(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5694401
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】免疫測定法用測定値低下抑制剤及びそれを用いた免疫測定法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/531 20060101AFI20150312BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
G01N33/531 B
G01N33/543 583
G01N33/543 587
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-23979(P2013-23979)
(22)【出願日】2013年2月12日
(62)【分割の表示】特願2009-273151(P2009-273151)の分割
【原出願日】2004年2月26日
(65)【公開番号】特開2013-127472(P2013-127472A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2013年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】591125371
【氏名又は名称】デンカ生研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088546
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英次郎
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康紀
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 美千恵
(72)【発明者】
【氏名】松井 寛史
【審査官】
赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−026964(JP,A)
【文献】
特表2006−524319(JP,A)
【文献】
特表平05−504400(JP,A)
【文献】
国際公開第91/010747(WO,A1)
【文献】
国際公開第92/008978(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53−33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン基又はその塩を有する芳香族モノマーが重合されたポリマーであって、分子量が1000ないし10万であるイオン性界面活性剤から成る、
被検試料中の妨害物質による測定値低下を抑制するための免疫測定法用測定値低下抑制剤
の存在下において、希釈した被検試料について行なう免疫測定法であって、前記ポリマーは、その繰返し単位が下記式[III]で表されるアネトールスルホン酸塩又は下記式[V]で表されるナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩である、免疫測定法。
【化1】
(ただし、Mは、水溶液中で1価の陽イオンとなる原子又は基を表す)。
【化2】
(ただし、Mは、水溶液中で1価の陽イオンとなる原子又は基を表す)。
【請求項2】
被検試料を前記測定値低下抑制剤と接触させる第1工程と、次いで、第1工程後の被検試料を感作粒子又は抗血清と抗原抗体反応させる第2工程とを含む請求項1記載の免疫測定法。
【請求項3】
被検試料が、生体試料である請求項1又は2記載の免疫測定法。
【請求項4】
被検試料が、血液、血清又は血漿である請求項3記載の免疫測定法。
【請求項5】
反応溶液中の前記測定値低下抑制剤の濃度が0.01%ないし5%(重量/容量)である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の免疫測定法。
【請求項6】
免疫凝集法である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の免疫測定法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妨害物質による測定値低下を抑制するための免疫測定法用測定値低下抑制剤並びにそれを用いた免疫測定法及び免疫測定法用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査において、生体試料を被検試料とする検査項目は多数存在する。その中の免疫学的測定法においては、目的物質の免疫反応に影響を与える妨害物質が生体試料中に存在することが知られている。この影響とは測定値の正確性に影響するものであり、いくつかの報告もなされている。
【0003】
これら妨害物質による影響の確認及び低減の最も一般的な方法として、被検試料を前希釈することにより妨害物質の濃度を低下させる方法がある。しかしこの方法の場合、希釈操作により妨害物質と共に目的物質濃度も低下するため、試料中の低濃度物質を検出する測定系では利用が困難となる。更に、希釈操作が加わることにより測定時間も延長し、迅速性に欠けるものとなる。一方で、妨害物質が既知の場合は妨害活性を抑制又は抑止する機能を持つ化合物の添加や加温などの前処理方法がとられるが、既知の特定物質だけに有効であり、測定項目によっては未知の物質が測定に悪影響を与える可能性も考えられる。
【0004】
また、特開平9−304384号公報では免疫測定法における偽陽性回避のため、スルホン酸基やその塩を含有する共役ジエン系重合体を用いることが記載されているが、特殊な試料中に存在する偽陽性物質よりも、全ての生体試料中に存在しうる妨害物質の回避が正確性向上に必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−304384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、被検試料中の妨害物質による影響を抑制して免疫測定法の正確性を向上させることができる、免疫測定法用測定値低下抑制剤並びにそれを用いた、妨害物質による測定値低下が抑制された免疫測定法及び免疫測定法用試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、イオン性官能基を有する疎水性環式モノマーが重合されたポリマーであって、分子量が1000ないし10万であるイオン性界面活性剤を免疫測定法を行なう反応溶液に共存させることにより、被検試料中の妨害物質による影響を抑制して免疫測定法の正確性を向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
スルホン基又はその塩を有する芳香族モノマーが重合されたポリマーであって、分子量が1000ないし10万であるイオン性界面活性剤から成る、
被検試料中の妨害物質による測定値低下を抑制するための免疫測定法用測定値低下抑制剤
の存在下において、希釈した被検試料について行なう免疫測定法であって、前記ポリマーは、その繰返し単位が下記式[III]で表されるアネトールスルホン酸塩又は下記式[V]で表されるナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩である、免疫測定法。
【化1】
(ただし、Mは、水溶液中で1価の陽イオンとなる原子又は基を表す)。
【化2】
(ただし、Mは、水溶液中で1価の陽イオンとなる原子又は基を表す)。
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の免疫測定法の測定値低下抑制剤の存在下において免疫測定法を行なうことにより、被検試料中の妨害物質の影響が低減され、測定値低下抑制剤の非存在下において行なう場合よりも免疫測定法の正確性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
免疫測定法のうち、免疫凝集法は、抗原抗体反応により生じる、反応液の濁度や吸光度のような光学的性質の変化に基づいて、被検試料中の抗原又は抗体を検出又は定量する方法であり、免疫比濁法及び免疫比ろう法(ネフェロメトリー)が包含される。測定の感度を高めるため、通常、被検試料中の目的抗原又は目的抗体と抗原抗体反応する抗体又は抗原が、ラテックス粒子のような粒子上に不動化されており(感作粒子)、抗原抗体反応により該感作粒子が凝集することに起因する光学的性質の変化に基づいて被検物質の検出又は定量が行なわれる(ラテックス粒子を用いる場合は特にラテックス凝集法とも呼ばれる)。もっとも、感作粒子を用いることなく抗血清もしばしば用いられる。
【0011】
本発明の免疫測定法の測定値低下抑制剤は、イオン性官能基を有する疎水性環式モノマーが重合されたポリマーであって、分子量が1000ないし10万であるイオン性界面活性剤から成る。
【0012】
イオン性官能基としては、スルホン基若しくはその塩、カルボン酸若しくはその塩又はアミン(水溶液中でイオン化される第4級アミン等)が好ましく、特にスルホン基又はその塩が好ましい。このように、イオン性界面活性剤は、陰イオン界面活性剤でも陽イオン界面活性剤でもよい。
【0013】
また、疎水性環としては、芳香環やシクロアルキル環が挙げられ、酸素原子、窒素原子又はイオウ原子等を含む複素環であってもよいし、それらが縮合した縮合環であってもよい。疎水性環としては芳香環が好ましく、芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が例示され、好ましくはベンゼン環又はナフタレン環、さらに好ましくはベンゼン環である。
【0014】
測定値低下抑制剤として用いられる好ましいポリマーとして、ポリアネト−ルスルホン酸ナトリウム塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(具体的には、ディスロ−ル(商品名、日本乳化剤社製)、デモ−ル(商品名、花王社製)、ポリティPS−1900(ライオン)、ポリティN−100K(商品名、ライオン社製)等)を挙げることができる。
【0022】
本発明の測定値低下抑制剤として用いられるポリマーの繰り返し単位は、下記式[III]で表されるアネトールスルホン酸塩又は下記式[V]で示されるナフタレン酸スルホン酸ホルマリン縮合物塩である。
【0026】
ただし、式[III]及び[V]中、Mは
水溶液中で1価の陽イオンとなる原子又は基、好ましくはナトリウムやカリウムのようなアルカリ金属である。
【0027】
上記ポリマーの分子量は、1000〜10万であり、好ましくは、1000〜6万である。
【0028】
上記繰返し単位は、1種のみでも2種以上を組み合わせて採用することもできる。測定値低下抑制剤として用いられるポリマーは、上記繰返し単位のみから成ることが好ましいが、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で他の単位を含んでいてもよい。通常、このような他の単位のポリマー中の含量は、20モル%以下、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。
【0029】
本発明の免疫測定法は、上記した本発明の測定値低下抑制剤の存在下において免疫測定法を行なうものである。測定値低下抑制剤の使用量は、特に限定されないが、通常、反応溶液中の最終濃度が0.01%ないし5%(重量/容量)であり、好ましくは0.1〜1%程度である。もっとも、使用する高分子イオン性界面活性剤の種類、被検試料と緩衝液および抗血清液または、感作ラテックス粒子の混合比などにより効果が得られる最適な濃度を選択することが好ましい。
【0030】
本発明の免疫測定法に付される被検試料は、特に限定されないが、妨害物質の影響を抑制するという本発明の効果を大いに発揮できる生体試料が好ましく、特に、血液、血清、血漿、尿、便、唾液、組織液、髄液、ぬぐい液等の体液等又はその希釈物が好ましく、さらには血液、血清及び血漿又はこれらの希釈物が好ましい。
【0031】
免疫測定法が免疫凝集法である場合に用いられる感作粒子に感作される抗体又は抗原は特に限定されるものではなく、従来と同様、例えば、C-反応性蛋白(CRP)、リウマトイド因子(RF)、フェリチン(FER)及びミオグロビン(Mb)並びにこれらに対する抗体を例示することができるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0032】
上記測定値低下抑制剤の存在下において免疫測定法を行なうことを除き、本発明の免疫測定法は従来と同様に行なうことができる。すなわち、免疫測定法が免疫凝集法である場合、反応液中の感作粒子の濃度は、特に限定されないが、通常、0.01〜0.5%程度であり、反応は、通常、1℃〜56℃、好ましくは37℃で1分間〜10分間程度行なわれる。もっとも、反応条件はこれらに限定されるものではない。また、反応媒体としては、通常、グリシン緩衝液等の各種緩衝液が用いられる。反応溶液の濁度又は吸光度を反応の開始前と開始後一定時間後測定し、又は、反応の開始前及び開始後経時的に測定し、濁度若しくは吸光度の変化の大きさ(エンドポイント法)又は変化の速度(レート法)に基づき、被検物質の検出又は定量を行なう。なお、免疫凝集法は、手動により行なうこともできるし、自動分析装置を用いて行うこともできる。
【0033】
免疫測定法が免疫凝集法である場合、本発明の方法では、測定値低下抑制剤と、感作粒子又は抗血清を同時に被検試料と混合しても良いが、被検試料を測定値低下抑制剤と接触させる第1工程と、次いで、第1工程後の被検試料を感作粒子又は抗血清と抗原抗体反応させる第2工程とを含むことが、本発明の効果を最大限に得る上で好ましい。この場合、第1工程、第2工程とも、特に限定されないが、反応時間はそれぞれ、通常1分間〜10分間、好ましくは1分間〜5分間、反応温度は通常、1℃〜56℃、好ましくは37℃で行なわれる。また、2段階で反応を行なう場合、測定値低下抑制剤の濃度は、第1工程の反応液中、好ましくは0.01%ないし5%(重量/容量)であり、さらに好ましくは0.05〜1%程度である。
【0034】
本発明の免疫測定法は、免疫凝集法に限定されるものではなく、サンドイッチELISA等のサンドイッチ法、イムノクロマト法、競合法等も含まれる。これらの免疫測定法の場合にも、本発明の測定値低下抑制剤を免疫反応の媒体中に含ませてそれぞれの免疫測定法を行なえばよい。その際の測定値低下抑制剤の濃度は上記と同様でよい。
【0035】
本発明は、また、緩衝液と、感作粒子と、上記測定値低下抑制剤を含む免疫測定法用試薬をも提供する。上記のように、免疫凝集法を2段階で反応を行なう場合には、免疫測定法用試薬は、緩衝液を少なくとも含み、被検試料と先に混合される第1試薬と、緩衝液及び感作粒子を少なくとも含み、被検試料と第1試薬の混合物に添加される第2試薬とから成る2液系試薬であることが操作性及び試薬の安定性の観点から好ましく、この場合、前記測定値低下抑制剤は、前記第1試薬中に含まれる。この場合、第1試薬中の測定値低下抑制剤の濃度は、特に限定されないが、通常、0.01〜5%(w/v)、好ましくは、0.01〜1%(w/v)程度である。なお、これらの試薬の他に、希釈液を用いて被検試料を希釈してもよい。
【0036】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
試薬
以下の組成からなるミオグロビン測定用ラテックス比濁用試薬を調製した。
第1試薬
170mM グリシン緩衝液 pH7.0
50mM EDTA
100mM 塩化ナトリウム
0.3% ポリアネト−ルスルホン酸ナトリウム塩(分子量4万)
第2試薬
Mb-ラテックス「生研」/ラテックス浮遊液(デンカ生研社製)
【実施例2】
【0038】
試薬
以下の組成からなるミオグロビン測定用ラテックス比濁用試薬を調製した。
第1試薬
170mM グリシン緩衝液 pH7.0
50mM EDTA
100mM 塩化ナトリウム
0.3% ポリスチレンp-スルホン酸ナトリウム塩(分子量1万4千)
第2試薬
Mb-ラテックス「生研」/ラテックス浮遊液(デンカ生研社製)
【0039】
(比較例1)
試薬
比較用試薬として第1試薬中にポリアネト−ルスルホン酸ナトリウム塩及びポリスチレンp-スルホン酸ナトリウム塩を含まない、以下の組成からなるミオグロビン測定用ラテックス比濁用試薬を調製した。
第1試薬
170mM グリシン緩衝液 pH7.0
50mM EDTA
100mM 塩化ナトリウム
第2試薬
Mb-ラテックス「生研」/ラテックス浮遊液(デンカ生研社製)
【0040】
なお、実施例1、実施例2及び比較例1の第1試薬、第2試薬で用いる緩衝液はリン酸緩衝液、グッド緩衝液等を使用することができ、pHについても緩衝液の好適なpHを使用できる。
【0041】
測定例
被検試料 無作為に抽出した臨床検体1例(血清)
測定方法 試料調製 被検試料を、生理食塩液を希釈液として希釈濃度1/10(10倍希釈)〜10/10(希釈せず)の段階に希釈する。
測定方法 東芝TBA-30R型自動分析装置による測定
【0042】
自動分析装置による測定
実施例1、実施例2及び比較例1の各試薬を用いて測定を行った。前述の調製した試料20μLに第1試薬200μLを添加し、37℃で攪拌混合し、5分放置後、第2試薬100μLを添加し、更に37℃で攪拌混合した後、約2分間の凝集反応を570nmの吸光度変化量として測定した。またあらかじめ既知濃度の試料を同一条件で測定し、濃度と吸光度変化量の関係を表す検量線を作成しておいた。第一試薬中の測定値低下抑制剤の有無により、求めたそれぞれの測定値(ng/mL)を比較した。
【0043】
結果を下記表1に示す。表1中、「理論値」は、各例における共存する妨害物質が引き起こす測定値低下作用を無視し得る希釈濃度1/10(10倍希釈)の測定値を基準とし、これに希釈濃度の分子を乗じた値(希釈濃度10/10なら10倍、2/10なら2倍)を意味する。また、差(%)は、(理論値−測定値)/理論値 ×100(%)を意味し、差(%)が小さいほど、理論値との乖離が小さいことを示す。
【0044】
表1
(測定値、理論値単位: ng/ml)
【0045】
表1に示されるように、測定値低下抑制剤を含まない比較例1では、無希釈の試料(希釈濃度10/10)で、理論値と測定値の差が33%にも達するのに対し、本発明の実施例1及び2では、無希釈の場合でも差は5%又は4%であった。これらの結果は、本発明の測定値低下抑制剤の添加により理論値と測定値の差が小さくなることを示しており、妨害物質の影響が低減されることによって測定値の正確性が大幅に向上していることがわかる。