(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光線式安全装置を備えた従来のプレス機械では、スライドの下降中に作業者等が作業領域に侵入したことが検知されると、安全確保のためにスライドの下降が停止されるように駆動制御される。
【0007】
また、スライドの上昇中に作業者等が作業領域に侵入する可能性がある場合や、1つのワークが加工される毎にワークを下型から搬出するような場合は、作業モードを、1行程毎にスライドを起動及び停止させて、スライドを必ず上死点で停止させる非連続モードに設定しておく必要がある。このような非連続モード以外のモードで加工している場合に、作業者等が作業領域に侵入したときには、スライドが急停止させられるようになっている。しかし、このように一律にスライドを急停止させるような駆動制御では、生産性が損なわれてしまう。
【0008】
以上のように、従来のプレス機械では、安全性確保のために、生産性が低下するという問題がある。
【0009】
本発明の課題は、プレス機械において、安全性を損なうことなく生産性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係るプレス機械のスライド制御装置は、スライドを昇降させてプレス加工を行うプレス機械に設けられ、スライドの駆動を制御する装置であり、スライドの位置を検出するスライド位置検出手段と、スライドの移動方向を検出するスライド移動方向検出手段と、予め定められた作業領域に侵入物が侵入したことを検知する侵入物検知手段と、判断手段と、駆動制御手段と、を備えている。判断手段は、スライドの下降行程において、スライドの位置及び移動速度と侵入物の侵入速度とを参照して、作業領域に侵入した侵入物が予め設定された危険領域に到達するか否かを判断する。駆動制御手段は、判断手段の判断結果により、スライドの駆動を制御する。
【0011】
この装置では、予め定められた作業領域に作業者やロボット等の侵入物が侵入したか否かが検知される。侵入物の侵入速度は規格等によって予め設定されている。そして、スライドの下降行程において侵入物が作業領域に侵入したことが検知されると、スライドの位置及び移動速度と侵入物の侵入速度とに基づいて、侵入物が予め設定された危険領域に到達するか否かが判断される。この判断結果に応じてスライドの駆動が制御される。
【0012】
ここでは、侵入物が作業領域に侵入した時点におけるスライドの状況を確認してスライドの駆動が制御される。例えば、侵入物が作業領域に侵入したとしても安全が確保される場合は、スライドの駆動を停止させる必要はないので、下降行程が続行される。したがって、従来装置のように侵入物の作業領域への侵入を検知してスライドを停止する場合に比較して、安全性を損なうことなく生産性を向上させることができる。
【0013】
第2発明に係るプレス機械のスライド制御装置は、第1発明の装置において、危険領域は侵入物がスライドに干渉する領域である。
【0014】
ここでは、侵入物がスライドに干渉するか否かによってスライドの駆動が制御されるので、安全性が確保される。
【0015】
第3発明に係るプレス機械のスライド制御装置は、第1又は第2発明の装置において、危険領域は侵入物がスライドに干渉し、かつスライド下方に侵入物が侵入可能な領域である。
【0016】
ここで、スライドの下降行程において、侵入物が作業領域に侵入し、スライドが上昇行程に移行するまでに侵入物がスライドと干渉するような危険な位置にまで到達することが予想されたとしても、侵入物が危険な位置に到達するときに上型と下型との間に侵入物が侵入できないような隙間しかないような位置までスライドが下降している場合は、危険は避けられる。
【0017】
そこで、以上のような場合は、危険領域から除外している。これにより、生産性をより向上することができる。
【0018】
第4発明に係るプレス機械のスライド制御装置は、第1から第3発明のいずれかの装置において、駆動制御手段は、スライドの下降行程において、侵入物が危険領域に到達しないと判断した場合はスライドの下降を続行し、侵入物が危険領域に到達すると判断した場合はスライドの下降を停止する。
【0019】
ここでは、前記同様に、安全性を損なうことなく生産性を向上させることができる。
【0020】
第5発明に係るプレス機械のスライド制御装置は、スライドを昇降させてプレス加工を行うプレス機械に設けられ、スライドの駆動を制御する装置であり、スライドの位置を検出するスライド位置検出手段と、スライドの移動方向を検出するスライド移動方向検出手段と、予め定められた作業領域に侵入物が侵入したことを検知する侵入物検知手段と、判断手段と、駆動制御手段と、を備えている。判断手段は、スライドの上昇行程において作業領域に侵入物が侵入しているときに、スライドの位置、移動速度、及びブレーキ作動時の停止可能距離を参照してスライドが安全位置で停止可能か否かを判断する。駆動制御手段は、判断手段の判断結果により、スライドの駆動を制御する。
【0021】
この装置では、予め定められた作業領域に作業者やロボット等の侵入物が侵入したか否かが検知される。そして、スライドの上昇行程において侵入物が作業領域に侵入したことが検知されると、スライドの位置、移動速度、及びブレーキ作動時の停止可能距離に基づいて、スライドが安全位置で停止可能か否かが判断される。この判断結果に応じてスライドの駆動が制御される。
【0022】
ここでは、侵入物が作業領域に侵入した時点におけるスライドの状況を確認してスライドの駆動が制御される。例えば、侵入物が作業領域に侵入したときに、スライドが安全位置を越えて停止することが予測された場合にのみスライドを停止させる。このため、1行程毎にスライドを必ず上死点で停止させるモード以外のモードにおいても、スライド上昇中に加工後のワークを下型から搬出することができる。したがって、従来装置に比較して、安全性を損なうことなく生産性を向上させることができる。
【0023】
第6発明に係るプレス機械のスライド制御装置は、第5発明の装置において、安全位置はスライドの昇降範囲における上死点位置である。
【0024】
ここでは、スライド上昇行程において侵入物が作業領域に侵入したとき、スライドが上死点を越えない範囲でスライドを停止させられるので、安全性が確保される。
【0025】
第7発明に係るプレス機械のスライド制御装置は、第5発明の装置において、安全位置はスライドの昇降範囲における上死点位置を越えかつ許容限界以内の位置である。
【0026】
ここでは、スライド上昇行程において侵入物が作業領域に侵入したとき、スライドの停止予測位置が上死点を越えても許容限界以内であれば安全であると判断されるので、安全性を損なうことなく、生産性をより向上することができる。
【0027】
第8発明に係るプレス機械のスライド制御装置は、第5から第7発明の装置において、駆動制御手段は、判断手段が、スライドが安全位置を越えると判断した時点でスライドを停止する。
【0028】
ここでは、前記同様に、安全性を損なうことなく生産性を向上させることができる。
【0029】
第9発明のプレス機械のスライド制御装置は、スライドを昇降させてプレス加工を行うプレス機械に設けられ、スライドの駆動を制御する装置であり、スライドの位置を検出するスライド位置検出手段と、スライドの移動方向を検出するスライド移動方向検出手段と、予め定められた作業領域に侵入物が侵入したことを検知する侵入物検知手段と、判断手段と、駆動制御手段と、を備えている。判断手段は、スライドの下降行程において、スライドの位置及び移動速度と侵入物の侵入速度とを参照して、作業領域に侵入した侵入物が予め設定された危険領域に到達するか否かを検出する。また、判断手段は、スライドの上昇行程において作業領域に侵入物が侵入しているときに、スライドの位置、移動速度、及びブレーキ作動時の停止可能距離を参照してスライドが安全位置で停止可能か否かを判断する。駆動制御手段は、判断手段の判断結果により、スライドの駆動を制御する。
【0030】
第10発明のプレス機械のスライド制御装置は、第9発明の装置において、駆動制御手段は、スライドの下降行程において、侵入物が危険領域に到達しないと判断した場合はスライドの下降を続行し、侵入物が危険領域に到達すると判断した場合はスライドの下降を停止する。また、駆動制御手段は、スライドの上昇行程において、判断手段が、スライドが安全位置を越えると判断した時点でスライドを停止する。
【0031】
第11発明に係るプレス機械は、本体フレームと、本体フレームに昇降自在に支持されたスライドと、スライドを昇降駆動する駆動手段と、第1から第10発明のいずれかに記載のスライド制御装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0032】
以上のような本発明では、プレス機械において、安全性を損なうことなく生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
−第1実施形態−
[全体構成]
図1に本発明の一実施形態によるプレス機械1の斜視図を示し、
図2にその要部側面図を示している。
【0035】
プレス機械1は、側面視コ字状の本体フレーム2と、本体フレーム2の下部に配置されたボルスタ3と、本体フレーム2の上部に昇降自在に支持されたスライド4と、を備えている。ボルスタ3の上面には下型5が装着される。また、スライド4の下面には、下型5に対向するように上型6が装着される。
【0036】
本体フレーム2の上部には、
図2に示すように、電動モータ8と、動力伝達機構9と、電動モータ8の回転をスライド4の昇降に変換するための変換機構10と、が設けられている。
【0037】
動力伝達機構9は、フライホイール12と、クラッチ・ブレーキ装置13と、第1ギア14及び第2ギア15と、を有している。フライホイール12は電動モータ8の出力軸に固定されたプーリ16にVベルト17を介して連結されている。クラッチ・ブレーキ装置13はフライホイール12に連結されている。また、クラッチ・ブレーキ装置13の近傍には2個のエア電磁弁18a,18bが設けられている。これらの電磁弁18a,18bには図示しないエアタンクからエアが供給され、さらに両電磁弁18a,18bからエア配管19を介してクラッチ・ブレーキ装置13にエアが供給されている。これにより、クラッチ・ブレーキ装置13は、フライホイール12の回転を第1ギア14に伝達(クラッチオン)あるいは遮断(クラッチオフ)することができる。また、クラッチ・ブレーキ装置13は、第1ギア14の回転を制動(ブレーキオン)したり、制動を解除(ブレーキオフ)したりすることができる。第1ギア14はクラッチ・ブレーキ装置13のクラッチ側に装着され、第2ギア15は第1ギア14に噛み合っている。
【0038】
変換機構10は、第2ギア15の軸と同軸に設けられたクランク軸20と、クランク軸20の偏心部分に上端が回転自在に装着されたコンロッド21と、を有している。このコンロッド21の下端部にスライド4が回転自在に装着されている。
【0039】
[光線式安全装置]
本実施形態では、スライド4とボルスタ3の間の空間を「危険領域」と定義する。より具体的には、作業者等はプレス機械の前方側(
図2の左側)からワークを下型5上にセットするので、スライド4の前端面から内側を危険領域とする。そして、このスライド4の前端面から所定距離Ds(以下、「安全距離Ds」と記す)だけ離れた位置までの領域を「作業領域」(
図2で一点鎖線の斜線で示した領域Wa)と定義する。なお、安全距離Dsは、例えば作業者等の侵入物がこの安全距離Ds内に侵入したときに、作業者等が危険領域に到達する前にスライドを停止させるために必要最小な距離に基づいて設定される。
【0040】
このプレス機械1は、作業領域Waに作業者等の侵入物が侵入したことを検知する光線式安全装置24を有している。光線式安全装置24は、
図1に示すように、投光器25及び受光器26を有している。投光器25は、上下方向にに配列された複数の発光素子25aを有している。各発光素子間の上下方向距離は、作業領域への異物の侵入を確実に検出可能な間隔で配置されている。また、受光器26は、投光器25の各発光素子25aに対向する位置に配列された複数の受光素子(図示せず)を有している。各受光素子は、発光素子25aと同じ所定間隔で配列されている。そして、投光器25から発光された光線が受光器26に受光された状態で、
図1の破線で示すように、作業領域Waの入口に光線カーテンCbが形成され、作業者等によって光線カーテンCbが遮光されることによって、作業者等が作業領域Waに侵入したことが検出される。
【0041】
[制御ブロック]
図3にプレス機械1の制御ブロック図を示す。この図に示すように、電動モータ8には電源30からアンプ31を介して電力が供給される。また、このプレス機械1には、クラッチ・ブレーキ制御空圧回路32と、プレス角度検出装置33と、プレス速度算出手段34と、が設けられている。クラッチ・ブレーキ制御空圧回路32は、2つのエア電磁弁18a,18bに接続され、クラッチ・ブレーキのオン、オフを制御するための回路である。プレス角度検出装置33はクランク軸20の回転角度位置を検出するための装置であり、このプレス角度検出装置33によって、スライド4の位置及び移動方向を検出することが可能である。プレス速度算出手段34は、プレス角度検出装置33の出力信号から、スライド4の速度を検出する。
【0042】
また、このプレス機械1にはNC装置35が設けられている。NC装置35は、入力回路36、出力回路37、記憶回路38、及び急停止回路39を有している。
【0043】
入力回路36は起動スイッチ40からの起動信号やプレス角度検出装置33からの信号を受け付ける。出力回路37は、アンプ31に対して制御信号を出力し、電動モータ8に供給すべき電力を制御する。また、出力回路37は、クラッチ・ブレーキ制御空圧回路32に制御信号を出力し、クラッチ・ブレーキのオン、オフを制御する。
【0044】
記憶回路38には、作業者等の侵入物の侵入速度のデータ、光線式安全装置24の位置データ(すなわち安全距離Ds)、後述する駆動制御用の第1テーブル及び第2テーブルの各データが格納されている。
【0045】
急停止回路39は、記憶回路38の各データや、スライド4の位置(プレス角度検出装置33からの信号)、光線式安全装置24からの検出信号に基づいて、クラッチ・ブレーキ制御空圧回路32に制御信号を出力する。すなわち、急停止回路39によって、スライド4の駆動が制御される。
【0046】
[第1テーブル:下降行程時の判定用テーブル]
図4に示すように、スライド4の下降行程中に作業者等が作業領域Waに侵入した場合は、第1テーブルのデータである下降行程用の判定基準にしたがってスライド4の下降動作が制御される。以下に、下降行程用の判定基準について説明する。なお、この判定基準としての第1テーブルは記憶回路38に格納されている。
【0047】
ここでは、各条件を以下のように設定する。
【0048】
作業者等の侵入物の侵入速度:2 [mm/ms](国際規格)
スライドの下死点からの位置:Pm(t) [deg.]
スライドの下降速度:Vm(t) [deg./ms]
安全距離:Ds(固定) [mm]
以上のような条件において、スライド下降行程における安全条件は、スライド4が下死点に到達する前に作業者等が危険領域に到達しないことである。このとき、下死点との間に作業者等が侵入不可能な安全隙間をGs[deg.]として、安全条件を式で示せば、以下のような式で表される。なお、ここでは、スライド4の位置をクランク軸の回転角度位置であるプレス角度で示している。
【0049】
(Ds/2)×Vm(t)>(Pm(t)−Gs)−−−(1)
また、さらに安全度を上げるために安全隙間Gsを「0」とすると、以下のような式で表される。
【0050】
(Ds/2)×Vm(t)>Pm(t)−−−(2)
以上の式から、スライド下降行程のスライド速度と下死点までの距離との関係を示すデータ(第1テーブル)は、
図5に示すようになる。
図5では、スライド4の下降速度を「プレス速度」[spm](stroke per minute)として示している。これらの各特性を示す線の下側が安全域であり、上側が危険域となる。なお、この実施形態では、下側の特性(式(2)に基づいた特性)を下降行程用判定基準としている。
【0051】
したがって、作業者等が作業領域Waに侵入したときに、スライド4の位置と速度が
図5の「安全域」にある場合は、スライド4の下降は続行され、スライド4が急停止されることはない。また、スライド4の位置と速度が
図5の「危険域」にある場合は、スライド4の下降は急停止される。
【0052】
[第2テーブル:上昇行程時の判定用テーブル]
図6に示すように、スライド4の上昇行程中に作業者等が作業領域Waに侵入した場合は、第2テーブルのデータである上昇行程用の判定基準にしたがってスライド4の上昇動作が制御される。以下に、上昇行程用の判定基準について説明する。なお、この判定基準としての第2テーブルは記憶回路38に格納されている。
【0053】
ここでは、各条件を以下のように設定する。
【0054】
スライドの上死点までの位置:Pm(t)
スライドの上昇速度:Vm(t)
スライド速度に対する停止移動距離(ブレーキ作動時のスライド停止に要する距離=停止可能距離):S(Vm(t))
オーバーラン許容限界:Sov
なお、停止可能距離は、以下のようにして設定される距離である。
【0055】
スライドの速度をVm(t)[deg./ms]、スライド停止に要する時間をTs(t)[ms]、ブレーキの応答遅れ(一定)をβ[ms]、ブレーキ性能の比例係数をαとすると、ブレーキ性能は、
Ts(Vm(t))=α×Vm(t)+β [ms]
で表すことができる。そして、このときの停止に要する距離Sは、
S=0.5α×{Vm(t)}2+β×Vm(t) [deg.]
となる。
【0056】
また、「オーバーラン許容限界」とは、スライドが上死点を越えて下降した場合に、安全上、許容できる距離である。
【0057】
以上のような条件において、スライド上昇行程における安全条件は、スライドが上死点を越えないことであるから、この場合の安全条件を式で示せば、以下のような式で表される。
【0058】
S(Vm(t))≦Pm(t)−−−(3)
また、オーバーラン許容限界を超えない状態を「警告条件」とすれば、以下のような式で表される。
【0059】
Pm(t)<S(Vm(t))≦Pm(t)+Sov−−−(4)
そして、オーバーラン許容限界を超えた「危険条件」は以下のような式で表される。
【0060】
Pm(t)+Sov<S(Vm(t))−−−(5)
以上の式(3)〜(5)から、スライド上昇行程におけるスライド速度と停止性能から設定すべき安全域、警告域、危険域を示すデータ(第2テーブル)は、
図7に示すようになる。
図7では、スライド4の下降速度を「プレス速度」として示している。
【0061】
したがって、作業者等が作業領域Waに侵入したときに、スライド4の位置と速度が「安全域」にある場合は、スライド4が急停止されることはない。また、スライド4の位置と速度が「危険域」にある場合は、クラッチ・ブレーキ装置13において、クラッチオフにされるとともにブレーキオンにされ、スライド4の移動は急停止される。なお、この実施形態では、「警告域」にある場合は、安全が確保されるので、スライド4の急停止処理は行っていない。
【0062】
[動作]
プレス機械1の動作について簡単に説明する。
【0063】
作業者によって起動スイッチ40が操作されると、制御信号が出力回路37を介してアンプ31に入力される。そして、制御信号に応じた電力がアンプ31から電動モータ8に供給される。
【0064】
2つの電磁弁18a,18bが共に作動していないときは、クラッチ・ブレーキ装置13内の図示しないブレーキにより、第1ギア14の軸が制動されており、スライド4は停止している。また、電磁弁18a,18bが共に作動したときは、クラッチ・ブレーキ装置13内のブレーキが解除されるとともに、図示しないクラッチの係合によりフライホイール12の回転が第1ギア14に伝達される。この第1ギア14の回転は、第2ギア15を介してクランク軸20に伝達される。そして、クランク軸20の回転によって、コンロッド21を介してスライド4が昇降される。
【0065】
[急停止制御]
図8に、急停止回路39が実行する制御処理のフローチャートを示している。以下、このフローチャートにしたがって急停止制御処理について説明する。
【0066】
作業者によって起動スイッチ40が操作されると、まずステップS1でスライド4が上死点から下死点に向かって移動する下降行程であるか否かを判断する。下降行程の場合は、ステップS1からステップS2に移行する。ステップS2では、作業者等が作業領域Wa内に侵入したか否か、すなわち光線式安全装置24による光線カーテンが遮光されているか否かを判断する。作業者等の侵入が検知されない場合は、ステップS2からステップS1に戻って下降行程を続行する。
【0067】
一方、下降行程中に作業者等の作業領域Wa内への侵入が検知された場合は、ステップS2からステップS3に移行する。ステップS3では、記憶回路38に格納されている第1テーブルを含む各データに基づいて、「安全域」内であるか否かを判断する。具体的には、前述の式(2)によって作成された第1テーブル(
図5参照)を参照して、スライド4の速度とスライド4の下死点までの距離との関係が「安全域」内であるか否かを判断する。以上の関係が「安全域」内である場合は、ステップS3からステップS1に戻って下降行程を続行する。また、以上の関係が「危険域」内である場合は、ステップS3からステップS4に移行して危険回避処置を実行する。具体的には、急停止回路39からクラッチ・ブレーキ制御空圧回路32に制御信号が出力され、これによりクラッチ・ブレーキ装置13が作動して、クラッチがオフされるとともにブレーキがオンとなる。
【0068】
また、スライド4が下降行程でない場合は、ステップS1からステップS5に移行する。ステップS5では、スライド4が下死点から上死点に向かって上昇する上昇行程であるか否かを判断する。下死点又は上死点の場合は、ステップS5からステップS1に戻り、下降行程あるいは上昇行程に移行するまで待つ。
【0069】
上昇行程の場合は、ステップS5からステップS6に移行する。ステップS6では、作業者等が作業領域Wa内に侵入しているか否かを判断する。作業者等が作業領域Wa内に侵入していない場合は、ステップS1及びステップS5が繰り返し実行され、スライド4の駆動が維持される。
【0070】
一方、上昇行程中に作業者等の作業領域Wa内への侵入が検知された場合は、ステップS6からステップS7に移行する。ステップS7では、スライド4の速度とスライド4の上死点までの距離との関係が「安全域」又は「警告域」内であるか否かを判断する。具体的には、前述の式(3)(4)によって作成された第2テーブル(
図7参照)を参照して、以上の関係が「安全域」又は「警告域」内であるか否かを判断する。以上の関係が「安全域」又は「警告域」内の場合は、ステップS7からステップS1に戻って以降の処理を繰り返し実行する。また、以上の関係が「危険域」内の場合は、ステップS7からステップS4に移行して、前記同様の危険回避処置を実行する。
【0071】
−第2実施形態−
第1実施形態では、機械式のプレス機械に本発明を適用したが、本発明はサーボモータ等を有するサーボプレス機にも同様に適用することができる。本発明をサーボプレス機に適用した第2実施形態のブロック図を
図9に示す。
【0072】
この第2実施形態において、第1実施形態と同じ構成には同じ符号を示している。同じ構成については説明を省略する。
【0073】
第2実施形態のプレス機械はサーボモータ50を有している。サーボモータ50には、接点51a,51b及びサーボアンプ52を介して動力供給源30から電力が供給される。また、サーボモータ50には機械式ブレーキ装置53が設けられている。機械式ブレーキ装置53は動力供給源30からの電力によって作動する。サーボモータ50の回転数はパルスコーダ54によって検出され、パルスコーダ54の検出信号はサーボアンプ52に出力されている。
【0074】
サーボモータ50の出力側には、第1実施形態と同様の第1ギア14及び第2ギア15が設けられている。また、第1実施形態と同様に変換機構10が設けられている。変換機構10の構成は第1実施形態と全く同様である。
【0075】
また、スライド4の位置を検出するためのリニアスケール55が設けられている。リニアスケール55の信号はNC装置35のフィードバック回路56に入力される。
【0076】
なお、この第2実施形態では、急停止回路39からの制御信号は開閉器57に入力される。この制御信号を受けた開閉器57は、動力供給電源30とサーボアンプ52との間の接点51aと、動力供給電源30と機械式ブレーキ装置53との間の接点51bと、を制御する。
【0077】
この第2実施形態では、スライド4の位置がリニアスケール55によって検出される。また、パルスコーダ54によっても、スライド4の位置を検出することが可能である。
【0078】
ここで、作業者によって起動スイッチ40が操作されると、制御信号が出力回路37を介してサーボアンプ52に入力される。そして、制御信号に応じた電力がサーボアンプ52からサーボアンプ50に供給される。サーボアンプ52にはパルスコーダ54からのパルス信号がフィードバックされ、このパルス信号と出力回路37からの制御信号に基づいてサーボモータ50に供給される電力が制御される。
【0079】
また、リニアスケール55からの信号はフィードバック回路56を介してNC装置35に入力される。そして、NC装置35はこのフィードバック信号に基づき、スライド4の位置を制御する。
【0080】
急停止制御処理については、この第2実施形態においても第1実施形態と同様の処理が実行される。
【0081】
[特徴]
作業者等が作業領域に侵入した時点におけるスライドの状況を確認してスライドの駆動が制御されるので、作業者等が作業領域に侵入した際に一律に急停止を行う場合に比較して、安全性を損なうことなく生産性を向上させることができる。
【0082】
具体的には、スライド4の下降行程においては、作業者等が作業領域に侵入したときに、作業者等がスライド4に接触する以前にスライド4が下死点に到達していることが予測できる場合は、スライド4の下降は停止されない。
【0083】
また、上昇行程においては、作業者等が作業領域に侵入したときに、スライドが安全位置を越えて停止することが予測された場合にのみスライドを停止させるので、1行程毎にスライド4を上死点で停止させるモードでは、より安全性が高まる。また、1行程毎に上死点でスライド4を停止させない連続モードで加工を行う場合においては、作業者等が作業領域に侵入しても安全が確保される場合は加工が続行される。このため、安全性を損なうことなく生産性を向上させることができる。
【0084】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0085】
前記実施形態では、第1テーブルにおいて、式(2)に基づいて判定するようにしたが、式(1)に基づいて判定するようにしても良い。
【0086】
また、前記実施形態では、第2テーブルにおいて、「警告域」では安全が確保されるので、急停止処理を実施しなかったが、「警告域」の場合はランプや警報によって作業者に警告を行うようにしても良い。
【0087】
前記実施形態では、スライド位置をクランク軸の回転角度であるプレス角度で示しているが、これに限定されるものではない。スライドの位置を長さの単位を用いて表してもよい。また、クランク軸の回転角度を第2ギア15の回転角度として表してもよい。さらに、クランク軸、第2ギアがないサーボプレスの場合は、スライド位置の上限位置及び下限位置に基づいて算出される仮想プレス角度を用いてもよい。