、放射性同位元素、キレート化金属、ナノ粒子、並びにレポーターグループ、例えば、蛍光化合物、又はNMR若しくはESR分光法によって検出することができる化合物が含まれる。
【0071】
エフェクター分子の例には、細胞に有害な(例えば、死滅させる)あらゆる物質を含めた、細胞毒、又は細胞毒性物質が含まれ得る。例として、コンブレスタチン、ドラスタチン、エポチロン、スタウロスポリン、メイタンシノイド、スポンジスタチン、リゾキシン、ハリコンドリン、ロリジン(roridin)、ヘミアスターリン(hemiasterlin)、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、エチジウムブロマイド、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、及びピューロマイシン、並びにこれらの類似体又は相同体が含まれる。
【0072】
エフェクター分子には、また、それだけには限定されないが、代謝拮抗薬(例えば、メトトレキセート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−フルオロウラシルデカルバジン)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオテパクロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、及びロムスチン(CCNU)、シクロフォスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、及びcis−ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前のダウノマイシン)及びドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前のアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、アンスラマイシン(AMC)、カリケアマイシン、又はデュオカルマイシン)並びに有糸分裂阻害剤(例えば、ビンクリスチン、及びビンブラスチン)が含まれる。
【0073】
他のエフェクター分子には、キレート化放射性核種、例えば、111In及び90Y、Lu177、ビスマス213、カリフォニウム252、イリジウム192、及びタングステン188/レニウム188;又は、それだけには限定されないが、アルキルホスホコリン、トポイソメラーゼI阻害薬、タキソイド、及びスラミンなどの薬物が含まれ得る。
【0074】
他のエフェクター分子には、タンパク質、ペプチド、及び酵素が含まれる。対象の酵素には、それだけには限定されないが、タンパク質分解酵素、加水分解酵素、リアーゼ、イソメラーゼ、トランスフェラーゼが含まれる。対象のタンパク質、ポリペプチド、及びペプチドには、それだけには限定されないが、免疫グロブリン、アブリンなどの毒素、リシンA、シュードモナスの外毒素、又はジフテリア毒素、インスリンなどのタンパク質、腫瘍壊死因子、α−インターフェロン、β−インターフェロン、神経成長因子、血小板由来成長因子又は組織プラスミノーゲンアクチベーター、血栓剤又は血管新生阻害剤、例えばアンジオスタチン若しくはエンドスタチン、又は生物学的応答調節物質、例えば、リンホカイン、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、神経成長因子(NGF)、又は他の成長因子及び免疫グロブリンが含まれる。
【0075】
他のエフェクター分子には、例えば診断において有用な検出可能な物質が含まれ得る。検出可能な物質の例には、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、放射性核種、(ポジトロン放出断層撮影で使用するための)ポジトロン放出性金属、及び非放射性の常磁性の金属イオンが含まれる。診断として使用するための抗体とコンジュゲートすることができる金属イオンについては、一般に、米国特許第4741900号を参照されたい。適切な酵素には、西洋ワサビのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼが含まれ、適切な補欠分子族には、ストレプトアビジン、アビジン、及びビオチンが含まれ、適切な蛍光物質には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロライド、及びフィコエリスリンが含まれ、適切な発光物質には、ルミノールが含まれ、適切な生物発光物質には、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンが含まれ、適切な放射性核種には125I、131I、111In、及び99Tcが含まれる。
【0076】
別の一例では、エフェクター分子は、in vivoで抗体の半減期を増大することができ、且つ/又は抗体の免疫原性を低減することができ、且つ/又は上皮のバリアを横切った抗体の免疫系への送達を増強することができる。このタイプの適切なエフェクター分子の例には、ポリマー、アルブミン、アルブミン結合性タンパク質、又はアルブミン結合性化合物、例えば、WO05/117984に記載されているものなどが含まれる。
【0077】
エフェクター分子がポリマーである場合は、これは一般的に合成であってもよく、又は天然に存在するポリマー、例えば、場合により置換されている直鎖又は分枝鎖のポリアルキレン、ポリアルケニレン、又はポリオキシアルキレンポリマー、或いは分枝又は非分枝の多糖、例えば、ホモ−又はヘテロ−多糖であってよい。
【0078】
上記に記載した合成ポリマー上に存在することができる特定の任意選択の置換基には、1つ又は複数のヒドロキシ、メチル、又はメトキシ基が含まれる。
【0079】
合成ポリマーの詳しい例には、場合により置換されている直鎖又は分枝鎖のポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、又はこれらの誘導体、特に場合により置換されているポリ(エチレングリコール)、例えばメトキシポリ(エチレングリコール)又はその誘導体が含まれる。
【0080】
天然に存在する詳しいポリマーには、ラクトース、アミロース、デキストラン、グリコーゲン、又はそれらの誘導体が含まれる。
【0081】
本明細書で用いられる「誘導体」には、反応性の誘導体、例えば、チオール選択性の反応性基、例えば、マレイミドなどが含まれることが企図される。反応性基は、直接、又はリンカーセグメントによってポリマーに連結していてよい。このような基の残基は、ある場合には、抗体断片とポリマーとの間の連結基として生成物の部分を形成することが理解されよう。
【0082】
ポリマーサイズは所望により変化してよいが、一般的には、500Daから50000Daまでの、好ましくは5000から40000Daの、より好ましくは20000から40000Daの範囲の平均分子量にある。特にポリマーサイズは、腫瘍などのある組織に局在する能力、又は意図された循環半減期など、生成物の意図された使用をもとに選択することができる(総説については、Chapman、2002年、Advanced Drug Delivery Reviews、54巻、531〜545頁を参照されたい)。したがって、例えば生成物が循環を離れ、組織に浸透することが企図される場合、例えば腫瘍の治療に使用するためには、低分子量のポリマー、例えば約5000Daの分子量のポリマーを使用すると有利であり得る。生成物が循環に留まる適用に対しては、例えば、20000Daから40000Daまでの範囲の分子量を有する、より高分子量のポリマーを用いるのが有利であり得る。
【0083】
特に好ましいポリマーには、ポリアルキレンポリマー、例えば、ポリ(エチレングリコール)、又は、特に、メトキシポリ(エチレングリコール)若しくはその誘導体、特に分子量が約15000Daから約40000Daまでの範囲であるものが含まれる。
【0084】
一例では、本発明で用いるための抗体は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に付着している。詳しい一例では、抗体は抗体断片であり、PEG分子が、抗体断片において位置するあらゆる利用可能なアミノ酸側鎖又は末端アミノ酸官能基、例えば、あらゆる遊離のアミノ、イミノ、チオール、ヒドロキシル、又はカルボキシル基によって付着していてよい。このようなアミノ酸は抗体断片中に天然に存在していてもよく、又は組換えDNA法を用いて断片中に操作して入れてもよい(例えば、US5219996、US5667425、WO98/25971を参照されたい)。一例では、本発明の抗体分子は修飾されているFab断片であり、修飾は、エフェクター分子の付着を可能にするための、その重鎖の1つ又は複数のアミノ酸のC末端終端への付加である。好ましくは、付加のアミノ酸は、それに対してエフェクター分子が付着していてよい、1つ又は複数のシステイン残基を含む修飾されているヒンジ領域を形成する。2つ又はそれを超えるPEG分子を付着するのに、複数の部位を用いることができる。
【0085】
PEG分子が、抗体断片において位置する少なくとも1つのシステイン残基のチオール基によって共有結合していることが好ましい。修飾されている抗体断片に付着している各ポリマー分子は、断片に位置するシステイン残基のイオウ原子に共有結合していてよい。共有結合は、一般的にはジスルフィド結合、又は特に、イオウ−炭素結合である。チオール基を、好適に活性化されているエフェクター分子の付着点として用いる場合、例えば、チオール選択性の誘導体、例えば、マレイミド及びシステイン誘導体を用いることができる。上記に記載したポリマー修飾されている抗体断片の調製における開始物質として、活性化されたポリマーを用いることができる。活性化されたポリマーは、チオール反応性基、例えば、α−ハロカルボキシル酸又はエステル(例えば、ヨードアセトアミド)、イミド(例えば、マレイミド)、ビニルスルホン、又はジスルフィドを含むあらゆるポリマーであってよい。このような開始物質は、市場で入手することができ(例えば、Nektar、以前のShearwater Polymers Inc.、Huntsville、AL、USAから)、又は市販の開始物質から従来の化学的手順を用いて調製することができる。特定のPEG分子には、20Kメトキシ−PEG−アミン(Nektar、以前のShearwater;Rapp Polymere及びSunBioから入手可能)、並びにM−PEG−SPA(Nektar、以前のShearwaterから入手可能)が含まれる。
【0086】
一実施形態では、抗体は修飾されているFab断片、又はPEG化されているdiFab、即ち、例えばEP0948544又はEP1090037に開示されている方法にしたがって、それに共有結合しているPEG(ポリ(エチレングリコール))を有する。[「ポリ(エチレングリコール)の化学、生物工学及び生物学的応用(Poly(ethyleneglycol)Chemistry,Biotechnical and Biomedical Applications)」、1992年、J.Milton Harris(編)Plenum Press、NewYork、「ポリ(エチレングリコール)の化学及び生物学的応用(Poly(ethyleneglycol)Chemistry and Biological Applications)」、1997年、J.Milton Harris and S.Zalipsky(編)、American Chemical Society、Washington DC、並びに「生物医科学のためのバイオコンジュゲーションタンパク質カップリング技術(Bioconjugation Protein Coupling Techniques for the Biomedical Sciences)」、1998年、M.Aslam及びA.Dent,Grove Publishers、NewYork;Chapman,A.、2002年、Advanced Drug Delivery Reviews、2002年、54巻、531〜545頁も参照されたい]。一例では、PEGは、ヒンジ領域でシステインに付着している。一例では、PEGが修飾しているFab断片は、修飾されているヒンジ領域で単一のチオール基に共有結合しているマレイミド基を有している。リシン残基は、マレイミド基に共有結合することができ、分子量約20000Daを有するメトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーは、リシン残基の各アミン基に付着することができる。Fab断片に付着しているPEGの全体の分子量は、したがって、約40000Daであってよい。
【0087】
一実施形態では、本発明は、ヒトIL−17に特異性を有する中和抗体分子を提供し、これは、配列番号9で示される配列を含む重鎖、及び配列番号7で示される配列を含む軽鎖を有し、その重鎖のC末端終端に、エフェクター分子が付着する少なくとも1つのシステイン残基を含む修飾されているヒンジ領域を有する、修飾されているFab断片である。好ましくは、エフェクター分子はPEGであり、(WO98/25971及びWO2004072116)に記載されている方法を用いて付着しており、その方法によって重鎖のC末端終端でリシル−マレイミド基がシステイン残基に付着しており、リシル残基の各アミノ基が、分子量約20000Daを有するメトキシポリ(エチレングリコール)残基に共有結合している。抗体に付着しているPEGの総分子量は、したがって、約40000Daである。
【0088】
別の一例では、エフェクター分子は、国際特許出願WO2005/003169、WO2005/003170、及びWO2005/003171に記載されている方法を用いて抗体断片に付着していてよい。
【0089】
本発明は、本発明の抗体分子の(複数の)重鎖及び/又は軽鎖をコードする単離されたDNA配列も提供する。DNA配列が、本発明の抗体分子の重鎖又は軽鎖をコードすることが好ましい。本発明のDNA配列は、例えば、化学的プロセシング、cDNA、ゲノムDNA、又はこれらのあらゆる組合せによって生成される、合成のDNAを含むことができる。
【0090】
本発明の抗体分子をコードするDNA配列は、当業者によく知られている方法によって得ることができる。例えば、抗体の重鎖及び軽鎖の部分又は全部をコードするDNA配列を、決定されたDNA配列から、又は対応するアミノ酸配列をもとに所望により合成することができる。
【0091】
アクセプターフレームワーク配列をコードするDNAは、当業者には広く入手可能であり、これらの知られているアミノ酸配列をもとに容易に合成することができる。
【0092】
分子生物学の標準の技術を用いて、本発明の抗体分子をコードするDNA配列を調製することができる。望ましいDNA配列を、オリゴヌクレオチドの合成技術を用いて、完全に又は部分的に合成することができる。部位特異的突然変異誘発、及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を、適宜用いることができる。
【0093】
適切な配列の例を、図1(h)配列番号8、図1(i)配列番号10、図1(j)配列番号13、図1(k)配列番号14、図1(l)配列番号17、及び図1(m)配列番号18に提供する。配列番号18におけるヌクレオチド1〜57、及び配列番号14における1〜60は、マウス抗体B72.3からのシグナルペプチド配列をコードしており(Whittleら、1987年、Protein Eng.、1巻(6)、499〜505頁)、これを切断して本発明の中和抗体分子を得る(シグナルペプチドはそれぞれ図1(g)配列番号16におけるアミノ酸残基1〜19、及び図1(e)配列番号12における1〜20に対応する)。本発明は、配列番号17又は配列番号18を含む本発明の抗体の重鎖をコードする単離されたDNA配列も提供する。本発明は、配列番号13又は配列番号14を含む本発明の抗体の軽鎖をコードする単離されたDNA配列も提供する。
【0094】
本発明は、本発明のDNA配列を1つ又は複数含むクローニングベクター又は発現ベクターにも関する。したがって、本発明の抗体をコードする1つ又は複数のDNA配列を含むクローニングベクター又は発現ベクターが提供される。クローニングベクター又は発現ベクターが、それぞれ本発明の抗体分子の軽鎖及び重鎖をコードする2つのDNA配列を含むことが好ましい。本発明によるベクターが、配列番号14及び配列番号18で示される配列を含むことが好ましい。配列番号18におけるヌクレオチド1〜57、及び配列番号14における1〜60は、マウス抗体B72.3からのシグナルペプチド配列をコードしており(それぞれ、配列番号16における残基1〜19、及び配列番号12における1〜20)、これを切断して本発明の中和抗体分子を得るのが最も好ましい。
【0095】
それによってベクターを構築することができる一般的な方法である、トランスフェクション法及び培養法は、当業者によく知られている。これに関しては、「分子生物学の最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、1999年、F.M.Ausubel(編)、Wiley Interscience、New York、及びCold Spring Harbor Publishing製作の「マニアティスマニュアル(the Maniatis Manual)」を参照されたい。
【0096】
本発明の抗体をコードするDNA配列を1つ又は複数含む、クローニングベクター又は発現ベクターを1つ又は複数含む宿主細胞も提供される。本発明の抗体分子をコードするDNA配列を発現するために、あらゆる適切な宿主細胞/ベクター系を用いることができる。大腸菌などの細菌の、及び他の微生物系を用いることができ、又は哺乳動物などの真核細胞の宿主細胞の発現系も用いることができる。適切な哺乳動物の宿主細胞には、CHO、ミエローマ、又はハイブリドーマの細胞が含まれる。
【0097】
本発明は、本発明による抗体分子を生成するための方法であって、本発明の抗体分子をコードするDNAからタンパク質の発現を導くのに適する条件下で本発明のベクターを含む宿主細胞を培養するステップと、抗体分子を単離するステップとを含む方法も提供する。
【0098】
抗体分子は、重鎖又は軽鎖のポリペプチドだけを含むことができ、その場合、重鎖又は軽鎖のポリペプチドをコードする配列だけを、宿主細胞にトランスフェクトするのに用いる必要がある。重鎖及び軽鎖両方を含む生成物を生成するためには、第1のベクターが軽鎖ポリペプチドをコードし、第2のベクターが重鎖ポリペプチドをコードする、2つのベクターを細胞系にトランスフェクトすることができる。或いは、単一のベクターを用いることができ、ベクターは軽鎖及び重鎖のポリペプチドをコードする配列を含む。
【0099】
本発明の抗体は病理学的状態の治療及び/又は予防に有用であるので、本発明は、1つ又は複数の薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、又は担体と組み合わせた、本発明の抗体分子を含む薬剤組成物又は診断用組成物も提供する。したがって、薬物を製造するための本発明の抗体の使用が提供される。組成物は、通常薬学的に許容できる担体を含む、滅菌の薬剤組成物の部分として提供されるのが普通である。本発明の薬剤組成物は、薬学的に許容できる補助剤をさらに含むことができる。
【0100】
本発明は、薬剤組成物又は診断用組成物を調製するための方法であって、本発明の抗体分子を、1つ又は複数の薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、又は担体と一緒に加え、混合するステップを含む方法も提供する。
【0101】
抗体分子は、薬剤組成物又は診断用組成物における唯一の有効成分であってもよく、或いは、抗−TNF、抗−IL−1β、抗−T細胞、抗−IFNγ、若しくは抗−LPS抗体などの他の抗体成分、又はキサンチンなどの非抗体成分を含めた他の有効成分を伴ってもよい。他の適切な有効成分には、耐性を誘発することができる抗体、例えば、抗−CD3、又は抗−CD4抗体が含まれる。
【0102】
薬剤組成物は、治療有効量の本発明の抗体を含むことが好ましい。本明細書で用いられる「治療有効量」の語は、標的とする疾患又は状態を治療し、回復させ、若しくは防止するのに、又は検出可能な治療の若しくは防止の効果を表すのに必要とされる治療用物質の量を意味する。あらゆる抗体に対して、治療有効量は、細胞培養アッセイ、又は、通常齧歯類、ウサギ、イヌ、ブタ、若しくは霊長類における動物モデルにおけるいずれかで、最初に概算することができる。動物モデルを用いて、好適な濃度範囲、及び投与経路を決定することもできる。次いで、このような情報を用いて、ヒトにおいて投与するのに有用な投与量及び経路を決定することができる。
【0103】
ヒト対象に対する正確な治療有効量は、疾患状態の重症度、対象の全体的な健康状態、対象の年齢、体重、及び性別、食事、投与時間及び頻度、薬物の組合せ、反応の感度、並びに治療に対する耐容性/反応に依存する。この量は、ルーチンの実験によって決定することができ、医師の判断の範囲内である。一般的には、治療有効量は、0.01mg/kgから50mg/kgまで、好ましくは0.1mg/kgから20mg/kgまでである。薬剤組成物は、1投与量当たり本発明の有効物質の予め決定された量を含む単位投与量形態で提示すると便利であり得る。
【0104】
組成物を、患者に個々に投与してもよく、又は他の物質、薬物、若しくはホルモンと組み合わせて(例えば、同時に、逐次に、若しくは別々に)投与してもよい。
【0105】
本発明の抗体分子を投与する投与量は、治療すべき状態の性質、存在する炎症の程度、及び、抗体分子を予防的に用いるのか、又は現存する状態を治療するために用いるのかに依存する。
【0106】
投与の頻度は、抗体分子の半減期、及びその効果の持続に依存する。抗体分子の半減期が短い場合は(例えば、2から10時間)、1日当たり1回又は複数回投与する必要があり得る。或いは、抗体分子の半減期が長い場合は(例えば、2から15日)、1日当たり1回のみ、1週間当たり1回、又は1若しくは2ヶ月毎に1回投与することが単に必要となり得る。
【0107】
薬学的に許容できる担体は、それ自体、組成物を投与する個体に有害な抗体の生成を誘発してはならず、毒性であってはならない。適切な担体は、大型で、ゆっくり代謝される巨大分子、例えば、タンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アミノ酸共重合体、及び非活性のウイルス粒子であってよい。
【0108】
鉱酸の塩(例えば、塩酸塩、臭化水素塩、リン酸塩、及び硫酸塩)、又は有機酸の塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、及び安息香酸塩)などの薬学的に許容できる塩を用いることができる。
【0109】
治療用組成物における薬学的に許容できる担体は、水、食塩水、グリセロール、及びエタノールなどの液体をさらに含むことができる。また、補助的な物質、例えば、湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝物質が、このような組成物に存在してもよい。このような担体により、薬剤組成物は、患者が経口摂取するための、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー及び懸濁剤として調合できるようになる。
【0110】
投与に好ましい形態には、注射剤又は注入剤など(例えば、ボーラス注射又は連続注入による)の非経口投与に適する形態が含まれる。生成物が注射剤又は注入剤用である場合は、油性若しくは水性のビヒクルにおける、懸濁液、溶液、又は乳濁液の形態をとることができ、懸濁化剤、保存剤、安定化剤、及び/又は分散剤などの製剤用物質を含むことができる。或いは、抗体分子は、使用前に好適な滅菌の液体で再構成するための乾燥形態であってもよい。
【0111】
調合した後、本発明の組成物を対象に直接投与することができる。治療すべき対象は動物であってもよい。しかし、組成物がヒト対象に投与するのに適合されていることが好ましい。
【0112】
本発明の薬剤組成物を、それだけには限定されないが、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、くも膜下腔内、脳室内、経皮(transdermal)、経皮(transcutaneous)(例えば、WO98/20734を参照されたい)、皮下、腹腔内、経鼻、腸内、局所、舌下、膣内、又は直腸の経路を含めたあらゆる数々の経路によって投与することができる。また、皮下噴射機を用いて、本発明の薬剤組成物を投与してもよい。典型的には、治療用組成物を、液体の溶液又は懸濁液のいずれかとして、注入可能として調製してもよい。注射前に液体ビヒクルにおける溶液又は懸濁液に適する固体の形態も調製することができる。
【0113】
組成物の直接的な送達を、一般的には、皮下の、腹腔内の、静脈内の、若しくは筋肉内の注射によって実現し、又は組織の間質空間に送達する。組成物を病変内に投与することもできる。投与治療は、単一投与量のスケジュールであってもよく、又は複数投与量のスケジュールであってもよい。
【0114】
組成物における有効成分は、抗体分子であることが理解されよう。抗体分子はそれ自体、胃腸管において分解を受けやすい。したがって、組成物を、胃腸管を用いた経路によって投与しようとする場合は、組成物は、抗体を分解から保護するが、胃腸管から吸収された後は抗体を放出する物質を含む必要がある。
【0115】
薬学的に許容できる担体の徹底した論考は、「レミントンの薬剤科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」(Mack Publishing Company、N.J.、1991年)で入手可能である。
【0116】
本発明の抗体を、遺伝子治療の使用によって投与することも想定される。これを実現するためには、好適なDNAの構成成分の制御下で抗体分子の重鎖及び軽鎖をコードするDNA配列を、DNA配列から抗体鎖が発現され、in situで構築されるように患者に導入する。
【0117】
本発明は、炎症性疾患の制御で使用するための抗体分子も提供する。抗体分子を用いて炎症過程を低減し、又は炎症過程を防止することができることが好ましい。
【0118】
本発明は、IL−17によって媒介され、又はIL−17のレベルの増大に関連する病理学的疾患の治療又は予防で使用するための本発明の抗体分子も提供する。好ましくは、病理学的状態は、炎症(ウイルス性、細菌性、真菌性、及び寄生虫性)、炎症に付随する内毒素ショック、関節炎、関節リウマチ、喘息、骨盤内炎症性疾患、アルツハイマー病、クローン病、ペーロニー病、セリアック病、胆嚢疾患、毛巣嚢病、腹膜病、乾癬、血管炎、外科手術後癒着、脳卒中、I型糖尿病、ライム関節炎、髄膜脳炎、中枢神経系及び末梢神経系の免疫が媒介する炎症性障害(例えば、多発性硬化症、及びギランバレー症候群)、他の自己免疫障害、膵炎、外傷(外科手術)、移植片対宿主病、移植片拒絶、癌(メラノーマ、肝芽腫、肉腫、扁平上皮癌、移行上皮癌、卵巣癌などの固形腫瘍、及び血液学的悪性腫瘍の両方、特に、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、胃癌、及び直腸癌)、心筋梗塞などの虚血性疾患及びアテローム性動脈硬化症を含む心臓疾患、血管内凝固、骨吸収、骨粗しょう症、骨関節炎、歯周病、並びに低塩酸症からなる群から選択される。
【0119】
本発明は、疼痛の治療又は予防で使用するための本発明による抗体分子も提供する。
【0120】
本発明は、IL−17によって媒介され、又はIL−17のレベルの増大に関連する病理学的障害の治療又は予防のための薬剤の製造における、本発明による抗体分子の使用をさらに提供する。病理学的障害が、関節リウマチ又は多発性硬化症であることが好ましい。
【0121】
本発明は、疼痛の治療又は予防のための薬剤の製造における、本発明による抗体分子の使用をさらに提供する。
【0122】
本発明の抗体分子を、ヒト又は動物の身体においてIL−17の効果を低減するのが望ましい場合に、あらゆる治療において利用することができる。IL−17は、体内を循環していてもよく、又は身体における特定の部位、例えば、炎症の部位に望ましくなく高レベルで局在して存在していてもよい。
【0123】
本発明の抗体分子を、炎症性疾患の制御に使用することが好ましい。
【0124】
本発明は、IL−17によって媒介される障害に罹患しており、又はその危険性のある、ヒト又は動物の対象を治療する方法であって、対象に、本発明の抗体分子を有効量投与するステップを含む方法も提供する。
【0125】
本発明の抗体分子を、診断、例えば、IL−17に関与する疾患状態のin vivoの診断及び画像化に用いてもよい。
【0126】
本発明を、以下の実施例において、例示のみの目的によってさらに記載し、実施例は添付の図に言及するものである。
【図面の簡単な説明】
【0127】
図1-1】a)抗体CA048_497.g2(277gL2gH4)の軽鎖V領域(配列番号7)b)抗体CA048_497.g2(277gL2gH4)の重鎖V領域(配列番号9)c)抗体CA048_497.g2(277gL2gH4)のCDR−H1(配列番号1)、CDR−H2(配列番号2)、CDR−H3(配列番号3)、CDR−L1(配列番号4)、CDR−L2(配列番号5)、CDR−L3(配列番号6)d)抗体CA048_497.g2の軽鎖(配列番号11)e)シグナル配列(下線付)を含む抗体CA048_497.g2の軽鎖(配列番号12)
図1-2】f)抗体CA048_497.g2の重鎖(配列番号15)g)シグナル配列(下線付)を含む抗体CA048_497.g2の重鎖(配列番号16)h)抗体CA048_497.g2の軽鎖可変領域をコードするDNA(配列番号8)
図1-3】i)抗体CA048_497.g2の重鎖可変領域をコードするDNA(配列番号10)j)抗体CA048_497.g2の軽鎖をコードするDNA(配列番号13)k)シグナル配列を含む抗体CA048_497.g2の軽鎖をコードするDNA(配列番号14)
図1-4】l)抗体CA048_497.g2の重鎖をコードするDNA(配列番号17)
図1-5】m)シグナル配列を含む抗体CA048_497.g2の重鎖をコードするDNA(配列番号18)を示す図である。
図2】組換えヒトIL−17で刺激したHela細胞における、抗体CA048_497.g2によるIL−6生成の阻害を示す図である。
図3】天然ヒトIL−17で刺激したHela細胞における、抗体CA048_497.g2によるIL−6生成の阻害を示す図である。
【0128】
DNA操作及び一般的方法
形質転換及びルーチンの培養増殖用に、大腸菌(E.coli)株INVαF’(Invitrogen)を用いた。DNA制限酵素及び修飾酵素は、Roche Diagnostics Ltd.、及びNew England Biolabsから入手した。プラスミドの調製は、Maxi Plasmid精製キット(QIAGEN、カタログ番号12165)を用いて行った。DNAシークエンシング反応を、ABI Prism Big Dyeターミネーターシークエンシングキット(カタログ番号4304149)を用いて行い、ABI3100自動化シークエンサー(Applied Biosystems)上で泳動した。データは、プログラムAuto Assembler(Applied Biosystems)を用いて分析した。オリゴヌクレオチドはInvitrogenから入手した。最初のV領域の配列をコードする遺伝子をデザインし、Entelechon GmbHによる自動化合成のアプローチによって構築し、オリゴヌクレオチド定方向突然変異誘発によってグラフト化型を産生するように修飾した。IgGの濃度を、IgGアセンブリ(IgG assembly)ELISAを用いて決定した。
【実施例】
【0129】
(実施例1)
中和抗−IL−17抗体(抗体CA048_497.g2(277gL2gH4))の生成
Sprague Dawlyメスラットを、組換えヒトIL−17で免疫感作した(R&Dsystemsより購入)。ラットに、Freundアジュバント100μl中20μgのIL−17で4回免疫感作した。ヒトIL−17に結合する抗体277を、WO04/051268に記載した方法を用いて単離した。抗体277の重鎖可変ドメイン(VH)、及び軽鎖可変ドメイン(VL)に対する遺伝子を単離し、配列決定し、その後、逆転写PCRによりクローニングした。
【0130】
ヒトV領域アクセプターフレームワークを用い、フレームワーク領域におけるドナー残基の数を変化させることによって、一連のヒト化VL及びVH領域をデザインした。2つのグラフト化VL領域(gL1及び2)並びに7つのグラフト化VH領域(gH1〜7)をデザインし、遺伝子をオリゴヌクレオチドアセンブリ及びPCR突然変異誘発によって構築した。軽鎖のグラフト化配列を、ヒトC−κ定常領域をコードするDNAを含むヒト軽鎖発現ベクターpKH10.1中にサブクローニングした(Km3アロタイプ)。重鎖のグラフト化配列を、ヒンジ安定化突然変異S241Pを含むヒトγ−4定常領域をコードするDNAを含むヒトγ−4発現ベクターpVhg4P FL中にサブクローニングした(Angalら、上述)。プラスミドをCHO中に同時トランスフェクションし、生成した抗体を、IL−17結合における活性、及び中和アッセイに対してスクリーニングした(例えば、Yaoら、J.Immunol.、1995年、155巻、5483〜5486頁に記載されている方法に基づく、3T3−NIH細胞系におけるIL−17が誘発するIL−6の生成)。Lipofectamine(商標)2000の手順を用いて製造業者の説明書にしたがってCHO細胞のトランスフェクションを行った(InVitrogen、カタログ番号11668)。
【0131】
IL−17の中和に最も強力であり、CHO細胞における最高の発現レベルを有するグラフト(gL2gH4)を選択した。V領域の配列を、軽鎖(gL2)及び重鎖(gH4)に関して、それぞれ図1(a)及び(b)、並びに配列番号7及び9に示す。この抗体をCA028_497.g2と命名した。この抗体のCDRを図1(c)に示す。全長の軽鎖及び重鎖を、それぞれ図1(d)及び(f)に示す。軽鎖及び重鎖をコードするDNA配列を、それぞれ図1(k)及び(m)に示す。
【0132】
重鎖アクセプターフレームワークは、ヒト生殖系列配列VH3 1−U3−15であり、フレームワーク4はヒトJH領域生殖系列JH4のこの部分に由来する。軽鎖アクセプターフレームワークは、ヒト生殖系列配列VK1 2−1−(1)L4であり、フレームワーク4はヒトJK領域生殖系列JK1のこの部分に由来する。配列番号9の重鎖における49位のアミノ酸は、良好なCHO細胞の発現及びIL−17に対する親和性に不可欠であることが見出されたドナー残基である。
【0133】
(実施例2)
CA028 497.g2のIL−17に対する親和性の評価
BIAcore技術は、生体分子間の結合をリアルタイムで、標識を必要とせずにモニターする。反応体の1つはリガンドと呼ばれ、直接固定化され、又は固定化された表面上に捕獲され、他方は分析物と呼ばれ、捕獲された表面上にわたる溶液中を流れる。分析物がリガンドに結合して表面上に複合体を形成すると、センサーが質量における変化を検出する。これは、会合過程に対応する。分析物がバッファーによって置き換わるとき、解離の過程をモニターする。BIAcoreアッセイにおけるCA028_497.g2のIL−17に対する親和性を、リガンドとしてCA028_497.g2、及び分析物としてIL−17で評価する。
【0134】
リガンドとしてCA028_497.g2を用いた異なる種からのIL−17に対するCA028_497.g2の親和性の測定
センサーチップ上に固定化した抗ヒトIgG Fcによって、CA028_497.g2を捕獲し、引き続き、捕獲した表面上にわたってヒトIL−17又は他種からのIL−17を滴定した。手順の一例を以下に示す。
【0135】
BIAcore3000(BIAcoreAB)を用いて、BIA(Biamolecular Interaction Analysis)を行った。AffinipureF(ab’)断片ヤギ抗ヒトIgG、Fc(Jackson ImmunoResearch)を、アミンカップリング化学により約8000応答単位(RU)の捕獲レベルまで、CM5センサーチップ上に固定化した。HBS−EPバッファー(10mM HEPESpH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005%界面活性剤P20、BIAcoreAB)を泳動バッファーとして流速10μL/分で用いた。CA028_497.g2の10μLの注入を、固定化した抗ヒトIgG−F(ab)によって捕獲するのに用いた。IL−17を、捕獲したCA028_497.g2上にわたって、流速30μL/分で様々な濃度で滴定した。表面を、40mM HClを30μL注入し、その後5mM NaOHを10μL注入することによって再生した。
【0136】
バックグラウンドを差し引いた結合曲線を、BIAevaluationソフトウエア(バージョン3.2)を用いて標準の手順にしたがって分析した。動力学のパラメータを、フィッティングアルゴリズムから決定した。
【0137】
一過性に発現された様々な非ヒトの霊長類(NHP)種からのIL−17の濃度を、ヒトIL−17に関して評価し、次いで、これらの濃度を用いて、IL−17の親和性を決定した。親和性を、IL−17濃度25nM又はそれ未満で測定した。CA028_497.g2に対して決定した親和性の値は、ヒトに対しては6.3pM、カニクイザルIL−17に対しては10.7pM、及びマーモセットIL−17に対しては12.9pMであった(表1)。
一過性のカニクイザルIL−17及び一過性のマーモセットIL−17の濃度を、同等のヒトIL−17結合をもとに概算した。
表1:CA028_497.g2に対するIL−17の親和性
【表1】
【0138】
(実施例3)
ヒト細胞上のヒトIL−17の中和
IL−17がヒトHela細胞からIL−6の生成を誘発する能力を用いて、ヒト組換えIL−17及び哺乳動物細胞(CHO)由来ヒトIL−17(「天然」IL−17と呼ぶ)に対するCA028_497.g2の中和能力を測定した。Hela細胞をATCC細胞バンクから入手した(ATCC CCL−2)。細胞を、10%ウシ胎児血清、ペニシリン、ゲンタマイシン、及びグルタミンを補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で増殖させた。96ウェル平底組織培養プレート中に細胞1×10個を播いた。細胞を一夜インキュベートし、アッセイバッファーで1回洗浄した。ヒト組換えIL−17(25ng ml−1)又は「天然」IL−17(25ng ml−1)のいずれかを、固定濃度のヒトTNF−αの存在下でインキュベートし、この混合物をCA028_497.g2とプレインキュベートした。次いで、サイトカイン+抗体をHela細胞に加え、一夜インキュベートした。細胞培養上清におけるIL−6の生成は、細胞に加えたIL−17の量に比例した。IL−6放出のレベルを、Meso Scale Discovery 96−Well Multi−Spot IL−6ヒトサイトカインアッセイを用いて細胞上清において決定した。このアッセイは本質的にサンドイッチ免疫アッセイであり、予めコーティングした抗ヒトIL−6捕獲抗体が細胞上清又はキャリブレーター溶液においてIL−6に結合し、IL−6に特異的な検出抗体を用いてレベルを定量する。
【0139】
CA028_497.g2は、ヒト組換えIL−17、及び哺乳動物細胞由来ヒトIL−17を強力に中和した(図2及び3)。これらの実験からのデータは、CA028_497g.2のIC50は、ヒト組換えIL−17に対しては51ng/mL±3ng/mL(0.34nM)であり、哺乳動物細胞由来IL−17に対しては103±7ng/mL(0.7nM)であったことを示している。
【0140】
本発明を例示のみによって記載してきたが、本発明は決して限定的なものを意味するものではなく、この後の特許請求の範囲内で細部にわたる修飾を行うことができることが、当然理解されよう。本発明の各実施形態の好ましい特徴は、他の実施形態の各々に関して必要な変更を加えたものである。本明細書に引用した、それだけには限定されないが、特許及び特許出願を含めた全ての出版物は、それぞれ個々の出版物が、具体的に且つ個々に、完全に述べるように本明細書に参照として組み込まれることが示されるように、本明細書に参照として組み入れられる。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]