【文献】
Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2007年10月23日,Vol.104, No.43,pp.17040-17045
【文献】
Int. J. Exp. Diabetes Res.,2001年,Vol.2, No.2,pp.85-90
【文献】
J. Cell. Sci.,2006年10月15日,Vol.119, Pt.20,pp.4199-4206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
自己免疫疾患にかかりやすいか、または自己免疫疾患を発症しつつある個体を判定する方法であって、該個体由来の試験試料中のZnT8に選択的に結合する抗体を検出することを含み、該個体において陰性対照と比較して抗体の増加が検出されるとその個体は自己免疫疾患にかかりやすいかまたは自己免疫疾患を発症しつつあることが示され、前記自己免疫疾患は1型糖尿病であることを特徴とする方法。
325位のアミノ酸がアルギニン、トリプトファンおよびグルタミンから選択されたアミノ酸であるヒトZnT8に選択的に結合する抗体を検出することを含む、請求項9に記載の方法。
個体における1型糖尿病自己免疫の、初期の良性の自己反応性から破壊的な膵島炎への進行を監視する方法であって、該個体由来の試験試料中のZnT8に選択的に結合する抗体を検出することを含み、該個体において、同じ個体の以前の抗体測定と比較して抗体の増加が検出されると、該個体が破壊的な膵島炎に向かって進行していることが示されることを特徴とする方法。
該方法は、放射免疫沈降アッセイ、ELISA、時間分解蛍光アッセイ、競合的ユーロピウムアッセイおよび発光アッセイからなる群から選択されたアッセイの使用を含む、請求項9〜14のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0042】
発明の詳細な説明
本発明は概して、自己抗原標的の同定、具体的には自己免疫性の1型糖尿病(T1D)における自己抗原標的の同定、さらに具体的には、新規な自己抗原としてのタンパク質ZnT8の同定に関し、該自己抗原は治療上、診断上および予後判定上のツールおよび方法の基盤となり、該ツールおよび方法は本明細書において説明される。本発明はさらに、疾患過程の開始および臨床的糖尿病への自己免疫の進行における重要な存在として本明細書中に記載されているZnT8の遺伝的変異の同定に関するものでもある。これらの知見により、本発明者らは、該疾患の経過の予後評価を改良し、かつ該疾患の症状発現前の段階における治療的介入の有効性を観察するために使用可能な新しい診断ツールを提供することができた。該分子そのもの、誘導されたペプチド、ペプチドアナログおよび二次的な免疫試薬は、自己免疫の発症または臨床疾患への進行を防止するための治療的介入の根拠としても役立つ。自己免疫過程が確立してしまった時点で自己免疫過程を好転させるよりも発生の防止のほうが容易のように思われるので、個体が生まれたらすぐにその遺伝子型を決定する能力は、治療的処置の実施に対して明らかな利点を備えている。
【0043】
これまでに、上記に議論されるように、インスリンはその組織関連性に基づいて、GAD65およびIA−2は患者の血清が放射性同位体標識された膵島由来のタンパク質を免
疫沈殿させる能力から(64〜66)、またIGRPは糖尿病自然発症マウス由来のT細胞クローンを刺激したMHC H−2 K
dに結合したペプチドとして、候補遺伝子として定義された。本発明者らは、自己抗原の細胞生物学および分子生物学について現在理解されていることに基づき標的自己抗原の同定に対するより系統的な手法を開発可能であるかという問題について、またマイクロアレイ分析により異なる組織におけるゲノム全体の発現を研究および分析するツールの利用可能性について、問いかけてきた。目的は、β細胞で発現される15,000程度の遺伝子転写物の中から合計50以上のタンパク質に達する可能性もある主として重要な糖尿病自己抗原を含む候補遺伝子のリストを作成することであった。次いで、強健なアッセイを使用してそのような分子への細胞性および体液性免疫応答を検出することができる。この研究の結果を、新規な標的自己抗原すなわちZnT8の発見を特に強調しながら以下に述べる。
【0044】
より具体的には、MHC分子およびT細胞受容体分子はいずれも広範囲のペプチド結合特異性を有し、親和性が比較的低いので、抗原提示およびT細胞認識の構造生物学からは新規なT1D自己抗原の同定について比較的わずかな手掛かりしか得られなかった。ミモトープペプチドの結合特性に関する詳細な情報が知られている場合さえ、天然のエピトープを同定するのは困難であることが判明しているが、これは単に、接触残基の数が少なく、保存的アミノ酸置換が容易に生じるからである。本発明者らは、ゲノム全体について自己抗原の候補を同定するための、情報に基づいたアルゴリズムの開発について本明細書で述べる。「理想の」自己抗原のいくつかの主要な属性および二次的属性は、最初は経験的な情報に基づいて仮定され、適宜重み付けされる。理想的な属性それぞれに対する抗原の一致度が重み付けされて「自己抗原スコア」が導かれ、こうして最良の候補の順序づけられたリストが得られる。その後、遺伝子オントロジー機能および遺伝子座決定のような情報に基づいたメタ分析を検討してから、NODマウスにおける自然発生およびプライミングによる細胞性自己免疫応答、ならびにNODマウスおよびヒトの血清の両方で測定された体液性の自己反応性に基づいた最終候補リストの評価に着手する。この手法を補強するマイクロアレイデータは大規模に取得済みである。従って、最初にヒト被験者の血清学的解析によって候補抗原をスクリーニングし、次にトランスジェニックマウス中のHLA−DR3、−DR4、DQ2−および−DQ8 HLA A2ならびにその他のクラスI HLA糖尿病感受性対立遺伝子を、候補抗原に対する細胞性免疫応答についてスクリーニングする。
【0045】
この手法を使用して、本発明者らは、亜鉛輸送体タンパク質8(ZnT8、Slc30A8としても知られる)を、T1Dに関連する予後判定、診断および治療の方法のための新たな自己抗原標的として同定した。ZnT8は、ヒトおよびマウスではインスリンを産生する膵島β細胞に限定されていると思われるタンパク質である。本発明者らは、ZnT8が、T1Dを発症するヒト被験者の自己抗体の標的であることを実証し、ZnT8の多型バリアントを、1型糖尿病感受性、自己免疫の状態、自己抗体の特異性ならびに疾患の進行および重症度の遺伝マーカーとして同定した。ZnT8に対する自己抗体は臨床疾患の発症の前に出現し、初期糖尿病の新規なマーカーであると考えられる。
【0046】
さらに本発明者らは、ZnT8自己抗体が該分子の2つの異なる領域を標的とすること、これらの領域のうちの一方が、免疫応答の特異性および規模の両方を決定するのに重大な役割を果たす3種の異なるアミノ酸のうちの1つを包含することを発見した。自己免疫および糖尿病が発症する前の任意の時点で一塩基変異多型分析を使用して個体の遺伝子型を決定することにより、どのアミノ酸バリアントがコードされているかに関して情報が得られるので、遺伝子型の決定を治療および看護に関する臨床上の決定を下すのに使用することができる。さらに、本発明により、ZnT8に対する自己抗体の特異性の精密な分析が可能となり、さらにZnT8のバリアントのうちいずれを免疫系の標的としているかについて抗体を分類することが可能となる。現在、該分子の325位のアミノ酸バリアント
(Arg、TrpまたはGln)が何であるかに依存する3つの主要な形態(本明細書では「イソエピトープ」と呼ばれる)と、保存されたアミノ酸(aa325とは無関係)を包含する第4のエピトープとが認識されている。個体の応答は、8つの異なる応答、すなわち(1)無し;(2)Arg325限定的;(3)Trp325限定的;(4)Gln325限定的;(5)Arg325およびTrp325限定的;(6)Arg325およびGln325限定的;(7)Trp325およびGln325限定的;(8)アミノ酸325とは無関係、のうちの1つとして分類することができる。自己抗体応答のこのような層別化が、疾患の進行に関する情報を提供するために本明細書において提案され、抗原特異的な治療薬を用いてT1D自己免疫をどのように治療するかを決定する際に不可欠となるであろう。
【0047】
より具体的には、本発明者らは以下のことを示した:
・ 初発T1D患者の60%がZnT8に対する自己抗体について陽性であること;
・ 生化学的手段(GAD、InsおよびIA2の自己抗体)または組織学的手段(膵島細胞質の自己抗体)によって測定された他の自己抗体に関して陰性のT1D患者の20〜30%は、ZnT8に対する自己抗体について陽性であること;
・ ZnT8に対する自己抗体の同定により、10%のT1D患者が低リスク分類(上記1)から高リスク分類(上記2)に変わること;
・ GADを用いた単一のアッセイ形式において、抗ZnT8アッセイは初発T1D患者の90%を検出すること;
・ 本発明により患者の大規模スクリーニングが可能となること;
・ ZnT8自己抗体は、分子の2つの異なる領域(N末端およびC末端)を標的とし、そのうちの後者は免疫応答の質および規模の両方を決定する際に重大な役割を果たす3種類の異なるアミノ酸のうちの1つを包含していること;
・ 上記に特定した部位に対する自己抗体は、遺伝子がコードする配列と一致し、したがって真に自己反応性であり、また対立遺伝子は高頻度(75%)、中間的頻度(25%)および低頻度(1%)で存在し、人種集団間の顕著な変動を示していること;
・ 3歳前に糖尿病を発症する幼い子供は、ZnT8のCC(Arg325ホモ接合の遺伝子型)が期待されるよりも高頻度であり(55%に対して75%)、ZnT8のCT遺伝子型(Arg325およびTrp325のヘテロ接合の遺伝子型)が低頻度(40%に対して35%)であること。年長の子供は、正常な集団で報告されたのと同様の遺伝子型頻度を示すこと。従って、CC遺伝子型は糖尿病のリスク因子であると考えられるかもしれないこと。
【0048】
本発明に先立って、ZnT8の一部をコードする部分ヌクレオチド配列が同定され、α細胞、肝臓または腎臓よりも膵臓β細胞においてより大量に発現したmRNAとして、特に膵臓β細胞に関連した分子の同定を目指した発表において報告された(ネオフィトウ(Neophytou)ら、1996, Diabetes 45: 127-133)。クローン化された2つの部分ヌクレオ
チド配列は、GENBANK(R)に受託番号Z47772(クローン23)およびZ47779(クローン41)として寄託された。しかしながらこの発表では、ZnT8の完全長のヌクレオチドまたはアミノ酸配列を同定しておらず、またこの発表は、該部分配列を潜在的な自己抗原をコードするものとして同定も実証もしていない。
【0049】
ZnT8分子全体は、主に重金属イオン輸送タンパク質について研究しているスイスのグループによって2004年に最初にクローニングされた(キミエンティ(Chimienti)
ら、Biometals 2005 Aug;18(4):313-7;キミエンティ(Chimienti)ら、Diabetes 2004 Sep;53(9):2330-7;およびセーブ(Seve)ら、BMC Genomics 2004 May 23;5(1):32(それ
ぞれ全体が参照により本願に組込まれる))。バイオインフォマティクス法および免疫組織化学法から、キミエンティらは、該分子が膵島で発現されることを観察し、また該分子とインスリン分泌顆粒との関連を報告している。さらにキミエンティらは、ZnT8をH
eLa細胞で過剰発現させると細胞内小胞に亜鉛が蓄積することを教示し、ZnT8が、細胞質の亜鉛の細胞内小胞への移動に関与するZnTであることを示唆している。しかしながら、これらの報告においてZnT8が潜在的な自己抗原であることには言及されておらず、従って、本明細書で述べるような診断方法または治療方法におけるZnT8の使用についても記載されていない。
【0050】
本発明者らが1型糖尿病の自己抗原としてのZnT8の重要な役割を認識したのは、ZnT8が初発の1型糖尿病患者における体液性自己反応の標的であるかという疑問に明確に取り組んだ、本発明者らの実験室で行なわれた一連の最近の実験からである。本発明者らが実施した最初の研究から、患者の約10%がZnT8に対して軽度の自己反応性を示すことが示された(実施例を参照)。完全長のZnT8の代わりに該分子のCOOH末端(C末端)フラグメントを使用したアッセイ(後述)をさらに開発することにより、アッセイの感度が著しく上昇し、対応する対照が1%未満であるのに対してT1D被験者の70%までが疾患発症時に陽性の試験結果となった。このような感度は、周知の分子すなわちインスリン、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD65)およびIA−2(PTrN)を用いたT1D被験者における体液性の自己反応について現在用いられているアッセイと同じか、またはそれ以上に良い。本発明者らは、ZnT8が独立した疾患マーカーであり、かつそういうものとして、抗体を用いるアッセイの感度を補完かつ拡張することも実証した。10年にわたって集められた一連の試料の調査を通じて、ZnT8に対する抗体が糖尿病前症の進行においては他の抗体より後に現われることが示され、このことは、膵島炎の破壊的な最終段階を示す、従って初期臨床疾患のマーカーを示すかもしれない。
【0051】
さらに、本発明者らは、ZnT8自己抗体が該分子の2つの異なる領域を標的とし、これらの領域のうちの一方が、免疫応答の質および規模の両方を決定する際に重大な役割を果たす3種の異なるアミノ酸のうちの1つを包含することを発見した。アミノ酸配列バリアントはゲノムのヌクレオチド配列によって決まるので、どのアミノ酸バリアントがコードされているかを測定することは可能である。本発明者らは、この部位に対する自己抗体が、遺伝子にコードされる配列と一致し、従って真に自己反応性であることを初めて実証した。該遺伝子は、高頻度(75%)、中間的頻度(25%)および低頻度(1%)で存在する3つの既知の対立遺伝子を示し、人種集団間の顕著な変動を示している。正しい(自己の)または誤った(非自己の)コード配列を対象とすることは、所望の結果によって有益な場合もあれば有害な場合もあるので、上記のことは、自己免疫を診断する方法、および治療的処置を進める方法に関して影響を及ぼす。例えば、免疫療法の目的は、免疫寛容の誘導である場合もあるし、または反対に、破壊的なエフェクターT細胞もしくは保護的な調節性T細胞のような免疫構成要素の構成要素をそれぞれ関与させるかまたは削除することにより免疫系を整理することである場合もある。
【0052】
本発明に先立ち、ZnT8が抗体または細胞性免疫のいずれかによって認識される自己抗原であるかもしれないと演繹的に疑う理由はなかった。実際、本発明者らの知る限りでは、ZnT8は自己免疫性糖尿病との関連において研究されたことはなく、免疫学的関連における該分子に関する他の公表データもない。上記に議論されるように、他の自己免疫疾患および糖尿病関連で、診断薬および治療薬としての自己抗原の使用に関する文献報告は存在する。しかしながらこれらは、構造上、細胞生物学上および免疫学上の見地からZnT8とは無関係な、インスリン、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD65)、IA2、フォグリンおよび熱ショックタンパク質60のような分子を対象としたものである。
【0053】
さらに、タンパク質中の1つのアミノ酸の差異、または1つのアミノ酸の例えばリン酸化もしくはシトルリン化による翻訳後修飾の同定には、先例がないわけではないが、そのような変化が、本発明者らが示したような自己抗体の特異性の明確な決定因子なのではないかと疑う理由はない。実際に、ヒトZnT8をコードする配列中の非同義変異をコード
する一塩基多型(SNP)番号rs13266634およびrs16889462が、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)一塩基多型データベースに公表されている。このSNPは、ZnT8(配列番号2)のアミノ酸325に代替としてArgまたはTrpをコードしているが、これは本発明者らの研究で同定された多型バリアントと一致する。しかしながら、このSNPと
1型糖尿病(T1D)との関連は、本発明者らの知る限りではこれまで確認されていない。ゲノム全体の関連研究から、ZnT8は、先述のrs13266634など
2型糖尿病に関係するいくつかのSNPを含んでいることが確認され(スラデック(Sladek)ら、2007年、Nature. 2007 Feb 22;445(7130):881-5. Epub 2007 Feb 11)、最近ではZnT8多型とβ細胞機能との関連についてのインターネ
ット上の報告がなされている(シュタイガー(Staiger)ら、2007年、PLoS ONE. 2007 Sep 5;2(9):e832)。しかしながら、2型糖尿病は自己免疫疾患ではなく、このSNP
と
1型糖尿病との関連は本発明者らの知る限りではこれまで確認されていない。さらに、2型糖尿病患者がZnT8自己抗体を有すると示されたことはない。
【0054】
他のT1D自己抗原、すなわちGAD65およびIA2の配列中の多型バリアントは確認されているが、これらはいずれも1型糖尿病におけるこれらの自己抗原の自己反応性の変化には関与していなかった。IA2では、組織特異的な様式で生じうる、免疫監視機構からの逃避をもたらすと考えられるmRNAの選択的スプライシングが存在するようである。しかしながらこれは、本発明者らが本明細書で報告した遺伝的バリアントのタイプ、すなわち自己抗体による分子の特異的認識に関係している単一アミノ酸の変化に匹敵するものではない。したがって、発明者らによる本開示には先例がない。通常の多型によってコードされた2つの形態のZnT8が質的に異なる免疫応答を引き起こし、従って自己抗体の測定を新たなレベルに移行させるという、本明細書に記載の発見である。この発見は、該分子の異なる形態を使用して免疫系の異なる構成成分を標的とし、異なる免疫学的結果を引き起こすことができることも示している。
【0055】
従って、本発明者らは、様々な診断用および治療用のツールおよびアッセイの開発における、ZnT8をコードする遺伝子、該遺伝子から誘導された核酸分子、そのような遺伝子および核酸分子にコードされたZnT8タンパク質またはそのフラグメント、加えてそのような遺伝子およびタンパク質の相同体ならびに関連物質(例えば抗体、アゴニスト、アンタゴニスト)、ならびにZnT8の多型バリアントの使用、ならびにそのような遺伝子、核酸、タンパク質、相同体、バリアント、もしくは関連物質のうち少なくともいずれかの使用または標的化、または上記の物を含む組成物もしくは製剤、について本明細書で述べる。そのようなツールおよびアッセイには、限定するものではないが以下を挙げることができる:
1.ZnT8、該分子の特定のドメイン、および該タンパク質由来のペプチドに対する抗体反応に基づいた、糖尿病関連自己免疫の検出のためのヒトおよび実験動物におけるアッセイ。そのようなアッセイは、放射免疫沈降アッセイ、ELISA、時間分解蛍光アッセイおよび発光アッセイの形式で提供されるが、その他の形式も本発明に包含される。そのようなアッセイを使用して以下のことを行うことができる:
a.個体および被験者群における1型糖尿病の発症に対する感受性を予測すること;
b.初期の良性の自己反応性から破壊的な膵島炎への自己免疫の進行を監視すること;かつ/または
c.前糖尿病状態において自己免疫を予防または軽減することを目指した治療の有効性を監視すること。そのような治療は、ZnT8分子自体において設計されたものを含む、一連の潜在的な免疫抑制物質に基づくことが考えられる。
【0056】
2.ZnT8の3つのバリアントに対するプローブと、3つのバリアントをコードする組換え型タンパク質の競合物質または妨害物質としての使用とに基づいた、糖尿病関連自己免疫の検出のためのヒトおよび実験動物におけるエピトープ特異的自己抗体アッセイ。
そのようなアッセイは、放射免疫沈降アッセイ、ELISA、時間分解蛍光アッセイ、および発光アッセイの形式であることが考えられるが、その他の形式も本発明に包含される。そのようなアッセイを使用して以下のことを行うことができる:
a.上記(1)のように、抗体の保有率、反応のレベル、抗体の力価、または応答の結合力、親和性もしくはクローン性から、個体および被験者群における1型糖尿病の発症に対する感受性を概ね予測すること;
b.特定の個体において3つのうちいずれのエピトープが標的であるかを決定し、疾患および治療の経過における、進行および治療への応答の尺度として応答特異性の変化を測定すること;
c.遺伝子型決定を組み合わせることにより、免疫応答の標的エピトープ特異性の見込みを測定し、したがって前もって最良の治療法を決定すること;かつ/または
d.前糖尿病状態において自己免疫を予防または軽減することを目指した治療の有効性を監視すること。そのような治療は、ZnT8分子自体において設計されたものなど、一連の潜在的な免疫抑制物質に基づくことが考えられる。
【0057】
3.リンパ球増殖反応、MHCクラスIおよびIIのテトラマー試薬、およびELISPOTアッセイを用いた、該タンパク質および誘導ペプチドとのTリンパ球の反応性に基づく、糖尿病関連自己免疫の検出のためのヒトおよび実験動物におけるアッセイ。
【0058】
4.抗原に対する標識抗体、およびアッセイの手段として標識抗体を用いた自己抗体の競合に基づいたアッセイ。
5.リガンドの模倣体としての抗イディオタイプ抗体。
【0059】
6.抗原、抗原に結合した抗体、および/または細胞に結合した抗原もしくは抗体に基づいた治療。
7.さらなる診断目的のためのZnT8に基づいた試薬。これらは、該分子、ペプチド、ペプチド模倣体および改変ペプチドに対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体であって、in vivo投与された場合に疾患の経過に影響を与えると思われるもの、または自己免疫患者由来のT細胞を刺激して異なる表現型とし、従ってより寛容性とするためにex vivoで使用できると思われるものを含む。
【0060】
8.抗原特異的な免疫治療薬であって、コグネイトのペプチドエピトープもしくは改変ペプチドがそのMHC分子と作用物質とともに結合し、該作用物質は該ペプチド/MHC複合体に関わるT細胞に対して毒性であるもの、または抗原ペプチドを認識するモノクローナル抗体、または模倣体、例えば個々の分子、もしくはペプチド/MHC複合体もしくはペプチド/T細胞受容体複合体のような別の分子の構成成分と複合体化した分子であって、正常なペプチド相互作用およびシグナル伝達のアゴニストもしくはアンタゴニストとして作用するもの、に基づいた免疫治療薬。個体の遺伝子型およびその時に保有している抗体のエピトープ特異性によって、該治療薬は抗体の特異性と一致していてもよいし、別の免疫応答を刺激するために不一致であってもよい。
【0061】
9.破壊するのではなく保護する方法で免疫系の応答を変化させるための、組換え型タンパク質としてのZnT8分子の使用。これは、組換え型タンパク質、化学的もしくは物理的に修飾された形態の該タンパク質、該タンパク質由来のペプチド配列、または化学的もしくは物理的に修飾されたペプチド、およびペプチド相同体であってワクチンとして使用できると思われるものの使用を含んでいる。
【0062】
10.自己免疫反応を支持する免疫プロセスを極めて特異的に標的とするために、エフェクター分子と、ZnT8エピトープ特異ペプチドまたは試薬(小分子もしくは抗体など)とのコンジュゲートまたは組み合わせを生成すること。これは、抗体が特異的B細胞の
産物であり、該B細胞は自己反応性のT細胞に対する抗原提示細胞としても作用し、該T細胞はひいてはB細胞を活性化して分化を引き起こすシグナルを提供するという概念に基づいている。
【0063】
11.欠失を含むヒトおよびマウスのZnT8 mRNA、キメラ構築物、コード配列を変更する単一および複数部位での点突然変異に基づいたcDNA構築物、ならびにそのような構築物の、診断薬としての、または免疫応答の特異性を研究するための使用。
【0064】
12.エピトープタグ付きの、GFP、GST、NUSおよびポリHis配列を含む融合タンパク質、哺乳動物細胞、酵母および大腸菌においてZnT8を発現するためにベクターに入ったもの、およびそのような構築物の、診断薬としての、または免疫応答の特異性を研究するための使用。
【0065】
13.哺乳動物細胞にZnT8を形質導入して発現するためのアデノウイルス構築物、例えば多型バリアントならびにエピトープタグ付きタンパク質およびレポータータンパク質の構築物、ならびにそのような構築物の、診断薬としての、または免疫応答の特異性を研究するための使用。
【0066】
図20はヒトで知られている10種のSlc30A遺伝子バリアントの比較を示すが、そのうち1つ(Slc30A9)はそのアミノ酸配列の同一性および類似性が低いことを考えると恐らく真の相同体ではない(上記括弧内に示す)。ZnT8に最も近い類縁体は、リソソームタンパク質のSlc30A2、シナプス小胞関連タンパク質のSlc30A3、およびSlc30A4である。Slc30A8に対してウサギで作製された抗体が、Slc30A3とのある程度の交差反応性を示すことから、多発性硬化症のような他のヒト自己免疫疾患においても反応性または交差反応性が生じる可能性が高まる。反対に、Slc30A8反応性のT細胞に対する糖尿病性のSlc30A8自己抗体が、他の組織をも標的とし、糖尿病の合併症に寄与することも考えられる。従って、本発明のツールおよび方法は、T1D以外の自己免疫疾患、例えば、限定するものではないが、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、セリアック病、自己免疫性甲状腺炎、アジソン病、グレーブス病およびリウマチ性心臓炎についても有用かつ適用可能であると考えられる。本発明の方法は、Slc30A8(ZnT8)または相同体が標的または自己抗原(自己抗体またはT細胞自己抗原)であるあらゆる自己免疫疾患に適用可能である。
【0067】
さらに、本発明者らは、ZnT8に対する自己抗体を有する個体が、場合によっては、他のZnT輸送体をコードするSlc30A遺伝子ファミリーの他のメンバーに反応性を示すことを示した。例えば、本発明者らは、ニューロン特異的なアイソフォームと通常は考えられているZnT3に対するある程度の反応性について示す。この発見の重要な意味は、そのような反応性が膵臓の外側の組織において病理学的な結果を有することができたことである。糖尿病、特に1型糖尿病は末梢神経障害と関連があることが知られており、抗原の交差反応性は、これらの状態の間のつながりを表している可能性がある。従って、本発明のツールおよび方法は、抗原の交差反応性によって関連づけられる他の状態、例えば、限定するものではないが末梢神経障害についても有用かつ適用可能であると考えられる。
【0068】
本明細書中で実証される本発明の態様には次の臨床上の観察すなわち:
・ 糖尿病前症:
− ZnT8自己抗体が通常は初期に、GADAおよびIAAの後にIA2Aと一緒に出現する。
【0069】
− 出現の厳密な序列はなく、ZnT8は糖尿病よりも1〜12年先行することもある。
・ 初発
− ZnT8の保有率は2〜3年後の発症時には上昇し、16〜18歳で60〜80%の最大に達する
・ 発症後
− ZnT8は発症後には下降し、恐らくはCペプチドによって計測されるβ細胞量の損失と平行し、半減期は1年である。
【0070】
− ZnT8はGADまたはIA2ほど長く存在しない。
− ZnT8は、測定可能なCペプチドが存在しない状態で存続可能であり、逆の場合も同じである。
【0071】
ZnT8の核酸、タンパク質、多型バリアント、相同体、フラグメント、抗体、および組成物
ZnT8の遺伝子、構造的情報、核酸およびアミノ酸配列
一実施形態では、本発明は、ZnT8をコードする遺伝子、ならびに、そのような遺伝子のコード領域および/または制御領域の少なくとも一部に由来するかまたは少なくとも一部を含む、またそのような遺伝子の任意の多型バリアントを含む、核酸分子の使用を包含する。本発明はさらに、任意のZnT8タンパク質、該タンパク質の相同体もしくはフラグメント、例えば該タンパク質の任意の多型バリアント、または該タンパク質のアゴニストもしくはアンタゴニストであって、例えば上述の遺伝子もしくは核酸分子によってコードされるものの使用も包含する。新規なZnT8核酸分子およびタンパク質(ZnT8の様々な新しい相同体、バリアント、フラグメント、融合タンパク質、およびキメラタンパク質を含む)、ならびにこれらのアゴニストおよびアンタゴニストは、物の組成物として本発明に包含される。本発明は、本発明の様々な方法に役立つZnT8抗体、該抗体の抗原結合フラグメント、および抗原結合性ペプチドをさらに含む。
【0072】
亜鉛輸送体タンパク質8(ZnT8、Slc30A8としても知られる)はZnT8遺伝子によってコードされる369アミノ酸のタンパク質である。ZnT8は、他のZnTタンパク質のように、6つの膜貫通ドメインと、膜貫通ドメインIVおよびVの間のヒスチジンに富んだループとを含む(キミエンティ(Chimienti)ら、2004年、Diabetes
(上述)および本明細書に示す
図4を参照)。このタンパク質は、膵臓中でのみ転写され、より具体的にはランゲルハンス島のβ細胞内でのみ発現される。キミエンティら(既述)が述べているように、ZnT8遺伝子は染色体8q24.11に位置し、8つのエキソンを含み、長さ37kbである。ヒトのZnT−8タンパク質のcDNAおよび推定アミノ酸配列は、キミエンティらの文献(既述)に提供されており、またこの文献は、ヒトZnT8の遺伝子構造、染色体上の位置および推定上のスプライシングを示している(キミエンティら(既述)の
図1Aを参照)。ヒトZnT8をコードするcDNA配列および推定アミノ酸配列は、キミエンティら(既述)の
図1Bに示されており、同図にはZnT8の予測膜貫通ドメインも示されている。キミエンティら(既述)の
図1Cは、hsZnT−8、mmZnT−8およびrnZnT−8のアミノ酸配列の比較を示し、同一の残基を黒色のボックスで示している。ヒトZnT8をコードする核酸配列は、配列番号1として本明細書中に示されている。配列番号1はヒトZnT8タンパク質をコードし、該タンパク質のアミノ酸配列は配列番号2として本明細書中に示されている。マウスのZnT8も当分野において知られている。マウスのZnT8をコードする核酸配列は、配列番号3として本明細書中に示されている。配列番号3はマウスのZnT8タンパク質をコードし、該タンパク質のアミノ酸配列は配列番号4として本明細書中に示されている。ヒトZnT8をコードするヌクレオチド配列は、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)データベースの受託番号NM_173851(gi:64762488)にも記載されて
いる。ヒトZnT8のアミノ酸配列も、NCBIデータベース受託番号NP_776250(gi:64762489)に見られる。ラットZnT8をコードするヌクレオチド配列も知られている。データベース受託番号、および本明細書中に参考文献として記載された出版物に含まれる情報はすべて、参照により本願に組込まれる。上記配列の様々な多型バリアント、フラグメント、キメラタンパク質および融合タンパク質は本明細書中の他所に記載されており、これらも本発明に包含される。
【0073】
キミエンティら(既述)の
図3A−Dは、ZnT8の構造分析、例えばZnT8の予測膜貫通ドメイン、およびヒスチジンリッチドメインの位置などについてさらに説明しているが、これはZnTファミリーの他のZnTの間で共通である(キミエンティらを参照)。これらの構造モチーフはラットおよびマウスのZnT−8で保存されている。ヒトZnT8タンパク質では、保存されたヒスチジンが、配列番号2に関して197、203および205位に見られる。マウスでは、配列番号4の196位のヒスチジンがヒトのHis197とアラインメントし、配列番号4の204位のヒスチジンがヒトのHis205とアラインメントする。したがって、ZnT8の核酸配列およびアミノ酸配列に関する、本発明の時点で利用可能な構造上および機能上の情報は豊富であった。
【0074】
本発明に包含されるZnT8の相同体、バリアント、フラグメントおよびエピトープ
本発明はさらに、ZnT8の天然に存在するバリアントおよび合成的に誘導されたバリアント(相同体)、例えば遺伝子中のヌクレオチドおよびアミノ酸の多型、選択的開始部位でコードされたタンパク質、ならびに様々なフラグメント、融合タンパク質およびキメラタンパク質、ならびにそのようなフラグメント、融合タンパク質およびキメラタンパク質をコードする核酸分子も多数包含する。以下に議論するように、上記のポリヌクレオチドおよびタンパク質またはペプチドは、様々な診断上、治療上、および研究上の本発明の適用において有用である。
【0075】
本発明の一実施形態では、本明細書に記載の方法のうち任意の方法において有用なZnT8タンパク質の相同体またはバリアントは、野生型ZnT8タンパク質、特に、本明細書に記載のヒトZnT8タンパク質のアミノ酸配列と、少なくとも約45%、または少なくとも約50%、または少なくとも約55%、または少なくとも約60%、または少なくとも約65%、または少なくとも約70%、または少なくとも約75%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%同一、または少なくとも約95%同一、または少なくとも約96%同一、または少なくとも約97%同一、または少なくとも約98%同一、または少なくとも約99%同一(または、全体的に増分を整数として45%と99%の間の任意の割合(%)が同一)であるアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列でほぼ構成されるか、該アミノ酸配列で構成される(上記の議論を参照)。一実施形態では、相同体は、ZnT8タンパク質の天然のアミノ酸配列と100%未満が同一、約99%未満が同一、約98%未満が同一、約97%未満が同一、約96%未満が同一、約95%未満が同一など、増分を1%として約70%未満まで同一のアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列でほぼ構成されるか、該アミノ酸配列で構成される。
【0076】
本発明はまた、選択的開始部位でコードされたタンパク質であるZnT8の天然に存在するバリアントおよび合成的に誘導されたバリアント、ならびにそのフラグメント(ペプチド)、融合タンパク質、またはそのキメラタンパク質であって、本明細書に記載の任意の診断上、治療上、および研究上の方法において有用なものも含む。例えば、選択的開始部位を備えたヒトZnT8の天然のバリアントが、配列番号5として本明細書中に示されている。このタンパク質は配列番号2のアミノ酸部位50〜367に及ぶ。
図3を参照すると、示されている遺伝子構造は、公開されたEST配列および遺伝子のアラインメントから本発明者らが推定したものである。しかしながら該遺伝子構造は、「正常」として認
められている8エキソン構造の遺伝子とは異なっている。具体的には、約210個のEST配列について評価し、5’UTRが変化するので組織内発現が変化する可能性を生じうる顕著なスプライス部位変異を同定した。エキソン4がスプライシングされる場合、該配列がリーディングフレームから外れ、短縮型の転写物、典型的には
【0077】
【化1】
(配列番号6)となるが、7位がアラニンの代わりにトレオニンであり、27位がシステインの代わりにアルギニンである別の短縮型が
【0078】
【化2】
(配列番号7)によって表わされる。下流のMetを選択的開始部位として使用する結果、配列のNH2末端の短縮が生じうるようである。このことが組織特異的な方法で起きる、例えば胸腺で起きるが膵臓では起きない場合、免疫系の標的となりうる隠れたエピトープが生じる。本発明者らの実験室には、上記の発生および他の糖尿病関連の自己抗原(IA−2およびIGRP)に対する自己反応性への寄与についての証拠がある。選択的な翻訳産物も「外来の」ペプチドエピトープとして免疫系に提示されるかもしれない。さらに、完全長ZnT8タンパク質の天然の多型バリアントが同定されており、該バリアントは、限定するものではないが、配列番号2の18位のチロシンのヒスチジンへの置換、配列番号2の261位のアラニンのバリンへの置換、および配列番号2の325位のアルギニンの、トリプトファンまたはグルタミンへの置換を含む。ZnT8の、特に325位の多型バリアントは、本発明において特に興味深いものであり、以下に詳細に議論する。そのような多型を含むタンパク質、バリアント、フラグメント、キメラタンパク質、および融合タンパク質、ならびにこれらをコードするヌクレオチドは、本発明に包含される。
【0079】
図4Aおよび4Bを参照すると、NH2末端およびCOOH末端は膜の同じ側にあると予想される。N末端は、基準配列の場合には長い74aa、選択的開始部位を備えたアイソフォームの場合は25aaである。94aaのCOOH末端は1型糖尿病における主要な体液性免疫の決定基を包含する。このエピトープは完全長の分子に潜在し、最後の15aaの除去によって引き起こされる抗原性への影響が最小であることによって示されるように、aa268〜358に位置する。興味深いことに、これは異なる生物種のZnT輸送体の中で強く保存されている領域である。従って、ZnT8タンパク質(膵臓のβ細胞に特異的)に対して、さらには感染性微生物の相同タンパク質によっても自己反応性が生じることも起こりうる。同様の関係は別の糖尿病自己抗原IA2で観察されている(未公表)。よって、一般的な原則からすれば、同様のZn輸送体を備えた微生物による軽微な感染が引き金となってT1Dにおける自己免疫が生じるかもしれないと仮定することができる。同様に、明らかにされた感染因子エピトープを用いて免疫化することも可能であるかもしれない。第2の比較的弱いエピトープは、保存されていないN末端に位置する。
【0080】
同定されたエピトープは、自己抗原IA2およびGAD65の場合と同じように細胞内部に存在するようである。
図4Bを参照すると、図の上側の短いループ(97〜105位;164〜168位、および239〜252位で表わされる部位を包含する)は、分泌経路の細胞要素の内腔に向かって位置づけられているようである。これは潜在的には小胞体
、ゴルジ、インスリン分泌顆粒および最終的には細胞外液腔を含むことができる。前記ループは、正常な分泌時のインスリン顆粒の正常な細胞外放出の際に、または細胞が何らかのかたちで損傷を受けた場合に、細胞表面上に露出すると思われる。したがって、これらのループに相当するペプチドに対する抗体はZnT8の検出のために本願に包含され、従ってZnT8は、in vivoでβ細胞集団を画像化し、細胞の活性を決定し(分泌が多いことは露出が多いことに相当する)、かつ、幹細胞のような他の供給源からの、また正常な発生における、β細胞の生成を観察するために使用可能なバイオマーカーとしての役割を果たす。細胞生物学的用途のためにマウスZnT8の内腔側ドメイン2の配列(配列番号4の163〜183位、すなわちERLLYPDYQIQAGIMITVSGC)に対して作製された本発明の1つの抗体を提供する。さらに、グルタチオンSトランスフェラーゼとの融合タンパク質としてのヒトのC末端に対する抗体が作製されている(以下を参照)。本明細書に提供する指針を用いて、N末端およびC末端領域の配列に対するその他の抗ペプチド抗体を生産することもできる。抗ホスホペプチド抗体を生成させることもできる。
【0081】
第2の細胞内ドメイン、およびC末端ループには該分子の潜在的リン酸化部位がある。これらの部位のリン酸化が、該分子の細胞内局在化およびZn輸送体としての活性を決定しているということも考えられる。新世代の治療薬はプロテインキナーゼを標的とし、したがって投薬を通じてin vivoでの該タンパク質の活性を調整することができるかもしれない。
【0082】
第3の細胞内ループ(
図4Bにおいて配列番号2の残基196〜215として表示)は、Znおよびその他の重金属との結合において重要と思われるヒスチジン残基に富んでいる(配列番号2の197、203および205位)。これは、該分子が細胞質から分泌経路を構成する膜で包まれたコンパートメントの内腔へとZnを輸送するメカニズムの一部であるということも考えられる。
【0083】
本発明の一実施形態では、ZnT8のフラグメントは、診断方法および治療方法において使用するために、または抗体の生成のために包含される。本発明によれば、ZnT8タンパク質、タンパク質の一部(例えばフラグメント、部分、ドメインなど)、またはタンパク質の領域もしくはエピトープの最小の大きさは、エピトープすなわち抗体生成のための保存された結合表面として、またはin vitroアッセイにおける標的としての役割を果たすのに十分な大きさである。一実施形態では、本発明のタンパク質は、長さが(例えば、抗体エピトープまたはアッセイで検出可能なペプチドとして好適な)少なくとも約4、5、6、7または8アミノ酸であるか、または長さが少なくとも25のアミノ酸、または長さが少なくとも50アミノ酸、または長さが少なくとも100アミノ酸、または長さが少なくとも150アミノ酸などであり、4アミノ酸からZnT8タンパク質もしくはその一部の長さ全体またはより長くまで、全部の整数(例えば8、9、10、...25、26、...300、301、...)の、任意の長さである。好適なヒトZnT8およびその任意の多型を含む、任意の生物種由来のZnT8タンパク質に関して、任意の長さの任意のN末端フラグメント、C末端フラグメント、これらのキメラまたは欠失フラグメントが本発明に包含される。例えば、表1および
図15〜19、21および25は、自己反応性を左右するC末端の残基の同定を含む、ZnT8のエピトープおよびイソエピトープの位置確認に関するさらなる情報について述べている。この情報は、本明細書に記載された診断上、予後判定上および治療上の方法のうちいずれかにおける、ZnT8の様々なフラグメントおよび相同体の設計、生産、および使用を可能にする。
【0084】
上記に議論されるように、
図4Aおよび4Bは、ZnT8タンパク質の予測膜貫通ドメインを示している。これらのドメインは、該ドメインが通常は脂質に囲まれており、そうでない場合には非常に粘質であるため該タンパク質が沈殿するかまたはフォールディング
しないので、アッセイの設計における問題を提起する。そのような領域はT細胞の標的であるかもしれず、従って本発明によるフラグメントでの使用のために包含されるが、該領域は恐らく抗体の標的ではない。完全長の配列は循環血中の抗体に反応を示し、したがって対照者よりも糖尿病患者において反応性が高い。しかしながら、該アッセイは、疾患を最近発症した個体のわずか10〜20%しか検出せず、従って、本発明者らは、別のプローブ、すなわち以下に述べるようなN末端、C末端およびZn結合ループのプローブを提供した。
【0085】
本発明において有用な特に好ましいZnT8タンパク質フラグメントは、ZnT8の任意のN末端またはC末端のフラグメント、特に好ましくはC末端フラグメントである。ZnT8の別の好ましいフラグメントは、ZnT8のN末端およびC末端フラグメントの混合物またはハイブリッド(キメラ)である。ZnT8の特に好ましいフラグメントは、ヒトZnT8のC末端の約110残基からC末端の約8残基までの任意のC末端フラグメントを含むか、該フラグメントでほぼ構成されるか、または該フラグメントで構成される。特に好ましいC末端フラグメントは、ヒトZnT8のC末端の101残基および102残基を含む。
【0086】
本発明の様々な実施形態で使用可能な様々なタンパク質、バリアント、キメラタンパク質およびフラグメントを、以下の表1に例証する。これらのタンパク質、バリアント、キメラタンパク質またはフラグメントのいずれにも、1個、2個またはそれ以上のアミノ酸残基(例えば以下にC末端フラグメントについて示すような、フラグメントのN末端のメチオニン)を追加することができる。さらに、これらの構築物および実施例において提供される情報が用意されれば、当業者は、他の構築物であってさらなるアミノ酸が削除されるもの、キメラのドメインの順序が逆であるもの、または別のキメラタンパク質を生産するために本明細書に記載された2個以上のフラグメントもしくはその一部が組み合わされたもの、を容易に創り出すことができるであろう。
【0087】
【表1】
(配列番号67)
表1に列挙した配列は、患者の自己反応性の様々な特徴を試験し、患者をより正しく判別するか、または反対に汎反応性であるかのいずれかのアッセイを設計するために、本発明者らが設計したものである。以下に列挙したものは、本発明者らが上述の配列を患者の自己反応性(患者の血清試料)に関してどのように分類したかを示している。括弧に入っていない配列について述べる場合は、その配列を含む構築物に対する患者の反応性の同定を示し;括弧内に示す配列は、まだ定義されていない他の特異性の結果と思われる、低い活性または変動的な活性のいずれかを示す。特定の種類の試料に関して配列番号が特定されていない場合は、反応性の欠如を示す。Gln325限定的な反応性の場合、試験した500を超える血清からこれまでわずか1人の患者の血清だけが同定されたので、情報が限られている。
【0088】
・
N末端に反応性の試料:配列番号8、63、64、65
・
Arg325限定的な反応性:配列番号9、10、(11)、(12)、14、15、(16〜21)、(22)、23、(24〜30)、(40)、41、(42)、(43)、44、47、49、(52)、53、54、55、57、60、63、65
・
Trp325限定的な反応性:配列番号(40)、(41)、42、(43)、45、48、51、(52)、55、58、59、60、61、62、64
・
Gln325限定的な反応性:配列番号40、(41)、(42)、50
・
アミノ酸325とは無関係:配列番号9〜16、(17〜21)、22、23、24、(25〜30)、(40、41)、42、(43)、47〜51、(52)、53〜65
本発明はさらに、抗原ペプチドもしくはT細胞エピトープ(主要組織適合性複合体(MHC)結合ペプチドとも呼ばれる)を含むか、該抗原ペプチドもしくはT細胞エピトープからほぼ構成されるか、または抗原ペプチドもしくはT細胞エピトープで構成されるZnT8タンパク質を含む。そのようなペプチドには、MHCペプチド複合体がT細胞受容体(TcR)に結合することが可能なように、好ましい実施形態では従ってT細胞応答(例えば下記に述べる刺激性または寛容性の反応)を誘導するように、MHCタンパク質に結合する能力を有する任意のペプチドが挙げられる。MHC分子に結合し、MHC分子と共にT細胞受容体によって認識されるMHC結合ペプチドは、抗原ペプチドであると考えられる。自然界において、抗原の加水分解によって生じるペプチドは、該抗原のMHCタンパク質への結合に先立って加水分解される。クラスI MHCタンパク質は一般に、細胞の細胞質で活発に合成されたタンパク質に由来する抗原ペプチドを提示する。これに対し、クラスII MHCタンパク質は一般に、細胞のエンドサイトーシス経路に入る外来タンパク質、または小胞体(ER)で合成されたタンパク質のいずれかに由来する抗原ペプチドを提示する。細胞内輸送により、抗原ペプチドがMHCタンパク質と結合するようになることができる。その後、生じたMHC−ペプチド複合体は、細胞の表面へ移動し、そこでTcRと相互作用できるようになる。
【0089】
MHCのペプチド結合溝へのペプチドの結合により、TcRによって認識されるMHC
および/またはペプチドのアミノ酸残基の空間的配置が制御可能となる。そのような空間的制御は、一部にはペプチドとMHCタンパク質との間で形成された水素結合による。好ましくは、T細胞エピトープの長さは約5〜約40アミノ酸残基、より好ましくは約6〜約30アミノ酸残基、さらにより好ましくは約8〜約20アミノ酸残基、およびさらにより好ましくは約9〜11アミノ酸残基であり、長さ5〜40アミノ酸の全ての整数変動値(すなわち5、6、7、8、9...40)を含む任意の大きさのペプチドが含まれる。自然状態でMHCクラスIIに結合するペプチドは約9アミノ酸から40アミノ酸まで様々であるが、ほとんどすべての場合において該ペプチドはMHC結合活性やT細胞認識を失うことなく約9〜11アミノ酸コアに短縮することが可能である。
【0090】
ポリヌクレオチド、タンパク質またはペプチドに関する一般的な定義および実施形態
本発明の実施には、別途記載のないかぎり、当業者に良く知られた従来の分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学および免疫学の技術を使用する。そのような技術は文献に十分に説明されており、該文献は例えば、ガスリー(Guthrie)ら編「Methods of Enzymology」、第194巻、コールドスプリングハーバー研究所出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press)(1990);「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第二版、(サムブルック(Sambrook)ら、1989年)および「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第三版、(サムブルック(Sambrook)および
ラッセル(Russel)、2001年))(本明細書中では合わせて「サムブルック」と呼ぶ);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.オースベル(F. M. Ausubel)ら編、1987年、2001年までの補遺を含む);「PCR: The Polymerase Chain Reaction」(マリス(Mullis)ら編、1994年);ハーロー(Harlow)およびレーン(Lane)、1988年、「Antibodies, A Laboratory Manual」、ニューヨーク所在のコールドスプリングハーバー出版(Cold placePlaceTypeSpring PlaceTypeHarbor Publications);ハーロー(Harlow)およびレーン(Lane)「Using Antibodies: A Laboratory Manual」、ニューヨークコールドスプリングハーバー所在のコールドスプリングハーバー研究
所出版(本明細書中では合わせて「ハーローおよびレーン」と呼ぶ)、ビューケージ(Beaucage)ら編、「Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry」ニューヨーク所在の
ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons, Inc.)、2000年である
。
【0091】
本発明によれば、単離ポリヌクレオチド(単離核酸分子とも呼ぶ)とは、その天然の環境から取り出された(例えば、ヒトに操作された)核酸分子であり、その天然の環境とは自然界において核酸分子が見出されるゲノムまたは染色体である。そういうものとして、「単離(された)」とは、必ずしも核酸分子が精製されている程度を反映するものではなく、該分子が、自然界において核酸分子が見出されるゲノム全体または染色体全体は含んでいないことを示す。本発明において有用なポリヌクレオチドは、典型的には、所与の試料中の完全長の遺伝子(またはその一部)を同定するためのハイブリダイゼーションプローブもしくはPCRプライマーとしての使用に適しているか、またはZnT8タンパク質もしくはそのフラグメントをコードするのに適しているか、または治療薬(例えば、アンチセンスまたはアプタマー)として適切な、本発明の遺伝子の一部(センス鎖または非センス鎖)である。単離核酸分子は、例えばリポーター構築物または組換えタンパク質を生産するための、遺伝子または遺伝子の一部(例えば制御領域またはプロモーター)を含むことができる。遺伝子を含む単離核酸分子は、その遺伝子を含む染色体のフラグメントではなく、該遺伝子に関するコード領域と制御領域とを含むが、天然では同じ染色体上に見られる別の遺伝子は含まない。単離核酸分子は、ある特定の核酸配列であって自然界では通常はその特定の核酸配列に隣接していない追加の核酸(すなわち異種の配列)が隣接している(すなわち配列の5’末端および/または3’末端にある)核酸配列を含むこともできる。単離核酸分子は、DNA、RNA(例えばmRNA)、またはDNAもしくはRNAのいずれかの誘導体(例えばcDNA)を含むことができる。「核酸分子」という語
句は主として物理的な核酸分子を指し、「核酸配列」という語句は主として核酸分子上のヌクレオチドの配列を指すが、2つの語句は、特にタンパク質をコードする能力を有する核酸分子、または核酸配列に関しては、互換的に使用することが可能である。好ましくは、本発明の単離核酸分子は、組換えDNA技術(例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、クローニング)または化学合成を使用して生産される。
【0092】
本発明の核酸分子またはポリヌクレオチドの最小の大きさは、所望の生物学的活性を有するタンパク質をコードするのに十分であるか、天然のタンパク質をコードする核酸分子の相補配列と安定なハイブリッドを(例えば中程度、高度もしくは極めて高度にストリンジェントな条件下で)形成することができるプローブもしくはプライマーオリゴヌクレオチドを形成するのに十分であるか、または他の場合には本明細書中で議論されるアッセイもしくは任意の治療方法において標的もしくは作用物質として使用される大きさである。ポリヌクレオチドがオリゴヌクレオチドのプローブまたはプライマーである場合、ポリヌクレオチドの大きさは、核酸の組成および該核酸分子と相補配列との間の相同性または同一性(%)ならびにハイブリダイゼーション条件そのもの(例えば温度、塩濃度およびホルムアミド濃度)に応じて決めることができる。オリゴヌクレオチドのプローブまたはプライマーとして使用されるポリヌクレオチドの最小の大きさは、少なくとも約5ヌクレオチドの長さ、好ましくは約5〜約50または約500ヌクレオチド以上(1000、2000など)に及び、間の整数値全部(すなわち5、6、7、8、9、10、...33、34、...256、257、...500...1000...)の任意の長さを含み、より好ましくは約10〜約40ヌクレオチド、最も好ましくは約15〜約40ヌクレオチドの長さである。1つの態様では、核酸分子のGC含量が高い場合はオリゴヌクレオチドのプライマーまたはプローブは典型的には少なくとも約12〜約15ヌクレオチドの長さであり、核酸分子のAT含量が高い場合は少なくとも約15〜約18塩基の長さである。本発明の核酸分子は、タンパク質をコードする配列すなわち完全長タンパク質をコードする核酸配列の一部を含むことができるという点で、本発明の核酸分子の最大の大きさには実用上の制限以外に制限はない。
【0093】
本発明によれば、オリゴヌクレオチドプローブ(または単にプローブ)は、最も典型的には長さ約8ヌクレオチド〜数百ヌクレオチドの大きさの核酸分子である。そのような分子は一般に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で標的核酸配列にハイブリダイズすることにより、試料中のそのような標的核酸配列を同定するために使用される。本明細書で使用されるように、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、類似の核酸分子を識別するために核酸分子を使用する標準的ハイブリダイゼーション条件を指す。そのような標準的条件は、例えばサムブルック(Sambrook)らの「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、コールドスプリングハーバー研究所出版(Cold Spring Harbor Labs Press)、1989年に開示されている。サムブルックら(既述)はその全
体が参照により本願に組込まれる(特に第9.31−9.62ページを参照)。さらに、様々な程度のヌクレオチドのミスマッチが可能なハイブリダイゼーションを行うのに適したハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を計算する式は、例えばマインコス(Meinkoth)ら、1984年、Anal. Biochem. 138, 267-284に記載されており;マインコスら(
既述)はその全体が参照により本願に組込まれる。
【0094】
より具体的には、中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件とは、本明細書で述べるように、そのハイブリダイゼーション反応で調べるために使用される核酸分子と少なくとも約70%の核酸配列同一性を有する核酸分子の単離を可能にする条件(すなわち約30%未満のヌクレオチドのミスマッチを許容する条件)を指す。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件とは、本明細書で述べるように、そのハイブリダイゼーション反応で調べるために使用される核酸分子と少なくとも約80%の核酸配列同一性を有する核酸分子の単離を可能にする条件(すなわち約
20%未満のヌクレオチドのミスマッチを許容する条件)を指す。極めて高度にストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件とは、本明細書で述べるように、そのハイブリダイゼーション反応で調べるために使用される核酸分子と少なくとも約90%の核酸配列同一性を有する核酸分子の単離を可能にする条件(すなわち約10%未満のヌクレオチドのミスマッチを許容する条件)を指す。上記に議論されるように、当業者はマインコスら(既述)の式を使用して、これら特定のレベルのヌクレオチド・ミスマッチを実現するための適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を計算することができる。そのような条件は、DNA:RNAハイブリッドが形成されるか、またはDNA:DNAハイブリッドが形成されるかによって変わることになる。DNA:DNAハイブリッドについて計算される融解温度はDNA:RNAハイブリッドよりも10℃低い。特定の実施形態では、DNA:DNAハイブリッドのためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、6×SSC(0.9M Na
+)のイオン強度で、温度が約20℃〜約35℃(低ストリンジェント)、より好ましくは約28℃〜約40℃(よりストリンジェント)、さらにより好ましくは約35℃〜約45℃(さらによりストリンジェント)で、適切な洗浄条件を備えたハイブリダイゼーションを含む。特定の実施形態では、DNA:RNAハイブリッドのためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、6×SSC(0.9M Na
+)のイオン強度で、温度が約30℃〜約45℃、より好ましくは、約38℃〜約50℃、さらにより好ましくは約45℃〜約55℃で、同様にストリンジェントな洗浄条件を備えたハイブリダイゼーションを含む。これらの値は、約100ヌクレオチドより大きく、0%のホルムアミドで約40%のG+C含量の分子に関する融解温度の計算に基づいている。別例として、サムブルックら(上述)の第9.31〜9.62ページに述べられているようにして実験的にTmを計算することもできる。一般に、洗浄条件は可能な限りストリンジェントであるべきであり、選ばれたハイブリダイゼーション条件に対して適切でなければならない。例えば、ハイブリダイゼーション条件は、特定のハイブリッドのTm計算値よりもおよそ20〜25℃低い温度および塩の条件の組み合わせを含むことが可能であり、洗浄条件は一般に、特定のハイブリッドのTm計算値よりおよそ12〜20℃低い温度および塩の条件の組み合わせを含む。DNA:DNAハイブリッドとともに使用するのに適したハイブリダイゼーション条件の一例は、6×SSC(50%ホルムアミド)中にて約42℃で2〜24時間のハイブリダイゼーション、続いて、約2×SSC中にて室温で1回以上の洗浄とその後のさらに高温かつ低イオン強度の追加洗浄(例えば、約0.1×〜0.5×SSC中にて37℃で少なくとも1回の洗浄とその後の約0.1×〜0.5×SSC中にて約68℃で少なくとも1回の洗浄)を含む洗浄ステップを含む。
【0095】
PCRプライマーも核酸配列であるが、PCRプライマーは典型的にはポリメラーゼ連鎖反応において使用されるかなり短い長さのオリゴヌクレオチドである。PCRプライマーおよびハイブリダイゼーションプローブは、標的配列からの配列情報を使用して、当業者が容易に開発および生産することができる。(例えば、サムブルックら(上述)、またはグリック(Glick)およびパステルナーク(Pasternak)、「Molecular Biotechnology
」第二版、ワシントンD.C.所在のASMプレス、1998年、pp.555−590を参照)。
【0096】
本発明の特定の核酸分子の核酸配列を知ることにより、当業者は、例えば(a)それらの核酸分子のコピーの作製および/または(b)そのような核酸分子(例えば完全長の遺伝子、完全長のコード領域、調節管理配列、短縮されたコード領域を含む核酸分子)の少なくとも一部を含む核酸分子の取得が可能となる。そのような核酸分子は、適切なライブラリもしくはDNAをスクリーニングするためのオリゴヌクレオチドプローブを使用する従来のクローニング技法、またはオリゴヌクレオチドプライマーを使用する適切なライブラリもしくはDNAのPCR増幅を含む、様々な方法で得ることができる。スクリーニングまたは核酸分子増幅のための好ましいライブラリには、哺乳類のゲノムDNAライブラ
リが挙げられる。遺伝子をクローニングおよび増幅する技術は、例えばサムブルックら(既述)に開示されている。
【0097】
本明細書で使用されるように、アンチセンス核酸分子とは、高度にストリンジェントな条件下でタンパク質をコードする遺伝子にハイブリダイズすることにより、該タンパク質の発現を低減する単離核酸分子として定義される。そのような核酸分子は、該タンパク質をコードする遺伝子に十分に類似しているので、高度にストリンジェントな条件下で天然タンパク質をコードする遺伝子またはRNAのコーディング鎖または相補鎖にハイブリダイズすることが可能である。
【0098】
RNA干渉(RNAi)とは、相補的な遺伝子の発現を阻害すなわちサイレンシングするために、二本鎖RNA(哺乳類の系では短い干渉RNA(siRNA))が使用されるプロセスである。標的細胞内において、siRNAはほどけてRNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)と会合し、次いでRISCがsiRNAに相補的なmRNA配列へ導かれることによって、RISCが該mRNAを切断する。
【0099】
リボザイムは、標的RNA成分に結合することにより機能するRNAセグメントであり、特定の切断部位でリン酸ジエステルバックボーンを切断することにより標的RNA成分を不活性化する。リボザイムは核酸分子用の標的指向性送達手段として機能することが可能であり、または別例として、リボザイムはバイオマーカーをコードするRNAを標的として該RNAに結合することにより、例えば該バイオマーカーの翻訳を有効に抑制することができる。
【0100】
アプタマーは、高い親和性および特異性で所定の特定の標的分子に結合する能力により、ランダムなコンビナトリアル核酸ライブラリから選択された、短鎖合成核酸(通常はRNAであるがDNAの場合もある)である。アプタマーは明確な三次元構造をとり、非常に小さな構造上の違いを有する化合物を区別することができる。
【0101】
組換え核酸分子とは、ZnT8タンパク質または本明細書に記載されたその他のタンパク質をコードする任意の核酸配列のうち少なくとも1つを含むことができる分子である。一実施形態では、組換え核酸分子は、宿主細胞での核酸分子の発現を有効に制御することができる少なくとも1つの発現調節配列に作動可能なように連結される。組換え核酸分子は組換えDNA技術(例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、クローニング)を使用して生産されることが好ましい。組換え核酸分子は組換えベクターを含み、該組換えベクターは任意の核酸配列、典型的には異種配列であって、タンパク質(例えばZnT8)をコードする単離核酸分子に作動可能なように連結され、該タンパク質の組換え生産を実現することができるか、または本発明に従ってin vitro、ex vivo、もしくはin vivoで宿主細胞に該核酸分子を送達することができる。そのようなベクターは、該ベクターに挿入される単離核酸分子に自然界では隣接していない核酸配列を含むことができる。ベクターはRNAまたはDNAのいずれでもよく、原核生物または真核生物のいずれのものでもよく、本発明においてはウイルスまたはプラスミドであることが好ましい。組換えベクターは、クローニング、配列決定、および/またはその他の核酸分子の操作において使用することができる。組換えベクターは、核酸分子の発現において使用されることが好ましく、発現ベクターと呼ぶこともできる。好ましい組換えベクターは、トランスフェクションされた宿主細胞内で、特に、トランスフェクションされた哺乳類の宿主細胞においてin vivoで、発現可能である。
【0102】
本発明の組換え分子においては、核酸分子は、転写調節配列、翻訳調節配列、複製開始点、および宿主細胞に適合しかつ本発明の核酸分子の発現を制御するその他の調節配列のような調節配列を含む発現ベクターに作動可能なように連結される。「作動可能なように
連結」という語句は、核酸分子が宿主細胞にトランスフェクション(すなわち形質転換、形質導入、またはトランスフェクション)されたときに発現するようなかたちで該核酸分子を発現調節配列に連結することを指す。
【0103】
転写調節配列は、転写の開始、伸長および停止を制御する配列である。特に重要な転写調節配列は、プロモーター、エンハンサー、オペレーターおよびリプレッサー配列のような転写開始を制御するものである。適切な転写調節配列には、本発明に従って宿主細胞内で機能することができる任意の転写調節配列が含まれる。様々な適切な転写調節配列が当業者に知られている。特に好ましい転写調節配列には、誘導型プロモーター、細胞特異的プロモーター、組織特異的プロモーター(例えばインスリンプロモーター)およびエンハンサーが挙げられる。本発明の転写調節配列は、単離される前の、発現させようとするタンパク質に自然界で関係している天然に存在する転写調節配列を含むこともできる。一実施形態では、転写調節配列は誘導型プロモーターを含む。
【0104】
本発明の組換え核酸分子に有用な組換えベクターの1つのタイプは、組換えウイルスベクターである。そのようなベクターは、動物体内で、または投与後にex vivoで宿主細胞内にて発現可能なウイルス外被にパッケージされる本発明のZnT8タンパク質をコードする組換え核酸配列を含んでいる。いくつかの組換えのウイルスベクター、例えば、限定するものではないが、アルファウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルスおよびレトロウイルスに基づいたウイルスベクターを使用することができる。特に好ましいウイルスベクターはアデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスに基づいたものである。遺伝子送達に適したウイルスベクターは当分野において良く知られており、本発明で使用するために当業者が選択することができる。現行のウイルスベクターについての詳細な議論は、グリック(Glick)および
パステルナーク(Pasternak)、「Molecular Biotechnology」第二版、ワシントンD.C.所在のASMプレス、1998年、pp.555−590(全体が参照により本願に組込まれる)に提供されている。
【0105】
本発明による組換え核酸分子を用いてトランスフェクションするのに適した宿主細胞には、トランスフェクション可能な任意の微生物、昆虫、または動物細胞が挙げられる。宿主細胞は、トランスフェクションされていない細胞、または少なくとも1つの核酸分子で既にトランスフェクションされている細胞のいずれでもよい。
【0106】
本発明によれば、用語「トランスフェクション」は、外来の核酸分子(すなわち組換え核酸分子)を細胞内に挿入することができる任意の方法を指すために使用される。用語「形質転換」は、その用語が細菌および酵母のような微生物細胞内に核酸分子を導入することを指すために使用される場合には、用語「トランスフェクション」と互換的に使用することができる。微生物の系においては、用語「形質転換」は、微生物が外来の核酸を獲得することによる遺伝性の変化について述べるために使用され、用語「トランスフェクション」と本質的に同義である。しかしながら、動物細胞では、形質転換には、例えば細胞ががんになった後の培養物中の細胞の増殖特性の変化を指すことができる別の意味が獲得されている。したがって、混乱を回避するために、用語「トランスフェクション」を動物細胞内への外来の核酸の導入に関して使用することが好ましく、また用語「トランスフェクション」は本明細書において、一般に動物細胞のトランスフェクションおよび微生物細胞の形質転換の両方を包含するように、該用語が細胞内への外来の核酸の導入に関係するという程度で使用されることになる。したがって、トランスフェクション技術には、限定するものではないが、形質転換、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、吸着、感染およびプロトプラスト融合が含まれる。
【0107】
本明細書で使用されるように、ZnT8タンパク質などの本発明における単離タンパク
質またはポリペプチドを言う場合は、その自然界における環境から取り出されている(すなわち人為操作を受けている)タンパク質であり、完全長のタンパク質、融合タンパク質もしくはキメラタンパク質、またはそのようなタンパク質の任意のフラグメントもしくは相同体が含まれる。そのようなタンパク質には、限定するものではないが、精製タンパク質、部分精製タンパク質、組換え生産されたタンパク質、合成的に生産されたタンパク質、膜に結合したタンパク質、脂質と複合体化したタンパク質、可溶性タンパク質、および他のタンパク質と会合した単離タンパク質が挙げられる。そのため、「単離(された)」とは、タンパク質が精製済みであるという程度を反映するものではない。本発明の単離タンパク質は組換え生産されることが好ましい。さらに、ここでも例として、「ヒトZnT8タンパク質」またはヒトZnT8タンパク質に「由来する」タンパク質とは、ヒト(ホモ・サピエンス)から得たZnT8タンパク質(天然に存在するZnT8タンパク質の相同体を一般に含む)、またはホモ・サピエンスから得られる天然に存在するZnT8タンパク質の構造(例えば配列)および恐らくは機能についての知識から別の方法で生産されたZnT8タンパク質を指す。言いかえれば、ヒトZnT8タンパク質には、ホモ・サピエンスから得られる天然に存在するZnT8タンパク質と本質的に同様の構造および機能を有するか、または本明細書中で詳細に述べるようなホモ・サピエンスから得られる天然に存在するZnT8タンパク質の生物学的に活性な(すなわち生物学的活性を有する)相同体である、任意のZnT8タンパク質が含まれる。そのため、ヒトZnT8タンパク質は、精製タンパク質、部分精製タンパク質、組換えタンパク質、突然変異/修飾タンパク質、および合成タンパク質を含むことができる。本発明によれば、用語「修飾」および「突然変異」は、特に本明細書に記述されたタンパク質のアミノ酸配列(または核酸配列)に対する修飾/突然変異に関しては、互換的に使用することができる。本発明によるアンタゴニストまたはアゴニストとして有用な単離タンパク質は、その天然供給源から単離されてもよいし、組換え生産または合成的に生産されてもよい。
【0108】
融合タンパク質およびキメラタンパク質も本発明に包含される。融合タンパク質は本発明のタンパク質またはペプチド(例えば、ZnT8またはそのバリアントもしくはフラグメント)を、融合パートナー(融合セグメント)に連結する(典型的には組換えによるが、化学的連結またはその他の種類の連結も本発明に包含される)ことにより生産されたタンパク質である。本発明とともに使用するのに適した融合パートナーには、限定するものではないが、タンパク質の安定性を増強すること;宿主細胞からのタンパク質の分泌を増強もしくは可能にすること;他の生物学的活性を提供すること;または宿主細胞からのタンパク質の精製(例えば親和性クロマトグラフィによる精製)を支援すること、のうち少なくともいずれか1つが可能である融合パートナーが挙げられる。適切な融合パートナーは、所望の機能を有する(例えば、安定性、溶解度、作用もしくは活性を増大させる;他の活性を提供する;かつ/またはタンパク質の精製を簡易化する)タンパク質またはそのドメインもしくは任意の大きさのフラグメントであってよい。融合パートナーは、対象とするタンパク質(例えばZnT8)のアミノ末端またはカルボキシル末端のうち少なくともいずれか一方に連結させることが可能であり、発現された外来タンパク質の簡単な回収を可能にするために切断を受けやすくてもよい。キメラタンパク質は融合タンパク質に似ており、これら用語は互換的に使用可能であるが、ただしキメラタンパク質の場合、融合パートナーは最も典型的には所望の生物学的活性を備えた第2のタンパク質のような、第2の対象タンパク質(またはそのフラグメント)である。従って、キメラタンパク質はタンパク質/ペプチド構成成分の各々の/両方の活性を有することもできるし、タンパク質ドメインの組み合わせに起因する新たな活性を有することもできる。
【0109】
1つの好ましい実施形態では、タンパク質(ペプチドおよび相同体を含む)は、網状赤血球溶解液、コムギ麦芽、酵母および細菌を用いる系のようなin vitroの翻訳系を使用して生産される。該翻訳系は、タンパク質を例えばタンパク質分解および/またはグリコシル化によって正確に翻訳後修飾することが好ましい。in vitro翻訳系の
産物は本発明の方法において最も典型的に使用されるが、本発明はそのような産物に限定されない。
【0110】
本明細書で使用されるように、用語「相同体」または「バリアント」は、天然に存在するタンパク質またはペプチド(すなわち「原型」または「野生型」タンパク質)に対する軽微な修飾により、天然に存在するタンパク質またはペプチドとは異なっているが、天然に存在する形態の基本的なタンパク質および側鎖の構造を維持しているタンパク質またはペプチドを指すために使用される。そのような変化には、限定するものではないが、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくはさらに若干のアミノ酸側鎖の変化;1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくはさらに若干のアミノ酸の、欠失(例えば該タンパク質もしくはペプチドの短縮型)、挿入もしくは置換のうち少なくともいずれかの変化;1個もしくは数個の原子の立体化学的変化;かつ/または軽微な誘導体化、例えば、限定するものではないが:メチル化、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、プレニル化、パルミチン酸化(palmitation)、アミド化および/もしくはグ
リコシルホスファチジルイノシトールの付加、が挙げられる。相同体は、天然に存在するタンパク質またはペプチドと比較して増強された、低下した、またはほぼ同様の特性を有することができる。相同体は、タンパク質のアゴニストまたはタンパク質のアンタゴニストを含むこともできる。
【0111】
相同体は、天然の対立遺伝子性の変異または遺伝的多型の結果であってもよいし、何らかの自然突然変異であってもよい。タンパク質をコードする核酸の、天然に存在する対立遺伝子性のバリアントまたは遺伝的多型とは、そのタンパク質をコードしている遺伝子と本質的にゲノム中の同じ遺伝子座(または複数の遺伝子座)に生じるが、天然の変異が原因で、類似しているが同一ではない配列を有する遺伝子である。対立遺伝子性のバリアントは、典型的には、該バリアントと比較されている遺伝子によってコードされるタンパク質の活性と同様の活性を有するタンパク質をコードする。一塩基多型(SNP)は、ゲノム中の単一ヌクレオチドがある生物種のメンバーの間で、または個体内で対をなした染色体の間で異なっている場合に生じるDNA塩基配列変異である。ヒト集団の間の変動により、1つの地理的グループまたは人種グループにおいて一般的なSNP対立遺伝子が、別のグループにおいては極めて珍しいこともある。さらに、ヒトのDNA塩基配列における変動は、ヒトがどのように疾患を発症し、病原体、化学物質、薬物、ワクチンおよびその他の作用物質にどのように応答するかに影響する場合があり、このことはZnT8遺伝子に生じる多型性に対する自己抗体反応によって本明細書で例証されている。
【0112】
1つの種類の対立遺伝子性バリアントは、同じタンパク質をコードするが遺伝子コードの縮重により異なる核酸配列を有することができる。対立遺伝子性バリアントは、遺伝子の5’または3’非翻訳領域における(例えば調節管理領域における)変化を含むこともできる。対立遺伝子性のバリアントは当業者によく知られている。
【0113】
相同体は、タンパク質を生産するための当分野で既知の技術、例えば、限定するものではないが、単離された天然に存在するタンパク質の直接的修飾、直接的タンパク質合成、またはタンパク質をコードする核酸配列の、例えばランダム突然変異誘発もしくは標的遺伝子突然変異誘発を行うための古典的技術もしくは組換DNA技術を使用する修飾を用いて、生産することができる。
【0114】
本発明によれば、単離タンパク質(その生物学的に活性な相同体またはフラグメントを含む)は、野生型すなわち天然に存在する基準のタンパク質の生物学的活性の少なくとも1つの特徴(相同体もしくはフラグメントが該タンパク質のアゴニストであるかアンタゴニストであるか、または該タンパク質のアゴニストミメティックについて述べているかアンタゴニストミメティックについて述べているかに依存して変わりうる)を有する。概し
て、タンパク質の生物学的活性または生物作用とは、in vivo(すなわち該タンパク質の天然の生理的環境下)またはin vitro(すなわち実験室条件下)で計測または観察されるような、該タンパク質の天然に存在する形態に起因する、該タンパク質が発揮もしくは遂行する任意の機能を指す。
【0115】
本発明のZnT8タンパク質の生物学的活性は、細胞から亜鉛を運び出すこと、または細胞内コンパートメント内へ亜鉛を輸送することを含む。より具体的には、本発明によるZnT8の生物学的活性は、膵島β細胞の細胞内小胞の中へ細胞質の亜鉛を移動させることを含む。本発明において有用なZnT8の他の生物活性には、ZnT8に対する、細胞性および体液性の両方の免疫応答を含む免疫応答の誘導、ならびにアッセイにおいて結合作用物質により認識される(例えば、ZnT8特異的な結合作用物質によって認識可能な一次構造もしくは三次構造または立体構造エピトープを形成する)能力が挙げられる。
【0116】
タンパク質発現の低下またはタンパク質の活性低下をもたらす修飾、活性または相互作用は、タンパク質の不活性化(全面的または部分的)、ダウンレギュレーション、作用低下、または作用もしくは活性の減少と称することができる。同様に、タンパク質発現の増大またはタンパク質の活性上昇をもたらす修飾、活性または相互作用は、タンパク質の増幅、過剰生産、活性化、増強、アップレギュレーションまたは作用増大と称することができる。本発明によるタンパク質、特にZnT8タンパク質の生物学的活性は、当分野で知られているようなタンパク質の生物活性のための任意のアッセイを使用して測定または評価することができる。そのようなアッセイとしては、限定するものではないが、結合アッセイ(様々な免疫学的アッセイを含む)、タンパク質および/もしくは関連タンパク質の内在化もしくは局在化を測定するためのアッセイ、亜鉛輸送アッセイ(例えば、キミエンティら、2004, Diabetes(上述)に記載されているジンクイン(zinquin)アッセイを参
照)、またはタンパク質の活性に起因する下流の細胞内事象を測定するためのアッセイを挙げることができる。
【0117】
本明細書で使用されるように、別段の定めがない限り、同一性(%)について述べる場合は、(1)標準初期設定パラメータを用いた、アミノ酸検索にはblastp、核酸の検索にはblastnを使用するBLAST2.0 Basic BLASTホモロジー検索であって、検索配列には初期設定により低複雑領域のフィルタリングを行うもの(参照により全体が本願に組み込まれるアルトシュル、S.F.(Altschul, S.F.)、マッデン、T.L.(Madden, T.L.)、シェーファー、A.A.(Schaeaeffer, A.A.)、チャ
ン、J.(Zhang, J.)、チャン、Z.(Zhang, Z.)、ミラー、W.(Miller, W.)およびリプマン、D.J.(Lipman, D.J.)、(1997)「Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs.」、Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載されている);(2)BLAST 2アラインメント(後述のパラメータを使用);(3)および/または標準初期設定パラメータを用いたPSI−BLAST(Position−Specific Iterated BLAST)、を使用して行なわれる相同性の評価を指す。注意すべきことは、BLAST 2.0 Basic BLASTおよびBLAST 2の間で標準パラメータの若干の差があることから、BLAST 2プログラムを使用すると2つの特定の配列が顕著な相同性を有するものと認識される一方で、検索配列として該配列のうちの1つを使用してBLAST 2.0 Basic BLASTで実施された検索ではもう1つの配列が上位ヒットにならないこともありうることである。さらに、PSI−BLASTは、配列相同体を見つけるための高感度な方法である、自動で使いやすい形式の「プロファイル」検索を提供している。該プログラムは最初にギャップを考慮したBLASTデータベース検索を行なう。PSI−BLASTプログラムは、得られたあらゆる有意なアラインメントからの情報を使用して位置特異的スコア行列を構築し、これを次に行うデータベース探索のための検索配列とする。したがって、当然ながらこれらのプログラムのうちいずれかを使用して同一性(%)を決定
することができる。
【0118】
2つの特定の配列を、タツソバ(Tatusova)およびマッデン(Madden)、(1999)、「Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences」、FEMS Microbiol Lett. 174:247-250(全体が参照により本願に組み込まれる)に記
載されているように、BLAST 2 sequenceを使用して互いにアラインメントすることができる。BLAST 2の配列アラインメントは、アラインメント結果にギャップ(欠失および挿入)が入ることを可能にする2配列間のGapped BLAST検索(BLAST 2.0)を行なうために、BLAST 2.0アルゴリズムを使用してblastpまたはblastnで実施する。本明細書において明確にするために、BLAST 2配列アラインメントは以下のような標準初期設定パラメータ、すなわち:
blastnについては、0 BLOSUM62行列を使用:
Reward for match = 1
Penalty for mismatch = -2
Open gap (5) and extension gap (2) penalties
gap x dropoff (50)
expect (10) word size (11) filter (on)
blastpについては、0 BLOSUM62行列を使用:
Open gap (11) and extension gap (1) penalties
gap x dropoff (50)
expect (10) word size (3) filter (on)
を使用して実施する。
【0119】
本明細書で使用されるように、所与のタンパク質の「アゴニスト」について述べる場合は、天然に存在するタンパク質の生物学的活性をアゴナイズする(例えば、刺激する、誘導する、増大させる、増強する、もしくは模倣する)能力を特徴とする任意の化合物を指し、任意の相同体、結合タンパク質(例えば抗体)、タンパク質もしくはタンパク質が結合した受容体と相互作用する作用物質、または天然に存在するタンパク質の生物学的活性を、基準タンパク質である天然のアゴニストと同様の方法でアゴナイズする(例えば、刺激する、誘導する、増大させる、増強する)能力を特徴とする薬物/化合物/ペプチドを設計もしくは選択した結果得られる任意の適切な産物を挙げることができる。
【0120】
同様に、「アンタゴニスト」について述べる場合は、上述のような所与のタンパク質のアゴニスト(該タンパク質自体を含む)の作用を阻害する(例えば、拮抗する、低下させる、低減する、遮断する、逆行させる、変更する)任意の化合物を指す。より具体的には、アンタゴニストは、タンパク質の活性に関して、天然のアゴニストまたは基準のタンパク質の生物学的活性が、該タンパク質の天然の作用に対して拮抗的である(例えば、対立する、逆作用である、反対である)ようなかたちで低減されるように作用することができる。そのようなアンタゴニストには、限定するものではないが、タンパク質、ペプチド、もしくは核酸(リボザイム、RNAi、アプタマーおよびアンチセンスを含む)、抗体および抗体の抗原結合フラグメント、または拮抗的な作用をもたらす薬物/化合物/ペプチドを設計もしくは選択した結果得られる産物が挙げられる。
【0121】
ペプチドおよび非ペプチドのアゴニストおよびアンタゴニスト(アナログ)を含む、ZnT8のような所与のタンパク質の相同体は、薬物の設計または選択の結果得られる産物であってもよく、当分野で既知の様々な方法を使用して生産することができる。そのような相同体をミメティックと呼ぶことができる。本発明においてミメティックまたはその他の治療用化合物を設計または選択するために有用な、様々な薬物設計の方法は、モーリク(Maulik)ら、1997年、「Molecular Biotechnology: Therapeutic Applications and Strategies」、ワイリーリス・インコーポレイテッド(Wiley-Liss, Inc.)に開示されており、同文献の全容は参照により本願に組み込まれる。
【0122】
本明細書で使用されるように、ミメティックとは、天然に存在するペプチドの生物学的作用を模倣することができる任意のペプチドまたは非ペプチド化合物を指し、模倣できる理由は多くの場合、ミメティックが天然に存在するペプチドの基本構造を模倣している基本構造を有するか、または天然に存在するペプチドの顕著な生物学的特性を有するかのうち少なくともいずれかであることである。ミメティックとしては、限定するものではないが、天然に存在するペプチドとの側鎖の類似点がないような、原型に対して多大な修飾(そのような修飾は、例えば、天然に存在するペプチドの分解感受性を低減することができる)を有するペプチド;抗イディオタイプ抗体もしくは触媒抗体のうち少なくともいずれか一方、もしくはこれらのフラグメント;単離タンパク質の非タンパク質部分(例えば炭水化物構造);または、合成もしくは天然の有機分子、例えば核酸およびコンビナトリアル・ケミストリーによって同定された薬物など、が挙げられる。そのようなミメティックは、当分野で既知の様々な方法を使用して、設計し、選択し、かつ/または他の方法で同定することができる。
【0123】
ミメティックは、分子多様性戦略(化学的に多様な大きな分子ライブラリの迅速な構築を可能にする関連戦略の組み合わせ)の、天然化合物もしくは合成化合物ライブラリから、具体的にはケミカルライブラリもしくはコンビナトリアルライブラリ(すなわち、配列または大きさは異なるが同様のビルディングブロックを有する化合物のライブラリ)から、または合理的、指向的、もしくは無作為な薬物設計によって、得ることができる。例えば、モーリク(Maulik)ら(上述)を参照されたい。
【0124】
分子多様性戦略では、例えばペプチド、オリゴヌクレオチド、炭水化物または合成有機分子のうち少なくともいずれか1つから、生物学的、酵素的かつ/または化学的手法を用いて大きな化合物ライブラリが合成される。分子多様性戦略の展開における重大なパラメータには、サブユニットの多様性、分子の大きさおよびライブラリの多様性が挙げられる。そのようなライブラリをスクリーニングするという普遍的目標は、組み合わせ的選択を順次適用することにより所望の標的に対する高親和性のリガンドを得ること、次いで無作為な設計戦略または指向的な設計戦略のいずれかによりリード分子を最適化することである。分子多様性の方法は、モーリク(Maulik)ら(既述)に詳細に述べられている。
【0125】
合理的な薬物設計手法では、調節化合物の三次元構造を、例えば核磁気共鳴(NMR)またはX線結晶解析によって分析することができる。その後、この三次元構造を使用して、例えばコンピュータ・モデリングにより、潜在的な調節作用物質など、潜在性を有する化合物の構造を予測することができる。予測された化合物構造は、例えば分子多様性の方法により、導かれたリード化合物を最適化するために使用することができる。さらに、予測された化合物構造を、例えば化学合成、組換えDNA技術、または天然供給源(例えば植物、動物、細菌および真菌)からミメトープ(mimetope)の単離によって作り出すことができる。
【0126】
モーリク(Maulik)らはさらに、例えば、適切に選択されたフラグメントのフラグメントライブラリから新規な分子を創出する過程をユーザが指定する指向的な設計方法;ユーザがフラグメントおよびその組み合わせを無作為に突然変異させるための遺伝的またはその他のアルゴリズムを使用する一方で候補リガンドの適性を評価するための選択基準を同時に適用するランダム設計;ならびに、ユーザが受容体の三次元構造と小さなフラグメントプローブとの間の相互作用エネルギーを計算し、続いて有望なプローブ部位を合わせて連結するグリッドベースの手法、も開示されている。
【0127】
本発明の抗体および抗原結合性のパートナー
さらに本発明に含まれるのは、ZnT8に選択的に結合する抗体およびその抗原結合フラグメント、ならびに本明細書に記載の方法のいずれかにおけるそのような抗体および抗
原結合フラグメントの使用である。タンパク質に選択的に結合する抗体は、該タンパク質について利用可能な構造上の情報(例えば該タンパク質の少なくとも一部のアミノ酸配列)を使用して作り出すことができる。本明細書で使用されるように、用語「〜に選択的に結合する」とは、あるタンパク質が別のタンパク質に(例えば抗体、抗体フラグメント、または結合パートナーが抗原に)特異的に結合することを指し、その結合のレベル(任意の標準的アッセイ(例えばイムノアッセイ)によって測定されるもの)は、該アッセイのバックグラウンド対照よりも統計的に有意に高い。例えば、イムノアッセイを実施する場合、対照は典型的には抗体または抗原結合フラグメントのみが入った(すなわち抗原が存在しない)反応用ウェル/チューブであって、抗原が存在しない状態での抗体またはその抗原結合フラグメントによる反応量(例えばウェルへの非特異的結合)がバックグラウンドとみなされる。結合は、当分野において標準的な様々な方法、例えば、限定するものではないが、ウェスタンブロット法、イムノブロット法、酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫沈降、表面プラズモン共鳴、化学発光、蛍光偏光法、リン光法、免疫組織化学分析法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法、マイクロサイトメトリー法、マイクロアレイ法、顕微鏡検査法、蛍光活性化細胞分類(FACS)、およびフローサイトメトリー法を使用して測定することができる。
【0128】
本発明によれば、所与のタンパク質もしくはペプチド、または他の分子の「エピトープ」は、一般に、抗体に関して、抗体またはその抗原結合フラグメントが結合対象の、かつ抗体が生産される対象の、より大きな分子の一部または該分子上の部位として定義される。エピトープという用語は、所与のタンパク質すなわち抗原の「抗原決定基」、「抗体結合部位」、または「保存された結合表面」という用語と互換的に使用することができる。より具体的には、エピトープは、抗体の結合に関与するアミノ酸残基、および三次元空間における該残基の立体配座(例えば立体配座依存型エピトープまたは保存された結合表面)の両方によっても定義することができる。エピトープは、アミノ酸残基約4〜6個ほどのペプチドに包含されてもよいし、より大きなタンパク質セグメントに包含されてもよく、特に抗体に結合するエピトープに関してエピトープの三次元構造に言及する場合、連続したアミノ酸残基で構成される必要はない。抗体に結合するエピトープは、連続的なエピトープ(すなわち線状エピトープ)よりはむしろ立体配座依存型エピトープ、言いかえれば、抗体が結合するタンパク質またはポリペプチドの表面上で三次元的に配置されたアミノ酸残基によって規定されたエピトープであることが多い。上述のように、立体配座依存型エピトープはアミノ酸残基の連続配列で構成されるのではなく、その代わりに該残基は恐らくタンパク質一次配列中で大きく離れており、該タンパク質がフォールディングして固有の三次元立体配座となる方式で寄せ集められて結合表面を形成する。従って、本発明は、ZnT8エピトープを含むかまたはZnT8エピトープで構成される任意のタンパク質またはペプチド、ならびにZnT8タンパク質の任意のエピトープに結合する抗体、抗原結合フラグメント、またはその他の結合性パートナー(結合性ペプチド)を含む。
【0129】
「イソエピトープ」は、本発明によれば、多型による異なるアミノ酸部位を含むエピトープのような、バリアント型またはアイソフォーム(天然のものでも合成設計によるものでもよい)の状態で存在するエピトープである。イソエピトープの一例は、本明細書中では、1つのイソエピトープは325位にアルギニンを含み、その位置に2つの他のバリアント(Trp325およびGln325)が天然に存在するZnT8の325位を含むエピトープについて記載されている。これらの3つのバリアントはイソエピトープである。
【0130】
当業者は、既知の技術、例えば突然変異分析(例えば部位特異的変異誘発);タンパク質分解からの保護(タンパク質フットプリント法);例えば合成ペプチドとペプスキャン(pepscan)法、BIACORE、もしくはELISAとを使用するミモトープ分析;抗
体競合によるマッピング;コンビナトリアルペプチドライブラリのスクリーニング;マト
リックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法;または3次元モデリング(例えば、任意の適切なソフトウェア・プログラムであって限定するものではないがMOLSCRIPT 2.0(アバターソフトウェアAB(Avatar Software AB)、スウェーデン国ストックホルムSE 11731、ヘレネボルグスガータン(Heleneborgsgatan)21C所在)、グラフ表示プログラムO(ジョーンズ(Jones)ら
、Acta Crystallography, vol. A47, p. 110, 1991)、グラフ表示プログラムGRASP、またはグラフ表示プログラムINSIGHT)などを使用して、立体配座依存型エピトープおよび/または連続性エピトープを同定かつ/または組み立てることができる。例えば、分子の置換またはその他の技法および関連タンパク質の既知の三次元構造を使用して、ZnT8の三次元構造をモデル化し、かつこの構造に結合する抗体の立体配座依存型エピトープを予測することができる。実際に、そのような技法の1つまたは任意の組み合わせを使用して抗体結合エピトープを明らかにすることができる。
【0131】
本発明において有用な抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、二価および一価抗体、二重特異性または多重特異性の抗体、そのような抗体を含む血清、様々な程度に精製された抗体、ならびに完全な抗体の任意の機能的相当物を挙げることができる。本発明の単離抗体には、そのような抗体を含む血清、または様々な程度に精製された抗体が含まれうる。別例として、完全な抗体の機能的相当物、例えば1つ以上の抗体ドメインが短縮されているかもしくは存在しない抗原結合フラグメント(例えばFv、Fab、Fab’、もしくはF(ab)
2フラグメント)、ならびに遺伝子組換え型の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、例えば単鎖抗体もしくは2以上のエピトープに結合することができる抗体(例えば二重特異性抗体)、または1以上の異なる抗原に結合することができる抗体(例えば二重特異性または多重特異性の抗体)も、本発明において使用することができる。
【0132】
遺伝子組換え型の抗体には、抗体の可変領域または定常領域のうち少なくともいずれか一方をコードするDNAの操作および再発現を伴う標準的な組換DNA技術によって生産されたものが含まれる。特定の例としては、抗体のV
Hドメインおよび/またはV
Lドメインが抗体の残りの部分とは異なる供給源由来であるキメラ抗体、ならびに、少なくとも1つのCDR配列および場合によっては少なくとも1つの可変領域構成アミノ酸が1つの供給源に由来し、可変領域の残りの部分および定常領域(必要に応じて)は異なる供給源に由来するCDR移植抗体(およびその抗原結合フラグメント)が挙げられる。キメラ抗体およびCDR移植抗体の構築については、例えば欧州特許出願公開第EP−A 0194276号、同第EP−A 0239400号、同第EP−A 0451216号および同第EP−A 0460617号に記載されている。
【0133】
一般に、抗体の生産においては、例えば、限定するものではないが、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、マウス、ラットまたはニワトリのような適切な実験動物を、抗体が所望される抗原に曝露する。典型的には、動物を、該動物に注入される有効な量の抗原を用いて免疫化する。有効な量の抗原とは、その動物が抗体産生を引き起こすのに必要な量を指す。その後、所定の期間にわたって動物の免疫系に応答させておく。免疫系が抗原に対する抗体を産生していることが分かるまで、免疫化処置を繰り返すことができる。抗原に特異的なポリクローナル抗体を得るためには、所望の抗体を含む動物から血清を回収する(またはニワトリの場合には、抗体を卵から回収することができる)。そのような血清は試薬として有用である。例えば該血清を硫酸アンモニウムで処理することにより、血清(または卵)からポリクローナル抗体をさらに精製することができる。
【0134】
モノクローナル抗体は、ケーラー(Kohler)およびミルシテイン(Milstein)の方法(Nature 256:495-497, 1975)によって生産することが可能である。例えば、免疫化した動物の脾臓(または任意の適切な組織)からBリンパ球を回収し、次にミエローマ細胞と融
合させて、適切な培地中で継続的に増殖可能なハイブリドーマ細胞の集団を得る。ハイブリドーマによって産産された抗体が所望の抗原に結合する能力を試験することにより、所望の抗体を産生するハイブリドーマを選択する。
【0135】
本発明は、対象とするタンパク質に選択的に結合するように設計された、抗原結合パートナーまたは抗原結合ペプチドと呼ばれることもある非抗体ポリペプチドにも及ぶ。規定のリガンド特異性を所有するそのようなポリペプチドの設計の例は、参照により全体が本願に組み込まれるベステ(Beste)らの文献(Proc. Natl. Acad. Sci. 96:1898-1903, 1999)に示されている。
【0136】
本発明によれば、本明細書中で一般に使用される用語「抗原」は:天然に存在するかまたは合成的に誘導されたタンパク質の任意の部分(ペプチド、部分的タンパク質、完全長タンパク質)、細胞の構成成分(細胞全体、細胞溶解産物または破壊された細胞)、生物(生物全体、溶解産物または破壊された細胞)または炭水化物もしくはその他の分子、またはその一部を指し、該抗原は、抗原特異的免疫応答(体液性および/または細胞性免疫応答)を誘発するか、もしくは別例として、抗原が投与される動物の細胞および組織内部で遭遇するのと同一または同様の抗原に対する、トレラゲン(toleragen)として作用す
る。
【0137】
本発明の一実施形態において、免疫応答を刺激することが望ましい場合、用語「抗原」は、用語「免疫原」と互換的に使用することが可能であり、本明細書では、動物に(例えば本発明のワクチンにより)該免疫原を投与すると該動物の組織内部で遭遇するのと同一または同様の抗原に対する抗原特異的免疫応答が開始されるように体液性および/または細胞性免疫応答を誘発する(すなわち、免疫原性である)抗原について述べるために使用される。別の実施形態では、所与の抗原に対する免疫応答を抑制することが望ましい場合、抗原はトレラゲンを含むことができる。本発明によれば、「トレラゲン」は、抗原であって、該抗原に対する免疫応答が低下または変化し、かつ好ましくは、ほぼ無反応であるか、アネルギーであるか、その他の不活性であるか、またはトレラゲンもしくはそのようなトレラゲンを発現もしくは提示している細胞との接触に対応する免疫細胞が欠落しているような形態、量もしくは投与経路で提供される抗原について述べるために使用される。
【0138】
「ワクチン接種用抗原」は免疫原でもトレラゲンでもよいが、ワクチン中で使用される抗原であり、生物学的応答(免疫応答、寛容性誘発)は該ワクチン接種用抗原に対して誘発されることになる。
【0139】
所与の抗原の免疫原性のドメイン(部分、フラグメント、エピトープ)は、動物に投与された時に免疫原(またはトレラゲン性ドメインについてはトレラゲン)として作用する少なくとも1つのエピトープを含む、抗原の任意の部分(例えばペプチドの断片もしくはサブユニット、または抗体エピトープもしくはその他の立体配座依存性エピトープ)であってよい。例えば、単一のタンパク質が複数の異なる免疫原性ドメインを含むことができる。免疫原性ドメインは、体液性応答の場合にはタンパク質内の線状の配列である必要はない。
【0140】
一般的には、エピトープは、免疫応答を誘発するのに十分な、所与の抗原内部の単一の免疫原性部位、または免疫応答を抑制、除去、もしくは不活性化するのに十分な、所与の抗原内部の単一のトレラゲン性部位として、本明細書中で定義される。上記に議論されるように、当業者は、T細胞エピトープはB細胞エピトープとは異なる大きさおよび組成であること、またクラスI MHC経路を通って提示されたエピトープはクラスII MHC経路を通って提示されたエピトープとは異なることを認識するであろう。エピトープは、免疫応答の種類に応じて、線状配列のエピトープであっても立体配座依存性のエピトー
プ(保存された結合領域)であってもよい。抗原は、単一のエピトープと同程度に小さくても、より大きくてもよく、複数のエピトープを含むことができる。そのため、抗原の大きさは約5〜12アミノ酸程度(例えばペプチド)であってもよいし、また、完全長のタンパク質、例えば多量体タンパク質および融合タンパク質、キメラタンパク質、細胞全体、微生物全体、またはこれらの一部(例えば細胞全体の溶解産物または微生物の抽出物)などと同程度に大きくてもよい。
【0141】
本発明の組成物および製剤
ZnT8タンパク質、相同体(改変ペプチドを含む)、フラグメント、ペプチド、ペプチドおよび非ペプチドのミメティック、ならびに抗体およびその抗原結合フラグメントは、本発明において有用な組成物、製剤および特にワクチンに含めることができる。そのような組成物、製剤またはワクチンは、薬学的に許容可能な担体を含むことが可能であり、該担体には薬学的に許容可能な添加剤および/または送達用ビヒクルが挙げられる。本明細書で使用されるように、薬学的に許容可能な担体とは、適切なin vivoまたはex vivoの部位に本発明の方法に有用な組成物、製剤またはワクチンを送達するのに適した任意の物質を指す。好ましい薬学的に許容可能な担体は、送達すべき作用物質(例えばZnT8タンパク質、相同体(改変ペプチドを含む)、フラグメント、ペプチド、ペプチドおよび非ペプチドのミメティック、ならびに抗体およびその抗原結合フラグメント)を、該作用物質が標的細胞または標的部位に到着するとすぐにその細胞または部位で作用することができる(例えば、免疫応答を引き起こすことができる)形態に維持することができる。本発明の適切な添加剤には、作用物質を輸送するかまたは輸送を支援するが、ある部位へ向けて作用物質を特異的に差し向ける(標的化する)のではない添加剤または処方物(本明細書では非標的化担体とも呼ぶ)が挙げられる。薬学的に許容可能な添加剤の例としては、限定するものではないが、水、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、血清含有溶液、ハンク溶液、その他の水性の生理的平衡液、油、エステルおよびグリコールが挙げられる。水性担体は、例えば化学的安定性および等張性の増強により被投与者の生理学的条件に接近するのに必要な、適切な補助物質を含むことができる。適切な補助物質には例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ならびに、リン酸緩衝液、トリス緩衝液および重炭酸緩衝液を生産するために使用されるその他の物質が含まれる。補助物質はさらに、チメロサール、m−クレゾールまたはo−クレゾール、ホルマリンおよびベンゾールアルコールのような保存剤を含むこともできる。本発明の組成物は従来の方法によって滅菌されてもよいし、かつ/または凍結乾燥されてもよい。
【0142】
ある種類の薬学的に許容可能な担体は、本発明の組成物を動物体内に徐々に放出することができる制御放出製剤を含む。本明細書で使用されるように、制御放出製剤は本発明において有用な作用物質を制御放出用ビヒクル中に含む。適切な制御放出用ビヒクルには、限定するものではないが、生体適合性のポリマー、他のポリマーマトリックス、カプセル、マイクロカプセル、微粒子、ボーラス調製物、浸透圧ポンプ、拡散デバイス、リポソーム、リポスフェア、および経皮送達システムが含まれる。適切な送達ビヒクルには、限定するものではないが、リポソーム、ウイルスベクターまたは他の送達ビヒクル、例えばリボザイムも含まれる。天然の脂質を含む送達ビヒクルには細胞および細胞膜が挙げられる。人工の脂質を含む送達ビヒクルにはリポソームおよびミセルが挙げられる。本発明の送達ビヒクルは、患者の特定の部位を標的とするための修飾を受けることにより、作用物質をその部位に標的化し該部位で活用することができる。適切な修飾には、送達ビヒクルの脂質部分の化学組成を操作すること、かつ/または該ビヒクル内に、好ましい部位、例えば好ましい種類の細胞に対して送達ビヒクルを特異的に標的化することが可能な標的指向性物質を導入することが挙げられる。
【0143】
ワクチンは、特定の抗原に対して動物を免疫化または寛容化するために使用される特定
の種類の組成物である。従って、ワクチンは、該ワクチンの投与の結果として、抗原またはその免疫原性部分もしくはトレラゲン性部分に対する免疫応答を誘発する、少なくとも1つの化合物または作用物質を含む。ワクチンの投与は、好ましくは保護効果または治療効果をもたらし、その後の抗原(または抗原の供給源)への曝露により、該動物の疾患または症状を縮小または予防する、該抗原(または供給源)に対する免疫応答が誘発される。そのような免疫応答は、一般に抗原に対する免疫応答を増強または抑制することが可能であり、ZnT8の場合には、ワクチンがZnT8および/または膵島β細胞に対する免疫応答を抑制することが好ましい。ワクチン接種の概念は当分野において良く知られている。本発明の治療用組成物の投与によって誘発される免疫応答は、ワクチンを投与しない状態と比較して、免疫応答の任意の面(例えば細胞性応答、体液性応答、サイトカイン産生)において何らかの検出可能な変化であってよい。
【0144】
本発明の方法
本発明は、1型糖尿病(T1D)に関与する新規な自己抗原としてのZnT8の同定を利用する様々な方法をも含んでいる。そのような方法には、診断アッセイおよび疾患の進行または治療の有効性を監視するためのアッセイ、ならびに免疫療法およびワクチン戦略を含む予防方法および治療方法が挙げられる。ZnT8は、T1Dの診断、予防および/または治療に役立つ化合物を同定するための新規な標的として使用することもできる。本発明の方法は、上述のZnT8タンパク質、ペプチド、ミメティック、相同体、抗体、または核酸分子などのうち任意のものを利用する。いくつかの実施形態では、そのような作用物質は方法の有効性を増大させるために他の診断用もしくは治療用成分と組み合わされる。例えば、ZnT8以外の他の自己抗原(例えばインスリン、インスリノーマ抗原、および/またはグルタミン酸脱炭酸酵素)の検出を、診断アッセイの有効性、感度および特異性を拡張するためにZnT8の検出と組み合わせることが可能であり、様々な治療用成分(例えば毒素、抗炎症薬、抗原)をZnT8作用物質と組み合わせるかまたは結合させて、患者における治療効果を増強することもできる。
【0145】
従って、本発明の1つの実施形態は、糖尿病関連の自己免疫(すなわち1型糖尿病またはT1D)を検出する方法およびアッセイに関する。そのようなアッセイを、(例えば、T1Dを発症している患者もしくは被験者群を同定するため、またはT1Dに対する感受性を予測するための)診断アッセイとして、または予後判定/監視アッセイとして使用することができる。後者のアッセイは、自己免疫反応の最初の良性の(非破壊的な)兆候から明白なT1Dを示す破壊的膵島炎まで、患者または被験者群における自己免疫の進行を監視するために使用することができる。後者のアッセイは、糖尿病前症の被験者の自己免疫を予防および/または治療もしくは軽減を対象とした治療の有効性を監視するために使用することもできる。例えば、被験者に、1以上の免疫抑制剤または予防薬、例えば、限定するものではないがZnT8分子自体に基づいた作用薬を投与し、次いでT1Dへと進行するかしないかを本発明のアッセイを使用して監視することができる。アッセイは、被験者におけるZnT8に対する自己抗体反応の検出に基づくものでもよいし、または被験者におけるZnT8の抗原性エピトープへのTリンパ球の反応性の検出に基づくものでもよい。上記アッセイは、別々に使用してもよいし互いに併用してもよい。
【0146】
一実施形態では、本発明は、ZnT8に特異的に結合する抗体が被験者に存在するか否かを検出する抗体アッセイを含む。本発明の方法を使用して、患者の血清中のZnT8に対する抗体のレベルに基づいて、1型糖尿病を発症する可能性が最も高いかまたは発症している患者を有効に同定または選択する、例えば発症までの時間のような要素を予測する、または疾患の進行もしくは病期を監視するために使用することができる。該方法は、特定の治療手段に応答する患者または応答しない患者を有効に同定または選択するために使用することもできる(すなわち、該方法は特定の患者について治療手段を示したり禁忌を示したりするために使用される)。
【0147】
本発明の自己抗体アッセイの1つの態様では、ZnT8の遺伝子およびタンパク質の多型性によって規定される特定のイソエピトープが検出される。イソエピトープ特異性の診断は、完全なタンパク質または該タンパク質由来のペプチドとしての特異的リガンドに対する抗体の結合を用いることができる簡単な診断テストで達成することができる。特異性の詳しい分析は、過剰量の特異的タンパク質バリアントまたは誘導ペプチドが抗体のリガンドとの相互作用と競合する能力を測定することにより達成することができる。そのようなアッセイのための分析の基盤は、放射免疫沈降法、ELISA、ルミネセンス時間分解蛍光法またはいくつかの他の一般的なアッセイ形式であってよい。
【0148】
該方法は一般に、任意の適切な技法を使用して患者または被験者の試料(試験試料)中のZnT8に選択的に結合する自己抗体を検出することを含む。試験試料が臨床的またはその他の点で関連するレベルの抗ZnT8抗体を含むかどうかを判断するために、患者の抗体結合のレベルを、陽性対照(例えば血清の陽性対照)に対して標準化し、抗原(ZnT8)およびアッセイについて実験的に測定されたかまたは予め規定されたカットオフ(陰性対照のレベル)と比較することができる。該アッセイは、ZnT8以外の追加の自己抗原、例えば、限定するものではないが、インスリン、インスリノーマ抗原およびグルタミン酸脱炭酸酵素についてスクリーニングする能力を備えていてもよい。
【0149】
本発明のこの方法またはアッセイは、さらに具体的には、患者の抗体を検出することができるZnT8抗原を提供することを含む。ZnT8抗原は、患者体内のZnT8に対する血清抗体を検出する任意の適切なZnT8由来の抗原、例えば完全長のZnT8タンパク質、またはその相同体、フラグメント、融合タンパク質、改変ペプチドもしくはペプチドミメティックを含むことができる。ZnT8抗原は少なくとも1つの抗体エピトープを含んでいる。特に好ましいZnT8抗原は、上記に詳細に述べたZnT8タンパク質のC末端ペプチドである。
【0150】
本発明に従い、本明細書に述べるようなこの情報の意図した用途に従って抗体をスクリーニングするのに有効な条件下でアッセイを実施する。有効な条件には、限定するものではないが、細胞増殖を可能にする適切な培地、温度、pHおよび酸素の条件が挙げられる。一般に、患者由来の試験試料を、競合的または非競合的な条件下でZnT8抗原と接触させ、ZnT8抗原への試験試料中の自己抗体の結合を検出し、定量し、陰性および/または陽性対照と比較する。試料中のZnT8に対する自己抗体を検出するために使用される技法には、任意の適切なアッセイ、例えば、限定するものではないが、ELISA(直接的または間接的)、放射免疫沈降法、時間分解蛍光法および発光アッセイを挙げることができる。そのようなアッセイ形式は当分野において良く知られている。
【0151】
本発明のこの実施形態において使用するのに好適な1つのアッセイは、競合的ユーロピウムアッセイである。そのようなアッセイは、米国仮特許出願第60/822,786号明細書に詳細に述べられており、該文献は参照により全体が本願に組み込まれる。この方法は概して、検出方法にユーロピウム蛍光を使用する競合的抗体アッセイを行なうことを含む。より具体的には、該方法は、アッセイ用プレートのウェルまたはその他の適切な基材のような基材に、目的の抗体が選択的に結合する抗原を固定化するステップと;基材上の非特異的結合部位をブロッキングするステップと;流体状の抗原の存在下および非存在下でプレインキュベーションした試験試料(例えば抗体について評価すべき被験者由来の血清試料)を、プレートに載せるステップ(すなわち競合ステップ)と;最後に、ユーロピウムを用いる検出法を使用して、固定化された抗原に結合した抗体を検出するステップであって、該抗体は例えば作用薬(例えばビオチン)と、次いでユーロピウムで標識された第1の作用薬に結合する第2の作用薬(例えばストレプトアビジン)とコンジュゲートした二次抗体である、ステップとを含む。その後、ユーロピウムにより放出される蛍光の
レベルを、標準的な検出法を使用して検出することができる。該アッセイは競合アッセイであるので、抗原とともにプレインキュベーションした試料からの蛍光カウント値を、抗原とともにプレインキュベーションしなかった試料からの蛍光カウント値から差し引いて結果のレベルを得る。試験試料が臨床的またはその他の点で関連するレベルの抗体を含むかどうかを判断するために、上記のレベルを血清の陽性対照に対して標準化し、抗原およびアッセイについて実験的に測定したかまたは予め規定したカットオフ値(陰性対照レベル)と比較することができる。
【0152】
本発明によれば、用語「試験試料」は、本発明によって検出しようとする抗体を含むと考えられるか、含む可能性がある任意の種類の試料を指すために広く使用することができる。試験試料は、天然の試料または合成的に生産された試料に由来する試料のような調製試料を含むことが可能であり、より好ましくは被験者(個人、患者、動物)から得られた任意の生体試料である。したがって、試料には、検出しようとする抗体を含む可能性がある細胞上清液、体液、組織またはその他の培地を挙げることができる。試料採取に適した体液には、限定するものではないが、血液、粘液、および母乳が含まれ、最も好ましいのは血液試料または血清試料、特に好ましいのは血清である。
【0153】
上記に議論されるように、本発明のアッセイは、1つの抗体特異性(すなわちZnT8)を検出するために構成されてもよいし、2以上の(例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10種の)抗体特異性を検出(すなわち異なる抗原もしくは同じ抗原の異なるエピトープ、またはその組み合わせに結合する抗体を検出)するために構成されてもよいし、多数(>10)の抗体特異性を検出するために構成されてもよい。言いかえれば、該方法は、単一のアッセイまたは実験において1つ、2以上、または多数の異なる抗体を検出するために(例えば、該アッセイにより単一の試料が多数の異なる抗体についてスクリーニングされるように、単一のプレートまたはアッセイ用基材の異なるウェルに異なる抗原および/または抗原エピトープ(一群の抗原および/またはエピトープ)を入れることにより)構成される。さらに、該アッセイは、被験者集団に関する情報を得るためにハイスループット方式で多数の被験者をスクリーニングするように構成されてもよい。
【0154】
本発明の方法にはいくつかの異なる用途がある。本発明の方法は、臨床(例えば、診断、予後判定、および治療)目的および研究目的の両方を含む任意の有用な目的のために試料中の抗体を検出するために使用することができる。本発明の方法はヒトまたはヒト以外の動物の試料を使用して行なうことができる。第1に、該方法は、被験者におけるT1Dを診断するために、またはより重要なこととしてはT1Dが発症する可能性または発症開始までの時間を判断するために使用することができる。被験者は、T1Dの疑いのある人でも、T1Dになりやすいことが分かっている人でもよいし、または健康であると推定されるが所定のスクリーニングもしくは診断上のスクリーニングを受けている人であってもよい。被験者は、以前にT1Dと診断されて治療が開始された人で、現在はT1Dの進行について監視下にある人でもよい。用語「診断する」、「診断」、「診断すること」およびこれらの変形語は、疾患または状態をその兆候および症状に基づいて同定することを指す。本明細書で使用されるように、「陽性の診断」は、疾患もしくは状態、または該疾患もしくは状態を発症する可能性が同定されたことを示す。対照的に、「陰性の診断」は、疾患もしくは状態、または該疾患もしくは状態を発症する可能性が同別されていないことを示す。
【0155】
本発明の別の実施形態では、該方法はT1Dのための治療手段が有益であるかまたは有益でないと予測される患者を選択するために使用することができる。同様に、該方法はある特定の患者についてある特定の治療手段を示すか該治療手段が禁忌であることを示すために使用することができる。この実施形態では、該方法は一般に、次のステップ:(a)本明細書中で詳細に記述されるように抗体の検出のための本発明の方法を実施するステッ
プ;(b)患者の試料中の抗体のレベルを、抗体の対照レベルであって以下の:(1)治療手段に対する反応性と関連している抗体の対照レベル;および(2)治療手段に対する非反応性と関連している対照レベル、から選択される対照レベルと比較するステップ;ならびに(c)患者の試料中の抗体のレベルが、治療手段に対する非反応性と関連している抗体の対照レベルよりも、治療手段に対する反応性と関連している抗体の対照レベルに統計的により類似している場合に、該治療手段が有益であると予測されるとして患者を選択するステップ;または(d)患者の試料中の抗体のレベルが、治療手段に対する反応性と関連している抗体の対照レベルよりも、治療手段に対する非反応性と関連している抗体のレベルに統計的により類似しているかもしくは該レベル未満である場合に、該治療手段が有益ではないと予測されるとして患者を選択するステップ、を含む。例えば、そのような方法は、患者への抗炎症薬の投与、またはZnT8もしくは別の自己抗原もしくはこれらの発現を選択的に標的とする作用薬の投与を示すか該投与が禁忌であることを示すのに有用となりうる。この実施形態の他の態様は、当業者には明白であろう。
【0156】
本発明の方法を使用する抗体の検出に関しての陽性の診断または予後判定は、抗体が試料中に、同じタイプの試料中の実験的に測定したかまたは予め規定した陰性すなわち「正常な」レベルの抗体よりも統計的に有意に高いレベルで存在することを示す(すなわち、「正常な」レベルとは、T1Dではない被験者に見出される抗体検出レベルであるかまたはT1Dではない被験者に見出されるレベルの平均である)。陽性の診断または予後判定を確立するためには、試験試料中に検出された抗体のレベルは、設定または測定したベースラインよりも統計的に有意な(すなわち、少なくとも95%信頼水準またはp<0.05の)量だけ上回る。試料中の抗体レベルを標準化する方法、または該レベルの「指数」を作成する方法は、当分野において周知である。本発明の方法を使用する抗体の検出に関しての陰性の診断または予後判定は、抗体が試料中に検出不可能であるか、または同じタイプの試料中の実験的に測定したかまたは予め規定した陰性すなわち「正常な」レベルの抗体よりも統計的に有意に高いレベルほど統計的に有意に高くはない(低い場合もある)レベルであるかのいずれかであることを示す。
【0157】
本発明のさらに別の実施形態は、ZnT8に特異的に結合するT細胞が被験者に存在するか否かを検出するTリンパ球アッセイを含む。上記に議論した抗体アッセイと同様に、本発明のこの方法を使用して、患者の血清中におけるZnT8に対するT細胞の応答性のレベルに基づいて、1型糖尿病を最も発症しやすい、または発症しつつある患者を有効に特定または選択することを、発病までの時間のような要因の予測、または疾患の進行もしくは病期の観察も含めて、行うことができる。該方法は、ある特定の治療手段に応答するか、または応答しない患者を有効に特定または選択するために使用することもできる(すなわち、該方法は特別の患者について治療手段を示すかまたは該手段が禁忌であることを示すために使用される)。
【0158】
この実施形態の1つの態様では、該方法は、ZnT8の多型性に関して本明細書に記載されるイソエピトープの検出を含む。アッセイは、分子の変異領域または不変領域のいずれかを含むタンパク質配列をコードする、典型的には長さ8〜20アミノ酸の小さなペプチドを区別することができる。T細胞応答は、典型的には末梢血中で観察されるが、身体の他の部分から得られたリンパ球集団について適用することも考えられる。そのようなアッセイ用の分析の基盤は、増殖、サイトカイン産生もしくは他の表面に出る活性化マーカー、または細胞内のタンパク質マーカーもしくは脂質もしくは炭水化物に基づくものということも考えられる。これらのアッセイの解釈には、通常はその人のHLAクラス1およびクラス2遺伝子型についての情報も必要であろう。
【0159】
本発明のこれらの実施形態では、少なくとも1つのZnT8 T細胞エピトープを含むZnT8抗原は、患者からの試験試料中のZnT8特異的Tリンパ球(T細胞)応答を検
出するアッセイにおいて提供される。T細胞エピトープを含むZnT8タンパク質および抗原については、上記に詳細に議論されている。例えば、一実施形態では、本アッセイにおいてin vitro翻訳系の産物が有用である。アッセイ形式は、抗原についての任意の適切なTリンパ球アッセイ、例えば、限定するものではないが、Tリンパ球増殖反応測定法、MHCクラスIおよびIIのテトラマー試薬を用いるアッセイ、フローサイトメトリー法、およびELISPOTアッセイでよい。従って、適切なアッセイには細胞系のアッセイおよび非細胞系アッセイを含めることができる。後者の場合、可溶性T細胞受容体を、例えば可溶性MHC分子(例えばテトラマー試薬)に結合したZnT8抗原を検出するための結合アッセイまたはイムノアッセイに使用することができる。前者の場合、細胞表面上のT細胞受容体への抗原の結合を、典型的には該細胞の増殖またはサイトカイン産生を検出することにより、検出する。抗体アッセイと同じように、本発明のT細胞アッセイは、患者の試料中の2以上または多数の自己抗原を検出するために使用されてもよいし、かつ/または多数の被験者についてT細胞応答を検出するために使用されてもよい。
【0160】
抗体アッセイと同様に、ZnT8 T細胞応答の検出に関しての陽性の診断または予後判定は、ZnT8特異的なT細胞(自己反応性T細胞)が、患者の試料中に、同じタイプの試料中の実験的に測定したかまたは予め規定した陰性すなわち「正常な」レベルのそのようなT細胞応答(すなわち、「正常な」レベルは、T1Dではない被験者に見出されるT細胞応答のレベルであるかまたは該レベルの平均である)よりも統計的に有意に高いことを示す。陽性の診断または予後判定を確立するためには、試験試料中に検出されるZnT8特異的なT細胞応答のレベルは、設定または測定したベースラインよりも統計的に有意な(すなわち、少なくとも95%信頼水準またはp<0.05の)量だけ上回る。試料中のZnT8特異的なT細胞応答のレベルを標準化する方法、または該レベルの「指数」を作成する方法は、当分野において周知である。本発明の方法を使用するZnT8特異的なT細胞応答の検出に関しての陰性の診断または予後判定は、ZnT8特異的なT細胞応答が試料中に検出不可能であるか、または同じタイプの試料中の実験的に測定したかまたは予め規定した陰性すなわち「正常な」そのような応答のレベルよりも統計的に有意に高いレベルほど統計的に有意に高くはない(低い場合もある)レベルであるかのいずれかであることを示す。
【0161】
本発明に含まれるのは、上述のような診断法のうちいずれかを実施するためのキットである。該キットは、(a)アッセイ中で使用するためのZnT8抗原(上述のタンパク質、ペプチドまたはミメティックのうちの任意のものなど)であって、流体相または基材上に固定化されたもの(抗原は既に固定化された状態で提供されてもよいし、固定化に適した形態で提供されてもよい);ならびに(b)(細胞を用いるアッセイまたは非細胞系のアッセイにおいて)抗原への抗体の結合を検出するために使用される1もしくは複数の試薬、または抗原へのT細胞受容体の結合を検出するために使用される1もしくは複数の試薬のうち少なくともいずれか一方、を含む。アッセイを実施するのに有用な他の試薬、例えば、限定するものではないが、バッファー、二次抗体、アッセイを読み取るのに役立つ検出可能な標識および試薬、可溶性の結合タンパク質(例えば可溶性MHC、可溶性のT細胞受容体)、ならびに他の有用な試薬も含まれうる。
【0162】
本発明の別の実施形態は、個体における1型糖尿病の発症を予防、遅延もしくは軽減するために対象者にワクチン接種を行い、膵島β細胞に対する自己反応性のT細胞応答を抑制もしくは無効化し、かつ/または、膵島β細胞に対する免疫応答を、破壊的な反応からそれほど破壊的でないかもしくはより保護的な応答へと変更するための、治療的かつ予防的戦略における重要な自己抗原としてのZnT8の同定に基づいた、様々な試薬の開発および使用に関する。
【0163】
一実施形態では、ZnT8タンパク質、ペプチド、相同体、ミメティック、ZnT8抗
体またはその抗原結合フラグメント、およびその他のZnT8由来の試薬またはZnT8ベースの試薬(該ペプチドまたは抗体が化学的または物理的に修飾されたものを含む)は、T1Dの進行または発症の経過を変更するため、かつ/または対象者において破壊的ではなくトレラゲン性もしくは保護的なZnT8特異的なTリンパ球応答を誘導するために、ex vivoまたはin vivoで対象者に投与される。一実施形態では、そのような作用物質はワクチンとして投与される。そのようなZnT8関連の作用物質/試薬については上述した。
【0164】
別の実施形態では、ZnT8特異的な自己反応性T細胞を標的として設計された、ZnT8を基にした抗原特異試薬を、T細胞にアポトーシスを誘導するかまたは他のかたちでT細胞に有毒な作用物質と併せて対象者に投与する。この方法はin vivoまたはex vivoで実施することができる。例えば、ペプチド結合溝を形成する可溶性MHC分子(例えば米国特許第5,820,866号明細書を参照)を、ZnT8の抗原性もしくはトレラゲン性ペプチド(MHCに結合して本実施形態に従ってT細胞応答を誘導することができるZnT8の改変ペプチドおよび相同体を含む)と結合させる。そのような複合体を、T細胞がそのT細胞受容体を介して該MHCペプチド複合体に結合した時にT細胞のネクローシスまたはアポトーシスを引き起こすであろう毒素またはその他の作用物質と(任意の共有結合または非共有結合技法によって)さらに複合体化することができる。
【0165】
ZnT8のペプチドおよび相同体と複合体化(コンジュゲート、カップリング)するための作用物質として本発明で使用するのに有用な適切な毒素には、任意の毒素もしくはタンパク質、作用物質または分子であって細胞に対して毒性(ネクローシス性またはアポトーシス性)のものが含まれ、また本明細書に記載の治療用の環境において使用することができる任意の毒素が含まれる。そのような毒素には、限定するものではないが、Fasリガンド、アメリカヤマゴボウの抗ウイルスタンパク質、ボツリヌス毒素、リシンなどが挙げられる。
【0166】
さらに、本明細書に記載の遺伝学的分析、自己抗体アッセイ、およびT細胞アッセイから得ることができる知見は、特定の治療体制の使用についての決断に適用することができる。そのような治療体制は、ZnT8すなわちSlc30A8と無関係な作用物質、または抗原特異的な作用物質、例えば組換えZnT8タンパク質、ZnT8由来ペプチドであって単独もしくは別の作用物質、例えば毒素、リンパ球のような細胞、HLA分子もしくは免疫グロブリンのような分子と連結させたもの、またはSlc30A8 DNAであって単独もしくは別の作用物質と連結させたものに基づくものとすることが考えられる。治療は、抗原または抗原をコードするかもしくは抗原の発現を阻害する核酸のいずれかに基づくものとすることも考えられるし、また所望の結果に応じてイソエピトープに一致するかミスマッチであるかのいずれかに合わせることも考えられる。イソエピトープを、自己反応性を有する患者と一致させると、寛容性の状態を誘導することによって保護的とすることができる。他方、ミスマッチさせると、有益な効果のために利用することも可能な免疫化のかたちとなる。個々のイソエピトープの状態によってどの経路が後続するかが決まり、作用物質のどのアイソフォームを使用するかが決まるので、最初は個々のイソエピトープの状態を知ることが不可欠であろう。
【0167】
そのような治療方法は、治療薬の有効性を試験することを目標とした診断アッセイと結び付けられることになろう。そのような診断法は、場合によっては上述の自己抗体アッセイおよびT細胞アッセイの繰り返しになるであろうが;作製される試薬の中には疾患特異的な対象物に対して適用できるものがありうる。例えば、治療薬を含むかまたはコードしているイソエピトープを使用して、特定の種類の細胞を増殖させるか、活性化するか、または除去する目的でBリンパ球を関与させることが可能である。治療の有効性は、標的となる種類の細胞集団を追跡調査することにより評価することが考えられ、また、例えば、
B細胞集団にタグを付けるために蛍光性分子の酵素に連結されたイソエピトープペプチドを使用し、その後B細胞集団をフローサイトメトリーによって計数して表現型で特徴解析することが考えられる。そのような方法を適用して、パニング法または蛍光活性化細胞分類法によりそのような細胞集団を単離することも考えられる。
【0168】
本発明の予防方法および治療方法で使用される上記作用物質は、単独で、組成物として、製剤として、もしくはワクチンとして投与されてもよいし、かつ/またはT1Dの予防もしくは治療に有用な他の作用物質の投与と共に(一緒に、または連続的に)投与されてもよい。上記に議論されるように、本発明の組成物または作用物質は、該作用物質を標的細胞もしくは標的部位に送達し、その結果として該作用物質が標的部位で作用し、かつ/または標的細胞に対して効果を有するのに有効なやり方で患者に投与される。適切な投与プロトコールには任意のin vivoまたはex vivoの投与プロトコールが含まれる。有効な投与プロトコール(すなわち、本発明の組成物または作用物質を有効なやり方で投与すること)は、対象者または細胞内において該組成物または作用物質の所望の活性、例えば自己反応性T細胞の自己抗原ZnT8に対する寛容性、自己反応性T細胞のアポトーシス、膵島炎および/または膵島β細胞の破壊の予防または低減、ならびにT1Dの予防、発症の遅延、または重症度の軽減、をもたらす適切な用量パラメータおよび投与形式を含む。そのような投与から、患者が何らかの測定可能、観察可能または認識される利益を得ることが好ましい。有効用量のパラメータは、例えば、in vitroの細胞培養、in vivoの動物モデル、および最終的には、患者がヒトであれば臨床試験を使用して、実験によって決定することができる。有効用量のパラメータは、患者が罹患しているかまたは発症のリスクを有している特定の疾患または状態についての当分野で標準的な方法を利用して決定することができる。そのような方法には、例えば、生存率、副作用(すなわち毒性)、および該疾患の発症、進行または退行の測定が含まれる。
【0169】
投与経路には、in vivo、in vitroおよびex vivoの経路が含まれる。in vivoの経路には、限定するものではないが、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、リンパ節内投与、冠状動脈内投与、動脈内投与(例えば頚動脈内)、皮下投与、経皮的送達、気管内投与、皮下投与、関節内投与、脳室内投与、吸入(例えばエアロゾル)、頭蓋内、脊髄内、眼内、耳内、鼻腔内、経口、経肺投与、カテーテルの注入、および組織内への直接注射が挙げられる。本発明の1つの好ましい実施形態では、非経口経路(例えば皮下、皮内、静脈内、筋肉内および腹腔内経路)によって組成物が投与される。静脈内、腹腔内、皮内、皮下および筋肉内投与は、当分野において標準的な方法を用いて実施可能である。耳内送達には点耳剤、鼻腔内送達には点鼻剤または鼻腔内注射、眼内送達には点眼剤を挙げることができる。エアロゾル(吸入)送達は、当分野において標準的な方法を用いて実施することができる(例えば、参照により全体が本願に組み込まれる、ストリブリング(Stribling)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 189:11277-11281, 1992を参照のこと)。経口送達は、本発明の作用物質または組成物を、動物の消化管内の消
化酵素による分解に耐えることができる担体と複合体化することにより行なうことができる。そのような担体の例には、当分野で知られているようなプラスチック製のカプセルまたはタブレットが含まれる。
【0170】
ex vivoとは、患者から取り出された細胞の集団に作用物質または組成物を送達する(または該細胞を作用物質もしくは組成物と接触させる)ことによるなど、規定のステップの一部を患者の体外で実施し、処理した細胞を患者に戻すことを指す。そのような細胞としては、例えばT細胞が考えられ、該T細胞はin vivoでZnT8と接触した時に生じる免疫応答の種類が変化するように誘導される。宿主細胞の培養物に対する組成物のin vitroおよびex vivoの投与経路は、例えば、限定するものではないが、トランスフェクション、形質転換、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、吸着、プロトプラスト融合、タンパク質担持物質の使用、
イオン担持物質の使用、細胞透過化のための界面活性剤の使用、および培養物中で化合物を標的細胞および/もしくは標的タンパク質と単に混合する(例えば、合わせる)ことなどの方法によって実行されうる。
【0171】
タンパク質、小分子(すなわち薬物設計の産物)または抗体については、そのような作用物質の好ましい1回用量は、典型的には、動物の体重1キログラム当たり約0.01マイクログラム(約0.01マイクログラム×キログラム
−1)〜体重1キログラム当たり約10ミリグラム(約10マイクログラム×キログラム
−1)からなる。作用物質のより好ましい1回用量は、動物の体重1キログラム当たり約1マイクログラム(約1マイクログラム×キログラム
−1)〜体重1キログラム当たり約10ミリグラム(約10ミリグラム×キログラム
−1)からなる。作用物質のさらにより好ましい一回用量は、動物の体重1キログラム当たり約5マイクログラム(約5マイクログラム×キログラム
−1)〜体重1キログラム当たり約7ミリグラム(約7ミリグラム×キログラム
−1)からなる。作用物質のさらにより好ましい一回用量は、動物の体重1キログラム当たり約10マイクログラム(約10マイクログラム×キログラム
−1)〜体重1キログラム当たり約5ミリグラム(約5ミリグラム×キログラム
−1)からなる。作用物質の別の特に好ましい一回用量は、該作用物質が非経口的に送達される場合、動物の体重1キログラム当たり約0.1マイクログラム(約0.1マイクログラム×キログラム
−1)〜体重1キログラム当たり約10マイクログラム(約10マイクログラム×キログラム
−1)からなる。
【0172】
本明細書に記載の方法から得られる予防上または治療上の有益性は、必ずしも特定の疾患または状態(例えば1型糖尿病)の治癒というわけではなく、むしろ、糖尿病前症もしくは顕性T1Dの発症の遅延、または該疾患の破壊的様相の軽減により、治療しない場合に予測されるよりも長く、完全な膵島破壊を遅延させ、したがって患者が、インスリン療法に完全に依存し、その他の治療的介入を受け、また下流における該疾患の健康への有害な影響を受けるまでの時間をより長く与えることを最も含む結果を包含することも可能である。本明細書で使用されるように、「疾患から保護(される)」という語句は、該疾患の症状を低減すること;該疾患の発生もしくは発症を低減すること、および/または該疾患の重症度を低減することを指す。患者の保護とは、本発明の作用物質または組成物が該患者に投与されたとき、疾患の発生を予防する、かつ/または疾患の症状、兆候もしくは原因を治療もしくは緩和する能力を指すこともできる。そのため、患者を疾患から保護するとは、該疾患の発生を予防または遅延させること(予防的処置)、および疾患もしくは疾患前状態の患者を治療すること(治療的処置)のいずれをも含む。用語「疾患」は一般に、哺乳動物の正常な健康状態からの何らかの乖離を指し、疾患の症状が存在する時の状態と、乖離(膵島β細胞の破壊)が生じてしまっているが症状はまだ表われていない状態とを含む。
【0173】
本発明の別の実施形態は、本明細書に記載のような診断アッセイにおいて、または本明細書に記載の発明の予防方法もしくは治療方法において有用な化合物を同定する方法に関する。そのような方法は、ZnT8をベースとした物質(例えばZnT8の核酸分子、タンパク質もしくはペプチド、相同体、ミメティック、抗体もしくはこれらのフラグメント、またはZnT8特異的なT細胞受容体)を、推定上の調節化合物と接触させるステップと、その推定上の調節化合物とZnT8をベースとした物質との間の相互作用および/または該相互作用から生じる影響を検出するステップとを含む。そのようなアッセイは細胞を用いるものであってもよいし、非細胞系アッセイであってもよい。例えば、上述のZnT8タンパク質(そのフラグメントおよび相同体を含む)を使用して、ZnT8に選択的に結合する抗体および該抗体の抗原結合フラグメントを同定することができる。ZnT8抗体またはZnT8特異的なT細胞受容体を使用して、診断用アッセイまたは治療用アッセイにおいて有用となるZnT8の相同体、ペプチドミメティック、改変ペプチドおよびフラグメントを同定することもできる。ZnT8をベースとした試薬を使用して、本明細
書に記載された診断方法または治療方法において使用するための、ミメティックを含む新規な合成試薬を設計することができる。ZnT8の核酸分子、タンパク質、ペプチド、ミメティックまたは抗体を使用して、個体におけるZnT8への免疫応答を抑制または変更することが可能な様々な調節化合物を同定することもできる。
【0174】
そのような方法のステップには一般に、ZnT8をベースとした物質を推定上の調節化合物と接触させるステップ、ならびにアッセイ中のZnT8をベースとした物質または細胞に対する影響を測定するステップ、例えばZnT8 mRNAの転写を(例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写PCR(RT−PCR)、in situハイブリダイゼーション、ノーザンブロット法、配列分析またはレポーター遺伝子の検出により)検出するステップ;ZnT8の翻訳を(例えばイムノブロット法、酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫沈降、免疫組織化学法および免疫蛍光法により)検出するステップ;および/またはZnT8の生物学的活性を(例えば、本明細書に記載のようなZnT8の活性のうちいずれかを検出すること、またはそのような活動の阻害もしくは抑制を検出することにより)検出するステップが挙げられる。この方法で検出された化合物は、本明細書に記載された診断方法、予防方法、または治療方法において使用することができる。
【0175】
本発明によれば、本明細書に記載された方法およびアッセイは、脊椎動物、哺乳類、例えば、限定するものではないが、霊長類、家畜および家庭用ペット(例えばコンパニオンアニマル)である患者(患畜)において使用するのに適している。最も典型的には、患者はヒト患者であろう。
【0176】
以下の実施例は例証の目的で提供されるものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。以下および本明細書中の他所で開示された各出版物またはその他の参照文献は、参照により全体が本願に組み込まれる。
【実施例1】
【0177】
以下の実施例は、新規な糖尿病自己抗原としてのZnT8(Slc30a8としても知られている)の最初の同定について述べる。
本発明者らは、事実上全ゲノムをカバーするアフィメトリクス社(Affymetrics)のヒ
トU133チップおよびマウスMOE430チップ、ならびにマウス膵臓中の遺伝子転写物について報告するPanchip 5.0を使用して、オリゴヌクレオチド・マイクロアレイ実験を実施した。データは、正常なマウス、糖尿病モデル(NODおよびob/ob)ならびにIAPP遺伝子およびNgn 3における欠失を備えたマウスから単離された膵島から、ならびにマウス膵臓腫瘍細胞株(aTC1−6グルカゴノーマ、βTC3、およびMin6インスリノーマおよびmPAC腺管腫瘍株)から得た。データを解析して、膵島細胞種に特異的な発現を示す転写物、および膵臓のα細胞とβ細胞との間の該転写物の区別を明らかにした。遺伝子オントロジー(GO)の注釈に基づいたさらなる分析を使用して、ヒトおよびマウス両方の候補自己抗原についての遺伝子リストを作成した。最高スコアの10候補のうち、5つは既知の糖尿病自己抗原であり、これに促されて本発明者らは、最高スコアの転写物のうちの1つ(ZnT8に相当)について、初発のヒトT1D被験者における体液性自己免疫の標的としての概念を検証する実験を実施した。この候補物に対して開発された血清学的アッセイは、糖尿病の被験者の20%において免疫反応性を検出し、対照では検出しなかった(<2.5%)。現時点での計画は、体液性自己免疫および細胞性自己免疫の両方のアッセイを使用して、上記リスト上でこの遺伝子およびその他の遺伝子の候補を調査すべく努めることである。
【0178】
具体的には、コードされるマウスmRNAのほぼ完全な範囲(トランスクリプトーム)をカバーする遺伝子マイクロアレイの出現により、膵島で発現する遺伝子サブセットの特
定が可能となった。いくつかの公表された研究により、膵島組織において、膵島細胞の種類に特異的に、また膵島由来の細胞株において発現する遺伝子が記録されている(67)(シャレフ(Shalev)、2002年)(68)。さらに、in vitroにおけるグルコースまたは炎症性サイトカインを用いた刺激のような生理的かつ病態生理学的操作に対する膵島の反応についての研究、また膵臓の機能または発生に影響する突然変異遺伝子を有するマウスからの研究が報告されている。残念ながら、このデータの多くは、現在のところ中央管理機関の公的データベースを通じてアクセスすることができないか、様々なマイクロアレイ基盤上にあってデータの正規化が困難であるかのいずれかである。本発明者らは、それぞれの生物種由来の事実上すべての転写物について報告する、ヒトU133オリゴヌクレオチドチップおよびマウスMOE430オリゴヌクレオチドチップの両方を使用して、50を超えるマイクロアレイ実験を実施した。これは、正常なマウス、糖尿病モデルマウス(NODおよびob/ob)ならびにIAPP遺伝子およびNgn3に欠失を有するマウスからのデータを含む。後者は、膵臓の内分泌細胞が完全に欠けており、したがって、様々な在胎時点での分析から、発生の全体を通して外分泌腺および腺管組織と比較して内分泌細胞内で高度に発現される転写物の同定が可能となった(69)。これらのデータを、組織の種類が45種の大きな非膵臓組織プールからのアレイデータおよびdbEST配列データ(ノバルティス(Novartis)データセットおよびユニジーン(Unigene
)発現プロファイル)と比較した。マウス膵臓腫瘍細胞株(αTC1−6グルカゴノーマ、βTC3、およびMin6インスリノーマならびにmPAC腺管腫瘍株)の分析から、膵島細胞の種類に特異的な発現を示す可能性の高い転写物を選択するための予測スコアの作成、ならびに膵臓のα細胞とβ細胞との間の該転写物の区別がさらに可能となった。これらの細胞株は、腫瘍細胞の表現型と関係する遺伝子を発現するので、ラットのインスリン2プロモーター下でEGFPに連結された自己抗原フォグリンを発現するトランスジェニックマウスから単離された膵臓β細胞についても分析を実施した。表2は、ANOVA分析によって、第1にNgn3の野生型マウスおよびノックアウトマウスにおいて任意の胎生齢で差次的に発現するとして(膵臓の内分泌腺および前駆体)、また第2に成体マウスの膵島に存在するとして転写物が定義された遺伝子の一部をリストしている。次いで、該リストをαTCおよびβTC細胞株における相対的発現に基づいて層別化した。これらの手法により、Ipf1、Arx、Pax4、Pax6、Brn4、NeuroDのような膵島の発生に関与する既知の転写調節要素の大部分の膵島細胞特異性、ならびにいくつかのα細胞およびβ細胞遺伝子の既知の細胞種特異性がうまく予測された。PTPRN(IA−2)、プロホルモン転換酵素(Pcsk1、Pcsk2、Cpe)およびグラニン(Chga、Chgb Scg2、Sgne1)のような既知の神経内分泌系の転写物は、共通のαTCおよびβTC転写物のプール内にあった。他の膵島内分泌細胞に関連した遺伝子は、予測のとおり、いずれ(Ppy、Pyyおよびグレリン)においても発現されなかった。既知の遺伝子の中にはいくつか驚くべきことがあり、例えば、ウィリアムズ・ビューレン症候群の染色体領域14の遺伝子が、β細胞特異性を示す転写物として出現した。この転写因子は解糖系酵素および糖新生酵素の重要な調整因子であり、肝臓を起源とする2型糖尿病の形態と関連する(70)。該因子は広範囲に分布するものと一般に考えられている。in situハイブリダイゼーション分析を用いた追跡調査(データは示さない)から、実際に、該転写物は、発生途上の膵臓の内分泌細胞が出現する領域に見出され、また成体の膵臓においてはβ細胞特異性と一致する分布状態で膵島に限局されることが示された。
【0179】
表2. e12.5、e15.5またはe18.5におけるNgn3 koの膵臓で激減した遺伝子転写物を、内分泌細胞株αTCおよびβTCならびに成体の膵島における発現について調べた。膵島内分泌細胞の構成成分には下線が付され;既知の自己抗原は太字で強調されている。
【0180】
【表2】
表2は、既知のT1D自己抗原の分布についても、太字で強調して示している。この比較的単純なバイオインフォマティクス分析により、インスリン1および2、IGRP(G6Pc−rs)、IAPPならびにIA−2(PTPRN)については予想された細胞部位に示されたが、GAD65は示されなかった。しかしながらGAD65は、ヒトの膵島には豊富でも(71)、マウスの膵島では本発明者らを含むほとんどの研究者によって検出されない。上記の分析は、多くの自己抗原が細胞種特異性を示すという事実を明確に示している。しかしながら、そのこと自体は候補物を規定するのには十分ではなく、したがってこのバイオインフォマティクス手法は、自己抗原候補の特質であると考えられるいくつかの特徴を考慮し、かつ同時に存在/不在の判定に基づいて候補を除外しないように改良されてきた。このモデルは本質的に次の特徴を考慮に入れている。
【0181】
1.必ずしも絶対的ではないが、自己抗原は標的細胞を伴う特異性を示す。
2.大多数の自己抗原は標的細胞において中程度〜高レベルで発現される。
3.T1D自己抗原は、制御された分泌経路の構成分子と物理的に結合するようである。
【0182】
4.細胞性自己免疫の標的の多くは、膜結合型のようである。
5.ほとんどが末梢抗原を発現する胸腺細胞でも発現される。
6.いくつかは組織特異的な選択的スプライシングを示す。
【0183】
特徴1〜4は、マイクロアレイのデータセットの共通部分および構成要素の遺伝子の注釈に基づいて評価することができる。そのようなデータに基づいて「自己抗原指数」を得ることは可能であると考えられるが、特定の構造的、分子生物学的、および細胞生物学的な特徴を抗原性に寄与するものとして重視する程度は、細胞性応答と比較した体液性応答への相対的寄与率のように、判定中である。上記の問題を扱うために、本発明者らは、発現の量および膵臓内分泌部への特異性に基づいて2組の遺伝子(1つはマウス、1つはヒトの遺伝子)についてまとめた(表3);マウスのデータは表2のデータに由来し、発現データのヒトのデータは、79種のヒト組織のノバルティス(Novartis)GeneAtlas(72)に由来する。解析をGeneSpringおよびGeneSpeedで実施したが、後者はジャン・ジェンセン(Jan Jensen)らによりコロラド州デンバー所在のバーバラ・デイビス・センター(Barbara Davis Center)で開発されたタンパク質ドメイン・データベースである。
【0184】
表3
A:マウスβ細胞の転写物
308個の転写物は、Ngn3機能喪失(null)マウスの膵臓中に存在しないこと、成体の膵島には存在すること、およびβ−TC細胞株に存在すること、に基づいて選択された。これらの遺伝子それぞれについてUnigene EST発現データベースを検索して、膵臓(ただし膵島ではない)を含む38種の異なるマウス組織において各遺伝子が転写される頻度を測定した。100万当たりのESTクローンの頻度を、全組織中の合計と比較して膵臓で観察された転写物の割合(%)と共に表に示す(特異性)。発現量(abundance)と特異性(specificity)との積を用いてデータをソートした。既知の糖尿病自己抗原をコードする転写物は強調表示されている。
【0185】
B:ヒトの転写物
71種の異なるヒト組織を表わすノバルティスのカスタムオリゴヌクレオチドアレイについて、最初に、膵島データセット中のどの遺伝子が他のすべての組織のメジアン値と著しく異なるシグナルを示したかを判定するためにクエリを行った(ANOVAカットオフ<0.0002)。すべての組織のメジアンのシグナルより5倍大きいシグナルを示したこれら転写物のサブセットにフィルタをかけ、低いシグナル強度(<200)を示す転写物、および膵島と比べて膵臓でより高いレベルで発現された転写物を除去した。その後、これらの基準を満たした140種の遺伝子を用いてUnigene EST発現データベースを検索し、各遺伝子が膵臓を含む52種の異なるヒト組織で転写される頻度を測定した。膵臓についての100万当たりのESTクローンの頻度(発現量、abundance)を、
全組織中に対する膵臓中の転写物の割合(%)と共に表に示す(特異性、specificity)
。データをAbu
*Spec指数によってソートした。既知の糖尿病自己抗原をコードする転写物は強調表示されている。
【0186】
【表3】
いずれの場合においても、既知の糖尿病自己抗原はリストで高位に出現し、ICA69およびGAD67のような比較的重要でない体液性自己免疫標的でも上位100候補に入っている。両リストの転写物はかなり重複し、その相対存在量および組織特異性は、マウス膵島でヒトと比べて発現に乏しいGAD65を例外として、類似していた。上位100のタンパク質の多くは、SWISS PROT、PrositeおよびEPCONdbデータベースの遺伝子オントロジー(GO)機能の検討によって判定されるように、分泌経路に関連した分泌顆粒タンパク質または膜タンパク質である。
【0187】
これらの遺伝子リストが実際に自己抗原性の標的を予測することができるかという疑問に取り組むために、本発明者らは、量は中程度だが組織特異性の高い転写物としてマウスおよびヒトの遺伝子リストのいずれにおいても高位に出現している膜貫通型のカチオン輸送体、Slc30a8(ここではZnT8として知られる)についての免疫沈降アッセイを開発した。クローニングした配列のin vitro翻訳、ならびにインスリン療法を受ける前の44名の初発の被験者ならびに年齢およびHLAが一致する40名の対照者由来のヒト血清を用いて、放射免疫沈降アッセイを開発した(
図1)。具体的には、Slc30A8をヒトの膵島cDNAから増幅し、pCDNA3 directional topo(R)ベクター内にクローニングし、配列を確認し、5μCiの
35Sメチオニンを用いたin vitro翻訳反応において網状赤血球抽出液中で鋳型(0.5μg)として使用した。ヒト血清試料(5μl)を、0.1%のNP40を含む50μlのトリス緩衝生理食塩水中で20,000dpmの翻訳産物とともに4℃で一晩インキュベーションした。固定化したプロテインAを各インキュベーション物に添加し、免疫グロブリンに結合した放射活性を濾過により単離し、シンチレーション計数によって測定した。
【0188】
T1D血清試料のうちの9つは、該アッセイ中で示された放射性リガンドの50%まで達する、対照の血清で観察されたレベルを上回る有意な結合を示した(マン・ホイットニーのノンパラメトリックな両側検定)。自己抗体は、初期の発病患者(<8歳)およびそれより年上の患者(>8歳)のいずれにも存在した。9名の陽性の患者のうち、6名はインスリン自己抗体について、5名はGADについて、また6名はIA−2について陽性の試験結果が出た。Slc30a8は、独立した疾患マーカーであるように思われる。
【0189】
血清学的な診断アッセイおよび細胞性自己免疫のためのアッセイをさらに開発するには
、少なくとも機能上は純粋物で、本来の立体配座にフォールディングされ、細胞分裂促進性の不純物を含まない抗原の生産が必要である。このことは、特に過剰発現した場合に細菌および真核細胞に対して毒性の傾向を有するSlc30a8およびIGRPのような膜貫通型タンパク質については、些細な問題ではない。
【0190】
IGRPの場合には、本発明者らは以前に、制御型メタロチオネイン・プロモーターにより駆動される構築物を使用して、ショウジョウバエS2細胞を安定的にトランスフェクションすることにより、高レベルの抗原を本来の形態で発現することができている。そのような細胞からの粗製膜画分(CMF)について、IGRPで免疫化したNODマウス由来の流入リンパ節細胞を、IL−2プロモーターの制御下でLacZを安定に発現するBWZ36リンパ腫細胞株(73)と融合させることによって生成された、IGRP反応性のT細胞ハイブリドーマのクローンを用いて試験した。
【0191】
例えば、
図2Aに示すデジタル化画像では、S2細胞をmIGRP V5 His構築物で安定的にトランスフェクションし、0.5mM Cuで発現を誘導し、細胞膜フラクション(CMF)を抗V5抗体とともにブロットした。該タンパク質はTX−100で効率良く抽出され、これを金属キレートアフィニティカラムに結合させ、非変性条件下にてイミダゾールで溶出させた。
図2Bは、IGRP−CMF T細胞ハイブリドーマ(クローン1−76−54)についての反応アッセイを示すグラフである。T細胞ハイブリドーマ(細胞2×10
5個/ウェル)を、APCとして放射線照射したNOD脾細胞(細胞1×10
6個/ウェル)および抗原(IGRP−CMFまたはS2−CMF、10μgタンパク質/ウェル)とともに一晩インキュベーションし、βガラクトシダーゼ活性を分光測光分析した。
図2A−3Bは、IGRP産生がメタロチオネイン・プロモーターによってしっかりと制御されていること(
図2A)、粗製膜画分が哺乳類のAPCによってプロセシングされ、IGRP反応性のT細胞ハイブリドーマクローンから、クロロフェノールレッドβ−ガラクトシドを基質とした分光測光法で計測されるIGRP特異的な応答を引き起こすことが可能であること(
図2B)を実証している。推定上の抗原の昆虫細胞による発現と、T細胞増殖アッセイまたはハイブリドーマ活性化アッセイのいずれかとを組み合わせることにより、可溶性の膜構成成分を含む様々なタンパク質ならびにグリコシル化およびその他の翻訳後修飾を必要とするタンパク質に適応可能であるはずの、総括的であるが堅牢な一式の標準的操作プロトコールが提供される。
【実施例2】
【0192】
次の実施例は、表3(実施例1を参照)の有力候補の最終候補リストをさらに評価することにより体液性および細胞性自己免疫の新たな標的を同定するためのアッセイについて述べる。
【0193】
最初に、ESTとしてのみ表わされた見慣れない候補物および分子について、完全長のクローンを得て、β細胞における発現を確認するためにヒトおよびマウス膵臓組織においてin situハイブリダイゼーション分析を実施する。
【0194】
ヒト被験者の血清学的解析による候補抗原のスクリーニング
このアッセイはヒト被験者で行うのが最も良い。というのは、免疫反応遺伝子群の遺伝的な多様性および複雑さから、ヒト被験者はより広範囲の自己免疫反応を示す可能性が高いからである。1試料当たりのコストが低い96ウェル形式で半自動的手順を使用して、1日に多数の試料をスクリーニングすることもできる。バーバラ・デイビス・センター(Barbara Davis Center)には、十分に注釈が付され、またHLAハプロタイプと、T1Dに関連する分子(インスリン、GAD65、IA2、フォグリン)、セリアック病に関連する分子(トランスグルタミナーゼIgA)ならびに多腺性内分泌疾患に関連する分子であって副腎皮質に影響を与えるもの(アジソン病の21βヒドロキシラーゼ(74))お
よび甲状腺に影響を与えるもの(TSH受容体(75))への自己反応性とに関して分析がなされた何万もの試料が保管されている。新たな初発の患者由来の20,000を超える血清、加えてそれより少数の、T1Dに関して不一致な一卵性双生児由来の試料、ならびに糖尿病患者の一等親血縁者から得られた、抗体陰性から単一および複数の抗体陽性ならびに疾患の発症に至る病期に及ぶ連続試料を利用可能である。
【0195】
最初に2種類のアッセイを、それぞれ放射免疫沈降法および時間分解蛍光検出法(TRF)に基づいて開発する。いずれのアッセイも候補抗原のクローニングおよび発現を必要とし、本発明者らは、配列をインビトロジェン(Invitrogen)のGATEWAY(R)エントリー・ベクターに挿入するように設計されたプライマーを使用するPCR鋳型として役立つことになる、逆転写したmRNAまたは保証付きのMGCプラスミドのいずれかを用いて開始する一般的な方法をとった。エントリー・ベクターから、該配列を、単一段階の組換えを介してin vitro翻訳、細菌の組換え型タンパク質の生成、アデノウイルスまたはバキュロウイルス産生へと進めることができる。
【0196】
放射免疫沈降アッセイについては、CMVプロモーター下にクローニングしたcDNAを、網状赤血球抽出液および5μCi
35Sメチオニンを用いる転写/翻訳共役反応(TNTキット;プロメガ(Promega))において鋳型(0.5μg)として使用すること
になる。96ウェルプレートに入れた血清試料(5μl)を、0.1%のNP40を含む50μlのトリス緩衝生理食塩水中にて20,000dpmの翻訳産物とともに4℃で一晩インキュベーションする。その後、固定化したプロテインAを各インキュベーション物に添加して免疫グロブリンに結合した放射活性を捕捉し、次いで該放射活性を濾過により回収し、シンチレーション計数によって測定した。標準化および正規化を行うために、陽性および陰性の参照用血清も各アッセイに加える。
【0197】
TRFアッセイについては、cDNAを大腸菌(E.coli)または昆虫の細胞中でヒスチジンタグ付きの構築物として適切に発現させ、金属キレートクロマトグラフィによって精製する。96ウェルプレートを該精製タンパク質(1〜10μg/ml)でコーティングし、ブロッキングを行い、次いで0.1%のNP40を含む50μlのトリス緩衝生理食塩水中にて血清とともに4℃で一晩インキュベーションする。プレートへの免疫グロブリンの結合を、ユーロピウムとコンジュゲートしたマウス抗ヒトIgG(DELFIA)および時間分解蛍光測定法を使用して、酸性pHにて測定する(ヴィクター(Victor)2、多重チャネルカウンター)。いずれのタイプのアッセイにおいても、特異性に関して試験し、かつ異好性抗体のアーチファクトを除外するために、抗体を組換え型抗原で予め吸着処理して制御する。膜結合型の抗原の場合には、完全長の分子ではなくドメイン特異的な構築物を用いて作用させる必要があると判明する場合があるが、これは、特異ドメインを増幅するプライマーを設計し、上述したのと同じ方法でクローニングすることにより、容易に達成することができる。
【0198】
最初の目的は、190例の初発T1Dの血清および190例の一致した対照物のバンクをスクリーニングし、許容可能なカットオフ値を決定するために受信者動作曲線分析を、統計的有意差を判定するためにマン・ホイットニーのノンパラメトリック検定を使用して(Prismソフトウェア;グラフパッド社(Graphpad Inc.))各アッセイの特異性お
よび感度を確立することになる。糖尿病の血清を用いた陽性結果に続いて、バックグラウンドを最小限にしてシグナル/ノイズを最大限にするために、アッセイ手順のさらなる最適化を行うことになる。真の陰性結果(低バックグラウンドでありシグナル/ノイズが1)に続いてさらに、アッセイの改変、例えばin vitro翻訳アッセイへの膵臓ミクロソームの導入を行うことができる。疾患特異性の低いアッセイは、疎水性のドメインを含まない構築物、別の妨害物質、異なる免疫グロブリン捕捉手順の使用により、また試験用血清を組換え型抗原で予め吸着処理した試料と一致させることにより、アッセイにおけ
るノイズを低減するための協調努力で改善することができる場合もある。トラブルシューティングに対してどれだけ努力するかは、明らかに、その問題の性質および疾患特異的な自己反応性が疑われるかどうかの兆候によって決まることになる。有望なアッセイについては、疾患の自然な経過のうちいつ自己反応性が生じるのか、他の自己抗原との自己反応性の重複、および患者の年齢またはHLAの状態との関連があるかどうかという疑問を解くために、他の利用可能な臨床試料に適用することによって追跡調査することになる。本発明者らの研究室およびバーバラ・デイビス・センターからのいくつかの出版物が、そのような研究のひな型として役立つ(76;77)。
【0199】
候補抗原への細胞性免疫応答に関するHLA−DRS、−DR4および−DQ8トランスジェニックマウスのスクリーニング
本発明者らの以前のデータから、バックグラウンドがB10.MであるHLA−DQ8
+I−Aβ
o/oマウスは、フォグリンのエピトープペプチド2および7に対するCD4
+T細胞のリコール反応を示すことができること、ならびにその同じペプチドが、多くはDR4/DQ8ハプロタイプを有する初発ヒト患者で末梢T細胞の標的とされることが示されている(78)。これらの従来の研究は、ヒトのHLA−DQ8がマウスI−A
g7と同様の結合特異性を有し、該−DQ8分子が、マウスまたはヒトのいずれかの共刺激分子およびアクセサリー分子との関係において抗原を提示することも考えられるという予測を支持していた。該研究は、HLA導入遺伝子が厳密に糖尿病感受性のバックグラウンド上に担持されていなくてもヒトの疾患に関連するエピトープを同定する手段としての、トランスジェニックマウスモデルの有用性を支持する。1A型糖尿病のヒトのMHC感受性遺伝子座によって提示される可能性のあるあらゆる候補抗原からのあらゆるT細胞エピトープを評価するために、既知の糖尿病感受性遺伝子座を表わすものとしてHLA−DQ8、−DR3(DRB1
*0301)および−DR4(DRB1
*0401)トランスジェニックマウス、糖尿病との関連のない「保護的」クラスII分子の対照としてHLA−DR2(DRB1
*1502)を使用して、ヒト組換えタンパク質で免疫化した後のT細胞のリコール反応を分析する。
【0200】
動物:数系統のHLA−DRおよび−DQトランスジェニックマウスが作製され、T1D、実験的自己免疫性脳炎および全身性エリテマトーデスのような疾患において免疫応答が形成される際のこれらの分子の役割が評価されている(79;80)。本発明者らは、HLA−DQ8
+I−Aβ
o/o、−DR2、−DR3および−DR4トランスジェニックマウスを、米国ミネソタ州ロチェスター所在のメイヨークリニック(Mayo Clinic)免
疫学部門(Department of Immunology)のシェラ・デービッド博士(Dr. Chella David)から入手しており、これらのコロニーを発明者らのセンターにおいて確立済みである。ヒトCD4を有する別のHLA−DR4系統をスタンフォード大学のグレタ・ソンダーストラップ博士(Dr. Greta Sonderstrup)から最近入手し、現在数を増やしているところで
ある。HLA−DQ8(DQA1
*0301/DQB1
*0302)マウスを、ゲノム構築物を用いてI−Aβ
o/oI−Ea
o/oバックグラウンド上に生成させ、したがってHLA−DQ8は唯一のクラスII分子として生成される。ゲノムの−DR2(DRB1
*1502)ならびにcDNA構築物−DR4(DRB1
*0401)および−DR3(DRB1
*0301)を、マウスI−EaまたはヒトDRa導入遺伝子のいずれかと組み合わせる。すべてのトランスジェニック動物について、尾部から得たDNAのPCRによりMHC発現について遺伝子型を確認し、またPBMCおよび脾細胞についてFACS分析を実施してヒトの導入遺伝子の発現レベルを確立し、かつマウスMHC遺伝子産物の発現を観察する。
【0201】
抗原提示細胞(APC):放射線照射(20〜35Gy)した同系マウスの脾細胞または骨髄由来のDCを、タンパク質抗原(1〜100μg/ml)またはペプチド(0.1〜10μg/ml)存在下で共にインキュベーションすることによるCD4
+細胞のin
vitro刺激に使用する。使用時には、25ゲージの注射器針を用いた洗浄後に8〜12週齢のオスのマウスの脛骨および大腿骨の骨髄からDCを調製する。残屑および大きな細胞凝集物を濾過(70μmメッシュ)により取り除き、赤血球をNH
4Clで溶解させ、細胞を、10%の熱不活性化FBS(エンドトキシンフリー)を含み抗生物質、ピルベート(1mM)、β−メルカプトエタノール(50μM)および10ng/mlのGM−CSFが添加されたRPMI 1640に再懸濁した。第2日および第4日目の培養物から、新鮮な培地に置き換えることにより非付着性の細胞を取り除き、緩く付着性の細胞を第6日に回収する(大部分が未熟なDCであり、単球および顆粒球がある程度混入している)。この時点で、細胞を0.1μg/ml細菌性リポ多糖(LPS)と一緒に組換え抗原に24〜48時間曝露して、「成熟」およびクラスII MHC分子のアップレギュレーションを引き起こす。
【0202】
T細胞株およびハイブリドーマ:T細胞の細胞株およびクローンは本発明者らが以前に使用した(78)方策によってトランスジェニックマウスから作製するが、該方策は、抗原特異的な応答を引き起こすための免疫化(5〜100μgの組換え抗原を、50μlのCFAに含めて尾の基部に皮下注射)を利用する。免疫化8〜10日後に鼠蹊部および大動脈周囲のリンパ節からT細胞をハーベストし、好ましくは別のベクター系で生産された抗原に対するCD4
+リコール反応について試験する(すなわち、免疫化にはS2由来のHisタグ付き抗原を用い;リコールには細菌のGSTハイブリッドを用いる)。続いて抗原特異的な細胞を用いてT細胞ハイブリドーマを作製する。T細胞にin vitroで刺激を1回与えてから、IL−2プロモーター由来のNFAT要素の制御下でLacZを安定に発現するBWZ36胸腺腫細胞株と、ポリエチレングリコールを介して融合させる(73)。耐HAT性の細胞株をRPMI/FBS中で増殖させ、限界希釈法によってクローニングし、1×10
5個のハイブリドーマ細胞をRPMI/FBS中の1×10
6個の同系の脾細胞および抗原とともに共培養することにより分析する。16〜24時間後に、誘導されたβ−ガラクトシダーゼを、可溶性の比色定量用基質であるクロロフェノールレッド−β−ガラクトシドを使用して計測するか(
図1を参照)、またはX−Galを使用して個々の固定したハイブリドーマ細胞について計測する。MHC拘束性を確認するために、ハイブリドーマについて、同じ遺伝的バックグラウンドの非トランスジェニックマウス由来の脾細胞など別のAPCと、本発明者らがT1Dおよび対照の器官ドナーから現在確立しつつあるEBV形質転換Bリンパ芽球様細胞株のパネルとを使用したアッセイも行う;(78)を参照のこと。クローン性を保証し、かつクローンの多様性を評価するために、逆PCR(81)によって全RNAから調製したcDNAの配列決定を行うことによりTCRの使用頻度を測定する。
【0203】
HLA−DQ8
+およびDR4
+トランスジェニック動物におけるフォグリン細胞質ドメインに対するT細胞応答を調べた本発明者らの以前の経験は、免疫原性があるとすれば、他の抗原に対する応答もこれらの動物において得られるはずであること、該応答から情報が得られるであろうことを示している。I−A
g7および−DQ8は、これらが関連ペプチドを提示する能力の点から、これらの分子を担持するAPCがオーソログ分子に拘束されたT細胞に対して交差提示しないとしても、機能上極めて類似している。高親和性のクラススイッチ抗体の産生はT細胞依存性のプロセスであるので、リコール反応は、上述の実験で自己抗体を誘発することが先に示された抗原で免疫化された動物から検出されると思われる。しかしながら、逆は必ずしも真実ではなく、体液性応答を示さない抗原が依然として細胞性免疫の標的である可能性がある。HLA−DR2導入遺伝子は、糖尿病感受性に関係せず、また疾患関連ではない異なるエピトープに連結されることも考えられるクラスII分子として、本研究に含められている。本発明者らの以前の経験から、T細胞クローンではなくハイブリドーマを使用すればより多様性の大きいTCRが得られる可能性が高いことが示唆されるため、本発明者らが最初に重点を置くのはそのような試薬を生成することになろう。
【0204】
NODマウスとは異なり、ヒトの糖尿病被験者は多数のMHCクラスII分子を発現しており、潜在的な将来の研究分野は、二重トランスジェニック動物において様々な糖尿病感受性または保護性の対立遺伝子を調査することである。例えば、HLA−DR3/−DQ8動物は、より重篤な膵島炎(しかし糖尿病ではない)を発症し、親動物と比較してGAD65に対する自発的な応答の増大を示す(82;83)。理論によって拘束されるものではないが、本発明者らは、この動物が候補自己抗原に対する反応性の増大も示すかもしれないと考えている。同様に、HLA−DR3と−DR4またはHLA−DR2と−DQ8の共発現の影響を検討することも考えられる。
【実施例3】
【0205】
次の実施例は、糖尿病自己免疫の新規なマーカーおよび標的としてのZnT8の同定に関する別の実験について述べる。
ZnT8をコードするcDNAが糖尿病自己免疫のマーカーとして興味深いかもしれないという概念は、遺伝子ノックアウトマウス(Ngn3機能喪失)由来のマイクロアレイデータセットのバイオインフォマティクス分析および他の組織における組織発現パターンとの比較(実施例1)から生じた。当初、該マーカーは、Riken EST C820002P14に対応するUnigene Mm.208831として注釈が付与され、次いでZnT8に相当することが認識された。
【0206】
本発明者らは完全長ZnT8を生産し、該タンパク質を、一連の実験において初発の糖尿病の血清を用いて放射免疫沈降アッセイで試験した。初期のデータは、患者の10%が反応を示し、ZnT8が1型糖尿病の診断アッセイに役立つ新規な自己抗原であるかもしれないことが示されたことを表している。
【0207】
その後本発明者らは、完全長分子のうち最後のおよそ102アミノ酸に相当するZnT8のC末端フラグメントを設計し、生産した。アッセイにおけるこのフラグメントの試験について以下にまとめる。
【0208】
144名の初発のT1D患者(年齢は1〜55歳;平均年齢11.9歳)由来の血清を、ZnT8フラグメントを使用して試験すると、45%は放射免疫沈降アッセイにおいて血清反応陽性であり、対して年齢およびHLAが一致する対照集団では<1%であった。年齢による層別化から、抗体は年長の個体においてより高い傾向を示し、12〜15歳で糖尿病を発症した群では70%の最高値であった。この年齢プロファイルは、他の糖尿病自己抗原であるGAD65およびIA2のプロファイルに類似していたが、インスリン抗体よりは遅く現われる。この新しい抗原に対する自己反応性は、IAA、GADおよびIA2への自己反応性のレベルとは相関が無く、したがって独立したマーカーと考えられる。
【0209】
1歳未満から臨床的糖尿病の発症まで追跡調査した9名の人々からの試料を分析した。これらはバーバラ・デイビス・センターのDAISY研究の兄弟コホートから得たものである。これらの人々のうちの8名は糖尿病前症の間に血清反応陽性であった。自己反応性は、糖尿病前症の後期に現われる傾向があり、通常はGADおよびインスリンの自己抗体の出現に続いて現れた。発症時期は一部の例においてIA2自己反応性の前後であった。対象者のうちの1名では、抗ZnT8が疾患の発症前に検出される唯一の抗体であり、この新しい自己抗原の発見の重要性を明確に示していた。
【0210】
インスリン GADまたはIA2抗体について陰性の8名の初発患者を試験した。この群のうち、2名は新しい抗原に陽性の試験結果であり、再び該抗原が既存のマーカーとは独立に予測に役立つという概念が強化された。
【0211】
より具体的には、
図5を参照すると、この図は、ZnT8のC末端プローブのための標準的アッセイを示している。曲線は、7回の別個の実験において二連でアッセイされた希釈系列の平均±SDを示している。この実験は3か月にわたって実施され、実験には異なるin vitro翻訳反応が使用された。in vitroで翻訳された
35S標識プローブ(20000cpm)を、0.15%のトゥイーン(Tween)20、1%のBSA
および0.01%のNaアジ化物を含む50μlのPBS(pH7.4)の中で5μlの血清とともに一晩インキュベーションしてから、20μlの50%(体積比)プロテインAアガロースビーズ懸濁液を添加した。45分後、濾過によってビーズを回収し、4回洗浄し、次いで乾燥させてから30μlのシンチレーション液を添加して液体シンチレーション計数を行った。ZnT8のORFプローブおよびN末端プローブについても同等のアッセイを開発した。陽性試料:9名の初発の糖尿病患者血清をプールしたもので、プールした対照血清で倍加希釈される;対照試料:糖尿病患者の兄弟由来の9名の年齢、性別およびHLAが一致した試料をプールしたもの;非特異的結合:血清を添加していない。
【0212】
図6は、様々なZnT8構築物を用いたDASPのブラインド試験の結果を示す。in
vitroで翻訳された
35S標識構築物(20000cpm)を、0.15%のトゥイーン20、1%のBSAおよび0.01%のNaアジ化物を含む50μlのPBSの中で5μlの血清とともに一晩インキュベーションしてから、20μlの50%(体積比)プロテインAアガロースビーズ懸濁液を添加した。45分後、濾過によってビーズを回収し、4回洗浄し、次いで乾燥させてから30μlのシンチレーション液を添加して液体シンチレーション計数を行った。免疫沈降した放射活性を、プール血清から調製した標準品および16名の個々の対照血清のパネルに対する比率として以下のように表した:抗原性指数=(試験cpm値−対照cpm値の平均)/(標準品cpm値−対照の平均)。アッセイは3連として実施した。DASPから対照として100例の参照用試料と50例の一致した初発糖尿病患者試料が提供された。アッセイのカットオフ値は、対照の平均+4SDに相当する指数として定義され、ORFアッセイ、N末端アッセイおよびC末端アッセイについてそれぞれ0.1543、0.1555および0.0129であった。復号時には、これは98、998および99%点に相当した。この基本原理のもとに、糖尿病試料の8%、4%および60%に陽性の試験結果が出た。
【0213】
図6に示すように、ORFアッセイおよびN末端アッセイではいくつかの対照血清が一貫して陽性の試験結果を示した。該アッセイは感度も比較的低く、C末端アッセイと比べて低いシグナル対ノイズ比を示した。すべてのアッセイにおいて糖尿病試料と対照試料との間の差は有意であったが(P<0.0001 マン・ホイットニーのランク検定)、最も堅牢なアッセイはC末端構築物(C4プローブ 配列番号24)を用いるアッセイであった。より高性能のC末端アッセイは、より溶解度の高いプローブ(膜貫通領域が存在しない)および/またはその他の潜在エピトープとの接触と関係している可能性がある。
【0214】
図7に示す実験は、ZnT8がICAおよびゴールドスタンダードの生化学的な抗体について陰性の患者の自己抗体を検出することを示している。糖尿病の自己抗体の検出のための最初のゴールドスタンダードはICA(膵島細胞質抗体)であり、血液型O型のヒト由来の組織学的膵臓切片の血清への曝露と、その後の蛍光標識した二次抗体とのインキュベーションおよび訓練された観察者による顕微鏡観察とを必然的に伴う、複雑で、時間を要する、比較的主観的なアッセイである。このアッセイは、3種の生化学的抗体のアッセイ(インスリン GADおよびIA2)で完全に置き換えられてはいないが、これはICA陽性であるが生化学的抗体については陰性の人がいるからである。したがって、60000を超える被験者に関する大規模な糖尿病予防治験(Diabetes Prevention Trial)1
については、ICAはリスクの高いT1D患者の一親等血縁者の集団において自己免疫性を明らかにするための手法として使用された。
【0215】
ICA陽性だがインスリン、GADおよびIA2については陰性であった30例の初発患者の血清の分析から、24%がZnT8のC末端プローブに反応性であることが示され、ZnT8がICAアッセイで検出される抗体の構成成分かもしれないことが示唆された。さらに一層注目すべきなのは、インスリン、GADおよびIA2だけでなくICAも陰性であった個体由来の試料のうちの30例(20.3%)に、ZnT8抗体について陽性の試験結果が出たという知見である。これは、C末端プローブによって検出されるエピトープがORF分子では恐らく隠れていること(後の研究で確証された推定)を示している。ZnT8への反応性は、広く自己免疫に関係するものではないが糖尿病に特異的であるかもしれないという可能性がある。抗DNA抗体について陽性の試験結果が出た個体の一連の24例の試料は、ZnT8自己抗体アッセイにおいて陰性であった。
【0216】
図8A−Cは、初発集団における、ZnT8に対する自己抗体と、Ins(
図8A)、GAD(
図8B)およびIA2(
図8C)それぞれの自己抗体との関係を示している。この実験では、ZnT8のC末端プローブに対する自己抗体との関係を3つのゴールドスタンダードと比較した。データはBDCコレクション中の175名の初発患者に由来する。全領域のデータおよびデータの重複を示すために、結果を対数目盛の抗原性指数として示している。
【0217】
図9A−9Dは、疾患発症時の自己抗体の発現を年齢に対して示している(
図9A=ZnT8;
図9B=GAD;
図9C=インスリン;
図9D=IA2)。具体的には、この実験は、ZnT8血清反応陽性が疾患発症時に比較的年長の対象者において高く、インスリン自己反応性は低くなることを示している。データは、糖尿病の発症年齢が9か月から18歳までの237名の対象者に由来するものであった。年齢の関数として頻度のプロファイルを引き出すために、データを1年間隔でビン化した。ZnT8 C末端反応性は発症年齢の関数として増大し、インスリン反応性は公表された研究で見られるような予期された低下を示した。GAD反応性も劇的ではないが増大する傾向があった。より年長の対象者において自己反応性を検出するマーカーは、年長の個体におけるマーカーとしては利用性に乏しいインスリンを補う。疾患を治療するために使用される外来のインスリンに対して抗体が生成されるので、疾患発症後にインスリンを使用することはできない。この実験は、比較的年長の対象者では2型糖尿病として誤診されて不適当な治療が行われることの多い、加齢を伴う糖尿病の潜在している自己免疫(LADAあるいは型1.5糖尿病)を検出するための良い指数が、ZnT8抗体によってもたらされるはずであることを示している。米国には、恐らく多くのLADA患者が1型患者として存在している。
【0218】
図10Aおよび10Bは、T1Dの予測的マーカーとしてZnT8自己抗体を調べる実験の結果を示す。年齢9か月から糖尿病まで追跡調査されてきた43名の人々からの試料パネルを、ZnT8に対する自己抗体ならびにインスリン、GAD65およびIA2に対する3つのゴールドスタンダード抗体について遡及的にアッセイした。ここでは9名の人々に由来する一連の結果が例として示されている。抗体反応性は、cpmとして、被験者から対照者を差し引いて対照者の応答の標準偏差で割って、表されている。アッセイにおけるカットオフ値は、3SDに相当するかまたは陽性のアッセイが偶然生じる確率がおよそ1%であるグレーエリアによって定義される。
図10Aのパネルに示される患者は、インスリンに対する自己抗体は生じなかったが、1.5歳でIA2およびGADに対して陽性の試験結果が出た。IA2抗体は一時的な発現であったが4歳で再発した。その間に、ZnT8に対する高く持続的な反応性が生じた。その後、IA2抗体は再発し、5年後にこの人は臨床的糖尿病となった。
図10Bに示される患者は、インスリン、IA2またはGAD65に対する自己抗体は生じなかったが、臨床疾患の18か月前である2歳の時にZnT8抗体を示した。
【0219】
図11は、疾患発症時の糖尿病性自己抗体の状態を示す表である。ZnT8自己抗体の計測により、3つのゴールドスタンダード自己抗原IA2、インスリンおよびGAD65に対してさらなる予測力が提供される。公表された研究から、抗体の力価ではなく検出された抗体の数が疾患を最も強力に予測することが示されている。しかしながら、一部の人々は、3つのゴールドスタンダード抗体IA2、GAD65およびインスリンを全く示すことなくT1Dを発症する。このことは、見失われている反応性が存在することを示しており、この推定はINS、GADおよびIA2抗体の同時測定よりも多くの患者を検出する自己抗原の免疫組織化学的アッセイによって同様に支持される。しかしながら、ICAアッセイは時間を要し、主観的である。ゴールドスタンダード抗体のうち1つだけを示す個体については、5年以内に疾患を発症する相対危険度は低いが、2以上の抗体では予後不良が示唆され、仮にこれが利用可能ならば、治療的介入の指標となるであろう。
図11の上部は、糖尿病を発症した人々の臨床診断時の抗体の状態を示している。結果は、糖尿病自己抗原標準化プログラム(Diabetes Autoantigen Standardization Program)により提供された50名の初発糖尿病被験者および100名の年齢が一致した対照者についてのブラインド試験、ならびに先のスライドに示されたデータに由来するものである。ZnT8自己反応性についてのアッセイを追加すると、抗体陰性であった人の数は14%から8%へと著しく低下し、さらに12%はリスクがより高いことが示された。言い換えれば、抗体陰性と評価されたであろう7名の人のうち43%が実際にはZnT8に対する抗体を有していた。重ねて言えば、「低リスク」の1Abグループの7名の人々のうち、3名(43%)は、この3名をより高リスクに分類するZnT8抗体について陽性の試験結果を示した。
【0220】
3つのゴールドスタンダードのうち、インスリン自己抗体は測定するのが難しく、実験室間で該アッセイによる再現性が不十分である。仮にインスリンアッセイを廃棄してZnT8アッセイに置き換えたならば、0Ab患者の数が14%から8%に低下したままで、同程度の数の二重陽性および三重陽性の患者が存在することになるという利点があるであろう。さらに診断力があることを示すためには長期的な連続試験が行なわれる必要があるであろうが、ZnT8/GAD/IA2がINS/GAD/IA2よりもよい組み合わせになるだろうと仮定することは合理的である。さらに、
125I標識したリガンドの使用を回避し、抗インスリンアッセイに必要とされるような抗原の前吸着を実施することが可能であろう。
【0221】
図11の一部は、抗体が、異なる区分に分類された患者間でどのように分布しているかを示している。ZnT8 C末端抗体は、このグループの唯一の抗体として出現することが多いようであり、ここでもGADに類似しており予測に役立つことを証明している。ICA陽性であるが3つのゴールドスタンダードは陰性である人を選択した集団では、25%がZnT8 C末端陽性であった。
【0222】
図12Aおよび12Bは、ZnT8抗体アッセイの受信者動作特性を示す。データは、米国コロラド州デンバー所在のバーバラ・デイビス・センターにおける初発患者と、DASP提供の試料セットとの組み合わせから得た。この組み合わせは、発症時の年齢が1.5歳から59歳にわたる人々を包含していた。カットオフ値は、16例の対照血清群の3SDを限度として決定した。ROCプロットは、対照と糖尿病群とをその都度比較することによって生成した。
図12Aは免疫沈降指数を示し、
図12Bは、各アッセイの感度および特異性の関係を示す。
【0223】
図13は、ZnT8のORFプローブ、C末端プローブおよびN末端プローブに対する抗体の反応性の関係を示す。データは、バーバラ・デイビス・センターにおける初発患者と、DASP提供の試料セットとの組み合わせ、合計227名の人々に由来するものとした。C末端陽性の上位50名の患者は、ZnT8 ORFおよびZnT8 N末端プロー
ブへの反応性について陽性の試験結果を示した人々の大部分を含んでいた。N末端プローブおよびORFへの反応性にはかなりの相関があったが、ORFとC末端プローブの間にはなかった。これは、N末端との反応性に関与するエピトープはORFプローブによって検出されるエピトープのサブセットであるが、C末端は別の患者を検出し、ORF翻訳産物よりも良好な自己反応性の指標であったことを示唆している。ORFプローブは、膜貫通領域が誤って折りたたまれて正常なC末端のフォールディングを歪めるために正確にフォールディングできないので、上記のことが発生しうると思われる。C末端は、完全な分子から切り離されなければ一部は隠れていたかもしれない別のエピトープを含む可能性が考えられる。
【0224】
図14Aおよび14Bの実験は、ZnT8のN末端およびC末端が相互作用して両方のドメインに依存する新しいエピトープを生成するのか、またはN末端配列がC末端の中のエピトープを覆い隠すのかを調べている。
【0225】
該実験は、C末端プローブに強く応答したがN末端との反応性は低い(
図14A)か、N末端との反応性が高い(
図14B)かのいずれかであった、2つの糖尿病の血清のプールを用いて実施した。いずれの混合物を用いても、N末端およびC末端への反応性は独立であること、プローブを混合して免疫沈降させた放射活性は個々のプローブの合計と等価であることは明白であった。この実験の変法には、これらのドメインの相互作用に関与する可能性のある要因としてZnイオンの添加または内在性Znのキレート化を含めた。結果は、N末端およびC末端の相互作用が免疫反応性に影響しないことを示唆する上述の結果と変わらなかった。
【0226】
図15A−15Cを参照すると、これらの図は、ZnT8のC末端の自己抗体エピトープの位置確認を目的とした実験の結果を示している。
図15Aは、マウスのSlc30A8(上列;配列番号4の267〜367位が示されている)、ヒトのSlc30A8(中列;配列番号2の268〜369位が示されている)およびマウスのSlc30A3(下列;配列は配列番号25である)の配列をアラインメントして示している。マウスのSlc30A8およびSlc30A3は大多数のT1D血清によって認識されないので、該データは、異なっている残基がヒトSlc30A8配列中のエピトープを予測するための鍵を握る可能性が高いことを示している。本発明者は、したがって最後の11アミノ酸(PDCLFCEDPCD;配列番号2の359〜369位)が抗原エピトープであるかもしれないと仮定した;しかしながら、この領域を削除したプローブ(BstN1消化、
図15B;制限酵素切断部位を示すために参照した配列は配列番号2の336〜369位である)は、9例の糖尿病の血清をプールしたものによって野生型C末端と同程度の効率で免疫沈降した(
図15B)。さらに6アミノ酸を削除すると自己抗体との結合が低下し、12アミノ酸を削除すると抗体と結合しなくなり、この領域が特に重要であることが示唆された。これらのプローブの配列は、本明細書中の表1に示されている。
【0227】
図15Cに示すように、抗原性に寄与する可能性のある荷電残基(K340、H345およびE352)、およびカゼインキナーゼの推定リン酸化部位であって翻訳後修飾を受ける可能性のあるセリン353に、点突然変異を有するC末端プローブを作製した。上記と同じ、糖尿病の血清をプールしたものを用いて試験すると、これらの残基の各々が免疫反応性に寄与することが明白であり、3つの荷電残基すべてを変更した突然変異体(AAA)においては相加的であることが判明した。これらのプローブの配列は、本明細書中の表1に示されている。
【0228】
考えられる妨害物質(データは示さない)としてこの領域を包含する20量体の合成ペプチドを重複させて、さらなる実験を実施した。該ペプチドが結合を妨害する能力はせいぜい中程度であり(<33%低減)、自己抗体エピトープは恐らく自然界では立体配座を
とり、単純な直線状の配列ではないことが示唆された。さらなる手法は、C末端領域の全体的な立体配座を保持するが二次構造の阻害を伴って重要な配列をすっかり交換することを可能にするSlc30A8およびSlc30A3のキメラ分子を創出することである。これらのキメラ分子は、該タンパク質に対するT細胞応答をマッピングする役割を果たすことにもなる。
【0229】
図16は、自己反応性にとって重要なZnT8のC末端の残基を示し、また明らかにされたエピトープが動物種の間で保存されていることを図示している。短縮型および突然変異型の突然変異体(上記の表1に記載)は、コア配列SLTIQMES(配列番号2の346〜353位)がヒトのSlc30A8への自己抗体反応性に重要であること、ならびに個々の残基E352およびS353が抗体の結合に重要な寄与をなすことを示している。配列全体は、異なる脊椎動物種のSlc30A8においてよく保存されているが、最も近縁の哺乳類の相同体Slc30A2およびSlc30A3ではそれほどでもない。後者のタンパク質をC末端フラグメントとして発現させても、糖尿病の自己抗体によって検出されない。
【0230】
興味深いことに、より関係の薄い細菌生物種由来のカチオン排出タンパク質(他のCzcD)、ならびに2つの無関係なタンパク質すなわち大腸菌の接合伝達タンパク質(conjugation transfer protein)およびヒトのREEP3において相同な配列が観察される。このことから、分子擬態が、人における亜鉛輸送体への自己反応性の発生に役割を果たしている、または免疫応答の抗原エピトープスプレディングおよびバイスタンダー活性化に寄与しているという可能性が高まる。
【0231】
まとめると、ZnT8は1型糖尿病に先行する自己免疫の独立した血清学的マーカーであり、進行中の自己反応から初期の糖尿病への移行を予測するのに特に有用であると期待される。
【0232】
本明細書に記載のアッセイ形式は、1日当たり500例もの試料のスクリーニングが可能であり、その処理能力を高めるために容易に自動化することも考えられる。ヒト被験者がZnT8に対して自己抗体を有するという事実は、自己反応性のT細胞応答が起きる可能性が極めて高いことを示している。これはひいては、新たな診断アッセイを上記に詳細に述べたように開発しうること、ならびに1型糖尿病の治療および予防への新たな治療的手法も上記に詳細に述べたように開発しうることを意味する。
【実施例4】
【0233】
次の実施例は、欠失変異体およびマウス/ヒトキメラ体を使用したZnT8のさらなる自己抗体エピトープマッピングについて述べる。
この実験では、実験結果は
図17に反映されているが、C末端の自己抗体結合部位を包含する領域の境界を、NH2またはCOOH末端が短縮されている一連のZnT8ペプチドを使用して、またはヒトおよびマウスのZnT8配列からキメラを作製することによって(マウスのZnT8配列は標準アッセイにおいて免疫反応性ではない)、マッピングした。重複の程度は一定の縮尺で図示されており、欠失の範囲は、削除されたアミノ酸の数として(欠失略図)、または融合タンパク質が繋ぎ合わせられたアミノ酸部位の番号として該アミノ酸一文字表記の後に(キメラ略図)、示されている。
【0234】
大腸菌のYiipカチオン排出輸送体の結晶構造を用いて、MODELLERを使用してヒトZnT8 C末端の三次元モデルを作成した(
図18)。薄灰色で強調された残基は、ヒトおよびマウスの配列間で異なっており、中間的灰色で強調された残基は、NH2およびCOOHの欠失構築物の免疫学的分析に基づいて抗原性に乏しいことが示された。ヒトZnT8の325位の多型の残基は、最も濃い灰色の残基としてこの空間充填モデル
中に示されている(この図の中の全ての部位は配列番号2に関するものである)。
【0235】
コーカサス集団におけるZnT8の主なヒト多型バリアント、Trp325およびArg325は、該構造の細胞質側の極にあって膜から遠位に位置し、大部分がヒトとマウスとの間で保存された残基に囲まれている。Arg側鎖は溶媒内へと伸びるが、Trpのインドール環は分子側に折り返すので、全体的なフォールディングを歪ませることなく非常に様々な表面を作り出す可能性がある。Gln325バリアントは、幾何学的にはArg側鎖に近いが、Ser353周辺からの該構造の回転をもたらすと予測される。トポロジーが多型の影響をほとんど受けない第2のαらせんセグメント(aa328〜341)のバリアント残基の一団は、多型バリアントを担持するプローブ群によって等しく認識されるエピトープの強力な候補であると仮定された。Arg332、Glu333、Arg336およびArg340が近接しており、かつ溶媒と接触することは、この点に関して注目に値するものであった。
【0236】
図19を参照すると、T1D自己抗体が標的とする領域のZnT8残基の保存性が示されている。N末端は患者のおよそ5%において抗体の標的であるのに対し、T1D被験者の80%までがC末端に対する抗体を示す。C末端の開始部および終端部の構築物を作製してC末端のエピトープの境界がマッピングされている。灰色で影を付けた領域は、ほとんどの自己反応性が集中する場所である。マウス、ヒトおよびヒキガエルのZnt8配列の比較は、(配列番号2に関して)アミノ酸322〜341を例外として、該エピトープ領域のほとんどが保存されていることを示している。この領域は、他の生物種では見られないヒトの主な多型バリアント(325Rまたは325W)を包含している。
【実施例5】
【0237】
次の実施例は、ZnT8の遺伝子およびタンパク質中の多型性に関する本発明の実施形態と関連した実験について述べる。
マウスのZnT8 C末端は、104アミノ酸のうち18アミノ酸がヒトのZnT8とは異なり、初発の糖尿病患者の血清とは反応しない。この異なっているアミノ酸のうち1つまたは複数を、対応するヒトのアミノ酸で置き換えた、マウス配列を基にした構築物を作製した。この実験の結果を
図21A〜21Cに示す。各データポイントは、ヒトのArg325(CR)もしくはTrp325(CW)多型バリアントのいずれかに限定的であるか、またはヒトのArg325、Trp325もしくはGln325(CQ)バリアントに同程度に反応性であるかについて予め分類済みのヒト血清を用いて測定した、2〜7回の応答の平均である。アミノ酸の番号付けは、ヒト配列の部位(配列番号2)に関するものである。
【0238】
結果から、アミノ酸325の、対応するヒトのアミノ酸への変更は、CRおよびCWに限定的な血清による結合を回復させたが、一致するアミノ酸を用いた場合のみであることが示された。単一のアミノ酸変更では、CQに応答する血清の反応性は回復しなかった。しかしながら、アミノ酸332、333、336の置換と、マウス配列では欠けているaa340のアミノ酸の包含とを組み合わせると、反応性が回復した。これは、325位にArgを含めることによりさらに増強された。
【0239】
図22A〜22Dは、マウスZnT8の多点突然変異による、ヒトZnT8の反応性の概括を示している。この実験では、
図22Aは、マウス配列の単一の点突然変異が、依然としていくつかのヒトのArg反応性の抗体反応を検出することができる一方で、大多数の血清に反応しないことを示している。しかしながら、ここでは、ヒトおよびマウスの構造の差異に基づいた別の4残基突然変異(REKK突然変異)により、マウス配列はヒトのArg325の本来の構造とほとんど同程度の反応性となった(
図22B)。この同じプローブは、大多数のhTrp反応性の血清では検出されなかった(
図22D)。その同
じ血清は、mTrpのみのプローブと弱く反応した(
図22C)。
【0240】
図23A〜23Dに示す別の実験では、171例の初発T1D被験者由来のZnT8を、mQ>R325、mQ>W325、hR325、hW325およびhQ325プローブでアッセイし、データをウサギ抗C末端抗体と比較して計算した(BUN−E)。32例の人々がhArg325限定的な抗体結合を示し、そのうちの19例はmArg325プローブに対する応答を示した。13例はhTrp325限定的な抗体結合を示し、そのうちの10例は、mArg325プローブに対する応答を示した。mArg325またはmTrp325への結合は、ヒトの相当物の不在下では観察されなかった。Arg325限定的な応答は、ヒトおよびマウスの間で相関し、hQ325プローブによって表わされる結合に対して補正した後は同程度であった。mTrp325プローブの結合は、hTrp325限定的な応答にマッピングされた一方で、hQ325の結合に対して補正した後でも少なかった。これらのデータは、325位のアミノ酸が自己抗体エピトープ特異性の決定基であり、Argバリアントの場合には、マウスの点突然変異体が本来のヒトの立体配座に類似していることを示している。
【0241】
別の実験では、初発T1D患者におけるZnT8自己抗体反応をアミノ酸325のバリアントを用いて測定した。ZnT8 325のArg、TrpおよびGlnバリアントに基づいた突然変異型C末端プローブを用いて、300名の初発患者における体液性免疫応答を測定した。
図24Dは、個々のプローブまたはプローブの組み合わせに対する応答に基づいて分けた応答のレベルおよび度数を示す。
図24Cは、通常のArgおよびTrpバリアントに対する応答の関係を示し、Trp(垂直軸)およびArg(水平軸)のみの応答について95%点のカットオフ、および該アッセイでは15%CVと仮定した両プローブへ等価な反応±3SDの境界を表わす対角線に基づいて、5つの領域に分割されている。
図24Aおよび24Bは、Glnプローブに対する応答とArgおよびTrpプローブに対する応答との関係を調べる際に同じ層別化が使用されている。
【0242】
図25は、ZnT8自己抗体特異性とアミノ酸325のコドンに関する患者の遺伝子型(SNP rs13266634)との関係を示す。新たに診断されたT1D被験者についてTaqManプローブを用いて遺伝子型を分析し、aa325にGln(Q)、Arg(R)またはTrp(W)を包含するヒトZnT8 C末端構築物で血清をアッセイした。アッセイのカットオフ値は0.02指数に設定した。RまたはWの間のシグナルがQプローブのシグナルを上回った時に、それぞれの測定のCVが15%であると仮定し、指数が3SDより大きく(>3SD)異なった場合に二重反応性を陽性とした。
【0243】
このデータからいくつかの重要な結論が引き出される:
1)Glnプローブ(hCQ)への反応性は遺伝子型の影響を比較的受けにくい一方、Arg反応性(hCR)はC対立遺伝子(Argをコードする)を有する個体、Trp活性はT対立遺伝子(Trpをコードする)を有する個体においてより高い。
【0244】
2)300名のうち1名のみについて、hCQプローブに反応するがhCWまたはhCRには反応しないことが示された。この人は恐らくaa325にGln残基をコードしている(ヌクレオチド配列決定分析)。Argに限定的な反応を示す人々(Argのみ)は全員がC対立遺伝子を有していた。Trpに限定的な反応を示す人々(Trpのみ)は全員がT対立遺伝子を有していた。hCQ反応を上回るhCRおよびhCW反応を示した人々についてもほぼ同じことが言えた。
【0245】
3)hCRおよびhCWに反応性を示したがhCQには示さなかった人々は、主にヘテロ接合であった。
これらのデータを
図26にまとめるが、同図は、遺伝子型と、hCRおよびhCWプロ
ーブへの反応性との間の相関を示している。より具体的には、
図26は、Arg325エピトープに限定された反応性はC対立遺伝子および特にCC遺伝子型に強く関係し、反対に、Trp325エピトープに限定された抗体反応性はT対立遺伝子および特にTT遺伝子型に関係している、という主要な知見をまとめたものである。
【0246】
図27は、Slc30A8遺伝子型を糖尿病発症年齢との関連で示している。遺伝子型と、T1Dが診断される年齢との間に明白な相関はない。しかしながら、例えば、TT遺伝子型を有する人は6歳より前に該疾患を発症しにくいようであると結論するには、その傾向があり、その結論が治療介入の点で重要なものであっても、より多くの試料が必要であろう。
【0247】
本発明者らによる糖尿病集団における遺伝子型と、対照の被験者について文献に報告されたものとには若干の歪みがある。本発明者らの観察では56.8%のCC、35.1%のCTおよび8.1%のTT(n=285)である。報告されているヨーロッパ集団における遺伝子型頻度は、52.3%のCC、44.1%のCTおよび3.6%のTT(n=168)(P=0.05 フィッシャーの正確確率検定)である。しかしながら、74.4%のCおよび25.6%のTの対立遺伝子頻度は、両集団において同一である。遺伝子型の分布は、ハーディー・ワインベルク分布(55.33%のCC、38.11%のCTおよび6.56%のTT)と著しく異なってはいない。ヘテロ接合体とホモ接合体TTについて見ると(P=0.026)違いはより明白であり、TT遺伝子型がより多くヘテロ接合体がより少ないことを示唆しているとも考えられる。
【0248】
集団調査からは、第8染色体上のSlc30A8が位置する領域の遺伝子と関連したT1Dの存在は報告されない。しかしながらゲノムワイドなSNP分析は、Slc30A8のT対立遺伝子の2型糖尿病との関連を示し、検出に約8000名の被験者の分析を必要としたそのような関連は、約1.2のオッズ比およびP<0.05を示している。
【0249】
免疫学的データおよび遺伝学的データの組み合わせの興味深い特徴は、Argに限定的な抗体の保有率はヘテロ接合体よりもCCホモ接合体の群においてより高く、同様に、Trpに限定的な抗体ではヘテロ接合体よりもTTホモ接合体の群においてより高いという観察結果であった。これは、一部には、抗原の発現が多いほどより多くの自己反応性に関連するという遺伝子量効果であるとも考えられる。
【0250】
図28A〜Bには、使用されたプローブおよびSlc30A8遺伝子型に対して自己抗体反応性のレベルが示されている。CC遺伝子型は169例、CTは108例、TTは23例の試料で表わされている。ZnT8 hC GlnプローブはREKKエピトープへの抗体結合のみを反映することが予測されるが、hC ArgプローブはこのエピトープおよびArg325残基を中心としたエピトープの両方に結合する。hC Trpプローブは、REKKとの結合およびArg325を中心としたエピトープの両方を報告する。hCArgの反応性の平均レベルおよび保有率は、遺伝子型によって、予測された傾向すなわちC対立遺伝子頻度(Arg325をコードする)に関連した反応性の増大、という影響を受けた(
図28A)。同様に、hC Trpの反応性の平均レベルおよび保有率は、T対立遺伝子頻度(Trp325をコードする)につれて増大した(
図28A)。hC
Glnの反応性は、保有率またはレベルのいずれに関しても顕著ではないがC対立遺伝子とともに増大する傾向を示した(
図28A)。他の生化学的自己抗体、IAA、GADAおよびIA2Aへの反応性は、Slc30A8遺伝子型による影響を受けなかった(
図28B)。
【0251】
ZnT8Aアッセイの開発の現状をまとめる実験を
図29に示す。アッセイは、50名の初発糖尿病患者および99名の対照者で構成された、米国疾病予防管理センター(CD
C)の糖尿病自己抗原プログラム(Diabetes Autoantigen Program)(DASP)から提供された一連のブラインド試料について実施した。アッセイは、マウス(m)またはヒト(h)のいずれかのZnT8配列を基にしてin vitro翻訳され
35Sメチオニン放射標識されたプローブを用いる基本的な放射免疫沈降法の形式を使用して実施した。プローブはすべて、ヒトアミノ酸部位325にGln(Q)(配列番号50)、Arg(R)(配列番号49)またはTrp(W)(配列番号51)を有するZnT8のC末端104aa(C)を包含するものであった。さらに、3つのグリシン残基のリンカー配列を用いたZnT8のN末端74aa(N)とC末端との融合物(例えばhNCW)によって、またはフレキシブルなリンカーアーム(配列番号52)を介してhCW構築物がhCR構築物に連結されてhCWR構築物(配列番号60)を生じる、C末端の二量体を創出することによって、プローブを作製した。リンカーアームは免疫グロブリン重鎖配列に由来するものであり、該配列の定常領域と可変領域との間にフレキシブルな接続を提供することが知られている。該リンカー(配列PSTPPGSSGGG;配列番号52)により、単一の抗体分子が2箇所でプローブに接続することができるためより高い結合力で結合することが可能となる可能性がある。あるいは、このプローブは、異なるエピトープ特異性の免疫グロブリンを含む2つの抗体分子に同時に結合することができる。
【0252】
全く同一の試料で得られる結果は、当分野の現況の多くを、また糖尿病の自己反応性の特徴を明らかにしている。すなわち:
1)ヒトT1D自己抗体は、天然のマウス配列(配列番号40)に対してはヒトの相当物(hCQ)(配列番号50)と比較して反応性が低い{mCQ対hCQ}。
【0253】
2)アミノ酸324のGln残基(配列番号41)(ヒトのaa325と等価)をArg残基(配列番号49)に置き換える単一の点突然変異によって、マウスZnT8に対する抗体の結合が増大する{mCQデータ対mCRデータ}。
【0254】
3)325位に単一アミノ酸変化を有するヒトプローブに対する反応性は様々である(発症時における自己抗体の保有率は常にhCR>hCW>hCQの順である)。これは、hCRプローブ(配列番号49)およびhCWプローブ(配列番号51)が、aa325位を中心とした別のエピトープを有するからであり、また、大部分がコーカサス人である発明者らの集団ではArgバリアントに対する抗体がTrpバリアントよりも高頻度で生じているからである。
【0255】
4)N末端と、C末端のWバリアント(配列番号62)またはRバリアント(配列番号63)との融合により、T1D集団の5〜8%によって認識されるN末端エピトープを、より反応性の高いC末端エピトープと並べて包含することができるようになる。しかしながら、このようにして計測された抗体の全体的な保有率は、実際には、該アッセイのバックグラウンドが高く、従ってカットオフ値が高いために、C末端プローブ単独の場合よりも低い。分子のさらなる設計により、これは是正されるであろう。
【0256】
5)CWドメインおよびCRドメインを融合して1つの分子(配列番号60)とすることにより、CR、CWおよびCQプローブに反応性を有する人の自己反応性を検出するプローブが創出された。さらに、そのシグナルは、バックグラウンド中に埋もれることなく高性能のアッセイをもたらし、3つの異なるアッセイの組み合わせよりも糖尿病被験者においてより高かった。プローブをさらに多量体化することにより検出レベルがさらに増加することも考えられる。検出率78%は、他のいかなる生化学的糖尿病自己抗体マーカーと比べても同程度であるか、またはより高い。
【0257】
図30は、N末端、C末端、内腔側ループ、細胞質側ループおよび多型の残基を組み合わせた様々なZnT8構築物に対する自己反応性を示す。hCTrp−TM(配列番号6
7)は、6つの膜貫通ドメインを接続する3つの細胞外(内腔側)ループおよび2つの細胞質側ループを包含する構築物であり、これらのループに存在するあらゆるエピトープを捕捉するように設計されている。該構築物は、初発患者のさらに4%を検出した。hCArgNはN末端およびC末端の両方を、ただし逆の順序で包含している(配列番号66)。このプローブによって計測した抗体のレベルは、hCArg単独で計測したレベルと相関するが、さらに何人かの患者、特に低レベルの反応性を示す患者をもとらえた。データはさらに、325位のArgをTrpと交換する多型が、アミノ酸325を包含するエピトープに同程度または独立に反応する患者に加えて、hCArgまたはhCTrpのみに対する抗体反応に限定されたかなりの数の患者を同定するということも例証している。
【実施例6】
【0258】
次の実施例は、1型糖尿病の新規な標的およびマーカーとしてのZnT8に関する追加データを提供する。
図31A〜Fは、ZnT8に対する自己抗体を、23名の初発T1D被験者群において経時的にCペプチド(食後2時間)および他の自己抗体と比較した研究の結果を示す。この分析の主な結果は、ZnT8に対する自己抗体は、疾患発病後に、Cペプチド応答性の低下に反映されるβ細胞塊の損失に類似の速度論をもって低下することである。このデータから本発明者らは当初、
図31A〜31CにおいてC末端構築物に対する応答は見られるが、N−C融合構築物と同等である(
図31A)場合もあれば全く異なる(
図31B〜C)場合もあるので、該分子に遺伝変異があるのではないかと疑った。これらのプローブを再度配列決定すると、C末端はArg325型(配列番号49)であり、N−Cは該分子のTrp325型(配列番号64)であることが示された。クローニング用に2つの異なる膵島供給源を使用すること、またはヘテロ接合の個体からの産物をクローニングすることにより、多型バリアントを導入した。C末端への反応性の年間平均低下率は26±13%、N/Cは28±9%、Cペプチドは32±14%、IA2は22±11であった(±SD n=15)。対照的にGADAは、恐らくはこの抗原の別の組織供給源が存在するために、42±191%だけ増加した。
【0259】
図32は、発症後5〜10年におけるZnT8AおよびCペプチドのレベルを示している。以前の研究(上記の実施例に記載)から10年の追跡調査により、抗体は人々において一貫して減少したこと、最初高レベルであった抗体ほど持続されていたことが示されている。5年後までに約60%の試料でセロコンバージョンが起こり、全例においてレベルは平均で90%低下した。Abレベルが低い(<0.4)試料は、より早くセロコンバージョンする傾向があった。高レベルの抗体を有する一部の試料には、ランダムCペプチド陽性で示されるように残存β細胞塊があった。
【0260】
インスリン、GADおよびIA2に加えてのZnT8自己抗体の測定について、本明細書中の先行する実施例で述べてきた。それらの実施例において、本発明者らは単にhCR反応性を測定しており、これはTrp325反応性を除外してきたことになる。
図33Aは、この概念を検出率の変化としてさらに例証している(黒はZnT8あり;白は無し)。
図33Bは、ZnT8抗体測定を加える差動効果を示している。
【実施例7】
【0261】
次の実施例は、異なるZnT8エピトープを区別するための組換え型タンパク質の有用性を示す、自己抗体予備吸着実験について説明する。
いくつかの組換えZnT8分子が、pGEX(グルタチオンアガロースで精製することが可能なグルタチオンSトランスフェラーゼ融合タンパク質を生産する)またはpQEシリーズ(金属キレートクロマトグラフィによって精製することが可能な、タンパク質のN末端もしくはC末端にポリヒスチジンタグが付いたタンパク質を生産する)のようなベクターを使用して生成されてきた。しかしながら、精製が困難で、適切にフォールディング
して抗原性エピトープを再作成できないものは、不溶性の封入体を生じることが分かった。本発明者らは、金属キレートアフィニティ精製のためのHisタグと、細菌のシャペロンであり適切なフォールディングを確実にするタンパク質融合パートナーとの両方を組込むベクター(pET43.1ベクター、ノバジェン(Novagen)、EMDバイオサイエン
シズ(EMD Biosciences))の使用に解決策を見出した。該タンパク質はBL−21(D
E3)細菌(ノバジェン)中で発現される。
【0262】
NUS hZnT8 C末端タンパク質であって、配列番号49に基づくもの(Arg325バリアント)、配列番号50に基づくもの(Gln325バリアント)および配列番号51に基づくもの(Trp325バリアント)を生成させてNiキレートカラムで精製し、20マイクログラムの試料をT1D血清とともに室温で2時間インキュベートしてから、35S Met標識したhCArg、hCTrp、およびhCGlnプローブを添加して従来の放射免疫沈降アッセイを実施した。
【0263】
図2Cに示す実験では、Arg325に限定的である(血清#541827、hCArgと表示)、Trp325に限定的である(血清#533855、hCTrpと表示)、および325位のアミノ酸と無関係にすべてのhC末端構築物により共有されるエピトープと反応する(血清#BT、hCGlnと表示)ことが分かっている、3種の血清を選択した。
【0264】
結果は、325位の多型によって規定されたエピトープに限定的な血清の著しい特異性を示している。この結果はさらに、TrpおよびArg構築物は325位に限定的でない血清では識別することができないことを示している。実際問題として、このことにより、Arg325、Trp325および非限定的なエピトープが同じ試料中に表われている場合の、これらのエピトープに対する血清の相対的反応性を決定するよりよい手段が提供される。現在、単一の外部の全反応的なC末端標準品(BUN−E)を使用する3つのラジオアッセイを用いて反応を較正し、次に、数値を互いに差し引いている。本明細書に記載の組換え型タンパク質を利用すれば、反応性のレベルは、
1つの適切なプローブを使用し、異なる組換え型タンパク質によってシグナルが抑制される程度を測定することにより、決定することができる。
【0265】
したがって、期待されたエピトープ特異性を示す、本明細書に記載のhCNUS融合タンパク質のようなZnT8を基にした融合タンパク質を利用できることは、アイソトープを用いない手順に基づく固相での自己抗体アッセイ法を作成するうえでの重要なステップである。
【実施例8】
【0266】
次の実施例は、hZnT8をコードするアデノウイルスベクターの製造、および宿主細胞におけるhZnT8の発現について述べる。
本発明者らはさらに、完全長hZnT8の発現用のアデノウイルスベクターを製造した。対照アデノウイルス(AdLacZ)またはAd−hZnT8−V5−His()を用いて、MOIを100としてCos7細胞を形質導入した。48時間後に細胞をハーベストし、SDS−PAGEおよびウサギ抗hZnT8ポリクローナル抗体を用いたイムノブロッティングによって発現を観察し(データは示さない)、βグルクロニダーゼ(GUS)またはhZnT8−V5−Hisを製造業者の指示に従ってin vitro翻訳し(RTS 100コムギ麦芽CECFキット、ロッシュ(Roche))、混合物1μl(2%
)をウェスタンブロットによって分析した。hZnT8タンパク質の発現が検出された(データは示さない)。
【実施例9】
【0267】
次の実施例は、様々な細胞におけるZnT8の免疫組織化学的な位置確認について示す。
INS−1細胞は膵臓β細胞に由来するβ細胞株であり、β細胞の良好な細胞培養モデルを提供する。上記の分析の中で使用される抗体は、BUN−Eと名ばれる組換え融合タンパク質に対して作られたものであり、Slc30A8遺伝子によってコードされるZnT8の細胞内局在を確認するために使用される。該抗体は、大きさがおよそ0.2〜0.5ミクロン(データは示さない)の細胞内の点状の細胞小器官を強調表示する。この細胞小器官は、インスリン顆粒をマーキングするインスリンと同様のパターンで細胞内に分布するが、インスリン顆粒には以前の研究によりZnT8が位置確認されている。この実施例で述べる本発明者らの免疫組織化学的研究から(データは示さない)、ZnT8は全てが顆粒内にあるわけではなく、トランスゴルジネットワークのマーカーであるTGN38と部分的な重なり合いを示すことが示唆されている。ZnT8は、初期エンドソームのマーカーEEA1またはトランスフェリンレセプターによってマーキングされるようなリサイクリングエンドソームでは位置確認されないが、成熟したリソソームのマーカーであるLAMP1でも実質的な重なり合いは生じない。全体として、これらのデータは、ZnT8が分泌顆粒限定的なタンパク質であるという以前の報告(キミエンティら、既述)と一致しない。
【実施例10】
【0268】
次の実施例は、ヒト胎児の膵臓のリアルタイムPCRにより、ZnT8が遺伝子ファミリーの関連遺伝子(ZnT1−7およびZnT9)とは異なる高い膵島特異性を有することが示されることを示す。
【0269】
記載の週齢のヒト胎児の膵臓を入手し、mRNAを抽出し、次いで発生途中(妊娠第9週および第23週)および成人の膵島における発現レベルの測定に使用した。第9週では、膵臓は大部分が未分化の間充組織で構成されている。第23週までに肉眼上の構造は成体の構造と類似し、実質的なZnT1(Slc30A1)および特にZnT8(Slc30A8)の発現増加を示す(
図34を参照)。単離された膵島にはZnT1が少ないが、これはZnT1が主に外分泌腺組織に限局しているからである。
【実施例11】
【0270】
次の実施例は、新たに診断されたT1D患者がZnT8合成ペプチドに対する末梢のT細胞応答を示すことを実証する。
この実験は、糖尿病となったばかりの被験者由来のPBMCによるhZnT8依存性のIFN−γ産生を示す。PBMCを4名の糖尿病となったばかりの被験者から単離し、7aaが重複する20量体ペプチドとしてヒトZnT8配列全体にわたるhZnT8ペプチドのうち連続した2つをプールしたもの(10μg/ml)とともに48時間培養した。洗浄した後、細胞を抗IFN−γモノクローナル抗体でコーティングしたELISPOTプレートに移し、さらに17時間培養した。洗浄して細胞と培地を取り除いた後、分泌されたサイトカインを、別の部位がビオチン化された抗IFNgモノクローナル抗体、GABAおよび沈殿銀溶液を使用して検出した。スポットを、Bioreader(R)4000 ProX(バイオシス(BIOSYS))で計数した。対照の被験者はいずれのペプチドにも有意なシグナル(SI≧3)を生じなかったが、陽性対照の破傷風トキソイド/ジフテリア毒素についてはSI=22を示した。試験した全ての患者が、少なくとも3つのペプチドに対して有意なIFN−γ応答を示し(SI≧3)、被験者No.3はペプチドのプール化物のうち12種に対して応答したが、対照者では応答はなかった。個体間では相関はほとんど観察されず、唯一プール17(E5+F5)がすべての被験者によって認識されている。
【0271】
【表4】
本明細書中に引用された各出版物は参照によって全体が本願に組み込まれる。
【0272】
本発明の様々な実施形態について詳細に述べてきたが、当然ながら、当業者にはそれらの実施形態の修正形態および改変形態が想起されるであろう。しかしながら、そのような修正形態および改変形態は、添付の特許請求の範囲に述べる本発明の範囲内にあることは明確に理解されるべきである。