特許第5693860号(P5693860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5693860
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】定量方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20150312BHJP
   G01J 3/51 20060101ALI20150312BHJP
   G03B 11/04 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   G02B5/28
   G01J3/51
   G03B11/04 Z
【請求項の数】7
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2010-32870(P2010-32870)
(22)【出願日】2010年2月17日
(65)【公開番号】特開2010-217882(P2010-217882A)
(43)【公開日】2010年9月30日
【審査請求日】2012年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2009-35652(P2009-35652)
(32)【優先日】2009年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(72)【発明者】
【氏名】中内 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】西野 顕
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 佳苗
(72)【発明者】
【氏名】小田 博文
(72)【発明者】
【氏名】中村 睦子
(72)【発明者】
【氏名】松本 雅之
【審査官】 濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/094338(WO,A1)
【文献】 特開2002−200050(JP,A)
【文献】 特開2008−245843(JP,A)
【文献】 特開2002−131135(JP,A)
【文献】 特開2008−245666(JP,A)
【文献】 特開2005−201694(JP,A)
【文献】 特開平10−019681(JP,A)
【文献】 特開平07−174631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G01J 3/51
G03B 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に多層膜を備えた透過型の機能性分光フィルタを用いて、人の肌におけるファンデーション塗布量を定量する定量方法であって、
前記機能性分光フィルタを介してディジタルカメラで、ファンデーションを塗布した状態の人の肌(以下、「化粧肌」という。)を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第1群、
前記機能性分光フィルタを介して前記ディジタルカメラで、ファンデーションを塗布していない状態の人の肌(以下、「素肌」という。)を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第2群、
前記機能性分光フィルタを介さずに前記ディジタルカメラで化粧肌を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第3群、
前記機能性分光フィルタを介さずに前記ディジタルカメラで素肌を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第4群、
と表記したときに、
照明光の分光分布E(λ)(λ:波長)を設定するとともに、化粧肌の教師スペクトル群としてN1個の分光反射率R1j(λ)(j=1,2,…,N1)、素肌の教師スペクトル群としてN2個の分光反射率R2j(λ)(j=1,2,…,N2)を用意し、
前記多層膜の分光透過率T(λ)を、t個のパラメータp1,p2,…,ptで定義される数理モデルで記述し、
前記各分光反射率Rij(λ)(但しi=1,2、i=1のときj=1,2,…,N1、i=2のときj=1,2,…,N2)について、前記ディジタルカメラの感度特性に基づいて、前記分光分布E(λ)の下で該分光反射率Rij(λ)を前記分光透過率T(λ)の多層膜を通して前記ディジタルカメラに入力したときの前記ディジタルカメラの出力を算出することにより、該出力から構成される色情報CFij=fc(T(λ)Rij(λ)E(λ))を算出し、
入力を色情報とし出力を判別スコアとする判別関数fdを用いて、前記色情報CFijを入力したときの判別スコアfd(CFij)を算出し、該判別スコアfd(CFij)に基づいて色情報CFijを第1群または第2群のいずれかに分類し、
第1群に分類すべき色情報CF1jを第2群に分類した誤判定数と第2群に分類すべき色情報CF2jを第1群に分類した誤判定数とに基づいて算出される誤判定率eが所望のレベル以下となるまで、パラメータp1,p2,・・・,ptの再設定と前記色情報の算出と分類とを繰り返すことにより、パラメータp1,p2,・・・,ptを最適化し、
該最適化されたパラメータp1,p2,・・・,ptを用いて記述される最適の前記分光透過率T(λ)に基づいて前記多層膜の分光透過率を設定することにより、第1群と第2群との分離の程度が第3群と第4群との分離の程度よりも大きくなるように前記多層膜の分光透過率が設定された前記機能性分光フィルタを作成し、
ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について、
作成した前記機能性分光フィルタを介して、ディジタルカメラで撮影して、当該ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが当該ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、
前記コンピュータが、前記判別関数fd(但し、パラメータは、作成した前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて再計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、
を行って、算出された判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、判別スコアとファンデーション塗布量との対応テーブルを作成し、
ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアに基づいて、前記対応テーブルを参照して、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする定量方法。
【請求項2】
透明基材上に多層膜を備えた透過型の機能性分光フィルタを用いて、人の肌におけるファンデーション塗布量を定量する定量方法であって、
前記機能性分光フィルタを介してディジタルカメラで、ファンデーションを塗布した状態の人の肌(以下、「化粧肌」という。)を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第1群、
前記機能性分光フィルタを介して前記ディジタルカメラで、ファンデーションを塗布していない状態の人の肌(以下、「素肌」という。)を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第2群、
前記機能性分光フィルタを介さずに前記ディジタルカメラで化粧肌を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第3群、
前記機能性分光フィルタを介さずに前記ディジタルカメラで素肌を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第4群、
と表記したときに、
照明光の分光分布E(λ)(λ:波長)を設定するとともに、化粧肌の教師スペクトル群としてN1個の分光反射率R1j(λ)(j=1,2,…,N1)、素肌の教師スペクトル群としてN2個の分光反射率R2j(λ)(j=1,2,…,N2)を用意し、
前記多層膜の分光透過率T(λ)を、t個のパラメータp1,p2,…,ptで定義される数理モデルで記述し、
前記各分光反射率Rij(λ)(但しi=1,2、i=1のときj=1,2,…,N1、i=2のときj=1,2,…,N2)について、前記ディジタルカメラの感度特性に基づいて、前記分光分布E(λ)の下で該分光反射率Rij(λ)を前記分光透過率T(λ)の多層膜を通して前記ディジタルカメラに入力したときの前記ディジタルカメラの出力を算出することにより、該出力から構成される色情報CFij=fc(T(λ)Rij(λ)E(λ))を算出し、
入力を色情報とし出力を判別スコアとする判別関数fdを用いて、前記色情報CFijを入力したときの判別スコアfd(CFij)を算出し、該判別スコアfd(CFij)に基づいて色情報CFijを第1群または第2群のいずれかに分類し、
第1群に分類すべき色情報CF1jを第2群に分類した誤判定数と第2群に分類すべき色情報CF2jを第1群に分類した誤判定数とに基づいて算出される誤判定率eが所望のレベル以下となるまで、パラメータp1,p2,・・・,ptの再設定と前記色情報の算出と分類とを繰り返すことにより、パラメータp1,p2,・・・,ptを最適化し、
該最適化されたパラメータp1,p2,・・・,ptを用いて記述される最適の前記分光透過率T(λ)に基づいて前記多層膜の分光透過率を設定することにより、第1群と第2群との分離の程度が第3群と第4群との分離の程度よりも大きくなるように前記多層膜の分光透過率が設定された前記機能性分光フィルタを作成し、
ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について、
作成した前記機能性分光フィルタを介して、ディジタルカメラで撮影して、当該ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが当該ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、
前記コンピュータが、前記判別関数fd(但し、パラメータは、作成した前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて再計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、
を行って、算出された前記判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、検量線を設定し、
ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアを前記検量線に当て嵌めることにより、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする定量方法。
【請求項3】
人の肌の、ファンデーションを塗布した状態であるときのファンデーションを塗布していない状態からのファンデーション塗布量を定量するための定量方法であって、
透明基材上に下記表5に示す層番号1から層番号31までの各層を層番号の小さい順に前記透明基材側から積層することにより多層膜を成膜した透過型の機能性分光フィルタを介してディジタルカメラで人の肌を撮影して、前記ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが前記ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、
前記コンピュータが、判別関数fd(但し、パラメータは、前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、
を有し、
ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された前記判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、検量線を設定し、
ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された前記判別スコアを前記検量線に当て嵌めることにより、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする定量方法。
【表5】
【請求項4】
人の肌の、ファンデーションを塗布した状態であるときのファンデーションを塗布していない状態からのファンデーション塗布量を定量するための定量方法であって、
下記表3に記載の分光透過率を有する、又は、下記表3に記載の分光透過率に基づき膜生成シミュレーションにより得られた分光透過率を有する、透明基材上に多層膜を備えた透過型の機能性分光フィルタを介してディジタルカメラで人の肌を撮影して、前記ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが前記ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、
前記コンピュータが、判別関数fd(但し、パラメータは、前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、
を有し、
ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された前記判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、検量線を設定し、
ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された前記判別スコアを前記検量線に当て嵌めることにより、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする定量方法。
【表3】
【請求項5】
前記検量線が、xをファンデーション塗布量、yを判別スコアとしたときに下記式(1)又は(2)で表されることを特徴とする請求項2、3又は4記載の定量方法。
y=aln(x+c)+b (但し、a,b,cは係数ならびに定数項) …(1)
y=a[ln(x+by0+c)−ln(by0+c)]+y0 (但し、a,b,cは係数ならびに定数項、y0は素肌のときの判別スコア) …(2)
【請求項6】
人の肌の、ファンデーションを塗布した状態であるときのファンデーションを塗布していない状態からのファンデーション塗布量を定量するための定量方法であって、
透明基材上に下記表5に示す層番号1から層番号31までの各層を層番号の小さい順に前記透明基材側から積層することにより多層膜を成膜した透過型の機能性分光フィルタを介してディジタルカメラで人の肌を撮影して、前記ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが前記ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、
前記コンピュータが、判別関数fd(但し、パラメータは、前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、
を有し、
ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、判別スコアとファンデーション塗布量との対応テーブルを作成し、
ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアに基づいて、前記対応テーブルを参照して、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする定量方法。
【表5】
【請求項7】
人の肌の、ファンデーションを塗布した状態であるときのファンデーションを塗布していない状態からのファンデーション塗布量を定量するための定量方法であって、
下記表3に記載の分光透過率を有する、又は、下記表3に記載の分光透過率に基づき膜生成シミュレーションにより得られた分光透過率を有する、透明基材上に多層膜を備えた透過型の機能性分光フィルタを介してディジタルカメラで人の肌を撮影して、前記ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが前記ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、
前記コンピュータが、判別関数fd(但し、パラメータは、前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、
を有し、
ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、判別スコアとファンデーション塗布量との対応テーブルを作成し、
ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアに基づいて、前記対応テーブルを参照して、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする定量方法。
【表3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色彩の判別を容易にする機能性分光フィルタ及びそのような機能性分光フィルタを用いた評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
色彩の判別を容易にする機能性分光フィルタとしては、出願人らが出願した下記特許文献1に記載されたものがある。このフィルタは、観察する2色間の色差を大きくあるいは小さくするものであり、例えば、被観察物の化粧品を塗った部分の色同士、化粧品を塗らない部分の色同士では、フィルタを通さない場合よりもフィルタを通した場合に色差が小さくなるように、化粧品を塗った部分の色と化粧品を塗らない部分の色とでは、フィルタを通さない場合よりもフィルタを通した場合に色差が大きくなるように構成することにより、化粧品の塗りむらの見分けを容易としている(同文献の請求項7、実施例4参照)。
【0003】
また、参考文献として、下記非特許文献1及び非特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2007/094338
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鷲尾泰俊、大橋靖雄著、「シリーズ入門 統計的方法3 多次元データの解析」、株式会社岩波書店、1989年2月21日、p.204−213
【非特許文献2】カークパトリック(Kirkpatrick)、外2名、「シミュレーティッドアニーリング法による最適化(Optimization by Simulated Annealing)」、サイエンス(Science)、1983年5月13日、第220巻、第4598号、p.671−680
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の機能性分光フィルタは、観察された色の色情報からその色を有する部分の状態をコンピュータで判別するといった判別処理(分類処理)には適していなかった。
【0007】
本発明は、上述した問題を解決するものであり、判別処理に適した機能性分光フィルタを用いた定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の請求項1記載の定量方法は、透明基材上に多層膜を備えた透過型の機能性分光フィルタを用いて、人の肌におけるファンデーション塗布量を定量する定量方法であって、前記機能性分光フィルタを介してディジタルカメラで、ファンデーションを塗布した状態の人の肌(以下、「化粧肌」という。)を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第1群、前記機能性分光フィルタを介して前記ディジタルカメラで、ファンデーションを塗布していない状態の人の肌(以下、「素肌」という。)を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第2群、前記機能性分光フィルタを介さずに前記ディジタルカメラで化粧肌を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第3群、前記機能性分光フィルタを介さずに前記ディジタルカメラで素肌を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第4群、と表記したときに照明光の分光分布E(λ)(λ:波長)を設定するとともに、化粧肌の教師スペクトル群としてN1個の分光反射率R1j(λ)(j=1,2,…,N1)、素肌の教師スペクトル群としてN2個の分光反射率R2j(λ)(j=1,2,…,N2)を用意し、前記多層膜の分光透過率T(λ)を、t個のパラメータp1,p2,…,ptで定義される数理モデルで記述し、前記各分光反射率Rij(λ)(但しi=1,2、i=1のときj=1,2,…,N1、i=2のときj=1,2,…,N2)について、前記ディジタルカメラの感度特性に基づいて、前記分光分布E(λ)の下で該分光反射率Rij(λ)を前記分光透過率T(λ)の多層膜を通して前記ディジタルカメラに入力したときの前記ディジタルカメラの出力を算出することにより、該出力から構成される色情報CFij=fc(T(λ)Rij(λ)E(λ))を算出し、入力を色情報とし出力を判別スコアとする判別関数fdを用いて、前記色情報CFijを入力したときの判別スコアfd(CFij)を算出し、該判別スコアfd(CFij)に基づいて色情報CFijを第1群または第2群のいずれかに分類し、
第1群に分類すべき色情報CF1jを第2群に分類した誤判定数と第2群に分類すべき色情報CF2jを第1群に分類した誤判定数とに基づいて算出される誤判定率eが所望のレベル以下となるまで、パラメータp1,p2,・・・,ptの再設定と前記色情報の算出と分類とを繰り返すことにより、パラメータp1,p2,・・・,ptを最適化し、該最適化されたパラメータp1,p2,・・・,ptを用いて記述される最適の前記分光透過率T(λ)に基づいて前記多層膜の分光透過率を設定することにより、第1群と第2群との分離の程度が第3群と第4群との分離の程度よりも大きくなるように前記多層膜の分光透過率が設定された前記機能性分光フィルタを作成し、ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について、作成した前記機能性分光フィルタを介して、ディジタルカメラで撮影して、当該ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが当該ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、前記コンピュータが、前記判別関数fd(但し、パラメータは、作成した前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて再計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、を行って、算出された判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、判別スコアとファンデーション塗布量との対応テーブルを作成し、ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアに基づいて、前記対応テーブルを参照して、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする。
【0028】
本発明の請求項2記載の定量方法は、透明基材上に多層膜を備えた透過型の機能性分光フィルタを用いて、人の肌におけるファンデーション塗布量を定量する定量方法であって、前記機能性分光フィルタを介してディジタルカメラで、ファンデーションを塗布した状態の人の肌(以下、「化粧肌」という。)を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第1群、前記機能性分光フィルタを介して前記ディジタルカメラで、ファンデーションを塗布していない状態の人の肌(以下、「素肌」という。)を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第2群、前記機能性分光フィルタを介さずに前記ディジタルカメラで化粧肌を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第3群、前記機能性分光フィルタを介さずに前記ディジタルカメラで素肌を撮影したときの前記ディジタルカメラの出力により構成される色情報の群を第4群、と表記したときに、照明光の分光分布E(λ)(λ:波長)を設定するとともに、化粧肌の教師スペクトル群としてN1個の分光反射率R1j(λ)(j=1,2,…,N1)、素肌の教師スペクトル群としてN2個の分光反射率R2j(λ)(j=1,2,…,N2)を用意し、前記多層膜の分光透過率T(λ)を、t個のパラメータp1,p2,…,ptで定義される数理モデルで記述し、前記各分光反射率Rij(λ)(但しi=1,2、i=1のときj=1,2,…,N1、i=2のときj=1,2,…,N2)について、前記ディジタルカメラの感度特性に基づいて、前記分光分布E(λ)の下で該分光反射率Rij(λ)を前記分光透過率T(λ)の多層膜を通して前記ディジタルカメラに入力したときの前記ディジタルカメラの出力を算出することにより、該出力から構成される色情報CFij=fc(T(λ)Rij(λ)E(λ))を算出し、入力を色情報とし出力を判別スコアとする判別関数fdを用いて、前記色情報CFijを入力したときの判別スコアfd(CFij)を算出し、該判別スコアfd(CFij)に基づいて色情報CFijを第1群または第2群のいずれかに分類し、第1群に分類すべき色情報CF1jを第2群に分類した誤判定数と第2群に分類すべき色情報CF2jを第1群に分類した誤判定数とに基づいて算出される誤判定率eが所望のレベル以下となるまで、パラメータp1,p2,・・・,ptの再設定と前記色情報の算出と分類とを繰り返すことにより、パラメータp1,p2,・・・,ptを最適化し、該最適化されたパラメータp1,p2,・・・,ptを用いて記述される最適の前記分光透過率T(λ)に基づいて前記多層膜の分光透過率を設定することにより、第1群と第2群との分離の程度が第3群と第4群との分離の程度よりも大きくなるように前記多層膜の分光透過率が設定された前記機能性分光フィルタを作成し、ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について、作成した前記機能性分光フィルタを介して、ディジタルカメラで撮影して、当該ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが当該ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、前記コンピュータが、前記判別関数fd(但し、パラメータは、作成した前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて再計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、を行って、算出された前記判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、検量線を設定し、ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアを前記検量線に当て嵌めることにより、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする。
本発明の請求項3記載の定量方法は、人の肌の、ファンデーションを塗布した状態であるときのファンデーションを塗布していない状態からのファンデーション塗布量を定量するための定量方法であって、透明基材上に表5に示す層番号1から層番号31までの各層を層番号の小さい順に前記透明基材側から積層することにより多層膜を成膜した透過型の機能性分光フィルタ介してディジタルカメラで人の肌を撮影して、前記ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが前記ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、前記コンピュータが、判別関数fd(但し、パラメータは、前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、を有し、ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された前記判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、検量線を設定し、ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された前記判別スコアを前記検量線に当て嵌めることにより、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする。
本発明の請求項4記載の定量方法は、人の肌の、ファンデーションを塗布した状態であるときのファンデーションを塗布していない状態からのファンデーション塗布量を定量するための定量方法であって、表3に記載の分光透過率を有する、又は、表3に記載の分光透過率に基づき膜生成シミュレーションにより得られた分光透過率を有する、透明基材上に多層膜を備えた透過型の機能性分光フィルタを介してディジタルカメラで人の肌を撮影して、前記ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが前記ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、前記コンピュータが、判別関数fd(但し、パラメータは、前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、を有し、ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された前記判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、検量線を設定し、ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された前記判別スコアを前記検量線に当て嵌めることにより、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする。
【0029】
なお、請求項2、3又は4記載の定量方法において、前記検量線が、xをファンデーション塗布量、yを判別スコアとしたときに下記式(1)又は(2)で表されることとしてもよい。
y=aln(x+c)+b (但し、a,b,cは係数ならびに定数項) …(1)
y=a[ln(x+by0+c)−ln(by0+c)]+y0 (但し、a,b,cは係数ならびに定数項、y0は素肌のときの判別スコア) …(2)
【0030】
本発明の請求項6記載の定量方法は、人の肌の、ファンデーションを塗布した状態であるときのファンデーションを塗布していない状態からのファンデーション塗布量を定量するための定量方法であって、透明基材上に表5に示す層番号1から層番号31までの各層を層番号の小さい順に前記透明基材側から積層することにより多層膜を成膜した透過型の機能性分光フィルタ介してディジタルカメラで人の肌を撮影して、前記ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが前記ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、前記コンピュータが、判別関数fd(但し、パラメータは、前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、を有し、ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、判別スコアとファンデーション塗布量との対応テーブルを作成し、ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアに基づいて、前記対応テーブルを参照して、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする。
本発明の請求項7記載の定量方法は、人の肌の、ファンデーションを塗布した状態であるときのファンデーションを塗布していない状態からのファンデーション塗布量を定量するための定量方法であって、表3に記載の分光透過率を有する、又は、表3に記載の分光透過率に基づき膜生成シミュレーションにより得られた分光透過率を有する、透明基材上に多層膜を備えた透過型の機能性分光フィルタを介してディジタルカメラで人の肌を撮影して、前記ディジタルカメラの出力をコンピュータに入力することにより、前記コンピュータが前記ディジタルカメラの出力から構成される色情報CFj(j=1,2,…,N)を取得する第1のステップと、前記コンピュータが、判別関数fd(但し、パラメータは、前記機能性分光フィルタを用いた実際の計測データに基づいて計算したもの)により判別スコアfd(CFj)を算出する第2のステップと、を有し、ファンデーション塗布量が分かっている人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアとファンデーション塗布量とに基づいて、判別スコアとファンデーション塗布量との対応テーブルを作成し、ファンデーション塗布量が分かっていない人の肌について第1のステップ及び第2のステップを行って、算出された判別スコアに基づいて、前記対応テーブルを参照して、ファンデーション塗布量を定量することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明の定量方法によれば、人の肌における観察部分がファンデーションを塗布した状態であるかファンデーションを塗布していない状態であるかという判別が容易であるとともに、ファンデーション塗布量がどの程度かといった定量的な評価が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施形態に係る分光フィルタの作成方法を示すフローチャートである。
図2-1】同実施形態に係る評価システムの概略構成図である。
図2-2】同実施形態に係る機能性分光フィルタが装着されたディジタルカメラのレンズ部分の概略断面図である。
図3】実施例に係る教師スペクトル群の平均スペクトルを示す図である。
図4】実施例に係るディジタルカメラのRGB感度特性を示す図である。
図5】実施例において最適化により得られた分光透過率と膜設計シミュレーションにより得られた分光透過率を示す図である。
図6】実施例において最適化により得られた分光透過率と光学薄膜により得られた分光透過率を示す図である。
図7-1】フィルタ無しの場合の色情報の分布を示す図である。
図7-2】フィルタ有りの場合の色情報の分布を示す図である。
図8】4種のファンデーションの各々について塗布量を調整したときの検出結果を示す図である。
図9】(a)はフィルタ無し、(b)はフィルタ有りの場合の化粧塗布状態の撮影結果を示す図であり、(c)は判別スコアを用いて、(d)は確率を用いて化粧分布を可視化した結果を示す図である。
図10】(a)は自己流クレンジングを行った状態、(b)は指導付きクレンジングを行った状態、(c)は化粧塗布状態の平均化粧分布を可視化した図である。
図11】化粧領域の画素数の平均を示す図である。
図12】検量線作成実験の塗布領域を示す図である。
図13】塗布量と判別スコアのグラフである。
図14】対数関数型の検量線による推定結果を示すグラフである。
図15】ベースライン補正型の検量線による推定結果を示すグラフである。
図16】対数関数型の検量線により塗布量を可視化した図である。
図17】ベースライン補正型の検量線により塗布量を可視化した図である。
図18】ファンデーションの一様塗布状態における塗布量を可視化した図である。
図19】異なる色のファンデーションの塗布量と判別スコアのグラフである。
図20】マハラノビス距離を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、本発明の一実施形態に係る機能性分光フィルタ(以下、単に「分光フィルタ」あるいは「フィルタ」ともいう。)の作成方法について説明する。
【0035】
本作成方法は、フィルタの分光透過率の設計を、所望とする性能が得られているかどうかを測る評価量の最適化問題として定式化するものであり、図1に示すように、(1)観察対象の設定、(2)フィルタの分光透過率のモデル化、(3)色情報の算出、(4)判別精度の評価、(5)最適化の5つの手順からなる。以下、詳述する。
【0036】
(1)観察対象(照明光、スペクトル群)の設定
実施形態の分光フィルタは、RGB値を出力するディジタルカメラ(以下、単に「カメラ」ともいう。)で撮影したときの色情報に対して判別分析を行うためのものである。判別分析とは2組以上のデータ群に対して定義されるものである。よって所望のフィルタを設計する場合、カメラを通して判別すべき二状態を観測したときのRGB値群を得るために、観察対象の教師スペクトル群と観察条件を定義する必要がある。
【0037】
ここでは、観察条件として観察光源すなわち照明光の分光分布E(λ)(λ:波長)を設定するとともに、教師スペクトル群として、N個ずつ2組の分光反射率Rij(λ)(i=1,2、j=1,2,…,N)を用意する。なお、iは教師スペクトル群の番号、jは各教師スペクトル群内の標本番号であり、分光反射率R1j(λ)は、第1の状態の観察対象の教師スペクトル群、分光反射率R2j(λ)は、第2の状態の観察対象の教師スペクトル群である。各教師スペクトル群内の標本数は同じでなくてもよいが、本実施形態ではいずれもN個とする。
【0038】
(2)分光フィルタのモデル化
分光フィルタの分光透過率T(λ)を最適化問題の枠組みにおいて設計するために、少数のパラメータp1,p2,・・・,ptで定義される数理モデルにより、分光透過率T(λ)を記述する。記述の方法としては、後述する実施例に用いたスプライン関数の他、立ち上がりエッジ及び立ち下りエッジの波長と透過率をパラメータとするバンドパスモデル、多層膜フィルタの膜厚をパラメータとする光学薄膜モデル等がある。
【0039】
(3)色情報の算出
分光透過率T(λ)のフィルタを通してディジタルカメラで撮影した際の、入射光の分光分布はT(λ)Rij(λ)E(λ)となり、これに対するカメラ出力に相当する色情報CFij=fc(T(λ)Rij(λ)E(λ))を算出する。
【0040】
(4)判別精度の評価
実施形態のフィルタはRGB画像に対する判別分析の精度を最大化することを目的としているので、フィルタ設計の評価量は、観測されたスペクトル群を最もよく判別する判別器を設計したときの、判別精度で表される。ここで入力を色情報、出力を判別スコアとする判別関数fdを用いて、判別スコアfd(CFij)を算出し、その判別スコアfd(CFij)に基づいて、次の判別ルールに従って判別分析を行い、色情報CFijを第1群または第2群のいずれかに分類する。
【0041】
〈判別ルール〉 fd(CFij)≧0のとき、色情報CFijを第1群に分類
d(CFij)<0のとき、色情報CFijを第2群に分類
すなわち、判別関数fdで表される境界fd(x)=0のどちら側にあるかで、色情報CFijを第1群または第2群のいずれかに分類する。
【0042】
なお、判別ルールは上記ルールに限るものではなく、fd(CFij)>0であれば色情報CFijを第1群に、fd(CFij)≦0であれば色情報CFijを第2群に分類するものであってもよいし、判別関数fdの決め方によっては、fd(CFij)と0ではない閾値との比較により色情報CFijを分類するものであってもよい。また、閾値を2つ以上設けて、「化粧無し」「薄塗り」「厚塗り」のように3群以上に分類することも可能である。いずれにしろ、判別関数fdで表される境界のどちら側にあるかで分類すると換言できる。
【0043】
実施形態の分光フィルタを介してディジタルカメラで第1の状態の観察対象を撮影したときにディジタルカメラから出力された色情報の群を第1群、分光フィルタを介してディジタルカメラで第2の状態の観察対象を撮影したときにディジタルカメラから出力された色情報の群を第2群と表記すれば、本来、色情報CF1jは第1群に、色情報CF2jは第2群に分類されるべきである。そこで、次式[数1]で表される誤判別率eにより、フィルタ性能を評価する。[数1]において、N12は本来第1群であるが第2群と分類されたエラー数、N21は本来第2群であるが第1群と分類されたエラー数を表す。
【0044】
【数1】
【0045】
(5)最適化
(4)で定義された評価量eは、(2)で導入された分光透過率を表現するパラメータp1,p2,・・・,ptの関数として記述される。よって、制約条件0≦T(λ)≦1の下で評価量eが所望のレベル以下(ここでは、略最小)となるようにパラメータp1,p2,・・・,ptを最適化し、最適化されたパラメータp1,p2,・・・,ptを用いて記述される最適の分光透過率T(λ)に基づいて、分光フィルタを作成する。なお、略最小とは、最小である場合を含む。また、「所望のレベル」は、フィルタに要求される分類精度によって適宜定められる。
【0046】
以上の作成方法は次のように記述できる。
【0047】
照明光の分光分布E(λ)を設定するとともに、第1の状態の観察対象の教師スペクトル群として分光反射率R1j(λ)(j=1,2,…,N1)、第2の状態の観察対象の教師スペクトル群として分光反射率R2j(λ)(j=1,2,…,N2)を用意し、下記誤判別率eが所望のレベル以下になるまで下記(I)、(II)、(III)をこの順に繰り返し、誤判定率eが所望のレベル以下になったときのパラメータp1,p2,・・・,ptで記述される最適の分光透過率T(λ)に基づいて、分光フィルタを作成する分光フィルタ作成方法。
【0048】
(I) 分光透過率T(λ)を、1回目はパラメータp1,p2,・・・,ptに初期値を設定することにより記述し、2回目以降は最適化法に基づいてパラメータp1,p2,・・・,ptを再設定することにより記述する。
【0049】
(II) 分光透過率T(λ)の分光フィルタを介してディジタルカメラで観察対象を撮影したときのカメラからの出力に相当する色情報CFij=fc(T(λ)Rij(λ)E(λ))(但しi=1,2、i=1のときj=1,2,…,N1、i=2のときj=1,2,…,N2)を算出する。
【0050】
(III)判別関数fdを用いて、色情報CFijを入力したときの判別スコアfd(CFij)を算出し、所定の判別ルールに従って(すなわち、判別関数fdで表される境界のどちら側にあるかで)色情報CFijを第1群または第2群に分類して、第1群に分類すべき色情報CF1jを第2群に分類した誤判定数と第2群に分類すべき色情報CF2jを第1群に分類した誤判定数とに基づいて誤判定率eを算出する。
【0051】
次に、上記作成方法により作成された分光フィルタを用いた評価システムについて説明する。図2−1に示すように、評価システム1は、上記作成方法により作成された分光フィルタ2と、分光フィルタ2を介して観察対象5を撮影するディジタルカメラ3と、コンピュータからなる判別装置4とから構成されている。具体的には、カメラ3には、図2−2に示すように、カメラ3のレンズ7と同径の分光フィルタ2が、レンズ7の前側にレンズ7全面を覆うように装着されている。分光フィルタ2は、透明基材8の上面に多層膜9が成膜されたものである。なお、カメラ3は、分光フィルタ2の作成時に使用されたものと同じ感度特性を有するもの(例えば同機種)であることが好ましい。
【0052】
判別装置4には、カメラ3により観察対象5を撮影したときのカメラ3の出力である画像データが入力される。なお、撮影は、分光フィルタ2の作成時と同じ分光分布を有する照明光の下でなされることが好ましい。画像データの判別装置4への入力方法としては、カメラ3と判別装置4とを接続して、画像データを記憶しているカメラ3の記憶部から色情報を読込む方法や、カメラ3に着脱可能に設けられている画像データが記録された記録媒体を判別装置4が有する読取装置に装着して、その記録媒体から画像データを読込む方法等がある。
【0053】
判別装置4は、フィルタ2の作成に用いた判別関数fd(但し、実際の計測環境に合わせるため、判別関数fdの各パラメータ(係数)は、実際にフィルタ2を用いて計測したデータから再計算して設定する。)を用いて、入力された画像データから算出される色情報CFj(j=1,2,…,N)に対して、判別スコアfd(CFj)を算出し、その判別スコアfd(CFj)に基づいて、フィルタ2の作成に用いた判別ルールに従って(すなわち、判別関数fdで表される境界のどちら側にあるかで)、色情報CFjを第1群または第2群のいずれかに分類する。そして、色情報CFjが第1群に分類されたときは観察対象5の色情報CFjに対応する部分が第1の状態であり、色情報CFjが第2群に分類されたときは観察対象5の色情報CFjに対応する部分が第2の状態であると判別し、結果をディスプレイ6に出力する。これにより、色が互いに似た2つの状態を見分けることができる。なお、観察対象5の色情報CFjに対応する部分とは、観察対象5において、カメラ3で撮影したときの画像データから色情報CFjが算出されることになった部分をいう。
【0054】
結果の出力方法としては、判別装置4は、例えば第1の状態であると判定した部分を示したい場合には、ディスプレイ6に観察対象5の画像または観察対象5を模した画像を表示して、その画像上の第1の状態であると判定した部分に、その部分以外の部分とは異なる色を付する。なお、判別装置4は、判別スコアに対応して予め色を設定しておき、第1の状態であると判定した部分における、色情報CFjに対応する部分には、その判別スコアfd(CFj)に対応した色を付する(図9(c)参照)。判別スコアは境界fd(x)=0からの離れ具合を表しているので、判別スコアによりその状態の程度が推測される。即ち、観察対象の画像上に判別スコアを色で表示することにより、第1の状態か第2の状態かが分かり易くなるのみならず、その状態の程度を示す定量情報を可視化できることとなる。なお、判別装置4において、群への分類及び状態の判別を行わず、判別スコアをそのまま(或いは色等に置き換えて)出力するようにしてもよい。判別スコアを見れば、どちらの群に属するか判断可能だからである。
【0055】
さらに、判別装置4は、確率に応じて色を設定しておき、観察対象5の色情報CFjに対応する部分が第1の状態である確率または第2の状態である確率を推定し、その確率に応じた色を観察対象5の画像上の色情報CFjに対応する部分に表示する(図9(d)参照)。これにより、その状態である確率を可視化できることとなる。なお、観察対象5の色情報CFjに対応する部分が第1の状態である確率または第2の状態である確率は、後述する実施例で詳述するように、観察対象の色情報CFjに対応する部分が第1の状態である事前確率と第2の状態である事前確率、及び、第1群に属する色情報と第2群に属する色情報のそれぞれの確率分布に基づいて推定可能である。なお、このときの確率分布は、計測環境を評価時と略同じとした、フィルタ2を用いた実際の計測データから得ることが望ましい。
【0056】
このように、分光フィルタ2は、分光フィルタ2を介してカメラ3で観察対象を撮影することで得られたカラー(RGB)画像に対する判別処理を行うことにより、非常に色が似ているために識別困難な観察対象の二状態を、高い精度で判別可能とするものである。
【0057】
具体的には、分光フィルタ2によれば、分光フィルタ2を介してカメラ3で第1の状態の観察対象を撮影したときのカメラ3の出力から構成される色情報の群を第1群、分光フィルタ2を介してカメラ3で第2の状態の観察対象を撮影したときのカメラ3の出力から構成される色情報の群を第2群、と表記したときに、判別関数fdで表される境界(具体的には、fd(x)=0を満たすxからなる線(xが2次元の場合)または面(xが3次元の場合))の、一方の側に第1群に属する色情報を、他方の側に第2群に属する色情報を、例えば80%以上の正判定率といった高精度で分類可能な程度に、第1群と第2群とが分離されるので、色情報が境界のどちら側にあるかで観察対象のその色情報に対応する部分が第1の状態であるか第2の状態であるかを高精度で判別できる。
【0058】
また、判別スコアfd(CFj)は境界fd(x)=0からの離れ具合を表しているため、判別スコアfd(CFj)を用いて、観察対象の色情報CFjに対応する部分の状態を定量化可能である。
【0059】
上述した評価システム1以外にも、本発明の分光フィルタは、各種ツールとして、使用可能である。ここでツールとは、例えば、ディジタルカメラ、フォトダイオード等の撮影装置の前面若しくは背面や内部の受光部(受光体)に配置する分光フィルタ、または、テレビ、モニター、各種光源等の光学系の前面若しくは背面や内部の発光部に配置する分光フィルタ、さらには、眼鏡レンズ、コンタクトレンズ、眼内レンズ等の眼用製品、等に限定されず、例えば、単にガラス板またはプラスチック板等のみの場合も含む。
【0060】
また、本発明の分光フィルタは、透明基材の上面に多層膜(多層薄膜)を備えたものである。ここで、「透明基材」の「透明」とは、本発明の目的を達成できる光透過率を有すれば、特に限定されず、無色透明ばかりでなく、有色透明さらには、半透明も含む。また、「透明基材」としては、例えば、下記のような(i)無機ガラス、(ii)有機ガラスを使用できる。
【0061】
(i)ソーダ石灰ガラス、ほうけい酸ガラス、クラウンガラス、フリントガラス、バリウムクラウンガラス、バリウムフリントガラス、ランタンクラウンガラス、ランタンフリントガラス、等。
【0062】
(ii)アクリル系、ポリカーボネート系、ポリスルフォン系、ポリチオウレタン系、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート系、ポリエステル系、及びセルロース系、等。
【0063】
上記多層膜を形成する薄膜材質の組合せとしては、多層膜とした場合、光学的な透過率を低減させたり増大させたりすることができる屈折率を備えたものなら特に限定されず、例えば、下記のような(i)無機酸化物(金属酸化物)、(ii)無機ハロゲン化物(金属ハロゲン化物)、(iii)単体金属、を使用できる。
【0064】
(i)チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、アンチモン、イットリウム、インジウム、錫、ランタン、マグネシウム、アルミニウム、ハフニウム、ネオジウム、珪素、亜鉛、鉄、等の酸化物またはそれらを複数含む複合酸化物。
【0065】
(ii)マグネシウム、ナトリウム、ランタン、アルミニウム、リチウム等のハロゲン化物。
【0066】
(iii)珪素、ゲルマニウム、金、銀、銅、ニッケル、白金、鉄等の単体またはそれらを複数含む混合体(合金、焼結体を含む。)。
【0067】
上記多層膜は、汎用の薄膜形成技術、例えば、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、等の乾式めっき(PVD)、または湿式めっき(CVD)により形成できる。
【0068】
本発明のフィルタの考えられる応用としては、次のものがある。
【0069】
後述する実施例のように素肌と化粧肌の判別を目的としてフィルタを設計することで、被写体の化粧が塗布された領域の検出や化粧料の分布を可視化する色彩判別フィルタを設計することができる。このような色彩判別フィルタを用いることにより、化粧品の塗布状態の均一性やクレンジング時に落としきれなかった化粧品の残りを可視化することができ、メイクアップのカウンセリングなどに利用することが出来る。また、化粧品(化粧料)のつき、広がり、なじみ具合等の化粧料塗布性評価試験や、経時的な化粧料の付着量や分布状態から化粧崩れを観察する化粧持続性評価試験に用いることができる。すなわち、肌への化粧料の付着量や分布状態からその化粧料の塗膜を評価できる。また、特定の化粧料を皮膚に塗布し、その付着量や分布状態から皮膚のテクスチャー、見た目のハリ感、シワ等の肌状態の評価を簡易に視覚的に分かりやすく実施することができる。例えば、特定の化粧料を多数の被験者に塗布して付着量及び分布状態を調べてその平均を求めておき、評価対象者にその特定の化粧料を塗布したときの付着量や分布状態が、平均的な付着量や平均的な分布状態からどの位ずれているか基づいて、肌状態を評価することができる。なお、本発明における化粧品は、肌に塗布することで肌の分光反射率に何らかの変化を与えるものであれば特に限定されないが、例えば、パウダーファンデーション、リクイドファンデーション、ジェルファンデーション、アイシャドウ、アイブロウ、化粧下地料、口紅等のメイクアップ化粧品、サンスクリーン剤などが挙げられる。
【0070】
また、本発明のフィルタは、検出すべき状態が僅かな色の違いとして現れるターゲットであれば、どのようなものにも応用可能である。例えば、食品の腐敗や異物混入の検出、工場における製品の不良検出、内視鏡カメラによる医用画像における病変検出、皮膚疾患部位の検出などが考えられる。
【0071】
例えば、観察対象を腐敗の程度が色の変化に表れる食品とし、腐敗した状態を第1の状態、腐敗していない状態を第2の状態としたときに、第1の状態であるか第2の状態であるかを判別可能であるとともに、判別スコアに基づいて、第1の状態と判別された部分における、第2の状態からの色の変化量を推定することが可能であり、色の変化量から腐敗の程度を推測可能である。また、第1の状態である確率、すなわち、腐敗している確率を推定することも可能である。
【実施例】
【0072】
実施例として、素肌とファンデーションを塗布した肌(以下、「化粧肌」ともいう。)の判別を目的とする機能性分光フィルタ2の例を示す。なお、化粧肌を第1の状態、素肌を第2の状態とする。
【0073】
1.設計手法
実施例のフィルタ2を設計する場合の設計方法を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1の設計方法の詳細を以下に述べる。
【0076】
〈1〉観察対象(照明光、スペクトル群)の設定
本手法は判別すべき二状態のRGB値に対し、判別分析を行ったときの判別精度の最大化を目的としている。従って、判別分析の対象となるRGB値を得るための観測環境と、最適化を行うに十分な教師スペクトルが必要となる。ここでは観測環境の照明光として標準光源D65の分光分布を使用した。また、一般性の高いフィルタ2を設計するために、被験者ごとの肌色の違いやファンデーションの種類といった判別対象以外の情報を包含する十分な数のスペクトル群を用意した。具体的には、化粧肌については、被験者30名が粉体タイプと液体タイプの2種のファンデーションを用いたそれぞれの場合について、各被験者の顔(観察対象5)から9つの観測点を抽出することにより540点のスペクトルを用意し、素肌についても化粧肌に対応させて540点(被験者数30×観測点9×2)のスペクトルを用意した。
【0077】
素肌、化粧肌について各540点を平均した反射スペクトルを図3に示す。図3中、横軸は波長、縦軸は反射率であり、実線は素肌、破線は化粧肌を示す。両者の反射特性は非常に良く似ているが、僅かに違いがあることが分かる。このスペクトル差は、血中ヘモグロビンの吸収特性(550nm〜600nm)などの物理特性に基づくものである。
【0078】
〈2〉分光フィルタのモデル化
人間にはほとんど同一の色として知覚される場合であっても、その反射光スペクトルには物性の違いが現れる。この反射スペクトルの違いを捉えることで二状態を判別することがフィルタ2の目的である。そのため、フィルタ2の透過特性にはスペクトル差が特に大きい特定波長のみを通す狭帯域性が求められる。しかしながら、その一方で光学フィルタとして実現するためには波長軸上での透過特性の変化がある程度なめらかである必要がある。そこで、スプライン関数モデルを用いて、フィルタ2の分光特性T(λ)を少数パラメータp1,p2,・・・,ptで記述した。スプライン関数モデルは次式[数2]のように表され、透過特性を記述するパラメータ数は波長λの範囲とスプライン関数の帯域幅ωによって決まる。
【0079】
【数2】
【0080】
ここでは波長範囲を405nm〜735nm、スプライン関数の帯域幅を15nmとした。このときのパラメータ数は23である。このモデル化により、最小で15nmの狭帯域透過特性や特定波長範囲を透過するバンドパス特性などを波長数よりも少数の変数で記述できる。
【0081】
〈3〉色情報の計算
判別分析はディジタルカメラ3の出力からなる色情報に対して行うので、スペクトルから色情報を算出する過程を設定しなければならない。一般的なディジタルカメラの場合、直接のカメラ出力はRGB値である。ここではディジタルカメラ3の感度特性として市販ディジタルカメラNikonD70(株式会社ニコンの商標または登録商標)の感度特性を実測し、それを用いてRGB値を算出した。ディジタルカメラ3のRGB感度特性を図4に示す。図4中、横軸は波長、縦軸は感度であり、太い実線は青色に対する感度、点線は緑色に対する感度、黒丸付きの細い実線は赤色に対する感度を示す。なお、NikonD70のガンマ特性は実測した入出力特性から推定してγ=0.7444とし、これを考慮した上で図4に示すRGB感度特性を得た。
【0082】
図4に示すRGB感度特性をそれぞれSR(λ)、SG(λ)、SB(λ)とおくと、RGB値の算出は、次式[数2−1]で表すことができる。
【0083】
【数2-1】
【0084】
ここで判別分析に用いる色情報CFijとして、RGB値から次式[数3]で算出される色度rij,gijを用いた。即ち、CFij=(rij,gij)とした。この色度は、RGB値の和(Rij+Gij+Bij)で除算を行った相対値であり、輝度と無相関のパラメータになっているため、これを用いることで光源ムラなど一般的に現れやすい環境誤差の影響を受けずに状態検出を行えるフィルタが設計できる。
【0085】
【数3】
【0086】
〈4〉性能評価
フィルタ2の性能は、〈3〉で求めた色情報を元に判別分析を行ったときの判別精度をもって評価される。使用した判別分析法は、最も新規入力に対する判別精度が高いとされる線形判別分析を用いた。二群の判別を目的とする線形判別分析は次式[数4]で表されることが知られており(非特許文献1参照)、次式[数4]で表される判別関数fdを用いることとした。
【0087】
【数4】
【0088】
なお、xは判別すべき色情報、μ1は第1群に属する色情報CF1jの平均、μ2は第2群に属する色情報CF2jの平均、P1は第1群に属する色情報CF1jの事前確率(観測確率)、P2は第2群に属する色情報CF2jの事前確率とする。分光透過率T(λ)が変化すると算出される色情報CFijが変化するため、分散共分散行列Σ、平均μ1、μ2は、再計算される。P1、P2は共に0.5とされる。
【0089】
そして、「fd(CFij)≧0のとき、色情報CFijを第1群に分類し、fd(CFij)<0のとき、色情報CFijを第2群に分類する」という上記判別ルールに従って色情報CFijを分類し、上記[数1]で表される誤判別率eで性能評価する。
【0090】
〈5〉最適化
〈1〉〜〈4〉により、このフィルタ2の設計問題は非線形最適化問題として定式化された。最適化すべきパラメータ数は〈2〉で述べた通り23であり、〈4〉で定義した誤判別率eを最小化するものを求める。ここでは、確率的最適化手法の一種であるSA(シミュレーティッドアニーリング)法を用いた。ここで用いる最適化手法はGA(遺伝的アルゴリズム)やNelder-Mead法などSA法以外の手法でもかまわない。実施例における最適化の手順は次のステップ1〜5からなる。
〈ステップ1〉各パラメータ初期値を次の[数5]のように定める。なお、各記号の意味を表2に示す。
【0091】
【数5】
【0092】
【表2】
【0093】
〈ステップ2〉次の[数6]のように、変動量値を更新する。保有解に乱数を付加したものを新しい解(生成解)とし、分光特性を求める(上記〈2〉参照)。生成数と重点化変数を1増やす。
【0094】
【数6】
【0095】
〈ステップ3〉分光特性と教師データから生成解の誤判別率を求め(上記〈3〉,〈4〉参照)、現在の保有解ならびに最良解と比較する。
(イ)次の[数7]のように、最良解よりも生成解の誤判別率が低い場合には、最良解、保有解を更新し重点化変数を0に戻す。
【0096】
【数7】
【0097】
(ロ)次の[数8]のように、乱数付加前よりも生成解の誤判別率が改善されている場合には、保有解を更新する。
【0098】
【数8】
【0099】
(ハ)生成解の誤判別率が改善されていない場合(即ち、上記(イ)(ロ)のいずれでもない場合)には、次の[数9]のように、確率分布にしたがって保有解を更新するか否かを決定する。
【0100】
【数9】
【0101】
〈ステップ4〉生成数が生成数閾値を超えていないならばステップ2へ戻り、超えていればステップ5に進む。
〈ステップ5〉次の[数10]のように、生成数を初期化、温度を更新する。重点化変数が再重点化閾値を越えているならば保有解を最良解に更新し、越えていなければ更新しない。そして、温度が目標温度に達していないならばステップ2へ戻り、目標温度に達していれば、そのときの最良解を最適パラメータとする。
【0102】
【数10】
【0103】
2.フィルタ分光透過率の最適化と光学フィルタ化の結果
上記1.の設計方法によって得られた分光透過率(最適T(λ))を、図5に黒丸付き実線で示す。また、この分光透過率(理論設計)を表3に示す。併せて、SiO2とTiO2を積層し膜生成シミュレーションを行い、理論設計に近似した特性が物理的に実現可能であることを確認した。膜生成シミュレーションにより得られた分光透過率を、図5に点線で示すとともに、表4−1〜4−2に示す。また、このときの膜構成は、表5に示すように、SiO2/TiO2交互層にて計31層であった。この膜構成は、所要の分光透過率を得るための公知の膜設計ソフト(「Film Star」FTG Software Association社、USA)を使用して求めたものである。
【0104】
【表3】
【0105】
【表4-1】
【0106】
【表4-2】
【0107】
【表5】
【0108】
その後、実際に真空蒸着装置にて成膜を行い、膜シミュレーションとほぼ近似の特性が得られることを確認した。図6に、上記設計方法によって得られた分光透過率(理論設計)を破線で、実際に成膜した多層膜光学フィルタ2(実設計)の分光透過率を実線で示す。
【0109】
理論設計と実設計の透過特性にはずれが見られるが、教師スペクトル群に対する判別精度を上記[数4]の判別関数で評価したところ、理論設計での判別精度が82.5%であったのに対し、実設計の透過特性から求めた判別精度は82.9%であった。わずかであるが透過特性の誤差は判別精度を向上させる方向に作用している。なお、上記[数4]の判別関数での評価の際には、[数4]内のパラメータ(平均μ1,μ2、分散共分散行列Σなど)は再計算した。
【0110】
3.フィルタリングの効果検証
実際に成膜した上記フィルタ2が素肌と化粧肌の判別に有効であることを確認するために、フィルタ有り・無しそれぞれの場合についてディジタルカメラ3(NikonD70)で素肌と化粧肌の撮影を行い、出力されたRGB値から構成される色情報(r,g)の分布を評価した。なお、r、gは、フィルタ2の設計時と同じく、RGB値のうちのR値、G値をそれぞれRGB値の和(R値+G値+B値)で除した値であるが、ここでは、[数2−1]のような式で算出したRGB値ではなく、実際にカメラ3から出力されたRGB値を用いる。すなわち、作成されたフィルタ2を用いた評価時には、実際にカメラ3から出力されたRGB値を用いる。図7−1は、フィルタ無しの場合に撮影によって得られた色情報の分布であり、図7−2は、フィルタ有りの場合に撮影によって得られた色情報の分布である。色情報は、被験者20名の素肌と化粧肌のそれぞれの場合の全顔から各被験者数百点ずつ自動抽出した。また、これらの図中、濃い色の点は素肌、薄い色の点は化粧肌の色情報であり、図中に示される楕円は、分布に二次元正規分布を仮定したときの、1σの等確率楕円である。これらの図よりあきらかに、フィルタ2を用いない場合には、素肌と化粧肌とで色情報の分布が重なっており、色情報に基づく判別は不可能であるが、フィルタ2を装着することで素肌と化粧肌とで色情報の分布が分離され、非常に高い精度で判別可能となっている。
【0111】
即ち、実施例のフィルタ2は、フィルタ2を介してディジタルカメラ3で化粧肌を撮影したときの色情報の群を第1群、フィルタ2を介して同ディジタルカメラ3で素肌を撮影したときの色情報の群を第2群、フィルタ2を介さずに同ディジタルカメラ3で化粧肌を撮影したときの色情報の群を第3群、フィルタ2を介さずに同ディジタルカメラ3で素肌を撮影したときの色情報の群を第4群、と表記したときに、第1群(図7−2の薄い色の点の群)と第2群(図7−2の濃い色の点の群)との分離の程度が、第3群(図7−1の薄い色の点の群)と第4群(図7−1の濃い色の点の群)との分離の程度よりも大きくなるように、多層膜の分光透過率が設定されている。ここで、「第1群と第2群の分離の程度」とは、第1群に属する色情報の分布範囲と第2群に属する色情報の分布範囲との分離の程度をいう。第3群と第4群の分離の程度についても同様である。また、「分離の程度が大きい」とは、「重なりが小さい」と換言できる。
【0112】
さらに、実施例のフィルタ2によれば、第1群に属する色情報を一方の側に第2群に属する色情報を他方の側に所定の精度以上の分類精度で分類する境界を設定可能な程度に、第1群と第2群とが分離される。ここで、境界は、実施例のフィルタ2を作成したときの判別関数fd(但し、各パラメータは図7−2に示す第1群と第2群の色情報から再計算されたもの)で表され、具体的には、fd(x)=0を満たすxからなる線であり、図7−2中に破線で示す。そして、上述した判別精度から、この境界は、80%以上(図7−2の例では90%以上)の高精度で、第1群に属する色情報を境界の一方の側に、第2群に属する色情報を境界の他方の側に分類可能である。なお、境界の分類精度は、フィルタ2の用途等から定められる所定の精度以上であればよく、80%以上に限られない。
【0113】
また、図7−1中に示す破線は、第3群と第4群とから計算される境界fd(x)=0を示し、この境界によっては第3群に属する色情報と第4群に属する色情報とを分類することは困難であることが分かる。
【0114】
4.組成の異なるファンデーションの検出と塗布量の定量評価
図8はファンデーション4種(液体2種、粉体2種)の塗布量を変化させて、実設計のフィルタ2をディジタルカメラ3のレンズ7に装着して計測を行った際の検出結果である。図8の縦軸は判別分析の際に得られる判別スコアfd(x)を表す。ここで、判別関数fdは、フィルタ2の作成に用いた[数4]で表される関数であるが、各パラメータ(すなわち、分散共分散行列Σ、平均μ1,μ2)は、図7−2に示す第1群と第2群の色情報から再計算されたものである。なお、事前確率P1,P2は0.5で固定とし再計算しない。後述する5.〜7.における判別関数fdも同様である。すなわち、フィルタ2の作成時とフィルタ2を用いた評価時とで、用いられる判別関数fdは、同じ式で表されるがパラメータ(係数)が異なり得る。塗布部は両前腕とし、塗布量は、粉体の場合は0.2〜0.3[mg/cm2]、液体の場合は1/3[μl/cm2]を基準量として、1倍〜3倍までの3段階と規定した。図8では、左から順に第1の粉体を塗布した場合、第1の液体を塗布した場合、第2の粉体を塗布した場合、第2の液体を塗布した場合を示し、これらの各場合について、塗布量が1倍の場合を黒色、2倍の場合を灰色、3倍の場合を白色で示す。
【0115】
図8より、ファンデーションごとに検出値に違いはあるが、いずれのファンデーションについても検出可能であることが確認された。また、単一のファンデーション内であれば塗布量が多いほど判別スコアが高く、判別スコアから塗布量を定量評価できる可能性が高いことが分かった。
【0116】
定量評価の方法としては、例えば、塗布量を変化させた教師スペクトル群から判別スコアと塗布量との対応テーブルを作成して上記判別装置4内に用意しておき、判別装置4が、その対応テーブルを参照して、観察対象の観測点における判別スコアから、その観測点における塗布量を推定し出力する方法や、後述する7.のように検量線を用いる方法がある。
【0117】
5.化粧塗布領域の可視化
図9に、同一人の顔の向かって左半分を化粧を塗布しない素肌部、右半分をファンデーションを塗布した化粧塗布部として、ファンデーション塗布状態を計測し、分布を可視化した結果を示す。なお、図9の各図は、カラー画像を擬似的に表したものであり、素肌部の色と同色の部分には網掛け表示を施さず、素肌部の色と異なる色の部分には網掛け表示を施し、更に、異なる色には異なる網掛け表示を用いることにより色の違いを表している。
【0118】
図9(a)はフィルタ2を用いない場合の計測結果であり、化粧塗布部と素肌部とでは色の違いが現れず、両者の判別が困難であることが分かる。
【0119】
図9(b)はフィルタ2を装着して撮影したカラー画像である。フィルタ2を装着することによって、化粧塗布部と素肌部との間に色の違いが生じ、化粧塗布部が鮮明化されていることが分かる。
【0120】
さらに図9(b)のカラー画像に対して判別分析を行い、判別スコアをカラーリングしたものが図9(c)である。着色部(網掛け表示が施された部分)が化粧塗布部(第1の状態)と判別された領域であり、カラーマップを用いてファンデーションの分布を評価することが出来る。なお、図9(c)における網掛け表示は、右側のダイヤグラムに示すように、0〜3までの判別スコアに対応している。
【0121】
図9(d)は、上記3.で示した色情報群から推定した母集団の統計情報を元に、観測部が化粧塗布部である確率をマッピングしたものである。この可視化手法を用いることで、計測結果を定量情報として取り扱うことが出来る。このケースでは意図的に全顔の半面にファンデーションを塗布しているため、ほぼ塗布域全域にわたって略100%と評価されている。なお、図9(d)における網掛け表示は、右側のダイヤグラムに示すように、0〜100%までの確率に対応している。
【0122】
ここで、上記確率の算出法について説明する。ある画素が色度CF=(r,g)であるときに、その部分が化粧塗布部であるという事後確率P(化粧|CF)は、次式[数11]で表される。
【0123】
【数11】
【0124】
ここで、p化粧、p素肌は任意の画素を調べたときに、そもそも化粧が塗布されているか、塗布されていないかを表す確率(事前確率)であり、今回の場合、化粧を塗布するか否かについての事前の情報は無いものとして、それぞれp化粧=p素肌=0.5(等確率)とした。また、P化粧(CF)、P素肌(CF)はそれぞれ、化粧肌、素肌の場合の色度の確率分布(即ち、化粧肌、素肌のそれぞれについて、どのような色になることが多いかを表すもの)である。具体的なP化粧(CF)、P素肌(CF)の値は、計測された色度データ(図7−2)に対して2次元正規分布を当てはめることで求めた。ここで、フィルタ2の作成時に用いた色度データではなく、実際に計測した色度データを用いたのは、照明光等の計測環境が評価時と略同じだからである。
【0125】
以上のようにして、事後確率P(化粧|CF)を元の画像(図9(b))の全画素について求め、可視化したものが図9(d)である。
【0126】
6.クレンジング状態の化粧分布評価
被験者自身の手法でクレンジングを行ったケース(自己流クレンジング)と、専門家の指導を受けてクレンジングを行ったケース(指導付きクレンジング)について、それぞれ化粧分布を計測・評価した。図10はマネキン上に計測した被験者9名の化粧分布の平均をプロットしたものである。図10における網掛け表示は、右側のダイヤグラムに示すように、−1.5〜+1.5までの判別スコアに対応し、(a)は自己流クレンジング、(b)は指導付きクレンジング、(c)は化粧塗布状態を示す。但し、指導付きクレンジング(図10(b))と化粧塗布状態(図10(c))の化粧分布が一様となるように正規化を行っている。化粧分布の平均は、各被験者の顔の輪郭、目や鼻などの特徴点が一致するように画像変換を行うことで求めた。ここでは変換手法として局所重み平均法(local weighted mean)を用いた。
【0127】
ここで、正規化画像の作成方法について説明する。図10(a)は、被験者9名分の指導付きクレンジングの平均分布画像をIn(x,y)、化粧塗布の平均分布画像をIc(x,y)とし、In(x,y)=−1、Ic(x,y)=+1となるように正規化したときの相対的な変化として、自己流クレンジングの化粧分布画像IFN(x,y)を表示したものである。正規化前の分布画像をIF(x,y)とすれば、正規化後のIFN(x,y)の各画像値は次式[数12]で表される。
【0128】
【数12】
【0129】
これにより、化粧の塗布状態以外の要因(顔の場所、光の当たり方など)による変化をキャンセルし、純粋に化粧塗布状態の変化を捉えることができる。
【0130】
図10(a),(b)を比較すると、額の生え際付近で被験者自身の手法でクレンジングした場合にファンデーションが検出されやすいことが確認できる。これは従来の知見と一致する結果であることから、フィルタ2を用いることでクレンジング残りが起きやすい部位を可視化できたといえる。さらに、画像中に存在するファンデーション塗布部である確率が90%を超える画素の数を比較したところ、図11に示されるように二条件で差がみられた。これらについて片側検定・有意水準0.01でt検定を行ったところ有意差が認められた。
【0131】
7.肌上のファンデーション付着量定量手法
7−1.概要
実施例のフィルタ(上記2.で成膜した実設計のフィルタ)2を用いて撮影された画像から被写体の肌に付着するファンデーションの量を定量するための検量線を定義し、ファンデーション塗布状態の定量的評価手法を実現した。検量線は、既知の液体型ファンデーションを塗布したときの顔画像を基に定義した。フィルタ出力から直接ファンデーション付着量を推定する対数関数型と、事前に計測しておいた素肌画像を用いて補正を行うベースライン補正型の、二種類の検量線を設計した。後者はクレンジング残りのような微量のファンデーションを検出する際に効果を発揮する。以下、詳説する。
【0132】
7−2.検量線作成実験
実施例のフィルタ2は、素肌と化粧肌の判別精度最大化を目的として設計されているが、実際に計測画像から得られる判別スコアにはファンデーション塗布量との相関が確認されている。すなわち、判別スコアからファンデーション塗布量を推定できる可能性がある。そこで、判別スコアとファンデーション塗布量との間に検量線を引くために、検量線作成実験を行った。以下にその実験内容を述べる。
【0133】
(1)実験手法
ファンデーション塗布量とフィルタ出力の関係を明らかにするために、顔全体の14箇所に量をコントロールした液体型ファンデーションを塗布し、実施例のフィルタ2を装着したディジタルカメラ3で撮影を行った。カメラ3は、フィルタ2の設計に用いたものと同じNikonD70を用いた。塗布領域を図12に、実験条件を表6に示す。表6に示すように、光源(照明光)としては、蛍光灯Diva-Lite(国際照明株式会社の商標または登録商標)のデイライトタイプを用いた。なお、図7−1、7−2に示す色情報の計測においても、この照明光を用いている。光源の色温度は約6000Kであり、鏡面反射を防止するために光源に偏光フィルムを装着するとともに、カメラ3にも偏光フィルタを装着した。また、色校正用色票としてx-rite Muncell Color Checker mini(エックスライト社の商標または登録商標)の白を用い、被験者の顔と共にその色票を撮影し、カメラ3から出力された各画素のRGB値を、コンピュータからなる判別装置4に入力し、判別装置4において、色票の部分のRGB値が白を示す値となるように補正を行なってから、判別関数fdで判別スコアを算出した。図12に示すように、観測角度は正面と±45°の3方向とした。図12中では塗布領域14箇所に番号を割り振っており、各観測角度について図示されている長方形枠領域は実際に分析に用いる領域を示している。塗布領域の面積は3cm×2cmとした。使用するファンデーションの色は、全6色から被験者毎に最も適していると思われる1色を被験者自身が選択したが、被験者が4名であるので、実際に使用された色は4色であった。
【0134】
【表6】
【0135】
実験では最初に素肌状態を計測し、その後ファンデーション塗布量が規定量になるように重ね塗りを繰り返しながら計測した。塗布量のコントロールにはマイクロピペットを使用した。実験手順の詳細を以下に示す。
【0136】
〈1〉洗顔、クレンジング、化粧水塗布
〈2〉化粧下地塗布
〈3〉素肌状態計測
〈4〉ファンデーション塗布(各領域に0.5[μL])
〈5〉化粧塗布状態の計測
〈6〉ファンデーションを重ね塗りし、塗布量を次の計測条件(表6参照)と一致させる
〈7〉〈5〉に戻り、以下塗布量10[μL]となるまで繰り返す
(2)実験結果
上記検量線作成実験により得られた塗布量と判別スコアの関係を、図13に示す。図13は、横軸を1cm2当たりの塗布量、縦軸を判別スコアとして、全被験者、全領域から得た塗布量ごとの判別スコアの平均値をプロットしたものであり、図中のエラーバーは塗布量ごとの標準偏差を表す。図13より、ファンデーション塗布量と判別スコアの間に対数関数的な関係を確認できる。
【0137】
7−3.検量線の設計と評価
検量線作成実験より、塗布量と判別スコアの間に明らかな対数的関係を確認できた。そこで、図13の計測データに対するフィッティング関数として、以下に示す2つの式を定義した。式のyは判別スコア、xはファンデーション塗布量y0は素肌状態での判別スコアを表す。a、b、cは係数ならびに定数項である。
【0138】
【数13】
【0139】
【数14】
【0140】
[数13]は単純な対数関数であるのに対し、[数14]はx=0の時y=y0を充たすようにベースライン補正を加えられている。これにより、素肌状態を計測した場合にはファンデーション塗布量が0となる推定式を得ることが出来る。
【0141】
そして、[数13]及び[数14]の係数ならびに定数項を、図13に示す実験結果を基に、最急降下法と最小二乗法を用いて求めた。求めた係数及び定数項、検量線から得られる推定値(すなわち、実際の塗布量に対する判別スコアを検量線に当てはめることにより推定した推定塗布量)と実際の塗布量との決定係数R2、予測標準誤差(SEP)を表7に示す。なお、[数13]で表される検量線を対数関数型、[数14]で表される検量線をベースライン補正型という。SEPは下記式[数15]を用いて求めた。[数15]におけるNはサンプルの総数、xi’は塗布量xiに対する推定値を示す。表7より、いずれの検量線を用いた場合でも非常に高い推定精度を得られることが分かる。
【0142】
【表7】
【0143】
【数15】
【0144】
[数13]、[数14]で表される検量線を用いたときの推定値は、それぞれ、図14図15に示すとおりである。図14図15の実線は、横軸を実際の塗布量(1cm2当たり)、縦軸を推定値(1cm2当たり)として、全被験者、全領域の塗布量ごとの推定値の平均をプロットしたものであり、図中のエラーバーは標準偏差を示す。図15より、ベースライン補正型は、特に塗布量が少ない場合に誤差が小さいことがわかる。
【0145】
7−4.適用例
7−3.において、フィルタ2を用いることで肌に付着しているファンデーションの付着量を高精度に推定可能であることが示された。そこで、上に述べた二つの検量線を顔画像の画素ごとに適用し、実際にファンデーションを塗布した顔画像のファンデーション分布を推定した。ベースライン補正型については、事前に計測した素肌状態の判別スコアを、[数14]におけるy0とし、画素ごとに塗布量を求めた。なお素肌画像と可視化対象である顔画像との位置ずれは、輪郭、パーツの位置などが一致するように画像変換を適用することで解消した。画像変換には、局所重み平均法を用いた。
【0146】
(1)検量線作成実験の計測画像
まず検量線の効果確認のために、検量線作成実験で計測した被験者1名の顔画像に対して検量線を適用した。図16は対数関数型の検量線を用いた場合、図17はベースライン補正型の検量線を用いた場合の可視化結果であり、各画像は、左から順に、実際の塗布量が1塗布領域(=6cm2)当たり0、1、2、4、6、10μLの各場合を示す。なお、求めたファンデーション分布は、画像変換を用いてメイクアップドールの画像上に貼り付けて表示されている。詳しくは、判別装置4において、図16、17の右端部のスケールに示すように推定値に応じて色を設定しておき、被験者の顔画像の各塗布領域の各画素について、その色情報から判別関数fdを用いて判別スコアを算出し、判別スコアに検量線を適用して塗布量を推定した。そして、その推定値に応じた色を、メイクアップドールの画像上の対応する画素に表示した。なお、図16図17は、推定値が高いほど色が濃くなるように設定したグレースケール画像であるが、実際にはカラー画像で表している。図16図17より、いずれの検量線を用いた場合も良好な推定結果が得られていることが分かる。また、特に素肌状態に着目すると、対数関数型の検量線を用いた場合(図16)は頬や唇にエラーが現れているが、ベースライン補正型の検量線を用いた場合(図17)はこれが現れないことが確認できる。
【0147】
(2)ファンデーション一様塗布状態の可視化
主観的に肌色が一様に見えるようファンデーションを一様に塗布したときのファンデーション付着量を可視化した。詳しくは、被験者1名に目視で肌色が一様に見えるようにファンデーション1種類を顔全体に塗布してもらい、フィルタ2を装着したカメラ3で撮影してその出力値を判別装置4に入力し、判別関数fdを用いて判別スコアを算出し、検量線を適用して、ファンデーション付着量の推定値を得た。なお、検量線作成実験のときと同じ条件で撮影を行い、同じ色票で補正を行なった。そして、判別装置4で推定値に対応して色を設定しておき、推定値に応じた色を被験者の顔の画像の上に表示することにより、推定値の可視化を行った。可視化結果を図18に示す。検量線は、[数13]に示される対数関数型を使用した。図18より、目視では一様に分布しているように見えるファンデーションが、実際には非常に不均一に分布していることが分かる。なお、図18は、図の右端部のスケールに示すように、推定値が高いほど色が濃くなるように設定したグレースケール画像であるが、実際にはカラー画像で表している。
【0148】
7−5.ファンデーション色の影響調査
ファンデーションの色が塗布量と判別スコアとの相関関係に与える影響を調査するために、被験者1名の顔の6箇所にそれぞれ異なる色のファンデーションを塗布し、フィルタ2を装着したカメラ3で撮影してその出力値を判別装置4に入力し、判別スコアを算出する実験を行った。なお、検量線作成実験のときと同じ条件で撮影を行い、同じ色票で補正を行なった。塗布量は1回の塗布につき3μL/9cm2と一定にし、塗布回数は4回とした。また、用いたファンデーションの色は、オークルB(Ocher B)、オークルC(Ocher C)、オークルD(Ocher D)、ベージュB(Beige B)、ベージュC(Beige C)、ベージュD(Beige D)である。なお、検量線作成実験のときと同じ条件で撮影を行い、同じ色票で補正を行なった。
【0149】
上記実験により得られた塗布量と判別スコアの関係を、図19に示す。図19は、横軸を1cm2当たりの塗布量、縦軸を判別スコアとして、各ファンデーション色に対する判別スコアをプロットしたものである。図19より、ファンデーションの色が塗布量と判別スコアとの相関関係に与える影響は、小さいことが分かる。すなわち、色が異なるファンデーションに対しても、同じ検量線を適用できることが分かる。
【0150】
以上説明したことから、フィルタ2を用いた評価システム1によれば、判別装置4において観察対象5の各部分について判別スコアを算出でき、判別スコアから当該部分におけるファンデーション等の化粧料の付着量(塗布量)を定量的に評価できる。また、その判別スコアを、観察対象5の画像、または、観察対象5を模した画像(例えば、マネキンの顔の画像)上の該当部分に、色等で表示すれば、化粧料の付着量を可視化できる(図9(c)参照)。
【0151】
また、判別装置4において、観察対象5の各部分について化粧肌である確率または素肌である確率を推定することもでき、その確率を、観察対象5の画像、または、観察対象5を模した画像上の該当部分に、色等で表示すれば、化粧肌または素肌である確率を可視化できる(図9(d)参照)。
【0152】
さらに、判別スコアから肌上の化粧料の付着量を高精度に推定できる(すなわち、定量的な評価を行うことができる)ので、その推定値に基づいて、化粧料のつき、広がり、なじみ具合等、化粧料の塗布性を評価することや、経時的な化粧料の付着量の変化を観察して、化粧崩れ等、化粧料の持続性を評価することができる。すなわち、肌への化粧料の付着量から、その化粧料の塗膜を評価できる。また、推定値を、観察対象5の画像、または、観察対象5を模した画像上の該当部分に、色等で表示すれば、化粧料の付着量を可視化できる。
【0153】
なお、評価時に用いる色情報は、実施例の色度のようにカメラ3の出力から算出するものでなくてもよく、カメラ3の出力をそのまま用いることも可能である。但し、実施例のように、RGB値のうちの2値(例えば、R値とG値)をそれぞれRGB値の和(すなわち、R値+G値+B値)で除算した値からなる2次元データである色度を、色情報として用いれば、上述したように環境誤差の影響を受け難くなるとともに、二次の判別関数を用いることができて、判別が容易である。なお、rijまたはgijの代わりに、B値をRGB値の和で除算したbijを用いてもよい。
【0154】
また、上述した二状態の判別を繰返して行うことにより、3つ以上の状態を判別することも可能である。あるいは、上述したように、判別する際の閾値を2つ以上設けることにより、3つ以上の状態を判別することも可能である。
【0155】
さらに、判別関数は、二状態の判別が可能なものであればよく、線形のものにに限らず、非線形であってもよい。以下、マハラノビス距離を用いた例について説明する。マハラノビス距離とは、観測Xが群iからどれだけ離れているかを示す距離であり、観測Xの群iからのマハラノビス距離Di(X)は、次式[数16]で表される。
【0156】
【数16】
【0157】
分散共分散行列に基づくため、マハラノビス距離が等しい点の集合は、図20に示すように楕円を描く。群の分布をそれぞれ二次元正規分布と仮定すれば、マハラノビス距離を所属確率(群に所属する確率)に置き換えることができ、等マハラノビス距離の楕円は等所属確率楕円ということができる。したがって、教師スペクトル群から第1群と第2群の平均と分散共分散行列とを求めておき、判別すべき色情報が与えられたとき、第1群及び第2群からのマハラノビス距離を求めて、マハラノビス距離が小さい(すなわち、所属確率が高い)方の群に分類すればよいこととなる。すなわち、両群からの所属確率が等しい点が作る境界(図20の符号Lで示す線)を表す関数を判別関数として、この境界のどちら側にあるかで分類することができ、マハラノビス距離から二次の判別関数を得られることとなる。両群の分散共分散行列が等しければ、この判別関数は線形となるが、そうでない場合には非線形となる。
【符号の説明】
【0158】
1…評価システム
2…分光フィルタ
3…ディジタルカメラ
4…判別装置
5…観察対象
8…透明基材
9…多層膜
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図9
図10
図11
図13
図14
図15
図19
図20
図7-1】
図7-2】
図8
図12
図16
図17
図18