【実施例】
【0134】
実施例1
ヒト単為生殖胚形成幹細胞の作製
材料および方法
ドナーは、金銭的報酬を受けずに卵母細胞、卵丘細胞、および血液(DNA解析用)を自発的に提供した。ドナーは包括的なインフォームドコンセント書類に署名し、提供された材料はすべて研究のために使用し、生殖目的で使用しないことが通知された。卵母細胞ドナーは卵巣刺激の前に、ヒトの細胞、組織、ならびに細胞および組織に基づく製品のドナーに関するFDA適格性判定指針(食品医薬品局。2004年5月付の(法案)Guidance for Industry: Eligibility Determination for Donors of Human Cells, Tissues, and Cellular and Tissue Based Products (HCT/Ps))およびロシア保険省の規則N 67(02.26.03)に従って、適合性に関する健康診断を受けた。これには、X線、血液および尿検査、ならびに肝機能試験が含まれた。ドナーはまた、梅毒、HIV、HBV、およびHCV検査を受けた。
【0135】
卵母細胞は、標準的なホルモン刺激を用いて対象ドナーで過排卵を生じさせて得た。月経周期の3〜13日目に、ドナー卵子それぞれにFSHによる卵巣刺激を与えた。全部で1500 IUのFShを投与した。ドナーの月経周期の10〜14日目に、0.25 mg/日のゴナドリベリン拮抗薬Orgalutran(Organon、オランダ)を注射した。ドナーの月経周期の12〜14日目に、75 IU FSH+75 IU LH(Menopur、Ferring GmbH、ドイツ)を毎日注射した。ドナーの月経周期の14日目に、超音波検査により直径18 mm〜20 mmの卵胞が示されるという条件において、単回8000 IU用量のhGC(Choragon、Ferring GmbH、ドイツ)を投与した。およそ16日目であるhCG注射の約35時間後に、経膣穿刺を行った。超音波誘導下針吸引により、麻酔したドナーの胞状卵胞から卵胞液を滅菌試験管に採取した。
【0136】
卵胞液から卵丘卵母細胞複合体(COC)を取り出し、Flushing Medium(MediCult)で洗浄し、その後流動パラフィン(MediCult)重層を伴うUniversal IVF培地(MediCult、表1を参照)中、37℃加湿雰囲気において20% O
2、5% CO
2下で2時間インキュベートした。
【0137】
(表1)
IVF培地
【0138】
活性化の前に、卵丘卵母細胞複合体(COC)をSynVitro Hyadase(Medicult, A/S、デンマーク)で処理して卵丘細胞を除去し、その後パラフィン重層したUniversal IVF培地中で30分間インキュベートした。
【0139】
この時点以後、卵母細胞および胚の培養は、イオノマイシン処理を除いて、酸素低減気体混合物(90% N
2+5% O
2+5% CO
2)を用いて37℃の加湿雰囲気下で行った。卵母細胞は、20% O
2、5% CO
2という気体環境下の37℃のCO
2インキュベーター内で5μMイオノマイシン中で5分間インキュベートし、その後90% N
2、5% O
2、および5% CO
2、37℃でいう気体環境において、パラフィン重層したIVF培地中で1 mM 6-ジメチルアミノプリン(DMAP)と共に4時間培養することにより活性化した。次いで、卵母細胞をIVFで3回洗浄した。活性化および培養は、4ウェルプレート(Nunclon, A/S、デンマーク)で、流動パラフィン油(MediCult, A/S、デンマーク)を重層した培地500μl中で行った。
【0140】
活性化卵母細胞は、5% O
2、5% CO
2、および90% N
2を含む気体環境においてIVF培地中で培養し、活性化卵母細胞から作製された胚も同じ気体混合物中で培養した。
【0141】
活性化卵母細胞は、胚盤胞スコアづけ改良(Blastocyst Scoring Modification)で1AAまたは2AA(Shady Grove Fertility Center、メリーランド州、ロックビル、およびGeorgia Reproductive Specialists、ジョージア州、アトランタ)である、内部細胞塊(ICM)を含む十分に拡張した胚盤胞が観察されるまで、上記条件 (すなわち、低O
2圧)下でIVF中でインキュベートした。
【0142】
0.5%プロナーゼ(Sigma、セントルイス)処理により、透明帯を除去した。ヒト脾臓細胞に対するウマ抗血清と共にインキュベートし、その後モルモット補体に曝露する免疫手術により、胚盤胞からICMを単離した。処理した胚盤胞を穏やかにピペッティングして、栄養外胚葉細胞をICMから除去した。
【0143】
胚盤胞全体からICMを誘導する場合には、10%ヒト臍帯血血清、5 ng/mlヒト組換えLIF(Chemicon Int'l, Inc.、カリフォルニア州、テメキュラ)、4 ng/ml組換えヒトFGF(Chemicon Int'l, Inc.、カリフォルニア州、テメキュラ)、およびペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100μg)を添加した、phESCの培養用に設計された培地(すなわち、VitroHES(商標)培地(例えば、DMEM/高グルコース培地、VitroLife、スウェーデン)により、胚盤胞をフィーダー層上に乗せた。胚盤胞が接着し、栄養膜細胞が拡張した時点で、ICMが目に見えるようになった。さらに3〜4日間培養し、細く引いたガラスピペットを用いて、栄養外胚葉生成物からICMを機械的に薄く切り取ることによりICMを単離した。さらに、IMC細胞を、96ウェルプレートでVitroHES(商標)培地(上記の通りに処方)中、有糸分裂的に不活化した出生後ヒト皮膚線維芽細胞のフィーダー細胞層上で、5% CO
2および20% O
2、37℃で培養した。この気体混合物を用いて幹細胞を培養した。ヒト線維芽細胞培養物は、非動物材料を用いて作製した。線維芽細胞の不活化は、10μg/mlマイトマイシンC(Sigma、ミズーリ州、セントルイス)を用いて3時間行った。
【0144】
別の方法においては、胚盤胞をヒト脾臓細胞に対するウマ抗血清と共にインキュベートし、その後ウサギ補体に曝露することにより免疫手術を行った。処理した胚盤胞を穏やかにピペッティングして、栄養外胚葉細胞をICMから除去した。単離されたICMのさらなる培養は、ヒト臍帯血血清を含む培地を用いて導出された、遺伝的に非関連の個体から得られた(親の同意を得て)新生児ヒト皮膚線維芽細胞(HSF)のフィーダー層上で行った。HSFフィーダー層は、マイトマイシンCを用いて有糸分裂的に不活化した。
【0145】
HSFを培養するための培地は、90% DMEM(高グルコース、L-グルタミン(Invitrogen)、10%ヒト臍帯血血清、およびペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100 mg)を添加 Invitrogen)からなった。
【0146】
ICMおよびphESCの培養には、4 ng/ml hrbFGF、5 ng/ml hrLIF、および10%ヒト臍帯血血清を添加したVitroHES(商標)(Vitrolife)を使用した。ICMを新鮮なフィーダー層上に機械的にプレーティングし、3〜4日間培養した。培養して5日後に、最初のコロニーを機械的に切断し、再プレーティングした。その後の継代はすべて、5〜6日間の培養後に行った。初期の継代では、コロニーを機械的に凝集塊に分割して、再プレーティングした。phESCのさらなる継代は、IV型コラゲナーゼ処理および機械的解離により行った。phESCの増殖は、加湿雰囲気において37℃、5% CO
2で行った。
【0147】
卵母細胞の活性化
最初のドナーから卵母細胞4個を活性化し、活性化卵母細胞を5% O
2、5% CO
2、および90% N
2を含む気体環境においてIVF培地中で培養し、5日間にわたり追跡した。表2は、活性化卵母細胞の成熟の過程を示す。卵母細胞はそれぞれ4ウェルプレートで分離した。
【0148】
(表2)
活性化卵母細胞の培養*
*細胞は、1日目はM1(商標)培地(MediCult)中で、2〜5日目はM2(商標)培地(MediCult)中で培養した。培地は毎日交換した。M1(商標)およびM2(商標)は、ヒト血清アルブミン、グルコースおよび派生代謝産物、生理的塩類、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン類、ヌクレオチド、炭酸水素ナトリウム、ストレプトマイシン(40 mg/l)、ペニシリン(40,000 IU/l)、ならびにフェノールレッドを含んでいた。
【0149】
N4から内部細胞塊を単離し、上記に概説した通りにヒト線維芽細胞フィーダー細胞に移した。N1およびN2は6日目に変性した。さらに、6日目に、N3はICM 2ABの十分に拡張した胚盤胞を生じた。そこで、6日目にN3をヒト線維芽細胞フィーダー細胞に移した。N4由来のICMは変化しなかった。N3を用いて幹細胞を単離した。
【0150】
ICM細胞を、5% CO
2および95% N
2を含む気体環境においてVitroHES(商標)中で培養し、45日間にわたり追跡した。表2aは、N3 ICM細胞培養の過程を示す。
【0151】
(表2a)
N3-ICM培養の過程*
*細胞は、M2(商標)培地(MediCult)で培養した。
**これらの継代は、プロナーゼ消化により行った。
【0152】
幹細胞の単離
ドナー5名による卵母細胞から、MediCult培地の使用およびその後の低減酸素下での培養により、培養の5および6日目に胚盤胞23個が生成された。この胚盤胞のうち11個は、目に見えるICMを有していた(表3)。
【0153】
(表3)
単為生殖体および単為生殖胚性幹細胞株の作製
1-卵母細胞2個は活性化されなかった;
2-卵母細胞1個は活性化後に変性した;
3-卵母細胞1個は活性化されなかった;
4-卵母細胞2個は中期Iにあったため廃棄した。
【0154】
これらの結果から、単為生殖的活性化卵母細胞からの胚盤法の形成は約57.5%の成功率であることが示される。
【0155】
免疫組織化学染色
免疫染色のため、フィーダー層上のhES細胞コロニーおよびphESC細胞をマイクロカバーガラス上に播種し、PBSで2回洗浄し、100%メタノールで-20℃にて5分間固定した。細胞をPBS+0.05% Tween-20で2回洗浄し、PBS+0.1% Triton X-100で室温にて10分間透過処理した。細胞を洗浄した後、ブロッキング溶液(PBS+0.05% Tween-20+4パーセントヤギ血清+3パーセントヒト臍帯血血清)を用いて室温(RT)で30分間インキュベートすることにより、非特異的結合をブロッキングした。モノクローナル抗体をブロッキング溶液で希釈し、RTで1時間使用した:ChemiconによるSSEA-1(MAB4301)(1:30)、SSEA-3(MAB4303)(1:10)、SSEA-4(MAB4304)(1:50)、OCT-4(MAB4305)(1:30)、TRA-1-60(MAB4360)(1:50)、およびTRA-1-81(MAB4381)(1:50)。細胞を洗浄した後、二次抗体Alexa Fluor 546(オレンジ色蛍光)および488(緑色蛍光)(Molecular Probes、Invitrogen)をPBS+0.05% Tween-20で1:1000希釈し、RTで1時間適用した。細胞を洗浄し、核をPBS+0.05% Tween-20中のDAPI(Sigma) 0.1μg/mlでRTにて10分間染色した。細胞を洗浄し、Mowiol(Calbiochem)でスライド上に封入した。蛍光顕微鏡により蛍光像を可視化した。
【0156】
3週齢の胚様体におけるまたは収縮性胚様体における中胚葉マーカーの検出には、筋特異的マーカーとしてのモノクローナルマウス抗デスミン抗体、抗ヒトαアクチニン抗体(Chemicon)、および内皮マーカーとしての抗ヒトCD31/PECAM-1抗体(R&D Systems)、抗ヒトVEカドヘリン(DC144)抗体(R&D Systems)を使用した。
【0157】
胚様体における内胚葉マーカーの検出には、モノクローナルマウス抗ヒトα-フェトプロテイン抗体(R&D Systems)を使用した。
【0158】
アルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性
アルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性は、APキットおよびTRAPEZE(商標)キット(Chemicon)を用いて製造業者の仕様書に従って行った。
【0159】
核型分析
核型を分析するため、hES細胞を10μg/mlデメコルチン(Sigma)で2時間処理し、0.05%トリプシン/EDTA(Invitrogen)で回収し、700 x rpmで3分間遠心分離した。ペレットを0.56% KCl 5 mlで再懸濁し、RTで15分間インキュベートした。遠心分離を繰り返した後、上清を除去し、細胞を再懸濁して、メタノール/酢酸(3:1)の氷冷混合物 5 mlで+4℃にて5分間固定した。細胞の固定を2回繰り返した後、細胞懸濁液を顕微鏡スライド上に乗せ、標本をギムザ改良染色液(Sigma)で染色した。この様式で調製した細胞による中期のものを、標準的なGバンド法で分析した。5/1000という数の中期展開物が明らかとなり、中期のもの63個を分析した。
【0160】
胚様体の形成
hESおよびphESC細胞コロニーを機械的に凝集塊に分割し、85%ノックアウトDMEM、15%ヒト臍帯血血清、1 x MEM NEAA、1 mM Glutamax、0.055 mM β-メルカプトエタノール、ペニシリン・ストレプトマイシン(50 U/50 mg)、4 ng/ml hrbFGF(血清以外すべてInvitrogen)を含む培地中、1.5%アガロース(Sigma)で予め被覆した24ウェルプレートのウェルに入れた。ヒトEBを懸濁培養で14日間培養し、培養皿に入れて成長させるか、または懸濁状態でさらに1週間培養した。
【0161】
培養皿表面に接着した2週齢胚様体を、分化培地:DMEM/F12、B27、2 mM Glutamax、ペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100μg)、および20 ng/ml hrbFGF(すべてInvitrogen)中で1週間にわたって培養することにより、神経分化を誘導した。いくつかの胚様体は神経形態を有する分化細胞を生じ、他の胚様体は解離し、ニューロスフェアを生成するようさらに培養した。
【0162】
胚様体の形成に使用したのと同じ培地で接着表面上にプレーティングしてから5日後に、律動的に拍動する胚様体が自発的に現れた。
【0163】
HLAタイピング
ドナー血液、hES、phESC細胞、およびヒト新生児皮膚線維芽細胞(NSF)から、Dynal製Dynabeads DNA Direct Blood(Invitrogen)を用いてゲノムDNAを抽出した。HLAタイピングは、製造業者の仕様書に従って、対立遺伝子特異的配列プライマー(PCR-SSP、Protrans)を用いてPCRにより行った。HLAクラスI遺伝子(HLA A
*、B
*、Cw
*)は、A
*01-A
*80、B
*07-B
*83、Cw
*01-Cw
*18領域を規定するPROTRANS HLA A
* B
* Cw
*を用いてタイピングした。HLAクラスII遺伝子(HLA DRB1
*、DRB3
*、DRB4
*、DRB5
*、DQA1
*、DQB1
*)は、DRB1
*01-DRB1
*16(DR1-DR18)、DRB3
*、DRB4
*、DRB5
*領域を規定するPROTRANS HLA DRB1
*、およびDQB1
*02-DQB1
*06(DQ2-DQ9)、DQA1
*0101-DQA1
*0601領域を規定するPROTRANS HLA DQB1
* DQA1
*を用いて解析した。PCR増幅は:94℃で2分;94℃で10秒、65℃で1分の10サイクル;94℃で10秒、61℃で50秒、72℃で30秒の20サイクルで達成した。増幅産物は2%アガロースゲルで検出した。
【0164】
Affimetrix SNPマイクロアレイ解析
血液、卵丘細胞、phESC、およびNSFから、フェノール/クロロホルム抽出法によりゲノムDNAを単離した。Affimetrix Mapping 50K Hind 240 Array(Affimetrix GeneChip Mapping 100Kキットの一部)を用いて、白人対象4名から得られたこれらのDNA試料の遺伝子型を同定した。データセットは当初、57,244個の2成分性SNPマーカーを含んでいた。このマーカー数は、ゲノム試料の等価性を同定するためおよびヘテロ接合性を試験するために必要な数よりも多いため、常染色体22本のうち15本(第1〜15染色体)を選択した。無作為抽出中に所与の染色体に関してマーカーが選択されない、または単一のマーカーしか選択されないという可能性を減らすため、短い7本の染色体は除いた。マーカー1,459個を、Relcheck(バージョン0.67、著作権(著作権) 2000 Karl W. Broman、Johns Hopkins University、GNU一般公有使用許諾バージョン2(1991年6月)の下で許可される)によって解析した。
【0165】
ゲノム刷り込み解析
Li et al. (J Biol Chem (2002) 277(16):13518-13527)の記載する通りに、全核酸を調製した。Tri試薬(Sigma)を用いて、またはQiagen(カリフォルニア州、バレンシア)によるRNA調製キットを用いて、細胞からRNAおよびDNAを抽出した。
【0166】
種々の試料(
図3を参照)に由来するRNAを含むノーザンブロットを、標準的な方法によりフィルター上にブロットした(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, 2nd ed, Cold Spring Harbor Pressを参照されたい)。ノーザンフィルターを、mRNAに特異的にハイブリダイズする単一の標準的なオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせた。オリゴヌクレオチドプローブは、[γ
32P]ATP(Amersham Biosciences)で末端標識した。その後フィルターを、0.1% SDSを含む0.2 X SSC(1 X SSC=0.15 M NaClおよび0.015 Mクエン酸ナトリウム)で、60℃にてそれぞれ10分間で3回洗浄し、PhosphorImager(Molecular Dynamics)により解析した。オリゴヌクレオチドプローブの配列は、以下のアクセッション番号に基づく配列から入手した:NP002393(Peg1_2およびPeg1_A;これらの遺伝子に関しては、ヒトPEG1が2つの別のプロモーターから転写されて、2つのアイソフォームの転写産物をもたらし、そのうちの一方(アイソフォーム1_2)のみが刷り込まれる。父性発現アイソフォーム1は、父性対立遺伝子のエキソン1中の非メチル化CpGアイランドと協同して起こり、一方、母性遺伝子(アイソフォーム1_A)中の対応するCpGアイランドは十分にメチル化されている。例えば、Li et al. (2002)、前記を参照されたい);CAG29346(SNRPN);AF087017(H19);NR_001564(不活性X特異的転写産物-XIST);およびP04406(GAPDH)。
【0167】
DNAフィンガープリント解析
血液、hES細胞、およびNSFから、フェノール/クロロホルム抽出によりゲノムDNAを単離し、HinfI制限酵素(Fermentas)で消化し、0.8%アガロースゲルに負荷した。電気泳動した後、変性DNAをサザンブロッティングによりナイロン膜(Hybond N、Amersham)に転写し、
32P標識(CAC)5オリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせた。Cronex増感スクリーンを用いてX線フィルム(Kodak XAR)上に膜を曝露した後、データを解析した。
【0168】
単一遺伝子座PCR遺伝子型同定
血液ドナーDNAと幹細胞DNAとの間でミニサテライト遺伝子座に関して対立遺伝子同一性を決定するため、11の多型部位((1) 3'アポリポタンパク質B超可変ミニサテライト遺伝子座(3'ApoB);(2) D1S80(PMCT118)超可変ミニサテライト遺伝子座(D1S80);(3) D6S366;(4) D16S359;(5) D7S820;(6) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座II(vWFII);(7) D13S317;(8) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座(vWA);(9) CFS-1受容体遺伝子のヒトc-fms癌原遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(CSF1PO);(10) ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TPOX);および(11) ヒトチロシン水酸化酵素遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TH01))を、PCR遺伝子型同定により解析した。上記の多型部位に関して決定された公知の集団(すなわち、ロシア人および白人-アメリカ人集団)の対立遺伝子頻度を、試験試料(すなわち、hES、NSF、およびドナー血液DNA)におけるこれらの部位の対立遺伝子頻度と比較した。染色体位置、Genbank遺伝子座および遺伝子座定義、反復配列データ、対立遺伝子ラダー範囲、VNTRラダーサイズ範囲、他の公知の対立遺伝子、対立遺伝子サイズ、PCR手順、および解析された開示集団の11のミニサテライト遺伝子座に関する対立遺伝子頻度結果を以下に提供する。
【0169】
(1) 3'アポリポタンパク質B超可変ミニサテライト遺伝子座(3'ApoB VNTR)
染色体位置:2p23-p23
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:APOB、アポリポタンパク質B(Ag(x)抗原を含む)非翻訳領域
反復配列5'-3':
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):450+10+2プライマー+連結
VNTRラダーサイズ範囲(反復数、Ludwig et al, 1989による):30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52
他の公知の対立遺伝子(反復数):25、27、28、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、54、55
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):36/36
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0170】
解析は、Verbenko et al. (Apolipoprotein B 3'-VNTR polymorphism in Eastern European populations. Eur J Hum Gen (2003) 11(1):444-451)に記載されている通りに行い得る。表4を参照されたい。
【0171】
(表4)
ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0172】
(2) D1S80(pMCT118)超可変ミニサテライト遺伝子座(D1S80 VNTR)
染色体位置:1p35-36
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:ヒトD1S80およびMCT118遺伝子
反復配列5'-3':
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):387-762
VNTRラダーサイズ範囲(反復数):16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、34、35、36、37、40、41
他の公知の対立遺伝子(反復数):13、14、15、38、39、>41
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):18/29
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 60℃、30秒
伸長 72℃、45秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0173】
解析は、Verbenko et al. (Allele frequencies for D1S80 (pMCT118) locus in some Eastern European populations. J Forensic Sci (2003) 48(l):207-208)に記載されている通りに行い得る。表5を参照されたい。
【0174】
(表5)
ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0175】
(3) D6S366
染色体位置:6q21-qter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):150-162
STRラダーサイズ範囲(反復数):12、13、15
他の公知の対立遺伝子(反復数):10、11、14、16、17
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):13/14
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0176】
解析は、Efremov et al. (An expert evaluation of molecular genetic individualizing systems based on the HUMvWFII and D6S366 tetranucleotide tandem repeats. Sud Med Ekspert (1998) 41(2):33-36)に記載されている通りに行い得る。表6を参照されたい。
【0177】
(表6)
ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0178】
(4) D16S539
染色体位置:16q24-qter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):264-304
STRラダーサイズ範囲(反復数):5、8、9、10、11、12、13、14、15
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):11/12
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0179】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表7を参照されたい。
【0180】
(表7)
白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0181】
(5) D7S820
染色体位置:7q11.21-22
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):215-247
VNTRラダーサイズ範囲(反復数):6、7、8、9、10、11、12、13、14
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):9/11
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0182】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表8を参照されたい。
【0183】
(表8)
異なる集団におけるD7S820の対立遺伝子頻度
【0184】
(6) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座II(vWFII)
染色体位置:12p13.3-12p13.2
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMvWFII、ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子
反復配列5'-3':(ATCT)n/(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):154-178
STRラダーサイズ範囲(反復数):9、11、12、13
他の公知の対立遺伝子(反復数):8、10、14、15
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):13/13
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0185】
解析は、Efremov et al. (An expert evaluation of molecular genetic individualizing systems based on the HUMvWFII and D6S366 tetranucleotide tandem repeats. Sud Med Ekspert (1998) 41(2):33-36)に記載されている通りに行い得る。表9を参照されたい。
【0186】
(表9)
ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0187】
(7) D13S317
染色体位置:13q22-q31
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):165-197
STRラダーサイズ範囲(反復数):8、9、10、11、12、13、14、15
他の公知の対立遺伝子(反復数):7
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):8/8
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0188】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表10を参照されたい。
【0189】
(表10)
異なる集団におけるD13S317の対立遺伝子頻度
【0190】
(8) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座(vWA)
染色体位置:12p12pter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMVWFA31、ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):139-167
STRラダーサイズ範囲(反復数):14、16、17、18
他の公知の対立遺伝子(反復数):11、12、13、15、19、20、21
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):16/16
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0191】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表11を参照されたい。
【0192】
(表11)
異なる集団におけるHUMVWFA31の対立遺伝子頻度
【0193】
(9) CSF-1受容体遺伝子のヒトc-fms癌原遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(CSF1PO)
染色体位置:5q33.3-34
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMCSF1PO、ヒトc-fms癌原遺伝子
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):295-327
STRラダーサイズ範囲(反復数):7、8、9、10、11、12、13、14、15
他の公知の対立遺伝子(反復数):6
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):9/10
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃ 30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0194】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表12を参照されたい。
【0195】
(表12)
白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0196】
(10) ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TPOX)
染色体位置:2p25.1-pter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMTPOX、ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子
反復配列5'-3':(AATG)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):224-252
STRラダーサイズ範囲(反復数):6、7、8、9、10、11、12、13
他の公知の対立遺伝子(反復数):なし
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):8/9
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃ 30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0197】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表13を参照されたい。
【0198】
(表13)
白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0199】
(11) ヒトチロシン水酸化酵素遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TH01)
染色体位置:5q33.3-34
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMTHO1、ヒトチロシン水酸化酵素遺伝子
反復配列5'-3':(AATG)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):179-203
STRラダーサイズ範囲(反復数):5、6、7、8、9、10、11
他の公知の対立遺伝子(反復数):9.3
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):9.3/9.3
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃ 30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0200】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表14を参照されたい。
【0201】
(表14)
白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0202】
結果
本方法によるhES細胞は、胚性幹細胞に典型的な多くの特徴:細胞質脂肪体、低い細胞質/核比、および明白に識別可能な核小体を示す。hES細胞コロニーは、インビトロ受精後に導出されたヒト胚性幹細胞に関して以前に報告された形態と類似の形態を示す。細胞は、アルカリホスファターゼ(
図1A)、オクタマー結合転写因子4 mRNA(Oct-4)(
図1B)、時期特異的胚抗原1(SSEA-1)(
図1C)、時期特異的胚抗原3(SSEA-3)(
図1D)、時期特異的胚抗原4(SSEA-4)(
図1E)、腫瘍拒絶抗原1-60(TRA-1-60)(
図1F)、腫瘍拒絶抗原1-81(TRA-1-81)(
図1G)に関して免疫反応陽性であり、時期特異的胚抗原1(SSEA-1)(
図1C)(マウス胚性幹細胞では陽性であるが、ヒトでは陽性ではない)に関して陰性であった。テロメラーゼ活性は複製不死性と相関する場合が多く、典型的に生殖細胞、癌細胞、および幹細胞を含む種々の幹細胞で発現し、大部分の体細胞型には存在しない。3カ月のインビトロ増殖後に本方法によって調製した細胞は、その未分化形態を維持し、高レベルのテロメラーゼ活性を示した(
図2A)。細胞の多能性は胚様体の形成によりインビトロで調べ(
図2B、2C)、Gバンド核型分析から、細胞が正常なヒト46XX核型を有することが示される(
図2D)。
【0203】
卵母細胞ドナーの血液、ES細胞、およびHNSFフィーダー細胞において、サザンブロッティングおよび
32P標識(CAC)sオリゴヌクレオチドプローブを用いたハイブリダイゼーション(
図2E)、ならびに異なる遺伝子座での単一遺伝子座ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりDNAフィンガープリント解析を行った。
【0204】
単一遺伝子座PCRでは、遺伝子型同定から、血液(ドナー) DNAとOL1 DNAとの間で、(D7S820 1つを除く)すべての遺伝子座について対立遺伝子が同一であることが明らかになった。表15を参照されたい。
【0205】
(表15)
単一遺伝子座PCR遺伝子型同定
【0206】
すべてのヘテロ接合性ドナー遺伝子座(D7S820 1つを除く)のヘテロ接合性(ヘテロ接合)は、hES遺伝子座において変化していなかった。hES DNAにおけるD7S820のホモ接合性(ホモ接合)は、DNA複製およびDNA修復中の見落とし鎖誤対合による変異(マイクロサテライト反復中への1つのAGATモノマーの挿入)の結果である。
【0207】
これらの結果は、多遺伝子座DNAフィンガープリントで得られた結果(ドナーDNAおよびhES DNAに関して実質的に同一のフィンガープリントパターンが認められた)と一致する。
【0208】
図2Eから、hES細胞のヘテロ接合性、および卵母細胞ドナーの血液とのその同一性、ならびにhES細胞とフィーダー細胞との間に類似性が存在しないことが実証される。hES細胞株のDNAプロファイルを、MHCクラスIおよびクラスII内の多型遺伝子を用いるPCRに基づくハプロタイプ解析によって確認した。卵母細胞ドナー血液細胞、hES細胞、およびフィーダーHNSFによる全ゲノムDNAを遺伝子型同定し、比較した。データから、hES細胞とドナー血液の細胞が相互に識別不能であり、したがって自己のものと見なされ、いずれもフィーダー細胞のDNAと区別されるはずであることが実証された(表16)。
【0209】
(表16)
HLAタイピング
【0210】
DNAフィンガープリントおよびHLAタイピング解析から、hES細胞がヘテロ接合性であり、ドナーの遺伝物質全体を含むことが確認された。これらの結果は、単為生殖サル幹細胞株によるデータと一致するが(Vrana et al., Proc Natl Acad Sci USA (2003) 100(Suppl 1):11911-11916)、単為生殖マウス幹細胞株によるデータとは一致せず(Lin et al., Stem Cells (2003) 21:153-161)、この幹細胞はドナー遺伝物質の半分を含む。
【0211】
phESC株は、hES細胞で予測される形態、細胞が密に詰まったコロニーの形成、顕著な核小体、および低い細胞質対核比示す(
図4)。これらの細胞は、従来のhESマーカー、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT-4を発現し、未分化マウス胚性幹細胞の陽性マーカーであるSSEA-1を発現しない(
図4)。いずれの株に由来する細胞も、高レベルのアルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性を示す(
図5および
図6)。Gバンド核型分析から、phESC-7株を例外として、phESC株が正常なヒト46,XX核型を有することが示された(
図7)。phESC-7株の細胞の約91%が47,XXX核型を有し、9%の細胞が48,XXX,+6核型を有する。株において異なる程度のX染色体異形が認められた;phESC-1およびphESC-6株の約12%;phESC-5株の42%;ならびに細胞株phESC7、phESC-3、およびphESC-4のそれぞれ70、80、および86%(
図7)。
【0212】
全phESC株、ドナー体細胞、およびフィーダー細胞において、比較DNAプロファイリングを行った。これらの試験では、染色体変化を調べるため、およびドナーの体細胞とのphESCの遺伝的類似性を確認するために、Affimetrix SNPマイクロアレイ(Mapping 50K Hind 240 Array)を使用した。phESC株とその関連ドナー体細胞との対をなす遺伝子型関係はすべて「完全同胞」であると同定され、他の組み合わせの対はすべて「非関連」であると同定された。内部対照により、同じphESC株に由来する分割培養物間の対をなす遺伝子型関係は、「一卵性双生児」であると同定された(表17、データベースS1)。
【0213】
(表17)
データベースS1
phESCおよび関連ドナー由来のDNA試料を同定するデータベースS1
DNA試料は以下のように番号付けした:1-ヒト新生児皮膚線維芽細胞;2-phESC-7株ドナー;3-phESC-7株;4-phESC-1株;5-phESC-1株;6-phESC-3株;7-phESC-4株;8-phESC-5株;9-phESC-6株;10-phESC-6株ドナー;11-phESC-3〜phESC-5株ドナー;および12-phESC-1株ドナー。
結果から、1対(試料4-5)のみが一卵性(MZ)双生児であると同定されたことが示される。他の10対(試料2-3、4-12、5-12、6-7、6-11、7-8、7-11、8-11、9-10)は完全同胞であると同定され、他の組み合わせの対はすべて非関連であると同定された。出力中のIBS欄は、対が同定され、0、1、または2対立遺伝子状態同一を共有するマーカーの数を示す(遺伝子型同定に誤差のない理想的な条件下におけるMZ双生児では、すべてのマーカーがIBS=2に位置しなくてはならない)。出力はP(観察されたマーカー|所与の関係)を直接示していないが、類似性の尺度として、LODスコア‐log
10{P(観察されたマーカー|推定される関係/P(観察されるマーカー/最大尤度が得られ、よってコールが作成された関係)}を示す。LODスコアが小さいほど、2つの試料間の推定される関係の可能性が低いことを示す。
【0214】
SNPマーカー1,459個の比較解析からphESCヘテロ接合性が明らかとなり、関連のドナー体細胞遺伝子型と比較して、phESC細胞遺伝子型に変化が起こったことが示された。以前にヘテロ接合性であった体細胞ゲノムのいくつかの部分は、関連のphESC細胞株ゲノムにおいてホモ接合性になっていた。このヘテロ接合性からホモ接合性へのパターンは、phESC-1、PhESC-3、phESC-4、phESC-5、およびphESC-6株の11〜15%で起こり、phESC7株では19%であった(データベースS2)。さらに、同じ卵母細胞ドナーに由来したphESCとphESC5-株の間で、遺伝子の相違が認められた(表18、データベースS2)。
【0215】
(表18)
データベースS2
データベースS2 phESC(「pC」と略す)株のヘテロ接合性
結果から、導出されたphESC株のヘテロ接合性が示され、関連ドナー遺伝子型との比較により遺伝子型の変化が示される。ドナーゲノムのヘテロ接合性部分の一部は、phESCにおいてホモ接合性になっていた。染色体-染色体番号;RS ID-dbSNPデータベースにおけるRS番号;塩基対-Affimetrix GeneChipにより記録されている塩基対距離;白人における頻度A-白人集団におけるA対立遺伝子の頻度。
【0216】
以前の研究では、マウス卵母細胞の単為生殖的活性化によってホモ接合性胚性幹細胞株が生じた(Lin et al., Stem Cells (2003) 21:152)。ヒト卵母細胞では、卵母細胞の単為生殖的活性化後の第2減数分裂の抑制および二倍体胚の生成により、完全にホモ接合性のhES細胞は導出されない。
【0217】
HLAタイピングの結果に基づくと、いずれのphESC株に由来する分化細胞も卵母細胞ドナーと完全に組織適合性であるはずであり、よってこれは治療用途の細胞を作製するための方法となる(表19)。
【0218】
(表19)
phESC細胞株のHLAタイピング
【0219】
フィーダー細胞として使用したヒト線維芽細胞に由来する遺伝物質のDNAプロファイリングから、phESC細胞株へのヒト線維芽細胞由来物質の混入がないことが明らかとなった(表19)。
【0220】
phESC-1株は、35継代に及ぶ10カ月の培養中、未分化のままであった。他の細胞株も、少なくとも21継代にわたり培養に成功した。いずれのphESC株に由来する細胞も懸濁培養で胞状胚様体を形成し、インビトロでの分化後に全3つの胚葉:外胚葉、中胚葉、および内胚葉の派生物を生じた(
図4)。phESC-1株による胚様体の約5%が、プレーティングして5日後に拍動する細胞を生じた。phESC-6株は、色素上皮様細胞を生成した(
図4I、K)。外胚葉分化は、神経特異的マーカー神経フィラメント68(
図4A)、NCAM(
図4B)、βIII-チューブリン(
図4C)、およびグリア細胞マーカーGFAP(
図4D、M)の陽性免疫細胞化学染色により示される。分化細胞は、筋特異的マーカーであるα-アクチニン(
図4G)およびデスミン(
図4J)、ならびに内皮マーカーPECAM-1(
図4E)およびVE-カドヘリン(
図4F)を含む中胚葉マーカーに関して陽性であった。内胚葉分化は、α-フェトプロテインに関する分化派生物の陽性染色によって示される。これらのデータから、phESCが、ヒト人体のすべての細胞型をもたらす3つの胚葉に分化し得ること実証される。
【0221】
phESC-7の核型変化は、これを臨床的使用から排除する理由となり得る。ヒト胚におけるゲノム刷り込みの変化は、母性または父性発現遺伝子に関連した疾患の発症に寄与し得る(Gabriel et al., Proc Natl Acad Sci USA (1998) 95:14857)。phESC株の他の特徴を調べるため、および細胞療法における使用の適合性を決定するために、刷り込み解析を行った。
【0222】
ノーザンブロットを作製し、上記に概説したようにDNAプローブSNRPN、Peg1_2、Peg1_A、H19、およびGAPDH(内部対照として)でスクリーニングした。ブロットした核酸は、NSF、新生児皮膚線維芽細胞;hES、受精卵母細胞に由来するヒト胚性幹細胞株;1、phESC-1;2、phESC-3、3、phESC-4、4、phESC-5;5、phESC-6;6 phESC-7から得た。NSF RT-、hES RT-、1 RT-は陰性対照である。
図3に刷り込みブロットの結果を示す。
【0223】
母性刷り込み遺伝子Peg1_Aは、試験した細胞株のすべてにおいて強い結合を示す。より弱い(Peg1_Aと比較して)が一貫した結合が、すべての細胞株において母性刷り込み遺伝子H19に関して認められた。SNRPNは、主にNSF、hES、phESC-4、およびphESC-6において結合を示す。Peg1_2は、主にNSF、hES、phESC-1(より弱いシグナル)、phESC-3、phESC-5、およびphESC-6において結合を示す。GAPDH結合により、すべての株においてRNAが同様に負荷されたことが確認された。
【0224】
本発明を上記の実施例を参照して説明したが、修正および変更が本発明の精神および範囲の範囲内に包含されることが理解されよう。したがって、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限される。
【0225】
参考文献