(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
チューブ状のグラフトに金属骨格を固定した円筒部の外面に、生体組織に突き刺し可能な突刺部材を設け、前記突刺部材は、前記生体組織を切断可能な刃、又は、前記生体組織を刺通可能な針であるステントグラフトと、
前記ステントグラフトを内腔内に収納可能なシースを有し、前記ステントグラフトを体腔内へと送達するデリバリー装置と、を備え、
前記円筒部は、先端側と、基端側と、前記先端側と前記基端側との間の中間部とを有し、
前記突刺部材は、前記中間部の外面のみに設けられ、
前記ステントグラフトを前記シースから放出する際、前記先端側及び前記中間部がシースから露出するように前記シースを初期位置から所定距離だけ基端方向に移動させると、前記基端側は前記シース内に収納されたままで、前記先端側は生体管腔内壁に当接する大きさまで展開し、前記中間部は前記先端側と前記基端側との間の大きさにテーパ状に展開し、前記中間部に設けられた前記突刺部材は起立状態となる、
ことを特徴とするステントグラフトシステム。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るステントグラフト
システムについて
、好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は
、ステントグラフト10を備え、該ステントグラフト10を体内に配置する医療用器具であるステントグラフトシステム12(以下、単に「システム12」ともいう)の全体構成図である。
図2Aは、
図1に示すステントグラフトシステム12の一部省略側面断面図であり、
図2Bは、
図2Aに示すステントグラフトシステム12の先端側を拡大した側面断面図である。
【0026】
本実施形態に係るシステム12は、例えば、腎臓14へと続く腎動脈16周囲にある交感神経18を切断又は損傷させ、その伝達機能を遮断(ブロック、不能化)することで高血圧の治療を行う医療用器具である。すなわち、システム12は、デリバリー装置20によってステントグラフト10を腎動脈16内に送達して展開させると共に、該ステントグラフト10外周面に設けた刃22を腎動脈16に突き刺すことにより、交感神経18を破壊するものである。
【0027】
図1、
図2A及び
図2Bに示すように、システム12は、外周面に刃22を設けたステントグラフト10と、ステントグラフト10を長尺なシース24によって体内(例えば、腎動脈16内)へと送達するデリバリー装置20とを備える。以下、
図1及び
図2Aにおけるシース24の右側(ハブ25側)を「基端(後端、近位)」側、シース24の左側(ステントグラフト10側)を「先端(遠位)」側と呼んで説明する。
【0028】
先ず、ステントグラフト10について説明する。
【0029】
図2Bに示すように、ステントグラフト10は、チューブ状のグラフト26の内面又は外面に拡張用の金属骨格であるステント28を固定した円筒部30と、円筒部30の軸方向中央を含む位置の外周面に設けられ、該円筒部30の展開時に起立する複数の刃22(
図4A、
図4B及び
図8参照)とを備える。
【0030】
円筒部30は、一般的なステントグラフトと略同様な構成である。例えば、グラフト26は、PTFE、ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエステル等の樹脂の糸で織られた織物(ファブリック)をチューブ状に形成して構成され、ステント28は、超弾性合金等からなる針金をZ状やリング状に形成する、又は、超弾性合金からなるパイプをレーザーカットして形成することにより自己拡張性能を有する。グラフト26の外表面、つまり血管壁と接触する部分には、血液の漏れを防止するために膨潤性のゲル等を塗布してもよい。
【0031】
ステント28を形成する超弾性合金としては、例えば、Ti−Ni合金、Ti−Ni−Fe系合金、Cu−Zn系合金、Cu−Zn−Al系合金、Cu−Al−Ni系合金、Cu−Au−Zn系合金、Cu−Sn系合金、Ni−Al系合金、Ag−Cd系合金、Au−Cd系合金、In−Ti系合金、In−Cd系合金等を挙げることができる。
【0032】
円筒部30の両端には、周方向に沿って複数(本実施形態では4個)のフック(係止具、アンカー)31がそれぞれ設けられている。フック31は、例えば、略U字状であって、その先端に外側に向かって屈曲・突出し、先端方向を指向する一対の棘部31a、31aを有する。フック31の棘部31aが、ステントグラフト10の使用時に血管内壁にくい込むことにより、血流に対するステントグラフト10の流れ止めがなされ、該ステントグラフト10を血管内に一層確実に位置決め保持することができる。
【0033】
図2B、
図4A及び
図4Bに示すように、刃22は、円筒部30の軸方向で中央付近において、周方向に複数環状に設置されると共に、軸方向に複数列設置されている。刃22は、グラフト26の表面に接着や縫合によって固定されるベース22aと、ベース22aの一端から屈曲形成されると共に、ベース22aに対して略0°で平行する収納姿勢(
図4A参照)から、略90°で直立する突刺姿勢(
図4B参照)まで変化可能な刃部22bとを備える。なお、刃22は、ステント28を部分的に外側へ屈曲させることにより作製してもよい。
【0034】
すなわち、刃22は、シース24内に収納されることで、刃部22bが円筒部30の軸方向に沿って後方を向いて折り畳まれた前記収納姿勢となり、シース24が除去され円筒部30が展開するのに伴って、該円筒部30の半径方向に刃部22bが起立する突刺姿勢となる。刃22は、前記収納姿勢において刃部22bが後方を向いて折り畳まれることにより、後述する中シース24bを後方に引き寄せる際、刃部22bが該中シース24bの内面に切り込むことが防止され、中シース24bの円滑な除去が可能となる。
【0035】
刃22(刃部22b)は、例えば、ステンレス、コバルトクロム等の生体適合性のある金属素材によって形成するとよく、マグネシウム、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の生分解性の金属やポリマーの素材で形成してもよい。
【0036】
本実施形態の場合、刃22の配列は、
図2B及び
図8に示すように、円筒部30の周方向に等間隔で刃22を複数(例えば、4枚〜16枚程度)配置した第1組32aと、第1組32aと同様な構成で該第1組32aの後方に配置した第2組32bと、第1組32aと同様な構成で該第2組32bの後方に配置した第3組32cとからなり、周方向で環状構造且つ軸方向で複数列(例えば、2列〜5列程度)構造であり、各組32a〜32cの周方向での位相が少なくとも隣接する組の間でずれていることが好ましい。
【0037】
従って、円筒部30を軸方向に直交する方向で見た場合(
図2B、
図8及び
図9参照)、第1組32aを構成する各刃22の隙間に、第2組32bを構成する各刃22が配置され、さらに、第2組32bを構成する各刃22の隙間に、第3組32cを構成する各刃22が配置されることになる。刃22は上記のような3列構造以外、例えば、1列又は2列や、4列以上の構造としてもよく、さらに、各組を構成する刃22の枚数も当該ステントグラフト10の仕様等によって適宜変更可能である。
【0038】
このようなステントグラフト10では、例えば、円筒部30は、内径が3mm〜10mm程度、長さが10mm〜30mm程度のチューブとして形成され、刃22は、刃部22bの長さ(高さ)が3mm〜5mm程度、幅(周方向幅)が0.5mm〜3mm程度の薄板状に形成される。
【0039】
次に、デリバリー装置20について説明する。
【0040】
図1及び
図2Aに示すように、デリバリー装置20は、細径で長尺なシース24と、シース24の内腔内に配置されるシャフト(内管)36と、シャフト36の最先端に設けられる先端チップ38と、シャフト36の基端側に設けられ、シース24の基端部を進退可能に収納する操作部40と、操作部40の基端側に設けられるハブ25とを備える。
【0041】
シャフト36は、図示しないガイドワイヤが挿通されるルーメン36aを有する細径で長尺なチューブであり、ハブ25から先端チップ38までの間を連結する。ルーメン36aは先端チップ38の先端面からハブ25まで連通し、該ハブ25の基端面に設けられたルアーテーパー25aで開口している。
【0042】
シース24は、最外層の外シース(第1シース)24aと、中間層の中シース(第2シース)24bと、最内層の内シース(第3シース)24cとから構成される3層構造となっており、各層のシース24a〜24cはそれぞれ独立して軸方向に進退可能である。各シース24a〜24cの基端部は、操作部40に形成された環状の空間44内に配設される。各シース24a〜24cの基端には、軸方向に直交して半径方向外方に突出した操作ピン46a〜46cが設けられており、これら操作ピン46a〜46cは、操作部40の一側面に開口形成されたスリット48を通過して外部に突出している。
【0043】
本実施形態の場合、各シース24a〜24cの長さは略同一であるが、
図2A及び
図2Bに示すように、その内腔にステントグラフト10を完全に収納した初期状態(体内への挿入前の準備状態)では、各シース24a〜24cの軸方向位置が略等間隔ずつずれており、このためスリット48から突出する各操作ピン46a〜46cの軸方向位置も略等間隔ずつずれている。
【0044】
図2A及び
図2Bに示すように、前記初期状態では、先端側に突出して先端チップ38に当接(近接)している外シース24aが、ステントグラフト10の先端側部分を収納保持し、中間の中シース24bがステントグラフト10の刃22を含む中間部分を収納保持し、基端側の内シース24cがステントグラフト10の基端側部分を収納保持している。この状態において、操作ピン46aは、スリット48の先端縁部に当接又は近接し、操作ピン46cの後方には各操作ピン間の間隔と同程度の間隙が形成されている。
【0045】
操作部40は、ハブ25の先端側に固着されており、その軸心にシャフト36が挿通固定され、各シース24a〜24cを進退可能に収容する環状の空間44をシャフト36の外周側位置に有する。該空間44の先端側はシース24a〜24cが挿通可能に開口しており、基端側はスリット48の基端側縁部と軸方向略同位置で閉塞されている。スリット48は、操作部40のハウジング外面と空間44とを連通する長孔であり、軸方向に長く、周方向に狭幅な形状となっている(
図2A及び
図3参照)。
【0046】
上記のように、デリバリー装置20では、操作部40とハブ25が固定され、これにシャフト36も挿通固定されている。従って、
図2A、
図5A、
図6A及び
図7Aに示すように、術者が操作部40(ハブ25)を把持した状態で操作ピン46a〜46cをそれぞれ進退操作することにより、外シース24aが中シース24bの外周面上を摺動し、中シース24bが内シース24cの外周面上を摺動し、内シース24cがシャフト36の外周面上及び空間44の内側壁面上を摺動し、各シース24a〜24cをそれぞれ独立的に又は同時に進退駆動させることができる。
【0047】
従って、各シース24a〜24cを順次後退させると、各シース24a〜24cの内腔内に収納保持されたステントグラフト10の各部を段階的に体腔内で展開することができる。つまり、シース24(シース24a〜24c)及び操作部40は、該シース24内に収納したステントグラフト10を段階的に展開可能な展開量調整機構(多段調整機構)49を構成している。
【0048】
デリバリー装置20では、X線透視下で当該デリバリー装置20のシース24等の位置を視認するため、例えば、
図2Bに示すように、外シース24aの先端にX線不透過マーカM1を設けてもよい。X線不透過マーカM1は、金や白金、タングステン等からなるX線(放射線)不透過性を有する材質(放射線不透過性材)によって形成されており、生体内でシース24の先端位置をX線造影下で視認するためのものである。
【0049】
図2Bに示すように、ステントグラフト10についても、例えば、その先端及び基端と、刃22の前後位置に、X線不透過マーカM2を設けることにより、当該ステントグラフト10の体内での位置と刃22の位置とをX線透視下で確実に造影することができる。このX線不透過マーカM2は、例えば、金や白金、タングステン等からなるX線(放射線)不透過性を有する糸等の材質をグラフト26に接着や縫合しておくことで容易に設置することができる。さらに、
図4A及び
図4Bに示すように、刃部22bの先端にX線不透過マーカM3を設けてもよく、これにより、刃部22bの正確な位置を把握することができ、ステントグラフト10の一層正確な位置決めが可能となる。なお、図面の簡単のため、X線不透過マーカM1、M2については、
図2Bにのみ図示し、X線不透過マーカM3については、
図4A及び
図4Bにのみ図示し、他の図面では省略している。
【0050】
また、これらシャフト36、各シース24a〜24cは、術者が基端側を把持及び操作しながら、長尺なチューブの先端を血管内へと円滑に挿通させることができるために、適度な可撓性と適度な強度(コシ。剛性)を有することが好ましい。そこで、シャフト36、各シース24a〜24cは、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂等の高分子材料或いはこれらの混合物、或いは上記2種以上の高分子材料の多層チューブ等で形成するとよい。
【0051】
次に、以上のように構成される本実施形態に係るステントグラフト10及びステントグラフトシステム12の作用について説明する。
【0052】
ステントグラフトシステム12は、例えば、抗圧薬を服用しても血圧が下がらない難治性高血圧の患者に対して用いられ、腎動脈16周囲にある交感神経18を切断することで該交感神経18の伝達機能を遮断し、血圧の低下を目指す治療に用いられる。
【0053】
先ず、一般的なステントを腎動脈に留置する手技と略同様に、交感神経18の切断を行う腎動脈16に対し、大腿動脈から図示しないガイドワイヤとガイディングカテーテルを挿入し、X線透視下で造影を行って腎動脈16に到達させる。続いて、先端側にステントグラフト10を収納したシース24(
図2A及び
図2B参照)を、前記ガイディングカテーテルの内腔を介して体内に挿入すると共に、X線透視下で前記ガイドワイヤをシャフト36のルーメン36aに挿通させつつ上行させ、シース24に収納されたステントグラフト10の中央(刃22)が腎動脈16の中央付近となる位置に到達させる。
【0054】
次に、ステントグラフト10を腎動脈16内で展開させ、刃22で交感神経18を切断する手技を行う。
【0055】
先ず、
図2A及び
図2Bに示す初期状態から、1層目の外シース24aの操作ピン46aを後方の操作ピン46bに当接する位置まで引き寄せ、外シース24aを後退させる。これにより、
図5A及び
図5Bに示すように、ステントグラフト10の先端側部分が腎動脈16内に露出し、この先端側部分がステント28によってある程度拡張・展開されると共に、先端側のフック31が腎動脈16の内壁に引っかかる。
【0056】
そこで、X線透視下でステントグラフト10の先端側が所望の位置に位置決め保持されたことを確認した後、2層目の中シース24bの操作ピン46bを前記操作ピン46aと共に後方に引き寄せ、該操作ピン46bが操作ピン46cに当接する位置まで後退させる。これにより、
図6A及び
図6Bに示すように、ステントグラフト10の刃22を含む先端側の大部分が腎動脈16内に露出して展開される。
【0057】
この状態では、
図6A及び
図6Bから諒解されるように、ステントグラフト10の基端側は内シース24c内に収納されている。このためステントグラフト10は、先端側から基端側に向けて傾斜したテーパ状に展開された状態となり(
図6B参照)、つまり、刃22は、腎動脈16内壁に当接しない位置で刃部22bが完全に起立した状態となる。換言すれば、仮に、ステントグラフト10の先端から基端までを一挙に展開した場合には、刃部22bが折り畳まれた収納姿勢のまま血管内壁に押し付けられ、刃部22bを完全に起立させることが困難になる可能性があるが、本実施形態の場合には、ステントグラフト10を段階的に拡張させることにより、刃部22bを確実に起立させることができる。
【0058】
続いて、X線透視下で刃22が腎動脈16内に露出し、起立して突刺姿勢になったことを確認した後、3層目の内シース24cの操作ピン46cを前記操作ピン46a、46bと共に後方に引き寄せ、該操作ピン46cがスリット48の基端縁部に当接する位置まで後退させる。これにより、
図7A及び
図7Bに示すように、ステントグラフト10全体が腎動脈16内で展開されると共に、基端側のフック31が腎動脈16の内壁に引っかかり、当該ステントグラフト10が血管内に確実に位置決め保持される。
【0059】
但し、この状態では、ステントグラフト10は、ステント28の拡張力にのみよって拡張された状態にあるため、
図7Bに示すように、刃部22bの先端が腎動脈16内壁を完全に突き通すことができず、円筒部30が完全に拡張されず、中央付近がやや窪んだ形状となる可能性がある。
【0060】
そこで、次に、
図8に示すように、所定のバルーンカテーテル50をステントグラフト10の内側に挿入すると共に、バルーン50aを拡張し、ステントグラフト10を腎動脈16の内壁に密着させる。これにより、刃22(刃部22b)が完全に腎動脈16へと突き刺され、
図9に示すように、腎動脈16の内膜16a、中膜16b及び外膜16cのうち、例えば、外膜16c内や外膜16c外周側にある交感神経18を刃部22bが確実に切断し、その伝達機能を遮断することができる。なお、その後は、腎動脈16からの血液の漏れがないことを確認後、デリバリー装置20を除去し、大腿の刺入部の傷口を塞ぐことで手技を終了することができる。
【0061】
以上のように、本実施形態に係るステントグラフト10では、グラフト26及びステント28から構成された円筒部30の外面に、生体組織(血管やその周囲の神経)に突き刺し可能な突刺部材である刃22が設けられている。これにより、例えば、円筒部30を腎動脈16内で展開させることにより、刃22が起立して腎動脈16の内壁に突き刺さり、交感神経18を適切に切断して、その伝達機能を遮断し、高血圧の治療を行うことができる。
【0062】
この際、当該ステントグラフト10では、刃22により血管壁を切断及び損傷させることになるが、
図8等から諒解されるように、該損傷させた血管内には、一般的なステントグラフトと同様な構成からなる円筒部30が留置されるため、損傷した血管からの血液の漏れが、該円筒部30を構成するグラフト36によって確実に防止される。つまり、ステントグラフト10では、交感神経18の切断と、この切断に伴う血管の補修(ステントグラフトの留置)とを同時に行うことができる。
【0063】
ステントグラフト10では、円筒部30の軸方向中心を含む位置に刃22が配置されており、円筒部30の先端側及び基端側の所定範囲には配置されていない。これにより、円筒部30の略中心位置で生体組織の切断を行うことができ、その切断位置を円筒部30の全長で確実に覆うことができるため、切断した血管の補修を一層確実に行うことができる。
【0064】
刃22は、円筒部30の半径方向で外方に向かう方向に突出することにより、円筒部30が拡張された際に、その外周側にある生体組織(例えば、血管壁や神経)を高確率で突き刺し、切断又は損傷することができる。しかも、刃22は、
図4A及び
図4Bに示すように、円筒部30の軸方向に沿って折り畳まれた収納姿勢から、前記生体組織を切断するために円筒部30の半径方向に起立した突刺姿勢へと変化可能である。このため、円筒部30を収縮させ且つ刃22を前記収納姿勢にすることで、所望の挿入具(上記ではシース24)内に容易に収納可能であり、体内の所望の部位へと容易に送達することができる。
【0065】
ステントグラフト10では、上記のように、円筒部30の周方向に所定間隔で複数の刃22が設置された組(第1組32a〜第3組32c)を、円筒部30の軸方向に並んで複数列設けており、各組の刃22の周方向での位相を各列でずらしている。その結果、各組を構成する刃22の間に所定の間隔を設けることができ、周方向の1箇所で血管壁を完全に切断してしまうことが防止されると共に、該血管に沿って延びた交感神経18を各列の刃22によって確実に切断することができる(
図8及び
図9参照)。刃22の配列は、上記のように、複数組を複数列配置する構成以外であっても勿論よく、例えば、円筒部30の軸方向に沿って該円筒部30の外周面を旋回する螺旋方向に刃22を配列してもよい。
【0066】
なお、血管等の生体組織に突き刺すための突刺部材としては、上記のように所定の幅を持つ刃22(刃部22b)以外であってもよく、例えば、
図10A及び
図10Bに示すように、ベース52aに対して折り畳み収納可能な針部52bを持つ針52を用いたステントグラフト10aとして構成してもよい。針52は、例えば刃22の刃部22bに代えて、先鋭な針部52bを有する。
【0067】
該針52によれば、刃22の場合に比べて血管等の生体組織を切断する機能が低下するため、処置後の血管の損傷や血液漏れを低減することができるが、例えば腎動脈16の交感神経18を確実に切断することができない可能性もある。そこで、針部52bには、交感神経18の伝達機能を遮断(破壊)するための薬物53(神経遮断薬物)を塗布しておくことも有効である(
図10B参照)。そうすると、突き刺した針部52bから該薬物53を所望の部位に確実に送達することができる。
【0068】
薬物53としては、ジブカイン、ミコフェノール酸、グリセリン、アルコール、神経毒等を例示することができる。勿論、これらの薬物を前記の刃22の刃部22bに塗布しておけば、一層確実に神経を遮断することが可能となる。なお、
図10Bでは、図面の簡単のため、一部の針52にのみ薬物53を図示しているが、該薬物53は全ての針52に塗布しても勿論よい。
【0069】
当該ステントグラフトシステム12では、ステントグラフト10を収納するシース24を3層構造のシース24a〜24cで構成し、操作部40で操作ピン46a〜46cを適宜操作することにより、各シース24a〜24cを段階的に後退させ、ステントグラフト10を体内で段階的に展開させることができる展開量調整機構49を有する。
【0070】
従って、ステントグラフト10が体内で一挙に展開されることを防止することができる。例えば、先ず、外シース24aを除去して先端側のフック31を血管内壁に引っ掛けて位置決めした状態で、中シース24bを除去することにより、刃22までの部分を展開させることができる。この際、円筒部30の基端側は、内シース24c内に収納されていることから、
図6Bに示すように、円筒部30をテーパ状に展開させることができ、刃部22bが血管内壁に当接しない状態で、刃部22bを確実に起立させることができ、次の内シース24cの除去によって、刃部22bを鉛直方向で血管内壁に確実に突き刺すことができる。このため、刃部22bが完全に展開しない状態で血管内壁に当接することを防止でき、刃部22bを生体組織へと一層確実に突き刺すことができる。
【0071】
この場合、デリバリー装置20での展開量調整機構としては、上記展開量調整機構49のようにシース24を3層で構成し、各シース24a〜24cを段階的に除去する構成以外であってもよい。例えば、シース24を外シース24a及び内シース24cの2層のみで構成し、外シース24aを除去した段階で、
図2A及び
図2Bに示す状態から
図6A及び
図6Bに示す状態(刃22までが展開された状態)となるように構成しても、上記した3層構造のシースと略同様な作用効果を得ることができる。
【0072】
図11A及び
図11Bに示すように、シース24を外シース24aの1層のみとした展開量調整機構(多段調整機構)49aを持つデリバリー装置20aを備えたステントグラフトシステム12aとして構成してもよい。
【0073】
デリバリー装置20aは、外シース24aの基端側を収納する操作部40aを有し、該操作部40aには、上記の操作部40と略同様なスリット48aが形成されている。スリット48aの周囲の操作部40aのハウジング外面には、所定間隔を介して3つのマーク54a〜54cが印刷又は刻設されており、各マーク54a〜54cの側部には、例えば、数字の「1」、「2」、「3」が付与されている。
【0074】
デリバリー装置20aでは、外シース24aの操作ピン46aを、前記の数字の「1」、「2」、「3」を参考として、先端側のマーク54aの位置、中間のマーク54bの位置、基端側のマーク54cの位置へと段階的に後退させることにより、デリバリー装置20の場合と略同様に、ステントグラフト10を段階的に展開させることができる。つまり、ステントグラフトシステム12aでは、シース24(外シース24a)及び操作部40aが展開量調整機構49aを構成する。
【0075】
従って、操作ピン46aを先端側のマーク54aの位置に設定することにより、ステントグラフト10が
図5Bに示す状態となり、続いて、操作ピン46aを中間のマーク54bの位置に設定することにより、ステントグラフト10が
図6Bに示す状態となり、さらに、操作ピン46aを基端側のマーク54cの位置に設定することにより、ステントグラフト10が
図7Bに示す状態となる。
【0076】
図12A及び
図12Bに示すように、ステントグラフトシステム12bは、デリバリー装置20(20a)に代えて、シース24を外シース24aの1層のみで構成すると共に、操作部40bを有するデリバリー装置20bを備える。
【0077】
デリバリー装置20bを構成する操作部40bは、シャフト36を収納固定したハウジング60と、ハウジング60内に収納され、外シース24aの基端側側面が連結された長尺棒状のラック62と、ラック62のギア62aと噛み合うピニオンギア64aを側面に設けた操作ローラ64とを備え、操作ローラ64の一部がハウジング60に形成された開口部60aから外部に露出している。
【0078】
ピニオンギア64aは、操作ローラ64より小径であり、該操作ローラ64の回転軸64b上に配置されており、操作ローラ64を回転させることにより、ピニオンギア64aを介してラック62、つまり外シース24aを進退駆動し、所望の位置で停止させることができる。ハウジング60の上面には、操作ローラ64が臨む開口部60aと並んで、小窓66が開口しており、該小窓66は、ラック62の上面に設けられたマーク68a〜68dのうちの1つを確認可能な位置・形状に設定されている。各マーク68a〜68dは、例えば、数字の「0」、「1」、「2」、「3」を印刷又は刻設したものである。
【0079】
デリバリー装置20bでは、操作ローラ64を回転させてラック62を後退駆動し、各マーク68a〜68dが小窓66に配置される位置まで外シース24aを段階的に後退させることにより、デリバリー装置20、20aの場合と略同様に、ステントグラフト10を段階的に展開させることができる。つまり、ステントグラフトシステム12bでは、シース24(外シース24a)及び操作部40bが展開量調整機構(多段調整機構)49bを構成する。
【0080】
従って、デリバリー装置20bでは、外シース24a内にステントグラフト10を完全に収納した状態(
図2B参照)において、小窓66には1番目のマーク68aが配置され、術者は「0」を読み取ることができる。この状態でシース24を体内に進め、ステントグラフト10を所定位置で展開する際には、操作ローラ64を回転させてラック62を後退させればよい。先ず、2番目のマーク68b(「1」)が小窓66に配置されるところまで操作ローラ64を回転させることにより、ステントグラフト10は
図5Bに示す状態となる。続いて、3番目のマーク68c(「2」)が小窓66に配置されるところまで操作ローラ64を回転させることにより、ステントグラフト10は
図6Bに示す状態となり、さらに、4番目のマーク68c(「3」)が小窓66に配置されるところまで操作ローラ64を回転させることにより、ステントグラフト10は
図7Bに示す状態となる。
【0081】
上記変形例に係るデリバリー装置20a、20bでは、必ずしも外シース24aを3段階に除去する構成とする必要はなく、例えば、上記した2層構造のシースの場合と略同様に、2段階でステントグラフト10を展開させるようにマーク54a、68a等を設置してもよい。
【0082】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることは勿論である。
【0083】
上記のステントグラフト10及びステントグラフトシステム12は、腎動脈等の交感神経の遮断以外の用途、例えば、腎動脈等の所望の血管壁に生じた狭窄部を拡張する手技に用いることもできる。
【0084】
例えば、腎動脈内に過度の狭窄部が生じた場合、該狭窄部を一般的なバルーンカテーテルやステントで無理に拡張しようとすると、血管の穿孔を生じる可能性がある。そこで、当該システム12を用いてステントグラフト10を前記狭窄部に留置することにより、該狭窄部を拡張する治療を行うことができる。すなわち、上記した交感神経18の切断の場合と略同様に、所望の狭窄部にステントグラフト10を配置して、該狭窄部でステントグラフト10を展開することにより、狭窄部を刃22で適度に切断し、ステント28の拡張力によって容易に拡張することができる。この際、切断した狭窄部周囲には、ステントグラフト10が留置されることから、血液漏れが防止される。つまり、ステントグラフト10を狭窄部の治療に用いることにより、該狭窄部の切断及び拡張と、切断後の血管の補修とを同時に行うことができる。