特許第5694848号(P5694848)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5694848
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月1日
(54)【発明の名称】電子装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 9/38 20060101AFI20150312BHJP
   H01J 9/385 20060101ALI20150312BHJP
   H01J 31/15 20060101ALI20150312BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20150312BHJP
【FI】
   H01J9/38 A
   H01J9/385 A
   H01J31/15 A
   H01L23/02 G
   H01L23/02 F
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-112643(P2011-112643)
(22)【出願日】2011年5月19日
(65)【公開番号】特開2012-243575(P2012-243575A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2013年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201814
【氏名又は名称】双葉電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】白石 信明
【審査官】 小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−030614(JP,A)
【文献】 特開2002−083542(JP,A)
【文献】 特開平04−104428(JP,A)
【文献】 特開2003−168364(JP,A)
【文献】 特開2011−187354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 9/26,9/38−9/395,31/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み合わせた複数の容器部材を封着した気密容器と、前記気密容器の内部に収納された電子デバイスとを有する電子装置の製造方法において、
内部に前記電子デバイスを収納した状態で複数の前記容器部材を隙間をおいて組み合わせ、組み合わせた複数の前記容器部材の内部を、前記隙間を通って前記容器部材の外から内部に空気が流入してくるように吸引する吸塵工程を行なった後に、複数の前記容器部材を封着して前記気密容器を製造する封着工程を行なうことを特徴とする電子装置の製造方法。
【請求項2】
前記気密容器の端部となる前記容器部材の一部分には吸引穴が形成されており、組み合わせた複数の前記容器部材を前記吸引穴が下方に位置する姿勢に設定し、前記容器部材に振動を与えながら前記吸塵工程を行なうことを特徴とする請求項1記載の電子装置の製造方法。
【請求項3】
前記電子デバイスをアースしながら前記吸塵工程を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子装置の製造方法。
【請求項4】
前記容器部材の前記隙間を隙間保持部材で保持することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の電子装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密容器の内部に電子デバイスを封入してなる電子装置の製造方法に係り、特に内部から異物をより確実に除去した状態で気密容器を製造することができるため、異物の存在に起因する種々の機能不良が生じにくい電子装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、薄型の画像表示装置の製造方法に関する発明が開示されている。この発明によれば、多数の表面伝導型電子放出素子74を有する電子源71と、電子線により画像を形成する蛍光膜84とを外囲器88内に包含する画像形成装置の製造において、外囲器88内に電子源71と蛍光膜84を配置した後に、外囲器88内部の塵を除去する洗浄工程を行う。洗浄工程としては、真空排気装置と外囲器との接続部に設けられた集塵手段による集塵工程でもよいし、電気集塵でもよい。また、外囲器内に液体を流して行う洗浄工程でもよい。この方法により製造した薄型の画像表示装置によれば、色ずれや欠落画素が少なく、均一な画像が得られるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−149787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載された画像形成装置の製造方法によれば、電子源と蛍光膜が設けられた外囲器を封着工程で組み立てて気密構造とした後、この外囲器に連通している排気管から内部を高真空状態に排気した後に同吸引管を封止する排気・封止工程において、外囲器内に混入している塵を同工程の排気作業で同時に除去している。すなわち、この発明では、気密状態に完成された外囲器内を高真空状態に排気する排気工程と、外囲器内の異物を吸引等により除去する吸塵工程を同時に行っている。
【0005】
このように、前記特許文献1に記載された画像形成装置の製造方法によれば、気密状態に組み立てられた外囲器の内部を吸引するため排気コンダクタンスが大きくなり、必要な高真空状態を得るための排気に長時間を要するとともに、吸塵に関しても効果的でなく、外囲器の中で排気管が接続された部分に近接した領域に存在する一部の異物しか吸い出すことができず、実際には除去できなかった多くの異物が外囲器内に残存したままになっていた。
【0006】
本発明は、以上説明した従来技術における問題点を解決するためになされたものであり、気密容器の内部に電子デバイスを封入してなる電子装置の製造方法において、内部から異物をより確実に除去した気密容器を製造できるため、異物の存在に起因する種々の機能不良が生じにくい電子装置の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載された電子装置の製造方法は、
組み合わせた複数の容器部材を封着した気密容器と、前記気密容器の内部に収納された電子デバイスとを有する電子装置の製造方法において、
内部に前記電子デバイスを収納した状態で複数の前記容器部材を隙間をおいて組み合わせ、組み合わせた複数の前記容器部材の内部を、前記隙間を通って前記容器部材の外から内部に空気が流入してくるように吸引する吸塵工程を行なった後に、複数の前記容器部材を封着して前記気密容器を製造する封着工程を行なうことを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載された電子装置の製造方法は、請求項1記載の電子装置の製造方法において、
前記気密容器の端部となる前記容器部材の一部分には吸引穴が形成されており、組み合わせた複数の前記容器部材を前記吸引穴が下方に位置する姿勢に設定し、前記容器部材に振動を与えながら前記吸塵工程を行なうことを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載された電子装置の製造方法は、請求項1又は2に記載の電子装置の製造方法において、
前記電子デバイスをアースしながら前記吸塵工程を行なうことを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載された電子装置の製造方法は、請求項1乃至3の何れか一つに記載の電子装置の製造方法において、前記容器部材の前記隙間を隙間保持部材で保持することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された電子装置の製造方法によれば、容器部材で気密容器を組み立てる面付工程において、電子デバイスを内部に収納した気密容器が構成されるように複数の容器部材を所定の隙間をおいて組み合わせる。次に、面付けされた容器部材の隙間から吸引手段によって内部を吸引する吸塵工程を行ない、内部に存在している可能性のある異物を吸引して除去する。この工程では、封着前の気密容器の内部は、組み合わされた複数の容器部材間の隙間を介して外に連通している。このため、複数の容器部材の隙間のうち、ある位置において吸引手段が内部を吸引すると、その吸引している位置とは異なる別の位置にある隙間を通り、気密容器の外から内部に空気が流入してくる。従って、気密容器内を吸引する際の抵抗が少なく、気密容器の内部には空気の流れが生じ、異物は空気の流れに乗って運ばれ、吸引手段で気密容器外に容易に吸い出すことができる。内部の異物を吸い出した後に、容器部材を封着すれば、内部から異物が除去された状態の気密容器が製造される。この後、必要に応じて、気密容器の内部を高真空状態にするために気密容器に設けた穴から排気する排気工程を行い、さらにその後に穴を封止する封止工程を行なえば、気密容器の内部に電子デバイスを収納してなる電子装置が完成する。
【0012】
請求項2に記載された電子装置の製造方法によれば、一部の容器部材の端部に設けられた吸引穴が相対的に下方に位置するように、気密容器の形に組み合わされた複数の容器部材の姿勢を設定し、さらに容器部材に振動を与えながら吸塵工程を行なう。このため、封着前の気密容器の内部にある異物は、仮に容器部の内面等に付着していても、振動によって容器部等から分離して気密容器内で落下して相対的に下方の吸引穴から吸い出されるので、気密容器外に確実に排出することができる。
【0013】
請求項3に記載された電子装置の製造方法では、吸塵工程において、気密容器内に空気の流れが生じ、またこの空気の流れに乗って塵等の異物が移動して気密容器の内面や電子デバイスに接触するため、電子デバイスに静電気が発生することが考えられる。しかしながら、本方法では、気密容器の形に組み合わされた複数の容器部材の内部にある電子デバイスをアースした状態で吸塵工程を行なうので、仮に上述のように静電気が発生したとしても、静電気はアースに逃げるので電子デバイスが静電気のために故障を起こす恐れは少ない。
【0014】
請求項4に記載された電子装置の製造方法によれば、容器部材の前記隙間を隙間保持部材によって所定寸法に保持することができるので、吸塵工程での塵等の吸い出しを確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る製造方法の概要を説明する模式的な断面図である。
図2】(a)は本発明の実施形態に係る製造方法の工程図、(b)は従来の製造方法の工程図である。
図3】本発明の実施形態に係る製造方法において、製造対象となる電子装置の吸塵工程における状態を示す図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のb−b切断線における断面図である。
図4】本発明の実施形態で用いられる吸塵装置の図であって、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は左側面図である。
図5】本発明の実施形態で用いられる吸塵装置のタッピング部を示す拡大正面図である。
図6】本発明の実施形態に係る製造方法で製造された電子装置の不良率と、従来の製造方法で製造された電子装置の不良率を比較して示す第1の図である。
図7】本発明の実施形態に係る製造方法で製造された電子装置の不良率と、従来の製造方法で製造された電子装置の不良率を比較して示す第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態は、電子装置の一例である蛍光発光装置の製造方法に関するものである。まず、封着前の工程を示す図1と、工程の流れを示す図2を参照して、本製造方法の概要を説明する。
図1に示すように、この蛍光発光装置1は、少なくとも一部が透光性である複数個の容器部材を組み合わせた箱型の気密容器2の内部に、発光素子を含む図示しない電子デバイス (電子素子)を収納した構造の装置である。図1に示す一例では、気密容器2を構成する容器部材3,4は、片面側が開放された箱状の蓋体である一方の容器部材としての容器部3と、この容器部3の開放された側に面付けされる他方の容器部材としての基板4からなり、両者は図示しない封着 (接着)ガラス等を介して封着 (接着)固定されている。気密容器2の内部にある図示しない電子デバイスは、基板4の内面側に作り込まれるか、又は基板4の上に積載して設けられており、この電子デバイスに接続される図示しない外部端子 (金属端子)は、容器部3と基板4の封着部分を気密に貫通して外部に導出される。従って、組み合わされた容器部材3,4の隙間dは、ここを貫通する隙間保持部材としての外部端子の厚さ分に相当する。
【0017】
本実施形態の製造方法の第1の特徴は、内部に電子デバイスを収納した状態で容器部材3,4を隙間をあけて組み合わせる面付工程Aを行い (図1及び図2(a)参照)、次にその内部を吸塵手段5で吸引する吸塵工程B(「排気穴吸塵工程B」とも呼ぶ。)を行ない (図1及び図2(a)参照)、その後で、各容器部材3,4を封着して気密容器2を製造する封着工程Cを行なうことである (図2(a)参照)。吸塵工程Bでは、組み合わせた容器部材3,4の隙間dから気密容器2の内部に外部の気体 (空気又は不活性ガス等)が流入してくるので、吸塵手段5で気密容器2内を吸引する際の排気抵抗が小さくなり、気密容器2の内部には気体の流れが生じ、異物6は気体の流れに乗って吸塵手段5で気密容器外に容易に吸い出せる。
【0018】
第2の特徴は、図1及び図2(a)に示す吸塵工程Bを行なう際、組み合わせた容器部材3,4の下側から吸引することである。このように下方からの吸引を行なうため、容器部材3の一部分に形成しておいた吸引穴7が、容器部材3,4を組み合わせた状態では気密容器2の片側に偏寄した位置にくるようにしておく。そして吸塵工程Bでは、この吸引穴7が下方に来るように、組み合わせた容器部材3,4の姿勢を縦置きに設定する。このようにして下方に位置する吸引穴7から吸引すれば、組み合わせた容器部材3,4の内部に存在する可能性のある異物6は重力で下方に落下するので、吸塵手段5によって吸引穴7から外に吸い出しやすくなる。
【0019】
第3の特徴は、図1及び図2(a)に示す吸塵工程Bを、図1に示すように組み合わせた容器部材3,4に加振手段8で振動を与えながら行なうことである。このように振動を与えるためにかるく叩く操作のことを、ここではタッピングと称する。この特徴は、第2の特徴を前提としてもよいし、第2の特徴とは別個に採用しても一定の効果が得られる。組み合わせた封着前の容器部材3,4の内面等に異物が付着しており、吸引だけでは容易に異物6の吸引除去が行なえないような場合であっても、容器部材3,4に振動を与えることにより、異物6を容器部材3,4等から分離して吸塵手段5で気密容器2外に容易に吸い出すことができる。なお、組み合わせた容器部材3,4を、吸引穴7が下方に位置するような姿勢に設定した上で振動を与えながら吸引すれば、容器部材3,4等から分離した異物6は内部で落下して吸引穴7の周辺に集まるので、下方の吸引穴7から吸い出し易くなり、気密容器2外への排出がより確実になる。
【0020】
第4の特徴は、図1及び図2(a)に示す吸塵工程Bを、組み合わせた容器部材3,4の内部にある電子デバイスをアースしながら行なうことである。吸塵工程Bで発生する空気の流れによって塵等の異物6が移動し、空気流と気密容器2の内面(電子デバイスを含む)との摩擦や、異物と気密容器2の内面(電子デバイスを含む)との摩擦によって静電気が発生しても、電子デバイスをアースした状態で吸塵工程Bを行なうことによって静電気を逃がすことができるので、電子デバイスが静電気で故障することはないし、静電気で異物6が容器部材3,4に吸い付けられる等の不具合が発生することもない。
【0021】
蛍光発光装置の中には、電子デバイスの一部として、発光駆動等制御用の半導体チップが気密容器の内部に収納されているタイプのものがあるが、このようなタイプの蛍光発光装置の製造工程においては、特に本実施形態のようにエアの吸引により発生する静電気を逃がすようにすることにより、当該半導体チップの静電気による故障を防止することができるので、好都合である。
【0022】
本実施形態の製造方法によれば、図1に示すように、組み合わせた容器部材3,4の内部から以上のようにして異物6を確実に除去した後、図2(a)に示すように、これら容器部材3,4を封着して気密容器2を製造する封着工程Cを行なう。その後、気密容器2の内部を排気管等から排気する排気工程Dを行い、さらに排気管を閉じて気密容器2の内部を閉止する封止工程Eを行えば、内部に塵等の異物6の混入のない蛍光発光装置1が完成する。なお、排気工程Dを行う場合には、前述した吸引穴7から内部の気体を排出してもよく、その場合には封止工程Eで吸引穴7を気密状態に閉止することとなる。
【0023】
これに対し、図2(b)に示すように、従来の蛍光発光装置の製造工程では、面付工程Aで複数の容器部材を気密容器の形態に組み合わせた後、封着工程Cにおいて、組み合わせた容器部材の間に設けた封着ガラスを加熱溶融して容器部材同士を接着し、気密性のある気密容器を完成する。その後で、この気密容器に連通する排気管等を介して内部を排気する排気工程Dを行い、必要な真空度が得られたところで排気管等を閉止する封止工程Eを行なう。このように、排気工程Dでは、完成した気密容器の内部を吸引するので、容器部材の隙間から外部の空気が内部に流れ込むことはないので、気密容器の内部では十分な空気の流れが起きず、異物の吸出しは十分には行なわれない。
【0024】
次に、本発明の実施形態に係る真空電子装置である蛍光発光装置の製造方法の一具体例を図3図5を参照して説明する。
図3は、本実施形態の製造方法の対象物である組み立て途中の蛍光発光装置11又は気密容器12を示す図である。なお、蛍光発光装置11又は気密容器12の全体及びその構成部品については、説明の便宜上、組立中と完成後で同一の符号を以て指称するものとする。この蛍光発光装置11は箱型パネル状の気密容器12を有している。気密容器12は、容器部材である2枚の矩形の基板13,14を、所定間隔をおいて互いに平行となるように対面して組み合わせたものであり、一方の基板13には、その長手方向の一端部の略中央部分に、排気工程で内部を排気するために使用される吸引穴15が貫通して形成されている。
【0025】
気密容器12の内部には、発光素子及び電子源を含む電子デバイス16が収納されている。発光素子(表示素子)としては、例えば蛍光体を設けた陽極等があり、また電子源としては、電子放出物質を被着したフィラメント状の陰極や、FEC(電界放出カソード)等の面状の電子源等がある。また、電子源から放出された電子の移動を制御する制御電極を、電子源と陽極の間に設けてもよい。気密容器12を構成する基板13,14の少なくとも一部は透光性であるため、この電子デバイス16の発光は外部から基板13,14を介して視認することができる。この電子デバイス16に接続される外部端子17は、組み合わされた基板13,14の長辺側の隙間から外部に導出されている。外部端子17には、例えば、陽極に接続されたアノードリード、制御電極に接続されたグリッドリード、陰極に接続されたフィラメントリード、半導体チップに接続されたドライバチップ用リードなどの通電用リードがある。 従って、2枚の基板13,14の間隔は外部端子17の厚さ分に相当しており、例えば0.2mm程度である。これら2枚の基板13,14は、完成時には封着ガラス等によって基板13,14の周囲を封着固定されて気密容器12を構成するが、図3に示す状態では、基板13,14の周囲は所定間隔をおいて対面して組み合わされているだけであり、まだ封着されてはいない。これは、後の吸塵工程で気密容器12の内部を吸引する際に、少ない吸引抵抗で効率的に異物の吸出しを行なうためである。
【0026】
図3に示すように、組み合わされた2枚の基板13,14は、平面視矩形状である皿状の背板18に載せられている。背板18の中央には開放穴19が形成されており、一方の基板14の中央部分が露出するようになっている。また、背板18の一対の長辺は基板13,14と平行に外方に張り出すフランジ20を構成しており、組み合わされた2枚の基板13,14の長辺側から導出された外部端子17が、このフランジ20に接触して変形せずに支持されるようになっている。そして、組み合わされた2枚の基板13,14と背板18は、保持手段であるクリップ21により、4箇所で厚さ方向に挟まれて全体として一体に保持されている。フランジ20を含めた背板18は導電性であり、蛍光発光装置11の中にある電子デバイス16に接続された外部端子17は背板18のフランジ20に導通しているので、この背板18をグラウンドに接続(アース)することによって蛍光発光装置11の電子デバイス16から静電気を逃がすことができる。
【0027】
このように、気密容器12を組み立てることを「面付け」と称し、本実施形態では、面付け状態の気密容器12又は蛍光発光装置11を背板18及びクリップ21によって仮固定し、基板13,14間に隙間がある状態で取り扱えるようになっている。
【0028】
なお、気密容器12を面付け状態に仮固定する背板18は、後述するように、吸塵工程の後、このままの状態で封着工程に送られて気密容器12とともに加熱されるため、面付けされた気密容器12を均一に加熱する均熱板としての機能も発揮することとなる。
【0029】
図4は、本実施形態の製造方法で用いられる吸塵装置25の図である。
図示しない基台の上に設置された基板26には、気密容器12の操作台27が設置されている。操作台27には吸引保持部28が設けられており、操作台27の上に載置された蛍光発光装置11を空気の吸引力で保持できるようになっている。操作台27の上に載置される蛍光発光装置11は、図4では簡略化して図示しているが、実際には図3に示すような背板18とクリップ21で仮固定された状態であり、背板18が下側で操作台27に接触するように操作台27に載置される。
【0030】
図4に示すように、操作台27は、基板26上に設置された回転用シリンダ29の軸に取り付けられている。この回転用シリンダ29は、空気圧で作動するロータリーアクチュエータである。操作台27は、回転用シリンダ29の駆動によって水平な受け入れ位置と、垂直な吸塵位置との間で任意に移動することができる。受け入れ位置は、操作台27が基台26に対して水平な状態となって支持棒30に支持される位置である。気密容器12は、受け入れ位置にある操作台27の上に水平な状態で供給されて載置され、吸引保持部28で保持される。吸塵位置は、操作台27が水平位置から上方に回転して基台26に対して垂直となる位置である。吸塵位置にある操作台27に保持された気密容器12は、吸塵工程で内部の吸引を受けるために、図示しない吸引穴15が下方に位置する縦置きの状態となる。
【0031】
図4に示すように、操作台27には、吸引保持部28で操作台27に保持された気密容器12をたたいて振動を与える加振手段として、3個のタッピング装置31を有する第1タッピング部32が設けられている。タッピング装置31は、図5に示す後述する第2タッピング部33のタッピング装置31と同様、エアーシリンダ34の先端に弾性材料からなるタッピングヘッド35を取り付けた構成である。3個のタッピング装置31は、操作台27の上に保持された蛍光発光装置11の背板18の開放穴19に相当する位置に配置されており、開放穴19を介して蛍光発光装置11の一方の基板14に接触可能である。従って、適宜の周期の空気圧を第1タッピング部32に供給することにより、各エアーシリンダ34の駆動部を適当な繰返し周期で前後に往復移動させ、タッピングヘッド35を前後 (図5では左右方向)に往復移動させ、気密容器12の一方の基板14(下面側の基板)をたたいて振動させることができる。
【0032】
操作台27は導電性樹脂から構成されており、アースされている。従って、背板18とクリップ21で仮固定された蛍光発光装置11を操作台27の上に載置し、吸引保持部28で保持すると、導電性の背板18及び外部端子17を介して蛍光発光装置11の内部にある電子デバイス16はアースされ、静電気を逃がすことができる。このため、吸塵工程で空気及び異物と、気密容器12との摩擦で発生しうる静電気から、電子デバイス16を保護することができる。
【0033】
図4に示すように、操作台27の隣部には、吸塵位置にある操作台27に保持された縦置きの気密容器12を振動させる第2タッピング部33が設けられている。図4を参照して先に説明したように、この第2タッピング部33の基本的構成は前記第1タッピング部32と略同一である。但し、第2タッピング部33が有する3個のタッピング装置31は、吸塵位置に設定された操作台27によって縦置きとされた気密容器12の他方の基板13に接触可能となるように、上下方向に適宜間隔で並んでいる。従って、適宜の周期の空気圧を第2タッピング部33に供給することにより、各エアーシリンダ34の駆動部を適当な繰返し周期で前後に往復移動させ、タッピングヘッド35で気密容器12の他方の基板13(上面側の基板)をたたいて振動させることができる。
【0034】
なお、第1タッピング部32と第2タッピング部33によるタッピングの強さは、気密容器12や内部の電子デバイス16に損傷を与えない範囲において、最も効果的に異物等を内面から落とすことができる程度に設定する。また、第1タッピング部32と第2タッピング部33によるタッピングのタイミングは任意であり、打撃のタイミングをずらしてもよいし、同時としてもよい。また、タッピングは加振手法の一例であり、タッピング装置は加振手段の一例であるから、タッピング以外の加振手法、タッピング装置以外の加振手段を用いることとしてもよい。
【0035】
図4に示すように、操作台27の隣部には吸塵手段36が設けられている。吸塵手段36は、吸塵位置にある操作台27に保持されている気密容器12の内部を吸引し、異物を吸い出すための手段である。本実施形態の吸塵手段36は、開放された一端側の吸塵口にエア漏れ防止用のOリングが設けられた管であり、その他端側には図示しない吸引ポンプが接続されている。気密容器12を保持した操作台27を水平な受入れ位置から上方に回動し、吸塵位置に設定すると、縦置きになった気密容器12の吸引穴15が吸塵手段36の吸塵口に気密状態で接続されるようになっている。
【0036】
図4(c)に示すように、本実施形態の吸塵装置25はクリーンボックス37中に収納されている。面付工程で仮固定された気密容器12は、図示しない搬送手段で搬送されてクリーンボックス37に持ち込まれ、受入れ位置に設定された吸塵装置25の操作台27の上に載置されて保持される。吸塵工程を経た気密容器12は、図示しない搬送手段でクリーンボックス37から外に搬出され、次の封着工程に運ばれる。
【0037】
このクリーンボックス37は、完全な密閉構造ではないが、外から塵埃が入り込みにくい構造となっており、さらにその上部には、クリーンボックス37内に持ち込まれた気密容器12の静電気を除去する除電装置38が設けられている。この除電装置38は、+、−の空気イオンを交互に発生させるブロア部と、気密容器12とブロア部との電位差によって生じるイオン電流を検出して気密容器12の帯電状況を検出する検出部を備えている。そして除電装置38は、検出部が検出した気密容器12の帯電量と極性に応じてブロア部から必要なイオンを供給することにより、気密容器12の帯電状況に応じた最適な除電を行なうことができる。この除電装置38によれば、気密容器12の静電気を除去することにより、気密容器12に静電気で付着している塵埃等を除去して落とすことができる。なお、除電装置38の除電原理は、上述したものに限定する必要はなく、その他の原理によって気密容器12から静電気を除去するものであってもよい。
【0038】
以上説明した吸塵装置25を用いて行なう蛍光発光装置11の製造方法について図3及び図4を参照して説明する。
面付工程で仮固定された図3に示す蛍光発光装置11の気密容器12は、図示しない搬送手段によって図4(c)に示すクリーンボックス37の内部に搬入され、図4(a)に示すように水平な受入れ位置にある吸塵装置25の操作台27の上に載置される。吸引保持部28が気密容器12を吸引して操作台27に保持した後、図4(a)中の矢印及び同図(c)に示すように、回転用シリンダ29が操作台27を垂直な吸塵位置に設定し、気密容器12を縦置きの状態にする。これによって気密容器12の吸引穴15には吸塵手段36の吸塵口が気密状態で接続される。ここで、図示しない吸引ポンプを作動させるとともに、第1タッピング部32及び第2タッピング部33を作動させる。第1タッピング部32及び第2タッピング部33が、気密容器12を上面及び下面からたたいて振動を与えるとともに、吸塵手段36は気密容器12の内部を下方の吸引穴15から吸引する。
【0039】
この吸塵工程では、封着前の気密容器12の内部は、組み合わされた2枚の基板13,14間の隙間を介して外に連通している。このため、吸引穴15から吸塵手段36が内部を吸引すると、基板13と基板14の隙間を通って気密容器12の外から内部に空気が流入する。従って気密容器12内を吸引する際の抵抗は小さく、気密容器12の内部では上方から下方へ向けた空気の流れが生じ、異物は空気の流れに乗って下方に運ばれ、下方に集まって吸引穴15から吸塵手段36で外に吸い出される。
【0040】
また、吸塵工程における吸塵は、吸引穴15が下方に位置するように気密容器12を縦置きにした上で、さらに第1タッピング部32及び第2タッピング部33によって気密容器12に両面から振動を与えながら行なっている。このため、封着前の気密容器12の内部にある異物は、仮に気密容器12の内面等に付着していたとしても、振動によって気密容器12から分離して内部で落下して下方の吸引穴15から吸い出されるので、気密容器12外に確実に排出することができる。
【0041】
さらに、吸塵工程では、気密容器12内に空気の流れが生じて気密容器12の内面や電子デバイス16と摩擦が生じ、またこの空気の流れに乗って移動する塵等の異物が気密容器12の内面や電子デバイス16に接触して摩擦を生じるため、気密容器12や電子デバイス16に静電気が発生することが考えられる。しかしながら、本方法の吸塵工程では、気密容器12の内部にある電子デバイス16に接続された外部端子17は、背板18及び操作台27を介してアースされた状態にあるので、仮に吸塵工程で上述のように静電気が発生したとしても、静電気はアースに逃げるので電子デバイス16が静電気のために故障を起こす恐れは少ない。
【0042】
吸塵工程が完了すると、吸引ポンプを停止させるとともに、第1タッピング部32及び第2タッピング部33を停止させる。回転用シリンダ29が操作台27を垂直な吸塵位置から水平な受け入れ位置に設定し、気密容器12を水平な状態にする。吸引保持部28が吸引を停止して、気密容器12の操作台27に対する保持を解除する。その後、図示しない搬送手段が操作台27から気密容器12を取り出し、クリーンボックス37の外に搬出する。なお、クリーンボックス37の除電装置38は常時作動しており、気密容器12の静電気を常時除去する機能を発揮している。
【0043】
この後、仮固定された気密容器12は、封着工程で焼成処理を経ることにより封着ガラスが溶融固化して基板13,14の隙間が封着され、内部から異物が除去された状態で本固定された気密容器12となる。この後、排気工程において、気密容器12の吸引穴15を排気穴として利用し、ここから排気して内部を高真空状態とし、封止工程で吸引穴15を封止すれば、気密容器12の内部に電子デバイス16を収納した蛍光発光装置11が完成する。
【0044】
次に、以上説明した実施形態の製造方法における具体的数値例について実際の実験データを基にして説明する。
本実施形態における蛍光発光装置11の気密容器12の内容積は、一実験例においては26280mm2 であり、吸引穴15の内径は4mm、吸塵手段36のOリングの内径は10mm、外径は13mmであった。吸塵工程での吸引ポンプによる空気の吸引速度を30m/secとして繰返し吸塵を実施したところ、吸塵時間7sec以上で問題なくガラス異物を除去できることを確認した。吸引速度を上昇させると、空気との摩擦で電子デバイス16の帯電量が増大して故障が発生するおそれがあるが、少なくとも45m/secの条件までは問題が生じなかった。吸引速度を低下させた場合には、吸塵時間7secで効果的な異物除去を行うためには、少なくとも15m/secを越える速度が必要であることが判明した。
【0045】
気密容器12に振動を与えるタッピングは、実験の結果、実施形態で説明したように気密容器12の両面から行うことが好ましい。また、タッピングの強さについては、強くたたくほど異物の移動は促進されるが、電子デバイス16の故障や基板13,14の破損等の懸念があるため、種々の条件で実験を行なって適正なタッピング強さの範囲を確認したところ、300〜1000Gの範囲では問題を生じなかった。
【0046】
吸塵中の静電気による電子デバイス16の故障については、クリーンボックス37中の除電装置38の効果により、電子デバイス16の表面の帯電量が20V以下であれば問題が生じないことを確認した。また、クリーンボックス37中の清浄度については、0.5μで1000以下であれば問題が生じないことを確認した。
【0047】
次に、以上説明した実施形態の製造方法によって製造された製品の効果について図6及び図7を参照して説明する。
これらの図は、本実施形態の製造方法と、従来の製造方法により、同一構造の蛍光発光装置11をそれぞれ所定個数ずつ製造し、本実施形態の製造方法で製造された蛍光発光装置11の不良率と、従来の製造方法で製造された蛍光発光装置11の不良率を比較したものである。各図の各項目中、グレーで示す左側の棒グラフが、本実施形態に係る製品(吸引穴集塵)の不良率を示し、白で示す右側の棒グラフが、一般品(従来品)の不良率を示す。本実施形態の蛍光発光装置11と、従来製法による蛍光発光装置11とでは、装置自体の形状・構造・寸法・材料等の諸条件は同一であり、製造方法だけが異なっている。従って、これらの図において認められる不良率の差は、製造方法の差に起因するものと考えられる。
【0048】
図6において、絶縁不良の不良率は、従来品 (右側)が0.011以上であるのに対し、本実施形態に係る製品(左側)は0.009程度であった。断線不良の不良率は、従来品よりも本実施形態に係る製品(左側)の方が小さかった。IC関連不良の不良率は、従来品 (右側)は0.0005程度あるのに対し、本実施形態に係る製品(左側)では0であった。気密容器12内にICを収納したタイプの蛍光発光装置は、ICを含まないタイプに比べて高価であるため高い歩留まりが要求されるが、本実施形態はその要求を満たしている。
【0049】
図7において、管内異物の不良率は、従来品 (右側)が0.002程度あるのに対し、本実施形態に係る製品(左側)は0であった。ガラス内面汚れの不良率は、従来品 (右側)は0.007程度あるのに対し、本実施形態に係る製品(左側)では0.002程度であった。輝度ムラの不良率は、従来品 (右側)は0.0225程度と高いのに対し、本実施形態に係る製品(左側)では0.008程度と低かった。
【0050】
さらに、図示しないが、基板ガラス欠け、ガラス傷、漏れ発光の不良は、従来品では発見されたが、本実施形態に係る製品では全く認められなかった。また、気密容器12内を吸引、吸塵した際に、異物が移動してフィラメントに衝突することによってフィラメントのコーティング剥がれてしまう不良が発生することが予想されたが、実際に最大で2mmのガラス異物を管内に入れて実験したところ、従来品では上記剥がれ不良が一定の不良率で発生したが、本実施形態に係る製品では全く認められなかった。
【0051】
以上説明した実施形態の製造方法では、製造対象である電子装置の一例として蛍光発光装置を例示したが、本発明の製造方法が対象とする電子装置はこれに限るものではなく、複数の容器部材からなる気密容器、特に真空気密容器の内部に何らかの機能の電子デバイスを収納したものであればよく、例えば発光機能だけでなく多様な情報表示を行なえる表示装置や、静電スイッチ機能を有する表示装置、又はFECを用いた各種センサ等であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…蛍光発光装置
2…気密容器
3…容器部材としての容器部
4…容器部材としての基板
5…吸塵手段
7…吸引穴
8…加振手段
11…蛍光発光装置
12…気密容器
13,14…容器部材としての基板
15…吸引穴
16…電子デバイス
17…外部端子
18…背板
25…吸塵装置
31…加振手段としてのタッピング装置
36…吸塵手段
38…除電手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7