(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5694426
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】新規ショ糖非資化性凝集性酵母
(51)【国際特許分類】
C12N 1/16 20060101AFI20150312BHJP
C12P 7/06 20060101ALI20150312BHJP
C12P 19/12 20060101ALI20150312BHJP
C12R 1/865 20060101ALN20150312BHJP
【FI】
C12N1/16 G
C12P7/06
C12P19/12
C12N1/16 G
C12R1:865
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-99537(P2013-99537)
(22)【出願日】2013年5月9日
(65)【公開番号】特開2014-217331(P2014-217331A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2014年8月19日
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-1587
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-1588
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-1589
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓
【審査官】
荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/032724(WO,A1)
【文献】
特開平05−236942(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/042184(WO,A1)
【文献】
BIDARD, F., et al.,YEAST,1995年,11,pp.809-822
【文献】
KOBAYASHI, O., et al.,JOURNAL OF BACTERIOLOGY,1998年,180(24),pp.6503-6510
【文献】
SHINOHARA, T., et al.,JOURNAL OF FERMENTATION AND BIOENGINEERING,1997年,83(1),pp.96-101
【文献】
WATARI, J., et al.,Agric. Biol. Chem.,1990年,54(7),pp.1677-1681
【文献】
SANTA MARIA, J.,Nature,1958年,(4640),pp.937-938
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 1/16
C12P 7/00−19/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号NITE BP−1587で表される酵母菌株。
【請求項2】
受託番号NITE BP−1588で表される酵母菌株。
【請求項3】
酵母を使用して植物由来の糖液を発酵させる工程を包含する砂糖及びエタノールの製造方法に使用する請求項1又は2に記載の酵母菌株。
【請求項4】
植物由来の糖液に含まれる非糖分を除去することにより、該糖液を清澄化する工程、及び
清澄化された糖液に酵母を添加し、嫌気条件下、所定の温度で適当な時間エタノール発酵させる工程、
を包含する砂糖及びエタノールの製造方法に使用する、請求項1又は2に記載の酵母菌株。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の酵母菌株を使用して植物由来の糖液を発酵させる工程を包含する砂糖及びエタノールの製造方法。
【請求項6】
植物由来の糖液に含まれる非糖分を除去することにより、該糖液を清澄化する工程、及び
清澄化された糖液に請求項1又は2に記載の酵母菌株を添加し、嫌気条件下、所定の温度で適当な時間エタノール発酵させる工程、
を包含する砂糖及びエタノールの製造方法。
【請求項7】
受託番号NBRC10055で表される酵母菌株及び受託番号NITE BP−1589で表される酵母菌株を胞子分離に供し、接合型としてa型又はα型を示す胞子分離体を取得する工程;
接合型が異なるNBRC10055胞子分離体とNITE BP−1589胞子分離体を接合させ、接合株を造成する工程;
造成した接合株について、四分子分離を行い、胞子分離体を取得する工程;及び
得られた胞子分離体に対してスクリーニングを行い、ショ糖非資化性、凝集性という形質を持つ株を選抜する工程;
を包含する育種方法により得られる酵母菌株。
【請求項8】
請求項7に記載の酵母菌株を二倍体化することにより得られる酵母菌株。
【請求項9】
受託番号NBRC10055で表される酵母菌株及び受託番号NITE BP−1589で表される酵母菌株を胞子分離に供し、接合型としてa型又はα型を示す胞子分離体を取得する工程;
接合型が異なるNBRC10055胞子分離体とNITE BP−1589胞子分離体を接合させ、接合株を造成する工程;
造成した接合株について、四分子分離を行い、胞子分離体を取得する工程;及び
得られた胞子分離体に対してスクリーニングを行い、ショ糖非資化性、凝集性という形質を持つ株を選抜する工程;
を包含する酵母菌株の育種方法。
【請求項10】
得られた酵母菌株を二倍体化する工程を更に包含する請求項9に記載の酵母菌株の育種方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショ糖非資化性酵母に関し、特に、サッカロミセス・セレビシエに属するショ糖非資化性酵母に関する。
【背景技術】
【0002】
植物由来の燃料用エタノールは炭酸ガス増加を防ぐガソリン代替液体燃料として期待されており、植物由来の糖液を微生物で発酵させてエタノールを製造する方法が従来から検討されている。しかし、エタノールの製造原料として植物由来の糖液を消費すると食料である砂糖の生産が圧迫される問題がある。
【0003】
この問題を解決する方法として、特許文献1には、ショ糖非資化性酵母で植物由来の糖液を発酵させる砂糖及びエタノールの製造方法が記載されている。この方法によれば、砂糖結晶化工程の前にショ糖非資化性酵母を用いて還元糖の選択的エタノール発酵が行われる。本プロセスにより砂糖の生産性向上とエタノール生産が両立できる。
【0004】
しかし、従来からショ糖非資化性酵母を食品製造へ利用した例は殆どなく、人体に対する安全性が確認された菌種が少ない。それゆえ、ショ糖非資化性酵母を用いる砂糖及びエタノールの製造方法は、使用可能な菌種が少なく、プロセス改良の余地が限定される問題がある。
【0005】
ショ糖非資化性酵母の中にはサッカロミセス・セレビシエに属するものがある。サッカロミセス・セレビシエは食品製造実績が豊富な菌種であり、人体に対する安全性に優れる。しかし、サッカロミセス・セレビシエに属するショ糖非資化性酵母のうち、発酵性に優れるものは非凝集性であり、沈降し難い。そのため、発酵後糖液から酵母を除去するために遠心分離及び精密ろ過等の煩雑な操作を必要とする。
【0006】
尚、サッカロミセス・セレビシエに属するショ糖非資化性酵母のうち、凝集性を示すもの(STX347-1D株)は栄養要求性であり、ウラシル(塩基)及びヒスチジン(アミノ酸)が培地中に存在しない場合は発酵が進行し難い問題がある。
【0007】
そのため、ショ糖非資化性酵母を用いる砂糖及びエタノールの製造方法は、安全性及び実用性に優れた製造条件を確保しながら製造規模を拡大し、製造コストを低下することが、未だ困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4883511号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、凝集能を有し、食品製造実績が豊富な菌種に属するショ糖非資化性酵母を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、受託番号NITE BP−1587で表される酵母菌株を提供する。
【0011】
また、本発明は、受託番号NITE BP−1588で表される酵母菌株を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記いずれかの酵母菌株を用いる砂糖及びエタノールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
受託番号NITE BP−1587で表される酵母菌株はショ糖非資化性であり、強い凝集能を示す。また、この酵母菌株は耐熱性及び耐酸性にも優れる。更に、この酵母菌株は食品製造実績が豊富なサッカロミセス・セレビシエに属し、人体に対して安全である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のショ糖非資化性凝集性酵母(1倍体)を用いて糖液を発酵させた場合に、糖液中の糖類及びエタノールの濃度がどのように変化するかを示したグラフである。
【
図2】本発明のショ糖非資化性凝集性酵母(2倍体)を用いて糖液を発酵させた場合に、糖液中の糖類及びエタノールの濃度がどのように変化するかを示したグラフである。
【
図3】本発明のショ糖非資化性凝集性酵母の親株であるショ糖非資化性酵母を用いて糖液を発酵させた場合に、糖液中の糖類及びエタノールの濃度がどのように変化するかを示したグラフである。
【
図4】本発明のショ糖非資化性凝集性酵母の親株である凝集性酵母を用いて糖液を発酵させた場合に、糖液中の糖類及びエタノールの濃度がどのように変化するかを示したグラフである。
【
図6】30℃、37℃又は40℃の温度に調節した培地で培養した場合に、本発明のショ糖非資化性凝集性酵母及び親株がどのように増殖するかを示したグラフである。
【
図7】pH6.5、pH3.0又はpH2.0に調節した培地で培養した場合に、本発明のショ糖非資化性凝集性酵母及び親株がどのように増殖するかを示したグラフである。
【
図8】本発明の方法により原料糖液から砂糖を製造した場合の物質収支を示した図である。
【
図9】従来の方法により原料糖液から砂糖を製造した場合の物質収支を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ショ糖非資化性酵母としてサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC10055株を準備した。NBRC10055株はNBRCから購入した。NBRC10055株はガルシア(スペイン)の赤ワインから単離されたサッカロミセス属酵母である。単離された際に、この酵母には、発酵後に膜を形成する性質、主としてグルコースを発酵する性質、好気下で酢酸を生成する性質等が認められた。
【0016】
また、凝集性酵母としてサッカロミセス・セレビシエSDT株を準備した。SDT株は出願人が見出した菌株であり、サッカロミセス・セレビシエに属することが確認されている。SDT株はNITEに寄託されている。SDT株の受託番号はNITE BP−1589である。
【0017】
NBRC10055株及びSDT株をそれぞれ胞子分離に供し、接合型としてa型又はα型を示す胞子分離体を取得した。マニピュレーターを用いて接合型が異なるNBRC10055胞子分離体とNITE BP−1589胞子分離体を接合させ、接合株を造成した。造成した接合株について、胞子形成誘導後にマニピュレーターを用いて四分子分離を行い、胞子分離体を取得した。次いで、接合株及び胞子分離体のMAT遺伝子座をPCR法により増幅し、解析を解析を行い、接合型を決定した。
【0018】
得られた胞子分離体に対してスクリーニングを行い、ショ糖非資化性、凝集性という目的の形質を持つ株を選抜し、本発明のショ糖非資化性凝集性酵母を取得した。この菌株は1倍体である。これをGYK−10と名付けた。得られた菌株は、共にサッカロミセス・セレビシエである親株から得られたものであり、サッカロミセス・セレビシエに属する。GYK−10はNITEに寄託されている。GYK−10の受託番号はNITE BP−1587である。
【0019】
GYK−10をYPD寒天培地で培養し、ホモタリズムの性質により二倍体化したものを選択した。これをGYK−11と名付けた。GYK−11はNITEに寄託されている。GYK−11の受託番号はNITE BP−1588である。
【0020】
GYK−10及びGYK−11のショ糖非資化性、凝集能、耐熱性及び耐酸性を次の通り試験した。
【0021】
ショ糖非資化性試験
試験対象の酵母として、GYK−10及びGYK−11、及びこれらの親株であるNBRC1055及びSDTを準備した。
【0022】
YPD液体培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%ブドウ糖)100mlを用い、30℃で培養した酵母を遠心回収(5000×g、5分)した。回収酵母(湿重量:1g)を、サトウキビ搾汁を想定して調整した糖液(1%酵母エキス、2%ペプトン、12%ショ糖、1.5%ブドウ糖、1.5%果糖)100mlに添加し、30℃または37℃で発酵させた。糖液に含まれる糖類及びエタノールの濃度について、発酵時間中の経時変化を記録した。結果を
図1〜
図4に示す。
【0023】
試験結果により、GYK−10及びGYK−11は、親株であるNBRC10055と同様にショ糖非資化性であることが確認された。
【0024】
凝集能試験
試験対象の酵母として、GYK−10及びGYK−11、これらの親株であるNBRC1055及びSDT、及び強い凝集能を有すると認められているサッカロミセス・セレビシエSTX347−1D株を準備した。
【0025】
酵母菌体をYPD液体培地5mL(30℃、48時間、120rpm)で前培養した後、菌体容量の20倍量の蒸留水で2回洗浄した。洗浄菌体は4mLの蒸留水に湿潤菌体濃度が2%となるように懸濁した。菌体懸濁液1mLに蒸留水を250μL添加した後、600nmの吸光度を測定した(対照)。次いで、菌体懸濁液1mLに100mM塩化カルシウムを250μL添加した後、5分間静置してから600nmの吸光度を測定した(サンプル)。吸光度は「分光光度計UV−1700」(島津製作所製)を用いて測定した。
【0026】
式
C=(1−B/A)×100
[式中、Cは凝集能(%)であり、Aは対照の吸光度であり、Bはサンプルの吸光度である。]
に従って、凝集能を決定した。結果を表1及び
図5に示す。
【0028】
試験結果により、GYK−10は親株であるSDTと比較して約2倍、また一般的な凝集性酵母STX347−1Dの約1.5倍凝集能が強いことが確認された。
【0029】
耐熱性及び耐酸性試験
試験対象の酵母として、GYK−10及びGYK−11、及びこれらの親株である
NBRC10055及びSDTを準備した。
【0030】
酵母菌体をYPD液体培地1mL(30℃、一晩、120rpm)で前培養した後、滅菌水1mLで2回洗浄した。洗浄菌体は1×10
6cells/mLとなるようにYPD液体培地に添加した。YPD菌体懸濁液100μLをマイクロタイタープレートのウェルに添加して本培養し、10分毎に600nmの吸光度を測定した。600nmの吸光度は「プレートリーダーHiTS−S2」(株式会社サイニクス製)を用いて測定した。
【0031】
その際、酵母の耐熱性試験として、YPD菌体懸濁液の温度を30℃、37℃、又は40℃に調節して培養した。結果を
図6に示す。
【0032】
GYK−10及びGYK−11は耐熱性が親株であるSDTよりも弱いがNBRC10055よりは強い。GYK−10とGYK−11では耐熱性に明確な差異はない。
【0033】
また、酵母の耐酸性試験として、YPD(pH6.5)、YPD(pH2.0)、又はYPD(pH3.0)液体培地を用いて30℃にて培養した。結果を
図7に示す。
【0034】
GYK−10及びGYK−11はpH2.0のYPDでも生育可能であり、親株であるSDT及びNBRC10055よりも耐酸性が強い。
【0035】
ショ糖及びエタノールの製造方法
本発明のショ糖非資化性凝集性酵母は、例えば、特許文献1に記載されているショ糖及びエタノールの製造方法に使用することができる。つまり、まず、本発明のショ糖非資化性凝集性酵母を用いて植物由来の糖液を発酵させる。糖液の原料になる植物は糖分を蓄積する植物であればよく、一般には、サトウキビ及びテンサイ等が挙げられる。糖液は、これらの植物の搾汁及び煮汁などであってよい。次いで、糖液に本発明のショ糖非資化性凝集性酵母を添加し、嫌気条件下、所定の温度で適当な時間エタノール発酵させる。
【0036】
糖液をエタノール発酵させるのに使用する本発明のショ糖非資化性凝集性酵母としては、GYK−10又はGYK−11のどちらを使用してもよい。また、両者を併用してもよい。ある好ましい実施形態では、GYK−10が使用される。GYK−10は凝集性に優れ、エタノール発酵後糖液から酵母を除去し易い。
【0037】
本発明のショ糖非資化性凝集性酵母は耐熱性に優れ、約37℃までの温度であれば、発酵が進行する。エタノール発酵を行うのに好ましい温度は、冷却設備コストを低減できる35℃以上であり、本発明のショ糖非資化性酵母は低コストな設備で発酵を行うことができる。
【0038】
エタノール発酵を行う前に糖液に含まれる非糖分を除去することにより、糖液を清澄化しておいてもよい。そうすることで、糖液中に含まれる不純物が減少し、酵母の繰り返し利用が容易になる。本発明のショ糖非資化性凝集性酵母は凝集能を有し、凝集性酵母を発酵槽に常に存在させて酵母分離無しで連続的に発酵するような効率の良い発酵方法が可能になる。
【0039】
発酵の結果得られる発酵液には、酵母、エタノール、水、蔗糖、ミネラル、アミノ酸等が含まれる。次いで、発酵液を濃縮し、発酵液からエタノールを回収する。
【0040】
発酵液からのエタノールの回収は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば蒸留によりエタノールを分離することが挙げられる。蒸留によるエタノール分離を行えば、同時に糖液が濃縮されるため、砂糖製造において、改めて加熱濃縮を行う必要が無く、時間及びエネルギーともに節約することができる。
【0041】
発酵液からの砂糖の製造は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば砂糖を結晶化することなどが挙げられる。具体的には、発酵させた糖液を少量ずつ(0.5〜1kl)吸引減圧下で加熱濃縮を繰り返し、一定の大きさ以上の砂糖結晶を取り出し、次いで遠心分離機で砂糖結晶と糖液とに分離する。
【0042】
砂糖結晶から分離された糖液は一般に糖蜜と呼ばれる。糖蜜は清浄液に適量混合して再度発酵原料として使用してよい。そうすることで、糖液に含まれる糖分の利用効率が更に向上する。
【実施例】
【0043】
以下の実施例により本願発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0044】
1)発酵試験
酵母菌体(GYK−10)をYPD液体培地5L(1L×5、30℃、一晩、100rpm)で前培養した後、100Lの4%ぶどう糖、3%酵母エキス培地で本培養(100L、30℃、一晩、通気撹拌)を行った。培養終了後、通気撹拌を停止し、凝集沈降した酵母5.5kgを回収した。
【0045】
サトウキビの搾汁を模して黒糖、ぶどう糖、果糖を原料とした培地(Brix15%、ショ糖9.9%、ブドウ糖2.7%、果糖2.8%)を調整後、5.5kgの酵母を添加し、発酵(30℃、4時間)を行った。発酵終了後撹拌を停止し、酵母を凝集沈降させた。その後、上部発酵液を回収し、僅かに残った酵母を遠心分離機により除去し、清澄な液を得た。
【0046】
清澄化した発酵液のショ糖、ブドウ糖及び果糖の濃度は液体クロマトグラフィーにより測定した。カラムはSCR-101N(島津製作所製)を用い、移動相に水を用い、カラムオーブンの温度は60℃に設定した。結果を表2に示す。
【0047】
[表2]
【0048】
発酵試験に示された通り、GYK−10は糖液の発酵過程で凝集し、沈降した。また、GYK−10はショ糖を資化せず、還元糖を選択的に資化した。
【0049】
2)砂糖製造試験
発酵試験で得られた糖液を減圧濃縮し、Brix60%の濃縮液を得た。濃縮液(Brix60%、10kg)を減圧加熱後、種結晶として粒径250μmのショ糖を1kg添加し、さらに減圧加熱し、結晶を成長させた。結晶化させた砂糖及び糖液の混合物を0.35×4mm有孔型遠心分離機にて、1500×g、5分間遠心分離し、砂糖を回収した。ショ糖の回収率は59.4%であった。この方法の物質収支を
図8に示す。
【0050】
対照として、清澄化した発酵液の代わりに選択的発酵を行っていない糖液(Brix15%、ショ糖9.9%、ブドウ糖2.7%、果糖2.8%)を用い、同様にしてショ糖を回収した。ショ糖の回収率は43.6%であった。この方法の物質収支を
図9に示す。
【0051】
砂糖製造試験に示された通り、糖液の選択的発酵はショ糖の回収効率を向上させた。
【受託番号】
【0052】
GYK−10菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2013年4月11日に寄託され、受託番号「NITE BP−1587」が付与された。
GYK−11菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2013年4月11日に寄託され、受託番号「NITE BP−1588」が付与された。
SDT菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2013年4月11日に寄託され、受託番号「NITE BP−1589」が付与された。