(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水酸化物を含有させる工程を、プルシアンブルーの合成前及び/又は合成後に、前記水酸化物及び/又はMe(II)Oで表される酸化物を添加することにより行う、請求項4又は5に記載の放射性Cs吸着剤の製造方法。
前記水酸化物を含有させる工程を、プルシアンブルーの合成前及び/又は合成後に、Me(II)塩化合物を含有させ、そののち、前記プルシアンブルーの水溶液中でMe(II)塩化合物を加水分解することにより行う、請求項4又は5に記載の放射性Cs吸着剤の製造方法。
前記プルシアンブルーの合成工程、及び、前記水酸化物の含有工程を経た水溶液を、pH6.0〜8.0の範囲で濾過し、得られた濾物を乾燥する工程をさらに含む、請求項4から7までのいずれかに記載の放射性Cs吸着剤の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる放射性Cs吸着剤及びその製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0018】
〔放射性Cs吸着剤〕
本発明の放射性Cs吸着剤は、下記PBの分子及び/又はそのクラスターと下記水酸化物又はその部分酸化物との複合体を有効成分とする。
【0019】
<PB>
本発明におけるPBは、M(I)
3xFe(III)
4-x[Fe(II)(CN)
6]
3で表される。
ここで、M(I)は1価のカチオンであり、例えば、Li
+、Na
+、K
+、NH
4+などが挙げられるが、好ましくは、Na
+及び/又はK
+である。
また、xは0又は1である。
【0020】
<水酸化物又はその部分酸化物>
本発明における水酸化物は、Me(II)(OH)
2(但し、Me(II)は2価の遷移金属である)で表される。
【0021】
ここで、Me(II)としては、水酸化物が六方晶の結晶構造をとる2価の遷移金属であれば特に限定されないが、例えば、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウムなどが好ましく挙げられる。
【0022】
また、本発明において、水酸化物の部分酸化物とは、複合体を構成するMe(II)(OH)
2の一部が縮合してMe(II)Oとなっているものである。例えば、乾燥状態では、Me(II)(OH)
2の一部がMe(II)Oの状態となっていることが多いが、この場合でも、水中では、水和によりMe(II)(OH)
2の状態になるため、結局、放射性Cs吸着剤の有効成分としての作用という観点から見たとき、六方晶の結晶構造が維持される限度において、Me(II)(OH)
2とMe(II)Oとは同等と評価できる(この点については、さらに後述する)。そのため、本発明では、このような部分酸化物をも包含するのである。
【0023】
<複合体の組成>
本発明の放射性Cs吸着剤は、前記PBの分子及び/またはそのクラスターとMe(II)(OH)
2又はその部分酸化物との複合体を有効成分とするが、前記PBとMe(II)(OH)
2又はその部分酸化物との割合は、前記PBを構成するFe(II)(CN)
6の当量をαモルとし、Me(II)(OH)
2又はその部分酸化物を構成するMe(II)の当量をβモルとするとき、αとβの比(α/β)が0.1〜10となる割合であることが好ましい。
特に、処理液の全シアン濃度の排水基準値を考慮する場合には、α/βが0.1〜1.0であることが好ましい。
α/βが上記範囲であることが好ましい理由は、後記〔放射性Cs吸着剤の使用〕において詳述する。
【0024】
<放射性Cs吸着剤の性状>
本発明の放射性Cs吸着剤の性状は、特に限定されず、分散液、含水物、乾燥物など、いずれでも良い。
【0025】
具体的には、本発明の放射性Cs吸着剤は、例えば、後述する本発明の放射性Cs吸着剤の製造方法によって製造することができるが、後述の製造方法においては、上記PBの分子及び/又はそのクラスターと上記Me(II)(OH)
2との複合体を含有する分散液が得られるのであり、これを濾過すれば含水物が、また、乾燥すれば乾燥物が得られる。
なお、上記乾燥物などの性状においては、上記Me(II)(OH)
2の一部が脱水縮合してMe(II)Oの状態(つまり、Me(II)(OH)
2の部分酸化物)となる場合もある。
【0026】
また、本発明の放射性Cs吸着剤は、本発明の効果を害しない範囲であれば、上記有効成分以外の成分を含有していても良い。例えば、放射性Cs吸着剤の製造過程で含有される成分や目的に応じた任意の添加剤などが含まれていても良い。
【0027】
〔放射性Cs吸着剤の製造方法〕
次に、上記本発明の放射性Cs吸着剤を製造する好適な方法について説明する。ただし、本発明の放射性Cs吸着剤は、下記製造方法で製造されたものに限定されるものではない。
なお、下記製造方法において、各種薬剤の添加方法は、粒剤、粉末、水溶液、分散液など、いずれの形態で使用しても良く、特に限定されない。
【0028】
<工程(A)>
水中で、M(I)
4Fe(II)(CN)
6及び/又はM(I)
3Fe(III)(CN)
6で表される鉄シアノ錯体と、2価及び/又は3価の鉄塩化合物とを反応させることによりPBを合成する工程である。
合成されるPBは、M(I)
3xFe(III)
4-x[Fe(II)(CN)
6]
3で表される。
【0029】
ここで、M(I)、鉄塩化合物、xについては、〔放射性Cs吸着剤〕において上述した説明と重複するので説明を割愛する。
【0030】
工程(A)におけるPBの合成反応は、M(I)
4Fe(II)(CN)
6で表される鉄シアノ錯体(フェロシアン化合物)及び/又はM(I)
3Fe(III)(CN)
6で表される鉄シアノ錯体(フェリシアン化合物)と、2価及び/又は3価の鉄塩化合物との反応によって実施されるものであり、具体的には以下に説明するとおりである。
【0031】
すなわち、まず、フェロシアン化合物からの合成は、下記反応式(1)に示すとおりである。
【0033】
また、フェリシアン化合物からの合成は、下記反応式(2)〜(4)に示すとおりである。
【0037】
PBの理想的な形は不溶性の(PB2)とされているが、実際の反応では主生成物は水溶性の(PB1)であって、Csイオンの吸着には水不溶性の(PB2)よりも水溶性の(PB1)の方が重要な役割をすると考えられる。
【0038】
工程(A)において合成されたPBは、生成直後では分子の状態であるか及び/又は数分子が集合した微小な集合体(クラスター)の状態にある。本発明の放射性Cs吸着剤の製造方法は、これらPB分子及び/又はPBクラスターを2価の遷移金属の水酸化物で不溶化することを特徴とする。
【0039】
<工程(B)>
工程(A)で得たPBの水溶液にMe(II)(OH)
2を含有させる工程である。
Me(II)については、〔放射性Cs吸着剤〕において上述した説明と重複するので説明を割愛する。
【0040】
工程(A)で得たPB分子、及び/又はPB分子クラスターをMe(II)(OH)
2の結晶構造中に含有させ、上記複合体を形成させる方法としては、例えば、工程(A)の前及び/又は後にMe(II)塩化合物を含有させ、そののち、前記PBの水溶液中でMe(II)塩化合物を加水分解することにより行う方法が挙げられる。好ましくは、工程(A)の後にMe(II)塩化合物を添加する。
【0041】
Me(II)塩化合物としては、例えば、前記Me(II)の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、有機酸塩などが好ましく挙げられる。
また、3価の遷移金属塩、例えば塩化鉄(III)を処理液に含有させておいてこれを還元剤で塩化鉄(II)に還元したり、あるいは、1価の遷移金属塩、例えば塩化銅(I)を処理液に含有させておいてこれを塩化銅(II)に酸化したりすることによって、Me(II)塩化合物を含有させるようにする方法も本発明の範疇に入る。
【0042】
Me(II)塩化合物の加水分解によるMe(II)(OH)
2への変換は、下記反応式(5)で表される。
【0044】
このような加水分解は、水溶液のpHを調整することによって容易に進行させることができる。
【0045】
Me(II)塩化合物の加水分解を行う際の水溶液のpHは5.0〜10.0の範囲であることが好ましく、pH6.0〜9.0であることがより好ましい。加水分解のpHが高すぎたり、低すぎたりするとPB分子の分解が起こり、遊離シアンが発生したり、PB分子を不溶化した構造が損なわれ、不溶化したPB分子が再溶解したりするおそれがある。
更に、吸着剤を蒸発乾固して乾燥粉末にする場合は、加水分解後、水溶液のpHを6.0〜8.5に調整することが望ましい。
【0046】
PB分子、及び/又はPB分子クラスターをMe(II)(OH)
2により不溶化するための別の方法として、前記工程(A)の前及び/又は後に、Me(II)(OH)
2及び/又はMe(II)Oを添加することにより、Me(II)(OH)
2を反応液中に含有させるようにするにしてもよい。好ましくは、工程(A)の後にMe(II)(OH)
2及び/又はMe(II)Oを添加する。
また、鉄粉や亜鉛粉などを反応液に含有させておいて、これを空気や腐食などで酸化することによって、Fe(OH)
2やZn(OH)
2などのMe(II)(OH)
2を生成させる方法も本発明の範疇に入る。
【0047】
以上のような放射性Cs吸着剤の製造方法において前記PB反応液にMe(II)(OH)
2を共存させることによってPB分子及び/又はそのクラスターを不溶化し、粗大粒子化(通常、粒径1μm以上)した複合体が生成する機構については、詳細は定かでないが、本発明者らは以下のように考察した。
【0048】
すなわち、PB分子及び/又はそのクラスターの不溶化による放射性Cs吸着剤の合成のためにMe(II)塩化合物を用いる場合、PB分子やPB分子クラスターの不溶化は、Me(II)塩化合物分子のMe(II)のd軌道とPB分子及び/又はそのクラスターのシアノ基のπ電子との相互作用により、Me(II)塩化合物がPB分子と架橋結合を形成して不溶化する。さらに、処理液のpHを弱酸〜弱アルカリに調整するなどしてMe(II)塩化合物を加水分解するとMe(II)(OH)
2が生成し、結晶構造を形成する。なお、このMe(II)(OH)
2の溶解度積は10
-12以下と小さい。
そして、本発明のMe(II)(OH)
2は六方晶の結晶構造を取るので、PB分子及び/又はそのクラスターのシアノ基を介して架橋構造を形成しながら、Me(II)(OH)
2をa軸とb軸が作る平面内に配置し、c軸方向に層状に結晶成長して1μm以上の粗大粒子を形成する。
以上の結果、該粗大粒子化した複合体は、PB分子及び/又はそのクラスターを層間水と共にMe(II)(OH)
2の層状構造の層間にインターカレートした構造を有していると考えられる。
【0049】
一方、PB分子及び/又はそのクラスターの凝集や沈殿のためにMe(II)(OH)
2、Me(II)O、Me(II)の金属粉などを添加する場合、前記d−π相互作用により、水難溶性のMe(II)(OH)
2の結晶表面でPB分子及び/又はそのクラスターと架橋結合が形成される。Me(II)(OH)
2は六方晶で層状構造を取っているので、製造工程の攪拌によりPB分子及び/又はそのクラスターと架橋結合をしたMe(II)(OH)
2の結晶面が剥離する。
そして、剥離した該結晶面はPB分子及び/又はそのクラスターを層間にインターカレートした形で層状に結晶成長して、粒子径1μm以上の粗大粒子が形成されるものと考えられる。
或いは、水中では層内に水分子が浸入しMe(II)(OH)
2の層状構造の層間隔が広がるため、分子容の大きなPB分子、及び/又はPB分子クラスターでも容易に層間内に拡散し、層間にインターカレートすることにより不溶化する機構も考えられる。
【0050】
Me(II)(OH)
2には不安定なものが多く、乾燥状態では容易に脱水縮合してMe(II)Oに変換される。Me(II)Oは水溶液では水和反応によりMe(II)(OH)
2に変換されるので、本発明においてはMe(II)OとMe(II)(OH)
2は同等と考えることができる。
【0051】
<その他の工程>
工程(B)でMe(II)(OH)
2によりPB分子及び/又はそのクラスターを不溶化させることで上記複合体を含む分散液が得られる。通常、この分散液を濾過により不溶化・沈殿した複合体を分離するのであるが、その場合、液のpH調整を行うことが好ましい。その範囲はpH5.0〜9.0であることが好ましく、pH6.0〜8.5であることがより好ましく、得られた分散液を加熱により蒸発・乾燥する場合、pH6.0〜8.5であることが特に好ましい。これより酸性側、或いはアルカリ側であると蒸発・乾燥過程でPBの分解やPB分子を不溶化した構造が損なわれるおそれがある。
【0052】
〔放射性Cs吸着剤の使用〕
本発明の放射性Cs吸着剤の使用による放射性Csイオンの吸着除去について、実施方法の他、技術的見地からの考察も含め、以下に詳述する。
【0053】
PB分子がCsイオンを捕捉する反応を式(6)に示す。
【0055】
上式(6)において、m=n=1のときはPB分子、n≧m>1のときはPB分子のクラスターを表す。
【0056】
ここで、PB分子が、Naイオン、Kイオンなどの他のアルカリ金属イオンや、Mgイオン、Caイオンなどのアルカリ土類金属イオンよりも、Csイオンと優先的に結合する機構は、R.G.Pearsonが提唱したHSAB規則により説明することができる(Pearson, Ralph G. (1963)."Hard and Soft Acids and Bases". J. Am. Chem. Soc.85 (22): 3533-3539.を参照)。
【0057】
すなわち、HSAB規則によると、Csは主量子数6のアルカリ金属であり、Csイオンの最低空原子軌道LUAOは6s軌道となり、それぞれ3s、4s軌道がLUAOであるNaイオン、Kイオン、Caイオンに比較して、分極し易く軟らかい酸に分類される。つまり、アルカリイオンの酸としての硬さ、軟らかさの順は次のようになる。
軟らかい Cs
+≫K
+>Na
+〜Mg
2+〜Ca
2+ 硬い
【0058】
一方、PBイオンFe(III)[Fe(II)(CN)
6]
-は軟らかい塩基に分類される。HSAB規則によれば、硬い酸は硬い塩基と強く結合し、軟らかい酸は軟らかい塩基と強く結合するが、硬い酸と軟らかい塩基の間又は軟らかい酸と硬い塩基の間で形成される結合は弱い。従って、Csイオンは他のアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンよりもPBイオンと強く結合する。
HSAB規則は量子化学で説明されている(G.Klopman (1968). "Chemical Reactivity and Concept of Charge- and Frontier-Controlled Reactions" J. Am. Chem. Soc. 90(2):223-234.を参照)。
それによると、酸と塩基の結合形成による安定化エネルギー(−ΔE)は式(7)で表される。
【0060】
q
a:M(I)イオンの電荷 q
b:PBイオンbの電荷
ε:反応場の誘電率 r
ab:M(I)とPBの結合距離
Γ
ab:クーロン反発項
E
m*:PBイオンbの最高占有分子軌道(HOMO)エネルギー
E
n*:陽イオンaの最低非占有原子軌道(LUAO)エネルギー
c
m:PBイオンのHOMOを構成する原子軌道関数の係数の最大値
c
n:M(I)イオンのLUAO関数の係数
β:M(I)のLUAOとPBイオンのHOMOの共鳴積分項
【0061】
式(7)の左辺−ΔEの値が大きいほど酸と塩基の結合は安定化する。右辺の第1項と第2項はそれぞれM(I)イオンの正電荷とPBイオンの負電荷のクーロン相互作用と溶媒和によるエネルギーの安定化を意味し、硬い酸と硬い塩基の相互作用には第1項と第2項が寄与する。
電荷密度が小さいCsイオンとPBイオンの場合、第1項及び第2項の−ΔE値への寄与は小さい。一方、第3項は軟らかい酸と軟らかい塩基の相互作用を意味しており、軟らかい酸CsイオンのLUAOと軟らかい塩基のPBイオンFe(III)Fe(II)(CN)
6-の最高占有分子軌道(HOMO)間の強い相互作用が−ΔE値の増加に大きく寄与するのである。つまり、この場合、第3項の|E
m*−E
n*|が小さくβ
2が大きくなるので、第3項が−ΔE値の増加に寄与することになる。
硬い酸であるNaイオン,Kイオン,Mgイオン,Caイオンと軟らかい塩基であるPBイオンとの相互作用では式(7)の第1項〜第3項による−ΔE増加への寄与は小さい。つまり、これらのカチオンとPBイオンは強い結合を形成しない。
【0062】
従って、下式(8)において、平衡反応は以下の順で右側に傾斜する。
M(I)
+: Cs
+≫K
+>Na
+
【0064】
PB分子、及びPB分子クラスターをMe(II)(OH)
2の層状構造にインターカレートした複合体がCsイオンを迅速に吸着する機構は定かではないが、本発明者は、次のように考察した。
Me(II)(OH)
2は層状の結晶構造を形成しており、水中では水分子が層内に取込まれるが、層構造を破壊することなく粘土物質のように層間隔を拡大することができる。その結果、Csイオンが層間内に自由に拡散することができ、吸着平衡状態に短時間で達することができる。
そして、Me(II)(OH)
2の層構造は層間水の取り込みによって層間隔を拡大するのであるが、層内にインターカレートされたPB分子やPB分子クラスターはMe(II)のd軌道とPBのシアノ基のπ電子とのd−π相互作用の結合により層間からのPB分子の溶出が抑制されるのである。
これに対して、従来のように、成長した結晶構造を有する微粉末のPBを添加する場合、水中での格子定数の拡大は期待できず、Csイオンの吸着速度はCsイオンの結晶格子内での拡散が緩慢になるため、吸着平衡に達するまでに1日以上を要していたものと考えられる。
【0065】
ここで、Csイオンを吸着するPB分子及び/又はそのクラスターの実体は、主に、上式(1)〜(4)における(PB1)であることからCsイオンを吸着するPB分子数は鉄シアノ錯体Fe(II)(CN)
64-の分子数に関係する。
従って、本発明の放射性Cs吸着剤の有効成分となる複合体において、Cs吸着部位となる鉄シアノ錯体の当量をα(mol)、層状結晶構造を形成するMe(II)(OH)
2又はその部分酸化物の当量をβ(mol)とすると放射性Cs吸着剤の活物質は下式(9)又は下式(10)であると考えられる。
【0068】
上式(9)はMe(II)(OH)
2、上式(10)はMe(II)(OH)
2の部分酸化物に対応する。すなわち、Me(II)(OH)
2の中には不安定なものがあり、乾燥状態では脱水縮合してMe(II)Oになるので、このような場合には、本発明の放射性Cs吸着剤の有効成分となる複合体においてCsイオンを吸着する活物質は上式(10)の形で表される(なお、上式(10)において、x+y=1である)。
【0069】
しかし、Me(II)Oは水中では水和反応によりMe(II)(OH)
2を再生するので、本発明においてはMe(II)OとMe(II)(OH)
2は同等、つまり上式(9)と上式(10)とは同等と考えることができる。
【0070】
そして、上述のとおり、PBを構成するFe(II)(CN)
6の当量をαモルとし、Me(II)(OH)
2又はその部分酸化物を構成するMe(II)の当量をβモルとするとき、αとβの比(α/β)が0.1〜10となる割合であることが好ましく、0.2〜5であることがより好ましい。特に、処理液の全シアン濃度の排水基準値を考慮する場合には、α/βが0.1〜1.0であることが好ましい。その理由は以下のとおりである。
PB分子をMe(II)(OH)
2の層状結晶構造の層間にインターカレートして不溶化するには、α/βを小さくする方向が好ましいが、0.1より小さくしてもそれ以上の改善効果は期待できず、むしろ、過剰のMe(II)(OH)
2の溶出によって処理液の水質を損なうおそれがある。一方、α/βが10を超えると、Me(II)(OH)
2によるPB分子の不溶化が不十分となり、放射性Cs汚染水の吸着処理濾過工程において、Csイオンを吸着したPB分子及び/又はそのクラスターがフィルターの篩目を透過するおそれがある。
【0071】
なお、α/βの値は、放射性Cs吸着剤を製造する際に、αは鉄シアノ鉄(II)ヘキサシアノ基Fe(II)(CN)
6の量、βはMe(II)(OH)
2やMe(II)O、Me(II)塩化合物の添加量などを適宜選定して調整することができる。
【0072】
ところで、一般に水処理工程では微粒子を凝集させるために硫酸バンドAl
2(SO
4)
3や塩鉄Fe(III)Cl
3などを添加する方法が汎用されている。また、廃液中の重金属類の不溶化にマグネシウム塩MgSO
4などを添加する方法が採られている。しかし、本発明ではMe(II)(OH)
2の代わりに前記凝集剤や不溶化剤を適用しても効果は得られない。これは加水分解で生成するこれら水酸化物のAl(III)、Fe(III)、Mg(II)は硬い酸に属し、軟らかい塩基のPB分子のシアノ基との相互作用による結合形成が出来ないためと考えられる。
【0073】
PB分子及び/又はそのクラスターをゲストとしてインターカレートしたホストのMe(II)(OH)
2の一部は脱水してMe(II)Oを形成するので、上記複合体の層状構造としては、例えば下式(11)で示すことができる。
【0075】
上式(11)において、x+y=1であり、m、nは正数である。上式(11)で表される構造の模式図を
図1に示す。
PB分子と共にMe(II)(OH)
2層状結晶構造の層間に存在する層間水はCsイオンの吸着速度に重要な役割を果たす。
上記複合体の層間水を除去すると層構造の層間隔が縮小する。そのためCsイオンの結晶内への拡散が抑制され、上記複合体による効率的なCsイオンの吸着が阻害される。
つまり、層間水の存在によりMe(II)(OH)
2層状結晶構造のc軸方向の層間隔が拡大し、Csイオンの拡散が容易になり、層間に存在するPB分子、及び又はPBクラスターに捕捉されるのである。
従って、本発明の放射性Cs吸着剤として乾燥物を得る場合、この乾燥は100℃以下の低温で実施されることが好ましい。また、本発明の放射性Cs吸着剤として、上記複合体を含水した形、例えばスラリー、含水スラッジ、或いは水に分散した形で使用することもできる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を用いて、本発明にかかる放射性Cs吸着剤及びその製造方法について詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、放射性Cs汚染水の入手には制約があるため、吸着剤の性能に関する実施例の多くを入手可能な安定同位体
133Csで代用して実施した。
しかし、以下で観察される化学的、物理的な事象は、
133Csの放射性同位体である
137Cs、
134Csのそれと完全に一致する。
従って、
133Csを含む模擬汚染水、模擬海水及び放射性Cs汚染水からCsを除去した以下の実施例は、同時に、放射性同位体である
137Cs、
134Csについての効果も実証するものである。
【0077】
以下の実施例及び比較例で用いた薬品のうち、フェロシアン化ナトリウム10水和物以外の薬品は全てキシダ化学社製のものを使用した。
また、PB分子数αは、PB分子をM(I)Fe(III)Fe(II)(CN)
6として吸着剤に含まれるシアン含有量から換算した値をαとした。βはそれぞれのMe(II)の測定値をβとした。
シアン定量のための前処理、及び測定は底質調査法14.1シアン化合物に準拠して実施した。また、Me(II)含有量についても底質調査法記載の処方に準拠した前処理により試料調製を行い、アジレント社の誘導結合型プラズマ質量分析装置(ICP−MS)7000xで測定を行った。
【0078】
〔実施例1〕
300mLの蒸留水にフェロシアン化カリウム3水和物15g(35.5mmol)を加え、続いて、攪拌下、塩化鉄(III)6水和物9.7g(36mmol)を加えてPBを合成した。次に、硫酸マンガン(II)1水和物12.3g(73mmol)を添加した。
5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.0〜8.0に調整しながら攪拌下加水分解を行った。硫酸マンガン(II)1水和物の添加終了2時間後、攪拌を止めて静置した。篩目1μmのガラスフィルターを用いて吸引濾過/洗浄した後、60℃で5時間真空乾燥を行い、吸着剤25.0gを得た。吸着剤のシアノ基、及びマンガン含有量をそれぞれ定量して、α/β=0.5を得た。
【0079】
〔実施例2〕
実施例1で硫酸マンガン(II)1水和物6.3g(37.3mmol)を添加したほかは実施例1と同じ方法で実施して吸着剤20.8gを得た。α/β=1.0であった。
【0080】
〔実施例3〕
実施例1で硫酸マンガン(II)1水和物3.0g(17.8mmol)を添加したほかは実施例1と同じ方法で実施して吸着剤18.8gを得た。α/β=1.9であった。
【0081】
〔実施例4〕
実施例1でフェリシアン化カリウム無水物6.0g(18mmol)、フェロシアン化カリウム3水和物7.6g(18mmol)に、還元剤として亜硫酸ナトリウム無水物5gを加えた後、塩化鉄(III)6水和物9.8g(36.2mmol)を加えてPBの合成を行ったほかは、全て実施例1と同様に実施して吸着剤24.6gを得た。α/β=0.6であった。
【0082】
〔実施例5〕
実施例1で、硫酸マンガン(II)1水和物12.3g(73mmol)の代わりに金属マンガン粉4.0g(73mmol)を添加し、塩酸でpHを5.0に調整して5時間攪拌を行った。反応終了後、5モル/L亜硫酸ナトリウム水溶液でpHを8.0に調整してからは実施例1と同様に実施して、吸着剤24.6gを得た。α/β=0.5であった。
【0083】
〔実施例6〕
500mLの蒸留水にフェロシアン化ナトリウム10水和物(Alfa Aesar社製)21.0g(43.4mmol)を溶解し、次に攪拌下、塩化鉄(III)6水和物12.0g(44.4mmol)を加えてPBを合成した。つづいて硫酸銅(II)14.0g(87.5mmol)水溶液100mlを攪拌下にPB合成液に添加した。添加終了後pHを8.0に調整しながら1時間攪拌を続けた。攪拌終了後、ガラスフィルターで吸引濾過を行った。蒸留水で濾物を洗浄後40℃で1晩真空乾燥を行い、吸着剤28.9gを得た。α/β=0.5であった。
【0084】
〔実施例7〕
実施例6で硫酸銅(II)の代わりに塩化ニッケル(II)10.0g(77mmol)の水溶液100mLを添加したほかは同様に実施して吸着剤29.6gを得た。α/β=0.6であった。
【0085】
〔実施例8〕
実施例6で硫酸銅(II)の代わりに塩化コバルト(II)11.3g(87mmol)の水溶液100mLを添加したほかは同様に実施して吸着剤28.4gを得た。α/β=0.6であった。
【0086】
〔実施例9〕
実施例6で硫酸銅(II)の代わりに硫酸亜鉛(II)無水和物14.0g(86.8mmol)の水溶液100mLを添加したほかは同様に実施して吸着剤28.6gを得た。α/β=0.6であった。
【0087】
〔実施例10〕
実施例6で硫酸銅(II)の代わりに塩化ニッケル(II)無水和物14.0g(44.0mmol)と塩化銅(II)2水和物(44.0mmol)を溶解させた水溶液100mLを添加したほかは同様に実施して吸着剤23.0gを得た。α/β=0.5であった。βはMe(II)のモル数であるが、Ni(II)とCu(II)のモル数の和をβとした。
【0088】
〔実施例11〕
実施例6で硫酸銅(II)14.0g(87.5mmol)の代わりに硫酸銅(II)1.3g(9.4mmol)を加えた他は同様に実施して吸着剤18.3gを得た。α/β=5.4であった。
【0089】
〔実施例12〕
実施例6で硫酸銅(II)14.0g(87.5mmol)の代わりに塩化コバルト(II)1.2g(9.2mmol)を加えた他は同様に実施して吸着剤17.8gを得た。α/β=4.8であった。
【0090】
〔実施例13〕
500mLの蒸留水にフェロシアン化ナトリウム10水和物(Alfa Aesar社製)21.0g(43.4mmol)を溶解し、次に攪拌下、塩化鉄(III)6水和物11.7g(43.4mmol)を加えてPBを合成した。つづいてPB水溶液に窒素ガスを吹込みながら塩化鉄(II)4水和物20.0g(100mmol)水溶液100mlを攪拌下に添加した。添加終了後pHを8.0〜8.5に調整しながら1時間攪拌を続けた。攪拌終了後、ガラスフィルターで吸引濾過を行った。蒸留水で濾物を洗浄後40℃で1晩真空乾燥を行い、吸着剤30.9gを得た。濾液に含まれるシアン、及び鉄の濃度がそれぞれ0.05mg/L未満、10mg/L未満であったことから、添加したフェロシアンシアン化ナトリウム10水和物と塩化鉄(II)4水和物のモル比から算出した該吸着剤のα/βは0.4であった。
【0091】
〔実施例14〕
実施例1と同様にPB分子を不溶化した後、反応液を3000rpmで20分間遠心沈殿した。上澄液を除去後、蒸留水300mlで沈殿物を再分散させた。該分散液を再度3000rpmで20分間遠心沈殿した。上澄液を除去後、α/β=0.5の沈殿物136gを得た。含水率は81.5%であった。
【0092】
〔実施例15〕
実施例14で得られた沈殿物を40℃で一晩風乾して吸着剤66.7gを得た。α/β=0.5で含水率は62.5%であった。
【0093】
〔実施例16〕
実施例14で得られた沈殿物を105℃で2時間乾燥して、吸着剤23.8gを得た。
α/β=0.5で、含水率は0.1%であった。
【0094】
〔実施例17〜22〕
300mLの蒸留水にフェロシアン化ナトリウム10水和物10.0g(20.6mmol)を溶解し、続いて、攪拌下、塩化鉄(III)6水和物5.6g(20.8mmol/L)を加えてPBを合成した後、水酸化コバルト(II)3.8g(40.9mmol)を加えてpHを7.5〜8.0に調整して攪拌を続けた。3時間後に攪拌を止めて静置した。篩目1μmのガラスフィルターで反応液を吸引濾過した。濾物を蒸留水で洗浄後、室温で真空乾燥を一晩行い、吸着剤14.6gを得た。α/β=0.6であった。
さらに、水酸化コバルト(II)の代わりに水酸化銅(II)、水酸化ニッケル(II)、酸化マンガン(II)、酸化亜鉛(II)、水酸化カドミウム(II)を用いて同様に実施した。表1に得られた吸着剤の量、及びα/β値を示す。
【0095】
【表1】
【0096】
〔比較例1〕
蒸留水300mLに大日精化工業社製のプルシアンブルー(NH
4Fe(III)Fe(II)(CN)
6)10.0g(35mmol)を加え、続いて硫酸マンガン(II)1水和物12g(71mmol)を加え、pHを5mol/L水酸化ナトリウム水溶液により8.0に調整しながら攪拌を2時間行った。つづいて反応液を篩目1μmのガラスフィルターで吸引濾過した。濾物を蒸留水で洗浄後、50℃で1晩真空乾燥してα/β=0.5の吸着剤16.3gを得た。
【0097】
〔比較例2〕
蒸留水300mL攪拌下、フェロシアン化ナトリウム10水和物10g(20.7mmol)、つづいて塩化鉄(III)6水和物5.7g(21mmol)を加えてPBを合成した。15分攪拌後、更にPB分子不溶化剤として塩化鉄(III)6水和物11.4g(42mmol)を加えた。5mol/L水酸化ナトリウム水溶液でpHを8.0に調整しながら塩化鉄(III)の加水分解を行った。PB合成から1時間後に攪拌を止め静置して反応液を篩目1μmのガラスフィルターで吸引濾過した。濾物を蒸留水で洗浄後、50℃で1晩真空乾燥してCs吸着剤16.3gを得た。
【0098】
〔比較例3〕
比較例2で不溶化剤としての塩化鉄(III)6水和物を硫酸マグネシウム(II)10g(83mmol)に代えるとともに加水分解をpH9.5に調整して実施したほかは比較例2と同様に実施した。
【0099】
〔比較例4〕
比較例2で不溶化剤としての塩化鉄(III)6水和物を硫酸アルミニウム(III)7.5g(50mmol)に代えるとともに加水分解をpH8.5に調整して実施したほかは比較例2と同様に実施した。
【0100】
〔性能評価試験〕
下記に従い調製した模擬Cs汚染水、模擬Cs汚染海水について、上記実施例にかかる各吸着剤、従来の吸着剤、上記比較例にかかる各吸着剤を用いて、下記実施試験及び比較試験を行い、その吸着性能を評価した。
尚、各実施試験及び比較試験で測定した処理濾液のCs濃度はアジレント社の誘導結合型プラズマ質量分析装置(ICP−MS)7000xで測定を行った。また、全シアン濃度についてはJIS K0102 38.1.2及び38.2に準拠して実施した。
【0101】
<模擬Cs汚染水の調製>
安定なCs同位体Cs133の塩化セシウムCsCl(純度99.9%)12.669mgをイオン交換水に溶解して、Csイオン濃度10mg/Lの模擬Cs汚染水1Lを調製した。
<模擬Cs汚染海水の調製>
安定なCs同位体Cs133の塩化セシウムCsCl(純度99.9%)12.669mg、塩化ナトリウム30g、塩化マグネシウム5g、塩化カリウム0.5gをイオン交換水に溶解して、模擬Cs汚染海水1Lを調製した。
<Cs汚染水の調製>
放射性Csで汚染された焼却灰を水で洗浄して、放射能濃度550Bq/kgの放射能Cs汚染水を調製した。
Csの放射能濃度の内訳はCs137:330Bq/kg、Cs134:220Bq/kgである。
Cs汚染水の各種イオン濃度は次の通り:
カチオン: Ca
2+:2300mg/L K
+:2.0% Na
+:9200mg/L
アニオン: SO
42-:2200mg/L Cl
-:3.0%
Cs汚染水のpHは11.2であった。
【0102】
<実施試験1>
実施例1〜5で得られた吸着剤1.0gを上記模擬Cs汚染水及び上記模擬Cs汚染海水1Lにそれぞれ添加して30分間攪拌処理を行った。つづいて該処理液を篩目1μmのガラスフィルターで濾過し、濾液を得た。濾液についてCsイオン濃度、全シアン濃度を測定して表2に示す結果を得た。
【0103】
【表2】
【0104】
<実施試験2>
実施例6〜13で得られたCs吸着剤1.0gを上記模擬Cs汚染海水1Lに添加して実施試験1と同様に処理を実施した。濾液についてCsイオン濃度、全シアン濃度を測定して表3に示す結果を得た。
【0105】
【表3】
【0106】
<実施試験3>
実施例14〜16で得られたCs吸着剤0.5g(乾燥重量換算)を上記模擬Cs汚染海水1Lに添加して実施試験1と同様に実施した。処理液のCsイオン濃度、全シアン濃度の測定結果を表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
<実施試験4>
実施例17〜22で得られた各Cs吸着剤1.0gを上記模擬Cs汚染海水1Lに添加して実施試験1と同様に実施した。各処理液についてCsイオン濃度、全シアン濃度測定値を表5に示した。
【0109】
【表5】
【0110】
<実施試験5>
上記Cs汚染水1kgに4mol/Lの硫酸を加えてpH7.0に調整した後、実施例6で調製した吸着剤0.5gを加えて0.5時間攪拌処理を実施した。攪拌終了後、処理液を篩目1μmテフロン(登録商標)製フィルターで吸引濾過した。該濾液について放射能濃度を測定した。放射能濃度の測定は、日立アロカ社製放射能測定装置CAN−OSP−NAIで所定の時間行った。
1)放射性Cs汚染水処理前
測定時間:30分間
放射能濃度:550Bq/kg(検出限界20Bq/kg)
2)処理後濾液
測定時間:1時間
放射能濃度:ND(検出限界:
137Cs、
134Csともに10Bq/kg)
また、全シアン濃度は検出されなかった(定量下限値0.01mg/L)。
【0111】
<比較試験1>
上記模擬Cs汚染水1Lに大日精化工業社製のプルシアンブルー(NH
4Fe(III)Fe(II)(CN)
6)1gを加えて1時間攪拌を行った。硫酸バンドAl
2(SO
4)
3を1g添加し、攪拌しながら5mol/L水酸化ナトリウム水溶液で処理液のpHを8.0に調整した。続いて、アニオン系高分子凝集剤(MTアクアポリマー社製のアコフロックA115)の0.1%水溶液を1mL添加し、フロックを形成させた後、処理液を篩目1μmのガラスフィルターで吸引濾過した。
濾液についてCsイオン濃度の測定を実施試験1と同様にして実施した。
濾液のCsイオン濃度は2.4mg/Lであり、除去率は76.0%であった。
【0112】
<比較試験2>
上記模擬Cs汚染海水1Lについて、比較試験1と同様、大日精化工業製のプルシアンブルー(NH
4Fe(III)Fe(II)(CN)
6)1gを添加し、pHを8.0に調整して攪拌を24時間実施した。プルシアンブルー添加から1時間、6時間、8時間経過の処理液100mLをそれぞれ採取した。採取した処理液それぞれに比較試験1と同様のアニオン系高分子凝集剤を添加した後、5Cの濾紙で濾過を行い、濾液についてCsイオン濃度を比較試験1と同様にして測定した。24時間経過については残処理液について、凝集剤を添加して沈殿形成後、同様に濾過を行い濾液についてCsイオン濃度の測定を実施した。各経過時間採取試料の濾液のCsイオン濃度を表6に示した。
【0113】
【表6】
【0114】
<比較試験3>
上記模擬Cs汚染水1Lに大日精化工業社製のプルシアンブルー1.0g(NH
4Fe(III)Fe(II)(CN)
6)を加えて1時間攪拌を行った。
攪拌終了後、処理液を5Cの濾紙で濾過したところ、プルシアンブルーも濾紙を通過してしまい、紺青の濾液が得られた。
【0115】
<比較試験4>
比較例1で得られたCs吸着剤1gを上記模擬Cs汚染海水1Lに添加して1時間攪拌処理を実施した。攪拌後、処理液を篩目1μmのガラスフィルターで吸引濾過した。濾液についてCsイオン濃度の測定を実施試験1と同様にして実施した。
濾液のCsイオン濃度は2.8mg/Lであり、除去率は72.0%であった。
【0116】
<比較試験5>
比較例2〜4で得られたCs吸着剤1gを上記模擬Cs汚染海水1Lに添加して比較試験4と同様に処理を行った。
比較例2〜4の濾液のCsイオン濃度及び全シアン濃度を表7に示した。
【0117】
【表7】
【0118】
<比較試験6>
Csイオン濃度10mg/Lの模擬Cs汚染海水1Lに天然ゼオライト10gを添加し1時間攪拌後5Cの濾紙で濾過を行った。
濾液のCsイオン濃度を測定した結果、Csイオン濃度は8.0mg/Lであり、除去率は20%であった。
【0119】
<考察1>
(1)上記各実施試験から、本発明にかかる実施例1〜22の吸着剤によって、優れた吸着性能が得られることを確認できた。具体的には以下のとおりである。
Me(II)(OH)
2の異なるいずれの吸着剤においても、模擬Cs汚染海水やCs汚染水に対して優れたCs吸着性を発揮しており、各種のカチオンやアニオンによってその効果が阻害されない(特に実施試験1:実施例1〜5、実施試験5参照)。
全シアン濃度を抑制する上では、α/βが0.1〜10、特に0.1〜1.0の範囲であることが好ましい(特に実施試験2:実施例6〜13参照)。
本発明の吸着剤は、含水物や乾燥物であっても有効に吸着性を発揮する(実施試験3:実施例14〜16参照)。
吸着剤としては、Me(II)塩化合物を添加したのちに加水分解してMe(II)(OH)
2を生成させた場合に限らず、Me(II)(OH)
2の生成のために金属粉を用いた場合(実施例5)においても、優れた吸着剤が得られる(実施試験1参照)。
また、PB合成後に各種のMe(II)(OH)
2やMe(II)Oを添加することとしても優れた吸着剤が得られる(実施試験4:実施例17〜22参照)。
【0120】
(2)これに対して、本発明の構成を満足しない吸着剤を用いた上記各比較試験では、優れた吸着性能は得られなかった。具体的には以下のとおりである。
従来の吸着剤では、本発明の如き優れた吸着性は得られず、迅速性の点でも劣っている(比較試験1、比較試験2参照)
本発明で用いるPBとは化学式の異なる大日精化工業社製のプルシアンブルーを用いた場合には、濾過による分離が困難であり、また、Me(II)(OH)
2により不溶化したとしても、本発明の如き優れた吸着剤は得られない(比較試験3、比較試験4:比較例1参照)。
本発明で用いるPBを用いても、3価金属の水酸化物や、遷移金属でない2価金属の水酸化物を不溶化剤として添加する場合には、優れた吸着剤は得られない(比較試験5:比較例2〜4参照)。
吸着剤として天然ゼオライトを用いても優れた吸着剤は得られない(比較試験6参照)。
【0121】
<実施試験6:処理液のpHの影響〕
模擬Cs汚染海水1Lに実施例1で得られた吸着剤1.0gを添加した。攪拌しながら5mol/L水酸化ナトリウム、又は5mol/L塩酸水溶液で処理液のpHを3〜12で調整し、攪拌を1時間行った。
攪拌を止め各pHに調整した処理液をそれぞれ篩目1μmのガラスフィルターで吸引濾過した。各濾液についてCsイオン濃度、全シアン濃度を測定した。その結果を表8及び
図2に示す。
【0122】
【表8】
【0123】
<考察2>
処理液のpH3〜11の範囲で優れた本発明の吸着剤によるCs捕集効果が確認された。
また、処理液の全シアン濃度の排水基準を考慮する場合には処理液のpHは4〜8.5に調整することが望ましい(
図2も参照)。