(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリマー組成物をpH7.4の0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に37℃で24時間浸漬した後に測定した水分含量が3%以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
前記数(n)および数(m)は、 (i)幅0.2インチ、ゲージ長1.0インチおよび厚さ0.004インチの大きさの引張試験試片を提供すること;(ii)前記引張試験試片をpH7.4の0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で37℃で7日間エージングすること;および(iii)エージングした引張試験試片を水に浸しながら37℃で10インチ/分の速度で引っ張ること;を含む引張試験条件下で試験したとき、ポリマー組成物の破断点伸びが30%超であり、ヤング率が130ksi超であり、降伏強度が4.0ksi超であるように、ポリマー組成物の延性特性を制御するようにさらに選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
前記数(n)および数(m)は、(i)幅5.0mm、ゲージ長15mmおよび厚さ0.1mmの大きさの疲労試験試片を提供すること;(ii)前記疲労試験試片をpH7.4の0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で37℃で7日間エージングすること;および(iii)エージングした疲労試験試片を水に浸しながら37℃で、単一周波数応力モードで、周波数1.2Hzで、10MPaの応力下で振動変形させること;を含む疲労試験条件下で試験したとき、ポリマー組成物が少なくとも60分間、元の状態のままであるように、ポリマー組成物の疲労特性を制御するようにさらに選択される、請求項1〜14のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
前記化学式(I)の第1繰り返し単位は、前記第1ポリマー相が、37℃未満の温度で前記第1ポリマー相を少なくとも部分的に結晶質にするために十分な結晶性側鎖を含むように選択される、請求項1〜40のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
前記数(n)および数(m)は、(i)幅5.0mm、ゲージ長15mmおよび厚さ0.1mmの大きさの疲労試験試片を提供すること;(ii)前記疲労試験試片をpH7.4の0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で37℃で7日間エージングすること;および(iii)エージングした疲労試験試片を水に浸しながら37℃で、単一周波数応力モードで、周波数1.2Hzで、10MPaの応力下で振動変形させること;を含む疲労試験条件下で試験したとき、ポリマー組成物が少なくとも60分間、元の状態のままであるように、ポリマー組成物の疲労特性を制御するようにさらに選択される、請求項42〜45のいずれか1項に記載の医療装置。
前記数(n)および数(m)は、(i)幅5.0mm、ゲージ長15mmおよび厚さ0.1mmの大きさの疲労試験試片を提供すること;(ii)前記疲労試験試片をpH7.4の0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で37℃で7日間エージングすること;および(iii)エージングした疲労試験試片を水に浸しながら37℃で、単一周波数応力モードで、周波数1.2Hzで、10MPaの応力下で振動変形させること;を含む疲労試験条件下で試験したとき、ポリマー組成物が少なくとも60分間、元の状態のままであるように、ポリマー組成物の疲労特性を制御するようにさらに選択される、請求項47、48または49に記載の医療装置。
前記数(n)および数(m)は、(i)幅5.0mm、ゲージ長15mmおよび厚さ0.1mmの大きさの疲労試験試片を提供すること;(ii)前記疲労試験試片をpH7.4の0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で37℃で7日間エージングすること;および(iii)エージングした疲労試験試片を水に浸しながら37℃で、単一周波数応力モードで、周波数1.2Hzで、10MPaの応力下で振動変形させること;を含む疲労試験条件下で試験したとき、ポリマー組成物が少なくとも60分間、元の状態のままであるように、ポリマー組成物の疲労特性を制御するようにさらに選択される、請求項51、52または53に記載の医療装置。
ブロック共重合体を含み、前記ブロック共重合体は少なくとも1ブロックの前記第1繰り返し単位および少なくとも1ブロックの前記第2繰り返し単位を含み、前記ブロック共重合体は、前記第2相が前記ポリマー組成物の第2繰り返し単位の半分超を含むように
相分離される、請求項55〜57のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
組成物のポリマーが、少なくとも1ブロックの前記第1繰り返し単位および少なくとも1ブロックの前記第2繰り返し単位を含むランダムブロック共重合体からなる、請求項55〜58のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0032】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、特に制限されないが破壊靭性および/または疲労靭性が強化され、X線不透過性に適合し、特に制限されないが医療装置用途および制御放出治療製剤に有用な、新しい種類の相分離したポリマー材料に関する。
【0033】
略語および命名
本明細書中、「マクロマー」、「マクロマー(性)の」の用語および同様の用語は当業者に公知の通常の意味を有し、したがって前記マクロマーが他のモノマーと共重合しうるように選択される末端基で官能基化されたオリゴマーおよびポリマー材料を指して用いられうる。広範な様々なマクロマーおよびこれらを作製する方法は当業者に公知である。好適なマクロマーの例としては、ヒドロキシエンドキャップポリ乳酸マクロマー、ヒドロキシエンドキャップポリグリコール酸マクロマー、ヒドロキシエンドキャップポリ(乳酸−コ−グリコール酸)マクロマー、ヒドロキシエンドキャップポリカプロラクトンマクロマー、ポリ(アルキレンジオール)マクロマー、ヒドロキシエンドキャップポリ(アルキレンオキシド)マクロマー、およびヒドロキシエンドキャップポリジオキサノンマクロマーが挙げられる。
【0034】
本明細書中、「靭性を有する」、「(靭性)強化された」、「靭性」の用語および同様の用語は、当業者に公知の通常の意味を有し、したがって静的または動的荷重(またはひずみ)下でのガラスまたは半結晶相中の亀裂伝播からの脆性破壊に対するポリマーの耐性を指して用いられうる。靭性(強化)ポリマーの例としては、破壊靭性ポリマーおよび疲労靭性ポリマーが挙げられる。好ましい強化ポリマー組成物は、強化相(例えばエラストマー相など)を含む複数の相を含み、この強化相は、前記ポリマー組成物を強化相がなく他の部分は同等であるポリマー組成物と比較して強化するために有効な量で存在する。前記強化相は他の相に共有結合していない不連続相であってもよく、または、前記ポリマー組成物は強化相を形成するように相分離するブロック共重合体を含んでもよい。
【0035】
本明細書中、「ポリマー」、「ポリマーの」の用語および同様の用語は当業者に公知の通常の意味を有し、したがって単独重合体、共重合体(例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)およびこれらの混合物を指して用いられうる。
【0036】
本明細書中、「分子量」の用語は当業者に公知の通常の意味を有し、したがって本明細書中で特定の分子量を有するポリマーに言及するとき、ダルトンの単位のポリマー分子量を指すものと理解されるであろう。末端基分析(例えば
1H−NMRによる)および高圧サイズ排除クロマトグラフィー(ゲル浸透クロマトグラフィー、「GPC」としても知られる)などの当業者に公知の多様な技術がポリマーの分子量を決定するために用いられうる。場合によっては、本明細書中でポリマーの分子量は、さらに「数平均」分子量(Mn)および/または「重量平均」分子量(Mw)の用語を用いて記載され、双方の用語は同様にダルトンの単位で表され、当業者に公知の通常の意味を有する。特定の技術によって決定されたポリマーの分子量の値が、異なる技術によって得られた値と対立する場合には、この対立を解決するために以下の手順が用いられる。
1H−NMRを用いた末端基分析によるポリマーの数平均分子量の測定を試みる。
1H−NMRによる数平均分子量が10,000より大きければ、ポリマーの分子量は、小角レーザー光散乱(LALLS)検出を用いてGPCによって決定される。一方、
1H−NMRによる数平均分子量が10,000以下であれば、ポリマーの分子量は
1H−NMRを用いた末端基分析によって決定される。
【0037】
本明細書中、「相分離した」「相分離」の用語および同様の用語は当業者に公知の通常の意味を有し、したがって複数の相を含むポリマー材料、例えば、ガラス相およびエラストマー相を含むポリマー材料、結晶相およびエラストマー相を含むポリマー材料、半結晶相およびエラストマー相を含むポリマー材料、ガラス相、半結晶相およびエラストマー相を含むポリマー材料、などを指して用いられうる。相分離の存在は、例えば小角中性子散乱(SANS)、小角X線散乱(SAXS)、透過電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)などのいくつかの認められた方法論のうちの1以上によって、および/または示差走査熱量測定(DSC)、動的機械分析(DMA)、誘電分析(DEA)、および/または熱機械分析(TMA)によるそれぞれの相に起因する複数の相転移の検出によって、決定されうる。任意の2以上の技術によって得られた結果が互いに対立する場合には、相分離はSAXSによって決定される。当業者であれば、相分離は、例えばマイクロ相分離、ナノ相分離などの多様なスケールで生じうること、および相分離は2つの異なるポリマーの間で、または同じポリマーの2つの相の間で生じうることを理解するであろう。例えば、いくつかの実施形態は相分離したブロック共重合体を対象にする。いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は特定の温度範囲、例えば、少なくとも約25℃から約50℃の温度範囲にわたって相分離していると言われる。これはポリマー組成物が示された温度範囲にわたって相分離したままであることを意味する。全範囲にわたる相分離は、前記範囲内の3つの代表的な温度、例えば、前記範囲の上限(例えば約50℃)、前記範囲の下限(例えば約25℃)および前記範囲の中間(例えば約37℃)での相分離を確認することによって決定されうる。
【0038】
「体積分率」の用語は当業者に公知の通常の意味を有し、したがってポリマー組成物中に存在する2以上のポリマー成分、例えば2以上の相のそれぞれの量を意味して用いられうる。多くの場合において、体積分率は実験的に決定することが難しく、したがって本特許出願の目的のためには、体積分率は個々のポリマー成分のそれぞれの密度および質量に基づいて計算された値である。計算は、相の混合(存在する場合)について補正されておらず、特定の材料中の非晶質および結晶質領域の間の密度の差(存在する場合)について補正されていない。例えば、3成分ポリマー組成物の場合、ポリマー組成物の総体積V
Pは、以下のようにポリマー組成物の3成分の体積の和V
1+V
2+V
3として定義される:
V
P=V
1+V
2+V
3
前記3成分の体積は、それぞれの質量および密度を用いて以下のように定義される:
V
1=M
1/D
1、ここでM
1およびD
1はそれぞれ成分1の質量および密度である;
V
2=M
2/D
2、ここでM
2およびD
2はそれぞれ成分2の質量および密度である;
V
3=M
3/D
3、ここでM
3およびD
3はそれぞれ成分3の質量および密度である。
【0039】
したがって各成分の体積分率はこれらの成分の体積を総体積で除したものとして計算される:
第1成分の体積分率=V
1/V
P
第2成分の体積分率=V
2/V
P
第3成分の体積分率=V
3/V
P。
【0040】
質量(例えばM
1、M
2およびM
3)は、作製された特定のポリマー組成物の配合組成の知見から決定され、密度(例えばD
1、D
2およびD
3)は、分離した状態で測定された個々の成分の密度に基づく。下記表1に、ホスゲンを用いてI
2DTEモノマー(「I
2DTE」)を分子量約10,000のヒドロキシエンドキャップPCLマクロマー(「PCL10k」)および分子量約1250のヒドロキシエンドキャップPCLマクロマー(「PCL1.25k」)と共重合させることによって作製されたI
2DTE−PCL10k−PCL1.25kポリマー組成物についての計算例を示す。
【0042】
相分離した組成物における多様な相の体積分率は同様に決定されうる。体積分率の計算の目的には、化学式(I)の成分ではない成分が5,000を超える分子量を有する場合、化学式(I)の成分は、化学式(I)の成分ではない成分から相分離されていると考えられる。化学式(I)の2つの成分が本質的に同一の化学組成を有するが分子量が異なる場合、両者は同一の(第1)相にあると考えられる。化学式(I)の成分ではない2つの成分(例えば、化学式(II)の2成分)が本質的に同一の化学組成を有するが分子量が異なる場合、もし両者の分子量が5,000より大きければ両者は同一の(第2)相にあると考えられる。しかしながら、ある成分が化学式(I)の成分ではなく、分子量が5,000以下である場合は、その成分は第1相にあると考えられる。例えば、表1に示されるI
2DTE−PCL10k−PCL1.25kポリマー組成物は、25℃〜50℃の温度範囲にわたってI
2DTE(第1)相およびPCL(第2)相の2相に相分離していると考えられる。PCL10k成分は5,000を超える分子量を有するため、I
2DTE成分はPCL10k成分から相分離されていると考えられる。PCL1.25k成分は分子量が5,000未満であり、したがってI
2DTE成分と同じ相にあると考えられる。したがって、表1に示されるI
2DTE−PCL10k−PCL1.25kポリマー組成物中のI
2DTE相の体積分率は89%(I
2DTEおよびPCL1.25kの計算による体積分率の和)であると考えられ、PCL相の体積分率は11%(PCL10kの計算による体積分率)であると考えられる。
【0043】
「熱転移温度(thermal transition temperature)」の用語は、当業者に公知の通常の意味を有し、したがって1次熱転移および2次熱転移の両方を意味して用いられうる。ポリマーまたはその相の1次熱転移は、本明細書中で「融点」または「Tm」と表され、ポリマーまたはその相の2次熱転移は、本明細書中で「ガラス転移温度」または「Tg」と表されうる。当業者であれば、ポリマー材料またはその相がいずれか、または両方の型の熱転移およびさらに高次の熱転移を示しうることを理解するであろう。熱転移温度はDSC、DMA、DEAおよびTMAなどの当業者に公知の方法によって決定されうる。ポリマー組成物中の特定の相の存在がSAXSなどの技術によって検出可能であるが、ポリマー組成物中のその相の量が相対的に小さい場合、その相の熱転移温度の測定は困難または不正確になりうる。このような場合、熱転移温度は前記測定技術(例えばDSC、DMA、DEAおよび/またはTMA)をその相に存在する繰り返し単位から構成されるポリマーのバルク試料に適用することによって決定されうる。
【0044】
「湿潤」熱転移温度、例えば「湿潤」融点および「湿潤」ガラス転移温度などの用語は、ポリマーをpH7.4の0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に37℃で24時間浸漬することによって、測定中濡れた状態にあるように前処理したポリマーの試料を用いて決定された、ポリマーまたはその相の熱転移温度を意味する。湿潤熱転移温度は当業者に公知の多様な技術を用いて測定されうる。任意の2以上の技術によって得られた結果が互いに対立する場合には、DMAが湿潤熱転移温度の決定に用いられる。DMAは、材料の粘弾性特性(貯蔵弾性率、損失弾性率、およびタンジェントデルタ)の変化を振動変形(応力またはひずみ)下での温度の関数としてモニターする。「降伏応力(σ)」、「弾性率(E)」および「破断点伸び(ε)」の用語は当業者に公知の通常の意味を有する。原理的には3つの粘弾性特性はすべてTgの決定に用いられうるが、本発明の目的のためには、Tgおよび/またはTmは、転移の前後のそれぞれの接線の交点によって示される、貯蔵弾性率E'の低下の開始を測定することによって決定される。
図1参照。湿潤Tgおよび/またはTmは、フィルム試片試料を液体環境中で試験できるようにする浸漬(submersion)クランプ装置を採用することによって、DMAを用いて測定されうる。熱圧縮ポリマーフィルムの薄い(0.1mm)試片を水中に沈め、多周波数ひずみモードで、一定の速度で加熱する。加熱しながら、材料を周波数範囲にわたって(または単一の周波数で)、一定の振幅(ひずみ)で変形(振動)させ、以下のDMA装置パラメータを用いて機械的特性を測定する:温度勾配:5℃〜80℃の温度範囲にわたって2℃/分の速度で加熱;振幅20μm;予備荷重=0.01N;周波数=1.2Hz。
【0045】
試料が濡れているため、E'開始パラメータの出現は、水の凍結および蒸発による物理的な制限のため、約5℃〜約80℃の範囲内でしか決定されない。湿潤転移が5℃〜80℃の範囲に見出せない場合、大幅に広い温度範囲、例えば−150℃〜200℃で他の解析が乾燥状態で行なわれ、新しいTg解析が行なわれる。乾燥Tgの情報を、湿潤転移がみられなかったことと組み合わせて、湿潤Tgはこれによって、場合によって5℃未満または80℃超であることが決定される。
【0046】
「放射線不透過性の」、「放射線−不透過性の」、「放射線不透過性」、「放射線−不透過性」、「放射線不透過化」の用語および同様の用語は、当業者に公知の通常の意味を有し、したがってポリマー組成物中に重原子が組み込まれ、医療用イメージング技術(例えばX線によって、および/または蛍光透視中に)を用いてより検出しやすくなったポリマー組成物を意味して用いられうる。このような組み込みは混合による;例えば、有効量のバリウム塩または錯体などの放射線不透過化添加剤の混合による、および/または有効量の重原子のポリマー組成物中の1以上のポリマーへの結合による。例えば、重原子を十分な量でポリマーに結合させると、ポリマーを多様な医療用イメージング技術によって有利により検出しやすくすることができる。本明細書中、「重原子」の用語は、原子番号が17以上の原子を意味して用いられる。好ましい重原子は原子番号が35以上であり、臭素、ヨウ素、ビスマス、金、白金、タンタル、タングステン、およびバリウムを含む。特定の形態においては、前記ポリマー組成物は本質的に放射線不透過性でありうる。本明細書中、「本質的に放射線不透過性」の用語は、十分な数の重原子が共有結合またはイオン結合によって結合し、放射線不透過性にしたポリマーを意味して用いられる。この意味は、当業者の理解と一致する。例えば、特に放射線不透過性ポリマー材料を記載する目的を含むすべての目的で参照により本明細書中に組み込まれる、米国特許公開第2006/0024266号を参照。
【0047】
「アルキル」、「アルキレン」の用語および同様の用語は、当業者に公知の通常の意味を有し、したがって、直鎖または分岐の完全に飽和した(二重結合または三重結合を有さない)炭化水素基を指して用いられうる。例えば一般式−C
nH
2n+1の末端アルキル基は、本明細書中で「アルキル」基と表され、例えば一般式−(CH
2)
n−の連結アルキル基は、本明細書中で「アルキレン」基と表されうる。アルキル基は、1〜50の炭素原子を有しうる(本明細書中で記載される場合、「1〜50」のような数値範囲は、与えられた範囲のそれぞれの整数を意味する;例えば「1〜50の炭素原子」は、前記アルキル基が1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子など、50個までの炭素原子を含んで構成されてもよいことを意味するが、本発明での定義は数値範囲の示されていない「アルキル」の用語の存在も包含する)。前記アルキル基は、1〜30の炭素原子を有する中程度のサイズのアルキルであってもよい。前記アルキル基は、1〜5の炭素原子を有する低分子アルキルであってもよい。化合物のアルキル基は、「C
1−C
4アルキル」または同様の表記で表されうる。例えば、「C
1−C
4アルキル」はアルキル鎖に1〜4の炭素原子があることを意味する、すなわち、前記アルキル鎖はメチル、エチル、プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、およびt−ブチルからなる群から選択される。典型的なアルキル基としては、いかようにも制限されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリーブチル、ペンチル、ヘキシルなどが挙げられる。
【0048】
前記アルキル基は置換されていても非置換であってもよい。置換されている場合、置換基はそれぞれ独立して、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリシクリル、アラルキル、ヘテロアラルキル、(ヘテロアリシクリル)アルキル、ヒドロキシ、保護ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、エステル、メルカプト、シアノ、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、O−カルバミル、N−カルバミル、O−チオカルバミル、N−チオカルバミル、C−アミド、N−アミド、S−スルホンアミド、N−スルホンアミド、C−カルボキシ、保護C−カルボキシ、O−カルボキシ、イソシアナート、チオシアナート、イソチオシアナート、ニトロ、シリル、スルフェニル、スルフィニル、スルホニル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、トリハロメタンスルホニル、トリハロメタンスルホンアミド、ならびにモノ−およびジ−置換アミノ基を含むアミノ、ならびにこれらの保護誘導体から選択される1以上の基である。
【0049】
「アルケニル」、「アルケニレン」の用語および同様の用語は、当業者に公知の通常の意味を有し、したがって直鎖または分岐の炭化水素鎖中に1以上の二重結合を有するアルキルまたはアルキレン基を指して用いられうる。アルケニル基は置換されていても非置換であってもよい。置換されている場合、特にことわりのない限り置換基はアルキル基の置換に関して上に開示された同様の基から選択されうる。
【0050】
「ヘテロアルキル」、「ヘテロアルキレン」の用語および同様の用語は当業者に公知の通常の意味を有し、したがって本明細書中に記載のアルキル基またはアルキレン基であって、アルキル基またはアルキレン基の骨格中の1以上の炭素原子が窒素、硫黄、および/または酸素などのヘテロ原子に置き換えられたものを指して用いられうる。同様に、「ヘテロアルケニレン」の用語は、アルキル基またはアルキレン基の骨格中の1以上の炭素原子が窒素、硫黄、および/または酸素などのヘテロ原子に置き換えられた、アルケニル基またはアルケニレン基を指して用いられうる。
【0051】
「アリール」の用語は、当業者に公知の通常の意味を有し、したがって完全に非局在化されたπ電子系を有する炭素環式(すべて炭素)単環式または多環式芳香族環系を指して用いられうる。アリール基の例としては、特に制限されないが、ベンゼン、ナフタレンおよびアズレンが挙げられる。前記アリール基の環は、5〜50の炭素原子を有しうる。アリール基は置換されていても非置換であってもよい。置換される場合、置換基が特に示されていない限り、水素原子は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリシクリル、アラルキル、ヘテロアラルキル、(ヘテロアリシクリル)アルキル、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、エステル、メルカプト、シアノ、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、O−カルバミル、N−カルバミル、O−チオカルバミル、N−チオカルバミル、C−アミド、N−アミド、S−スルホンアミド、N−スルホンアミド、C−カルボキシ、保護C−カルボキシ、O−カルボキシ、イソシアナート、チオシアナート、イソチオシアナート、ニトロ、シリル、スルフェニル、スルフィニル、スルホニル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、トリハロメタンスルホニル、トリハロメタンスルホンアミド、ならびにモノ−およびジ−置換アミノ基を含むアミノ、ならびにこれらの保護誘導体から独立して選択される1以上の基である置換基で置き換えられる。本明細書中、アルキルで置換されたアリール基は「アルキルアリール」と表されうる。
【0052】
「ヘテロアリール」の用語は、当業者に公知の通常の意味を有し、したがって1以上のヘテロ原子(すなわち炭素以外の元素であり、特に制限されないが窒素、酸素、および硫黄などが挙げられる)を含む、単環式または多環式芳香族環系(完全に非局在化されたπ電子系を有する環系)を指して用いられうる。前記ヘテロアリール基の環は5〜50の原子を有しうる。前記ヘテロアリール基は置換されていても非置換であってもよい。ヘテロアリール環の例としては、特に制限されないが、フラン、フラザン、チオフェン、ベンゾチオフェン、フタラジン、ピロール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、チアゾール、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、ベンゾ−チアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、インドール、インダゾール、ピラゾール、ベンゾピラゾール、イソオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、イソチアゾール、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、プリン、プテリジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、およびトリアジンが挙げられる。ヘテロアリール基は、置換されていても非置換であってもよい。置換される場合、水素原子は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリシクリル、アラルキル、ヘテロアラルキル、(ヘテロアリシクリル)アルキル、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、エステル、メルカプト、シアノ、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、O−カルバミル、N−カルバミル、O−チオカルバミル、N−チオカルバミル、C−アミド、N−アミド、S−スルホンアミド、N−スルホンアミド、C−カルボキシ、保護C−カルボキシ、O−カルボキシ、イソシアナート、チオシアナート、イソチオシアナート、ニトロ、シリル、スルフェニル、スルフィニル、スルホニル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、トリハロメタンスルホニル、トリハロメタンスルホンアミド、ならびにモノ−およびジ−置換アミノ基を含むアミノ、ならびにこれらの保護誘導体から独立して選択される1以上の基である置換基で置き換えられる。
【0053】
「結晶性(crystallizable)」の用語は当業者に公知の通常の意味を有する。すべての目的で、特に結晶性基を記載する目的で参照により本明細書中に組み込まれる米国特許公開第20060024266号を参照。ポリマーの側鎖に結合した結晶性基を含むポリマーは、側鎖結晶性(SCC)ポリマーまたは「くし状」ポリマーとして知られ、公知である。その開示が参照により本明細書中に組み込まれる、N.A.Plate and V.P.Shibaev,J.Polymer Sci:Macromol.Rev.8:117−253(1974)を参照。一実施形態においては、本明細書中に記載のポリマーは結晶性側基を含み、したがってSCCポリマーと考えられうる。SCCポリマーの結晶性側鎖は、好ましくは互いに結晶化し結晶質領域を形成するように選択され、例えば、−(CH
2)
x−および/または−((CH
2)
y−O−)
x基を含みうることが理解されるであろう。前記側鎖は、好ましくは、結晶化を容易にするように直鎖である。結晶性側鎖に−(CH
2)
x−基を含むSCCポリマーでは、xは好ましくは約6〜約30であり、より好ましくは約20〜約30である。結晶性側鎖に−((CH
2)
y−O−)
x基を含むSCCポリマーでは、xは好ましくは約6〜約30であり、yは好ましくは約1〜約8である。より好ましくは、xおよびyは、((CH
2)
y−O−)
x基が、約6〜約30の炭素原子、さらにより好ましくは約20〜約30の炭素原子を有するように選択される。側鎖間の間隔ならびに側鎖の長さおよび型は、好ましくは、生成されるSCCポリマーが所望の融点を与えるように選択される。側鎖間の間隔が増加するにしたがって、側鎖が結晶性になる傾向が減少する傾向にある。同様に、側鎖の柔軟性が増加するにしたがって、側鎖が結晶性になる傾向が減少する傾向にある。一方、側鎖の長さが増加するにしたがって、側鎖が結晶性になる傾向が増加する傾向にある。多くの場合において、結晶性側鎖の長さは、SCCポリマーの結晶性側鎖間の平均距離の約2倍〜約10倍の範囲でありうる。
【0054】
基が「任意で置換された」と記載される場合、基は非置換であるか、または1以上の表示された置換基で置換されうる。同様に、基が「非置換または置換」と記載される場合、置換されていれば、置換基は1以上の表示された置換基から選択されうる。
【0055】
特にことわりのないかぎり、置換基が「任意で置換された」または「置換された」とみなされる場合、前記置換基はアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリシクリル、アラルキル、ヘテロアラルキル、(ヘテロアリシクリル)アルキル、ヒドロキシ、保護ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、エステル、メルカプト、シアノ、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、O−カルバミル、N−カルバミル、O−チオカルバミル、N−チオカルバミル、C−アミド、N−アミド、S−スルホンアミド、N−スルホンアミド、C−カルボキシ、保護C−カルボキシ、O−カルボキシ、イソシアナート、チオシアナート、イソチオシアナート、ニトロ、シリル、スルフェニル、スルフィニル、スルホニル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、トリハロメタンスルホニル、トリハロメタンスルホンアミド、ならびにモノ−およびジ−置換アミノ基を含むアミノ、ならびにこれらの保護誘導体からそれぞれ独立して選択される1以上の基で置換されていてもよい基であることを意味する。同様に、「任意で環ハロゲン化された」の用語は、任意で1以上(例えば1、2、3、または4)のハロゲン置換基をアリールおよび/またはヘテロアリール環上に含む基を意味して用いられうる。上記の置換基の保護誘導体を形成しうる保護基は、当業者に公知であり、全体として参照により本明細書中に組み込まれる、Greene and Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,3rd Ed.,John Wiley & Sons,New York,NY,1999などの文献に記載されている。
【0056】
本明細書中に記載の1以上のキラル中心を有する任意の化合物は、絶対立体化学が明確に示されていない場合、各中心は独立してR−立体配置またはS−立体配置またはこれらの混合物でありうると理解される。したがって、本明細書中に与えられる化合物は光学異性体として純粋であってもよく、立体異性体の混合物であってもよい。加えて、EまたはZとして定義されうる幾何異性体を生成する1以上の二重結合を有する任意の化合物において、各二重結合は独立してEまたはZまたはこれらの混合物でありうると理解される。同様に、すべての互変異性型(tautomeric form)もまた含まれることを意図する。
【0057】
以下の略語は多様なヨウ素化された化合物を特定するために用いられる。TEはチロシンエチルエステルを表し、DATはデスアミノチロシンを表し、DTEはデスアミノチロシルチロシンエチルエステルを表す。DTEのホスゲン化によって得られるポリマーはポリ(DTEカーボネート)と表される。略語の前の「I」は、モノヨウ素化を示し(例えば、ITEはモノヨウ素化TEを表す)、略語の前のI
2はジヨウ素化を示す(例えばI
2DATはジヨウ素化DATを表す)。DTEにおいて、Dの前の「I」はヨウ素がDAT上にあることを意味し、Dの後の「I」はヨウ素がチロシン環上にあることを意味する(例えばDI
2TEは2つのヨウ素原子をチロシン環上に有するDTEを表す)。以下の概略図でこの命名をさらに説明する。
【0059】
本明細書中、任意の保護基、アミノ酸および他の化合物についての略語は特にことわりのない限り、一般的な用法、認識された略語、または生化学命名法に関するIUPAC−IUPコミッション(Biochem.11:942−944(1972)を参照)に従う。
【0060】
ポリマー組成物および方法
一実施形態によれば、少なくとも第1ポリマー相および第2ポリマー相を含む、生体適合性ポリマー組成物が提供される。いくつかの実施形態においては、前記生体適合性ポリマー組成物は、生体吸収性、生分解性、または両方である。いくつかの実施形態においては前記ポリマー組成物は放射線不透過性であるが、他の実施形態においては放射線不透過性ではない。いくつかの放射線不透過性ポリマー組成物は、ポリマー組成物を放射線不透過性にするために有効な量の放射線不透過化剤を含む。他のポリマー組成物は本質的に放射線不透過性である;例えば、組成物を本質的に放射線不透過性にするために組成物中の1以上のポリマーに結合した十分なハロゲン原子を含む。いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は、1以上のポリマー成分のハロゲン化の組み合わせによって、および放射線不透過化剤の含有によって、放射線不透過性になる。いくつかの実施形態においては、前記ポリマー組成物は、前記ポリマー組成物中に分散されうる、および/または前記第1ポリマー相、前記第2ポリマー相、または両方に共有結合されうる、生物活性化合物(biologically active compound)(例えば、薬剤)を含む。上記ポリマー組成物の多様な形態を以下により詳細に説明する。
【0061】
前記生体適合性ポリマー組成物の第1ポリマー相は、第1湿潤ガラス転移温度および第1湿潤融点から選択される少なくとも1つの第1湿潤熱転移温度を有し、前記第1湿潤熱転移温度は少なくとも38℃である。他の実施形態おいては、前記第1湿潤熱転移温度は、少なくとも約40℃、少なくとも約45℃または少なくとも約50℃である。いくつかの実施形態においては、前記第1ポリマー相は結晶質であり、他の実施形態においては半結晶質であり、他の実施形態においてはガラス質である。例えば、いくつかの実施形態においては、例えば前記第1ポリマー相が、前記第1ポリマー相を37℃未満の温度で少なくとも部分的に結晶質にするために十分な結晶性側鎖を含むように、化学式(I)の第1繰り返し単位を選択することによって、前記第1ポリマー相は37℃未満の温度で少なくとも部分的に結晶質である。
【0062】
前記第1ポリマー相は、数(n)の上記化学式(I)の第1繰り返し単位を含む。化学式(I)中、X
1およびX
2はそれぞれ独立してハロゲン、ハロメチル、ハロメトキシ、メチル、メトキシ、チオメチル、ニトロ、スルホキシドおよびスルホニルからなる群から選択される。変数y
1およびy
2は、それぞれ、X
1基およびX
2基の数を示し、それぞれ独立して0または1〜4の整数である。いくつかの実施形態においては、化学式(I)の第1繰り返し単位は、ポリマー組成物を本質的に放射線不透過性にするために十分な重原子(例えば、ハロゲン原子)を含むように選択される。例えば、得られたポリマー材料を放射線不透過性にするように、X
1、X
2、y
1および/またはy
2を選択するために通常の実験が用いられうる。
【0063】
化学式(I)中の変数qおよびrは、それぞれ独立して0または1であり、この際、q+r=1または2である。化学式(I)中の各A
1は独立して、
【0065】
からなる群から選択され、ここで、各R
3は独立してC
1−C
30のアルキル、C
1−C
30のへテロアルキル、C
5−C
30のアリール、C
6−C
30のアルキルアリール、およびC
2−C
30のヘテロアリールからなる群から選択され、各R
4は独立してH、C
1−C
30のアルキルおよびC
1−C
30のヘテロアルキルからなる群から選択される。
【0069】
各R
1はまた下記化学式のイミノ含有ユニット:
【0071】
であってもよく、この場合Q
1はCOOR
4である。
【0072】
各R
1はまた独立して下記化学式のプロリン系ユニット:
【0074】
であってもよく、この場合r=0である。
【0075】
上記構造中、各R
5は−CH=CH−、−CHJ
1−CHJ
2−、−(CH
2)
a−、および任意で環ハロゲン化された
【0077】
からなる群から選択される。上記構造中、各R
5はまた、それぞれ独立して任意で環ハロゲン化された下記化学式のトリプトファン系ユニット:
【0079】
であってもよく、この場合、q=0である。
【0080】
上記構造中、各R
6は−CH=CH−、−CHJ
1−CHJ
2−、−(CH
2)
a−、および任意で環ハロゲン化された
【0082】
からなる群から選択される。上記構造中、各R
6はまた、それぞれ独立して任意で環ハロゲン化された下記化学式のトリプトファン系ユニット:
【0084】
であってもよく、この場合、r=0である。
【0085】
上記構造中、各aは独立して0または1〜8の整数であり;J
1およびJ
2はそれぞれ独立してBrおよびIからなる群から選択され;各Zは独立してOまたはSである。
【0086】
上記構造中、Q
1およびQ
4はそれぞれ独立してH、CH
2−R
4、COOR
4または約6〜約30の炭素原子、好ましくは約20〜約30の炭素原子を含む結晶性基であり;Q
2およびQ
3はそれぞれ独立してH、CH
2−R
4または約6〜約30の炭素原子、好ましくは約20〜約30の炭素原子を含む結晶性基である。多様な結晶性基の例およびその好ましいポリマー鎖に沿った間隔の議論は上述の通りである。
【0087】
化学式(I)で表される繰り返し単位の多様な実施形態においては、q=r=1であり;Q
1はCOOR
4であり;Q
2、Q
3およびQ
4はすべてハロゲンである。いくつかの実施形態においては、q=0である。いくつかの実施形態においては、r=0である。いくつかの実施形態においては、A
1はカルボニル結合:
【0090】
前記生体適合性ポリマー組成物の第2ポリマー相は、第2湿潤ガラス転移温度および第2湿潤融点から選択される少なくとも1つの第2湿潤熱転移温度を有する。前記第2湿潤熱転移温度は36℃以下である。いくつかの実施形態においては、前記第2湿潤熱転移温度は、25℃以下、20℃以下、または5℃以下である。いくつかの実施形態においては、前記第2ポリマー相は結晶質であり、他の実施形態においては半結晶質であり、他の実施形態においてはガラス質である。多様な第2繰り返し単位を以下に詳細に記載する。
【0091】
上述のように、前記第1ポリマー相は数(n)の化学式(I)の第1繰り返し単位を含み、前記第2ポリマー相は数(m)の第2繰り返し単位を含む。数(n)および数(m)は、ポリマー組成物が、少なくとも約25℃〜約50℃の温度範囲にわたって、好ましくは約10℃〜約70℃の温度範囲にわたって相分離するように、前記第1ポリマー相および前記第2ポリマー相の相対量を制御するために選択される。
【0092】
当業者であれば、化学式(I)の多様な第1繰り返し単位は互いに同一である必要はなく、したがって数(n)の化学式(I)の第1繰り返し単位は、互いに化学構造の異なる2以上の化学式(I)の繰り返し単位を含みうることが理解できるであろう。同様に、前記ポリマー組成物中の多様な第2繰り返し単位は互いに同一である必要はなく、したがって数(m)の第2繰り返し単位は、互いに化学構造の異なる2以上の繰り返し単位を含みうる。例えば、一実施形態においては、ポリマー組成物は、化学式(IIa)、化学式(IIb)、化学式(IIc)、および化学式(IId)からなる群から選択される化学式を有する第2繰り返し単位を含む。このようなポリマーは、任意で、同様に化学式(IIa)、化学式(IIb)、化学式(IIc)、および化学式(IId)からなる群から選択される化学式を有し、前記第2繰り返し単位とは異なる第3繰り返し単位をさらに含みうる。
【0093】
いくつかの実施形態においては、前記第1ポリマー相は、前記第2ポリマー相に共有結合している。例えば、一実施形態においては、前記ポリマー組成物は、少なくとも第1ブロックおよび第2ブロックを含むブロック共重合体を含み、前記ブロック共重合体は、前記第1ブロックの約半分超が前記第1ポリマー相中に存在し、前記第2ブロックの約半分超が前記第2ポリマー相中に存在する。いくつかの実施形態においては、前記第1ポリマー相は前記第2ポリマー相に共有結合していない。例えば、一実施形態においては、前記第1ポリマー相は第1ポリマーを含み、前記第2ポリマー相は前記第1ポリマーと異なる第2ポリマーを含む。
【0094】
一実施形態においては、前記数(n)および数(m)は、pH7.4の0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に37℃で24時間浸漬した後、カールフィッシャー分析によって測定されたポリマー組成物の水分含量が、4.5%以下、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下になるように、前記第1ポリマー相および前記第2ポリマー相の相対量を制御するように選択される。
【0095】
一実施形態においては、前記数(n)および数(m)は、ポリマー組成物中の前記第2ポリマー相の体積分率が、総体積に対して約6%〜約40%、例えば、約7%〜約33%、約7%〜約26%、約7%〜約20%、約7%〜約26%、約7%〜約16%、約9%〜約16%、約9%〜約13%、約10%〜約13%または約10%〜約12%になるように、前記第1ポリマー相および前記第2ポリマー相の相対量を制御するように選択される。
【0096】
一実施形態においては、前記数(n)および数(m)は、ポリマー組成物中の前記第2ポリマー相の重量分率が、総重量に対して約6%〜約20%、好ましくは約8%〜約18%、好ましくは約10%〜約15%になるように、前記第1ポリマー相および前記第2ポリマー相の相対量を制御するように選択される。
【0097】
一実施形態においては、前記数(n)および数(m)は、ポリマー組成物の破断点伸びが30%超、好ましくは50%超、より好ましくは70%超である;ヤング率が130ksi超、好ましくは180ksi超である;および/または降伏強度が4.0ksi超、好ましくは6.4ksi超であるように、ポリマー組成物の延性特性を制御するように選択される。前記延性特性は、ポリマー組成物が、(i)幅0.2インチ、ゲージ長1.0インチおよび厚さ0.004インチの大きさの引張試験試片を提供すること;(ii)前記引張試験試片をpH7.4の0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に37℃で7日間浸漬することによってエージングし、エージングした引張試験試片を得ること;および(iii)エージングした引張試験試片を水に浸しながら37℃で10インチ/分の速度で引っ張ること;を含む引張試験条件下で試験されるときに測定される。複数の引張試験試片(例えば、3−5)を試験し、結果を平均する。適切な引張試験条件のより詳細な説明を以下の実施例に記載する。
【0098】
一実施形態においては、前記数(n)および数(m)は、ポリマー組成物が少なくとも60分間、好ましくは少なくとも80分間、より好ましくは少なくとも100分間、元の状態のままであるようにポリマー組成物の疲労特性を制御するように選択される。前記疲労特性は、ポリマー組成物が、(i)幅5.0mm、ゲージ長15mmおよび厚さ0.1mmの大きさの疲労試験試片を提供すること;(ii)前記疲労試験試片をpH7.4の0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に37℃で7日間浸漬することによってエージングし、エージングした疲労試験試片を得ること;および(iii)エージングした疲労試験試片を水に浸しながら37℃で、単一周波数応力モードで、周波数1.2Hzで、10MPaの応力下で振動変形させること;を含む疲労試験条件下で試験されるときに測定される。複数の疲労試験試片(例えば、3−5)を試験し、結果を平均する。適切な疲労試験条件のより詳細な説明を以下の実施例に記載する。
【0099】
前記ポリマー組成物の前記第2ポリマー相は、多様な第2繰り返し単位を含みうる。例えば、一実施形態においては、前記第2繰り返し単位は上記の化学式(IIa)、化学式(IIb)、化学式(IIc)、および化学式(IId)からなる群から選択される化学式を有し、これらは本明細書中でまとめて化学式(II)とも表す。
【0100】
化学式(II)中、変数X
3、X
4、X
5、X
7、X
8、X
9、X
10、X
11、X
12およびX
13はそれぞれ独立してO、SおよびNR
10からなる群から選択され、ここで、R
10は水素および1〜30の炭素原子を含むアルキル基から選択される。多様な実施形態においては、変数X
3、X
4、X
5、X
7、X
8、X
9、X
10、X
11、X
12およびX
13はすべてOである。
【0101】
化学式(IId)中、変数Ar
1およびAr
2は、任意でハロゲン、ハロメチル、ハロメトキシ、メチル、メトキシ、チオメチル、ニトロ、スルホキシド、およびスルホニルからなる群から独立して選択される1〜4の置換基で置換されたフェニル環である。一実施形態において、Ar
1および/またはAr
2フェニル環は、ハロゲンおよび/またはハロメチルおよび/またはハロメトキシなどのハロゲン含有置換基で置換される。一実施形態において、Ar
1および/またはAr
2フェニル環は、得られたポリマー組成物を放射線不透過性にするために有効な数のハロゲンおよび/またはハロゲン含有置換基で置換される。ポリマーを放射線不透過性にするための好ましいハロゲンとしては、臭素およびヨウ素が挙げられる。
【0102】
化学式(II)中、変数R
8およびR
9はそれぞれ1〜10の炭素原子を含み、独立して任意で置換されたアルキレン、任意で置換されたヘテロアルキレン、任意で置換されたアルケニレンおよび任意で置換されたヘテロアルケニレンからなる群から選択される。
【0103】
化学式(IId)の変数gおよびhはそれぞれ独立して、約1〜約500、好ましくは約5〜約100の整数である。したがって、g+hの和は、約2〜約1000でありうる。多様な実施形態において、g+hの和は、約35超であり、好ましくは約40超であり、さらにより好ましくは約50超である。多様な実施形態において、g+hの和は、約18〜約26であり;約32〜約39である。
【0104】
多様な実施形態において、化学式(IId)の繰り返し単位は、下記化学式のヒドロキシエンドキャップポリカプロラクトン(PCL)マクロマーの共重合によって得られる:
【0106】
多様な実施形態において、化学式(IId)および上記ヒドロキシエンドキャップポリカプロラクトン(PCL)マクロマーのD
1はC
1−C
24アルキレン、例えば、−(CH
2)
t(ここでtは1、2、3、4、5、6、7、8、9または10である)である。多様な実施形態において、化学式(IId)の繰り返し単位のgおよびhは、上記ヒドロキシエンドキャップポリカプロラクトン(PCL)マクロマーの分子量が約2,000〜約40,000の範囲、例えば、約2,500〜約3,500;約4,000〜約6,000;約7,000〜約9,000;約8,000〜約12,000;約18,000〜約22,000;または約38,000〜約46,000の範囲であるように選択される。
【0107】
本明細書中に記載のポリマーの実施形態は、多様な方法で、例えば、本明細書中に明確に教示したように、または本明細書中に提供した手引きの観点から当業者に公知の方法を適用することによって調製されうる。例えば、ブロック共重合体は化学式(Ia)の第1モノマー:
【0109】
を、化学式HX
8−D−X
9H、化学式HX
3−D
1−X
4H、化学式
【0113】
の第2モノマーと反応させることによって調製されうる;
式中、上記第2モノマー構造の変数は、本明細書中に記載した対応するポリマーと同様に定義される。上述のように、D、X
8およびX
9は、HX
8−D−X
9Hがヒドロキシエンドキャップマクロマー、メルカプトエンドキャップマクロマー、またはアミノエンドキャップマクロマーを定義するように選択されうる。同様に、D
1、X
3およびX
4はHX
3−D
1−X
4Hがヒドロキシエンドキャップマクロマー、メルカプトエンドキャップマクロマー、またはアミノエンドキャップマクロマーを定義するように選択されうる。例えば、HX
3−D
1−X
4HおよびHX
8−D−X
9Hは、それぞれ独立して、ヒドロキシエンドキャップポリ乳酸マクロマー、ヒドロキシエンドキャップポリグリコール酸マクロマー、ヒドロキシエンドキャップポリ(乳酸−コ−グリコール酸)マクロマー、ヒドロキシエンドキャップポリカプロラクトンマクロマー、ポリ(アルキレンジオール)マクロマー、ヒドロキシエンドキャップポリ(アルキレンオキシド)マクロマーおよびヒドロキシエンドキャップポリジオキサノンマクロマーから選択されるマクロマーを表しうる。
【0114】
当業者であれば、適当な変数群を有する化学式(Ia)のモノマーを選択することによって、得られるポリマーの第1繰り返し単位はチロシン誘導ジフェノール繰り返し単位であることが理解できるであろう。前記ジフェノールモノマーは、米国特許第5,587,507号および第5,670,602号(双方の開示は参照により本明細書中に組み込まれる)に開示された方法に従って、ヒドロキシ−ベンゾトリアゾールの存在下でのカルボジイミド媒介カップリング反応によって調製されうる。適切なカルボジイミドはそこに開示されている。好ましいカルボジイミドは、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI−HCl)である。粗モノマーは、はじめに50%酢酸および水から、次いで20:20:1の比の酢酸エチル、ヘキサンおよびメタノールから、2回再結晶されうる。または、塩化メチレン:メタノールの100:2混合物を移動相として採用して、シリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィーが用いられる。好ましいモノマーは、エチル、ブチル、ヘキシル、オクチル、およびベンジルエステルを含むデスアミノチロシル−チロシンエステル類である。
【0115】
特定の実施形態において、ヒドロキシエンドキャップポリカプロラクトンおよびポリ(エチレングリコール)などのいくつかのエンドキャップマクロマーは市販されている。ヒドロキシエンドキャップポリ(乳酸)のようなエンドキャップマクロマーが市販されていない場合、アルカンジオールを開始剤として用いて調製することができる。
【0120】
約2モルを、化学式HX
3−D
1−X
4Hの化合物約1モルと反応させることによって調製されうる。式中、変数は上記と同様に定義される。
【0121】
当業者であれば、可変基の適切な選択によって、上述の化合物がデスアミノチロシルチロシン(DAT)またはヒドロキシフェニルアルカン酸などのヒドロキシフェニル−アルカン酸であることが理解できるであろう。化学式HX
3−D
1−X
4Hの化合物がジオールである場合、これらの2つの化合物は、以下に一般的に示されるように酸触媒フィッシャーエステル化反応で反応しうる。
【0123】
この反応は可逆であるため、反応混合物から水を除去すると平衡が右にシフトする。水の除去は通常は共沸蒸留によって行われるが、他の公知の方法もまた採用されうる。共沸蒸留が望ましい場合、反応に用いる溶媒は、好ましくは、水と共沸混合物を形成するように注意して選択される。一般に、トルエン、ヘプタン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどの溶媒が好ましい。
【0124】
この反応の主な利点は、第1級または第2級アルコールは、酸触媒作用下でカルボン酸とエステルを生成するが、フェノール性ヒドロキシ基はこれらの条件下では非反応性であることである。したがって、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸(DAT)および3−(3,5−ジヨード−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオン酸(I
2DAT)などの特定の化合物のカルボン酸基は第1級または第2級アルコールと反応しうるが、フェノール基は元の状態のままである。上記の例は以下の通りである。
【0126】
上記のX基は上記のDおよびD
1基の代表である。HO−X−OHは、1,3−プロパンジオールなどのアルカンジオールまたは上述のヒドロキシエンドキャップマクロマーでありうる。
【0127】
ヨウ素または臭素で十分に置換された、十分な数の芳香族環を有するポリマーは、本質的に放射線不透過性である。第1ポリマー相および第2ポリマー相の両方における多様な芳香族環は、ヨウ素または臭素で置換されうる。例えば、任意の特定のポリマーの実施形態から独立して、化学式(I)の繰り返し単位の芳香族環は、少なくとも1つのヨウ素または臭素原子で、少なくとも1つ、好ましくは両方の環の位置で置換されうる。一実施形態においては、ポリマー組成物の化学式(I)の繰り返し単位の芳香族環の少なくとも50%が2〜4のヨウ素または臭素原子で置換される。
【0128】
前記放射線不透過性モノマーは、米国特許第6,475,477号の開示、および米国特許公開第20060034769号の開示(双方の開示は特にこのようなモノマーおよびこれらを作製する方法を記載する目的で参照により本明細書中に組み込まれる)に従って調製されうる。本明細書中に記載のヨウ素化および臭素化フェノールモノマーはまた、本明細書中に提供されるように、生体適合性ポリマー組成物の放射性不透過化、生体適合性、無毒の添加剤として採用されうる。
【0129】
第1モノマーがチロシン誘導ジフェノール化合物であり、第2モノマーがジヒドロキシモノマー(ジオールまたはヒドロキシエンドキャップマクロマーなど)である場合、これらのモノマーは重合してポリカーボネートを形成しうる。適当な工程、関連する触媒および溶媒は公知であり、Schnell,Chemistry and Physics of Polycarbonates(Interscience,New York 1964)に教示されており、その教示もまた参照により本明細書中に組み込まれる。X
3、X
4、X
5、X
7、X
8、X
9、X
10、X
11、X
12およびX
13はそれぞれ独立してO、SおよびNR
10から選択されるため、対応するモノマーのホスゲンとの反応はまたウレタン結合(−NR
10−(C=O)−NR
10−)、炭素−ジチオエート結合(−S−(C=O)−S−)、カルバメート結合(−O−(C=O)−NR
10−)、チオカーボネート結合(−S−(C=O)−O−)およびチオカルバメート結合(−S−(C=O)−NR
10−)を生成する。本明細書中に開示されるポリカーボネートおよび他のホスゲン誘導ポリマーの調製に使用するために適した他の方法は米国特許第6,120,491号および第6,475,477号に開示されており、その開示は特にこのような方法を記載するために参照により本明細書中に組み込まれる。
【0130】
前記ポリカーボネートおよび他のホスゲン誘導ポリマーはまた、0.1Mのピリジンまたはトリエチルアミンを含む塩化メチレン中に前記モノマーを溶解させることによって調製されうる。約10〜約25wt%、好ましくは約20wt%の濃度のホスゲンのトルエン溶液を一定の速度で、典型的には、約2時間かけてシリンジポンプまたは他の手段を用いて添加する。反応混合物をテトラヒドロフラン(THF)および水とともに攪拌することによってクエンチし、その後ポリマーをイソプロパノールを用いて沈殿させることによって単離する。次いで、残存するピリジン(用いた場合)を、THFポリマー溶液をAMBERLYST15などの強酸性樹脂とともに攪拌することによって除去する。
【0131】
本明細書中に記載のポリマー組成物はまた、ポリエーテル類、ポリエステル類、ポリイミノカーボネート類、ポリホスホエステル類、およびポリホスファジン類を含む。当業者は、本明細書中に提供された指針によって情報を与えられた通常の実験を用いてこれらのポリマーを調製することができる。ポリエステル類、特にポリ(エステルアミド)類は、米国特許第5,216,115号に開示された工程によって調製することができ、その開示は特にこのような工程を記載する目的で参照により組み込まれる。ポリイミノカーボネート類は米国特許第4,980,449号に開示された工程によって調製することができ、その開示は特にこのような工程を記載する目的で参照により組み込まれる。ポリエーテル類は、米国特許第6,602,497号に開示された工程によって調製することができ、その開示は特にこのような工程を記載する目的で参照により組み込まれる。
【0132】
好ましいポリマーとしては、ペンダントを含まないカルボン酸基(R
4=H)が挙げられる。しかしながら、ペンダントを含まないカルボン酸基を有するポリマーを、遊離カルボン酸基とコモノマーとの交差反応を用いずに、対応するモノマーとペンダントを含まないカルボン酸基との重合によって調製することは難しい。したがって、ペンダントを含まないカルボン酸基を有するポリマーは、好ましくは対応するベンジルおよびtert−ブチルエステルポリマー(R
4はベンジルまたはtert−ブチル基である)から調製される。
【0133】
ベンジルエステルポリマーは、米国特許第6,120,491号(その開示は、特にこのような方法を記載する目的で参照により本明細書中に組み込まれる)に開示されたパラジウム接触水素化分解法によって、ベンジル基の選択的除去を介して対応する遊離カルボン酸ポリマーに変換されうる。tert−ブチルエステルポリマーは、米国特許公開第20060034769号(同様に特にこのような方法を記載する目的で参照により本明細書中に組み込まれる)に開示された酸分解法によって、tert−ブチル基の選択的除去を介して対応する遊離カルボン酸ポリマーに変換されうる。ポリマー骨格の不安定性により過酷な加水分解技術の採用が阻まれる傾向にあるため、接触水素化分解または酸分解が好ましい。
【0134】
本明細書中に記載のポリマーの遊離カルボン酸ユニットのモル分率は、このようなポリマーから作製される装置の分解(degradation)を修正するように調整されうる。例えば、遊離カルボン酸の量のより少ないポリマーは、体内でより長い寿命を有する傾向がある。さらに、好ましいモル分率の範囲にわたってポリマー中の遊離カルボン酸の量を調整することによって、得られるポリマーは異なる装置の寿命を要求する多様な用途における使用に適しうる。一般に、遊離カルボン酸ユニットのモル分率が高いほど、体内での装置の寿命は短くなり、このような装置は、より短い寿命が望ましい、または要求される用途により適している。
【0135】
化学式Iaのジフェノールモノマーから誘導されるポリマーおよびモノマーの実施形態であって、R
1がイミノ含有構造:
【0137】
を有する形態は、本出願と同日に出願され、その開示が、特にこのような方法を記載する目的で本明細書中に参照により組み込まれる、米国特許仮出願第61/250,545に開示されている方法によって調製されうる。より詳細には、アミド基、すなわち、アクリルアミノ基、およびアミドの窒素のアルファ位の炭素上に置換されたカルボキシレート基を有するポリマーおよびモノマーは、ホスゲンまたはトリホスゲンとピリジン中で反応し、イミノ基を生成する。ポリカーボネートの調製において、これはモノマーを過剰のホスゲンまたはトリホスゲンと反応させてイミノ基を生成する簡単な反応である。しかしながら、他のポリマーの調製のためには、イミノ基をあらかじめモノマー上に形成しなければならない。
【0138】
一例として、I
2DTEチオ−イミンの調製を以下の反応スキームに示す。
【0140】
医療用途
本明細書中に記載されるポリマー組成物の多様な実施形態、好ましくは組織適合性モノマーから誘導されるものは、有益な物理的および化学的特性を有する多様な有用な製品の製造に用いられうる。前記有用な製品は、前記ポリマーの分解温度がガラス転移温度または結晶溶融温度よりも高い場合、押出および射出成形などの通常のポリマー熱形成技術によって成形されうる。または、圧縮成形、射出成形、溶媒キャスティング、スピンキャスティング、湿式紡糸などの通常の非熱的技術が用いられうる。2以上の方法の組み合わせが用いられうる。前記ポリマーから調製される成形品は、とりわけ医療用インプラントの応用のための生体適合性、生分解性および/または生体吸収性の生体材料に有用である。
【0141】
一実施形態において、前記医療装置はステントである。ステントが多くの異なる型の形態を含みうることが考慮される。例えば、前記ステントは、拡張型ステントでありうる。他の実施形態において、前記ステントは、シートステント、ブレードステント、自己拡張型ステント、織布ステント、変形可能ステント、またはスライドアンドロックステントの形態を有するように構成されうる。ステント製造工程は、レーザー切断、エッチング、機械的切断、または他の方法によってポリマーの押し出しシートを切断するなどの二次元的製造方法および得られた切断部分をステントに組み立てること、または、固体形態から装置を製造する同様の三次元的製造方法をさらに含みうる。
【0142】
他の特定の実施形態において、前記ポリマーは、本明細書中に記載のポリマーまたは金属などの他の材料で作製される埋め込み型装置、特にステントの表面のコーティングに形成される。このようなコーティングは、ディッピング、スプレーコーティング、これらの組み合わせなどの技術によってステント上に形成されうる。さらに、ステントは、少なくとも1種の繊維材料、硬化性材料、積層材料および/または織布材料から形成されうる。前記医療装置はまた、塞栓治療に用いられるステントグラフトまたは装置でありうる。
【0143】
本明細書中に記載のポリマーが採用されうるステント製品および製造の詳細は、米国特許公開第20060034769号(その開示は、特にこのようなステント製品および製造方法を記載する目的で参照により組み込まれる)に開示されている。ステントは、好ましくは本明細書中に記載の放射線不透過性ポリマーから製造され、装置の蛍光透視ポジショニングを可能にする。
【0144】
本明細書中に記載のポリマーの好ましい実施形態に関連する特性の非常に有益な組み合わせは、これらのポリマーが、ステントに加えて多様な吸収性医療装置、特に、好ましくは放射線不透過性、生体適合性であり多様な回数の生体吸収を有する埋め込み型医療装置の製造における使用に非常に適していることを意味する。例えば、前記ポリマーは、他の医療系、例えば、筋骨格または整形外科系(例えば、腱、靭帯、骨、骨格軟骨、平滑筋);神経系(例えば、脊髄、脳、目、内耳);呼吸器系(例えば、鼻腔および副鼻腔、気管、咽頭、肺);生殖器系(例えば、男性または女性生殖器);泌尿系(例えば、腎臓、膀胱、尿道、尿管);消化器系(例えば、口腔、歯、唾液腺、咽頭、食道、胃、小腸、結腸);外分泌機能(胆道、胆嚢、肝臓、虫垂、直腸−肛門管);内分泌系(例えば、膵臓/膵島、下垂体、副甲状腺、甲状腺、副腎および松果体);造血系(例えば、血液および骨髄、リンパ節、脾臓、胸腺、リンパ管);ならびに、外皮系(例えば、皮膚、毛髪、爪、汗腺、皮脂腺)において使用するための、治療剤を含む、もしくは含まない吸収性埋め込み型装置;治療剤を含む、もしくは含まない装置の部品および/またはコーティングにおける使用に適する。
【0145】
したがって、本明細書中に記載されるポリマーは、創傷閉鎖装置、ヘルニア修復メッシュ、胃のラップバンド、薬剤運搬インプラント、心臓装置の埋め込みのためのエンベロープ、他の心臓血管用途の装置;胆管ステント、食道ステント、膣ステント、肺−気管/気管支ステントなどの非心臓血管ステントの製造に用いられうる。
【0146】
加えて、前記吸収性ポリマーは、埋め込み型の放射線不透過性ディスク、プラグ、および組織除去(例えば、癌組織の除去および器官除去における)の領域をトラックするために用いられる他の装置、ならびに創傷の閉鎖、組織を骨および/または軟骨に接着させること、出血停止(ホメオスタシス)、卵管結紮、外科接着防止などにおける使用に適したステープルおよびクリップの製造における使用に適する。出願人はまた、本明細書中に記載されるポリマーの好ましい実施形態は、医療装置、特に埋め込み型医療装置の多様なコーティングの製造における使用に適していることを認識した。
【0147】
さらに、いくつかの好ましい実施形態において、本発明のポリマーは、例えば、前十字靭帯(ACL)、回旋筋腱板/回旋筋カップ、および他の骨格の変形の矯正、防止、再建ならびに修復を含む用途において使用される、放射線不透過性生分解性ねじ(締まりねじ)、放射線不透過性生分解性縫合糸アンカーなどを含む多様な吸収性整形外科用装置の作製に有利に使用されうる。
【0148】
本明細書中に記載されるポリマーの好ましい実施形態から有利に形成されうる他の装置としては、組織工学(tissue engineering)において使用される装置が挙げられる。適当な吸収性装置の例としては、組織工学の足場およびグラフト(例えば血管グラフト、神経再生に用いられるグラフトまたはインプラントなど)が挙げられる。前記吸収性ポリマーはまた、内部創傷の閉鎖における使用に有効な多様な装置の形成に用いられうる。例えば、多様な外科手術、化粧品用途、および心創傷の閉鎖において使用される、生分解性吸収性の縫合糸、クリップ、ステープル、有刺またはメッシュの縫合糸、埋め込み型器官支持体などが形成されうる。
【0149】
歯科用途に有用な多様な装置が、本明細書中に記載の実施形態に従って有利に形成されうる。例えば、組織再生誘導のための装置、義歯装着者のための歯茎差し替え、および上顎の顔面の骨の再生のための装置は、放射線不透過性であることから、外科医または歯科医が簡単なX線イメージングによってこのようなインプラントの配置および連続的な機能を確かめることができるという利益が得られうる。
【0150】
本明細書中に記載されるポリマーの好ましい実施形態はまた、腫瘍および血管奇形、例えば、子宮筋腫、腫瘍(すなわち、化学塞栓術)、出血(例えば、出血を伴う外傷の間)および動静脈奇形、ろう管および動脈瘤の治療のための、血液供給の一時的なおよび治療上の制限または遮断のための、カテーテルまたはシリンジによって運搬される生体吸収性、本質的に放射線不透過性のポリマー塞栓治療製品の製造に有用である。本明細書中に記載されるポリマーが採用されうる塞栓治療製品および製造方法の詳細は、米国特許公開第20050106119Al号(その開示は、特にこのような製品および方法を記載する目的で参照により組み込まれる)に開示されている。塞栓治療の治療方法は、その全身よりも局所的な性質によるものであり、前記製品は、運搬および治療の蛍光透視モニタリングを可能にするように、好ましくは本明細書中に記載される放射線不透過性ポリマーから作製される。
【0151】
本明細書中に記載されるポリマーは、幅広い治療剤運搬装置の製造にさらに有用である。このような装置は、多様な治療剤;例えば、医薬品(すなわち、薬剤)および/または生物学的因子(上記で定義され、生体分子、遺伝物質および処理生体物質などを含む)を含む;を含む使用に適しうる。癌、血管内の問題、歯科的な問題、肥満、感染などの治療における治療剤運搬のための装置を含む、治療剤を身体に運搬することができるいくつもの輸送システムが作製されうる。
【0152】
ポリマー材料を含む医療装置は、意図する用途に応じて、1以上のさらなる成分、例えば、可塑剤、充填剤、結晶化核形成剤、保存料、安定剤、光活性化剤などを含みうる。例えば、一実施形態においては、医療装置は、少なくとも1つの治療剤および/または磁気共鳴増強剤の有効量を含む。好ましい治療剤の非制限的な例としては、化学療法剤、非ステロイド性抗炎症剤、ステロイド性抗炎症剤、および創傷治癒剤が挙げられる。治療剤はポリマー材料と共に投与されうる。好ましい実施形態においては、治療剤の少なくとも一部がポリマー材料中に含まれる。他の実施形態においては、治療剤の少なくとも一部が医療装置の表面上のコーティング中に含まれる。
【0153】
好ましい化学療法剤の非制限的な例としては、タキサン類、タキシニン類、タキソール類、パクリタキセル、ドキソルビシン、cis−プラチン、アドリアマイシン、およびブレオマイシンが挙げられる。好ましい非ステロイド性抗炎症化合物の非制限的な例としては、アスピリン、デキサメタゾン、イブプロフェン、ナプロキセン、およびCox−2阻害剤(例えば、Rofexcoxib、CelecoxibおよびValdecoxib)が挙げられる。好ましいステロイド性抗炎症化合物の非制限的な例としては、デキサメタゾン、ベクロメタゾン、ヒドロコルチゾンおよびプレドニゾンが挙げられる。1以上の治療剤を含む混合物を用いてもよい。好ましい磁気共鳴増強剤の非制限的な例としては、炭酸ガドリニウム、酸化ガドリニウム、塩化ガドリニウムなどのガドリニウム塩およびこれらの混合物が挙げられる。
【0154】
前記医療装置中に存在するさらなる成分の量は、好ましくは、意図する用途に有効であるように選択される。例えば、治療剤は、好ましくは、前記医療装置が投与された、または埋め込まれた患者において所望の治療効果を達成するために有効な量で、前記医療装置中に存在する。このような量は通常の実験によって決定されうる。特定の実施形態においては、所望の治療効果は、生物学的応答である。一実施形態において、前記医療装置中の治療剤は、少なくとも1つの生物学的応答、好ましくは、血栓症、細胞接着、細胞増殖、炎症細胞の誘引、マトリックスタンパク質の沈着、血栓形成の阻害、細胞接着の阻害、細胞増殖の阻害、炎症細胞の阻害、およびマトリックスタンパク質の沈着の阻害からなる群から選択される生物学的応答を促進するように選択される。医療装置中の磁気共鳴増強剤の量は、好ましくは、放射線学的イメージングを容易にするために有効な量であり、通常の実験によって決定されうる。
【0155】
本明細書中、「医薬品(pharmaceutical agent)」の用語は、特定の生理的(代謝)応答を刺激する疾患の緩和、治療または予防を意図した物質を含む。本明細書中、「生物学的因子(biological agent)」の用語は、生体系において構造的および/または機能的活性を有する任意の物質を含み、特に制限されないが、器官、組織または細胞ベースの誘導体、細胞、ウイルス、ベクター、天然、組み換え、および合成起源であり、任意の配列およびサイズの核酸(動物、植物、微生物、およびウイルス)、抗体、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、cDNA、癌遺伝子、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、リポタンパク質、糖タンパク質、脂質、炭水化物、多糖、脂質、リポソーム、または、例えば受容体およびリガンドなどの他の細胞成分もしくは細胞小器官が挙げられる。さらに、本明細書中、「生物学的因子(biological agent)」の用語は、人の疾患もしくは損傷の予防、治療、または治癒に適用可能な、ウイルス、血清、毒素、抗毒素、ワクチン、血液、血液成分、または誘導体、アレルギー産物または類似体産物、あるいはアルスフェナミンまたはその誘導体(または任意の三価の有機ヒ素化合物)を含む(公衆衛生法(42U.S.C.262(a)のセクション351(a))。さらに、「生物学的因子」の用語は、1)「生体分子」;本明細書中で用いられる場合、天然もしくは組み換え生物、抗体、組織もしくは細胞株またはこのような分子の合成類似体から製造されるおよび精製される、生物活性ペプチド、タンパク質、炭水化物、ビタミン、脂質、または核酸を含む;2)「遺伝物質」;本明細書中で用いられる場合、核酸(デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA))、遺伝要素、遺伝子、因子、対立遺伝子、オペロン、構造遺伝子、調節遺伝子、オペレーター遺伝子、遺伝子相補体、ゲノム、遺伝子コード、コドン、アンチコドン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソーム染色体外遺伝要素、細胞質遺伝子、プラスミド、トランスポゾン、遺伝子突然変異、遺伝子配列、エクソン、イントロンを含む;および3)「処理生体物質」;本明細書中で用いられる場合、マニピュレーションを受けた細胞、組織または器官などを含む;を含みうる。前記治療剤はまた、ビタミンまたは無機物、または他の天然要素を含みうる。
【0156】
例えばステントなどの血管系に設置される装置では、治療剤の量は、好ましくは、再狭窄もしくは血栓症を阻害する、またはステント装着組織の他のいくつかの状態に影響を与える(例えば不安定プラークを治す、および/または破裂を防ぐ、または内皮形成を刺激する)のに十分な量である。本発明の好ましい実施形態によれば、前記薬剤は、抗増殖剤、抗炎症剤、抗マトリックスメタロプロテイナーゼ、脂質低下、コレステロール調節、抗血栓症および抗血小板剤からなる群から選択されうる。ステントのいくつかの好ましい実施形態においては、前記治療剤は、ポリマーと混合されるか、当業者に公知の他の手段によって混合されてステント中に含まれる。ステントの他の好ましい実施形態においては、前記治療剤は、ステント表面のポリマーコーティングから運搬される。他の好ましい変形において、前記治療剤はポリマーコーティングを用いずに運搬される。ステントの他の好ましい実施形態においては、前記治療剤は、前記ステントの少なくとも1つの部分または1つの表面から運搬される。前記治療剤は、ステントの少なくとも一部の、前記治療剤の運搬に用いられるポリマーまたは担体に化学的に結合されうる、および/または前記治療剤は、ステント本体の少なくとも一部を含むポリマーに化学的に結合されうる。好ましい実施形態においては、1以上の治療剤が運搬されうる。
【0157】
特定の実施形態において、本明細書中に記載の上記の任意の装置は治療剤運搬装置(その他の機能に加えて)としての使用に適しうる。生物学的にまたは医薬的に活性な薬剤および/または不活性な(受動的な)薬剤などの治療剤が、ポリマーマトリックス中に物理的に埋め込まれている、もしくは分散されている、または本明細書中に記載のポリマーと物理的に混合されている、制御された治療剤運搬システムが調製されうる。制御された治療剤運搬システムは、治療剤を生体吸収性ステント装置(本明細書中に記載のポリマーの少なくとも1つを含む)などの埋め込み型医療装置の表面に、これらのポリマーをコーティングとして用いることなく直接塗布することによって、または他のポリマーもしくは物質をコーティングに用いることによっても調製されうる。
【0158】
R
4が水素である場合、本明細書中に記載のポリマーの実施形態のCOOR
4ペンダント基はまた、治療剤の共有結合によって誘導体化されうる。誘導体化されていない治療剤上に存在する部分に依存して、前記共有結合は、アミド結合またはエステル結合でありうる。典型的には、前記治療剤は、第1級もしくは第2級アミン、ヒドロキシ、ケトン、アルデヒド、またはカルボン酸基で誘導体化されうる。化学結合の手順は、米国特許第5,219,564号および第5,660,822号;Nathan et al.,Bio.Cong.Chem.,4,54−62(1993)およびNathan,Macromol.,25,4476(1992)(これらのすべては特にこのような手順を記載する目的で参照により組み込まれる)に記載されている。
【0159】
前記治療剤は、始めにモノマーに共有結合し、次いでこれが重合するか、または重合が始めに行われ、その後治療剤の共有結合が行われる。加水分解に安定な複合体は、治療剤が複合体の形態で活性な場合に用いられる。加水分解性の複合体は、治療剤が複合体の形態で不活性な場合に用いられる。
【0160】
治療剤運搬化合物はまた、当業者に公知の通常の方法を用いて、運搬される治療剤を本明細書中に記載のポリマーと物理的に混合することによって形成されうる。この治療剤運搬実施形態においては、前記ポリマーが治療剤の共有結合のためのペンダント基を有することは本質的ではない。
【0161】
治療剤を含む本明細書中に記載されるポリマー組成物は、ポリマー複合体(polymer conjugate)の形態であってもポリマーと治療剤との物理的混合物であっても、局所的な運搬が求められる用途に、および全身への運搬が求められる状況においても適している。前記ポリマー複合体および物理的混合物は、本質的に従来の、当業者に公知の手順によって、必要とする患者の体内に埋め込まれうる。
【0162】
したがって、埋め込み型医療装置は、ポリマーがこれに物理的に混合された、またはこれに共有結合した治療剤を有する、本明細書中に記載の治療剤運搬システム(例えば薬剤溶出ステント)から作製される、またはこれでコートされることによって、治療剤を埋め込みの部位に運搬する働きもするように作製されうる。塞栓治療粒子もまた治療剤の運搬のために作製されうる。
【0163】
本明細書中に記載されるポリマーに共有結合しうる生物学的にまたは医薬的に活性な治療剤の例としては、アシクロビル、セフラジン、マルファレン、プロカイン、エフェドリン、アドリアマイシン、ダウノマイシン、プラムバジン、アトロピン、キニーネ、ジゴキシン、キニジン、生物活性ペプチド、クロリンe6、セフラジン、セファロチン、プロリンおよびcis−ヒドロキシ−L−プロリンなどのプロリン類似体、マルファレン、ペニシリンVおよび他の抗生物質、アスピリンおよび他の非ステロイド性抗炎症剤、ニコチン酸、ケモデオキシコール酸、クロラムブシル、抗腫瘍および抗増殖剤(再狭窄を防ぐ抗増殖剤など)、エストロゲンなどのホルモンなどが挙げられる。本発明の目的のためには、生物活性化合物は、細胞接着メディエータ、生物活性リガンドなどを含むものとしてさらに定義される。
【0164】
本明細書中に記載される本発明はまた、本明細書中に記載されるポリマー−治療剤の組み合わせを含む多様な医薬的な投与形態を含む。前記組み合わせは、埋め込みのためのバルクマトリックスまたは通常の手段による投与のための微粒子であってよく、いずれの場合も投与形態は従来認識されているもの、例えば、錠剤、カプセル、経口用液体および溶液、液滴、非経口用溶液および懸濁液、エマルション、経口用パウダー、吸入可能溶液または粉末、エアロゾル、局所用溶液、懸濁液、エマルション、クリーム、ローション、軟膏、経皮用液などを含む。
【0165】
投与形態は、1以上の医薬的に(製薬上)許容される担体を含みうる。このような材料は、採用される投与量および濃度で受容者に対して無毒であり、希釈剤、可溶化剤、潤滑剤、懸濁化剤、封入材料、浸透促進剤、溶媒、軟化剤、増粘剤、分散剤、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩および他の有機酸塩などの緩衝液、アスコルビン酸などの抗酸化剤、防腐剤、ポリアルギニンなどの低分子量(約10残基未満)ペプチド、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリ(ビニルピロリドン)などの他の親水性ポリマー、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはアルギニンなどのアミノ酸、単糖、二糖、およびセルロースまたはその誘導体、グルコース、マンノースまたはデキストリンなどの他の炭水化物、EDTAなどのキレート剤、マンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコール、ナトリウムなどの対イオンおよび/またはトゥイーン、プルロニクスまたはPEGなどの非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0166】
本明細書中に記載されるポリマー組成物および物理的混合物に組み込まれる治療剤は、生理的に許容される担体、賦形剤、安定剤などの中に提供されてもよく、本明細書中に記載されるポリマー組成物に追加される持続放出または除放の製剤中に提供されてもよい。水分散液のための液体の担体および希釈剤もまたポリマー組成物および物理的混合物と共に用いるのに適する。
【0167】
治療を必要とする患者、典型的には哺乳類の患者は、本明細書中に記載されるポリマー−治療剤の組み合わせを用いて、最適な効果を与える投与量が投与されうる。投与量および投与方法は患者によって変化し、治療を受ける哺乳類の種類、性別、体重、食事、併用投薬、全体的な臨床状態、採用される特定の化合物、これらの化合物が採用される特定の使用などの因子、および医療分野における通常の知識を有する者が認識するであろう他の因子に依存するであろう。本明細書中に記載されるポリマー−治療剤の組み合わせは、治療剤の活性の保持、およびポリマーの完全性の維持に適した条件下で貯蔵されるように調製されうる。典型的には、常温または冷蔵温度での貯蔵に適する。
【0168】
選択される特定の化合物に依存して、経皮デリバリーは選択肢でありうる;薬剤の相対的に安定した運搬を提供し、これは状況次第で好ましい。経皮デリバリーは、典型的には、アルコールビヒクル、任意で界面活性剤などの浸透促進剤および他の任意の成分を含む溶液中での化合物の使用を含む。マトリックスおよびリザーバー型経皮デリバリーシステムは、適切な経皮システムの例である。経皮デリバリーは、投与形態が患者に対して治療剤の全身的投与量を運搬する点で通常の局所的治療と異なる。
【0169】
本明細書中に記載されるポリマー−薬剤製剤はまた、小型単ラメラ小胞、大型単ラメラ小胞、および多重ラメラ小胞などのリポソーム運搬システムの形態で投与されうる。リポソームは、本明細書中に記載の任意の適当な投与経路で用いられうる。例えば、リポソームは、経口、非経口、経皮または吸入を介して投与されうるように製剤されうる。したがって治療剤の毒性は、患部への選択的な運搬によって低減されうる。例えば、前記治療剤がリポソーム封入されており、静脈注射される場合、用いられるリポソームは、血管細胞によって取り込まれ、局所的に高い濃度の治療剤が血管壁の内部で時間とともに放出され、治療剤の作用の改善がもたらされる。リポソーム封入治療剤は、好ましくは非経口で、特には静脈注射によって投与される。
【0170】
リポソームは、治療剤の放出のための特定の部位に標的化されうる。これは、活性部位での治療剤の治療に有用な投与量を提供するためにしばしば必要な過剰の投与量を、そして結果として、より高い投与量に伴う毒性および副作用を未然に防ぐ。
【0171】
本明細書中に記載のポリマー中に組み込まれる治療剤は、望ましくは、その所望の標的への全身的な運搬を促進する薬剤を、運搬剤が上述の治療剤と同じ適格基準に合致するかぎり、さらに含みうる。運搬される活性な治療剤は、このように治療剤分子が結合する抗体、抗体フラグメント、成長因子、ホルモン、または他の標的部分とともに組み込まれうる。
【0172】
本明細書中に記載されるポリマー−治療剤の組み合わせはまた、バルブ、ステント、チューブ、プロテーゼなどの成形品に形成されうる。心臓血管ステントは、再狭窄を防ぐ治療剤と組み合わせられうる。埋め込み型医療装置は、感染を防ぐ治療剤と組み合わせられうる。
【0173】
治療上有効な投与量は、インビトロまたはインビボの方法によって決定されうる。それぞれの特定の薬剤について、必要な最適な投与量の個別の決定が行なわれうる。治療上有効な投与量の範囲は、投与経路、治療目的、および患者の状態によって当然影響されうる。多様な適切な投与経路において、吸収効率は、薬理学において公知の方法によって各薬剤について個々に決定されなければならない。したがって、最適な治療効果を得るために、治療者は必要に応じて投与量を調節し、投与経路を修正することが必要である。
【0174】
有効な投与量レベル、すなわち、所望の結果を達成するために必要な投与レベルの決定は、当業者の範囲内であろう。典型的には、化合物の適用は、より低い投与量レベルで開始し、所望の効果が達成されるまで投与量レベルを増加させる。本明細書中に記載の製剤からの放出速度もまた、治療される状態に応じて有利なプロファイルを決定するために当業者の範囲内で変化される。
【0175】
典型的な投与量は、約0.001mg/k/g〜約1,000mg/k/g、好ましくは約0.01mg/k/g〜約100mg/k/g、より好ましくは約0.10mg/k/g〜約20mg/k/gの範囲でありうる。有利には、本明細書中に記載のポリマー−治療剤の組み合わせは一日数回で投与され、他の投薬計画もまた有用でありうる。
【0176】
本明細書中に記載の方法を実行する際、前記ポリマー−治療剤の組み合わせは単独で、または他の治療剤もしくは診断剤と組み合わせて用いられうる。本明細書中に記載のポリマー−治療剤の組み合わせは、インビボで、通常は人、羊、馬、牛、豚、犬、猫、ラット、およびマウスなどの霊長類などの哺乳類において、あるいはインビトロで利用されうる。
【0177】
本明細書中に記載される放射線不透過性生体吸収性ポリマーを治療剤運搬用途に用いる利点は、治療剤の放出および埋め込み型治療剤運搬システムの存在のモニタリングの容易さである。ポリマーマトリックスの放射線不透過性は、共有結合したハロゲン置換基によるものであるため、放射線不透過性のレベルは、埋め込み後任意の時間にインプラント部位に依然として存在する分解性治療剤運搬マトリックスの残量に直接的に関連する。好ましい実施形態においては、分解性治療剤運搬システムからの治療剤の放出速度は、ポリマーの吸収速度と関連付けられるであろう。このような好ましい実施形態においては、放射線不透過性の残りの程度の直接的、定量的な測定によって、主治医が埋め込み型治療剤運搬システムからの治療剤の放出のレベルをモニターする方法が提供されるであろう。
【0178】
後述する以下の非制限的な例を用いて本発明の特定の形態を説明する。特にことわりのない限り、部および百分率はすべてモル百分率であり、特にことわりのない限り、温度はすべて摂氏温度である。特にことわりのない限り、溶媒はすべてHPLCグレードであり、他の試薬はすべて分析グレードであり、市販のものをそのまま用いた。
【実施例】
【0179】
実施例
調製例1:I
2DATマクロマー(1,5−ペンタンジオールのI
2DATジエステル)
オーバーヘッドスターラーおよびディーン−スタークトラップを備えた500mLのフラスコに、1,5−ペンタンジオール(8.75g,84mmol)、I
2DAT(71g,0.17mol)、4−トルエンスルホン酸(1.6g,8.4mmol)およびヘプタン200mLを入れた。窒素導入アダプタをコンデンサの上部に取り付け、窒素雰囲気に維持した。このフラスコをマントルヒーターを用いて加熱した。回収した水を定期的に測定し、理論量の水が回収されるまで還流を続けた。試薬中に存在する水分により、予測よりも多くの水が回収されうる。水発生が停止すると反応が停止した。微量の遊離ヨウ素により、ヘプタンが桃色から紫色に変化した。反応混合物を攪拌しながら冷却した。粗生成物を濾過によって回収した。精製のために、粗生成物を100mLのアセトンに溶解させた。この溶液に、攪拌しながら5%NaHCO
3溶液400mLを添加し、生成物が結晶化するまで攪拌を継続した。マクロマー生成物を濾過によって回収し、50mLの5%NaHCO
3溶液で、次いで2×50mLのDI水で洗浄した。マクロマー生成物を真空オーブンで乾燥させ、
1H−NMRおよびHPLCによって特性を調べた。マクロマー生成物について
1H−NMRおよびGPCによって特性を調べた。分子量(GPC、ポリスチレン標準)は10,000であった。
【0180】
同様の手順を用いて、マクロマー性のヘキサンジオールおよびプロパンジオールのI
2DATジエステルを調製した。
【0181】
調製例2:ヒドロキシ−エンドキャップPLLAマクロマー
100mLの丸底フラスコに、3つの試薬、1,3−プロパンジオール(1.02g,13.4mmol)、L−ラクチド(36.3g,252mmol)およびオクタン酸第一スズ(0.5g,1.26mmol)を入れた。フラスコの内容物を攪拌し、真空下で乾燥させた。次いでこのフラスコを、温度を130〜140℃に維持したシリコンオイルバスに入れた。ラクチドが溶け始め、透明な液体が得られた。2時間後に観察すると、反応混合物は不透明(白色)であり、約130℃で依然として液体であった。この原料を24時間反応させた。冷却すると白色固体が得られた。
1H−NMRから未反応の1,3−プロパンジオールがないことが示された。THFを移動相として用いたGPC(GPC、ポリスチレン標準)においてMn=3800およびMw=7500の二峰性のピークがみられた。
【0182】
調製例3:トリホスゲンを用いたPLLA−ジオールの重合
250mLの丸底フラスコに、Mn1500のPLLA−ジオール7.50g(0.005mol)を添加した。このフラスコに塩化メチレン60mLおよびピリジン1.53g(0.019mol)をさらに添加し、オーバーヘッドスターラーで攪拌した。得られた透明な溶液に、トリホスゲン0.42g(ホスゲン0.006当量)を塩化メチレン2mLに溶解させた溶液をシリンジポンプを用いて2時間かけてゆっくりと添加した。15分間攪拌した後、GPCによるMWは60,000であった。反応混合物を0.2MのHClで2回洗浄し、その後メタノールで沈殿させた。はじめに生成した粘性の油は1時間攪拌後固化して白色の結晶質固体となった。これを40℃の真空オーブンで24時間乾燥させた。
【0183】
調製例4:ポリ(PHMC2Kカーボネート)ジオール
オーバーヘッドスターラーを備えた1Lの4つ口フラスコに、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート2000)(PHMC2K)53.4g(27mmol)、塩化メチレン200mLおよびピリジン8.23g(0.104mol)を入れた。攪拌すると透明な溶液が得られた。20mLのサンプル瓶に、トリホスゲン2.33g(ホスゲン3.2当量)を塩化メチレン8mLに溶解させ、シリンジポンプを用いて反応フラスコに2時間かけて添加した。反応混合物を15分間攪拌し、次いでTHF−水の9:1混合物250mLでクエンチした。これをメタノール1500mLでオーバーヘッドスターラーを用いてビーカーに沈殿させた。1時間静置し、その後上澄みをデカンテーションで除いて捨てた。底部のにかわ状の沈殿をメタノール200mLで攪拌しながら洗浄した。次いで、これを200mLのDI水で洗浄した。残留物をPTFE皿に移し、真空下で24時間50℃で乾燥させた。ポリマー生成物は乾燥中ゲルになり、冷却すると硬化した。DSCにより融点が31.5℃であることが示された。
【0184】
調製例5:ポリカプロラクトンジオール(PCL−1300)
250mLの丸底フラスコに、スズ(II)2−エチルヘキソエート0.280g(0.691mmol)、1,3−プロパンジオール3.64g(0.0478mol)およびイプシロン−カプロラクトン57.1g(0.500mol)を添加した。このフラスコを乾燥窒素でパージし、次いで窒素陽圧下に維持した。次いでこのフラスコを150℃に維持したオイルバスで8時間、マグネティックスターラーを用いて攪拌しながら加熱した。次いで、これを約40℃に冷却し、テトラヒドロフラン(THF)120mLに溶解させた。溶液を240mLのヘキサンを用いて沈殿させ、油性の沈殿を得た。この油性の沈殿を新しいヘキサンを用いて白色のろう状の固体が得られるまで攪拌した。
1H−NMR分光を用いた末端基分析により、生成物の数平均分子量(Mn)が約1300であることが示された。
【0185】
同様の手順を用いて、イプシロン−カプロラクトンに対する1,3−プロパンジオールのモル比を変化させて、約3000、約5500、約8400、約10000および約20000の分子量(Mn)を有するPCL−ジオールを調製した。本明細書中、PCL−ジオールは「PCL」の表記の後に、そのおよその分子量をつけて、例えば、PCL−1250、PCL−3000、PCL−5500、PCL−8400、PCL−10000、PCL−20000などのように表されうる。また、1,3−プロパンジオールに代えて、1,6−ヘキサンジオールを開始剤として用いて、約1250および約10,000の数平均分子量(Mn)を有するPCLジオールを調製した。
【0186】
調製例6:I
2DTE−PCL10k−PCL1.25kポリマー
メカニカルスターラー、シリンジポンプおよび温度計を備えた1Lの4つ口丸底フラスコに、3,5−ジヨードデスアミノチロシルチロシンエチルエステル20g(I
2DTE,85重量%)、PCL−10000 1.89g(8重量%)およびPCL−1250 1.65g(7重量%)を添加した。PCLジオールは調製例5に記載した一般的な方法で調製した。次いで、このフラスコに塩化メチレン133mLおよびピリジン26.5mLを添加した。得られた透明な溶液を攪拌しながら、これにトリホスゲン3.8gを塩化メチレン12mLに溶解させた溶液をシリンジポンプを用いて2〜3時間かけて添加した。添加が完了した後、反応混合物を15分間攪拌した。得られた粘性溶液に水200mLを加えて攪拌し、層を分離させた。上層を分離して捨てた。下層を、1Lの実験室ブレンダー中で2−プロパノール220mLを用いて沈殿させた。得られた油性の沈殿をブレンダー中で2−プロパノールを用いて繰り返しすりつぶすことによって固化させた。得られた粉末状のI
2DTE−PCL10k−PCL1.25kポリマー生成物を40℃の真空オーブンで一定重量まで乾燥させた。
【0187】
Mn〜10,000のPCL−ジオールをMn=〜3,000、〜5,500、〜8,400、〜20,000および〜42,500のPCL−ジオールで置き換えることによって、出発物質のPCLジオールの分子量を変化させることによって、同様の手順を用いて多くの他のI
2DTE−PCL−PCLポリマーを調製した。表2に示すように、本明細書中、このようなI
2DTE−PCL−PCLポリマーは「I
2DTE−PCL−PCL」の表記にPCLジオールのおよその分子量を含めて表されうる。例えば、I
2DTE、PCL−10000およびPCL−1250を用いて作製されたI
2DTE−PCL−PCLポリマーは、本明細書中I
2DTE−PCL10k−PCL1.25kと表されうる。
【0188】
調製例7:I
2DTE−PCL10k−PCL1.25kポリマー
I
2DTE−PCL10k−PCL1.25kポリマーは、反応混合物を40〜60ミクロンのフリットガラス漏斗を用いて濾過したことを除いては、I
2DTE、PCL−10000およびPCL1250を用いて上述の調製例6と同様に調製した。濾液の沈殿およびさらなる作業を粒子制御環境で行なった。得られたI
2DTE−PCL10k−PCL1.25kポリマーは、粒子制御条件下で調製されていない対応するポリマーと比較して、改善された機械的特性を示すことがわかった。
【0189】
調製例8:I
2DTE−PHMC12k
メカニカルスターラー、シリンジポンプおよび温度計を備えた1Lの4つ口丸底フラスコに、3,5−ジヨードデスアミノチロシルチロシンエチルエステル20g(I
2DTE,80重量%)およびポリ(ヘキサメチレンカーボネート)−ジオール(Mn=12,000)(調製例4と同様の方法で調製した)5g(20重量%)を添加した。次いで、このフラスコに塩化メチレン150mLおよびピリジン10.3mLを添加した。得られた透明な溶液を攪拌しながら、これにトリホスゲン4.4gを塩化メチレン17mLに溶解させた溶液をシリンジポンプを用いて2〜3時間かけて添加した。添加が完了した後、反応混合物を15分間攪拌した。得られた粘性溶液を、THF15mLと水1.5mLとの混合物を添加することによってクエンチした。15分後、クエンチした反応混合物を、1Lの実験室ブレンダー中で250mLの2−プロパノールを用いて沈殿させた。得られた油性の沈殿をブレンダー中で2−プロパノールを用いて繰り返しすりつぶすことによって固化させた。粉末の形態で得られた生成物を40℃の真空オーブンで一定重量になるまで乾燥させた。得られたI
2DTE−PHMC12kポリマーはガラス転移温度が125℃であった。上述の「I
2DTE−PHMC12k」の表記で示されるように、本明細書中でPHMCを含むポリマーは上記のPCLを含むポリマーと同様に表される。
【0190】
調製例9:DATマクロマー(「HDAT」、1,6−ヘキサンジオールのDATジエステル)
オーバーヘッドスターラー、ディーン−スタークトラップおよび温度計を備えた500mLの丸底フラスコに、1,6−ヘキサンジオール11.8g(0.10mol)、DAT33.6g(0.202mol)、p−トルエンスルホン酸1.90g(0.01mol)およびヘプタン200mLを添加した。このフラスコを、オーバーヘッドスターラーで攪拌しながらマントルヒーターを用いて加熱した。ディーン−スタークトラップに約3.8mLの水を回収し、水はこれ以上増加しなかった。加熱を停止し、反応混合物を室温まで冷却した。上澄みをデカンテーションによって除去し、フラスコの残留物を窒素流中で乾燥させた。灰白色の沈殿をアセトン100mLに溶解させ、5%NaHCO
3溶液で繰り返し洗浄することによって沈殿させた。次いで固形物を脱イオン水(DI)で洗浄し、濾過によって分離し、乾燥させた。生成物をジエチルエーテル(固形分に対して10mL/g)を用いた抽出によってさらに精製し、HDATマクロマー生成物を得た。
【0191】
調製例10:ポリ(HDATカーボネート)−ジオールマクロマー
オーバーヘッドスターラーを備えた1Lの4つ口フラスコに、HDAT(調製例9に記載の方法で調製した)9.5g(22.8mmol)、塩化メチレン80mLおよびピリジン6.8g(86mmol)を入れた。攪拌すると透明な溶液が生成した。20mLのサンプル瓶中でトリホスゲン2.37g(ホスゲン24.0mmol)を塩化メチレン8mLに溶解させ、シリンジポンプを用いて反応フラスコに2時間かけて添加した。反応混合物を15分間攪拌し、次いで水100mLを加えて攪拌することによってクエンチした。これをIPA135mLで、オーバーヘッドスターラーを用いてビーカー中に沈殿させた。油性の沈殿を数部分のIPAで粉末にし、生成物を固形物として得た。残留物をPTFE皿に移し真空下で24時間、50℃で乾燥させた。得られたポリ(HDATカーボネート)−ジオールマクロマーのDSCから、Tgが2.5℃であり、重量平均分子量(Mw)が約38,000、数平均分子量(Mn)が約19,000(GPCによるMwおよびMn、ポリスチレン標準)であった。
【0192】
調製例11:I
2DTE−HDAT12kポリマー
メカニカルスターラー、シリンジポンプおよび温度計を備えた1Lの4つ口丸底フラスコに、3,5−ジヨードデスアミノチロシルチロシンエチルエステル20g(I
2DTE,90重量%)、およびポリ(HDATカーボネート)−ジオール(Mn=19,000)2.22g(10重量%)を添加した。次いで、このフラスコに塩化メチレン180mLおよびピリジン10.2mLを添加した。得られた透明な溶液を攪拌しながら、これにトリホスゲン3.8gを塩化メチレン12mLに溶解させた溶液をシリンジポンプを用いて2〜3時間かけて添加した。添加が完了した後、反応混合物を15分間攪拌した。得られた粘性溶液を、THF15mLと水1.5mLとの混合物を添加することによってクエンチした。15分後、クエンチした反応混合物を、1Lの実験室ブレンダー中で2−プロパノール250mLを用いて沈殿させた。得られた油性の沈殿を、ブレンダー中で2−プロパノールを用いて繰り返しすりつぶすことによって固化させた。粉末の形態で得られた生成物を40℃の真空オーブンで一定重量になるまで乾燥させた。得られたl
2DTE−HDAT12kポリマーはガラス転移温度が129℃であった。
【0193】
調製例12:プロパンジオールを可塑剤として用いたI
2DTE−PCL10K
メカニカルスターラー、シリンジポンプおよび温度計を備えた1Lの4つ口丸底フラスコに、3,5−ジヨードデスアミノチロシルチロシンエチルエステル20g(I
2DTE,85重量%)、PCL10K 1.89g(8重量%)およびプロパンジオール1.65g(7重量%)を添加した。次いで、このフラスコに塩化メチレン133mLおよびピリジン16.8mLを添加した。得られた透明な溶液を攪拌しながら、これにトリホスゲン5.9gを塩化メチレン18mLに溶解させた溶液をシリンジポンプを用いて2〜3時間かけて添加した。添加が完了した後、反応混合物を15分間攪拌した。得られた粘性溶液を、THF15mLと水1.5mLとの混合物を添加することによってクエンチした。15分後、クエンチした反応混合物を、1Lの実験室ブレンダー中で2−プロパノール250mLを用いて沈殿させた。得られた油性の沈殿を、ブレンダー中で2−プロパノールを用いて繰り返しすりつぶすことによって固化させた。粉末の形態で得られた生成物を40℃の真空オーブンで一定重量になるまで乾燥させた。得られたI
2DTE−PCL10Kポリマーはガラス転移温度が98℃であった。
【0194】
試験例1〜5:I
2DTE/PCL共重合体のDMA疲労試験
I
2DTE/PCL共重合体の疲労試験をDMAを用いて以下のように行なった:0.004±0.0002インチの厚さのポリマーフィルムを、乾燥ポリマー粉末から圧縮成形によって調製した。フィルムを1インチ長さおよび0.2インチ幅の長方形の試片に切断し、pH7.4の0.1MのPBS中に37℃で所定の時間(表2参照)設置した。浸漬後、まだ濡れている試料を疲労試験のためのDMA QO800の浸漬フィルムクランプに挟んだ。疲労試験は、DMA単一周波数応力モードで、浸漬した試料を特定の温度で等温保持し、選択された周波数で一定の応力で変形(振動)させて行なった。試験は、試験試料の破断まで、または試料の変形が浸漬DMAクランプで許容されるクランプ分離の全長に達するまで行なわれた。試験開始前に、試験試料に最小の力で予備荷重をかけた。以下のDMA試験パラメータを用いた:
予備荷重条件:予備荷重=0.01N,力追従125%;初期振幅=10ミクロン;37℃での浸漬時間=可変(表2参照)。
【0195】
試験条件:等温温度37℃;周波数=1.2Hz;応力=10MPa;掃引数:9999まで(または試料が破断されるまで、もしくはDMA浸漬クランプで許容される最大変形に達するまで)。
【0196】
表2に、pH7.4の0.1MのPBS中、37℃で1週間、1か月、および3か月エージングした試料の破断までの時間(分)についての疲労試験の結果を示す。
【0197】
【表2】
【0198】
表2に示すI
2DTE/PCL共重合体は、I
2DTE(「I
2DTE」)、分子量が約1250であるPCLマクロマー(「PCL1.25k」)および分子量が約3,000(「PCL3k」)〜約42,500(「PCL42.5k」)である多様なPCLマクロマーを共重合することによって調製した。これらの共重合体は、湿潤Tgが38℃超であるI
2DTE成分および湿潤Tgが36℃未満であるPCL成分を含む。表2のデータは、得られたポリマー組成物の強度に対するPCLの分子量の影響を表す。表2のデータから、疲労靭性(DMA試験における破断までの時間についての破壊に対する耐性によって示される)はPCLの分子量が3,000から5,500に増加するにしたがって増加し、PCLの分子量が10,000に増加すると、特に予測できない大きな疲労靭性の増加がみられることが示された。
【0199】
試験例6−27:多様なポリマー組成物の降伏応力(σ)、弾性率(E)および破断点伸び(ε)のデータ
表3に示すI
2DTE/PCL共重合体の引張試験を、浸漬クランプを備えたInstron 3343を用いて、水中に浸漬した状態で、37℃、変形速度10インチ/分で行なった。I
2DTE−PTMO2.9kおよびI
2DTE−PTMO2.0kポリマーは、PCLジオールマクロマーまたはPHMCジオールマクロマーに代えて、表示された分子量のPTMO(ポリテトラメチレンオキシドジオールマクロマー)を用いたことを除いては、それぞれ、上記I
2DTE−PCLおよびI
2DTE−PHMCポリマーと同様の方法で調製した。同様に、I
2DTE−PCL10K−PEG2Kポリマーは、PCLジオールマクロマーの一部に代えて、表示された分子量のPEG(ポリエチレングリコールジオールマクロマー)を用いたことを除いては、上記I
2DTE−PCLポリマーと同様の方法で作製した。試験に先立って、表3に示すように試料をPBS中、37℃で所定の期間(0、1週間、および3か月)エージングした。
【0200】
【表3-1】
【0201】
【表3-2】
【0202】
【表3-3】
【0203】
【表3-4】
【0204】
表3のデータから、破断点伸び(ε)の値はポリマーのエージングの間に有意に変化するが、降伏応力(σ)および弾性率(E)はそれほど変化しないことがわかる。相対的に低い分子量のマクロマーから作製されたポリマーでは、相対的に高い分子量のマクロマーから作製されたポリマーよりも、エージングの間に破断点伸びがより大幅に低下する。例えば、I
2DTE−PCL1.25k(89/11 w/w%)ポリマーでは、1週間のエージング後、破断点伸びは約1/5に低下し、他の相対的に低い分子量のPCLマクロマー(I
2DTE−PCL3k−PCL1.25k(85/8/7 w/w%)およびI
2DTE−PCL5.5k−PCL1.25k(85/8/7 w/w%))から作製された他のポリマーでは、1週間のエージング後、破断点伸びは約1/10に低下した。一方、相対的に高い分子量を有するPCLマクロマーから作製されたポリマーでは、エージング後の破断点伸びは相対的に高い値に維持された。例えば、I
2DTE−PCL10k−PCL1.25k(85/8/7 w/w%)ポリマーでは、3か月のエージング後であっても破断点伸びは依然として80%であった。
【0205】
試験例28−39
ポリマーの水分含量を、カールフィッシャー(KF)電量滴定によって、市販のKF電量滴定装置Aquastar AQC34を用いて決定した。熱圧縮ポリマーフィルムをpH7.4の0.1MのPBS中に37℃で浸漬し、24時間浸漬して平衡水分含量に到達させ、その後カールフィッシャー法による水分含量の決定の前にふき取って表面から過剰の水を除去した。各種ポリマーの水分含量の結果(総量に対する重量%)を表4に示す。
【0206】
【表4】
【0207】
表4に示すデータから、PCL含量の増加に伴って平衡水分含量が減少する傾向がわずかにみられた。
【0208】
以下の実施例は、アミド基を有するモノマーおよびポリマーのアシル−イミノ基を有するモノマーおよびポリマーへの変換を示す。
【0209】
実施例40:モノマーを過剰のトリホスゲンと反応させることによるアシル−イミン含有ポリカーボネートの調製
500mLの丸底フラスコに、デスアミノチロシルチロシンエチルエステル(DTE)15g(0.042mol)、4−ヒドロキシ安息香酸エチル(エンドキャッピング剤)0.011g(0.07mmol)、ピリジン12.45g(0.16mol)、および塩化メチレン150mLを入れ、窒素雰囲気下で攪拌した。トリホスゲン(6.65g,ホスゲン0.067モル)を塩化メチレン37mLに溶解させ、この溶液をフラスコにシリンジポンプを用いて2時間かけて添加した。添加が完了した後、反応混合物を17時間攪拌した。反応混合物を、4Lのブレンダー中で2−プロパノール1Lを用いて沈殿させた。得られたゲル状の生成物を、2−プロパノール0.5Lを用いて繰り返しすりつぶした。固体生成物を濾過によって分離し、脱イオン水を用いてすりつぶし、最後に真空オーブンで乾燥させた。
1H−NMRから、イミン(−C=N−)のアミド(−CH−NH−)に対する比は2:1であることが示された。
【0210】
実施例41:アシル−イミン含有ポリカーボネートの調製
250mLの丸底フラスコに、ポリ(DTEカーボネート)(PDTEC;0.026mol 繰り返し単位)10g、ピリジン(2.57g,0.026mol)および塩化メチレン100mLを入れた。得られた溶液に、トリホスゲン(1.29g,ホスゲン0.013mol)を塩化メチレン5mLに溶解させた溶液を90分間かけて攪拌しながら添加した。反応混合物を常温で24時間攪拌し、その後ブレンダー中で2−プロパノール500mLで沈殿させた。得られた黄色のポリマーを250mLの2−プロパノールで2回洗浄し、濾過によって分離し、40℃の真空オーブンで乾燥させた。このポリマーを、
1H−NMRおよびゲル浸透クロマトグラフィーによって特性決定した。
1H−NMRから、−CH−NH−基の30%が−C=N−基に変換されたことがわかった。
【0211】
当業者であれば、本発明の精神を逸脱することなく多くのおよび多様な修正がなされうることが理解できるであろう。したがって、本明細書中に記載された本発明の多様な実施形態は、説明のためだけのものであって本発明の技術的範囲を制限しようとするものではないことは明確に理解されるべきである。