(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5694139
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】睡眠中における無呼吸低呼吸状態の検出装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/08 20060101AFI20150312BHJP
A61B 5/05 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/05 B
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-289743(P2011-289743)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-138706(P2013-138706A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116182
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 照雄
(72)【発明者】
【氏名】山森 伸二
(72)【発明者】
【氏名】野中 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】内升 慎一郎
【審査官】
門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−034598(JP,A)
【文献】
特開平08−224318(JP,A)
【文献】
J.Wagner,L.A.Geddes,K.Foster,A.Farag,Monitoring heart and respiratory activity by impedance change using neck electrodes,Medical & Biological Engineering & Computing,英国,1987年 1月,Vol.25,No.1,pp.100-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08
A61B 5/05
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の睡眠時における無呼吸低呼吸状態の検出装置であって、
前記生体の頸部に電流を流すための給電電極部と、
前記電流によって前記頸部に生じるインピーダンスを測定するための測定電極部と、
前記生体の前記頸部以外の箇所に配置され、前記生体の呼吸あるいは呼吸努力に応じた信号を出力する呼吸センサと、
前記インピーダンスの測定値に基づいて無呼吸低呼吸状態の検出を行ない、前記インピーダンスの測定値と前記呼吸センサの出力信号に基づいて前記無呼吸低呼吸状態の種類の判定を行なう解析部と、
前記検出の結果及び前記判定の結果を出力する出力部とを備える、検出装置。
【請求項2】
前記出力部は、前記判定の結果を可視化する、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記インピーダンスの測定値と前記呼吸センサの出力信号とに基づき、閉塞性の無呼吸低呼吸状態であるか中枢性の無呼吸低呼吸状態であるかを判定する、請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記呼吸センサは前記生体の胴部のインピーダンス呼吸を測定するセンサであり、
前記解析部は、
前記インピーダンスの測定値と前記呼吸センサの出力信号がそれぞれの閾値以上である場合は、閉塞性の無呼吸低呼吸状態であると判定し、
前記インピーダンスの測定値と前記呼吸センサの出力信号が前記それぞれの閾値未満である場合は、中枢性の無呼吸低呼吸状態であると判定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項5】
前記胴部のインピーダンス呼吸は、心電図測定用の電極により測定される、請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記給電電極部と前記測定電極部は、それぞれ少なくとも一組の電極対を備えている、請求項1から5のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記給電電極部における前記電極対の一つと、前記測定電極部における前記電極対の一つは、共通の支持体上に配置されている、請求項6に記載の検出装置。
【請求項8】
一組の電極対が、前記給電電極部および前記測定電極部として機能する、請求項1から5のいずれか一項に記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の睡眠中における無呼吸低呼吸状態を検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置としては、被験者の口の周辺に温度センサを装着して鼻呼吸および口呼吸を検出するとともに、被験者の胸部および腹部にストラップを巻回して呼吸運動に伴うこれらの部位の動きを検出するものが知られている。両センサの検出結果を組み合わせて判断することにより、睡眠中の無呼吸低呼吸状態の検出、およびその種類を識別するようにしている。無呼吸低呼吸状態の種類は、気道閉塞状態で呼吸努力が継続される閉塞性無呼吸低呼吸と、呼吸努力そのものが停止して換気が停止する中枢性無呼吸低呼吸の二つに大別される。
【0003】
特許文献1には、患者の呼吸気流を示す測定信号を処理し、閉塞性呼吸障害と中枢性呼吸障害との区別を可能にする評価装置が記載されている。特許文献2には、対象物の胸部領域又は腹部領域において得られた測定データと閾値とを比較し、当該対象物の呼吸状態を判別する状態解析装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4478027号公報
【特許文献2】特許4588461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
睡眠時無呼吸症候群を診断するには、上記のような生体信号に加え、脳波や眼球の動き、心電図、筋肉の動き、血液中の酸素飽和度、いびきの音量等を終夜にわたって測定する睡眠ポリソムノグラフィ検査が行なわれる。鼻呼吸および口呼吸による気流の変化を検出するために鼻や口の周囲に装着される特許文献1に記載のセンサは、被験者に煩わしさを感じさせることを免れない。また特許文献2に記載のように胸部および腹部に巻回されるストラップは、測定精度を高めるためにきつく締める必要があり、被験者にとって負担が大きい。これらの煩わしさや負担は睡眠時の測定における妨げとなることがある。
【0006】
一方、心電図測定用の電極の一部を併用し、呼吸に伴う胸部および腹部(以下、胴部)のインピーダンス変化から呼吸状態を検出する、インピーダンス呼吸と呼ばれる方法が知られている。この測定方法によれば患者の負担や煩わしさを大幅に軽減することが可能であるが、閉塞性の無呼吸または低呼吸状態において、しばしば呼吸努力により生ずるインピーダンス変化を通常の呼吸と誤認識してしまうという問題がある。
【0007】
よって本発明は、被験者の煩わしさや負担を大幅に軽減しつつ、正確かつ容易に睡眠中の無呼吸低呼吸状態を検出し、さらにその種類を識別する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本発明がとりうる一態様は、生体の睡眠時における無呼吸低呼吸状態の検出装置であって、
前記生体の頸部に電流を流すための給電電極部と、
前記電流によって前記頸部に生じるインピーダンスを測定するための測定電極部と、
前記インピーダンスの測定値に基づいて無呼吸低呼吸状態の検出を行なう解析部と、
前記検出の結果を出力する出力部とを備える。
【0009】
このような構成によれば、気道閉塞下で呼吸努力がなされることにより顕著な動きを生ずる頸部においてインピーダンスの変化を測定するため、被験者に煩わしさや苦痛をほとんど感じさせることなく閉塞性の無呼吸低呼吸状態を検出することができる。
【0010】
前記生体の前記頸部以外の箇所に配置され、前記生体の呼吸あるいは呼吸努力に応じた信号を出力する呼吸センサをさらに備え、前記解析部は、前記インピーダンスの測定値と前記呼吸センサの出力信号に基づいて前記無呼吸低呼吸状態の種類の判定を行ない、前記出力部は、前記判定の結果を可視化する構成としてもよい。
【0011】
このような構成によれば、閉塞性の無呼吸低呼吸状態の検出精度が向上するだけでなく、中枢性の無呼吸低呼吸状態との識別も可能となる。
【0012】
具体的には、前記解析部は、前記インピーダンスの測定値と前記呼吸センサの出力値とに基づき、閉塞性の無呼吸低呼吸状態であるか、中枢性の無呼吸低呼吸状態であるかを判定する。
【0013】
前記呼吸センサが前記生体の胴部のインピーダンス呼吸を測定するセンサである場合において、前記解析部は、前記インピーダンスの測定値と前記呼吸センサの出力信号がそれぞれの閾値以上である場合は、閉塞性の無呼吸低呼吸状態であると判定し、前記インピーダンスの測定値と前記呼吸センサの出力信号が前記それぞれの閾値未満である場合は、中枢性の無呼吸低呼吸状態であると判定する構成としてもよい。
【0014】
特に睡眠ポリソムノグラフィにて併用される心電図測定用の電極を用いて前記胴部のインピーダンス呼吸を測定する構成の場合、装着を要するセンサの数を最小限にすることができ、被験者への負担を抑制することができる。
【0015】
前記給電電極部と前記測定電極部は、それぞれ少なくとも一組の電極対を備えている構成としてもよい。ここで前記給電電極部における前記電極対の一つと、前記測定電極部における前記電極対の一つは、共通の支持体上に配置されている構成としてもよい。この場合、頸部への装着をより円滑に行なうことができ、かつ電極間の距離が一定となるため電位測定の安定性が増す。
【0016】
一組の電極対が前記給電電極部および前記測定電極部として機能する構成としてもよい。この場合、使用者は一組の電極対のみを生体に装着すればよいため、簡易な測定が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の構成によれば、被験者に煩わしさや負担を大幅に軽減しつつ、正確かつ容易に睡眠中における無呼吸低呼吸状態を検出し、さらにその種類を識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る検出装置を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1の検出装置の電極群が生体に装着される際の配置例を模式的に示す図である。
【
図3】
図1の検出装置における測定部において得られる波形の例を示す図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る検出装置を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図4の検出装置における測定部において得られる波形の例を示す図である。
【
図6】
図4の検出装置において無呼吸状態の種類を判定する基準を示す表である。
【
図7】
図1の検出装置における電極群の配置例を模式的に示す図である。
【
図8】
図1の検出装置における電極群の変形例を模式的に示す図である。
【
図9】
図1の検出装置の変形例を示す機能ブロック図および電極群の配置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を添付の図面を参照しつつ以下詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る検出装置1を示す機能ブロック図である。検出装置1は、被験者の睡眠時における無呼吸低呼吸状態を検出するためのものであり、本体10と、被験者(生体)50の頸部51に装着される電極群を備えている。
【0021】
本体10は、電流供給部11、測定部12、解析部13、および出力部14を備えている。電極群は、給電電極部20Aと測定電極部20Bを含んでいる。給電電極部20Aは第1給電電極21aと第2給電電極22aからなり、測定電極部20Bは第1測定電極21bと第2測定電極22bからなる。
【0022】
電流供給部11は、第1給電電極21aおよび第2給電電極22aにそれぞれ信号線25a、25bを介して電気的に接続されている。本実施形態では10μA〜1mA(ピークトゥピーク値)、10〜100kHzの電流が電流供給部11から信号線25aおよび25bを介して第1給電電極21aおよび第2給電電極22aに供給される。
【0023】
第1測定電極21bおよび第2測定電極22bは、それぞれ信号線26a、26bを介して測定部12と電気的に接続されている。第1測定電極21bおよび第2測定電極22bは、それぞれ装着部位の電位を信号線26a、26bを介して測定部12に入力する。
【0024】
図2に示すように、電極群は被験者50の頸部51に装着される。測定部12は、第1給電電極21aおよび第2給電電極22aに供給した電流値、第1測定電極21bおよび第2測定電極22bの間に生じた電位差に基づいて頸部51のインピーダンスを測定する。
【0025】
図3に示す波形は、測定部12により測定された頸部51のインピーダンスの経時変化を示すものである。グラフの横軸は睡眠ポリソムノグラフィにおける測定時刻を示している。閉塞性の無呼吸低呼吸の場合、気道閉塞の状況下で呼吸努力がなされると、一般には吸気時に気道内が陰圧となるため、咽頭が胃の方向に引っ張られて、電極群20が装着された頸部のインピーダンスの値を大きく変化させる。
【0026】
本実施形態の検出装置1では、このインピーダンスの値の変化が睡眠時無呼吸症候群における閉塞性の無呼吸低呼吸状態を示唆しうるという事実に着目し、測定部12により測定された頸部51のインピーダンスの変化に基づいて無呼吸低呼吸状態を検出するように構成されている。具体的には、解析部13が測定部12と通信可能に接続されており、インピーダンスの測定値が所定の閾値を上回った場合に、被験者が閉塞性の無呼吸低呼吸状態にあると判断するように構成されている。
【0027】
経時変化するインピーダンスの測定値の振幅が所定の閾値を上回った場合に、被験者が閉塞性の無呼吸低呼吸状態にあると判定するように解析部13を構成してもよい。以降の説明における「インピーダンスの測定値」という表現は、インピーダンスの絶対値および振幅値の双方を含む意味で用いる。測定値や振幅に係る閾値は予め定められた一定値としてもよく、被験者や測定環境に応じて可変としてもよい。
【0028】
出力部14は解析部13と通信可能に接続されており、無呼吸低呼吸状態の検出結果を可視化などの手法により出力するように構成されている。出力の手法は、音声出力、プリンタへの印刷、所定の機器へのデータの送信など種々の態様をとりうる。
【0029】
例えば、
図3に示したように閾値を示す線を表示することにより、医療従事者はインピーダンスの測定値が閾値を上回っていることを視覚的に容易に識別することができる。例えばアテンド(終夜監視型)診療における閉塞性無呼吸低呼吸状態の発生時に、即座に患者の状態や他のパラメータについて確認することが可能となる。
【0030】
これに加えてあるいは代えて、閾値を上回るインピーダンスの測定値が現れた時間帯を
図3の網掛け部分で示すように背景の色を変化させるなどして、無呼吸低呼吸状態が発生した時間帯を識別可能とすることができる。この手法によれば、例えば検査終了後等に無呼吸状態が発生した時間帯を容易かつ直感的に探し出すことが可能となる。
【0031】
このようにして可視化された無呼吸低呼吸状態の検出結果の出力は、図示しないディスプレイ等の表示装置に表示することにより行なわれる。または図示しない印刷機構を用いて所定の用紙へ印刷されることにより行われる。表示装置および印刷機構のそれぞれは、検出装置1の本体10に設けられていてもよいし、本体10と通信可能に接続された外部機器に設けられていてもよい。
【0032】
以上説明したように、本実施形態においては、被験者50の頸部51に装着された電極群20により睡眠中における無呼吸低呼吸状態の検出が行なわれるため、被験者の口の周囲にセンサを配置したり、胸部および腹部にストラップをきつく巻回す必要がない。したがって被験者に煩わしさや苦痛を大幅に軽減した、睡眠ポリソムノグラフィ検査における呼吸状態の検出が可能となる。
【0033】
次に
図4を参照しつつ、本発明の第2の実施形態に係る検出装置1Aについて説明する。第1の実施形態と実質的に同一または同様の構成には同一の参照番号を付与し、繰り返しとなる説明は省略する。
【0034】
本実施形態の検出装置1Aは、頸部以外に配置され、被験者の呼吸に応じた信号を出力する呼吸センサ30を備えており、解析部13Aが頸部51のインピーダンスの測定値と呼吸センサからの出力信号に基づいて無呼吸低呼吸状態の種類の判定を行なう点において、上記の検出装置1と異なる。
【0035】
本実施形態の呼吸センサ30は、睡眠ポリソムノグラフィ検査において併用される心電図測定用の電極群により構成され、電極群間の電位差に基づく被験者50の胴部のインピーダンス呼吸を測定するものである。胴部のインピーダンスは呼吸運動(および呼吸努力)に伴って変化するため、これを被験者50の呼吸に応じた信号の出力として得ることができる。心電図測定用の電極群を用いた胴部のインピーダンス呼吸の測定自体は公知の手法であるため、詳細な説明は割愛する。
【0036】
解析部13Aは、測定部12および呼吸センサ30と通信可能に接続されており、測定部12により測定された被験者50の頸部51のインピーダンスの測定値と、呼吸センサにより測定された被験者50の胴部のインピーダンス呼吸の測定値とに基づいて無呼吸低呼吸状態の検出およびその種類の判定を行なうように構成されている。
【0037】
図5に示す波形は、測定部12により測定された頸部のインピーダンスと、心電図測定用電極により測定された胴部のインピーダンス呼吸の経時変化を示すものである。グラフの横軸は睡眠ポリソムノグラフィにおける測定時刻を示している。縦軸はインピーダンスを示しているが、頸部のインピーダンス変化と胴部のインピーダンス呼吸の測定波形が縦方向に並んでいるのは時間的な同期をとって表示することを意図したものであって、両波形の測定値間の絶対的な大小関係を示すものではない。
【0038】
図6は、解析部13Aが無呼吸低呼吸状態の種類の判定を行なうにあたっての基準を示す表である。解析部13Aは、頸部のインピーダンスの測定値が所定の閾値以上であり、かつ胴部のインピーダンス呼吸の測定値が所定の閾値以上である場合に、閉塞性の無呼吸低呼吸状態であると判定する。
【0039】
閉塞性の無呼吸低呼吸状態とは気道閉塞下あるいは気道狭窄下で呼吸努力が行われている状態であるから、胴部に装着された心電図測定用電極群で測定するインピーダンスに変化が生じるとともに、第1の実施形態において説明したように頸部51に装着された電極群20で測定するインピーダンスにも通常呼吸時より大きな変化が生じる。
【0040】
この状態を示すのが
図5における期間T1およびT3の波形である。このとき呼吸努力により、胴部のインピーダンス呼吸にはあたかも普通に呼吸をしているかのような変化が認められ、一方頸部では通常呼吸時よりも明らかに大きな振幅のインピーダンス変化が現れている。
【0041】
図6に示すように、解析部13Aは、頸部のインピーダンスの測定値が所定値未満であり、胴部のインピーダンス呼吸の測定値が所定値以上である場合に、通常の呼吸状態であると判定する。
【0042】
気道が閉塞あるいは狭窄して無呼吸低呼吸状態であった期間T1に対し、期間T2は気道が解放された状態である。被験者は一般に、無呼吸低呼吸時には酸素不足となっているため、気道解放直後はこれを回復するために換気が大きくなることが多い。このような無呼吸直後であっても気道が開放されているため、呼吸(努力)による頸部51のインピーダンスの変化は、気道閉塞時あるいは気道狭窄時に比べて明らかに小さくなる。一方、胴部のインピーダンス呼吸では、気道が解放されていて正常に呼吸ができる場合も、気道が閉塞している場合も、一般に呼吸(努力)の大きさが大きくなると振幅も大きくなる傾向にある。この状態を示すのが
図5の期間T2に示す波形である。
【0043】
先に述べたように、
図5の期間T1およびT3に示す胴部のインピーダンス呼吸の測定波形だけで閉塞性の無呼吸低呼吸状態を検出することは困難である。本実施形態においては、閉塞性の無呼吸低呼吸状態において変化が顕著となる頸部のインピーダンスを参照することにより、容易かつ確実に閉塞性の無呼吸低呼吸状態を認識することができる。
【0044】
図6に示すように、解析部13Aは、頸部のインピーダンスの測定値が所定の閾値未満であり、かつ胴部のインピーダンスの測定値が所定の閾値未満である場合に、中枢性の無呼吸低呼吸状態であると判定する。
【0045】
中枢性の無呼吸低呼吸状態とは、呼吸中枢から呼吸に係る指令の伝達が正常になされずに呼吸運動そのものがなされない状態であるため、頸部51に装着された電極群20で測定するインピーダンスにも、胴部に装着された心電図測定用の電極群で測定するインピーダンス呼吸にも大きな動きは生じない。そのため、頸部のインピーダンスと胴部のインピーダンス呼吸ともに測定波形はほぼフラットな状態となり、それぞれの閾値を下回る測定値として認識される。
【0046】
出力部14Aは解析部13Aと通信可能に接続されており、無呼吸状態の種類の判定結果を可視化して出力するように構成されている。可視化および出力の手法は第1の実施形態に係る出力部14と同様であり、例えば
図5のような外観を呈するように表示されるが、閉塞性の無呼吸低呼吸状態と中枢性の無呼吸低呼吸状態は、変化させる背景の色を相違させることにより区別可能とする。これに加えてあるいは代えて、閉塞性か中枢性かを示す記号等を表示させて両者を区別可能としてもよい。
【0047】
以上説明したように、本実施形態においては、胴部のインピーダンス呼吸を測定する周知の手法と組み合わせることにより、閉塞性の無呼吸低呼吸状態を容易かつ確実に検出できるだけでなく、中枢性の無呼吸低呼吸状態との識別も可能となる。胴部のインピーダンス呼吸を測定するにあたって、睡眠ポリソムノグラフィにて併用される心電図測定用の電極を利用すれば、装着を要するセンサの数を最小限にすることができ、被験者への負担を抑制することができる。
【0048】
上記の実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0049】
電極群20の頸部51に対する装着位置は、
図2に示した配置に限定されるものではない。頸部51における2点間の電位差を測定可能であれば、
図7に示す適宜の配置を選択することができる。
【0050】
例えば
図7の(a)に示すように、
図2に示した配置例とは逆に給電電極21a、22aを下側に、測定電極21b、22bを上側に配置してもよい。また
図7の(b)に示すように、給電電極21a、22aを右半身側に、測定電極21b、22bを左半身側に配置してもよく、その逆でもよい。さらに
図7の(c)に示すように、各電極を横一列に並べ、給電電極21a、22aを内側に、測定電極21b、22bを外側に配置してもよく、その逆でもよい。
【0051】
図8の(a)に示すように、第1給電電極21aと第1測定電極21bが共通の支持体23上に支持される構成としてもよい。また
図8の(b)に示すように、共通の支持体23上において第1給電電極21aと第1測定電極21bが同心円状に配置される構成としてもよい。第2給電電極22aと第2測定電極22bについても同様である。
【0052】
上記のような構成によれば、頸部51への装着をより円滑に行なうことができ、電極間の距離が一定となるため電位測定の安定性が増す。第2給電電極22aと第2測定電極22bについても同様である。
【0053】
また
図9の(a)に示すように、一組の電極対21c、22cが、給電電極部20Aおよび測定電極部20Bとして機能するように構成してもよい。この場合、測定部12に接続された信号線26a、26bを、それぞれ電極対21c、22cと並列に接続し、
図9の(b)に示すように被験者50の頸部51に電極対21c、22cを装着する。この構成によれば使用者は一組の電極対のみを被験者に装着すればよいため、より簡易な測定が可能となる。
【0054】
一方、給電電極部20Aと測定電極部20Bが、それぞれ複数の電極対を備える構成としてもよい。
【0055】
呼吸センサ30は、被験者50の胴部のインピーダンス呼吸を測定可能であれば、心電図測定用の電極を用いる必要はない。周知のインピーダンス呼吸測定用センサを適宜利用可能である。
【0056】
呼吸センサ30は、被験者50の頸部51以外の箇所に配置され、被験者50の呼吸に応じた検出信号を出力可能なものであれば、必ずしもインピーダンス呼吸測定用センサを用いることを要しない。例えば被験者50の鼻呼吸や口呼吸を検出可能なフローセンサを用いることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1:検出装置、12:測定部、13:解析部、14:出力部、20A:給電電極部、20B:測定電極部、23:支持体、30:呼吸センサ、50:被験者(生体)、51:頸部