特許第5694638号(P5694638)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5694638ガス拡散層、膜−電極接合体及び燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5694638
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】ガス拡散層、膜−電極接合体及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20150312BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20150312BHJP
   H01M 8/10 20060101ALN20150312BHJP
【FI】
   H01M4/86 M
   H01M8/02 E
   !H01M8/10
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2008-175075(P2008-175075)
(22)【出願日】2008年7月3日
(65)【公開番号】特開2010-15835(P2010-15835A)
(43)【公開日】2010年1月21日
【審査請求日】2011年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮田 義一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達規
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩二
(72)【発明者】
【氏名】中村 達郎
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−277094(JP,A)
【文献】 特開2002−025560(JP,A)
【文献】 特開2008−103164(JP,A)
【文献】 特開2005−209403(JP,A)
【文献】 特開2007−103077(JP,A)
【文献】 特開平07−254417(JP,A)
【文献】 特開2007−194133(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/086265(WO,A1)
【文献】 特開2001−338651(JP,A)
【文献】 特開2007−242378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材全体にフッ素樹脂と導電剤とが充填されたガス拡散層であり、水銀圧入法により、細孔直径150〜0.003μmの範囲で、下記の順に圧力をかけて測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、下記に定義するピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲に存在するガス拡散層。

圧力;1.5psia、2psia、2.5psia、3psia、3.5psia、4psia、5psia、6psia、7psia、8psia、9psia、10psia、12psia、14psia、16psia、18psia、20psia、25psia、30psia、40psia、50psia、60psia、70psia、80psia、90psia、100psia、120psia、140psia、170psia、200psia、250psia、300psia、350psia、400psia、450psia、500psia、600psia、700psia、800psia、900psia、1000psia、1200psia、1400psia、1600psia、1800psia、2000psia、2400psia、2800psia、3200psia、3600psia、4000psia、4500psia、5000psia、5500psia、6000psia、6500psia、7000psia、8000psia、9000psia、10000psia、11000psia、12000psia、13000psia、15000psia、16000psia、18000psia、20000psia、21000psia、23000psia、25000psia、28000psia、32000psia、35000psia、38000psia、45000psia、50000psia、60000psia
ピーク;次の式で表される傾きの平均値IAVが0.5以上である場合の変曲点Pをピークという。
【請求項2】
ピークが細孔直径0.05〜0.15μmの範囲に存在する、請求項1記載のガス拡散層。
【請求項3】
ガス拡散層の見掛密度が0.5〜0.8g/cmである、請求項1又は2に記載のガス拡散層。
【請求項4】
繊維基材がガラス繊維不織布からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のガス拡散層。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のガス拡散層を備える膜−電極接合体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のガス拡散層を備える膜−電極接合体を含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス拡散層、膜−電極接合体及び燃料電池に関するものであり、特に、低湿度下においても発電性能の優れる燃料電池を製造することのできるガス拡散層、膜−電極接合体及び低湿度下においても発電性能の優れる燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な形で利用されているエネルギーについては、石油資源の枯渇に対する懸念から、代替燃料の模索や省資源が重要な課題となっている。その中にあって、種々の燃料を化学エネルギーに変換し、電力として取り出す燃料電池について、活発な開発が続けられている。
【0003】
燃料電池は、例えば『燃料電池に関する技術動向調査』(非特許文献1)の第5頁に開示されるように、使用される電解質の種類によって、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化形燃料電池(SOFC)、固体高分子形燃料電池(PEFC)の4つに分類される。これら各種の燃料電池は、その電解質に応じて作動温度範囲に制約が有り、PEFCでは100℃以下の低温領域、PAFCでは180〜210℃の中温領域、MCFCでは600℃以上、SOFCは1000℃近くの高温領域で動作することが知られている。このうち、低温領域での出力が可能である一般的なPEFCは、燃料となる水素ガスと酸素ガス(若しくは空気)との化合反応に伴って生じる電力を取り出すが、比較的小型の装置構成で効率的に電力を取り出すことができる点で、実用化が急がれている。
【0004】
図1は、従来知られているPEFCの基本構成を示すための、燃料電池の要部断面による模式図である。図中、材質として実質的に同一の構成若しくは機能を有する構成成分には、同一のハッチングを付して示してある。PEFCは、図1に示すような、負極17a、固体高分子膜19及び正極17cからなる膜−電極接合体(MEA)を、1対のバイポーラプレート11a、11cで挟んだセル単位を複数積層した構造からなる。前記負極17aはプロトンと電子とに分解する触媒層15aと、触媒層15aに燃料ガスを供給するガス拡散層13aとからなり、正極17cはプロトン、電子及び酸素ガスとを反応させる触媒層15cと、触媒層15cに酸素ガスを供給するガス拡散層13cとからなる。
【0005】
前記バイポーラプレート11aは燃料ガスを供給できる溝を有するため、このバイポーラプレート11aの溝を通して燃料ガスを供給すると、燃料ガスはガス拡散層13aを拡散し、触媒層15aに供給される。供給された燃料ガスはプロトンと電子とに分解され、プロトンは固体高分子膜19を移動し、触媒層15cに到達する。他方、電子は図示しない外部回路を通り、正極17cへと移動する。一方、バイポーラプレート11cは酸素含有ガスを供給できる溝を有するため、このバイポーラプレート11cの溝を通して酸素含有ガスを供給すると、酸素含有ガスはガス拡散層13cを拡散し、触媒層15cに供給される。供給された酸素含有ガスは固体高分子膜19を移動したプロトン及び外部回路を通って移動した電子と反応し、水を生成する。
【0006】
このような膜−電極接合体(MEA)のガス拡散層として、直径が17〜90μmの細孔を有するもの(特許文献1)、1μm〜100μmの範囲に存在する第1のピークと、15nm〜1μmの範囲に存在する第2のピークとをもつ気孔分布を有するもの(特許文献2)、5μm〜50μmの間に水の排出パスとなるポア径のピークを有すると共に、100μm及びその近傍の範囲にガスの拡散パスとなるポア径のピークを有するもの(特許文献3)が知られている。これら従来のいずれのガス拡散層においても、1μmを超える大きな細孔直径を有するものであるため、生成された水又は加湿ガスにより供給された水が外部に排出されやすいものであった。前述の通り、PEFCにおいては、プロトンが固体高分子膜を移動するため、プロトンの速やかな移動のためには水分が必要であるが、従来のガス拡散層は水が外部に排出されやすいため、固体高分子膜が乾燥してプロトンが移動しにくく、十分な発電性能を得られない場合があった。プロトンが移動しやすいように、燃料ガス及び/又は酸素含有ガスを十分に加湿するという考え方もあるが、そのためには大型の加湿装置が別途必要になるため、軽量小型化が難しいという問題があった。
【0007】
【非特許文献1】『燃料電池に関する技術動向調査』(特許庁技術調査課編,平成13年5月31日,<URL>http://www.jpo.go.jp/shiryou/index.htm)
【特許文献1】特許第3929146号公報(請求項2など)
【特許文献2】特開2000−182626号公報(請求項1など)
【特許文献3】特開2007−87651号公報(請求項2など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の問題点を解決するためになされたものであり、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができ、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池とすることのできるガス拡散層、膜−電極接合体、及び軽量・小型であることができる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1にかかる発明は、「繊維基材全体にフッ素樹脂と導電剤とが充填されたガス拡散層であり、水銀圧入法により、細孔直径150〜0.003μmの範囲で、下記の順に圧力をかけて測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、下記に定義するピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲に存在するガス拡散層。

圧力;1.5psia、2psia、2.5psia、3psia、3.5psia、4psia、5psia、6psia、7psia、8psia、9psia、10psia、12psia、14psia、16psia、18psia、20psia、25psia、30psia、40psia、50psia、60psia、70psia、80psia、90psia、100psia、120psia、140psia、170psia、200psia、250psia、300psia、350psia、400psia、450psia、500psia、600psia、700psia、800psia、900psia、1000psia、1200psia、1400psia、1600psia、1800psia、2000psia、2400psia、2800psia、3200psia、3600psia、4000psia、4500psia、5000psia、5500psia、6000psia、6500psia、7000psia、8000psia、9000psia、10000psia、11000psia、12000psia、13000psia、15000psia、16000psia、18000psia、20000psia、21000psia、23000psia、25000psia、28000psia、32000psia、35000psia、38000psia、45000psia、50000psia、60000psia
ピーク;次の式で表される傾きの平均値IAVが0.5以上である場合の変曲点Pをピークという。

【0010】
本発明の請求項2にかかる発明は、「ピークが細孔直径0.05〜0.15μmの範囲に存在する、請求項1記載のガス拡散層。」である。
【0012】
本発明の請求項にかかる発明は、「ガス拡散層の見掛密度が0.5〜0.8g/cmである、請求項1又は2に記載のガス拡散層。」である。
【0013】
本発明の請求項にかかる発明は、「繊維基材がガラス繊維不織布からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のガス拡散層。」である。
【0014】
本発明の請求項にかかる発明は、「請求項1〜のいずれかに記載のガス拡散層を備える膜−電極接合体。」である。
【0015】
本発明の請求項にかかる発明は、「請求項1〜のいずれかに記載のガス拡散層を備える膜−電極接合体を含む燃料電池。」である。

【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1にかかる発明は、直径0.01〜1μmの細孔のみを有し、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができるため、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池を製造することができる。
【0017】
本発明の請求項2にかかる発明は、直径0.05〜0.15μmの細孔のみを有し、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができるため、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池を製造することができる。
【0018】
本発明の請求項3にかかる発明は、繊維基材にフッ素樹脂と導電剤とが充填されているため、電気伝導性と適度な撥水性を付与することができる。
【0019】
本発明の請求項4にかかる発明は、ガス拡散層の見掛密度が0.5〜0.8g/cmであるため、ガスの透過、供給又は拡散に支障をきたさない程度の多孔性を有する。
【0020】
本発明の請求項5にかかる発明は、繊維基材がガラス繊維不織布からなるため、酸性溶液やアルコール等に対する耐薬品性に優れている。また、炭素繊維で構成される繊維基材に比べて、極めて優れた強度並びに加工適性を有する。更に、安価である。
【0021】
本発明の請求項6にかかる発明は、前記いずれかのガス拡散層を備える膜−電極接合体であるため、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができるため、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池を製造することができる。
【0022】
本発明の請求項7にかかる発明は、前記いずれかのガス拡散層を備える膜−電極接合体を含む燃料電池であるため、正極で生成した水を電池内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができるため、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池であることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のガス拡散層は水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、ピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲に存在するものである。このようにピークを1つだけ有するということは、その直径及びその近傍の直径を有する細孔のみから構成されていることを意味し、しかもその直径が0.01〜1μmと従来にはない非常に小さい細孔のみからなるため、水を電池内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができる。例えば、1μmよりも大きいピークを有すると、細孔の直径が大きいことを意味するため、外部に水が排出され、水が不足することになる。逆に、0.01μmよりも小さいピークを有すると、細孔の直径が小さすぎることを意味するため、水が内部に留まり過ぎ、細孔を閉塞する結果、ガスの透過、供給又は拡散が阻害される。より好ましくは、1つだけのピークが細孔直径0.05〜0.15μmの範囲に存在する。
【0024】
本発明において水銀圧入法を採用しているのは、好適な細孔直径が0.01〜1μmであることから、この範囲の細孔直径を測定するのに適した方法であるためである。なお、水銀圧入法は水銀ポロシメータにより実施できる。また、水銀圧入法による測定条件は次の通りである。
1.細孔直径の測定範囲:150〜0.003(μm)
2.水銀の接触角:130(°)
3.水銀の表面張力:485(mN/m)
【0025】
本発明においては、Log微分細孔容積分布グラフをもとにピークを読み取っている。Log微分細孔容積分布グラフは差分細孔容積(dV)を、細孔直径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値を求め、これを各区間の平均細孔直径に対してプロットしたものである。このように細孔直径の対数扱いの差分値d(logD)で割っているのは、差分細孔直径で割ると、細孔直径が小さい場合に分母が小さくなり、値が強調される一方で、細孔直径が大きい場合に分母が大きくなり、値が緩和されるためである。
【0026】
本発明における「ピーク」は、Log微分細孔容積分布グラフ上、上に凸の変曲点のうち、変曲点をPとし、この変曲点Pの左側で、変曲点Pに最も近い測定点をAとし、更にこの変曲点Pの右側で、変曲点Pに最も近い測定点をBとした時に、A−P間を結んでできる直線Lの傾きの絶対値とB−P間を結んでできる直線Lの傾きの絶対値の平均値が0.5以上である場合、その変曲点Pを「ピーク」という(図2参照)。つまり、次の式で表される傾きの平均値IAVが0.5以上である場合の変曲点Pをピークという。
【0027】
この傾きの平均値IAVが0.5以上である場合に、変曲点Pをピークというのは、図3〜10に示すように、視覚上、IAVが0.5以上である場合にピークと認識できることに起因している。なお、図3〜10においては、細孔直径(対数目盛、範囲:0.1〜1μm)を横軸にとり、Log微分細孔容積(範囲:0〜1cm/g)を縦軸にとり、両軸の長さを等しく描いたグラフである。
【0028】
なお、本発明におけるLog微分細孔容積分布グラフは、水銀圧入法において、次の順に圧力をかけた時に得られたものである。なお、圧力のかけ方によってグラフ上のプロットの数及び間隔が決まる。
1.5psia、2psia、2.5psia、3psia、3.5psia、4psia、5psia、6psia、7psia、8psia、9psia、10psia、12psia、14psia、16psia、18psia、20psia、25psia、30psia、40psia、50psia、60psia、70psia、80psia、90psia、100psia、120psia、140psia、170psia、200psia、250psia、300psia、350psia、400psia、450psia、500psia、600psia、700psia、800psia、900psia、1000psia、1200psia、1400psia、1600psia、1800psia、2000psia、2400psia、2800psia、3200psia、3600psia、4000psia、4500psia、5000psia、5500psia、6000psia、6500psia、7000psia、8000psia、9000psia、10000psia、11000psia、12000psia、13000psia、15000psia、16000psia、18000psia、20000psia、21000psia、23000psia、25000psia、28000psia、32000psia、35000psia、38000psia、45000psia、50000psia、60000psia
【0029】
このような本発明のガス拡散層は、例えば、繊維基材にフッ素樹脂と導電剤とが充填されたもの、フッ素樹脂と導電剤とを成形したものから構成することができる。これらの中でも繊維基材にフッ素樹脂と導電剤とが充填されたガス拡散層は電気伝導性と適度な撥水性を有するため好適である。この繊維基材はガス拡散層に強度を付与することができる限り、特に限定するものではないが、例えば、ガラス繊維不織布、カーボンペーパー、耐酸性のある有機繊維不織布(例えば、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリフッ化ビニリデン繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維やポリトリメチレンテレフタレート繊維を代表とするポリエステル系繊維を単独で、又は2種類以上を含む不織布)を挙げることができる。これらの中でもガラス繊維不織布は酸性溶液やアルコール等に対する耐薬品性に優れ、また、極めて優れた強度並びに加工適性を有し、更には安価であるため好適である。
【0030】
この繊維基材として好適であるガラス繊維不織布は、ガラス繊維をアクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、及び/又はエポキシ樹脂を含むバインダで接着したものであるのが好ましい。塩素成分や金属イオンは燃料電池内において腐食性をきたす等の悪影響を及ぼすが、前記樹脂は塩素成分や金属イオンといった不純物の混入が少ない樹脂として知られており、前記悪影響を及ぼさないためである。特に、塩素成分が20ppm以下のバインダで接着したものであるのが好ましい。
【0031】
なお、バインダを構成する樹脂としてアクリル樹脂を用いる場合、自己架橋型アクリル樹脂を用いることが好ましい。燃料電池においては、触媒層での反応によりプロトンが生成し、ガス拡散層周辺も強酸(pH2程度)雰囲気に曝されるため、ガス拡散層も耐酸性を有するのが好ましく、前記自己架橋により硬化したアクリル樹脂は優れた耐酸性を示すためである。ここで、「自己架橋型アクリル樹脂」とは、同一又は異種のモノマー単位中に、1種又は2種以上の架橋可能な官能基を有するアクリル樹脂を意味し、この架橋可能な官能基の組み合わせとして、例えば、カルボン酸基とビニル基との組み合わせ、カルボン酸基とグリシジル基との組み合わせ、カルボン酸基とアミン基との組み合わせ、カルボン酸基とアミド基との組み合わせ、カルボン酸基とメチロール基との組み合わせ、カルボン酸基とエポキシ基との組み合わせを挙げることができる。これらの中でも窒素を含まず、耐酸化性に特に優れる、カルボン酸基とビニル基との組み合わせ、カルボン酸基とグリシジル基との組み合わせ、カルボン酸基とメチロール基との組み合わせ、又はカルボン酸基とエポキシ基との組み合わせが好ましい。
【0032】
また、ガラス繊維不織布におけるバインダの固形分付着量は、ガラス繊維不織布全体の質量を基準として3〜30質量%の範囲内であるのが好ましい。バインダの固形分付着量が3質量%未満の場合、ガラス繊維不織布としての機械的強度が低く、作業適性が著しく損なわれる傾向があり、一方で、固形分付着量が30質量%を超える場合、バインダに由来する皮膜が過度に形成され、フッ素樹脂と導電剤とを十分に充填することができない傾向があるためである。
【0033】
このようなガラス繊維不織布は周知の方法により製造することができるが、均一な地合いを有するガラス繊維不織布を製造できる湿式法により製造するのが好ましい。なお、ガラス繊維の繊維径及び繊維長は、湿式法により製造する際の分散性や機械的強度の優れるガラス繊維不織布であるように、4〜20μmの繊維径、5〜25mmの繊維長であるのが好ましい。また、ガラス繊維の成分としては、耐薬品性(特に耐酸性)の優れる、Eガラス、Cガラス又はQガラスを1種類以上使用することができる。ガラス繊維不織布の目付、厚さは特に限定するものではないが、目付はガス拡散層がガスの透過、供給又は拡散に支障をきたさない程度の多孔性を有する見掛密度としやすいように、4〜25g/mであるのが好ましく、厚さは強度を確保できるように、30〜300μmであるのが好ましい。なお、「目付」はガラス繊維不織布を10cm角に切断した試料の質量を測定し、1mの大きさの質量に換算した値をいい、「厚さ」はシックネスゲージ((株)ミツトヨ製:コードNo.547−321:測定力1.5N以下)を用いて測定した値をいう。
【0034】
本発明のガス拡散層は前述のような繊維基材にフッ素樹脂と導電剤とが充填されているのが好ましい。ガス拡散層はその厚さ方向に電子を伝導させる必要があるため導電剤が充填されており、適度な撥水性を確保するため、フッ素樹脂が充填されているのが好ましい。導電剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどを挙げることができ、フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などを挙げることができる。
【0035】
このようなフッ素樹脂と導電剤は繊維基材に充填されているのが好ましいが、その程度は前述のように、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、ピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲に存在する程度である。例えば、フッ素樹脂と導電剤の繊維基材への充填が不十分であると、繊維基材に起因する10μmを超えるような比較的大きい細孔直径のピークと、フッ素樹脂と導電剤によって形成される多孔層に起因する1μm以下の比較的小さい細孔直径のピークの、2つのピークを有することになる結果、水を外部に排出してしまい、固体高分子膜の湿潤が不十分で、プロトンが移動しにくくなり、十分な発電性能を得られなくなる。したがって、繊維基材全体に、十分かつ均一にフッ素樹脂と導電剤を充填する必要がある。
【0036】
このように十分かつ均一にフッ素樹脂と導電剤を繊維基材に充填するには、例えば、フッ素樹脂と導電剤を含む導電性ペーストを繊維基材に塗布し、ホットプレスするのが好ましい。また、ホットプレスにより見掛密度を調整することができ、表面を平滑にすることができる。表面が平滑であると、膜−電極接合体を作製するときに、ガス拡散層と触媒層及びセパーレータとの接触面積を大きくすることができる。なお、ホットプレスの条件は特に限定するものではないが、例えば、温度50〜250℃、圧力6〜13MPaで10〜180秒間行うのが好ましい。
【0037】
また、フッ素樹脂と導電剤との質量比率は50〜20:50〜80であるのが好ましく、40〜25:60〜75であるのがより好ましい。
【0038】
本発明のガス拡散層の見掛密度は0.5〜0.8g/cmであるのが好ましい。0.8g/cmよりも見掛密度が高いと、ガス拡散層本来の作用であるガスの透過、供給又は拡散が悪くなる傾向があるためで、他方、0.5g/cmよりも見掛密度が低いと、燃料電池のガス拡散層として実装する際に見掛密度が極端に変化し、バイポーラプレートのガスを供給する溝に食い込んで溝を塞いでしまい、効率的にガスを供給することが難しくなる傾向があり、また、見掛密度が低いと体積抵抗が高くなり、電気伝導性が悪くなる傾向があるためである。なお、見掛密度は目付(単位:g/cm)を厚さ(単位:cm)で割った値である。
【0039】
なお、ガス拡散層の目付、厚さは特に限定するものではないが、体積抵抗が小さくなるように、目付は20〜120g/mであるのが好ましく、厚さは40〜150μmであるのが好ましい。
【0040】
以上は繊維基材にフッ素樹脂と導電剤とが充填されている場合についてであるが、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、ピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲に存在する限り、前述の態様に限定されず、フッ素樹脂と導電剤とを成型型により成型したガス拡散層であっても良い。
【0041】
本発明の膜−電極接合体は前述のようなガス拡散層を備えているため、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保ちやすいため、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池を製造できるものである。
【0042】
本発明の膜−電極接合体は前述のようなガス拡散層を備えていること以外は従来の膜−電極接合体と全く同様であることができる。例えば、ガス拡散層と触媒層とからなるガス拡散電極は、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコールジメチルエーテルなどからなる単一あるいは混合溶媒中に、触媒(例えば、白金などの触媒を担持したカーボン粉末)を加えて混合し、これにイオン交換樹脂溶液を加え、超音波分散等で均一に混合して触媒分散懸濁液を調製し、この触媒分散懸濁液をガス拡散層表面にコーティング又は散布し、乾燥し、触媒層を形成することにより製造することができる。また、固体高分子膜としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂膜、スルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜、アルキルスルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜などを用いることができる。膜−電極接合体は、例えば、一対のガス拡散電極のそれぞれの触媒層の間に固体高分子膜を挟み、熱プレス法によって接合して製造できる。
【0043】
なお、本発明のガス拡散層を正極に使用した場合には、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができ、また、負極に使用した場合には、正極から逆拡散してきた水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができる。
【0044】
本発明の燃料電池は前述のガス拡散層を備える膜−電極接合体を含む燃料電池であるため、正極で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保ちやすいため、加湿ガスを供給する必要がないか、必要があったとしても小型の加湿機で済み、軽量・小型の燃料電池である。
【0045】
本発明の燃料電池は前述のようなガス拡散層を備える膜−電極接合体を含んでいること以外は従来の燃料電池と全く同様であることができる。例えば、前述のような膜−電極接合体を1対のバイポーラプレートで挟んだセル単位を複数積層した構造からなる。バイポーラプレートとしては、導電性が高く、ガスを透過せず、ガス拡散層にガスを供給できる流路を有するものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、カーボン成形材料、カーボン−樹脂複合材料、金属材料などを用いることができる。なお、燃料電池は、膜−電極接合体を1対のバイポーラプレートで挟んで固定したセル単位を複数積層することによって製造することができる。
【実施例】
【0046】
(繊維基材の準備)
まず、ガス拡散層のベースとなる繊維基材を用意した。この繊維基材として、ガラス繊維不織布と、市販のカーボンペーパー(東レ(株)製、商品名:TGP−H−060)とを準備した。なお、ガラス繊維不織布は、Eガラス(繊維径:7μm、繊維長:13mm)を常法の湿式抄造法により繊維ウエブを形成した後、アクリル樹脂を主成分とするバインダとポリ酢酸ビニルバインダとを固形分質量比1:1で混合した混合バインダを含浸(固形分付着量:15mass%)し、乾燥して製造したガラス不織布A(目付:11g/m、厚さ:110μm)、又は同様に形成した繊維ウエブにエポキシ樹脂を含浸(固形分付着量:15mass%)し、乾燥して製造したガラス不織布B(目付:11g/m、厚さ:110μm)である。
【0047】
(導電性ペーストの準備)
(1)市販のカーボンブラック(電気化学工業(株)製、商品名:デンカブラック粒状品)と、市販のPTFEディスパージョン『D−210C』(ダイキン工業(株)製、商品名)とを固形分質量比60:40で混合し、水・エタノール混合溶液(体積比2:3)を溶媒として撹拌・分散処理を行い、固形分10質量%の導電性ペースト(以下、「第1導電性ペースト」という)を調製した。
(2)上記と同じ市販のカーボンブラックと、市販のPTFE『ルブロンL−5』(ダイキン工業(株)製、商品名)とを60:40の質量比で混合し、乳鉢で粉砕した後、水・エタノール混合溶液(体積比2:3)を溶媒として充分に撹拌・分散させ、固形分5.7質量%の導電性ペースト(以下、「第2導電性ペースト」という)を調製した。
(3)上記と同じ市販のカーボンブラックと市販のPVDF((株)クレハ製、商品名:KFポリマー)とを質量比75:25で混合し、N−メチルピロリドン溶媒に攪拌・分散させ、固形分12質量%の導電性ペースト(以下、「第3導電性ペースト」という)を調製した。
【0048】
(実施例1〜7、比較例1〜3)
表1に示すように、前記繊維基材に対して、第1導電性ペースト、第2導電性ペースト又は第3導電性ペーストを塗布してガス拡散層を製造した。
【0049】
より具体的には、第1導電性ペーストを用いる場合には、ペーストを塗布し、温度60℃の熱風乾燥機によって乾燥させた後、加熱炉にて、窒素雰囲気中、350℃で1時間焼結し、圧力3〜11MPa、温度170℃、時間30秒間の条件でホットプレスを行い、見掛密度及び細孔直径を調節して、ガス拡散層を製造した。
【0050】
また、第2導電性ペーストを用いる場合には、ペーストを塗布し、温度60℃の熱風乾燥機によって乾燥させた後、加熱炉にて、窒素雰囲気中、350℃で1時間焼結し、ガス拡散層を製造した。
【0051】
更に、第3導電性ペーストを用いる場合には、ペーストを塗布し、水浴中に30分間浸漬して水溶媒置換した後に、温度60℃の熱風乾燥機によって乾燥させ、そして圧力8〜15MPa、温度170℃、時間30秒間の条件でのホットプレスを行い、見掛密度及び細孔直径を調節して、ガス拡散層を製造した。
【0052】
表1は、これらガス拡散層の材料構成、ホットプレス条件、目付、厚さ、見掛密度、並びに細孔直径(水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおけるピーク)をまとめたものである。同表中、ガラス繊維不織布Aについては「ガラスA」と表記し、ガラス繊維不織布Bについては「ガラスB」と表記し、カーボンペーパーは「炭素」と表記している。さらに、第1導電性ペーストは「第1」と表記し、第2導電性ペーストは「第2」、第3導電性ペーストは「第3」と表記している。














【0053】
【表1】
【0054】
(触媒層の作製)
エチレングリコールジメチルエーテル10.4gに対して、市販の白金担持炭素粒子(石福金属(株)製、炭素に対する白金担持量40質量%)を0.8g加え、超音波処理によって分散させた後、市販の5質量%ナフィオン溶液(米国シグマ・アルドリッチ社製、商品名)4.0gを加え、更に超音波処理により分散させ、更に攪拌機で攪拌して、触媒ペーストを調製した。次いで、この触媒ペーストを支持体(商品名:ナフロンPTFEテープ、ニチアス(株)製、厚さ0.1mm)に塗布し、熱風乾燥機によって60℃で乾燥し、当該支持体に対する白金担持量が0.5mg/cmの触媒層を作製した。
【0055】
(固体高分子膜−触媒層接合体の作製)
まず、固体高分子膜として、Nafion 112(商品名、米国デュポン社製)を用意し、この固体高分子膜の両面に、前記触媒層を夫々積層した後、温度135℃、圧力2.6MPa、時間2分間の条件でホットプレスにより接合し、固体高分子膜−触媒層接合体を作製した。
【0056】
(燃料電池評価用セルによる発電評価)
前記固体高分子膜−触媒層接合体の両面に、実施例1〜7又は比較例1〜3のガス拡散層を積層し、膜−電極接合体(MEA)とした後、締め付け圧3.0N・mで固体高分子形燃料電池セル『As−510−C25−1H』(商品名、エヌエフ回路設計ブロック(株)製)に組み付けて、発電性能を評価した。この標準セルは、バイポーラプレートを含み、MEAの評価試験に用いるものである。なお、同じ膜−電極接合体(MEA)においては、同じガス拡散層を正極側、負極側の両方に使用した。
【0057】
発電は負側に水素ガス、正極側に酸素ガスを夫々500mL/分の流量で供給して行い、エヌエフ回路設計ブロック(株)製の発電評価装置によって、電位−電流曲線を測定した。この際、セル温度は80℃であり、負極並びに正極の加湿のために、水素ガス及び酸素ガスを温度40℃の飽和水蒸気で満たされた加湿機を通過させた後に、燃料電池内部に供給した。この電位−電流曲線は図11に示す通りであった。
【0058】
この図11から、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、1つだけピークを有し、そのピークが細孔直径0.01〜1μmの範囲にある実施例1〜7のガス拡散層を備えた膜−電極接合体は、前記細孔直径が0.01μm未満、又は1μmを超える比較例1〜3に比べて、大きな電流を流すことができ、優れた発電特性を発揮し得ることが確認された。特に、前記細孔直径が0.05〜0.15μmである実施例1〜3では、電流密度が1.5A/cmのときの電圧が実施例4〜7よりも高く、極めて優れた発電特性を発揮し得ることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】固体高分子形燃料電池の概略構成を示す模式断面図
図2】ピークの考え方を説明するLog微分細孔容積分布グラフ
図3】傾きの平均値IAVが0.3の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
図4】傾きの平均値IAVが0.4の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
図5】傾きの平均値IAVが0.5の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
図6】傾きの平均値IAVが0.6の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
図7】傾きの平均値IAVが0.7の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
図8】傾きの平均値IAVが0.8の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
図9】傾きの平均値IAVが0.9の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
図10】傾きの平均値IAVが1.0の上に凸の変曲点をもつLog微分細孔容積分布グラフ
図11】電位−電流曲線を表すグラフ
【符号の説明】
【0060】
11a (負極側)バイポーラプレート
11c (正極側)バイポーラプレート
13a (負極側)ガス拡散層
13c (正極側)ガス拡散層
15a (負極側)触媒層
15c (正極側)触媒層
17a 負極
17c 正極
19 固体高分子膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11