(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5694562
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】耐時効性に優れた熱延鋼板の製造方法及びこれにより製造された熱延鋼板
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20150312BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20150312BHJP
C22C 38/10 20060101ALI20150312BHJP
C21D 7/06 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
C21D9/46 T
C22C38/00 301W
C22C38/10
C21D7/06 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-547295(P2013-547295)
(86)(22)【出願日】2011年12月2日
(65)【公表番号】特表2014-502674(P2014-502674A)
(43)【公表日】2014年2月3日
(86)【国際出願番号】KR2011009328
(87)【国際公開番号】WO2013081224
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2013年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】508055342
【氏名又は名称】ポスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】キム ジェ イク
(72)【発明者】
【氏名】チョイ ソク ファン
【審査官】
鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】
韓国登録特許第10−1069968(KR,B1)
【文献】
特開2008−248341(JP,A)
【文献】
特開2007−031771(JP,A)
【文献】
特開2000−026936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46− 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、炭素(C)0.01〜0.12%、マンガン(Mn)0.1〜0.5%、リン(P)0.025%以下(0%除外)、硫黄(S)0.02%以下(0%除外)、アルミニウム(Al)0.03〜0.15%、ボロン(B)0.0005〜0.0020%、コバルト(Co)0.01〜0.05%、窒素(N)0.002〜0.008%を含有し、残部が鉄(Fe)及びその他の不可避な不純物からなる鋼で製造された熱延鋼板の表面にショットボールのサイズ0.10〜0.40mm、ブラストの噴射速度40〜65m/secでショットブラストを行うことを含む、耐時効性に優れた熱延鋼板の製造方法であって、
前記鋼の成分が3.5≦[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]≦18を満足することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記熱延鋼板は前記組成からなる鋼を860〜950℃で仕上げ圧延することを特徴とする、請求項1に記載の耐時効性に優れた熱延鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記熱延鋼板は前記仕上げ圧延した鋼を秒当り30〜100℃の冷却速度で冷却することを特徴とする、請求項2に記載の耐時効性に優れた熱延鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記熱延鋼板は前記冷却後に580〜680℃の温度で巻き取ることを特徴とする、請求項3に記載の耐時効性に優れた熱延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記ショットブラストによって表面粗さ指数比(Rmax/Ra)を12〜23とすることを特徴とする、請求項1に記載の耐時効性に優れた熱延鋼板の製造方法。
【請求項6】
質量%で、炭素(C)0.01〜0.12%、マンガン(Mn)0.1〜0.5%、リン(P)0.025%以下、硫黄(S)0.02%以下、アルミニウム(Al)0.03〜0.15%、ボロン(B)0.0005〜0.0020%、コバルト(Co)0.01〜0.05%、窒素(N)0.002〜0.008%を含有し、残部が鉄(Fe)及びその他の不可避な不純物からなる鋼で製造され、ショットブラスト処理によって表面粗さ指数比(Rmax/Ra)が12〜23であり、
前記鋼の成分が3.5≦[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]≦18を満足する
ことを特徴とする、耐時効性に優れた熱延鋼板。
【請求項7】
前記ショットブラスト処理によって生成された変形フェライト組織が前記熱延鋼板の厚さ方向に3〜10%を占めることを特徴とする、請求項6に記載の耐時効性に優れた熱延鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐時効性に優れた熱延鋼板の製造方法及びこれにより製造された熱延鋼板に係り、より詳しくは、鋼成分及び製造プロセスなどを最適化して耐時効性及び加工性に優れた塗装用熱延鋼板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家電及び自動車用の鋼板として用いられるためには、優れた耐時効性(耐フルーティング性)、加工性、塗装性などが求められる。
フルーティング(fluting)とは、加工の際に加工部が曲がる現象のことをいう。フルーティングが発生すると、成形部の形状維持が困るため、実際の工程では厳しく制限されるべきである。
【0003】
ところが、一般にフルーティング現象の原因となる固溶元素による時効現象は、実質的に抑制が困難であって、製鋼段階で高清浄化を達成すると共にこれらの固溶元素を固着させることが可能なチタニウム(Ti)、ニオビウム(Nb)などの炭窒化物形成元素を添加して析出させている。これらの炭窒化物形成元素の添加はフルーティングなどの加工欠陥の抑制には役立つが、高清浄化のために製鋼時間の増加による生産性の低下及び高価の合金元素の添加による製造コストアップの要因となっている。
また、根本的に、中低炭素鋼では、フルーティングなどの曲がり現象を抑制することが困るものと知られている。よって、家電および自動車などのように厳格な形状凍結性及び加工性が要求される場合、加工の際に曲がり現象を抑制することが可能な方案の樹立が求められている。
【0004】
一方、最終製品が形状凍結性を向上させ且つ製造プロセスを改善して生産性を高めるためには、上述した耐時効性によるフルーティング防止だけでなく、伸びフランジ性、曲げ性、引き抜き性などの多様な加工特性が共に要求される。また、これらの構造物は外部の環境に晒されているので、耐候性の向上のために鋼板の表面にペイントなどの有機物を塗装する作業が行われるから、このような特性の確保のために素材の面で塗装性の確保が可能なメッキ用鋼板の開発が求められている。
【0005】
例えば、日本特開19
90−282420号(発明の名称:加工用熱延鋼板の製造方法及び熱延鋼板の加工熱処理法)には、自動車または産業機器用高強度部材に適した鋼板を製造するための方法であって、極低炭素鋼ベースにチタニウム(Ti)、ニオビウム(Nb)及び一部の希土類元素などを添加することにより、加工性及び時効性に優れた熱延鋼板を製造する方法が開示されている。ところが、この方法は、前述したように、炭窒化物形成元素の添加によってフルーティングなどの加工欠陥の抑制には役立つが、高清浄化のための製鋼時間増加による生産性の低下及び高価の合金元素添加による製造コストアップの問題点があった。
【0006】
他の例として、韓国公開特許第1996−23130号(発明の名称:耐時効性に優れた高加工用熱延鋼板の製造方法)には、極低炭素アルミニウムキルド鋼に炭窒化物形成元素としてのジルコニウムなどを微量添加し、Ar
3変態点直上の温度範囲で熱間圧延してフェライト結晶粒を粗大化させることにより耐時効性を向上させる方法が開示されている。しかしながら、この方法によれば、時効性を高めるために、ジルコニウムなどの特殊元素の添加が必要であるから、製鋼作業性の悪化及びコストアップの要因となるうえ、素材の強度を低くするにつれて形状凍結性が悪化するという問題点があった。
【0007】
別の例として、韓国公開特許第2001−60648号(発明の名称:耐時効性及び均一延伸特性に優れた熱延鋼板の製造方法)には、質量%で、炭素(C):0.02〜0.05%、マンガン(Mn):0.10〜0.30%、ボロン(B):10〜30ppm、リン(P):0.020%以下、硫黄(S):0.015%以下、アルミニウム(Al):0.01〜0.04%、窒素(N):40ppm以下を含有し、残部が鉄(Fe)及びその他の不可避な不純物からなる鋼スラブを再加熱した後、Ar
3変態点以上の仕上げ圧延温度で熱間圧延して1.4〜2.3mmの厚さとし、600〜700℃の温度で巻き取ることにより、耐時効性及び均一延伸特性を向上させることが可能な方法が開示されている。ところが、この方法のように極微量のボロンを添加し、巻取り温度を制御するだけでは、口中に含有された炭素や窒素などの固溶元素による時効現象を完全に防止することができないため、高い耐時効性を期待することが難しいという問題点があった。
【0008】
別の例として、日本公開特許第2008−190008号(発明の名称:耐時効性に優れた熱延鋼板の製造方法)には、質量%で、炭素(C):0.04〜0.25%、珪素(Si):0.001〜0.5%、マンガン(Mn):0.05〜1.5%、リン(P):0.09%以下、硫黄(S):0.015%以下、アルミニウム(Al):0.01〜0.08%、窒素(N):0.0005〜0.015%を含有し、残部が鉄(Fe)及びその他の不可避な不純物からなる成分のスラブを熱間圧延し、平均冷却速度60℃/s以上で400℃未満まで冷却して巻き取った後、t/R≧0.0055(tは板厚、Rはロール直径)を満足する小径ロールを用いて伸長率0.1〜1.0%のスキンパス圧延を行う方法が開示されている。ところが、この方法は、巻取り温度を400℃未満まで降温するから、幅方向の温度の不均一によって低温析出物の生成挙動に差異を示して材質のバラツキを誘発することにより、形状不良、巻取り不良及び後工程作業性を低下させるという問題点があった。しかも、表面可動転位の誘発のために板厚に応じてロールの直径を一々制御しなければならないので、商用操業ラインのように多様なサイズの素材を生産する場合には適用することが難しいという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来の問題点を解決するために提案されたもので、その目的は、鋼成分のうちコバルト(Co)、ボロン(B)を添加すると同時に、製造プロセス及びショットブラスト条件などを最適化することにより、耐時効性だけでなく、加工性及び塗装性まで向上させることが可能な熱延鋼板の製造方法及びこれにより製造された熱延鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、質量%で、炭素(C)0.01〜0.12%、マンガン(Mn)0.1〜0.5%、リン(P)0.025%以下(0%除外)、硫黄(S)0.02%以下(0%除外)、アルミニウム(Al)0.03〜0.15%、ボロン(B)0.0005〜0.0020%、コバルト(Co)0.01〜0.05%、窒素(N)0.002〜0.008%を含有し、残部が鉄(Fe)及びその他の不可避な不純物からなる鋼で製造された熱延鋼板の表面にショットボールのサイズ0.10〜0.40mm、ブラストの噴射速度40〜65m/secでショットブラストを行う、耐時効性に優れた熱延鋼板の製造方法を提供する。
また、前記鋼の成分は3.5≦[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]≦18を満足するようにすることが好ましい。
また、前記熱延鋼板は、前記組成からなる鋼を860〜950℃で仕上げ圧延し、前記仕上げ圧延した鋼を秒当り30〜100℃の冷却速度で冷却し、前記冷却後に580〜680℃の温度で巻き取ることが好ましい。
また、前記ショットブラストによって表面粗さ指数比(Rmax/Ra)を12〜23とすることが好ましい。
【0011】
一方、本発明によって製造された、耐時効性に優れた熱延鋼板は、質量%で、炭素(C)0.01〜0.12%、マンガン(Mn)0.1〜0.5%、リン(P)0.025%以下、硫黄(S)0.02%以下、アルミニウム(Al)0.03〜0.15%、ボロン(B)0.0005〜0.0020%、コバルト(Co)0.01〜0.05%、窒素(N)0.002〜0.008%を含有し、残部が鉄(Fe)及びその他の不可避な不純物からなる鋼で製造され、ショットブラスト処理によって表面粗さ指数比(Rmax/Ra)が12〜23である。
また、前記鋼の成分は3.5≦[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]≦18を満足することが好ましい。
また、前記ショットブラスト処理によって生成された変形フェライト組織は、前記熱延鋼板の厚さ方向に3〜10%を占める。
【発明の効果】
【0012】
上述したように構成された本発明の熱延鋼板の製造方法によれば、適切な成分制御及び製造プロセスの最適化によって耐時効性を確保すると同時に、加工性及び塗装性を向上させて、家電や自動車などに使用される高付加価値の鋼板を製造することができるようにする。また、脱スケール性にも優れた酸洗作業の効率性を高めることができ、環境汚染防止及び工程短縮効果も同時に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明に係る熱延鋼板の表面粗さ指数比による特性評価グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の技術構成をより詳細に説明する。
上述したように、本発明の熱延鋼板は、耐時効性、加工性及び塗装性を同時に満足させて家電や自動車用に使用できる高付加価値の熱延鋼板について研究及び実験を重ねて本発明を完成させたものであって、本発明に係る鋼成分は次のように制御することが好ましい。
【0015】
炭素(C)は、鋼板の強度向上のために添加される元素であって、含量が増加するほど引張及び降伏強度は増加するが、過剰添加されると、素材の加工性が低下するので、その上限を0.12%に制限する。一方、炭素の含量が0.01%未満であれば、製鋼の際に脱炭のために追加の操業時間が必要であるうえ、材質の急激な変化が発生するので、安定的な材質の確保が困るという問題がある。よって、炭素の含量は0.01〜0.12%に限定し、好ましくは0.02〜0.08%に管理することが良い。
【0016】
マンガン(Mn)は、固溶強化元素として広く使用される元素であって、鋼の強度を高め且つ熱間加工性を向上させる重要な元素であるが、MnSの形成による素材の軟性及び加工性を阻害する元素である。マンガンの含量が少なければ、加工性は改善されるが、強度の確保が困るので、目標強度を確保するためには0.1%以上添加しなければならない。これに対し、マンガンが過剰添加されると、合金元素の多量添加による経済性の低下及び中心偏析の発生要因になるので、上限は0.5%に制限する。
【0017】
リン(P)は、鋼の強度向上及び耐食性を向上させる役割を果たす元素であって、これらの特性を確保するためには多量添加されることが好ましいが、鋳造の際に中心偏析を起こす元素であるから、多量添加する場合に加工性を低下させる要因となるので、その含量は0.025%以下(0%除外)に制限し、好ましくは0.005〜0.015%に管理することがよい。
【0018】
硫黄(S)は、鋼中のMnと結合して腐食開始点の役割を果たす非金属介在物を形成するうえ、赤熱脆性の要因として作用するので、できる限りその含量を減少させることが好ましい。よって、硫黄の含量は0.02%以下(0%場外)に制限し、好ましくは0.01%以下に管理することが良い。
【0019】
アルミニウム(Al)は、一般に溶鋼脱酸のために添加される元素であるが、鋼中の固溶元素と結合して時効特性を改善するので、その下限を0.03%に制限し、過剰添加されると、鋼中の介在物量を増加させて表面欠陥を誘発するうえ、加工性を低下させるという問題点があるので、その上限は0.15%に制限して管理範囲を0.03〜0.15%に限定する。
【0020】
ボロン(B)は、鋼中の固溶元素と結合して時効性を改善するうえ、硬化能向上元素として少量添加によっても素材の強度を高める効果を示す元素であるので、所望の材質特性を確保するためには少なくとも0.0005%以上の添加が必要である。ところが、0.0020%を超過すると、むしろ材質劣化及び延鋳の際に粒界亀裂の要因になるうえ、熱延鋼板の表面を粗くするという問題があるので、0.0005〜0.0020%に限定する。
【0021】
コバルト(Co)は、鋼中の析出物の形成を促進する元素であって、このような効果を得るためには少なくとも0.01%以上添加されなければならない。ところが、コバルトが0.05%を超えて添加されると、析出の促進に対する寄与効果より高価の合金元素の多量添加による製造コストのアップ要因として作用するから、その範囲を0.01〜0.05%に限定する。
【0022】
窒素(N)は、鋼中の固溶状態で存在しながら材質の強化に有用な元素であるが、時効現象を起こす主な元素であるので、加工性を確保するためには一定量以下に管理することが必要であって、その上限線を0.008%に制限する。また、0.002%未満では、十分な剛性を得ることができず、析出物の形成のためのサイトが減少するので、下限は0.002%に制限し、その管理範囲を0.002〜0.008%に限定する。
【0023】
析出物及び固溶相の分率を適切に管理してさらに優れた加工特性を確保するためには、3.5≦[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]≦18に合金元素間の含量比を維持することが好ましい。[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]が3.5より小さい場合は、固溶元素の発現によって高い耐時効性及び加工性の確保が困難であった。これに対し、[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]が18より大きい場合は、加工性の確保は可能であるが、添加元素の過多による一部の表面欠陥及び生産性低下の要因として作用した。このような点から、合金元素間の含量比は3.5≦[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]≦18に管理することが好ましい。
【0024】
以下、上述したように成分制御された鋼を用いて、本発明に係る熱延鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
まず、質量%で、炭素(C)0.01〜0.12%、マンガン(Mn)0.1〜0.5%、リン(P)0.025%以下(0%除外)、硫黄(S)0.02%以下(0%除外)、アルミニウム(Al)0.03〜0.15%、ボロン(B)0.0005〜0.0020%、コバルト(Co)0.01〜0.05%、窒素(N)0.002〜0.008%を含有し、残部が鉄(Fe)及びその他の不可避な不純物からなる鋼から通常の熱延プロセスにしたがって熱延鋼板を製造し、その熱延鋼板の表面にショットボールのサイズ0.10〜0.40mm、ブラストの噴射速度40〜65m/secでショットブラストを行う。
【0025】
このようなショットブラスト工程は、耐時効性を確保するための本発明の最も特徴的な技術構成中の一つであって、熱延鋼板の表面に適切な圧縮応力を導入して転位密度、その中でも可動転位密度が大幅増加した変形フェライト粒(Ferrite grain)を新しく生成することにより、時効現象の主要原因となる固溶元素による転位の固着現象を減少させて耐時効性を向上させる。
このような効果を達成するためには、ショットブラストに使用されるショットボールのサイズを0.10〜0.40mmに制御することが好ましい。なぜなら、ショットボールのサイズが0.10mm未満の場合は、表面層の機械的剥離効果が小さくて適切な残留応力の効果を得ることが困難であり、ショットボールのサイズが0.40mmを超えると、表面の最大粗さが急激に上昇して加工の際に亀裂発生の要因として作用するためである。
一方、ショットブラストの噴射速度は40〜65m/secに制御することが好ましい。なぜなら、噴射速度が40m/sec未満の場合は、表面層に作用するショットボールの衝撃圧力が低いため、所望の耐時効性の確保が困難であり、噴射速度が65m/secを超えると、表面硬化層の深さが素材の厚さ方向に10%を超えて不均一な加工を誘発する原因になるためである。
【0026】
本発明に係る機械的特性を確保するためには、ショットブラスト工程後の熱延鋼板の表面粗さ指数比(Rmax/Ra)が12〜23となるように制御することが好ましい。ここで、Rmaxは熱延鋼板の表面粗さ曲線中における最大点の高さを意味し、Raは中心線の平均表面粗さを意味する。表面粗さ指数比が12未満の場合は、適切な粗さの山と谷の比が確保されないことにより、有機物の吸着性が低下するうえ、素材の厚さ方向に残留応力分布が不十分であって耐時効性の確保が難しい。これに対し、表面粗さ指数比が23を超えると、吸着性の確保面において、飽和状態に到達しながら加工亀裂が発生し始めるから、その管理範囲を12〜23にすることが好ましい。
【0027】
図1の(a)は転位密度が低い正常状態のフェライト粒を示し、
図1の(b)は本発明に係るショットブラスト工程によって転位が集積して密度の高い網状の転位構造を有する変形フェライト粒を示す。ショットブラストによって生成される変形フェライト組織は、適切な耐時効性の確保のために前記熱延鋼板の厚さ方向に3〜10%を占めるように制御することが好ましい。変形フェライト組織が厚さ方向に3%未満であれば、鋼中の固溶元素を十分に固着させることが可能な組織的特性を示さないことにより、目標とする耐時効性を確保することができず、変形フェライト組織が厚さ方向に10%を超えると、加工及び後処理工程で材質の硬化要因として作用して加工性を劣化させる要因として作用するので、その管理範囲を3〜10%にすることが好ましい。
【0028】
以上説明したように、通常の熱延プロセスを介して製造された鋼板の表面に一定条件のショットブラスト工程を適用すると、耐時効性または加工特性に優れた熱延鋼板を製造することができる。ひいては、熱延プロセスを最適化すると、さらに優れた耐時効性、加工性および塗装性を有する熱延鋼板を製造することができるので、以下、最適化された熱延プロセスについて詳細に説明する。
【0029】
まず、本発明に係る熱延鋼板は、前記組成成分からなる鋼を860〜950℃で仕上げ圧延することが好ましい。仕上げ圧延温度が860℃未満の場合は、低温領域で熱間圧延が仕上げられることにより結晶粒の混粒化が急激に進んで圧延性及び加工性の低下をもたらす。これに反し、仕上げ圧延温度が950℃を超えると、厚さ全般にわたって均一な熱間圧延が行われないため、結晶粒の微細化が不十分になり、結晶粒の粗大化に起因した衝撃靭性の低下が現れるので、前記仕上げ圧延温度の範囲は860〜950℃に管理することが好ましい。
【0030】
また、前記熱延鋼板は、前記仕上げ圧延した鋼をランアウトテーブル(ROT、Run-out-table)で秒当り30〜100℃の冷却速度で冷却することが好ましい。ROTにおける冷却速度が30℃/秒未満の場合は、動的結晶粒成長によって相対的に粗大な結晶粒が形成され、強度及び加工性を低下させる原因となる。これに反し、冷却速度が100℃/秒を超えると、幅方向の冷却不均一による材質バラツキ発生の要因として作用するので、前記冷却速度の範囲は30〜100℃/秒に管理することが好ましい。
【0031】
最後に、前記熱延鋼板は、前記ROT段階で冷却した後に、580〜680℃の温度で巻き取ることが好ましい。巻取り温度が550℃未満の場合は、冷却及び維持する間に幅方向の温度不均一によって低温析出物の生成挙動が差異を示して材質のバラツキを誘発することにより、加工性に良くない影響を与える。これに反し、巻取り温度が680℃を超えると、最終製品の組織が粗大なセメンタイト相を形成することにより、加工性及び耐食性が低下するという問題点が発生するので、前記巻取り温度の範囲は550〜680℃に管理することが好ましい。
【実施例】
【0032】
上述した本発明に係る耐時効性に優れた熱延鋼板の製造方法の技術的効果を調べるために、次のとおり実験を行った。
まず、下記表1のような組成からなるそれぞれの鋼(発明鋼3種、比較鋼3種)を設け、1250℃の加熱炉で2時間再加熱した後、表2に示された熱延条件によって熱間圧延を行った。そして、製造された各鋼種別物性及び機械的特性を測定した。結果を表3に示す。
【0033】
表1
※元素間の成分比:[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]
【0034】
表2
【0035】
表3
【0036】
表3において、塗装性は、塗装材の評価項目のうち、塗装密着性及び表面特性の両方とも優れた場合を良好、2つの特性の一方のみ優れた場合を普通、2つの特性の両方とも良くない場合を不良とそれぞれ表示した。
加工性は曲げ加工試験片に対して亀裂(Crack)長さを測定し、下記表4のように5段階に区分し、1段階を良好、2〜3段階を普通、4〜5段階を不良とそれぞれ表示した。
【0037】
表4
【0038】
耐時効性は鋼板加工後に表面曲がりが発生する程度によって区分し、これを表現する曲がり性指数を5段階に分けて比較的曲がり現象が微々たる1段階を良好、一部触感が感じられる2〜3段階を普通、肉眼観察が可能な程度に曲がり現象が発生した4〜5段階を不良とそれぞれ判定した。
【0039】
上述した基準に基づいて、表3に開示された実験結果をまとめると、次のとおりである。
発明例1〜5は本発明に係る鋼成分の制御、熱延プロセス及びショットブラスト工程条件を全て満足する場合である。全ての発明例で降伏点延伸現象が発生しておらず、表面粗さ指数比(Rmax/Ra)も12〜23内外であって管理範囲を満足し、加工の際に曲がり現象が発生しないため、優れた耐時効性を確保することができた。しかも、曲げ加工の際にも加工亀裂が発生しないため、高い加工性及び塗装性を示すので、優れた熱延鋼板及びメッキ用原板の製造が可能であった。
【0040】
発明例6〜8は、本発明に係る鋼成分の制御(発明鋼1、発明鋼2)及びショットブラスト工程条件は満足したが、熱延プロセスを満足していない場合である。より詳しく説明すると、発明例6は仕上げ圧延温度を管理範囲より低い750℃で行い、発明例7はROT工程における冷却速度を管理範囲より低い15℃/sで行い、発明例8は巻取り温度を管理範囲より低い400℃で行った場合である。これらの発明例6〜8は、一部の降伏点延伸現象は発生しが、依然として良好な耐時効性を示し、たとえ結晶粒の混粒化、固溶元素の析出、材質のバラツキなどにより加工性が少しは低下したが、高品質の要件を満足し、依然として良好な塗装性を有するので、家電や自動車などの高付加価値鋼板として使用可能であった。
【0041】
比較例1は、本発明に係る鋼成分の制御(発明鋼1)及び熱延プロセス条件を満足したが、ショットブラスト条件を満足していない場合である。より詳しくは、ショットブラスト条件でショットボールとして管理範囲より大きい0.91mmのものを使用し、管理範囲より大きい90m/secのショットブラスト速度で行った場合である。この場合、降伏点延伸現象が発生しないため、耐時効性の面では良好であるが、表面粗さの増加や内部硬化層の増加などにより加工性及び塗装性が全て低下して高品質が要求される熱延鋼板として使用するには不適であった。
【0042】
比較例2〜7は、本発明に係る熱延プロセス条件及びショットブラスト条件を満足したが、鋼成分条件を満足していない鋼種(比較鋼1〜6)を使用した場合である。大部分の場合に降伏点延伸現象の抑制が難しくて耐時効性が低下し、加工の際に曲がり現象の発生により本発明に係る加工及び塗装特性を満足することができなかった。
しかも、元素間の成分比[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]が0.00であり、炭窒化物形成元素であるTiを含んでいない比較例2をみれば、全体的に時効現象の発生による加工性の確保が困るうえ、強度も低くて加工の際に形状凍結性が劣化するという問題点が発生した。これに対し、元素間の成分比[(B(ppm)×Al(%)×Co(%))/N(%)]が0.00であり、炭窒化物形成元素であるTiを含む比較例3は強度の確保は可能であるが、本発明に係る製造プロセス及びショットブラスト条件を適用しても、目標とする耐時効性及び塗装性を確保することができなかった。
【0043】
最後に、
図2は発明鋼1を用いて表面粗さ指数比による耐時効性(フルーティング指数で表現)および加工性(加工時の亀裂発生敏感度で表現)の変化を測定したグラフである。目標とする耐時効性及び加工性を満足するためには、フルーティング指数を2以下、亀裂発生敏感度を0.5以下にそれぞれ管理することが好ましい。本発明に係る表面粗さ指数比の管理範囲を12〜23に調節すると、フルーティング指数及び亀裂発生敏感度に優れた挙動を示す。これに反し、前記管理範囲より低い領域ではフルーティング指数が2以上であって加工の際に曲がり現象が発生する問題点、前記権利範囲より高い領域では耐時効性は飽和数値を示すものの、加工亀裂が発生する問題点を確認することができた。