(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、上下顎の削合は熟練した技工士による作業である。この削合作業では、咬合面の接触部分を判断し、削り過ぎない様に少しずつ削合を繰り返していた。咬合面に有る複数の面を擦れ合うまで調整することは至難の技である。熟練した技工士は容易に再現できたが、そうでない者は再現するのに労を要していた。
熟練した技工士であっても完全に咬合面の接触部分を合わせる事は難しく、1時間以上要していた。
上下顎が接触する部分である人工歯は、不定形であるため、上下顎の接触している部分を見極めることが難しく、接触位置を明確に定めることが難しかった。上下顎の間に咬合紙を挟むことにより、咬合接触状態を見極めることを行われている。咬合紙の厚みによる測定誤差が生じる。接触部分のみが染色されるのみで、咬合面のどの部位が染色部と対応するのか、動的接触なのか静的接触なのかなどの情報をえることができなかった。
咬合調整においては、天然歯の形態に合わせて、調整することにより、天然歯を傷めない方法を選択することが必要であった。
上下顎の削合は、咬合紙を上下顎の間に噛ませ、上下顎の接触状況を確認し、少しずつ削ることにより実現させる。上下顎の接触面を増やすことで調整する。咬合紙は接触している部分は穴が開き、接触していなくとも、咬合紙の厚さより近づくと、咬合紙が圧接されて薄くなる。薄くなった程度は光の透過で確認することができ、光の透過量で隙間量を確認できる。
図1に示すような各歯を接触させる為に、咬合紙で上下顎の接触しているところを確認しながら咬合紙の厚さの程度を診て、削合を進める。
当然、上下顎は咬合器の上で自由に動き回り、更には接触面がどこまで、接滑するのか分からない中で、咬合紙のみがたよりとなる。高度な技術が必要であった。
本発明は、義歯の削合部分を簡単かつ迅速に決定し、容易に削合を行うことができる標点付き人工歯、人工歯の削合部分決定方法、及び人工歯を用いた義歯作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の標点付き人工歯は、
咬合器に装着した蝋堤を付けた上顎模型及び下顎模型の各蝋堤に配列される人工歯であって、咬合面上に予め削合部を有し、前記削合部に標点を形成する3個以上の凸部又は凹部を有し、前記凸部又は凹部を対合歯となる人工歯の凹部又は凸部と嵌合した状態で、前記上顎模型及び下顎模型の各蝋堤に配列され、前記削合部を削合して前記標点に対応して予め定められた咬合面を削合し、前記凹部又は凸部を切除して咬合面を形成するものである。
【0009】
前記標点
が凸または凹の球面であることが好ましい。
【0013】
前記人工歯が、隣接する少なくとも2つの人工歯を連結した連結歯であることが好ましい。
前記人工歯が、4つの隣接す
る人工歯を連結した連結歯であること
が好ましい。
【0014】
前記連結歯の各人工歯の歯頚部は人工歯形態となっていることが好ましい。
【0017】
第
2発明は、前記第1発明の標点付き人工歯を用いた義歯作製方法において、
蝋堤を付した患者の上下顎模型を咬合器にスペーサを介して装着し、前記蝋堤に前歯を排列する前歯排列工程、
前記スペーサを取り外す標点付き人工歯装着準備工程、
前記上下顎模型の蝋堤の臼歯部分に前記標点付き人工歯を装着する標点付き人工歯装着工程、
ロストワックス法にて前記
蝋堤の蝋を床用レジンに置き換えるロストワックス工程、
前記人工歯標点と前記咬合器
に設けた標点を読み取り、前記人工歯標点に対応して予め定められた前記人工歯の咬合面から削合部分を決定する削合部分決定工程、
前記削合部分の削合を実施する削合工程、
からなる。
【0018】
前記標点付き人工歯装着準備工程において、前記上下顎の前歯の間に排列補助具を挟むことが好ましい。
この場合、前記排列補助具に排列補助線が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
第1発
明によれば、人工歯の位置及び角度を示す標点を有するので、上下顎の人工歯の位置を三次元空間上で再現することができる。
標点が凸または凹の球面により、標点を容易に算出することができる。
上顎の人工歯と下顎の人工歯が咬合するときに、凸と凹の球面が嵌合するようにしたので、排列が迅速簡単に行える。
人工歯の咬合する部分に削合部分を有するので、削合量が減少する。
人工歯が、隣接する少なくとも2つの人工歯を連結した連結歯であるので、排列が迅速かつ容易に行える。
連結歯の各人工歯の歯頚部が人工歯形態となっているので、蝋提への排列が簡単である。
削合部分が咬合面に存在すると、削合量がさらに減少する。
【0021】
本第2発
明によれば、人工歯標点に対応して予め定められた人工歯の咬合面から削合部分を決定するので、義歯の削合部分を簡単かつ迅速に決定し、容易に削合を行うことができる。
排列補助具を用いるので、排列が容易であり、上下の関係も容易に決定付けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は義歯の製造における削合を実施するための方法であって、義歯の咬合を調整する方法及びプログラムの発明である。本発明のプログラムを用いて、義歯の削合部分を判別し、CAD/CAMを用いて咬合面の不要な部分を削合するものである。
【0024】
一般に、義歯を作製する工程は、以下の通りである。
1.患者の口腔内の型をとって印象を作製する。
2.印象から患者の口腔の模型を石膏で作製し、この模型上に構成樹脂のベースプレートを作製する。
3.型枠にワックスを流し込んでアーチ型に固まらせ、このワックスをベースプレートの上に載置して、人工歯を排列するための蝋提を作製する。この蝋提とベースプレートを合わせて咬合床と称する。
4.咬合床を患者に装着し、咬合を採得する。
5.咬合床を装着した上顎と下顎の模型を咬合器に装着し、咬合状態を咬合器上で再現する。
6.患者に合った人工歯を選択して、まず上顎の前歯の人工歯を上顎の蝋提に排列し、続いて下顎の前歯の人工歯を下顎の蝋提に排列する。
7.咬合器のインサイザルポールを調整して上顎の高さを少し上げて、下顎と上顎の臼歯の人工歯を蝋提に排列する。
8.咬合器のインサイザルポールを元の状態に戻して、高い部分を削る咬合調整を行う。咬合調整では、上顎と下顎の間に咬合紙を挟み、強く当たっている部分を削る。
9.前歯の歯頸部(生え際)と歯肉部の状態を再現する。
10.咬合床に人工歯を排列した義歯模型を患者の口腔内への試適し、修正を加えるべき情報を得る。
11.情報に従って修正すべき箇所を修正する。
12.義歯模型をフラスコ(枠)に容れて石膏に埋没し、固まらせる。
13.フラスコに熱を加えて義歯模型のワックスを軟化させた後、フラスコを分離してワックスを溶かすと、鋳型が完成する。
14,鋳型の石膏部分に分離材を塗布してから、鋳型に床用レジン(合成樹脂)を注入し、上下の型枠を合わせてプレスにより圧力をかける。
15.余剰のレジンを取り除き、上下の型枠を合わせた後、熱を加えてレジンを硬化させる。
16.型枠を外して、石膏を取り除き、義歯を掘り出す。
17.義歯を再度、咬合器に取り付け、レジン硬化時の収縮により生じた咬合のくるいを修正する。咬合修正では、咬合紙を使用する。
18.顎を前後左右に動かしたときの噛み合わせを、咬合紙を使用して調整する(この調整は最終の咬合調整であり、削合とも言う)。
19.レジンのバリを削り取り、研磨を行う。
【0025】
義歯を作製する工程において、口腔内の型を取り、蝋堤を作製し、人工歯を並べた後、ロストワックス法にて蝋を樹脂に置き換えたとき、樹脂の収縮により、人工歯の位置関係がずれ、義歯として上下顎で噛み合わせた場合に干渉する。この干渉部分を調整することが削合である。また、義歯上で噛み合わせが正しく出来たとしても、患者の口腔内の状況に合わせて、咬合関係を変更する為に、削合を行ったりする。これは患者の顎の動きに合わせて調整するものである。
本発明はこれらの一連の作業を、プログラムを用いて容易に実施するものである。
ここで、義歯削合方法の場合は総義歯であることが好ましい。又は部分義歯であっても、上下顎が義歯の組み合わせの場合も用いることができる。
【0026】
1.義歯削合方法
本発明の義歯削合方法は、
図1に示すように、以下の段階からなる。
(1)顎関係再現段階
(2)削合前義歯作製段階
(3)標点付き義歯データ測定段階
(4)噛合状態再現段階
(5)削合部分決定段階
(6)削合データ及び標点付き義歯データ作成段階
(7)削合前義歯削合段階
【0027】
(1)患者の顎の条件を再現できる顎関係再現条件を決定し、顎関係を再現する顎関係再現段階について説明する。
顎関係再現段階とは、義歯を作製する前に、患者の上下顎の位置関係を再現するものである。通常は咬合器を用いて、顎の動きに合わせて咬合器の顆路の動きや切歯の動きを調整することにより、咬合器上で上下顎の動きを再現する。
上下顎の中心咬合位の位置から、咀嚼運動や開口・閉口運動時を想定した動く方向を決める必要がある。
患者の顎の条件とは、静的条件や動的条件であり、代表的には中心咬合位の位置や、前方運動・側方運動の方向、場合によっては蝶番運動の方向を含む。
これらの咬合状態を再現できるものとしては咬合状態再現器であり、代用的なものは咬合器である。咬合器は静的関係、動的関係を的確に再現できる。
顎関係再現条件としては、矢状顆路傾斜度、平衡側側方顆路、イミディエイト・サイドシフトの調節機構、作業側側方顆路角調節機構などがあり、切歯路調節機構としては、矢状切歯路傾斜度、側方切歯路誘導角などがある。
患者の状態に合わせて顎運動の近似値を用いる方法も一般的である。例えば、標準的な顆頭間距離を110mm、上弓・下弓間距離を110mm、最大開口角を120°、矢状顆路傾斜度を30°、側方顆路角を15°とすることができる。
ここで重要なのは中心咬合位から側方運動した場合の下顎に対して上顎がどの様に動くかを明確になることである。
また、最も単純な方法として、中心咬合位から上顎が前方10°に下顎に平行に滑走し、また、更に中心咬合位から上顎が咬合面から左右20°の上方向に滑走するように設定することも可能である。
近年においては顎運動をそのまま再現する方法についても研究が進められ、顎運動測定装置が開発されている。この顎運動測定装置により直接顎運動を取得して、顎運動再現装置にて顎運動を再現しても良い。
【0028】
(2)咬合状態再現器の顎関係再現条件に合わせて義歯を作製し、削合する前までの削合前義歯を作製する削合前義歯作製段階について説明する。
削合前義歯作製段階では、前記咬合状態再現段階で得られた上下顎の関係に合わせて義歯を作製する段階であり、通常の義歯の作製段階である(前述の義歯作製工程のステップ6.7)。代表的な工程としては、蝋提を作製し、人工歯を排列し、ロストワックス法にて削合前義歯を作製する段階である。ここでの作成方法は特に限定するものではないが、通常の方法で作製することができる。
削合前義歯は削合をしていないので、咬合状態再現器上で未だ正しい咬合ができない。咬合状態再現器上で正しい咬合をする為に咬合面を本発明にて削合する。
【0029】
(3)咬合状態再現器と義歯の位置関係を示す標点と共に義歯の咬合面の3次元画像データである標点付き義歯データを測定する標点付き義歯データ測定機にて標点付き義歯データを測定する標点付き義歯データ測定段階について説明する。
この段階では、作製された削合前義歯の3Dデータを取得すると共に、コンピュータの中で咬合状態を再現できる様に咬合状態再現器のどの位置に削合前義歯が有するのかを計測する。咬合状態再現器の上下顎の関係を事前に設定することにより、咬合状態を再現することができる。
再現器の各上下弓のそれぞれには、最低でも3点の標点が必要である。3つの辺でも良い。好ましいのは1つの辺と1つの点である。具体的には3つの針状又は球面(好ましくは球状)で構成しても良いし、再現器の真直な辺と球面の組合せでも良い。ここでは3Dデータがコンピュータ上で再現される上下顎の関係を正確に算出する為の標点であることが必要であり、3Dデータをコンピュータ上で一致させる為には、球面が好ましい。
義歯削合方法に用いられる顎関係再現条件を決定する咬合状態再現器は、
図2に示すように、咬合状態再現器が上顎模型1が装着される上弓2および下顎模型3が装着される下弓4を有する咬合器5であり、上弓2および下弓4それぞれに標点6a、6b、6c,標点7a、7b、7cを有することが好ましい。
【0030】
(4)顎関係再現条件を利用して、標点付き義歯データの咬合状態を再現する咬合状態再現段階について説明する。
この段階では、咬合状態をコンピュータ上で再現する。コンピュータ上で咬合状態再現器の上下顎の関係を任意に設定することができる。
ここではコンピュータの空間の中で、上下顎の位置関係を正確にシミュレーションできる。コンピュータの中では上下顎の顎の静的関係が示されており、その関係には3Dデータを取得する時に用いた標点データを有する。コンピュータの空間中で上下顎の3Dデータが静的関係を示すように上下顎運動をシュミレーションさせる。
好ましくは下顎の直交座標軸系と上顎の直交座標軸系を設定する。ある任意の上下顎の位置関係から、上下顎の咬合状態を再現する様に、下顎直交座標軸系に対して上顎直交座標軸系が移動する方向を任意に算出できれば良い。
図3に示すように、下顎の直交座標軸系と上顎の直交座標軸系に有する標点をコンピュータ空間上の標点に一致させることによって、上顎の義歯データ8と下顎の義歯データ9の動きの関係を再現できることが好ましい。
各直交座標軸系にはそれぞれの標点の位置を定め、義歯データ測定段階で得られた義歯データの位置合わせをする。
図4に示すように、それぞれの座標軸が咬合状態再現段階で示した下顎の義歯データ9に対する上顎の義歯データ8の動きをする様に下顎直交座標軸系に対して上顎直交座標軸系が動く様に設定することもできる。
【0031】
(5)再現された咬合状態から上下顎の画像で囲まれる部分から、動的条件や設定された条件にて削合データを決定する削合部分決定段階について説明する。
ここでは、咬合状態再現段階にて合わせられた3Dデータに囲まれた範囲、すなわち
図4に示すように、上顎の人工歯の咬合面と下顎の人工歯の咬合面とが重なる範囲に注目する。
3Dデータで囲まれた範囲が少ない場合は、義歯が安定感に欠けるため、上顎の3Dデータを蝶番運動させ、若しくは咬合高径を下げる方向に移動させて、上下顎の3Dデータが重なる部分を調整する。もし、3Dデータが重なる部分が多い場合は、切削が多く、咬頭が無くなるため、上顎の3Dデータを蝶番運動させ、若しくは咬合高径を上げる方向に移動させて、上下顎の3Dデータが重なる部分の調整を実施する。蝶番運動若しくは咬合高径の移動については任意に組み合わせて利用してもよい。
次に、
図5(a)に示すように、3Dデータが重なる部分Aを、上下顎が運動する場合に擦動する様に、上顎又は下顎の3Dデータ8,9を移動させて、削合面を決定する。これは3Dデータが中心咬合位から前方運動、後方運動、側方運動時に各3Dデータが重なり合う部分を任意に定めた削合面Sに沿って切り取る。
削合面Sは、上下顎の3Dデータが重なり合う部分内を通らなくても良いが、上下顎の3Dデータ8,9が重なり合う部分内を通ることが好ましい。
図5(b)に示すように、この3Dデータ8,9が重なり合う部分内の削合面Sで延長される面で囲まれる咬頭の部分B,Cが切削される部分となる。これらの部分を削合部分といいそのデータを削合データという。
任意に定めた削合面Sとは、前方運動、後方運動、側方運動時の運動方向に沿った面であり、各面の角度は咬合平面に対して任意に設定することができる。咬合平面に対して、削合面Sは、5度〜60度に設定することが好ましい。更に、前方運動、後方運動の場合に咬頭が接する面は5度から45度好ましく、側方運動の場合は20度〜60度が好ましい。
【0032】
運動方向は、上顎の3Dデータと下顎の3Dデータで囲まれた範囲の任意の点における下顎の直交座標軸系に対して、上顎の直交座標軸系が咬合状態再現段階で示された動的関係により、移動する方向である。本運動方向は直線であることが好ましいが、曲線の場合もある。直線に近似して適用することもできるが、曲線のまま構成してもよい。即ち、直線もしくは曲面である。好ましくは直線または円柱面である。
また、上顎の3Dデータ8と下顎の3Dデータ9で囲まれた範囲Aの任意の点は、上顎の3Dデータ8と下顎の3Dデータ9で囲まれた範囲の重心Gであることが好ましい。
この重心Gは、上顎の3Dデータ8と下顎の3Dデータ9で囲まれた範囲が空間上のn個の点で示されている場合、それぞれ下顎座標軸系若しくは上顎座標軸系XYZ軸を同じ直交座標軸系に換算し、XYZそれぞれの値の和をn個で割ったX’Y’Z’の値として算出することが好ましい。削合面Sは、このX’Y’Z’の値を通る下顎に対して上顎の運動方向を含む面である。
この運動方向は咬合状態再現段階で示された再現方法により算出されるが、たとえば、咬合器により再現された場合は、アルコン型咬合器若しくはコンダイラー型咬合器どちらの場合でも、これらの調整機構をコンピュータ上で再現することができる。好ましくはアルコン型である。
咬合器の顆頭間距離は50〜170mm好ましくは80〜140mm、更に好ましくは100〜120mmである。110mmという平均的な顆頭間距離を固定値で有することが好ましい。上弓下弓間距離は80〜120mm程度である。上弓下弓間距離は任意に設定できれば十分である。
顆頭間距離及び上弓下弓間距離は、咬合器の上下顎の動きを規定している顆路調節機構、切歯路調節機構により予め設定された数値から算出される。
具体的には顆路調節機構として、矢状顆路傾斜度、平衡側側方顆路、イミディエイト・サイドシフトの調節機構、作業側側方顆路角調節機構などがあり、切歯路調節機構としては、矢状切歯路傾斜度、側方切歯路誘導角などがある。
矢状顆路傾斜度は−30°〜+90°であり、好ましくは−20°〜+80°、更に好ましくは−0°〜+50°である。
平衡側側方顆路は0°〜+40°であり、好ましくは0°〜+30°、更に好ましくは+10°〜+20°である。
イミディエイト・サイドシフトの調節機構は0〜10mm好ましくは0〜8mm、更に好ましくは0〜5mmである。
作業側側方顆路角調節機構−50°〜+60°であり、好ましくは−40°〜+50°、更に好ましくは−30°〜+30°である。
矢状切歯路傾斜度は、−30°〜+90°であり、好ましくは−20°〜+80°、更に好ましくは−10°〜+75°である。
側方切歯路誘導角は、−0°〜+90°であり、好ましくは−0°〜+50°である。
これらの調節機構に合わせて動く下顎直交座標軸系に対する上顎直交座標軸系を算出する。
好ましくは市販の咬合器の名称等から、調整項目のみを適宜選択できる設定が好ましい。更に、調整ができない咬合器を利用している場合は、その咬合器の固定値が咬合器名の名称を選んだ場合に固定で入力されることが好ましい。設定された条件とは、上下顎がスムーズに擦れ合って上下顎が引っかからない様に、突起部分を削除する様に設定された条件であることが好ましい。
本段階で得られた削合データはCADデータとして利用され、後で示される削合前義歯削合段階で加工用のNCプログラムが作成され機械工作において工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御するコンピュータ数値制御(CNC)によって、義歯の削合を行う。このことをCAMという。
【0033】
図6は、咬合面の削合が行われる面を示す図である。左右ほぼ対称に削合される為、1,2,3の引き出し線は片方の顎のみを示している。上下顎が咬合された場合に上下顎が接触する咬合小面は面で接触し、顎の動きに合わせて擦れ合う面となる。
引き出し線の1は前方咬合小面、2は後方咬合小面、3は平衡咬合小面である。
符号の説明において、1.同一角度に削合される面部分、2.別の同一角度に削合される面部分、3.また別の同一角度に削合される面部分としたが、これらは一例である。咬合の静的関係、動的関係を考えた場合に、その面が正しい方向に擦れ合う様に、面の角度を調整または算出されることが好ましい。しかし、近似的に同一角度に削合される面部分であってもよい。
【0034】
(6)標点付き義歯データに削合データを追加した削合データ付き標点付き義歯データを作成する削合データ付き標点付き義歯データ作成段階について説明する。
前記削合データである削合面を標点付き義歯データと合わせて、削合部分を定め、削合データ付き標点付き義歯データとする。ここで重要なことは、削合してはいけない部分と削合する部分が標点を基準に定められていることである。
このことから、義歯の位置関係を示す標点指示部と削合データ付き標点付き義歯データの標点部分を重ね合わせることにより、義歯の削合する部分を決定することができる。
【0035】
(7)削合データ付き標点付き義歯データを元に削合前義歯を削合する削合前義歯削合段階について説明する。
削合データはCADデータとして利用され、本段階で加工用のNCプログラムを作成する。これは機械工作において、工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御するコンピュータ数値制御(CNC)のプログラムである。本プログラムより、義歯の削合を行う。
【0036】
2.標点付き人工歯
図7は、本発明に係る標点付き人工歯11,12を示す。
上顎の第1大臼歯、第2大臼歯、第1小臼歯及び第2第臼歯を構成する各人工歯11a,11b,11c,11dは、相互に連結されて上顎連結歯11を構成している。各人工歯の咬合面は削合部13が一体に形成され、歯頸部は天然歯の歯頸部の形状に近似してある。
同様に、下顎の第1大臼歯、第2大臼歯、第1小臼歯及び第2第臼歯を構成する各人工歯12a,12b,12c,12dも相互に連結されて、下顎連結歯12を構成している。各人工歯の咬合面は削合部14が一体に形成され、歯頸部は天然歯の歯頸部の形状に近似してある。
上顎の連結歯11の削合部13には、下顎の連結歯12の削合部14と対向する面の3箇所に、球面からなる凸部15が形成されている。凸部15は上顎人工歯の標点を形成する。
同様に、下顎の連結歯12の削合部14には、上顎の連結歯11の削合部13と対向する面の3箇所に、上顎の連結歯11の削合部13の凸部15と嵌合する球面からなる凹部16が形成されている。凹部16は下顎人工歯の標点を形成する。
【0037】
図8に示すように、上顎の連結歯11の削合部12は、第1大臼歯から第2小臼歯まで延びている。上顎の連結歯11の削合部12の凸部15は、頬側側の中央1箇所と、第1大臼歯側に1箇所、第2大臼歯側に1箇所の3箇所に形成されている。下顎の連結歯12の削合部14の凹部16も、同様に、頬側側の中央1箇所と、第1大臼歯側に1箇所、第2大臼歯側に1箇所の3箇所に形成されている。しかし、凸部15と凹部16の位置はこれに限らず任意の位置に設けることができる。
【0038】
凸部15と凹部16は、球面に限らないが、円錐面すなわち針状の凸部やすり鉢状の凹部であってもよい。また、凸部15と凹部16を設ける位置は、削合部13,14の側面であってもよい。
凸部15と凹部16から標点を算出する方法は、特に限定するものではないが、球体の凸部15または凹部16の形状から球の中心を求めてこの中心を標点とすることが好ましい。
凸部15と凹部16は互いに嵌合するので、上下顎の位置決めとして利用することができる。
臼歯に付加された標点の位置関係から、臼歯の種類や対応部位が判断できるように、それぞれの位置関係が異なることが好ましい。
【0039】
図9に示すように、削合部17を、各人工歯の咬合面にそれぞれ形成することで、削合量を減少することができる。この場合、
図10に示すように、対合する顎の連結歯11の削合部は、
図7に示すような形態であってもよいし、下顎と同様に各人工歯の咬合面にそれぞれ形成してもよい。削合部の材料は、人工歯と同じエナメル質である。
【0040】
削合部13,14,17は、咬合面に垂直な方向から見て、人工歯の最大豊隆部より咬合面方向に有することが好ましい。
削合部13,14,17は、予め咬合面形態データを保有している。このため、
図11に示すように、咬合面形態データに従って回転切削機18により削合することができる。先端が梨型の切削工具が好ましい。削合量が少ない場合は、超音波振動子を用いた超音波削合機を用いてもよい。
咬合面形態データは、意図的に削合する部分を示す。このため、事前に咬頭や窩、溝を設けなくても、削合にて切り出し作製できる。切り出すための「咬合面形態データ」として保有して、削合時には前述の削合方法を用いて「咬合面形態データ」のどの部分を削合するか算出する。
【0041】
次に、前記標点付き人工歯を用いた義歯作製方法を説明する。
【0042】
図12に示すように、蝋堤19を付した患者の上顎模型20を咬合器21の上弓22にスペーサ23を介して装着し、同様に蝋堤24を付した患者の下顎模型25を咬合器21の下弓26に装着する。咬合器21の上弓22と下弓26には予め標点が設けられている。スペーサ23は下顎に設けてもよいし、上下顎の両方に設けてもよい。上下顎の蝋提19,24の4本の臼歯を排列する部分には、臼歯4本の連結歯11,12を装着できるように、予め切欠き部27,28を設けておく。前記削合方法で述べたように、まず上下顎の蝋提19,24に前歯用の人工歯を排列する。
【0043】
前歯の人工歯を排列した後、スペーサ23を取り外し、
図13に示すように、上顎模型20を持ち上げて、上顎前歯と下顎前歯の間に排列補助具29を挟み込む。
排列補助具29は、プラスチック又は金属からなる板状である。排列補助具29の板厚は、スペーサ23を外して上顎を持ち上げたときに形成される上顎前歯と下顎前歯の間の隙間に応じて選定すればよい。スペーサ23が厚い場合は、
図13(a)に示すように、厚い排列補助具29を使用し、スペーサ23が薄い場合は、
図13(b)に示すように、薄い排列補助具29を使用する。厚い排列補助具29の場合は、
図13(a)に示すように、排列補助具29の前端面に、前歯から臼歯に向かって遠心近心方向に延びる排列補助線30を設けておくことが好ましい。
【0044】
上顎臼歯の連結歯11と下顎臼歯の連結歯12を、
図14に示すように、それぞれの削合部13,17の凸部15と凹部16を嵌合させた状態で、上顎模型20と下顎模型25の蝋提19.24の切欠き部27,28に装着する。このとき、上顎臼歯の連結歯11と下顎臼歯の連結歯12の削合部13,17の合わせ目が排列補助具29の排列補助線30と同じ平面レベルになるように、連結歯11,12の高さを調整する。
【0045】
続いて、上顎模型20と下顎模型25を取り外し、前記削合方法で述べたように、ロストワックス法にて顎堤19,24の蝋を床用レジンに置き換える。
【0046】
上下顎の連結歯11,12に設けられた凸部15と凹部16から標点(人工歯標点)を読み取り、また人工歯に排列に使用した咬合器21の標点(咬合器標点)を読み取り、各連結歯11,12が保有している人工歯標点に対応して予め定められた咬合面形態データから咬合面を設定する。この咬合面から削合部分を決定する。
【0047】
次に、
図15に示すように、回転切削機18を使用し、削合部13,17の削合データに基づいて上顎及び下顎の連結歯11,12の削合部13,14を削合する。これにより、削合部13,14の表面、凸部15及び凹部16が切除され、咬頭、窩、溝を含む咬合面が形成される。
【0048】
削合部分の決定方法としては、前述のように人工歯が予め保有する咬合面形態データから求める方法以外に、三次元空間上で咬合状態を再現して求める方法がある。この方法は、前記削合方法で既に述べたので、詳細な説明は省略し、以下簡単に説明する。
まず、標点付き人工歯の人工歯標点と、該標点付き人工歯が排列された上下顎を装着する咬合器の位置を示す咬合器標点の三次元標点データを取得する。次に、取得された上下顎の三次元標点データから咬合器に装着された上下顎の人工歯の位置を三次元空間上で再現する。そして、再現された咬合状態の3次元画像上で上下顎の画像で囲まれる部分から、動的条件や設定された条件にて削合部分の削合データを決定することができる。削合後に、溝や窩の削除部分を決定してもよい。