(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定面積のフィルターを設けた栽培容器を用い、前記栽培容器に培地を充填して、定法の殺菌又は滅菌、接種及び培養工程などの栽培工程を経て茸を栽培する茸栽培方法において、
前記栽培容器として、前記フィルターを前記培地の表面からの距離がそれぞれ異なる位置に設けた複数種類の栽培容器を用意し、
茸の栽培環境の乾燥度合いの高低を判断し、
前記栽培環境が乾燥しやすい条件下では前記栽培容器として前記フィルターを前記培地の表面から離れた位置に設けたものを選定し、
前記栽培環境が乾燥しにくい条件下では前記栽培容器として前記フィルターを前記培地の表面に近い位置に設けたものを選定し、
前記栽培工程で栽培することを特徴とする茸栽培方法。
【背景技術】
【0002】
近年、椎茸、舞茸,しめじ、なめこなどの茸は、自然採取から人工的に栽培する人工栽培へと移行している。これらの人工栽培のうち、椎茸の栽培は、これまでがコナラ、ミズナラ、クヌギなどの木々を所定の長さに切断した原木を使用して、この原木に椎茸菌を植え込んで栽培する原木栽培であった。しかし、この原木栽培は、もっぱら屋外となるのでその時々の気象条件並びに病害虫及び有害菌などの影響を受けて安定した収穫が確保し難いことから、近年は、屋内において椎茸栽培に適合した環境を調えて、この環境下で栽培する菌床栽培へと移行して来ている。
【0003】
この菌床栽培は、オガコなどの基材に米ぬかなどの栄養体を加えて培地を調整する培地調整工程、この調整した培地を所定大きさの栽培容器に詰める容器詰め工程、この容器に詰めた培地を殺菌又は滅菌釜に入れて殺菌又は滅菌する殺菌工程、この培地に雑菌が入らないように冷却した後に椎茸菌を接種する接種工程、温湿度を調節しながら数週間掛けて培養する培養工程、その後、栽培容器から菌床を取出して、温湿度を調節して菌床を培養しながら椎茸を発生させ育成する発生・育成工程及び育成した椎茸を収穫する収穫工程などの工程を経る栽培となっている。ここで使用される栽培容器は、概ね所定大きさの栽培瓶或いは栽培袋が使用されている。以下、栽培袋を用いた例を説明する。
【0004】
この栽培工程では、培養工程において栽培袋内の菌床から二酸化炭素が発生するので、この二酸化炭素を逐次外部へ放出させつつ代わって内部へ新鮮な空気(酸素)を供給する換気が必要となることから、栽培袋にはこの換気機能を備えた特殊なフィルターが取付けられている。そして、この二酸化炭素の放出及び酸素の供給がそれぞれの茸の栽培に適合した量で行えるか否かが茸の育成・品質、栽培期間及び収穫などに大きな影響を与えるので、この二酸化炭素の放出及び酸素の供給が良好に行えるように工夫した栽培袋及び栽培方法がこれまで多く考案されている。
【0005】
まず、栽培袋に関しては、例えば下記特許文献1には袋体の一方の面に径28mmの空気孔を穿設して、この空気孔にフィルターを取付けた栽培袋が開示されている。また、下記特許文献2に開示された栽培袋は、底部及び袋口付近にそれぞれフィルターを取付けたものである。これら底部及び袋口のフィルターの直径は25mmとなっている。この茸栽培袋を用いると、栽培袋は底部及び袋口付近にそれぞれフィルターが取付けられるので、これらのフィルターを介して供給される酸素量が増大し、その結果、菌糸の蔓延及び原基形成が速まり培養期間の短縮ができるとされている。さらに、下記特許文献3に開示された栽培袋は、空気を通過し雑菌の通過を遮断するフィルター部材と、このフィルター部材の他に水蒸気を放出し滅菌終了後容易に封鎖する水蒸気放出孔を設けたものである。さらにまた、下記特許文献4に開示された栽培用袋体は、微細な有底凹部を袋体の全表面に設けたものである。この栽培用袋体は、袋体全体が通気性を有したものになっている。
【0006】
次に、栽培法に関しては、例えば下記特許文献5には、
図14に示すように、培地を充填した培養容器10の上端開口を閉じて培養を行うに際して、培地上方に通気孔を有する空間11を設け、この空間を容積比で培地容積100に対し6〜20にして培養する培養法が開示されている。この培養法では、培養容器10に設ける通気孔の位置は空間11の略頂点が好ましく、それ以外の位置、すなわち、
図14の(a)、(b)、(c)は菌糸伸張の妨げになるので好ましくないとされている。また、下記特許文献6には、培地上面の乾燥を少なくするために、この培地上面を遮蔽物で覆って栽培する栽培方法が記載されている。この栽培方法は、栽培袋と、この栽培袋内に収容できる大きさのシート状遮蔽物とを用い、栽培中に培地上面をシート状遮蔽物で覆って栽培するようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜4の栽培袋は、それぞれ特有の構成を備えそれらの構成によってそれぞれ固有の作用効果を奏するものとなっている。しかしながら、これらの栽培袋はいくつかの課題が潜在している。例えば上記特許文献2の栽培袋では、底部及び袋口付近にそれぞれフィルターを取付けなければならないので、フィルターの数が多くなり、その取付け作業も面倒で工数が掛かり、コスト高になる。また、上記特許文献3のものは、フィルター以外に水蒸気放出孔を設けなければならないので、袋体の構成が複雑になる。さらに上記特許文献4のものは、袋体全体に有底凹部を設けなければならないので、この袋体の作製には特殊な製造装置が必要となり、しかも、袋体の二酸化炭素の放出及び酸素の供給量の調節・管理が面倒なものとなる。また、これら特許文献1〜4の栽培袋の最も大きな課題は、フィルターの大きさとその取付け位置との関係が特定されていないことである。
【0009】
すなわち、栽培袋を用いた茸栽培は、上記したように袋体内の二酸化炭素の放出及び酸素の供給がスムーズに行えるか否かが茸の育成・品質、栽培期間及び収穫などに大きな影響を与えるので、この二酸化炭素の放出及び酸素の供給を良好にするには、茸の栽培環境に対応して、フィルターの大きさ(サイズ)及びそのサイズに合わせて該フィルターを何処に取付けるかが重要になる。この重要性に鑑みて、上記特許文献5には、通気孔の取付け位置について、培養容器10の通気孔12の位置は空間11の略頂点が好ましくそれ以外の位置、すなわち、
図14の(a)、(b)、(c)が好ましくないとされている。その理由としては以下の点が示されている。
(1)通気孔12を空間11の中間位置(a)にすると、培養中期から通気孔12の周辺と培地上面の菌糸上に水滴が付き、通気孔12よりも上部に結露した水滴が通気孔12へ流下し、通気孔が濡れて通気性を悪くするとともに、害菌汚染の原因となり易くなること。
(2)同じく、菌糸上に過度に水滴が付着すると、呼吸作用により生じた熱が空間11内に上昇するのが妨げられて培地温度が上昇して温度管理し難くなること。
(3)また、通気孔12を培地上面付近(b)にすると、培養初期には培地内に含まれる水と菌糸の呼吸水によって通気孔に水滴が付着し害菌汚染が生じ易くなること。その結果として、培養後期には、通気孔付近に菌糸が伸張し、通気孔12が塞がれたり、空間11の空気交換不足により培地上面の菌糸上に過剰量の水滴が付着し、害菌に汚染され易くなったり、呼吸熱が停滞して培地温度が上昇し易くなること。
(4)さらに、通気孔を培地の充填部分(c)にすると、上記(b)位置と同様の問題が生じ易くなるとされていること。
【0010】
この特許文献5に指摘されているように、通気孔の位置が重要となると共に、この位置だけでなくその大きさ(サイズ)も重要なものとなる。しかしながら、この特許文献5には、培養容器の通気孔の位置は空間の略頂点が好ましいとされているが、培養容器は使用時には上部が封止されるため、頂点に近づけば近づくほど空間が狭くなる。さらに、培養容器の形状によれ頂点近傍は通気孔が設けられた面と反対側の面とが接近しすぎてしまい、全く空間がない状態も起こりうる。すると、培養容器内の空気の循環を妨げてしまうこととなる。なお、特許文献5には
通気孔の大きさ(サイズ)については何ら言及されていない。茸の人工栽培は、概ね自然環境に近い条件で栽培する自然栽培と、空調設備などを設置して人工的な環境下で栽培する促成栽培(短期栽培とも言われている)とに大別され、これらの栽培法であっても、さらに細分化されて、自然栽培にあっては、例えば春仕込みの秋発生型、或いは春仕込みの冬発生型などがあり、また促成栽培では同様の春仕込み秋・冬発生型などの他に発生期を速め或いは遅らせるなどの栽培法がある。そして、これらの栽培法は栽培環境(条件)が同じでなく、それぞれの栽培法及び型により最適な栽培環境(条件)があり、栽培に際しては、これらの最適な管理が必要となる。この栽培環境(条件)の管理は、栽培法だけでなく菌の種類によっても、それらの菌種に適合する栽培環境(条件)にする必要がある。
【0011】
この栽培環境(条件)は、また、四季、すなわち春夏秋冬のシーズンによっても大幅に変化する。例えば夏期と冬期とでは外気温度が大幅に異なり、夏期においては、日中の最高温度が35℃或いはこの温度を超える日が何日も続くことがある。このような高温環境下では、原基形成が低温時に比べてより活発になり、それにより大量の二酸化炭素及び熱が栽培袋内で発生し、この栽培袋内が茸培養にとって極めて過酷な環境となり、茸栽培においてはこの過酷な環境の緩和及び解消し適合する環境にすることが最も重要になる。しかしながら、この過酷環境の緩和などは、主に栽培袋に装着するフィルターによって行うことになるが、従来技術(例えば上記特許文献1〜5に記載された技術)では解決できない。すなわち、上記特許文献1、2の栽培袋は直径28mm、25mmのフィルターが装着されたものとなっているが、この大きさではシーズンの最も過酷な環境条件を緩和(解消)することができない。この過酷環境が緩和(解消)されないと、菌床にカビなどが発生して原基形成が妨げられ、或いは発生・育成されても、初回の発生量が極端に少なく、品質も落ち、所望の収穫量を確保できなくなる。この対策として、フィルターのサイズを大きくすることが考えられるが、フィルターのサイズを大きくすると、今度は通気量(換気量)が多くなって菌床上面の乾燥が速くなり上面で栽培する上面栽培の障害となる。なお、この乾燥を防止する方法として、上記特許文献6のように栽培中に培地上面をシート状遮蔽物で覆う方法があるが、この方法を採用するには特別なシート状遮蔽物が必要となり、しかも栽培作業の工数が増えることになる。
【0012】
そこで、本願の発明者は、茸の栽培環境が人工栽培であってもシーズンによって大幅に環境が変化し、この環境変化に対応できるとともに、菌の種類及び各種の栽培法に適合する栽培環境に合う栽培法を試行錯誤しながら究明したところ、栽培環境に適応したフィルターの装着位置を所定の位置に備えた栽培容器を使用すること、さらにフィルターの装着位置だけでなくフィルターのサイズを変更した栽培容器を使用すれば上記の課題を解消できることを見出して、本発明を完成させるに至ったものである。
【0013】
すなわち、この発明の目的は、栽培環境に応じて
培地上面の乾燥を抑制できる茸栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の茸栽培方法は、所定面積のフィルターを設けた栽培容器を用い、前記栽培容器に培地を充填して、定法の殺菌又は滅菌、接種及び培養工程などの栽培工程を経て茸を栽培する茸栽培方法において、
前記栽培容器として、前記フィルターを前記培地の表面からの距離がそれぞれ異なる位置に設けた複数種類の栽培容器を用意し、
茸の栽培環境の乾燥度合いの高低を判断し、
前記栽培環境が乾燥しやすい条件下では前記栽培容器として前記フィルターを前記培地の表面から離れた位置に設けたものを選定し、
前記栽培環境が乾燥しにくい条件下では前記栽培容器として前記フィルターを前記培地の表面に近い位置に設けたものを選定し、
前記栽培工程で栽培することを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の茸栽培方法において、前記フィルターの面積を、前記培地の表面からの距離が遠いほど大きくしたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項3に記載の茸栽培方法は、請求項1又は2に記載の栽培方法において、前記乾燥度合いの判断を茸の栽培環境の温度によって判断することを特徴とする。
【0017】
また、請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の茸栽培方法において、前記栽培容器に培地を充填したときの重量が2.5kg未満のものを用いたことを特徴とする。
【0018】
また、請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の茸栽培方法において、前記フィルターとして、細菌の侵入を阻止し所定の通気度及び通湿度を有するフィルター部材を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、上記構成を備えることにより、以下に示す優れた効果を奏する。すなわち、請求項1の発明によれば、茸の栽培環境に対応して、この環境に適合する栽培容器を使用するので、各種の茸栽培をその茸に合った栽培環境で行うことができる。特に、乾燥しやすい栽培環境下においても培地上面を乾燥させることなく栽培容器内の環境を良好にして上面栽培による培養、発芽及び育成ができる。また、従来技術のように、上面シートなどが不要になり、コスト安になると共に、このシートを扱う工数も不要となる。
【0020】
また、請求項2の発明によれば、フィルターがその大きさ及び取付け位置が異なっているので、栽培環境、特に、環境温度の高低に対応して、選択して使用することにより、良好な栽培環境で茸を栽培することができる。
【0021】
また、請求項3の発明によれば、茸の栽培環境に対応して、栽培環境の温度が高い状態でも、培地上面を乾燥させることなく上面栽培ができる。また、従来技術のように、上面シートなどが不要になり、コスト安になると共に、このシートを扱う工数も不要となる。逆に、環境温度が低くなる場合は、フィルターは、面積を小さくし、且つ培地の上面に近づく位置に設ければよい。
【0022】
また、請求項4の発明によれば、従来培地が乾燥しやすい2.5kg未満の小型の栽培容器を使用した場合であっても、フィルターの位置を培地の上面から離れた位置に設けることで乾燥を抑制して茸栽培を行うことができ、さらに、フィルターの面積を大きくすることで二酸化炭素の排出等がしやすくなり茸培養の環境を良好にすることができる。なお、本発明は、一般的な茸栽培容器は培地を充填したときの重量が2.5kg〜2.8kgとされているため、2.5kg未満の茸栽培容器として小型化したものを用いている。なお、特に栽培容器に培地を充填したときの重量が1.0kg〜1.3kgとなるようにすると、本発明の乾燥を抑制するという効果が顕著に認められるようになる。
【0023】
また、請求項5の発明によれば、フィルターには、細菌の侵入を阻止し所定の通気度及び通湿度を有するフィルター部材を用いるので、容器内への細菌の侵入を阻止して、栽培環境を良好な状態に維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施形態を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための茸栽培容器及び茸栽培方法を例示するものであって、本発明をこれらに特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。以下、茸の種類として椎茸の栽培に使用する茸栽培容器及びその茸の栽培方法を説明する。
【0026】
[実施形態1]
図1を参照して、本発明の実施形態1に係る栽培容器(栽培袋)を説明する。なお、
図1は本発明の実施形態1に係る栽培容器(栽培袋)を示し、
図1Aは栽培袋の斜視図、
図1Bは
図1Aの栽培袋に培地を充填して袋口を封止した状態の斜視図である。
【0027】
栽培容器1Aは、
図1に示すように、肉薄のフィルム材からなる袋体(以下、単に栽培袋という場合がある)で形成されている。栽培袋1Aは、所定の長さL及び幅長Wを有する矩形状の底部1aと、この底部1aの外周囲から上方へ所定の高さH立設した側壁1b〜1eとを有し、側壁の上端に開口1fが形成されている。開口1fは袋口となり、この袋口の一部が封止部1f'となっている(
図1B参照)。この栽培袋1は、培地が充填される培地充填部(以下、充填部という)Aとこの充填部Aの上方にあって空き空間とされる空間部Bとに区分されて、空間部Bには、
図1に示すように、その袋体の壁面にフィルター2Aが固定される。
【0028】
袋材には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの合成樹脂製フィルム或いは生分解性フィルムや光触媒性フィルムが使用され、その肉厚は、例えば10〜100μmである。栽培袋をフィルム材で形成することにより、軽量で扱い易く、安価に簡単に作成できる。なお、この栽培袋の長さL、幅長W及び高さHは、例えば、Lは200mm、Wは120mm、Hは382.5mmである。充填部Aは、底部1aから所定高さH1、空間部Bはこの充填部Aの頂部から高さH2に位置し、高さH1は、例えば150mm、高さH2は、例えば232.5mmである。充填部Aには、おがくず、米糠、ふすまを主成分とする培地、栄養剤及び水が所定の比率で混合された混合材が充填される。さらに、袋体の大きさも上記の寸法に限定されるものでない。
【0029】
空間部Bは、
図1に示すように、その袋体の一側壁1c面に、所定大きさの通気孔を穿孔し、この通気孔がフィルター2Aで塞がれる。フィルター2Aは、茸を栽培する環境条件に応じて取付け位置が異なるように形成することができる。これらの通気孔は、この通気孔より若干大きいフィルター部材で塞がれる。また、以下、フィルター部材で覆われた通気孔の直径をフィルターの直径という場合がある。
【0030】
図2を参照して、フィルターのサイズと取付け位置について説明する。なお、
図2は
図1Aの側壁面に設けるフィルターの固定位置を示した側面図である。この図のフィルターは、通気孔で示しこの通気孔に装着するこのフィルターは省略されている。
【0031】
フィルター2Aは、栽培環境に対応できるようにその取付け位置が違っている。具体的には、茸品種を栽培する場合、培地上面の乾燥を抑制することが可能なように、環境条件に合わせて、フィルターの取付け位置が変更される。
【0032】
例えば、栽培袋1Aでは、空間部Bにあって上方の封止部1f'から最も下方、すなわち充填部Aの培地表面からフィルター2Aの中心までの距離h1が6.75cmの位置にフィルター2A1、封止部1f'に最も近い位置、すなわち距離h2が16.75cmの位置にフィルター2A3、それらの中間位置、すなわち距離h3が10.75cmの位置にフィルター2A2を取付
けている。各フィルター2A1〜2A3で塞がれる通気孔は、それぞれ所定の半径を有する円形孔からなり、このフィルター2Aの半径r1〜r3は例えば17.5mm(直径35mm)となりすべて同じ大きさのものになっている。
【0033】
フィルター部材は、雑菌の侵入を阻止し、通気性のある多孔性シートが使用される。例えば、最大孔径0.02×0.2μm〜0.04×0.4μmのマイクロポーラスポリプロピレンフィルム(商品名;セルガード、米国セラニーズ社製)を使用する。なお、フィルター部材は、これに限定されるものでなく、各種紙材、不織布、及びフィルム材で形成したものを用いてもよい。
【0034】
以下、実施形態1の栽培袋1Aにかかるフィルターの取付け位置と重量の変化からの水分減少量(率)の実験データを説明する。この水分減少量(率)は培地に含まれる水分の減少量を重量の変化によって求めるもので、水分の減少率の高低により培地の乾燥のしやすさがわかる。なお、
図3はフィルター2Aに関する実験データを示す図である。
図4Aは
図3に示す重量の平均値を表したグラフであり、
図4Bは
図3に示す重量の変化率を重量比として表したグラフである。
【0035】
まず、実験で使用した栽培袋は、上記の実施形態1の栽培袋1Aと同じ寸法のものであり、培地を充填したときの重量が約2.5kgになるものを使用する。フィルター2Aは、直径35mmのものを使用し、その取付け位置を培地表面からフィルターの中心までの距離を、16.75cm、14.75cm、12.75cm、10.75cm及び6.75cmの位置にそれぞれ設けたものを使用する。
図1、
図2に対応させると、培地表面からから最も近いフィルター2A1が6.75cmであり、最も遠いフィルター2A3が16.75cm、これらの略中央のフィルター2A2が10.75cmとなる。なお、従来のフィルターの位置という場合はこのフィルター2A2の10.75cm位置をいうこととする。また、実験の環境条件は、温度22〜23℃、湿度40〜60%で保たれた室内で行った。この実験は、後述する
図5に示す栽培の工程の接種後に行い、最初の計測を1回目として行った。
【0036】
図4に示す実験データの計測法を説明する。
図4は上記直径35mmの大きさのフィルター2Aを異なる位置に形成した複数の栽培袋に培地を詰め、その重量の変化を計測したものである。そして、異なる位置にフィルター2Aを形成した複数の栽培袋1Aの中から、ランダムに5つ取出し、その重量の計測を行う。この計測を、十日前後の間隔を空けて1回目の計測から複数回(6回)行う。そこで計測した5つの栽培袋の重量の平均値を
図4の平均の欄に記し、この平均値のグラフを
図5Aに示す。また、1回目の計測で得られた重量と2回目以降に得られた各重量の比を、各回で計測された重量の結果を初回の重量で除し、その結果を百分率で示した数値を初回の重量を100%として、
図4の重量比の欄に記し、この値のグラフを
図5Bに示す。なお、この実験では、一度計測した栽培袋は廃棄するものとしている。
【0037】
図3及び
図4に示す実験結果から、フィルターをどの位置に設けても日にちが経過すると培地の重量は減少する傾向にある。そして、その傾向は、フィルターを栽培袋の培地の表面から最も遠い16.75cmに形成した場合は、6回目の計測の重量比が95.02%と培地の重量の減少が最も少なく、1回目の計測と比べて重量が4.98%しか減少していない。一方、培地に近づくにつれて培地の重量の減少率が多くなり、最も近い6.75cmに形成した場合が、6回目の計測の重量比が89.89%と最も多くなり、1回目の計測と比べて10.0%以上も重量が減少したこととなる。これは、フィルターが培地の表面の近くに形成されるほど栽培袋内に蒸発した水分が外気に流れやすくなるためである。
【0038】
また、従来の位置としている培地からの距離10.75cm及びそれより少し上方の12.75cmの位置では、最も下方の6.75
cmに比べれば重量比の減少率は抑えられ、1回目と6回目の計測とでは10.0%弱の減少率となっている。一方、培地からの距離が12.75cmより少し上方の14.75cmの位置では、最も上方の16.75
cmに比べれば、1回目と6回目の計測とでは重量比の減少率は大きくなるが、従来の位置と比べれば減少率が減ることがわかる。そのため、この実験データからは、従来のフィルターの位置である10.75cmから下方に設けることは好ましくないことがわかる。一方、従来のフィルターの位置より上方に設けると培地の乾燥を抑制できることがわかり、特に、培地から14.75cmより上方へ形成するとさらに乾燥を抑制できることがわかる。
【0039】
なお、実施形態1の栽培袋で使用しているのは従来と同じ大きさのフィルター(直径35mm)であるので、従来と同じように栽培袋内の二酸化炭素の排出が可能となる。よって、実施形態1の栽培袋によれば、従来の大きさのフィルターを使用する場合であっても、乾燥を抑制するためにはフィルターを上方に形成することにより、従来と同様の二酸化炭素を排出させることができるとともに、培地の乾燥をより抑制した茸栽培用容器を提供することができる。このとき、フィルターは培地表面から上方に14.75cmの位置に形成するとさらに乾燥を抑制することができる。
【0040】
そのため、実施形態1の栽培袋では、栽培環境、特に、乾燥度合いの高低に対応して、異なる位置に形成されたフィルターを備えた栽培袋を選択して使用することにより、良好な栽培環境で茸を栽培することができる。例えば、湿度は四季によっても大幅に変化するが、この環境下であっても、栽培袋容器内の湿度が茸培養にとって過酷な環境となることなく栽培ができる。
【0041】
以上、実施形態1に係る茸栽培容器として栽培袋を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく種々変更してもよい。すなわち、栽培容器は栽培袋だけでなく、その他の容器形状のもの、また、フィルターの取付け位置は例示した
図2に示したフィルター2A1〜2A3のように3箇所でなくさらに多く区分した箇所、例えば実験で示した位置、さらにそれ以外の箇所であってもよく、さらに、一側壁1cだけでなく、他の側壁、例えば対向する側壁1eに設けてもよい。対向側壁に設けると、フィルターを装着する通気孔の形成が容易になり、これらの通気孔がフィルターで塞がれることにより、栽培中の換気量を多くすることができる。
【0042】
また、フィルターで塞ぐ通気孔は円形孔だけでなく、他の形状、例えば楕円形、角形、矩形状などにしてもよい。これらの通気孔は、充填部Aから開口1fへ向かって徐々に大きくして、この通気孔の開口をフィルターで塞ぐようにしてもよい。この場合、通気孔は一側壁面に1個を穿孔することになる。
【0043】
また、実施形態1で使用するフィルターは、従来一般的に使用されている大きさのものであれば直径35mmに限定されることはなく、従来使用されている大きさ、すなわち、直径26mm〜47mmのものも適用することができる。
【0044】
次に、
図4を参照して、この栽培袋を使用して椎茸を栽培する方法を説明する。なお、
図4は椎茸栽培の工程図である。
【0045】
まず、椎茸の栽培環境に合わせて、異なる位置に形成されたフィルター2Aを備えた栽培袋1Aを決定する。栽培袋1Aを決定した後に、以下の工程で椎茸を栽培する。
図5に示す工程Iにおいて、所定量のおがこに、栄養体として米ぬかを混合して、所定量の水を加えて培地調整を行う。工程IIで調整された培地を栽培袋1Aの充填部Aまで充填する。この栽培袋1Aの上端の開口1fを仮止めして、栽培袋1Aごと高圧釜に入れて殺菌又は滅菌する(工程III)。次に殺菌をした後に冷却する(工程IV)。その後、クリーンルームへ搬送して、このクリーンルーム内で栽培袋1Aの上端開口1fを開放して椎茸の種菌を接種する(工程V)。この接種により、椎茸の種菌は、栽培袋の開口1fから培地の中へ接種される。次いで、所定の培養室へ搬送し、この培養室で初期培養を行う(工程VI)。この初期培養では、光を照射することなく略暗黒の状態で菌糸培養に適した環境、例えば、室温18〜20℃と湿度60%に保持して培地を培養させる。この期間は略30日程度である。その後の熟成培養では、熟成培養に適した環境、例えば室温20〜23℃と湿度60%に保持して培地を熟成させる。その期間は略30日程度である。その後、熟成培養を行う(工程VII)。この熟成培養では、熟成培養に適した環境、特に所定の光を照射して、略60日〜70日掛けて培地に栄養蓄積を行う。
【0046】
この熟成培養が終了した後に、栽培袋1Aを取外して茸の発生をさせる(工程VIII)。この発生工程では、原基形成が促進された上面からいち早く最初の茸が発生し育成される。すなわち、初回の発生は、培地の表面から発生する。その初回の収穫量は、全体の収穫量の約半分以上となる。なお、この工程において、栽培袋が除去された直後は、栽培袋で密着していた培地の表面は白っぽい状態となっているが、光の照射によって徐々に褐色化して茸が発生する。これらの発生は2回目、3回目以降のものとなり、回が進むにしたがって収穫量が減少する。
【0047】
この栽培袋を使用した椎茸栽培方法は、上面を乾燥させることなく、初回の発生で椎茸の発生部位が全面となっての椎茸を効率よく、発生・育成することが可能になり、品質の高い椎茸を初回で全収穫量の50%以上が収穫できる。
【0048】
[変形例]
次に、実施形態1の栽培袋の変形例を説明する。変形例の栽培袋1A'は、実施形態1の栽培袋1Aに比べて大きさの小さい小型の栽培袋1A'を使用する場合を説明する。なお、変形例の栽培袋1A'は、実施形態1の栽培袋1Aと比べて、栽培袋の大きさが異なるのみなので、実施形態1の栽培容器と共通する構成については共通の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0049】
変形例の小型の栽培袋1A'は、
図6に示すように実施形態1の栽培袋1Aと比べて寸法が小さいものとしている。これは、実施形態1の栽培袋1Aに培地を充填したときの重量が約2.5kg〜2.8kgであるのに対して、変形例の小型の栽培袋1A'は約1.0kg〜1.3kgとなり、1/2〜1/3程度の大きさのものである。この小型の栽培袋1A'の長さL、幅長W及び高さHは、例えば、Lは125mm、Wは100mm、Hは320mmである。充填部Aは、底部1aから所定高さH1、空間部Bはこの充填部Aの頂部から高さH2に位置し、高さH1は、例えば150mm、高さH2は、例えば170mmである。
【0050】
この小型の栽培袋1A'は、大きい(従来の)栽培袋茸に比べて、充填される培地の量が少ないため、全体の水分量も少なくなっている。そのため、従来と同じ大きさのフィルター、すなわち実施形態1で示したようなフィルターでは培地の乾燥がより進むことになる。
【0051】
しかし、乾燥を抑制するためにフィルターの大きさを小さくすると栽培袋内の二酸化炭素の循環も抑制されてしまうことになり、特に、小型の栽培袋では、その空間部Bも狭くなるため、二酸化炭素が充満しやすくなり、茸培養にとって過酷な環境となりやすくなる。
【0052】
そのため、変形例の小型の栽培袋1A'では、小型の栽培袋1A'に対して、フィルターは従来の大きさのものを使用するが、実施形態1と同様にフィルター2Aを従来
例より上方に形成する。このようにすることで、従来と同じような二酸化炭素の排出を行うことができると共に、培地の乾燥をより抑制することができる。
【0053】
なお、
図6では、小型の栽培袋の底面形状を矩形状のものとしているが、これに限らず、
図7に示すような円形の形状としてもよい。このとき、
図7Aに示す小型の栽培袋1A"の底面の直径Dは例えば125mmである。このような形状としても、変形例1の栽培袋と同様の発明の効果を奏することができる。
【0054】
なお、茸栽培方法は実施形態1と共通するので詳細な説明は省略する。
【0055】
[実施形態2]
実施形態1の栽培袋では、フィルターの位置を栽培環境に合わせて使用する場合を説明したが、実施形態2の栽培袋では、フィルターの位置だけでなくフィルターの大きさも栽培環境に合わせて使用する場合を説明する。なお、実施形態2の栽培袋は、実施形態1の栽培袋と比べて形成されるフィルターの位置及び大きさが変わるのみなので、実施形態1の栽培袋と同じ構成のものは同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0056】
図8を参照して、本発明の実施形態2に係る栽培袋1Bを説明する。なお、
図8は本発明の実施形態2に係る栽培袋を示し、
図8Aは栽培袋の斜視図、
図8Bは
図8Aの栽培袋に培地を充填して袋口を封止した状態の斜視図である。
【0057】
栽培袋1Bは、
図8に示すように、肉薄のフィルム材からなる袋体で形成されている。栽培袋1Bは、所定の長さL及び幅長Wを有する矩形状の底部1aと、この底部1aの外周囲から上方へ所定の高さH立設した側壁1b〜1eとを有し、側壁の上端に開口1fが形成されている。開口1fは袋口となり、この袋口の一部が封止部1f'となっている(
図8B参照)。この栽培袋1Bは、培地が充填される充填部Aとこの充填部Aの上方にあって空き空間とされる空間部Bとに区分されて、空間部Bには、
図8に示すように、その袋体の壁面にフィルター2Bが固定される。
【0058】
袋材には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの合成樹脂製フィルム或いは生分解性フィルムや光触媒性フィルムが使用され、その肉厚は、例えば10〜100μmである。栽培袋をフィルム材で形成することにより、軽量で扱い易く、安価に簡単に作成できる。なお、この栽培袋の長さL、幅長W及び高さHは、例えば、Lは200mm、Wは120mm、Hは382.5mmである。充填部Aは、底部1aから所定高さH1、空間部Bはこの充填部Aの頂部から高さH2に位置し、高さH1は、例えば150mm、高さH2は、例えば232.5mmである。充填部Aには、おがくず、米糠、ふすまを主成分とする培地、栄養剤及び水が所定の比率で混合された混合材が充填される。さらに、袋体の大きさも上記の寸法に限定されるものでない。
【0059】
空間部Bは、
図8に示すように、その袋体の一側壁1c面に、所定大きさの通気孔を穿孔し、この通気孔がフィルター2Bで塞がれる。フィルター2Bは、その取付け位置によってそのサイズが異なっている。これらの通気孔は、この通気孔より若干大きいフィルター部材で塞がれる。また、実施形態1と同様に、フィルター部材で覆われた通気孔の直径をフィルターの直径という場合がある。
【0060】
図9を参照して、フィルターのサイズと取付け位置について説明する。なお、
図9は
図8Aの側壁面に設けるフィルターの固定位置を示した側面図である。この図のフィルターは、通気孔で示しこの通気孔に装着するこのフィルターは省略されている。
図9は異なる大きさのフィルターを設けた栽培袋の斜視図である。
【0061】
フィルター2Bは、栽培環境に対応にできるようにそのサイズを異ならせ、且つ、その取付け位置が違っている。具体的には、栽培環境における環境温度が高くなるに従ってその面積が大きく、しかも、充填部から離れた位置に設けられている。すなわち、栽培袋1Bは、空間部Bにあって上方の封止部から最も下方、すなわち充填部Aへ届く位置に最もサイズの小さいフィルター2B1、封止部に最も近い位置に最もサイズの大きいフィルター2B3、それらの中間位置に略中間サイズのフィルター2B2を取付け
る。各フィルター2B1〜2B3で塞がれる通気孔は、それぞれ所定の半径を有する円形孔で形成されている。
【0062】
フィルター部材は、雑菌の侵入を阻止し、通気性のある多孔性シートが使用される。例えば、最大孔径0.02×0.2μm〜0.04×0.4μmのマイクロポーラスポリプロピレンフィルム(商品名;セルガード、米国セラニーズ社製)を使用する。なお、フィルター部材は、これに限定されるものでなく、各種紙材、不織布、及びフィルム材で形成したものを用いてもよい。
【0063】
栽培袋1Bは、
図10A〜
図10Cに示すように、フィルター2Bの取付け位置及びその大きさにより3種類の栽培袋1B1〜1B3となっている。このうち、栽培袋1B1は、栽培環境温度が比較的低い、例えば15〜16℃未満で使用するのに好適なものであり、
図10Aに示すように、フィルター2Bを充填部Aに近い箇所に位置し、その面積は上方に設けるフィルター2B2より小さくしたものである。この栽培袋1B1の寸法は、通気孔の中心の線上(充填部と略並行になる線)の高さh1は2.0cm〜7.0cmであり、フィルター2B1の面積(通気孔)の半径r1が10mm〜17.5mmとなっている。高さh1の2.0cm〜7.0cmは、袋体の大きさに拘わらず、上記環境温度での栽培に適合する値として実験で確認されたものである。また、半径r1の10mm〜17.5mmは、上記袋体の大きさで上記栽培環境で適合する値となっている。
【0064】
この栽培袋1B1は、フィルター2B1が充填部Aから最も近い箇所にあるので、栽培環境温度が比較的低い環境下における原基形成に対応して袋体内の二酸化炭素の放出及び酸素の供給が少なくスムーズになり、良好な茸の育成及び高品質の栽培ができる。
【0065】
環境温度が高く、例えば15〜16(20未満)℃を超えると、原基形成が活発になり、二酸化炭素の排出量が多くなり、一方で酸素の供給量の増大が必要になるので、フィルターの面積を大きくすると共に、その取付け位置を充填部Aからさらに離した箇所にする。
図10Bの栽培袋1B2は、この環境温度下で使用するのに好適なものである。この栽培袋1B2は、フィルター2B2は培地充填部Aから離れた箇所に位置し、その面積は下方のフィルター2B1より大きくなっている。この栽培袋1B2の寸法では、高さh2はh1(2.0cm〜7cm)より上方にあって、フィルター2B2の面積、半径r2が半径r1(10mm〜17.5mm)より大きい、例えば、20mmとなっている。
【0066】
環境温度がさらに高く、例えば20〜25℃を超えると、原基形成がさらに活発になり、二酸化炭素の排出量がさらに多くなり、一方で酸素の供給量の増大が必要になるので、フィルターの面積を大きくすると共に、その取付け位置を充填部Aからさらに離した箇所にする。
図10Cの栽培袋1B3は、フィルター2B3を充填部Aからさらに離れた箇所に位置し、その面積は下方のフィルター2B2より大きくなっている。この栽培袋1B3の寸法では、高さh3はh2より上方にあって、フィルター2B3の面積、半径r3が半径r2(20mm)より大きい、例えば、23mm以上となっている。
【0067】
栽培袋1B1〜1B3は、フィルターがその大きさ及び取付け位置が異なっているので、栽培環境、特に、環境温度の高低に対応して、選択して使用することにより、良好な栽培環境で茸を栽培することができる。例えば、外気温は四季によっても大幅に変化し、夏期においては、日中の最高温度が20〜25℃或いはこの温度を超える日が何日も続くことがあるが、この高温環境下においては、原基形成が低温時に比べてより活発になり、それにより大量の二酸化炭素及び熱が栽培袋内で発生するが、この環境温度下であっても、栽培袋内が茸培養にとって過酷な環境となることなく栽培ができる。
【0068】
以下、これら実施形態2にかかるフィルターの取付け位置と重量の変化からの水分減少量(率)の実験データを説明する。ここでは、直径が大小異なる大きさのフィルターを2種類用い、それらを栽培袋の異なる高さの位置に形成した場合についての実験を行っている。なお、
図11は大きいフィルター(直径50mm)に関する実験データを示す図である。
図12Aは
図11に示す重量の平均値を表したグラフであり、
図12Bは
図11に示す重量の変化率を重量比として表したグラフである。
【0069】
ここで示す実施形態2の栽培袋のフィルター2Bを、最も小さいフィルター2B1の半径を17.5mm(直径35mm)とし、最も大きいフィルター2B3の半径を25mm(直径50mm)とした場合であって、それぞれのフィルターについてその取付け位置を、培地表面から上方へ向かってフィルターの中心までの距離を16.75cm、14.75cm、12.75cm、10.75cm及び6.75cmの位置に設けたものを使用する。
【0070】
また、その取付け位置を
図8、
図9に対応させると、培地表面からの距離が最も近いフィルター2B1の距離h1が6.75cmであり、最も遠いフィルター2B3の距離h3が16.75cmとなり、これらの略中央のフィルター2B2の距離h2を10.75cmとしている。なお、従来のフィルターの位置という場合はこのフィルター2B2の10.75cm位置をいうこととする。
【0071】
なお、直径35mmのフィルターの実験データは実施形態1のものと同様であるので、
図3及び
図4を適宜引用して説明する。
【0072】
図11に示す直径50mmのフィルターの実験データの計測法は、上記実施形態1の35mmのフィルターで行ったもの同様であるので、説明を省略する。
【0073】
実験結果から、直径50mmのフィルターを用いた場合では、フィルターをどの位置に設けても日にちが経過すると培地の重量は減少する傾向にある。そして、その傾向は、フィルターを栽培袋の培地の表面から最も遠い16.75cmに形成した場合は、6回目の計測で重量比が94.48%と培地の重量の減少が最も少なく、1回目の計測と比べて重量が5.52%しか減少していない。一方、培地に近づくにつれて培地の重量の減少が多くなり、最も近い6.75cmに形成した場合が、6回目の計測の重量比が84.83%と最も多くなり、1回目の計測と比べて15.0%以上も重量が減少したこととなる。これは、フィルターが培地の表面の近くに形成されるほど栽培袋内に蒸発した水分が外気に流れやすくなるためである。
【0074】
また、従来の位置としている培地からの距離10.75cmの位置では、最も下方の6.75
cmに比べると、1回目と6回目の計測とでは重量比の減少率は略同じとなり、大きな直径のフィルターを従来の位置に形成することは、培地の乾燥をしやすくさせるので好ましくないことがわかる。
【0075】
一方、培地からの距離を従来の位置から上方に設けるほど、重量比の減少率は小さくなることがわかり、特に培地から14.75cmの位置の重量比は、実施形態1の直径35mmのフィルターで計測した、従来の培地からの距離10.75
cmと略同じ重量の減少率となっている。すなわち、直径50mmの大きな径のフィルターを用いる場合は、培地から14.75
cmの位置に形成すれば、従来の直径35mmのフィルターを用いた場合と同様の培地表面の乾燥度合いが得られることがわかる。このことから、従来
例より大きい直径50mmのフィルターを用いる場合は、培地から14.75
cm以上上方に形成するとよいことがわかる。なお、直径35mmと直径50mmとでは、培地からの距離が16.75
cmの最も高い位置に形成した場合は、どちらの重量の減少率も略同じになることがわかる。
【0076】
さらに、この実験から、乾燥を抑制するだけであれば、上記実施形態1の茸栽培容器のように、フィルターを従来の位置より上方に形成することで対応することが可能である。しかし、活性の高い茸品種を栽培する場合や栽培環境が高温環境化にある場合では、栽培容器内は、多くの二酸化炭素が充満することとなり、栽培容器内は茸培養にとって過酷な状況となるため、その循環がスムーズに行われる必要がある。これに対し、従来の位置に従来
例より大きい直径のフィルター例えば直径50mmのフィルターを形成してしまうと、二酸化炭素の循環はスムーズになるが、培地表面が乾燥しやすくなってしまう。
【0077】
そこで、実施形態2の茸栽培容器では、フィルターの径を上方に行くほど大きくなるようにしている。上述した実験データからもわかるように、直径50mmの大きなフィルターであっても、上方に形成することで、培地の乾燥を抑制することが可能である。しかも、従来と同じフィルター(直径35mm、培地からの距離10.75cm)と同じ重量比の減少率を得るには、直径50mmのフィルターでは、培地からの距離を14.75cmまで上方に形成すれば可能であることもわかった。そのため、この大きさのフィルターを使用して従来よりも乾燥を抑制するためには、フィルターを14.75cmより上方に形成すればよいことがわかる。
【0078】
なお、フィルターが形成される位置を培地に近づける場合には、従来のフィルターの大きさよりも小さい大きさのフィルターを形成すればよい。すなわち、培地からフィルターの中心までの距離が従来の位置の10.75cmより低くするような場合は、フィルターの大きさを直径35mmより小さいものとすれば、乾燥を抑制することができる。
【0079】
栽培袋1B1〜1B3は、フィルターがその大きさ及び取付け位置が異なっているので、栽培環境、特に、環境温度の高低に対応して、選択して使用することにより、良好な栽培環境で茸を栽培することができる。例えば、外気温は四季によっても大幅に変化し、夏期においては、日中の最高温度が20〜25℃或いはこの温度を超える日が何日も続くことがあるが、この高温環境下においては、原基形成が低温時に比べてより活発になり、それにより大量の二酸化炭素及び熱が栽培袋内で発生するが、この環境温度下であっても、栽培袋内が茸培養にとって過酷な環境となることなく栽培ができる。
【0080】
以上、実施形態に係る栽培容器として栽培袋を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく種々変更してもよい。すなわち、栽培容器は栽培袋だけでなく、その他の容器形状のもの、また、フィルターの取付け位置は栽培袋1B1〜1B3のように3箇所でなくさらに多く区分した箇所であってもよい。さらに、一側壁1cだけでなく、他の側壁、例えば対向する側壁1eに設けてもよい。対向側壁に設けると、フィルターを装着する通気孔の形成が容易になり、これらの通気孔がフィルターで塞がれることにより、栽培中の換気量を多くすることができる。
【0081】
また、フィルターで塞ぐ通気孔は円形孔だけでなく、他の形状、例えば楕円形、角形、矩形状などにしてもよい。これらの通気孔は、充填部Aから開口1fへ向かって徐々に大きくして、この通気孔の開口をフィルターで塞ぐようにしてもよい。この場合、通気孔は一側壁面に1個を穿孔することになる。
【0082】
次に、
図13を参照して、実施形態2の栽培袋1Bを使用して椎茸を栽培する方法を説明する。なお、
図13は椎茸栽培の工程図である。
【0083】
まず、椎茸の栽培環境に合わせて、栽培袋1B1〜1B3を決定する。その栽培袋は
、栽培環境温度が比較的低い、例えば20℃以下では栽培袋1B1、それ以上の温度では栽培袋1B2、さらに高い温度では栽培袋1B3を使用する。栽培袋1Bを決定した後に、以下の工程で椎茸を栽培する。
図13に示す工程Iにおいて、所定量のおがこに、栄養体として米ぬかを混合して、所定量の水を加えて培地調整を行う。工程IIで調整された培地を栽培袋1の充填部Aまで充填する。この栽培袋1Bの上端の開口1fを仮止めして、栽培袋1Bごと高圧釜に入れて殺菌又は滅菌する(工程III)。次に殺菌をした後に冷却する(工程IV)。その後、クリーンルームへ搬送して、このクリーンルーム内で栽培袋1Bの上端開口1fを開放して椎茸の種菌を接種する(工程V)。この接種により、椎茸の種菌は、栽培袋の開口1fから培地の中へ接種される。次いで、所定の培養室へ搬送し、この培養室で初期培養を行う(工程VI)。この初期培養では、光を照射することなく略暗黒の状態で菌糸培養に適した環境、例えば、室温18〜20℃と湿度60%に保持して培地を培養させる。この期間は略30日程度である。その後の熟成培養では、熟成培養に適した環境、例えば室温20〜23℃と湿度60%に保持して培地を熟成させる。その期間は略30日程度である。その後、熟成培養を行う(工程VII)。この熟成培養では、熟成培養に適した環境、特に所定の光を照射して、略60日〜70日掛けて培地に栄養蓄積を行う。
【0084】
この熟成培養が終了した後に、栽培袋1を取外して茸の発生をさせる(工程VIII)。この発生工程では、原基形成が促進された上面からいち早く最初の茸が発生し育成される。すなわち、初回の発生は、培地の表面から発生する。その初回の収穫量は、全体の収穫量の約半分以上となる。なお、この工程において、栽培袋が除去された直後は、栽培袋で密着していた培地の表面は白っぽい状態となっているが、光の照射によって徐々に褐色化して茸が発生する。これらの発生は2回目、3回目以降のものとなり、回が進むにしたがって収穫量が減少する。
【0085】
この栽培袋を使用した椎茸栽培方法は、上面を乾燥させることなく、初回の発生で椎茸の発生部位が全面となっての椎茸を効率よく、発生・育成することが可能になり、品質の高い椎茸を初回で全収穫量の50%以上が収穫できる。