特許第5694803号(P5694803)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5694803TN−TFT型またはIPS型液晶表示素子用スペーサおよび表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5694803
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】TN−TFT型またはIPS型液晶表示素子用スペーサおよび表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1339 20060101AFI20150312BHJP
【FI】
   G02F1/1339 500
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-31317(P2011-31317)
(22)【出願日】2011年2月16日
(65)【公開番号】特開2012-168474(P2012-168474A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】深津 優太
【審査官】 磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−113915(JP,A)
【文献】 特開平11−202341(JP,A)
【文献】 特開2003−113206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1339
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TN-TFT型またはIPS型液晶表示素子用の衝撃後光抜け変化防止表面処理スペーサであって、
キシレンにて130℃の加温条件で16時間抽出した場合の抽出物の抽出量がポリスチレンを標準物質として400以下であることを特徴とする、液晶表示素子用スペーサ。
【請求項2】
一対の基板、これら基板の間に設けられている液晶、および前記基板の間隙を制御するための請求項1記載のスペーサを備えていることを特徴とする、TN-TFT型またはIPS型液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TN-TFT型液晶またはIPS型表示素子用スペーサおよび表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は二枚のガラス基板間に液晶を挟持して構成され、ガラス基板間の間隔の大きさ(ギャップ) を均一かつ一定に保つために、スペーサと呼ばれる粒子径のそろった微粒子をギャップ制御材として使用している。この液晶表示装置において、スペーサは2枚の基板の間隙を一定に保つために用いられるが、このスペーサは、液晶中において化学的に安定に、かつ、液晶の配向を乱すことなく存在すること等が要求される。
【0003】
しかしながら、上記スペーサを使用して作製された液晶表示装置は、電気的な若しくは物理的な衝撃等、又は、その他の事由により、スペーサの界面において、「光抜け」と呼ばれる液晶の配向異常が発生するという問題点があった。このような異常配向が生じると、液晶表示装置のコントラストを低下させ、表示品位を著しく損なうことがある。
【0004】
この配向異常を防止する方法としては、スペーサ界面において、液晶分子に充分な垂直配向性を持たせる方法が知られている。例えば、特許文献1(特開2001-133788)に記載のスペーサにおいて、イソボルニル基、ノルボルニル基、t-ブチルシクロヘキシル基及びアダマンチル基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基と、炭素数が10〜22の長鎖アルキル基とを有する架橋重合体スペーサが記載されている。
【0005】
特許文献2( 特開2005-128339)には、初期状態だけでなく基板間に外力が加わった場合でも液晶の配向を乱さず、散布性に優れたSTN型液晶表示素子用スペーサの発明があった。
特許文献3(特開2004-117564)には、微粒子の表面に、炭素数10〜22の長鎖アルキル基と2 個以上のエチレン性不飽和基とを含有するグラフト重合層を有するスペーサが記載されている。これを使用することによって液晶の配向異常を起こさず、しかも凝集性が大幅に改善され、高品位な表示性能を発現しうる。
特許文献4(特開平9−244034)においては,表面を長鎖アルキル基を有する重合体層で被覆した重合体粒子を液晶用スペーサーとして使用することによって、液晶用スペーサーの周りの液晶の異常配向を抑制し,液晶パネル点灯時の光抜けを防止している。
特許文献5(特開平9−194842)においては、表面に長鎖アルキル基を有するグラフト重合体鎖を導入した重合体粒子を液晶パネル用スペーサーとして使用することによって液晶用スペーサーの周りの液晶の異常配向を抑制し、液晶パネル点灯時の光抜けを防止している。
【0006】
特許文献6(特開平8−328018)は、表面に長鎖アルキル基が存在する重合体粒子を液晶パネル用スペーサーとして使用し、該長鎖アルキル基の層によってスペーサーの周りの液晶分子の配向を規制することによって、液晶パネル用スペーサーの周りの液晶分子の配向を規制して光り抜け現象を改善することを目的とする。
【0007】
特許文献7(特開平8−43834)には、表面にエポキシ基を有する粒子に、該エポキシ基と反応可能な官能基との結合を介して配向基板に対して付着性を有する重合体鎖をグラフトすることによって、配向基板に付着性が良好な重合体鎖をグラフトした液晶用スペーサを提供する発明があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-133788
【特許文献2】特開2005-128339
【特許文献3】特開2004-117564
【特許文献4】特開平9−244034
【特許文献5】特開平9−194842
【特許文献6】特開平8−328018
【特許文献7】特開平8−43834
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、この様な長鎖アルキル基等を導入したスペーサでは、光抜け性能に良好な性能は示すが、スペーサ間の直線状に異常な配向が繋がる糸状のドメインが発生することがあった。糸状のドメインはTN-TFT型、およびIPS型液晶表示素子においては初期状態及び信頼性試験後に発生していた。このような現象は知られておらず、従ってその原因も指摘されていない。例えば前記した特許文献1〜7においても、TN型TFT液晶表示装置における糸状ドメインという現象は記載されておらず、知られていない。
【0010】
本発明の課題は、TN-TFT型またはIPS型液晶表示素子用の衝撃後光抜け変化防止表面処理スペーサにおいて発生する糸状ドメインを抑制できるようなスペーサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、TN-TFT型またはIPS型液晶表示素子用の衝撃後光抜け変化防止表面処理スペーサであって、
キシレンにて130℃の加温条件で16時間抽出した場合の抽出物の抽出量がポリスチレンを標準物質として400以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、一対の基板、これら基板の間に設けられている液晶、および基板の間隙を制御するための前記スペーサを備えていることを特徴とする、TN-TFT型またはIPS型液晶表示素子に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明者は、TN-TFT型またはIPS型液晶表示素子用の衝撃後光抜け変化防止のための表面処理がなされたスペーサにおいて、糸状ドメインの抑制という課題解決のために鋭意検討をした結果、キシレンにて加温条件で抽出した場合に標準物質に対する抽出物の抽出量を400以下にすることによって、スペーサ間に糸状に繋がるドメインの発生を抑えることに成功した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】スペーサの初期および衝撃後の光抜け状態を示す模式図および写真であり、衝撃の前後に光抜け状態の変化が見られない例を示す。
図2】スペーサの初期および衝撃後の光抜け状態を示す模式図および写真であり、衝撃後に光抜け状態が変化した例を示す。
図3】ドメイン発生レベル0に対応する表示画面を示し、上側の図面は模式図であり、下側の図面は写真である。
図4】ドメイン発生レベル1に対応する表示画面を示し、上側の図面は模式図であり、下側の図面は写真である。
図5】ドメイン発生レベル2に対応する表示画面を示し、上側の図面は模式図であり、下側の図面は写真である。
図6】ドメイン発生レベル3に対応する表示画面を示し、上側の図面は模式図であり、下側の図面は写真である。
図7】ドメイン発生レベル4に対応する表示画面を示し、上側の図面は模式図であり、下側の図面は写真である。
図8】ドメイン発生レベル5に対応する表示画面を示し、上側の図面は模式図であり、下側の図面は写真である。
【発明の実施の形態】
【0015】
(TN-TFT型液晶表示素子)
TN型液晶表示方式とは、Twisted Nematic(ねじれネマティック型)の方式のことである。この方式では、電圧が無印加の状態で、ネマティック液晶分子の配向を、90度ねじれるように配列している。表裏2枚の基板間で90度ねじれるように、各基板表面の配向膜に配向処理を施す。
(IPS型液晶表示素子)
IPS型液晶表示方式とは、(In-Plane Switching型、インプレイン・スイッチング型)方式のことである。この方式では、電極は一方の基板の面内方向に配置している。電圧を無印加の状態では、液晶分子はねじれずに基板面に対して一定の水平方向を向いている。電圧の印加時には電界が面内方向に掛かるため、液晶分子が90度水平に回って電極に沿って並ぶ。無印加と印加で液晶分子が面内方向で90度回ることで、2枚の偏光フィルムとの間で透過、遮蔽を作り出す。
【0016】
また、TFTまたはIPS液晶表示素子とは、アクティブ・マトリクス (Active matrix) 駆動方式の素子であり、アクティブ素子として薄膜トランジスタ(TFT)を用いるものである。
【0017】
(糸状ドメイン)
特許文献で述べたようなスペーサをTN-TFTまたはIPS液晶表示装置のギャップ制御のために使用すると、光抜けなどの問題点はないが、糸状ドメインという未知の現象が発生することがわかった。糸状ドメインについて、図3〜8を参照しつつ説明する。
【0018】
糸状ドメインとは、隣接するスペーサの間に、直線状に、異常な配向が繋がる現象であり、表示画面においては直線状の表示欠陥として現れる。例えば図3の画面では、光抜けも糸状ドメインも存在しない。しかし、図4では糸状ドメインが若干現れており、図5から図8へと向かって糸状ドメインの個数が増加していくのがわかる。
【0019】
(抽出量)
本発明では、キシレンにて加温条件で抽出した場合の標準物質に対する抽出物の抽出量が400以下であるスペーサをTN-TFT型またはIPS型液晶表示素子に使用する。
【0020】
これは、以下の測定方法で得られる数値である。
内部標準物質としてポリスチレン0.02gをキシレン100gに溶解し、抽出液とする。スペーサ粒子2gと抽出液5gとをアンプルに入れて封入し、タッチミキサーにて1分間分散した後、130℃にて16時間抽出を行う。得られた抽出液をPTFEメンブランフィルターにてろ過し、ろ過によって得られた液を、PGC-MSシステムにて測定し、各リテンションタイムのピークの由来物質(抽出物)をMS(マススペクトル)にて帰属し、各モノマーのピーク面積の総量を内部標準物質の面積に対する数値で除して抽出量とする。この抽出量は、粒子2gからのキシレンへの抽出物のピーク面積と、標準物質(ポリスチレン)0.001gのピーク面積との比率であり、単位のない無名数である。
【0021】
ここで抽出されている成分は、表面処理成分由来の成分である。表面処理成分由来の成分とは、長鎖アルキルや疎水性の官能基を含むアクリル、もしくは、メタクリル由来の成分であり、PGC-MS分析にて各リテンションタイムの成分のマススペクトルを分析することによって同定可能である。
【0022】
結果的には、スペーサの表面からキシレン中に溶出するような成分が、TN型TFT液晶表示装置においては、スペーサ間に直線状の配向異状を生じさせていた原因であったことが判明した。このような知見は本発明者によって初めて得られたものである。
【0023】
(スペーサ)
本発明で用いるスペーサ粒子の粒子径は、0.5μm〜8μmが好ましく、2μm〜7μmが更に好ましい。
スペーサ微粒子の材質は特に限定されず、例えば、樹脂、有機物、無機物、これらの化合物や混合物等が挙げられる。
【0024】
上記樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール等の線状又は架橋高分子重合体;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジビニルベンゼン重合体、ジビニルベンゼン−スチレン共重合体、ジビニルベンゼン−アクリル酸エステル共重合体、ジアリルフタレート重合体、トリアリルイソシアヌレート重合体等の架橋構造を有する樹脂等が挙げられる。
また、無機物としてはシリカ等があげられる。
【0025】
微粒子の製法も特に限定されず、乳化重合、分散重合、懸濁重合、シード重合等の重合法、高分子材料を溶媒に溶解させた溶液からの粒子析出造粒法、あるいは高分子材料を粉砕して粒子化する方法等、公知の方法から得ることができる。
【0026】
また、微粒子の被覆樹脂を設けることもできる。この場合、被覆樹脂の種類は特に限定されない。被覆樹脂には、アルキル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基およびアミド基からなる群より選ばれた一種以上の官能基を付けることができる。
【0027】
例えば、ポリビニルアルコールやポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレートやポリグリシジルメタクリレートなどのようにビニル系化合物(CH=C(R)−R)のR・Rにヒドロキシル基あるいはエポキシ基を持つモノマーの重合体または共重合体等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、これらの混合物等があげられるが、前記のような官能基を有する限り特に限定されるものではない。更に、これらの被覆樹脂は、単に物理的に接着しているのではなく、化学的に結合しているのが好ましい。
【0028】
好適な実施形態においては、微粒子において、粒子表面と、付着層を構成する重合体とを共有結合によって結合せしめる。その方法としてはグラフト重合法、および高分子反応法を例示できる。グラフト重合法においては、粒子表面に重合可能なビニル基を導入し、該ビニル基を出発点として上記単量体を重合する方法、粒子表面に重合開始剤を導入し、該開始剤により上記単量体を重合する方法の二つが考えられる。
【0029】
衝撃後光抜け変化防止表面処理スペーサ)
液晶パネルの背後から光を照射すると、スペーサの周縁に沿って光が前面側へと放射される。この光放射は微弱であり、通常、表示欠陥とはならないものである。例えば、図1の左側は、衝撃前の状態を示す模式図および写真であり、図1の右側は、衝撃後の状態を示す模式図および写真である。衝撃の前後において、スペーサ周縁から漏れる光の料や形状は少なく、かつ変化していない。
【0030】
しかし、表示パネルに機械的、電気的衝撃が加わると、液晶規制力が変化し、配向異状が起こり、スペーサの周縁に沿って異状な光の漏れが生ずる。例えば、図2の左側は、衝撃前の状態を示す模式図および写真であり、図2の右側は、衝撃後の状態を示す模式図および写真である。衝撃後には、スペーサ周縁から漏れる光量が増大し、また光の形状が変化している。このような、衝撃前後における光抜け量の変化を防止することが必要である。
こうした光抜け変化防止のための表面処理としては、以下のものがあるが、限定はされない。表面にラジカル連鎖移動可能な官能基および/ またはラジカル重合開始能を有する活性基を導入した重合体粒子に、長鎖アルキル基を有する重合性ビニル単量体と重合性ビニル単量体と共重合可能な他の重合性ビニル単量体との混合物を、重合開始剤を使用してもしくは使用せずにグラフト重合することによって、該重合体粒子表面に長鎖アルキル基を有するグラフト重合体鎖を導入する。
【0031】
更に好ましくは、少なくとも炭素数が10〜22のアルキル基を有するモノマーを含む重合体によってスペーサが被覆されている。
【0032】
上記重合性ビニル単量体としては、以下のものがあるが、限定はされない。 n−ラウリルアクリレート、n−ステアリルアクリレート、イソステアリルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、ノニルフェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノールポリオキシエチレンアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルポリオキシエチレンアクリレート、オクチルフェノールポリオキシエチレンアクリレート、ステアリルフェノールポリオキシエチレンアクリレート、n−ラウリルメタクリレート、n−ステアリルメタクリレート、イソステアリルメタクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルフェノキシエチルメタクリレート、ノニルフェノールポリオキシエチレンメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、セチルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラエチレングリコールモノメタクリレート、ラウリルポリオキシエチレンメタクリレート、オクチルフェノールポリオキシエチレンメタクリレート、ステアリルフェノールポリオキシエチレンメタクリレート、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルなど。
【0033】
例えば、特許文献1記載のように、イソボルニル基、ノルボルニル基、t-ブチルシクロヘキシル基及びアダマンチル基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基と、炭素数が10〜22のアルキル基とを有する架橋重合体スペーサがある。また、特許文献3記載のように、微粒子の表面に、炭素数10 〜22のアルキル基と2個以上のエチレン性不飽和基とを含有するグラフト重合層を有するスペーサが挙げられる。また、特許文献4、5、6記載のように、表面を長鎖アルキル基を有する重合体層で被覆した重合体粒子からなるスペーサが挙げられる。
【0034】
(スペーサ粒子の処理)
本発明を実施するのに際しては、スペーサからの抽出物の抽出量を測定しながら、抽出量を低減する処理を施すことが考えられる。
具体的には、以下の処理が有用である。
(1) スペーサを有機溶媒中で加熱する。加熱温度、溶媒、時間、処理回数を選択することによって、抽出量を変化させることができる。
【0035】
加熱温度は、抽出量の低減という観点からは、120℃以上が好ましく、130℃以上が更に好ましい。また、スペーサの変質を防止するという観点からは、200℃以下が好ましく、180℃以下が更に好ましい。
【0036】
有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素を例示できるが、キシレンが特に好ましい。
【0037】
加熱時間を長くすること、処理回数を増やすことによって、抽出量を減らすことができる。これらの条件は、実際の抽出量の測定値に応じて適宜変更することができる。
【0038】
(2) スペーサーを有機溶媒中で超音波洗浄する。
有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素を例示できるが、キシレンが特に好ましい。
【0039】
処理時間を長くすること、処理回数を増やすことによって、抽出量を減らすことができる。これらの条件は、実際の抽出量の測定値に応じて適宜変更することができる。
【0040】
(スペーサの配置)
基板上におけるスペーサ粒子の配置は、特に限定されるものではなく、ランダム配置であっても良いし、特定の位置にパターン化して配置したパターン配置であってもよい。スペーサ粒子に起因する光抜けなどの表示品質の低下を抑制するという観点からは、パネルの非表示部分にスペーサ粒子を配置することが好ましい。
【0041】
非表示部分とは、一般に、画素の周囲に形成されたブラックマトリクスと呼ばれる遮光層のことであり、TFT液晶表示素子においては、TFT素子が位置する部分が存在するが、スペーサはTFT素子を破壊することがないようにブラックマトリクス下に配置することが好ましい。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
「ナトコスペーサー KXDA-410」 10gにキシレン40gを一括しこみで130℃、窒素下で60分洗浄、ろ過を行い、これを合計4回繰り返すことによって粒子Aを得た。
【0043】
(比較例1)
「ナトコスペーサーKXDA-410」 10gにキシレン40gを一括しこみで130℃、窒素下で60分洗浄、ろ過を行い、粒子Bを得た。
【0044】
(比較例2)
積水化学株式会社製「EX-00425-AC」を比較例として使用した。
(比較例3)
「ナトコスペーサーKXDA-410」 10gにキシレン40gを一括しこみで130℃、窒素下で60分洗浄、ろ過を行い、これを合計2回繰り返すことによって粒子Dを得た。
【0045】
(比較例4)
けん化度が88%のポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製、GH-20)の3%水溶液800重量部に、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート60重量部、ジビニルベンゼン40重量部及び過酸化ベンゾイル2重量部の混合液を加えてホモジナイザーにて撹拌して粒度調整を行った。次いで、撹拌しながら窒素気流下にて80℃ まで昇温し、15時間反応を行った後、熱イオン交換水及びメタノールにて洗浄後分級操作を行い、平均粒径5.0μm 、標準偏差2.9%の重合体粒子を得た。
【0046】
この重合体粒子に、メタクリロイルイソシアナート30%トルエン溶液3g、メチルエチルケトン20gを一括に仕込み、20〜25℃で30〜60分反応させることによって表面に重合性ビニル基を有する重合体粒子Eが得られた。
【0047】
表面に重合成ビニル基を有する重合体粒子E 1gに重合開始剤0.1g、メチルエチルケトン10g、長鎖アルキルを含む重合性ビニル単量体5gを一括に仕込み、窒素気流下80℃で2〜3時間反応させ、ろ過にて取り出し、洗浄せずに乾燥させることによって粒子Fを得た。
【0048】
(比較例5)
粒子Fをアセトンにて超音波分散洗浄を15分行い、ろ過を行いこれを3回繰り返すことによって粒子Gを得た。
【0049】
(実施例3)
粒子Fをメチルエチルケトンにて超音波分散洗浄を15分行い、ろ過を行いこれを3回繰り返すことによって粒子Hを得た。
(実施例4)
ナトコスペーサーKXDA-410 10gにキシレン40gを一括しこみで130℃、窒素下で60分洗浄、ろ過を行い、これを合計3回繰り返すことによって粒子Iを得た。
【0050】
(比較例6)
ナトコスペーサーKXDA-460 10gにキシレン40gを一括しこみで130℃、窒素下で60分洗浄、ろ過を行い、これを合計2回繰り返すことによって粒子Jを得た。
【0051】
(実施例5)
粒子J 10gにキシレン40gを一括しこみで130℃、窒素下で30分洗浄、ろ過を行い、粒子Mを得た。
(実施例6)
ナトコスペーサーKXDA-460 10gにキシレン40gを一括しこみで130℃、窒素下で60分洗浄、ろ過を行い、これを合計3回繰り返すことによって粒子Nを得た。
(比較例7)
表面処理なし粒子としてナトコスペーサーKD-410を粒子Oとした。
【0052】
(耐衝撃光抜け防止機能評価)
日産化学製SE-610を塗布し、ラビング強度620でラビングを行ったラビング基板に粒子をそれぞれ散布し、簡易セルを作成し、メルク製MLC-6614を液晶として用い、液晶を注入した後、130℃にて30分アニール処理を行った後、配向規制力の初期状態を評価した。その後、パネルに木槌で衝撃を100回与え、同様に配向規制力を評価し、光抜けの形状・強さの変化の有無を確認した。光抜け変化の有無は以下のように判定し、○×で示した。
「○:変化がなかった」:
衝撃の前後で粒子の周りの光抜けの形状・輝度に変化がない(図1参照)。
「×:変化があった」:
衝撃の前後で粒子の周りの光抜けの形状・輝度に変化がある(図2参照)。
【0053】
【表1】
【0054】
この結果、粒子O(表面処理なし粒子)に関しては光抜け防止機能を有しておらず、今回の該当粒子から除外される。
【0055】
(抽出量評価)
内部標準物質としてポリスチレン(東ソー(株)製 TSK標準ポリスチレン F2 Mw=1.67×104)0.02gをキシレン(キシダ化学 特級)100gに溶解し、抽出液Cとした。
粒子A2gと抽出液C 5gをアンプルに入れ封入し、タッチミキサーにて1分間分散した後、130℃にて16時間抽出を行った。得られた抽出液をPTFEメンブランフィルターにてろ過し、ろ過によって得られた液をPGC-MSシステムにて測定し、各リテンションタイムのピークの由来物質をMSにて帰属し、各モノマーのピーク面積の総量を内部標準物質の面積に対する数値で除して抽出量とした。この時、内部標準物質の面積計算についてスチレン分解物のダイマーなどは計算に入れず、分解モノマーのみの面積を使用した。
粒子Bについても同様に処理を行った。
【0056】
PGC-MSシステムの仕様は以下のとおりである。
熱分解炉:FRONTIER LABORATORIES LTD. Double-Shot Pyrolyzer PY-2020D
GC-MS:Agilent 6890A GC + Agilent 5973N MSD
カラム:FRONTIER LABORATORIES LTD. Ultra ALLOY(登録商標)Capillary
Column
Ultra ALLOY+-5 Length:30 m
, I.D:0.25 mm , Film:0.25 μm
GC条件
温度条件:70℃×5 min → 20℃/minで300℃まで昇温し、保持
ガス流量:1 ml/min
熱分解炉温度:550℃
【0057】
(初期糸状ドメイン評価)
日産化学製SE-7492を塗布し、ラビング強度22.2でラビングを行ったラビング基板に粒子をそれぞれ散布し、簡易セルを作成し、メルク製MLC-13200-100を液晶として用い、液晶を注入した後、120℃にて1時間アニール処理を行った後、ドメインの発生状況を評価した。発生量に応じてドメインレベルを決定した。ドメインレベルは5>4>3>2>1>0の順に発生しやすい順になっており、ドメインレベル0で発生量は0となる。
【0058】
(高温糸状ドメイン評価)
日産化学製SE-7492を塗布し、ラビング強度22.2でラビングを行ったラビング基板に粒子をそれぞれ散布し、簡易セルを作成し、メルク製MLC-13200-100を液晶として用い、液晶を注入した後、120℃にて1時間アニール処理を行った後、130℃にて16時間加熱促進試験を行った後、ドメインの発生状況を評価した。発生量に応じてドメイン発生レベルを決定した。ドメイン発生レベルは5>4>3>2>1>0の順に発生しやすい順になっており、ドメイン発生レベル0で発生量は0となる。
【0059】
ここで、各ドメイン発生レベルの基準を示す。
0 ・・・・・ドメインの発生量が0
1 ・・・・・パネル内にある粒子総数に対して、ドメインの数が1%未満
2 ・・・・・パネル内にある粒子総数に対して、ドメインの数が1〜5%
3 ・・・・・パネル内にある粒子総数に対して、ドメインの数が5〜15%
4 ・・・・・パネル内にある粒子総数に対して、ドメインの数が15〜25%
5 ・・・・・パネル内にある粒子総数に対して、ドメインの数が25%以上
【0060】
また、図3図8にドメイン発生レベル0〜5に対応した各表示画面を示す。各図面において、上側はスペーサの配置位置を示す模式図であり、下側は各表示画像の写真である。図3図4図5図6図7図8は、それぞれ、ドメイン発生レベル0、1、2、3、4、5に対応している。
【0061】
前述の各実施例、比較例のスペーサについて、前記の抽出量測定および初期および高温ドメインレベルの評価を行い、評価結果を表2に示した。
【0062】
【表2】
【0063】
この結果からわかるように、前記抽出量が400以下であると、初期ドメインレベル、高温ドメインレベルともにゼロになっており、極めて高品位な画面を提供できている。この観点からは、前記抽出量が393以下であることが更に好ましい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8