(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミナセラミックス又はジルコニアセラミックスからなり、シリカを含まないか、又は含んだとしても1重量%以下であり、気孔率が65〜85%であり、かつ圧縮強さが2MPa以上であり、
アルミナ又はジルコニアの粒子が、粒径30〜500μmのものと、粒径0.1〜30μmのものとを含み、
粒径30〜500μmの粒子と粒径0.1〜30μmの粒子との割合が、50〜90重量%及び50〜10重量%であることを特徴とする断熱耐火物。
複数個が組み上げられて使用され、組み上げ状態における隣り合う耐火物の対向面に、1又は2以上の凹陥部を有する請求項1ないし4のいずれか一項に記載の断熱耐火物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の断熱耐火物は、高純度のアルミナセラミックス又はジルコニアセラミックスを主成分とするものである。これらのセラミックスを主成分とする本発明の断熱耐火物は耐アルカリ性に優れたものとなる。断熱耐火物におけるアルミナ又はジルコニアの割合は、アルカリ成分との反応を抑制する観点から99重量%以上とすることが必要であり、好ましくは99.5重量%以上である。すなわち、本発明の断熱耐火物は高純度アルミナ質又は高純度ジルコニア質のものである。アルミナ又はジルコニアの割合の上限値に特に制限はなく、高ければ高いほど、断熱耐火物とアルカリ成分との反応の抑制に効果的である。本発明の断熱耐火物におけるアルミナ又はジルコニアの純度を高めるためには、例えば断熱耐火物の原料として高純度の人工アルミナ又は人工ジルコニアを用いればよい。これに対して、粘度等の天然原料由来のアルミナ等を用いると、不純物の混入の可能性がある。断熱耐火物中のアルミナ又はジルコニア割合は、例えば光電測光式発光分光分析法によって測定することができる。
【0012】
なお断熱耐火物がジルコニアセラミックスからなる場合、該ジルコニアセラミックスには安定化ジルコニアセラミックスも包含される。安定化ジルコニアセラミックスには、例えばCaO、Y
2O
3、MgO等が安定化剤として含まれている。本発明においてはこれらの安定化剤もジルコニアセラミックスの一部として考え、不純物から除かれる。
【0013】
上述のとおり、本発明の断熱耐火物は、高純度のアルミナ質又は高純度のジルコニア質のものであることが好ましい。つまり、不純物を極力含んでいないことが好ましい。特に、断熱耐火物の劣化に影響を与える観点から、本発明の断熱耐火物は、シリカを含んでいないか、又は含んでいる場合であっても、その量はごく少ないものである。シリカはアルカリ成分と反応しやすく、それによって劣化の原因となる低融点物質が生成しやすいからである。断熱耐火物がシリカを含んでいる場合、断熱耐火物におけるシリカの割合は1重量%以下とすることが必要であり、好ましくは0.5重量%以下に抑える。
【0014】
シリカと同様に、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属の酸化物も、断熱耐火物の劣化に影響を与える物質である。アルカリ金属酸化物は断熱耐火物のガラス化を促進し、断熱耐火物のクリープ性能の低下を招く。この観点から、本発明の断熱耐火物はアルカリ金属酸化物も含んでいないことが好ましい。また、断熱耐火物がアルカリ金属酸化物を含んでいる場合であってもその量は極力少ないことが有利である。具体的には、断熱耐火物におけるアルカリ金属酸化物の割合(Na
2OやK
2Oの合計量の割合)を0.3重量%以下、特に0.2重量%以下に抑えることが好ましい。
【0015】
また、シリカと同様に、酸化鉄も、断熱耐火物の劣化に影響を与える物質である。この観点から、本発明の断熱耐火物は酸化鉄も含んでいないことが好ましい。また、断熱耐火物が酸化鉄を含んでいる場合であってもその量は極力少ないことが有利である。具体的には、断熱耐火物における酸化鉄の割合(各種の酸化鉄の合計量の割合)を0.5重量%以下、特に0.2重量%以下に抑えることが好ましい。
【0016】
断熱耐火物の劣化の一層の抑制の観点から、本発明の断熱耐火物におけるシリカ、アルカリ金属酸化物及び酸化鉄の総和の割合は、1.3重量%以下、特に0.7以下に抑えることが好ましい。
【0017】
断熱耐火物に含まれるシリカやアルカリ金属酸化物の割合は、例えば光電測光式発光分光分析法によって測定することができる。
【0018】
本発明の断熱耐火物は、気孔率が高いことによって特徴付けられる。具体的には、本発明の断熱耐火物の気孔率は65〜85%という非常に高いものであり、好ましくは70〜80%である。断熱耐火物の気孔率が65%に満たない場合には、該耐火物が重くなってしまう。また熱容量や熱伝導率の点からも不利になってしまう。断熱耐火物の気孔率の上限値は、該耐火物の軽量化及び断熱化と強度とのバランスを考慮して決定される。この観点から、本発明においては断熱耐火物の気孔率の上限値を85%に設定している。断熱耐火物の気孔率は、例えば
(1−嵩比重/見掛比重)×100の計算式から算出することができる。
【0019】
前記の式における嵩比重は、断熱耐火物の重量を測定し、また断熱耐火物の寸法の測定から得られた体積で除すことで算出される。また、見掛比重は、断熱耐火物の質量を、その見掛容積と同じ容積を持つ4℃の水の質量で割った値であり(JIS R2001)、アルキメデス法によって測定される。
【0020】
本発明の断熱耐火物の気孔率を上述した範囲内にするためには、例えば該耐火物の製造において、原料として焼成によって消失可能な造孔粒子を用いたり、中空粒子を用いたりすればよい。特に、後述する製造方法によれば、中空粒子を用いなくても(つまり中実粒子を用いても)、気孔率を上述した範囲内にすることができる。
【0021】
本発明の断熱耐火物は、気孔率が高いにもかかわらず、実使用に十分な強度を有することによっても特徴付けられる。具体的には、JIS R2615に準じて測定された、断熱耐火物の圧縮強さが2MPa以上であり、好ましくは3MPa以上である。つまり本発明の断熱耐火物は、高気孔率と高圧縮強さという二律背反の要求を同時に満たすものである。断熱耐火物の圧縮強さが2MPa以上あれば、該断熱圧縮物を積み上げて、後述する積み上げ構造を形成した場合に、各断熱圧縮物に圧潰等の不都合が生じることを効果的に防止することができる。
【0022】
前記の圧縮強さと同様の観点から、本発明の断熱耐火物は、JIS R2619に準じて測定された断熱耐火物の曲げ強さが0.5MPa以上であり、特に1MPa以上であることが好ましい。断熱耐火物の曲げ強さが0.5MPa以上であれば、前記の積み上げ構造において、各断熱耐火物の破損等の不都合が生じることを効果的に防止することができる。
【0023】
前記の圧縮強さや曲げ強さを有する断熱耐火物を得るためには、例えば後述する方法を採用して断熱耐火物を製造すればよい。
【0024】
本発明の断熱耐火物は、一般に所定の三次元形状をしている。本発明の断熱耐火物を各種の炉の内張りや裏張りに用いる場合には、所定の三次元形状を有する該耐火物を複数個組み上げていくことが好ましい。具体的な形状としては、例えばJIS R2101に規定された標準形れんが形状である並形、標準横ぜり形、標準縦ぜり形、標準ばち形等を始めとする多面体形状を採用することができる。また、継ぎ手に用いられる異形の形状を採用することもできる。そのような形状としては、例えば相欠継、実継、ほぞ継、太ほぞ継、大入継などが挙げられる。更に、アーチ構造用の形状を採用することもできる。そのような形状としては、例えば横ぜり、縦ぜり、ばち形(扇形)、長手抱き、小口抱き、胴付抱きなどが挙げられる。以上の各種形状の詳細は、例えば耐火物技術協会発行の「窯炉工学」(第1版、1983年4月発行)に記載されている。
【0025】
上述の各種の形状を有する本発明の断熱耐火物を組み上げる場合、該耐火物に、へこみ、ザグリ、穴等の凹陥部を形成することが、一層の軽量化及び断熱化の観点から好ましい。例えば
図1(a)に示すように、断熱耐火物10を直六面体(直方体)の形状となし、組み上げ状態において隣り合う他の断熱耐火物との対向面、例えば組み上げ状態における上面11及び下面12に相当する面に1又は2以上の凹陥部21,22を形成することができる。この断熱耐火物10は、その上面11及び下面12が長手方向Xとそれに直交する幅方向Yを有し、長手方向Xの長さが、幅方向Yの長さの概ね2倍になっている。
【0026】
各凹陥部21,22はそれが形成されている面と反対側の面までは貫通していない。各凹陥部21,22の深さは、断熱耐火物10の厚みTの1/2未満になっている。各凹陥部21,22はいずれも同形であり、円柱状の形状をしている。尤も、各凹陥部21,22は同じ形状であることを要せず、断熱耐火物の具体的な用途や、炉内での組み上げ位置に応じて種々の異なる形状を採用してもよい。
【0027】
上面11に形成されている凹陥部21と、下面12に形成されている凹陥部22とは、断熱耐火物10の平面視において、該凹陥部21,22の位置が重ならないように配置されている。つまり、上面11における凹陥部21が形成されている位置に対応する下面12の位置には凹陥部が形成されておらず、かつ下面12における凹陥部22が形成されている位置に対応する上面11の位置にも凹陥部が形成されていない。
【0028】
断熱耐火物10の上面11及び下面12における凹陥部21,22の具体的な形成位置は次のとおりである。すなわち、
図1に示すように、断熱耐火物10の上面11(下面12)を幅方向Yに沿って左右に二等分する中心線Lによって仮想的に上面11(下面12)を左右に二等分して形成される左半部の四角形11aと、右半部の四角形11bを考えた場合、各四角形11a,11bの一の対角線(図示せず)上に凹陥部21の中心が位置しており、他の対角線(図示せず)上に凹陥部22の中心が位置している。
【0029】
軽量化及び断熱化と強度とのバランスの点から、断熱耐火物10においては、それに形成されている凹陥部21,22の体積の総和は、断熱耐火物10の見かけの体積の10〜40%、特に20〜30%であることが好ましい。また、同様の観点から、個々の凹陥部21,22の体積は、断熱耐火物10の見かけの体積の2〜40%、特に5〜40%であることが好ましい。
【0030】
図1に示す断熱耐火物10を積み上げる場合には、例えば
図2に示すような積み上げ構造を採用することができる。すなわち、断熱耐火物10を、その長手方向Xに沿って列をなすように並べて第1段31を形成し、その上に、同様の並べ方で第2段32を形成する。この場合、第2段32は、第1段31に対して、断熱耐火物10の配置が1/2ピッチずれるようにする。本図に示す積み上げ構造においては、各断熱耐火物10における凹陥部21,22は、上下で隣り合う断熱耐火物10における凹陥部21,22と対向していない状態になっている。
【0031】
図3には、断熱耐火物10の別の形態が示されている。なお、同図に示す断熱耐火物10に関して特に説明しない点については、
図1に示す断熱耐火物10に関する説明が適宜適用される。上面11に形成されている凹陥部21と、下面12に形成されている凹陥部22とは、断熱耐火物10の平面視において、該凹陥部21,22の位置が重ならないように配置されている。具体的には、中心線Lによって仮想的に上面11(下面12)を左右に二等分して形成される左半部の四角形11aと、右半部の四角形11bを考えた場合、左半部の四角形11aに対応する上面11に凹陥部21が形成されており、右半部の四角形11bに対応する下面12に凹陥部22が形成されている。各半部の四角形11a,11bにおいては、2本の対角線それぞれの上に2個の凹陥部21(22)の中心が位置しており、かつ2本の対角線の交点に更に1個の凹陥部21(22)の中心が位置している。つまり、各半部の四角形11a(11b)においては、合計5個の凹陥部21(22)が形成されている。
【0032】
図3に示す断熱耐火物10を積み上げる場合には、例えば
図4に示すような積み上げ構造を採用することができる。この積み上げ構造は、先に説明した
図2に示す積み上げ構造と同様である。
図4に示す積み上げ構造においては、第2段32は、第1段31に対して、断熱耐火物10の配置が1/2ピッチずれている。したがって、各断熱耐火物10における凹陥部21,22は、上下で隣り合う断熱耐火物10における凹陥部21,22と対向していない状態になっている。
【0033】
次に、本発明の断熱耐火物の好ましい製造方法について説明する。本製造方法は、(イ)アルミナ粒子又はジルコニア粒子を含む混練物を用いて成形体を得る工程と、(ロ)該成形体を焼成して目的とする耐火物を得る工程とに大別される。以下、それぞれの工程について説明する。
【0034】
先ず(イ)の工程においては、アルミナ粒又はジルコニア粒子、水溶性高分子材料、多糖類、焼成によって消失可能な造孔粒子、及び液媒体を混練して混練物を得る。この混練物を構成する成分であるアルミナ粒子又はジルコニア粒子としては高純度のものを用いることが好ましい。安定化ジルコニア粒子を用いる場合には、ジルコニア粒子の純度は、ジルコニア粒子と安定化剤との合計値とする。具体的には、純度98.5重量%以上、特に99.0重量%以上のものを用いることが好ましい。そのような高純度のアルミナ粒子又はジルコニア粒子は商業的に容易に入手可能である。
【0035】
アルミナ粒子又はジルコニア粒子としては、骨材原料としての比較的大粒径のものと、ボンドとしての比較的小粒径のものとを併用することが好ましい。骨材原料としてのアルミナ粒子又はジルコニア粒子は、その粒径が30〜500μm、特に45〜300μmであることが、気孔率及び強度の維持の点から好ましい。一方、ボンドとしてのアルミナ粒子又はジルコニア粒子は、その粒径が0.1〜30μm、特に1〜25μmであることが好ましい。アルミナ粒子又はジルコニア粒子の粒径は、マイクロトラックやレーザー式粒度分布測定器によって測定される。
【0036】
混練物中の骨材原料とボンドとの割合は、気孔率を高める観点及び断熱耐火物の強度の維持の観点から、骨材50〜90重量%/ボンド50〜10重量%、特に骨材60〜80重量%/ボンド40〜20重量%とすることが好ましい。
【0037】
アルミナ粒子又はジルコニア粒子の形状は本製造方法において特に臨界的でなく、商業的に入手可能な種々の形状のものを用いることができる。
【0038】
アルミナ粒子又はジルコニア粒子には、中実のものと中空のものがあることが知られている。一般的には、中実の粒子よりも中空のものを用いることで、気孔率の高い断熱耐火物を得ることができる。しかし、それよりも更に高い気孔率を得るためには、中空のアルミナ粒子又はジルコニア粒子の使用では、限界がある。本製造方法においては、後述する水溶性高分子材料、多糖類及び造孔粒子を用いることで、中空のアルミナ系粒子又はジルコニア系粒子を使用せずに、先に述べた範囲の高い気孔率を達成する断熱耐火物を得ることができる。
【0039】
焼成によって消失可能な造孔粒子は、目的とする断熱耐火物の気孔率を高くするために用いられる。この造孔粒子は、空気中で加熱することによって消失が可能なものである。例えば、加熱温度150℃以上で、少なくとも消失が始まるものを用いることが好ましい。そのような粒子は、例えばアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアセテートなどの有機高分子化合物から構成されている。ここで言う「消失」とは、加熱による酸化で分解し、残存物が何も残らない状態になることである。
【0040】
造孔粒子の粒径は、目的とする断熱耐火物の気孔率や強度に影響を及ぼす。この観点から、造孔粒子の粒径は0.5〜5mm、特に1〜4mmであることが好ましい。造孔粒子の粒径、上述したアルミナ粒子又はジルコニア粒子の粒径の測定方法と同様の方法で測定される。造孔粒子の形状も、目的とする断熱耐火物の嵩比重や気孔率に影響を及ぼす。この観点から、形状がより真球に近い造孔粒子を用いることが好ましい。
【0041】
混練物中に含まれる造孔粒子の割合は、目的とする断熱耐火物の気孔率と強度とのバランスの観点から、アルミナ粒子又はジルコニア粒子100gに対し100〜300cm
3特に150〜250cm
3とすることが好ましい。
【0042】
混練物中に含まれる水溶性高分子材料及び多糖類は、該混練物から成形される成形体の保形性を高めるために用いられる。詳細には、気孔率が高い断熱耐火物を得るためには、混練物中に含まれる造孔粒子の割合を高くすることが有利である。しかし、造孔粒子の割合を高くすると、混練物から成形体を成形する場合の保形性が低下して、目的とする形状の成形体が得られにくい。また、プレス圧を低くした場合においても、成形体の保形性が低下して目的の成形体が得られにくくなる。これに対して、水溶性高分子材料及び多糖類を結合剤として用いることで成形体の保形性が高まるので、混練物中に含まれる造孔粒子の割合が高くなっても、成形体を首尾良く成形することができ、また、プレス圧が低くても成形体を首尾よく成形できる。更に、後述する(ロ)の焼成工程も首尾良く行うことができる。
【0043】
前記の観点から、水溶性高分子材料としては少量の使用でも高い結合力を発現するものを用いることが好ましい。例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、寒天、ゼラチンなどを用いることができる。
【0044】
多糖類も、水溶性高分子材料と同様の観点から好適な材料が選定される。例えば、デンプン、グリコーゲンなどを用いることができる。
【0045】
水溶性高分子材料は、極力少ない使用量で、必要かつ十分な結合力が発揮されることが好ましい。多糖類に関しても同様である。この観点から、混練物中に含まれる水溶性高分子材料の割合は、5〜15重量%、特に8〜12重量%とすることが好ましい。また、混練物中に含まれる多糖類の割合は、0.1〜3重量%、特に0.5〜2重量%とすることが好ましい。
【0046】
混練物に含まれる液媒体としては基本的には水を用いる。
【0047】
上述した各成分を均一に混合して目的とする混練物を得る。混合の方法に特に制限はなく、当該技術分野において用いられている方法と同様の方法を用いることができる。このようにして得られた混練物を用いて、所定の形状を有する成形体を得る。成形には例えば、所定形状の金型内に混練物を充填し、該混練物を所定の圧力でプレスするプレス成形を用いることができる。プレス成形は、混練物に含まれる造孔粒子が破壊されないことを上限値とする圧力で行われることが好ましい。この圧力は、造孔粒子の種類や粒径等に依存する。一般的な範囲としては50〜500kg/cm
2を採用することが好ましい。
【0048】
このようにして得られた成形体は、金型内で又は金型から取り出されて乾燥工程に付される。乾燥工程においては、加熱や赤外線の照射等の手段によって液媒体が除去される。乾燥は、成形体に含まれる液媒体の割合が好ましくは1重量%、より好ましくは0.5重量%以下になるまで行われる。
【0049】
乾燥された後の成形体は、(ロ)の焼成工程に付される。焼成は、空気中で行うことができる。また焼成は、成形体に含まれている造孔粒子が消失する条件下に行われる。この焼成条件は造孔粒子の種類や粒径等に依存するが、一般的な条件として、1400〜1800℃の温度を1〜10時間保持することで、造孔粒子が消失し、かつアルミナ粒子又はジルコニア粒子が十分に焼結する。
【0050】
このようにして目的とする断熱耐火物が得られる。この耐火物はアルミナ又はジルコニアの純度が高く、かつ耐火物の劣化の原因となるシリカやアルカリ金属酸化物等の不純物の含有量が少ないので、アルカリを含むワークを焼成するための窯炉の内張り断熱耐火物として特に好適に用いられる。例えば、アルカリイオン電池材料を焼成するための窯炉に好適に用いられる。この用途以外にも、電子部品用焼成炉等にも好適に用いられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「重量%」及び「重量部」を意味する。
【0052】
〔実施例1〕
(1)混練物の調製
骨材原料として平均粒径100μmの中実アルミナ粒子(純度99.7%)を70部用いた。また、ボンドとして平均粒径5μmの中実アルミナ粒子(純度99.8%)を30部用いた。水溶性高分子材料としてポリビニルアルコールを1部用いた。多糖類としてデンプンを2部用いた。造孔粒子として平均粒径3mmのスチレンビーズをアルミナ粒子100gに対して150cm
3用いた。これらを10部の水と均一に混合して混練物を得た。
【0053】
(2)成形体の成形
得られた混練物を金型内に充填し、100kg/cm
2の圧力でプレス成形し、成形体を得た。この金型は
図1に示す断熱耐火物に対応する形状を有していた。得られた成形体を100℃に加熱して水分含有率が0.5%以下になるまで乾燥を行った。成形体を観察したところ、造孔粒子の破壊は観察されなかった。
【0054】
(3)成形体の焼成
乾燥後の成形体を、空気中、1600℃で、5時間焼成し、
図1に示す形状の耐火物を得た。この耐火物は、長さ230mm、幅115mm、厚さ65mmであった。
【0055】
〔実施例2〕
以下の表1に示す条件を用いて実施例1と同様にして、
図1に示す形状の断熱耐火物を得た。
【0056】
〔実施例3〕
骨材原料として平均粒径150μmの中実のCaO安定化ジルコニア粒子(純度:ZrO
295.6%、CaO3.7%)を60部、ボンドとして中実の平均粒径2μmのCaO安定化ジルコニア粒子(純度:ZrO
295.6%、CaO3.7%)を40部、多糖類としてデンプンを2部、造孔粒子として平均粒径3mmのスチレンビーズ粒子をジルコニア粒子100gに対して100cm
3用い、80kg/cm
2の圧力でプレス成形した以外は実施例1と同様にして、
図1に示す形状の断熱耐火物を得た。
【0057】
〔比較例1及び2〕
以下の表1に示す条件を用いて実施例1と同様にして、
図1に示す形状の断熱耐火物を得た。
【0058】
〔比較例3〕
イソライト工業株式会社製のアルミナ質耐火断熱レンガLBK−28(商品名)を比較例3とした。
【0059】
【表1】
【0060】
〔性能評価〕
実施例及び比較例の断熱耐火物について、上述の方法で気孔率を測定した。また、耐熱耐火物の化学分析を行った。これらに加えて断熱耐火物の圧縮強さ及び曲げ強さをJIS R2615及びJIS R2619に準じて測定した。更に耐アルカリ性を、下記の方法により評価した。その結果を以下の表2に示す。
【0061】
〔耐アルカリ性〕
坩堝に炭酸リチウム(Li
2CO
3)を入れ、実施例及び比較例で得られた断熱耐火物により蓋をした。坩堝を1000℃で10時間加熱した。その後、室温まで冷却し、断熱耐火物を坩堝から取り外した。取り外した断熱耐火物の炭酸リチウムと対向していた面の状態を観察し、該断熱耐火物の耐アルカリ性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:断熱耐火物の表面の変化が観察されない
△:断熱耐火物の表面にボロツキは観察されないが、変色は観察される
×:断熱耐火物の表面にボロツキが観察される
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示す結果から明らかなように、各実施例の断熱耐火物は、比較例1及び2の断熱耐火物に比べて、気孔率が高いものであることが判る。強度に関しては、各実施例の断熱耐火物は、比較例1及び2の断熱耐火物よりも低い値を示しているが、実使用に差し支えのない強度は有している。比較例3の断熱耐火物は、気孔率は比較的高く、また圧縮強さや曲げ強さの値も大きいが、アルミナの純度が低く、シリカ等の不純物の量が多いことから、実施例1〜3の断熱耐火物に比べて、耐アルカリ性が劣るものであった。