(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の正極は、例えば集電体の少なくとも一面に正極活物質層が形成されてなるものである。正極活物質層には活物質が含まれている。活物質としては、当該技術分野において従来知られているものを特に制限なく用いることができる。例えばLiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiCo
0.5Ni
0.5O
2、LiNi
0.7Co
0.2Mn
0.1O
2、Li(Li
xMn
2xCo
1-3x)O
2(式中、0<x<1/3である)、LiMn
1-zZ
zPO
4 (式中、0<z≦0.1であり、ZはCo、Ni、Fe、Mg、Zn及びCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素である。)などのリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。また、オリビン型の結晶構造をとるLiFePO
4を正極活物質として用いることもできる。特に、正極活物質として高容量を有するものを用いることが好ましい。そのような正極活物質としては、例えばLiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、Li(Li
xMn
2xCo
1-3x)O
2(式中、0<x<1/3である)、LiNiO
2等が挙げられる。
【0009】
活物質層には、正極活物質に加えて、以下の式(1)で表される化合物が含有されている。この化合物は、広い意味では上述したリチウム遷移金属複合酸化物の一種であり、非水電解液二次電池の正極活物質として理論上使用可能であるが、この化合物を単独で使用しても十分な容量を有する二次電池を得ることはできない。したがって本発明においては、式(1)で表される化合物は、正極活物質とは別なものとして取り扱う。本発明者らが種々検討したところ、式(1)で表される化合物は、初回充電時に不可逆容量として放出されるリチウムの量が多いことが判明した。したがってこの化合物を、高容量を有する正極活物質の添加剤として該正極活物質とともに活物質層中に含有させることで、初回充電時に十分な量のリチウムを負極へ供給させることが可能となり、それによって負極の全体にリチウムが行きわたって負極の特性が向上し、そのことに起因して正極活物質の特性が十分に引き出されて、正極の特性も向上する。
【0010】
Li
zNi
1-x-yTi
x(M
pLi
q)
yO
2 (1)
(式中、xは0.3未満の正数を表し、yは0.25未満の正数を表し、zは0.95以上1.05以下の数を表す。Mは、pr
M+qr
L(式中、r
MはMのイオン半径を表し、r
LはLi
+のイオン半径を表す)が54〜69pmを満たす多価の金属を表す。p及びqは、p+q=1及びpv+q=3を満たし、かつpは正数、qは0以上の数である。vは金属Mの価数を表す。)
【0011】
非水電解液二次電池用の正極活物質として用いられるリチウム遷移金属複合酸化物は、LiCoO
2に代表される層状の結晶構造を有する。このLiCoO
2型の層状結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、結晶構造における層間にリチウムイオンが容易に挿入脱離されるので、結晶中でリチウムイオンは動きやすくなっている。しかし、負極活物質に対して不可逆容量としてのリチウムイオンを与える能力は低い。一方、LiFeO
2やLiMnO
2等の岩塩類似型の結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムイオンの挿入脱離が可能な層間のチャネルを有していないので、リチウムイオンは酸化物内を拡散できない。しかし、負極活物質に対して不可逆容量としてのリチウムイオンを与える能力は高い。高容量を有する負極活物質と併用される正極活物質には、リチウムイオンの挿入脱離が容易であることと、負極活物質に対して不可逆容量としてのリチウムイオンを与える能力との両方が要求されるところ、従来知られている正極活物質としてのリチウム遷移金属複合酸化物には、これら双方の特性をともに満足するものはなかった。そこで、本発明においては、正極活物質として用いられるリチウム遷移金属複合酸化物に対して補助的な位置付けで、式(1)で表される化合物を用いることによって、正極全体として、不可逆容量としてのリチウムイオンを、負極活物質に与える能力を高めている。
【0012】
式(1)で表される化合物は、XRD測定した場合に、LiCoO
2型のリチウム遷移金属複合酸化物が有する層状結晶構造(α−NaFeO
2型結晶構造、空間群R−3m)と、岩塩型の結晶構造(空間群Fm3m)との中間的な結晶構造を有している。LiCoO
2型の層状結晶構造に近くなるか、それとも岩塩型の結晶構造に近くなるかは、式(1)において、主としてTiの添加量で決定される。TiはNiの一部を置換して、式(1)で表される化合物の主結晶構造を制御する働きを有する。詳細には、Tiの添加量が多くなると岩塩型の結晶構造に近づき、逆にTiの添加量が少なくなると層状の結晶構造に近づく。岩塩型の結晶構造に近づける方が、不可逆容量としてのリチウムイオンを与える能力は高まるが、リチウムイオンの脱離が起こりづらくなる。そこで、式(1)において、Liの一部をMで表される金属で置換することで、リチウムイオンの脱離を促進させている。先に述べた特許文献1に記載の技術では、層状結晶構造の高度化については検討されていたが、リチウムイオンの脱離の促進についての検討はなされていなかった。
【0013】
LiCoO
2型のリチウム遷移金属複合酸化物が有する層状結晶構造をXRD測定すると、(003)面及び(104)面に由来する特異的な回折ピークが観察される。一方、岩塩型のリチウム遷移金属複合酸化物をXRD測定すると、層状結晶構造と同様に、(104)面に由来する回折ピークは観察されるが、(003)面に由来する回折ピークは弱くなるか又は消失する。したがって、(003)面に由来する回折ピークと(104)面に由来する回折ピークとの比率によって、式(1)で表される化合物の結晶構造が、層状結晶構造に近いものであるか、それとも岩塩型結晶構造に近いものであるかを定量的に判断することができる。本発明においては、式(1)で表される化合物をXRD測定したときに、LiCoO
2型のリチウム遷移金属複合酸化物が有する層状結晶構造における(003)面に対応する回折ピークの面積と(104)面に対応する回折ピークの面積との比率(前者/後者)が0.5〜0.75、好ましくは0.55〜0.70、更に好ましくは0.59〜0.67となるように結晶構造が制御された化合物を用いている。
【0014】
式(1)で表される化合物においては、Liの一部をMで表される金属で置換することで、リチウムイオンの脱離を促進させている。この目的のために、Mで表される金属は、pr
M+qr
L(式中、r
MはMのイオン半径を表し、r
LはLi
+のイオン半径を表す)が54〜69pm、好ましくは59〜62pmのものが用いられる。Mのイオン半径が、前記の式を満たさない場合には、所望の結晶構造を有する式(1)で表される化合物が得られにくく、また仮に得られたとしても、安定しすぎていてLiの放出機能を損なってしまう。ここで言うMのイオン半径とは、式(1)で表される化合物における金属Mの価数vでのイオン半径である。イオン半径の値は、例えばY. Q. Jia, J. Solid State Chem., 95(1991), 184に記載されている。
【0015】
金属Mは、式(1)で表される化合物において好ましくは三価、四価又は六価の状態で存在する。式(1)において(M
pLi
q)の項は、式(1)で表される化合物が、LiZO
2(式中、Zは三価の元素を表す。)で表される組成となるようにする目的で導入されている。つまり、Z=M
pLi
qとなるようにする目的で導入されている。先に述べたpv+q=3の式は、このことを意味している。上述のイオン半径を満たし、かつ三価、四価又は六価の状態で、式(1)で表される化合物中に存在し得る金属Mとしては、Co(III)、Fe(III)及びAl(III)のような三価の金属、Mn(IV)のような四価の金属及びMo(VI)のような六価の金属が挙げられる。これらの金属のうち、不可逆容量を一層高くし得る点から、Co(III)やMn(IV)を用いることが好ましい。
【0016】
式(1)で表される化合物において、Tiは該化合物の結晶構造を制御する働きを有する。このことは先に述べたとおりである。式(1)で表される化合物が所望の結晶構造となり、目的とする性能を発現する観点から、式(1)においてTiの添え字xは0.3未満の正数となるようにすることが必要であり、好ましくは0.15〜0.29、更に好ましくは0.20〜0.27となるようにする。
【0017】
一方、式(1)で表される化合物において、金属Mの添え字yは、0.25以下の正数となるようにすることが必要であり、好ましくは0.05〜0.20、更に好ましくは0.08〜0.15となるようにする。金属Mの含有量をこのように制御することで、負極活物質に与える不可逆容量を所望のものとすることができる。
【0018】
式(1)で表される化合物において、リチウムの添え字zは、上述のとおり0.95〜1.05であり、好ましくは0.99〜1.02である。zの値が0.95に満たない場合には、目的とする結晶構造を有する式(1)で表される化合物を得ることができない。一方、1.05を超えてLiを含有させても、大きな特性の向上は認められない。
【0019】
式(1)で表される化合物は、リチウム源、ニッケル源、チタン源及び金属M源を、所望の量論比となるように混合し、大気下に焼成することで得ることができる。これらの化合物としては、酸化物;炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩及びカルボン酸塩等のオキソ酸塩;ハロゲン化物;水酸化物;並びにオキシ水酸化物等が挙げられる。具体的には、リチウム源としては、LiCO
3、LiOHなどを用いることができる。ニッケル源としては、Ni(OH)
2などを用いることができる。チタン源としては、TiO
2などを用いることができる。金属M源としては、金属がMnである場合には、Mn
3O
4、MnO
2などを用いることができ、金属がCoである場合には、CoOOHやCo
3O
4などを用いることができる。
【0020】
上述の原料を乾式で混合するか、又は水若しくはアセトンなどの有機溶媒を添加して湿式で混合した後、大気下に焼成する。湿式混合を行う場合には、混合後に、室温で乾燥させるか又はスプレードライヤで乾燥させ、その後に造粒を行ってもよい。焼成条件は、好ましくは750〜900℃、更に好ましくは800〜850℃の温度で、好ましくは10〜30時間、更に好ましくは15〜25時間とする。一般的な傾向として、焼成温度が過度に高いと、式(1)で表される化合物が酸素不足となり、目的とする結晶構造を実現しづらくなる。逆に焼成温度が過度に低いと、未反応物や反応途中の不純物の混入が観察される。また、式(1)で表される化合物において、Tiの量が少ない場合、すなわちxの値が小さい場合(例えばxが0.15以下の場合)には、焼成温度を高めに設定しないと、目的とするピーク面積比を有する化合物を得ることが容易でない(後述する比較例2及び5参照)。この観点から、例えばxが0.15以下である化合物を得る場合には、焼成温度を850〜900℃の範囲とすることが好適である。焼成時の昇温速度は、好ましくは0.1〜2.0℃/min、更に好ましくは0.3〜0.8℃/minとする。なお、降温速度もこの範囲とすることができる。特に、降温速度を適切にコントロールすることで、目的とする結晶構造を有する式(1)で表される化合物が得られやすい。降温速度が過度に大きいと、目的とする結晶構造を実現しづらくなる。上述の各原料の仕込みの組成や焼成条件を適切に設定することで、目的とするピーク面積比を有する化合物を得ることができる。そのような組成及び条件は、当業者がトライアンドエラーによって適宜設定できる範囲のものである。
【0021】
焼成においては、前記の昇温速度で、前記の温度まで加熱を行うという一段焼成でもよく、あるいは前記の温度に達する前の温度で一旦低温加熱を所定の時間行った後に、前記の温度まで加熱を行うという多段焼成でもよい。原料を湿式で混合した場合には、本焼成を行う前に、液体分を予め除去する観点から多段焼成を行うことが有利である。
【0022】
焼成後によって得られた式(1)で表される化合物は、所望の大きさに粉砕されて、固体粉末状の形態で用いられる。また、上述した各種正極活物質も一般に固体粉末状の形態で用いられる。これらの粉末の粒径は本発明において特に臨界的ではないが、正極活物質の粒子と式(1)で表される化合物の粒子とが、互いの隙間を埋めて高密度で充填されることが好ましいことに鑑みると、これらの粒子の好ましい粒径は、D
50で表して、いずれも5〜30μmである。この場合、これら2種類の粒子において、〔D
50が大きい方の粒子/D
50が小さい方の粒子〕の値が1.5〜5であることが好ましい。
【0023】
正極の活物質層において、式(1)で表される化合物は正極活物質と併用されて、負極活物質へリチウムを供給するために補助的に用いられるものであり、この観点から、正極活物質の量に対する式(1)で表される化合物の量の割合は5〜50重量%、特に5〜45重量%、とりわけ5〜20重量%であることが好ましい。この割合を5重量%以上とすることで、充放電のサイクル特性を向上させることができる。この観点から、正極活物質の量に対する式(1)で表される化合物の量の割合は、高ければ高いほど好ましいが、それに伴い初期容量密度が低下する傾向にあるので、この割合を50重量%以下とすることで、初期容量密度の低下とサイクル特性の向上とをバランスさせることができる。
【0024】
本発明の正極は、例えば正極活物質及び式(1)で表される化合物を、アセチレンブラック等の導電剤及びポリフッ化ビニリデン等の結着剤とともに適当な溶媒に懸濁し、正極合剤を作製し、これをアルミニウム箔等の集電体の少なくとも一面に塗布、乾燥した後、ロール圧延、プレスすることにより得られる。
【0025】
本発明の正極を備えた非水電解液二次電池においては、式(1)で表される化合物から負極活物質へ与えられるリチウムイオンの量を多くして、負極に不可逆容量として蓄積させることが好ましい。この観点から、正極から負極へのリチウムイオンの供給、すなわち充電の条件としてそのカットオフ電位をLi/Li
+を基準として、4.2〜4.5Vとすることが好ましい。本出願人の先の出願に係る特許文献1に記載の化合物を用いた場合には、予備充電のカットオフ電圧として通常よりも高いレベルである4.6Vを採用することで、大きな不可逆容量を負極活物質に与えている。これに対し、本発明においては式(1)で表される化合物を用いることで、このような高電位での予備充電を行うことなく、非水電解液二次電池の充電のカットオフ電圧として通常の値である4.2Vを採用しても、特許文献1と同レベルの不可逆容量を負極活物質に与えることができる。充電のカットオフ電圧として4.2Vを採用できることは、高電位での充電に起因する電解液の分解等の不都合を回避できる点から有利である。尤も、この利点は、本発明において予備充電を行い、そのカットオフ電圧として、4.5V超5V以下程度の高電位を採用することを妨げるものではない。なお、正極活物質としてオリビン型の結晶構造をとるLiFePO
4を用いる場合には、予備充電のカットオフ電位を、Li/Li
+を基準として、4.3V以上に設定することが好ましい。本明細書において予備充電とは、電池を組み立てた後に初めて行う充電のことであり、一般には電池の製造業者が製品を市場に出荷する前に行うものである。
【0026】
本発明の正極は、負極、セパレータ、非水電解液等とともに用いられて非水電解液二次電池を構成する。負極は、例えば集電体の少なくとも一面に負極活物質層が形成されてなるものである。負極活物質層には活物質が含まれている。負極活物質は、リチウムの吸蔵放出が可能な材料からなる。負極活物質としては、当該技術分野において従来知られているものを特に制限なく用いることができるところ、本発明の正極の特徴を生かす観点からは、初回充電時の不可逆容量が大きく、かつ理論容量が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、Si又はSnを含む材料が挙げられる。
【0027】
Siを含む負極活物質はリチウムイオンの吸蔵放出が可能なものである。その例としては、シリコン単体、シリコンと金属等の他の元素との合金、シリコン酸化物などを用いることができる。これらの材料はそれぞれ単独で、あるいはこれらを混合して用いることができる。前記の元素としては、例えばCu、Ni、Co、Cr、Fe、Ti、Pt、W、B、Mo及びAuからなる群から選択される1種類以上の元素が挙げられる。これらの金属のうち、Cu、Ni、Coが好ましく、特に電子伝導性に優れる点、及びリチウム化合物の形成能の低さの点から、Cu、Niを用いることが望ましい。また、負極を電池に組み込む前に、又は組み込んだ後に、Siを含む材料からなる活物質に対してリチウムを吸蔵させてもよい。特に好ましいSiを含む材料は、リチウムの吸蔵量の高さの点からシリコン又はシリコン酸化物である。
【0028】
一方、Snを含む負極活物質の例としては、スズ単体、スズと金属との合金などを用いることができる。これらの材料はそれぞれ単独で、あるいはこれらを混合して用いることができる。スズと合金を形成する前記の金属としては、例えばCu、Ni、Co、Cr、Fe、Ti、Pt、W、Mo及びAuからなる群から選択される1種類以上の元素が挙げられる。これらの金属のうち、Cu、Ni、Coが好ましく、特にCu、Niを用いることが望ましい。
【0029】
負極活物質層は、例えば、前記の負極活物質からなる連続薄膜層、前記の負極活物質の粒子を含む塗膜層、前記の負極活物質の粒子を含む焼結体層等であり得る。また、以下に述べる
図1に示す構造の層であり得る。前記の負極活物質が粒子の形態である場合、負極活物質層は、粒子からなる該負極活物質と金属粒子との混合物を含む場合があり得る。
【0030】
図1には本発明において用いられる負極の好適な一実施形態の断面構造の模式図が示されている。本実施形態の負極10は、集電体11と、その少なくとも一面に形成された活物質層12を備えている。なお
図1においては、便宜的に集電体11の片面にのみ活物質層12が形成されている状態が示されているが、活物質層は集電体の両面に形成されていてもよい。
【0031】
活物質層12においては、Siを含む活物質の粒子12aの表面の少なくとも一部が、リチウム化合物の形成能の低い金属材料で被覆されている。この金属材料13は、粒子12aの構成材料と異なる材料である。該金属材料で被覆された該粒子12aの間には空隙が形成されている。つまり該金属材料は、リチウムイオンを含む非水電解液が粒子12aへ到達可能なような隙間を確保した状態で該粒子12aの表面を被覆している。
図1中、金属材料13は、粒子12aの周囲を取り囲む太線として便宜的に表されている。なお同図は活物質層12を二次元的にみた模式図であり、実際は各粒子は他の粒子と直接ないし金属材料13を介して接触している。「リチウム化合物の形成能の低い」とは、リチウムと金属間化合物若しくは固溶体を形成しないか、又は形成したとしてもリチウムが微量であるか若しくは非常に不安定であることを意味する。
【0032】
金属材料13は導電性を有するものであり、その例としては銅、ニッケル、鉄、コバルト又はこれらの金属の合金などが挙げられる。特に金属材料13は、活物質の粒子12aが膨張収縮しても該粒子12aの表面の被覆が破壊されにくい延性の高い材料であることが好ましい。そのような材料としては銅を用いることが好ましい。
【0033】
金属材料13は、活物質層12の厚み方向全域にわたって活物質の粒子12aの表面に存在していることが好ましい。そして金属材料13のマトリックス中に活物質の粒子12aが存在していることが好ましい。これによって、充放電によって該粒子12aが膨張収縮することに起因して微粉化しても、その脱落が起こりづらくなる。また、金属材料13を通じて活物質層12全体の電子伝導性が確保されるので、電気的に孤立した活物質の粒子12aが生成すること、特に活物質層12の深部に電気的に孤立した活物質の粒子12aが生成することが効果的に防止される。金属材料13が活物質層12の厚み方向全域にわたって活物質の粒子12aの表面に存在していることは、該材料13を測定対象とした電子顕微鏡マッピングによって確認できる。
【0034】
金属材料13は、粒子12aの表面を連続に又は不連続に被覆している。金属材料13が粒子12aの表面を連続に被覆している場合には、金属材料13の被覆に、非水電解液の流通が可能な微細な空隙を形成することが好ましい。金属材料13が粒子12aの表面を不連続に被覆している場合には、粒子12aの表面のうち、金属材料13で被覆されていない部位を通じて該粒子12aへ非水電解液が供給される。
【0035】
以上の構造を有する負極10は、例えば本出願人の先の出願に係るUS2009/0202915A1に記載の方法で製造することができる。これを本発明の一部として本明細書に組み入れる。
【0036】
上述した正極及び負極とともに用いられるセパレータとしては、合成樹脂製不織布、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、又はポリテトラフルオロエチレンの多孔質フィルム等が好ましく用いられる。
【0037】
非水電解液は、支持電解質であるリチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液からなる。リチウム塩としては、CF
3SO
3Li、(CF
3SO
2)NLi、(C
2F
5SO
2)
2NLi、LiClO
4、LiA1Cl
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCl、LiBr、LiI、LiC
4F
9SO
3等が例示される。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
以上の各部材等から構成される非水電解液二次電池は、円筒型、角型、コイン型等の形態であり得る。しかしこれらの形態に制限されるものではない。
【0039】
なお、正極に式(1)で表される化合物を含む電池を使用した後、すなわち充放電後の電池における正極活物質層をXRD測定し、式(1)で表される化合物の(003)面に由来する回折ピークの面積と(104)面に由来する回折ピークの面積を測定することで、初期状態の式(1)で表される化合物の(003)面に由来する回折ピークの面積と(104)面に由来する回折ピークの面積の比率を求めることが可能である。詳細には、充放電後の式(1)で表される化合物の(003)面に由来する回折ピークの面積と(104)面に由来する回折ピークの面積との比率(前者/後者)は、初期状態に比べて約75%低下することが本発明者らの検討の結果判明している。したがってこの低下分を考慮することによって、初期状態の式(1)で表される化合物の(003)面に由来する回折ピークの面積と(104)面に由来する回折ピークの面積との比率(前者/後者)を求めることができる。充放電後の電池において、式(1)で表される化合物の(003)面に由来する回折ピークの面積及び(104)面に由来する回折ピークの面積を測定するには、対極リチウム相当で3.0Vまで放電した状態の電池を解体して正極活物質層を取り出し、該正極活物質層についてXRD測定を行い、(003)面に由来する回折ピークの面積及び(104)面に由来する回折ピークの面積を測定すればよい。なお、(003)面に由来する回折ピーク面積を精度よく算出するためには、導電助剤と結着剤の影響を差し引くために、2θ=18〜22度のベースライン分を差し引くことがよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0041】
〔実施例1〕
Li
1.05Ni
0.7Ti
0.2(Mn
2/3Li
1/3)
0.1O
2で表される化合物を調製した。LiCO
3、Ni(OH)
2、TiO
2及びMn
3O
4を、Li:Ni:Ti:Mn=1.083:0.7:0.2:0.067のモル比となるように秤量した。これらを混合して湿式微粉砕機でスラリー化した後、スプレードライヤで乾燥・造粒した。得られた造粒粉を800℃で20時間焼成し、目的とする化合物を得た。昇温速度及び降温速度は0.5℃/minとした。この化合物のXRD回折図を
図2に示す。
【0042】
〔実施例2〕
実施例1において、原料を、Li:Ni:Ti:Mn=1.033:0.7:0.2:0.067のモル比となるように秤量した。これ以外は実施例1と同様にして、Li
1Ni
0.7Ti
0.2(Mn
2/3Li
1/3)
0.1O
2で表される化合物を得た。
【0043】
〔実施例3〕
実施例1において、原料を、Li:Ni:Ti:Mn=1.033:0.65:0.25:0.067のモル比となるように秤量した。これ以外は実施例1と同様にして、Li
1Ni
0.65Ti
0.25(Mn
2/3Li
1/3)
0.1O
2で表される化合物を得た。この化合物のXRD回折図を
図3に示す。
【0044】
〔実施例4〕
実施例3において、焼成温度を900℃とし、焼成時間を20時間とする以外は、実施例3と同様にして、Li
1Ni
0.65Ti
0.25(Mn
2/3Li
1/3)
0.1O
2で表される化合物を得た。
【0045】
〔実施例5〕
Li
1Ni
0.65Ti
0.25Co
0.1O
2で表される化合物を調製した。LiCO
3、Ni(OH)
2、TiO
2及びCoOOHを、Li:Ni:Ti:Co=1:0.65:0.25:0.1のモル比となるように秤量した。これらを混合して湿式微粉砕機でスラリー化した後、スプレードライヤで乾燥・造粒した。得られた造粒粉を800℃で20時間焼成し、目的とする化合物を得た。
【0046】
〔比較例1〕
特許文献1に記載の化合物を調製した。Li
2CO
3、Ni(OH)
2、TiO
2を、Li:Ni:Ti=1:0.9:0.1のモル比となるように秤量した。これらを混合して湿式微粉砕機でスラリー化した後、スプレードライヤで乾燥・造粒した。得られた造粒粉を800℃で20時間焼成し、LiNi
0.9Ti
0.1O
2を得た。
【0047】
〔比較例2〕
実施例1において、原料を、Li:Ni:Ti:Mn=0.983:0.8:0.1:0.067のモル比となるように秤量した。これ以外は実施例1と同様にして、Li
0.95Ni
0.8Ti
0.1(Mn
2/3Li
1/3)
0.1O
2で表される化合物を得た。この化合物のXRD回折図を
図4に示す。
【0048】
〔比較例3〕
実施例1において、原料を、Li:Ni:Ti:Mn=1.033:0.55:0.35:0.067のモル比となるように秤量した。これ以外は実施例1と同様にして、LiNi
0.55Ti
0.35(Mn
2/3Li
1/3)
0.1O
2で表される化合物を得た。
【0049】
〔比較例4〕
実施例1において、原料を、Li:Ni:Ti:Mn=1.033:0.6:0.3:0.067のモル比となるように秤量した。これ以外は実施例1と同様にして、LiNi
0.6Ti
0.3(Mn
2/3Li
1/3)
0.1O
2で表される化合物を得た。
【0050】
〔比較例5〕
実施例1において、原料を、Li:Ni:Ti:Mn=1.033:0.75:0.15:0.067のモル比となるように秤量した。これ以外は実施例1と同様にして、LiNi
0.75Ti
0.15(Mn
2/3Li
1/3)
0.1O
2で表される化合物を得た。
【0051】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られた化合物についてXRD測定を行い、(003)面に由来する回折ピークの面積と(104)面に由来する回折ピークの面積との比率(前者/後者)を求めた。その結果を、以下の表1に示す。XRD測定の条件は、以下のとおりである。測定は、常法に従い粉末試料をガラスホルダに充填して行った。回折ピークの面積は、ピークトップの角度に対して±1.5°の範囲の面積を、XRD測定器に付属の装置を用いて算出した。
・装置:集中光学系
・線源:Cukα
・ステップ:0.02°
・スキャン速度:4°/min
【0052】
〔評価2〕
実施例及び比較例で得られた化合物について、初回充電時の不可逆容量を測定した。測定には単セルを用いた。負極として金属リチウムを用いた。正極は、次の方法で製造した。すなわち、実施例及び比較例で得られた化合物と、導電剤としてのアセチレンブラック、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンに懸濁させ合剤を得た。この合剤をアルミニウム箔からなる集電体に塗布、乾燥した後、ロール圧延及びプレスを行い、正極を得た。電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:1体積%混合溶媒に1mol/lのLiPF
6を溶解した溶液に対して、ビニレンカーボネートを2体積%外添したものを用いた。このようにして得られた単セルについて、レート0.05Cで4.3V(対Li/Li
+)まで充電を行い、次いで同レートで3.0V(対Li/Li
+)まで放電を行ったときの容量を測定した。その結果を表1に示す。また、(003)/(104)ピーク比と、初回不可逆容量との関係をグラフ化したものを
図5に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた化合物は、比較例で得られた化合物に比べ、初回充電時の不可逆容量が高いものであることが判る。
【0055】
〔実施例6〕
(1)正極の製造
正極活物質としてのLiNiO
2(D
50=12μm)、添加剤としての実施例3の化合物、導電剤としてのアセチレンブラック、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンに懸濁させ正極合剤を得た。この正極合剤をアルミニウム箔からなる集電体に塗布、乾燥した後、ロール圧延及びプレスを行い、正極を得た。正極活物質の重量:添加剤の重量比は、8:2であった。
【0056】
(2)負極の製造
厚さ18μmの電解銅箔からなる集電体を室温で30秒間酸洗浄した。処理後、15秒間純水洗浄した。集電体の両面上にケイ素からなる粒子を含むスラリーを膜厚15μmになるように塗布し塗膜を形成した。スラリーの組成は、粒子:スチレンブタジエンラバー(結着剤):アセチレンブラック=100:2.5:2(重量比)であった。粒子の平均粒径D
50は2μmであった。平均粒径D
50は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布測定装置(No.9320−X100)を使用して測定した。
【0057】
塗膜が形成された集電体を、以下の浴組成を有するピロリン酸銅浴に浸漬させ、電解により、塗膜に対して銅の電解めっきを行い、活物質層を形成した。電解の条件は以下のとおりとした。陽極にはDSEを用いた。電源は直流電源を用いた。なお、ピロリン酸銅浴におけるP
2O
7の重量とCuの重量との比(P
2O
7/Cu)は7とした。
・ピロリン酸銅三水和物:105g/l
・ピロリン酸カリウム:450g/l
・硝酸カリウム:30g/l
・浴温度:50℃
・電流密度:3A/dm
2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH8.2になるように調整した。
【0058】
電解めっきは、塗膜の厚み方向全域にわたって銅が析出した時点で終了させた。このようにして目的とする負極を得た。活物質層の縦断面のSEM観察によって該活物質層においては、活物質の粒子は、平均厚み240nmの銅の被膜で被覆されていることを確認した。また、活物質層の空隙率は30%であった。
【0059】
このようにして得られた正極及び負極を、20μm厚のポリプロピレン製セパレータを挟んで対向させた。電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:1体積%混合溶媒に1mol/lのLiPF
6を溶解した溶液に対して、ビニレンカーボネートを2体積%外添したものを用い、リチウム二次電池を製造した。二次電池において、正極と負極の容量比が、充電のカットオフ電圧4.3Vにおいて1:2となるように、正極活物質及び負極活物質の量を調整した。
【0060】
〔比較例6〕
実施例6の正極の製造において、正極活物質としてのLiNiO
2のみを用い、添加剤を用いなかった以外は実施例6と同様にしてリチウム二次電池を得た。
【0061】
〔比較例7及び8〕
実施例6の正極の製造において、添加剤として用いた実施例3の化合物に代えて、比較例1の化合物を用いた。正極活物質の重量:添加剤の重量比を8:2としたものを比較例7とし、7:3としたものを比較例8とした。これら以外は実施例6と同様にしてリチウム二次電池を得た。
【0062】
〔実施例7〕
実施例6において用いた正極活物質であるLiNiO
2に代えて、LiCoO
2を用いた以外は実施例6と同様にしてリチウム二次電池を得た。
【0063】
〔比較例9〕
実施例7の正極の製造において、正極活物質としてのLiCoO
2のみを用い、添加剤を用いなかった以外は実施例7と同様にしてリチウム二次電池を得た。
【0064】
〔比較例10及び11〕
実施例7の正極の製造において、添加剤として用いた実施例3の化合物に代えて、比較例1の化合物を用いた。正極活物質の重量:添加剤の重量比を8:2としたものを比較例9とし、7:3としたものを比較例10とした。これら以外は実施例7と同様にしてリチウム二次電池を得た。
【0065】
〔評価3〕
実施例及び比較例で得られたリチウム二次電池について充放電を300回繰り返し行った(ただし、比較例6は250サイクルまで、比較例9は200サイクルまで行った。)。各サイクル後の容量を10回充放電後の容量で除し、100を乗じて容量維持率(%)を求めた。その結果を
図6及び
図7に示す。充放電は次の条件で行った。1回目の充電は0.05Cで、カットオフ電位を4.2V(対負極)に設定し、定電流・定電圧とした。1回目の放電は0.05Cで、カットオフ電位を2.7V(対負極)に設定し、定電流とした。2回目の充電は0.1Cで、カットオフ電位を4.2V(対負極)に設定し、定電流・定電圧とした。2回目の放電は0.1Cで、カットオフ電位を2.7V(対負極)に設定し、定電流とした。6回目以降の充電は0.5Cで、カットオフ電位を4.2V(対負極)に設定し、定電流・定電圧とした。6回目以降の放電は0.5Cで、カットオフ電位を2.7V(対負極)に設定し、定電流とした。
【0066】
図6及び
図7に示す結果から明らかなように、実施例6及び7で得られた電池は、添加剤を用いなかった比較例6及9で得られた電池に比べて充放電のサイクルを重ねたときの容量維持率が高い値に維持されていることが判る。実施例6及び7で得られた電池を、添加剤として特許文献1に記載のものを用いた比較例7及び10と比べても、同様の結果が得られている。比較例8及び11は、実施例6及び7と同等の容量維持率を有しているものの、これらの比較例は、実施例6及び7に比べて正極活物質の割合が少ないので、実施例6及び7よりも低容量のものである(7/8=0.88倍容量が低い)。以上の結果から、本発明の添加剤を用いることで、高容量を維持しつつ二次電池の充放電のサイクル特性が向上することが判る。